殺戮の機械人形

 

序、共闘

 

再び、壱野は欧州に来ていた。戦況を見る限り、そろそろ奴らが。アンドロイドが来ると判断したからだ。

春はすっかり終わり、既に梅雨にかかりはじめている。各地で連戦を重ね、既に大尉に昇進。荒木軍曹は、少佐に昇進したようだ。弐分達は皆中尉に。新人の柿崎も、少尉に昇進していた。

埠頭に、ヘリから降り立つ。

村上班が来た。そう聞くと、兵士達の目に希望が宿る。

荒木班、村上班。

スプリガン、グリムリーパー。

この四つの部隊が、圧倒的な戦果を上げている。

その話は、兵士達が既に噂し始めているのだろう。

此処にいる部隊は、戦闘中敵の大軍を発見し、逃げながらここに来た。撤退しようにも、間に合いそうにない。

そして、この埠頭に、全方位から赤いα型が押し寄せようとしている。

壱野はすぐに、皆に指示を出していた。

「赤いα型は耐久力が高く、分散するのは悪手だ。 一箇所に集中してほしい」

「狙撃部隊もですか!?」

「狙撃部隊もだ。 対物ライフルどころか、戦車砲にすら耐える事がある化け物だ。 すぐに皆、集まってくれ」

兵士達が、その言葉を聞いて集まり始める。

対怪物用の対物ライフルは大火力だが、それにすら赤いα型は耐える事がある。兵士達が集まってくる。怪物に追われる過程でかなり被害を出したようだが、それでも一個中隊ほどはいる。

それに対して、海の中に既に怪物が見え始めている。

赤いα型は浅瀬を渡ってくることが何度かあったが。これほどの規模は初めてである。

遅れて、ヘリが一華のエイレンを輸送してくる。

壱野は手をかざして、呟いていた。

「第一陣だな。 ざっと数は500」

「500!?」

「大丈夫。 指示通りに動いてくれ。 そうすれば勝てる」

皆、前面に火力を集中。エイレンのバッテリー交換を指示されたら対応してほしい。そう指示して、壱野は前に出る。

既に三城は上空。

この間。強化されたプラズマグレートキャノンがついに来た。前の周回も神器として最後の戦いまで使った最強のプラズマキャノンだ。性能も上がっている。

弐分も前に出る。更に、柿崎も。

この三人で、敵を前衛にて攪乱。問題は柿崎だが、赤いα型との交戦経験はないそうである。

銀や茶とは比べものにならないほど硬い事。

それは告げてある。

プラズマ剣はβ型は勿論、今まで柿崎が遭遇したα型なら瞬殺してきたが。赤や、更には金はどうなるかはちょっと分からない。

いずれにしても、戦闘開始だ。

海上が、派手に水蒸気爆発を起こした。

三城が、プラズマグレートキャノンを叩き込んだのである。吹っ飛ぶ赤い怪物の死体。衝撃波になぎ倒された怪物もいるが、それでも向かってくる。更に第二射。それも派手に怪物を蹴散らす。

だが、平然と怪物は向かってくる。

自動砲座は展開済み。

怪物が上陸してくるのと同時に起動した。

エイレンもレーザーで攻撃開始。文字通りの水際作戦だ。

水辺から凄まじい勢いで上がってくる赤いα型を、正面からの大火力で迎え撃つ。彼奴に噛まれると、戦車の装甲にすら牙が食い込む。つまり人間では助からない。それについては皆理解している。

水際殲滅を続ける。エイレンの火力も凄まじいが、レーザーに数秒赤いα型は耐える。

敵の密集地に、三城がフライトユニットと相談しながら、プラズマグレートキャノンを叩き込み。

正面火力で始末しきれない分は弐分が電刃刀で斬り伏せ、スピアで貫く。

更に柿崎が、ジグザグに高速機動しながらプラズマ剣で赤いα型の懐に潜り込み、首を刎ね飛ばす。

関節部を的確に狙っているとは言え、凄まじい度胸だ。

しかもフライトユニットを利用して、ほとんどすり足をずっと維持し続けつつ、高速移動出来ている。

なるほど、これは面白い。

ちょっとフライトユニットに興味が出て来た。壱野も、相応に格闘戦には自信がある。あれはやってみたい。

「大きいの行くぞ! 全員離れろ!」

柿崎も含めて、皆正面から離れる。

壱野はそのまま、スタンピートをぶっ放す。面制圧を単騎で行う大量のグレネード放出兵器。

爆発が連鎖し、赤いα型が消し飛ぶ。

勿論、一団になった歩兵部隊の火力も高い。

自動砲座も、凄まじい射撃で、赤いα型の足止めを続けてくれていた。

再び海が爆裂する。さて、そろそろ第二陣が来るな。

そう判断。

「弐分、柿崎、第一陣の残党は任せる。 総員、弾丸の再装填。 エイレンのバッテリーの交換、急いでくれ」

「ど、どういうことだ大尉どの?」

「敵の第二陣だ。 規模はほぼ同じ。 逆方向から来るぞ」

着地すると、三城はフライトユニットにエネルギーチャージ開始。さらに、プラズマグレートキャノンにもエネルギーをチャージし始める。

壱野も、スタンピートの弾丸を再装填。これが前はとにかく時間が掛かったのだが、プロフェッサーが改善してくれていて、だいぶ楽になっている。ただし残弾はそれほど多くはない。

まあグレネードを大量にぶっ放す兵器だ。

ほぼ誰も使わないので、弾があまりないのも当然とは言える。

後方では、弐分と柿崎が大暴れしている。柿崎は次々と赤いα型の首を刎ね。弐分は赤いα型を真っ向から斬り伏せている。パワーの違い故の戦い方の違いだが。柿崎が更に経験を積めば実力はもっと伸びる。是非、生き残らせないといけない。きっと、未来を切り開く力になってくれる。

赤いα型が見えてくる。兵士達が動揺するが、率先して前に出た三城が、プラズマグレートキャノンを叩き込む。

水面が水蒸気爆発を起こし、怪物が多数消し飛ぶが。それでも無視して向かってくる。

凄まじい数だが、各個撃破出来ればどうにか出来る。

ただ、この数だと。

更に次が来てもおかしくない。

エイレンのレーザーが猛威を振るい、赤いα型を水際殲滅していく。兵士達も足並みを揃えて射撃を続行。

凄まじい弾幕を展開し、敵を兎に角近づけないようにする。

だが赤いα型は、それでも前進してくる。

この凄まじい突撃。

古代にあった、いわゆる不死隊のようだ。

ペルシアが誇った精鋭部隊。

それを彷彿とさせる、恐れを知らぬ突撃ぶり。

生物兵器だと分かっていても、頑強さだけにものを言わせて突撃してくる様子は。恐怖を煽るのには充分過ぎる。

スタンピートで、敵の前衛を吹き飛ばした頃。

後方を蹴散らし終えた弐分と柿崎が戻ってくる。海上が更に爆発。三城がプラズマグレートキャノンを叩き込んだのだ。水蒸気爆発で、一瞬で海が沸騰する。かなり魚が浮かんで来ているが。謝るしかない。

「補給する! 援護してくれ!」

「補給車の弾薬が尽きる!」

「ヘリが今、コンテナを運んでいる! 耐えろ」

バルカ中将が、淡々と通信を入れてくる。

大型の輸送ヘリが、そのままコンテナを複数運んできていた。兵士を見捨てない、ということだ。

だが、兵士達を救援するつもりもない様子だ。

此処で、大量の赤いα型を始末してしまう。

そのつもりなのだろう。

殺気。

前面の敵に対して、猛威を振るい始めた弐分と柿崎を横目に、手をかざす。更に大きな群れが近づいている。

「一華、弐分と三城、柿崎と協力して前面の敵を抑え込んでくれ。 俺は敵の出鼻を挫く」

「そうリーダーが言うって事は、更に大きな群れッスか」

「そうだな」

言葉を濁したのは。

群れの規模だけでは無く、気配が違うからだ。

そのままライサンダーZのスコープを覗き込む。それで納得した。

オレンジ色のα型が来ている。赤いα型の変異種のようだ。茶色のα型や配色が違うβ型と同じような連中だろう。

それだけじゃない。

更に色が濃い、赤を通り越して赤紫に近い色のα型もいる。

なるほど、プライマーは此処でこの部隊を集めて、一気に片付けるつもりか。やられたとしても、新しく連れてきた怪物の性能試験が出来ると。

そのまま狙撃を開始。

次の群れは千体はいる。

これが本命と見て良いだろう。

いや、千体の背後、更に五百体は続いている。

わりと本気で殺しに来ている。

戦術家を気取っていたあの阿呆とは大違いだ。情けも容赦もなく、全力で物量による蹂躙を狙って来ている。

こういう地味で堅実な作戦が、一番厄介なのである。

「前面の敵、残り11%」

「皆、補給を急げ!」

「コンテナから弾丸を……あれ?」

「戦車がある!」

乗れるものはいるかと、ライサンダーZで狙撃をしながら言う。

コンテナの中に、戦車がいたらしい。見る余裕がない。此方に来るまで、変異種を少しでも削っておかないと危ない。

案の定、オレンジのα型も、赤紫のα型も、「手応えが重い」。

通常種より更に硬い様子だ。その上、赤紫の奴は純粋な強化型の様子で、動きも早い上に。

率先してファランクスを組んで、最前衛になっている。

最初から壁になって味方を守りきり。

一気に温存した本命の大軍を叩き付けるという訳か。

射撃を続ける中、兵士の一人が応える。

「俺が乗れます!」

「よし。 前衛となって、攻撃を開始してくれ! 他の兵士達は補給を急げ!」

「イエッサ!」

「援軍を送った。 もう少し耐え抜いてくれ」

バルカ中将の淡々たる発言。

まあ気持ちは大いに分かるが、それでももうちょっと何かないだろうか。千葉中将は、自分もその場にいるかのように熱い激励をしてくれる。それが良いかと言えば反応は分かれるだろうが。

それでも、ちょっとこれに関してだけは、千葉中将の方が良いかも知れない。

勿論バルカ中将の冷静沈着な指揮については、なんの評価も揺るぎはしないが。

敵の大軍が上陸を開始。

本命の戦力だ。味方に、前方の敵を任せ。本隊への攻撃に弐分と三城、柿崎を回す。かなり上陸前に赤紫のα型を削ったのだが、それでもおぞましいまでの大軍だ。これは、接近されるとどうにもならない。

スタンピートで吹き飛ばす。

横目でちらっと見たが、どうやら送られてきた戦車はバリアス型らしい。次世代型の戦車である。

あらゆる点が、ブラッカーに勝る最新鋭の戦車。特にその重さとは裏腹の軽快極まりない足回りが特徴で、時速二百キロを出すそうだ。主砲の火力も、ブラッカーを数段上回ると言う。

だが、それでも一両ではこの戦況をひっくり返せない。

バリアスの主砲が、α型の群れに着弾。流石に最新鋭戦車と言いたいところだが、紫のα型はやはり手応えが重く、ガツンともの凄い音がした。最新鋭戦車の徹甲弾でこれである。

一応倒す事が出来たようだが。

文字通りの重戦車だ。

一体どういう体の構造をしているのか。

「弐分、柿崎、三城、敵の気を引いて少しでも進軍を遅らせろ。 皆、フレンドリファイヤには気を付けろ」

「い、イエッサ!」

「くそ、支えきれないぞ」

最悪の場合、村上班だけなら生存できる自信はあるが、それでは意味がない。

この戦いは、本来此処にいる部隊が全滅し、更に欧州の戦況を悪くすることにつながった。

それを覆さないと、全体の戦況は悪くなる一方だ。

「て、敵、数が多すぎます!」

「少しずつ後退しながら射撃!」

「しかし、もう後方が……」

「万事休すか」

壱野は呟く。

しかし、此処で。

通信が入った。

懐かしい声だ。

「こちらスプリガン。 よくぞ持ち堪えてくれたな」

「おおっ!」

「ウィングダイバーの最精鋭か!」

「空中に攻撃出来ない相手か。 ふっ。 我々の敵ではないな。 軽く叩き潰してやる」

相も変わらずの自信家を伺わせるジャンヌ大佐の声。

既に今周では、大佐に昇格している。

そのまま、スプリガン二十名ほどが飛来。α型の群れに突入し、敵が大混乱する中、上空から攻撃を続ける。

正面と上からの十字砲火を受けたα型の大軍が大混乱する中、壱野はまずは変異種から片付け。

そして味方にフレンドリファイヤに気を付けるように指示しながら、少しずつ前線を押し戻す。

形勢不利とみたのだろうか。

α型の大軍の内半数以上は後退を開始。追撃しようにも、此処は埠頭だ。突撃時はまるで命など捨てているという風情だったが。

後退もまた、淡々と言われているからやっているといわんばかりの無機質ぶりである。生物兵器を相手にしているのだと、存分に分かった。

状況終了。

埠頭で合流して以降、味方の被害はゼロに押さえ込めた。経過は兎も角、此処での戦闘は完勝と言って良い。それだけではなく、敵の変異種のデータも取れた。

これで、多少は欧州の戦況をよくする事が出来る。

それに、これから欧州にはアンドロイドの大軍が来る。

対抗するためには、少しでも兵力が必要なのだ。

ジャンヌ大佐が来るので、敬礼をする。

「スプリガンのジャンヌ大佐だ。 村上班の壱野大尉だな」

「はい。 いつも活躍は……」

言葉が詰まりそうになる。

不思議と、ジャンヌ大佐も、眉をひそめていた。

「初めて会った気がしないな。 不思議な事だが、お前達を死なせる訳にはいかないと、そんな気がする。 戦場では誰もが簡単に死んでいく筈なのにな」

「そうですね」

「とにかく、この数を相手に良く持ち堪えたな。 次の戦場でまた会おう」

見るとシテイ中尉やゼノビア中尉もまだ生存しているようだ。良かった、としか言いようがない。

小型の揚陸艇が来て、埠頭に接舷する。

バリアス型の戦闘データをとる必要もあるからだろう。

バルカ中将が、先に行ったスプリガンを見送る壱野に、無線を入れてくる。

「スプリガンは間に合ったようだな。 それにしても、流石の戦いぶりだ」

「いえ。 スプリガンに助けられました。 最高のタイミングでの到来、流石ですね」

「いや、あれについてはジャンヌ大佐が急がなければならない気がすると言い出してな」

はて。

あの人は、壱野のような勘には恵まれていなかったはずだが。

そういえば。荒木軍曹も以前より強くなっているような気がする。

何だかおかしな話だ。

後で、プロフェッサーと話をしておくべきだろうか。

いずれにしても、揚陸艇で引き揚げて行く部隊を見やる。

この部隊を丸々生存させられたのは大きい。

更に、β型の大軍に苦戦している戦場を救援してほしいと言われたので、すぐに出向く。弾薬も補給して、だ。

β型は柿崎とは相性が最悪かと思ったが。

柿崎はプロフェッサーから、装備を渡されていると言う。

どうも柿崎の戦闘スタイルを聞いて、優先的に実験的な武器を回してきているらしい。すぐに戦場に到着。おぞましい数のβ型が、味方の前線に食い込み始めていた。

すぐに近くのビルに登って、狙撃を開始。前線に突入していく一華。弐分と三城は上を取りに行く。

狙撃し、β型をつぶしながら戦況を確認。

前線はかなり広いが、β型特有の浸透能力にかなり苦戦している。弐分が突入して、前線を荒らし始め。後続の敵を、上空から三城のプラズマキャノンが吹き飛ばす。更に、一華のエイレンが乱入し、近付くβ型を蹴散らし始める。

柿崎はというと、真正面からβ型に突入。

同時に、ほとんど直角に上に跳んで、敵の糸を逃れていた。

放たれたのは、エネルギービームのようなもので。それはもろにβ型を真正面から数匹貫いていた。

そのまま着地すると、敵陣に斬り込み、縦横無尽に切り刻み始める。

「柿崎、後ろ!」

「!」

上に跳んで逃れる。

やはり、流石に三城ほどの力量はないか。今も一瞬遅れていたら、β型の糸を喰らっていた可能性が高い。

今の置き石エネルギービームは新兵器だろう。

狙撃の合間に確認して見ると、プロフェッサーから送られてきた「パワースピア」という新兵器のようだ。

プラズマ剣同様に、フライトユニットのプラズマコアに独立の動力を確保している武器であり。

柿崎のフライトユニットのプラズマコアは、この独立動力系装備を二つ動かすためだけに作られている特注品らしい。

近付く敵はプラズマ剣で。

遠距離は今のパワースピア系で、というわけだ。

「柿崎、β型の相手は少し分が悪い。 敵の群れの中では無く、辺縁で戦ってほしい」

「承りました、壱野大尉」

「ああ」

飲み込みは、早い。

これなら、もしもの時には。

リングに、連れて行ける可能性が高い。いや、その時には生きていて貰わないと困る。

β型の群れに喰い破られかけていた前線の救助完了。

そのまま。次の戦場に向かう。

味方の被害を出来るだけ減らし、敵の侵攻を遅らせる。そうしないと、その日が。アンドロイドが来た時に、対応出来ないからである。

 

1、その日

 

三城は欧州で一月ほど、転戦を続けた。

フランスだけでは無くドイツ、イタリアでも戦闘を行い。英国でも戦闘をした。

その間に荒木軍曹は中佐に昇進の話が出始め。

大兄も、後何度か戦闘を経験したら少佐に昇進、と言う噂だった。まだ確定情報ではないが。

とにかく此処は、戦いを続けるしかない。

戦闘が終わると、柿崎は正座して、じっと精神集中をしていることが多かった。大兄はそれに対して、ああだこうだいわない。

事実柿崎は、三城ほどではないにしても大きな戦果を上げている。

より真面目な武術家と言える。

だから、真面目なら真面目としての長所を伸ばせば良い。

大兄も特にやり方に、干渉するつもりは無いようだった。

「三城、少し良いか」

「ん」

小兄が声を掛けて来る。

頷いて、その場を離れる。昔は、柿崎のように精神統一をする事が多かった。少しでも早く、村上家に馴染みたかったからだ。

しかしながら、村上家はそんな事関係無く、三城を受け入れてくれた。

家族として受け入れられていると感じた頃には。

いつの間にか、自分のペースで武術をすることが当たり前になっていて。

精神統一よりも、むしろ実践的に体を鍛えることが主体になっていた。村上流では、それが普通だったからだ。

「プロフェッサーから通信が来た。 お前が戦闘後に寝ているタイミングでだ」

「どういう内容?」

「アンドロイドが近々来る」

「!」

プロフェッサーだけではない。大兄も、同じ証言をしているそうである。

大兄の方が、記憶の定着が強い。一周分多く過去に飛んでいるから、なのだろうか。

三城は一周前の事は殆ど記憶が混濁していて、どうにも記憶が曖昧だ。今周の事だって、時々曖昧に感じる。

今、実際そう感じている。

ただ、大兄は一回目のタイムトラベル時はもっと記憶が薄かったと言う事だから。或いは何か状況が変わっているのかも知れない。

ともかく、アンドロイドをばらまく銀の大型船。クラゲのようなあの船が、近々欧州に姿を見せるそうだ。

現在、村上班と荒木班、それにスプリガンで各地を担当して、画期的な戦果をそれぞれ上げている。

プロフェッサーの記憶にある歴史とは、かなり既に食い違ってきているそうで。初動さえ間違えなければ、アンドロイドをある程度押し返せる可能性がある、と言う事だった。

ともかく、やるしかない。

明日も早朝から戦闘だ。

もっと階級が上がっていれば、アンドロイドの降下地点にいきなり出向く事も可能だったのかも知れないが。

今はまだ大兄も大尉。

そこまで出来る権限はない。

一晩休んで、朝から戦闘に出向く。

多数のドローンと同時に、β型が侵攻してくる。ドローンはタイプツーで、無視することも出来ない。

大量のケブラーが対空弾幕を張ってタイプツードローンを叩き落としつつ。敵の侵攻を食い止める。

怪物の群れは、本来ならもっと欧州の奥地まで食い込んでいたようだが。

今、歴史は既にかなり代わり。

前線はずっと此方が押し込んでいる。

アフリカが落ちているから、じり貧なのは同じだが。

それでも、まだまだ欧州は継戦能力を残している。

大兄の指示に従って、苦戦している戦線に出向いては、ファランクスで怪物を焼き。プラズマキャノンを叩き込む。

どうも近場で見ていた方が良いと判断したらしく。大兄は柿崎を近くで戦闘させて、狙撃戦に徹している様子だ。

ちょっと羨ましいというか、なんともいえないもやもやが浮かぶ。

勿論嫉妬ではないと思うのだが。

大兄は道場に来る相手にも、一線を引いて対応していたし。ある程度距離も基本的に取っていた気がする。

それが普通だった。

だから、恐らく最悪の事態に備えているのだろうと分かっていても。

いつもと違うもやもやがあった。

まあいい。

不快感は、怪物にぶつけるだけだ。

そのままα型とβ型の混成部隊を片付けて回る。一華のエイレンが、レーザーを振り回して怪物を蹴散らしているが。

そのレーザーも、出力が上がっているようだった。

無線が入る。

戦況報道だった。

「戦況報道です。 日本で行われた、EMCという新兵器を用いた怪生物掃討作戦は成功し、それまでどうにも出来なかった怪生物エルギヌスを倒す事に成功した様子です。 この成果を受けて、EDFは各地にてエルギヌスの討伐作戦を行うと発表しています」

「……」

妙だ。

アーケルスという怪物がいた気がしたが、今回は出してこないのか。

いずれにしても、戦うしかない。

それに、EMCでエルギヌスを倒すにしても、大量生産できる力はもうEDFには残されていない筈だ。

バルガをもっと早く持ち出せれば、話は違うだろうが。

そんな作戦を提案する権限は。大兄にも、プロフェッサーにもない。荒木軍曹に相談しても、同じだ。

戦略情報部を納得させるには、もっと権限がいる。

悔しい話だが、人間の軍隊はそういう場所だ。

前方から、ぞっとするほどの数の怪物が来る。

戦車隊が一斉に射撃を浴びせるが、それを無視するように襲いかかってくる。ニクス隊も抑えきれない。

上空から、敵の群れのど真ん中に、プラズマグレートキャノンを叩き込む。

それで敵の勢いが若干落ち。

射撃を続けて、敵を食い止める。激しい攻撃を受けて、怪物が徐々に押し戻されていく中。

だめ押しに、大兄がスタンピートを叩き込み。大量の怪物を面制圧で片付けていた。

怪物は最近、不利を悟るとさがるようになって来ている。

それが敵の戦力を温存させ。

戦線を多少回復したとしても、敵の兵力そのものを削れていないことを意味している。

敵が後退を覚えた。

それだけでも、かなり厄介だと言える。

前の指揮官はうすらぼんやりとしか覚えていないが。それでもやっぱりド阿呆だった記憶があるので。

とにかく戦力を使い捨てとしか考えていなかった。

だから怪物もコロニストもまともに扱えておらず。EDFがそれだけ善戦できたとも言えるだろう。

程なく、怪物は逃げていき、キャリバンが来る。

敵の残党を駆除して回っている中。大兄が、無線を入れて来た。

「三城、来たぞ。 すぐに移動する。 備えてほしい」

「分かった」

場所はドイツ。

ベルリン。

アンドロイドは最初は此処に投下され。そして苦戦していた欧州を文字通り蹂躙。

その後世界中に投下され。世界中を文字通り滅茶苦茶に踏みにじった。

その結果、苦戦しつつも何とか戦闘を続けていたEDFは敗走を続け。開戦から二年ほどした頃には継戦能力を喪失。

マザーシップによる絨毯砲撃を許し。

以降、敗残兵が細々と各地で抵抗を続けるだけの状態になったのだ。

元々ドイツは苦戦が開戦当初から酷く、村上班や荒木班が各地で転戦していても戦況はあまり変わっていない。

既に地区司令官も戦死していて。

バルカ中将が、代わりに指揮を執っている有様だった。

大型移動車が来る。

此処の戦線は任せて、すぐに乗り込む。この後、大型輸送ヘリで、大型移動車と幾つかの部隊ごと、現地に向かうのだ。

急がないと手遅れになる。

尼子先輩も、不安を感じているようだった。

「なんだか急に高圧的な無線が入ってさ。 別にあんな風に怒鳴られなくてもそっちに向かうのに」

「尼子先輩、気を悪くしないでほしいッス。 ちょっとヤバイ相手が来ているみたいッスから」

「そうなの? だって怪獣とかも出て来ているのに?」

「そうっスね……」

エルギヌスとは危険性の方向が違う。

そして、問題は柿崎だ。

アンドロイドの戦闘スタイルを、とにかく見せて学ばせるしかないのだろう。三城は身に染みついているが。柿崎はそうではないのだから。

ただ、慣れてしまえば相性が良い相手の筈だ。

輸送ヘリの窓から、見える。

テレポーションシップよりずっと大きい銀の船。

なんだあれと、尼子先輩が恐怖の声を上げた。興味深そうに、正座したまま、柿崎も其方を見た。

「おっきい船だね。 危険な敵ってのは、あれかい?」

「此方ドイツベルリン守備隊! アンノウンと戦闘中! 至急、至急援軍を請う!」

「今、精鋭部隊が其方に向かっている。 支えろ」

「既にベルリン基地は陥落! 市街地も、市民が逃げる暇もなく、うわああああああっ!」

無線が入り込んでくる。

どうやら想定以上に戦況は良くない様子だ。

荒木軍曹からの無線も入る。

「此方荒木。 壱野、其方も前線に向かっているな」

「イエッサ。 荒木軍曹もですか」

「ああ。 バルカ中将が兵力をかき集めている。 恐らく同じ地点に合流できる筈だが……」

合流しないと危ないほどの相手だ。そう、荒木軍曹は認識しているようだ。

それでいい。

人間を事実上負けに追いやった兵器だ。

ヘリが着地し、ばらばらと部隊が展開する。戦車もいるが、バリアスでは無い。流石にあれを大量配備はまだ出来ていないのだろう。ただブラッカーとしては、かなり強そうに三城にも見えた。

荒木班が来る。

荒木班配属のエイレンは更に重武装になっていた。相馬少尉が色々注文をしていると聞いていたが。例の多数同時に攻撃出来るレーザーポッドも二つに増えている。大火力で、一気に敵多数を屠れる装備と言う事だ。

一華機のシンプルな武装とは違って、見た感じ強そうで良い。

恐らくだが、味方の兵士の士気を高める意図もあるのだろう。

なお。一華は装甲の性質状、エイレンを赤く塗れないことを不満に思っているようだが。装甲板以外の箇所を要所だけ赤く塗って、それで満足したらしい。

よく分からない世界だ。

すぐに、この場で最高位の階級を持つ荒木軍曹が部隊をまとめる。

「情報を展開する。 アンノウンはあの巨大な銀の船から出現しているが、そもそもあの銀の船そのものが、どこから現れたか分かっていないようだ。 つまり開戦当初のマザーシップやテレポーションシップと同じだ。 投下されているアンノウンは小型と大型がいるようだが、兵士達がパニックに陥っていて情報が錯綜している。 とにかく、気を付けて戦闘をしてくれ。 エイレン、最前線に。 戦車隊も続け」

「此方先発隊1−2! 敵と遭遇! なんだ此奴らは!」

「先発隊1−2、すぐに救援に行く。 無理に戦闘が出来ないようなら、後退して合流しろ!」

「了解! まだ今の時点では戦闘は出来るが、攻撃が苛烈だ! 急いでくれ!」

前進。まもなく見え始める。

先発隊を襲っているのは。

間違いなくアンドロイドだ。楕円形の体と、細い手足を持ち。モノアイの冷徹な生体部品を使ったアンドロイド。

装備している有線のバリスティックナイフで雨霰と攻撃を仕掛けてくる。

小兄が突貫。

三城も、それに続いた。

エイレンも機動力を武器に最前衛に躍り出る。苦戦中の部隊と敵の間に割り込むと、アンドロイドへ攻撃を開始。

一体ずつは大した事がない。

だが、此奴らは。

「な、なんだ此奴らは! 機械の装甲なのに、脳みそみたいなのが入ってるぞ!」

「中身は生物だ! もの凄い異臭だぞ!」

「お、うぉええっ!」

敵のグロテスクな様子を見て、兵士が戻したのだろう。

三城はレイピアを今回持ち出している。対多数戦が想定されたからだ。更に、上空で誘導兵器をぶっ放す。

アンドロイドには怪物に比べ効果が薄いが、それでも充分に足を止められる。

エイレンのレーザーが、アンドロイドの部隊を焼き払う。だが、次々に来る。小兄が機動戦で気を引くが、バリスティックナイフは雨霰と飛んでくる。

大兄が戦線に到着。

ストークの最新型で、アンドロイドを撃ち始める。以前究極型だったTZストークよりも更に火力が上がっているが。

それでも、まだ発展途上の様子だ。

「くそっ! なんだこの不気味な奴らは!」

「生物とロボットの中間みたいな敵だ!」

「それをサイボーグっていうんだ!」

「し、しかしこれはサイボーグというのにはあまりにも……!」

混乱する兵士達の中で、率先して前に出る荒木軍曹。射撃を繰り返し、次々とアンドロイドを蹴散らす。

無言でやるべき事を示す荒木軍曹を見て、兵士達も勇気を奮い立たせて、前に出て戦う。

戦車隊も射撃を開始。アンドロイドの部隊を押し返し始めるが、無線が入る。

「此方先発隊3−1! 被害甚大! 大きいのがいる! ニクスがやられた!」

「すぐに救援に向かう!」

「わ、分かった! タンクもいるが、あまり長くは持ちそうにない!」

そうか、最初にアンドロイドが降りた場所は、こんな修羅場になっていたのか。

色々手を回して、欧州での戦闘を多めにするようにはして貰っていた。そして、現場に駆けつけやすいようにもしていた。

それでも、凄まじい有様を見ると、流石に無言になる。

辺りには、バラバラに切り刻まれた市民の死体が散らばっている。文字通り老若男女関係無し。

アンドロイドは人間に対する探知能力で、怪物を凌いでいる。

柿崎と、大兄が話している。

「あのアンノウン……アンドロイドと言う方々、あの飛び道具が厄介ですね」

「そうだな。 あの飛び道具に気を付けつつ、懐に飛び込み、群れの端を切り裂くように戦えるか」

「分かりました。 やってみます」

突貫する柿崎。地面すれすれに飛んでくる柿崎を見て、味方兵士すらも度肝を抜かした様子だ。

アンドロイドも大量のバリスティックナイフを飛ばすが、それを全てプラズマ剣の剣撃で、更には機動特化のフライトユニットで回避しながらついに懐に飛び込むと、唐竹にたたき割る。

更にすり足で移動しつつ、数体をなで切りにした。

頼もしい。

その間も、フライトユニットと相談しつつ、三城は周囲全域に誘導兵器をぶっ放す。わずかな市民の生き残りは、負傷した兵士に任せ、安全圏に逃れさせる。

アンドロイドの群れをブチ抜く。

小兄の凄まじい暴れぶり。大兄の、敵がむしろ避けて行くような奮戦もあるが。

何よりも、荒木軍曹が率先して見本を示し。兵士皆がやる気になったのが大きい。そうでなければ、アンドロイドの不気味な動きやグロテスクな中身に圧倒され。兵士達は既に戦意を失い。殲滅される一方だっただろう。

「先発隊を救うぞ! 突貫!」

「おおっ! EDF! EDF!」

「機械人形共をスクラップにしろ!」

呼応するように、彼方此方から駆けつけてきた兵士達も、アンドロイドと戦闘を開始した様子だ。

ともかく、深入りした部隊を救援しなければならない。

アンドロイドの小部隊を蹴散らしながら突撃。

見覚えのある凄まじい弾幕が見えた。大型のブラスターだ。兵士が爆発に巻き込まれ吹き飛ばされ。

満身創痍の戦車が、必死に反撃しているが。バリスティックナイフが多すぎて、いつ壊されてもおかしくない。

其処に、エイレンが割り込む。

レーザーが集中し、T字の形状をした大型が中身を剥き出しにしつつ、オーバーヒートする。

そして爆発四散。

荒木軍曹も間に割り込むと、アンドロイドと交戦開始。

大型については、今のをバイザーで見ていたようだ。

「凄まじい火力だな。 小型の群れで圧倒しつつ、厄介な拠点や重兵器はあれで破壊するという戦術ドクトリンか……」

「加勢します!」

荒木軍曹を狙っていた、建物の屋根に登った大型を。柿崎が縦一文字に、更に横一文字に切り裂く。

ズレ落ちて、青緑の液体をぶちまける大型アンドロイド。

どうやら背後からの奇襲で、プラズマ剣でなら切り裂けるらしい。

だが彼奴への接近戦は悪手だ。

大兄が、後で柿崎に言ってくれるだろう。

走りながら、三城はフライトユニットを冷やす。エネルギーをチャージしてから、飛び。

上空で、誘導兵器をぶっ放す。

それでかなりの数のアンドロイドを拘束できる。

追いついてきた戦車隊と味方部隊が、アンドロイドに攻撃を開始。先発部隊3−1の生存者を庇う。

先発部隊3−1の戦車には、僅かな市民も乗せられていた。

まだ幼い子供が、片腕を抉られているのを見て、不快感が募る。本当に、不愉快なアンドロイドどもだ。人間とみれば見境無しに皆殺しか。

だが、それは人間も歴史上散々繰り返して来たことか。

いや、なんだろう。

なんだか、嫌な既視感があるのだが。気のせいだろうか。

アンドロイドのこのやり口。文明人を自称して、「野蛮人」を蹂躙する人間のやり方にそっくりだと思ったのである。

いや、迷っている余裕は無い。

空に、突如として銀の大型船が出現。

どこから現れたのか、まったく分からなかった。超スピードで飛んできたのなら、ソニックブームで辺りが粉みじんになっている筈だ。違うと言う事は、何か違う仕組みを使っているのか。

「攻撃を試す。 皆、援護をしてくれ」

「了解」

「分かった」

「任せるッス」

大兄が、大型船に対して、色々攻撃を開始し始める。クラゲに似た姿をした船だが。海中でクラゲが泳ぐように、横倒しになっている。その傘の先端部分が開きはじめて、オレンジ色のものが出現する。

勿論大兄はそれも撃つが。

効いている様子がない。

「プライマーの兵器は基本的に弱点を露出する作りになっている。 通じないと言う事は、攻撃を通すには何か条件があるという事か?」

「アンドロイドが!」

大型船から、アンドロイドがワラワラと出現する。とんでも無い数だ

エイレンを並べ、戦車隊も単縦陣で展開。射撃を浴びせつつ、皆で攻撃して撃退するが。それでも凄まじい数だ。

更に、である。

無線で支援要請が入る。

「此方先発隊4−3! 市民を救援しながら後退中! 援護してほしい!」

「位置は、近いな。 壱野、此処は俺たちがやる。 其方は頼めるか」

「了解!」

悔しいが、今はもうデータを取るどころでは無い。

一華機もすぐに支援を求めてきた部隊の方に向かう。歩兵と戦車数両が、アンドロイドに追われているのが見えた。歩兵戦闘車もいる。ボロボロで、市民を満載しているが。皆、血まみれだった。

キャリバンが先に行く。

ボロボロにされている。

真っ先に集中砲火を浴びたのは間違いない。もっと酷い状態の負傷者が、詰め込まれているということだ。

走りながら、誘導兵器にチャージ。

大兄はエイレンからバイクを取りだすと、突貫。ああなると、もう火がついたも同じである。

暴れ始めるのが、此処からでも見える。

戦況を一瞬でひっくり返す。大型アンドロイドが、目の部分にライサンダーZの弾丸を喰らい、爆発するのが見えた。小型も、文字通り当たるを幸いに蹴散らされていく。

小兄と柿崎がそれに加わった頃には、既に三城が誘導兵器をぶっ放し、敵の残党の動きを封じるだけで良かった。

更に一華がエイレンで敵の攻撃を防ぎつつ、指示を出す。

「このルートで退避してほしいッス。 バイザーにデータを送ったッスよ」

「救援感謝する!」

「戦況はどうなっている」

バルカ中将が、無線を入れてくる。

これに対して、戦略情報部の少佐が応じていた。

「現在、ベルリン基地上空に敵の新型と思われる大型船二十隻以上が停泊。 アンドロイド兵士を投下し続けています。 中には、機体の一部を切り離し、其処からアンドロイド兵士が出現するケースもあるようです。 ベルリン基地は、既に全滅です」

「……恐れを知らぬ兵士、圧倒的な大軍。 とにかく手堅く、それ故にもっとも対処が難しい相手だ。 人間の恐怖心を刺激するという点では、怪物よりもタチが悪い。 何か対策はないのか」

「今の時点では、戦う事しか出来ません。 データを可能な限り集めてください」

「分かった。 まずはベルリン基地の奪回を試みる。 周辺の部隊をかき集めろ」

バルカ中将も、直下の部隊を率いて急行してくるという。

これは、総力戦だな。

そう思いながら、三城は更に救援を求めて来た部隊を救助して回る。

更に三つの部隊を救援し。

市民が逃げ込んだ体育館を包囲して、皆殺しにしようとしていたアンドロイド部隊を殲滅した頃には、バルカ中将直下のニクス部隊とタイタンが到着した。先発隊は一度集まり、この精鋭と合流する。

まずは、データの共有からだ。情報を共有しつつ、補給し負傷者を後送しているうちに、戦略情報部が通信を入れてくる。

「旧東ドイツにアンドロイドが侵攻を開始、防衛部隊に対応できる数と戦力ではありません。 市街地は蹂躙されています」

「まずはベルリン基地を奪回する。 バレンランドに、攻撃の支援要請は出来るか」

「いえ、多数のドローンが既に射線上に展開。 巡航ミサイルやテンペストを打ち込んでも、恐らくはドローンに防がれてしまうでしょう」

「潜水艦隊は」

近くにいる部隊の射線を封じるようにドローンが展開していると聞くと、流石にバルカ中将も呻く。

敵は先手先手を打ってきている。

そしてこのままでは。各地で有利にしてきた戦線が、一気に瓦解し。結局歴史は同じになるだろう。

更に、アフリカから大規模な怪物の群れが上陸。かなりの兵士が応戦しているという無線も入った。

重苦しい沈黙の中。荒木軍曹が挙手していた。

「俺たちが先鋒となる。 荒木班と村上班で、ドローン部隊を攻撃し壊滅させる」

「名高い荒木班と村上班……そうだな。 わかった。 では、荒木班は精鋭部隊とともに周辺の敵を掃討。 少しでも周辺の状況を落ち着かせ、反撃の狼煙を上げてくれ」

「イエッサ!」

「村上班には対物ライフルの狙撃犯と、その護衛部隊を貸し出す。 ベルリンの北部に向かい、ドローン部隊の撃墜を頼みたい」

イエッサと、大兄が応えた。

三城も頷くと、すぐに動く。

欧州で転戦してきた結果、救えた部隊は多い。今回同道してくれるのは、そんな部隊の一つ。

対ドローンに特化した。対空狙撃部隊だ。

すぐに大型移動車二両が用意され、移動を開始する。

周辺地域は荒木軍曹が指揮して、アンドロイドの殲滅を開始。

曲射砲を使って、バルカ中将の率いる本隊は。ベルリン基地への攻撃を開始したようだった。

確か、記憶にある。

タイプスリードローンもこのタイミングで世界に現れたはず。

その性質といい。

やはり、タイプスリードローンも、アンドロイドの一種なのかも知れなかった。

 

2、空飛ぶ重戦車

 

古く、戦闘用のヘリが全盛期を誇った頃。一部の強力な戦闘ヘリはガンシップと呼ばれた。

名前の通り空飛ぶ砲艦。

それほどの戦闘力があったということである。

現在でも戦闘ヘリは各地でプライマー相手に奮戦を続けているが、昔ほどの圧倒的破壊力は既にない。

しかし、だ。

敵はそのニッチを埋めるような兵器を此処で出してくる。

それを一華は、何となく覚えていた。

ベルリンの北に展開。エイレンを見て、兵士達は頼もしいと思ったのだろう。

周囲に散ろうとする兵士達を、リーダーが止める。

「皆、聞いてほしい。 アンノウン相手に、散るのは悪手だ。 狙撃手は近くの建物を利用し、数人ずつでチームを組んで隠れてくれ。 フェンサー隊はエイレンの随伴歩兵を」

「イエッサ!」

「見えたぞ。 攻撃開始!」

タイプワン、タイプツーのドローンが混成部隊となって飛んでいる。リーダーが早速立射で叩き落とすと、反応して向かってくる。

此奴らに関しては、それほど怖れる事もない。

此処にいる部隊だって、戦い慣れている筈。見た所、レッドカラーやインペリアルもいない。

だが油断は禁物だ。

補給車を守りながら、レーザーで敵を叩き落として行く。

次々に落ちていくタイプツー。タイプワンは後回しだ。兵士達は幾つか残っているコンクリの建物の内部から、空に容赦なく攻撃を加え。

徹底的に叩き落とす。

まもなくタイプツーは全滅。そのまま、タイプワンの駆逐に掛かる。

無線が入った。

村上班当てのものだ。まだ残念ながら、柿崎のバイザーはこれに加えていない。

真相を告げて同志になってもらうまでは、そのままでいてもらう。

「此方プロフェッサー。 皆、無事か」

「何か問題が発生しましたか」

「通信妨害が酷くなっている。 今も、六回目の通信でやっと君達とつながった」

「此処に奴らが来ることは分かっています。 恐らくその影響でしょう」

うむと、プロフェッサーは言う。

そのまま、戦闘を続ける。

一華が見ていると、柿崎はパワースピアを使って結構器用にドローンを落としている。それだけではなく、接近してきたドローンはプラズマ剣でさっくり切り裂いてもいる様子だ。

兵士達が、それを見て感心している。

対空戦では、弐分や三城でも遠距離武器で対応しているのに。

とにかく、本当に得意分野で勝負するスタイルなんだなと。一華もそのストロングスタイルには感心する。

今、身辺を一応洗って貰っている。

もしもの事もあるからだ。

それが終わったら、今起きている戦いの真相を告げて。相手の反応次第だが、同志になってもらうつもりだ。

それまでは、一応戦友として。

その武を側で振るって貰う事になる。

プロフェッサーは続ける。

「第六世代型の武器がほぼ安定して供給できるようになった。 流石にタンクやコンバットフレームはまだまだ先になるが」

「ありがとうございます。 助けになります」

「そうだな。 現在は第七世代武器の開発を始めている。 ラボが攻撃を受けないように、出来るだけ短期間にデータを集めたい。 君達や「旧」ストームチームの戦闘データが新規武器の開発に役立つだろう。 奮戦を期待する」

無線が切られる。

プロフェッサーとしても、プライマーに嗅ぎつけられるのは出来るだけ避けたいと思っているのか、それとも。

そもそも無線をしている時間がないのか。

上空にいるタイプワンは、味方部隊によってほぼ駆除が完了した。

リーダーはそのまま、味方に補給と負傷者の手当てを指示。

そろそろ、来る筈だ。

不意に、空にそれが現れる。

来た。

クラゲを思わせる巨大な銀の船。テレポーションシップよりも数段大きい。いまだ破壊に成功していない兵器だ。

それは横倒しになると、傘の中央部分を開く。

この間、あれを狙撃して撃墜はできなかった。あれが恐らく転送装置になっていると思うのだが。

やはり、破壊には条件がいる。

そう見て良いだろう。

まだ火力が単純に足りない可能性もある。

「大型船だ!」

「アンドロイドどもを運んできたクソッタレだ!」

「総員、警戒!」

「アンドロイド……いや違う!」

敵船の周囲に、何かが出現し始める。出現の仕方が、テレポーションアンカーと近い。転送装置の周囲に、突如沸いて出てくる。

これは本国から呼び出していると見て良いだろう。

そして出現したのは、ドローン。

ヒトデの形状をした、タイプスリーだ。

どうやら、これに関しては歴史は変わらないらしい。いずれにしても、アンドロイド軍団を欧州に展開し。それを早期にミサイルで潰されないために、敵は周到に行動をしているということだ。

「此方村上班。 敵は新型ドローンを展開」

「新型か。 アンドロイド兵士と言う新種が出て来た現状、あり得る話だ。 戦闘を開始してほしい」

「イエッサ!」

「くっ! 攻撃がまるで通らないぞ!」

狙撃部隊が呻く。

一華も知っているが、あいつをこの周回で撃墜するために、多くの部隊が犠牲になった。タイプスリーは他のドローンと火力が隔絶しているだけではない。ぶら下げている球体部分以外は、ほぼ攻撃が通らない。

文字通り、空飛ぶ重戦車である。タイプツーもその傾向があったが、それを更に洗練させた形だ。火力に関しても、レッドカラーほどでは無いが、それに近い。

リーダーがライサンダーZを叩き込む。それでも落ちない。

だが、傷口にもう一撃叩き込むと、それは流石に撃墜された。

こうやって、多少不自然さがないことを見せておく。

その後、リーダーは。

容赦なく、タイプスリーがぶら下げている球体を撃ち抜く。ウソのように爆発したタイプスリーが落ちていく。

無線が入る。

戦略情報部の少佐だ。

「今の箇所への攻撃をもう一度お願いいたします」

「了解。 バイザー越しに、データを取得してくれ」

「分かりました」

狙撃を続ける。

すぐに兵士達も真似を開始。多数展開したタイプスリーは、強烈なレーザーを雨霰と降らせて来る。

本来だったら、瞬く間に部隊は壊滅だっただろうが。フェンサー隊がもっている間に、村上班五人が中心となって反撃開始。かなり低いところまで降りてくる事もあって、そういう機体は柿崎が切り裂いていた。

球体の弱点。

これはカバーできていない。

リーダーの狙撃が、次々と最高効率でタイプスリーを叩き落として行く。

戦略情報部が、相変わらずどうでもいい事から言い出した。

「以降、このドローンをタイプスリードローンと呼称します。 攻撃能力、装甲はタイプツー以上ですが、下部にある球体が弱点のようです。 データを確認する限り、中枢部分が全て詰まっているのでしょう」

「妙だな……」

「バルカ中将、どうかなさいましたか」

「プライマーの兵器はどれも共通しているが、明確な弱点を持っている。 敵の指揮官はかなり柔軟に用兵をする人物だ。 それが……どうしてこの兵器に関する弱点だけはどうしても克服しようとしない」

それについては、一華も疑問に思っていた。

特にタイプスリーなんかは、弱点をモロ出しにしている。

撃ち抜いてくださいと言わんばかりにだ。

他にも、モロに弱点を露出している敵兵器は多い。

これはプライマーの兵器全般に言える事で。

何か、事情があるのでは無いかと思っていた。

また、敵船が大量のタイプスリーを展開する。その間も、隙を見てリーダーは敵船に攻撃をしているが。何処を狙撃してもダメージが入っている様子がない。オレンジ色の箇所には、一華もレーザーを隙を見て打ち込んでみたが、まるで効いている感じがない。

やはり、何処かに何かしらの弱点があるか。

火力がまるで足りていないか。

そのどちらかと見て良いだろう。

「一華、エイレンで敵船にレーザーを満遍なく浴びせてくれ。 もしも反応があるようなら、俺が見切る」

「了解ッス。 しかし、お邪魔なドローンどもが凄い数ッスけど」

「どうにかする」

銀色の大型船の輸送能力は、テレポーションシップを大きく超えるようだ。展開して来る敵の数は兎に角多すぎる。

タイプスリードローンの数は尋常では無く、コンクリの建物に隠れていた狙撃兵も慌てて逃げ出して来る程だ。

移動途中に、撃たれて負傷する兵も多い。

フェンサー隊も、消耗が大きい。

「増援を送る。 持ち堪えてほしい。 そのドローンを拡散させるな」

「イエッサ」

リーダーは問題ないだろう。凄まじい暴れぶりで、はっきりいって敵が気の毒に見えてくる程である。

問題はそれ以外の部隊だ。

未知の敵。

超火力。

怖れるのも、当然。その上、上空にいる大型船は、クラゲの触手のような部分から、レーザーのようなものを放ちはじめた。

「あの大型輸送船は、攻撃能力まで持っているのか!」

「くそっ! 輸送船に攻撃能力なんかつけるんじゃねえ!」

「我々の揚陸艇にも最低限の防衛能力はある。 そう考えると、合理的な事だ。 ともかく、ドローンを叩き落とせ!」

程なく、ケブラーの部隊が来る。

既に連絡は行っているらしく、凄まじい火線を集中して球体を狙う。どれだけ装甲が厚かろうが、弱点を突かれれば即大破。リーダーにはカモだ。だが、他の兵士達には違う。

フェンサー隊が限界だが。増援部隊が、代わりに盾になる。その間に、傷ついたフェンサー隊は後退。

敵の数が多く、凄まじいレーザーだが。

リーダーと弐分、三城が対空戦で夥しい数のドローンを落としており。

ドローンも、見る間に数を減らしている。

大型船はムキになってドローンを展開しているが。その隙に、エイレンで背後に回り込んだ。

かなり複雑な構造をしている船だなと感じながら。レーザーで船をなめ回すように射撃する。

射撃する様子を、リーダーのバイザーと共有。

攻撃をして来ている触手もレーザーで撃つが。それも、ダメージを受けている様子はない。赤熱さえしていない。

これはかなり厄介な相手かも知れない。

だが、不意に大型船がかき消える。

呆然とする兵士達を、置き去りにするように。他の数隻も、続いて消えていった。

「くっ! 逃げやがった!」

「ドローンを叩き落とせ!」

「イエッサ!」

兵士達は、残った……というには多すぎるドローンを攻撃開始。ケブラーも、タイプスリーの火力の前に、次々損害を出している様子だ。だが、味方の被害より敵の被害の方が多い。

まもなく、彼我の戦力差が決定的に逆転。

リーダーが銃を下ろした頃には。

残党数機に、味方が火線の雨を叩き込んでいた。

ドローンが撃墜されると、回収部隊が来る。

更に、恐らく海上に展開していたのだろう。潜水艦隊が、無線を送ってきた。

「ドローン部隊の排除、感謝する。 此方サブマリン部隊。 これより敵が占拠しているベルリン基地に、火力投射を開始する!」

殆ど間もなく、巡航ミサイルが飛来。飛んで行くのを見て、兵士達が歓喜の声を上げた。その間に、一華は戦況を確認。

荒木軍曹の奮戦で、アンドロイドの西への侵攻は食い止められているが。ベルリン近郊と、東ドイツ方面は文字通り壊滅的だ。逃げ遅れた市民は、文字通りの皆殺しの憂き目にあっているだろう。

ベルリン基地に、多数のミサイルが着弾。

大型を含めたアンドロイドが次々と撃破されていく。同時に、バルカ中将の部隊が連携しての反攻作戦に出る。

これに対して、東ドイツに散り始めていたアンドロイドが戻り始め。

更に、各地からドローンが集まり始める。

一方、敵の大型船は移動を開始。

ベルリン基地の上空から、離れていく様子だ。

「敵は逃げていく様子です!」

「違うな。 世界中でアンドロイドをばらまくつもりだ。 初期消火に失敗した地域が出ると、そこから一気に崩される。 怪物と違って、繁殖を考慮していない、最初から市街地を蹂躙するために作られた兵器だ。 あの頑強な大型船の仕様もある。 好き放題に各地に投下していくつもりだろうな」

バルカ中将の冷静な分析に、兵士達がひっと声を上げる。

ドローンが来る。やはり、潜水艦隊との射線を塞ぐつもりの様子だ。

「村上班、ドローンへの攻撃を任せる。 此方はアンドロイド部隊を片付ける」

「ご武運を」

「其方もだ。 君を尉官にしておくのは惜しい。 荒木君も少佐にしておくのはもったいない。 私が直接口利きして、この戦闘の後に昇進するように取り計らう。 皆、絶対に生き残れ!」

リーダーが激を貰う。

確かにこの活躍で、大尉と言うのはちょっと階級が低いと言える。

まもなく、雑多にドローンがわんさか飛んでくる。それだけではなく、タイプスリーも来た。

飛行型まで来る。

どうやら。どうしても敵司令官は、此処を力押しで潰すつもりの様子だ。

無線を拾いながら戦闘するが、欧州の南戦線も、敵の圧力がぐんと強くなったらしい。ドイツの放棄も考えなければならない状況だが。

放棄したらあのアンドロイドが大挙して他の地域に押し寄せる。

此処で、踏みとどまらなければならない。

苦労しながら、この地点にこのタイミングで来られるように調整して本当に良かった。本来だったら、ドイツは救援が間に合わず、バルカ中将もどうしようもない状況だったのだ。

今無線で拾ったが、ルイ大佐が中心になって欧州南戦線を支えているらしい。更に北米からの援軍も、それに合流した様子だ。グリムリーパー隊が、戦場で暴れているようである。

ならば。此方も負けてはいられなかった。

バッテリーを換えると、多種多様なドローンを叩き伏せ続ける。兵士達は必死に応戦を続けた。

増援はこれ以上期待出来ないだろう。

大型移動車を呼ぶと、大きなショッピングモールに拠点を作り。そこで破損したケブラーを長野一等兵に応急処置してもらう。

補給車とキャリバンが急いで行き来しているが、それだけ負傷者や物資の消耗が激しいと言うことだ。

ドローンも、自爆特攻で突っ込んでくる。

エイレンも、至近で爆発を受けて、何度か閉口させられた。

「此方荒木班。 壱野、無事か」

「まだまだ余裕です」

「流石だな。 ベルリン基地の奪回作戦は上手く行きそうにないが、アンドロイドの主力は半数ほどにまで減らした様子だ。 このままどうにか、バルカ中将の主力で駆逐出来るかも知れない。 しかし味方の被害も大きい。 特にドイツのEDFは壊滅状態だ」

「……」

これを防ぐために、此処にいたのに。

それでも、こんなに被害を出してしまったか。

生き延びているドイツのEDF残党を糾合しつつ、後退を開始するという。ベルリン基地を無理に確保しても、保持は無理だと判断したということだ。

「退却の指示が出るはずだ。 その時は、柔軟に対応してくれ」

「イエッサ」

「俺たちももう少し粘って見る」

「荒木軍曹! また奴らだ!」

小田少尉の声とともに、銃撃音が全てをかき消す。

荒木班も凄まじい抗戦の最中だ。向こうもエイレンがいるし、何よりニクス数機が連携して動いている筈だから、簡単にやられるとは思わないが。

それでも、流石に戦線を維持し続けるのは無理だろう。

三時間ほど、更にドローンと戦い続けて、記録的な戦果を出す。

だが、それで限界となったようだった。

撤退指示が来る。

「残念だが、これ以上の損害は許容できない。 市民の救出も、残念ながらこれ以上は不可能だ。 指定地点への後退を開始。 今なら敵の損害も多く、追撃によるダメージも抑えられる。 急いで後退を開始してくれ。 逃げ遅れれば大きな被害を出す」

「イエッサ」

「良く敵を削ってくれた。 もしも初動が遅れたら、文字通り欧州は一晩にして陥落していただろう。 ドイツを放棄しなければならないのは残念だが……膨大なデータを取ることも出来た。 まだ戦えるのは、君達のおかげだ」

そうバルカ中将は言ってくれるが。

戦況が最悪の状態になるのを、先延ばしにしたにすぎない。

拠点を放棄。

展開していたスカウトを回収して、全軍後退開始。案の定と言うべきか。生き延びた市民は、殆どいないようだった。

損害の大きさに辟易したか、アンドロイドの追撃はそれほど積極的ではなかったが。ドイツ全域はプライマーの手に落ちた。この間、僅か一日と少しである。フランスで部隊を再編制して、バルカ中将は対策を練ると言っていたが。これは、どこまでそれをやれるかどうか。

一華は、傷だらけになったエイレンを、工場で修理してもらいながら。

リーダー達と、軽く話す。

プロフェッサーも、会議には加わって貰った。無線越しだが。

「私の記憶している戦況では、この時点で既にパリは陥落。 数日以内にバルカ中将も戦死していた。 だが、この分では、数ヶ月は持ち堪える事が出来るはずだ」

「そういう言い方は感心しませんね」

「分かっている。 デリカシーがないのは……。 しかし、現実的に考えて、此処からどう巻き返すかを考えねば」

「大型船への攻撃データ、見ていただいたッスか?」

一華が聞くと。

プロフェッサーは頷いていた。

「弱点であると思われるオレンジ色の開口部に対するダメージがないのは私も確認している。 しかし、全体を攻撃し始めると、明らかに大型船は損害を嫌がって逃げ出したのも確かだ」

「明確な弱点は分かりませんか」

「今、データを先進科学研全体に回して解析している。 あれを落とせない限り、勝機はない」

「……」

その通りだ。

バルカ中将も言っていたが、あいつは逃げたんじゃない。彼方此方にアンドロイドをばらまくために去ったのだ。

本来だったら、欧州に居座って、天文学的なアンドロイドをばらまいていった。それが世界中に拡散して、文字通り絨毯爆撃のように世界を潰して行ったのだが。

現時点で、その恐れはなくなった。

ただし、今度は恐らく米国や中華などでアンドロイドを落としてくるか。

もしくは、南米や中近東などの戦況が既に著しく不利な地域で、アンドロイドを落とし。圧倒的大軍で侵攻してくるだろう。

その攻撃は、怪物によるものよりも、遙かに苛烈で容赦がないものとなる筈だ。

「アンドロイドに対抗する、効率の良い戦術は何かないだろうか」

「リーダーがたくさんいれば、はっきりいって敵じゃ無いッスけど。 そういうテクノロジーは、まだ無いッスよね」

「クローン技術については既にあるが、残念ながら記憶も体の状態も完璧にコピーする事は出来ないし、更に言うならばいきなり成人を作る事も無理だ」

確か現時点では、再生医療を中心に。体のパーツを作る事がメインで行われているのだったか。

まあ、それについてはいい。

いずれにしても、ここからが勝負になると見て良いだろう。

時間が必要だ。

プロフェッサーが、先進科学研で情報を共有し、各地の科学者にもデータを送ると言って。無線を切った。

リーダーは皆に休むように指示。

一華もどっと疲れが出たので、個室に入ると、後は泥みたいにねむった。

夢も見なかった。

もはや、そんな余裕もなかったというべきなのだろう。

ただ、一ついうならば。

此処から、雪崩を打つようにEDFはどんどん戦況を悪化させていくことになる。

現状の兵器では、アンドロイドに対抗できないのである。

更に、記憶によると。アンドロイドはまもなく擲弾兵も繰り出してくるはずである。彼奴が出てくると、本格的に色々な意味での終わりが来る。

何か対策を。

目が覚めて、汗をぐっしょり掻いている事に気付いて。一華は声もなかった。風呂に入る余裕もなかったので。先に風呂に入って、多少はリフレッシュしておく。

いずれにしても、今日も戦闘だろう。

着替えてから、バンカーにエイレンの様子を見に行く。パリ基地にもう何機かエイレンが納入されたようだが。

それでも戦況は変えられまい。

ため息をつくと、皆の所に向かう。

どうせ、すぐに作戦の指示が来るのだから。

 

3、堅実

 

月の裏。

それが、現在プライマーの拠点だった。ここに旗艦をおき、各地の戦況をコントロールしている。

プライマーの「火の民」の戦士トゥラプターは。出撃の許可も得られず、退屈を過ごしていた。

分かってはいた。

あの無能を更迭した後、新しく総指揮官になった「水の民」の長老は有能極まりない。確実に敵の先手先手を打っていく。作戦を失敗しても、損害を最小限に抑え、確実に「いにしえの民」の力を削り取って行く。

だからというべきか。

精鋭中の精鋭であるトゥラプターの出番はない。

しかも、次の周回も見据えている様子で。

多くの兵器は、そのまま温存。

例のものが来るタイミングで、過去に全て送り届け。

次の周回を、更に有利にするつもりのようだった。

それでありながら、本国から送られてきている兵器はどんどん活用するし。何よりも、いざ物量戦となれば、惜しむことなく全戦力を投入する。

まさに名将という奴だ。

だが、この指揮の鋭さ故に。尊敬はしているが。退屈が生じているのも事実である。何しろ、個人武勇の出る幕がない。

敵はどうもあの村上班やらが中心になって、凄まじい頑強な抵抗を見せているようではあるのだが。

それでも、わざわざトゥラプターがでる必要もなかった。

場当たり的な朝令暮改の作戦指揮で、戦力を多く失っていた前の無能とは根本的に違うので、尊敬は出来る。

だが、どうにも煮え切らなかった。

有能な指揮官の下で退屈をする。まあ軍人は退屈なのが一番なのだろうとも思うのだけれども。

それでもこれは、なんとも言いようがない不快感を感じるばかりだ。

「水の民」長老に呼ばれたので、出向く。

周囲には、「水の民」の技術者が多く来ていて。戦況をコントロールしていた。単純な身体能力では「火の民」や「風の民」に劣る「水の民」だが、知的活動については卓越したものがある。

現在は、「水の民」の数少ない戦士階級が戦場にでるために。戦況の分析をしている様子だ。

或いは、この長老。

今回は、勝てなくてもいいと思っているのかも知れなかった。

「トゥラプター、参上いたしました」

「うむ。 この映像を見て欲しい」

「は。 ……ほう?」

見る。

新しく投入した新兵器を、村上班と荒木班が、文字通り蹴散らして回っている。この戦闘力、記憶にある通り。

いや、更に上がっているのでは無いか。

村上班は人員を増やした様子だ。見ていると、近接戦専門のようである。思わず興奮する。

これは、是非やりあってみたい。

「先に言っておくが、トゥラプター。 そなたが戦う必要はない。 この者ども、そなたのデータよりも、強くなっていないか?」

「そうですな……体感的には、確かに腕を上げているように思います」

「おかしな話だ。 如何に戦闘が更に苛烈になっているとしても、妙だ」

「或いは今「我々が使っているもの」の影響ではないでしょうか」

ふむと「水の民」長老は呻く。

物わかりが良くて助かる。前の司令官は、本当に血の巡りが悪くて駄目だった。

「確かに、あまりにも周回を重ねると因果がどんどん収束していくという話はある。 だが、まだたかが六度目だぞ」

「だとすれば、因果ではないとすれば」

「……我々と同じように、過去に飛んできていると言う事か」

「御意」

トゥラプターはみて思う。

これは一から鍛え上げた戦力では無い。積み重ねてきた戦力だ。この実力、明らかにおかしい。

だが、荒木班の者達は戦死したはずだ。

それを考えると、どういうことだ。やはり因果関係が原因か。

何とも言えない。ただ、村上班の連中は、どうみても違うとしか思えないが。

「分かった。 どの道、どれだけ悲観的に見ても今回の周回も、「例のもの」が来るタイミングで我等の圧倒的優勢はゆるがん。 ただ、「例のもの」に何かあった場合には、我等にも感知できない。 警備を強化するように、指示をしてくれ」

「分かりました。 その事は覚えておきます」

「なんならそなたが出向いてもかまわないぞ」

「いえ、それは遠慮しておきます」

仮に何かあるとしても、敗残兵による一斉攻勢程度だろう。

そんなもの、わざわざトゥラプターが相手にするのも馬鹿馬鹿しい。雑魚を嬲って楽しむなど、戦士がすることではない。

一礼をすると、その場を離れる。

どうやら勝とうが負けようが。この周回。トゥラプターには、前線に出る機会は無さそうだった。

 

村上班とともに、弐分は日本に戻る。

アンドロイド対策が終わって、比較的すぐの事だ。

うっすらと覚えている前周の記憶では、北京決戦が行われるタイミングだが。コロニストは各地で散って、戦闘を続行。

決戦を挑もうという気配はなかった。

アンドロイドとも連携して動いている様子も既に確認されており。敵の連携は高いようである。

欧州はどうにか戦線を確保したが、バルカ中将が体調を崩したという話が入ってきている。

このままいくと、ロシアにコスモノーツが降下し。

更に手のつけられない状況になるだろう。

それはそれとして、日本の戦況も良くない。

あの鎧を身に付けたコロニストが戦場に出現し始め。各地で大きな被害が出ている。日本に戻り、少佐の辞令を大兄が受けた。荒木軍曹も昇進して、中佐になったようである。

弐分達も大尉に。そして、柿崎も中尉の辞令を受けた。

戦場での凄まじい活躍を思えば当然ではあるが。

出世が早いというのは、それだけ負けが込んでいることも意味している。

素直には、喜べなかった。

弐分はぼんやりと食堂でうまくもないレーションを口にする。明らかにレーションがまずくなってきている。

工場の生産能力が落ちているのだ。

これもまた、仕方が無い事なのかも知れなかった。

大兄から無線が入る。

「皆、仕事だ。 すぐにヘリポートへ集合してくれ。 尼子先輩、長野一等兵も」

「イエッサ」

食事を終えると、すぐに出る。ヘリポートでは、既に大型移動車の積み込みが開始されていた。

欧州から戻ってきたら、すぐにこれか。

大兄から説明を受ける。

「敵の大型船がアンドロイドを各地でばらまいているのは既に知っていると思うが、それに呼応してコロニストが活動を活発化させている。 横浜にドロップシップが接近している。 現在近畿で大型船からアンドロイドが出現し、EDFが総力を挙げて迎撃しているが、それの隙を突いた形だ。 市民が多数いる地域だ。 救援に向かう」

「横浜にわざわざヘリで向かうのか」

「ドロップシップの速度が早く、そうしないと間に合わない。 現地で三個分隊が既に待機している。 連携して戦うぞ」

最近、日本では近畿に攻撃が集中している。

テレポーションシップ撃墜のノウハウが蓄積され。各地に第六世代の兵器が配布されて、戦況を持ち直し始めているが。

その一方でプライマーも攻撃を激化。

或いは、前周で激しく抵抗し、最後まで人類の砦となった日本を集中狙いするつもりなのかも知れない。

近畿を中心に攻撃し、日本を分断。更には、関東にもハラスメント攻撃を間断なく仕掛けるつもりなのだろう。

ましてや今回は横浜だ。

神奈川の東部は既に焼け野原になってしまっているが、横浜は海外からの避難民も多く。まだ経済活動も動いている都市だ。

コロニストの跳梁跋扈は許すわけにはいかない。

すぐに移動開始。

無線が入る。

「村上班、此方千葉中将。 日本に戻ったばかりだというのにすまないな」

「いえ。 何かありましたか」

「横浜で、活動家がコロニストを殺すなとか騒いでいる。 或いはだが、敵がそれを狙って来たのかも知れない」

「……まだいるんですかそんな連中が」

既に世界人口は三割以上、開戦前に比べて減っている。市民を守るために必死に戦って来た。

だが、それでも、こういうのを見ると流石に苛立ちもする。

大兄も頭に来ているようだが。それでも市民は市民だ。

「今、新たに軽武装の部隊を出して、彼らを抑え込む準備をしている。 戦闘がかなり厳しくなるが。 頼む」

「分かりました。 どうにかしてみます」

「君達くらいにしか頼めない。 すまない」

無線が切れる。

ヘリがかなり強引に着地。エイレンがまず出る。それを見て、待っていた兵士達は安心する。

エイレンは基幹基地を中心に、各地で配備が始まっている。配備が遅れているグラビスとは違って、その汎用性で高い評価を受けている様子だ。実際問題、練度が低い兵士でも、大きな戦果を出せるらしく、怪物相手にも高い殲滅力を発揮しているようである。

ましてや、特徴的なカラーリングの一華のエイレンは、既に「星のエイレン」と呼ばれて話題になっているそうだ。

最強のエイレンが来た。

兵士達が喜ぶが、大兄がすぐに兵士達に指示を出す。

「すぐにコロニストがくる。 市民の避難誘導は」

「現在、軽武装の部隊が避難を行っていますが、一部が戦闘区域に勝手に侵入した模様です」

「……最悪の場合は、覚悟を決めてほしい。 だが、市民を武力で制圧することだけは避けてくれ」

「了解!」

すぐに展開する。もう、ドロップシップは見えてきている。それも、数が多い。三隻が同時に来ていた。

それぞれのドロップシップに、鎧を着たコロニストがいる。

この鎧コロニストは、桁外れの戦闘力を持っていることが既に周知され、兵士達に怖れられていた。

だが。ドロップシップから降りると同時に、大兄が一体の頭を叩き落とす。空中で頭を吹っ飛ばされれば、もうどうにもならない。

展開して、射撃。一群には、降りてくるタイミングで完璧に三城がプラズマグレートキャノンを叩き込んでいた。

十二体のコロニストが、周囲に展開しながら射撃してくる。建物を登って、上を取りに来る個体も多い。

戦術が以前より更に洗練されている。非常に厄介だ。

「くそ、上を取って来やがるぞ!」

「奴ら、人間の弱点が上だって知っていやがるんだ!」

「冷静に対処しろ。 確実に集中攻撃で潰す」

「い、イエッサ!」

激しい銃撃の中、弐分は突貫。電刃刀を振るって、立て続けに二体の首を刎ね飛ばす。更に高機動で逃れ。弐分を追って数体のコロニストが銃口を向けた瞬間、文字通り柿崎が一閃。

通り抜け様に、首を落としていた。

混乱するコロニストを、更に射撃で減らしていくが。

不意に、石が飛んできた。フェンサースーツの上からだから、ダメージにはならないが。

「人殺し!」

「帰れEDF! お前達は殺人者だ!」

「我々はわかり合える! 話し合いこそが重要なんだ!」

活動家らしい。ぎゃあぎゃあ騒いでいるが。「話し合いが必要」で「わかり合える」コロニストは。容赦なく活動家に銃口を向ける。

青ざめて硬直する彼らだが。

一瞬大兄が早く狙撃。コロニストの頭が吹っ飛ぶ。勇敢にその場に来た軽武装の部隊が、暴れる活動達を取り押さえ、歩兵戦闘車に押し込んでいた。彼らも大変だなと思いつつ、NICキャノンでコロニストを撃ち抜く。

やがて、不愉快な通信が入り込んで来た。

コロニストとの対話が重要だのなんだのの、以前の周回でも聞いたような演説だ。確か野党の過激派女性議員によるものだろう。

その演説が終わると。プロフェッサーが無線を入れてくる。

「この女性政治家は、この後ドローンの攻撃で死ぬ。 白旗を掲げて、コロニストに向かって行ったらしいが。 コロニストは気づきもせず、タイプスリードローンに殺されたようだ」

「愚かしい話ですね」

「そうだな……」

大兄も、後は無言で戦闘を続行。最初の一群は片付けた。

流石にそれだけでは終わらない。すぐに次が来る。それだけではない。怖れていた事態が起きた。

ドロップシップに手をかざして様子を見ていた三城が言う。

「見た事がない武器持ってる鎧のがいる。 二体。 多分遠距離武器」

「今までのパターンから考えると、ほぼ確実に迫撃砲と見て良いだろうな。 最優先で始末するぞ」

「イエッサ!」

鎧コロニストの装備は、通常種のものとはレベル違いの破壊力を持つ。

ただでさえ砲兵コロニストは強力だったのに、それを段違いに火力を上げたとなると、発射されたらただではすまないだろう。

エイレンが壁になるべく前に出るが、それでもいつまで耐えられるかどうか。

「弐分、ガリア砲に切り替えろ。 指示した個体を、着地と同時に狩ってくれ」

「了解。 大兄はしくじりそうもないな」

「そうだな。 だが見ろ、鎧コロニストの数が多い。 気を付けろ」

どうやら敵は、特務を投入してきているらしい。それだけこの戦闘を重要視しているという事だろう。

だが、あの武器を持ったコロニストは、部隊長クラスである事も分かっている。それだけ貴重な武器だと言う事で、製造コストも高いのだろう。ならば、全て倒してしまえば。それだけ敵に甚大なダメージを与えられる。

敵は前と違って用兵を知っている。

だからこそに。打ち破ればそれだけ甚大なダメージを与えられる。逆に此処で敵を食い止められなければ、下手をすれば橋頭堡を東京の至近に作られ、一気に攻めこまれる可能性も高い。

ドロップシップが停止。大兄が無言で移動を開始する。恐らく、射線を切られたのだろう。

かなり危険な状態だ。弐分は既に、準備が済んでいた。

ドロップシップから、コロニストが降りてくる。かなりの数、鎧を来た奴がいる。

ガリア砲で狙撃。

当ててから放つの領域にまでは到達していないが、それでも新しい武器を持ったコロニストの頭は叩き落とした。兜を被るという概念がないのか、それとも通信装置が主体なのかは分からない。ボディアーマーより明らかに頭が柔らかい。

大兄も、文字通り針の穴を通す狙撃を成功させた様子だ。しかし、多数の鎧コロニストが降りてくる。

「大部隊だ!」

「くそっ! 東京の部隊の大半は、各地の怪物駆除と支援で手一杯だ! 増援はでない!」

「やるぞ! 死守する!」

兵士達の士気は高い。だからこそ、死なせてはならない。

村上班や荒木班が奮戦し、活躍しているからだろう。連日のプロパガンダ報道はなりを潜め、村上班や荒木班の活躍報道に切り替えたようだ。それだけで、はっきりいって随分と士気が上がった様子だ。

街の中を走ってくるコロニストを、機動戦を駆使しつつ翻弄。町並みを利用して、路地から狙撃していく。

即応してくるが、残念ながら応じたときには其処にいない。

大兄もバイクを使って同じようなゲリラ戦を仕掛けている。コロニストの正面にはエイレンが立ち、既に弱点として看破された頭部を次々焼き切っているが。流石に敵の反撃が強烈だ。

エイレンの装甲も、見る間に削られていく。

路地裏から飛び出した柿崎が、一体の首を刎ね飛ばして、即座に逆側の路地裏に抜ける。

同時に、上空から。三城がプラズマグレートキャノンをぶっ放す。

爆発に数体が巻き込まれるも、とっさに死体を盾にして防ぐ行動を見せる。何というか、敵も出来る奴がいる。

更に増援のドロップシップが来るが、鎧コロニストは乗っていない。

あれは、撤退用と見た。

ガアガアとコロニストが鳴いている。そのまま、ドロップシップに乗って撤退を開始する。

すぐに味方部隊に点呼させる。

あの鎧コロニストの凶悪武器に耐えていたのは事実なのだ。

「負傷11、重傷4。 戦死はいません」

「そうか、良くやってくれた」

「いえ、此方こそ」

「すぐにキャリバンで後方にさがり、病院に掛かってくれ。 後は俺たちが対応する」

大兄が、奮戦した兵士達に声を掛ける。

軽武装の部隊も、かなり勇敢に立ち回ってくれた。

千葉中将が、無線を入れてくる。

「流石だ。 帰国早々、存分の戦果を上げてくれたな」

「いえ。 敵に此処までの隙を晒した状態を改善しないとならないかとも思います。 ベース228をどうにかして落とせないでしょうか」

「ベース228?」

「いや、私の調べた所によると、彼処を拠点にプライマーはどんどん関東に戦力を送り込んでいるようッスね」

大兄の言葉を、一華が補足。

なお、一華のエイレンは、既に大型移動車に乗せられ。厳しい表情で、長野一等兵が修理をしていた。

「最初に陥落した基地の一つか。 確かにプライマーが拠点化しているようだが……残念だが、奪回する戦力は、ない」

「……分かりました」

「すぐに次の戦線に向かって貰いたい。 補給と休息を済ませたら、だ」

千葉中将も、声に疲労の色が濃い。

この人は他の名将達と比べると、どうしても折衝役の色彩が濃かったように弐分も思う。

しかしながら、粘り強く戦う事に関しては。他の名将達に劣らなかった。

そういう意味では、やはり死なせてはならない人物だ。

すぐに移動を開始する。

敵の武器については、先進科学研が回収しているそうだ。

新兵器を持った敵を野放しにしなかった、という点では良く出来たとも言えるが。

それでも、此処での勝利だけでは。

とてもではないが、全体での戦況を変えることは出来ない。それは、弐分にも分かりきっていた。

 

徐々に任される敵の規模が大きくなってきている。

そう感じつつ、弐分はスピアを研ぎ機から外す。そして、大型移動車から降りた。

前では、戦車隊が怪物とやりあっている。かなり距離が近い。ゼロ距離まで詰められたら、一気に蹂躙されるだろう。

大兄が、無線で交戦中の部隊に連絡、そして指示。

「村上班、現着。 エイレンが前に出るので、その間に体勢を整えてほしい」

「助かった! 救援感謝する!」

「突入!」

バイクで突入する大兄。前線に滑り込むと、まずは挨拶代わりにストークで一薙ぎし、敵の出鼻を挫く。

上空からプラズマキャノンを叩き込む三城。更に誘導兵器で、怪物の足を止めにかかり。

弐分が突貫。機動戦で敵の足を挫きながら、スピアで次々敵を貫く。更に、電刃刀で敵を横薙ぎにする。

何度かの指示で、柿崎はコツを飲み込んだらしい。

敵の群れに突貫するのではなく、辺縁部を削る。高機動力を駆使して、必ず一対一に持ち込む。

その機動力が、今の装備なら出来る。

そして一対一なら、酸も回避できる。

α型だろうがβ型だろうが。それにγ型だろうが、だ。

少し前から、γ型が出現し始めている。

既に対策の仕方も分かっている。

流石に柿崎も、γ型を見た時は驚いたようだったが。

見た目ほど強靱ではないこと。

更には、節に沿って容易に切り裂けることを悟ってからは。

不安視することもなくなり。

急激に、戦闘になれてきている。

ただ、まだたまに危ない場面があるので。

それは、皆で補っていけばいい。

エイレンが前に出て、レーザーで敵を薙ぎ払い始める。更に、一華が兵士達に指示。

自動砲座を撒きはじめた。

今回は敵の数が多いという事もあって、小型のミサイルを連射する自動砲座だ。非常に火力が大きく。前線に配置すればその破壊力は大きい。完全に怪物の群れが足止めを食っている間に、戦車部隊は再編制を実施。ダメージが大きい車両を後方に下げ。兵士達も補給を済ませた。

そして、指示通りに配置し直すと、戦車隊が射撃を再開。

怪物の群れを圧迫。

敵が中央部に集まった所で、三城が最大級の火力で、プラズマキャノンを叩き込む。

今回持ってきているのは、連発式のプラズマキャノンで。大物狩りには向いていないが、雑魚は広域殲滅が可能である。

フライトユニットのエネルギーを相当に食うようだが。

それでも、最も戦場に適した武器だと言える。

戦況が、ひっくり返った。

主力が文字通り消し飛んだ怪物は、後退を開始。それも、整然とだ。赤いα型が最後尾になり、他の怪物を逃がしながら撤退を開始。戦車隊に対して、大兄は追撃を許可しなかった。

「スカウトを出して、敵の退路に何があるか調べてほしい」

「了解です。 しかし、追撃は良いのですか?」

「待ち伏せしている可能性も高い。 あの数で進軍してきたんだ。 途中に伏兵が埋まっていてもおかしくない」

怪物は地中を通ってくる。

それを思い出したらしく、兵士達はぞっとした様子で足を止めていた。

残敵を相当し、特に殿軍を務めた赤いα型はほぼ全滅させた。赤い奴だけではなく、オレンジのもいたが。それに対して、皆は特に疑問を持っていないようだった。

大兄が、千葉中将に連絡を入れる。

「状況終了。 味方部隊の救援に成功。 敵はおよそ六割を失い、残りは撤退しました」

「了解。 良くやってくれた。 怪物がこうも柔軟に撤退をするとは……」

「奴らには何かしらの知性があるという事でしょう」

怪物にある程度の知能がある事は、前周から弐分も知っていた。

人間の効率の良い殺し方を明らかに知っているし。戦闘でも、明らかに様々な戦術を駆使してきていた。

上手く怪物が運用できていなかったのは、敵の司令官がアホだったからで。

逆に言えば。敵の司令官がアホではなくなった今は。それだけ脅威が増している、と言う事だ。

戦車隊が撤退する。どれもブラッカーばかりだ。

バリアスも配備が少しずつ始まっているようだが、それも最前線で過酷な任務に投入され、損耗が激しいらしい。だが、ブラッカーよりあらゆる全てが優れている事もあって、今後は更に投入が増えるようだ。

それまではブラッカーが頑張るしかない。

最近は飛行型も出て来始めている。

多数の敵の同時攻撃に、EDFも目を回しているのが、弐分にも分かるようになってきていた。

さて、此処からだ。

基地に戻るのか、更に任務をこなすのか。

答えは、任務だった。

千葉中将から、連絡が来る。

「補給物資を送った。 村上班、これから北上して、敵をたたいてほしい。 周辺基地の脅威になっているコロニストの集団だ。 先の戦闘には何故か参加してこなかったが……」

「分かりました。 片付けます」

「頼むぞ」

戦車隊は撤退したが、代わりにウィングダイバー隊が来る。

見れば分かるが、練度がどんどん落ちている。熟練兵が次々に激戦で倒れていき、それに新人が変わっているのだ。

EDFがなりふり構わず新人を入れ始めるのは何となく覚えている。これは今周も、前周も同じだ。

ウィングダイバー隊は、必ずしもコロニストと相性は良くない。

ましてや、敵が群れているのは林だ。近くに都市がなかったから、林に紛れているという事だろう。

ざっと確認するが、数は二十を軽く超えている。

そして、此方を見ている。

此方に、気づいているとみて良かった。

コロニストは後退を開始する。逃げるのでは無さそうだ。さがりながら、ガアガアと鳴いている。

連中は林を出ると、平原に布陣する。

真正面から殴り合うつもりだ。ウィングダイバー隊は、青ざめたようだった。

「エイリアンの装備には、我々は相性はあまりよくありません。 大きな損耗率を覚悟しないとならないようです」

「……装備を変更。 D(ドラグーンランス)兵装から、マグブラスターに切り替えてくれ」

「遠距離戦を主体に、ですか。 分かりました……」

「柔軟に戦闘では装備を切り替えて戦ってほしい。 前衛は我々が務める。 近隣基地から戦車やニクスが出てこないと言う事は、損耗がそれだけ大きいという事なのだろうな」

大兄がぼやきながら前に。

林の中に布陣して、様子を確認する。コロニストは平原に布陣して、鎧コロニストも混じっている。

既に他の戦場で確認されたが、やはり迫撃砲持ちの鎧コロニストも出現するようになってきていた。

なんと多段式迫撃砲というとんでもない代物で、直線上を遠距離から薙ぎ払って来るという。火力は途方もなく、直撃を受けるとタイタンすら危ないとか。

とんでも無い代物だが、レーザー砲持ちの重装コスモノーツに比べればマシに思えて来る。

とにかく、どうにかするしかない。幸い、今、敵に迫撃砲持ちコスモノーツはいないようだが。

大兄が、舌打ちする。

「どうやら誘いこまれたな」

「!」

後方。気配を感じる。怪物だ。かなりの数。しかも、これは恐らく赤いα型と見て良いだろう。

大兄はいち早く気づいた。すぐに移動を開始。林を突っ切るように指示。よく分からないと顔に書きながら、ウィングダイバー隊はついてくる。気づかれたと察知したらしい赤いα型が、地面から出てくる。コロニスト部隊は、見かけより遙かに早く歩きながら、赤蟻の部隊と斜めに挟むように、追撃してくる。

「まずはコロニストの部隊を片付けるが、赤いα型に戦闘中に乱入されると厄介だ。 弐分、足止めを頼むぞ」

「了解」

「よし、移動しつつ攻撃!」

大兄はバイクを乗り捨てると、そのまま狙撃開始。まずは鎧コロニストの頭を撃ち抜く。コロニストも反撃を開始するが、距離がありすぎる。それでもかなり正確に弾が飛んでくるが。それは奴らの武器にオートエイム機能がついているからだろう。

エイレンも攻撃を開始。三城も、既に装備を変えていた。

モンスター型のレーザー砲も、今回は持ってきた。これも改良が進んでいて、コロニストの頭なら一撃で吹き飛ばせる。

ウィングダイバー隊がマグブラスターで必死に攻撃を開始するのを横目に、弐分は赤α型の群れに突貫。

敵はわっと殺到してくるが、いなしながら確実に仕留めていく。

電刃刀は非常に強力な武器だ。赤いα型でも、まともに入ればひとたまりもない。だが同時に。ブースターとスラスターを同時に使えるフェンサーが殆どいない現状。これを上手に使いこなせるフェンサーは、グリムリーパーにいれば良い方、くらいだろう。

とにかく弐分は足止めだけ考える。

コロニストは見た目より遙かに厄介な相手だ。大きい分武器の火力も危険だし、何よりタフである。

大兄がポコポコ倒せているのがおかしいのであって、普通の部隊は奴らとの交戦時、大きな被害を覚悟しなければならない。

赤いα型をいなしながら、様子を確認。敵はかなり数を減らしたところで下がりはじめているが。

エイレンも被弾し、結構危ない状況のようだ。

特にエイレンは連戦に連戦を重ねている。一華が申し訳なさそうに、長野一等兵にいつも謝っているのを見て、心が痛む。

程なく、最後のコロニストの頭が吹き飛ぶ。

味方が、一斉に此方に来るのが見えた。

これならば、後は赤いα型を蹴散らして終わりだろう。攻勢に入る。敵を順次切り裂いて、味方の到来まで、足を止める。

敵の駆逐が終わったのは夕方過ぎ。

流石に、次の戦場を、千葉中将も指定してこなかった。

「村上班、良くやってくれた。 今日だけでどれだけの部隊が被害を受けずに済んだか、分からない程だ。 今日はヘリを送るから、それに乗って戻ってくれ」

「それでは帰投します」

「ああ、頼むぞ」

東京基地に戻る。

確か、そろそろ欧州から荒木班も戻ってくる筈だ。

荒木軍曹は、中佐に昇進するはず。

最終的にはこの周回では少将にまで昇進するはずだが。はて。もっと昇進が早かったような。

タイムトラベルを繰り返すほど、記憶の定着は強くなると聞いている。

或いは、次はもっとはっきり覚えていられるのかも知れない。

ともかく、今は敵を少しでも削る事だ。

弐分は軍を指揮するとか、そういうガラじゃない。戦士としてしか、振る舞えない。

ヘリが来た時には、鍛えている柿崎も相当参っているようだった。まだ、ヘリは無茶な運用をしている様子はない。

これが戦闘末期になると、いつ墜落してもおかしくないような状況で、ボロボロのヘリが兵を運んでいた。

その事は覚えている。

出来れば、そんな悲惨な事は、繰り返させたくなかった。

 

4、分からない方々

 

柿崎閃は、大きな道場の娘だった。父は頭が古い人間で、とにかく厳しかった。母は早くに亡くなったという事だったが。道場には多くの人がいて、代わり代わりに世話をしてくれたので。別にそれに対して違和感を感じることは、小学生に上がるまではなかった。

小学生に上がってからは、地元の金持ちの子であり。勉強もできて運動も出来たので。周囲から虐めを受けることはなかった。虐めをする子供は何度も見たが、それは全部力尽くで制圧した。閃が言ったことは、全て教師が真に受けて。虐めっ子がやった事は全て過大に解釈された。

大きな恨みを買って、何度か不意打ちされたが。

それも全て返り討ちにすると、その内誰も閃には近付かなくなった。

閃はそれらを見て思ったのだった。

金持ちだから、力があるから。周囲は閃に媚を売る。

ろくでもない人達だな、と。

それから、閃は人間に対する興味を失った。例外は、今までの時点で現れなかった。

以降は、自身を磨く内側の武術に没頭した。

どれだけ醜い人間を見ても、何とも思わなくなった。それが当たり前だと、感じるようになったからだ。

そして、それが当たり前の人間であり。

自分は金と力を持っているのなら。それを振るって、当たり前の人間に当たり前に接するべきだと。

自然に想う様になっていた。

相手を見下しているのではないかとも思ったが。

事実、他の人間に出来て、閃にできない事は一つもなかった。

それだけじゃない。

どれだけ醜悪な虐めを繰り返して。醜悪に笑っている奴も。

閃が一度叩きのめすと、以降は怯えきって、絶対に何もしなくなった。それで虐められていた子が萎縮する事も珍しくなく。

結局、周囲の人間はカスなのだと認識するしか出来なくなった。

中学に入ってもそれは同じ。

そして、高校に入ってしばしして。プライマーが攻めてきた。

今、スカウトを受けて。閃は特務部隊村上班にいる。

周りは、初めての事だが。

皆、閃より強い人間ばかりだ。

この環境は新鮮だった。

戦闘経験でも、戦闘能力でも、全てが閃より上。

だから、却って刺激的で。

閃にはとても面白い環境だった。特に同年の女子で自分より強い相手は初めて見た。

勿論、顔に出すことはなかったが。時々、心が浮いてしまうようだ。だから、それを引き留めながら。

必要とされていることを喜びつつ。

周囲が自分より出来る事を楽しみつつ。

戦闘に没頭し。

ただひたすら、己を磨くことが出来た。

慢心なんてしていない。実際問題、周囲を全て自分より上だと認識出来ている。最初にスカウトに来た時、村上三城さんに奥義をぶつけてみた。彼女の事は、上越まで噂になっていたからだ。

それを破られたとき、本当に驚いた。

父祖の代から練り上げられてきた文字通りの必殺技。

江戸時代には、他流試合で何人もが挑んできたが。その全てが返り討ちにあったという技だったのだが。上には上がいる。それが理解出来て、とにかく楽しかった。

一見弱そうに見える凪一華というコンバットフレーム乗りの人も凄い。

とにかく論理的思考の権化で、エイレンというコンバットフレームも、生きている人間以上に滑らかに動いている。

たまに空爆などの指示もしているようだが。それも非常に完璧なタイミングで、最高効率で敵を倒せている様子だ。

此処は学ぶ事だらけ。

そう思うと、閃にはいつも嬉しい。

ただ、分からない事がある。

攻めこんできている方々だ。

プライマー。明らかにエイリアンが統率している組織。何をしたいのかが、閃にはよく分からない。

今まで、どんな人間も、少し接してみれば。心の中を見透かすことが出来た。虐めをするような輩は、地位確認がただしたいだけ。自分より下の存在がいないと、怖くて怖くて仕方がないだけ。暴力を振るうのが楽しいだけ。そんなくだらないゴミだった。

だが。どうもプライマーには目的が見えない。

なんだか必死にやっているように思えてならないのだ。

必死にどうして侵略戦争なんてする。

古い時代の遊牧民は、侵略や略奪をしないと生活が立ちゆかなかったという話を聞いたことがあるが。

宇宙規模で移動出来る種族だったら、別に人間なんか住んでいる星に攻めてこなくても、資源なんかなんぼでもあるだろうに。

「柿崎中尉」

「はい」

瞑想をしていたら、声を掛けられた。

思考を中断して、すぐに現場に赴く。父祖の代からの人斬り包丁では力不足。新しい現在の刀、プラズマ剣。正確にはプラズマセイバーというそうだが。閃が納得行くまで丁寧に仕上げてくれた、いい武器だ。

これと、パワースピアを駆使して、閃は戦う。

戦う事で、なんで侵略戦争なんて仕掛けて来ているのか、敵を知る事が出来るからだ。

今の時点では、プライマーは分からない。

くだらない理由で戦争を仕掛けて来ているには必死すぎるし。

弱者を嬲って楽しんでいるようにも見えない。

理由が分かれば。

その時は、より斬りやすくなるかも知れない。

閃も、何度か衝動を覚えた事がある。

父に家伝の人斬り包丁を渡されて、たまに振るうようになってからだ。

これを振るって、斬ってみたいと。

今は敵を殺していても、なんというか。それによって、得られるものが少ない。自分の技量は上がるが、それだけだ。

もしも、もっと敵を知る事が出来たら。

その時は、刀を振るう事に、より大きな意味が出来る事だろう。

それは剣士としての喜び。

今の時代に剣士なんてほぼいないが。

だからこそ、閃は。

本物になりたいと思っていた。

 

(続)