第十一の船

 

序、最後の戦場

 

ベース228から来てくれた部隊と合流。素人ばかりだが、それでも怪物との交戦経験はある。

ニクスの操縦経験がある兵士がいたので、ゴーン2の代わりに来たニクスを任せてしまう事にする。

ストーム3は残り三人。ストーム2は残り二人。

壱野は、味方の惨状を見て、無言になるが。

それでも、まだ戦意は残っている。

レールガンが展開を開始する。

マザーシップナンバーイレブンは、少数のコロニストと、重装コスモノーツを展開。更には3隻のテレポーションシップを並べて直衛にしていたが。以前撃滅した部隊に比べると非常に規模が小さい。

テレポーションアンカーを吐き出しきったのも大きいのだろう。

ただ、マザーシップにはまだまだ分からない事だらけだ。

そして感じる。

今までにない強い悪意。

いる。

間違いなく、マザーシップの中に何かが。トゥラプターのような強さは感じない。それよりも、もっと邪悪な。

強いていうなら生き汚さを感じた。

千葉中将から無線が入る。

「これが最後の好機だ。 ストームチーム、健闘を祈る! 他の部隊は、ストームチームの支援に徹しろ! これが人類にとっての最後の戦いだと思ってくれ!」

「イエッサ!」

ベース228では戦車を捻出出来なかったらしく、グレイプを何両か出してくれた。これだけでも随分有り難いが。どれもこれも初期型で、怪物の攻撃には殆ど耐えられそうにもない。

キャリバンと補給車は少し離れた地点に展開。

マザーシップの主砲の攻撃範囲は、今までデータが取れている。その外に配置はしているが。

何があるか分からない。

結局長野一等兵と尼子先輩は現地に残るそうだ。

尼子先輩は、キャリバンや負傷者。破損した兵器を運ぶ人間が、現地にいる必要があるだろうと言った。

憶病だけれども、それでもずっとストームチーム専属の運転手として活躍してくれた尼子先輩は。

最後まで、戦いに同伴してくれる。

長野一等兵は、ギリギリまで整備を続けてくれた。

ニクスは多少はマシになったようだ。

それでも、あくまで多少はマシ。

もう壊れたら、次は来ない。

一華の高機動型も。相馬大尉のバランス型も。どっちもワンオフ機に近い。

破壊されたら、後はないと言う事だ。

全軍が展開を終える。

思ったより、兵が多い。

ベース228から無理を言って出て来た兵士が、それだけ多いと言う事である。

彼らには、レールガンの直衛をして貰う。

ニクスの随伴歩兵にも数名がついてもらうが。

それはゴーン1と、新しく来たニクス。ゴーン3の随伴歩兵としてだ。

一華機の高機動にはついていけないだろうし。

相馬機の苛烈な防御戦に巻き込まれれば、死ぬだけだ。

今度は戦略情報部から無線が入った。

「戦略情報部、少佐です。 マザーシップ10隻が行動を続行中。 各地で都市の残骸を主砲で焼き払っています。 既にいつつのメガロポリスの残骸が、欠片も残さず消滅させられました。 これに加えて、緑のα型が都市を食い荒らして回っている様子です」

「最後の抵抗能力を奪うつもりのようだな……」

「最後のEDFの残存戦力を集結しました。 マザーシップへの攻撃作戦を開始します」

「無茶な作戦だ。 やめさせろ」

千葉中将はそういうが。

戦略情報部は、既に指示を出したと言う。

そうか。

中華では項少将。米国ではカスター中将がそれぞれ指揮を執るそうだ。インド、中東、東欧。

各地で伏せていたEDFの残党が。

満足な装備もなく、マザーシップへの攻撃作戦を開始しているという。

以前、マザーシップへのダメージを与えた情報については、既に全ての部隊に共有済。

現在、敵も戦力は殆ど残っていない筈。

上手く狙撃が出来れば、敵にダメージを与えることが可能なはずだ。

後は、上手に立ち回る事を祈るしかない。

「ガラにもないことだが……演説をさせてもらう」

千葉中将が咳払いをした。

戦いはまだ開始されていない。

皆の士気を高めるためだ。

分かっている。戦いは、これから始まる。皆の士気を少しでも上げて。アドレナリンを大量に分泌させて。

それで少しでも生還率を上げるためだ。

「我々EDFはプライマーの襲来から既に二年間戦い続けてきた。 マザーシップの苛烈な攻撃、怪物、多数の侵略兵器。 多くの仲間が死んでいき、総司令官は戦死し、潜水母艦もエピメテウスを残すのみ。 機能している基幹基地は東京基地だけ。 それも、残骸という程度の戦力しか残していない。 希望の巨神だったバルガも失い、既に我らには殆どの戦力がない」

その通りだ。

今、壱野の手にあるライサンダーZと。補給車に積まれている弾薬と兵器類。

これでやっていくしかない。

EDFの汎用型アサルトライフルストークはやっと最終強化型が届いた。ストークZ。使って見たが、文字通り究極のストークだ。

アサルトライフルとして桁外れの性能を有している。

これならば。

今までよりも、更に活躍出来るだろう。

「もはや守るべきものすらなくなりつつある今、何のために生きるのか。 何のために苦しむのか。 それは、自分自身のためでいい。 エゴのためでいい。 胸に手を当てれば、鼓動がまだある筈だ。 戦うのは人類のためなどではなくていい。 生きるために、いまこの戦場を生き抜け。 そして世界を滅茶苦茶にしたプライマーの顔面に、一発喰らわせてやれ!」

「おおっ! EDF! EDFっ!」

「私も可能な限り広域戦略の指揮を執る! 最後の好機だ! 絶対にマザーシップナンバーイレブンを撃墜してくれ!」

千葉中将の通信が切れる。

展開した部隊が、攻撃配置についているのを確認。

荒木軍曹に、バイザーを通じて連絡を入れる。

「まずはエイリアンを駆逐します」

「そうだな。 順番は任せる」

「了解です。 ニクスの射線上に奴らを引きずり出します」

狙撃。

傷だらけで、もう肉盾以外の役割がないコロニストの頭が消し飛ぶ。

前のめりに倒れるコロニスト。

コスモノーツはすぐに建物の影に隠れるが、残念ながら動きは見切っている。狙撃して、装甲を兼ねている宇宙服を吹き飛ばす。たまらず出て来たコスモノーツを、ニクス四機の猛射が蜂の巣にした。

重装数体が出てくる。

荒木軍曹がブレイザーを、三城がライジンを使って狙い撃つ。

流石にこの超火力を前にしては、如何に分厚い装甲を持つ重装コスモノーツも耐えきれない。

それでも壁になって、少しでも攻撃をという姿勢を崩さないのは流石だ。

だが倒させて貰う。

次々にエイリアンが倒れていく中、マザーシップは反応を見せない。テレポーションシップは、怪物を落とし始めるが。

α型。β型。γ型。

それに元々いた少数の直衛。

その程度なら、相手では無い。

ニクスの火力で薙ぎ払いながら戦線を押し進める。

先に連絡はしてある。

マザーシップは主砲を展開して来る可能性がある。もしもそうなったら、歩兵の足では逃げられないし。

ニクスでも多分逃げるのは無理だ。

だから、テレポーションシップはストーム1で落とす。

3隻同時にだ。

そのまま、戦線を維持。

火力の網を張って、敵を絡め取ってほしいと。

壱野はバイクに跨がると、前線に躍り出る。弐分と三城も前衛に出た。

γ型が多少来るが、余程五月蠅くなければ無視。五月蠅い場合はTZストークで蹴散らしてしまう。

そのまま、テレポーションシップの直下を取ると。

ライサンダーZの弾を叩き込んでやる。

一撃は耐えた。

或いは強化カスタムタイプなのかも知れない。

だが二発目には耐えられず。爆発するテレポーションシップ。

殆ど同時に。

弐分がガリア砲で。

三城がライジンで。

それぞれ、テレポーションシップを叩き落としていた。

「よし、二人ともさがれ。 今まで散々憶病に振る舞っていたのに出て来ていると言う事は、敵も腹をくくったと言う事だ。 主砲か、他の切り札を展開して来る可能性が高いと見て良い」

「了解!」

「いえっさ」

三城は最後まで軍隊的な返事があまり板につかなかったな。

そう思いながら。バイクを走らせて距離を取る。

このフリージャーは良く走る。

悪路でも何のその。ついている機銃の火力も悪くない。

ただ、バイクそのものには壱野はあまり良いイメージがない。

道場に押しかけてきたような半グレや不良が乗り回してイキリ散らしているイメージしかないからだ。

このフリージャーがいいだけ。

それだけである。

そのまま、一気に走り抜けて皆と合流。

敵の直衛は片付いた。

もう、マザーシップナンバーイレブンは逃げる事はないだろう。強力な悪意が充填しているからだ。

ほどなくして。

街ほどもある巨体に変化が生じる。

下部から、円錐の巨大な主砲がせり出し始めたのである。

やはり来たな。

そう思うと、荒木軍曹が声を張り上げた。

「よし、定距離を保ちつつ、狙撃開始! 主砲を支えている三つの構造体を集中的に狙え!」

「主砲、撃って来ます!」

「近付かなければ大丈夫だ!」

「い、イエッサ!」

兵士達が怯えきっている。

恐らく、無茶な攻撃作戦に出ている部隊も、恐怖にすくみ上がっているはずだ。

緑色の光が放出され。

そして凄まじい爆風と爆音が辺りを蹂躙する。

残っていた町並みが、文字通り消し飛ぶ。

小型の戦術核くらいの火力はある。しかも、それを際限なく連発出来るという超兵器である。

だが、以前の戦いで弱点は分かっている。

レールガン四両が横並びに展開し、そして射撃を開始。

壱野も、ライサンダーZで。凄まじい爆風が来る中狙撃。まずは構造体一つを粉砕。主砲に明らかにダメージが入るのが見えた。

「効いている! 続けろ!」

千葉中将が鼓舞する。

そんな中、戦略情報部が通信を入れてくる。

「北米、南米、印度、ロシア、中華、中東、東欧の七箇所でマザーシップへの攻撃作戦が開始されました。 このうち北米と中華はかなり善戦しています。 北米ではマザーシップナンバーワンの直衛を排除。 生き残っている砲兵部隊と連携しながら、主砲への攻撃を続行中。 ダメージを与えている様子です」

「他は……」

「直営部隊に阻まれて、マザーシップへ届いていません。 更に攻撃出来ていない3隻のマザーシップが、我が物顔に都市を攻撃中です」

「くっ……」

二発目の主砲が発射される。

兵士達の中に、恐怖の悲鳴を上げる者がいる。

だが、既に考え抜いて配置している。

以前のように、主砲の斉射に巻き込まれて吹き飛ばされる兵士はいない。恐怖に竦んでいる兵士は仕方がない。

殆ど新兵……それどころか、武器を持たせただけの市民に等しいのだ。

それが、此処から逃げ出さないだけでも立派だ。

二つ目の構造物を破壊。レールガンの火力は流石だ。

更に、三つ目の構造体を粉砕。マザーシップの主砲がレールガンの直撃弾で目に見えるダメージを受け始めた。

やはりあの構造体が、ダメージを吸収なり緩和なりする装置なのだろう。

以前の戦闘で分かっていたことが、しっかり役に立った。

だが、何故敵は改良を施していない。

こっちが弱点を知っている事は、理解している筈だ。

「攻撃続行! 敵の主砲にダメージを与えている! もう少しだ!」

「レールガン2、後退。 弾薬を補給する」

「レールガン3、同じく」

レールガンは超火力があるが、やはりそれ以外は問題が多いな。

そう思いながら、ライサンダーZで狙撃を続ける。狙うのは、レールガンが穴を穿った地点だ。

見る間に、マザーシップの主砲に亀裂が走っていく。

「此方戦略情報部。 中華でマザーシップの直衛部隊の排除に成功。 項少将が奮戦した結果です。 主砲への攻撃を開始。 米国では敵マザーシップの主砲を支える構造体を粉砕に成功。 主砲に大きなダメージを与えています」

「いけるぞ……!」

そうだ。

此処で、まずは主砲を叩き潰す。

ケンが乗っているレールガン1の攻撃が、ついに巨大な亀裂をマザーシップの主砲に穿つ。

其処へ、壱野もピンホールショットを入れる。

マザーシップナンバーイレブンが停止。

主砲の罅が、見る間に拡大していく。

そして、爆発しながら、火を噴き始めていた。

程なくして、マザーシップの主砲は。

爆発四散しながら、砕け落ちていった。

「マザーシップ、ナンバーイレブン、大破!」

成田軍曹が叫ぶ。

喚声が上がるが、敵から感じる悪意は微塵も衰えていない。やはり、のこのこ出て来たと言う事は。

何かあるということだ。

「北米でもマザーシップナンバーワンの主砲の破壊に成功! マザーシップは大破し、機体に大きな損傷が見られます! 撃墜は出来なかったようですが、その場から離れ始めています!」

「おおっ!」

「中華でも、マザーシップナンバーセブンの主砲破壊成功! やはりマザーシップを大破させ、マザーシップは逃走を開始した模様です!」

「いけるぞ! そのまま撃墜しろ!」

千葉中将も年甲斐もなく興奮しているようだが。

残念ながら、ここからが本番だと壱野は悟る。

というのも、主砲が砕けても上にいるマザーシップはダメージを受けている様子がない。何が大破だ。

いや、まて。ナンバーワンとナンバーセブンについての通信と状況が違う。これは、此奴が旗艦だからか。

すぐに皆に警告を飛ばす。

「気を付けてください。 敵から凄まじい悪意を感じます」

「……壱野大佐の勘は当たる。 皆、気を付けろ! 敵は他のマザーシップと違う! 何があるか分からないぞ!」

「な、なんだあれ……」

兵士の一人が呻く。

次の瞬間。

マザーシップが、まるでブロックが分解するように。空中で、凄まじい数の破片に別れていた。

砕けたのでは無い。

明らかに、構造体として分離したのである。

一つ一つの部品は四角に近く、それぞれが輝いている。それらは幾重にもマザーシップを取り巻く軌道を描きながら飛び始め。

更に二枚の防御スクリーンが、マザーシップを覆うのが分かった。

中央部分にあるマザーシップの本体らしき部分は。

どこか、卵に似ているようにも見えた。

「大兄、あれ……」

「卵、か。 錯乱している戦略情報部の見解が、珍しく当たったようだな……」

ほとんど間をおかず。

無数の部品に分裂したマザーシップのパーツが攻撃を開始する。

レーザー、プラズマ砲、いずれもが移動基地の比では無い火力だ。

それが動きながら、宙を舞いつつ射撃してくるのである。

「う、宇宙の卵! 卵です!」

成田軍曹が叫ぶ。

声には狂騒が明らかに入っていた。

「神話の時代からある神の乗る船! 間違いなく敵の旗艦です!」

「……北米で大破したマザーシップナンバーワンも、中華で大破したマザーシップナンバーセブンも、このような形態にはなっていません。 このマザーシップナンバーイレブンが、特別な船である可能性は高いと思われます」

「どうやら当たりを引いたようだな! ストームチーム! 敵船は敵の旗艦の可能性が極めて高い! 撃沈しろ! 好機は今しかない! 撃沈すれば、敵を撃退出来る!」

その言葉を嘲笑うように。

驟雨のような凄まじい攻撃が。

辺りを文字通り、蹂躙し始めていた。

 

1、母船全力展開

 

三城はブロック状のマザーシップの浮遊砲台をライジンで狙い撃つ。一撃でたたき落とせる。

つまり攻撃は通ると言う事だ。

問題は防御スクリーンが敵を守っていると言う事。

少なくとも、マザーシップの防御スクリーン。

あのシールドベアラーのものよりも性能が上だと見て良いだろう。

凄まじい火力に晒される味方を、上手く荒木軍曹が誘導しつつ、浮遊砲台への反撃を開始させる。

レールガンの盾になるべくニクスが動くが。

敵の火力が凄まじすぎる。

「身を隠す場所がない! うわあああああっ!」

「狙撃を続けろ! 砲台を破壊するしか生き残る道は無いぞ!」

「畜生、畜生ーっ!」

兵士達が悲鳴を上げている。

それはそうだろう。

怪物ですら命がけなのだ。

こんな宇宙規模の戦闘兵器を見たら、それは腰だって引ける。三城はライジンは過剰火力と判断。

補給車に飛びつくと、モンスター型レーザー砲に切り替える。

これも消耗が激しいが、多少フライトユニットへの負担が小さい。

見ると、惑星の周りを飛ぶ衛星のように。

綺麗に列を作りながら、浮遊砲台は飛んでいる様子だ。

激しい砲撃が続いている。浮遊砲台には複数の種類がある様子で。特に黄色い砲台は、火力が大きいプラズマ弾を連射してきている。

ニクスが喰らって揺動しているのが見える。

長くはもたないだろう。

「皆、あの黄色のを優先して叩いてほしいッス! あいつが多分今攻撃してきている砲台の中では一番危険ッスよ!」

「一華少佐……冷静な分析助かる。 皆、指示に従ってくれ! 黄色い浮遊砲台を優先的に狙え!」

「リーダーはあのぶっといレーザーを撃って来る砲台を狙えるッスか!?」

「任せろ」

こう言うときは、一番頭が回る一華の分析に従うのが基地だ。

モンスター型は消耗が激しいが、威力は一撃必殺。三城も一つ、二つと。厄介な黄色のプラズマ浮遊砲台を破壊し始める。直撃すると落ちてくる。どうやら黄金の装甲ほど厄介ではない様子だ。

二人だけ生き延びているストーム4も、それを見てすぐに補給車に来て、装備を切り替える。

ジャンヌ大佐は冷静で、頭の切り替えも早い。

一人だけ側についている人は、結局名前を聞く機会がなかった。

シテイさんのような立派な人が残ってくれていれば。

そう思う。

ウィングダイバー隊は損耗が激しく、世界中を見ても生き残りは殆どいないそうである。戦闘のコンセプトがコンセプトだから、仕方がないのかも知れない。

「よし、ゼノビア中尉は彼方に飛んで、其処から狙撃。 私はあの発電所跡で狙撃をする」

「イエッサ!」

「三城少佐、生き残れ!」

「ありがとうございます」

そのまま、移動しながら射撃を続行。一列に並んで飛んでくるし、回避を意識していないようだから当てやすい。

やはりプライマーの兵器には、どうにもおかしい部分が多い。

これなんかは明確な欠点だと思うが、どうして改善していない。

今まで外敵と呼べるほどの相手と遭遇した事がないのだろうか。

だが、それにしてはおかしな事が多すぎる。

至近で爆発。

破片が多数、肌を抉る。だが、気にしない。そのまま、狙撃を続行。また一つ、砲台を粉砕する。

小兄は最前衛で、レーザー砲台の攻撃を引きつけながら、隙を見てNICキャノンで射撃を続けている。

連射できるこの兵器は、取り回しの良さからかなりの総合火力を期待出来る。末期の戦闘では、一部のフェンサーが使っていた様子だ。

ストーム3は小兄と一緒に攪乱戦の最中。

レーザーが雨霰と降り注ぐ中、一歩も引いていない。

ストーム2は。

ブレイザーを惜しむことなく投入して、敵砲台を粉砕している様子だ。小田大尉のロケットランチャーも。浅利大尉のスナイパーライフルも、敵の浮遊砲台にはダメージを与えられている。

ミサイルを既に撃ちきっている相馬大尉のニクスは、レールガンを守りつつ、射撃を空に向けてしている。

少数ずつ、タイプワンドローンが飛来している。

レッドカラーはいないが、レールガンには脅威になりうる。

守る必要がある。

「此方歩兵隊、負傷者多数!」

「敵の砲台の数が多すぎます!」

「戦闘続行不可能! 避難する!」

「駄目です! 此処でこの船を逃がしたら、今までの犠牲が! 撃墜してください! 早く! 絶対に!」

成田軍曹がわめき散らしている。

兵士達のダメージが尋常では無い事くらい、一目で分かるだろうに。

粗悪なアーマー。

義勇軍も同然の、訓練が足りない状態。

戦意がどれだけあっても。

ここまでの圧倒的暴力に晒されて、誰が戦えるというのか。

また一つ砲台を叩き落とす。黄色い砲台に集中攻撃が行っていたこともある。かなり黄色い砲台は減っている。

大兄の狙撃で、大型のレーザー砲台もほぼ壊滅している。

外側から、雨霰と低威力のレーザーを降らしている砲台がある。

後退したレールガンが、率先して処理し始める。レールガンの直撃を受けると、ひとたまりもない様子だ。

「ど、どこかの基地、援軍出せませんか! 援軍! 援軍!」

「キャリバン2、負傷者を乗せて退避開始。 車体にダメージ大、急いでこの場を離れる」

「くっ……もう戦力がない!」

「そんな、なんとかしてください! 各地の基地の防衛戦力を全て回しても……!」

無茶苦茶を言っているな。

呆れてしまう。

各地の基地は、怪物にハラスメント攻撃を受け続けているのだ。増援なんて、出している余裕はないだろうに。

そもそも此処に集まった兵士達だって、228基地が無理矢理捻出してくれた戦力なのである。

これ以上のダメージは、下手をすると228基地の失陥につながる。

レーザーが肌を掠める。

痛みがあるが、無視。

そのまま、狙撃を続行。青白いレーザーを放ちながら迫ってきていた砲台を粉砕する。だが、砲台の数は膨大だ。

かなり削ったが、まだまだたくさんいる。

射撃しても射撃しても、処理しきれない。

「此方レールガン3、中破! 後退する!」

「恐らく防御スクリーンの内側にある砲台は更に強力と見て良いッスよ。 このままだとじり貧ッスね……」

「もういやあああああ!」

「落ち着きなさい!」

パニックになる成田軍曹を、たまりかねて少佐が一喝したようだった。

パンとか音がしたが。

頭をひっ叩いたのかも知れない。

まあ、気持ちは分かる。

また、レーザーが掠める。体中痛いが、もうかまっていられない。

狙撃して、また砲台を落とす。黄色いプラズマ砲台は全てなくなった。だが、雨霰とレーザーを降らしてくる砲台がかなりの数いて、それが地味に効いてきている。

一度補給車に戻ると、痛みのある部分を無理矢理処置。包帯を乱暴に巻く。

そのまま、前線に戻る。

射撃を続行して、また砲台を落とす。

モンスター型はライジンに比べると安定度がかなり高いが、それでもこの数は。暴発したら、手がなくなるかも知れない。

だが、それでもだ。

やらなければならない。

「戦略情報部の総力を挙げて、情報の分析を開始。 敵船の弱点を探します。 とにかく、敵の浮遊砲台を撃墜し続けてください」

「くっ……ストームチーム、いけるか!」

千葉中将が苦しそうに聞いてくる。

各地の戦況を見ているのだ。

援軍なんて送りようがないことは、この人が一番よく分かっているのだろう。

だから、聞いてくる。

大兄が最初に応えていた。

「ストーム1、戦闘続行可能!」

「ストーム2、同じく!」

「ストーム3、問題なし! まだ死ぬ時間ではないようだな」

「ストーム4、まだまだ我々の翼は折れていない!」

皆の声には、苦しみと同時に。

隠しきれない闘志が宿っていた。

三城も応急処置は済んでいる。そのまま射撃を続行。多数飛んでいる、レーザーをばらまく砲台を落としていく。

「頼む、少しでも時間を稼いでくれ!」

「イエッサ!」

「……これ、見てください!」

成田軍曹が、程なく叫ぶ。

敵の防御スクリーンに埋もれるようにして、変な砲台がいる。攻撃をしてこない。

そういえば、攻撃をしてこないから後回しにしていたが。なんだあれは。

「確認中……探査装置によると、凄まじい熱エネルギーを内部に持っている模様。 破壊する事で敵の防御スクリーンを破れるかもしれません」

「ストームチーム、砲撃をしてきていない砲台だ! 敵の浮遊砲台全てを破壊するのは不可能だろう! レールガン、防御スクリーンが壊れ次第、内側の砲台を即座に可能な限り破壊出来る態勢を取れ!」

「レールガンの補給、修理を急ぐ」

長野一等兵の声。

このレーザーが降り注ぐ中、頑張ってくれていると言う事だ。

見ると、大型移動車両が壁になって砲撃からレールガンを守っている。

尼子先輩。

憶病なのに、必死になって戦ってくれている。

あの人も立派な戦士なんだな。

そう思って、感心しつつ。

三城は、大兄に指示を仰ぐ。

「大兄!」

「よし。 確かに千葉中将が言う通り、全ての砲台の撃墜は困難だろう。 俺が指定する砲台をそれぞれ撃墜してほしい」

「わかった」

「任せてくれ大兄!」

バイザーに指示が飛んでくる。

大兄の指示通り、砲台を狙う。レーザーと殺気をまき散らしながら飛んでくる砲台を、モンスター型で一閃。

爆破粉砕した。

ストーム4のモンスター型も、かなりの数の砲台を落としている様子だ。

流石にこの戦いを生き残ってきただけはある。

飛行技術だけではなく、エイムも凄まじい。

射撃を続行して、砲台を全て叩き落としてやりたいが。

確かにその余裕がない。

「レールガン1、装甲の応急処置完了! 2、4も同じく! 弾丸の再装填も完了しています!」

「レールガン3は」

「現在応急処置を続行中!」

「レールガン3が復旧し次第、あの攻撃をしてこない砲台を叩く! タイミングを可能な限り合わせろ!」

ドローンが来る。

味方のニクスもダメージが大きい。

相馬機も一華機も頑張っているが。ドローンの撃墜が精一杯だ。一華機は肩砲台で敵の浮遊砲台を好機を見ては撃墜しているようだが。それでもやはり限界がある。

タイプワンドローンでも、傷ついた兵士達には大きな脅威だ。守りきるのは無理がありすぎる。

ならば、可能な限り戦闘の決着を急ぐしかない。

「レールガン3、足回りは放棄! 以降は移動砲台として敵を狙う!」

「別にそれでかまわない! 他の機能は無事か!」

「任せてほしい、大丈夫だ!」

「よし……!」

荒木軍曹が、指示を出してくる。

防御スクリーンに埋まっているように飛んでいる砲台は複数あるが、それらへ攻撃を開始する。

なるほど、どうやら予想は当たった様子だ。

一つ壊すごとに、防御スクリーンが赤く強く明滅している。

アレ一つ一つが、空飛ぶシールドベアラーだったというわけだ。

だが、そんなものがあるなら、どうして展開してこなかったのか。やはりおかしな事が多すぎる。

だが、今は疑念を払拭するよりも。

全て破壊し尽くすのが先だ。

元より攻撃してこない砲台。

外側にいる、飽和攻撃をしてくる砲台だけが残っていて。危険性が強い砲台は殆どない。

今のうちにと、荒木軍曹が兵士達に応急処置を指示。

戦える者は立ち上がれと鼓舞する。

荒木軍曹自身が、傷だらけの状況で戦っているのを見て。まだ動ける兵士達は補給車に走り。

協力しながらそれぞれが手当てを始める。

補給車が戻っていく。東京基地から、次が来てくれるかは分からない。だが、まだ補給車は分散して周囲に隠されている。破壊されていないものも多い筈だ。

「応急処置完了……!」

「無事な兵士は、戦闘開始前の三分の一という所か……」

「大丈夫だ、大将達がまだいる!」

「そうだな。 小田大尉、お前には随分と元気を貰った」

荒木軍曹。

そんな死にそうな人みたいな事を言わないでほしい。

指示が来る。

頷くと、三城は最後に残っていた、防御スクリーンを守っているらしい砲台を撃ち抜く。

爆発する砲台。

同時に、防御スクリーンが崩壊していた。

荒木軍曹が叫ぶ。

「レールガン! つるべ打ちにしろ!」

「了解! 宇宙の卵だかなんだか知らないが、電磁誘導砲をくらいやがれっ!」

立て続けにレールガンが連射され、防御スクリーンが粉砕されたマザーシップの浮遊砲台を次々に撃ち抜く。

やはり黄金の装甲がないと敵の兵器の強度はこんなものだ。

ひょっとするとだが。

好機はなかったが。もしフーリガン砲での攻撃を行っていたら。中破か大破にまでは追い込めていたのでは無いのだろうか。

そのまま、全員で総力を挙げて攻撃する。

最外縁を回っていた砲台に比べて、数が少ない。それは分かっている。

だが逆に言えば。

内側の砲台は、それだけ強力と言うことを意味している。

耐えて踏みとどまった砲台が、反撃を開始。

凄まじい高出力レーザーが、辺りの地面を溶かす。盾になっていたゴーン1が、ついに悲鳴を上げた。

「ゴーン1、大破! 脱出する!」

「良くやってくれた! 後は任せろ!」

「くっ……最後まで一緒に戦えずすまない!」

「怪物だっ!」

どうやら、テレポーションアンカーの役割を果たす砲台もある様子だ。しかも出てくるのはタッドポウル。

少数ながら、あの青紫の変異種もいる。

最優先駆除対象だ。

モンスター型で狙い撃つ。レーザーが直撃しても、まだ耐え抜く程タフだが。しかしながらストーム4の二人も同時にモンスター型で同一の青紫変異種タッドポウルを狙撃。叩き落とす。

まだ二匹いる。

そのうち一匹は、大兄がライサンダーZの直撃を入れ。更に小兄がNICキャノンを連射して穴だらけにして、空中でバラバラに引き裂いた。

だが一匹が、ゴーン3となったニクスに襲いかかる。

あいつの火力は、先の戦いでゴーン2を一瞬で粉砕するほどのものだった。

放置は出来ない。

だが、ゴーン3の危機を救ったものがいる。

相馬機だった。

横殴りの射撃を浴びて、青紫の変異種が空中でクルクルと回転する。そこに一華も射撃を浴びせて、空中でお手玉するように十字砲火を浴びせた。

ほどなくして、バラバラになった青紫の変異種。

だが、タッドポウル自体は、次々と砲台の幾つかから出現している様子だ。

「レーザー砲台も危険だが、あの砲台を潰さないとまずい!」

「レールガンが狙われている!」

「くそっ!」

「私が直衛に行くッス」

一華機が高機動力を生かして、一気に支援に飛んでいく。

三城はそれとすれ違うようにして、モンスター型レーザー砲で射撃。テレポーションアンカーの役割をしている砲台を叩き落としていた。

 

二隻のマザーシップを大破に追い込んだものの、各地で行われているマザーシップへの攻撃作戦の進捗は良くない。

それだけではない。

無理をしていもしない兵を出した事もある。

各地で、基地が危機に陥っている様子だった。

千葉中将は青ざめながら、連絡を取る。

日本の基地も、何やらの指示を受けて出撃をするように準備をしているようだ。

「此方福岡基地。 大友少将」

「無事か、大友少将」

「マザーシップがきおったわ。 わしの目の色が黒い間は、好き勝手などさせん。 今から出撃する!」

「無理をするな! 福岡基地が落ちたら、九州は守りの要を失うぞ!」

ふんと、大友少将は威圧的に鼻を慣らした。

この程度の相手に遅れは取らんと傲岸に言い放つ。

だが、それが無謀なのは本人だって分かっている筈だ。福岡基地には、壊れかけのビークルと。

疲弊した兵士達しか残っていない。

怪物の襲撃を食い止めるので精一杯の筈だ。

要塞砲を活用したとしても、マザーシップ相手に何ができるというのか。

「此方鳥取基地」

「!」

「大内少将だ。 此方にもマザーシップがきよったわ。 わしがいる基地に来るとは良い度胸じゃけんのう。 エルギヌスと同じく、返り討ちにしてくれるけんのう!」

「大内少将、無理をするな!」

大内少将も、問題ないと言う。

どうやら、各地で食い止めきれなかった3隻のマザーシップは、どれも日本に上陸したようである。

程なく、大阪基地からも連絡。

筒井大佐だった。

「此方筒井大佐」

「筒井大佐……君はもう動ける状態ではないはずだ」

「そうやな。 だが、東京の端っこだか神奈川の端っこだかでストームチームが戦っとるんやろ? 随分村上班だったころから世話になっとるんや。 このまま見過ごしてはいられへん。 わしら関西モンにも仁義ってものはまだ残っとる。 それを見せつけたるわ」

大阪基地では、移動基地の残骸から大型砲を回収して。それを改造し続けていたらしい。

これを用いて、敵に一泡吹かせてやると筒井大佐は言うのだった。

拳を指揮デスクに叩き付ける千葉中将。

己の無力さに、涙が出そうだった。

勝てる訳がない。

北米も中華も、敵マザーシップを大破に追い込んだが。その過程で途方もない被害を出した。

それが今更になって通信で来ている。

カスター中将は意識不明の重体。項少将も、重傷を負って基地に退却中だという。

その基地もいつ落ちてもおかしくない。

他五箇所でのEDF部隊は、敵の直衛とやりあうのが精一杯。各地のレジスタンスをかき集めてその程度の事しか出来ていないのだ。

心が折れかけているのを、千葉中将は感じる。

守るべき市民を守れない。

このままだと、誰もいない地球を守る事になる。

誰も守るべきものなどいない軍隊など。

狂った独裁者の手先と同じではないか。

呼吸を整えて、頭を振る。

必死に頭を整理する。

何処かに余剰戦力はないか。

ない。

秘密兵器とかはないのか。

あるわけがない。あったらとっくに使っている。

何か、何かないのか。

エピメテウスと潜水母艦の巡航ミサイルについては、使用タイミングを凪一華少佐に任せている。

先日の戦いでも、砲兵の見事な活用で一瞬にして敵のテレポーションアンカーの大半を破壊する事に成功した凪少佐だ。

今は、千葉中将が口出しせずに任せるしかない。

自分は無力だ。そう思うが。ネガティブに考える暇があったら、何か策をひり出すしかない。

無線が入る。

戦略情報部からだった。

「マザーシップとの戦闘は有利には進んでいません。 大破させたマザーシップナンバーワンとナンバーセブンも、ダメージを受けながらではありますが、日本へ向かっているようです」

「何……」

「恐らく、全てのマザーシップがナンバーイレブンの元に集結しようとしているのだと思われます。 大破していても、マザーシップは怪物やテレポーションアンカー、ドローンのキャリアとしては恐るべき脅威です。 撃墜する手段ももはやありません」

「チェックメイトというわけか……」

戦略情報部の少佐。

いつも感情が見えない彼女だが。

声は妙に落ち着いている。

嫌な予感がする。

とにかく、今はできる事をしなければならない。各地の基地の指揮を執る。それだけしか、千葉中将にできる事はなかった。

 

2、それぞれの戦い

 

大友少将が、怪物共を蹴散らしながら地上に出る。乗っているのはブラッカー。指揮車両仕様。

だが、もはや足回りをはじめとして壊れかけ。

周囲の兵士達もボロボロで、マザーシップを迎え撃つこと何てできる訳がない。

いつも怒っている。

そう言われて、嫌われていた大友少将だが。それについては実の所心外である。

怒るのは、これからだ。

上空に来ているマザーシップナンバーナイン。以前も日本に上陸を試みた奴である。

此奴に対して。

人生最後の怒りを。最大最後の怒りを叩き付けるつもりでいた。

「マザーシップめ……我が物顔に我が国にきよって! ゆるさん! 叩き落としてやる!」

「おおっ!」

「総員、あのでかい主砲の側面についている部品を狙え! あの欠陥兵器を叩き落としてやるんだ!」

指揮シートを殴りながら、大友少将は叫ぶ。

周囲は怪物もいる。

そんな中、劣悪な火器でマザーシップの主砲に攻撃を開始する。マザーシップの主砲は既に輝き、福岡の人がいなくなった街を灰燼へと帰そうとしている。

好きかってしやがって。

怒りに心が燃え上がった。

壊れかけとはいえ、ブラッカーだ。周囲の兵士達も、怪物に必死に攻撃を続けている中。珍しい熟練兵である生き残りの砲手が、主砲を三つある支えに直撃させる。案外構造は脆いらしい。

戦車砲が徹甲弾だったこともあるだろう。

マザーシップ主砲の構造体が破損するのが分かった。

あれを全て壊せば。

マザーシップの主砲の装甲は著しく弱体化する。

しかし、マザーシップは今ので此方を敵として認識したらしい。ぼろぼろとドローンを落とし始めた。

「タイプツードローンです!」

「だったらどうした! そのままあの構造体を破壊しろ! 好きかってこれ以上あのフリスビーもどきに主砲を撃たせるな!」

「い、イエッサ!」

基地の残っている対空砲が一斉に稼働する。怪物とはなんとかやり合えているが、あの数のタイプツーとやり合えるわけがない。

それでも、やらなければならないのだ。

戦車砲がマザーシップ主砲を支える構造体の一つを粉砕。だが、その時には。群がってくるタイプツードローンの攻撃で、味方が甚大な被害を受け始めていた。

怪物すら駆除できなくなりつつある。

対空砲が沈黙したの、どこからの応答がなくなったの。

悲痛な声が響く。

指揮車両も揺動。

強烈なレーザーを喰らって、無事で済む筈がない。

「大友閣下。 二つまでは落として見せます。 三つ目は……」

「対空砲火を一斉に集中させろ。 ドローン共は相手にするな」

「し、しかし」

「好機は一度だけだ。 クソ円盤の主砲を叩き落とし、後は地下に引きこもる」

それで、責任は果たす。

そう呟くと、兵士達もそういうものかと思ったようだった。

ブラッカーが射角を調整し、更に射撃。砲手の腕も確かだし。壊れかけとは言え、元々エイブラムスの火器管制システムを使用しているのだ。当てる事は、それほど難しくはない。

大友少将だって、エイブラムスがどれだけの実戦を経験してきた歴戦の戦車であるかは知っている。

悔しいが、完成度では文句なしに世界最強だろう。

その発展型のブラッカーだ。

弱い訳がない。

更に強烈な振動。

だが、まだモニタは生きている。

舌打ちしながら、様子を見る。

二つ目の、マザーシップの主砲を支える構造体が壊れ、落下していく。同時に福岡基地の生きている対空砲火が、一斉に攻撃。

マザーシップナンバーナインの主砲構造体最後の一つが、粉砕され落ちていくのが見えた。

兵士達が、EDFと叫んでいるが。

直後にその声がかき消える。

ドローンが更に出て来ている。恐怖で兵士達が、引きつった顔で銃撃しているが。これは長く保たない。

ブラッカーもだ。

だが、敵の主砲も剥き出しである。

最後のチャンスだ。

「主砲に全火力を集中! あのくそ円錐だか三角錐だかを粉砕し次第、基地の中に逃げ込め! 総員、スナイパーライフルかロケットランチャーを使え! 対空砲も、くされドローンは無視! 残弾を撃ちきったら後は逃げろ!」

「くそったれえええっ!」

兵士達が喚いている。

思わず、くぐもった声が漏れた。

ブラッカーの装甲を貫通したレーザーが、大友少将の体の何処かを貫いたのだ。頭に来るほど痛い。

だが、これ以上好き勝手をさせるか。

マザーシップナンバーナインが基地に近づいて来ている。

力戦している兵士達をまとめて吹き飛ばすつもりだろう。

だが、これ以上はさせない。

ブラッカーの砲手は少し前から動かない。

呼びかけるが、どうやらさっきのレーザーで致命傷を受けてしまったようだった。

急激に重くなっていく体を引きずって、必死に砲手の座につく。光が彼方此方から差し込んでいる。

もうこのブラッカーは駄目だ。

元々ポンコツだったのだ。動いているだけでも奇蹟に等しい。

口を拭う。

真っ赤だった。

それでも、大友少将は主砲照準装置にしがみつくと。必死に射撃を続けている対空砲火群と一緒に。

マザーシップナンバーナインの主砲に、ブラッカーの最後の一撃を叩き込んでやった。

主砲に亀裂が入るのが見えた。

同時に、ブラッカーが完全に停止する。レーザーが更にブラッカーを貫き、全身に激痛が走る。

更に貫かれたらしい。

だが、ブラッカーを這い出る。

既に黙り込んでいるブラッカーから這い出すと、空はドローンだらけ。周囲の兵士も、大半は動けないでいる。

だが、見た。

マザーシップナンバーナインの主砲が破壊され、福岡の基地に落ちていく。

それだけじゃない。

マザーシップナンバーナインの全体に、亀裂が走っている。どういうことだ。他でも主砲をやられたマザーシップは、大破したと聞いたが。主砲を破壊されると、何か本体にダメージが入る仕掛けになっているのか。

「大友少将!」

「生き残った兵士は、皆基地に逃げ込め! これは上官命令だ!」

「しかし閣下は!」

「わしはもう助からん……」

致命傷を受けている。それを理解している。今叫んだのだって、どれだけの労力を使ったか分からない。

マザーシップに痛打を浴びせてやった。

それだけで充分だ。

「基地にいる市民を守らんか! それが最後の命令だ!」

そのまま座り込むと、大量に集まってくるドローンを見やる。その視界も、どんどん暗くなっていった。

タバコがほしいなと思った。

随分前に禁煙したのに。

ふっと笑う。

そして、手榴弾を取りだすと。お前らに殺されてやるかと、ピンを自分で引き抜いていた。

 

マザーシップナンバーエイトは山陰地方に上陸すると、鳥取に向けて東に進みながら、途中にある都市の残骸に主砲を撃ち込み、灰にしているようだった。

比較的前線を続けて来た大内少将だが。

それでも、戦闘可能な兵士達は殆ど残っていない。

AFVに至っては皆無だ。

タイタンは随分前に全滅。

戦車隊も、ほぼ残っていない。

今、周囲にあるのは野砲とロケットランチャーだけ。基地には、防衛のための最低限の人員を残してきた。

奇襲で一気に仕留める。

それ以外に策はない。

それどころか、生きて帰る事が出来る筋道も見えない。

だから、連れてきた兵士達は。

家族がいない。

新兵では無い。

そんな兵士達ばかりだった。

「まったく、うすらでかい広島焼きじゃのう……」

「如何なさいますか、閣下」

「もう少しひきつけるんじゃ。 あの広島焼きを、叩き落としてやるけんのう」

「分かりました……」

兵士達は怯えきっている。

ストームチームが村上班の頃、連携してエルギヌスを倒した。通常火器でのエルギヌスの撃破。

史上発の快挙だった。

だが、敵に対して優位など取れなかった。

エルギヌスなんてなんぼでもいたからだ。

後に富士平原での決戦で、エルギヌスは全滅したようだが。

それまでに、世界中があのデカブツに荒らされた。

マザーシップはその間、ずっと高みの見物を続けていた。それが出て来たと言う事は。もう敵には手札がないと言う事だ。

だったら。

最後の手札を切らせてやる。

敵が射程に入る。

ブラッカーの戦車砲を外して、野砲にしたものが七門。兵士達は一個小隊。いずれも、敵に届く兵器は有している。

右手を挙げると、兵士達が構えた。

「撃てえい!」

一斉に攻撃が開始された。

当然マザーシップも反撃に出てくる。大量のドローンが湧き出してきた。どれもタイプツーだ。

これは長くは保たないな。

そう大内少将は思うが。

比較的被害が小さかった中国四国地方は。AFVこそ全滅したが、それでも相応に豊富な火器を有していた。

敵のドローンが此方に届く前に、マザーシップの主砲を支える構造体に、直撃弾が多数。特に野砲の火力は流石120ミリ。文字通り圧倒的だ。

粉砕され、落ちていくマザーシップの主砲を支える構造体。二つが今の砲撃斉射で破壊され、残り一つも大きく傷ついている。

腰を落として、観測手の指示通り、スナイパーライフルを絞る。

大内少将も、昔は兵士としてスナイパーライフルを練習したのだ。

EDFの方針だからである。

EDFの他の軍隊との違いは、士官候補生でも軍曹からはじめる事。他の少将よりもかなり若い大内は、EDFの最初の士官候補軍曹の一人だった。様々な武器を使う訓練を受けたし。

スナイパーライフルを実戦でも使った。

「紛争」に参加したのだ。

腕は、まだ落ちていないつもりだ。

射撃。

同時に、吹っ飛ぶほどの衝撃が来る。

今使ったのは、ストーム1の壱野大佐が愛用しているライサンダーZだが。こんな化け物銃を立射で撃っているのか。

すごいのう。

そう素直に、大内少将は思っていた。

「敵マザーシップ主砲、構造体を全て失いました!」

「ドローンは相手にするな! そのまま攻撃を続けんかい!」

「イエッサ!」

とはいっても、もうドローンは群がってきている。此方は奇襲して、物陰に皆身を潜めているといっても。それでも限界はある。

野砲が次々に高出力レーザーで破壊されるのが見える。

それでも、兵士達は必死の反撃をしている。

その兵士達も、次々倒されていく。

タイプツードローンは対人特化に火力も装甲も強化されているのだ。

無視なんてすれば、こうなるのは分かりきっている。

だが、それでも。

マザーシップ主砲へのダメージが、確実に蓄積して行くのが大内少将にも見えた。

観測手の名を呼ぶ。

返事がない。

どうやら、既に撃ち抜かれて果てている様子だ。

仕方がない。

自分一人でやるしかないか。

ライサンダーZをもう一度構えて、スコープを覗き込む。

凄まじい痛みが走った。

レーザーで貫かれた。それも一度ではない。二度、三度とだ。

だが、それでもかまうものか。

人生最後の狙撃。

外してやるものか。

エルギヌスすら滅ぼした中国地方の意地。敵に見せつけてやる。

ライサンダーZの引き金を引く。

ダメージを受けていたマザーシップの主砲に直撃。亀裂が走っていくのが見える。

大量に吐血する。

後方で、最後に残っていた野砲が。マザーシップの主砲にとどめを刺すのが見えた。直後、群がったドローンによって、砲手が滅多刺しにされるのもだ。

マザーシップの主砲が、崩壊しながら落ちていく。

「ざまあみさらせい。 この不細工なうすらデカイ広島焼きが……食べ物で遊ぶからそうなるんじゃ」

立ち上がりながら、叫ぶ。

大量のレーザーが全身を貫く。

どうやら最後に生き残ったのは自分らしい。そう思いながら、大内少将は、周囲のドローンを一機でも道連れにしようと思った。

愛用の、小型スナイパーライフルを取りだす。

そして倒れながら、タイプツードローンを撃ち抜く。

当たり所が良かったのか、一撃で粉砕され。

火を噴きながら落ちていく。

それで充分。

更に全身を貫かれ。それで、大内少将の意識は消えた。

だが、大内少将は最後の瞬間、存分に満足していた。

 

破壊した移動基地から回収した大型砲塔を備えた大阪基地。大阪基地にまで、敵に攻撃はさせてはならない。

大阪基地の地下には市民がたくさん残っているからだ。

医療設備を外したキャリバンを指揮車両にして。もう歩くことも出来ない筒井大佐は、前線に出ていた。

既に廃墟になった道頓堀だ。

周囲の兵士達は、紀伊半島から北上してきたマザーシップナンバーツーを見て青ざめていたが。

それでも、何とか踏みとどまっていた。

「本当にうすらデカイ円盤やな。 皆、わかっとるな。 あの主砲の構造体を破壊しない限り、主砲には攻撃はとおらへん。 だけれども、我々にはもうまともな武装もろくにのこっとらん」

だから、鹵獲したあのデカイ移動基地の砲を使う。

既に使用して、撃てる事は確認済みだ。

計四回。

あの移動基地の砲がぶっ放されるまで、どうにか敵の気を引く。

それだけが仕事になる。

マザーシップがぼろぼろとドローンを放出し始める。兵士達が、迎撃を開始。殆どの兵士の装備がアサルトだ。

頑強なタイプツードローンには、殆ど通じていない。だが、別にかまわない。敵の気を引ければ、それでいい。

マザーシップが主砲を展開。

これだけ破壊してやったのに、まだ生き残りがいるのか。

そう言っているかのようだ。

だが、知った事か。

此処は大阪の食の中心だった。

それをこんなにしおって。

美味しい店がたくさんあったのだ。

軍人だった頃から、休みには此処で食べるのが楽しみだったし。顔馴染みだってたくさんいた。

みんな殺した。

それを、許してやるものか。

「皆、耐えるんや! 敵移動基地の砲台は使える! それでどうにか、あのうすらでかい円盤を叩き落としたる! それまで、何があろうと気を引き続けるんや!」

「イエッサ!」

タイプツードローンの火力は凄まじい。

兵士達の悲鳴がひっきりなしに響く。

キャリバンにも対空火器を急造で据え付けているが、あまり効果があるとは思えない。それでも、やるしかないのだ。

基地から閃光が迸る。

道頓堀を焼き払った悪魔の閃光。

だが、武器は使い方次第で姿を変えるものなのだ。

何かのロボットがそうだった。

ある時は悪魔の手先。

全てはリモコン次第。

そういうものだ。

閃光が、マザーシップの主砲を直撃。マザーシップ主砲の構造体を粉砕する。兵士達が、わっと喚声を挙げるが。同時にレーザーが大量に降り注ぎ、命を刈り取っていく。

それでも、兵士達は希望を見たからだろう。

上空に向けて、必死の攻撃を続ける。

タイプツードローンが破壊されて、落ちていくのが見える。だが、敵の数は圧倒的だ。

第二射。

同時にマザーシップも主砲を放つ。

凄まじい衝撃に、元々傷ついているキャリバンが揺れる。兵士達も、悲鳴を上げていた。

「主砲、至近です! 恐らく次は……」

「わしらの役割は、敵の気を引く事や! 後二回の砲撃で、あの主砲はマザーシップごとお釈迦やで! それまで耐えるんや!」

「イエッサあ! くそったれがあワレェ!」

兵士達が怒号を張り上げ、必死の抵抗を続ける。

ストームチームだったら数秒で始末してしまう程度の相手だろうが。

此処にいる敗残兵達では、とても勝てない圧倒的な怪物だ。

それを。

それでも。

必死に引きつけ、時間を稼ぐ。

その苦労を、無駄にしてはならない。だから、筒井大佐は敵のデータを、キャリバンから送り続ける。

キャリバンのダメージがどんどん蓄積して行く。

「俺も出ます」

「ああ、後はわしがやるわ」

「頼みます」

キャリバンの運転手が、アサルトを手に出る。

キャリバンの運転席に苦労しながら移る。足を失ってから、とにかく不便になった。健康は失わないと価値が分からないと言うが、本当だ。映像を基地に送りつつ、対空砲撃システムを稼働させる。

タイプツードローンの攻撃が苛烈だ。

戦車以上の装甲を持つキャリバンでも、そろそろ保たないかも知れない。

だが、それでもやってやる。

第三射。

基地からの閃光が、マザーシップの主砲を直撃。構造体全てを破壊し尽くす。それだけではない。

更には、タイプツードローンも相当数巻き込んだ様子だった。

兵士達は呆然と空を見上げている。

マザーシップ主砲が輝いている。

あれが基地にぶっ放されたら。

地下に隠れている市民。

あの店の主も。

あの店の料理人も。

みんな、死ぬ事になる。

ぎょうさんうまいものを作ってくれていた気の良い料理人達だ。誰だって、死なせてなるものか。

「皆、もう無駄やと思うけど、逃げや。 囮はわし一人で充分や」

「筒井大佐!」

「良いから行くんや!」

兵士達が逃げ出すのが分かった。その背中を追うよりも、キャリバンに群がってくるタイプツードローン。

それだけ対空砲火を無茶苦茶につけたからだろう。

何機も見ている合間に落とされていく。だが、キャリバンのダメージも甚大である。これは、恐らくマザーシップ主砲の直撃には耐えられないだろう。

キャリバンを発進させる。

悪いなあ。

戦場を随分走らせて、多くの怪我人を助けて貰ったのに。最後は自爆特攻の片道切符を握らせる。

そう呟きながら。

少しでも兵士達と基地から、マザーシップの狙いを逸らさせるために。キャリバンは敵マザーシップの直下へ向かう。

対空砲火が追いすがって来るタイプツードローンを次々叩き落とす。それどころか、一部は敵マザーシップの主砲にもダメージを与えている様子だ。

はは。そうか。

応えてくれるか。

だけれども、すまん。

わしは、お前の頑張りに応えられそうにない。

そう思いながら、更に加速。基地や、逃げる兵士から。どんどんキャリバンを離す。

マザーシップが、主砲をぶっ放す。

狙いは明らかにキャリバンだ。

だが。同時に。

基地から、四度目の砲撃が迸っていた。

見た。

マザーシップの主砲が粉砕されると同時に、マザーシップ全体に凄まじい光と亀裂が走る。

これは、どういうことだ。

マザーシップの全体に走った亀裂に、明らかに主砲のエネルギーが逆流している。それが、マザーシップを破壊して行っているということか。

すぐに頭を切り換え、データを送る。

最高位機密コードを打ち込んで、戦略情報部に。

空は、凄まじい青緑の輝きに満たされ。

程なく。爆発していた。

筒井大佐は蒸発した。

それは理解出来た。

だが、これは大破ではすまない。恐らく、マザーシップは。マザーシップナンバーツーは撃沈の筈だ。

これは、きっと。

いつか必ず役立つ情報になってくれる。

そう、筒井大佐は。

消えゆく意識の中で、思うのだった。

 

「マザーシップナンバーナイン、エイト、大破! マザーシップナンバーツー撃沈!」

千葉中将は、その報告を聞いて、驚きに立ち上がっていた。

マザーシップの撃沈。

初の快挙だ。

ただ、どうみても偶然の産物であり。

今、情報を分析中だという。

分かっている。

大友少将、大内少将、筒井大佐はそれぞれ戦死。福岡基地、鳥取基地は必死に守るのが精一杯。長い時間は耐えられないだろう。大阪基地で使ったという、敵の移動基地から鹵獲した敵砲も、四度の砲撃には耐えられず、破損してしまったそうだ。今、大阪基地には残存勢力が結集して、タイプツードローンと戦闘中だと言う事だ。

皆が、命を賭けて情報を集めてくれた。

何度も涙を拭う千葉中将。

誰もが、誇り高い軍人だった。

大きなため息をつく。

戦況はどうなっている。相模大野でのマザーシップナンバーイレブンとの決戦は、まだ続いている。

それどころか、敵は援軍を呼んでいるようである。

「ドロップシップ飛来……! 乗っているのは、コロニストの部隊のようです!」

「此方から援軍は」

「もはや……」

「分かった。 とにかく、敵の援軍接近をストームチームに伝えてくれ」

指揮デスクに座り込む。

この埼玉の指揮所にも、敵が仕掛けて来ている。ドローンがさっきから、ひっきりなしに飛んできているのだ。

自分で助けに行きたい程だ。

それすら出来ない。

千葉中将は、果てしない無力感を覚えていた。

 

3、本当の死神

 

ドロップシップが来る。

弐分はそれを見やると、乗っているのがコロニストなのに気づいて、やはり大兄の考えは間違いない事を確信する。

既にプライマーは戦力を枯渇しつつある。

もはや新規の装備を支給もせず。ぼろぼろのまま使い倒しているコロニストなんて、何体来ようと相手になるものか。

それをなりふり構わず投入してきた。

余程、ナンバーイレブンに乗っている奴は焦っているのだ。

「大兄、あのコロニストどもは俺が片付ける!」

「いや、敵は妙に悪意が強い」

「……そういえば」

「ひょっとすると新兵器を装備しているかも知れない。 或いは、まだ新しいコロニストかも知れない。 気を付けて当たってくれ」

ストーム3、ジャムカ大佐が来る。

今の通信は聞いていた筈だ。

無数のレーザーが降り注ぐ地獄。

既に、ストーム3も残り三人。

その三人は、凄まじい機動で敵の注意を引き続けてきた。

それも限界近いが。

それでもやるしかない。

「どうした、例の勘か」

「はい。 妙に強い気配がします」

「そうか。 だったら、俺たちで総力を挙げて潰すしかなさそうだな」

「そうですね。 今更コロニストを投入してもどうにもならないことを思い知らせてやりましょう」

ブースターとスラスターを同時に噴かす。

既にドロップシップは見えてきている。乗っているコロニストは、ショットガン持ちが多数。

いずれもが。殆ど傷ついていない様子だ。

ドロップシップから降下した瞬間。大兄が一体の頭を狙撃し吹き飛ばす。

おおと、喚声が上がる。

「お前達こそ、本当の死神だ。 奴らにとってな!」

「ジャムカ大佐……」

「行くぞストーム1、弐分少佐! 今度は俺たちの番だ! 奴らを叩き伏せて、地球人の恐ろしさを思い知らせてやろう!」

「分かりました!」

突貫。

どうやらまだ無傷のコロニストが残っていたらしい。だが、最後の部隊だろう。攻撃精度も高い。

或いは精鋭として組織された部隊なのかも知れない。

だが、それでも。

コロニストだ。

また一体の頭が消し飛ぶ。大兄の狙撃によるものだ。

至近まで詰めると、スピアを叩き込んで武器ごと腕を吹き飛ばし、一撃離脱。攻撃なんてくらってやらない。

だが、敵の攻撃精度は高い。

まだ踏ん張っているレールガンやニクスには絶対に近づけさせない。

ブレイザーが一閃。

ストーム3を狙っていたコロニストを、火だるまに変えていた。

「ふっ! やるな「軍曹」!」

「どれだけ憎まれ口をたたき合っても、互いに支援しあって戦う! それが俺たちだ!」

「そうだな。 では俺も行くぞ!」

ブラストホールスピアが完璧なタイミングで叩き込まれ、コロニストの頭が消し飛ぶ。

凄まじい乱戦が始まり。

そして終わる。

コロニストの最後に温存されていた部隊が肉塊になり。

呼吸を整えながら、戦況を確認する。

ストーム3全員がボロボロだ。

成田軍曹の悲痛な通信が入った。

「ストーム3! バイタルが低下しています!」

「分かっている。 くそっ……」

「キャリバンに急いでください! まだ戦いは……続いています!」

「そうだな。 俺たちが殺すべき相手が、まだ残っているかも知れない」

ストーム3が後退を開始する。

後は、一人で敵の集中攻撃を耐えなければならない。

極太のレーザーを放ちながら飛んでくる敵砲台。なんという火力だ。必死に機動力を駆使して、避ける。

だが、追随が早い。一瞬でも気を抜いたら。瞬時に溶けると見て良い。

そうはさせるか。

大兄が、三城が、一華が。他のストームチームが。絶対に支援してくれる。

大量に飛んでくるレーザーの中を飛び回る。

死んだコロニストすら焼き払いながら、レーザーが辺りを焼き払いまくる中。

弐分は、ひたすらに。

前線で、暴れ回り続けた。

 

ストーム3が後退した。全員重傷だ。ここまでよくやってくれた。

そう判断したジャンヌ大佐は、荒木軍曹に連絡を入れる。

「どうやら我々も狙撃戦から機動戦に移行すべき時が来たようだな」

「ジャンヌ大佐!」

「何、我々も散々各地の戦場を飛び回ってきた身だ。 まだまだ翼を折られるつもりはない!」

「……無茶だけは、しないでくれよ」

無論。

叫ぶと、残っている最後の一人。

ゼノビア中尉に声を掛け、前に出る。ストーム4は二人だけになってしまった。それでも、まだストーム4。

妖精より暴風神の方が比べものにならないほど格上。

神々の中でも、もっとも驚異的な強さを誇る暴風神として。

プライマーを撃つ。

前衛に出ながら、モンスター型レーザー砲で敵の砲台を次々に破壊していく。勿論エネルギー管理が激甚に難しい。

突撃しながら射撃を続ける。

三城少佐が見えてきた。

飛行技術の粋を尽くしながら、モンスター型を駆使して敵の砲台を次々に破壊している。流石の手際だ。

「無事か、三城少佐」

「なんとか」

見ると、全身傷だらけだ。

レーザーが擦っただろう場所もかなりある。

思わず、思い出す。

産まれ育った場所のことを。

だが、それでもトラウマはねじ伏せる。

三城少佐の話は聞いている。実の親が獣同然の下郎で。地獄のような虐待をうけ。兄達と祖父に救出されるまで、教育すら受けていなかったという。

それでも、今は戦鬼として舞っている。

だったら、我等が負ける訳にはいかない。

「少し時間を稼ぐ。 手当てと休憩を」

「しかし、前衛が」

「前衛は我等でやる。 我々をあまり舐めてくれるなよ」

「分かった。 おねがいします」

ひゅんと飛んでいく三城少佐。やはり。全身の痛みは隠しきれるものではなかったのだろう。

ゼノビア中尉が呻く。

「ジャンヌ大佐、ずっと思っていましたが……あの子はどこか壊れてしまっていますね」

「そうだな……。 だが、これほどの戦の適正を持っているのだ。 どこか壊れていても……仕方がないのかも知れない」

「そうですね……」

「我等が少しでも負担を減らすぞ。 見ろ、もう敵の稼働している砲台はだいぶ残り少ない!」

レーザーを放ちまくっている砲台も、タッドポウルを出現させていた砲台も、もうほぼ残っていない。

ただし、防御スクリーンがまだ一重存在していて。

その内側に、凶悪そうな砲台が見えている。

それが大問題である。

形状が違うのが、此処からも分かる。

更に凶悪な代物だと判断して間違いないだろう。ならば、温存するべきは。

聖剣ともいえるブレイザーを手にしているストーム2。

そして、人類の決戦兵器。

ストーム1だ。

凄まじいレーザーが飛んでくる。まだ残っている砲台だけでこれだ。弐分少佐と三城少佐の、今までの負担がよく分かる。

レーザーは当然ニクスも痛めつけている。必死に長野一等兵という工兵がメンテをしてくれているが、もうもたないだろう。

ならば。人力で凌ぐしかない。

「緊急チャージ入ります!」

「支援する!」

落下していくゼノビア中尉を支援しながら、敵の砲台を叩き落とす。好き放題極太のレーザーを放ち。やりたい放題に破壊を尽くす。文字通り、邪悪の権化。一つたりとて残してはおけない。

砲台の向きを見て、レーザーの斜角は分かるから、回避は出来るが。一般兵にはそれすら厳しいだろう。

ベース228から来た兵士達は、もう戦闘している様子がない。

既に後送されたか、それとも戦死したか。

今は、かまう暇すらない。

少なくとも、彼らも肉壁になってくれた。しかも望んで、だ。だから、それを少しでも生かさなければならない。

雄叫びとともに、砲台をもう一つ撃破する。

三城少佐が戻ってきた。連続してモンスター型を撃ち放ち、砲台を破壊していく。見ると、型式が違うモンスター型を持っている様子だ。

「それは新型か?」

「いえ、プロトタイプ、です」

「そうか。 とにかく扱いには気を付けろ。 火力が出る分、事故が怖い兵器だ」

「はい」

三城少佐は元々ちょっと喋るのが苦手な様子だ。

ストームチーム結成後に話を聞いたが、やはり人間に対する根本的な不信感が何処かにあるのだろう。

兄達にべたべたな様子を失笑している隊員達もいた。

あの年で兄にベタベタ。

そう笑っていたが。

家庭の闇というのを知っているジャンヌ大佐は笑えなかったし。事情を知ってからは更に笑えなくなった。

あの子は、人間を助ける義務なんてないと思う。

どう客観的に見ても、ジャンヌ大佐でもそう思う。

それでも、あの子は出来る範囲の事はやっている。それだけで、どれだけ立派か分からない程だ。

ならば、負けているわけにはいかない。

ライサンダーZの狙撃が、また砲台を粉砕する。そろそろ、頃合いか。

後方を確認。

残っているレールガンは、発射態勢が整いつつある。空から間断なく降り注いでいるレーザーがダメージを蓄積しているものの、ニクスはまだやれる様子だ。ミサイルを補給しているのを確認。

最後の防御スクリーンが破壊され次第、一気に出落ちを謀るつもり、と言う訳だ。

合理的な戦術だ。

乗ってやるとしよう。

「準備はまだか!」

「もう少し。 耐えてくれるか」

「長野一等兵!」

「大丈夫、メカニックを舐めるな。 多少の傷くらい……」

メカニックが負傷しているのか。空を舞う小型レーザー砲台は多すぎて、とてもではないが相手にしていられない。

せめてもう一個小隊いれば、話は別だったのかも知れないが。

しかし、そんな事を言っている余裕は無い。

「ブレイザーのバッテリーが切れた! 補充する間、援護を頼む!」

「任せろ軍曹! くらいやがれっ!」

「熱くなるなと言いたいが、今日は俺も同じ気分だ! 吹き飛べ!」

ストーム2も奮戦している。

ストーム1は、もはや神話の魔神だ。

一華少佐が、通信を入れてくる。

「敵の防御スクリーンが消失し次第、切り札を投入するッスよ」

「む、まだ切り札があるのか」

「二つほど。 その内の一枚を切るッス」

「面白い。 頼むぞ!」

レールガン、準備よしの声。

ニクス隊、攻撃準備完了の声。

ゼノビア中尉。

確認すると、頷く。後は荒木軍曹だ。実際には准将だが、軍曹と呼んで欲しいと言うからそうする。

それだけだ。

荒木軍曹が、残り少ないバッテリーを使って、ブレイザーの充填を開始する。

よし。

一華から通信が入る。

「よし、今から一分丁度で全部防御スクリーン発生させてる砲台をぶっ潰してほしいッス!」

「無茶を言う。 だがやってみせる!」

今まで無視していた、発光する砲撃してこない砲台に集中攻撃を仕掛ける。一つ、二つ、三つ。次々爆散して落ちていく。

ストーム1、壱野大佐の射撃も正確極まりない。

また、ニクス一華機の肩砲台による射撃でも、砲台が一つ落とされる。

時計を一瞬だけ見て、時間を確認。

残り四つ。

レーザー砲台がまだ一つ生きていて、狙って来るが。それはブレイザーが叩き落としていた。

有難う軍曹。至近をレーザーが掠めたが、ガン無視して敵砲台を叩き潰す。ゼノビア中尉の狙撃でも、砲台が落ちる。

あと一つ。3、2、1。

狙撃。

粉砕に、成功していた。

防御スクリーンが消し飛ぶ。

同時に、レールガンがつるべ打ちを開始。防御スクリーン内側の砲台を次々に撃ち抜く。ニクスも残っていたミサイルを全弾射出。

それだけではない。

飛来するのは、巡航ミサイル。

「此方一華少佐! 予定通りのミサイル発射、感謝するッス!」

「潜水母艦、潜水艦隊最後の意地! 確実に命中させてくれ!」

「了解!」

横殴りに飛来したミサイルに干渉して、それぞれ狙いを決めさせ当てさせているのか。

いずれにしても、ミサイルが次々に最強だろう砲台群に直撃していき、叩き潰していく。よし。いける。

ついに丸裸になった「宇宙の卵」。

それを守っていた砲台も、一瞬で過半が粉砕されていた。

だが、残っていた僅かな砲台が、牙を剥く。

凄まじいパルスレーザーが、文字通り空を瞬時に漂白した。

飛び出す。囮が必要だ。

これは、まずい。ニクス隊やレールガンが狙われたら一瞬で全滅する。地面が瞬時に穴だらけに成り、沸騰して爆裂する。

火力もレッドカラーやインペリアル並みか。

それだけではない。凄まじい超高出力レーザー砲台が、地面を薙ぎ払う。

文字通り、破壊の槍が投擲されたと同じ。今まで潜んでいた発電所が、瞬時に消し飛ぶのが見えた。

「八割型削ってやったのに、この火力ッスか!」

「これが真のマザーシップの力か! 何という凄まじい火力だ!」

「だが、まだ我々がいる!」

ブレイザーが、再び空に赤い光を迸らせ。砲台の一つを粉砕する。

今の凄まじい攻撃の余波で、レールガンは沈黙。

ニクス隊も、行動不能の様子だ。

「さあ行くぞストーム1!」

「任せてください!」

壱野大佐も無事か。

ライサンダーZの狙撃で、敵の主力砲台がまた一つ消し飛ばされる。先の巡航ミサイルとレールガン斉射によって、敵も殆ど半身不随だ。それでも此方に勝ちうる戦力を残しているが。

それもこれから削り取ってやる。

前衛に出る。まだ、あの超弾幕型のレーザー砲台が生きている。光り始めている。あれをもう撃たせるわけにはいかない。

マザーシップが、タイプツードローンを射出。

更に。ドロップシップが接近していると連絡がある。乗っているのは重装を含むコスモノーツ部隊。

ならば。なおさら。すぐにでも、撃墜しなければならない。

射撃。一撃では破壊しきれない。だが、ダメージを受けた砲台は、チャージの時間が長くなっている。

「ゼノビア中尉、援護してくれ!」

「イエッサ!」

強引にエネルギーチャージして、緊急チャージに入る。こうすることによって、動けなくなるが。しかし次の射撃が早くなる。

チャージの完了時間が長く感じる。だが、それは死が近いからだ。そんなものは怖れない。

一瞬の差。

レーザーが掠める。

だが、避けきった。

モンスター型をぶっ放し。砲台を粉砕する。もう一台の砲台が、閃光を迸らせる。まだ残っている砲台が、破壊の限りを尽くしている。

此奴らを放置は厳しい。

せめて、全て此奴らだけでも破壊し尽くさないと。

背中に鈍痛。

多すぎて処理し切れていなかった、一番火力の低い砲台のレーザーが。フライトユニットを貫通して背中を抉ったのだ。

だが、踏みとどまり。

モンスター型をぶっ放す。パルスレーザー砲台が空中で瓦解。粉々に消し飛んでいた。

三城少佐の射撃も、壱野大佐の射撃も。

ブレイザーの射撃も。

全てが、確実にレーザー砲台を削ってきている。

だが、フライトユニットのダメージが大きいのが分かる。

それに、群がってきているタイプツードローン。

「ゼノビア中尉!」

声を掛ける。

地面に倒れて動かないゼノビア中尉を見る。やむを得ない。一人でやるしかない。

飛び出すと、今まで培った飛行技術の全てを尽くして飛ぶ。

タイプツーだけでも、少しは引きつけないといけない。装備を電撃銃に切り替え、少しでも叩き落とす。

ドロップシップが見えた。

万事休すか。

だが、その時横殴りに射撃が飛来。何とか立て直したニクス隊によるものだ。特に相馬機は、左腕を失いながらも前に出てきて、射撃をしてくれている。ストーム2、荒木軍曹以外の二人は、さがって相馬機の援護に入る。

一人で最前衛をしている弐分少佐に、攻撃が集中する。

少しでも、負担を減らさないと。

雷撃銃で敵を削る。その内、重装コスモノーツがわんさか降りてくるのが見えた。いや、今までの数日の戦いで見た中では、それほど多い部隊ではない。それでも。味方戦力が減っている今は、もはやそれでも脅威に感じてしまう自分がいた。

「壱野大佐! ブレイザーを使い切る! 時間を稼ぐ間に、砲台を全て叩き落としてくれ!」

「イエッサ!」

「頼むぞ最強の戦士! 俺を盾にして奴を……マザーシップナンバーイレブンを倒せ!」

荒木軍曹が突貫。ブレイザーで。迫る重装を焼き払う。

流石はブレイザー。同じように、ストーム2が突貫する。

弐分少佐は、残っているレーザー砲台のヘイトを買うので精一杯だ。なら、やるのはジャンヌ大佐しかいない。

前衛に突撃。

「支援する!」

「お互い……ボロボロだな」

「ふっ。 戦場に出た以上、当然だ」

「支援するッスよ!」

一華機も来た。敵重装が攻撃を開始。レーザー砲兵もいたようだが、それは真っ先に荒木軍曹が焼き払っていた。

乱暴にバッテリーを変える荒木軍曹。

もう、恐らくは最後のバッテリーの筈だ。

雷撃銃を乱射して、敵の視界を塞ぐ。

いつも愚痴を言ってる奴と、それに突っ込みを入れている奴が、ロケットランチャーとスナイパーライフルで、的確に重装にダメージを入れている。

フライトユニットがエラーを吐き出し始めた。

コアにダメージが入っている。

これは、もう駄目だな。

そう思いながら。

それでも、意識を必死に引き戻す。

敵の射撃が、至近の地面を抉る。あの巨大な武器を持つ重装だ。あんなのが擦っただけでも死ぬ。

前に出てきた相馬機と一華機が、それぞれ射撃。一華機は機動力を生かして敵部隊の側面に回り込み、十字砲火を作り出している。敵の攻撃が集中しているが、ギリギリで耐えているようだ。

空からのレーザーがやむ。

どうやら、ついにマザーシップ中枢を守っていた砲台、最後の一つが落ちた様子だ。

気を抜いた瞬間。

恐らく敵重装のロケットランチャーが至近で爆発。

とうとう限界が来たらしい。

意識が闇に落ちていた。

 

「ジャンヌ大佐!」

吹き飛ばされたジャンヌ大佐を見て、それでも応戦を続ける。ジャンヌ大佐からは返事がない。傷の状態を見ている余裕がない。荒木軍曹は歯を食いしばって、ブレイザー最後のバッテリーを装填。

重装を、焼き払っていく。

残り三体。

だが、味方も限界だ。

相馬機が、膝をつく。相馬大尉が脱出と同時に、ロケットランチャーを相馬機がモロにくらい、爆発四散。

ずっと頑張ってくれたカスタム機の最後だ。

「畜生、次から次へと沸いて来やがって!」

「奴らもどれだけ攻撃すれば倒せるのかと嘆いているだろうな」

「そうだ。 そして俺たちは奴らには倒せない!」

「流石荒木軍曹。 どうやら俺は貴方より出世は出来なさそうだ」

この四人での掛け合いも、もうすっかり板についてしまった。

一華機を除くストーム1が、マザーシップナンバーイレブンへの攻撃に集中し始めている。

そんな中、飛び込んできたのはボロボロのキャリバンだ。

さっき、ストーム3を搬送していったものだろう。

飛び出してきた衛生兵が、倒れている兵士達を回収していく。横目に、ブレイザーでの射撃を続ける。

敵の戦意は流石だ。

通常のコスモノーツとは中身からして違う。

すぐに逃げ出そうとする通常コスモノーツと違って、最後まで意地を見せようとしてくる。

それに限ってだけは。

天晴れとしか言いようがない。

だが、それでも。

殺す以外に道は無い。

一華機の射撃で、鎧が砕けた一体が、反撃に出ようとした所を。スナイパーライフルで撃ち抜く。

腕を吹き飛ばされた重装が、一瞬だけ躊躇。

そこを、小田大尉のロケランが直撃。

煙を上げながら、重装が倒れ臥す。

残った一体が、ガトリングをぶっ放してくる。

もはや、避ける場所がない。

全員が薙ぎ払われて、その場に倒れ臥す。それでも、立っていた荒木軍曹は、ブレイザーを浴びせ。

最後の一体を薙ぎ払っていた。

キャリバンが来る。

倒れているストーム2のメンバーを回収し始める。荒木軍曹は立ったまま。絶対にブレイザーを取り落とさなかった。

「担架! 急いで!」

「戦況は……!」

「ストーム1がまだ……鬼神のように暴れ狂っています!」

「そうか……奴の戦いを支援できたか……」

小田大尉が何か言いそうだが。小田大尉は、黙りこくっていた。気を失っているのか、それとも。

荒木軍曹も、もう限界だ。

意識を手放す。

だが、もう敵ののど元に手は届いている。

後は、ストーム1がどうにかしてくれる。そう信じた。

 

4、怒り

 

「なんなんだあれは! どういうことだ!」

「火の民」族長は、怒り狂っていた。

コックピットでは、彼をはじめとする数名の火の民が必死に船をコントロールしていたのだが。

下にいる「いにしえの民」。敵はストームチームと呼んでいる連中を、どうしても駆逐出来ない。

どれだけの戦力をかき集めても倒せず。

とうとうこの旗艦まで使って倒しに来ているのに。

旗艦の全武装を解放しているのに。

それでも、倒せない。

数は減っている。

だが、残った奴が、どうしようもないのだ。

「自動攻撃砲全滅。 武装が尽きます」

「おのれ! 奴ら、ひょっとして「外」から支援を受けているのではあるまいな!」

「……」

それはあり得ない。

もし「外」から支援を受けていたら。

それこそ、先祖達がそうされたように。

「火の民」によるこの戦闘部隊は、調子に乗っているところを、一瞬で全滅してしまっただろう。

自分でも分かっているのに。

怒りのぶつけどころが存在しなかった。

コックピットが揺れる。

激しいダメージを受けているのが分かった。

「何事だ!」

「砲台が全滅、支援に来た親衛隊も全滅した事で、敵の攻撃が本艦に集中してきているのだと思われます」

「何とかしろ!」

「しかし、もはや武装が……」

また激しく揺れる。

ありったけの全自動殺戮飛行装置を繰り出せと指示を出しながら、「火の民」族長は怒りに震える。

全て、下にいる連中が原因だ。

少し前に通信が来た。

本国の長老達からだった。

作戦の不手際を攻められ。

そしてトゥラプターにもし負けた場合の、三年間の指揮を引き継ぐ事を告げられ。

負けた場合は、「次」の作戦指揮から降ろし。なお、未来の長老の座も剥奪するというものだった。

長老会議による決定は絶対だ。

族長の権限ではひっくり返す事が出来ない。

もう崖っぷちなのだ。

「本艦のダメージ、大。 脱出の準備を」

「お前らは先に脱出しろ。 私はこれから……戦闘を行う」

「分かりました。 ご自由に」

「火の民」の戦士達がコックピットを離れていく。

「火の民」族長は、怒りの余り指揮デスクを殴りつけていた。

どいつもこいつも。

こうなったら、最強まで改造しているこの肉体を持って、敵を殲滅してくれる。

そうして、馬鹿にしてきた全てを見返してくれる。

そもそも、調子に乗ってバカをやらかした先祖が、あまりにも強大な敵に軽率に喧嘩を売った尻ぬぐいをずっとしているも同然なのに。

どうして、矢面に立たされただけにすぎない自分がこうも批判を全て浴びなければならないのか。

戦闘が成立するようになる四周目までだって、敵の弱点を丹念に調べ、根気よく戦って来た。

今だって、なんか「いにしえの民」におかしいのが出てくるまでは、完勝目前まで行っていたのだ。

それが無能呼ばわりされて、尊厳を全て否定されて。

挙げ句に粛正だと。

怒りに、全身が焼けただれそうだ。部下共に舐められているのも察しているからこそ。余計に怒りは沸騰するのだった。

 

「レールガン部隊、限界。 後退します」

「了解。 後は我々でやる」

「ご武運を……」

ぼろぼろのゴーン4が護衛しながら、レールガンをどうにか戦闘区域外に逃がしていく。大型移動車も動いている。

長野一等兵も、尼子先輩も、無事であると信じたい。

無線が壱野のバイザーに入る。

「現在、二両の補給車が待機しています! しかし敵外縁の砲撃がまだあるため突入は厳しく……」

「そうか。 ならばあの忌まわしい卵とやらを叩き落とすから、それから補給を送ってほしい」

「わ、わかりました……」

壱野は、ライサンダーZを構える。

既に直衛の部隊を失い。

「宇宙の卵」だか何だか知らないが、マザーシップナンバーイレブンは既に丸裸も同然。

だが、内部から凄まじい悪意がまだまだ感じられる。

それについては、ストーム1全員に共有済。

後は、叩き落とすだけだ。

「宇宙の卵」だとかは、既に全体に亀裂が入っていて、煙を噴いている。本来の黄金の装甲は全てやられてしまい。内部の脆い部分が露出しているのだろう。攻撃を何処に当てても効く。

三城がプラズマグレートキャノンを叩き込む。

爆発で、敵艦が揺動している。

傷に、ライサンダーZの弾をねじ込む。

タイプツーは、もう弐分に任せてしまう。

一華が来る。

一華のニクスはもう破壊寸前まで行っているようだが。それでも、何とかまだ動いている様子だ。

「切り札がもう一つあるッスけど……」

「戦闘が終わり次第、後方にさがってそれを使えるようにしてくれ。 まだ敵には切り札がある可能性が高い」

「はー。 その化け物じみた勘と戦闘力。 こりゃプライマーも、喧嘩売った相手が悪かったッスねえ」

「俺だけの戦闘力ではないさ……」

ジャムカ大佐。ジャンヌ大佐。それに荒木軍曹。

皆無事の筈だ。

そう信じて、もう一撃を叩き込む。

火を噴く敵旗艦。

「敵旗艦、今度こそ大破!」

「もう少しだ! 攻撃の手を緩めるな!」

「了解! 叩き落とす!」

成田軍曹が、悲鳴に近い声を上げた。

マザーシップ九隻が、此方に向かっているという。一隻は奇跡的に撃沈できたという話を聞いている。

だが、戦闘で足止めをしていた五隻は、戦域を離れ。

大破している艦も、ふらつきながらも此方に向かっているそうである。

大破している艦はいい。

問題は残りの五隻だ。そいつらが集結して主砲をぶっ放してきたら、はっきりいって手に負えない。

まだ、此方は勝っていないのだ。

「! リーダー!」

「砲台が……」

外側に展開していた、多数の砲台が爆発して、墜落し始める。

なるほど、敵旗艦の中枢にダメージが通ったと見て良い。確かにさっきから起きている爆発が大きくなってきている。

「弐分、少し下がれ。 タイプツーをいなしながら、敵の直下から離れろ」

「了解!」

「三城、傷口にプラズマグレートキャノンをねじ込め。 俺は続けて傷を抉る」

「わかった」

一華機は指示通り後退。

長野一等兵が、何とか最低限まで修理してくれることを祈るしかない。

敵は瀕死だ。

最後の攻撃を叩き込む。

だが、恐らく敵の首魁はまだまだ無事。

この強い悪意。

或いはトゥラプター並みの戦力で、襲いかかってくるかも知れない。元々コスモノーツは肉体が人間の十倍以上も大きいのだ。

それが高機動装備を身につけて襲いかかってきたら、その危険性は次元違いという他ない。

だが、だからこそ、切り札を温存させている。

プラズマグレートキャノンが着弾。

敵旗艦に入った亀裂が更に大きくなる。

傷口にライサンダーZをねじ込む。

タイプツードローンが全滅。弐分も、ガリア砲で攻撃に参加し始める。加速度的に、敵の旗艦が崩壊していく速度が上がる。

程なくして。

敵旗艦が、凄まじい光を放ちながら、爆発していた。

戦略情報部の少佐と、成田軍曹が、それぞれに言う。

珍しく。戦略情報部の少佐は声を上擦らせていた。

「敵旗艦、撃沈!」

「やった! やりました! こんな日が、こんな日が来るなんて……!」

「全世界に勝利を報告します! ストームチーム、敵旗艦を撃沈……」

「いや、まだだ!」

壱野が警告する。

悪意は消えるどころか、大きくなってきている。

補給車が来た。

「応急手当を! 装備を補給! 何か来る!」

煙が晴れてくる。

粉々に消し飛んだマザーシップナンバーイレブン。

その煙の中に。

巨大な人影が浮かんでいた。

悪意はあれから来ている。

バルガほどでは無いが、それに近い巨体。どうやら、あれがトゥラプターが言う所の、「火の民」。コスモノーツの首魁と見て良さそうだ。

「人が浮かんでいます……銀色の巨人のように見えます!」

「神話と同じです……宇宙から来た卵から、神が現れた……あれは、神……」

やはり、成田軍曹は相当に精神をやられている様子だ。

いずれにしても、倒すべき相手だ。

あの放たれている圧倒的な悪意がそう告げている。

ライサンダーZを握り直す。

決戦が、開始される。

それを壱野は、理解していた。

 

(続)