祈り届かず

 

序、擲弾兵の群れ

 

中華で、項少将とともに転戦を開始。凄まじい状況だ。はっきりいって、これが人の住んでいた地域とは思えない。

街は破壊され尽くされ、屍は文字通り切り刻まれて散らばっている。死体を漁りに来ている鴉や野犬すら、アンドロイドを見ると怯えて去って行くようだ。それだけ恐怖を感じる異物感があるのだろう。

アンドロイドは群れ単位で別れて、各地に散っている。

人間との戦闘ではなく、駆逐を開始したのだ。インドなどの人口密集地域でも、既に似たような地獄が始まっているらしい。

短期間で、人類の残存数は開戦前の三割を切ったという事だが。

これは、仕方が無い。

見ていて壱野もそう思う。

これでも、記憶にある今周の歴史よりはまだマシなのだから、救えないという言葉しかない。

スカウトが戻って来た。

中華に元々いた兵士はほとんどいない。今はどこの国でも、人種が混合して、EDFが戦っている。

これは皮肉な話だが。

こんな凶悪な外敵が出てこなければ、人類は纏まることが出来なかった事を意味しているのかも知れない。

或いは逆になるが。EDFも、プライマーが攻めてこなければ。勝手に瓦解していたのかもしれなかった。

「擲弾兵の群れです!」

「そうか……」

項少将が、疲れきった声で応える。

今、中華の北部は危険すぎて近付くことも出来ない。南部でかろうじて抗戦している状況だ。

まるで何度か中華の歴史上に存在した南北朝時代のようだが。

その時代と違うのは。

遊牧騎馬民族が聖人に見えるレベルの容赦の無い侵略が行われていると言う事で。そもそもプライマーが何を求めて攻めてきていることかすらも分からない、と言う事だった。

一華は幾つか仮説を立てていて。

それで時々プロフェッサーと議論しているが。

それでもはっきりいって分からない、というのが実情だ。

ともかく、今は生き残りを集めながら、中華を転戦。時々、支援物資は来るが。人員はとても送れないそうだ。

それがEDFの判断で。

それについては、千葉中将から何度も壱野も謝られた。

いずれにしても中華はもう指揮系統も機能していない。千葉中将が支援はしてくれるが、それが精一杯である。

リー元帥はかなり衰弱している様子だ。それも無理はないだろう。この状況で、しかも年齢もある。

どんな有能な指揮官でも、対応できない。

末期戦の指揮をする総司令官ほど、消耗が激しい仕事もなかなかないだろう。それをやっているのだ。

「村上班、対応を頼めるか」

「分かりました。 まずは状況を確認してからですね」

「ああ。 フェンサー部隊、ついていけ。 狙撃犯も」

項少将も弱気になっている。

今ここにいる数百人程度の部隊が、最後に残った中華のEDF兵力といっても良いだろう。

だが、この数百人が。

ここ数週間で、既に万を超えるアンドロイドを破壊してきているのだ。

その分人員も消耗が激しいが。それでも、敵は既に此方を無視出来なくなってきている。それもまた事実。

荒木班とスプリガンは欧州で。

グリムリーパーは米国で。

必死にアンドロイドの大軍と戦って、戦線を維持している。

だから、此処で負ける訳には行かない。

日本の戦況も良くないと聞いているが。それでも、まずは此処で勝利して、アンドロイド部隊の足を少しでも止めなければならない。

朽ち果てた街に出る。

何でも中華では都市計画が失敗した場所が幾つかあるらしく、空っぽの巨大マンションがそういう所では林立しているという話だ。

ここもそんな場所だったのかも知れない。

確認する。擲弾兵数百。大型アンドロイド。今の時点では、これだけだ。大型が厄介だと判断。

一華に、状況を聞く。

「エイレンのバッテリーはいけそうか」

「何とかなりそうッス。 一応物資だけは支給されてるッスからね」

「……あの数だけでは済みそうに無いな」

ぼやく。

今の時点で擲弾兵は、少し数が少なすぎる。擲弾兵はもっと数を揃えて迫ってくるものである。

囮だな。

そう壱野は看破していた。

フェンサー部隊は、傷だらけの盾を構えて、戦闘の準備に入っている。擲弾兵に盾での防御が有効な事は既に分かっている。ただし、それにも限度がある。高度テクノロジーの塊であるフェンサーの盾だが。それでも防げないものは防げない。

狙撃部隊も、幾つかのがらんどうの建物に籠もって、狙撃の準備をしているが。

生唾を飲み込んでいる様子が分かる。

擲弾兵は、短時間で兵士に知られ。恐れられるようになっていた。集られたらまず助からない。

それは怪物も同じなのに。

味方ごと自爆してくるその行動が、より恐怖を誘っているのかも知れなかった。

ともかく、念入りに準備はしておく。

何カ所かに、支給されたC80爆弾を配置する。C70爆弾が更に強化された、戦術用の爆破兵器だ。

ダイナマイトが最初に実戦投入されたときも大きな戦果を上げたという話を聞いているが。これも同じように、使い方次第では多数の怪物やアンドロイドを一気に駆逐することが出来る。

プロフェッサーが改良した、というよりも。本人曰く、配下のチームが改良しているそうだが。

ともかく最新型が村上班宛てに回されてきた。

だから、有り難く使わせて貰う。それだけである。

項少将に状況を説明。村上班と、付随の部隊だけで駆除できるか聞かれたので、出来ると応える。

有り難いと、疲れきったほろ苦い声が帰ってきた。

少しでも、皆の負担を減らし。生還出来る兵士を増やさなければならない。

そう壱野だって分かっている。

攻撃開始。

そう、壱野は声を張り上げ、自身は見えている大型を狙う。一斉に擲弾兵が動き出す。

一華のエイレンがレーザーで薙ぎ払い、爆発が連鎖。

まだC80爆弾は使わない。

成形爆薬であるこれは、基本的に滅多な事では爆発しない。雷管を使わないといけないのだが、いわゆるC4爆弾よりも更に雷管が強力で。基本的には絶対に事故は起きないほどである。

今もぼんぼこ擲弾兵アンドロイドが炸裂している中、まるで事故る様子がない。

フェンサーが冷や汗を流しているのが分かる。

少し高い所に陣取った弐分がNICキャノンで、三城が雷撃銃で攻撃を続行。この分だと、どうにか出来そうだ。

大型の粉砕に成功。

そのまま、壱野もストークで擲弾兵の駆除を開始する。前線に接近させるほどの数では今のところはない。

撃破していけるが。

しかし、ほどなく。

異変が起きる。

まあ起きるだろうなと思っていたが。案の定、大型船が出現していた。突如、虚空にである。

「き、来やがった!」

「新型船だ! どんな攻撃も効かないと聞くぞ!」

「天文学的な数のアンドロイドを落としてくるとか聞いてる!」

「だが、この場に我々がいる! 出現次第壊滅させてやる!」

壱野がそう諭し、反応していた擲弾兵の一団を狙撃。

周囲でも爆発が起きている。上を任せた弐分と三城が、回り込もうとしている擲弾兵を粉砕しているのだろう。

凄まじい数だが、それでもどうにかはなる。

大型船に対して、戦略情報部の少佐がコメントしていた。

「ドイツでの初出現以降、何回か世界中に出現している大型船ですが、ようやくデータが揃い始めました」

「聞かせてくれるか」

疲れきった様子の項少将。

それはそうだろう。

自慢の虎部隊は壊滅。中華全域が蹂躙され尽くされ、既に市民は地下に隠れているものまで殺され尽くされようとしている。

今はインドにまでアンドロイド軍団が侵入し、大殺戮が始まっている。EDFは残存戦力を結集しての反撃作戦を開始しようとしているが、前線はこんな状況である。持ち堪えられるわけがない。

そんなあきらめが、これほどの猛将にも宿っているのかも知れない。

「あの大型船は、どうやら瞬時に数十qを移動出来るようです。 恐らくですが、宇宙空間をその技術で渡って来たのでしょう。 本来だったら大気圏内では空気抵抗などが問題になってそのような飛行は出来ないはずですが、何かしらの未知の技術が使われている可能性が高いと思われます」

「今、数隻がいる。 それに、どの場所でも数隻が集まると聞いている。 何故に大型船はあつまる。 撃墜の恐れはなく、単独で下手な部隊なら物量で圧倒できるだろうに」

「それについてはあくまで仮説ですが、余りにも速度が出すぎることが原因ではないかと言うのが科学者達の見解です。 速度が出すぎるために、あらかじめ中継地点を設定し、そして飛行計画を立てているのでしょう」

「早すぎる故に単独での行動をしていない、ということか。 なるほど……」

何か、戦術的にそれで優位に立てないか。

そう考えている様子の項少将。

疲弊しても、其処は歴戦の猛者と言う事か。

「制圧完了」

弐分が告げてくる。

頷くと、移動を開始。

張りぼてのビル街を使って、周囲を偵察。今の時点では、出来るだけ擲弾兵に近付かないように念を押されている柿崎が、積極的に動いて調べてくる。出来る子である。

「彼方に先ほどと同数、更に大型が二体おります」

「……指定の地点に、皆移動してくれ」

「は、はい」

兵士達が動き出す。

上空では、大型船が此方の様子を見守るように浮遊している。

今の地点から攻撃を開始したら、恐らくアンドロイド部隊を投下して、はさみうちに掛かるだろう。

至近に擲弾兵を投下されでもしたら最悪である。

だから、戦闘地点は慎重に選ばなければならない。

かなり擲弾兵の部隊と距離を取った後、立射で大型を狙撃。擲弾兵の部隊が動き出す。距離があっても、反応するのは流石だが。

兵士達が瞠目していた。

「お、おい。 六qはあったのに、あんなビルの隙間を通しながら当てたぞ……」

「しかも立射かよ」

「皆、狙撃の準備。 間合いに入り次第、攻撃を開始してくれ」

「い、イエッサ!」

兵士達も慌てて構える。

大型をまず片付ける。彼奴の装備しているブラスターの火力は、壱野も散々身に染みて知っている。接近させると、バリアスでも溶ける。エイレンだって、無事ではすまないだろう。

だから狙撃を繰り返し、まずは大型を処理。

その後は、擲弾兵を集中的に狙う。

三城がプラズマグレートキャノンを叩き込み、多数を一気に消し飛ばす。煙を突っ切って突貫してくる擲弾兵。そのグレネードを、遠距離から壱野が正確に撃ち抜く。爆発で、数体が同時に巻き込まれる。

戦闘開始前に、色々な説明を兵士達に成田軍曹がしていたが。

直前に、壱野が講義した内容ばかりだ。

再確認の色彩が強かった。

味方の狙撃部隊が攻撃を開始した頃には、意図的にそうやって削ったから、既に敵は一列になっていた。

射撃を続けて、順番に破壊していく。ばらけて迫ってくる擲弾兵もいるのだが、それらは少し高い所にいる弐分がNICキャノンで粉砕していた。

「大型船、動きました! 擲弾兵を投下……とんでもない数です!」

「そうだろうな」

「壱野中佐!?」

「あの船は、勝てると判断した物量を投下してくる。 前に我々を囲んで擲弾兵を落としてきたときもそうだった。 恐らく、指揮官がそれなりに此方を研究して、戦闘をしているということだ」

成田軍曹が、はあと納得したような、良く分からないと言うような声を上げる。

いずれにしても好都合だ。

そのまま、増援部隊も迫ってくるが。先に釣った部隊はほぼ処理が終わっている。そして、敵は数が多いが故に。纏まってきている。

三城に、プラズマグレートキャノンを叩き込む地点をバイザーで指示。弐分にも、引き続きはぐれた敵を処理して貰う。

柿崎に動いて貰った。

これだけの数となると、視界を外して背後に回ろうという擲弾兵がかなり出てくる筈だ。弐分と連携して、それを処理して貰う。また、視界を増やす事で、敵の動きを立体的に把握できるし。

まずい場合は一華にその情報が行き、フィードバックされる。

壱野は、姿を見せている大型擲弾兵を撃ち抜く。

勿論グレネードをだ。凄まじい大爆発を引き起こし、近くのビルががらんどうとはいえ吹っ飛ぶのがみえた。

凄まじい。文字通りビルが消し飛ぶ火力。

コレに巻き込まれたら、戦車程度ではどうにもならない。

だが、敵は概ね想定通りの動きをし。

此方の策に引っかかった。

凄まじい物量で押し潰しにきたある一点で、壱野がC80爆弾を起動。

勿論、起動前には全員に耳を塞ぐように指示した。

爆発。なんてものではない。

小型の戦術核でも炸裂したかのような爆発が巻き起こっていた。

なるほど、これは凄まじい。プロフェッサーが自信作だと送ってくるはずだ。これなら、怪生物にすら通用する可能性さえある。

勿論、巻き込まれた擲弾兵が、モロに誘爆したこともある。

敵の八割が、今の一瞬で消し飛んでいた。

「す、すごい……」

「人間相手にこれを使う日が来ない事を願うしか無いな」

「……」

生き残りの擲弾兵は、怖れずに攻めこんでくる。壱野は相変わらず大型の擲弾兵を優先的に駆除。

それを見て、追加の戦力投入は無意味と悟ったのだろう。

更に、最近は大型船は攻撃を受けることも理解した節がある。

そのまま、現れた時と同じように。

かき消えるようにいなくなったのだった。

「残敵を掃討。 駆除が終わり次第、項少将の部隊に合流する」

「い、イエッサ……」

「油断するな。 擲弾兵は獲物に飛びついてくる。 飛びつかれたら、戦車でも破壊されるぞ」

まだかなりの数が残っている。

凄まじい火力の大型擲弾兵がまた炸裂し、兵士達が首をすくめた。それにしても硬い。いや、それ以上に。

手元のライサンダーZを見る。

このライサンダーZの火力が、そろそろ限界と言う事だろう。

バージョンアップが必要だ。

手になじんでいる、何年も使っている武器だが。

そろそろ限界が来ていると見て良いだろう。

残敵を掃討。

柿崎と弐分が協力して、死角に入り込もうとしていた敵を蹴散らしてくれる。流石に少数相手なら、柿崎も戦闘を許可している。

あの高速機動一撃離脱戦術。少数の擲弾兵相手なら、グレネードを直接斬って爆破でもしない限りは巻き込まれないし。

それに味方の攻撃での誤爆に巻き込まれない限りは平気だ。

敵が全滅したので、皆が戻ってくる。

エイレンは危ない局面では前進し、味方を庇いながらレーザーで擲弾兵を破壊。爆風も盾になって引き受けていたこともある。

誰も、エイレンに閉じこもって云々というような悪口はいわなかった。

項少将の部隊に合流。

其方も、アンドロイドの部隊と戦闘を開始していた。数から見て、斥候だろう。周囲に展開している部隊をかき集めて、対応しているところだった。

「流石の活躍だな村上班。 敵は此方にも兵力を集中してきている。 そのまま、駆除を手伝ってほしい」

「イエッサ。 手早く片付けましょう」

「うむ……。 君達との連携戦を見ていると、私も希望が湧いてくるのを感じる」

「光栄です」

そのまま射撃を続ける。

アンドロイドは通常型だ。だからこそ、極めて手堅い。

項少将のカスタムニクスとエイレンが前に出て。少しだけしかいない戦車部隊と連携して火力投射し。

歩兵部隊で射撃を続けて、そのまま敵を削りながら、少しずつさがる。

どうやら敵は、擲弾兵を重要局面でしか投入してくるつもりがないらしい。たまに大型が敵の群れに交じっているので、優先的に破壊する。

無線が入る。

千葉中将からだった。

「村上班。 急いで日本に戻って貰いたい」

「如何なさいましたか」

「マザーシップが横浜に上陸する動きだ。 もしも東京を直撃されると、劣勢は決定的になる」

「分かりました。 この戦闘を切りあげ次第、戻ります」

項少将は、何も言わない。

中華の戦線は、どうにか自分達だけで保持しなければならない。

それを理解したのだろう。

だが、どうすることも出来ない。

荒木班も、あわせて欧州から戻すそうだ。

恐らくタイミング的には、そろそろコスモノーツを投入してくる時期だろうな。

そう考えて。壱野は、少し心に染みが出来るのを感じた。

厳しい。

それ以外の言葉がない。

今回、コロニストは武装強化され。しかも使い捨てにされていない。特に鎧コスモノーツは、ニクスと互角以上にやりあうと怖れられているようだ。

レールガンが実戦配備されたと聞いているが、既に大量生産する力など残ってはいないだろう。

なんとも、苦しい話だった。

 

1、コスモノーツ再び

 

日本に戻り、横浜に到着。荒木班も、既に到着していた。

東京基地から、なけなしのコンバットフレームとレールガンが送られてくる。

マザーシップの主砲にダメージを壱野が与えて以降、あの主砲は無抵抗な相手にしか使われていない様子だ。

つまり、大胆に攻めこむことが出来る。

敵指揮艦は有能だ。

確実に此方の戦力を削り取り、じっくりとなぶるようにして勝ちに来る。

その戦い方は間違っていないし。

敵が「必要」だというのなら、それが確実なのだろう。

対抗できる要素が今はない。

口惜しい話だ。

今回は、恐らくだめ押しのつもりでコスモノーツを展開して来ると見て良い。

前周では、コスモノーツの出現で、大きな被害を出した。以降はコスモノーツによって、各地が蹂躙されていく事になる。

今回は、同じ轍は踏まない。

まずは、荒木班と合流。

エイレンの相馬機は、かなり傷が増えていたが。それでも何とか無事だった。

浅利大尉も小田大尉も無事である。

それをみて、ほっとする。

味方の本隊が到着する前に、先に壱野は話をしておく。

「荒木軍曹。 話があります」

「なんだ。 聞かせてくれ」

「大将のことだ。 何か勘が働いたんだな」

「確かに、昔から勘が凄まじかった」

小田大尉と浅利大尉も同意してくれる。頷くと、マザーシップの中心地点。その下に展開している、雑多な怪物を指さす。

マザーシップが飛来すると同時に集まって来たのだ。鎧を身に付けたコロニストも数体見かけられる。

「恐らく今回も、マザーシップは主砲を展開するつもりはないでしょう。 我々を誘き寄せて、撃破するつもりと見て良さそうです」

「そうだな。 確かにマザーシップの直衛にしては敵の数が少ない。 その可能性は存分にある」

「そこで、全軍での突撃は中止します」

レールガン部隊は、接近戦に弱い。そもそもレールガンの火力は超絶だが、その代わり元々レールガンというとんでもない電力を食う兵器を輸送するためのキャリアの色彩が強いのである。

一時期の、ミサイルキャリアとしての戦闘機と立場が近いかも知れない。

前回は、コスモノーツの出現で味方は大混乱に陥った。

同じ失敗は、繰り返さない。

「わざわざこのタイミングでのマザーシップ到来です。 恐らく新兵器を出してくると見て良いでしょう。 それにマザーシップの撃墜は厳しい。 ならば、敵の策に引っかかったフリをして、敵の新兵器を破壊するだけです」

「確かに話の筋は通っている」

「そうだな」

相馬大尉が応じてくれる。荒木軍曹も、概ね賛成してくれるようだ。

まず、レールガン部隊は近くの丘の上に移動。護衛部隊とともに展開し、姿を隠す。

ニクス隊は近くのビル影に移動。其処で敵を待ち受ける。

突入するのは、村上班と荒木班のみ。

敵はコスモノーツでは無くディロイなどを投下してくる可能性もあるが。それはそれ、これはこれである。

ともかく、この布陣で行く。

レールガンは更に火力が増して、キャリアとしての車体の性能も上がっているらしい。恐らくだが。遠距離から余裕を持ってコスモノーツを粉砕する事が出来るだろう。

程なくして、横浜に兵力が到着。

それに対して、荒木軍曹が、千葉中将と掛け合い。作戦の交渉をする。

千葉中将も、作戦に許可を出した。

「今までマザーシップは、直衛を失うと撤退するケースが目だった。 それに、勝負をかけに来たとしても、主砲へのダメージを与える方法は既に分かっている。 やる価値は、確かにあるな」

「はい。 マザーシップも、直衛無しで戦力が健在な東京基地の上空に迫る勇気は流石にないでしょう。 恐らくは罠である今回の攻撃を打ち破れば、多少は戦況に余裕が出るかと思います」

「確かにその通りだ。 荒木軍曹、村上班、頼むぞ。 作戦の成功を祈る」

通信を切る。

そのまま、来てくれた攻撃部隊に指示。

マザーシップに突撃するのでは無いかと思っていたらしい部隊は不審そうにしたが。ともかく展開をしてくれる。

彼らが展開し終えたのを見てから。

壱野は移動開始。

先に、柿崎に話をしておく。

「鎧通しはいけるか」

「はい。 鎧を着けた相手との戦闘術は心得ております」

「それは結構。 ……敵の新型兵器は、どれも強固だ。 それを心がけてくれ」

「承りました」

柿崎は、此方をだいぶ信頼してくれているようで。最近はほぼスタンドプレイをしなくなった。

これで準備は整った。

前回とは違う。悪いが、コスモノーツが来ても、完勝させて貰う。

そう、壱野は思った。

 

三城は高度を上げると、一気にそれを速度に変える。落下しながら鎧コロニストに襲いかかり、ファランクスで首を刎ね飛ばした。

大混乱になるコロニストの頭を、大兄が吹き飛ばす。

エイレン二機が、怪物に容赦なく高出力レーザーを浴びせて駆逐。味方部隊は、息を潜めて様子を窺っている。

荒木班の戦闘力は流石だ。

というよりも、記憶にあるより高くなっている気がする。

どうも妙だが、それはそれでもういい。

柿崎も、三城を狙おうとしたコロニストに迫ると、逆袈裟に両断。鎧を着ていないコロニストならば、プラズマ剣で両断可能と言う訳だ。流石に慌てる敵を、容赦なく皆で制圧する。

「弾丸の再装填!」

「やれやれ、人使いが相変わらず荒いぜ。 ボーナスなんて貰っても、使い路もねえしな」

「そう文句ばかり言うな。 お前の活躍で、多くの市民が救われただろう」

「確かにな。 それもそうだ」

皮肉屋の小田大尉も、それで何とか納得はできるのだろう。

怪物の群れを駆除し終えると、直下に。数体のコロニストがいる。大兄が、それぞれの担当する相手を決め。作戦開始。

浅利大尉の狙撃が、綺麗にコロニストの頭に穴を開けるのをみて。おおと思った。かなり口径が大きい狙撃銃を使っている。流石に片膝を突いて、更にパワードスケルトンの補助で衝撃を殺しているようだが。

あれは恐らく、ファングと呼ばれる超大口径狙撃銃の試作品だろう。

荒木班にも、どんどん試作兵器が回されていると言う事だ。

面倒な鎧コロニストは、大兄が真っ先に片付けている。迫撃砲持ちを、空中から狙う。必死に反撃を試みようとするコロニストだが、真上にはマザーシップがいる事に、躊躇したのだろう。

その躊躇の隙に、頭を焼き切る。

赤いα型を中心とした雑多な怪物を、エイレン二機が蹴散らす中。

大兄が、指示を飛ばす。

後退開始。怪物を粉砕しつつ、距離を取る。わずかな残党のコロニストの一体の首を、小兄が電刃刀で刎ねていた。

コロニストが全滅すると、後は消化試合だ。

此処にいる怪物の数はそれほど多く無い。確かに、大兄が言う通り。それ自体が、罠だと証明しているようなものだ。

だが、こんなみえすいた罠を、わざわざ張ってくるだろうか。

余程、自信があると言うことか。

殺気。

勿論そんなものは実在しない。

体が危険を感じ取ったのだ。

上空を見上げる。マザーシップの主砲展開口の周囲に穴が開き、そこから何かが降りてくる。

既視感がある。

分厚いヨロイを着込んだエイリアン。

コスモノーツだ。

違うのは、数がどうにも多いと言う事である。凄まじい数が展開し、着地と同時にエイレンを攻撃しようとした。

だが、それについては此方も承知。

大兄が、指示を出す。

「レールガン!」

「了解! ファイアっ!」

更に火力が上がっているレールガンが、横殴りにつるべ打ちの射撃を開始する。コスモノーツは時速百キロ以上で走るが、しかしそもそもどこから撃たれているか分からない上に。レールガンの火力は、前周ですらあのマザーモンスターを瞬殺したほどだ。

コスモノーツの鎧は衝撃を吸収して、自壊する仕組みになっているようだが。衝撃を殺しきれない。

張り倒されるように、鎧を粉砕され。吹っ飛んで転がる。慌てるコスモノーツに対して、レーザーを浴びせながら後退。反撃しようとしてくる奴を。大兄が優先してライサンダーZで撃ち抜く。

「なんだあれは! 人型のロボットか!?」

「いや、レールガンで装甲が剥がれた中にエイリアンが入っている!」

「なんて不気味な姿だ!」

そういえば、妙だな。

コロニストに対して、人々は「人間そっくり」といったが。一華曰く、あれは両生類という極めてマイナーな種族によく似ているそうだ。ギアナ高地とか、環境が隔絶した洞窟の中などで生き延びている、脊椎動物の先祖。

三城には、どうにも人間に似ているようには思えない。

ただ、コスモノーツが不気味だというのは同意だ。こっちのが人間に似ている気がするのに。

ともかくアウトレンジの攻撃を受けてやりたい放題に張り倒されているコスモノーツに、プラズマグレートキャノンをごちそうする。手足胴体がバラバラになって吹っ飛ぶ。大混乱に陥ったコスモノーツの大軍に、更に小兄がNICキャノンと散弾迫撃砲をごちそうし。

接近して、柿崎が首を次々刎ね飛ばす。

更にビル街の合間に隠れていたニクスと随伴歩兵が、集中攻撃を開始。レールガンによる奇襲を許し、大混乱に陥ったコスモノーツは。その得意とする素早い動きも発揮できず。一方的な攻撃によって次々屍と化していく。

大兄は、抵抗を率先してやろうとするコスモノーツのヘルメットに次々とライサンダーZの弾丸を食わせる。それでいながら、レールガンに狙う地点を指示し続けている様子だ。一華と連携しながらそれをやっているらしい。

恐ろしい神業である。

荒木軍曹の手にしているオーキッドの火力ももの凄く、逃げようとしているコスモノーツの足を瞬く間に粉砕。倒れたところを、小兄がとどめを刺す。また、エイレンのレーザーも凶悪な火力で、次々コスモノーツの鎧を剥がしていた。

「敵の新型エイリアンか!? 奇襲がいずれにしても上手く行ったな!」

「どうやら敵の鎧は宇宙服を兼ねているようです。 今は奇襲が上手く行っていますが、本来であれば相当な難敵でしょう。 以降、このエイリアンをコスモノーツと呼称します」

「可能な限り殲滅しろ! 他の地域でも投入はして来るだろうが、今のうちに倒せるだけ倒せ!」

千葉中将が声を張り上げる。

そのつもりだ。

コスモノーツの群れに、何発目かのプラズマグレートキャノンを叩き込む。上空のマザーシップは、慌てて増援を投入してくるが。完璧なタイミングで大兄がレールガンに狙撃させ。酷い場合は文字通り空中でコスモノーツはくの字になって鎧を消し飛ばされ、地面に叩き付けられて動かなくなった。

「ニクス2、補給のためさがる!」

「ニクス3、同じく!」

「問題ねえ! アンドロイドどもで好きかってしやがって! いつも新兵器が上手く行くと思うなよプライマーっ!」

小田大尉も、相当に鬱屈が溜まっているのだろう。確実に鎧が禿げたコスモノーツに、ロケットランチャーを直撃させ、仕留めていく。

第二陣も瞬く間に壊滅。第三陣も大ダメージを受けて、円陣を組もうとした所をレールガンに狙撃され。散ろうとした所を三城がプラズマグレートキャノンで吹き飛ばし。ことごとく行動の先手を取る。

懸念事項はある。

トゥラプターだ。

だが、彼奴はどういうわけか、今周では姿を見せていない。嬉々として出て来そうなものなのに。敵指揮官の方針だろうか。

いずれにしても、彼奴が出てくると相当な被害を覚悟しなければならない。逆に、コスモノーツはコロニストほど数がいないことも分かっている。此処で、倒せるだけ倒す。

第四陣が来るが。着地と同時に狩る。補給を済ませたニクスが戦闘に復帰。さらに柿崎が、見事な鎧通しを見せる。

そういう剣術があると聞いていたが、伝わっていたのだろう。

真後ろから首を貫かれたコスモノーツが、棒立ちに成り。そのまま倒れる。ひゅうと、小田大尉が口笛を吹く。

「見事だ。 だが、スタントプレーはできるだけ避けろ」

「承りました」

「相変わらず見事なサムライぶりだぜ。 俺も負けていられないな!」

「そうだな。 とにかく、今は敵の新しいエイリアンを徹底的に叩くぞ!」

既に周囲は、コスモノーツのしがいの山だ。此処まで完璧に勝利した戦闘は、ここしばらくではないだろう。

本部も補給車を送ってくる。このままの殲滅を続けてくれと言うことだろう。

だが、流石に敵の指揮官は不利を悟ったようだ。

そのまま上空にマザーシップが逃げ始める。第五陣で、コスモノーツの増援は終了だった。

勿論、もう抵抗する余裕は与えない。先手先手を最後まで取り、全滅させた。

ざっと死体を数える。

バラバラになっているものもあるが、それでも二百近くをこの短時間で屠り去った。

これはうっすらと記憶にある、前周回でのモスクワ襲撃作戦の戦力とほぼ同等である。つまり、これだけの数を野放しにしたら、国一つ潰されていた。

それを潰せたのは大きい。

敵も満を持してコスモノーツを投入。アンドロイド部隊と連携して、一気に東京を陥れるつもりだったのだろうが。

そのもくろみを潰した。

これは、明確な勝利と言える。

歴史に大きな変化を与えられるはずだ。

「壱野、助かった。 お前の判断がなければ、我々はのこのこ敵の真下に出向いて、あのエイリアンに蹂躙されていただろう」

「いえ……そうですね。 いずれにしても、勝つ事が出来たのは幸いです」

「良くやってくれた!」

千葉中将が、感動気味に通信を入れてくる。

ここまでの完璧な勝利は想定していなかったのだろう。マザーシップはすごすごと逃げ帰り、敵は一国を潰すための、それも精鋭のエイリアンをまるごと失ったのである。流石にこれはクリーンヒットとして、鼻柱をへし折ったはずだ。

「私から掛け合って、この作戦に参加した将兵はみな一段階昇進させよう。 それだけの価値がある大勝利だ」

「光栄です」

「なんだなんだ、俺もついに佐官かよ。 昔は佐官なんて、偉そうなだけでむかつく相手だったのになあ」

「小田大尉。 流石に水を差すようなことを言うな。 今は勝利を喜んでおこう」

「相変わらずですね」

くつくつと柿崎が笑う。

結構性格が悪そうな笑い方だ。

柿崎はちょっとサイコ気味な所があると三城は思っていたが。或いは、この強さ。そこに起因しているのかも知れない。

ただ、「普通」とはだいぶずれていることは、三城自身も同じだ。

それについて、どうこういうつもりはない。

先進科学研が来て、コスモノーツのしがいを回収し始める。早期に彼らの鎧を回収出来るのは大きいだろう。

或いは、コスモノーツの鎧を粉砕して、直接内部にダメージを与える兵器を。バルガ以外に開発できるかも知れない。

いや、流石に厳しいか。

今回は気持ちが良いほどの快勝だった。だが、それでももう立て直しが効かない程、EDFはダメージを受けているのだから。

 

東京基地に戻る。

すぐに荒木班は欧州に戻っていった。それだけ戦況が悪いと言う事である。

代わりにと言うべきか。

懐かしい人が来ていた。

東京基地で顔を合わせて、三城は思わず敬礼する。相手は不可解そうに、敬礼を返してきた。

シテイ大尉。

以前少しだけ共闘し。その戦闘後に戦死してしまった、スプリガンの士官である。現在は大尉のようだ。

階級を追い越してしまった。

だけれども、戦歴も年齢もある。敬語を使わなければならない相手だ。

「村上班、連携のために参陣した。 以降、よろしく頼む」

「此方こそ、頼りにしています」

大兄はそれほど動揺しているようには見えなかったが。

それでも、やはりこういう頼りになる歴戦のウィングダイバーの協力はありがたい。

これから数日一緒に戦闘をして、関東近辺のプライマーを蹴散らした後、また中華に渡る。

中華には、わずかな増援部隊が送られたようだが。現在インドでEDFはアンドロイド部隊と必死の戦闘中だ。此処に主力が割かれているらしく。被害も凄まじいらしい。

アンドロイドは人間を見境なく殺して回る。

その凄まじい殺戮の刃は、訓練を受けた兵士でも怖れさせる。ましてや、もう民間人から半ば強制的に徴兵している今。

戦闘は虐殺に変わりつつあるだろう。

勿論虐殺されるのは此方だ。

「スプリガン隊は苦戦が続いていると聞いています。 援軍には本当に感謝しかありません」

「いや、村上班は更に凄まじい戦闘に投入され、しかも全てで勝っていると聞く。 ジャンヌ大佐から、その勝利の秘訣を見て来るようにといわれている。 此方こそ、よろしく頼む」

他のウィングダイバーにも紹介を受けて。敬礼をかわす。

三城はそれなりに知られているらしい。

それと。今更に気づくが。

別に欧州の女性は背が高い人ばかりではないらしい。

どうしてもスーパーモデルのイメージがあるが、そんなこともなく。三城ほど小さくなくとも。日本の女性と、それほど背丈は変わらなかった。

一華が村上班専用の回線で、バイザーに通信を入れてくる。

「どうしたッスか? 一華」

「いや、今更だけど、欧州の女性ってそこまで背が高いわけでも大人っぽいわけでもないなって」

「ああ、欧州の人間は男女の体格差がかなりあるらしいッスよ。 だからスーパーモデルは、あこがれの職業らしいッスね。 実の所、いわゆる金髪の人間も言われている程いないらしいッス」

「はー、なるほど……」

なんというか、テンプレのイメージは色々失礼なんだなと思って。それでちょっと三城は反省した。

ともかく、少しだけ休憩する。

小兄が皆にココアを出してくれたが。お世辞にも美味しいものではない。ともかく、体を温めるものだと割切って。それでも嬉しい。

やはり、小兄が淹れてくれたココアだというのが大きい。

そのまま少しだけ休憩してから、戦地に出向く。

尼子先輩の運転する大型移動車に乗って現地に向かうが、スプリガン隊もエイレンが残っている事には驚いていた。

現地に到着。

かなりの飛行型がいる。

ただし、敵は此方を感知していない。地面に貼り付いていて。まるで林全域が飛行型に覆われているようだった。

「空中戦だ。 負けられないぞ」

「イエッサ!」

「シテイ大尉、接近された場合の対処は任せる。 皆、そもそも相手を飛ばせるな!」

大兄が指示を出し、まずはスナイパー型の自動砲座を撒く。

この自動砲座もかなり改良されていて。以前と違って使い捨てではなくなっていた。弾丸の再装填が出来るようになり。利便性が上がっている。

問題はこの自動砲座用の弾丸があまり生産されていないことで。

そればかりはこの戦況だ。

どうしようもない、というのが実情だろう。

一通り準備が終わった所で、まずは上空に三城があがり。誘導兵器で仕掛ける。誘導兵器で一気に大量の飛行型を拘束。そこへ、一華のエイレンがレーザーを浴びせて、片っ端から敵を蹴散らす。

上空に浮き上がった飛行型は、自動砲座が次々と撃ちおとす。針状に圧縮した酸を放てるほどの近距離まで、まずは接近させない。

スプリガンも流石の連携で、マグブラスターで一糸乱れぬ射撃を開始。ちょっと腕が怪しい隊員もいるけれど、見事なほど綺麗な弾幕を展開する。

飛行型は基本的に極めて厄介な怪物だが。

ここまで条件が揃うと、どうにもならない。

柿崎は途中で何度かパワースピアをぶっ放して、飛行型を綺麗に撃ち抜いていたが。

流石に大兄ほどの腕じゃない。

一応、中距離の飛行型なら、ほぼ当てられる様子だ。

まあ、それで充分だろう。

次。

更に次。

各地を転戦して、関東近辺で苦戦している戦場を綺麗にする。その間に、シテイ大尉が連れて来た四名のウィングダイバーのうち一名が、負傷して脱落した。

だが、致命傷ではない。

軍病院での再生医療の技術も上がっていると聞く。

恐らくだが、傷一つ残らず治る事だろう。これも、プロフェッサーが未来から持ち帰った技術が故だ。

そういえば、三城はあまり使わないマグブラスターだが、これも相当に進歩している様子だ。

或いはスプリガンには優先的に、強力な試験モデルが回されている可能性もある。

他の隊員は兎も角、シテイ大尉はまるで危なげない強さで安心できる。

夕方、東京基地に帰還。

満足出来る戦果だった。

千葉中将に呼び出される。

先に荒木軍曹は、准将に昇進。大兄は大佐に。小兄と三城、一華は中佐。そして柿崎は少佐に昇進が決まった。

「君達の活躍は群を抜いている。 とくにこの間の、プライマーの新エイリアンへの戦果は文字通り鬼神の如くだった」

「はっ。 ありがとうございます」

「……近々、荒木班、スプリガン、それに米国で活動中のグリムリーパーと連携して、インドでの作戦に参加して貰う。 インドに現在、中華経由でアンドロイドの大軍が流れ込んでいるのは知っていると思う。 それを叩く、決死の反攻作戦だ」

そうか。

ついにきたか。

経緯は異なるが、これでストームチームがこの周回でも結成されることになる。

いずれにしても、やるべき事は分かっている。

下手をすると百万以上に達するだろうアンドロイドを相手にして、撃滅し。勝たなければならない。

勝たなければならないのだ。

そうしなければ、何の意味もなく、この周回は終わる。下手をすれば、その時点で人類は終わりだ。リングに近付くことさえ出来ないかも知れない。

流石に三城もちょっと肝が冷える。だが、やらなければならない。

大兄だって、緊張している筈だ。どれだけ強くたって、無敵では無い。大兄が怪我をするところだって、失敗するところだって、三城は見た事がある。それをカバーしてきただけだ。

カバーしきれない時が来たら。

三城達が、何とかしなければならないのである。

無線を終えると、大兄が此方を見た。

「出来れば、勝つ。 万が一勝てなくても、ストームチーム全員であの場所に辿りつく」

「何のことでございましょう」

「……決戦を生き残ったら、柿崎少佐にも話す」

「承りました。 生き残る楽しみが出来ました」

少しばかり寂しそうに柿崎が笑う。

今や彼女の故郷も焼け野原だ。関係者を避難させて、その人達は東京の地下に潜んでいるそうだが。

それでも、故郷も道場も焼き払われたという点では、村上家と同じである。

それが、やるせなかった。

柿崎閃は、一緒に戦い続けて。少しずつ心の底に昔の色々な国の戦士階級の人間のような冷酷さが潜んでいる事が分かり始めた。だが、それは村上家も同じ。

嫌悪にはつながらない。

まずは、日本での戦況をもう少しよくする。

今、北九州の工業地帯が制圧されていて。其処で怪物が繁殖しているという事だ。まずは、これを駆逐する。

それが、ストームチーム結成の第一歩だった。

 

2、大繁殖場

 

九州。福岡。

大工業地帯に、マザーモンスター多数が侵入。地上に卵を産み始めている。その話を聞いて、弐分は妙だなと最初に思った。

確か、地球環境に怪物が適応し始めたのは。前周の末期くらいからだった。それよりだいぶ早い。

今周は地下で大繁殖している形跡も無い。それくらい、アンドロイドを投入しての戦績が良いからと言うのもあるのだろうが。

まさか。

そういえば。うっすらと覚えている。

前周の末期。リングが来る直前。世界中から怪物が消えているという話があったように思える。

それは要するに、各地から怪物を回収し。

次の周回の戦力として、プライマーが活用したと言う事か。

今更になって理解出来た。

今世界中にいる怪物は、前の周回で殺し損ねた生き残り。更に、それに新しい戦力を加えたものなのだろう。

どうりで、α型にしても見た事がない奴が平然と混ざっている訳だ。

プライマーは前周を全て無駄にした訳ではない。歴史にバタフライエフェクトによる変化が生じるにしても。

それを見越して、戦力を最大限拡充している。

だが、それでも不可思議に思う。

一華が言っていたように、どうしても侵略と人類の抹殺が必要ならそれこそマザーシップ百隻でも投入してくればいいのであって。

わざわざ敗残兵までかき集めて、戦力化しているのは何故だ。

別の時代から来ているのだとしたら、それこそなんぼでも兵力は捻出出来そうな気がするのだが。

ともかく、スプリガンの分隊と、現地に出向く。

そして、思わず呻いていた。

凄まじい大軍だ。

福岡の工業地帯に、マザーモンスターが出張っている。そして地上は卵だらけ。

護衛のエイリアンはいない様子だが。

そもそも現在、福岡基地の大友少将は兵力を必死に再編制している最中だ。こんな化け物屋敷に踏み込む余裕は無いだろう。

しかも、忌まわしい金色のマザーモンスターまでいる。

あれの戦闘力は想像を絶する。出来れば瞬殺してやりたいが。問題は二匹いることである。

テンペストでも要請して消し飛ばしてやりたいところだが。

既にバレンランドも沈黙している状況。

壊滅したという話はないが。

迂闊に動いて、目をつけられるわけにはいかないのだろう。

潜水艦隊は論外。

エピメテウスはバヤズィト上級大将もろとも既に深海に潜んでいる状況で。サブマリンの艦隊は、連日大きな被害をインドで出している様子だ。インドでのプライマーの猛攻は凄まじく、市民に毎日数百万から一千万以上という被害を出しているらしい。EDFは主力をかき集めて応戦しているが、文字通り津波のようなアンドロイドの大軍を前に、為す術がないようだ。

まずは、此処を片付ける。

東京基地は、かろうじて機能している数少ない基幹基地。

此処を支えるために、日本の各地の戦況を少しでも良くする必要がある。

此処の後は、コロニストが集結し、攻撃計画を練っているらしい山奥の温泉地が発見されているので。其処を叩く。

もう、その戦力さえ、厳しい状態だった。

ヘリで現地に到着した後、大兄から周囲を見て回る。

大兄も閉口して、しばらく周囲を見て回っていたが。やがて作戦を決めたようだった。

補給車からC80爆弾を取りだす。

出来るだけ、工場は無事に奪還してほしいと言われているのだが。

今回は、はっきりいってある程度の損害は仕方が無い。

そして此処にある卵の数やどうだ。

ここの卵が連日孵って九州に押し寄せたら、大友少将麾下の部隊は数日で全滅してしまう。

九州が落ちれば今度は中国と四国。近畿もあっと言う間に陥落の危機にさらされるだろう。絶対に此処は潰さなければならなかった。

C80爆弾を撒いた後、バイザーで皆に大兄は無線を入れる。

「作戦開始だ。 まずは敵の主力から潰す。 金色のマザーモンスターが孤立した瞬間を狙い、一匹ずつ屠る」

「了解」

「わかった」

「イエッサ!」

シテイ大尉は相変わらず生真面目な雰囲気だ。麾下のウィングダイバー隊は、かなり緊張しているようだが。

それもそうだろう。マザーモンスターの恐ろしさは、欧州戦線にいたのなら、嫌になる程知っている筈だ。

大兄が、ライサンダーZのスコープを覗き込む。

此奴でも、簡単にはマザーモンスターを殺す事は出来ないが。

代わりに、三城がファランクスを持ち出している。

更に今回は、地雷原も用意した。

C80爆弾の火力は、擲弾兵部隊との戦闘で実証済みだ。必ずや、マザーモンスターでも業火の下に葬ることが出来る。

しばしして。

大兄が、狙撃していた。

金マザーモンスターの羽根が一つ消し飛ぶ。此方を見た金マザーモンスターが、凄まじい殺気をまき散らしながら迫ってくる。彼奴の酸は、通常のマザーモンスターの酸とは次元違いの危険度を誇る。

上手に移動して、地雷原に誘導。

そして、地雷原に踏み込んだ金マザーモンスターが、尻を持ち上げて酸をぶちまけようとした瞬間。

大兄は、起爆していた。

全員が耳を塞いだが。それでも、粉々に消し飛ぶ金マザーモンスターの様子は見えたし。爆破が辺り全域を揺らしたのも分かった。

他のマザーモンスターは反応しない。

流石に、生き物であれば、これは耐えられないか。

煙が晴れてくる。

金マザーモンスターのしがいは、既に溶け始めていた。

「まずは一匹」

「大兄」

「分かっている」

恐らく、飛んでいった欠片の一つがぶち当たったのだろう。マザーモンスターが一匹、此方に迫ってきている。三城が警告するまでもなく。大兄も気づいていたようだ。

ウィングダイバー隊が戦闘準備。

三城が懐に飛び込んで、一気に仕留める。その間。他の全員は支援。もしも接近された場合は、柿崎がプラズマ剣で斬る。

そういう手段は事前にブリーフィングで決めてある。

大兄が右手を挙げて。

他から離れた瞬間、振り下ろした。

攻撃開始。

まずは数本のマグブラスターの火線が突き刺さり。更に其処に、弐分のNICキャノンの連射が刺さる。大兄もライサンダーZで火力投射。一華のエイレンのレーザーも突き刺さる。

あれ。

こんなにマザーモンスターはタフだったか。

とにかく、それでも此方に進んでくるマザーモンスター。経験が浅そうなウィングダイバーが、露骨に慌てているのが分かる。

既に上空に上がっている三城が、急降下攻撃を開始。

マザーモンスターが上空を見上げた瞬間には、顔面にファランクスの大火力を一気に叩き付けていた。

悲鳴を上げてもがくマザーモンスターだが、凄まじい勢いで体を揺すって暴れる。

躊躇する経験が浅いウィングダイバー達と裏腹に、他の皆は攻撃を続行。更に、柿崎が突貫。

プラズマ剣で、マザーモンスターの足一本を切りおとし。

更に地面で無理矢理反転すると、腹を大きく切り裂いていた。

それがとどめになったのだろう。

マザーモンスターが、甲高い悲鳴を上げて倒れる。

いつ聞いても凄まじい悲鳴である。

ふうと嘆息しつつ。

弾丸の再装填を弐分も済ませる。

ちらりと補給車を見た。

もしもマザーモンスターが連鎖反応するようならと、一応奥の手は用意してきてある。ディスラプター。使い切り式の、大火力火砲だ。火力は凄まじいが、バッテリーの充電が極めて大変で。そういう意味ではブレイザーやエイレンと同じ欠点を抱えているとも言える。

あれは出来るだけ使わないでほしいと東京基地に言われている。

連日工場に動力炉の電力の大半を割いている状態で。

食糧を生産するのに必死らしい。

其処に兵器の生産も加わると、地下にある原子炉も追いつかなくなると言う事で。連日閣僚が揉めているそうだ。

千葉中将も、その無駄な会議に参加することが時々あり。

効率の良い戦いを心がけてほしいとか門外漢から頓珍漢な説教をされることもあるらしく。

疲れきっているようだった。

今の時代に政治家はおらず。

いるのは自分の利権にしか興味が無い政治屋だけ。

そういう話は聞いたこともあったが。

それでも、情けなくてため息をつきたくなる現実だ。

いずれにしても、二匹目のマザーモンスターも仕留める。成田軍曹が、有り難くも残り五匹と教えてくれるが。

知った事では無い。とにかく倒すだけだ。

大兄が、再び狙撃の体勢に入る。既にC80爆弾は仕掛けてある。金マザーモンスターだけを釣れればいいのだが。そう簡単にはいきそうにない。

マザーモンスターはそれぞれ離れて卵を見張っているのだが、金はちょっと奥まった所にいるのだ。

あいつだけ釣って、此方に連れてくるのは、少しばかり難しいだろう。

「手前にいるマザーモンスターから片付ける。 戦闘準備」

そう告げると、大兄は狙撃。

離れていたマザーモンスターが反応し、此方に来る。幸い、一匹だけだが。どうやら危機を感じたらしく。卵が大量に孵化。α型ばかりだが、それでも相当な数が、マザーモンスターに随伴して迫ってくる。

まあ、C80爆弾の揺動。マザーモンスターの悲鳴。それらを聞けば、どんなに脳天気でも危機は感じるだろう。

問題はα型の中に、少なくない金色が混じっていること。

「金を含め小型の駆除を優先。 三城、マザーモンスターは任せる」

「分かった」

「総員、空中戦用意! 地上に降りた瞬間を狩られるなよ!」

シテイ大尉が、青ざめている兵士達に叫ぶ。

小型はマザーモンスターより足が速く、見る間に迫ってくる。卵から出て来たばかりだというのに、既に戦術も知っている様子だ。赤いα型が前衛に成り、その後ろに銀と金のα型をちゃんと庇っている。

他の卵を傷つけて孵化させると面倒だ。

攻撃を派手にやるわけにもいかない。

工場を傷つけるのも悪手だ。

まだまだ、内部には使える設備が大量に残っているのである。日本を拠点に抗戦を続けるためにも。

可能な限りダメージを抑えて、此処は奪回しなければならないのだ。

α型に総員で射撃を浴びせて、足を止める。どうしても流れ弾が卵に着弾し、α型が増えるが。

それでも、どうにか抑え込む。

大兄が金α型を、針の穴を通す狙撃で確実に始末していく。その手際は、本当に凄まじい。

弐分もNICキャノンでα型を次々貫くが、もう赤いα型は至近に迫ってきていた。

一華のエイレンがレーザーを集中し、確実に焼き払うが。流石に数が多い。焼き払って足を止めつつ、必死に敵を食い止める。卵から孵った金のα型は駆除に全て成功。赤いα型もおおかた駆除できたが、銀はほぼ無事なまま押し寄せてきた。

乱戦になる。

スピアで貫きながら、エイレンを見る。かなりの数のα型に集られているが、上手に立ち回って酸を浴びまくる事態は避けている。下手なニクス乗りなら、既にニクスをやられている所だが。この辺りは歴戦の一華だ。酸は浴びているが、しっかり高機動を利用して。更に経験が浅いウィングダイバーも庇っている。

そこに柿崎が加わり、α型を次々斬り伏せて回る。柿崎の高速での抜き打ちと、まるで隙無く動き回る立ち回りに、α型も混乱し。其処に上空からシテイ大尉が完璧なタイミングでマグブラスターを打ち込む。

遠くで、凄まじい悲鳴が上がる。

マザーモンスターの背中を取った三城が、ファランクスで焼き尽くしたのだ。

横倒しになって倒れるマザーモンスターを放置して、此方に飛んでくる三城。不利を悟っているのだろう。

程なくして、どうにかα型の駆除を終えるが。

この辺りに産み散らかされている卵の数を思うと、うんざりである。

戦闘後、補給をする。エイレンは一度後退。長野一等兵にメンテナンスしてもらう。その間に、大兄が話をする。

「マザーモンスターに仕掛ける前に、目につく範囲にある金α型の卵を片付ける」

「わ、分かりました……」

金のα型の恐ろしさは、欧州戦線から来たのなら知っているのだろう。

金の怪物に出会ったら死ぬ。そういう話まであるという事を、弐分は聞いている。あながち間違いではないだろう。金のα型に接近を許したら、ニクスだって一瞬で溶かされてしまうほどなのだ。

ましてや、まだ敵には金のマザーモンスターまで残っている。

それを考えると、とてもではないが楽勝どころではない。

どこから攻めるかを順番に説明している間に、装甲の応急処置をすませたエイレンが戻って来た。

大兄は頷く。もう一つ朗報だ。

「ちょっと交渉したッスけど、DE203を派遣してくれるみたいッスよ」

「厳しい戦況だというのに、有り難いな」

「千葉中将が、後で官僚やら閣僚やらに散々嫌みを言われるのを覚悟でやってくれたッスね。 本当に感謝ッスわ」

頷くと、大兄の指示に従い。

まずはマグブラスターで卵を攻撃。割れて怪物が出てきた所を、大兄が狙撃して確実に仕留めていく。

そうやって、少しずつ確実に安全圏を拡げる。

金のα型も、流石にラインサンダーZの直撃には耐えられない。そのまま、順番に卵を駆除して行く。

マザーモンスターはそれぞれ守る範囲を決めている様子で、卵が次々砕かれていても気にする様子がない。

それはそれで別にかまわない。その習性を理解していれば、後で戦闘で役に立つ。

卵の駆除を、一時間以上掛けて行う。その時には、かなりウィングダイバー隊が疲弊していた。

「少し休んでくれ。 その後、マザーモンスターに仕掛ける」

「イエッサ……」

「一華、DE203は」

「もうすぐ来る筈ッス」

DE203の大火力は有り難い。ウィングダイバー隊を休ませている間も、卵の駆除は進める。

シテイ大尉は流石に歴戦を重ねているだけあって平気なようだったので、彼女に卵への攻撃を頼み。

確実に砕いていった。

「此方DE203。 卵パーティーをしているようだな」

「支援感謝する。 攻撃地点指示は一華に任せる」

「了解ッス」

「それでは本番だ。 マザーモンスターを片付ける」

休憩していたウィングダイバー達が、慌てて起きだす。そのまま、大兄は、金マザーモンスターを狙撃。

そして、地雷原に誘導していく。

金マザーモンスターが此方に来る間に、卵が複数割れて、怪物が出現するが。その度に、即応した大兄が撃ち抜く。

この辺りの手際は、流石に超人的だ。

金マザーモンスターが、殺気をまき散らしながら来る。正確にはそんなものはない。全身が、此奴は危険だと警告している。そういうことだ。

迫ってくる金マザーモンスターを、移動して地雷原に誘導。それと同時に、雑魚を蹴散らして回る。

不意に速度を金マザーモンスターが上げる。その瞬間、DE203がしこたまバルカン砲と105ミリ砲を叩き込む。凄まじい破壊力の航空兵器からの攻撃を浴びて、悪魔とも怖れられるマザーモンスターも悲鳴を上げて動きを止め。

部隊を移動する隙が生じる。

そして、金マザーモンスターに随伴する怪物もろとも。

地雷原に誘いこむことに成功した。

「爆風が凄い。 上空のDE203、気を付けてくれ」

「了解だ」

大兄が、C80爆弾を起爆。

金マザーモンスターが、取り巻きのα型もろとも、まとめて粉々に消し飛んでいた。

上空で、歓喜とも驚きともいえない声が上がった。

「凄まじい爆風だな! ご機嫌な火力だ」

「……まだ残りのマザーモンスターがいる。 上空で、次の攻撃に備えてほしい」

「任せろ村上班。 指定目標をかならず撃ち抜いてやる」

相変わらずだなDE203のパイロットは。

そう思いながら、弐分は次の戦闘に備える。

まずは卵をたたき割りつつ、ある程度のタイミングでマザーモンスターを片付ける。

今日一日、この作戦には掛かるだろう。

だが、一日掛ける価値は、ある筈だった。

 

全てのマザーモンスターを駆除した瞬間、案の定残っていた怪物の卵が全て孵化した。だが、念入りに駆除を進めていた事もある。

怪物の卵は、危険を感じると前倒しで孵化する。

その割りには幼体の怪物は見かけないのだが。この辺りは、理由が分からない。マザーモンスターの体内からも、そういうものは発見されていない様子だ。どういう生態なのかは、正直なんともいいようがない。

ともかく習性を知っていたことで、対応は容易。

残党を駆逐して。DE203には、先に引き上げて貰った。

くたくたになっているウィングダイバー部隊には、先に引き上げて貰う。シテイ大尉は、あまり良い表情をしていなかった。

「鍛え方が足りなさすぎる。 迷惑を掛けたな」

「いや、実戦経験を積めば伸びるはず。 気にしなくても問題ない」

「そうだな。 そうならば良いのだが」

福岡基地に帰投。

代わりに、工兵部隊が工場に向かう。工場の復旧のためだ。こんな状況になった工場でも再起動して使わなければならない。

それくらい、戦況は厳しいのである。

福岡基地に着くと、大友少将が出迎えてきた。相変わらず機嫌が悪そうな顔をしているが、そんな事もないことを弐分は知っていた。

「たった一日であの怪物共の巣を片付けたとは、ご苦労だったな。 休憩用の部屋は用意してある。 休んでいけ」

「ありがとうございます。 それではお言葉に甘えさせていただきます」

「全く、敵の戦術に振り回されてばかりだ。 東京にいる政治屋どもを先に駆除するべきではないのか」

あれ、これは本気で苛立っているのか。

だとすると、或いは千葉中将と一緒に、嫌み合戦につきあわされたのかも知れない。

将官になると、こういうこともあるのかと思うと。

弐分も思わず苦笑してしまった。

そのまま、休む。

一華はエイレンの補強のために、バンカーに向かった。どうも強化パーツが届いた様子で。長野一等兵に整備して貰った後、性能試験をするそうだ。

強化パーツを作っても、そもそも動いているエイレンが殆どいないのだ。

試験をする暇も無かっただろう。

確かに、事前に調査はしておかなければならない。

自室につくと、大兄から無線が入った。

「明日、コロニストの集まっている山間の村を攻略し、コロニストを制圧する」

「あの鎧のコロニストが少ないといいのだが」

「それが、どうも妙な様子でな。 あのボロボロのコロニストが集まっている様子だ」

「……」

そうなると、前周の最後、リングから飛ばされた連中か。

身を寄せ合って、必死に生きようとしているのかも知れない。そもそも戦力外として、プライマーに新規で装備を供給されもしないだろうし。

だが、それでも容赦はできないのが辛い所だ。

人間とみれば攻撃してくるような相手である。

大兄を見れば逃げ出すかも知れないが。逃がせばその先で、この村の占拠のような事を何度でもするし。

最悪、群れが軍に早変わりというケースも考えられる。

駆逐しなければならないのだ。

「一応、何かしらの罠がある可能性もある。 注意してくれ」

「分かった。 最悪の場合でも、被害は出さないようにしないとな」

「ああ……」

これから、インドでの決戦がある。

その時にストームチームに欠員が出ることだけは絶対に避けなければならない。

早めにねむる事にする。一華はただでさえ、明日は寝不足気味だろうし。他が補わなければならないのだ。

夢は、見なかった。

疲れきっていたからだろう。

あれだけの数のマザーモンスター相手に、レールガンも無しに挑まなければならない。それは、確かに疲弊するのも、仕方が無い事だった。

 

3、時事無惨

 

早朝、ヘリに乗る。ヘリに乗ってから移動開始。疲れきっているのは自覚しているが、それでもどうにかしなければならない。

一華はエイレンのコックピットで、梟のドローンを頭に乗せたまま、あくびをかみ殺す。そういえばこのドローン、ちゃんと補給車に入っていた。そういえばこいつ、いつ来たのだっけ。

それも記憶が微妙に曖昧だ。

リーダーはもっと前周では記憶が曖昧だった様子だし、大変だっただろう。

そう思いながら、エイレンの整備が終わった事を、キーボードを叩きながら確認する。昨日確認したのだが、不満点をあらかた解消してくれていて助かった。これが完成すれば、「エイレン2」とでもいうべきバージョンになるだろう。

問題は、先進科学研の状況が相当厳しいらしい、と言う事。

どうもプロフェッサーがあまりにも好き勝手にやらせているという事が問題視されているらしく。

色々な兵器の開発をした、と言う事が帳消しになるくらい、睨まれているらしい。

プロフェッサーは完全記憶能力以外は、三流の技術者だと自嘲していた。

それを考えると、やはり開発にはあまり手腕がないのかも知れない。

ただ野放図に優れた技術者に好き勝手をさせていれば、そのうち傑作兵器が出来上がる可能性だって上がる。

なんでも、インドでの反転攻勢作戦が開始される頃に、参謀に対して話を持ちかけるつもりだそうだ。

上手く行きそうにないと思うのだが。

プロフェッサーの戦いだ。此方からは、何もしてやることが出来ない。

強いていうならば。もしも狂人扱いされた場合に、逃げ込むためのセーフハウスを用意するくらいだろうか。

実は、既にちょっとハッカーの技術を使って。既に放棄されているデータベースにアクセスし。良さそうな家を見繕ってある。

もしも逃げなければならない場合は、其処を使ってくれ。

そうプロフェッサーには話をしてあるのだが。

今の時点では、プロフェッサーにその言葉は届いているだろうか怪しい。

毎日倒れそうなほど働いているようなのだ。

自転車にも乗れないと自嘲していた人がだ。

精神を病まないか、心配になってくる。愛妻家のようだし。失敗すればするほど、おくさんの死を見る事になる。

それは。例えあんまり誰かを好きになるだのに興味が無い一華でも。病むだろうなと、理解出来る悲惨な事だった。

ヘリで、山奥の村に到着。そこを見下ろせる地点に布陣する。

大型移動車が最後に降りて来て。尼子先輩が空気を読めない事を言った。

「いやあ、いい温泉地だね! エイリアンがいなければ此処に滞在したいくらいだよ!」

現地で、ウィングダイバー隊が数名合流する。

名高いスプリガンが来ていると言う事もあって、心強いと思ったのだろう。ただ、尼子先輩に対して、そのウィングダイバー隊が、咳払いした。

「此処は私の故郷だ。 今、エイリアンに占領されていてすまないな」

「うっ……ごめんなさい」

「いいんだ。 此処を奪還する。 力を貸してほしい」

「僕には支援しかできないけれど、支援は可能な限りするよ」

そう謙遜することはないと思うのだが。

尼子先輩が、どれだけ勇敢かは、一華も良く知っている。だがこの人は、やっぱり周囲からは理解されづらいのだろう。

ともかく。リーダーが周囲をじっと手をかざして見ていて。

やがて結論した。

「あの村に降りるのは駄目だ。 此処で戦闘を行う。 長距離戦、準備してくれ」

「理由を聞かせてほしい」

「彼方の山に十二、彼方の山に二十潜んでいる。 下の村には四体がいるが、あれは恐らく、命がけで斥候を買って出ている決死隊だ。 あれに釣られて降りると、山から挟み撃ちを受ける。 それも上から見下ろされる形でな」

スカウトも派遣していないのに、ずばり伏兵を当てて見せるリーダーに、シテイ大尉も流石に口をつぐむが。

まあいつもの光景だ。

ともかく、シテイ大尉もリーダーの凄まじい戦闘力は知っている。すぐに、皆に指示。モンスター型レーザー砲の装備を指示。新たに加わったウィングダイバー隊には、軽く使い方の講習をしていた。

講習が終わってから、戦闘を開始。

エイレンの出番はないかなと思ったが、少し前に出るように指示される。まあ、一番目立つし。歩兵の被弾を減らすにはそれがいいだろう。

エイレンは全体的に強化されたが、電磁装甲が更にパワーアップしたのが大きい。

酸に対する抵抗力も上がったが、質量兵器とレーザーに対して強くなっている。まあ、怪生物に踏みつぶされでもしない限りは耐えられるはず。耐久力はタイタン並みという事で、まあこういう場合はその強みを生かさせて貰う。

重さはそのままで装甲を其処まで強化出来たというのは大きい。

少し山を降りて、前衛に。

柿崎が、随伴歩兵になると言って、側に来た。

「いいッスか、多分弾が飛んでくるッスよ」

「あのボロボロのエイリアンの方々でしょう? あの方々の装備していた鉄骨で岩石を撃ち出す兵器であったら、回避は出来ます。 むしろ囮として私は適任ですので、大丈夫です」

「はあ……」

まあ、いいか。

ともかく、配置に皆がつき。

リーダーが攻撃を開始する。

初撃で、村を伏せながら移動していたコロニストの頭を吹き飛ばす。残りのコロニストが一斉に反応する。

弐分によるNICキャノンで一体が蜂の巣にされ、それでも踏みとどまろうとするところを、三城がモンスター型レーザー砲で撃ち抜く。他の二体には、ウィングダイバー隊が狙撃を続けているが、中々当たらない。

其処に、リーダーがまた一発でヘッドショットを決める。

兵士達がどよめく。

「この距離で、百発百中!?」

「あの人、何者ですか」

「噂によると、総司令部が作り出したサイボーグだとか……」

「……」

あんまりにも強すぎて、兵士が恐れ始めている。ちょっとまずいかも知れないなあと一華は思ったが。リーダーは気にしている様子がない。

ともかく、最後の一体を片付けると。リーダーが言っていた通り、山からわんさかとコロニストが現れる。

どれもこれも、ボロボロの装備だ。

中には、手足が欠損している個体もいた。再生能力が働かないほど、ボロボロになっていると言う事だ。

恐らくだが、コスモノーツも同じように再生能力に限界があるのだろう。

何となく覚えているが。あのアーケルスにも再生能力の限界があった。それを考えれば。いくら何でも不死身の生物なんて存在し得ない。

コロニストの集落を攻撃すると言う事で、千葉中将も戦況を見ている様子だ。戦略情報部の少佐も交えて、通信をしているのが聞こえる。

「此処は傷を癒やす湯治の里で、戦国大名も訪れた由緒ある秘湯だ。 だが、エイリアンはそれすらもどうにもならないほど傷ついているようだな……」

「此処にいるコロニストは、現時点で戦略上意味のある行動を取っていません。 現在各地でコロニストは新型の装備を持ち、戦線で積極的に行動しているのと対極的です。 理由は分かりませんが、プライマーの戦略行動から切り離されていると思われます」

「見た所、ゲリラの類ではなさそうだな。 遊兵か? それとも、戦闘向けでは無い個体を実験で飛ばして、それが逃げ出しただけなのか?」

「何とも言えません。 ただ此処にいるコロニストも、最新鋭の装備を身に付ければ、途端に脅威となるでしょう。 此処には三十を超えるコロニストが集まっていることが分かっています。 排除しなければなりません」

山から下りてくるコロニストが、鉄骨を組み合わせた武器で、石を放ってくる。

質量兵器は実の所極めて厄介な装備だ。だが、柿崎はわざと挑発するように飛び回って、攻撃を引きつけてくれている。

一応囮程度に、エイレンからも射撃をする。まああまり有効打にはならないが、コロニストはやはりエイレンを脅威と認識しているのだろう。集中的に狙ってくる。足下が腐葉土で動きにくいが、それでも何とかほぼ全ては回避して見せる。それで、更に敵の攻撃が集中する。

その間に、リーダーが次々と射撃して、相手の首を叩き落とす。

「す、凄まじい……!」

「エイリアンの増援! この地にいるコロニストが、全て集まって来ています!」

「村上班、増援だ! 気を付けろ!」

「対処できる数じゃないです! 引くべきです!」

成田軍曹が慌てているが、放置。

そのまま、一華は囮を続けながら、狙撃部隊の攻撃に任せる。

リーダーの狙撃で十体目のコロニストの頭が吹き飛んだ頃には。

ウィングダイバー隊が、おののきの声を上げていた。

「噂には聞いていたが、本当にサイボーグなのか!?」

「しっ! 機密に触れたらどうなるか分からないぞ!」

「……すまない村上壱野大佐」

「いや、問題ない。 そのまま、モンスター型での狙撃を続けてくれ」

リーダーは気にしている様子もないが。まあ、シテイ大尉は謝るのも仕方が無いだろう。あのジャンヌ大佐でも、此処までの事は出来ない。

かなり飛んでくる岩が多くなってきた。

CIWSのシステムを利用して作った迎撃システムに切り替える。飛んでくる石を超高速で過熱して、爆発させ。軌道をずらす。同時に柿崎にはさがらせた。これだけの数だと、事故が起きると取り返しがつかない。

更にリーダーの撃破数が十五を超えると、千葉中将が呻く。

「戦場での凄まじい活躍は知っていたが、この数は……」

「村上班の戦闘力は、一個師団に匹敵、いやそれ以上と見て良いでしょう。 コロニストが恐怖から下がりはじめています」

「他の戦場で、こんな現象は目撃されていない。 恐れを知らぬコロニストが、指示なく逃げ始めるとは」

「事実です。 今後、戦略級の戦力として、活躍が見込めます」

戦略情報部の少佐のこの言葉。実験動物扱いされるのか、それとも。

まあ、流石に今は大丈夫だろう。

戦後はどうなるか分からないが。

そもそも、勝った後の事を考える余裕なんて、今はない。敵を仕留めるだけだ。

飛んでくる岩が、どんどん減ってくる。

それも当然だろう。コロニストは既に残り十体を割り込んだ。逃げ腰になった敵は、さがろうとしているが。

傷だらけの個体だらけだ。今更、逃げる事も出来ないだろう。

必死に這いずっている背中を、ウィングダイバーの一人。この里の出身者らしい人が撃ち抜く。

「観光でないなら、出て行ってくれ! 此処はただでさえ、秘湯なんて言われているが、人が来なくて大変な経済状態だったんだ。 お前達のおかげで、何もかもが台無しなんだぞ」

私怨が籠もった言葉だが。

それもまた、人間というわけだろう。

「スカウトが周辺を探索。 この辺りのコロニストは、もういないようです」

「残りは少数だ。 片付けてくれ」

「イエッサ」

リーダーが、淡々とコロニストを駆逐していく。

あのマザーモンスターをみて思ったことがある。

ひょっとすると、前周からそのまんま、連れてきた個体があれだとすると。

前周で投入されたコロニストは、この戦いで根こそぎ片付ける事が出来たのかも知れない。

それはそれで、素晴らしい戦果と言える。

ただ、コロニストが。ぼろぼろになって、洗脳が外れかけているだろうあの巨人達が。何を思って、此処で戦っているのか。今はむしろ一方的に殺されているのをどう思っているかは、正直よく分からない。

此方を殺す事しか考えていない相手だ。

同情は無意味だ。

そう一華は自分に言い聞かせるが。他の兵士ほど、無条件に相手を憎むことは、簡単じゃないと思った。

最後の数体が、村の影に隠れる。

リーダーが村に降りての殲滅を指示。エイレンが先行し。柿崎とともに残党を狩る。

建物の影で、瀕死になっている一体を、その場で焼き殺す。

柿崎も、逃げようと必死に這いずっている個体の首を、容赦なく刎ね飛ばしていた。

ほどなく、コロニストは全滅。周囲は、血に染まった温泉街となった。

成田軍曹が、無線を入れてくる。千葉中将が、それに静かに応じる。

「他のコロニストとは違う、無秩序で戦術的な行動も取らず、感情らしいものも見せている集団でした。 ただ身を守るためだけに、此処に集まった可能性もあります」

「そうだな。 だが時間が立てば統率者が現れ、立派な軍となって周辺を脅かしていた可能性もある。 プライマーが兵器を供給すれば、即座に危険な戦闘単位に早変わりしていただろう。 コロニストが、どれだけ和解を申し出た人間を殺したか覚えているか。 その事実がある以上、此処でやるべき事は、排除しかなかった。 そういうことだ」

戦闘終了。

此処は、再建は無理だろう。

そもそも、各地で怪物が跳梁跋扈している状況だ。そもそもの問題として、観光客なんてこない。

それでも、此処出身のウィングダイバーは礼を言ってくれた。

故郷を取り戻してくれてありがとうと。それに対して、敬礼で答える事しか、リーダーはしなかった。

 

温泉郷を後にして、一度東京基地に戻る。

案の定、此処からだ。現時点で、日本の戦況はかなり落ち着いた。あくまで、現時点でだが。

ここしばらく転戦し、敵の大型拠点を幾つも潰した。特に横浜でのコスモノーツを大量に出落ちし壊滅させた戦いは大きかった。

それもあって、日本には若干の余裕が出た。

欧州で転戦している荒木班とスプリガン。米国で転戦しているグリムリーパーも集めて。インドでの戦闘開始だ。

インドで集結して、一度顔合わせも兼ねて戦闘をする事になる。

インドではアンドロイドの大軍との激戦中だが。コロニストも来ている。此処にコスモノーツも現れると厄介な事になる。

まずは、コロニストを撃破する。

そう総司令部は決めたようだ。

ブリーフィングで話を聞いた後、補給物資のコンテナもろとも、大型の輸送機で出る。今度は輸送機を使う。

それだけ、危険な任務と言う事だ。物資も大量に持っていく。インドで戦闘している部隊が、それだけ苦戦しているという事もある。

説明が終わった後、一華は千葉中将に質問する。

「こっちは大丈夫として、欧州と米国は大丈夫なんスか?」

「いや、そもそも日本も大丈夫ではない。 何とか支えているという程度の状況だ」

「そうなると、他はお察しッスね……」

「此処で敵の主力を叩かなければ、EDFの主力部隊はアンドロイドとの戦闘にすり潰されて全滅する。 君達が、頼りだ」

千葉中将に頭を下げられて。一華も困った。

そう言われると、もう出るしか無い。

ともかく、リーダーとも軽く打ち合わせをするが。リーダーは特に困っている様子は見せなかった。

「むしろ良い機会だ。 これで形勢をひっくり返す」

「敵の数が多すぎるッスよ」

「だが味方の数も多い。 敵の要所を叩いて、形勢を逆転させる。 問題は、我々よりもプロフェッサーだ」

リーダーはそう言う。

何でも、定時通信が来なくなりつつあるという。

それだけ忙しい、と前向きに考える事も出来るが。

どうも、政治的な働きかけを戦略情報部に行っていて。それが上手く行っていないらしいと千葉中将から情報を得たそうだ。

戦略情報部のトップである「参謀」は、あまり良い印象がない。

軍産複合体に顔が利く大物中の大物。

EDF設立の立役者の一人。

戦略情報部を独立部署として私物化し、EDF内で圧倒的な権力を握っている怪物。総司令官のリー元帥よりも、発言権はある意味大きいのかも知れない。

そんな怪物に対して、あのプロフェッサーが、話を通せるか分からないとリーダーは言うのだった。

「悪いが一華、今のうちに手を打っておいてくれ。 例のセーフハウスに、もうプロフェッサーの家族は移動して貰った方が良い」

「了解ッス。 こっちから連絡しておくッスよ」

「プロフェッサー自身には、俺が話をしておく。 参謀が話を聞いてくれる可能性は恐らくそこまで高くは無いだろう。 プロフェッサーが改良した兵器は戦況を大いに改善したが、それでも味方が有利になっているほどではない。 天才がいると話題にはなっているが、それも一部に過ぎない。 恐らくプロフェッサーは、そこまで上層部に「信頼」されていない」

壱野も一大佐に過ぎない。

この時点で准将くらいにまで出世していたら、千葉中将と連盟でプロフェッサーの後押しが出来たかも知れないが。

それには、ちょっとばかり戻った時期が悪すぎたと言える。

まあ、それも確かに正論だ。

輸送機に物資を運び込んでいる間に、連絡をしておく。

実は、プロフェッサーの奥さんとは、既に連絡を何度かしている。プロフェッサーが言う通りの、優しそうな人だった。

軽く状況を説明する。

プロフェッサーが、結構危ない問題に首を突っ込もうとしている。

戦況も良くない。

比較的、安全な地下施設を用意してある。急いで移るようにと。

だが、プロフェッサーの奥さんは、提案をやんわりと断った。

「お心遣い有難うございます。 しかし、うちには年老いた両親がいて、病院に掛からないといけないのです」

「それは分かるッス。 出来るだけ医療品の手配は」

「医療知識は残念ながら私にはありません。 もしも両親に何かあった場合、此処を離れたらどうなるか」

意思が硬い。

それはよく分かった。

だが、それはプロフェッサーにとっても、人類にとっても重荷になってしまう。しかし、そんな事は。一華には言えなかった。

無言でいると、プロフェッサーの奥さんは言う。

「もしも夫がここに来たら、セーフハウスと言う場所へ移動します。 貴方の事を信用していない訳ではないの。 でも、病気がちで年老いた両親のためにも、最新の医療技術を全て記憶している夫と一緒でなければ……私は動くわけにはいけないんです」

「分かりました。 最悪の場合は、すぐに動いてくださいッス」

通話を切って、リーダーに首を横に振る。

リーダーも、プロフェッサーに話はしたが。生返事しか貰えなかったようだ。

「相当に追い詰められているようだな。 ただ、プロフェッサーも自分の立ち位置が危ない事は理解している様子だ。 今は、上がって来た新技術を全て記憶していっている状態だそうだ」

「プロフェッサー、あの化け物相手に立ち回れないと思うッスよ」

「そうだな。 プロフェッサーは完全記憶能力を持っているという話だが、人間の悪意の底の知れなさを理解しているとは思えない。 悪意の権化である参謀とやりあうのは難しいだろうな。 特に、参謀を直接知らない今回はだ。 とにかく、俺たちは俺たちの戦いをしていくしかない」

リーダーの言葉ももっともではある。

兎に角、やっておくべき事は幾つかある。

工場に、千葉中将に頼んで、あるものを発注して貰った。中将のじきじきの指示となると、文句を言いながらも工場は作らなければならない。

そう。

暗号入りの弾丸だ。

負けの時に今から備えておく。リングのあの穴に、攻撃を装ってぶち込めば。過去に情報を送り込めるかも知れない。

それがどれほどの過去になるかは分からないし。影響もどれほどになるかは分からないが。少しでもやっておいて損は無いだろう。

これが仕上がってくるのは、恐らくインドでの決戦後だ。

その時までに。絶対に生き延びなければならない。

次からの戦いは。恐らく前周の最激戦を超える厳しいものとなる筈だ。

一華は良く生き残れたという記憶しか曖昧に残っていない。

記録を見る限り、よくもこの状況で生き残れたものだという言葉しか出てこない戦闘が続いている。

今回も、これを生き残るだけで精一杯だ。

その上、悪条件が重なり過ぎている。

リーダーを一瞥。

全く怖れている様子がない。

それが村上家の次男長女に力を与えている。

そして柿崎は、もともと精神修養を徹底的にしているからだろう。むしろ、自身の武術がどれだけ極められるのか。

実戦の場が用意されて、楽しんでいるそぶりすらあった。

もの凄い品行方正のお嬢様かと思いきや。実態は剣術殺しの道場で幼い頃から心身共に仕込まれた、戦闘マシーンに等しかった訳だ。

凄い人材を見つけてしまったものである。

恐らくだが前周死んだ時も、満面の笑みを浮かべながらα型三体を屠ったのではないのだろうか。

今まで自分が鍛え抜いてきた剣腕と。伝来の人斬り包丁が本当に役に立つ事を証明できたのだから。

しかも今は技の隙を消すパワードスケルトンとフライトユニットの出現で。

柿崎は文字通り、虎に翼の状況だ。

柿崎は怖れるどころか、うきうきしているのだろう。

中々に、恐ろしい子だ。

輸送機への積み込みが終わる。まずはインドに移動。激戦地と言う事だ。制空権も怪しい。

空中で撃墜されるかも知れないな。

そうとさえ、一華は思った。輸送機には、DE203まで搭載されたようだ。千葉中将は、最大限の事をしてくれたと言って良い。

「直接は初めて会うな、村上班」

「いやー、いつもお世話になっているッス。 私が一華ッス」

パイロットはしぶいおじさんだった。航空機のパイロットだけあって士官だが、少尉のままらしい。

元々出世に興味が無いらしく。どれだけ腕が良くてもあまり査定とかを気にしたことはなかったそうだ。

挨拶だけはしたが。向こうも一華が話し下手なのは気付いたのだろう。すぐに自身も、休みに行く。

DE203を使えるだけで。

少しはマシになる。

これだけで、千葉中将には感謝してもしきれない。それが実情だった。

 

4、降り来る悪夢の子

 

インドについて、弐分は目を細めた。予想以上に戦況が悪い。

米国から中心に、相当数の戦力が来ているが、どの戦車もコンバットフレームも傷が多く。兵士達も負傷兵が目立つ。

何とか前線を支えていると言いたいが、それもいつ崩されてもおかしくない状況だった。

村上班は先だって到着。荒木班も少し遅れて到着した。

スプリガン、グリムリーパーはまだ。

スプリガンのシテイ分隊だけは、村上班と一緒に到着できたので。それは少しだけマシとみるべきか。

なお、荒木班は、スプリガンのゼノビア分隊とともにきていた。

これは有り難い話である。

まずは荒木軍曹とともに、作戦のブリーフィングに参加する。既に実際の階級は准将になっている荒木軍曹は。今回作戦を主導するインドのポロス中将も、一目おいてくれているようで。なおかつ大兄も、無碍にはしていなかった。

というか、ざっと見た所。

既にインドに派遣されているEDFの最後のまとまった機動戦力は、敗残兵と化しつつある。

既に戦死だけでインドの本来の守備隊の三割を超えており。米国から派遣された本来のインド防衛部隊と同規模の戦力も、二割以上の戦死をしている様子だ。これはもう、部隊を維持できなくなる状況に等しい。

作戦が説明される。

アンドロイド軍団との決戦に際して、まずは敵の特務を叩く。

鎧コロニストを中心とした部隊で、少数のコスモノーツが率いているという。これを誘引し、包囲殲滅する。

これによって、数で平押ししてくるアンドロイド軍団との戦闘を容易にする。

作戦は時間勝負だ。

引きずり出す作戦は、スプリガンの二分隊を中心とした機動戦力が行い。

タンクを中心とした戦力で、一気に包囲する。

以上。

作戦は悪くない。だが、確かこの時期、前周ではあのタッドポウルが投入されたはずである。

空を覆い尽くす飛行型と同等、或いはそれ以上の脅威となるコロニストの幼生体。

大兄を見る。

もう衛星兵器は使える状況にない。

代わりに此方にはエイレンが二機いるが、それも相手の戦力を考えると、使いこなせるかどうか。

「何か質問は」

「アンドロイド部隊の進撃は、その間どう抑えますか」

「砲兵隊を中心に展開し、なけなしの空軍機も投入して攻撃する」

「敵のドローン部隊は」

幾つか質問が出るが、戦略情報部も噛んでいるのだろう。ポロス中将は、淡々と作戦に関する質問を捌いていった。

前周では接点がなかったが、それなりに出来る将軍のようだ。少しだけ弐分は安心するが。

作戦地点に展開した後は、考えを変える。

まずい。この地点は、完全に平野だ。

確かに敵を包囲して叩き潰すにはいいが、タッドポウルが来たらかなりの被害を覚悟しなければならない。

今、スプリガン主力とグリムリーパーも此方に向かっていると聞く。

間に合うことを祈るしかない。

戦闘開始。

コロニストの部隊の誘引を開始。少数のコスモノーツが率いているようだが、火力の集中で早々に屠った様子だ。流石にこの作戦にEDFが賭けているだけあって、少ない生き残ったバリアスが出て来ているようだ。それにアンドロイドの連携で、高度な戦術的行動を取る敵特務には相当な被害を受けてきたらしい。

それは、気合いも入るというものだろう。

ならば、バリアスも兵士達も、どうにか救出しなければならない。

既に歴史は相当に変わっている。

一華が持ち込んだ、本来の今週の歴史と、既にだいぶずれている。一致しているのは、敵の新規兵力の投入時期くらいで。

それも完璧には一致していないのだ。

敵特務が突出してくる。戦車隊は被害を出しつつも、誘引に成功。一気に、多数の戦車隊で押し包んだ。

「踏みつぶせ!」

「仲間のカタキをとれ! 鎧野郎どもを蹂躙しろ!」

「何がエイリアンだ! 取り囲んで八つ裂きにしてやる!」

兵士達の戦意は凄まじい。勿論完全に囲むとフレンドリファイヤを起こしてしまうから、いわゆる鶴翼に囲んで十字砲火の焦点に敵を引きずり込む。敵特務はさがりながら射撃をするが。それを横殴りに。左翼に展開した相馬機のエイレン。右翼に展開した村上班の火力が撃ち抜く。

大兄は相変わらず、一射確殺。

完全に手放しにされた柿崎は、嬉々として突貫。

ジグザグに進みながら、敵との間合いをゼロにして。首をプラズマ剣で刎ね飛ばす。

ウィングダイバー隊が、最初から飛ぶ気が無い柿崎を見て絶句するが。

まあこういう戦い方もある。

敵は全てが鎧コロニストではない。通常コロニストもかなりいるが、装備は強力なものを渡されているようだ。

必死に反撃してくるが。

そこに三城がプラズマグレートキャノンを叩き込み、兵器ごと吹き飛ばす。

弐分も今回はタッドポウル対策の兵器の他には、小回りがきくNICキャノンを持ち込んでいる。

動きが良い敵の手足を優先的に撃ち抜き。

大兄や前線で暴れている柿崎の支援に徹していた。

自身が前線に出ないのは、柿崎の成長を少しでも促すためだ。必要ならスピアを装備して前に出る。

味方の損害を抑え込みつつ、敵を包んで殲滅していく。鎧コロニストは大兄が一射確殺していくから、もう残っていない。

コロニストが、包囲され。砲撃に晒されて、次々に倒されながら悲鳴を上げる。ガアガア。鳴いている様子は、だが明らかに恐怖しているものではない。温泉地で聞いた声とは違っていた。

「大兄!」

「ああ、一華! 対空戦闘に備えてくれ!」

「了解ッス。 そこのみな、自動砲座の準備を!」

「!? い、イエッサ」

一華機の周囲で、コロニストに射撃を続けていた兵士達が、怪訝そうにしながら指示に従う。

一華は既に中佐である。流石に佐官の指示には、一般兵卒は従うしかない。

対空用の砲座は充分な数を用意してある。以前の記録を見ると、衛星兵器で一気に吹き飛ばしたようだが。

残念ながら、今回はそうもいかないのだ。

生き残りの頭を大兄が吹き飛ばし、戦車隊が消し飛ばし。戦場は静かになる。

荒木軍曹が、大兄の話を聞いたのだろう。

声を張り上げた。

「総員、全方位警戒して敵の増援に備えろ! コロニストは何かしていた! 増援が来る可能性がある!」

「くっ、このまま楽勝だと思ったのに!」

「戦車隊展開! 歩兵を内側に、周囲を警戒しろ! 此処は味方の戦線の内側だが、敵は何をしてくるか分からない!」

「……み、見てください!」

思い出してきた。

以前はこれ、中華で起きた戦いだった。今度はインドか。

いずれにしても戦況が最悪の地点に、プライマーは投入してきたことになる。そしてこれにより、一気に戦況は最悪の最悪へと傾いていったのだ。

同じ伝手は踏ませない。

すぐに、対タッドポウル用の兵器に切り替える。

小型誘導ミサイル装備多数。フェンサーだからこそ、許される兵装である。本来なら、AFVに搭載する規模の兵器だ。

上空に最初点が現れ。それが無数の面になり。大量の黒い何かになる。もう大兄には、見えているようだ。

「空から来る! 総員、攻撃しろ!」

「動きが速いぞ!」

「バリアスの射撃管制システムに、各自リンク! 撃ち方始め!」

「撃てっ!」

荒木軍曹が、率先して指示を出し。バリアスが先制攻撃を開始。バリアスの射撃管制システムは、そもそも前周で大兄の神がかった狙撃を解析し、作りあげたものだ。元々戦車による射撃管制システムと、部隊単位のリンクシステムは存在していたが。それを更に進化させたものとなる。

兵士達もバイザー経由で、このリンクに参加できる。

更に今回はエイレンが二機いる。

特に相馬機は、多数の相手を同時ロックオンして、レーザーで叩き落とす強力な兵装を持っている。その分一華機より足が遅いが、充分過ぎる。

文字通り数の暴力で攻めこんできたタッドポウルだが。前周のようには行かず、いきなり火力の滝に歓迎されることになる。

前は相性最悪で辺りもしなかった戦車砲も次々にタッドポウルに直撃。それも榴弾砲だから、拡散して多数を一気に叩き落とす。

それでも、炎を吐きながら。コロニストの幼生体である人食いの鳥は襲いかかってくるが。

戦車隊とエイレンの攻撃をかいくぐった先には、戦車の陣列と。既に荒木軍曹に統率されている歩兵達の一糸乱れぬ火力投射。更にスプリガン隊による美しいまでの連携によるレーザー投射が待ち受けていた。

ばたばたと叩き落とされていくタッドポウル。

戦略情報部が、通信を入れてくる。

「この敵は、少し前に既に制圧されたパキスタンに現れた大型船より投下されたテイルアンカーから出現した様子です。 以降、タッドポウルと命名します。 現地でのゲリラ兵が持ち帰った死体から、コロニストの幼生体である事が判明しています」

恐らくだが、プロフェッサーの最後の仕事だろうな。

そう弐分は思いながら、誘導ミサイルの雨を叩き込む。小型とはいってもミサイルだ。タッドポウルを吹き飛ばすには充分である。

地面に落ちてきたタッドポウルに柿崎が突貫。荒木軍曹が、地上に落ちたのはあのウィングダイバーに任せろと指示。兵士達も、フレンドリファイヤを避けて動いてくれる。

凄まじい機動で、突進してくるタッドポウルを残像を作ってかわしながら、斬って斬って斬り伏せる柿崎。

うっすら笑っているのが分かる。

磨き抜いてきた柿崎流が通じるのが、嬉しくて仕方が無いという顔だ。

それも敵中に無闇に突っ込まず、しっかり指示通り群れの端から崩すように立ち回っている。

上空のタッドポウルは間もなく全滅。

状況を見て、ポロス中将もすぐにケブラーを追加で投入してきた。これは有り難い話である。

「スプリガン、グリムリーパー、急いで欲しい!」

「此方ジャンヌ大佐。 現場に間もなく到着する」

「此方ジャムカ大佐。 どうやらパーティーは既に始まっているようだな。 アンノウンが相手か。 腕がなる」

懐かしく、そして頼りになる声がする。

すぐにタッドポウルの第二波が来る。

綺麗な編隊を組んでいる。だが、その時には既に大兄が敵の増援の方角を予告。荒木軍曹が、柔軟に対空陣形を組み直してきた。

二方向から編隊飛行してきたタッドポウルに、第一波でほぼ損害を出さなかった戦車隊と歩兵隊が、猛烈な射撃を加える。やはりエイレン二機、更に誘導レーザーと、バリアスによる火器管制リンクシステムの性能は絶大で。文字通り火力の滝に真正面から突貫したタッドポウルは、なぎ倒されて落ちていく。落ちた奴は、柿崎が刃こぼれすることがない現在の妖刀プラズマ剣を振るって、半笑いで斬り伏せて行く。

予想より数が多い。

だが、横殴りのマグブラスターの斉射で、更に殲滅の速度が上がる。

来てくれたか。

スプリガンだ。更に、落ちたタッドポウルを、凄まじい勢いで殲滅していく黒いフェンサー部隊。

ジャムカ大佐。

やはり無事でいてくれたか。髑髏のマークをあしらった盾も健在。

敵が、みるみる消えていく。

大量の死体の山が出来、タッドポウル隊が消滅。更に第三波が来る。大兄が来る方向を想定していたから、もはや兵士達は怖れる事もない。

ただ、大兄の恐るべき勘をむしろ怖れている様子だが。

今は気にしている暇が無い。まずは、敵をたたくことからだ。

編隊を組んで飛んでくるタッドポウル。凄まじい数だが、補給車から無理矢理補給を済ませた戦車隊が展開。更に到着が間に合ったケブラー部隊が、鶴翼に陣を展開。飛来する編隊を、凄まじい集中砲火で迎え撃つ。

ケブラーの火力は凄まじい。初陣では振るわなかったが、タッドポウル相手には殆ど無敵に近い事が分かる。

弐分も誘導ミサイルで敵の火力を途中まで削ったが、以降は装備を切り替え、前線に加わる。

柿崎だけでは処理出来ない敵をグリムリーパーが文字通り刈り取っていたが。其処に弐分も加わり。スピアで次々悪魔の人食い鳥を始末していく。

そうだ、思い出した。

前周では此奴が凄まじい暴れぶりをして。行く先にいる人々を喰らい。見られたものではない悲惨な死体が此奴の腹からたくさん出てきたのだった。

許せないと何度も思った。

怒りが燃え上がり、体を熱くする。

弐分は雄叫びを上げると、敵の生き残りを駆逐する。

ボロボロのコロニストを見て多少同情してしまったこともあるが。

此奴らが例え生物兵器とは言え。

やったことは許されない。

撃破して回る。全力を引き出せているのが分かる。味方の兵士の恐れの声が聞こえるほどの速度で敵を殲滅。

程なく。掃討戦に移行した。

さがるように大兄に言われたので、呼吸を整えながらさがる。後は僅かな残敵を、ケブラーが片付けているのを見ていれば良い。ケブラーの火器管制システムも、バリアスと同じものが使われている。心配は無いだろう。いわゆるハイロウミックスの兵器として作られたケブラーだが。ソフトウェア面では、最新鋭なのである。

無線が流れてくる。

どうやら。最悪の事態に備えて。プロフェッサーが村上班にも共有しているものの様子だ。

「此方先進科学研の林主任です。 貴方が、戦略情報部の「参謀」ですね」

「ああ、そうだ」

老獪そうな老人の声。

そして、声の反応だけで分かった。

駄目だ。

「レポートを提出しました。 急ぎ、本当に急ぎの案件です。 戦局を左右するほどの案件です」

「そうだな」

「有能な科学者を出来るだけ今すぐ集めてください。 きっと対抗策はあります。 まだ、何とか手を打てるはずです。 私が貴方の元に行くまでに、お願いします」

「科学者を集める事はない。 君がここに来る事もない。 既に迎えを送った。 救急車をな。 君は数多の兵器を作りあげてくれたが、働きすぎて頭がおかしくなってしまったのだろう。 精神科医に掛かるといい。 今の時期に精神科医にかかれるのはとても幸運なことだ。 復帰を期待しているぞ」

通信がぶちんときられる音がした。

プロフェッサーの、本当に落胆した。絶望の声が聞こえた。

「やはり、駄目だったか。 データが足りず、説得力が足りないのか……」

違うなと、一華がぼやく。

そういう問題では無い。

多分だが、参謀に口添えする人材が必要なのだ。そういう人材が口添えして、怪物は初めて動く。

それはありそうだと弐分は思う。

半泣きの、プロフェッサーが此方に無線を入れてくる。

「村上班、聞いているか。 私は、しくじった。 何をしているのだろうな。 君達は、アンドロイドの大軍を壊滅させたり、コスモノーツの大軍を全滅させたり、前周以上の凄まじい活躍をしてくれているのに」

「プロフェッサー……」

「君達が用意してくれたセーフハウスに向かう。 それと、先進科学研の技術者には、その場を離れるように既に指示をしてある。 先進科学研のラボは既に敵に嗅ぎつけられている可能性が高い。 生き延びてくれ。 そしてまた、あの場所、あの日時で会おう」

無線が切れた。

溜息が出る。

ほどなく、撤収の指示が来た。アンドロイドの大軍が南下を開始したからである。

決戦の開始だ。

この決戦で負ければ。

EDFは、史実通り壊滅し。十隻のマザーシップが無抵抗になった各都市に絨毯爆撃を開始するだろう。

それだけは、阻止しなければならなかった。

 

(続)