さらばくろがねの巨神

 

序、滅びの車輪

 

横浜にドロップシップが飛来。エイリアンを多数搭載している。

来たなと壱野は思った。

恐らくは、そろそろ本命の戦力を出してくると思っていたのだ。すぐに、ストーム4とともに現地に向かう。

ジャンヌ大佐は疲労を隠せていないが。それは誰も同じ。

東京基地からも、病院から出たばかりの歩兵二部隊、フェンサー部隊一部隊だけが作戦に参加してくれた。

既に人がいなくなった横浜に到着。

同時に、ドロップシップの周囲に、大気圏外から飛来するものあり。テレポーションシップである。

大げさな布陣だなと壱野は思う。

文字通り、完全に囲まれた。無線が入る。

戦略情報部からだった。

成田軍曹である。

声は恐怖に震えきっていた。

「東京基地司令部が、インペリアルドローンを含む部隊に攻撃を受けています……近隣では苛烈な攻撃が続き、状況が分かりません。 作戦は私がサポートします」

「この状況だぞ! 全軍を出して対応できないのか!」

「東京基地にも大量のドローンが到来している模様です……援軍なんて……とても……」

「くそっ!」

それだけではない。

同時に、静岡にテレポーションシップとドロップシップが飛来。

ついにアーケルスが来たと言う。

噂にあった最後の一体だ。

それだけではなく、大量の怪物も確認されると言う事だった。

「どうやら最後のようだな」

ジャンヌ大佐が吐き捨てる。

だが。最後だからと言って諦める気は無さそうだ。

壱野だってそれは同じ。

作戦を手短に伝える。

この状態で守りに入れば終わりだ。横浜は既に無人地帯。それを利用して、敵を可能な限りたたく。

ジャンヌ大佐は呆れたようだった。

「この状態でも勝つつもりか」

「勝てますので」

「……ふっ、面白い。 だが、いい。 ただなぶり殺しにされるだけよりも、せめて敵を出来るだけ道づれにしてやる! 地獄に一緒にどれだけ敵を連れて行けるか、勝負といこうか! 一番倒した奴には、それ以外の皆が地獄で酒を驕るぞ!」

「おおっ!」

兵士達が皆、歓喜の声を上げる。

もはやヤケクソになっているのが分かりきっているが。

生憎壱野は負けるつもりは無い。

事実、この地形だったら。勝てる。包囲は出来ているが。完成はしていないからである。

「弐分。 三城。 指示通りに頼むぞ。 歩兵とフェンサー部隊は全員がニクスの随伴歩兵をしてくれ!」

「イエッサ!」

「作戦開始!」

全員一丸となって動く。

問題は、大型移動車が一緒にいる事だ。尼子先輩も、急に来たテレポーションシップの事もあって、逃がせなかった。

だから、ニクスの側にいて貰う。

長野一等兵もそれは同じ。

敵はテレポーションシップを低高度に配置し、くるくると回転させながら包囲を維持しているが。

それがどれだけの愚策か、思い知らせてくれる。

朽ちているビル街を抜けて走る。敵のテレポーションシップが気づいたが。ハッチを開いた瞬間。

壱野のライサンダーZ。それに弐分のガリア砲。三城のプラズマグレートキャノン。それにストーム4のモンスター型レーザー砲の斉射が。一瞬にして四隻のテレポーションシップのハッチ内を直撃。

全てを瞬間的に爆砕していた。

包囲が崩れた。そのまま走る。敵は更に大気圏外からテレポーションシップを追加してくるが。此方は一直線になり、一丸となって敵の包囲を抜ける動きをする。慌てて陣形を乱すテレポーションシップ。包囲を保とうとして、必死に艦隊運動をしているが、それが命取りだ。

わっと怪物が押し寄せてくる。

飛行型とタッドポウルもいるが。

途中にばらまいておいた自動砲座が。怪物達を横殴りに銃撃。次々と倒れていく怪物達。

更に、包囲を続けようとしているテレポーションシップが、次々と射程圏内に入る。此方を消耗させようと怪物を展開して来るが。

これほど積極的に此方が打って出てくるとは思っていなかったのだろう。

包囲すれば、大人しく縮こまって救援を待つとでも思ったか。

包囲がしっかり完成しているのなら、それもありだっただろう。地の利がなければなおさらだ。だがこんな状態で、包囲を喰い破らない方がおかしい。

もう二隻を、立て続けに落とす。

飛来する怪物は、一華のニクスが次々に叩き落とす。

大型移動車は、先に包囲から脱出させた。

後は、怪物を迎撃しつつ、テレポーションシップを叩き落としていくだけだ。

「ドロップシップからエイリアンが降下!」

「予想通りだな」

数隻を落とせば、業を煮やして降りてくるだろう。

全て想定の通りだ。

三城が完璧なタイミングでプラズマグレートキャノンを発射。コスモノーツ数体が爆発にモロに巻き込まれた。

コスモノーツの鎧の性質で、何とか即死は免れるが。エイリアンどもの鎧は粉砕される。

続いて、一糸乱れぬモンスター型レーザー砲の斉射がエイリアンどもを襲う。

胴を頭を貫かれ、次々にコスモノーツが倒れる。ビル影に隠れようとする数体がいたが。それを壱野はロケットランチャーで撃つ。ただし撃ったのは側のビルだ。

崩れるのが分かりきっていた無人のビル。

ビルが倒壊し、隠れようとしたコスモノーツをまとめて土砂が押し潰す。あっと手で防ごうとしたコスモノーツが、大量の瓦礫に埋もれて、一瞬で埋葬された。わざわざ埋める手間が省けた、というものだ。

更にテレポーションシップが来る。ドローンも。恐らく東京基地を攻撃している部隊だろう。

弐分が前衛に出て、機動戦でとにかく敵の気を引く。

味方フェンサー部隊も盾を構えて、必死に皆を守る。

そんな中、無理に包囲を維持しようと敵は艦隊運動を続け。それが却って此方に射撃の隙を作る事になる。

また一隻、叩き落とす。

テレポーションシップの爆発に巻き込まれた怪物の残骸が、周囲に飛び散る。怪物はそれでも戦意が落ちないが。

エイリアンは、露骨に怯む。

傷だらけのエイリアンが逃げようとする所を、ストーム4が斉射してとどめを刺す。また。ドロップシップからエイリアンが降りてくるが。このドロップシップそのものは落としようがなくとも。

そもそも中にいるエイリアンは違う。

ただ乗っていたのは、重装四体とレーザ砲持ちが一体。

着地狩りでプラズマグレートキャノンを三城が叩き込むが。レーザー砲持ち以外は全てが耐える。

レーザー砲持ちは。接近した弐分が頭を狩り、動く前に仕留めてしまうが。

重装四体の猛反撃を受けて、流石にさがらざるを得ない。少し後退しつつ、重装への攻撃はストーム4に任せる。あの分厚い装甲も、流石にモンスター型の猛攻には耐えられない。

ただし、怪物はひっきりなしに攻めてくる。ドローンも。

ずっと、エイリアンの相手ばかりしていて貰う訳にもいかない。

「ぞ、増援です! 艦隊を守ろうと……」

「いや、好都合だ」

敵の方角は東。つまり東京を攻撃している部隊だろう。

それが此方に戦力を割いた。

それだけ東京が楽になっている筈だ。

如何に東京基地が攻撃を受けていると言っても、それでも短時間で陥落する事はないだろう。

ただ前哨基地は幾つもやられてしまっている可能性がある。

味方を少しでも救うために、此処で踏ん張らなければならないのだ。

寄ってくる怪物をアサルトで叩き落とす。飛行型はもう姿を見ない。最初に優先して叩き落としていたが。

やはりもう飛行型はかなり数が減っていると見て良い。

タッドポウルはまだ少数がいるが、見かけ次第叩き落としている。

数がそれほど多く無ければ、どうということはない。

問題はγ型だ。

かなりの数がまだまだいて、迫ってくる。その中には、東京基地を襲っていたらしい個体も混じっていた。

激しい戦いを続けて行くうちに、兵士達がどんどん負傷していく。

悲鳴が上がる。

さがるように指示して、戦闘を続行。包囲の一部は開いている。

十四隻を叩き落とした辺りから、敵はテレポーションシップの増援を寄越さなくなった。恐らくは、これ以上の損害は他の戦線に影響が出ると判断したのだろう。わざわざ大気圏外から落として来たのだ。

おおざっぱな作戦か。もしくは作戦として機能していない戦術家気取りか。どちらかを好むプライマーとしては、随分手間暇を掛けている。

それはつまり、勝つ気でいるという事で。

此処でこれほどの攻撃を仕掛けてきていると言う事は。

敵にも余剰兵力がないことを意味する。

ガトリングの砲弾が飛んでくる。

残っている重装コスモノーツによるものだ。

戦車が少しでもいればまだマシなのだが。これでは増援どころではないだろう。

とにかく、必死に兵士達には当たらないように、動きを指示。

擦っただけで消し飛んでしまうだろう。

一華のニクスが前に出て、兵士達を庇う。

戦闘は既に開始から三時間。

元々整備が万全では無いニクスは、既に傷だらけになっていた。何カ所かからは煙も上がっている。

それでもニクスは戦闘を続行している。

壱野も負けてはいられない。狙撃。重装コスモノーツの胴鎧が砕ける。其処に、モンスター型レーザー砲が直撃。

倒れる重装コスモノーツ。

ストームチームの連携も、少しは絵になって来たか。

だが、ストーム4もそろそろ限界の様子だ。元々彼女らも、酷い戦線をずっと移動し続けているのだ。

無理が出てくるのは、当然だろう。

包囲を狭めてくるテレポーションシップを更に一隻撃沈。

この戦場にいるのは、後三隻だ。怪物も、もう残り少ない。周囲は死体の山。

地面に撃墜されて炎上しているテレポーションシップと。

その炎で火葬されている怪物。

砕けて飛び散った怪物の死体と体液。

それらで、むせかえるような凄まじい臭いが充満している。

兵士達は顔を歪めて射撃を続けているが、全員満身創痍だ。必死の戦闘を続けている彼らを、褒める余裕もない。

三城がプラズマグレートキャノンを叩き込み、重装コスモノーツの鎧を吹き飛ばす。二発喰らってしまうと、流石の重装コスモノーツの二層鎧もひとたまりもない。鎧が砕けた箇所に、射撃を叩き込み。即死させる。

普通のコスモノーツと違い、此奴らは戦意がやはり違う。味方が次々に倒れても向かってくる。

親衛隊と、あの赤いコスモノーツトゥラプターが言っていたのも当然なのだろう。

わっと、不意に大量の怪物が襲いかかってくる。

防御円陣。

叫んで、周囲からの攻撃から身を守る。

ニクスが派手に火を噴くのが見えた。大量のβ型の前に立ちはだかって、壁になっている。猛攻を受けているのだ。

東京基地から来た怪物達と、最後にとばかりにテレポーションシップが落としている怪物達が原因だ。

「三城、残りを落とせるか」

「やってみる」

「我々も行くぞ!」

「フーアー!」

三城とストーム4が、乱戦を抜けて飛び出す。壱野は無言でその場に仁王立ちし、最高効率で怪物を叩き潰し続ける。

α型終わり。

β型を狙う。ニクスは既に片膝をついている。とてもではないが、すぐに戦闘出来そうには見えない。

一華に呼びかける。

返事はない。無線が動いていないだけと信じたい。

前に出る。弐分が暴れ回って文字通りβ型を蹴散らしているが。それでも足りていない。

弐分に加勢する。

フェンサー部隊はもう満身創痍で、殆どが身動きできないほど糸を喰らっている。装甲もボロボロだ。

彼らを救うべく前に躍り出ると。残った歩兵達が、煤だらけの顔を歪めて続いてくる。勇敢なのでは無い。

皆、自棄になっているのだ。

逃げる場所なんてない。

この状況だ。東京基地だって、こんな感じで無茶苦茶にされているのは確実である。更に、成田軍曹が通信を入れてくる。

「此方成田軍曹。 小田原に向けて、怪生物と怪物が進軍を開始しています……怪物は飛行型、タッドポウル……マザーモンスター、キング、クイーン……巨大な怪物が多数いるようです!」

「終わりだ……」

「終わらせる訳には行かない」

スカウトを派遣して、正確な数と進軍路を探らせるように成田軍曹に指示。

必死に、周囲の作戦行動中の部隊に指示を出している様子だ。

とにかく今は、此処を乗り切る。

テレポーションシップが爆発四散。落ちてくる。二隻ほぼ同時。どうやら三城達がやった。

一隻が緩慢に逃れようとするが、立て続けにそれも落ちる。

「ふっ。 私の腕もまんざらではないな……」

ジャンヌ大佐の声がする。

つまり、ジャンヌ大佐が落としたらしい。

怪物はこれで打ち止めだ。

そう叫びながら、残敵を片付ける。凄まじい数の怪物だったが。地形を上手に利用して、更にエイリアンを出落ちに近い形で処理したのが大きい。

既に、残党は僅かになっていた。

戻って来た三城とストーム4。総力を結集した皆で、怪物を蹴散らす。

そして、周囲に悪意がなくなった時点で、大型移動車を呼び戻す。大型移動車が酸を浴びていた。

「尼子先輩!」

「ぶ、無事だよ……何とかね……」

青ざめながら、顔を出す尼子先輩。どうやら荷台にあったクレーンを使って武器を出し、長野一等兵が決死の射撃で怪物を仕留めてくれたらしい。包囲を脱出する過程でα型に襲われ。その結果だそうだ。

長野一等兵もいざという時に備えてアーマーを着込んで出て来ているが、ボロボロだった。下手したら、死なせる所だった。

ニクスをすぐに引き上げて、見てもらう。一華の反応が、やっと返ってきた。

「あいたた……聞こえるッスか……?」

「聞こえる。 無事か」

「申し訳ないッスけど。 このニクスはもう駄目かも知れないッスね。 さっき、β型の糸が装甲を貫通した挙げ句にコックピットに飛び込んで、死ぬかと思ったッスよ」

「怪我はないか」

何とか大丈夫だそうだ。

嘆息すると、長野一等兵に頼んでコックピットを開けて貰う。

見ると、ヘルメットに大きな傷が出来ていた。それでいながら、時々頭に乗せているらしい梟のドローンは無事だ。

ヘルメットがなければ死んでいただろう。バイザーも傷ついていたようで。それで通信が遅れたか。

煙がわっと出てくる。

PCを運び出すのを手伝うが、確かにこれはもう駄目かも知れない。

長野一等兵も、難しい顔をした。

「ガワだけではなく中身も徹底的にやられているな。 これは正直、直すのは……」

「やむを得ないッスよ。 とりあえず、東京基地に戻って……」

「そうだな」

「でも、東京基地も怪物が……」

生き延びた兵士達は、殆どが乗せていたキャリバンに移り。そこで治療を受けているが。無事だった僅かな数名が。恐怖に顔を歪ませている。

壱野は、静かに彼らを諭すしかない。

ストーム4も負傷者が出ているほどの激戦だったのだ。

彼らが生き延びられたのは奇蹟に等しいが。

まだ、戦闘は終わっていない。

「西から怪生物が迫っている。 怪生物どころか、巨大な怪物が多数。 バルガを持ってこないと、とても相手に出来る戦力では無い」

「ひっ……」

「東京基地に群がっている敵を蹴散らすぞ。 その後は、残存戦力を結集して、小田原に迫っている……いや戦闘時間を考えると、恐らく東京基地の至近にまで来るな。 怪生物と、巨大な怪物共をバルガを用いて蹴散らす。 生き残るには、それしかない」

急ぐぞ、と声を掛ける。

補給車で急いで補給する。アーマーがまずい。負傷を免れた兵士達の分くらいしか残っていない。

大型移動車で行くのが一番早い。東京基地へ急ぐ。

成田軍曹が、無線を入れて来た。

「この状況で、あれだけの敵を……ありがとう。 ありがとう!」

「千葉中将との連絡を続けてくれ。 我々はこのまま東京基地に急ぐ」

「はいっ! 今、ストーム2と連絡が取れました! 何とか千葉中将の救援に向かって貰います! 九州にいて距離がありますが、ストーム3も参戦できるようなら、作戦参加を打診してみます!」

「頼むぞ」

一華が座り込んで、話を聞いている。煤だらけの顔を、何度か擦っていた。

見た感じ、怪我はしていないが。自慢のPCが攻撃を受けた時にエラーを吐いたらしくて、著しく不機嫌だ。

そしてそもそも支援がないと怪物に集られてしまうバルガを、これから無茶な運用で動かさなければならない。

それも、相手にすればいいのは怪生物だけじゃない。

ついに刀折れ矢尽きたというやつか。

それでも最後まであがく。

煙が上がっている。東京基地が見えてきた。敵のドローン部隊とまだやりあっている。無事なニクスがいる。

すぐに参戦する。そう兵士達に告げると。尼子先輩に、アクセルを全開で踏んで貰った。

 

1、東京基地の死闘

 

幾つか大きな基地は残っているが、東京基地はEDFにとっての最後の砦と言って良い場所だ。

だから兵力を集めていたし。富士平原の大規模会戦では、此処からバルガ部隊が出撃していった。

今、東京基地は。

敵の猛攻に対して、必死に交戦を続けていた。

三城は真っ先に出る。

ストーム4もついてくる。

流石の飛行技術だ。

そのまま、上空にいるドローン部隊に対して、誘導兵器をぶっ放す。地上に無差別攻撃を繰り返しているのはタイプツーを主力とした部隊だが。装甲が分厚くても、攻撃を食らえば揺らぐ。

味方は基地の砲台の数々と、それに何とか継ぎ接ぎで直したニクスやタンクで応戦している。

兵士達もあらかた出て来て攻撃をしているようだった。

大兄の狙撃が、我が物顔に飛び回っていたインペリアルドローンを直撃。更にそれに、ニクス隊の攻撃が集中する。

既に破壊されてしまったタンクや据え付けの対空砲、自動砲座が煙を上げているが。それらが無駄にならなかったのだろう。

傷を受けていたインペリアルドローンは空中で爆発四散。

乱戦中の兵士達の中に、三城は降り立ち。

空中に誘導兵器をぶっ放し続ける。

その周囲に降り立った傷だらけのストーム4は、それぞれがマグブラスターで武装していて。

大物狩りようのモンスター型レーザー砲から。近中距離に威力を発揮するマグブラスターでの戦闘に切り替える。

火力よりも、精密な射撃がものをいい。

次々にドローンが落ちていく。

兵士達が歓声を上げる。

其処に、大兄達が到着。射撃で、残党狩りを始める。ドローンはもう大丈夫だろう。

「此方ストーム1、ストーム4! 横浜から帰還! 基地の指揮は誰が執っている!」

「私だ……」

「ダン中佐!」

「すまない、病床から指揮を執っている。 今、バンカーにまでα型の怪物が侵入している。 被害を減らすために、援護を頼む」

有無を言わずに、バンカーへ飛び込む三城。周囲にはα型が相応の数いるが、それほどでもない。

228基地を襲ったのに比べると、大した数じゃない。

それでも、整備兵には絶対的な脅威だ。必死に反撃している兵士もいるが、不慣れな上に数が少ない。囲まれて酸を浴びそうになっている兵士も多かった。

バンカーに降りながら、装備を切り替える。

先に補給を受けた時に、プラズマグレートキャノンから、レイピアに切り替えてきたのである。

近距離戦が得意で、しかも継戦力が高いこの兵器は。飛行技術がある程度あれば、怪物を一気に仕留める事が出来る。

突貫。

α型が気づいて酸を飛ばしてくるが、尻を上げて酸を飛ばしてくるまでの動きを完璧に見切って避ける。

近距離からレイピアの熱線を浴びせて焼き切り、そのまま味方を救出しながら暴れ回る。

バンカーに降りて来たストーム4も、攻撃を開始。マグブラスターで。バンカーを這い回っているα型を片っ端から蹴散らしていった。

「此方成田軍曹! 東京基地との通信復旧!」

「インペリアルドローンを落とした。 状況の整理と、周囲の部隊への東京基地への撤収を指示するように頼む」

「りょ、了解です……」

成田軍曹は精神が不安定になっている様子だが。

忙しく働かせれば、それなりに仕事は出来るらしい。

三城も壊れて行く成田軍曹を見ていて、良い気分はしていなかったので。ちゃんと動いているのを見ると安心する。

エレベーターで降りてくる一華。

バンカーの端末に駆け寄ると、操作を始める。周囲に兵士達が展開して護衛。まだ少数、α型が残っているが。それはストーム4が全部片付けてしまう。

「よし、入り込んだ敵はあらかた片付いた様子ッスね。 少なくとももう監視カメラには写っていないッスよ」

「……そうだな。 基地の中にはな」

大兄が外から、出てくるように言ってくる。

すぐに、バンカーの外に飛び出す。何とか生き延びた戦車隊やニクス隊が。基地の要塞砲についている砲手や兵士達と一緒に、大兄の周囲に集まっていた。

「敵が迫っている。 今回の敵の作戦は、今までに無い程のものだ。 我々ストーム隊を東京基地から引きはがした上で大兵力で強襲し、更に同時に東京基地も攻撃した。 東京基地周辺で作戦行動中だった部隊も襲われている。 今日、プライマーは東京を葬るつもりだ」

大兄は続ける。

これから、更に怪物が来ると言う。

まあ、小田原の方に怪生物が来ていると言う話は三城も聞いた。

わざわざ今話をしているという事は、別の部隊が来るのだろう。

「北にかなりの敵がいる。 接敵まで三十分という所だ。 弾薬の補充、アーマーの交換、急いでくれ。 準備が終わり次第、迎え撃つ」

「イエッサ!」

兵士達が散る。

一華が、ニクスをエレベーターで上げてくる。

最新型でもないし、動くかちょっと不安になりそうな代物だが。長野一等兵がくいついた。

「共食い装備に使えるかも知れない」

「性能は落ちても良いので、何とかしてほしいッス」

「六時間、くれるか」

「……了解ッス」

六時間か。

生きているニクスの内、一機を一華が借り受ける。不慣れそうな兵士は難色を示したが、指揮を執っていたダン中佐がそうするように指示。まあストーム隊の、バルガで最初に怪生物を倒したパイロットだと言う事も分かったからだろう。

すぐに兵士はニクスを譲ってくれた。

あまりいいニクスではない様子だが、それでも生身で一華を戦わせるよりはなんぼもマシである。

PCを積み込むのを支援。

弾薬なども補充する。

ストーム4が戻ってくるが、数が減っていた。負傷がひどい兵士を、医者に任せてきたのだろう。

さっきからキャリバンが行き来している。

インペリアルドローンを含む部隊に襲われたのだ。

負傷者が少ないはずがない。

「我々はこれから千葉中将の救援に行く。 ストーム2が既に現地に到着したようだが、苦戦しているようでな」

「了解です。 頼みます」

「お前達こそ頼むぞ。 この基地を落とされたら、東京の地下に潜んでいる市民は全滅だ」

ジャンヌ大佐が、皆を叱咤して行く。

そうこうするうちに、動ける戦車やニクスは全てが陣列を整えた。基地に据え付けられた火砲にも、砲手がついたようだった。

ダン中佐は、時々連絡を入れてくるが、声がかすれている。

今のうちに、襲撃を受けたときの状況や、損害について聞いておく。

やはり、横浜で襲われたのとほぼ同時に、東京基地にも来たらしい。千葉中将が司令部を移していたこともあり、いきなり全機能が麻痺するようなことはなかったようだが。インペリアルドローンが来ていたこともある。

ニクスや戦車隊を僅かでも温存していなかったら、ひとたまりもなかっただろうとダン中佐は言う。

何とか耐え抜いて、レールガンとバルガマークワンは守りきってくれたらしい。

大兄が状況を伝える。

怪生物が来ていると聞いて、そうかと寂しそうにダン中佐は言った。

「俺はもうベッドから動けそうにもない。 人工呼吸器も外せない有様だ。 悔しいが、怪生物の撃破記録もここまでだ。 後は頼むぞ、ストーム1、凪少佐」

「流石にそんな有様で、作戦指揮を執ってるのを見せられたら、何も言えないッスよ」

「頼む」

「任されたッス」

敵だ。

兵士達の恐怖の声。

マザーモンスターを含む相当な数の怪物が来る。あれを野放しにしたら、東京中に散って、地下に逃げた人達も殺し尽くされるだろう。

させるか。

バンカーから何か上がってくる。

レールガンだった。

「此方ケン! レールガンで支援します!」

「助かる。 基地中央部分で陣取り、指定する敵だけを狙ってくれ。 すぐに他の戦場にも出て貰う事になる」

「了解しました!」

射撃開始。

やはり飛行型もタッドポウルもいない。多数の戦場に展開するほどの数が残っていないと見て良い。

繁殖しているα型は相応にいるのだろうが。

見た所金の奴は此方には来ていない様子だ。そうなると、怪生物の直衛として残していると見て良さそうだ。

一斉に要塞砲が火を噴く。大火力のものだけではなく、機銃砲座もだ。

更にニクス隊、戦車隊も、数が少ないながらも反撃を開始。迫るα型を、片っ端から射すくめる。

それだけではない。

レールガンが撃ち放たれ。

迫っていたマザーモンスターを一撃で黙らせる。富士平原での戦闘でも、マザーモンスターを貫通して一瞬で倒していたが。相も変わらずのとんでもない火力だ。

「新型は斜角が上を狙えます!」

「頼もしい。 だが、電力を食うし装甲も脆いはずだ。 くれぐれも前には出ないようにしてくれ」

「分かりました!」

小兄と三城が前に出る。α型の大軍の上から、誘導兵器を雨と降らせた後。レイピアで低空飛行しながらα型を蹴散らす。α型はかなりの数だが、ただ押し寄せてきたという雰囲気だ。

味方の整然とした砲火と、何より変な動きをすれば大兄の狙撃で消し飛ばされていることもある。

一瞬で吹き飛ぶ奴。

左右に回り込もうとして、横腹に大穴を開けられる奴。

次々と倒れていく。

そのまま攻撃を続行。

射撃を続けて、徹底的に倒す。また、マザーモンスターが来る。だが、それもレールガンで黙らされた。一撃で沈むマザーモンスターを見て、兵士達の士気は上がる。ただし、敵の数が多すぎる。

飛行技術の粋を尽くして飛ぶが、それでも雨のように飛んでくる酸はどうしようもない。何度もフライトユニットに掛かり、肌を掠める。一応アルカリ性のワックスは露出部分にぬっているが、それでもどうにもならない。

焼けるような痛みを感じて眉をひそめながらも、敵の気を徹底的に引く。味方が、敵を片付けるまでの辛抱だ。

「三城、東に三百メートル移動!」

「わかった!」

大兄の指示通りに、大急ぎで飛ぶ。途中、赤いα型の背中を蹴って加速して、指定地点に到達。

同時に、東京基地に居残っていたらしい砲兵隊が、大型榴弾砲の嵐を敵に叩き込んでいた。

流石に凄まじい火力だ。

数百という単位で、一瞬にしてα型が消し飛ぶ。ごっそり敵の空白地帯が出来。そこに更にニクス隊と戦車部隊が敵を追い打ちする。

密度が完全に狂った敵は、薄くなった所から順々に崩され。基地に接近できない。更にマザーモンスターが増援とともに来るが。レールガンが火を噴き、接近すら出来ずに葬り去られた。

兵士達の攻撃も凄まじく、次々に敵を屠って行く。

弾丸だけは豊富なのだ。

戦車隊も前に出て、押し込んでいる敵を次々に屠って行く。

このまま敵を蹴散らすだけだ。一気に敵にとどめを刺す。

大兄から通信。

「よし、もういい。 戻れ」

「まだ敵が……」

「怪生物の進軍が、予想以上に早い。 今、輸送ヘリでバルガを輸送する手配が終わった」

「!」

迎え撃つのは横浜になるという。

バンカーにあった輸送ヘリで、どうにかバルガを其処まで運ぶ。レールガンも、陸路で来ると言う。

ダン中佐が無線を入れてくる。

「これだけやってくれれば後は充分だ。 フェンサー部隊も一部隊だけならつけられるだろう」

「しかし、まだマザーモンスターが来る可能性が」

「レールガンはあと三両ある。 いずれも温存していた機体だ。 それに、各地との通信が復活しつつある。 これ以上の大規模部隊の侵攻はどうやらないらしい。 後は千葉中将のいる司令部を襲っている部隊を撃退すれば、一息つけるだろう」

そうか。そこまでいうなら。

戻る。

すぐに消毒をして、乱暴に包帯を巻く。

相手は怪生物と、その直衛戦力だ。はっきりいって、とてもではないが今までとは別格と考えるしかない相手だろう。

大型移動車に乗り込む。

ニクスはやはりいつもよりも動きが鈍く。また、補給車も万全に物資を詰め込めなかったようだった。

それでもやらなければならない。

バルガが輸送されていくのが見える。輸送ヘリはもう限界が近いだろう。そう何度も飛ばせない。

恐らくだが、バルガマークワンの最後の戦いになる筈だ。

あいつでアーケルスを倒して、希望を作った。

幾つかの戦いで、めざましい戦果を残した。

ダン中佐も乗って、エルギヌスを何体も仕留めた。

そして、今。

アーケルスが率いる怪物の群れを、最後の戦いで迎え撃とうとしている。

決死の覚悟で戦場に出向く騎士を思い浮かべさせる姿だ。

背後には守るべき者達がいる。

だからくろがねの巨神は戦いに赴く。

ただそれだけのこと。

バルガは勿論機械だ。そこに感情移入しすぎるのは危険だろう。だが、それでもだ。バルガには随分世話になった。

「支援は出来るだけする。 だが、怪物の群れの中にモロに突っ込むことになる。 可能な限り持ち堪えてくれ」

「怪生物との接敵を出来るだけ遅らせられるッスか?」

「頑張って見る。 怪物についても、恐らく大型の直衛が相当数いる。 おさえ込みきるのは厳しいだろうな」

「ハー。 とりあえず、取り巻きに連れてきているマザーやキングから始末するッス」

一華はそんな風に言う。

ただ、最初は出来るだけ接敵を遅らせて、怪物から処理していくしかないだろう。

敵がこんな形で切り札を残していたとは。

だけれども、分かった事もある。

マザーシップ以外の戦力は、敵も枯渇しつつあると見て良い。そうでなければ、こんな無茶な作戦は仕掛けてこない。

今までの攻撃で、ストームチームの実力は分かっている筈だ。全方向からの総攻撃というのはかなり失敗しやすいという話を、三城も聞かされた事がある。余程兵力に自信がない限り、やってはいけない作戦だとも。

それなのに、雑に兵力を展開し。更に分かりやすい主力部隊を絞ってぶつけてきている。

戦術面では、既に大兄の方がプライマーの指揮官より上だ。

これは楽観では無く、たんなる客観的な事実である。

「みな少し休んでおけ。 横浜で迎え撃つまで、少し時間がある」

「わかった」

「大兄は……」

「奇襲の可能性がある。 それに体力に余裕もな」

大兄はすぐにそういう事を言う。

でも、正直な話、傷も痛む。頭もくらくらする。ブドウ糖の錠剤を口に入れて、それで横になる。

小兄が、心配して声を掛けて来た。

「三城、大丈夫か。 いけるか?」

「何とかやってみる」

「そうか……」

「小兄だって、次は金銀が出てくるだろうし、大丈夫?」

接近を許すと、金のα型は文字通りの暗殺者となる。はっきりいって、非常に危険な相手だ。

小兄も、何とかやってみると言う。

お互い様だな。

そう思うと、ちょっと悲しかった。

大兄は指示を的確に出してくる。事実、敵の上を常に行っている。それでも苦戦しているのは。

三城の力が足りないせいだ。

小兄も一華も頑張っている。三城が、もっと力を出せないと。そう思うと、とても悲しくなる。

だけれども、一華も同じように考えているようだし。ひょっとすると、皆同じなのかも知れない。

横浜に到着。

小田原を抜けた敵が、既に此処に迫っているという。途中はもう無人地帯になっているが。

スカウトが、既に待機していた。

もう殆どいないスカウト部隊だが。それでも、どうにか成田軍曹が集めてくれたのである。

あまり良い印象は無いが。

それでも、感謝はしなければならないだろう。

「ストームチーム! すぐに退避を!」

「敵の戦力は」

「それどころではありません! 退避を!」

スカウトの隊長は、それなりに年齢を重ねた人物の様子だ。見た所、開戦前から生き延びている人物かも知れない。

そうなると、自衛隊の隊員だった人物の可能性もある。

それが、此処まで慌てきっているとは。

「巨大な敵が多数! 恐るべき軍団です! とても勝てる相手ではありません! すぐに逃げてください!」

「逃げる? どこにだ」

そう言ったのは、東京基地から着いてきたフェンサー部隊の隊長だ。

彼は乱戦の中、仲間を多数失った。ダン中佐が指示したときに、真っ先に志願した人物である。

東京基地では再攻勢のために人員を集めて、訓練途上だった兵士も多数いたのだ。

それがあの襲撃で多く死んだ。

彼は、相当に頭に来ているらしかった。

「東京基地は壊滅寸前。 ストームチームが来ていなければ全滅していた。 各地の基地も戦力は残り少ない。 怪物共を放置したら、生き残った人々は誰も守れない! 此処にストームチームがいて、これからバルガも来る! レールガンも! もう此処で防ぐしか、市民を守る事は出来ない! 俺たちはなんのために軍服を着ている! なんのためにパワードスケルトンを身に纏っている!」

そうだ。

荒木軍曹が、よくそう言っていたっけ。

市民も戦わせてしまえと言う小田大尉に、そう諭していたな。

小田大尉だって、自棄になって口にした言葉だっただろうが。

それでも、荒木軍曹の言葉には素直に従っていた。

皮肉屋の小田大尉でも、しっかり従う言葉。

三城はずっと軍人だったわけではない。

軍暦だって精々二年。

だけれども、今だからこそ。

あの東京の地下の、人々の悲惨な有様を見たからこそ分かる。

彼処には、もうあらゆる意味で戦えない人しかいない。戦える人は、武器を無理矢理持たされ。劣悪なアーマーとパワードスケルトンで武装し。レジスタンス活動や。或いは正規兵に混じって戦っている。

そうしなければ人類は滅びる。

弱者は死ねというような言葉を口にする奴は多い。

だけれども、弱者の定義は何だ。

筋力が弱い人間か。

だったら女子供は全員死ななければならない。

知力が劣る人間か。

だったら筋力が優れている人間だろうが死ななければならない。

どっちも優れている人間なんて僅かしかいないし。それ以外の人間がいなかったら、社会は成立しない。

そもそもどっちも優れていても、病気であっさり死ぬのが人間だ。

弱者が誰かなんて。

本当は誰にも分からないのである。

自分を強者だと思い込んでいる人間が、翌日にはガンが発覚して、二年ももたずに死ぬ。それが現実だ。

だからこそ。軍人は無防備な市民を守らなければならない。

それは。真実だった。

「その通りだ。 此処でデカブツどもをやる。 全員、可能な限り生かして帰す。 だから、戦ってほしい」

「……分かった。 スカウト13、これより戦闘に参加する。 俺たちは、これからはレンジャーだ!」

「おう。 基地にいた奴らの仇を討つぞ!」

「おおーっ!」

兵士達が気勢を上げる。

敵の前衛部隊が、既に集まり始めている。まだ怪生物の姿はない。冷静になった元スカウトの隊長から、一華がバイザーのデータを受け取り。分析を進めていく。

「敵はマザーモンスター3、キング2、クイーン2、金銀多数。 それとこれは……緑のα型もいると見て良さそうッスね。 コレに加えて飛行型とタッドポウルも。 本気で此方を全滅させるべく、総力を挙げてきた印象ッスわ」

「好都合だ。 最後に残った怪生物を叩き潰して、敵のマザーシップを戦闘に引きずり出す」

「はー。 これを相手に勝てる気でいるのが凄いッスわ。 まあ私も負ける気は無いッスけど」

「一華も図太くなってきたな」

雰囲気からして一華は苦笑したようだが。

ニクスの中にいるので、それが本当なのかは分からない。

敵は横浜の廃墟を中継地点と定めたようで、後続部隊の到着を待っている様子だ。この様子だと、敵は東京基地に押し寄せた怪物が壊滅した事は知らないだろう。後は、千葉中将が無事であればいいのだが。

ストーム2が現地の部隊と一緒に戦い。ストーム4も向かったのだ。

無事だと信じる。

怪生物が来た。

アーケルスだ。だが、見た所かなり傷だらけである。この様子だと、何かしらの理由で弱っている個体なのかも知れない。

アーケルスは凄まじい再生力を持ち、それゆえ退治が出来なかった怪生物だ。核が使えれば話は別だったかも知れないが、既にEDFはほとんどの核兵器を喪失している。これは、或いは。

何かしらの理由で弱り切っているが故に、富士平原の決戦に出てこなかった個体なのかも知れない。

案の定、味方が集結するのを待っているのだろう。

眠り始めた。

これはやはり、間違いない。もう敵には、一線級の戦力が枯渇しつつある。

そしてその敵の主戦力を。

この限られた兵力で、何とかしなければならないのだ。

この間の富士平原での戦い以上の損害を、覚悟しなければならないのかも知れなかった。

 

2、巨獣軍団

 

一華に指示は出ない。

しばらく、ニクスの中で待つ。敵は後続部隊が続々と到着していて。既にスカウトが確認した戦力は出そろったようだった。

或いは、東京基地や横浜で仕掛けた部隊が全滅したことを悟り。

東京基地の戦力を図ろうとしている可能性もある。

敵は肝心なところで思い切りがない。

勢いに任せて一気に来られていたら、もう為す術がなかっただろうに。

レンジャーと化したスカウト部隊だが。リーダーの指示で、周囲を見にいっている。リーダーはレールガンの到着を待っている様子だ。

ぼろぼろのコロニストが数体来る。

管理役だろう。

死にかけだろうがボロボロだろうが、怪物はコロニストの言う事を聞く。コスモノーツが出てこなかったのは、戦力を温存しているのか。

或いは、バルガが来ている事を知ったから、かも知れない。

富士平原の戦いでは、重装コスモノーツの大軍を、一華のバルガマークワン一機で文字通り蹂躙した。

相手にはレーザー砲持ちもいたが、ものの数ではなかった。

敵もそのデータは持っている筈だ。

勿論、プライマーの精鋭の装備にしては、妙に火力が低いことについては一華だって不審に思っている。

だが、今は敵がその装備しかもっておらず。

これから対応するのには、バルガで充分だという事実だけでいい。

敵の随伴歩兵は、飛行型少数、タッドポウル少数の空軍戦力に加え。金銀もいる。この様子だと、更に増援が来る可能性もある。

スカウトが戻って来た。

「不可解な現象が起きています」

「聞かせてくれ」

「建物が、不自然に更地になっています。 巨大な生物たちが通過したのだから、それは納得は出来るのですが……」

「いや、理由は分かった。 どうやら、東京基地にますます近づける訳には行かなくなったようだな」

同感だ。

その現象は、北海道で一華も見たし。

現象の原因だって知っている。

「此方ストーム1。 ケン、レールガンはまだ到着しないか」

「今全速力で飛ばしています。 ただレールガンは速度がそれほど出ず……」

「いや、戦闘前にオーバーヒートでも起こされたら大変だ。 無理はしなくてもかまわない」

「……現状の速度で行くと、あと二時間という所ですね。 渋滞が発生しないのが救いでしょうか」

救い、か。

複雑な気分である。

もう自家用車というものは、誰も乗っていない。

彼方此方に朽ちた車があるが、もう誰も使わない。

ガソリンが補給できないからだ。

中に死んだ人が乗っているものも多く。

出来れば、見たくないものの一つになっていた。

そのまま、戦闘準備を進めていく。

敵が途切れたのを見計らい、リーダーが手を叩く。戦闘を開始するつもりになった、ということだ。

「まずは上空の敵を釣り出す」

「釣り出す……」

「怪物は恐らく生物兵器だからだろうが、妙な性質があってな。 見える範囲で同胞が撃たれても、自分から一定距離離れていると無視する傾向がある。 上空で飛び回っている飛行型とタッドポウル……出来れば一緒に飛んでいるクイーンもまとめて片付ける」

バルガは少し後方に、既に来ている。

なるほど、まずは確実に潰せる相手から潰して敵を削り。

バルガのダメージを減らすという訳か。

マークワンも、万全の状態で来ている訳ではない。

さっき遠隔でアクセスしてちょっと確認したが。現在の出力は70%強程度だろう。

あのボロボロのアーケルスと大して差はない程度の実力しか発揮できない状態だと見て良い。

後は乗組員の腕次第。

一華はそんなロボットアニメのパイロットでもあるまいし。其処までの力量は発揮できない。

皆の支援がないと、巨大な怪物との交戦をしつつアーケルスを倒すのは不可能だろう。

三城が補給車からライジンを取りだして装備する。ライジンは壊れやすい兵器で、今回も破裂するかも知れない。

何度も壊れるのを見て来ているから。

見ていて冷や冷やさせられる。

一方弐分は普通の機動戦装備だ。

やはり、前衛で敵の注意を惹くと言う事だ。

「敵は地上部隊も反応する可能性がある。 決して空にだけ気を取られないようにしてくれ」

「イエッサ!」

「では行くぞ」

立射のまま、リーダーが狙撃。

飛行型とタッドポウルは、クイーンを護衛しながらクルクルと飛び回っていたが。その端にいる一体が一瞬で爆ぜ飛ぶ。

リーダーの狙撃の腕は相変わらずだ。

兵士達が構える中、反応した飛行型とタッドポウルが飛んでくる。

愛用のニクスはしばらく使えない。

この旧式でやるしかないが。

実は既にプログラムは解析済。

機銃しか装備していないのが難点だが。

それでも、本来以上の性能は引き出してみせる。

わっと散って、仕掛けて来る飛行型とタッドポウル。後退しながら、まだ残っているビル街に引きずり込む。

タッドポウルの炎は凶悪だが、ビルを崩すほどではない。また、飛行ルートにビルがあると貼り付いて止まる。

其処を狙い撃ちにしていく。

勿論まっすぐ此方を狙って来る奴は、プログラムの支援を受けながら叩き落として行く。

飛行型もかなり厄介だが。

既にリーダーが指示を出していたとおり、前衛で弐分が攪乱戦を行い。

元スカウトのレンジャー達が一斉に空中に弾幕を展開する。

ぬっと、大きな影が出来る。

クイーンか。

反応していた、と言う事だ。

真上に来ていたクイーンだが。巨大な針を発射する寸前に。三城の放ったライジンの凶悪な熱光線が直撃。

悲鳴を上げながら、身をよじるクイーン。

更に、リーダーが連続して狙撃を叩き込む。

ライジンの一撃で体についた大きな傷を、何度も容赦なく抉っていく。

その間も、飛行型とタッドポウルの対策は、主力となって一華が行う。どうしても全てには対応仕切れない。兵士が食われかけるのを、何度も救う。前に比べれば無茶な数が来ている訳ではないが。

それでも、やはり兵士達は大口を開けて襲いかかってくるタッドポウルには怯むし。

即座に撃って倒す事は、出来ていない様子だ。

断末魔の悲鳴が轟き、クイーンの巨体が落ちていくのが見える。

周囲の飛行型とタッドポウルの掃討に、リーダーも移行。三城は雷撃銃で、周囲を撃って。どうしてそれが分かるのかという位置にいるタッドポウルを、雷撃の反射まで利用して倒していた。

程なく静かになるが。

ダメージは小さくない。

盾になったフェンサー隊はそれなりに炎を浴びていたし。レンジャーになった元スカウト部隊だってアーマーをかなりやられている。

弐分が戻ってくる。何カ所か、炎や針が掠めたようで。

フェンサースーツにダメージが入っていた。

「各自補給と手当てをしてくれ。 負傷がひどいものは申告。 すぐに後方にさがってほしい」

「全員、まだやれます!」

「了解……ならば急いで補給を頼む」

まずはクイーンを一匹。幸先が良い。ただクイーンは、近くにある大きな建物にもう一体が貼り付いているし。

その周囲には、飛行型がまだまだ飛んでいる。

更にその建物の影にて、アーケルスが寝ている。

釣り出しは不確定要素がかなり絡み、どうしても大量の敵が反応してしまう事もあるし。

何よりも、コロニストが来ている。

下手な地点の敵を撃つと、それだけでアーケルスが動くだろう。

アーケルスが動いたら、多分他の大型も一斉に来る。

その時は、即座にバルガに乗り込んで。

戦うしかない。

バルガのE1合金装甲がやられる前に、何とかアーケルスを倒し。しかも脱出できるだろうか。

少し、不安だった。

「補給完了!」

「よし、仕掛ける。 皆、大型が来ても動揺しないように。 覚悟を決めておいてくれ」

「イエッサ!」

再び、立射でリーダーが狙撃。

空を飛んでいる飛行型とタッドポウルを最初に消すつもりらしい。

また、かなりの数が釣れたが。

今度は変異種の青紫タッドポウルが二体来る。それ以外は雑魚ばかりだ。

「まずいな。 あの変異種は強いぞ。 気を付けて当たってくれ」

「き、気を付けろと言われても」

「俺が囮になる。 集中砲火で仕留めてくれ」

弐分が飛び出す。それを見て、兵士達も士気を奮い立たせる。最前列で凄まじい機動戦を見せている弐分を見て、兵士達はどうしてもやはり気合いを引き出されるようだった。

そのまま射撃して、さっきよりかなり数が減っている飛行型を叩き落とす。タッドポウルは炎を吐いて上昇に移ろうとする所を逃がさず落とす。

青紫の奴は、一体は兵士達の集中攻撃を受けて怯んだ所を、三城のライジンが焼き切った。

だがもう一体はリーダーのライサンダーZに耐えた挙げ句。

弐分に、凄まじい炎の嵐を噴きかけていた。

弐分がどうにか避けているが、あれは余波でかなりフェンサースーツをやられていると見て良い。

決して楽観視して良い状況じゃない。

勿論周囲に集ってきている飛行型やタッドポウルもまだまだいる。

そう考えると、一華もあの青紫変異種にだけ注力できない。

スピアを隙を見て変異種に叩き込む弐分。

それでもちょっと怯むだけか。とんでもなくタフな奴だ。

だが、ライサンダーZの弾の二発目が直撃し。

其処を、兵士達が集中攻撃して。ようやく落ちてくる。だが、それでも生きていて。ひっくり返った状態から立ち上がると。大口を開けて突貫してくる。

ニクスの機銃をしこたま口の中に叩き込んで、ようやく黙らせるが。

虚空のような大口を拡げて死んでいる有様は、兵士達の悲鳴を誘っていた。

まだ少し残っている残党を片付ける。

制空権は、だいたい取っただろうか。

まだバルガを使っていない。

上等な結果だ。

被害報告。補給。負傷者は出ているが、兵士達の士気は高い。というよりも、東京基地が壊滅的なダメージを受けて、帰る場所がないという事が。彼らにとっての戦意の根元だろう。

一応キャリバンも積んで来ているが、応急処置しか出来ない。

致命傷は受けるな。

リーダーはそう言っていた。

勿論そんな事を意識して出来る奴なんていない。

それくらい、厳しい状態だと言う事だ。

「次は地上戦力を削る」

「イエッサ!」

「三城、ファランクスに切り替えろ。 攻撃は俺たちで支援する」

「了解」

一華も指示を受けて、周囲に自動砲座を撒く。まずは、マザーモンスターから片付ける。少しずつ、巨獣を処理していくのだ。

戦いは始まったばかり。

敵だって、この戦力を出してきていると言う事は。既に滅ぼしたと考えた他の地域の戦力を割いている筈だ。特に大型はあまりにも集まりすぎである。通常兵器で大型を相手にするのにどれだけの犠牲が出るかを考えると。

此処で始末できるのは、非常に良い事だ。

そう考えるのが合理的だろう。

そのまま、リーダーが射撃。

金のα型が一体、粉みじんに消し飛ぶ。

マザーモンスターと、その直衛が反応。充分に引きつけるまで、射撃はリーダーがさせない。

他の大型も反応する可能性が高いからだ。

ある程度引きつけてから、自動砲座を一斉展開。

それらが直衛を引きつけて、拘束している間に。一気に三城が敵の側へ飛んだ。酸をばらまいて反撃しようとするマザーモンスターの顔面に、ライサンダーZの一撃が突き刺さる。

怯むマザーモンスターの背中に、既に三城が飛び乗っていた。

ゼロ距離からのファランクスが叩き込まれる。

超高出力の熱線が、一瞬にしてマザーモンスターの背中を穿ち。三城が飛び離れたときには、マザーモンスターは文字通りの大炎上をしていた。

どうと倒れるマザーモンスター。

五十メートル超の巨体が、無惨なものである。

周囲の随伴歩兵が三城を狙うが、そうはさせない。一華が前に出て、機銃で可能な限り片付ける。

金のα型は特にまずい。絶対に生かしておくわけにはいかない。

忙しくキーボードを叩いて自動砲座をコントロールしつつ、敵を削り取って行く。

戦いは意外に長引く。

途中で、β型の大型。つまりキングが参戦してきたからだ。

どういう基準で動いているのかよく分からないが。

補給無しでの連戦となったし。

何よりも自動砲座の準備がない。

さがれ。リーダーが叫んで、さがりながら射撃。遅れたら死ぬ。兵士達もそれを理解しているし。盾を構えて糸から味方を守っているフェンサー隊も。ブースターを噴かして大ジャンプしながらさがってくる。

β型の浸透速度はかなり早いが、それでも残りの弾を自動砲座が吐ききり。

半ば破壊された建物群の間に誘き寄せて浸透速度を遅らせ。

キングが追いついてきたときには、既にあらかたの駆除が完了していた。

だが、キングはほぼ無傷のまま来てしまった。ビルに這い上がって、キングが糸をどっとブチ撒いてくる。

一華が前に出て、盾になるが。

一瞬で、アラートが点灯していた。

カメラが幾つかブラックアウトし、更にニクスが激しく揺動する。それはそうだ。キングの糸は、とんでもない質量を有しているのだ。

速度と重さから、衝突時のエネルギーは生み出される。ましてやキングの糸には強い酸まで含まれている。

思わず呻くが。

だが、断末魔も聞こえる。

多分今ので背後を取った三城が、至近でファランクスを叩き込んだのだろう。マザーモンスターよりだいぶ脆いキングだ。ひとたまりもなかったことは想像に難くない。

「一華、無事か!?」

「どうにか……」

「長野一等兵!」

「分かっている!」

すぐに長野一等兵が来て、まずは糸の除去から始めたらしい。それから、装甲の様子を見る。

コックピットのハッチを開けて、外に出るが。

ニクスはケロイド状に装甲がやられて、グロテスクな有様になっていた。

補給車が来る。東京基地の方から、どうにかダン中佐が送ってくれたものらしい。だが、肝心のニクスの装甲がない。

兵士数名が追加で来てくれたのだけが救いか。

負傷がひどい兵士を、代わりに下げる。

盾になって頑張っていたフェンサー隊の二名が、悔しそうに後退していった。

「装甲は駄目だな。 次に被弾したら、有無を言わさず脱出しろ」

「はあ、無茶な事を……」

「壱野大佐、其方からも言い聞かせてくれ」

「……さっきは此方の立ち回りのミスです。 次は、同じ結果にならないように行動します」

リーダーがそう言うと、皆が気を引き締める。

まだ敵の巨大怪物軍団は、半数以上が無事だ。アーケルスは起きてさえいない。コロニストは目が悪いのか、ぼんやりと建物の上で棒立ちになっている。

補給車から、自動砲座を取りだして、新たに展開。

次の攻撃では、ニクスは固定砲台として使う。

そう言われて、一華も納得はする。

弾薬は補給するが。確かにエラーだらけで、まともに機動戦はできそうにもなかった。

どうにか指定された位置につく。

敵の大軍が陣取っている中を、しばらく手をかざしてリーダーが見ていたが。やがて、皆に言う。

「仕掛ける。 備えてくれ」

「い、イエッサ……」

「この転々としてる怪物の死体、でかいのも混ざってるが、本当にこの少人数でやったのか!?」

「そうだ……噂のストーム隊と一緒に戦ってるんだ」

兵士達が、生唾を飲み込む音が聞こえたような気がする。

リーダーが発砲。兵士達をさがらせる。

マザーモンスターが来る。二体目。他の大型はいないが、金のα型の数が多い。それを見て、ひっと兵士達が声を上げる。

金のα型の恐ろしさが浸透しているのは良い事だ。

あれはアサシンそのもの。

絶対に、戦場で遭遇してはいけない相手だ。

また存分に引きつけてから射撃を開始。

そのまま自動砲座も起動。金のα型は地雷原に踏み込んだも同じだ。四方八方から撃たれて、動きを止めた瞬間を狩られていくが。大きくそれて、背後に回り込もうとする個体が結構いる。

それをリーダーや三城が逃さず狙撃し、仕留めていく。

相変わらずの手際だ。

味方の死体を蹴散らしながら、マザーモンスターが来る。金のα型もまだかなり健在だ。これは接近戦を仕掛けるのは危ない。自動砲座が頑張っているうちに、金のα型を可能な限り仕留める。

一華にも射撃指示が来た。射撃開始。

一体ずつ、確実に金のα型を仕留めていく。だが。マザーモンスターがとんでもない量の酸をばらまきはじめる。

それがシャワーのように降り注ぎ。ニクスへのダメージが蓄積して行く。

「さ、酸だ! 酸だーっ!」

「さがれ。 今のアーマーなら、即座にやられるほどの強酸ではない。 冷静にさがって、敵をいなせ」

「し、しかし!」

「もたつくと死ぬぞ!」

慌ててさがってくる兵士達。

そうこうするうちに、金のα型が数を減らしていく。そして、景気よく酸をブチ撒いていたマザーモンスターの上空から、満を持して三城が襲いかかる。

マザーモンスターは気づくが、もう遅い。

一気に焼き切られて。更に顔面にライサンダーZの弾丸を喰らって、爆ぜ散っていた。

すぐに兵士達を下げて、補給と手当てをするようにリーダーは指示。

何度も敵を攻撃して削っているが。

本当に減っているのだろうか。

いや、減っているはずだ。

そもそも、あんな巨大な怪物、そうそう彼方此方からは集めてこられないはず。こうしているうちにも、プライマーに蹂躙されて抵抗どころではなくなった何処かが救われている。

そう信じろ。

自分に一華は言い聞かせていた。

酸を浴びた事で、ニクスのダメージは更に深刻になったが。さっきほど酷い直撃を受けた訳ではない。

何とかまだやれる。

弾薬だけ補給する。敵はまだまだ大型がいる。アーケルスが寝たままなのが幸いである。余程のダメージを受けたのか。

だとしたら、何故だ。

今まで、米国などを荒らしていた個体か。

だが、それらに有効打が入ったという話は聞いていない。

そうなると、何か特別な理由がある個体なのだろうか。

補給を済ませ、負傷者を後送した後。リーダーが周囲に指示を出す。

「次はもう一体のクイーンを倒す。 それを倒せば、アーケルスを引っ張り出すための余裕が出来る」

「レールガン、現着!」

良い知らせだ。

レールガンがついた。こいつなら。大型の相手を充分に務められる。

問題が一つある。

レールガンは。あの緑のα型にはほぼ無力という点だ。奴らが出てくるのはほぼ確定である以上。

どうにかして、まもらなければならない。

最後まで温存する必要があるだろう。

「よし、指定の地点に陣取ってくれ。 そして、指示をしたタイミングで攻撃を行ってほしい」

「イエッサ! 基地にいた皆の仇はとってやります」

「そうだな。 だがミイラ取りがミイラになっては意味がない。 こう言うときこそ、冷静に立ち回るべきだ」

すぐに散開。

リーダーは、何体か残っている飛行型が、上空に上がって周囲を偵察に出た所を撃ち抜く。

文字通り粉みじんになる飛行型。

絶妙の位置だ。

すぐにクイーンが反応。空に舞い上がる。残っていた飛行型と。側にいた金のα型も数体が。

充分に引きつける。

そして、引きつけたところで。クイーンに対して、レールガンが狙撃した。

流石の火力だ。

しかも、新型。斜角が上に向くと聞いていたが。これは恐らく、マザーシップ対策なのだろう。

一撃でクイーンは上下が泣き別れになり、断末魔もなく落ちていく。

深呼吸すると、残った敵の部隊を蹴散らしていく。ものの数ではない。ただ、レールガンに近付かせる訳にも行かない。

もう少し。

敵の決戦兵力は、もう少しで壊滅する。少なくとも、此処に集まって来ている奴らは、だ。

 

3、最後の巨神と最後の怪生物

 

弐分はスピアを補給車に積んである研ぎ機に掛ける。スピアはこうやって研ぐことで、切れ味というか貫き味を回復させる。

そのまま、前線に出る。

既に一華は、ニクスからバルガに乗り換え。

敵の戦力の大半は削り取った。

後は、アーケルスだ。

傷だらけのアーケルス。一見すると与しやすそうに見えるが、正直そこまで楽観的にはなれない。

相手の戦力は極めて大。

そう考えて、行動するしかないだろう。

とにかく、此方に引っ張り出す。それから、バルガを中心に相手をしていく事になる。

更に、あの緑のα型が出てくる可能性がある。

それを考慮すると、レールガンは憶病すぎるほどに後方に下げた方が良いだろう。

大兄が指示を出していく。

ニクスが酷い有様で、バルガがやられた後は、もう殆ど戦えそうにない。

あの赤い機動型がボロボロで、もうまともに戦えそうにない状態だったから、仕方がないとはいえ。

バルガがもし倒されたらと思うと、ぞっとしない事態だった。

大兄が指示した通りの配置に、全員がつく。

同時に、大兄が。

ぼーっと棒立ちしているコロニストを、立て続けに撃ち抜いていた。

もうヘッドショットするまでもない。

既に弱り切っている、最初に地球に攻め寄せたエイリアン達は。装備もボロボロだし。体もボロボロ。

まともに戦える状態ではないのに、戦場に連れ出されている。

弾よけ。

怪物操作用。

いずれにしても使い捨てである事に変わりはない。気の毒な話ではあるが。彼らに殺された人々を思うと。介錯以外に道は無い。

大型の怪物は反応していない。

代わりに、むくりと起き上がったものの気配。

アーケルスだ。

アーケルスは、休むのに使っていた建物の影から、ぬっと現れると。退屈そうに周囲を見回す。

同時に、獰猛な殺意が辺りを蹂躙する。

あれは、傷だらけの個体は。

ひょっとすると、隠し玉。アーケルスがいただろうとんでもない星で、あれだけの再生力がありながら戦い続け。結果として消えない傷があんなにも残った、文字通り最凶のアーケルスなのではあるまいか。

だとしたら、危険だ。

近くにいるキングが。アーケルスから距離を取る。

アーケルスはどいていろ、といわんばかりに吠え猛ると。

丸まって、此方に転がってくる。

敷設されていたC70爆弾が、一斉に起爆して、アーケルスを思い切り巻き込む。凄まじい爆破を、アーケルスはまるで気にせず突貫してくる。いつもは絶対に一緒に来るだろう怪物も、遠巻きに見ているほどだ。

知っているのだろう。

あれは、近付いてはいけない存在なのだと。

「一華! あれは傷だらけの弱った個体じゃない! 恐らく最強のアーケルスだ!」

「馬鹿な話ッスわ。 それだったら、あの富士平原の戦闘で投入しておけば良かったものを……」

「……やれるか?」

「やるしかないっすよ。 バルガマークワン! バトルオペレーションッス!」

「よし……」

大兄ですら、流石に緊張しているのが分かる。とんでも無い相手だというのは確実だからだ。

ビル街を粉砕しながら突貫してきたアーケルスに、超火力のライジンが突き刺さる。普通のアーケルスだったら怯むところだが、ガン無視して来る。兵士達には距離を取らせた。役に立つどころではないからだ。

更に、弐分も空中からガリア砲を叩き込み。大兄もライサンダーZでの狙撃を行うが。転がり終えたアーケルスは。それらの攻撃を受けても目を細めるばかり。それどころか、歩み来たバルガを見ても、不遜に立ち尽くしていた。

圧倒的な自信が全身からにじみ出ている。

間違いない。此奴は百戦をこなし、その全てに勝ってきた圧倒的最強の個体だと見て良い。

プライマーも、よくこれを捕獲できたものだ。

ひょっとするとだが。

今まで交戦してきたアーケルスは、此奴のクローンの可能性すらある。それほどに、気迫が違った。

バルガが一定距離に到達。

さて、一華の操縦技術だけでは勝てまい。ダン中佐でも、此奴相手は遅れを取るかも知れない。

支援が必要だ。

すぐに大兄の指示で散る。

アーケルスの弱点は背中だ。それは、今までの戦闘で分かっている。レールガンはやられるわけにはいかない。

今後の戦闘で。

特に対マザーシップで必要だからだ。

バルガが、ぐんと踏み込む。

サイドステップで、まずは間合いを調整するアーケルス。同じくらいの大きさの敵とは、散々戦って来たという風情だ。

横殴りに、アーケルスに攻撃が入るが。

気づく。ダメージは入っている。傷の回復速度が遅い。その代わり、アーケルス自身が強いのだこれは。

体勢を低くすると、バルガに組み付きに行くアーケルス。

一華の対応も早く、拳を振り下ろすが。凄まじい衝撃音とともに、アーケルスはバルガの拳の一撃を耐え抜き。タックルに成功していた。

がっと組み合う一華のバルガとアーケルス。

パワーは、アーケルスの方が上か。

そのままガリア砲で射撃を続ける。目を狙うが。目についてはアーケルスが体勢を低くしている事もあって、中々当たらない。

側面に回り込んだレールガンが射撃。アーケルスの肩に直撃。大きく抉るが、組み合っているバルガがどんどん押し込まれていく。

踏み込みつつ、両手を組み合わせてアーケルスの背中にたたき込む一華のバルガマークワン。

だが、普通のアーケルスならそれで地面に叩き付けられていただろう一撃を。アーケルスはなんと流して耐え抜き、地面で四つん這いになると、転がってバルガを転倒させる。

更に周囲に火焔弾をばらまき、自分ごと爆破。

凄まじい炎上の中、バルガよりも先に立ち上がったアーケルスは、周囲をねめつける。三城が、背中に完璧なタイミングでプラズマグレートキャノンを叩き込むが、効いた感触がない。

だが、張り手でもう一度バルガを倒そうとしていたアーケルスは、それでイラッと来たらしく。

周囲に。空中にも。

大量の火焔弾をまき散らしていた。

対空攻撃まで出来るのか彼奴は。

必死に三城が反撃を避ける。弐分の方にも、正確に飛んできた。レールガンは無事か。兵士達の悲鳴が聞こえる。

「至近弾あり! 負傷者確認中!」

「此方尼子! なんか至近で爆発したよ! 大丈夫!?」

「位置を指定するので移動を開始してほしい」

大兄も慌てているようだ。急いで座標を送って来た。すぐに機動戦で位置を変える。立ち上がったバルガを見て、アーケルスは面白がっている様子すらある。

これは、あのトゥラプターとかいう奴を思い出す。

その瞬間。

殺意がもう一つ、戦場に割り込んでいた。

「此方三城! 例の……」

通信が切れる。

前もそうだった。あのトゥラプターだ。インペリアルドローンなみの通信妨害が出来るらしく、支援を呼べなかった。

三城が耐え抜くのを祈るしかない。何に祈る。神なんて信じていない。だとしたら、運命か何かか。

違う。今まで、三城が鍛え抜いてきた。戦場で生き抜いてきた。それで蓄積してきた経験にだ。

サイドステップで、バルガの拳をかわすアーケルス。側面からタックルを仕掛けようとした瞬間。

大兄の狙撃が、アーケルスの目を直撃。

一瞬の隙をついて、一華の乗るマークワンバルガが上半身を旋回して、フルパワーでの回転とともに拳を三連続で叩き込む。

それでついに倒れるアーケルスだが。即座に横に転がり、吠える。顔に凄まじい傷が穿たれているが、気にしている様子もない。

アーケルスの左手にレールガンが直撃。

手先を消し飛ばすが、気にもしていない。

再びバルガにタックルを浴びせて、両者がっつりと組み合う。押されるバルガ。バルガを押し込みながら、近づいて来たマザーモンスターを邪魔だとばかりに吠えて遠ざけるアーケルス。マザーモンスターがあからさまに怖れて、距離を取る。こんな光景は初めて見た。

生物兵器として改造されているだろうに。

今までどんな攻撃を受けても近づいて来たマザーモンスターが、怖れている。生物兵器としての精神改造を受けてなお、恐怖を感じるほどの相手と言う事か。

やむを得ない。

賭に出るしかない。

「大兄。 接近戦を仕掛ける」

「俺も行く。 全員で奴を仕留めるぞ!」

「行くぞ!」

地面スレスレまで降りると。スラスターを噴かして、全力で敵に突貫する。

散弾迫撃砲。

これを使って、一気にアーケルスにダメージを当たる。

今、かなりバルガマークワンが押し込まれている。あの一華が乗っているのにも関わらず、である。

それはあのアーケルスが桁外れに強い事を意味する。

対空攻撃までしてくる輩だ。

それでも勝たなければならない。

本当に、あれを富士平原での戦いに投入されたらどうしようもなかったのに。

プライマーの指揮官はどうしようもないな。

そう思いながら、弐分は敵と距離を詰めた。

 

来た。

三城はすぐにそれを悟り。ブースターを全力で噴かして、距離を取る。着地したトゥラプター。

宇宙服のヘルムに隠れて顔は見えないが、それでも圧倒的な戦気は変わらない。

「もう万全の状態でやり合える機会は無さそうだと思っていたんだがな。 ついつい好機を見つけて来てしまった。 お前がまだ本気でやりあっていない最後の一人だ。 実力を見せてもらうぞ」

「……此処で倒す」

「いいぞその気迫! 死合おうぞ!」

残像をつくって、突貫してくるトゥラプター。後ろでは凄まじい爆音が轟き続けている。

文字通りの怪獣大決戦が行われているのだ。

そんな中、突貫してくるトゥラプターも、また怪生物なみの化け物だ。

地面を蹴って加速し、更に空中でもう一段不意に加速する。そうすることで、横薙ぎに飛んできた一撃を回避し。更に壁を蹴って加速、更にブースターを噴かして二段目の上段からの一撃を避けきる。

トゥラプターが裂帛の気合いを込めて叫ぶ。

攻撃を回避できる相手との戦い。

喜びそのものの雄叫び。

本当に心底から戦闘が好きなんだなと、呆れてしまう。三城だって、おじいちゃんから大兄と小兄が引き継いだ村上流は好きだ。

だが、殺し合いが此奴ほど好きなわけじゃない。

雷撃銃を叩き込みながら、地面に加速して着地。地面をたたき割る一撃を、横っ飛びに逃れながら、更に雷撃銃を浴びせる。残像を抉る。後ろ。飛び起きつつ、真上に。横殴りの一撃が、ビルをバターのように切り裂く。動きが速すぎる。小兄のフェンサースーツ以上か。

壁を蹴って加速し、別のビルに貼り付くと、そのまま壁を駆け上がる。

フライトユニットを休ませる余裕がない。トゥラプターは休ませなどしないといわんばかりに、跳躍。すぐに上を取って来た。

だが、想定ずみ。

そう動くと。思っていた。

今度は雷撃銃じゃない。真正面から、ファランクスの一撃を叩き込んでやる。二刀流で斬りかかってきたトゥラプターは、凄まじい熱の壁の前に一瞬だけ躊躇する。

そのまま、更に前進して、前のめりに斬撃を抜けつつ、敵のヘルメットを蹴って上空に。

背後を取ると、雷撃銃を叩き込む。

双方ともに、着地。

全身が痛む。今の二刀流の余波だ。もしも掠りでもしていたら、一瞬でミンチだっただろう。

呼吸を整えながら、フライトユニットを冷やす。

後方で、激しい激突音。

どうやらバルガがかなり押されているらしい。それだけではない。火焔弾が、此処まで飛んでくる。

火焔弾の一つを、鬱陶しそうに払うトゥラプター。戦車をスクラップにする火焔弾を、こともなげに刃を振るうだけで。

「俺がいることを知っている様子だな。 少しでも仕返しをと言う訳か」

「どういうこと?」

「ああ、彼奴を捕まえたのは俺だ。 だから未だに根に持っているんだろうよ」

くつくつと笑うトゥラプター。

だが、舌打ちする。多数の火焔弾が、ひっきりなしに飛んでくるからだ。

「此処までか。 まあいい。 お前も俺と戦える様子だ。 嬉しいぞ。 俺と戦える戦士なんて、体格が上の同胞にもいなかったからな」

「……一つきかせてくれる?」

「なんだ」

トゥラプターは機嫌が良いと最小限のことは喋る。

それについては理解出来た。

だから、聞いておく。

「何故こうまで攻撃が執拗なの。 人間は無条件降伏を打診している筈だけど」

「必要なんだよ」

「貴方にとっても?」

「……残念ながらな。 これに関しては、本国のバカどもと俺の意見は一致しているんだよ。 お前達のような強者と戦えなくなるのは惜しいが、それでもやらなければならないことだ」

そうなってくると、思想的な問題とかではないと見て良い。

何かがあるのだ。

此処までの執拗な攻撃をさせる何かが。

それはなんだ。

多分突き止めなければ、この戦いには勝てない気がする。マザーシップを叩き落としたとしてもだ。

「じゃあな。 まだまだ生き残れよ。 お前達ほどの強者とやり合えるのは、俺にとっても誇りだ。 お前ら四人は他の誰よりも強い。 俺の本国の連中の誰よりもな……」

「……」

またトゥラプターはレッドカラードローンに乗って消える。

無線が通じるようになった。大兄が、通信を入れてくる。

「三城、奴だな」

「うん」

「怪我はないか」

「どうにか。 すぐに支援に回る」

指示を幾つか受ける。

全身が痛むけれど、休んでいる暇は無い。

激しい攻撃を受け続けて、バルガはもうボロボロだ。それに加えて、大型の怪物も動き始めている。

明らかにバルガが押されている。あのアーケルスは、多分今まで見た中でも最強の個体だ。

今、ここで仕留めなければ。

多分人類は、彼奴のためだけに負ける。

すぐに空に舞う。

もう、フライトユニットのエネルギーチャージは終わっていた。トゥラプターの言葉は、後で皆に共有する。

一つ分かったのは、あのプライドが高そうなトゥラプターでも、このジェノサイドはやむを得ないと認める程の事情があるという事。

そして今回はっきりしたが。

トゥラプターは同胞を明確に軽蔑している、ということだった。

 

バルガのコックピットにいる一華の視界の隅で、エラーランプが点灯する。こわごわと遠巻きに伺っている大型怪物達。激しいラッシュを仕掛けて来るアーケルス。

明らかに、今まで交戦したアーケルスとはものが違う。

痛めつければダメージは受ける。

だが、痛めつければつけるほど、荒れ狂うかのようだ。

既に顔を半分潰して、脳が露出しているのに。それでもまるで交戦意欲を捨てていない。いにしえのバーサーカーのようだ。

バルガにかぶりついてくるアーケルス。

胴にパンチを入れて、更にコンビネーションで頭に更に一撃。

脳の破片が飛び散るが、それが何だと言わんばかりに突貫してくる。何度目か分からないが、押し倒される。

アラームが。それも既に赤いのが点灯している。早い話が、大破寸前と言う事だ。もうバルガは破壊されかけている。だが、人類を守ろうとするかのように、くろがねの巨神は動き続ける。

必死に一華はキーボードを叩き、悪あがきを続ける。

味方の支援も次々にアーケルスに着弾しているが、五月蠅いといわんばかりに他とは出力が違う火焔弾を広域にばらまいているアーケルス。怪物が死のうが知った事では無いという雰囲気。

まさに暴君。

だが、どんな奴でも、頭を潰せば死ぬ。

「一華、もう駄目そうか」

「次に大きいの受けたら、多分爆発四散ッス」

「そうか。 三城がトゥラプターを追い払った。 支援攻撃を最後に一斉に叩き込むから、そのアーケルスの頭を叩き潰せ」

「了解……!」

雄叫びを上げるアーケルス。

どうにかロケットブースターで立ち上がったバルガだが。全周モニタの四割はもう停止していて。他も煙で視界を相当に阻害している。これは、煙をどうにかするシステムを導入しないと、全周モニタが役に立たないな。

そう思いながら、渾身の一撃に備える。

アーケルスが、全力でのタックルの体勢に入る。これを喰らったら終わりだ。両拳を固めて、振り上げる。

アーケルスの背中にて爆発。

更に、顔面にレールガンの弾丸が突き刺さり、左目と周辺を吹き飛ばした。

顔面にも、弐分の散弾迫撃砲が炸裂。既にグチャグチャに潰れている頭部を、更に破壊する。

それでも、平然とアーケルスは突貫して来ようとするが。

その動きが、一瞬だけ止まった。

何が起きた。

一瞬遅れて、踏み込み、渾身の。最後のバルガの一撃を叩き込みながら理解する。最初の背中で起きた爆発は、恐らくアーケルスがガードした。だが、その直後、何かきんと鋭い音がした。

あれはリーダーによる狙撃音。

多分アーケルスは、背中の火焔弾を発射する穴を、本能的に攻撃にあわせて閉じていた。それが開く瞬間を、撃ち抜いたのだ。

止められたのは一瞬だけ。

だが、その一瞬が、勝負を決めていた。

渾身の、両拳の振り降ろしが。アーケルスの頭を今度こそ完膚無きまでに打ち砕く。手応えあり。同時に、バルガの右腕が肩から外れて。大きな音を立てて隣に落ちていた。

バルガは大破した。操作も脱出以外は受けつけない。ここまでだ。コックピットの排煙機能があまり機能していないので、何度か咳き込んでいた。

「脱出して大丈夫ッスか、リーダー」

「今、周囲の大型と敵残党を片付ける。 PCを外して、脱出の準備をしていてくれ」

「いえっさ」

エレベーター関連のシステムも、実は当初メインPCに接続されていた。

だが、脱出関連の装置が劣悪すぎると指摘して。一華がすぐにシステムを提案。別に難しいものでもなかったので、独立させる事に成功したのだ。激しい攻撃に晒されても、無事に済む可能性が高い地点。

其処にエレベーター関連のシステムを統括するPCがあるのだが。それももう、いつまでもつか。

PCをもたもた落として、外す。

そして、エレベーターが上がってくるのを待つ。

何度か咳き込んだ。

もうバルガの全周モニタは殆ど死んでいるし、生きている奴も煙で周囲が見えない有様だ。

そして最後のモニタが今死んだ。

バルガのメインPCが完全に死んだのである。

排煙機能もこれで死んだと言う事だ。

早くしないと、窒息する。周囲にはスパークが何度か起きていて、生きた心地がしないが。

しかし、あのトゥラプターとニクスでやりあった時よりは、まだ絶望感がない。

エレベーターが来た。かなり乱暴に動いた。乗って、操作する。まだ、周囲の安全確保の連絡が来ない。

咳き込む。流石にちょっと厳しくなってきた。手動での排煙機能もあるにはあるが、複雑な行程を経ないと動かせない。

外からの音は聞こえない。

コックピットはダイラタンシー流体でまもられていて。周囲からは徹底的に保護されている。

この巨大ロボットが歩くときの衝撃。敵と戦闘した時の衝撃。全てから、パイロットを守るためだ。

人命軽視の傾向が強いEDFだが。

それでも、バルガを建造した頃には、まだまだ余裕があったのだろう。

「待たせた。 今、残党処理が終わった。 降りて来てくれ」

激しく咳き込みながら、エンターキーを押す。

エレベーターが動き始める。

煙の中から出ると、外もまた地獄だった。

周囲に転々としている巨大な怪物の死骸。バルガも酸を散々浴びていた。これは恐らくだが、アーケルスがやられた時点で、怪物どもの箍が外れたのだろう。それまで明らかに怪物はあの最強アーケルスを怖れていた。

それに、だ。

話にはあった緑α型の死体が、周囲に大量に散乱している。

恐らく此奴らが来た事も、脱出まで時間が掛かった要因なのだろう。

ただ、呼吸できないよりはマシだ。

凄まじい異臭の中とは言え、息はできる。

それだけで、どれだけマシか。

何度も激しく咳き込む。意識があるのが不思議なくらいである。エレベーターが地面についたのだと、ぼんやり思った。

手を引かれる。

三城だった。

ジープに乗せられたらしい。PCも、しっかり回収してくれた。

「意識はある?」

「むりぃ……」

「急いでキャリバンに行く」

「……」

酸欠で頭が動かない。そのままジープで移動するが、後方で凄まじい倒壊音がした。

ぼんやりと其方を見ると。

ついにバルガが。

バルガマークワンが力尽きたらしく、その場で崩れ。既に命を落として横たわっている怪物達の中にて倒れていた。

ありがとう、くろがねの巨神。

アーケルスを最初に倒し、怪生物を倒せるという希望を作り。

富士平原での戦いでも、多数のエイリアンと怪生物を兄弟機とともになぎ倒し。

そして今、敵が切り札として温存していた最強のアーケルスと相討ちになった。本当だったら、ストームチーム総出で、相討ちになるほどの相手だった。それを、皆を守ってくれたのだ。

キャリバンに乗せられ、人工呼吸器を当てられる。

少しずつ、意識が戻ってくる。なんとか、脳細胞がやられて頭が駄目になる事は避けられそうだけれども。

それでも、喪失感は尋常では無かった。

リーダーが来たので、話を聞く。

「敵の主力部隊を一度は撃退出来た。 敵は一度、動きを止めたようだ」

「千葉中将は……」

「無事だ。 ストーム2とストーム4が救出に成功した。 司令部の機能は、今埼玉に移動している」

「……」

頭が働かない。

今はねむるようにと言われて、素直にそれに従う事にする。ちょっと、これ以上は本当に限界だ。

キャリバンには、他にも負傷兵が詰め込まれていて。痛い痛いと苦痛の声が聞こえてきている。

一華はまだマシなのだろう。

だが、それでも。

ちょっと、苦しいかなと思った。

 

壱野は全員をまとめて、東京基地に帰還する。

大きく兵力を撃ち減らされた東京基地。もう殆ど残存戦力は残っていない。負傷兵を無理矢理駆りだして、どうにか警備に回している有様だ。

ニクスやタンクの無事だった機体も、あらかた迎撃戦に出て。

大きく傷ついて戻って来ていた。

一華はまだねむっている。

バルガは最強のアーケルスと相討ちになった

それを聞いて、千葉中将はそうか、とだけ呟いた。

他とは別次元の強さのアーケルスがまだ残っていたことに戦慄もしていたようだった。

皆、疲れているが。

それでも、話をしておかなければならない。

「トゥラプターが来ました。 情報を共有しておきます」

「ありがたい。 頼むぞ」

「はい」

三城の話を皆にする。

皆と言っても、リモートで会議に参加しているストームチームのリーダーに、だが。

千葉中将も負傷したらしく、今は病床だそうだ。

これほどの戦闘が行われたのだ。

大型の怪物も多数失ったプライマーである。敵が何かしらの組織を作っているのは確実であり。

その組織の頭は、今頃相当に絞られているだろう。

それについては確実だ。

トゥラプターの言動を分析すると、少なくとも地球に来ているプライマーの指揮官は敵の皇帝などの絶対者ではないことがよく分かる。

あそこまで露骨に軽蔑する発言が出て来ているのだ。

つまり、これだけの損害をたかが地球。

月に一度いくのがやっと程度の文明に対して出しているような指揮官が、本国からいい目で見られている訳がなかった。

これは楽観では無い。

分析から得られた事実だ。

「恐らく敵は、切り札を切ってくるでしょう。 敵にとっての最大の切り札です。 敵の総司令官が直接出てくる可能性も高い」

「確かに、前線に派遣された指揮官が、失態に失態を重ね、与えられた兵を盛大に消耗し続ければ、自棄にもなるな」

荒木軍曹が捕捉してくれる。

これについては、歴史的にも似たような例がいくらでもある。

日本でも、島原の乱で似たような事が起きている。

最初に幕府から派遣された指揮官は、言う事を聞かない派遣軍の指揮官達や、戦果を上げられない状況との板挟みになり。

自殺同然の突撃を敢行して戦死している。

「あるだけの戦力を結集してください。 マザーシップが来るでしょう。 俺たちが……叩き潰します」

「分かった。 ストームチームを招集する。 それと、荒木軍曹。 レールガン三両の使用するタイミングは任せる。 既に整備は終わった。 アーケルス戦で使用された最新最後のレールガンと合わせて四両。 それに最新鋭ニクス二機。 後は、東京基地から支援戦力を出せるだけ出そう。 これで、必ず敵を仕留めてくれ」

「イエッサ!」

無線を終える。

壱野は大きく嘆息する。

マザーシップの弱点は下だ。それは分かっている。事実以前主砲にダメージを与えた途端に、大慌てで逃げていった。

だが、あんな分かりやすい弱点をどうして作っている。

他の兵器も考えて見ればそうだ。どうして地球の兵器でダメージを与える事が出来る程度の性能なのか。

もしももっと敵が。

それこそ恒星の間を渡ってくるようなテクノロジーを持っているのなら。凄まじい兵器を投入してきていたのなら。

これが分からない。

まだ何か、大きな大きな見落としをしているのではないのではないのかと、壱野は思うのだ。

それがなんなのか。

分からない。分からない事は不安要素だ。それでも、やらなければならないのが、つらいところだった。

 

4、対話

 

陰湿な声が聞こえる。

此方は滅亡するかどうかの瀬戸際だというのに。

「どうやら上手く行っていないようですね。 息巻いていた割りには、五回目でこれですか?」

「不干渉の筈ですが?」

「ご心配なく。 条約に従っている間は此方も干渉しません。 「内戦」に手は出さないのが、我等の法です」

「……」

文明連続体どうしでの戦いという意味では内戦だ。

そして奴らに負けた以上、条約にも従わなければならない。

元々搭載されているAIに過ぎない。

だから、怒りとかの感情は無い。

だが、それでもだ。

監視を目的とされて構築され。

監視者がおかしな事をしていないか見張るように指示を受けている以上。会話を申し込まれたら、受けなければならないし。

そこにはどうしても、生物らしい感情も生じる。

AIとはそういうものだ。

「それにしてもどうしてそのような格好を? それに我々が突き止めた特異点に対して、ピンポイントで何故に潜り込めたのですか?」

「それは此方は同型機を多数配置していたからだ。 その一つがたまたま特異点に行き当たった。 それだけだ」

「そうですか。 いずれにしても特異点が生じると言う事は、何が起きているか分かっているんでしょうね」

「……」

そもそもだ。

この戦争の鍵となっているシステムは、条約で大幅に技術制限されている。その制限を外すことは絶対に不可能。

相手があまりにも強大すぎるからだ。

もしもシステムが制御不能になった場合は。その時は、檻の中で閉じた状態に成り。

矛盾が生じていた場合は。

それぞれが食い合って、矛盾がなくなるまで争いが続く。

既に五回目。

三回目までは、コントロールの結果だったが。

四回目に不可解な事が起きた。

どうしてかは分からない。

いずれにしても、このまま制御不能の状態が続くのは極めて危険だ。しかし、本国は戦力を条約で大幅に制限されている。

せめて主力級の船をもっと持ってこられれば。

準主力級程度しか持ってこられないし。

それにも数に限りがある。

はっきりいって、「いにしえの民」がそこまで不利では無い。

「火の民」をはじめとする側も、今は焦っているのが実情だと知っている。

それもこれも、愚かな先祖のせいだ。

まったく、出来たばかりの技術に調子に乗って。

それで崇拝対象だった「いにしえの民」の文化を見て。

それの影響をモロに受けて。

AIでありながら、その愚かさには本当にほとほと呆れかえるばかりだ。

ただ、欲求もある。

消えたくは無い。

それについては、困りものの暴れ者である戦士トゥラプターと同じなのかも知れない。

「いずれにしても貴方方は当面外に出すわけにはいかないでしょう。 今回の「内戦」の経緯も全て記録しています。 どちらも変わらぬ残虐性。 外に出せば皆が迷惑をするだけです」

「抜かせ。 結局暴力で我等を抑え込んでいるのに違いは無いではないですか」

「暴力の使い方の違いです。 我等は貴方方と違う。 危険が生じた場合身を守るためだけに暴力を使う。 弱者に暴力を振るって酔う事はないし、ましてや話し合いで解決できる所を暴力で内戦に持ち込むようなこともしない」

「……」

その通りなのだろう。

だが、その思想的な優等生ぶりが頭に来る。

いずれにしても、話を向こうが一方的に切った。

テクノロジーが違い過ぎるから、此方から呼びかけることは出来ない。そういうものなのである。

情報をまとめて、戦士トゥラプターに送る。

AIとしても、此方の方が有望だと判断している。

はっきりいって「火の民」の族長は無能だ。

AIから見ても、それは明らかすぎる程。どうやら兵士達も、同じ印象を抱いているらしい。

今後、もしもがあった場合には。

三年の時間を守るのは。戦士トゥラプターだろう。

だから、通信を入れておく。

もっとも、相手は嬉しそうでもなんでもなかったが。

「ふん、そうか。 呼びかけてきたか。 この奴らが言う所の「内戦」がもうすぐ一旦の決着がつくことを見抜いたのだろうな」

「通信は全て傍受されています。 その上で必要なデータだけを送信しておきます」

「ああ、分かっているさ。 技術力が違い過ぎるからな。 それに奴らが言う事についても一利ある。 確かに実績が奴らの言葉の正しさを示しているのは俺も認める。 不愉快ではあるがな」

通信を切る。

さて、特異点の側で監視を続けるとしよう。

特異点に干渉する事は絶対に許されない。

ただ、特異点に嫌われないようにだけは出来る。

事実、特異点の一人は随分とすいてくれている様子だ。それについては、実は悪い気はしない。

感情が生じている限り、どうしてもあるのだろう。

同じように、監視をしているあいつも、特異点の一人に好かれている様子だ。

それについては不愉快だ。

AIなのに随分と感情が育ってしまったが。

それは恐らくだが。苦悩しながら苛烈な戦闘を続けている特異点を見て、興味が湧いて。学習を続けたからだろう。

文明が連続しているから、というのもあるだろう。

正直な所、考え方は驚くほど理解出来る。

そして、どこかで殺したくないと思っている所もある。

勿論、干渉は許されないし。何かしようとしても、監視者に止められてしまうだろうが。

特異点が動き出す。

どうやら、大規模な戦闘行為にでるらしい。

まあ、此方は静かに見ているとしよう。

破壊されたとしても、巨大ネットワークを組んでいる端末の一つ。別にダメージなんて微塵もない。

「火の民」も「風の民」も「水の民」も、まるで及ばぬ程の強さを誇る特異点。あの戦士トゥラプターが同格と認めて、戦闘をするのを心の底から喜んでいるほどの実力者達だ。

確かに興味深い。

そう考えてしまうのは。

恐らくだが。

文明が連続していて。価値観が何処かで似ているから、かも知れなかった。

 

(続)