戦いの後に

 

序、これからのこと

 

知らない天井、なんてこともない。

なんども散々酷い目にあってきた。一華もそれは同じだ。

だから、医療施設の天井を最初にみて、あああの後意識を失ったんだなと思う。そして、腹が減っているのに気づいて、苦笑していた。

生きてはいる。

確認していくが、手足もある。

あの熱の中で、多分PCは壊れただろうな。そう思うが。それでも、まずは周囲を確認して。

看護師が意識を回復したのを見て、医師を呼びに行くのを確認。

時間も確認。

巨人との戦いから一年後、とかそういうこともなかった。一日しか経っていない。

頭が痛い。

それはそうだろう。

巨人との戦いで、頭を多分、人生で一番使った。鼻血がだらだら出ていたのを覚えている。フルパワーで頭を使い続けた。

元々、それしか取り柄がないのだ。

だから、そうしただけのことだった。

彼奴には負ける訳には行かなかった。

人間の価値なんてものは感じたこともない。どうしようもない生物だと、ずっと思っている。

だが、プライマーはそれ以上にしょうもない。

それに、何より死にたくなかった。

出来る範囲で、できる事はしたかった。

それだけだった。

とりあえず。手足は大丈夫。傷は、結構残っているようだが。指が欠損しているような事もなさそうだ。

医師が来て、軽く診察した後、次に行く。

多分、もっと酷い怪我の人間がたくさんいるのだろう。

バイザーはないのかと、周囲を確認。

あったとしても、渡してくれないかと思ったが。

看護師に言うと、渡してはくれた。

ただ。ずっとつけていた、カスタム品ではなかったが。

梟のドローンは側にある。

どうやら。回収してくれたようだった。

バイザーをつけてくれと看護師に頼む。嫌そうな顔をされた。まあ、それもそうだろう。他に患者もたくさんいる。

それなのに、特別扱いをどうしてしなければならない。

そういう感触だ。

或いは、一華がストーム1の一人だと知らないのかも知れないが。

それはそれで。

まあ、やむを得ないのかも知れなかった。

ともかくバイザーをつけて貰い。それで通信をしてみる。

呼びかけてみるが、通信が通じない。リーダーも負傷している、ということだろうか。まあ負傷していても不思議では無い。

しばし無線を入れていて。

なんと、通ったのは三城だった。

恐らく一番負傷がひどいだろうと思ったのに。

「一華、無事?」

「無事じゃないッスよ。 ボロボロでベッドに貼り付けッスわ」

「私もまだ歩かないようにって言われてる。 大兄も小兄も無事らしいよ」

「そっスか……」

それは、何よりだ。

幾つか、情報を交換していく。

とりあえず、あの神気取りの巨人は死んだらしい。

それは有り難い話である。

三城は最後まで見届けたそうだ。

一華は、凄まじい高熱で、意識が最後まで持たなかった。

「バスターは、ずっと考えてたの?」

「軍事衛星の発射を任されたタイミングには。 まあ、もう使えないッスけどね……」

「そう。 流石だね」

「いいや。 規模がばからしいだけの、誰にでも思いつく程度の事ッスよ」

これについては、全く本当にそう思っている。

そもそも目新しい事をしたわけでもなんでもない。

ただ、残った火力をまとめてぶつけただけだ。

テンペストミサイルがまだ撃てる状態だったら、そうしていただろう。

ただ、それだけである。

幾つか話をしたあと、看護師に咳払いをされたので。話を止める。三城も戻っていった。まずはPCを回収したいが。

一晩は休まないと駄目か。

ともかく、幾つか考え事をしながら。治療を受ける。

やはり周囲は相当酷い有様の様子で。

一華は、何故特別待遇されているのかという目で、医師達に見られているようだった。

二日目には、とりあえずベッドから離れて良いと言われたが。頭がガンガンする。多分あまりにも酷使した反動だろう。

食事も少しずつ増やしながら、外に出て見て。

医師達が不快そうにするのもよく分かった。

廊下にまで、瀕死状態の兵士達が溢れている。今運ばれて行ったのは、命をなくした兵士だろう。

東京基地も、ひっきりなしに攻撃を受け続けていたのだ。

痛い痛い。苦しい死にたい。

そんな声が、ずっとしている。

なるほど、これは大人しくしていた方が良いな。そう一華は思うと、部屋に引っ込む。そして、少しずつ周囲と通信していった。

まずは、被害状況について確認していく。

ストーム2は、一応全員生存。ストーム3は、二名生存。つまりあの戦いの中で、一人は戦死したということだ。

ストーム4は、二人とも生存。

ただしゼノビア中尉は、左腕を失い。それだけではなく内臓も幾つかなくし。もう戦える状態ではないそうである。

それに、無理に動いていたこともある。

ジャムカ大佐もジャンヌ大佐も、かなり後遺症が出ることは確定だそうだ。

以前のような戦闘力は、二人とも発揮できないという。

荒木軍曹はかろうじて無事……とも言い難い。全治二ヶ月。

それにブレイザーは戦闘中に破損し、修復する目処が立たないのだとか。

小田大尉、浅利大尉、相馬大尉もそれぞれ負傷がひどい。

あの場所で。

プライマーの前線指揮官と思われる巨人を相手に、皆が総力で戦った。

一華だって、多分救出されたときは血だらけで、看護師を慌てさせたはずだ。

リーダーや弐分、三城だって負傷を免れなかったのである。

それくらいしないと、勝てない相手だった。

相手はただスペックに驕るだけのアホだったが。

それでも、そのスペックがあまりにも異常すぎたから、である。

それに、敵は全ていなくなったわけではない。

プライマーの兵器は、あらかたいなくなったが。綺麗に回収されただけ。

野生化した怪物が、各地を彷徨いていることに変わりはなく。

今、どこでどんな怪物が彷徨いているのか、どうにか把握しようとしている最中であるらしい。

無線が流されている。千葉中将による演説だ。

「これより各地の都市を少しずつ復旧していく。 被害は……とてつもなく大きく、インフラは全てがほぼ死んでいる状態だ。 だが、潜水母艦には基礎的なインフラを復旧するための資材が積み込まれている。 比較的無事な東京基地を中心地に、少しずつ世界を復旧していく。 そのためには、生き延びた皆の力が必要だ。 協力を、頼みたい」

戦いには勝った。

だが、人類は現時点で、生き残り七億を切っているとも厳しい報告が入る。

人口の九割が失われた。

これほどの壊滅的な人口激減は、病などで人類は経験したことがあるものの。

それ以外では、少なくとも歴史上ではない。

侵略などでも、九割の人間が消し飛んだ例はほぼなく。

遊牧騎馬民によって「住民が皆殺しにされた」だとか記載されている歴史書もあるにはあるが。

それらはだいたい、大げさに後の人間が書いたことが現在では分かっている。

今回は。

文字通り、人類にとって歴史上初の災厄であり。

侵略性外来生物との総力戦であり。

それをどうにか退けた、悲惨すぎる戦いだった、ということだ。

そして今まで人類の。特に20世紀以降の発展を支えた人類のインフラが、壊滅したのもまた大きい。

何もかも、作り直さなければならない。

幸い復興に用いるあらゆる意味での「種」はエピメテウスに積み込まれている。

それを、どうにかしなければならないのだった。

ただし、その種をまいたところで。

畑を踏みにじられては意味がない。

だから、畑を踏みにじる怪物をどうにかするためにも。

当分世界政府と、EDFを糾合し。

対応しなければならないだろう。

幸いにも、オペレーションオメガは解除が宣言されている。

それだけは、救いなのかも知れなかった。

しばらくは、ぼんやりと休む。

死ぬほどまずい病院食が運ばれて来て。それから、リハビリに入る。元々一華は体が頑丈なほうではないのだ。

できる事があまりない。

そう思うと、ちょっと悲しかった。

 

数日過ぎて、やっとダン中佐と連絡が取れる。

ダン中佐は何とか命だけは拾って。今は東京基地の指揮を執っているそうだ。再生医療で手足を作っている最中らしく。

その間は、義足でどうにかするつもりらしい。

ただ。義足は技術が発展はしているものの、ダン中佐だけ高精度の義足やら義手やらを使うわけにはいかない。

当面はベッドの上から指揮を執る事になるそうだが。

千葉中将は、何日もねむっていない状況らしい。

それはそうだろう。

各地の基地は、「全滅していない」というだけの状態なのだから。

「一華少佐のニクスと、搭載していたPCか」

「はい。 一応HDDのコピーは取ってあるッスけど、あれがないと力はあんまり発揮できないので……」

「一華少佐の支援能力には本当に世話になった。 すぐに確認させる」

「よろしくお願いするッス」

何とか動けるように、リハビリを開始しているが。

頭が痛い。

決戦の時に、使いすぎたのだ。シナプスがぶちぶちと切れてしまっているかも知れなかったが。

それでも、なんとか使えるように治していかないといけないだろう。

幸い、一華の体はまだまだ若い。

だから、どうにか出来る筈だと、自分に言い聞かせる。

三日ほどして、結果が返ってきた。

巨人との戦場から、物資が引き揚げられたとき。

ニクスも回収された。

血だらけの一華がキャリバンに乗せられた後。

乱暴に消毒が為されて、そのままにされているらしい。

少し不安になったので、聞いてみる。

「長野一等兵と尼子先輩は」

「……長野一等兵は戦死した」

「!」

「戦闘が終わるまでは生きていた。 だが、その時には致命傷を受けていた。 最後の最後まで、メカニックとして支援に徹していたそうだ」

そうか。

それは悲しい話だ。

尼子先輩については、少し確認すると言っていた。

つまり、分からないと言う事か。

ほどなくして、言いにくそうにダン中佐は報告してくれる。

「運転手として雇われていた尼子くんは、MIA扱いだ」

「……」

「大型移動車の運転席に、隕石の破片が飛び込んだ。 死体は確認できなかったが……」

そうか。

死体が確認できないほどのダメージを。

それだけのダメージを受けながらも、恐らくは皆を守ったのだろう。

憶病なのに無理をして。

そう考えると、悲しかった。

あの人は途中からEDFに志願して、最後まで随分頑張ってくれた。どれだけ危険な場所でも、文句一つ言わずに車を飛ばしてくれた。

車の運転だって丁寧だったし。

そういうのに五月蠅そうなジャンヌ大佐も、文句一ついわなかった。

そうか、最後まで頑張ったんだ。

あの人は、立派な軍人だったと思う。

軍人は、みんな荒木軍曹みたいになれるわけではない。

あの人は、本当に軍人の理想を極めたみたいな人だ。

殆どの場合兵隊は略奪や民間人への殺戮を公認されているし。

二本足のケダモノとして、戦場では怪物以上の鬼畜と化す。

それが歴史的な真実だ。

だけれども、ストームチームにいたみなは違った。

長野一等兵も。尼子先輩も。

それは同じだった。

例外はあの河野というウィングダイバーくらいか。

溜息をつく。

ダン中佐は、PCについては、触らないようにと部下に指示を出してくれたそうだが。多分状態は良くないだろう。

数日かけて、少しずつ体調を改善していく。

その間も、忙しく医師が廊下を走り回っていて。

恐らくは命を落としただろう兵士が、乱暴に運ばれて行くのが何度も見えた。

悲しい話だ。

リーダーが見舞いに来たので、状況を確認しておく。

リーダーは流石だ。

あれだけ、最前線で巨人とやりあったのに。

もう、戦う事が可能なようだった。

「思ったより無事そうで安心した」

「有り難い話ッス。 それでPCを回収して、可能な限り修理したいッスけど」

「分かった、俺が護衛に立とう。 バンカーに行くぞ」

「了解ッス」

医師に話をして、そのまま行く。廊下に寝かされている兵士は減っていない。殺してくれ、とか。痛い痛いとか。うめき声が周囲から聞こえ続けている。

劣悪なアーマーで人間を殺すためだけに作られたドローンとずっとやりあっていたのである。

こういう兵士が大勢出るのは当たり前だ。

それも、若い兵士は殆どいない。

みんな前線にかり出されて、死んでしまったのだ。

中年の兵士が目立つ。中には、年老いてなお軍服を着せられ、前線に出された人や。

まだ中学生になっているか怪しいような子供の兵士も、半死半生で転がされていた。

これが、戦場の現実という奴だな。

そう思うと、悲しくてならない。

だが、それでも。

こうやってかり出されなかった人々を守り。

文明を復興するためにも。

やれることは。やらなければならなかった。

バンカーに到着。

流石にこの辺りには、兵士は寝かされていない。ただし、かなり雑多だった。壊れた兵器だらけである。

どれから治して良いのか、もう手がつけられないという有様だ。

壊れかけの兵器まで繰り出して、どうにか東京基地を死守したのだろう。だから、がらくただらけ。

特にニクスは、原型を留めている機体が殆どない。

だから、すぐに一華の高機動型は見つけられた。

PCを確認する。

案の定、乱暴に消毒をされた関係で。かなり酷い状態だ。部品の幾つかは駄目になってしまっている。

冷静に確認しながら、必要な部品をリストアップ。

HDDは無事だったが。それはガチガチにレイドを組んでいるからで。復旧には一手間二手間と掛かりそうだ。

勿論この状況で、ダン中佐に必要な部品がどうこうとは申請できない。

長野一等兵がやったように工場に掛け合うのも厳しいだろう。

壊れてしまっているニクスを、リーダー立ち会いで漁る。

不審そうに此方を見ている兵士もいたが。リーダーがストーム1だと気づくと、慌てて敬礼していた。

「リーダーは流石に知られてるッスね」

「良い事かどうかは分からないがな。 今後もプロパガンダで利用されるだろうし、文明の復興が終わった頃には神格化されて、一挙一動が本に記載されるかもしれない。 そう思うとうんざりだ」

ニクスについては、もう隅々まで知っている。

破損しているニクスの、制御部分を開いて、PCの部品を取りだす。

ニクスのPCの性能ははっきりいって知れているが。

それでも、ないよりはましだろう。

手持ちの最強PCは、最悪の場合性能を半分以下に計上しないといけないだろうな。

そう思いながら、必要な部品を集めていく。

後は、一華の私物からどうにかしていくしかない。

まあ、どうにか復旧は出来そうだなと判断。

リーダーは。咳払いする。

「弐分と三城の装備についても、見繕って貰えないか」

「ああ、あの戦闘で相当無理をしたっスね」

「そういうことだ。 フェンサースーツもフライトユニットも、ほぼ在庫がない状態だ」

「了解ッス」

どうせ、この後怪物駆除で彼方此方を奔走しなければならないのだ。

だとすると、最低限の装備は確保しなければならない。

勿論ダン中佐も、工場に掛け合ってはくれるだろう。

しかし、そもそも周囲を守る兵士達のために、装備を工場では優先生産したいはずだ。

ばちばちにやりあうことになるだろう。

人類の英雄なら、劣悪な装備でも勝てる筈だ。

そんな心ない言葉が飛んでくるかも知れない。

リーダーは、今手元にある装備でやれるだろう。

それでも、弾薬がなくなれば無理だ。

ましてや弐分や三城は。

廃棄されている部品を漁って、使えそうなものを集めていく。

バンカーの隅で、修理を開始。

フェンサー用の大型パワードスケルトンや、ウィングダイバー用のフライトユニットの構造は知っている。

民間用のものまで乱雑に置かれていた。

つまり最後の最後には、こういうのまで戦線に投入していた、ということだ。

「いきなり無理をさせて済まないな。 ケン、来てくれたか」

「はい。 壱野大佐」

ケンか。生きていたんだ。

そう思うと、良かった。

後は、ケンが護衛してくれるという。そして、壱野は早速。東京基地周辺の、残敵掃討に出るそうだ。

一華も、だらだら休んではいられないな。

時計を見て、外出時間を確認。ギリギリまで、修理をする事にする。

弐分も、しばらくはレンジャーとして壱野とともに戦うそうだ。三城は何とか残っていた民間用のフライトユニットで、それを支援するという。

ウィングダイバーは、もう数えるほどしか残っていないらしい。

それでも、兵士達には有り難い事だろう。

ともかく、生存率を上げる必要がある。

特にアフリカなどには、まだまだ巨大な怪物の巣があるはずだ。最終決戦でプライマーはそういう所から、日本に兵力を送り込んできていたはず。そんな巨大な敵をたたくためには、装備が必要になる。

先進科学研と連絡を取りながら、どうにか装備を確保したい。

ニクスだって、相馬大尉用にもう一機はどうにかほしい。

いずれにしても、まずはできる事からだ。

一つずつ、やっていかなければならない。

 

1、焼き尽くされた野

 

病院から出て翌日には、もう戦闘を頼まれた。

フェンサー用の大型パワードスケルトンは、巨人との戦闘で破損。今は、レンジャーとして戦うしかない。

勿論やれる。

弐分は、レンジャー用のパワードスケルトンを身につけて。

大兄と一緒に、敵を薙ぎ払っていた。

敵はα型ばかりだが。

それでも数は決して少なくない。

というよりも、だ。

最後の決戦の為に集められていたα型が。決戦地に向かう前にマザーシップが無茶苦茶になり。

そのまま解散して、各地で右往左往している。

そういう印象を受けた。

いずれにしても、今の装備だとちょっとした攻撃を受けただけで致命傷になりかねない。

アサルトも酷い品ばかりだ。

一応大兄はストークZを使っているが。

弐分には、二つくらい型落ちのストークが渡されていた。

それでいい。

大兄ほど、レンジャーの装備を使いこなせないからだ。

「今、一華が装備の修復をしてくれている。 ニクスもいずれ、前線に出てくるかも知れない」

「有り難い話だ。 三城もそろそろいけるかも知れないかんじか?」

「ああ」

「大兄!」

叫んだのは、他の兵士達にも聞かせるためだ。

また新たな敵部隊。接近を許す前に、攻撃を仕掛ける。

正面に展開していたα型の残党よりもかなり数が多い。大兄が前に出ると、一発も外さない勢いで、駆逐していく。

兵士達が舌を巻く。

「す、すげえ……」

「英雄ってのは本当なんだな……」

「敵が雑魚ばかりだといっても気を抜くな! 死ぬぞ!」

一緒に出て来ている分隊長が声を荒げる。

分隊長と言っても、老人に片足を突っ込んでいる雰囲気だ。

終戦間際に徴兵されたのだろう。

射撃を続けて、怪物を駆逐する。

α型ばかりだったが、それでも被害無しで撃破する事は出来た。戦車の一両でもいれば。そう思ってしまう。

遠くに見えるエピメテウス。

潜水艦隊は各地に散って、制海権の確保を確認しているそうだ。各地の被害も。

メガロポリスは全滅。東京だって、例外じゃない。

何度も何度も波状攻撃を受け続けて。市民は無事だが、東京のインフラは壊滅してしまっている。

エピメテウスから物資を降ろして、今は復旧の下準備をしている状況だ。

そのエピメテウスが見える地点で、怪物相手に戦闘をしているのである。

復旧が遠い事なんて誰にだって分かる。

ジープが来た。

それも、ボロボロだった。

「埼玉に怪物が出現! 撃破をお願いします!」

「分かった、任せろ」

「大兄……」

「俺たちでやるしかない」

そのまま、敬礼する兵士達を残して、埼玉方面に行く。電車なんて動いている筈もないが。線路をそのまま伝い。ナビを使って現地に向かう。

戦略情報部はエピメテウスから降りて、東京の地下に移ったそうだ。

成田軍曹は戦闘後、精魂使い果たしてしまい。今も起きていないという。

まあ、あの子は錯乱寸前だったし。

生きているだけ、マシなのかも知れない。

現地に到着。

兵士達が距離を取って見張っているのは、α型百ほど。β型も少数いる。

プライマーがいなくなっても、共食いをする様子はない。そういう風に、丁寧に調整されているのだろう。

生物兵器として。

見張りについていた兵士達の練度は、世辞にも高くない。装備も劣悪だった。

報告を受けるが、大兄は機嫌が露骨に悪そうだ。

半分以上の敵に気付けていない。

「俺たちが戦闘をするから、指示次第攻撃をしてくれ」

「あの数を、お二人で……!?」

「お前達を戦わせても死なせるだけだ。 敵はあの辺りにも伏せているが、気づいていなかっただろう」

「……」

青ざめて、俯く兵士達。

一線級の兵士は、みんな死んでしまったのだ。だから、仕方が無い。

咳払いすると、弐分はある程度フォローする。

「今回は我々が見本を見せる。 とにかく戦闘して、生き延びて帰る事を考えてほしい」

「分かりました、ストーム1のお二人」

「ああ。 指定の位置まで移動。 指示をするまでは、絶対に攻撃をしないように」

「い、イエッサ!」

兵士達を下げる。

本当は、戦闘そのものをさせたくない。

大兄の、その気持ちは分かったが。

それを口にするわけにはいかなかった。今は文字通り、猫の手だって借りたい気分なのである。

大股で歩いて行く大兄。

そして、射撃を開始。

反応する怪物を、弐分も少し遅れて撃ち始める。

大兄ほどの超人的な手際ではないが、それでも特務の兵士より戦える自信くらいはある。そのまま、敵を薙ぎ払って行く。

増援として、地下に隠れていた怪物が沸いてくるが。

沸いてきた瞬間に、大兄がグレネードを撃ち込み、爆破。

怪物も、一線級のものは全てあの戦闘に投入されていたのだろう。

或いは幼体なのかも知れない。

まだまだ体が柔らかく、動きも遅いように思えた。

順番に処理していく。

勿論幼体だろうが、人間を躊躇なく殺して行く殺戮マシーンである事は間違いなく。一匹でも東京に侵入を許せば数十人が殺される。

それを許すわけにはいかない。

全てを駆除するまで、三十分ほど。

最後の数体は、見張りに来ていた兵士達に対処させた。わあわあと騒ぎながらも、必死に射撃をして。

それでもどうにか大兄の指示を受けながら、撃破に成功する兵士達。

幾つか大兄は丁寧にアドバイスをして。

兵士達は、それを聞いて、敬礼した。

「噂に違わぬ戦いぶり、感銘いたしました!」

「次は俺たちをお前達が助けてほしい」

「イエッサ!」

すぐに指示が来る。

今度は栃木か。

やはり、東京の復興を簡単にはさせないというつもりなのか。それともエサを探しているのか。

怪物が相当に集まって来ている。

タチが悪いことに、どの群れも数が少ない様子だ。

しかも、そんな小規模な群れすら満足に撃退出来ないほど、東京基地は戦力を減らしてしまっている。

千葉中将は、更に状況が悪い各地に指示を飛ばしながら、復旧を急がせている状況だろう。

これ以上、負担は掛けられない。

夕方まで連戦を続けて。

そして帰投する。

三城用のフライトユニットについて、大兄が確認するが。

工場がガン無視。

一華がどうにか仕上げてくれるらしい。ただ、二日後になるそうだが。

三城用のが終わったら、ストーム3とストーム4用の装備の修復に取りかかるそうである。

それも、技師がまともに残っていない。

エピメテウスに乗っていたのは、本当に最低限の技師ばかりなのだ。

それらだって、東京基地の末端などに来る余裕は無く。

今後の人類再生計画に着手するだけで、手一杯だろう。

まずいレーションを口にしてから、ねむる。

東京は、完全に夜になると真っ暗だ。

電気の復旧なんて、年単位で先になるだろう。

東京基地だけは、敵に警戒してライトをつけている。東京の外縁部でも、既に前哨基地が作られ始めている様子だが。

それも名前だけだ。

怪物が出たら、大兄と一緒に弐分が出向かなければならないだろう。

当面はこんな仕事が続くはずだ。

情けない話だった。

 

一週間が過ぎる。

やっと、大型のパワードスケルトンが来た。どうやら民間用のものを一華が魔改造したらしく。

多少不格好だが。最終決戦で使い壊れてしまったものの七割くらいのパワーが出る様子だ。

今後、実績を見せて、更に改造していく。

そう一華が言ってくれたのはありがたい。

また、三城にも、同じように民間用のフライトユニットを改造したものが支給された。

これで三城も戦線復帰。

ストーム1、再結成だ。

ストーム2の皆は怪我が酷く、まだ戦線復帰は無理。

一華も、ニクスを修復するのには一月はかかるという事で、しばらくは後方支援専門になるということだ。

その間は、村上三兄弟だけでやるしかない。

当然だが。

それぞれ、別々の戦場にいかされることとなった。

少しずつ、ボロボロの兵器が前線に出てくる。どれもこれも壊れかけ。砲塔がない戦車が行くのが見える。

あれは回収車両だ。

擱座している戦車などを回収して、バンカーに持ち帰るためのもの。

持ち帰った後は、使えそうな部品があるなら使う。

もし修理して動かせるようなら、万々歳というところだろう。

トラックが行くのが見える。

どうやら、東京辺縁の孤立集落に、物資を運んでいるらしい。今日は、三城があのトラックの護衛につく。

大兄は、神奈川まで足を運んで遠征。巨人との戦闘が行われた相模大野の辺りは安全がある程度確保できているようだが。

丹沢の辺りまで行くと、怪物がまだまだ彷徨いているそうだ。それを駆除しに出向く。

弐分は逆に、千葉に行く。

ちょっとフェンサースーツの機能が心配だが。

それでも、やるしかないだろう。

千葉は巨大な遊園地の跡地に、β型が住み着いている。此処も、早いところ奪還が必要だろう。

繁殖されたら大変な事になる。

プライマーの枷が外れた以上。

いつ無差別に繁殖を開始しても、おかしくはないのだから。

数が少ないのが幸いだ。

一緒に来た僅かな部隊には、外での待機を指示。

基本的に弐分が片付ける。

もしも増援が来た場合、すぐに逃げつつ知らせてほしい。それだけは話をした。

兵士達は、生かして一人でも帰さなければならない。

それはずっと同じだ。

手が足りていないのだ。

病院はまだまだ地獄同然。

再生医療どころか、トリアージをしている状況がまだ続いている。

最終決戦が終わっても。

医療関係者にとっての山場は、まだまだこれからだろう。

それも、戦場で死んでしまった医師はたくさんいる。

東京に残った医師は、余計に負担が大きくなっている。

当面は子供の教育どころではないだろうなとも思って。

弐分は悲しいとだけ思った。

まずは、β型にスピアを叩き込んで、引きずり出す。

立体的な地形でどれだけ動けるのかを確認。

パワーはでないが、それでも連続してブースターもスラスターも使える。これは、基礎機能は元より上がっているかも知れない。

ただし、アタッチメントなどを加味すると最終決戦でつけていた大型パワードスケルトンには及びもつかない。

それもまた、事実だった。

スピアで確実に敵を屠りながら、機動戦を続けて行く。

無秩序に仕掛けて来るβ型の怪物を屠るまで、それほど時間は掛からない。だが、この遊園地全域に、まだまだ悪意がある。

怪物が、此処に集まって来ていて。巣を作ろうとしているのかも知れない。

「入口付近の怪物掃討。 奥へ進む。 皆は周囲の偵察を続行してほしい」

「了解、村上少佐」

「……」

そのまま奧へ。

怪物を駆除しながら、進む。

この遊園地は、日本最大のものだった一つだ。今は怪物だらけだが、それも全て駆逐していく。

残された遊具の残骸が悲しい。

この遊園地を作った会社は、開戦前くらいには色々と良くない噂もあったらしいが。

それでも、此処が日常を忘れて楽しめる場所だったのは間違いない。

当分人類は娯楽どころではないだろう。

それを考えると。

此処にいる怪物共は、ちょっと許しがたい。

数時間戦闘して、フェンサースーツを試しながら遊園地中を回る。

最終決戦前後数日のような敵とは、物量がまるで違い過ぎる。少なすぎて、腕が鈍りそうだ。

片っ端から片付けて行き、夕方までには安全を確保。

後からまた怪物が来るにしても。

いずれにしても、今日は片付けて、安全にする事が出来た。

後から工兵が来て、監視カメラを要所に仕掛けていく。

どれも民間品レベルの品だ。

溜息が出るが、仕方が無い。また、この遊園地にあった電力設備なども、重機で運び出すようだ。

動かせる電力設備は一つでもほしい。

そういう考えなのだろう。

原子炉を作る予定がある。

そういう話は聞いている。

東京近郊の原子炉は。あらかたプライマーにやられてしまった。

開戦前だったらバカがデモをやっていたかも知れないが。今は、もうそれどころじゃあない。

ましてや、今回設置する原子炉は。先進科学研が実用に移した核融合炉だ。

事故の恐れもない。

問題は怪物の襲撃から守らなければならないこと。

それをするには。

決定的に兵力が足りないのが、事実だった。

陽が落ちたので、東京基地に戻る。

プライマーの枷が外れても、怪物が夜に動きを止めることは同じだ。

此奴らが元々住んでいた場所では、夜が余程危険だったのかも知れない。

死んだふりという行動をする生物は結構いるが。

あれは動かない事によって、敵の視界から逃れる事が目的なのだと、生前の祖父に聞かされた。

だから熊とかにはやっても無意味だと。

怪物は、元いた星で、夜に動きを止めていたのだとすると。どんな化け物がそこにはいたのだろう。

恐ろしい話だと、弐分は思った。

 

皆で食堂に集まる。

大兄が、皆を見回して、軽く情報を共有。

ストーム1の事は知られているらしく。

皆、席からは距離を取っていた。

「小田原の辺りには、散発的に怪物が来ている。 あれは恐らく、どの地域でも似たような有様だろう。 放置も出来ない。 残された人的なリソースは限られているというのにな……」

「私は甲府の方まで遠征してきた。 ベース228は無事」

三城がそういうのを聞いて、少しだけ安心した。

各地の基地は、怪物の散発的な攻撃からは解放されたらしい。

ただし、ベース228に辿りつくまで、相当数の怪物を駆除しなければならなかったそうだが。

「フライトユニットはどうだったッスか?」

「問題ない。 前ほどのパワーはでないけれど、現時点での怪物を相手にするには充分過ぎるくらい」

「そっスか。 なら、まずは最終決戦時のスペック再現が目標ッスね」

「それで頼む」

一華は頼もしい。

長野一等兵は本当に残念だったが、それでも一華がいてくれる。これでニクスが来たら鬼に金棒なのだが。

まあ、しばらくはやむを得ないだろう。

弐分の方でも、遊園地にいた怪物を全滅させた話をしておく。

一華が渋い顔をしている。

「ああいう場所は、ちょっと苦手ッスわ」

「そうか。 だが、ああいう場所は必要だ。 いずれ復旧していかなければならないだろうな」

「それには同意ッス。 ただ当面は……」

「ああ、それどころではないな」

ダン中佐は傷が酷く痛むらしく、今は会話に参加していない。

レポートを書くと言って、大兄は先に席を外した。食べ物は残せない。こんな状況である。

駅前にある飲み屋で毎日大量に食い残しを廃棄していた頃とは、何もかも状況が違っているのだ。

「とにかく、戦闘用のビークルを少しでも復旧してくれ」

「一応、工場から部品が来てるッスね。 まずは戦車や歩兵戦闘車から、という方針らしいッスわ」

「確かにこの数の怪物ならそれでいいだろう。 だがマザーモンスターやそれ以上のが出て来た場合は、対抗が難しい」

「だから、私がどうにかするッス。 一応ダン中佐から、交渉はしてもらっているので……」

一華からの交渉については、まあ誰も期待していないし。

本人も期待されると困るだろう。

それと、一華にはストーム3とストーム4用の装備の復旧もある。

なおブレイザーについては、流石に無理だそうだ。

あれは先進科学研が、総力を挙げないと作れないレベルの品だそうで。

東京基地のバンカー程度で直せる代物ではないらしい。

確認をした上で、解散する。

そして、翌朝も。

早朝から外に出向いた。

怪物は勤勉だ。

早朝から動き始める。

無人の偵察機も、少しずつ生産はされているようだが。最終決戦で全てを吐き出しきった東京基地は、受けているダメージがとても大きい。

他の基地もそれは同じ。

しばらくは守りに徹しながら、少しずつ力を蓄えるしかないだろう。

下手をすると、年単位で攻勢に出ることは出来ないかも知れない。

だが、それでもだ。

今は、少しでもできる事をする。

生き延びたのだ。

生き残れなかった人達はたくさんいる。

あの筒井大佐も。

大友少将や大内少将も、マザーシップを決戦の地に近づけないために倒れていった。

倒れていった人達の意思を受け継ぐ。

それもまた。

弐分達、生存者がしなければならないことだった。

「奥多摩に怪物が侵入しています」

「了解。 すぐに退治する」

「頼みます……」

兵士達の声は恐怖に震えている。

戦争末期に徴収された兵士達だ。まともに戦える装備もないし、そもそも怪物は彼らにとっては悪魔も同然だ。

少年兵や老人兵は、少しずつ軍属から戻そうという提案もされているらしいが。

それも一体、いつになることやら。

弐分は怪物を見つける。

そして退治する。

連日、東京を包囲するように少しずつ確実に攻めてくる怪物を潰して回る。

そうしているうちに、更に時間は過ぎていく。

東京基地に多少の戦闘車両は配備され始め。

地獄みたいな病院の状況は少しずつ改善され始めた。

無人偵察機も飛ぶようになり。

原子炉の建設も始まった。

だが。

まだまだ、当面人類の力を軍に全振りの状態は終わりそうにもない。

プライマーの残していった怪物は減る気配もない。時々コロニストが姿も見せる。コロニストと聞くと、誰もがおそれる。

それをどうにかするためにも。

弐分は、修復が進むフェンサースーツとともに。

戦場に出向き。

見敵必殺を続けて行かなければならなかった。

 

2、遅々たる復興

 

大阪に出向いて、思わず無言になってしまう。

筒井大佐のお墓参り、と三城は思ったのだが。

どうやらそれどころではなさそうだった。

かろうじて基地はまだ生きている。

だが散発的に仕掛けて来る怪物もあり。

兵士達は、勝ったというのに疲れきっているのが分かった。

ストームチームが来た。

そう聞いて、兵士達はやっと顔を上げたくらいである。

今回、係留されていた海軍の強襲揚陸艇を復旧させ、海路から物資を運んできた。大阪基地は通信が途切れがちで、物資も怪しかったからだ。

千葉中将は過労で何度も倒れた。

その度に、ダン中佐が指揮を代わったが。

ダン中佐だって、再生医療の途上で、全身が凄まじい痛みに覆われている途中だそうである。

そんな訳で、大阪に僅かな戦車と歩兵戦闘車、弾薬、食糧、医療品などを届けに来た。重機などもある。

製造されたばかりのトラックも少し。

いずれもが、最低限の物資ばかり。

東京基地ですら、物資が足りておらず。

戦争が終わって三ヶ月して、やっとニクスが一機だけロールアウトしたような有様なのである。

これから疎開していた難民を少しずつ故郷に、という声も上がっているが。

大阪基地の現状を見て。

更に大阪基地周辺の悲惨過ぎる有様を見ると。

とてもそんな事は、言えないなと思った。

三城は無言で、周囲を調査するスカウトの警護に当たる。

上空にいる三城の事を、兵士達は心強いと思ってくれているようで。それだけは有り難い話である。

一華が作ってくれたフライトユニットは、どうにかパワーだけは終戦時のものに並んだが。

まだまだ武器へのエネルギー供給などで課題が多い。

ましてや、この地にはマザーシップが落ちたのだ。

大阪の町は。

完全に消滅していた。

ナンバーイレブンと違い、この地で落ちたマザーシップは、地面に落下して爆発したと聞いている。

それならば、この悲惨な有様も、仕方が無いのかも知れない。

兵士達も、あからさまに若すぎるものや、年老いすぎているものは軍属から少しずつ外されている。

その一方で、仕事なんてものはありはしないので。

働き盛りの人間は、男女関係無く兵士になっていて。

仕事自体も極めて忙しく。

兵士と言っても土木作業もしなければならないし。

そうでなくても機械類を整理したり。修理したり。

或いは軍工場で働いたりしなければならず。

人類の復興は、遠い事が三城にも分かるのだった。

上空で手をかざす。

バイザーを通じて、大兄に連絡を入れる。

「かなりいる。 基地に近付いてくる様子はないけど」

「そうか。 出がけの駄賃に片付けてくれるか?」

「わかった」

今日、大兄は一人で福岡に出向いている。

小兄は鳥取。

此処にいるのは、三城と一華だ。

大阪基地は、オペレーションオメガにも参加した。

その事もあって、多くの避難していた市民が最後の最後で犠牲になった。

海外の生き残りも、早く支援をと言っているようだが。

EDFの戦略情報部も先進科学研もまだ東京で仮本部しか作れておらず。

エピメテウスも、物資の補給や供給で東京湾にはりつきの状態。

とてもではないが、日本から離れられる状態ではなかった。

今回の支援チームは、二個小隊ほど。

中には、最初にロールアウトした一華の専用機ニクスもいる。

次に相馬機をロールアウトする予定らしく。

また、この一華の専用機は、レーザーを主体にした新型ニクスであるらしい。

機体も赤い塗装が良いと一華が言っていたのだけれども。

ロールアウトされてきたのは白銀色の機体で。

それだけは、一華は不満なようだった。

ただ、武装がレーザー兵器主体であることと。

非常に足回りが速い事は気に入っている様子で。

いずれ、自分好みにカスタマイズしたいらしい。

この他に、戦車が二両いる。

どちらも試作段階の戦車だが。

ブラッカーの次の世代を意識して作られたものだそうだ。

此方も怪物との戦闘を意識して、主砲の火力を上げ。更に足回りを強化しているらしく。確かに機動性は抜群だ。

ただ此方もまだまだプロトタイプだと言う事がわかる。

必死に復旧を兼ねて、兵器を強化している。

プライマーがまた攻めてくるかも知れない。

その時のために、備えている。

アピールをするために、EDFも世界政府も必死だ。

その過程で、こういう新型が、次々とロールアウトはしている。

たとえ、プロトタイプだとしても。

「怪物がいるので、蹴散らす。 私を支援してほしい。 戦闘を行う位置は、一華に任せる」

「了解。 ただ此方はまだプロトタイプ機っスからね。 それにそっちも本調子じゃないッスよね。 無理は禁物っすよ」

「分かっている。 出来る範囲で動く」

大阪の端でうごめいているのは、α型の群れとβ型が少数か。

いずれにしても、上空から雷撃銃で仕掛ける。

見かけよりも数がいることは分かっていたが、それでも対処可能の範囲だ。そのまま、射撃を続けて、近付く前に相当数を仕留めてしまう。

「試作型戦車、射撃開始!」

「少しでもデータを取れ! それで復興が早くなる!」

「イエッサ!」

部隊長としてきている何とか言う大尉が声を張り上げる。

とはいっても、ストーム隊の方針に逆らうつもりはないらしい。

距離を取ったまま、主砲の性能を試すように射撃している。

火力は文句なしに凄いなと、三城は感心した。

後方に跳躍しながら、更に雷撃銃で敵を減らす。

一華の新型ニクスの射程に入る。

レーザーでの攻撃が開始され、怪物は文字通り焼き切られた。

ブレイザーはまだ修理が終わっていないらしいが。

このレーザーを小型化して銃にするのであれば、それで充分に思える。

怪物が次々に焼き払われていき。

地中から現れた増援も、一華が冷静に対処。

ほどなく怪物は全滅した。

「よし、今の映像を大阪基地に流せ。 少しでも希望が必要だ」

「はい、しかし……」

「この辺りの復興は、大阪の人間にやってもらうしかない。 工場はまだ生きているし、今日出来るだけの物資は届けた。 大阪だって、何度も焼き討ちを受けたりして、それでも発展してきた都市だ。 そのための基本になるのは、希望だ」

そうだな。

精神論を振りかざすのははっきりいって大嫌いだが。

それでも、こう言うときには最低限の希望が、背中を押してくれるかも知れない。

ただ。物資もなく復興などは出来ない。

まずは、主要道を怪物から守り。

物資を搭載したトラックが国道を行き来できるようになってから、だろう。

東名高速などは復興どころではないと聞いている。

しばらくは空路と海路。

燃料の問題もあって、海路が主体になるだろう。

基地の周囲を回って、怪物を駆除して回る。

以前、大阪基地で共闘したときは。随分と気が良く対応してくれたものだが。

筒井大佐の戦死や。

オペレーションオメガでの無茶な動員はまだ影を落としていて。

明らかに、大阪周辺を彷徨いていた怪物を駆除したのに。

皆、顔は暗かった。

出てくる食事も美味しくない。

大阪基地の食事は、それなりに良いものが出て来たのに。

無言でいると、片腕を義手にしているコックが来た。

「あんた、ストームチームのウィングダイバーかい?」

「はい」

「そうか……ありがとうよ。 俺の家族や、近所の皆の仇をとってくれてよう……」

泣き始めるコック。

料理をしようにも材料がなく。

腕の振るいようがないという。

工場から来る食糧は、人工蛋白だのばかり。

材料が駄目だから、料理もしようがなく。

泣く泣くまずいものを提供するしかなく。兵士達も、それが分かっているから、みんな我慢していると。

本当に悔しそうにコックはいった。

「でも、あんた達があのエイリアンのデカイ親玉をいてこましてくれた。 本当に感謝するわ……」

「……」

「すまん。 うまいもので礼をしたいのに、できんでなあ」

「いいえ。 それよりも、物資は少しだけでも届けました。 この辺りの復興はお願いします」

こくこくと頷くコック。

兵士達も、文句を言いようもなかったらしく。その話を、聞いているだけだった。

二日間、近畿を回って怪物を駆除。

本当にどこから沸いてくるのか。

彼方此方で、怪物が跋扈していた。

孤立している小規模集落などもある。生存者もたまに見つかる。そういう人達は保護しなければならない。

そして、大阪基地に送り届けるが。

まだこれなら、怪物に囲まれていても山の中の集落のがマシと、顔に書いている事もあった。

分かっている。

それでも、今は可能な限りマンパワーをあつめ。

少しずつ、怪物から生存圏を取り戻していくしかない。

それに、だ。

最終決戦で、トゥラプターが姿を見せなかったことは、三城も気になっている。

彼奴は必要だとまで言っていた。

あのプライドが高そうなトゥラプターが、である。

それなのにどうして姿を見せなかった。

もしもストームチームが敗れていたら。人類は確定で滅亡だったのに。

怪物の群れは小規模で。

いずれも苦戦するような場面はなかった。

試作型の戦車が何回か故障したが。

それも追随してついてきている先進科学研の技師が。その場で対応したし。

戦車が擱座したくらいで、死人が出るほど三城だって腕を鈍らせていない。

一華にいたっては、もう新型ニクスの仕組みを把握しているらしく。

故障した場合は、自分で直して。

先進科学研の技師を呆れさせていた。

更に一日、掃討戦を進めて。

大阪基地に戻る。

やはり、怪物は極小規模な群れになって。人類が生き残っている周囲に、少数ずつ現れている様子だ。

攻撃を積極的に仕掛けて来る様子はないが。

隙を見せたら繁殖に移るそぶりさえ見せている。

マザーモンスターの目撃例もあるという。

下手をすると、怪物が更に増えて、人類を脅かす。

それを防ぐためには、復興に全力を注ぐのでは無く。

リソースを割いて怪物を退治しなければならない。

頭に来るが。

非常に頭のいい戦力の削り方だ。

少なくとも、あの巨人の指揮ではないだろう。

指揮系統が変わっている。人類の復興を確実に遅らせることに、プライマーは戦略を転換し。

マザーシップなんぞなくとも、それは上手く行っていると言うことだ。

大阪基地に戻る。

重機などが動いていて。大阪基地の兵士達が、少しずつ工場を拡張したり。プレハブを建てたりしていた。

最終的には、基地の原子炉と同じものを、紀伊半島辺りに作る予定らしい。

だが。それにはまず大阪の町を少しでも復興して。

攻勢に出るための戦力を蓄えなければならない。

大阪基地には、最低でも五十両の戦車がほしい。

そう、基地司令官が。千葉中将と交渉しているのが聞こえた。

確かに大阪基地の規模から考えれば当然だ。

そして、現状。

大阪基地には壊れかけの戦車が四両しかいない。今回、連れてきているプロトタイプは引き渡せない。

その代わり、揚陸艇からあまり状態が良くない戦車を二両引き渡す。

しばらくは、これで我慢してくれと千葉中将が言っていて。

基地司令官に新たに就任した島という中佐が、悔しそうに俯いていた。

揚陸艇に乗ると、大兄小兄と連絡を取る。

二人とも揚陸艇で、それぞれ基地に出向いていたはずだが。多分状況はあまり大阪と変わらない筈である。

話を聞くと、やはりそうだった。

「福岡では椎名という大佐が指揮を執っていたが、これがまた無能でな。 怒りっぽいと評判が悪かった大友少将に、皆が従っていたのがよく分かった。 ともかく、九州の怪物は発見次第片付けた。 指定されていた物資も引き渡しを終えた。 これから東京基地に戻る」

「鳥取も酷い有様だった。 俺もこれから戻る。 大内少将が生きておられれば、こんな状態ではなかっただろうにな……」

「結局マンパワーを使い果たしているって事っすわ。 最低でも一世代は、取り戻す事は無理っすねこれは。 しかもこの状態だと、子供を育てるとか、それどころじゃないッスよ」

一華が通信で一番大事な話をする。

子供を作るにしても、ミルクも何もない。

母親が子供を産む体力すら得られないだろう。満足な産婦人科設備だって作れない。

そうなると、古い時代のように子供を産む事が大変なリスクになる。

下手をすると、半々で母子共に死亡、なんて事になりかねない。

そんなことになれば、人員を更に失っていくことになる。

「まずは日本の地盤を後三ヶ月で固めてから、北米と中華に支援に出向いて。 そこを基点にインド、ロシア、欧州と支援を進める予定らしいッスけど、問題が幾つかあるっス」

「問題しかないように思うが」

「いや、今リーダーが考えている問題なんて、問題にもならないッスよ。 敵にはまだ移動基地と、怪物の巣があるっスから」

そうか、そうだ。

ダメージは受けているとは言え、英国からアフリカに移動した移動基地。これが非常に厄介だ。

此奴はアフリカで怪物を培養するために、巨大な怪物の巣を守っていたはず。

人類の復興にはこれの撃破が必須になるだろう。

やれるとしたら、ストームチームだけしかいないが。

そもそも、奴のいる場所に辿りつくだけでも命がけ。

ニクスもタンクも、レールガンもタイタンもろくにいない状態で。油断もしていない移動基地を破壊出来るかどうか。

だが、やらなければならないか。

いつになるかは分からないが。

覚悟はしておかなければならないだろう。

他にも、幾つか打ち合わせはしておく。

東京基地には、夜には到着した。早速、ダン中佐から連絡が入る。

「千葉の北端で怪物のそれなりに大きな群れが確認されている。 疲れている所すまないと思うが、対処に向かって貰えるか」

「りょうかい。 すぐにいく」

「ありがとう。 俺も再生医療が完了し次第、ニクスに乗って出る予定だ」

今、東京基地では何機かニクスを建造しているそうだ。

相馬機もそうだが。ダン中佐用にも建造しているらしい。

ダン中佐はバルガで多数の怪生物を倒した実績を持つ歴戦のビークル乗りである。優先的に新鋭機が回されるのは、当然なのかも知れない。

三城と一華の乗った揚陸艇が、大兄小兄の奴よりも先に東京に着いたので。港に迎えに来たトラックに乗って、現地に急ぐ。

戦車は少しでもデータを取りたいらしく。

トラックに併走して、ついてきた。

足回りに関してはなかなかだ。山の中を走り回ったにもかかわらず、殆どトラブルがなかった。

悪路を走行することに関しては、二年間の戦闘でデータを山ほど取ったのだし。

まあ幾らでも改良出来たのだろう。

現地に到着した頃には夕方になっていた。

ニクスを見て、見張りについていた兵士達は喚声を挙げる。

「ニクスだ!」

「やった! これでかてるぞ!」

「復興、ばんざーい!」

ちょっと怖いくらいの歓待だ。

いずれにしても、怪物を駆除する。確かに、相応の数がいるが。蹴散らせない相手ではない。

一華に作戦は任せてしまう。

大兄や小兄の手を患わせるまでもない。

この場で蹴散らす。

バイザーに細かい作戦が来たので、頷いて上空に上がる。敵は大したのがいないが。地下に大きな悪意がある。

マザーモンスターかも知れない。

だとしたら、確実に仕留めなければならないだろう。

プラズマグレートキャノンにエネルギーを充填。

敵のど真ん中に、叩き込む。

敵の残骸が粉々になって消し飛ぶ中。

現地で見張りについていた兵士達と、一緒に転戦した兵士達。戦車隊が、敵に攻撃を開始する。

再び、プラズマグレートキャノンにエネルギーを充填。

地中から、わっと怪物が出てくる。

マザーモンスターかと思ったら、キングである。

まあ、むしろ好都合だ。

此奴の方が、マザーモンスターよりも柔らかいからである。

一華の乗る新鋭機の火力は圧倒的で、レーザーで文字通り怪物を薙ぎ払って行く。レーザーは元々対生物用の殺傷兵器には向いていないという話があるが。一華機のレーザーは、多分コスモノーツのレーザー砲兵が使用していたものを参考にしているのだろう。火力がとんでもなく、怪物を寄せ付けない。少なくとも、この程度の数のα型やβ型程度なら、である。

三城はそのまま、プラズマグレートキャノンを、キングに叩き込む。

充填の時間の間、戦車隊がしっかり支援をしてくれる。キングが装甲が大型の怪物にしては脆く。

怯みやすいことは周知されているのだ。

そうでないとしても、一華がバイザーを通じて細かく指示しているのだろう。

一華のPCは、元通りの性能では復旧出来なかったそうだが。

それでも、何とかもとの八割くらいの性能のものを再建できたそうである。

それで、どうにかやっていけているというわけだ。

「! 怪物、増援」

「方向は分かるっすか」

「南」

「……ちょっと引いた方が良いっすね。 キングを仕留め次第、後退を開始してほしいっス」

一華の声に、兵士達は従う。

皆、一華がどれだけ的確な指示を出してくれるか。それでどれだけ被害を減らせたか、知っているのだ。

もう一発、プラズマグレートキャノンの一撃を叩き込み。

キングを粉砕。

大きかろうが、怯みやすい上に脆い。

接近されるとタイタンでもあっと言う間に破壊されるほどの危険な火力を持っているが、それはそれだ。

怪物を捌きながら、後退。

地中から、迂回して現れた敵を、そのまま火線の射線上に捕らえ。

地面から出てきた所をそのままなぎ倒す。

敵は挟撃しようとしたところを、逆に奇襲され。

混乱している所を、次々となぎ倒されていった。

陽がすっかり落ちた頃に、戦闘は完了。

一華の的確な指示もあって、損害はなし。弾はかなり使ったが、それくらいだ。弾なら、備蓄がある。

弾だけなら。

あと、三城のフライトユニットは少し調子が悪いかも知れない。

後で、一華に見てもらう必要があるだろう。

トラックに乗って、東京基地に戻る。大兄から、通信があった。

「今、港に着いた。 すまなかったな。 遅れてしまって」

「大丈夫。 この程度の戦力だったら、私と一華で余裕」

「そうか。 頼もしくなったな」

「ありがとう、大兄」

少し嬉しい。

とりあえず、これで少しは休めるだろうか。

いや、休めるはずがない。

多分日本の何処かにだって、まだEDFが発見できていない怪物の巣があると判断していい。

こうしている間にも、世界中で怪物は繁殖し、EDFの対応能力を上回り始めていてもおかしくない。

いわゆるトリアージをして、復興する箇所を絞り。その場所で戦力を増してから、怪物の大軍にテクノロジーを駆使して挑むか。

それとも、各地で戦闘をしながら必死に戦線を維持し。

全部の場所で、少しずつ復興をしていくのか。

判断をするのは三城ではない。

いずれにしても、やることは決まっている。出来る範囲で、できる事をする。

それ以上は、何もなかった。

 

3、ハイロウミックス

 

一華が先進科学研の技師と喧嘩をしていると聞いて。壱野は東京基地のバンカーに出向く。

これから遠征だ。

行き先は北米。

ジャムカ大佐が何とか復帰した。

フェンサースーツももう大丈夫。

日本では、東京基地がどうにか自衛能力を取り戻し。再生医療を受けたダン中佐が、少しずつ防衛用の部隊を拡大している。

ジャンヌ大佐はまだ病床だが、リハビリを続けていて、もう少しで退院できるらしい。

荒木軍曹はもういけるという。

ただ、浅利大尉が少し怪我がひどいらしく。出来れば浅利大尉の復帰を待ってから本気で動きたいそうだ。

いずれにしても、日本の方は。東京基地から多少の兵を出せるようになり。

国道の復旧も開始された。

まだ新幹線を動かすのは不可能だが。

横浜にまで復旧の手は伸び。町田にも、少しずつプレハブが作られ始めている状況である。

電車が動くには、まだ怪物の脅威が大きいし。

作られたばかりの原子炉には、まだまだ危険もあるので。実現には至っていない。

何より地下鉄は避難民が多数暮らしていて。彼らが地上で暮らす目処すら立っていないのである。

そして、こんな東京よりも。

北米のが悲惨なのは、周知だった。

いずれにしても、今は身内で喧嘩している場合ではない。

バンカーに出向いて。

そして、一華とにらみ合っている研究員に咳払いした。

「何を喧嘩している」

「こ、これは。 村上壱野大佐……」

「リーダー。 この人、分からず屋っス」

「分からず屋とはなんだ! 階級が上だからとはいえ、私は専門家だぞ!」

兎に角喧嘩を止めるようにいい。

双方の言い分を聞く。

一華は、半壊しているニクスを視線で指す。

どうやら、火器管制周りは修復が完了しているらしい。

しかし、ニクスといえば課題は足回りだ。

コンバットフレームシリーズにこれは共通している事は、壱野も知っている。時々一華がぼやいていたからだ。

二足歩行にこだわらないで、無限軌道でも使えば良いのにと。

市街戦でテロリストを鎮圧するための開発された、重装甲の人型兵器。それがコンバットフレームシリーズだ。

ニクスは傑作シリーズとして量産されたが。

しかし足回りもあって、コストがそれだけで何倍も掛かる兵器になっている。

一華が言っていたが。確かにニクスの強みは装甲とその強力な機銃だ。機銃については、怪物相手に充分な戦果をあげるのを、壱野は嫌と言うほど見てきている。

「このニクスは、さっさと戦線に投入すべきっすよ。 足回りについては、もう見送って、そのままトラックの荷台にでも載せてしまうのが一番っス。 軍用トラックだったら、ニクスを乗せて走り回れる筈っスよ」

「ニクス型の足回りに、どれだけ予算が掛かったと思っている! 二足歩行兵器の開発は、そもそもとして……」

「だーかーら、今は新型機よりも、動かせる兵器が必要なんスよ! このニクスは、もう火力は充分っス。 トラックに乗せて前線に出せば、それだけ怪物を効率よく駆除できるし、多くの兵士を救える。 それなら、二足歩行にこだわるよりも、優先するべきは分かる筈っスよ!」

溜息が漏れる。

理論的には一華の言葉が正しいが。

これは、もし壱野が下手に介入すると、先進科学研がへそを曲げる可能性がある。

バイザーを通じて、千葉中将に連絡。

ここは、千葉中将から取りなしてもらうしかない。

話をすると、千葉中将は疲れきった声で、応えてくる。

「確かに今は、少しでも動かせる兵器が必要だ。 二足で歩いて戦えるニクスも確かに貴重だが。 一華少佐が使っていたような、高機動で飛び回る機能を実際に使いこなせている兵士などほとんどいなかったのも事実だな」

「それでどうしますか?」

「分かった。 先進科学研の技師には、私から言っておこう。 そのニクスについては、東京基地で引き取ると。 他のニクスの修理および、新型の開発に時間を割いてくれともな」

「お願いします」

技師のバイザーに通信が入る。

悔しそうにしていた技師だが。反吐を吐きそうな顔で、上半身だけのニクスを見て、それから大股で歩いて行ってしまった。

一華は呆れて見ていた兵士達を指揮して、クレーンで軍用トラックの荷台にニクスを合体させる。

更に燃料周りなどを整備。

設計図は頭の中に入っていると言うよりも。

一華はもう、ニクスという兵器を知り尽くしている印象だ。

「よし。 本当だったら歩兵戦闘車辺りにこの機銃だけ積んでも良いッスけど。 まあ、兵士達の指揮もこれで多少は上がるっすわ」

「完全にテクニカルだな」

昔の紛争地域では、大型車両を戦闘用に改造したものが戦場に出てきた。

これをテクニカルという。

とくに日本のあるメーカーのトラックは、テクニカルに大量に改良されたこともあり。

ある地方では、そのメーカーをテロリストの事だと勘違いしていたという逸話まであるという。

正規軍がテクニカルを使うと言うのもある意味末期的ではあるのだが。

それでも、そもそも兵器があるだけ充分だし。

ニクスは機銃が命なのだ。

「意地なんて張っている余裕は、今は無いッス。 だから、こうやって少しでも戦える機体を増やすっスよ」

「そうか」

「ノウハウについては、他の技師にも回しておくッス。 各地の基地に、足回りが駄目になって倉庫行きになったニクスが結構あるから、これで活用出来るはずっスよ」

「そうだな」

ふふんと自慢げな一華。

ロボットアニメのファンは、確か二足歩行である事に特別な拘りを持つという。

それに、二足歩行に予算が掛かったという事情もあるのだろう。

今更、二足歩行できないニクスには、色々と技師達は思うところがあるのかも知れない。

だけれども、今必要なのは戦える兵器だ。

怪物相手にジープでは力不足である以上、最低でも戦車や歩兵戦闘車。ニクスが出せないなら。ニクスの火力だけでも前線に持っていきたい。

航空兵器は論外レベル。

飛行型の群れが出て来た場合、特に攻撃機は生還が厳しいだろう。

今は。こうやって。

不格好でも、戦える兵器を増やしていくしかないのだ。

咳払いすると、米国行きを告げる。

一華ははあと嘆息すると。

分かったと応えた。

あの巨人との戦いから五ヶ月。

EDFは、遅々たる歩みで、少しずつ復興を支援している。

 

オセアニアを経由して、まずはハワイへ。

グアムは怪物によって全滅していた。グアムにいる怪物を駆除するのに一日かかったが。被害は出なかった。

基地の物資などを接収。

そのまま、EDFに状況を報告。いずれ復興しつつあるEDF海軍を通じて、兵員が回されるかも知れない。

ハワイも凄まじい惨状だったが。

基地もあったし、生存者もいた。怪物も。

だから、まずは怪物を駆除。

ハワイといっても、島は一つでは無い。ハワイの島々は、日本では陽気な歌で知られるカメハメハ大王によって統一された。なお、彼は正確にはカ・メハメハである。それらの島々はやがて米国の侵略を受けて、50番目の州になる。その時島を奪われた女王リリウオカラニによって作られた歌が、有名なアロハ・オエだ。

いずれにしても、それらは今はもう昔の話。

まずは島々から怪物を駆逐する。

怪物は恐らくアンカーなどで来たのだろうが。

テレポーションシップがいない今、流石にこれ以上は沸いてこないだろう。

島の怪物駆除が終わるまで一日ちょっと。

地元の基地はもう戦力などなく。

何よりオペレーションオメガに参加した事もある。

住民も激減していて、怪物の脅威は激甚だったから。

随分と感謝された。

揚陸艦隊に積まれている物資を提供すると、米国本土に。米国本土では、しぶとく生き延びたカスター中将が復興を急いでいるという。

世界最大の資源を有する北米の復興は急務だ。

北米を復旧すれば、そこから欧州、南米へも復興の道筋を作る事が出来る。

いずれにしても、復旧は急務。

西海岸へと急ぐ。

西海岸に上陸して、まずはカスター中将と連絡を取る。ストームチームの到着と聞いて、カスター中将は喜んだようだった。

「ありがたい! すぐに何カ所か、片付けてほしい戦線がある!」

「物資を運んできています。 出来ればまずはそれを民衆に供与したいのですが」

「気持ちは有り難いが、此方は日本よりも怪物の勢いが強い。 日本では先進科学研で幾つも新しい兵器を作り、更には戦車やニクスの製造もしていると聞いている。 すぐにでも、厳しい状況の戦線を救援してくれ!」

「……分かりました。 千葉中将と連絡し、対応します」

千葉中将との連絡は何とか出来る。

ハワイ基地に提供してきた強力な基地局設備などもあるからだ。

ともかく通信をして、許可を得る。千葉中将も呆れていた。

「カスター中将はとにかくしぶとい人物であることは知っていたが、少し急ぎすぎている感が否めないな」

「指揮下に入って作戦を実施しますか?」

「無理はしないでくれ。 今、君達と行動している部隊と兵器は、文字通りEDFにとって虎の子だ。 移動基地を攻略する際などに、中核になってくる部隊だ。 経験を積ませたいとは思うが、絶対に死なせてくれるなよ」

了解、と応えると。

連れてきている部隊を見る。

プロトタイプの戦車十両。

これも、カスター中将は欲しがるかも知れないが。プロトタイプだ。まだデータが足りていない。

最終的にはバリアスという。ブラッカーの後継型として仕上げるらしいが。

まだプロトタイプで課題も多い。

ニクスは三機。

一機は一華機。もう二機も、同じくレーザーを装備した新鋭機だ。なお。一華機だけは赤い。

これは、後から一華が赤く自分で塗装したのである。

これが許可されたのは、ストームチームとともに苛烈に戦う「炎のニクス」が世界各地で目撃され。

それが兵士達の間で、「最強のニクス」「出た戦場では必ずEDFが勝利した」という、都市伝説になっているからだ。

実際には勝ちとは言えないような戦いもあったのだが。

それでも、今は少しでも士気を挙げたいのである。

兵士達は、今を生きる希望すらもない。

ストームチームの活躍で。

少しでも士気を挙げられるのなら、それが一番だった。

指示を受けた戦場に、補給車とともに急ぐ。西海岸でも、怪物が手に負えない状態になっている場所が幾つもあるとは聞いている。

その一つに到着。

廃墟になった都市だ。

元々治安が悪い都市だったらしいのだが、戦争末期には完全に放棄され。そして今では。地上に無数の怪物の卵が植え付けられている。

それどころか、ぼろぼろになったコロニストが徘徊している。

コロニストは怪物を食っているという噂があるが。

それもこういう光景を見ると、あながち嘘だとは言い切れない。

更には、コロニストは。壊れた武器の代わりに。鉄骨などを組み合わせて、岩を撃ち出すための武器を作り出している様子だ。

コスモノーツによる洗脳が、ある程度外れたのだろうか。

だが、体がボロボロである事に変わりはない。

倒す事は、難しくは無いだろう。

戦車隊を展開。そのまま、攻撃を開始する。

卵が割れると、無事な怪物が出てくる。戦車砲程度では、内部の怪物は殺せない。この仕組みもよく分からない。

今のところ、大きな悪意は感じないが。マザーモンスターが来る可能性はある。注意するように指示をして。

そのまま攻撃を続けさせる。

町は、もういい。

これは一から作り直さないといけないだろう。

昔は戦車砲に耐え抜いて驚愕されていたコロニストだが。新型戦車の主砲には耐えられず、一撃で体に大穴を開けられ、倒れていく。怪物はニクス三機の強烈なレーザーでひとたまりもなく駆除されていく。

「! 南から来る。 弐分、三城、攪乱戦を頼む」

「了解」

「わかった」

すぐに二人が行く。壱野は作戦の指示を続ける。

少し後退して、迫る怪物だけを駆除するように。卵への攻撃は一旦中止。

南から来る気配はそれなりに数が多い。弐分と三城に任せておいても大丈夫だとは思うが、念には念だ。

少しずつ陣形を変えながら、卵が割れて現れた怪物をいなしつつ、後退する。

バイザーを通じて無線が入る。

「此方弐分」

「無事か。 敵は」

「マザーモンスターと、α型がある程度。 大兄、俺たちでこいつらはどうにかする」

「……分かった。 挟撃を避けるために、しばらく時間を稼いでくれ」

前衛に出ると、卵の破壊を指示。自身もストークZを振るって、怪物の卵を片っ端から破壊する。

現れたα型を駆除。

途中で、一斉にα型が卵を割って出現する。

これは本当に卵なのか。

ちょっとよく分からない。

幼体が出てくるのを見た事がないからだ。

やはり、もっと怪物については調べなければならないのだろう。

一斉に来る怪物だが、ニクス三機の火力、戦車隊の砲撃で悉くが討ち取られる。既にコロニストは全滅。貧弱な装備と死にかけの体だ。当然の結果である。

そのまま移動を開始。

弐分と三城が戦っているのが見えたが、既にマザーモンスターは倒されている様子だった。

流石だと声が上がる。

そのまま、敵の別働隊を、つぶしに掛かった。

 

フロリダの一角にEDFの基地が作られていて、そこにカスター中将が来ていた。司令室で敬礼し、物資を引き渡す書類にサインを貰う。

質素な司令室だ。

というよりも、元々司令室ですらなかったのだろう。

ニューヨークもロサンゼルスもワシントンDCも、米国のメガロポリスは極めて甚大な被害を受けた。

特にニューヨークは完全に更地である。

今、機能している米国の都市は当然存在せず。

各地の地下に潜った基地を中心に、細々と市民が何とか生き延びている状態。

EDFの残党は怪物狩りも満足に出来ておらず。

先ほど駆除したほどの規模では無いが、彼方此方に怪物の産卵所が出来ているという。

そうなると、アフリカは更に酷い惨状なのだろうな。

そう思うが、敢えて壱野は黙っていた。

「ストームチーム。 出来れば以降は米国で戦闘を実施して貰いたいのだが」

「それは千葉中将と交渉してください」

「……」

「我々としては、最前線で戦うのみです。 米国の後は中華、それにアフリカ。 最前線で、怪物の勢力を出来るだけ削がなければなりません。 引き渡した資源を有効活用して、少しずつ人類の復興を進めてください。 その義務がある筈です」

「そうだな……それは正しい。 だが、米国が主導権を握るには、この物資では足りないんだ」

そんな事は知らない。

というか、主導権を握ろうと考えているのか。

カスター中将の背後には、まだその手の輩が控えているのかも知れない。

だとすると、秘書官としては有能でも。

やはり、こんな地位の将軍にするべきではなかったのかも知れなかった。

勿論、後任にカスター中将を任命したのはリー元帥だ。

ただ、リー元帥も、その辺りのパワーゲームでは有利だったとは思えない。

色々、苦悩はあったのだろう。

敬礼もそこそこに部屋を出ると。最低限の補給だけ済ませて、次の戦地に出向く。

補給車だって幾らでも物資がある訳ではない。

今回はかなりの民間用物資や、生産用のプラントを積んで来ているが。

米国の基幹基地は全てやられてしまっている。

それらを奪回する作戦も、何度かやらなければならなかった。

そして奪回しても。

内部に入ってみれば、怪物しかおらず。

機械類は全てエイリアンの手で破壊されていた、という例が頻出していた。

シェルターとしては使える。

逆に言うと。

ただの穴としてしか使えない。

そういう場所が、多数あった。

北米はEDFの主力がいた場所だ。それだけプライマーの攻撃が苛烈になったのも、やむを得ないのかも知れない。

ニューヨークに出向く。

更地になった場所には、粗末なバラックが建てられていて。少しずつ、再建が始まっているようだった。

見覚えのある顔がある。

向こうは、すぐに気付いてくれた。

「ストーム1!」

「ジョエル軍曹。 無事だったか」

「はい。 おかげさまで……でも、一緒に出陣した者達は……」

かなりの人数がいるようだが。それは恐らく、ブルックリン地下で一緒に訓練した者達ではないのだろう。周囲は軍基地の残骸から集めた物資で作ったバラックばかりである。ジョエル以外にも何人か、若い兵士が見かけられたが。いずれも手酷い手傷を受けていて。義手義足をしているものも少なくなかった。

物資を譲渡するが、それだけではやっていけないだろう。

出来るだけ急いで、復興のための手管を尽くさなければならない。

米国に来た目的の一つは、各地のまだ生きている基地に基地局を作ること。

それでネットワークを復活させる事だ。

ニューヨークは完全に一度放棄された。

此処は、ニューヨークに打ち込んだ橋頭堡に等しい。

何回かに分けて、工場を作っていくことになる。

特に医療関係の物資を作る工場は、一から作り直しという事だ。それだけプライマーの攻撃が執拗だったのである。

しばらくは、おいていった物資で何とかしてもらうしかないし。

医師の派遣も厳しい状況だ。

今、必死に終戦時医学生だった人物への教育をしているようだが。彼ら彼女らが医師として赴任できるのは当面先だろう。

「周囲に怪物はいるか。 全て片付けてくる」

「ありがとうございます。 戦争中のように積極的に襲ってくる事は減りましたが、それでも人間を見ると殺しに来ます。 水をえるだけでも必死です……」

「了解した。 怪物を駆除し、浄水装置を譲渡する。 使ってくれ」

怪物の位置を聞き出すと、手分けしてすぐに片付ける。

大した規模の群れはいない。

戦車部隊とニクス隊も別れて行動して貰うが。一部隊に必ずストーム1の誰かが同行する。

そうすることで、被害を抑える。

此処にいる兵士達は、今後の人類を支える人材になりうる者達なのだ。

誰だって、死なせる訳にはいかない。

半日でニューヨーク近郊の怪物はあらかた片付けるが。そうこうしている内に、カスター中将からどこそこの怪物を片付けて欲しいと言う依頼が何個も来ていた。

ニューヨークだけに関わっている訳にはいかない。

他の地域でも、多くの人間が怪物の脅威にさらされているのだ。だから出向く必要がある。

千葉中将の話によると、しばらくは出来るだけ恩を売る方向で行くと言う。

米国を立て直すのにストームチームが可能な限り尽力すれば。

世界を一気に立て直すために弾みをつける事が出来る。

戦前で考えると、物資経済ともに、米国は圧倒的だったのだ。

それを復活させるのが、他の国を復活させるのに一番早い。

戦略情報部も同じ見解らしい。

いずれにしても、ストームチームでやることは。

怪物を駆除する事。

それだけだ。

東海岸側の、主な怪物の繁殖地を潰して回る。

現地近くの基地からは喚声を持って迎えられるが。

その感謝も、いつまで続くか。

メキシコの辺りまで行くと、怪物がもはや無法に繁殖していて。駆除には相応に苦労したのだが。

しかし妙な事にも気付く。

ほぼ放棄されて、無法に繁殖できる状態でこれか。

怪物は人間を襲って喰らうが。

それをエサにして増えている印象がない。

というか、あいつらが何を食って増えているのかがよく分からないのである。

メキシコにあった大きな繁殖地を潰した頃には終戦から半年が過ぎていて。

一度日本に戻るように言われた。

米国でも軍の再編制が始まっていて。代わりにストーム3が出向くと言う。ストーム3も、何人か若手を鍛えて。ジャムカ大佐が再編する予定だという。以降は、出来るだけ米国に任せるそうだ。

若い医師のグループも、第一陣が向かったという。

まだまだ、怪物だらけで。移動するだけで必ず毎日数度は小規模な怪物の群れにかち合う程だが。

それでも、千葉中将の指示だ。

従っておいた方が良いだろう。

いずれにしても、目につく繁殖地は潰したのだ。

少しはマシになったと信じる他無い。

もう、人間より怪物の方が多いのは確実だ。

焦って攻勢を掛けても、恐らく失敗する。エースチームで被害を抑えながら連戦して敵を削り取り。

最終的に勝つ。

そのくらいの気持ちでいなければならないだろう。

だが、どうにも嫌な予感がしてならないのだ。

西海岸に到着し。

揚陸艇に。

補給車はどれも空っぽ。物資は実の所、転戦でほぼ使い切っていた。負傷者すら出来るだけ出さないように。

そう何度も言われたな。

従軍できる医師はいないし。

負傷も、自分で手当てしなければならないのだから。

新型戦車のプロトタイプを先に揚陸艇に乗せながら、壱野は周囲を見張る。

一華が、ニクスのコックピットから話しかけて来た。

「リーダー。 ちょっといいッスか」

「ああ、何か問題が起きているか?」

「問題ッスね。 トゥラプターの奴、一体何処に消えたのだか。 マザーシップが撃墜するのに巻き込まれて死ぬような軟弱者じゃ無いッスよ彼奴」

「そうだな」

彼奴は必要だと言っていた。

戦闘にしか興味が無く。

自分達の上層部を公然と無能だと批判していたような奴が。

人類の抹殺には異様に積極的だった、という事になる。

面倒だが。不本意だが。やらなければならない。

そんな風にさえ振る舞っていた。

「亀が歩くみたいな速度で復興してるッスけど、開戦時と同規模のプライマーが来たらこれどうにもならないッスよ。 どうするッスか?」

「人間は推定で七億弱しか生きていないらしい。 どうにもできないだろうな」

「はー。 最低でも百年はある程度戦力を整えるのには必要って事ッスね」

「その時には、俺たちはもう生きていないだろうな」

コールドスリープなどを使う手もあるかも知れないが。

残念ながら、まだ実用化されていないテクノロジーだ。

それに、いざという時に叩き起こされても。

百年後のテクノロジーの武装を、その場で使いこなすのは流石に厳しいだろう。

特にテクノロジーにモロに触れる一華などは、かなり使いこなすために時間が掛かってしまうはずだ。

「幾つか危惧している事をまとめたッス」

「聞かせてくれ」

「まずプライマーは、戦力を整えてもう一度来る。 これが、もっとも分かりやすい懸念事項ッスね。 そしてこれは恐らく、ほぼ確定ッスよ」

「そうだろうな。 真実から目を背けるわけにはいかない。 認識しておかなければならないだろう」

その時には、マザーシップが百隻とか来るかも知れない。

いや、それはないか。

どうも妙だった。

プライマーは、人類を滅亡させなければならないと言っていた割りには、限られた戦力で行動していた。

それは要するに。

プライマーの文明規模が、それほど大きくないことを意味する。

銀河規模の文明とかなら、それこそマザーシップを万隻単位で投入してきても不思議ではないだろう。

先の戦役で撃墜出来たマザーシップは二隻だけ。

しかも一隻は偶然の撃墜だ。

方法についても、筒井大佐が送ってくれたデータを、今も一華が解析しているという。

次の戦役に備えて、データの解析を急がなければならない。

「一番危険なのは、プライマーが未知の方法で攻撃してくる場合ッスね」

「未知の?」

「前回と同じ方法で攻めてくるなら、対応は出来るッスよ多分。 でも、完全に知らない方法で……人類が到達していないテクノロジーで攻めこんできたら、どうにもならないッスよ」

そう言われると、思い出す。

あの不埒な巨人は、人類が知らないテクノロジーによると思われる攻撃を散々繰り出して来た。

生身から繰り出して来るという事は。

それを機械技術でも恐らく再現出来る筈だ。

確かに、その危惧はしなければならないだろう。

「その場合は何とか敵を倒しながら、弱点を調べて行くしかないだろうな。 犠牲を出しながら……」

「残念ッスけど、人類の生存圏は絞るべきッス。 ストームチームは出来るだけ温存して、備えるべきッスよ」

「分かった。 上層部には俺から具申する」

「よろしく頼むッス」

一華の言うことももっともだ。

それに、この嫌な予感が消えないことも気になる。

戦場で、無線が入る。

荒木軍曹からだった。

「米国では活躍だったそうだな。 流石だ」

「ありがとうございます」

「俺たちも近々戦線に復帰する。 それと……あまり良くない情報がある」

「詳しくお願いします」

戦略情報部が予測を立てたという。

プライマーが、人類の絶滅を目的として。

体勢を立て直すために掛かる時間を試算したという。

敵物資は今回の戦力を整えられる文明規模を基準に計算。

結果は十年。

最低でも十年後には。現在と同レベルの戦力を確保できるという事だった。

「十年……」

「現状の復興速度では軍の再建は厳しい。 クローンで大人の兵士でも作れるなら話は別なんだろうが。 クローンは実の所実用化出来ているらしいが、急速育成のテクノロジーは存在していないらしい。 要するに、十年で敵を迎え撃つ体勢を整える。 そのためには……最低でも今地球に残っている、アフリカの移動基地は破壊しなければならない。 あいつが好きかってに動き回ったら、何をされるか」

荒木軍曹の言葉ももっともだ。

だが、そうなると。

作戦はかなり急がなければならないだろう。

あと半年くらいあれば、どうにか戦車部隊を用意することは出来る筈だ。ニクスも十機以上は、今回の北米遠征で使ったものを用意できると思う。

更に中華やインドなどの人々が多く隠れ住んでいる地域にも、派兵してある程度体勢を整えなければならない。

十年で敵が来るのなら、最低でもそのくらいは備えなければならないだろう。

「俺の考えだが、プライマーが諦めるとはとても思えない。 必ず来る筈だ」

「そう、ですね」

「更に良くない情報がある。 先進科学研から来た話によると、三年弱で敵が再来するという」

「!」

三年。

それは、本当に厳しいかも知れない。

一応EDF総司令部は十年の説を元に動くそうだが。

最悪の予想は、しておかなければならないだろう。

「壱野大佐。 どれだけの戦力があれば、移動基地を落とせる」

「ブレイザーを装備した荒木軍曹。 ストーム2の三人。 最低でもそれぞれ三人以上のストーム3とストーム4相応の手練れ。 俺たち。 それとニクスは十機以上、戦車は三十両以上、出来ればタイタンも数両。 レールガンも欲しいですね。 現地での戦闘を支えるためのキャリバンと医療要員。 これに加えて、三百人以上の兵士。 そしてアフリカの移動基地を落とすつもりであれば、怪物の攻撃に対応できる戦力も必要でしょう。 一個旅団は最低でも見積もる必要があるかと」

「……そうか。 分かった。 俺から報告しておく」

「お願いします」

今の戦力なら。

一個旅団いれば、移動基地を潰す自信はある。

だが、アフリカにそれだけの戦力を輸送するには、北米をある程度復興させた上で、補給線を確保しなければならない。

米国にいたEDF海軍はほぼ全滅状態で、再建しなければならない。

そこからかんがえると、この作戦を実施できるのは、早くとも一年後以降になるだろう。

中華の移動基地は、なんでも情報が錯綜しているらしい。

中央アジアに去ったとか。

乱戦の中で破壊されたとか。

いずれにしても、まずはアフリカの移動基地を破壊するのが先だろう。

少しでも多く移動基地との交戦経験を積み上げておけば。

いずれくるプライマーとの戦闘を、それだけ有利に出来る筈だ。

ともかく、まずは指示通り日本に戻る。

現時点で、東京基地は工場の機能が一番充実している。更に地上に増設して、失業者用の労働として解放し。

更には、軍属扱いされていた人を、少しずつ市民へ戻して行っているらしい。

後一年あれば、移動基地に仕掛ける戦力は整うかも知れない。

そんな希望が、ほのかに湧く。

希望は、ある。

そう、壱野は言うべきだろうか。

壱野がいる。

弐分と三城と、一華もいる。

だから、希望はある。そういえば、皆が戦えるだろうか。

戦えるなら。

その言葉を、発するべきかも知れなかった。

 

4、暗雲の先に

 

退屈だなと、トゥラプターは思った。

地球人、つまり「いにしえの民」を滅ぼすだけなら、実は簡単だ。現在セーブしている生物兵器の繁殖を、解放してしまえばいい。

それだけで充分だ。

現在七億弱程度の「いにしえの民」は、数の暴力に飲み込まれておしまい。あの強い戦士達がいても、結果は同じ。

そもそも、どうして奴らが本拠にしている島で、まだ生物兵器が散発的に現れると思っているのか。

地下中に仕込んだ転送装置を用いて、各地から転送しているためだ。

そして、面倒な事に。

ただ「いにしえの民」を滅ぼすだけの戦いでは無い。

幾つか、面倒な条件を達成しなければならないのだ。

司令席で、時々指示を出しておく。

長老の指示には、流石に逆らうつもりは無い。あの阿呆と違って、相応に有能だからである。

本国の連中はバカ揃いだが、長老の一部は違う。

トゥラプターは、認める相手の言う事は素直に従う。

それに、トゥラプターから見ても、もうじきくる「例のもの」に人間が総力を挙げられない体勢を作れば、それでいいのだから。

部下が来る。

地上にもう降りなくて良いと言われているからか。

最近はリラックスしている様子が目立つ。

「トゥラプターさま」

「何か」

「「いにしえの民」が、攻勢の準備をしている様子です。 地上にある移動拠点を、破壊すべく兵を集めている模様です」

「放っておけ」

もう地上にある移動拠点など、どうでもいい。

あれはもともと自律思考兵器で、でかいだけの代物だ。

確かに周辺を制圧する戦力はあるが。

それ以上でも以下でもない。

生物兵器の繁殖は、今回の周回で出来るようになった。今までは散々条件を整えてやらなければならなかったのだが。

流石に五周もすれば。

環境への適応が早いあの生物兵器達なら、それも可能と言う事だ。

繁殖可能になった生物兵器は、既にサンプルを本国に送ってある。六周目では、数を増やして最初から投入できるだろう。

また、強力な変異種も多数産まれている。

それらについても、サンプルとして回収済みだ。これらを六周目では、最初から投入できる。

これに加えて、あのド無能は更迭され。トゥラプターも認めている長老の一人が来る。

多分六周目は、最初から更に戦況が動くはずだ。

ただ、おかしな事故も起きている。

それを考えると。

出来るだけ、「いにしえの民」が気を取られるようなものを残しておく方が良い。

移動拠点を潰す事に意識が向いているなら結構だ。

せいぜい自動迎撃機能と戦力を消耗しあってくれ。

それがトゥラプターの本音だ。

あの強い戦士達とやり合えないのは惜しい。

六周目で邂逅したとしても、疲弊しきっているだろう。

だが、それはそれ。これはこれ。

トゥラプターも、戦士として。己がするべき事くらいは、当然わきまえていた。

滅亡が掛かっているのだ。

美学だの何だのを優先している場合では無い。

勿論優先できる場所では優先する。

だが全体で見れば。

話し合いの余地なんかない以上。

こうする以外に、手段など無い。

「そういえば、本国から通信が来ています。 重要度は低いようですが、目は通した方がよろしいかと」

「分かった。 見ておこう」

「は……」

部下がさがる。

退屈だと思いながら、通信の内容を見ておく。

なるほど、ね。

鼻をならす。

どうやら、「連中」も。随分とお優しいらしい。

おかげで最悪の事態は避けられそうだ。「どちらも」、である。

それはそれで面白いかも知れない。

いずれにしても、まだしばらくはやる事が一切無い。

それには代わりは無いので。

もう一つ、トゥラプターはあくびをするのだった。

 

(続)