必死の抵抗作戦

 

序、要塞への突撃

 

ストーム3、更にウィングダイバーの素人ばかりのチーム。レンジャーの二部隊。これらとともに、北陸の日本海側沿岸部に出る。

其処は、地獄だった。

多数のシールドベアラーが展開し、テレポーションアンカーを守っている。それどころか、コスモノーツも複数が巡回している。

空軍戦力はもう味方にはない。

いたとしても、これはどうにも出来ないだろう。

壱野は手をかざして、様子を確認。

ビッグアンカーは無い。

その代わり、アンカーの数が多く。真正面から攻めても、とても撃破は不可能だ。それどころか、これは。

また伏兵を配置しているとみた。

いずれにしても、アンカーを放置は出来ない。そのままにしておけば、必ず此処から大軍が出立し。

東京基地を狙って来るだろう。

東京基地は、あの怪生物の軍団すら退けた。プライマーにとっては最終破壊目標の筈である。

モグラ叩きになるが、とにかく攻撃拠点を潰すしかない。

そしてこんな状態でも、マザーシップは東京基地を直に狙ってこない。

余程、下方向から攻撃されるのを危険視している。

そうなれば、やはり。

近距離戦闘を挑み、その場で倒すしかないだろう。

だが、1隻倒せたとしても、残りがいる。

それをどうすればいいのか。

壱野には分からない。

流石に、全てを撃ち倒す自信まではなかった。

「さて壱野大佐。 どう攻める」

「ジャムカ大佐ならどうします?」

「俺たちはただ戦場で死ぬだけだ」

「……分かりました。 それならば、俺が作戦指揮を執ります。 まずはあのアンカーを破壊して、海岸側に拠点を構築します」

兵士達が頷く。

同じように、大量のシールドベアラーを配置して、重層的に構築された敵拠点は以前にも攻めたことがある。

これは攻城戦だ。

少ない規模の戦力で戦うには、冷静かつ大胆な戦闘が必要だ。

そして、それを行うには。

味方の手練れはストーム1の面子と。ストーム3の数名しかいない。

他の兵士は素人同然。

彼らも生かさないと、とてもこの戦いを生き残る事など、出来はしないのである。

「一華、ニクスの様子は」

「大丈夫。 装甲以外は、だいたい問題ないッスよ」

「……万全とは言わないんだな」

「もう、ワンオフ機の部品を生産している余裕が東京基地の工場にはないみたいッスからね……」

誤魔化しながらやっていくしかない。

絶望的な話だ。

そもそも、あの超物量を誇る米軍を主体に構築されたEDFが、これほど追い詰められているのである。

もはやあらゆる意味で、どうしようもないのは仕方がない。

いずれにしても、戦闘開始だ。

突撃。

叫ぶと同時に、海岸に突貫。そのまま、攻撃を開始する。敵は飛行型が出てくるが、数はそれほど多くはない。

ストーム3が先行して、敵を攪乱。

重装コスモノーツがいるが、反応した時には、既に弐分が至近に。至近距離から散弾迫撃砲を喰らった重装コスモノーツがのけぞった所に、今度は三城がファランクスを叩き込む。

胸に大穴を開けられた重装コスモノーツが、後ろにどうと倒れる。

流石に、弐分と三城が二人がかりで奇襲を仕掛ければ、こんなものだ。

そのまま突貫。群がってくる敵を蹴散らしながら、アンカーを粉砕。更に、逃げようとしたシールドベアラーもニクスが射撃して、爆砕した。

そのまま少し距離を取り、しばらくは敵を迎撃する。

飛行型はもう出てこないが、α型とβ型がかなりの数だ。ストーム3に前に出すぎないように注意を促し、アンカーの動きを注視。

怪物を出現させるタイミングを見計らう。

問題は、コスモノーツがわらわらと集まって来ていることだ。シールドの内側に、入らないといけない。

だが、今はまだだ。

敵を蹴散らしつつ、隙を伺う。

レーザー砲持ちが来る。まずい。このままだと、シールド越しに撃たれ放題になる。だが、その時。

敵の群れが途切れた。

突貫。

全員に声を掛けて、突撃する。

アンカーを粉砕しつつ、突撃。弐分と三城、それにジャムカ大佐が、殆ど一瞬でそれぞれコスモノーツを粉砕する。

レーザー砲持ちが慌てて狙いを定めようとするが。ヘルメットにライサンダーZの一撃を叩き込み。

顔が露出した所に、一華のニクスが肩砲台を叩き込む。

文字通り頭を吹き飛ばされたレーザー砲持ちが、鮮血を噴きだし続けながら棒立ちになり。

やがて前のめりに倒れた。

乱戦の中、次々とアンカーを粉砕し、シールドベアラーも砕く。

金のα型。

即応して撃ち抜く。銀のβ型もいる。

「後退!」

「よし、さがれ! さがれっ!」

兵士達を促して、海岸に。此処が見渡しが良くて、周囲からの攻撃に対応できる。特に金のα型の長所をほぼ潰す事が出来る。

金のα型はやはり少数ずつしか戦場に出てこない。余程作り出すのが難しいのだろう。まああの戦闘力だ。

その辺りは、納得も行く。

ただ問題なのは、海岸から進軍するには少しばかり地形が急なことだ。ただそれも、戦車隊がいる訳ではない。

壱野が最後方から狙撃で支援すれば、どうにかなるだろう。

何度もβ型の糸が掠めるが、気にせず海岸で応戦。しばらく激しく砲火を交える。

敵は敵で必死のように見える。

どうしてかは分からない。後は物量で押し込めば終わりだろうに。

マザーシップを使い捨てる覚悟でくればいい。

一隻や二隻落とされても、残りで押しつぶせるだろうに。

どうしてそれをやりにこない。

それだけ、何か被害を怖れるものがあるのだろうか。

数千年前に墜落したというプライマーの船。

それから、ロストテクノロジーは回収出来たとは思えない。

ましてや、テレポーションシップなどの残骸からも、人類はテクノロジーを回収して。効率的に敵に反撃できた訳ではない。

人類を滅ぼすつもりなら、数隻程度の損害は覚悟して攻め寄せればいいものを。

どうしてそれをしないのかが、よく分からない。

さて、そろそろ敵が伏兵を繰り出してくる頃か。

皆に細かく指示を出して、それぞれに動いて貰う。不審そうにしながらも、皆が動く。文句を言わずに動いてくれるのは、ストーム1の皆だけだ。ストーム3ですら、不可思議そうに戦闘ポイントを変えた。

ぞわっと、強烈な悪意が来る。

大量の緑色のα型。

初めて目にする者も多い様子だ。

「動きが速いぞ!」

「あれが噂の……!」

「三城、予定通りに」

「分かった」

上空に躍り出る三城。それも、低空ギリギリ、敵が反応する高度を飛ぶ。

凄まじい勢いで緑色のα型が三城を狙って集まった所に、プラズマグレートキャノンを叩き込む。

周囲が砂浜だから揺れる。

消し飛んだ緑の怪物の残骸が、辺りに雨のように降り注いでいた。

残党を撃ちながら、砂浜から離れる。

まだ素人ばかりのようだが、ウィングダイバー隊は先に指示した通り、上空から上手にレーザーで緑のα型を確殺してくれている。

どんなに早かろうが、レーザーが当たればどうにもならない。相手がどれだけ素早かろうが、レーザーは光速である。

そして緑のα型は、恐らくそもそも本来は戦闘タイプではないのだ。

この戦場に連れてこられたのも、何処かしらかプライマーが運んできたのだろう。それとも、テレポーションアンカーで少数を先に転送していたのかも知れない。

海岸から全部隊が離れる。敵の供給が途絶えた隙を狙って、シールドベアラーが展開する防御スクリーンに突入。

シールドベアラーを撃ち抜く。

アンカーも粉砕する。

少しずつ陣地を削り取り。

逆に此方の行動範囲を拡げてくる。

悪意を感じる。

一華に指示。

兵士達に手伝って貰って、自動砲座を展開。弐分は一人離れて、砂浜の方に行く。

ジャムカ大佐が、不可解そうに無線を入れてくる。

「なんだあの動きは。 今遊兵をだす余裕は……」

「すぐに分かります」

「まあお前の怪物じみた勘については信頼しているが、もう少し説明を……」

「み、緑のか……」

砂浜から、どっと緑の怪物が湧き出す。

要するに敵は、砂浜を拠点に戦う事を予想し。先に伏兵を置いていたと言う事だ。それも地下深く。

ただ怪物は砂浜の地下。要するに海水まみれの地下に潜っていたからだろう。動きが鈍く。

現れた瞬間、弐分の散弾迫撃砲で、大半が木っ端みじんに吹き飛ばされていた。

更に自動砲座が火を噴き、残った緑の怪物を駆逐していく。

おおと、兵士達が声を上げる。

「す、すげえ。 近付かせすらしない……」

「コスモノーツがまだ来る! 油断するな!」

兵士達に声を掛けて、まだ残っているアンカーから来る怪物を迎撃。兵士達も、慌ててそれに習う。

残りのアンカーは少ないようだが、それでも怪物がひっきりなしに現れている様子である。

特にβ型のアンカーが残っている様子で。銀のやつも来る。

奴らは一般兵には任せられない。

一華が出て機関砲で粉々にするか。

それとも壱野のライサンダーZを浴びせて、吹き飛ばすか。

ストーム3のブラストホールスピアにすら耐える程なのだ。

ともかく、放置は出来ない相手だった。

「此方ウィングダイバー3−2! 敵の数が減っています!」

「……コスモノーツの姿は」

「います! 稜線の向こう側に重装が一体!」

「重層か……」

重装は火器が強力だが、その代わり足が遅い。一気に回り込んでくるような事はないだろう。

ウィングダイバーに、重装の火器のエジキにならないように、飛行高度を下げるように指示。

そのまま、敵が途切れた隙に。また一つ、シールドベアラーを粉砕する。

シールドベアラーそのものは大して強度も無い。

あれほど強力なシールドを作る分、本体の自衛能力なんて強化している余裕は無いのだろう。

この辺り、プライマーの技術にも限界があるのか。

それとも、何か理由でもあるのか。

星を渡ってくる宇宙人としては、あまりにもおかしいような気がする。

地球と一番近い恒星ですら、四光年ほどは距離がある。光の速さで四年かかる距離だ。

それを考えると、どうにもおかしな事がプライマーには多すぎる。

一華も時々疑問を口にしているが。

言われて見れば、おかしいというのは壱野にも分かるのだ。

シールドベアラーは全て粉砕完了。

更に今、三城がプラズマグレートキャノンを打ち込んで、アンカーを一本爆砕した。これで残りは稜線の向こう側にある奴だけだ。

ただ重装がいる。

油断は出来ない。

更にそのアンカーからは、β型が出続けている。近付くのは、気を付けなければ危ないだろう。

「聞いてください……」

成田軍曹の声だ。

小首を傾げる。

何だか様子がおかしい。

「私は神を探しています……」

「何の話だ?」

ストームチーム当ての通信だ。千葉中将も聞いている。

千葉中将も、流石に何のことだろうと思ったのだろうし。何よりも、ストームチームの戦場は最重要任務でもある。

邪魔をされてはたまらないと感じたのかも知れない。

「印度の神話にはこうあります……。 卵形の船から、神が降りて来たと。 それだけではありません……。 宇宙の卵の神話は、世界中に残っています……」

「……」

それはインドの山中で発見されたプライマーの船の残骸のことだろうか。

そんなものだったら、そこらじゅうを飛んでいるだろう。

何を言っているのか。

ともかく、際限なく来るβ型を蹴散らしながら、確実に進む。

ストーム3は無線を切った様子だ。成田軍曹の様子がおかしいことは伝えてある。聞く意味もないと判断し、戦闘に集中するつもりになったのだろう。

稜線を超える。

まずは、速射してアンカーを粉砕。

思ったよりβ型の数が多い。

その中を、勇敢にストーム3が突貫し。重装に迫る。重装はガトリングを装備していたが。それにも臆さず突貫。ブラストホールスピアを叩き込み、翻弄する。弐分と三城はβ型を相手にし。

取りこぼしを他の兵士達が片付けて行く。

ウィングダイバー隊の働きは中々だ。素人ばかりでも、かなり出来る。或いは、もう相応の覚悟をしてきているから。だろうか。

反撃に出ようとする重装のヘルメットをライサンダーZで撃ち抜く。

重装がのけぞった所を、ストーム3が更に集中攻撃。

β型を駆逐しながら、残りの敵を片付けて行く。

「卵形の乗る船は、神の乗る船です……つまり、て、敵の旗艦です。 敵の旗艦を落とせれば、この戦いに勝てます……」

「それは君個人の見解のようだな」

「せ、世界中の神話に同じような話があるのです! 偶然とは思えません!」

「プライマーの船については私も聞いている。 だが、それがどうして敵の旗艦だと飛躍する。 プライマーがずっと古くから地球に来ていたとして、旗艦級の船が墜落事故を起こすことは考えにくいし、もしそうなった場合は回収しているはずだ。 卵形の船が旗艦である可能性は極めて低いと考えるべきだろう」

千葉中将が、とうとうと諭す。

成田軍曹はそれでもぶつぶつ何か言っていたが。

どうやら少佐が来たらしく、ぶつりと通信が切れた。

「ストームチーム、聞き苦しいものを聞かせたな。 忘れてほしい」

「いえ。 それにしても、前にもインドに墜落した船の話は聞きましたが、それは妙だとは思っていました。 確かに違和感はあります」

「違和感があるのは分かるが、我々は軍人だ。 現実に基づいて戦い、効率的に敵を殺し弾薬を使う。 君ほどの戦士が、それを理解していないとは思えないが」

「それはその通りです。 戦闘を続行します」

千葉中将も、疲れているのだろう。

富士平原での決戦で、主力部隊は消滅したに等しい。

プライマーは東京基地を潰すために、彼方此方から凄まじい数の怪物をかき集めて来ていて。

連日彼方此方に拠点を作ろうとしている。

マザーシップを繰り出してこないのは何故だ。

下方向からの攻撃を、それほど警戒しているというのか。

それに気になる事はまだある。

そもそも奴らは、どうしてここまで執拗な攻撃をしている。しかも、今更である。

何千年も前に来たのなら、それからずっと地球人類を見ていてもおかしくない。どうして今更。

重装コスモノーツが倒れる。

ただ、β型の怪物がまだかなりいる。周囲の山地に散っている怪物も、また集まって来た様子だ。

掃討戦をする必要がある。

この辺りの山地にも、多数逃れた市民がいる。怪物を放置していたら殺される。

わんさか集まってくる怪物達を、確実に各個撃破していく。ライサンダーZで狙撃しながら、聞いてみる。

「一華、先の話どう思う?」

「インドに敵の船が数千年前に墜落した事については分からない事だらけッスね。 それについては同意ッスけど、成田軍曹の発言は希望を求めているだけに思えるッスわ」

「確かに、敵の船が卵形の可能性はあっても、それが旗艦である保証は何処にもない」

「戦略情報部はエリートの集まりと聞いているッスけど、この状況だともうまともに機能していないんじゃないッスかね……」

一華の言葉に、黙り込む他はない。

作戦を立てる部署。

時に残忍に切り捨てることも考える部署。

それだけに重責がある。

戦略情報部は、他の部署からの介入を一切受けないという話を聞いている。それだけ「参謀」の権力が大きいという話でもあるのだが。

今回はそれが悪い方向に作用して。閉鎖的な空間で、変なカルトが生じ始めているのかも知れない。

だとしたら。色々と同情する。

決して知能が低いわけでもないだろう成田軍曹が、あんな妄想に取り憑かれてしまったのだから。

ジャムカ大佐から通信が入る。

「ストーム1、どうだ。 敵の悪意とやらは感じるか」

「いえ。 もうこの辺りに怪物はいないと思います」

「そうか。 じゃあ俺たちは引き上げる。 次の作戦に備えて少しでも休まないといけないからな」

「……そうですね。 俺たちもそうします」

全員生還。兵士達は青ざめていたが、それでも、生き残る事が出来た。

敗戦続きだ。もうEDFはまともに戦う力を殆ど残していない。それでも。この戦場では完勝した。

戦略情報部さえ機能を停止しつつある今。

もはや、人類にできる事は、ごく限られているのかも知れなかった。

 

1、末期戦の中で

 

一華は皆と東京基地に引き上げる。途中、ヘリがかなり揺れた。

基地のバンカーで降ろして貰う。ヘリがガタが来ていることを告げるが、メカニック達はみんな目が死んでいる。

こうなったら、自分でやるしかないか。

とはいっても、ヘリがこれだけあるとどうにもならない。

長野一等兵は、黙々とニクスの修復に掛かる。流石に、これはどうにもならないか。

何とか、東京基地を守るために。動く兵器を作る。

それくらいしか、此処ではもう出来ない。

大阪基地や福岡基地は、もっと酷い状態の筈だ。

一華にできる事は、あまりにも少なかった。

とりあえず、データを確認して。何とかなりそうな兵器を見繕う。ネグリングは全両駄目か。

EMCももう駄目だ。

装甲や車両部分云々の問題じゃない。一番の重要パーツである粒子加速器がやられてしまっている。

陽電子を発生させて対消滅させ、熱変換してぶっ放すのがEMCの簡単な仕組みだ。だから電磁崩壊砲となる。

粒子加速器を、そもそもEMCサイズまで小さくしているだけでも相応に凄いのである。一億ドルの大半はその部分に費やされているのであって。

これは簡単に直せないし。

作る事なんて、はっきりいって論外だ。

タンクやニクスなら、まだなんとかなる機体がありそうだ。

それらについては、データを集めて調べた後。長野一等兵に引き継ぐ。

そろそろ来るだろうなと思ったからだ。

案の定、バイザーにリーダーから通信が来た。

「一華、またバンカーにいるな。 休んでおけ」

「了解ッス。 流石にちょっと疲れ気味ッスし素直に寝るッスよ」

「そうしてくれ」

短い会話を終えると、自室に。

横になると、何度もため息をついた。

既にネットはほぼ死んでいる。

昨日確認したのだが、EDFのニュースはほぼ無期限停止と言う事だった。まあそれはそうだろう。

米国も中華も陥落したも同然。継戦能力をほぼ喪失したのだ。

善戦を続けて来た日本ですら、この間の富士平原の会戦で、主力をあらかたやられてしまった。

この状況では、もうプロパガンダニュースを流す余裕なんて無いだろうし。

そもそも、ネットに何か書き込む余裕だってない。

最近はバルガの稼働プログラムを作っていたが。

それが楽しみになっていたのだと。

もう作る必要がなくなって、今更に気づく。

虚無だ。

これほど虚無が苦しいとは。娯楽がその気になればなんぼでもあった事を思うと、意外だ。

案外一華は、虚無には弱いのかも知れなかった。

カップ麺があるので、それをくう。

人気のあったブランドはもう殆どなくなっていて、今食べているのはあまり美味しくない奴ばかりである。

それでもカップ麺そのものが好きなので、特に気にする事はない。

黙々と食事をして。

その後は、さっさとねむった。

成田軍曹、壊れかけていたな。

そう思う。

成田軍曹は、多分一華と同年代だろう。戦略情報部に配属される可能性は、一華もあった。

だから、一華がひょっとしたら、戦略情報部に今いたのかも知れない。

もしそうなっていたら、多分地獄絵図を目にすることになっていただろう。

EDFでも独自の巨大な勢力を持っていた部署。

情報が全て集まっていた部署。

情報を全て目にするという事は、現実を全て目にするという事でもある。

それは、この戦況だ。

心だって病むだろう。

ぼんやりしているうちに、疲れている事もある。ねむってしまう。泥のようにねむって、それで起きる。

硬くて寝心地が良くないベッドだったけれども。

それでも、野宿よりはましだ。

起きだして、体中が痛むなと思いながら。最低限の身繕いをする。

食事もして、する事がないことを思い。バンカーに出向く。長野一等兵は休んでいるのか、姿が見えなかった。

現在の作業をざっと見た後、クレーンを動かして、物資を整理しておく。

ざっと見た所、どうにかなりそうなタンクが五両くらい。ニクスは二機が稼働は出来そうだ。

他は部品が上がって来ないと、固定砲台にもならないだろう。

東京基地の戦力がコレか。

奥の方に、半壊したタイタンがある。

アレの装甲は剥がして、いざという時の防壁用に使うくらいしか思いつかない。レクイエム砲は非常に巨大な上に取り回しが利きにくく。要塞砲として使うのは、ちょっと厳しそうだ。

一応確認して見るが、肝心のレクイエム砲が駄目だ。

これでは、ただの鉄屑だ。

ため息をつきながら、バルガマークワンを見る。

この間の敵前哨基地戦では、殆どダメージを受けなかったが。今後、もしもプライマーが怪生物を投入してきたら。彼奴を出さないといけない。

元々相当に富士平原での戦闘でダメージを受けたし、そうなるともうその戦いが最後になるだろう。

脱出装置なんて気が利いたものはついていない。

最悪の場合は、覚悟は決めておかなければならなかった。

頭を掻く。

溜息が漏れる。

通信が入ったので、聞く。リーダーからだ。

「三十分後に指定位置に集合。 出撃だ」

敵は調子に乗ってどんどん攻めてきている。

まあ、此方もストーム1が出る。

一箇所だって好きにはさせない。

取り返しがつかない程の損害を与え続けて、マザーシップが出てこざるを得ないようにしてやる。

それだけだ。

 

紀伊半島に、敵が上陸。アンカーを何本か落とした後、マザーシップが後退。それをどうにかしてほしい。

そういう指示を受けて、すぐに一華は現地に向かった。

不機嫌そうな長野一等兵。

相当に工場の連中とやりあったらしい。

そもそも動かせる兵器も殆ど無い状態なのに。ストームチームの装備だけ作っている余裕は無いとか言われたらしく。

胸ぐらをつかみ合うような怒鳴りあいをしたそうだ。

流石にその場に居合わせた士官が仲裁したそうだが。

どうも工場の者達に、ストームチームは良く想われていないらしく。戦果も嘘だと思っている者がいるようだ。

もしもストームチームの活躍が嘘だというなら。

どうして東京基地は陥落していないのか。

もしもプライマーに苦戦しているという事自体が嘘だと思っているのなら。ちょっと脳みそを取り替えた方が良いと、一華は思う。

いずれにしても、現地に到着。

コロニストがいるが。

装備はボロボロ。コロニスト自身も傷だらけで、回復する余裕も無さそうだ。

これは、タッドポウルの方がまだ手強いな。そう思いながら、展開する。

なお、大阪基地から出て来た少数の部隊だけが戦闘に協力してくれる。AFVもいない。

一華のニクスだけで、どうにかするしかない。

今、他のストーム隊は、全部が別の戦地で戦っている状況だ。もはや休む暇も与えない勢いで、プライマーが日本各地で暴れ回って前哨基地を作ろうとしている。

だが、怪物を投入してくるばかりで、マザーシップは一向に出てこない。

出て来ても、アンカーを落としてすぐに逃げていく。

余程警戒されているんだなと思うと、それはそれで面白い。

一度主砲にダメージを与えられたのが、それほど危険な状態だったのか。そう思うと、少し小気味よくもある。

ちょっと好戦的になっているかも知れない。

一華も散々色々プライマーにやられて、頭に来ているのだろうか。

だとしても。

怒りをぶつけるのは周囲の人間に、ではない。今は、怪物とプライマーに、だ。

三城が空から降りて来て、リーダーに聞く。

「大兄、どうする」

「此処は戦いにくいな……」

紀伊半島は危険な地形が多い。

此処もそうだ。プライマーは崖際に、ギリギリの状況でアンカーを植え込んで。立体的に動ける事を武器に、怪物が展開している。

現時点の状況で、攻めるのは難しい。

そう一華は理解した。ただ、どう作戦を展開するかはリーダーだ。すぐに、周囲の地形図を送る。

リーダーはそれをバイザーでしばらく確認していたが。程なくして、判断。

部隊を二qほど後退させた。

二q後退して、アンカーが芥子粒のように見える状態になったが、それでもリーダーには充分過ぎるのだろう。

この辺りは崖地がなく、戦いやすい。さっきの地点で交戦していたら、海に落下死していたかも知れない。

そして、芥子粒のような目標相手でも。

リーダーは立射で、狙撃を確定で命中させる。

もう何というか、この辺り人間離れしていて。大阪基地から来た兵士も、度肝を抜かれているようだった。

まあ一華もいつも驚かされる。

「怪物接近」

「弐分、前衛で攪乱。 三城、敵の編成は」

「コロニストとα型が後衛に、前衛にβ型がそれなり」

「そうか、では誘導兵器でβ型の足を止めてくれ」

一華には指示は無いが。

まあ、ニクスで射撃して、来た奴を蜂の巣にするだけだ。射撃をしばらく続ける。遠くで、どん、どんと破壊音が響いて。その度にアンカーが破壊されている。

その度に怪物が此方にわんさか来るが、近付くことさえ出来ない。

同規模の普通の部隊だったら、とっくに飲まれて全滅していただろう。

だが、相手はストームチームだ。

一華は例外としても、残り三人が化け物過ぎる。

前衛で暴れている弐分は、もうβ型の糸を喰らう事もない様子だ。凄まじい速度で飛び回って、スピアで敵を貫いている。

三城の誘導兵器は狙う相手が的確で、敵を一定距離以上近づけさせない。

一華は、ニクスで敵を適切に撃ち抜いていくだけだ。味方の兵士達の射撃はあまり気にしない。

リーダーはアンカーを破壊し終えると、コロニストを狙う。

もうボロボロで戦闘力は殆ど無いとはいえ、それでもまだ相応に危険な武器を装備しているのだ。

もうリーダーは頭も狙っていない。

一射ごとに、コロニストの体に大穴が開き、どうと倒れる。怪物はそのたびに算を乱す。

これは、怪物の管理のためにコロニストを配置したと言うことか。

いずれにしても、迷惑極まりない話だった。

戦闘開始から、三時間ほどで、状況完了。

周囲に拡散していた怪物も含めて、駆除は終わった。

そのまま、敬礼して大阪基地の兵士達と別れ。補給物資を受け取って、次の戦場に向かう。

輸送ヘリは相変わらず整備不足のようで、かなり揺れるので不安になった。

無線が入る。

ストーム4からだった。

「此方ストーム4。 四国という場所に来ている。 かなり怪物の規模が多い。 其方の作戦はどうだ」

「此方は今終わった所だ。 千葉中将に支援できるか掛け合ってみる」

「頼む」

すぐに無線を入れる。千葉中将は、ストームチームの通信という事で、すぐに出てくれたが。

作戦については、難色を示してきた。

「今、鳥取に敵の部隊が上陸している。 ストーム2もストーム3も他の地点で戦闘を行っていて、正直手が回らない」

「あのストーム4が苦戦しているほどです。 何かしらの増援は廻せませんか」

「すまない。 もう、余剰兵力がない。 マザーシップへの攻撃作戦のために、どうにか戦力を温存しなければならないし、AFVはもう殆ど何処の基地にも動くものがない状態だ……」

それについては事実だ。

だから、反発する気にもなれない。

リーダーはしばし黙り込んでから、皆を見回した。

「では鳥取の敵を速攻で蹴散らして、すぐにストーム4の支援に向かう」

「大丈夫ッスか?」

「大兄、厳しい作戦になるぞ」

「大丈夫だ。 やってみせる」

ストームチームは、この間の富士平原の戦いでも。ストーム3にもストーム4にも死者を出し。更に規模を縮小させた。

これ以上人員を失う訳には行かない。

鳥取に到着。ヘリがかなり揺れるのは此処までも同じ。何だか酔いそうだ。

ニクスの中だから、頭に梟のドローンを乗せている。今日はニクスから降りずに戦うか。

そう思いながら、砂丘に出る。かなり足が取られる。

鳥取砂丘は、放っておくと草だらけになるとか言う話を聞いた。だが、それでも砂丘は砂丘。

草よりも砂の方がやはり勢力が強く。ニクスはかなり動きづらいと感じた。

そして、敵はどうやら飛行型が主体らしい。

規模はそれほどでもない。だが、飛行型は危険だ。出来るだけ急いで片付けてしまった方が良いだろう。

「尼子先輩、指定の位置まで後退してください」

「分かった。 飛行型が相手だもんな」

「そういう事です。 最悪の場合は、指示をするのでそのまま逃げてください」

「大丈夫、君達が負ける事なんてないよ」

その信頼に厚い言葉が、ちょっと心苦しい。

人間は死ぬ。

一華なんて、ニクスを失ったらあっと言う間に死ぬと判断して良いだろう。

リーダーだって、弐分だって死ぬだろう。

怪物の酸を喰らったら、助からない。

三城なんて、今まで何度も負傷して一時リタイアしている。

ストーム1だってそう。ストーム3もストーム4も今まで何度も戦死者を出しているし。ストーム2だって、いつ誰が死んでもおかしくない。

「敵の規模は、飛行型250、タッドポウル150というところだな……」

「どっちも一瞬で来る」

「一華、ニクスでの迎撃だけだと足りないだろう。 自動砲座をありったけ使う」

「了解ッス」

そのまま野戦陣地を使う。

それにしても、タッドポウルは不思議だ。

飛行型ですら、普段は地面で休んでいるのに、タッドポウルは空にいるのが普通の様子である。

鳥だってあんなにずっと飛び続けている事は滅多にないだろう。

コロニストの幼生体というのが本当だとして。

ひょっとして、故郷はガス惑星とかそういうのなのか。いや、それもないか。コロニストに空を飛ぶ能力はないし。

もしくは、地上が危険すぎて、空を飛ぶことでむしろ身を守っているのだろうか。

その可能性はあるかも知れない。

だとしたら、とんでもない星から来たものだ。

ただ。あれらの姿がどうにも地球にいる稀少生物に似ているのが、一華には気になるのである。

α型からして、昆虫の蟻にそっくりだし。

そう考えてみると、どうにもおかしな事ばかりだ。

「俺が囮になるが、あまり長い時間は耐えられない。 出来るだけ速攻で決めてくれ」

弐分がそう言って前に出る。

壱野が取りだしたのは、超大型のミサイルランチャーだ。確かプロミネンスとかいったか。

それに加えて、速射式のスナイパーライフルを取りだす。

三城はプラズマグレートキャノンと誘導兵器にするようだ。

そのまま、戦闘位置を決め。

交戦を開始した。

プロミネンスが地面で休んでいる飛行型の群れの真ん中に着弾すると同時に、プラズマグレートキャノンが空中で炸裂する。

空中での衝撃波は、鳥などには致命的だと聞いた事がある。

事実、タッドポウルにもかなり効果があったようで。

翼が砕けて落ちていくタッドポウルが、爆発で消し飛んだもの以外にもかなりいたようだった。

だが、無事だった連中は一斉に向かってくる。

それらを迎え撃つ。

一匹だって逃がすわけにはいかない。飛行型の危険性は、嫌と言うほど分かっているからである。

 

夕方。

ストーム4が交戦中の高知に到着。

ストーム4は飛行戦闘技術の粋を尽くして、敵に対して距離を取りながらの戦闘をずっと続けていたようだが。

流石に疲労し限界が近そうだった。

「ストーム1、現着! これより戦闘を支援する!」

「遅いぞ! だがよく来てくれた!」

凄まじい数のα型だ。α型ばかりだが、それでもどこからこんな数が。すぐに戦闘を開始する。

空軍による支援は期待出来そうにもない。

とにかく、やるしかない。

射撃を続けて、敵の横っ腹をつく。

鳥取での戦闘を切り上げて、大急ぎできた。補給もヘリの内部でやった程だ。疲れもそのまま溜まりっぱなし。

それでも。

今、此処で。有力な戦力であるストーム4を失う訳には行かないのだ。

射撃を続ける。

α型の半数以上が此方に来る。自動砲座は展開済み。ありったけの火力を敵に喰らわせる。

ストーム4は上手にα型を誘導していたが、やがて此方に来る。

時間差各個撃破戦法というわけだ。

いずれにしても、かなり敵の数を削った後だ。ストーム4と合流しつつ、まばらになったα型の群れを迎え撃つ。

凄まじい数だが。

α型だけなら。

ただ、時々リーダーがライサンダーZで狙撃している。

金色が、いると見て良かった。

「金色がいる。 気を付けろ」

「分かっている。 後十三匹」

「流石だな……」

「ありがとう」

リーダーがまた狙撃。敵が砕け散る。

後退しつつ、赤いα型の突進をある程度いなす。流石に頑強極まりないが、これだけの火力を浴びると崩れる。

だが、それだけ敵の前線は前進し。

此方は後退せざるを得ない。

射撃をひたすらに続け、α型を削り続ける。この数よりずっと多かったのだろう最初は。どうして此処までの数が来るのを許したのか。

陽が落ちる。

多少怪物の動きは鈍くなるが、既に敵は交戦中だ。交戦中の怪物は何処まででも相手の息の根を止めるまで追ってくる。

夜戦が得意なストーム4でもこれは厳しいだろう。

いずれにしても、何とかするしかない。

ヘリが上空に来て、強めのライトで照らす。

どうやらリーダーの指示らしい。一気に敵を見やすくなる。そのまま射撃を続行して、α型の残党を仕留めていく。

だが、結局。

戦闘は翌日になるまで続いた。

流石に参った。

ストーム4を救援することは出来たが、これほどのα型、そのまま沸いてくるとは考えにくい。

すぐに補給を要請。

戦略情報部に確認を取る。

「α型の数が多すぎる。 一体何が起きている。 此方は日本海側だぞ」

「……」

「成田軍曹?」

返事がない。

とにかく、先に戦闘をずっと続けていたストーム4は休んで貰う。三城ももうダウンしている。

一華もうつらうつらしているが、流石にメイン火力が寝るわけにはいかない。

何しろ、鳥取の戦場からそのまま兵士達にもついてきてもらっていて。その兵士達に弾倉交換をしてもらったのである。

程なくして、戦略情報部の少佐が出た。

「お待たせしました。 申し訳ありません」

「何が起きている。 敵の拠点か?」

「情報を精査していた所、どうも四十時間ほど前に、テレポーションシップ六隻がこの付近を通過しています。 その時に、怪物が投下されたのだとしか思えません」

「四十時間前」

つまり、ずっと地下に潜っていたと言う事か。

ため息をつくリーダー。気持ちは分かる。

少佐はなおも言う。

「怪物は投下されると同時に地下に潜り、他の地点の怪物と同時に行動を開始した様子です。 恐らくはプライマーがストームチームを明確な脅威と判断。 物量による分断を狙っているのかと思います」

「……了解した」

「少し休憩を。 何かあったら連絡します」

ともかく、休むしかない。

今回のα型の規模は、はっきりいって四国が全滅するレベルだった。ただでさえ、四国のEDF基地はもうほぼ稼働していないのだ。襲われていたら、ひとたまりもなかったと見て良いだろう。市民を守るどころではない。四国の山地の彼方此方には、市民が息をひそめてプライマーが去るのを待っているのだ。

しばらく、無心に寝る。

ニクスの中で寝ると、後で体の節々が痛くなるのだけれども。

それでも我慢するしかない。

起きだしてから、ようやく基地に戻る話が出る。ただ、敵はまだ彼方此方にいる。必死の交戦を続けている部隊も多い。

ストーム4は、そういった部隊を救援に向かったと言う事だった。

「すまないが、しばらくは風呂にも入れない。 湯でぬらしたタオルで体を拭くくらいしか出来ないだろう。 苦しいだろうがそれで我慢してくれ」

リーダーがそういう。

敵がもしも、本気で時間差による物量作戦を開始したのだとすると。敵を一気に壊滅させる好機ではある。

だが同時に。生き残れるか、怪しいのも事実だった。

 

2、更なる大軍

 

まだ生きている軍事衛星が映像を捕らえたと三城は聞かされる。

プライマーの大部隊が、更なる侵攻を開始。巨大な怪物。マザーモンスター、キングを含む大部隊だ。

これらはどうもロシアなどの既に壊滅させた地域にいたものが、毎日歩いて日本に向かっていたものらしい。

それだけではない。

アフリカ、欧州などの。既に陥落した地域からの映像を撮影した所。確実に怪物の数が減っているというのだ。

どうも、戦略情報部の見立ては正しかったらしい。

そう三城は判断した。

人間を殺し尽くすよりも先に。

抵抗を続けるストームチームを潰す。

それこそ地球中に展開している怪物全てを動員しても、だ。

マザーシップはどうして使ってこない。

それこそ、まだ人類が手出しを出来ていない最終兵器だというのに。

念入りにストームチームの戦力を削るつもりなのか。

それとも、何か別に理由があるのか。

既にメガロポリスの大半が壊滅している今。

十隻のマザーシップが全部日本に押し寄せたら、流石にストームチームでもどうにも出来ない筈だ。

それとも、マザーシップが落とされて。

弱点を知られる事を怖れているのか。

だとしたら、そんな憶病な宇宙人が何で攻めてきている。

それが、三城にはどうにも分からなかった。

いずれにしても、敵は樺太経由で北海道に迫っている。今、現地にストーム2も向かっている。

ストーム4は被害が大きく再編制中。

ストーム3は九州に再上陸した敵の部隊と交戦中。

各地では、市民に訓練を行わせ。決戦に備えているそうである。

市民達が怖れていた事が、現実になったわけだ。

アーマーをろくに支給できなくなってきたという話もある。

そんな兵士達を出せば。

開戦当初の兵士達のように。死なせるだけだ。

現地に到着。

冬だったら最悪だったが。幸い今はそうではない。戦闘開始から既に二年。三城も順調に学校に行っていたら。

多分大学生になっていたのだろうか。

大兄も小兄もそれなりに働いていたし。大学に三城をいかせるお金くらいはあった筈だから。

そうしろと言われていた可能性が高い。

三城はあまり良い大学には行けなかっただろうが。

それでも、行っておくようにと言われただろう。

いずれにしても、もうない世界の物語だ。

既に、機能している大学など、この世にはないのだから。

地下で学問を教えようという気骨ある人物も開戦当初はいたらしかったが。

やる気がある人間から。

先に死んでいった、ということだった。

北海道は緑のα型に散々食い荒らされて、都市は文字通り更地になっている。基地の幾つかも、敵の波状攻撃で既に機能していない。

札幌基地から、多少の兵力は出して貰ったが。

どうにかブラッカーが二両。

不慣れそうな歩兵が八名。

それで全てだった。

ただ。戦車がいるだけで随分と違う。ストーム2が来ているから、ニクスも二機いる。多少の大型だったら、どうにかできる。

そう信じたい所だ。

敵の前衛は既に上陸を開始している。α型とβ型が主体だ。飛行型は、最近の戦闘では殆ど見かけなくなった。

或いはプライマーは、ストームチームの戦力を削るハラスメント攻撃に注力するために。

飛行型を温存するつもりなのかもしれない。

タッドポウルも同じくあまり見かけない。

もし見かける時があれば。

ストームチームの戦力を削るときではなく。

潰すときの、本命作戦の為かも知れない。

交戦を開始する。

戦車部隊はあまり動きが良くない。

操作しているのが素人なのだから当然だ。それでも、勇敢に射撃を続けている。弾だけはありあまっているから、気にしなくてもいい。

敵は数がそれなりにいるとはいえ、小者ばかりだ。

それを考慮してからか、現地で合流した荒木軍曹も、今は普通のアサルトライフルで戦闘をしている。

ブレイザーは大物相手に温存するつもりなのだろう。

「此方戦略情報部。 良くない情報です」

「具体的に聞かせてほしい」

無線が入り、千葉中将が応じる。

ストームチームが大規模攻撃には対応しているが。小規模な攻撃は日本中で続行されている。

それに対して、千葉中将は殆ど指揮を執り続けている。

ダン中佐が意識不明のまま復帰できそうにもない状況で。

その影響も出ている。

千葉中将の声には、疲労が色濃く混じっていた。

「軍事衛星がアーケルスを確認しました。 富士平原での戦闘に参加しなかった個体がいたようです」

「数は」

「一体のみです。 一度確認されただけですが、恐らくはプライマーが重要作戦に投入してくる事でしょう」

「分かった。 バルガマークワンはまだどうにか戦闘出来るはずだ。 可能な限り整備しておく」

通信にノイズが多い。

戦略情報部の機能はどんどん日本に移転していると聞く。あのいけ好かない少佐も、日本に来ているのかも知れない。

以前翻訳ツールを外したところ、普段はあの少佐、英語で喋っている様子だが。日本語もぺらぺらなようだ。

何人かは分からないが、相当な俊英なのだろう。

三城は上空に出ると、誘導兵器で一気に敵の足を止める。

足が止まったところを、皆で一斉射撃して仕留める。

上陸してきた敵はあらかたたたいたが。それでも次から次へと後続部隊が来る。戦車隊が前に出ようとするのを、大兄が止めた。

「これ以上は前進しなくてもいい。 現在の位置を保って、上陸した敵を都度砲撃してくれ」

「イエッサ!」

「大物が来るって話だ。 海に近付くと、一瞬でやられちまうかも知れないな……」

「恐ろしい……」

札幌基地から来た兵士達は、装備も劣悪だが。今の時点では頑張ってくれている。

また、海から怪物が上がってくる。海を泳ぐことを苦にもしてない。とはいっても、樺太方面からの海だ。

流石に太平洋を渡ってくるような事は出来ないらしい。

「マザーモンスターが来る。 備えてくれ」

大兄がそう指示。一気に緊張が走った。

三城は補給車に行くと、大物狩りように装備を切り替える。

ファランクスを取りだして、それを装備。

整備は、幸いされている。

そのまま、大兄にバイザー通じて無線を入れる。

「大兄、私がファランクスで焼き切る。 援護してほしい」

「分かった。 ただ相手は一匹じゃない。 気を付けろ」

「うん」

敵の上陸してくる予想時間まで、大兄は正確に告げてくる。

既に三城もマザーモンスターが来る事はだいたい悪意で分かるのだけれども、流石にこの怪物じみた勘には及ばない。

そのまま、しばし戦闘を続ける。

際限なく上陸してくる怪物に紛れて、ぬっと巨大な影が姿を見せる。マザーモンスターだ。

巨大な羽根を背中に生やしているが、それで飛ぶ所は誰も見たことがなく。軍事衛星からも観測はされていないという。

あの羽根の機能はなんだ。

一華の話によると、姿がよく似ている蟻という昆虫の女王は。普通に空を飛ぶと言う事だが。

あれで飛ばない理由は、よく分からなかった。

「よし、随伴歩兵を集中攻撃。 三城を援護!」

「マザーモンスターも随分狩ったな! 最初は倒せる気がしなかったけどよ!」

「そうだな。 だが油断するな。 奴の放つ酸の火力は、尋常では無い!」

荒木軍曹が、小田大尉に釘を刺す。

皆が一斉に随伴歩兵の怪物を撃ち据えて足止めしてくれている間に。上空に躍り上がっていた三城は。

高さを速度に変え。

一気にマザーモンスターへ襲いかかる。

マザーモンスターが酸をばらまこうとした瞬間には顔面に貼り付き、ファランクスの火力を全解放。

おぞましい悲鳴を上げてマザーモンスターが逃げようとするが。

そもそも海を泳いで渡って来て疲れていると言うこともあるのだろう。

動きは鈍く。

酸をまき散らすことも出来ず。

そのまま、顔面を焼き砕かれて、どうと倒れていた。

喚声が上がる。

バイザーを通じて、市民が戦闘の様子を見ているらしい。恐らくだが、東京の地下へどんどん避難させている市民達に。

一種のプロパガンダとして、ストーム隊の戦闘風景を見せているのだろう。

「すげえ! 本当にあのデカイ怪物を!」

「でもこれ、合成映像じゃないのか?」

「だけど、合成なんて今やっている暇があるのか? 敵がとんでもない物量で来ているのに、押し返されているのは事実だぞ」

「もう何も信じられねえよ……」

口々に言っている市民達の声。

三城はすぐに距離を取りつつ、誘導兵器で寄ってくる怪物の足止めをする。

着地すると、走りながらコアのエネルギーを蓄える。大兄達が支援してくれるから、何も怖れる事はない。

味方陣地に走り込むと、受けたダメージなどをチェック。

ウィングの一部が破損していた。

メンテナンスシステムを走らせるが、特に問題は無い。取り替えることなく、そのまま戦闘を続行する。

また、海から怪物の群れが来る。

「三百秒後に、次のマザーモンスターが来る。 此処で倒してしまおう」

「わかった。 次も私がやる」

「大丈夫か三城少佐」

「問題ない。 ブレイザーは温存して」

荒木軍曹に心配されたので、そう返しておく。

荒木軍曹のブレイザーはとにかく強いが、バッテリーの充電という最大の問題がある。

今は押し寄せる怪物を徹底的に蹴散らす。

プライマーはロシアや中華にいる怪物を、根こそぎ日本に叩き付けてくるつもりなのかも知れない。

だけれども、そうすれば。地下にいる人々が、それだけ命を拾うのだ。

今いる怪物の群れだって、本来は戦車数十両で相手にする規模なのである。

これを被害無しで仕留めれば、その分味方が有利になる。

そう言い聞かせながら、戦闘を続行する。

時間を数えながら、上空にまた出る。

だが、敵ドローンが来た。タイプワンだ。かなりの数がいる。これも、かき集めて来たのだろうか。

好都合だ。

こいつらだって、アーマーがある兵士には大した脅威ではないけれども、一般市民には逃れ得ない死の手なのだ。

どこまででも追ってきて、殺すまで止まらない。

一華と相馬大尉のニクスが射撃を開始して、次々にドローンを叩き落とし始める。ドローンのレーザーは回避しようが無いが。むしろこうやって、地上からなら簡単に叩き落とす事が出来る。

上空に上がった三城に纏わり付いてきたドローンが、悉く落とされていく。レーザーが何カ所か肌を擦ったが、それでも多少斬られたくらいだ。

マザーモンスター。来る。

やはり疲労しているようで、動きが鈍い。

一気に仕留める。

上空から躍りかかる。マザーモンスターは海から疲労困憊と言う様子で上がって来た。そして、ぼんやりと三城を見た。

何だか此奴らも、使い捨てにされているんだな。

そう思って若干哀れになったが。

それでも、容赦したり遠慮したりしていたら。一瞬後に殺されるのは此方の方だ。

ファランクスを叩き込み、一気に焼き殺す。

マザーモンスターが横倒しになる。

また喚声が上がった。

「まだ来る。 次はキングだ。 推定到着時間は700秒後!」

「700秒後だな。 足止めは任せろ!」

小田大尉がロケットランチャーを取りだす。

お調子者な言動が目立つ小田大尉だが、ロケットランチャーの扱いに関してはストームチームでもトップだ。

そしてキングは怯みやすく、ロケットランチャー一発で殺すのは厳しいが、それでも充分に動きを止められる。

時間丁度。

キングが、海から這い上がってくる。

キングはいにしえの忍者が使った「水蜘蛛」という忍者道具のように、水の上をそのまま歩いて来る。

その辺り、必死に泳いで来るマザーモンスターと違い、消耗も小さい様子だが。

しかしながら、だからといって海の上を迅速に移動出来る訳でもない様子だ。

陸に上がった所を、文字通りの着地狩りをされ。小田大尉のロケットランチャーが直撃する。

それで怯んだ所に、ストーム2総出の猛攻を喰らう。

他の怪物は、大兄達がまとめて足止めしてくれている。

その間に接近。

背中に降り立つと、ファランクスで一気に焼き切る。

凄まじい悲鳴をキングが上げ、やがて動かなくなる。

これで、大物三匹目だ。

また。バイザーの向こうで、喚声が上がっていた。

 

一度札幌基地に引き上げる。

北海道に残った数少ない基地の一つだ。兵士達は、いつ死んでもおかしくないという顔色をしていた。

風呂に入るように指示を受ける。

今のうちに、休んでおけと言うらしい。

言われた通り、風呂に入っておく。ちょっとお湯は熱すぎるくらいだったが、ボイラーの調整をいちいちやっていられないらしい。

風呂に入った後、泥のようにねむる。

もう、夢すらみなかった。

起きだす。

夢は、見なかったはずだ。

だけれども、なんだか妙な感触がある。

変な円筒みたいなものをみた。其処に、無数の命が吸い込まれていくような光景。あれは、なんだ。

起きる直前に、なんだかよく分からないものを見たのかも知れない。はっきり断言できるが。

あれは夢では無かった。

ただ、大兄に相談する程のことでもないだろう。

起きだして、身繕いすると。バイザーを確認して、メールなどが来ていないかを確認しておく。

九州で戦闘していたストーム3も、敵の撃退に成功した様子だ。どうにか、かろうじて。日本は持ち堪えている。

兵器の整備も必死に行っている様子だ。

特に昨日の通信で聞こえてきていたが。

アーケルスがまだ生き残っている。

バルガが必要だ。

エルギヌスだったら、どうにか出来る可能性はある。以前も実際に、味方の機甲部隊の支援があったとは言え、ストームチームだけで倒した相手だからだ。

だが、アーケルスは流石に不可能だ。

散々戦ったが。今の練度でも、アーケルスを倒せる自信はない。一華がバルガに乗って、やっと勝ちの目が見えてくるくらいだろう。

アーケルスと戦う際の注意点を、再度おさらいしておく。

富士平原の大規模戦闘のログを確認するが、やはりバルガ部隊はアーケルスの機動力に翻弄され、大きな被害を出していた。

敵怪物部隊、エイリアン部隊の駆逐が完了し。機甲部隊の総力攻撃でアーケルスの足を止め。

それでやっとバルガが相手を殴り倒せる体勢が出来た。

ログを見ると、翻弄された挙げ句に好き勝手に嬲り殺されているバルガの映像も出てくる。

いたましい。

勿論、一華が同じようにされるとは思わないが。

それでも、生き残りのアーケルスがいるなら、日本に来ると見て良い。

バルガは一華に扱って貰うとして。

支援は、三城達でやらなければならなかった。

「三城、もう起きているか?」

「小兄?」

「ああ、起きているな」

「作戦?」

違うと言われた。

どうも、札幌基地の兵士達と戦車隊が肉を振る舞ってくれるらしい。

最近エゾシカが増えているらしく、それを兵士達が狩ってくるそうだ。山に偵察に出るとどうしても獣と遭遇する。

熊などは山に逃げ込んだ人間の安全を考慮して狩らなければならない。

また、エゾシカも増えすぎないように狩る必要がある。

一頭狩ると、それなりの肉が手に入る。

肉か。

レーションばかり食べていたこともある。肉は食べたい。

すぐに出向く。

出向いたが、驚いた。兵士は驚くほど少ない。もう、戦える兵士は、殆どいないということだ。

泣きながら、ずっと食べている兵士もいる。

酒を飲んで横になって、繰り言を呟いている兵士もいる。あれは本当は酒ではないかもしれない。だけれども、それについて誰もああだこうだいわない。

大兄が、肉を残しておいてくれた。

居心地悪そうに一華も来たが。

兵士達は敬礼こそすれど、近寄ってくる様子はない。

戦闘の有様を見て、敬意は感じるが。

同時にそれ以上の恐怖だって感じているのだろう。

なおストーム2はいない。

東京基地に一度戻ったようだ。恐らくだが、ブレイザーのバッテリーの補充のためなのだろう。

肉をいただく。

しっかり火を通さないと、寄生虫が危ないと事前に話はされる。頷いて、しっかり火を通す。

豚や鶏肉の寄生虫はかなり有名だが。

野生の動物の肉は、もっと寄生虫だらけだ。

ナマで食べる何て、それこそ自殺行為である。しっかり火を通しておかないと、戦闘以外で倒れる事になる。

「ジャンクばかりだったから有り難いな」

「ああ。 自衛隊のレーションはまずくなかったらしいが、EDFになってからはそうもいかなくなったらしいからな」

小兄に、大兄がそんな話をする。

そういえば、EDFになって各国の軍隊の統一が行われてから。米国式がどこでも採用されたと聞く。

だからレーションは一律でまずくなったらしく。

それは兵士達から、不満となって噴出したらしい。

とはいっても、途上国の兵士達にとっては、メシはむしろ美味くなったとかいう声も上がったらしく。

結局は不満の声もあまり大きくはならなかったのだとか。

そんな話をしながら、大兄達が肉をたんまり食べている。

三城も運動後だから食べるが。一華が呆れて見ている。

「三人だけで、鹿を全部食べ尽くしそうっスね……」

「仕留めたのは一頭だけではないそうだ。 一華も食べておけ」

「いや、私は元々そんなに食べないので……」

「いつもジャンクフードばかりだろう。 最後の機会になるかも知れないぞ」

大兄と、釘を刺しておく。

一華が困っているのを感じたからだ。

大兄も咳払いして、非を認める。

一華も頷くと、適当に食べた所で戻っていった。

休憩が取りたい。食べるよりも。

そういう気分なのだろう。

一華はいつもずっと色々考えている。少し前まではバルガのプログラムを改良し続けていたし。

今はニクスのプログラムに手を入れて。次世代型について提案して、先進科学研にデータを送っているそうだ。

現在の世界の兵器は「第五世代型」と言われているらしい。

EDFが結成されるまでの兵器は、「第四世代型」と言われ。その後各国の技術を総合して「第五世代型」が出来た。

更に今回のプライマーとの戦闘中に、様々な技術革新が行われ。「第六世代型」に近付いている。

例えばブレイザーやEMC。イプシロン自走レールガンなどは「第5.5世代型」の兵器に相当するそうだ。

これがもう少し安定すれば第六世代型になるという。

いずれにしても、先進科学研も、もう新しい兵器を作り出す余裕はないだろう。たった二年で、人類は地上での覇権を。

今まで地上でやりたい放題してきた暴虐の時代を、失おうとしているのだから。

肉を食べ終える。今まで戦いに戦い抜いてきた分の力を、多少は補給できたのかも知れない。

プライマーは人間を殺すことに興味はあっても、他の生物にはほぼ手出しをしない。

だからこそ、こういう肉は食べられる。

それだけは、幸いなのかも知れなかった。

 

3、旋風が吹き荒れる

 

九州の山岳地帯に、突如プライマーが襲来。正確には、テレポーションシップとドロップシップが訪れ。

怪物とコロニストを落として、それで去って行った。

更に、大陸から海上経由でタッドポウルも近付いている。

現地にはストーム3が既に到着。

弐分も、ストーム1の一人として。現地に到着していた。

九州には峻険な山岳地が幾つもある。

日本武尊の神話で、クマソの民といわれる者達がいたことからも分かるように。東北同様、九州にはかなり強力な独立勢力が存在していたのだ。東北の独立勢力は後に奥州藤原氏となり、鎌倉幕府に潰されるまで存続するが。九州はもっと早くに潰されて、「日本」となっていく。

いずれにしても、今はそれはいい。

合流してみて分かったが、ストーム3の数が目に見えて減っている。

この間の富士平原での戦闘で戦死者を出し、かなりの数が負傷したと聞いているが。それにしても、この数は。

もう、七人しかいない。

うち一人は久しぶりにあう副官のマゼラン少佐だ。敬礼をかわす。

「久しぶりだな。 階級が並んでしまったようだ」

「お久しぶりです」

「左腕を吹き飛ばされて、再生医療をしていた。 まだ多少違和感があるが、それでも休んでいる暇はないからな」

そういう、壮絶な話を聞かされる。

黙り込むしかない。

ストーム3も、相当無茶を続けている部隊だ。いつ全滅しても不思議では無い。

いずれにしても、この作戦で戦死させるわけにはいかない。

大友少将は、またかとか怒声を上げながらも。きちんと兵を出してきてくれている。これは有り難い。

とはいっても、歩兵が二部隊だけ。

九州の各基地では、ストーム隊が戦闘で暴れ回る間に、必死に工場で兵器を生産しているそうだ。

新しく戦車なども作っているという話だが。

それが最新鋭のブラッカーなのか。

あり合わせの部品を集めて作った代物なのかもわからない。

ニクスを増やしてほしい所だが。

それもどうなるか、よく分からなかった。

いずれにしても、これから山での戦闘を開始する事になる。一旦大型移動車にはさがって貰う。

吉野などで、山岳地での戦闘は経験済みだ。

補給車を移動させるのに、一華が苦労している。大兄も、手をかざして周囲を見て、戦いやすい地形を探しているようだった。

「壱野大佐。 今回も作戦指揮は任せるぞ」

「分かりました。 ジャムカ大佐」

「それで敵をどう攻める」

「……難しいですね。 まず敵は、今回意図的に民間人を殺すように布陣しています」

この辺りにも、民間人は逃げ込んでいる。それも、決して少なくない数が、だ。

放置しておけば殺される。

だから、EDFが出てこざるを得ない。

プライマーが投下してきた怪物はαβγがそれぞれ少数ずつ。それに、コロニストがそれなりの数。

コロニストは、恐らく中華戦線にいる残党をかき集めて来たのだろう。

装備も不十分。

体も傷だらけ。

コロニストに関しては、そこまで気にする必要はなさそうだ。ただ、タッドポウルの群れが接近しているという。

これが。敵の本命戦力と見て良い。

「戦闘が開始されれば、怪物は彼方此方に好き勝手に展開して、民間人を殺そうとするでしょう。 もたついている暇はありませんね。 かといって焦って仕掛ければ、数に押し潰されるだけです。 更に時間もありません。 タッドポウルの危険性は皆ご存じかと思います」

「そうだな。 それでどうする」

「彼方を目指します」

大兄が指さしたのは山頂だ。

なるほど、そういうことか。

山頂で、居場所が露骨に分かるように敵に示し。アウトレンジ戦法で現在存在している敵を始末する。

その後は移動しながら、襲い来るタッドポウルを時間差で撃破。

ただこれは、怪物の殲滅速度が重要になる。

山頂に出る。

この辺りは古い時代に火山の噴火があったらしく、大きなカルデラになっている。

敵が布陣している辺りを全て見下ろせる地点に立つと。大兄は兵士達にスナイパーライフルと、アサルトライフルで装備するように指示。弐分にも、ガリア砲と高高度強襲ミサイルを装備するようにと指示してきた。

三城にはクローズドレーザー。

長距離まで威力が減衰しない強力なレーザーだが。モンスター型と違って照射し続ける事でダメージを稼ぐタイプのレーザー兵器だ。更にフライトユニットのエネルギーをべらぼうにくう。

これで、敵怪物やコロニストを始末する。

補給車は岩陰に。

ニクスは対空に専念。

残念ながら、既にEDFは敵を詳細に偵察出来る戦力を既に喪失している。大陸からどれくらいのタッドポウルが来るか分からない。

今回の戦闘は、恐らくストームチームを削るためのハラスメント攻撃だ。本命の作戦の為に、まだ温存していると見て良いが。

それでも、まだまだ呆れる程の数が敵にはいるはずだ。

今まで途方もない数の怪物を仕留めてきたが。

怪物の数は、それでもまだまだ幾らでもいるはず。ただこれ以上怪物を無理につぎ込んでくれば。

人間の駆除が遅れるだろうとも思う。

そうなれば、例の緑のα型を投入してきた意味がなくなる。

プライマーのハラスメント攻撃を跳ね返して、敵を焦らせる必要がある。

そう、大兄は説明した。

楽観も混じった観測だが。

ここしばらくの敵の無茶な物量攻撃を見る限り、楽観とも言い切れない。ある程度は賛同できる。

ただ、もし敵が決定的にストームチームに総力を叩き付けてくるつもりになるとしたら。

恐らく温存しているアーケルスを倒した時だろうとも思う。

東京基地には、バルガの再建を急いで欲しいものだ。

一華を外す訳にもいかない。

これについては論外だ。一華はEDFのビークルをあらかた乗りこなせると言われている程の凄腕だが。だからこそストーム1には必要なのだ。

今、装備の点検をしてくれている長野一等兵を東京基地に戻す訳にもいかない。

長野一等兵がいてくれたおかげで、どれだけ装備の不良が事前に発見できたり。ニクスの応急処置が出来たか、分からない程なのだから。

ジャムカ大佐が、配置についた後ぼやく。

「俺たちは長距離戦は得意じゃないが、どうするね」

「これからどうせ最悪のタイミングでタッドポウルが来ます。 ハラスメント攻撃というのはそういうものですので」

「そうだな。 俺たちはそれに対処しろと」

「一華が編隊を組んで飛んでくる奴らを叩き落とします。 可能な限り迅速に仕留めてください」

頷くジャムカ大佐。

同時に、大兄が十キロ以上先にいるコロニストの頭をライサンダーZで吹き飛ばす。しかも立射で。普通の平野だったら地平線の関係もあって狙撃距離は十キロが限界だが。この高度ならそれ以上まで届く。

混乱しているコロニスト達の頭が、次々に吹き飛ぶ。

もう傷だらけ、装備も不良。生きていても肉壁にされるだけの兵士達だ。介錯してやるのが情けだろう。

そのまま、弐分も高高度ミサイルを発射。

上空から、大量のミサイルが怪物達に降り注ぐ。

凄まじい爆発が連鎖する中、それでも近付いてくる怪物とコロニストだが。距離がありすぎる。

更には、大兄はコロニストの砲兵から先に始末した。既に武装が半壊しているとは言え、奴らだけが懸念事項だったからだ。

既に砲兵隊は全滅。

今はショットガン部隊を仕留めているようだ。コロニストは必死に怪物達と近付いてきているが。

弐分が容赦なく高高度ミサイルの雨を降らせて、怪物ごと爆破する。手足がもげても再生するコロニストだが。明らかに、最初に出会った頃に比べて再生速度も落ちているのが分かった。

兵士達も狙撃用のライフルで、次々に射撃しているが。流石に距離がありすぎる。殆ど効果は出せていないようだが。この距離で、これだけ削れれば充分だ。元々怪物とコロニストは囮代わりに落とされたようなもの。

ここからが。

本番である。

「此方戦略情報部、成田軍曹れす……」

無線が入る。

成田軍曹は錯乱しては鎮静剤をうたれているようだが。そのせいか、声が若干おかしくなっていた。

気の毒だが、今は同情している余裕がない。

「作戦区域にタッドポウルが侵入しました。 北東方向です」

「こっちでも確認したッスよ」

一華がニクスで迎撃を開始。弾幕を展開。

大兄が兵士達に指示。

アサルトライフルに切り替えた兵士達が、上空に弾幕を展開し続ける。その間に、弐分も高高度ミサイルから装備をガリア砲に切り替え。生き残っているコロニストを片付けはじめる。

相変わらず一華のニクスの機銃は流石だ。

編隊を組んで襲いかかってくるタッドポウルを、なぎ倒すように落としていく。専門のプログラムを組んでいる様子だが。それにしても、命中率が凄まじい。

落ちてきたタッドポウルを、ストーム3が容赦なく狩っていく。

落ちてきた直後は、流石にタフなタッドポウルも、すぐには動けない。

高機動戦を得意とするストーム3が、落ちてきた奴を次々に凄まじいエイムで槍で貫く様子は、傍目に見ていても凄まじい。

だが、ニクスに火焔弾が直撃。

射撃を浴びても、平然と耐え抜き。上空に飛んで行くのがいる。

青紫のタッドポウルだ。

「一華、大丈夫か!」

「装甲にダメージ! だけれどまだいけるッスよ!」

「弐分!」

「了解!」

そのまま、矛先を変え。ガリア砲を叩き込む。

狙いは青紫のタッドポウル。他よりもかなり大きい変異種と思われる個体だ。タフネスにしても火力にしても、他のタッドポウルとは次元違いの怪物である。

ガリア砲の弾丸が直撃。

それでも、一撃では落ちてこない。更にもう一発叩き込む。

それでやっと体勢を崩して落ちてくる。

ストーム3が突撃して、ブラストホールスピアを四方八方から浴びせる。全身から血を噴き出しながら、断末魔の声を上げるタッドポウル。

すぐに、怪物達の処理に戻る。高高度ミサイルを再び叩き込むが、かなり距離は狭まってきていた。

「大兄!」

「そろそろ機動戦用に装備を切り替えてくれ」

「了解!」

補給車へ急ぐ。

怪物の数は決して多く無いが、乱戦になれば少なくない被害が出る。三城も狙撃を一旦切り上げて、装備を変更しに補給車に。

ウィングダイバーと違って、フェンサー用の装備はスーツと一体化しているようなものも多い。

換装にはどうしても時間が掛かるし、場合によってはクレーンが必要な場合もある。

それでも、普段から訓練をしている。

換装は出来る。

装備の換装を終えて、再び前線に。既にコロニストは片付いた様子だ。大兄はライサンダーZからアサルトに切り替えて、怪物を狙い撃っている。アサルトでも無駄弾をほぼ出さないのが凄まじい。

当ててから放つ、か。

大兄ほどの達人技は流石に出来ない。似たような事は出来るが、大兄とは技量が違い過ぎる。

だが、だからこそ。

弐分は、自分に出来る事をやるだけだ。

接近してきた怪物の群れに突貫。まずは面倒なγ型から片付ける。

見た目ほどタフでは無いので、スピアを叩き込めば普通に粉砕することが可能だ。そのまま敵を片っ端から片付けて行く。

高機動型については、極めたなどというつもりはない。

だが、少なくとも今此処にいる怪物の数なら、問題なく捌くことが出来る。

「タッドポウル、更に来ます……」

やる気のない成田軍曹の無線。

兵士達が、恐怖の声を上げた。

「畜生、どんだけ倒してもやってくる! 空も陸も怪物とエイリアンだらけ! ここは本当に地球なのかよ!」

「全部ブッ倒せ! そうすれば地球に戻る!」

「今、人間どれくらい生きてるんだろうな……」

兵士達の声も暗い。

それはそうだ。人食い鳥と恐怖とともに呼ばれたタッドポウルだけではない。怪物は人を食う。

EDFが組織的抵抗を諦めた地域では、今も大量の人が殺され続けている。

民間に出回っているようなショットガン程度で殺せる怪物なんていない。

だからこそ。

怪物を可能な限り此処で殺す。

ブースターとスラスターをフルパワーで噴かし、更に速度を上げる。

体が壊れてしまうだろう。普通の兵士では。

だが、鍛え方が違う。

パワードスケルトンは、そもそも誰でも銃の反動や、過酷な戦闘に耐えられるように作り出されたものだ。

だが、それを更に体を鍛えたものが使いこなしたら。

雄叫びを上げながら、片っ端から怪物をスピアで貫く。斜面を登ってくる怪物が、攪乱される。

いつもやっていることだ。もはや勘で攻撃は避ける。

大兄ほど鋭くなくても、間近にある殺気は感知できる。それが殺気では無く、単に感覚を研いだから分かるものでもいい。

ともかく対応できる。理屈なんて、どうでもいい。

殺す。

貫く。破壊する。

必死に這いずってくるコロニストが見える。全身ぼろぼろで、手を伸ばしているのが見えた。

殺そうと握りつぶしに掛かっているのは分かる。

だが、それは助けを求めているようにも見えた。

そのまま、頭を吹き飛ばして介錯する。大兄が見逃したとは思えない。戦闘能力がないと判断して、放置したのだろう。或いはほうっておけば死ぬと。

大兄ですら、そこまで余裕がなくなっているのだ。

いつの間にか、怪物は全て駆除しきっていた。

すぐに味方の所に戻る。ニクスが、飛来するタッドポウルを撃ちおとしている。ストーム3の暴れぶりが凄まじいが。手が足りていない。不慣れな兵士達は、フレンドリファイヤをおこしそうな有様だ。

すぐに味方に加わる。数匹飛んでくるタッドポウルが火を吐こうとした瞬間、口の中にスピアを叩き込んで串刺しにしてやる。

おおと、驚きの声が上がった。

空中戦でも、直線的に動きはなるものの。条件が整えばウィングダイバーなみにやれる。それを見せてやる。

「タッドポウル、まだ来ます……!」

「一華、まだいけるか!」

「出来れば弾倉交換を!」

「よし……」

大兄が弾倉を交換しはじめる。タッドポウルが見えてきた。何とか間に合うか。

三城が前衛に出ると、コアのエネルギーをチャージし始める。誘導兵器で、時間を稼ぐ構えだ。

ストーム3は、見ると傷だらけだ。

乱戦で食いつかれたり、炎を浴びたりしている。

それでも闘志を捨てていない。

流石という他ない。

「弾倉交換、完了!」

「よし、鳥共を叩き落とせ! 落とした後は俺たちがやる!」

前衛がもう来ているが、それは三城が誘導兵器でまとめて叩き落とす。ニクスが機銃をぶっ放し、まとめて編隊飛行してくるタッドポウルを叩き落としていく。

苛烈な戦闘は更に続く。

「卵形の宇宙船が見つかれば……どこ……一体どこに……」

「まだそんな事を!」

「敵の旗艦を見つければ、落とせば……勝てます! それ以外に、もう勝ちの筋はありません!」

「確かに旗艦を見つけて落とす事が出来れば、逆転勝利が見えてくる。 だが、既に我々の戦力は消耗し尽くしていて、旗艦と戦えるかも怪しい。 それにそもそも、卵形の船とやらが旗艦の可能性だって少ない! 我々は現実を直視し、少しでも勝ちの可能性が高い選択をしていかなければならない立場だ! それをわきまえてくれ!」

通信を切れと、千葉中将が指示したのが聞こえた。

戦略情報部は混乱している様子だ。

確かに、兵士達の士気が下がる。

作戦を立てている部署がこんな有様なのだ。これが皆の知れるところになったら、それこそ兵士達は逃亡し始めかねないだろう。

更にタッドポウルが来る。

だが。これだけの数、流石にハラスメント攻撃にしても妙だ。

ひょっとしてだが、プライマーの戦力は。無意味な波状攻撃の結果、消耗し始めているのか。

怪物がその辺りで勝手に繁殖し始めているのもおかしい。

戦力があるのだったら、そもそも持って来れば良い。生物兵器なんてものは、コントロール出来なければ意味がない。

無秩序に増えて言う事を聞かなくなったら、駆除どころではないのだから。

一華のニクスが。殆ど完璧にタッドポウルの編隊を叩き落としていく。兵士達も必死に戦っているが。それでも被害は出る。

二時間以上戦い続けて、やっと戦闘は完了した。

すぐにキャリバンを呼んで、負傷者を後送する。

ストーム3は、全員満身創痍だった。

タッドポウルの数が多すぎたのだ。落ちてきたところを狩る分には良かったが。その過程で炎を浴びたり噛まれたり。

これほどの手練れでも、どうにもならないか。

「ストーム隊、負傷者多数。 これでは……」

「タッドポウルの撃破数は類を見ない程だ。 タッドポウルの増殖については情報もない」

「それは……」

「必ず、少しずつ有利になっている。 兵士達の戦死もない。 復帰し次第、死線を乗り越えた熟練兵として活躍してくれるはずだ」

成田軍曹に、大兄が諭している。

そして、撤退を指示。

周囲は怪物の死体だらけ。これを掃除している暇も、焼却処分している余裕もない。山の獣たちが片付けるだろう。だが、これほどの数の死体、絶対に処理しきれない。ハエやらゴキブリやらが大量発生するだろうが、それはもはやどうしようもない。

大型移動車に到達。

ニクスもかなりやられていて、厳しい表情を長野一等兵がする。装甲はどうにか出来るというが。

それでも、やはり。先が見えないのも事実だった。

 

東京基地に久々に戻る。そこで、千葉中将の所に、ストーム1が全員呼び出される。他のストームチームのリーダーもリモートで呼び出された。ジャンヌ大佐は疲れきっている様子だった。

富士平原の戦いで、部下も更に失い。今もかなり厳しい状況で戦闘を続けているのである。無理もないだろう。

鉄の女とか言われていたジャンヌ大佐も。

疲れが見えると、少し気の毒になってくる。

追加の人員は、来る筈もない。

ストーム1が何とか生還させた各基地のウィングダイバー隊も、ストーム4の投入されているような戦場に出たら戦死が確定だ。

それに、今はもう各基地を守るので精一杯。

どうしようもない。

千葉中将は、短時間で十年以上は老けたように見えた。

一気に重圧が来ているし、ろくに休めもしないのだから当然だろう。

「幾つか、皆に話しておきたい事がある」

「伺いましょう」

荒木軍曹が、率先して話をしてくれる。

一人だけストームチーム隊長の中で准将である事もあり。更に他の隊長が率先してリーダーシップを取らない事もある。

他の隊長も、嫌そうにはしなかった。

「東京地下への市民の避難は進んでいるが、このままだと危険だ。 そこで私は、敢えて地下を出て、地上施設にて指揮を執る」

「!」

「プライマーはどうやってか分からないが、我々の居場所をある程度特定している節がある。 以前物資を備蓄しているシェルターが幾つも破壊された事があったし、何より開戦直後に核攻撃施設や空軍施設が優先的に攻撃され、破壊された事もそれを裏付けている」

なるほど。

市民を巻き込まない為、と言う訳だ。

千葉中将はしっかりした倫理観念を持つ大人だ。この地位にいる軍人としては珍しい方なのかも知れない。

そういった軍人は、殆ど目の前で脱落していった。

まだ生きている人もいるけれど。

みんな、レジスタンス活動に移行しているか。負傷して目が覚める様子もない。

「勿論自殺するつもりはない。 ただ、プライマーの攻撃を受ける可能性は飛躍的に上がるだろう。 私はどうにかして、最悪の場合でも逃れるつもりだ。 ただし、地下の市民を巻き添えにしない場所でな」

「分かりました。 必ず生き延びてください」

「米国で、恐らく相当数のインペリアルドローンが展開している。 あの電子妨害能力は凄まじく、既にカスター中将とは連絡が取れない。 中華では同じ状態にはなっていないが、中華は基地局が殆ど全滅していて、連絡が取れない事は同じだ。 項少将が今どうなっているかは……分からない」

戦略情報部は知っているかも知れないが。

必要では無いと判断したことは応えてもくれないと、千葉中将はいうのだった。

それにだ。

各国の戦略情報部は次々に潰されている。

今、恐らく最後に残った部署が、潜水母艦エピメテウスに移動しているらしいという噂はあるらしい。

サブマリンの艦隊が、短時間日本に姿を見せ。

敵が攻撃を開始する前に移動したという話である。

その時に、戦略情報部との連絡が一時取れなくなったそうだ。

そうなると、やはり潜水母艦に移動した可能性が高いのだろう。

ただし、参謀は違うようだ。

参謀については、居場所を既に特定され。そして砲撃を受けたという。

恐らくはもう戦死しているだろう。

そういう話を、千葉中将にされた。

参謀か。

怪物と呼ばれた程の人物だったようだが。それも最後はあっけなかった、と言う事になるだろう。

咳払いすると、千葉中将は言う。

「東京基地の総力を挙げて、レールガンを一両新規に製造した」

「!」

「バルガの整備も何とかなりそうだ。 敵にアーケルスがいる事が分かっている。 もしもの場合は、すぐに出せるように指示を出している。 荒木准将……いや荒木軍曹。 君に、レールガンとバルガの持ち出し許可を与えておく」

「よろしいのですか」

頷く千葉中将。

なるほど、本当に命を賭けてでも時間を稼ぐつもりなんだなと、弐分は悲壮な決意を感じ取った。

もう中将以上の階級の軍人で生きているのは三人だけ。エピメテウスに乗っているバヤズィト上級大将は総司令官で、そもそもエピメテウスが迂闊に動けない以上、指揮を執る事は厳しい。

カスター中将は連絡も取れない。

それについては、恐らくプライマーも把握している筈。

ならば狙って来るのは千葉中将だ。

市民を守るためにも。

同じシェルターにいるわけにはいかない。そういう判断なのだろう。

「東京基地の設備も、地下にどんどん移行している。 地上部分が吹き飛ばされても、継戦能力を残せるようにな。 ただし全ては不可能だ。 防衛用の固定砲台などは放棄するしかない」

「……」

「頼むぞ。 君達だけが……頼りだ」

敬礼すると、その場を後にする。

その後、東京基地の様子を見て回る。確かに急ピッチで機能を地下に移している。トラックが忙しく行き来している。尼子先輩も、大型移動車で大量の物資を運んでいるようだった。

大兄が、それを横目に言う。

「皆に見せておきたいものがある」

「どうした、大兄」

「いいからついて来て欲しい」

三城の言葉に、大兄はそんな風に冷静に返す。

これは、余程のものだなと思い。

一緒に行く。

地下鉄の駅の一つから、下に。酷い汚れようだ。汚物やら何やらが散乱している。不衛生なんてレベルではない。

「各国からの難民が汚しに汚した跡だ。 この国の地下鉄は元々核シェルターの一種としても作られた。 公然の秘密だな。 この辺りは放棄することに決めたらしい。 怪物が攻撃するのも簡単だろうからな」

地下鉄が通っている路線にまで出る。

更に非常口から入って、更に地下に。

コンクリで無骨に舗装された大きめのトンネルに出た。そこには、大量の難民がくらしていた。

最低限の襤褸しか身に纏っていないホームレスが大半だが。

国籍は無茶苦茶だ。

巡回しているのは武装した円筒形の巡回ロボットである。

スタンガンを装備して、いざという時は即座に暴徒を鎮圧できるようにしているようだった。装甲もしっかりしていて、ぶっちゃけアサルトライフルくらいではびくともしないだろう。

兵士はほとんどいない。

それはそうだ。

富士平原の戦いでも、出られる兵士は全て出たと聞く。その内三割が戦死した。ということは、残りの殆どは負傷したと言う事だ。

怪物と戦う兵士はいても。

此処で市民を守れる兵士はいない。

そして市民は決して大人しいわけではない。こんな状況だ。威圧的に見張りのロボットでもつけなければ、あっと言う間にいわゆる世紀末になるだろう。

露骨な反感の視線が向けられている。

東京に来れば大丈夫な筈だった。

それがどうしてこんな事になっている。

そういう視線だ。

だが、違うものもあった。

「あんたら、ストーム隊かい……?」

左腕を失い、左目もなくしているらしい老人が声を掛けて来る。

弐分が敬礼をすると、老人は破顔した。もう姿がぼろぼろすぎて、男性か女性かすらも分からない。

「以前避難中に助けて貰ったんだ。 おかげで家族と一緒に此処に逃げ込むことが出来たよ……」

「そうですか。 幸いです」

老人の周囲に家族らしいものはいない。

いるのは。いや、あるのは人形が幾つかだ。救ったのは恐らく間違いないのだろう。村上班だった頃にだろうが。

救った結果がこれか。

気が弱い人間だったら、目の前が真っ暗になった可能性も、決して低くは無いだろう。溜息が漏れそうになるが、笑顔を保つ。

「勝てるのかい……。 あんたらの戦いぶりは、時々モニタでみるよ。 すごい勢いで、化け物を退治しているけれど」

「可能な限りやってみます」

「そうかい。 そうかい……」

敬礼して、その場を離れる。

三城が目を擦っているのを見たが、誰も何も言わない。一華だけが、露骨に溜息をついていた。

「誰がために戦う、って奴ッスね」

「……今、東京の地下には一千万以上の人間がいる。 東京にプライマーが乱入したら、この全員が殺される。 人類を再建するためにも、守りきらなければならない一千万だ」

そうか。この人々が、人類を再建するための最後の人々になるのか。

いや、違う。

各地の基地の地下や。

怪物の脅威にさらされている山林。

地下の洞窟。それに、荒野で転々と移動している人々。

まだ、そういった人々もいるはずだ。

プライマーの殺戮だって追いついていない。なぜなら、奴らを連日大量に叩き殺しているからだ。

戦いは無駄じゃない。

そう、弐分は自分に言い聞かせる。

「恐らく、そろそろしびれを切らしたプライマーの司令官が出てくる」

「それは勘ッスか」

「そうだ」

「それなら、当たりそうッスね。 リーダーの勘は当たるッスからね……」

一華がほろ苦い表情を作る。

頷くと、そのまま周囲を巡回。雰囲気が険悪な難民も、武装した巡回ロボットが威圧して黙らせている。

早く、こんな最悪な状況から解放するためにも。

勝たなければならない。

そう、弐分は強く誓っていた。

 

4、動き出す終わり

 

静岡の海岸で、戦闘を行う。

壱野が淡々と狙撃し、上陸をして来たテレポーションシップを四隻ほど落とした所で、無線が入った。

周囲は怪物だらけだが、大した数では無い。

自動砲座と、弐分と三城の攪乱戦で充分。一華のニクスが、圧倒的火力で制圧中である。

「ストーム1。 連絡しておく事があります」

「少佐か」

戦略情報部の少佐だ。

若干のノイズが入っている。

やはり千葉中将の連絡の通りのようだ。どうやら戦略情報部は、エピメテウスに拠点を移したのだろう。

エピメテウスはプライマーの最重要破壊目標。

深海にいるのは確定だ。

「まだ生きている軍事衛星が、不審な物体を感知しています」

「不審とは」

「マザーシップに匹敵する質量の物体です。 まだ確定は出来ていませんが、マザーシップの可能性もあります」

「今までに発見されていない新規のマザーシップと言う事か」

そうだと少佐は言う。

五隻目のテレポーションシップを、ライサンダーZで叩き落とす。随伴歩兵がいない艦隊なんてこんなものだ。

無理に上陸をして拠点を構築しようとしたのだろうが、全て叩き落としてやる。

開戦当初に好き勝手をした礼を、充分にさせて貰う。

転送されてきた怪物も全て駆逐する。

一体残らず消し去る。

それが壱野が今、やるべき事。

東京基地のこんな近くで、好き勝手を出来ると思って貰っては困る。それだけの話である。

「今までどこにそんなものが隠れていた」

「恐らくは宇宙空間でしょう。 それと、貴方には話しておきます」

「?」

「実は今までにも、テレポーションシップと同等かそれ以上のサイズの未確認物体が、プライマーの到来以降は宇宙空間で確認されていました。 地上に来る事はなかったので戦略情報部としては無視していたのですが、これも或いは、何かしらの目的があって動いているプライマーの兵器だった可能性もあります」

それは気になる。

だが、今は怪物の拡散を抑え。

敵を追い払うのが先だ。

テレポーションシップが動きを止めると、海上に戻り始める。上陸は不可能だと判断したのだろう。

まだまだEDFは戦力を失っていない。

それを見せつけてやることが重要だ。

明らかに敵は焦っている。物量を生かせず、ストームチームにぶつけては毎回記録的な被害を出している。

何があるのかは分からない。

ただトゥラプターのような奴がいるという事は、奴らには何かしらの社会があると言う事だ。

総司令官のような奴がいるとしたら。

これだけの被害を出していることを、上司に詰められている可能性はある。

たかが地球相手に、怪生物の大半を失い、移動基地を複数破壊され。挙げ句の果てに人類の抵抗を未だに排除できない。マザーシップは憶病な運用を続け、抵抗も出来ない相手に主砲を放つだけの風船と化している。

焦って総司令官が出てくる可能性は高い。

勘が告げている。

楽観の可能性もある。こんな戦況だから、いいように信じたいと。

だが、壱野はまだまだ存分に戦う自信がある。

ここで楽観に屈するほど、精神が脆いとは自分で思ってはいなかった。

「何か、他に隠している事はないか」

「特にありません。 エピメテウスは、これから太平洋の深部に潜水艦隊とともに避難しますが、もしも何か大きな動きがあったら浮上し、作戦の指揮を執ります。 幾つか重要な迎撃作戦の準備は進めています。 その時には、作戦行動を依頼するかも知れません」

「分かった。 出来るだけ勝率が高い作戦を頼む」

「了解しました。 善処します」

通信が切れる。

テレポーションシップが逃げていったこともある。敵は既に残党に過ぎず。駆逐するのにそう時間は掛からなかった。

死体を確認するが、α型とβ型ばかりだ。

飛行型やタッドポウル、γ型もいない。

これはやはりというべきか。重要な作戦に温存しているのか、或いは。

いずれにしてもはっきりしているのは。やはり敵も戦力が困窮し始めているのは間違いないということだ。

目だってエイリアンを。コロニストもコスモノーツも。見かける事は少なくなってきている。

見かけたら殺しているからだ。

元々体を改造していることは確実。

コロニストもタッドポウルも、そのまま繁殖することはあり得ないだろう。α型をはじめとする怪物は繁殖しているようだが、それも現場を見る限りどうにもいびつな印象を受ける。

マザーモンスターは別物として用意されていて。

戦闘向けや。或いはクローンを生産するための改造を施されているのではあるまいか。

いずれにしても、此処での戦闘は勝利だ。

地上に移ったことで、千葉中将との通信は却ってクリアになった。

皮肉な話だが。

なお、千葉中将は今栃木に移動して、其処に総司令部を置いている。

東京から遠すぎず近すぎずの場所だ。

千葉中将自身の周囲には、決死の覚悟で残った支援要員のみ。

本当に、覚悟を決めて行動をしているのだとよく分かる。

「敵部隊を撃滅。 次の作戦をお願いします」

「助かった。 次は九州に向かってほしい。 また大陸から、かなりの規模の部隊が来ているようだ」

「了解しました。 全て駆逐します」

さて、なんぼでも連れてくるがいい。全部まとめて片付けてやる。

そして焦って降りてこい。

トゥラプターの今までの言動を見ていて分かった事がある。

彼奴は総司令官が存在するとしても、それを全く尊敬などしていない。

あいつは地球人の中にも滅多にいない、筋を通す事が出来るやつだった。バトルジャンキーであることは事実だが。筋を通せるだけで充分に立派だ。

それに微塵も敬意を払われていないと言う事は。無能か、人格に余程問題があるという事で。

そして無能である可能性が、今までの作戦行動から見て、極めて高い。

更に言えば、そんなのに権限を集中しているのなら。恐らくは発見さえ出来れば叩きつぶせる好機がある。

とはいっても、油断は禁物だ。

怪生物並の戦闘力があってもおかしくはないのだから。

輸送ヘリが来る。ボロボロだ。いつ落ちてもおかしくない。

皆をまとめて乗り込みながら。

壱野は、どのような敵が来ても撃退出来るように。

心身ともに牙を研ぐのだった。

 

(続)