一矢二矢
序、ドローンの群れ
大阪周辺で、三日戦闘した。
各地で相当な劣勢に見舞われていた大阪のEDF守備隊だが、壱野達村上班が加勢することで形勢逆転。
状況の悪さを鑑みて、荒木班も現地に来てくれた事で。
一気に各地での戦闘を有利に出来た。
元々大阪基地も、負傷者と破損寸前の兵器類を修復できない程に波状攻撃を受けていたという事もある。
時間さえ稼げば、どうにかなる状況ではあった。
荒木軍曹は相変わらず良い腕だ。
見た事がない銃を手にしている。
オーキッドという型式の進化型に当たる新型らしい。近距離戦闘用のアサルトライフルのようだが。若干リロードに癖がある代わりに、火力がショットガン並みだという。使いやすいと言う事で、荒木軍曹は絶賛していた。お気に入りらしい。なお、大尉に昇進したそうだ。この周回だと最終的には少将まで行ったはずだが。このタイミングで大尉になったのは、壱野の記憶より早い。
また、昇進したばかりの小田少尉も、グラント型の新型ロケットランチャーを貰っている。これはとても扱いやすい上、取り回しも良い品らしい。事実、戦場では非常に見事な活躍をしていた。
はて。
元々一騎当千の面々だったが。
前よりも動きが良くないか。
同じく浅利少尉も、プロフェッサーから回された新型狙撃銃KFFを使っている。ライサンダーよりも軽く、取り回しが良い狙撃銃だ。これに関しても、扱いは全く問題ないらしい。
相馬少尉は、エイレンに乗っているが。一華のものよりも重武装の様子だ。新型のレーザー自動照準型砲を装備している様子で。これで多数の怪物を一気に相手取る事ができるらしい。
ただしその分重いので足回りに若干の癖があるとかで。一華は少しだけ使って見たあと、今のが良いと言った。まあ、スペシャリストの事だ。好きにやって貰うのが一番である。
何度目かの戦闘を終えて、軽く荒木班と話をする。
周囲は、怪物の死体の山だ。
牽引用の車両が、以前破壊された戦車を牽引して基地に戻っている。今の戦いで生還出来た兵士達が、敬礼してその場を離れていった。
「新人をスカウトしたそうだな」
「はい。 三城が軽く手合わせしましたが、凄まじい武術の達人のようです。 ウィングダイバーとして恐らく最前線で戦ってくれると思います」
「東京基地の訓練だと少しもたつくかも知れない。 俺が面倒を見ようか」
「……よろしいんですか?」
頷く荒木軍曹。
三城も、興味を持った様子だ。
それは当然だろう。
荒木軍曹は、とにかく長所を伸ばして激励して行く事に優れている。実際、荒木班の三人は、みんなそれぞれ問題を起こして荒木班に回された兵士達だ。その三人が、ここまで強くなれたのは。荒木軍曹が丁寧に接して、長所を引きだしたからである。
三城が身を乗り出して、説明する。
「ウィングダイバーの戦い方よりも、フライトユニットを生かして武術を更に伸ばすような戦い方を教えてほしい」
「武術か。 三城が時々やる、あの壁を駆け上がったり敵の行動さえも利用して反動で戦うような奴だな」
「そう。 多分空中戦よりも、地上戦で飛行能力を補助に使った方が、全然強くなると思う。 プロフェッサーが今、プラズマ剣を開発しているみたいだから、それを持てば鬼に金棒」
「……分かった。 俺の専門の外だが、試してみよう。 そのプラズマ剣が支給されたら、俺の所に来るように、東京基地に掛け合ってみる」
こくりと三城が頷く。
荒木軍曹が面倒を見てくれるなら完璧だ。
通信が来る。
千葉中将からだった。
「荒木班、村上班、凄まじい戦い、感謝する。 本当に一分隊で一個連隊に匹敵……いやそれ以上だな」
「いえ。 それよりも、何かありましたか」
「うむ。 欧州に向かっているマザーシップが、市街地近くでドローンを吐き出し始めている」
「!」
危険な状態だ。
欧州は、名将といえるバルカ中将が指揮を執っているが。あの人は死病に侵されていたはずだ。
無理をさせると寿命に関わるかも知れないし。何よりも、同じレベルの猛将だったタール将軍がこの周回では既に戦死している。
名将でも死ぬ。
それを考えると、あまりもたついてはいられない。
「既にヘリを送ってある。 到着し次第、村上班は現地に向かってほしい。 荒木班は、そのまま近畿での戦闘を続行してくれ。 エイレン型の戦闘データも更にとっておきたい」
「イエッサ」
「近畿での戦況をある程度改善したら、荒木班も欧州に向かってほしい。 どうも敵の戦力が、次に欧州を狙っている様子だ。 怪物の攻撃が激しい。 欧州で戦闘している精鋭、スプリガン隊も苦戦しているようでな」
スプリガンか。
この時点で、多分ジャンヌ大佐の筈だが。あの人なら、滅多な事でやられはしないだろう。
なお調べた所、運が悪かったのか三城に事あるごとに突っかかっていた河野は既に戦死していた。
この辺りはバタフライエフェクトだろう。
元々新人を盾にして自分が生き残るようなことばかりしていたようだし。ジャンヌ大佐が、早々に見切りをつけたのかも知れない。
その辺りは、詳しく調べないと分からないが。
ヘリが来た。
大型移動車もろとも、その場を離れる。
それにしても、荒木軍曹が柿崎閃の面倒を見てくれるというのはありがたい。基礎的なフライトユニットの使い方だけ覚えたら、すぐに戦場に行けるだろう。三城の話を聞く限り、相当な使い手だ。天才と言ってもいい。ストーム1の人員を増やせれば、それだけ戦闘を有利に出来る。
何より、話を聞く限り。
柿崎という娘の戦闘スタイルは、アンドロイド戦で大きな力を発揮する筈だ。
三城以上に近接戦では力を出せるかも知れない。頼もしい話だ。
むしろフライトユニットよりフェンサーの方で力を発揮できるのでは無いかと一瞬思ったのだが。
しかしながら、フェンサーはちょっと癖がある兵種だ。
訓練が終わり次第、荒木軍曹が面倒を見てくれるし。
その時に、結論は出るだろう。
大型輸送ヘリから、大型輸送機に乗り換えて、欧州に急ぐ。この時期は、まだまだ空路が生きている。
ドローンが好きかってしているが。それでも全ての空路を封鎖するには至っていない。
欧州まで丸一日掛けて移動。
北米に降りて途中で補給して。それから欧州に。
移動中に聞かされる。
既に、マザーシップがフランスに上陸。
各地で怪物の大攻勢が始まる中。少数の守備隊が苦戦をしているということだ。
バルカ中将が南部の戦線で必死に敵の撃退を続けていて。主力にはスプリガンも混じっているらしい。
それであれば、少しなら何とか出来るだろうが。
敵の指揮官は、明らかに前より出来る奴だ。
既に金銀の怪物を要所に投入するくらいの事は考えていかねないし。
過信は禁物だった。
輸送機から降りると、すぐに大型移動車で行く。疲れているだろうに、尼子先輩は文句一つ言わずに、部隊を運んでくれる。
途中で基地によって、一個小隊の歩兵を乗せる。
まだこの時期は、小隊規模の戦力は普通に出てくる。戦闘の規模次第では、師団規模の兵力が出るかも知れない。
途中で、足を止める。
大量のドローンだ。
今回は壱野は、愛用のライサンダーだけではなく、速射式のスナイパーライフルを持ってきている。
ドローンを確殺する事もあって、KFFシリーズだ。
これも以前使ったときより性能が格段に上がっていて、支給されたものの火力は非常に大きい。
装甲が厚いタイプツードローンも落とせるだろう。
なお、何隻かのマザーシップ周辺には、既にタイプツードローンが確認されているらしく。
前の周回と同じく、その名前が付けられていた。
既に敵の動きは記憶とかなり違っている。
日本でテレポーションシップが記録的な数撃沈されたことが大きいのだろう。バタフライエフェクトで。一度塗り替えられた過去が、更に塗り替えられているのだ。
だが、知らない戦場で、知らない戦いをするのはいつものこと。
怖れる事など、何もない。
全ては、だいたいの目安に過ぎない。
今回は、敵がアンドロイドを投入してくる事。
これの初期消火に失敗して、EDFは早期に大きなダメージを受けること。
これくらいしか、はっきりしている事はないと見て良いだろう。
街の上空を飛んでいるのは、タイプワンドローンか。
かなりの数がいるが、この程度なら敵ではない。
すぐに展開する。
通信が来る。
ルイ大佐だった。
「此方欧州方面EDF、ルイ大佐。 日本で大量のテレポーションシップを落としたエース部隊というのは君達か」
「はい。 村上壱野中尉です」
「む、若さの割りに貫禄があるな。 戦闘記録を見たが、凄まじい働きぶりだ。 期待しても、いいだろうか」
「お任せを。 最激戦地に配備してください」
頼もしいと、ルイ大佐は繰り返した。
若干太めだが、それは能力と関係無い。前周では勇敢にコロニストに立ち向かい、散った士官である。今回はまだ生存していて、フランスのEDFの一部部隊の指揮を執っているようだった。まあこれは、時期的なものもあるのだろう。
「その先の街に生存者が多く残っているが、ドローンが多数群れていて脱出できない状態だ。 その街のドローンを片付けて、退路を確保してほしい。 私も、新配備された対空車両、KG6の部隊とともに其方に向かう」
「リーダー」
「……」
この後。
ルイ大佐は戦死する。
今回の周回では、コロニストに殺されるのでは無い。
KG6はニクスの機関砲を歩兵戦闘車の車体に搭載した簡易型ニクスで、その建造費はニクスの十分の一以下。既に各地に配備が始まっていて、対空戦闘で著しい成果を上げているのだが。
大量のドローンを駆逐するべく活動していたルイ大佐は、マザーシップに狙われ。
主砲で消し飛ばされてしまうのだ。
これについては覚えている。
塗り替えられた世界のものと時期はずれているが。そうなる可能性は極めて高い。何もかもがズレ始めているのは、既に分かっているのだから。
「分かりました。 KG6部隊の進路を教えてください」
「む?」
「この街のドローンを片付け次第、合流します。 効率よくドローンを排除しましょう」
「ふむ、心強いな。 分かった。 頼むぞ」
無線を切る。
そのまま、射撃を開始。ドローンが反応して向かってくるが、元よりタイプワンなど敵ではない。
装填。射撃。撃墜。それをひたすらに繰り返す。レーザーを放ってくるタイミングももう分かりきっている。
今更苦戦する事もない。
弐分はNICハンドキャノンで、三城は電撃銃で、それぞれドローンを叩き落とし。一華はエイレンのレーザーで次々とドローンを撃墜している。他の兵士達も、それを見て勇気づけられ。
対物ライフルで、次々ドローンを落とす。
それなりの数が集ってくるが、エイレンの火力も凄まじいし。何よりも此方が手だれている。そのまま、集まるだけ駆除してしまう。
戦闘は、十五分ほどで終わった。
「よし、前進する。 負傷者の手当てを急いでほしい」
「前進っ!」
大型移動車にまた乗り、そのまま移動。その先にもドローンが群れていたが、そう大した数では無い。
ライサンダーZで、立射のまま、いわゆる偏差射撃で数q先のドローンを撃墜する。ドローンが反応して飛んでくるまでに、更に数機を落とす。
兵士達も度肝を抜かれているようだが。
そんな神経では、今後生きていけない。
そのまま、皆で分担してドローンを撃破し続ける。
「俺、今日だけで七機も撃墜した……」
「これは、このチームのメンバーは、皆後で勲章か?」
「……」
敵がわざわざドローンで市民を包囲して、逃げられないようにしているのには理由がある。恐らく、救援部隊を誘い出して、マザーシップでまとめて消し飛ばすつもりだ。
そうはさせるか。
マザーシップの先を取る。
可能な限りの速度で敵を片付けながら、急ぐ。エイレンのバッテリーも、早めに交換をしておく。
幸い、近くの基地で充填したばかりだ。
余程の無茶な数のドローンが相手でなければ、切り抜けることが可能だろう。
また一群を発見したので、撃破する。
兵士達も慣れてきていて、ドローンに対して果敢に攻撃する。対物ライフルは衝撃が凄まじいが、パワードスケルトンの補助もあって、兵士達は皆使いこなせている様子だ。あるいは、これもプロフェッサーが改善を指示しているのかも知れないが。いや、流石にそれが出回るには早すぎるか。
目的の街に到達。
ルイ大佐から、通信が来た。
「現地に到着したようだな。 ある程度ドローンを撃墜後、市民に避難を呼びかけてくれ」
「イエッサ。 すぐに対応します」
「此方ももうすぐ到着する。 まさかKG6の部隊よりも早く其方が到着するとは、思わなかったぞ」
「いえ……」
とにかく、一人でも助ける。
上空を我が物顔で飛び回るドローンと、戦闘開始。案の定群れて襲いかかってくるタイプワン。
レッドカラーはいないな。
無線を聞く限り、既に要所で確認され始めている様子だ。
インペリアルも、である。
このタイミングで出してくるとは、やはり敵の指揮官は戦術家気取りではないらしい。最初から、出せる戦力を惜しみなく投入し。もっとも勝率が高い戦法。圧倒的な物量で押し潰しに掛かる。それをやっているということだ。
圧倒的な大軍に戦術など必要ない。数で押し潰すだけだ。
軍勢の統率が取れていないとか、油断しきっているとか。そういう場合は隙が生じる事も多いが。
プライマーの部隊は、生物兵器にしても機械兵器にしても、殆どが「心なき兵器」である。精神を持つコロニストやコスモノーツはまだ姿を見せていない。
だからその恐れすらもない。
囮だろうドローンをひたすら落としていく。
一華も、まだ何も言ってこない。
いずれにしても、ぬるぬると動くエイレン型の足回りと旋回速度。それにレーザーの火力もある。
寄ってくるドローンは、文字通り次々に叩き落とされていく。
兵士達は、次々に花火と化すドローンを見て喚声を挙げるが。
その間に、一華に頼む。
市民達に呼びかける。
地下鉄に隠れていたらしい市民達が、わっと避難して、此方に向かってくる。兵士達に、避難誘導を頼む。
「戦闘はいいのか」
「我々と、ルイ大佐の部隊だけで充分です。 とにかく市民を守りながら、西に抜けてください」
「分かった! 恩に着る!」
「生き残ってください」
市民達が、わっと走ってくる。兵士達が、誘導を開始。逃げる市民の上空に来るドローンを、村上班の四人で次々に撃破する。
ドローンの数が減ってきた所で、無線が入る。
戦略情報部からだった。
現時点ではまだ少佐が通信を入れてきている。
「マザーシップが速度を上げました。 戦闘区域に向かっています。 現地の部隊は、対応をするべく急いでください」
「対応ってねえ……」
「いや、やり方は知っている。 大兄、いいな」
「ああ。 居座るつもりなら叩き落としてやる」
弐分が、ガリア砲に切り替える。
NICハンドキャノンでは、マザーシップの主砲周囲の構造体を破壊するには若干火力不足だ。
ほどなく、マザーシップが見えてくる。
その頃には、あらかたドローンの駆逐は終わっていた。
「急げ、急げ!」
兵士達が、逃げ惑う市民達を叱責している。残っているバスやら何やら。動く乗り物に詰め込んで、次々行かせている。
マザーシップはそれを嘲笑うように、街の上空に。
相も変わらずの巨大さだ。
そしてあれがまったく変わらぬ姿でいるという事は。
要するに、あれはプライマーの基幹戦力であって。あれ以上の兵器は、そうそうにはないという事なのだろう。
まだ主砲は展開していないが。
とにかく、急ぐ必要がある。
「前進する。 皆は市民の避難を続けさせてくれ」
「し、しかし一分隊で大丈夫か」
「問題ない。 マザーシップの主砲の攻撃範囲は意外と狭い。 この辺りだったら、主砲は恐らくは届かないが、ドローンは此方に向かって来る。 我々がドローンを落としそこねれば、皆の家族の所にドローンは向かう。 皆殺しにするためだ。 それを許さないためにも、我々が全て引きつける」
「分かっている。 絶対に許せない。 その場の堅守、頼むぞ。 村上班、精鋭の名を覚えておく!」
兵士達が敬礼し、更に市民の避難を急がせた。
壱野は敬礼を返すと、皆を急かして前衛に出る。マザーシップは、悠々と進んでいたが。向かってくる壱野達を見て、動きを止めた。
やはりな。
恐らくだが、一華の予想は当たっている。
過去にあのクラゲ型の大型船が情報を運んでいるのだ。村上班。未来ではストーム1だが。
それを警戒していると見て良い。
いずれにしても、大量のドローンを吐き出し始める。勿論、先には進ませない。
「敵のドローンの在庫を全て削り取るつもりで叩き落とせ! 皆、行くぞ!」
「おおっ!」
此処で、少しでも敵の戦力を削る。苛烈な戦いが、始まった。
1、歴史は変えられるのか
一華は記憶を辿りながら戦う。
記憶の全てが脳内にある訳じゃない。しかし携帯したメモリにはある。二つの周回での戦いの事は、あらかた覚えているが。弐分と三城は、記憶の混濁に苦しんでいるようだ。一華だって、記録を全て見て、後付で記憶したのである。
ともかく、欧州は近いうちに陥落する。
アフリカから来る圧倒的な大軍と。
何よりも、マザーシップの砲撃によるダメージ。
それに、アンドロイド軍団の襲来が原因だ。
ともかく、一つずつ要因を潰して、ダメージを削って行くしかない。そうすることでしか、勝ち目は産まれない。
一華は実の所、この周回では勝てないかも知れないと思っている。
あの事故を起こして、再び過去に行く事で。EDFは第七世代型の兵器を開発できる可能性が高い。
プロフェッサーに聞いているが、エイレン型の開発を進めた後には。
倉庫で埃を被っているプロテウスの強化改造を進め。
対怪物用の決戦兵器として仕上げるつもりらしい。
ただ、それには第七世代ではまだ足りないかも知れないと言う話で。或いは第八世代、第九世代になるかも知れないと言う事だ。
プロテウスは機動力と、怪物の群れを真正面から相手に出来る超火力、生半可な大型なら真正面からねじ伏せる装甲が売りの文字通りのスーパーロボットになる予定であるらしく。
確かに、エイレン型でもっとデータを取らないと、作成するのは難しいように思う。
いずれにしても、だ。
データが必要になる。
リアリストである事を自認している一華は、それを取るのは自分だとも思っている。
一華が活躍すればするほど、エイレン型のデータは集まる。
ニクスのデータが集まって、次世代のエイレン型がついに完成したように、だ。
他のバージョンのコンバットフレームも実戦配備が出来るかもしれない。
いずれにしても、プライマーの計画は、全て白紙に戻してやる。
凄まじい怒りが内在しているのが分かる。
前周の記憶は、データでしか見ていないが。それでもうっすらと覚えているのだ。
荒木軍曹達の悲惨な死。
世話になった、数少ない信頼出来る人達の死。
許せるものではない。
キーボードを激しく叩き、操作を続けながら、次々にドローンを叩き落としていく。マザーシップが落としてくるのはタイプワンだ。まだ様子見をしているという所だろう。文字通り、敵部隊が溶けて行く。
味方部隊の所にはいかせない。
レーザーがうなりを上げる。バッテリーはまだもつ。
「! 次のドローンが来るッスよ」
「何機だろうが叩き落としてやる。 タイプワンなどどれだけ来ても無駄だ!」
「リーダー、張り切ってるッスね」
「……そうだな。 だが張り切っているのは大兄だけではない!」
新武器を試すと、弐分が前に出る。
マザーシップが主砲を展開しないのなら、それをやってみる価値はある。
前に躍り出た弐分が振るったのは、巨大な刀だ。
電刃刀。
前々から、剣のフェンサー装備は存在していた。
その中で、弐分が要請していた刀のフェンサー装備が、ついに完成したのである。
見た目は折りたたみ式の超巨大な刀だが。
見ると、文字通りドローンを真っ二つに切り裂いている。
裂帛の気迫と共に、切り裂かれて爆発していくドローン。それを見て、リーダーと三城も殲滅速度を上げる。
一華は舌なめずりすると、バッテリーの容量を確認しつつ、エイレンでドローンを叩き落とす。
あの電刃刀という武器、中々たいしたものだ。
データを取っておきたい。弐分が電刃刀を使えるのなら、やはりあの柿崎という子はウィングダイバーで良いのかも知れない。
凄まじい速度でドローンが溶けて行く中、無線が来る。
ルイ大佐だ。
「ケブラー隊、現着! マザーシップめ、好きかってをこれ以上はさせんぞ!」
「ルイ大佐、此方と合流しましょう。 マザーシップは強力な主砲を持っています。 ケブラーの足回りを壊されると、逃げ切れないかも知れません」
「うむ、分かっている。 それにしても、噂以上の手際だな」
マザーシップが、更に大量のドローンを吐き出す。それだけではない。周辺の街から、ドローンが集まって来ている様子だ。
KG6ケブラーが来る。
機能的というか、機能全振りの姿だ。
歩兵戦闘車がニクスの機銃を積んでいる。
だが、機能を満たしていれば良い。
対空弾幕は凄まじい火力で、寄ってくるドローンを次々撃墜していく。なかなかの性能だなと、見ていて思う。
ニクスが鈍重な足回りで、怪物に接近されるとひとたまりもなかったことを考えると。
ケブラーを大量生産して、前線に並べて、火力の滝で敵を圧倒する方がやはり余程いいように思える。
いずれ機銃では無くレーザーを搭載したケブラーを開発すれば。
更に敵の殲滅効率が上がるかも知れない。
無線が流れてくる。
プロパガンダ報道だった。
「報道です。 EDFは敵円盤の撃墜方法を確立。 数日で、数十隻の円盤を撃墜する事に成功しました。 これにより、敵は相当なダメージを受け、各地で侵攻が止まっています。 元々母星から遠く離れて遠征してきている敵です。 消耗戦になれば、此方が有利です。 戦況は優勢と言えるでしょう」
「バカを抜かしおるわ……」
ルイ大佐が、指揮車両らしい一回り大きいケブラーの中から吐き捨てた。
そもそも、テレポーションシップが明らかに自重より多い物質……つまり大量の怪物を吐き出しているのは分かりきっていた。それこそ開戦時からだ。
つまり敵は事実上、遠征などしていない。
本国から、好き勝手に物資を送り込む事が出来る。
消耗戦になっているのを認めたのだけはまだマシなのだろうが。
それでも、人類が著しく不利なことに変わりはない。
「ケブラー隊、死力を尽くせ! ドローン共を叩き落とせ!」
「マザーシップに動きがあります!」
「!」
上を見上げる。
ドローンが叩き落とされ続け、業を煮やしたらしいマザーシップが主砲を展開し始める。
リーダーが叫んだ。
「急いで移動を! あの主砲に巻き込まれたら、エイレンでもひとたまりもありません!」
「ちっ、そのようだな。 全機、急いで移動! 逃げ切れ!」
「ドローン多数! 特攻してきます!」
ケブラーを逃がさないと、多数のドローンが自爆覚悟で突っ込んでくる。こんな動きを、ドローンがして来るのか。
ケブラーの機銃の火力は凄まじいが、それでもまっすぐ突貫してくるドローンの前にはどうしようもない。
次々と、四両いるケブラーが被弾。
足回りを潰されて、擱座する。
その間に、主砲が展開を続けている。
「やむをえん! ケブラーを捨てて脱出しろ!」
「ルイ大佐!」
「指揮車両は集中的にやられた。これは脱出できそうにない」
一華は突貫。
歴史を、変える。
ケブラーから出て来て逃げ出す兵士を横目に、エイレンでケブラーの指揮車両を押す。ワイヤーを引っかけて牽引している暇は無い。兎に角、無理矢理にでも押し出して、主砲の直撃範囲から抜ける。
「バカが、よせ! お前も死ぬぞ、エイレン乗り!」
「ここで貴方が死んだら、フランスのEDFの北部部隊は瓦解するッス。 死んで貰ったら困るッスよ!」
「……くっ」
「リーダー! 急いで!」
リーダーは、既にマザーシップ主砲に攻撃を開始。構造体の破壊を始めている。
マザーシップ主砲を支える三つの構造体は、主砲へのダメージを吸収でもするのか。あれがある限り、主砲にダメージは通らない。
リーダーが手にしているライサンダーZ。それに弐分の手にしているガリア砲。この二つの超火力なら、構造体を粉砕できるはずだ。
三城は雷撃銃で、特攻戦術を掛けて来ているドローンを次々叩き落とす。放棄したケブラーから逃げ出した兵士達と、その随伴歩兵は、慌ててリーダー達と合流。一華はかなり無理をさせて。指揮車両を押し出しつつ。
頼むから、間に合ってくれよとぼやく。
構造体が、二つ立て続けに粉砕される。
更に、もう一つの構造体も破砕された。
マザーシップの主砲が光り始めている。主砲発射の兆候だ。だが、リーダーは主砲に攻撃を集中。
他の兵士達も、それに習う。
マザーシップの主砲が放たれる。緑の球体。知っている。あれが世界中を破壊し尽くしたのだ。地面に着弾すると、凄まじい火力で周囲を薙ぎ払う。
だが、主砲を支える構造体へのダメージも原因なのだろう。その火力は極めて限定的で。真下にいる擱座した、無人のケブラーを粉砕するのに留まっていた。
リーダー達は、無事に爆風の範囲外に逃れ。
エイレンは激しく揺動したが。一華も、頭をあやうく前面モニタにぶつけそうになる程度で済んでいた。
モニタが幾つかやられたが。
エイレン自体は、まだ動く。
急いで機能を確認。
「若いのに、俺みたいなロートルを庇うんじゃあない!」
「そう言われても、ルイ大佐、これでみんな助かったッスよ」
「新鋭機のケブラーは全滅に変わりないだろうが! それにマザーシップの主砲は……ん?」
マザーシップの主砲が、引っ込み始める。
露骨にダメージを受けている。ひびが入り、各所から火も噴いていた。
良い傾向だ。
あれは明らかに、マザーシップの主砲への攻撃手段を知っていると認識した動きだ。以降、余程の事がない限り、主砲の展開はしてこないはずだ。
恐らくだが、EDFの抵抗能力が完全になくならないかぎり、もう主砲を使おうとはしないはずである。
記録媒体の中に、マザーシップ撃墜例があったが。
その内一つは、主砲発射の瞬間に主砲を破壊し。そのエネルギーが逆流しての結果のようだった。
今回は、恐らくタイミングが合わなかったのだろう。攻撃位置が悪かったのかも知れない。
だが。貴重なデータをとる事が出来たのは事実だ。
エイレンで、皆の所まで指揮車両を押し出す。慌ててアーク切断機をエイレンのバックパックから持ち出した兵士が、ルイ大佐を助け出す。
太めのルイ大佐は、煤だらけになって、大昔のコントみたいな髪になって出て来た。兵士達が笑いを堪えるためか、必死に視線を逸らすが。
その方がなんぼでもいい。
この人が死んでいたら、欧州の戦線はそれだけダメージが大きかったのだ。安価な兵器であるケブラーよりも、人命である。
「何をわらっとるか! まだドローンどもはいる! 戦え!」
「し、失礼いたしましたっ!」
「マザーシップ、上昇していきます!」
「ちっ。 ドローンの残党を蹴散らし次第、市民の救援を行う。 その後は引き上げだ」
ルイ大佐は、自身も大げさな大きさのショットガンを取りだすが。それではドローン戦には向いていないだろう。
ともかく、残り少ないドローンを手分けして蹴散らして行く。
煤だらけの軍服で、それでも勇敢に戦うルイ大佐は立派だ。それに、此処で戦死する運命だった可能性を、覆す事が出来た。
小さな変化だが。
確実にこれで、戦況は少しでも好転するはずだ。
「ドローン、残り少数!」
「よし、お前達は手分けして市民の避難を手伝え! 通信兵は、パリ基地に連絡。 確か欧州に向かっているマザーシップは二隻の筈だ。 もう一隻を迎撃するために、部隊を用意させろ!」
「イエッサ!」
「悪いが村上班、もう少し手伝って貰うぞ。 もう一隻マザーシップが来る。 問題は何処を狙って来るか、だが」
程なく、ドローンは全滅。街に静寂が戻る。
戦略情報部が、通信を入れてきた。
「マザーシップナンバースリー、大気圏外に脱出しました」
「このままだと被害が拡大する一方だ。 奴を撃墜する方法は何か戦略情報部で考えていないのか」
「核を使うしかないと判断していたのですが、その核攻撃能力は残念ながら既に失われています。 しかしながら、マザーシップは地上からの攻撃を嫌う傾向があります。 今日の戦闘のデータを見る限り、恐らく主砲には強度的な問題があり、そこを突かれるのを極端に怖れているのでしょう」
「いずれにしても、地上部隊でやるしかないということか。 必ず撃墜してやるぞ、くされ円盤!」
大友少将はいつも怒っているように見えたが。
ルイ大佐は、何だか本当にいつも怒っている様子だ。
それに、まずは部下を先に逃がして、最後まで自分は踏みとどまる覚悟もしていた。この辺りは立派だと思う。
「市民の避難、完了です。 負傷者は出ましたが……」
「この戦果なら上々だ。 それで、もう一隻のマザーシップは」
「マザーシップナンバーナインです。 現在、ノルマンディーの防衛線を通過中」
「……パリ基地から主力部隊を出す。 叩き落としてやる。 出せる部隊は全て出せ!」
ルイ大佐は張り切っているが。
どうも嫌な予感がする。
そういえば。
思い出した。今週ではここで。前周では、確かこのマザーシップナンバーナインとの戦いで戦死したのだルイ大佐は。
今、歴史は変えたが、
また新しく、歴史の危機が迫っている。
だが、記憶を思い出す。
未来から持ち帰った記憶だと。確かこの戦いは本来三ヶ月ほど後に起きるはず。それに、そもそもとしてドローンによる攻撃のダメージが大きく。パリ基地から迎撃戦力をそれほど出せない状態だった筈だ。
状況がだいぶ違う。
今ならば、勝機はあるかも知れない。
「リーダー」
「分かっている。 荒木班が間もなく合流すると聞いている。 ナンバーナインが来るという事は、コロニストを落としてくると見て良い。 今回は、プロフェッサーが装備を強化しているとは言え、若干分が悪い。 エイレンの整備を急いでくれ。 荒木班と連携して、更にエイレン二機での攻撃なら……」
頷くと、すぐに大型移動車に。
後は、各自解散して、部隊ごとに動く。
長野一等兵は、傷を受けているエイレンを見て、大きく嘆息した。戦闘の様子は見ていたのかも知れない。
「随分と無茶をしたな」
「いや、申し訳ないッス。 ああしないと、ルイ大佐はお亡くなりになっていたので」
「とにかく、応急処置はしておく。 後方の装甲はそれでも直しきれないから、戦闘時は注意してくれ」
エイレンから降りて、実際に見ると酷く傷ついていた。
エイレン特有の青い装甲が、かなり色を失っている。
この電磁装甲、ダメージを受けると、こんな感じになるらしい。何度か見たから、それは知っている。
とにかく整備を始めると、長野一等兵はエイレンにさわらせてくれないので。横になって休む。
その間に、大型移動車は。パリに向けて移動を開始していた。
「またマザーシップが来るんだって? 大変だねまったく……」
「先の戦いでは、ダメージを与える事が出来ました。 無策のまま来るとは考えられませんね」
「そうだね。 僕も敵が同じ事を繰り返すと考えるのは楽観だと思うよ」
「基地で補給を済ませましょう。 急いでください」
了解と言うが。
それでも、尼子先輩はあまり速度は上げなかった。まだGPSが生きているので、カーナビは機能している。
廃墟と言っても、誰かが飛びだしてくるかも知れない。それを考慮して、安全速度を守っているようだった。
戦争なんかなければ、この人はいいドライバーだったのかも知れない。
ともかく、一度パリ基地に帰投。
既に荒木班が来ていた。流石に柿崎という子はまだいない。まだ東京基地で訓練中だろう。
荒木軍曹と、リーダーがすぐに情報を交換している。
「壱野、ルイ大佐を救ったという話だな。 それにマザーシップにダメージを与えたと聞く。 昇進の話が近く来る可能性が高そうだ」
「目立つ構造体があったので撃ってみたらダメージが入りました。 あの構造体を破壊する事で、主砲にダメージが通ると見て良いでしょう」
「有益な情報だ。 それを引き出せたことは大きい。 相変わらず、真の兵士だな」
「ありがとうございます」
荒木軍曹は、滅茶苦茶褒めてくれる。
一華に対しても、ルイ大佐を救ったことをまずは褒めてくれた。
この辺りは、荒木軍曹の指揮官としての妙なのだろう。
それでいながら、あくまで軍曹と呼んでくれと。兵士の目線も忘れていない。荒木軍曹こそ、真の兵士のように思えるが。
まあ、ガチ勢とか自称する輩がただのアホである事が多いように。
逆に出来る人は、自分を過大評価しないものなのだろう。
「パリ基地から、どれほどの戦力がでそうですか」
「現時点では、タンク8両、ニクス四機、それに俺たちのエイレン二機。 これにくわえて、先の戦闘で失ったが、有用性が確認できたケブラー12両が出るようだ。 いずれも先進科学研からきたデータを元に、改良を加えた型式ばかりで、戦闘力は高い。 兵士は500名ほどが出るようだな。 前哨基地から、更に部隊が加わる可能性もありそうだ」
「……それならいけるかな」
「どうした?」
コロニストの事だ。
リーダーも、別に口を滑らせたと顔に出すまでもなく。
そのまま、淡々と荒木軍曹に応えていた。
「いえ。 今回の戦闘では、立て続けにマザーシップが来ています。 何かあるかも知れません。 警戒をした方が良いと思います」
「分かっている。 プライマーの戦術は巧妙極まりない。 テレポーションシップも今日も撃墜例が出ているそうだが、やはりかなり撃墜が難しくなっているそうだ。 ただ、高速移動しながらの怪物投下はリスクが大きい様子で、そもそもEDFのいない所で怪物を展開するケースが増えているようだな」
「市街地への被害は、それならば抑えられるかもしれませんね」
「ああ、それだけは救いだ」
一度休憩所に出向く。
500名程の兵士が出るにしても、ニクスをはじめとした戦闘車両が出るとなると、準備には時間も掛かる。
一華は休むように言われたので、遠慮なくそうさせてもらう。
貰った個室で横になる。
一応少尉だから、士官用の部屋か。
後にはそんな事は言っていられなくなるのだが。
ぼんやりしながら、思い出す。
コロニストか。
初期のブラッカーの主砲では、倒し切れないことも多かった。装備している武器も強力だ。
前はプライマーの指揮官がアホだったから、北京の決戦で負けた後は。それこそコロニストは使い捨ての肉盾として扱われ、有効活用されなかったが。
明らかに敵の指揮官が代わっている今では、多分違う。下手をすると、違う装備を持って出てくるかも知れない。
プライマーの武装は、別にコロニストとコスモノーツで、それほど差はなかったような気がする。
コスモノーツはあの宇宙服を兼ねている服で、身体能力を上げている節があったが。装備そのものの性能はコロニストのものとさほど変わらなかった。
コロニストもコスモノーツも、オートエイムつきのアサルトライフルとショットガンというとんでもない装備を使って来ていたし。
今後は、歩兵用にもっと強力な装備を出してきてもおかしくない。
アンドロイドが身につけていたブラスターのような、体が自壊しかねない兵器は流石にないだろうが。
いや、コロニストの場合。持たされてもおかしくはないか。
「……」
目が覚めて。頭を振る。
考え事をしていたから、最低限しか疲れは取れなかった。
ともかく、外に出る。エイレンは、長野一等兵が出来るだけの整備はしてくれていた。ダメージも立派なデータだ。
それに、今までの戦果を考えれば。戦略情報部も、先進科学研にエイレンが壊れても新型を回すように言ってくるはず。
強いていうなら、出来ればそろそろ戦闘用ドローンの使用を解禁してほしいほどなのだけれども。
流石にそれは、厳しいか。
「おお、長野一等兵。 流石ッスね」
「あまり無理はさせるなよ。 またマザーシップが来ているんだろう」
「ナンバーナインって話ッスね。 「十隻いる」うちの九隻目。 まあEDFが勝手に名付けた事ッスけど」
「あんな巨大なものが十隻も。 いずれにしても、まともに人間がやりあって勝てる相手じゃない」
それに、とエイレンを見ながら長野一等兵は言う。
これを作ったのは天才じゃないと。
「これは明らかに、データを蓄積した結果産まれたいわゆるオーバーテクノロジーの産物だ。 作った奴は未来からでも来たのでは無いのか」
「あー……」
「冗談だ。 いずれにしても、この装備は不可解すぎる。 そういう装備は、どんな不具合を起こすか分からない。 それだけは覚えておいてくれ」
流石だ。
本職だけあって、見抜いているか。
長野一等兵のように、見抜けている人間が他にもいるかも知れない。その場合は、色々と面倒くさい事になりかねない。
ほどなくして、部隊の陣列が整う。
前周はデータによるとタンク中心の戦力で挑んで、初出現したコロニストに蹂躙されたと言う事だが。
今回は戦力が根本的に違う。
ともかく。怖がりすぎるな。
自分にそう言い聞かせて、一華はエイレンに乗り込む。このエイレンも、段階を追って強化していくそうだが。
戦車隊を先頭に、部隊が出立する。
歩兵は主に大型移動車に分乗。ケブラーも、大型移動車で現地まで燃料を節約するようだった。
さて、此処からだ。
このタイミングでプライマーがコロニストを投入してくるとしたら、それが吉と出るか凶と出るか。それは分からないが。
とにかく、応戦して。撃破出来るようなら、撃破してしまう他無かった。
一華にできる事は限られている。それでも、あの未来を避ける為に。ベストは尽くさないとならない。
出撃する人員の数は兎も角、兵器の質は前回コロニストと交戦した時とは比べものにならないが。
油断だけはしてはならなかった。
2、ずれはじめる歴史
ノルマンディー。第二次世界大戦最大の激戦地の一つだが。其処から皮肉にも上陸してきたマザーシップナンバーナインは、大量のドローンを伴いながら南進。幾つかの街を通り過ぎながら、我が物顔に進んでいた。
空軍に対しては、ドローンを積極的に展開。
元々航空機はどうしても戦闘力があっても防御力に欠ける兵器で、文字通り光速で飛んでくるレーザーの雨の前にはどうにもできないし。積極的に衝突を狙って来るドローンは相性が最悪である。
一機一億ドルする事もある航空機に対し、プライマーのドローンはあからさまな低コストで製作され。これが空を覆うような数で迎撃してくるのだ。航空機がマザーシップに近づけないのも道理だ。
更には、ミサイルの類も大量に飛んでいるドローンに当たって中途で爆発してしまう事が多く。
結局、地上部隊で接近するしかないという結論に至る。
これに加えて三城は知っている。
マザーシップの主砲の弱点を。
というか、つい先日の戦闘で、EDF全体に共有された。今後、敵マザーシップは抵抗力が沈黙するまで、主砲を出す事は出来ないだろう。
この早期にこの状況を作れたことは大きい。
問題は、敵の指揮官は黙って殴られてくれるほど優しくもないしアホでもないという事だ。
必ず対策をしてくる。
それに、備えなければならなかった。
プロフェッサーの言葉が真実だとすれば。
恐らくだが。プライマーは歴史を好き勝手に変える事が出来る。
それを担っているのは、未来で見たあの巨大なクラゲのような船だろう。
クラゲが好きな三城としてはあまり愉快な話ではないが。
それでも、あのクラゲ型巨大船を、どうにかしなければならないのも、また事実だった。
欧州での連戦になるが。
それ自体は、別に何とも思わない。
むしろ、アンドロイドが最初に欧州に出現して。それをどうにも出来なかった事の方が不愉快だ。
最前衛は荒木班が。
中軍に村上班が入る。
最前衛に荒木班が入ったのは、政治的なアレコレらしい。
村上班にばかり手柄を立てさせると人事のバランスがどうこうというのが理由だそうだ。
ルイ大佐が馬鹿馬鹿しい事だとぼやいていて。
バイザーで、ミーティングの後に聞かされた。
いずれにしても、荒木班にはエイレンもいるし。なにより荒木軍曹達の実力は良く知っている。
心配は、していない。この程度の戦力が相手なら、である。
問題は、この後だ。
ナンバーナインがどう動くか。コロニストどころか、すっ飛ばしてコスモノーツを落としてくるかも知れない。
いずれにしても、警戒はしなければならなかった。
前哨基地から合計六両の戦車が合流。更に歩兵も増える。
「此方荒木班。 タイプワンでは無いドローンを確認」
「映像を確認します。 少数確認されている、マザーシップの周囲に良く展開している大型強化ドローンです。 タイプツードローンと呼称しているタイプです。 性能はタイプワンに比べ、速度は遅いものの重装甲で、火力も高くなっています」
「了解。 後続部隊の到着を待つ」
「敵の動きに注意してください」
戦略情報部の少佐と、荒木軍曹が話をしている。
そのまま全軍で前進。何両かいる補給車が生命線だ。戦車部隊も、急あしらえでバージョンアップしたものも目立つ。
ただし、怪物相手には、存分にやれるはずだ。
前線に展開。
そこそこの大きな街に到着。
その空は、蓋をするようにマザーシップが展開していて。
その周囲には、タイプツードローンが多数いるようだった。
はて。
α型がいるが、銀の奴だ。
プライマーは、茶色のα型と、銀のα型を、同時に出してきているのか。確かに性能は似ているが。
兵士達が、マザーシップの大きさ。どうしてあの大きさで浮くことが出来るのかにおののいている。
この時期はまだ民間から無理矢理兵士を徴収していなかった筈だが。
現場の兵士皆が、マザーシップを見た事があるわけもない。
更に、ドローンに対しても知識が少ない兵士が多い。
ルイ大佐が、指揮車両になっている装甲をガチガチに強化したニクスから、声を張り上げていた。
「臆するな! まずは敵の護衛戦力を蹴散らしつつ、マザーシップに接近する! 奴のうすらデカイ主砲は前回の戦いで、張り子の虎も同然だと分かった! 接近して、前のマザーシップ同様に追い払ってやる!」
「おおっ!」
「EDF! EDF!」
「勇気を振り絞れ! 機械どもになくて我々にあるのは、勇気だ! 精神論だけでは勝てないが、時には勇気が武器になる!」
ルイ大佐が、攻撃開始を指示。
今回は多数のニクスとケブラーがいる。
大兄も、早速ドローンを攻撃開始。ドローンも反応して寄ってくるが、ニクスとケブラーの対空砲火で射すくめられ、近付くことも出来ない。これは緒戦は良い感じだ。怪物も寄ってくるが、それは戦車隊の出番である。
歩兵部隊も、ビークルとともに戦闘を続けている。
今の時点では、ウィングダイバー隊も来ている。流石にスプリガンはいないようだが、それでも戦闘末期のように、劣悪な技量のものは殆どいなかった。
ドローンを削り、近寄ってくる怪物を蹴散らしながら、少しずつ進む。同道しているキャリバンが、負傷者を収容して手当をしている。場合によっては後方にさがる。
確実に前進を開始。
マザーシップの真下を取る。
今日の大兄は顔がかなり険しい。
まあ、三城としても気持ちは同じだ。
プライマーの出方が分からない。
歴史を変えれば、何がどう変わるか、分かったものではないのだ。
そのまま前進を続け。
怪物を排除しながら進む。
早い段階で、タイプツードローンは撃破していく。大兄にとっては、動きが遅いタイプツーはむしろカモだ。
ただ兵士達は、大兄の使っているライサンダーZを見て、その射撃音を聞いて。流石に青ざめていた。
なんだあのばかでかい対物ライフル。
そう呟いているのも聞こえる。
パワードスケルトンがなければ。とても扱える代物ではない。大兄以外だったら。
プロフェッサーは、いずれ性能据え置きで小型化し。
更に強力な火力を、同じ大きさと反応で実現したバージョンアップ版を作ると確約してくれていたが。
それも、プロフェッサーの所にいる研究者達が、データを元にやっていくのだろう。
「ドローンの駆除、90%!」
「怪物は街を立体的に移動して迫ってくる! 戦車隊の死角を、歩兵でカバーしろ!」
「全員のバイザーに、街の地図を転送しておくッスよ」
「おお、村上班、有り難い。 皆、この地図を参考に、奇襲を防げ!」
ルイ大佐が、無線を頻繁に飛ばしてくるが。五月蠅いだけではなくて、きちんと指示をしてくれている。
またルイ大佐のニクス(指揮車両だけあって二人乗りの特別製らしい)は、きちんと活躍をしている。かなり前衛に近い位置で、怪物を機銃で薙ぎ払っていた。
怪物も、まもなく姿が見えなくなってくるが、まだいる。
プラズマキャノンを、進軍先の地面に叩き込む。
わっと、怪物が溢れてきた。
伏せていた、と言う事だ。
荒木隊の、相馬機のエイレンが即応。レーザーで、溢れてくるα型を焼き払う。待ち伏せに気付けなかったら、被害は小さくなかっただろう。
戦車隊も即座に展開して、縦列で射撃を浴びせ、α型を蹴散らす。
兵士達の士気は低くない。
練度も。
そうなると、此処からか。
マザーシップがわざわざ出てくるのは、節目だからだ。この段階でコロニストが出現しても、コスモノーツが出現しても、かなり状況は悪化する。対応に追われている間にアンドロイドが出現したら最悪だ。
大兄が、荒木班と通信をしている。
「助かったぞ。 相変わらず神がかった勘だな」
「いえ。 それよりも、周辺のスカウトの反応が鈍いですね」
「こ、此方スカウト17!」
怯えきった声。
一気に緊張が走る。
「宇宙人です! 宇宙人を見ました!」
「おいおい、俺たちが戦ってるのはエイリアンだぞ。 今更……」
「いえ、どうもここ数日、宇宙人らしき生物が目撃されています」
小田少尉に対して、戦略情報部の少佐が通信を入れてくる。
二足歩行。腕は二本。顔には二つの目玉。人間に酷似しているが、十メートルもある巨体。
そして、そこからが違った。
「銀色の鎧を身に付けているとあります」
「銀色の鎧、だと」
「鎧を身に付けているものと、緑や赤の体色で体に装備を埋め込んでいるものがいる様子です。 恐らく鎧を身に付けているのは、精鋭部隊でしょう。 手にしている武器も違うようです」
「……皆、警戒しろ。 未知の相手には全力でまず攻撃を叩き込め。 それが鉄則だ」
ルイ大佐が、兵士達に言い聞かせる。この無線は、ルイ大佐も当然聞いているのだ。
兵士達は、エイリアンと聞いて不安そうにしているが。不安なのは此方だ。
銀色の装甲。
どうにも妙だ。
コロニストに、そんなのいたか。
ショットガンを持たされている赤い肌のコロニストは見かけたが、鎧を着た。しかも銀の。
コスモノーツの着込んでいる宇宙服兼装甲は、どちらかというと金に近い色だ。
そうなると、コロニストを何かしら武装強化している、ということだろうか。
大兄と視線をかわす。
油断するな、と大兄も顔に書いていた。
ほどなく。マザーシップの直下に到達。
部隊を展開する。ニクス隊は周囲に散り。戦車隊とケブラーが補助。歩兵も、それに随伴した。
補給車を真ん中で守る。
「マザーシップナンバーナインに動き無し」
「此方ルイ大佐。 マザーシップは黙り込んでいるが、スカウトはどうした」
「それが、通信途絶しているスカウト部隊多数。 何かが周囲で活動しているか、それとも電波障害が起きているようです」
「……総員、戦闘に備えろ。 何があるか分からないぞ」
もう、宇宙人と聞いて嘲笑っていた兵士も黙り込んでいる。
笑っていられる状況では無くなった。
それを理解したのだろう。
来るとしたら、ドロップシップだろうが。
その時は、唐突に来た。
ドロップシップ五隻が、飛んでくる。これに関しては、バージョンは変わっていないらしい。
あいつは、どんな兵器でも。
ついに撃墜出来なかった。
「見ろ! 揚陸艇だ! 誰か乗ってる! でかいぞ!」
「……妙だな」
大兄が呟く。
揚陸艇に乗っているのは、どうも普通のコロニストのようだ。三城から見ても、それは変わりない。
ニクス隊が射撃を開始するが、当然通じない。
村上班は黙って様子見に徹する。びりびり三城も感じる。
以前とは、何かが決定的に違うと。
揚陸艇が止まる。
戦車が再展開する。ニクス隊も。村上班は最前衛に出ながら、荒木班に無線を入れる。
「奇襲の恐れがあります。 後方に備えてくださいますか」
「分かった、承る。 エイリアンの戦力次第では、すぐに加勢するが」
「お願いします」
生唾を飲み込む兵士達の前で。
ついに、地球にエイリアンが降り立つ。
記憶よりずっと早いタイミングだが。
それでも、コロニストは、コロニスト。数も記憶より多いが、この程度の数なら。エイレン型がいる今、敵ではないはずだ。
「エイリアンだ! ついにプライマーの地上部隊が降りて来たぞ!」
「撃って来たあ!」
「でかい! まるで巨人だ!」
「怖れるな! 此方にはニクスやエイレンがいる! 蹴散らしてやれ!」
大兄が、一撃でコロニストの頭を吹き飛ばす。
一華のエイレンがレーザーを振り回し、数体のコロニストの武器を持つ腕を即座に切断。更に、旋回性能を活用して、周囲のコロニストの腕からまず落としていく。兵士達が慌てて集中攻撃しているが、流石にタフだ。戦車砲は充分に効いているが、コロニストはきちんと建物を利用し。遮蔽にして防ぐ。更に、建物に登り。上を取りながら攻撃してくる。
「あれがプライマーか! 人間そっくりだ!」
「以降、あのエイリアンをコロニストと呼称します。 ……事前の情報では、鎧を着たコロニストも確認されています。 周囲に警戒してください」
「こ、此方スカウト19! エイリアンが、ぎゃああああっ!」
前衛の部隊がコロニストと激しく撃ちあっている間に、後方から悲鳴。
凄まじいパルスレーザーが着弾し、戦車数両が一瞬で大破した。
後方から現れる、装甲で全身を固めたコロニスト。確かに、鎧は銀色。しかも、装備は凶悪になっている。
武器はパルスレーザーを放ったものだろう。凄まじい火力だ。対応に当たっている荒木班のエイレンの電磁装甲が、見る間に赤熱していくのが分かった。
「まずい、挟み撃ちにされている!」
「……弐分、三城、前衛のコロニスト、対応できるか」
「俺だけで充分だ」
「その言葉やよし。 皆、反転。 後方のアンノウンに対処するぞ!」
大兄がきびすを返し、代わりに小兄が、コロニストの群れに突貫。凄まじい機動を駆使して、電刃刀でまたたくまに二体のコロニストの首を刎ね飛ばした。おおと、声が上がる。自主的に盾を構えたフェンサー隊が出て、数両の戦車とともに小兄を援護する。
三城は大兄とともに、後方から出現した敵の本命戦力に対応。まずはプラズマキャノンを叩き込むが。銀の鎧は頑強で、多少怯む程度だった。これはまずい。大兄がヘッドショットを浴びせる。頭の部分の装甲はあまり硬くないらしく、頭が吹っ飛ぶ。だが、次々に鎧を着たコロニストが来る。
パルスレーザーのアサルトの次は、ショットガンだ。これもレーザー型のようである。火力がえげつない。
「此方相馬機、ダメージ大」
「タンク12、大破! 脱出!」
「くそっ! 火力を集中しろ!」
「装甲が厚すぎる!」
確かに、ケブラーの攻撃を受けてもそれでも気にせず進んでくる。コロニストの纏っている鎧、侮れない性能だ。
大兄が次々とヘッドショットを決めている。一華もそれを見て、レーザーで頭を集中攻撃。
兜の部分は、恐らくだがバイザーと同じような機能を詰め込んでいるからだろう。
装甲が脆く。もっとも大事な部分を守れていなかった。
大兄と一華が前に出て、敵を次々に打ち砕くのを見て、やられっぱなしだった兵士達も奮起。
そのまま、攻撃に加わる。
戦車隊も大きな被害を出しながらも踏みとどまり。
荒木軍曹が叫ぶ。
「敵の弱点は頭だ! 頭を集中的に狙え!」
「最初に降りて来たエイリアンどもはどうした!」
「村上班のフェンサーが一人で足止めしています!」
「そうか、支援してやれ。 他の部隊は、攻撃してきている鎧を来たエイリアンに対応……」
更にドロップシップ。
乗っているのは、コロニスト多数だ。鎧を着たコロニストは、まだかなりの数が健在である。
これは、負けだ。
判断は、ルイ大佐は早かった。
「負けだな。 敵の情報を持ち帰れただけで充分だ。 全軍、後退開始! 戦車とニクスが殿軍となり、ケブラーが前衛となって敵の包囲を喰い破れ! 急げ! 逃げるぞ!」
「我々が殿軍になります」
「壱野、頼むぞ。 此方は相馬機が限界近い。 敵の包囲網を破る方に加わる」
「ご武運を」
荒木班に、突破部隊を任せて。そのまま残る。
三城もファランクスに切り替えると、味方の集中攻撃を受けて怯んだ鎧コロニストに突貫。
そのまま、ファランクスで頭を焼き落とす。
首から鮮血を噴き出しつつ、倒れる鎧コロニスト。
建物を蹴ってジグザグに飛びつつ、慌ててさがろうとするもう一体に突撃。武器を構えるより一瞬早く。ファランクスで頭を焼き切る。
真横。殺気。
だが、大兄の射撃が、三城を狙っていた鎧コロニストの頭を吹き飛ばす。
鎧コロニストはかなり判断力が高いらしく、大兄の射線に入る事を危険と判断した様子だ。下がりはじめる。
代わりに、周囲を囲むようにして降りて来たコロニストが、殺到してくる。
そこに、既に交戦していたコロニスト部隊を片付けた小兄が、突貫してきた。三城も、プラズマキャノンを纏まっているところに叩き込む。手足を吹き飛ばされたコロニストが横転。
此奴らの手足は再生するが。
それでも、時間は稼げる。
後退。
そう指示しながら、大兄自身もさがる。一華のエイレンが最後尾に立って、レーザーで寄ってくるコロニストの頭や武器を薙ぎ払いながら、必死に時間を稼ぐ。鎧を着ていないコロニストは、ショットガン持ちも混ざっている。
知っている戦力と、かなり違う。こんなに兵力を以前は出してこなかったはずだ。
だが、それでも。
此処で始末できるなら、それに超した事はない。
再び隙を見せた敵部隊に突貫。小兄が暴れまくっている中に、三城も飛び込んで、ファランクスで敵の首を狩っていく。
建物の天井を蹴って上空に躍り出て、バイザーで周囲の映像を確認。
荒木班は、敵包囲を突破完了。突破口を死守しながら、味方部隊の脱出を支援している。ルイ大佐のニクスも、それに加わり、コロニストと凄まじい殴り合いをしている状況だ。
二体の鎧コロニストが、其方に向かっている。三城に牽制射撃をしてきているが。今のバイザーでの映像共有で。
大兄が。即座に動いた。
建物の間。
針の穴を通すようにして、射撃。
鎧コロニストの頭を、路地越しに叩き落としていた。
コロニスト達が、流石に困惑して足を止める。足を止めた奴から、小兄のスピアが頭を刈り取っていく。
三城も高度を速度に変え、荒木班を強襲しようとしていた鎧コロニスト部隊に襲いかかる。
対応しようと射撃してくるが、左右にブーストを駆使して避けながら。至近に。
ファランクスで、頭を刈り取り、着地していた。
どうと倒れる鎧コロニスト。
後方では、大兄と小兄が、残りのコロニストを次々に撃ち倒しているが。どうも敵も潮時と判断したらしい。
ガアガアと鳴き始め。
そして後退を開始していた。
「ちっ。 前とは動きからして違うな」
大兄の呟きが聞こえる。
ドロップシップが来て、生き残りのコロニストを収容していく。かなりの数がいる。戦闘の展開次第では包囲殲滅された可能性が高いが。敵は威力偵察のつもりだったのだろう。今回の戦果で充分だった、というわけだ。
ルイ大佐は生き延びた。
だが、味方の損耗は三割を超えている。全滅判定だ。
戦車隊とケブラー隊は特に消耗が大きく、大破五割を超えたようだった。
マザーシップは悠々と引き揚げて行く。
此方を鼻で笑うように。
マザーシップが行ったのを見送ると、ルイ大佐が出て来て。ヘルメットを地面に投げつけていた。
「好き勝手をして逃げていくか!」
「此方、フランス方面軍EDFバルカ中将」
「バルカ中将!」
「今、支援部隊を送った。 負傷者のトリアージと後送を急いでくれ。 敵の新装備と戦力について、レポートを送ってほしい。 出来るだけ急いで対応をする必要があるだろう」
バルカ中将は、相変わらず落ち着いた声だ。
死病を押し殺しながら、最後まで欧州を守った闘将。
今回も、その落ち着きに変わりはない。
三城も、トリアージには慣れているが。路地裏には、先に発見されて殺されたスカウトの死体が点々としていた。
更に、電波中継器を潰された形跡もある。
どうやら敵は、此方の電子戦能力を侮らず。完全につぶしに来ている様子だった。
ほどなく、キャリバンと大型移動車、牽引車両が来る。
大破したとは言え、今の戦況ならまだ修復は可能なはずだ。戦車もケブラーも回収していく。
先進科学研の人も来て、エイリアンの装備を回収していった。
大兄の所に、プロフェッサーから通信が来ていた。
「あの装甲を纏ったコロニストは、見た事があるか?」
「いえ。 記憶にない相手ですね」
「そうだな。 どうやら今回のプライマーは、アンドロイドを投入するだけではなく、多くの手札を隠し持っているらしい。 我々の歴史に関する知識以上の戦力を投入してくると見て良い。 迂闊に歴史を変えるのは、藪をつついて蛇を出す事になるかも知れない」
「歴史を変えなければ、十隻のマザーシップの砲撃で、EDFが全滅するだけです」
しばし黙り込んだ後。
そうだなと、プロフェッサーは悔しそうに呻いた。
いずれにしても、エイレンでも簡単には勝てない相手だ。コロニストは以前はほぼ肉壁として使われていたが。
恐らく今後は、あの鎧を着た奴が多数出てくると見て良い。
そうなると戦況は一変する。
前の指揮官はアホだったから、或いはコロニストを有効活用することを考えもしなかったのかも知れない。
今度は違う。きちんとした装備を持たせて、前線に送り込んできた。場合によっては、更に装備を強化してくるかも知れない。
三城としても、溜息が出る。
あの攻撃をモロに貰った場合。
生き残れるとは、とても思えなかった。
パリ基地に戻る。
病院はパンク状態。大敗を喫したことは、既に伝わっているようだが。ルイ大佐が生きている事で、どうにか兵士達は統率できている。
更に、今回の結果で。EDFは欧州へ米国から戦力を増強することを決めたようである。
これが吉と出るか凶と出るかは、まだ何とも言えなかった。
3、怪生物襲来
欧州で何度か転戦した後、日本に戻る。
日本に戻ったときには、既に春が来始めていた。
テレポーションシップは連日撃墜しているが、コロニストが出現したことで、再び戦況は不利に傾いている。
弐分も、日本の状況を見て。
これは良くないなと思った。
荒木班は欧州でもう少し戦闘してから戻るそうである。スプリガンとの連携任務もこなすようだ。
更に、荒木班にも刷新された装備が支給されているらしい。
良い事だと、弐分は思う。
戦闘で、電刃刀を使えるようになったのは大きい。実際の所、巨大すぎる武器というのはあまり取り回しが良いものでは無い。
馬上などで使うにはいいものではあるのだが、それはいわゆるポールウェポンというものであって。
長すぎる槍は集団戦では効果を発揮するものの、接近戦では力を生かし切れないし。
どうしても使い手が限られてくるのが実情だ。
その点、フェンサー用の大型パワードスケルトンは、常識外の巨大武器を扱えるようになったという利点がある。
これ以外にもボルケーンハンマーなどの凶悪な巨大武器を振るい。
怪物やエイリアンに対応できる。
弐分は、フェンサースーツを気に入っていた。
ただ電刃刀は、まだまだ発展途上の武器だ。
今の時点では不満は無いが、使える相手は限られてくる。
今後の事を考えると、更に立ち回りも洗練が必要だなと判断していた。
基地で一休みした後、任務を受ける。
地下への攻略任務だ。怪物が繁殖している。撃破して来いと言うものである。
地下巣穴の位置は覚えている。
マザーモンスターが深部にいる場所だ。恐らくだが、今回の戦力での駆除は厳しいだろうとは思う。
それでも、やらなければならなかった。
現地に、少数の部隊とともに向かう。
地底戦闘用のデプスクロウラーは既に到着していた。これも、以前よりも性能が格段に上がっているようである。
なんでも、EDFの兵器の内、タンクやコンバットフレームは殆どが破壊される中。活躍の場が極めて限られるデプスクロウラーは倉庫で埃を被り、その結果壊されることが少なかったそうで。
「戦後の三年」で、もっとも兵器として活用されたらしい。
地底戦闘用の軽車両が地上戦で使われるというのも変な話だが。
その結果進歩したというのもまた、妙な話である。
一華が先に乗り込んで、あれこれ操作しているが。
やがて。腕組みして考え込んでいた。
「悪くは無いッスけど、どうしても壁や天井に張り付く機能を削除は出来ないッスかねこれ」
「地底の複雑な地形で、足を踏み外すのを危惧しているのではないのか」
「その場合は緊急避難措置を何かしら組み込めば良いんスよ。 こいつは積極的に壁とかに這いに行って、それで視界を無茶苦茶に妨害するッス」
「そうか。 いずれにしても、相談は後でプロフェッサーとしてくれ。 今は、これからこの怪物の巣を駆逐する」
大兄も若干ヤケクソ気味だ。
今、周囲にいる部隊は歩兵少しとフェンサーとウィングダイバー少数。
これで突破出来る規模の巣では無い。
一応、威力偵察と言う事で話は来ているが。深部にいるマザーモンスターを駆逐するのは、現状の村上班でも厳しい。
せめて荒木班もいれば。
物資などの準備をしているうちに、無線が来る。
荒木班からだった。
「壱野、作戦中か?」
「荒木軍曹。 これから怪物の巣穴らしき洞窟に潜る所です」
「そうか。 危険な作戦だな。 此方では、例の新人が活躍してくれている。 柿崎閃、だな」
「感触はどうですか」
今までにない不思議な戦い方をするウィングダイバーだが、強いと荒木軍曹は褒めていた。
試作武器であるウィングダイバー用のプラズマ剣を主体に接近戦を行う戦闘スタイルで。フライトユニットもパワードスケルトンも、瞬発力と移動力、更には低空での敵への接近加速に使っているという。
初陣で三十体の怪物を仕留めたとかで、何度か共闘したスプリガンも個性的な戦い方だと絶賛しているとか。
「ただ、戦場を広く見る視野が足りていない。 それを教えたら、其方に送るつもりだ」
「ありがとうございます。 荒木軍曹の下でなら、最強の兵士に育って戻ってくるでしょう」
「そうだな。 そうだと良いんだが」
「其方もご武運を。 此方もこれから作戦行動です」
無線終わり。
弐分も、話は聞いていたが。少しばかり興味深いと思った。
「大兄、柿崎という新人、かなり出来るようだな」
「そうだな。 フェンサーとウィングダイバーの中間のような戦闘スタイルを取るように思う」
「頼もしい話だ。 是非、今後の戦況を変える切り札になってほしい」
「そうだな……」
洞窟に潜る。
この作戦が、上手く行かないことは分かっているが。それでも、やれるだけやる。案の定、怪物が大量にいる。
更に、歩兵達も村上班の噂は聞いているが。
実力には懐疑的な様子で。まずは実力を見せなければならなかった。
入口付近の怪物を掃討。内部に押し入る。
案の定、コロニストと遭遇。普通のコロニストだ。この時点では。
だが、この先にあの鎧のコロニストがいるかも知れない。奴らの装備は極めて強力である。出来れば遭遇はしたくないところだ。
電波中継器を撒きながら進む。
そうすると、ろくでもない通信が入ってきた。
「静岡近辺に、巨大な怪物が出現しました。 今まで出現例がない上に、姿などが大きく違っています。 全長は七十メートルにも達し、大きさの割りに俊敏に動くようです」
「そんな巨大さでか」
「戦略情報部では、この生物を以降「怪生物」と分類。 エルギヌスと呼称する事になりました。 現在対策を検討中です」
「十メートル前後の怪物であの戦闘力だ。 下手をすると、師団規模の戦力を動員する必要が生じそうだな」
エルギヌスか。
これについては、時期的に大して変わらないなと弐分は思う。
怪物を蹴散らしながら奧へ。
α型は、銀と茶色が混ざっているが。
これについては、理由はよく分からない。
本部も、形状も性質も似ているので、別段区別するつもりはないようだ。α型とだけ現場で呼んでいる。
まあ、性能もあまり変わらないのだし、それで別に良いのだろう。金のα型ですらも、別に金の怪物と呼んでいるだけなのだから。
洞窟の構造は、記憶とだいぶ違う。
大兄ほどでは無いが、殺気を感知して、怪物の不意打ちを先に潰す。村上班は隊を守るように展開して。場合によっては足下からすら現れる怪物にも対処していく。
三城もプラズマキャノンを持ち込んでいるが。兵士達も不安そうにしていた。
「どんどん怪物が増えていくぞ……」
「退路は大丈夫なのか。 欧州では、電波中継器を潰されて、スカウトが大勢エイリアンにやられたとか聞いているが」
「無駄口を叩くな。 それに、愚痴をいっても生還出来る確率は上がらない」
「それもそうか……」
兵士達には、既に厭戦気分すら拡がっている様子だ。
テレポーションシップを落とせるようになっても戦況は変わらず。
マザーシップにダメージを与えることに成功してもぬか喜び。
それでは、確かに厭戦気分が拡がるのも、無理はないのかも知れない。だが、それでもどうにかしなければならない。
もたついていたら、人類は負ける。
アンドロイドについては、今プロフェッサーが戦車やエイレンの改良を必死に進めて、対抗できる戦力を準備してくれている筈。
今はとにかく、敵を削るしかない。
大兄が足を止める。
窪地になっていて、コロニストが巡回している。
弐分にも分かった。
此処は、いわゆる死地だ。
周囲中の地中に、怪物が潜んでいる。一旦後退するしかないだろう。
「全員後退。 指定地点までさがってくれ」
「何かありましたか?」
「地中の振動を察知した。 信じられないほどの怪物が、辺り中の地中に潜んでいる」
普通だったら兵士達は笑っていただろうが。
今までの洞窟の道中で、大兄が奇襲を悉く防いでいるのだ。
兵士達は青ざめると、さっさと後退を開始。大兄は、無造作に、巡回しているコロニストを撃ち抜いていた。
わっと、怪物が沸いてくる。
案の場の数だ。流石に、千葉中将も電波中継器ごしに映像を見ているからだろう。通信を入れてきた。
「対処できる数では無い! すぐに撤退せよ!」
「……もう少し階級が上だったら、もっと兵力を最初から連れてこられたッスかねえ」
「今は対応が先だ。 全て蹴散らす」
三城が、狭い中殺到してくる怪物に、プラズマキャノンを連続して叩き込む。
この洞窟は、怪物が固めているから地盤がしっかりしている。プラズマキャノンをぶっ放しても、簡単に落盤はしない。
連続して爆破して敵を噴き飛ばしつつ、後退。大兄は怪物に紛れて追ってくるコロニストを、その度にヘッドショットする。
弐分も前衛に出ると、電刃刀で敵を斬り刻み。更には敵の密集地点に散弾迫撃砲を叩き込む。
爆発が連鎖し、怪物の破片が吹き飛ぶ。
一華のデプスクロウラーが、ラピッドバズーカと呼ばれる小型の連射型ミサイルで、敵に対して弾幕を張る。
一発ずつの火力はどうということもないが。小型のミサイルによる爆破と、それによる敵の拘束が大きい。
三城と後退しながら、弐分は敵の大軍を食い止め続ける。
後方。敵の増援。
それについても想定済。
兵士達がパニックを起こす前に、弐分と三城で、前後を担当。三城が後ろを担当したので、弐分は最前衛で、電刃刀を振るって暴れ狂った。
小一時間ほど戦闘を繰り返すと、流石にこの辺りにいた怪物は片付いたが。
それでも、更に奧から怪物の気配がある。
電波中継器を撒き。大兄とともに奥に進んで、多少の怪物は駆除するが。この辺りが限界だろう。
この兵力では、奥に進んでも全滅するだけだ。
全滅しても良いと言うのなら、マザーモンスターも狩ってくるが。
以前確かここの最深部を駆逐したときは、荒木班とスプリガンと共闘したような記憶がある。あれ、それは別の巣穴だったか。やはり、記憶の混濁がある。
今の実力なら、やれないことはないかも知れないが。
それでも、同行する兵士は全滅する。それは、避けなければならなかった。
「撤退だ。 急げ」
千葉中将は、いずれにしても撤退を決めた。此処で無理をして、進む事はないだろう。
ともかく歩哨は片付けた。
最低限の仕事はしたと言える。
後退して、負傷兵を庇いながら洞窟を出る。兵士達は、皆青息吐息だった。
「い、生きて帰れたのが信じられない……」
「……此処に見張りの部隊が必要ですね。 攻略には何倍もの兵力が必要になるかと思います」
「現状のEDFには、残念ながら即座にその兵力を用意する余裕は無い。 最初の五ヶ月で、これほどのダメージを受けなければ……」
悔しそうに千葉中将が言う。
確かにその通りだ。
そして、エルギヌスが出たと言う事は。
それに対応しなければならないと言う事も意味している。
怪生物によるダメージ。倒す方法の確立。この二つに、EDFは相当な戦力を消耗した。バルガによる撃破を提案するには、恐らくまだプロフェッサーの発言力は足りないと思う。まだ先進科学研の評判がそれほど流れてきていないからだ。
エルギヌスはまだいい。
問題はアーケルスだ。
彼奴は、本当にバルガを使わないと倒す事が出来ない。
今の大兄の実力でも、多分無理だろう。もっと超火力を発揮できる武器があれば話は別かも知れないが。
とにかく、一度東京基地に戻る。静岡にエルギヌスが出現しただけではない。世界各地で、連続してエルギヌスが出現。
被害は、拡大を始めていた。
一月ほど戦闘を続ける。日本だけでは無く中華でも戦闘をした。項少将は当然無事で、親衛隊である虎部隊を率いてコロニストを撃退し続けていた。
コロニストはどうも隊長級の個体があの鎧を身に付けているらしく、現時点でアサルトライフルに相当するパルスレーザーと。ショットガンに相当する炸裂型のレーザーを持つ個体が確認されている。つまり初登場の時は、特務に等しい部隊が来ていたという事だ。
現時点で迫撃砲持ちの砲兵の上位種は確認されていないが、いずれ出て来てもおかしくはないだろう。
鎧コロニストだけではなく、通常のコロニストも充分以上に戦力は高い。各地のEDFはこれに加えて怪生物による攻撃もあり、被害を増やし続けるばかりだった。
村上班は荒木班とは別で、対コロニストの戦闘を担当。
荒木班は主に怪物の駆除を担当している様子だが。時々合流して、情報を交換する。
今回も、そんな合流のタイミングだ。東京基地で、久々に荒木班と顔を合わせることとなった。
そして、柿崎閃が村上班に合流する。
見た所、非常に鋭角なフライトユニットをつけている。
飛ぶ事はあまり考えずに、速度を上げ。場合によってはブレーキも掛ける。そういう強力なパワー補助ユニットとして使っている様子だ。髪型なども変えていない。元々小柄なこともあり。戦闘適正が高い事もあったのだろう。フライトユニットを使いこなすのに、時間は掛からなかったそうだ。
ぺこりと、一礼して柿崎閃は合流する。
現在は曹長待遇である。既に、というべきか。
参戦から、怪物を毎回の戦闘で数十匹ずつなぎ倒しているのだ。閃光のように怪物を切り裂いていくウィングダイバーがいると言う事で、荒木班の話題が上がっていると言う事だった。
本人はちょっと動くにしてももの凄く動作が一つずつしっかりしていて、無茶苦茶厳しい道場で育った事がよく分かる。
こういう教育を受けると駄目になるケースも多いのだが。
この娘の場合は、上手く行ったのだろう。体がこの年でもう武術家として仕上がっている。お嬢様としても、いちいち動きがしっかりしているので通用する筈だ。
「これから村上班に合流します。 よろしくお願いいたします」
「此方こそよろしく。 歓迎する」
「いやー、戦闘履歴見たッスけど。 うちの化け物三兄弟がいなかったら最強って言われてるくらい強いッスねこれ……」
一華がしみじみという。
化け物呼ばわりされて、苦笑するのは弐分だけ。
大兄は無表情、三城は興味が無さそうだ。一華はそういう奴だと言う事を、もう理解しているからだろう。
合流を済ませてから、荒木軍曹が言う。
「EDF本部が先進科学研と急遽開発した新兵器が試される。 対怪生物用の兵器だ」
「どういったものですか?」
「ElectromagneticMaterialCollapser。 通称EMC。 日本語でなら電磁崩壊砲とでもいうべきものだな。 一両一億ドルほどの制作費がかかる兵器らしく、陸上兵器としては破格の代物だ」
EMCか。
十両掛かりでエルギヌスを倒すのがやっとの代物だ。
更に言うと、投入時期が早すぎる。プロフェッサーがどれだけ改良しても、多分あまり改善されていない状況で出てくる筈だ。
「現時点で二両のみが生産されて、現地に投入される。 エルギヌスに対してヘリ部隊で攻撃を仕掛けて誘引し、EMCでとどめを刺す。 念のため、逃走路にも戦車部隊を配備しておく。 これでとどめを刺せると思いたいが……どう思う」
「無理でしょうね。 急あしらえの兵器で、いきなり倒せるような相手ではありません」
「そうだろうな」
荒木軍曹も、やはり懸念はしていたか。
荒木軍曹は、急すぎる作戦に懸念を持ったのだろう。
上層部に提案したそうだ。
村上班を、エルギヌスへの攻撃部隊に参加させると。
「エルギヌスへの攻撃部隊は、リー元帥直轄の総司令部直下部隊メイルチームだ。 今回はK6作戦という呼称を取る」
うっすら覚えている。
確かエルギヌスと初交戦した時。K6がターゲットを逃がしただのなんだの、そういう通信があった。ということは、上手く行かないのは確定か。
だが、それでも。参加するメイルチームの被害を減らすことが今後重要になってくるだろう。
「メイルチームは本部肝いりの指揮官が動かしている部隊だが、どうにも鼻につく奴が多い。 それでも戦力は戦力だ。 壱野、被害を抑えられるか」
「やってみましょう」
「頼む。 俺たちの方でも、エルギヌスを倒せそうにないのなら被害を抑えて撤退するようにする」
荒木軍曹は、予備部隊に出向くと言う。
そこでエルギヌスが作戦失敗の際、「逃走」(恐らく歯牙にも掛けていないだけだろうが)して来たときに、対策する班をまとめる。
荒木軍曹がまとめるのなら、まあ信頼はしても大丈夫だろう。
EMCが完成すれば、エルギヌスは倒せるようになる。だが、それはまだ先の筈だ。
荒木軍曹と別れてから、プロフェッサーと通信する大兄。
案の定、プロフェッサーは無理だと言う。
「EMCは陽電子を発生させ、対消滅によって生じる膨大な熱量を敵に叩き付ける兵器だが、その陽電子を発生させるための粒子加速器の開発が、最適解が分かっていてもどうしてもこの期間では無理だ。 エルギヌスの到来を予測して、できるだけ急いで私も準備はしていたのだが、恐らく今回の戦闘では、EMCはまともに動かないだろう」
「分かりました。 作戦の失敗は想定して、味方の被害を減らすべく動きます」
「頼む。 どんな戦力でも戦力だ。 一人でも多く救って、後の戦闘での味方を増やすしか、今は手がない。 アンドロイドが来た時、味方の戦力がぼろぼろになっていたら……君達が現地にいても、どうにもならないだろう」
その通りだ。
不思議そうにしている柿崎に、一華が話を説明する。次は無謀な作戦が行われる。被害をできる限り減らす必要がある、と。
柿崎は頷く。元々荒木班だって、無茶な火消し任務ばかりやっていたはずだ。既に修羅場には慣れっこだろう。
記憶媒体のデータは弐分も見ている。
前周と今周で、ここの戦闘は過程が違っている。
前はK6作戦に参加せず、退屈そうにやってきたエルギヌス相手に交戦する事になった。
今度は荒木班にその役割を任せ、此方がエルギヌス相手に噛ませ犬の仕事をすることになる。
いずれにしても、出来たばかりのEMCや、その随伴部隊は守らなければならない。
東京基地から出立する。途中、輸送機から降りてきたらしい戦車部隊と、歩兵部隊と合流。
戦車部隊は今後コンバットフレームのように世代を繰り上げ。ブラッカーからバリアスに。
戦闘ヘリもエウロスやネレイドからヘロンへと。それぞれ世代を上げていく予定らしいが。
この直下部隊は、まだブラッカーを使っている。
確かに安定性が高い兵器は信頼度も高いが。
なるほど、保守的な傾向がある部隊なのだなと、弐分は合流しつつ思った。
指揮官は中佐で、それだけでも総司令部が一定の成果を今回の戦闘で求めているのは分かる。
大兄はもうすぐ大尉に昇進するらしいが。
まだまだ、その権限は大きくない。
「噂には聞いている。 各地で信じがたい戦功を上げているとか」
「恐縮です」
「だが今回は出番は無いだろうな。 完璧な作戦に新兵器。 巨大なだけの的に負けるものか」
ふんぞり返る、いかにも大柄で米国のエリートらしい図体の男。ガタイだけなら、大兄や弐分に近いかも知れない。
だが、張り子の虎だ。
これは負けるのも当然だなと、弐分はちょっと気の毒に思った。
そのまま、合流する。EMCも来た。はて、前とはカラーリングが違う気がする。今回のEMCはなんだか赤い塗装をされている。試作機だからだろうか。いや、これもバタフライエフェクトの影響かも知れない。
静岡の前線にて展開。
まずはヘリ部隊が先行。先に、無人化したマンション地帯に好き放題蔓延っている怪物を蹴散らす。
戦車十両ほどが来ている事もある。歩兵の武器も高火力のものが多い。
流石に総司令部直下部隊。一応、素人集団よりは強い様子だ。
だが、それでもかなり無茶な数を相手にしている。弐分は、今回初の共闘を行う柿崎に対して、一緒に来るように指示。
はいと綺麗な返事がくる。頷くと、前線に突入する。
電刃刀でα型をスパスパと切り裂きながら、高機動で暴れる。横目で柿崎の戦いを見るが、なるほど。本当に地面スレスレを飛んでいって、抜き打ちを主体にプラズマ剣で怪物を切り伏せている。
柿崎の振るうプラズマ剣の太刀筋は非常にまっすぐで、性格が伺える。どうやら、本当に刀みたいに精神を研ぎ澄ませている様子だ。
これは、相当な精神鍛錬を積んでいると言う事だろう。もはや苦行僧とか、そういう存在に近いかも知れない。
また、周囲を見ていないという事もなく、敵の動きを見ながらかなり無理矢理に機動している。
三城のように壁を走り上がったり、飛行技術の粋を尽くす事はないが。
その代わり、右90°曲がったり。普通のウィングダイバーでは無理な動きをしていた。
このためにフライトユニットを調整しているというのだから、筋金入りだ。多分荒木軍曹が手を回して、先進科学研が協力してくれたのだろう。
度肝を抜かれている様子のメイルチーム。
多少、気分が良い。戦車部隊よりも、たった五人の兵士が、多数のα型を蹴散らしているのだから。
スタントプレーでもない。
苦戦しているとみるや、其処へ行って怪物を蹴散らし尽くす。
メイルチームが被害を出す事もなく。更には纏まる必要もない。
戦闘を見ていて、危なげはないなと思いながら、弐分は電刃刀でα型を真っ二つにする。ここまでは、だ。
程なくして、ヘリ部隊から無線が来る。
「接敵。 機関砲の弾を叩き込んでいるが、まるで効いている様子がない。 ミサイルもだ。 本当にこれは生物なのか」
「そのためのEMCだ。 予定地点に誘いこめ」
「了解」
EMC二両が、横並びに展開する。
戦車部隊も、左右に展開。怪生物が突進してきた時のための布陣だ。既に怪生物に何度か戦車部隊が蹂躙されている。今後エルギヌスやアーケルスに、大量の軍勢が蹂躙されることが。EDFの敗因につながる。
もう少し、権限があれば。
そう思うと、悔しくてならない。プロフェッサーも、もっと早い時期から実績を積めたなら。
今の戦闘力なら、228基地を村上班だけで奪還する事は可能だろう。保険に荒木班も来てくれれば完璧だ。スプリガンやグリムリーパーの手を患わせるまでもない。
しかし、それには最低でも大兄が中佐くらいの階級がないと無理だ。
「ヘリ部隊、全弾叩き込んだ。 そのまま敵を誘引する。 くそっ、足が速いぞ。 戦車部隊、気を付けろ。 相手は本気で走っている様子がないが、それでも時速100q以上は軽く出ている! 戦車では逃げ切れないぞ」
「了解、ヘリ部隊。 EMC、準備はどうなっている」
「出力が上がらない。 粒子加速器の調子が悪い。 バッテリーもだ。 アラームだらけで、原因が何かも特定出来ない!」
「なんだと! 敵はもう接近してきているんだぞ!」
柿崎が、手をかざして様子を見ている。
見ている先は、混乱しているEMC部隊だ。
周囲の怪物は、既に掃討完了。だが、これは負けたなと、悟ったようである。
「ここでは味方を出来るだけ生かして逃がす。 分かっているな」
「はい。 その前に、エルギヌスと言う方のお手前を拝見したく」
「分かった。 それについては、俺たちに任せろ」
マンションの屋上に、二人で降り立つ。多数並んでいるマンションの向こう側に、三城が降り立った。
前衛に出る一華のエイレン。他にコンバットフレームも連れてくれば多少は戦力になっただろうに。リー元帥は優秀な総司令官だが、どうも直下の部下はカスターといいろくなのがいない気がする。
大兄は、別の場所に移動。其処から狙撃戦をするつもりだろう。
程なく、エルギヌスが来た。
せめて大内少将がこの場にいたら、倒す事も可能だったかも知れないが。
「EMC、撤退する! 援護しろ! EMCは一億ドルだぞ! 早く!」
「実験段階の兵器を無理に前線に出したのが失敗だったか。 やむを得ない。 EMC、撤退しろ。 全部隊はエルギヌスを攻撃! 丁度包囲に入り込んで来た。 叩き潰せ!」
エルギヌスは、ぼんやりしたようすで、人間共の慌てぶりを見やっていたが。
攻撃をされ始めると、五月蠅そうに目を細めた。EMCは必死に逃げていくが、もう相手にもしていない。
戦車部隊が、盛大に砲弾を叩き込み始めるが。
此奴はそもそも非常に高い再生能力を持っていて、戦車砲をこの程度浴びせたくらいでは、まるで無意味だ。
激しい砲撃を受けた後、エルギヌスは無傷。
呆然とする戦車隊。
「せ、戦車砲効果無し! 120ミリの劣化ウラン徹甲弾だぞ! それも対怪物用にチューンもされて火力も上がっている!」
「怯むな、攻撃を……」
大兄が、エルギヌスの目を狙撃。
直撃。ライサンダーZの弾は、流石に効く。のけぞるエルギヌスに対して、一華が要請しておいたDE20「3」が来る。パイロットは同じおじさんの様子だ。此奴が出られるころは、随分世話になった。
「DE203、これより急降下攻撃を開始する! バルカン砲、105ミリ砲、まとめて喰らえ!」
「そのまま攻撃をよろしくッス。 戦車隊、敵前面に攻撃を集中してくれるッスか?」
上空から降り注ぐ凄まじい第火力の砲撃に、エルギヌスが五月蠅そうに顔を上げる。
ヤケクソになった戦車部隊が、エルギヌスの腹に斉射を開始。その間に、真横に回り込んだ三城が、全力でファランクスを叩き込む。
流石に超高熱にダメージを受けたらしいエルギヌスが、弐分の方に来る。
その時には、既に弐分は、フルパワーでボルケーンハンマーをチャージしていた。
顔面に、ハンマーを最大火力で横殴りに叩き付ける。エルギヌスが、初めて明確な悲鳴を上げた。更に柿崎が横一線に目を切り裂くが。
プラズマ剣でも、エルギヌスの肌を深くは切り裂けない様子だ。
「お、おいおい……」
「気を引くのがやっとッスよ。 撤退を」
「くっ……どうやらそれが正解のようだな。 撤退しろ!」
「畜生、俺たちまとめてたった五人の部隊以下って事かよ!」
プライドが高そうな士官が喚きながら、戦車隊が後退。それにあわせて、歩兵部隊もさがっていく。
エルギヌスは凄まじい雷撃を放とうとするが、今度は真上から三城がプラズマキャノンを叩き込む。
口の中で誤爆した雷撃が、エルギヌスの顔を爆破するが。即死させるには至らない。
舌打ち。流石に火力が足りないか。せめてタイタンが来ていれば。
更に、傷口を大兄のライサンダーZが抉る。エルギヌスは悲鳴を上げながら飛び下り。更にDE202が旋回して戻って来て、しこたま機関砲を叩き込むと。流石に五月蠅いと思ったのか、逃げ出し始めた。
残念ながら、まだとどめを刺せる段階にはない。せめてもう少し味方の火力を揃えないと無理だろう。
去り際のエルギヌスの尻尾に柿崎が仕掛ける。
何度か切り裂いた結果。先端の一メートルほどを文字通り切りおとす事に成功。エルギヌスが吠えると、走り出す。その先は荒木班が控えている筈だが。無理な戦闘は避けてくれるだろう。
作戦は、失敗したが成功だ。
サンプルも手に入った。
ただ、エルギヌスの尻尾は逃げている間も再生しているようである。アーケルスほどではないが、流石だ。
「メイルチーム、撤退は完了したか」
「ああ、なんとかな。 君達を侮っていたようだ。 噂通り、それ以上の実力と見て良さそうだな」
「ありがとう」
「今回の失敗は、EMCを無理に投入したことだ。 命を拾った。 助かったぞ」
恐らく、メイルチームの指揮官である中佐は厳重に訓戒とかされるだろうが。流石にこの状況で人材をロスする訳にも行かない。
リー元帥のことだから、失敗は成功で取り返せと激励するだろう。
いずれにしても戦車十両以上と、その随伴歩兵を守ったのは大きい。程なく、荒木班から連絡が来る。
「壱野、無事か」
「どうにか」
「エルギヌスはダメージを受けて殺気だっていてな。 その剣幕を見て、後続の部隊はすんなり撤退を受け入れてくれた。 戦車砲が効いている様子もなかったからな」
「被害は出なかったようですね」
作戦は成功だ。失敗だが。エルギヌス相手に被害を出さなかったのなら充分過ぎるほどである。
むしろ露払いの怪物駆除で出た負傷者の方が多いくらいだろう。
今後は、この結果を参考に。無理な対怪生物作戦は避けて欲しいものだが。
大兄と合流。後は、皆で東京基地に戻る。
尼子先輩の運転する大型移動車が、迎えに来てくれた。
「すごい怪獣とやりあったんだって? 良かったよ、無事で」
「ありがとうございます。 少し残ります。 敵のサンプルを採取できましたので」
「うわ、大きな尻尾だなあ……」
「これでも先端も先端です。 それに……」
エルギヌスは死ぬとすぐに全身がグズグズに崩れていく。尻尾も、もう腐敗し始めていた。
ヘリで先進科学研が来る。尻尾のサンプルを回収するとき、宇宙服のようなのを着ていた。
後は任せる他無い。
今日は、この戦場で被害を減らす事が出来た。
明日も、同じように。
別の戦場で被害を減らし、歴史を少しでも良い方向に変えていくしかないのだった。
4、武器なき戦い
プロフェッサーこと林先進科学研主任は休む間もなく図面を書き下ろし続け、それを技術班に回していた。
技術班は青ざめながら、それを再現し、実験を続けている。
エイレン型は既に配備が始まっている。
コレに加えて、バリアス型戦車。ヘロン型戦闘ヘリも、まもなく配備が始まる。ただ、それほどの数は用意できない。
現状やっていくのは、運用している兵器の改良。
ニクスや戦車、それに歩兵用の火器。
これらに改良を出来るだけ加えて。戦力を増やす事だ。
ニクスについても、今後の生産についてラインに変更を加え。相当量の機関砲を増やす。この機関砲はKG6ケブラーに搭載する。
安価型ニクスの戦闘力は、既に各地で証明されており。歩兵戦闘車の車体にニクスの火力を搭載した安価な兵器として、各地から有用であるとレポートが上がって来ていた。対マザーシップ戦での戦果こそ振るわなかったが。それでも、多数のドローンを破壊する事には成功しているのである。
後はケブラーを守る随伴歩兵の働き次第。
それはそれとして、ニクスもまた必要だ。
戦車とならぶ歩兵の盾として、最精鋭としての活躍が期待される。
グラビス型拠点防衛用コンバットフレームも、一機だけだがロールアウトした。
全身が装甲板で覆われたような強力な防御が特徴で、多少は動く事が出来るが。それ以上に、重厚な機体に相応しい文字通り滝のような火力が特徴だ。その超火力で、怪物を蹴散らすことが出来る。
怪物の群れに飲み込まれるニクスの記憶は、プロフェッサーの中に根付いている。
ああいう事態を防ぐには、怪物の群れを正面から蹴散らせる火力が必要だ。
最終的には、単騎で怪物の群れを蹴散らせる機体が欲しいが。そうなる予定のプロテウスを建造するには、まだ情報が足りていない。
元々の欠陥兵器としてのプロテウスではなく、決戦兵器としてのプロテウスを作り量産すれば。
多分人類は勝てる。
怪生物すら、数機いれば倒せる機体になる予定だ。
怪物もエイリアンも、単騎で多数を同時に相手取れる兵器。
だが、それを作るには。まだテクノロジーの積み上げが足りないのだ。
冷や汗を拭いながら、図面を部下に回す。
そして、上がって来た報告を見る。
EMCについては、案の定だった。
既に、改善案については提出してある。ただEMCは他の部署が担当している。だから、メールで連絡を入れる。
改善案は出してあるから、それについて見て欲しい。
今できるのは、それだけだ。
キーボードを凄まじい勢いで叩き続ける。元々体力はあまりないので、仕事の配分が大変だ。
図面を打ち込み終えると内容を確認。
問題なし。完全記憶能力は、こう言うところで役に立つ。
部下にコレを回す。そして、部下から上がって来た改善案にも目を通しておく。林主任はこういった改善案を全て覚えてくれている。そう部下には評判だ。部下の評判を得た後は、上司の評判を得なければならない。
既に林ブランドと言われる兵器は、各地で戦果を上げている。
出来るだけ早く、戦略情報部のトップ。いわゆる「参謀」と話をしたいところだが。まあそう簡単にはいかないだろう。
休憩を三十分だけ取る。携帯端末を見ると、妻からメールが来ていた。
既に疎開させているが。疎開先からのメールだった。
「あなた。 私は戦争が激しくなることを悲しいと思っています。 兵器を作ることには反対ですが、とても野蛮なエイリアンの事も分かっています。 とても心が苦しいです」
妻の名を呟く。
そして、悲しいとも思った。
妻は優しい人だ。年老いた両親の面倒を文句一つ言わずに見てくれて。そしてプロフェッサーの研究にも、あまり賛成していない。兵器開発については、いつも眉を曇らせていた。
周回の度に、プロフェッサーは妻が死ぬ所を見た。
どうしても、妻が死ぬ運命は変えられない。
もう駄目なのでは無いのだろうか。
そうとさえ思えてくる。
大きく嘆息すると、仕事に戻る。出来るだけ急いで、ストームチーム用の武器も。他兵士達の扱える武器も。改良を進めていかなければならない。
成果を上げれば、「参謀」に事実を告げて。敵の作戦行動を阻害できるかも知れない。
とにかく今は。成果を上げて、発言力を高めることだ。
ひたすらに、図面を書く。
部下達は、ひそひそと話をしているようだ。
「あの人、化け物か何かか。 書く図面、どれもこれも殆どテスト一発でクリアしてるらしいぞ」
「天才って奴だな。 完全記憶能力持ちだって聞いていたが、それだけじゃあないって事だ」
「いずれにしても、量産すれば絶対に勝てる兵器ばかりだ。 とにかく一秒でも早く量産するぞ」
「そうだな、急いで開発班に回そう」
天才か。
違う。戦闘のことは殆ど分からない。戦術も戦略も、ド素人も良い所だ。凪一華と話して実感したが。戦場の現実も何も分かっていない。ケブラーだって、実際凪一華の言うとおりの成果を上げた。
変な拘りを捨てない限り、人類は勝てない。そんな事は分かっているはずなのに。
プロフェッサーは、手を一度休める。
そして、また作業を続ける。
迷いを振り払うためにも。
(続)
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