聖剣降臨

 

序、救援作戦

 

欧州からの連絡が途絶えた。完全なロストだ。

既に、絶望的な状況ではあった。

それは分かりきっていた。

だが、ついにというところだ。

少しでも生存者を探して、救出してほしい。そう指示を受けて、村上班は荒木班、グリムリーパー、スプリガンとともに向かう。

欧州ではフランスとイギリスでEDFの残存戦力が抵抗を続けていたが。

現在、両方から通信が途絶している。

壱野は両方。

英国のジョン中将とも、フランスのバルカ中将とも戦闘で関わった事がある。英国のジョン中将とは、面識もあった。

だからこそに不安だが。

もう、覚悟は決めておくようにと言われていたし。

とうにそれは出来ていた。

二手に分かれる。

もう、日本や米国にすら戦力がなくなりつつある。なんでも米国にて、各地で蹂躙戦を終えたらしいディロイが大量に集結しているという話がある。

欧州での救援作戦が終わったら。

いや、恐らくだが。

全滅の確認を終えたらだが。

とんぼ返りして、ディロイの大軍と決戦だ。

米国に最新鋭のニクスを集めているという話もある。

大規模な戦闘になるだろう。

輸送機と高速揚陸艇を何度か経由して、二日で欧州に到着。壱野達村上班は、荒木班とともにフランスに。

グリムリーパーとスプリガンは、イギリスに。

それぞれ上陸した。

周囲にスカウトが少数展開し、すぐに戻ってくる。

全員、逃げ帰ってきたという様子だ。

すぐ後ろには、海上に停止している強襲揚陸艦から上陸するために使ったホバーがいる。

ニクス二機と補給車、大型移動車とキャリバン。それにタンク二両を乗せて移動出来るほどの大型ホバークラフトだが。

それに逃げ込みたいという顔をしていた。

「状況は」

「ど、ドローンの街です……!」

「数は不明。 あらゆる種類のドローンがいます! 赤い奴も、赤黒い奴も……!」

「インペリアルドローンか……!」

荒木軍曹が呻く。

今回、レールガンは搭載してこなかった。まあそれはそうだろう。レールガンを持ち込める状況では無かった。

EDFは仲間を見捨てない。

そういう不文律がある。

市民は既に全て脱出させたのだ。

だからこそ、此処の辺りにいるのは。生き延びて、必死に交戦を続けていたバルカ中将の部隊だったはず。

歴戦の部隊だった筈だが。

既に、姿は見えないという。

それに、ドローンは全て待機モード。つまり戦闘を想定した動きをしていなかったという話だ。

それが何もかもを説明していると判断して良かった。

それでも、荒木軍曹は動く。

「聞け。 ドローンが舐めて掛かっているだけで、歴戦の猛者達は生き延びている可能性はある。 これから街を奪還する!」

「し、しかし……」

「此方にいるのは人類最強の村上班だ。 この程度のドローンならやれる」

「……」

人類最強でも、勝てないかも知れない。

そうスカウト達は、顔に書いていた。

ともかく、出ることにする。

もう、確かにびりびりと気配がする。最後にフランスにいたEDFが拠点にしていた港町には、恐ろしい数のドローンが到来していた。

彼方此方にある大量の怪物の死体。

戦闘で倒されたと見て良い。

そして、散らばっている人骨。

殺されて、バラバラになったまま、そのままにされていたか。

それとも、骨だけ排泄されたか。

いずれにしても、戦闘の跡だ。

周囲を見回すが、生きた人間の気配はない。

スプリガンに言われた。

バルカ中将は、脱出させてくれたと。だから、冷静に戦える保証がない。君達が、戦って様子を見てきて欲しいと。

分かっている。

だからこそ、ここに来ている。

味方の全滅を確認するとしても。まずは、街にいるドローンどもを片付けて、少しでも味方の負担を減らす。

此処にいる敵は、いずれ他の戦線に出向いて。いや殺到して。市民や兵士を殺しに掛かるのだ。

だったら、此処で排除しておく。

それだけの話だった。

「レッドカラー7、インペリアル4。 タイプワン、タイプツー、ともに500機前後というところですね」

「相変わらず無茶な数だぜ畜生……」

「片付けます。 支援をお願い出来ますか?」

「ああ、任せておけ」

荒木軍曹は、まだブレイザーを支給されていない。

完成前に不具合が発見されたらしく、残念ながら支給までまだ少し時間が掛かるのだそうだ。

致命的な不具合があるまま渡されるよりいい。

いずれにしても、荒木軍曹自身が強いので、別に気にならない。

普通に戦うだけだ。

まずは、自動砲座を展開。

いつものように野戦陣地を構築。

煉瓦造りのモダンな港町は、もうドローンに占拠されている。

だからこそ、その片隅に。

奴らの墓場を、今から作ってやる。それだけのことだ。

まずは、ドローンの群れから離れた瞬間に。レッドカラータイプワンを狙撃。

反応するが、しかしながら他に反応するドローンはそれほど多く無い。更に言うと、強化を重ねているライサンダーZによって。以前は空飛ぶ鉄壁だったレッドカラーにも、相当なダメージが入っているのが分かった。

飛来するドローンの群れ。

雑魚は皆に任せる。

その間に壱野は動く。

射撃体勢にレッドカラーがどのタイミングで入るかは分かっていた。建物の中に入ると。既に誰も使っていないその中を駆け上がり。窓から半身を乗り出す。

ばたばたと風が吹き込んでいる中。

狙撃。

レーザー砲をぶち込もうとしていたレッドカラーに直撃。大きく揺れて。レーザー砲は地面から見当外れの地点を抉りつつ、空に抜ける。地面の一部が溶解する程の出力だが、外れるように銃口を逸らすことまで狙って撃った。

更に、体勢を立て直そうとするところに、もう一射。

逃げるまもなく、爆散するレッドカラー。

さい先は良し、と。

そのまま建物の中を駆け下りて、外に飛び出ると同時に上に銃口を向け。射撃。

飛んでいたドローンを粉砕する。

いたのは比較的頑強なタイプツーだったが、正直ライサンダーZの火力の前には関係無い。

此奴に耐えられるドローンは、レッドカラーとインペリアルだけ。

インペリアルはかなり硬いが。それでも今は此方には来ていない。気にする必要はない。

皆の所に戻る。

「レッドカラーは片付けました」

「流石だな。 こっちももう終わった」

「流石にこの程度なら大将ほどの速度ではやれないが、楽勝だぜ」

「油断するなよ。 アーマーに蓄積したダメージが、予期せぬところで大けがにつながる可能性がある」

小田中尉が言うが、浅利中尉が釘を刺す。

荒木軍曹は淡々と結果だけを伝えてくる辺り、あまり軽口を聞く気にもなれないのだろう。

この状況。

生存者がいるとは、思いにくい。

ともかく、片っ端から敵を片付けて行く。

レッドカラーをまず処理する。

高速で変態機動をするレッドカラーだ。しかも火力は桁外れ。弐分と三城にも話はして、場合によっては狙ってほしいとも言っておく。

自動砲座は今の時点では保険だ。

釣りに失敗して、大量のドローンが反応した場合に用いる。

ニクスも同じく。

現時点では建物の影に隠れていて、いざという時だけ出て貰う。ただその間一華は遊んでいる訳ではなく。

電波探知を行って、周囲に生きているEDF隊員や、市民がいないか探して貰う。

インペリアルが電子戦機であることは分かっている。

だから難しいと思うが。

それでもやってもらうしかない。

「三ブロック先、微弱な電波反応があるッスね。 座標、送るッス」

そう一華が言ったのは。

三機目のレッドカラーを撃墜した時だった。

インペリアルは戦闘力が高いので後回しである。今回はレールガンもいない。だが、敵の数の割りには、かなりのペースで駆除を進められている。

しかしながら、此処はもう敵のホームグラウンド。

もたついていると、増援が来るだろう。

「よし、俺が探しに行く。 お前達はそのまま戦闘を続けてくれ」

「イエッサ!」

「大将、次の釣り出し頼むぜ」

「了解しました、小田中尉」

そのまま狙撃。

レッドカラーの動きを見切り、更にはライサンダーZの弾の速度も分かっている。

だから、当ててから放つ事が出来る。

勿論敵集団は、攻撃を受け始めていることに気づいているだろう。

何処かのタイミングで、一斉に襲ってくる可能性もある。

だから、自動砲座を撒いて備えているし。

大物から順番に削っているのだ。

レッドカラーに直撃。

二十機ほど、タイプワンツーの混合部隊が来る。ただ、二十機だったらこの戦力の相手にはならない。

壱野はレッドカラーの相手にだけ集中。

此方に来る途中に、二撃目を当て。

更に走りながら敵の注意を惹き。

敵が高火力レーザー砲を放とうとした瞬間。

そのレーザー砲そのものに、三射目を叩き込んでいた。

爆発。

レッドカラーが、今までにない大爆発を起こして、墜落していく。

炸裂した破片が、もはや人住まぬ街で燃えさかっている。

これはひょっとして。

レーザーを放とうとした瞬間が弱点か。

今のは偶然やった事なのだが。

思ったよりも、良い情報だったかも知れない。

もしもこれが他の兵器にも共通しているとしたら。勝機が見えてくる可能性もある。ただし、同じ事を他の兵士達に真似できるとは思えない。

壱野が、あくまで対応できる範囲で。

他には弐分と三城。それに一華。後は荒木軍曹くらいだろうか。

狙撃の名手に、伝えておくのが良いかも知れない。

ただ、一度だと偶然の可能性もある。そのまま、戦闘を続行する。

皆の所に戻る。ドローン二十機が、もう撃墜し終わっていた。

荒木軍曹も戻ってくるが。

首を横に振っていた。

「既に白骨化した死体の一部だけがあった。 ネームタグは回収してきた。 側にバイザーの残骸があった。 最後まで戦い抜いた隊員が、怪物に食われてしまったのだろう」

「……畜生。 間に合わなかったってのかよ」

「その様子では、もうどうにもならなかっただろう」

激情を口にする小田中尉に、相馬中尉がニクスの中から言う。

タンク部隊はまだ後方に控えて貰っている。まだ、弾薬を温存すべき状況だし。何よりも、だ。

対空戦は、どうあっても出来るとは思えない。

「続けてくれ。 レッドカラーをまずは削りきる」

「分かりました」

狙撃。

すぐに飛んでくるレッドカラーを、優先的に始末する。

狙えるようなら狙うが。今度はそこまで上手くやれなかった。レーザーを放つ瞬間、か。

それが弱点になるのなら。

だが、それにはまだ厳しい。

「当ててから放つ」。

弓の極意だが。銃でも同じ事は出来る。

ただ、「当ててから放つ」でも、おそらくその先にはまだ果てしない技量の壁があると壱野は思う。

今やろうとしているのは、その壁の一枚先だ。

無言で、爆散したレッドカラーを確認。

皆の所に戻った。

程なくして、レッドカラーは駆除完了。

此処からは、インペリアルだ。

複数を同時に呼ぶわけにはいかない。インペリアルドローンの戦闘力は、次元違いも良い所だからだ。

後方に控えている兵士達にも声を掛ける。

彼らは怪物の増援が出た時などのために控えて貰っている。

今回は村上班と荒木班で片付けるつもりだが。

それでも敵地だから、念のために展開して貰っているだけだ。

本来なら英国の方に回したかったくらいなのだが。

本部でも、可能なら生存者は助けたいと思っているらしい。

何もかもが遅すぎた気もするが。

ともかく、やるしかない。

インペリアルを狙撃。

反応した。

飛行速度が比較的遅いが、とにかく気配がない。しかも、雨が降ろうが関係無く、音もなく飛んでくる。

奴は低空飛行に移ると、建物を壁にしながら此方に来る。

だが、そうだろうと思っていた。

幾重の建物の間。

路地を抜けた先を、奴が通り過ぎようとしたときにもう一発当てる。流石に慌てたのか、上空に出て射撃をしてくるが、間合いに入っていない。周囲に多数パルスレーザーが着弾して、激しく石畳を傷つけるが、命取りだ。

三射目を喰らわせる。

弐分と三城も、それぞれガリア砲とライジンを叩き込む。

結果、大きな隙を晒したインペリアルドローンは爆散。空中で粉々になって、吹き飛んでいた。

「おおっ……!」

「これは、俺たちの出番はないかもな」

タンク部隊の声がするが。恐らくそんな甘い相手ではないだろう。

一華が通信を入れてくる。

「リーダー。 インペリアルが一機いなくなって、電波障害が弱くなったッスよ。 このままお願いするッス」

「分かった」

「よし、終わり終わり!」

ロケランをタイプツーに叩き込んで、黙らせた小田中尉。

こくりと荒木軍曹が頷く。

次を頼む、と言う事だ。

頷いて、またインペリアルを撃ち抜く。

そのまま淡々と戦闘をして行く。

やはりインペリアルドローンは、かなり小賢しい戦闘プログラムが仕込まれているようで。動きが非常に癖が強い。

だけれども。もう一度戦った相手だ。

あの凶悪なパルスレーザーに気を付ければ得に問題は無い。ともかく近付かせなければいい。

飛来する途中で、三城のライジンから放たれた高出力レーザーが直撃して揺らいだ所に、更にライサンダーZの弾丸を叩き込み。

途中で粉々に消し飛ばす。

更に次。

そして、インペリアルドローンを駆除し終えると。残りの雑多なドローンが、一斉に動き始めていた。

雑魚ばかりとは言え、数も数だ。

荒木軍曹が、声を張り上げる。

「来たぞ、皆の所にも襲いかかってくるはずだ! 総力戦用意!」

「タンク部隊、対空戦闘、行う!」

「対空戦準備!」

「雑魚が相手だ! 無駄死にはするなよ!」

荒木軍曹がタンク部隊に注意を促す。

そのまま、多数飛んでくるドローンを迎撃。タイプツーを優先して撃破していく。

タイプワンのレーザーは、よほど集中して喰らわない限り、もう普通の兵士に支給されているアーマーでも致命傷にはならない。

出力が大きいタイプツーの攻撃が危険なのだ。

しばし、防御円陣を組んで激しい戦闘を行う。その間に、一華は周囲を電波探知してくれる。

妨害をしてくる奴がいなくなったから、当然の行動だ。

激しい戦いをし。次々にドローンが落ちる。

味方の悲鳴が上がり、キャリバンに担ぎ込む様子が見える。

任せるしかない。

壱野は淡々と、確実に危険度が高い相手から屠って行く。

ただ出来るのは、それだけだ。

「見つけた。 恐らく司令部ッスねこれが……」

「よし。 ……バルカ中将は、余命宣告を受けていたそうだ。 だが、ひょっとしたらまだ生き残りがいるかも知れない。 此奴らをさっさと片付けて、救援に出向く!」

「おおっ!」

兵士達が気勢を上げる。

ドローンの大軍を、程なく完全に沈黙させる。数名怪我人が出たが、その程度で済んだのは幸いだ。

相馬中尉のニクスが一番活躍したかも知れない。

途中からは、一華のニクスも加わったが。それまではずっと戦闘していたのだから。

「今のうちに補給をすませろ! 小田中尉、浅利中尉、ついてきてくれ。 相馬中尉は、この場で対空防御。 俺と二人で、司令部を見て来る」

「くれぐれも気をつけてください」

「分かっている」

荒木軍曹が、二人と行く。

壱野は嫌な予感を覚えながらも、その背中を見送るしかなかった。

 

1、誰がために

 

荒木は皆に軍曹と呼んでくれと言っているが。既に階級は大佐。それも准将に昇進が内定している。

EDFには大きな恩がある。

だが、その後ろ暗い部分についても、理解はしているつもりだ。

全てを肯定すること。

全てを否定すること。

それは同じく思考停止だ。

EDFに恩があるからこそ、よきは伸ばし、駄目なら指摘する。それをするべきだと荒木は思っているし。

その行動こそが、荒木の立場の人間がするべき事だとも思っていた。

EDFの主要な母胎となった一つである米軍には、その気風があった時期もあるらしい。

だがEDFにも後ろ暗い事はたくさんある。

今でも、くだらない政治闘争が続いている。

こんな状況でもだ。

正直、壱野をさっさと中将くらいに任命して、戦闘でのオールグリーンライトを渡しても良いと思うほどなのだ。

彼奴の戦力を考えれば、それくらい当然なのに。

それなのに首脳部だけでは無い。多くの人間が、壱野の戦闘力を怖れている。

壱野だけでは無い。

弐分と三城も、壱野には劣るものの凄まじい使い手だ。一華だって、ニクス乗りとしては超一流だし。戦場を見通す目については優れている。戦略情報部が村上班に貸し出している成田とか言うオペレーターなんか、問題にもならないだろう。

その四人をどうにかして掣肘しようとして、一部の人間は必死になっている。

プライマーとの戦いに全力投球すべきなのに。

それが出来ず。

後の事を考えているのだ。

欧州が全滅しかけていて。

中華でも北米でも、押されっぱなしの今でも、である。

EDFはそんなだからここまでやりたい放題に攻撃されているのだ。

そうぼやきたいくらいだけれども。

しかしながら、そうも言っていられないのが、悲しい現実ではあった。

指定地点に到着。

小田中尉はロケットランチャーゴリアスを背負い、アサルトを手にしている。浅利中尉は、アサルトを手にスナイパーライフルを背負っている。

二人とも、優れた戦士だ。

ハンドサインを出して、司令部だったらしい場所に踏み込む。

むっとした血の臭いだ。

奧へ向かう。

点々と、命を落とした兵士の残骸が散らばっている。

ヒトの形をしたまま死んだ兵士はいない。内部にまで、怪物が入り込んだのだと見て良いだろう。

そして、奧には。

敬礼する。

指揮デスクがあった。古くなった血が飛び散っていた。

バルカ中将は、もう瀕死の状態でも指揮を執り続け。入ってきた怪物相手に、攻撃しようとして殺されたのだろう。

骨が、彼方此方に散らばっていた。

酷い殺され方をしたのは一目瞭然。

皮肉屋の小田中尉すら、何も言わなかった。

周囲を探す。

何か残されているかも知れない。指揮デスクも酷く傷つけられていたが。引き出しの中に、何かあった。

データが入っているらしいメモリだ。

厳重に封がされている。これは恐らくだが。

バルカ中将は、最後まで戦う事を諦めなかった。ひょっとしたら、欧州の敵の動きなどのデータかも知れない。

これこそ、最後まで軍人であったバルカ中将の遺品だろう。

「すげえ戦士だったとは聞いていたが。 本当に凄い人だったんだな……」

「ああ。 だからこそ、意思はつなぐ」

「分かりました。 村上班と、相馬中尉と合流しましょう」

「……」

戻る。途中、見かけたらネームタグも回収していく。これは、生存者はいないと見て良いだろう。

外に出ると、バイザーに通信。

一華少佐からだった。

「荒木軍曹、急いで合流してほしいッス」

「敵の増援か」

「……もうかなり近いッスね」

「分かった。 皆、乗れ」

司令部で見つけたジープ。横転していたが、まだ動く。乗って、急いで皆の所にまで行く。

空に、点がぽつぽつと見え始めた。

それが怪物の群れだと気づくのに、それほど時間は掛からなかった。

「何か見つかったッスか」

「ああ。 バルカ中将の残したデータだ」

「私が受け取るッス。 データを本部のデータサーバに転送するッスよ」

「分かった、そうしてくれ。 俺たちが生き残れるか分からないからな」

敵の数は増える一方だが、どうも此方を気にしている様子は無い。

飛行型と、空飛ぶ人食い鳥の二種類。それだけじゃあない。超大型の飛行型。しかも赤黒い。

以前飛行型の女王。クイーンと呼ばれる怪物が何度か確認されている。奴らの巣でも確認されているし。飛行型が初めて日本に姿を見せたときも現れた。

それとも色が違う。

より攻撃的で、毒々しい配色だ。

「壱野中佐」

「はい、荒木軍曹」

「あの超大型、少し他と距離が離れている。 彼奴を撃ってくれるか。 先に始末してしまおう」

「分かりました」

ほぼノータイムで、狙撃が行われる。

如何に五十メートル以上もある巨大な飛行型でも、直撃すれば無事ではすまない。それが変異種であってもだ。

大きく怯む変異クイーン。

兵士達の声が聞こえる。恐怖の声だ。

「あの怪物共が、欧州の人間をみんな食いやがったんだ!」

「生き残りを食って、戻ってきたに違いないぞ!」

残念だが、恐らくは違うだろうなと荒木は思った。

欧州で最後に生き残っていた人間は、バルカ中将が逃がした。そのバルカ中将が率いていた最後の交戦部隊も、あの様子ではかなり前に全滅してしまったのだ。

ならばあの怪物どもは。

恐らくだが、ドローンの全滅を察知して、様子を見に来た連中。

そして、奴らを倒しても、次が来るだろう。

適当な所で切り上げるしかない。

更にもう一射、壱野が変異クイーンにライサンダーZを叩き込む。

それで、多少の飛行型が反応した様子だ。此方に飛んでくる。攻撃ヘリなみの速度で、である。

「浅利、もっとスピード出無いのかよ!」

「これが限界ですよ!」

「二人とも、このままでいい。 あの数の飛行型なら追いつかれても問題は無い。 むしろ事故を起こして、バルカ中将の意思を失う訳には行かない」

「……そうですね。 皆を信じましょう」

焦らず、そのまま行く。

誘導兵器の光が飛んできて、此方に来る飛行型に襲いかかるのが見えた。その下を急ぐ。

変異クイーンに近付かれると厄介だ。

そして奴も飛行型。ダメージを受けると、どんどん高度を落としていくようだった。

荒木はそこで、タンク部隊に指示を出す。

「タンク、変異クイーンが高度を落としている。 射撃出来るか」

「やってみます!」

「よし、射すくめろ!」

タンクが手際よく展開。兵士達も、一斉にスナイパーライフルを構えた。補給車に相応の武器は積んできているのだ。

射撃開始。

一斉に戦車砲が叩き込まれる。巨大なクイーンは、近付くことさえ出来ずに、何度も怯むが。

流石に変異型。それでも中々死なない。

そうこうしているうちに、最初に反応した飛行型は、相馬中尉のニクスの機銃で。誘導兵器で拘束している所を全部叩き落とされていた。

良い腕をしている。

一華には、分析を頼んでいる。まだ出てこなくてもいい。

皆と合流。荒木は走ると、コックピットを開けた一華の所に行く。そして、血染めのデータを引き渡す。

頷くと、一華はすぐに対応してくれる。

どうやら飛行型だけではない。人食い鳥も反応し始める。

ここからが、総力戦になる。

「よし、総力戦だ! この敵軍を蹴散らし次第、撤退する! 残念ながら、誰かを助けられることはなかった! だが、バルカ中将から俺たちは意思を引き継いだ! あれほどの将軍だ! きっと何か、勝利のためのヒントを残してくれている!」

「おおっ! EDF! EDF!」

兵士達が、殺到してくる飛行型と飛行エイリアンと呼ばれる人食い鳥に向けて、激しい銃撃を続行する。

自動砲座も展開。

出し惜しみしている状況では無い。

タンクは前に出て、壁になりつつ変異クイーンへの射撃を続行。地面に貼り付いたまま、変異女王は飛び立つことさえ出来ない。

空を飛ぶというのはデリケートな行為だ。

だからこそ、例え火力が桁外れでも。動けないように拘束してしまえば。この通り、完封も可能だ。

壱野のライサンダーZが直撃すると同時に、変異クイーンが消し飛ぶ。

他の怪物同様、ダメージが一定以上蓄積すると、ああなることがある。

同じ事だったのだろう。

「ざまあみろっ!」

「敵、更に来ます!」

「増援部隊は、α型とβ型の模様!」

「……俺たちで処理します。 荒木軍曹、頼めますか」

壱野の声が据わっているのに気づいた者は、どれくらいいるだろう。

荒木は頷くと、相馬中尉のニクスを中心に、対空迎撃陣を組んで、迫る飛行型と人食い鳥を迎え撃つ。

ニクスの機銃を主力にして、徹底的に接近前に叩く。それでも接近はされる。タンクは勇敢に壁になって、必死に兵士達を守る。ダメージがどんどん蓄積されていくのが見える。

正面からの攻撃なら、戦車砲すら防ぎ。

初期のように、α型の酸を喰らったらクリームのように装甲が溶かされていた状況とはもうだいぶ違うが。

それでもダメージがどんどん蓄積して行くのは同じだ。

「くっ! タンク1、後退する!」

「かまわない! もう少しだ、押し返せっ!」

「軍曹っ!」

「!」

躍りかかってきた人食い鳥。

だが、至近距離でスナイパーライフル一撃。

文字通り吹っ飛んだ人食い鳥が、無惨な姿で散った。

危なかった。今下手をすると、そのまま食われて上空に連れ去られていただろう。

「有難う小田中尉!」

「良いって事よ! あんたがいないとみんな困るんだ!」

「よし、そのまま残敵を片付ける! バルカ中将の弔い合戦だ!」

「おおっ!」

敵の群れを片付ける。

それが、例えバルカ中将を直接殺したかどうか何て関係無い。

ただ今は。

必要な事だった。

 

α型とβ型の群れ、合計二千ほどの敵を処理して村上班が戻ってくる。涼しい顔で、とんでもない規模の敵を倒してきたものだが。流石にニクスは傷だらけだったし、負傷もしていた。

ホバーで合流すると、引き上げに掛かる。

ほぼ同時に、ジャムカ大佐とジャンヌ大佐からも連絡が来ていた。向こうは同格の大佐が二人と言う事で指揮系統が心配されたこともある。千葉中将が戦場での指揮を執ってくれたようだ。

全ての結果を伝える。

そうすると、千葉中将は大きく嘆息した。

「そうか……。 バルカ中将が、余命間もない事は把握していた。 だが、そのような」

「英国は……」

「ジョン中将も戦死していた。 バーミンガム基地とともに玉砕した様子だ。 だが、その結果怪物の大軍も道連れにして。 今、生き延びた市民を救出している。 各地で逃げ遅れた市民を、必死に救出して。 囮になってジョン中将が……」

立派な人間から。

順番に死んで行く。

荒木は、それをまた思い知らされていた。

バルカ中将はずっと陣頭の猛将として、重病なのに戦線に立ち続け。最後まで敵を引きつけて、散って行った。

ジョン中将は誤解され易い性格だったが、移動基地攻撃作戦では的確な戦闘指示を見せていたし、柔軟な戦術を行使できる得がたい司令官だった。

こんな所で死んでいい人物だったのだろうか。

そう思うと、悔しくてならない。

ただ、バルカ中将は何かのデータを残してくれた。

ジョン中将は逃げ遅れた本当の意味での弱者を守って散って行った。

今、まだ政治的な駆け引きがどうので、ああだこうだと揉めている連中とは全くという程違う。

どちらも立派な人物だった。

そんな人達が先に死んで。

くだらない自分の利権のために他人がどうなってもいいと思っていたり。判断が遅れたりしている奴が生き延びている。

やはり、この世に因果応報などないのかと、悔しくなっていく。

「荒木軍曹、よくやってくれた。 バルカ中将のデータは、既に戦略情報部に届いた様子だ。 きっと勝利に貢献するデータになってくれる」

「……」

「分かっている。 私も怒りが抑えきれない。 一体我々は、誰のために、何のために戦っている……!」

どんと、机を叩く音がした。

千葉中将も怒ってくれている。

それだけが、救いだったかも知れない。

揚陸艇で移動する。怪物もとんでもないダメージを受けたからか、海上までは追ってこなかった。

そのまま、スプリガンとグリムリーパーと合流。

艦隊から、輸送ヘリに乗り換えて。そのまま移動。まだ確保できている細い海域を通って、輸送ヘリで順次難民はまだ戦況がある程度安定している方の日本に逃がす。艦隊は海域を通りながら、それこそ逃げ隠れるようにして米国へと移動する。

荒木班と村上班はこのまま日本に。

ジャムカ大佐は米国での仕事があり。ジャンヌ大佐は中華に行くそうだ。

船内で、軽く話をする。

ジャムカ大佐は、ウィスキーを口にすると。

やりきれない様子で言った。

「ジョン中将は昔からの知り合いでな。 いい指揮をするのに、兵士達にはずっと嫌われていた。 陣頭の猛将ではなかったが、EDFが誇る名物男だったと俺は思う」

「確か紛争時はジョン中将が大佐で、グリムリーパーの指揮を執っていたのだったな」

「ああ。 無謀な突撃作戦を止めるように上層部に打診してくれたが、当時の指揮官はどうしようもない無能でな。 俺たちは結果は残したが、生き延びたのは俺だけよ。 ジョン中将は顔を真っ赤にして怒っていたが。 俺が戻ってくるのを見ると、後で来るようにいってな」

そして、物陰で土下座したという。

本当に済まなかった。

俺が力不足だったばかりに。

そういって男泣きするジョン中将、当時は大佐に対して。

怒り心頭だったジャムカ大佐(当時は大尉)は、何も言えなかったそうだ。

「見た目があれだったから味方には嫌われたかも知れないが、あの謝る行為には本来なんの意味もなかったからな。 それだけ筋を通せるという事だ」

「……惜しい人物をなくしたな」

「ああ……」

荒木は、村上班がいる甲板の方を見る。

ジャムカ大佐も、ジャンヌ大佐も。

分かっている。

意思は同じの筈だ。

彼奴らが、勝つためには必要だ。

特に村上壱野。

絶対に死なせる訳には行かない。

こくりと頷く。

全員で、決める。

何かあった場合は、命に替えてでも奴を守る。奴は文字通り最強の戦士だが、それでもライフルで頭を撃ち抜かれば死ぬ。

今のEDFでは、血迷った阿呆が暗殺とか考えかねない。

ないとは信じたいが。この状況でも政治的などうこうだの、利害の調整がどうこうだの口にしているのだ。

何があっても、不思議では無かった。

それそれが散る。

荒木が見る限り、ジャムカ大佐とジャンヌ大佐はそこまで仲が悪いようには思えない。やはり、部下の士気を挙げるために対立を煽っている、と言う事なのだろう。

それで士気が上がるのならいい。

或いは、荒木も似たようなことをするべきなのかも知れないが。

それはまた、別の話だ。

バイザーに、壱野からの通信が入る。

「荒木軍曹。 よろしいですか」

「ああ、かまわないが。 何かあったのか」

「一華が先にデータを分析しましてね」

「……俺以外には言うなよ?」

分かっていると付け加えつつ。壱野は更に話を進めた。

データはやはりプライマーの動きについての詳細なもので、どういう風に敵が動いたか、極めて緻密に分析したものだったそうである。

それに、バルカ中将の分析がついているそうだ。

「なるほど……」

「バルカ中将自身が疑問を呈していますが、不可解すぎるんです」

「どういうことだ」

「敵が、此方の動きを知っているとしか思えない。 そう、バルカ中将は口にしています」

そうか、それは確かにある。

プライマーはとにかく狡猾だと思っていたが。

実の所、実戦で乱戦とかになると、そこまで緻密な戦術を駆使してくるようには思えないのである。

過去の成功体験に基づいて行動している。

どうにもその疑念がぬぐえないのだ。

今は物量差がどうにもならないし。何より重装コスモノーツなどの凶悪な敵が前線を荒らしているが。

もしも此奴らに対抗可能な兵器が出て来た場合、プライマーはどうするのか、

今の時点では、もう悔しいが、人類に勝ちの目は薄い。

物量だけで押しきられるからだ。

特に今回の欧州失陥はいたい。

今後、アフリカで培養された怪物は、ダイレクトに北米に送り込まれてくるだろう。北米が陥落したら、もう人類は事実上終わりだ。

しかしながら、もしも物量をどうにか出来るような武器を人類が持っていた場合。

プライマーは、本当にまだ戦おうとするのだろうか。

どうにもおかしい気がしてならない。

奴らには、なんというか。

おかしいところしか感じないのだ。

赤いコスモノーツは、喋った。

奴の言ったことについては、三城を通じて聞いている。

その時思ったのは、プライマーは思ったよりもずっと無能で。勝てる条件が無理矢理作り出されているのでは無いか、と言う事だ。

そういえば、プライマーの繰り出してくる兵器はどれもこれもがカウンターウェポンばかりに思える。

初期に甚大な被害を出したのも、対人兵器が通用しない相手ばかりだったからである。

勿論相手を侮る訳にはいかないが。

何か、重大な見落としがあるのではあるまいか。

欧州が遠ざかっていく。

既に彼処は、人の住まう土地では無い。

もう、陸地は見えない。

次の戦場は、少なくとも欧州ではないだろう。世界中を転戦してきた荒木だが。それについては、悔しいが認めざるを得ない事だった。

 

2、迫る戦機

 

緊急で米国にて、輸送ヘリから降りた。グリムリーパーとの連携任務になるかと思ったが。別行動になる。スプリガンは予定通り中華に。日本には荒木隊だけが行く事になった。

グリムリーパーは別行動で、別任務。つまりそれだけの緊急事態、敵の大攻勢という事である。

米国のロサンゼルス近郊。

避難が終わっていない地域に、ディロイの大部隊が進行中。それだけではなく、マザーシップまで来ていると言う。

マザーシップナンバーツーが飛来。

必死に抵抗している地域を揉み潰そうとでもいわんばかりに、上空にて様子を窺っているそうだ。

急いで現地の部隊と合流する。

三城はすぐに降り立つと、ディロイ用の装備に切り替える。

ライジンは駄目だ。

今回は、かなりの数のディロイが来ると言う話である。それならば、誘導兵器を片手に。もう片手にはプラズマキャノンが良いだろう。

プラズマキャノンは強化が重ねられていて。弾速は若干遅いものの、ショートタイプのディロイだったら一撃粉砕できるほどのとんでもない爆発を引き起こせるようになってきている。

プラズマグレートキャノンである。

勿論誤爆したら即死だし。弾速が遅いこともあって扱いも難しい武器であることは確かなのだが。

それでも少なくとも、ディロイの大軍狩りには充分だ。

米軍は各地で大ダメージを受けていると言う事だが、それでもニクスが出て来ている。三機もだ。

タンク部隊に、かなりの歩兵隊も来ている。

これは本気での迎撃作戦と見て良い。

一華が教えてくれる。

「さっき調べたッスけど、このディロイ部隊にもう二度、戦線を喰い破られてるみたいッスね。 その上マザーシップまで来ている。 これ以上被害を増やすわけにはいかないと、無理矢理兵力をかき集めたらしいッスわ」

「それならば、なおさら負ける訳には行かないな。 一華、ニクス部隊とともに迎撃戦を頼む。 DE202やスプライトフォールの支援も、順次自分の意思でやってくれ」

「お、作戦行動のグリーンライトッスか。 有り難いッスね」

「……マザーシップが上空に来ている。 新兵器が来る可能性があるからな」

三城も同感だ。

一華はそれを聞いて無言になる。

既に補給車は手配済。米軍を指揮している中佐とも、軽く大兄は話をしていた。当然最前列に配置して貰う。

向こうは大兄が同格の中佐とは言え、村上班の名は知っているらしく。

即座に許可をしてくれた。

すぐに展開する。

ディロイの部隊だけではないなと、看破する。

「これは通常の怪物もいる」

「同感だ。 距離はあるが、近づいて来ているな」

「ああ。 その様子だ。」

相手がディロイの群れと言う事もある。

偵察機もスカウトもロクに出せない状況。

更に言うと、上空にマザーシップが来ている。偵察衛星もあまり機能はしてくれない。

非常に厳しい状況なのは、いうまでもない話だ。

大兄が、一応ここの指揮官に警告をするが。

分かった、としか言わなかった。

ディロイ部隊だけでも勝てるか分からないのに、怪物の群れなんて考えたくもないのだろう。

怪物の群れだけで済めば良いのだけれども。

程なく、遠距離からの攻撃が着弾し始める。

三城は近くにある大型の施設。何か分からないが、変電所だろうか。その屋根に上がる。電線に引っ掛かって死んだら笑い事にもならないから、注意して。

まあ、この様子では。

電力なんて、流れていないだろうが。

ディロイはかなりの長距離から攻撃してきている。

ディロイの長距離砲は、放った瞬間着弾するような事もなく。形状が似ているタイプツードローンに比べてすら出力が低い。

あくまでハラスメント用の武器であって、火力は低いものだ。

奴らの本命の武器は、三本ある足に全て搭載されている。

だから、射程距離に入るのを待てば良い。

次々に爆発がおき始める。

ディロイの軍団は、此方を察知していると言う事だ。大兄は、動き回りながら狙撃を開始。

遠くで爆発音が。

大兄が射撃する度に起き始める。

「歩兵はニクスやタンクの影に隠れろ! ディロイの長距離砲は、タンクで充分に防ぐ事が可能だ!」

「イエッサ!」

「う、噂以上だな村上班……」

「ああ、まだ視界にすら入っていないディロイを、次々破壊していやがる……」

兵士達がおののく中、ミサイルが飛来。

これも恐怖を与えるためなのだろう。敢えてゆっくり飛んで来ると言う嫌がらせ仕様である。火力は低い。

ただし数が多い。

一華がニクスでの射撃で、全て叩き落とし始める。

それで、ディロイの群れだ。

数十体はいる。

既に十体ほどは大兄に破壊されているだろうが、それでも何の恐れもなく次々に攻めこんでくる。

だが、射程に入ったのだ。

此処からは、小兄も三城も攻撃に参加させて貰う。

プラズマグレートキャノンをぶっ放す。

既にエネルギーのチャージは終わっていた。

大兄に、どいつを狙ってくれと言う指示はバイザー経由で受けている。だから、狙いが被るような事もない。

当ててから放つような神業は使えないが。

それでも、この距離なら。

当てるのは、難しく無い。

ショートタイプのディロイが爆散する。

プラズマグレートキャノンの火力も、更に向上している様子だ。

頷くと、次を狙う。

小兄も降り注ぐハラスメント攻撃を機動戦で回避しながら、ガリア砲で敵の本体部分を狙っている。

充分にやれる。

大兄は、少し前からロングタイプを狙っている。

ミサイルが五月蠅いので、正解だろう。

わざわざ恐怖を煽るための小型ミサイルを山ほど撃って来るという嫌がらせにも程がある戦術を採ってくる奴らだ。

そんなものに乗る必要はない。

遠くで、ロングタイプが爆発四散。

兵士達の視界にも入り始めている。

喚声が上がる。

「やったぞ!」

「あの距離から……」

「日本だけで、百機以上を破壊したって話は嘘じゃないみたいだな!」

「勝てるぞ!」

まあ、士気が上がる分にはそれでいいだろう。

大兄は、次のロングタイプを狙い始める。その間に、ショートタイプを可能な限り片付けてしまう。

足の砲台に狙われると、ニクスやタンクどころか、タイタンでも長時間は持ち堪えられない。

接近を許してはいけないのだ。

接近を許した場合、誘導兵器で足の砲台を瞬時に破壊するしかないが。

それもどこまでやれるか不安が残る。

兎も角、プラズマグレートキャノンで次々に敵を粉砕していく。

フライトユニットへの負担は大きいが、それでも何とかなる。ライジンはもっと負担が大きいし、モンスター型レーザー砲はちょっとディロイを粉砕するには火力が足りていない。

射撃を続行。

先発隊のディロイが次々に破壊される。

三機いたロングタイプが全て破壊されると、大兄もショートタイプ狙いに切り替える。その時にはかなりのディロイが至近にまで迫っていたが。流石に米国のEDFもニクスとタンクで攻撃を開始。

兵士達も必死に射撃を続行し。

次々と、ディロイに着弾。

大兄が、細かく狙う相手を同じ戦線の指揮官に告げながら、効率よく破壊を繰り返していく。

流石にバージョンアップが続いているだけあって。

米国に配備されているニクスの性能も上がっていて。特に一華が実戦でデータをたくさんとったからだろう。

肩砲台の火力は強烈で。

直撃が入ったディロイが、粉砕されて粉々になるのを何度も見る。

結構やるな。

そう思いながら、回り込んできていた一機に対して、誘導兵器をぶっ放す。

ショートタイプだ。

足の砲台を潰してしまうにはそれで充分である。

兵士達が悲鳴を上げるが。足の砲台を全て潰されてしまえばディロイなんてほぼ案山子も当然。

足で突き刺す攻撃もしてくるが。それもショートタイプなら、近くにいるニクスが足部分を破壊出来るはずだ。

砲台を全て潰したので、次に備える。

まだまだ、こんな程度で済むはずがない。

成田軍曹が、通信を入れてくる。

「第二群来ます! 今までに採取されたデータによると、このディロイ部隊は三波に別れて行動をしているようです!」

「分かった。 ……だが、どうやらそれより先に、敵の増援のようだ」

「えっ……ああっ! 上空のマザーシップナンバーツーが、ディロイを投下! 地上に激突します!」

「回避! 回避しろっ!」

火の玉が落ちてくる。

十機程度のディロイが、此方の防衛線など無視。部隊を包囲するように落ちてくる。

舌打ちすると、大兄はロングタイプを即座に狙い始める。三城にも、どれを潰せという指示が来る。

頷くと、プラズマグレートキャノンを即座に叩き込んで、一機粉砕。

格闘戦になる。居場所を細かく変えながら、戦うしかない。

「此方カスター中将! 支援する! 危険だが、DE202を其方に向かわせた! 協力して敵部隊を粉砕してほしい!」

「そのコントロール、私にまわして貰えるッスか?」

「君は……噂の村上班のエアレイダーだな。 分かった。 DE202、村上班の指定座標への攻撃を頼む!」

ガンシップのお出ましだ。これで多少はマシになるか。

ともかく、攻撃を続行。

至近に来て、砲台を光らせているディロイに、プラズマグレートキャノンを直撃させてやる。

爆発四散。

小兄も、ガリア砲で次々ディロイを粉砕している。

一華も、この距離ならと、ディロイ部隊を肩砲台で破壊しつつ。機動戦で敵の前に躍り出て、注意を惹いている。

それで随分と味方が助かる。

ニクス隊が奮戦して、敵を破壊しつつある。兵士達も、スナイパーライフルで奮戦してくれている。

「とんでもない高さに本体がありやがる!」

「人間の弱点を周知してるんだ! 何キロも先に狙撃を届けさせられる兵士なんて、殆どいないことを理解していやがる!」

「くそったれっ! やられてたまるか!」

「……更に増援が来るようだな」

大兄が、ディロイを粉砕すると、戦場の一点に走る。三城に、攻撃地点を指示してくる。なるほど、そういうことか。

三城にも気配が読めた。

兵士達がディロイを倒すのに躍起になっている背後。

大量のβ型が、地面から湧き出してくる。

米国のEDFの指揮官である中佐のいる指揮車両の周囲を、囲むようにして、だ。

悲鳴を上げる指揮官だが。

上空から三城が、敵がもっとも密集している地点にプラズマグレートキャノンを叩き込み。大兄が冷静にアサルトでβ型を駆除しながら、指揮官に告げる。

「我々で対処します。 味方部隊の中に逃げ込んでください」

「す、すまないっ!」

「……恐らくこうやって、他の戦線も突破されたんだな」

「エイリアンです! 数体のエイリアンが其方に接近中!」

成田軍曹が叫ぶ。

しかも、どうやら重装型の様子だ。既に、遠くから砲撃が来始めている。ディロイの第二部隊が近付きつつあるのだ。

「弐分、一華。 エイリアン部隊の相手をまかせられるか」

「分かった。 来る方向は……なるほど。 どうやら一体ずつ、ゆっくり動いているみたいだな。 重装型と見て良さそうだ」

「各個撃破してくれ。 一華も、弐分と一緒に一体ずつ集中的に狙ってくれ。 一体ずつなら、手強いが倒せる!」

「了解ッス!」

β型の群れは相応の規模だが。

指揮官車両であるタンクが包囲から脱出し、兵士達も掃討に加わった事で、急速に数を減らしている。

充分と判断したのだろう。

大兄は、ライサンダーZに切り替えると、またディロイを削りに掛かる。ショートタイプを減らしつつ。適当な所でロングタイプに切り替えると言う事だ。

三城にも、攻撃対象の指示が来る。

味方部隊は、β型の対処に手一杯だが。

はっきりいって、この程度の数なら味方部隊でどうにかしてほしいものだ。

射撃を続行。

三城も、プラズマグレートキャノンをぶっ放し、ショートタイプのディロイを粉砕していく。

時間差各個撃破戦法のつもりだったのだろうが。

逆に時間差各個撃破してやる。

そのまま射撃を続けて行く。ディロイがアウトレンジから次々と粉砕されていくのをみて。

恐らくマザーシップは業を煮やしたのだろう。

更に、数機のディロイを落としてくる。

だが、その時には。

既に味方部隊が、β型の駆逐を終えていた。

「近距離にいるショートタイプの駆除は任せます。 ロングタイプは此方でどうにかします」

「了解した! その程度はどうにかしてみせる!」

奇襲から救われたこともあるのだろう。

味方部隊の中佐も、かなり頑張ってくれている。

三城はそのまま、接近しつつあるディロイ部隊をどうにかしてほしいと頼まれる。

小兄と一華は、重装コスモノーツを相手に奮戦している様子だ。

だが、まだ倒し切れていない。

此方に戻ってくるまで、時間が掛かるだろう。

不意に飛来するDE202。ガンシップから、強烈な射撃。多分105ミリ砲だろう。それが叩き込まれて、ディロイが地面に押しつけられるようにして爆散する。

かなりそれで楽になる。

三城も飛び回りながら、フライトユニットの機嫌を伺いつつプラズマグレートキャノンを放つのが大変だったのだ。

着地すると、エネルギーチャージをしつつ。

遠距離の敵を撃ち抜く。

近距離に落とされたディロイ隊が綺麗に片付く。

大兄も、ロングタイプを無事に粉砕していた。本体部分が壊れると、足にある大量の砲台も全て沈黙する。

数両のタンクが破壊寸前まで追い込まれていた。かなり危ない所だった。兵士達を救うことが出来た。

もう少し遅れていたら、タンクもやられ。兵士達も蒸発してしまっていただろう。

「タンク部隊、さがれ。 後は俺たちだけでやるぞ!」

「残弾が……」

「補給を急げ! 補給車がなんのためにいると思っている!」

指揮官も兵士達も相当に焦っている中、ディロイ第二部隊が接近して来る。だが、その数は既に、かなり減りつつあった。

ロングタイプもいない。

ショートタイプを確実に駆除して行くだけだ。

「此方弐分。 重装コスモノーツ、一体撃破! 二体目に向かう!」

「相手は手強い! 油断だけはするな!」

「了解!」

「もう一撃、支援行くッスよ!」

再びDE202が来て、バルカンか何かをディロイに浴びせていく。

凄まじい火力にディロイが地面に押し込まれ、爆発四散していた。

別地点で戦いながら、バイザーの情報だけで正確に敵を倒している。流石だなと、一華を内心で尊敬する。

そのまま戦闘を続行。

激しい戦いが続く。とにかく接近されると大損害は確定だ。味方部隊と連携して。ハラスメント攻撃が降り注ぐ中。近付かせないように必死に敵をたたく。

吹っ飛ぶ兵士が見えた。

だが。アーマーに守られている。死にはしないはずだ。

そのまま、戦闘を続ける。

第二波のディロイが全滅すると同時に、ぞわりと嫌な気配がする。

大兄から指示が来る。

指定地点にプラズマグレートキャノンを。

大兄の勘は、三城よりも更に優れている。恐らくβ型の群れだ。

「β型がまた来ます。 今度は側背から」

「くっ! 対β型に陣形を組み替えろ!」

指揮官の中佐も、信じてくれる。まあ実際命を助けられたのだから、当然だろう。

なんだか大兄は米軍の間では、気をマスターしているとか拳法のマスターだとか言われているらしいが。

そんな事はない。

拳法というよりも古流武術だし。

古流の内容は、格闘戦だけではなく武器戦闘が主体。

気なんてしらない。

単に、勘……正確には五感が練り上げられているから、敵の察知に気がつきやすいだけである。

β型が地面からわんさか出てくる。

その密集地点に、プラズマグレートキャノンを叩き込む。

大量の死骸が消し飛び吹き飛ぶ中。

大兄がアサルトで、β型を片っ端から駆除して行く。

最新型のアサルトを回されているとは言え、大兄の射撃効率は次元違いだ。接近さえ出来ず、β型が次々倒れていく。

そこに、味方部隊からの射撃も加わる。

とどめに、三城が誘導兵器をぶっ放し。変な方向にいこうとするβ型をそのまま拘束。焼き切ってしまう。

呼吸を整える。

今日の戦闘はかなり激しいなと思うが。

そもそも大劣勢と言う事は、敵がそれだけ攻勢を強めていると言う事だ。

ならば、この激戦も当然。

そしていうならば。

ここで敵の大部隊を撃破しておけば。

それだけ米国での戦線は楽になるはずである。

「此方弐分。 重装コスモノーツ、二体目撃破! 三体目に向かう!」

「油断だけはするなよ」

「分かっている!」

「また上空よりディロイ、来ます!」

成田軍曹より通信が入る。

マザーシップナンバーツーは、相当に焦っているらしいな。

更に、第三波のディロイ部隊も接近している。

味方の援軍は、それどころではないだろう。

援軍無しで此処を乗り切れれば、それだけ味方が有利になる。そう信じ。β型の駆除は味方に任せてしまう。

ディロイは包囲するようにして投下されたが、着地と同時に、一体をプラズマグレートキャノンで粉砕。

大兄も、同じように着地と同時に一機を狩っていた。

バイザーで映像を共有していたのだろう。ロングタイプに、ピンポイントでDE202が射撃を浴びせる。

立ち上がるや否や、見下ろすどころか撓まされたロングタイプディロイ。本体へのダメージも小さくない。

味方ニクス隊がショートタイプを相手にしている間に、大兄がロングタイプに追い打ちを叩き込む。

粉砕されたディロイが、バラバラに成りながら崩れていく。

「きょ、今日だけで何体ディロイやったんだ村上班……」

「話半分に聞いてたが、どうやら本当らしいぞ……」

「彼奴らを全力で援護しろ! そうすれば勝てる!」

兵士達が口々に好きかって言う。

まあ、士気が上がるなら、それはいいだろう。

此処に支援に来た時には、兵士達は死人みたいな顔色をしていた。主に大兄が、そこに希望を与えた。

ごく最近に、パンドラが撃墜されたばかりだ。

人類の切り札の一つ、潜水母艦の一隻がだ。

それがより絶望を深めていたのだろうが。

大兄が、戦略情報部言う所の機甲師団並の活躍をすることで。それを全て此処の戦場限定ではひっくり返した。

「此方タンク部隊! 応急処置完了! 戦場に復帰する!」

「急いでくれ! ショートタイプディロイの攻撃が苛烈だ!」

「汎用性だな……」

大兄が、一機を狙撃し粉砕しながらぼやく。

何のことだと聞き返すと。

大兄は、更に一機を狙いながら言う。

「部品の使い回しで、様々な局面に対応できる兵器を量産しているという事だ。 地球人でも、弾の規格を銃によって変えるのではなく、ある程度共通化することで、戦闘での無駄を減らすようなことをするだろう」

「確かにディロイは用途次第で色々姿が違うし、タイプツードローンの部品も流用しているように見える」

「そういうことだ。 侵略になれている……割りには毎回戦闘ではカウンターウェポンをひたすらに投入するだけで、物量戦を徹底するわけでもない。 奴らはなんだかやはり、あらゆる意味でちぐはぐだ。 俺や三城が交戦したあの赤いコスモノーツの言葉も気になるな」

「必要……」

そう。

トゥラプターと名乗ったあの赤いコスモノーツは、必要だから侵略していると言った。

侵略自体にはなんの罪悪感もないようだったが。

それに対しては、地球人の方がよっぽど侵略になれているし、殺戮も好きでは無いかと笑っていた。

まあ確かにその通りだ。

返す言葉もないというのが事実だったが。

いずれにしても今できるのは。

戦って、生き残る事だけである。

β型も、至近に落とされたディロイも粉砕。更に、小兄が、三体目の重装を一華と一緒に倒し。接近している重装を全て片付けたと通信してくる。

最後の一群が接近している。

この様子だと、怪物もあわせて来てもおかしくない。もう、大兄は三群めのディロイを狙い始めているようだった。

「上空のマザーシップナンバーツー、移動を開始しています!」

「移動方向は」

「海上に抜けるようです……」

「そうか、ならば無視してかまわない。 分が悪いと判断したのだろう。 無人兵器部隊を囮に逃げるつもりだ」

残念ながら、上空と言っても二万メートル以上先だ。

流石にライサンダーZでも射程外である。大兄の狙撃でも、届くことはないだろう。

小兄が戻ってくる。一華も。

すぐにガリア砲に切り替えて、射撃を開始。

此処の部隊の指揮官に、大兄が告げる。

「敵怪物が来ます。 任せてもかまいませんか? 俺たちは最後のディロイ部隊を撃滅します」

「分かった。 君の勘は恐ろしい程当たる。 何かのミスティックパワーなのか?」

「いや、五感を研ぎ澄ましているだけです。 三時方向から、β型の大軍が来ます。 ニクス隊と戦車隊で蹴散らしてください」

「了解……っ!」

助けられてばかりではいられないと奮起しただろう隊長が、部隊を三時方向へと向ける。

程なくして、β型の群れが現れるが。現れるや否や、ニクスとタンクによる熱い砲撃射撃の歓迎を受け。

兵士達も、今までの戦闘で血に酔っているのか。

凄まじい熱狂的な攻撃で、地面から出て来たばかりのβ型を撃ち据え始めた。

あっちはもう、任せてしまって良いだろう。

ニクスだってショートタイプディロイとの戦闘でかなりダメージを受けているはずなのに、まるでいにしえの伝承に出てくる狂戦士みたいに暴れ狂っている。

だから、それはそれで良いと思う。

三城は更に一撃、プラズマグレートキャノンを叩き込む。

粉砕されたディロイが、遠くで崩壊するのが見えた。

小兄も苛烈な射撃を敵に浴びせている。

まずはあの敵を打ち砕き。

次は。

大兄が、ロングタイプを粉砕したようである。この戦闘は勝ったなと、三城は確信するが。

日本に戻れば、まだ飛行型の巣の破壊作戦が進展していないし。

アーケルスものうのうと生きていて、対策する方法も確立できていない。

それを思うと。

喜んでばかりはいられないのも事実だった。

「ディロイ部隊、全滅! 敵の損害は計り知れません! 米国にいたディロイの半数以上が此処にて破壊されたようです!」

成田軍曹は無邪気に喜んでいるが。

とても、一緒になって喜ぶ気にはなれなかった。

「このディロイを放置していたら、今後どれだけの人達が殺される事になったか……」

成田軍曹は。そんな事もいった。

わざわざ言わなくても分かっている事だし。

もう、三城には、何もそれについて、いう事はなかった。

 

3、網の下の地獄

 

一華は、あまり勝っても喜べなかった。

何カ所かで大規模な敵部隊と交戦。交戦して撃破した中には、重装型のコスモノーツが何体もいた。

一体ずつが非常に手強く、それでいてそれぞれ得意としている武器が違うようだった。

三城が、あの赤いコスモノーツから「親衛隊」と聞いていたらしいが。

それも頷ける話なのかも知れない。

日本に戻る。

既に荒木隊もグリムリーパーもスプリガンも散っていて。空港に戻ってからは、数時間だけの休憩を貰って。

それで次の戦地に向かう事になった。

大型移動車に乗せられたニクスのコックピッドで揺られながら、ぼんやりと戦局報道を聞く。

米国ではあの大軍を撃破したこともある。

敵の侵攻は一旦止まったようだが。攻勢に出るところでは無い。基幹基地が幾つもあの重装コスモノーツに潰されていて。戦力の再編制をやっと出来ると言う状況なのである。

この機会に戦力を再編制出来れば良いのだが。

望み薄だろうなと、一華は思った。

感謝の言葉は山ほど浴びせられたが。

それはそれとして。

マザーシップを潰さない限り、戦局は微塵も好転しない。

多分、じきに潜水母艦の残り二隻だって撃沈されてしまうだろうし。

何より、アーケルスという最大の脅威が存在している。

ぼんやりしているな、と思う。

疲れが溜まっているのだ。

最近、戦闘ではニクスを駆るだけではなく、マルチタスクで爆撃支援もしている。

それがとても頭を酷使する。

ブドウ糖の錠剤を貰っていて、それをガリガリと時々噛んでいるのだけれども。

はっきりいって、とてもではないけれどそれだけでは足りない。

これから出向くのは、愛知県の県境。

アーケルスの縄張り付近は、敵の攻撃も激しい。

アンカーなどは何度も粉砕しているのだが、それでも怪物がどこからか際限なく送り込まれてくる。

下手をすると関東にも侵入を許す。

何とかして、此処で敵を食い止めなければならないのだが。

現地に到着すると、いたのは一分隊のレンジャーだけ。

これだけか。

溜息が出る。

敵の動きは予想しているはず。村上班の廻されるのは、激戦地ばかり。

だとしても、これしか兵力がいないのは。

本当に厳しいとしか言えなかった。

総司令官のリー元帥が、通信を入れてくる。

全兵士に向けての演説のようだった。

「つい先日、人類の希望の一つ、潜水母艦パンドラが撃沈された。 エイリアンの攻勢により欧州もついに陥落。 ユーラシアは三分の二以上がエイリアンの手に落ち、アフリカ大陸に続いて南米大陸も陥落が近付いている。 北米も敵の攻勢は激しく、持ち堪えるのがやっとという状況だ」

そうだな。その通りだ。

大本営発表はEDFも最近はほとんどしなくなった。

それもそうだろう。

兵士達ですら、うんざりしながら聞いていたくらいなのだ。むしろ士気を下げると判断したのだろう。

とてもではないが、戦える状況では無い。

そう口にする兵士も多かった。

指揮官達は、死んだ目で兵士達を督戦し。それでもどうにもならないと分かっているからか、最前衛に立って死んでいく。責任感がある者から。

そうして、どんどん精鋭が消えていく。

それが、現状だ。

「絶望する者も多いだろう。 敵の版図は拡がる一方、此方には取り返す術もない。 先日、敵に無条件降伏を訴えていた政治家がプライマーに殺された。 プライマーにしてみれば、人間の無条件降伏を受け入れるメリットなどないということだ。 だからこそ、絶望など無意味だと言っておく。 最後まで戦う意思を捨ててはならない。 プライマーは人間を絶望させようとしている。 そうすれば簡単に勝つ事が出来るからだ」

人間の恐怖を、プライマーが煽っているのは事実だろう。

それについては、一華も同意できる。

だが、絶望するな。最後まで戦えというのも。

確かにそれがEDFだ。

軍服を着た自分がなんのためにいるか、常に考えろ。

荒木軍曹もそう言っていたな。あの人は、本物の軍人だ。一華ですら、尊敬できると思う。

だけれども、誰もが荒木軍曹にはなれない。

なれないのだ。

「以上だ。 各自の奮戦を期待する。 私も命ある限り、勝つ可能性を模索し、皆に作戦指示を行う。 我々の代わりは何処にもいない。 市民を守れるのは我々だけだと言う事を忘れるな!」

通信が切れた。

兵士達は青ざめていて、何も口にしない。

それはそうだろう。

目の前に拡がっているのは、アラネアの巨大な陣地だ。大量のアラネア。それにγ型。

支援特化のγ型が多数。

しかも、怪物は決して共食いをしない。

アラネアの攻撃に捕まったら最後、完璧な連携を見せながら、γ型が多数飛んで来ると言うわけだ。

敵は生物のバリアを作り、接近する相手を怖れさせる事でそもそも攻略を防ぎに掛かっている。

もたつけば此処にアンカーが落とされたり。

或いはエイリアンがわらわらやってきて拠点にしたりして。進撃のための橋頭堡にしていくのだろう。

しかも、それだけじゃあない。

「いるな」

「うん」

「結構いるようだな」

「村上三兄弟……あの、私にも説明がほしいッス」

三人だけ分かっていても困る。説明を求められたリーダーは、軽く話をしてくれる。

β型の群れだ。

かなりの数が、地面に潜って待ち伏せているようだという。

そうか、それは文字通りの一大事だ。

嘆息する。

日本に戻ってきてから、正式に辞令を受けた。

リーダーは大佐に昇格。

他三人は、一華も含めて少佐に昇進した。

本来、前線に出る地位では無い。

だけれども、この戦歴。この戦果。形だけでも、この地位は必要だと言う事なのだろう。同時に荒木軍曹も、ついに准将に昇進したようだ。

これは例の最精鋭部隊構築のための、構想から来ているのだろう。

リーダーに首輪をつけるために。

なんだか、馬鹿馬鹿しい話だ。

「ちょっといいッスか。 まともにβ型の大軍なんて、アラネアと一緒に相手してられないッス。 フォボス呼ぶッスよ」

「分かった。 交渉は任せる。 既に一華の地位なら、本部に申請できるはずだ」

「了解ッス」

そのまま、成田軍曹に通信を入れる。

しばしして、フォボスを呼ぶための申請が通った。

まあ村上班で、巨大な戦績を挙げ続けているのだ。どれだけの戦線を救ったのかも覚えていない程に。

本部も残り少ないフォボスを回す気にくらいはなってくれるのだろう。

壱野が、周囲に言う。

「アラネアはこの距離から、我々が対処する。 皆はショットガンで、接近して来るγ型を粉砕することだけを考えてくれ」

「イエッサ……」

「大丈夫。 皆を生かして返す」

「……」

兵士達は、恐らく経験も殆どない。

もう若い人間は殆ど兵士にされているという話を聞いている。若い兵士だけではなく、中年の兵役とは関係無い人物まで戦場に引っ張り出され始めているのだ。

そろそろ人類の損害は開戦前の七割に届こうとしていると、一華も聞いた。

その状況では、仕方がないのかも知れない。

一旦距離を取る。

大型移動車にいる尼子先輩に、念のために通信を入れておく。

「かなりの数のβ型が伏せている上、敵にはアラネアがいます。 長野一等兵もそうですが。 絶対に不用意に車体からは出無いようにしてください。 補給を頼むときは、此方が安全な位置まで戻ります」

「分かった。 君達は勇敢だね……。 あんな恐ろしい怪物相手に。 僕だったら、足が竦んで戦えないよ」

「いいんですよ。 恐怖は生きるために必要な感情です。 怖いものを怖いと感じる事が出来れば、それだけ生存につながります。 その怖いを元に何かを毀損するような事がなければ、それでいいんです」

壱野は尼子先輩に……というか戦歴や年齢が上の人間に口調が柔らかいな。それはいつも思う。

野獣ですら怯えて逃げるような凄まじい殺気を放って戦う壱野だが。

こういうギャップは、それはそれで面白いのかも知れない。

ともかく、戦闘開始だ。

距離を充分にとり、壱野が射撃を開始。

当然γ型が即座に反応。

怪物は一度人間を察知すると、文字通り何処まででも追いかけてくる。γ型の場合は、どうやっているのか凄まじい跳躍を見せ。

一気に長距離を詰めてくる事がある。

それが危険極まりない。

なったばかりのウィングダイバーが、これにやられて空中でトマトケチャップみたいに潰される事が後を絶たない様子だ。

それもそうだろうなと、一華は思いながら。

三城の誘導兵器の迎撃網と。

アラネアを粉砕するのと同時に弐分が放った高高度ミサイルの空爆から生き残って飛んできたγ型を。

PCの支援を受けながら、機銃で迎撃する。

ニクスの機銃は更に火力が上がっている。見た感じ、何かしらのオーパーツめいた兵器になりつつある。

プライマーの兵器をそのまま組み込んでいるという噂すらある。

時々あの長野一等兵でも、小首をかしげる事があるほどだ。

兵士達が、必死にショットガンで接近したγ型を撃っているが、まあフレンドリファイヤしなければいいや、くらいの感触だ。

自動砲座を使わないのには、理由がある。

この辺りはまだまだ朽ちているとはいえマンションが残っていて。

この地点での戦闘を続行するのは厳しいからである。

そのマンションを覆い尽くすように。アラネアが巣を張り、陣地を構築しているのだ。

恐らくプライマーが何かしらの方法で大まかな指示を与えているのだろうが。それにしても、本当に頭に来る程行動が的確である。

「此方フォボス。 大阪基地に到着した。 攻撃を行う時には、五分前には連絡を入れてほしい」

「了解ッス。 今はまだ必要ないので、そのまま待機していてくれるッスか?」

「了解した。 村上班は相変わらず未来が見えているかのようだな」

「……見えているのは私じゃないッス」

まあ、未来が見えている訳ではないのだろうけれど。

ともかく、それについてはまあいい。

とりあえず、反応したγ型は全て蹴散らした。兵士達に、リーダーが補給を済ませるように指示。

そうしている間に、射線が通っているアラネアを撃ち抜く。

タフ極まりないアラネアだが、流石にライサンダーZの攻撃には耐えられないようで、一射確殺で落とされている。

巣も耐えられないようだ。人間は文字通り、禁断の武器を最強の兵士に与えてしまったのかも知れない。

少しずつ、敵の要塞を壊して行く。

隅から順番に破壊していく。

アーケルスは恐らく来ないだろうとは思うが、来た場合は追い払う優先の立ち回りだ。スプリガンと荒木班がいてもどうにもできなかったのである。この戦力では、とても対応は無理だろう。

四匹目のアラネアを駆除。

掛かっている巣を片っ端から破壊する。

時々、何もいなさそうな所に壱野が射撃しているが。それが何かにしっかり命中している。

要するに、きっちり駆除をしているという事だ。

移動、とハンドサインが出た。

大きなクレーンがある。

戦前、ひょっとしたら此処はまだマンションが大きくなる可能性がある場所だったのかもしれない。

クレーンはさび付いていて、とても動かせそうになかった。

あれも回収すれば、鉄屑くらいには出来るかもしれない。

幸い、EDFは物資が不足しているという様子は無い。

それだけは救いだろうか。

幾つかのシェルターに、大量に蓄えているという話だ。

まあ物資の不足については、考えなくても良いのだろう。

戦前から、これについては準備を散々してきたから、なのだろうが。

またハンドサインが出る。

イマイチ射線は通っていないように思えるが、ここで良いのだろう。壱野はしばらく手をかざして様子を見ていたが。

自動砲座を頼むと、ハンドサインをしてきた。

兵士達に頼む。

「自動砲座の展開をよろしくッス。 ニクスのバックパックに入っているので」

「りょ、了解です……」

「何だかさっきから、何をしているのかまったく分からないうちに敵が倒されて、こっちに誘引されてくるな……」

「アラネアは恐ろしい化け物だが、恐怖を感じねえよ」

なんだか狐に鼻をつままれるような話だと兵士達が動いている。

自動砲座については、前の方に集中的に配置でかまわないらしい。

壱野の言う事だ。それで良いのだろう。

殺気はまだ殆ど分からない。

また、狙撃を始める。

壱野が撃つ度に、アラネアが撃ち抜かれ。巨大な奴らの巣が吹き飛ぶ。

γ型が群れになって攻めこんでくるが、それも射撃して叩き伏せる事が可能な数だ。ぶっちゃけ、戦い辛いだけで強い相手ではない。

ただ、このまま調子に乗って攻めこむと、村上三兄弟が既に感じている敵の増援にもみくちゃ、なのだろう。

まあいい。

機銃で射撃を繰り返して、接近するγ型を消し飛ばす。

これは長期戦だと判断しているのか、壱野もγ型が来ている間は攻撃の指示を出さないし、弐分も三城も今回は突出しない。

相手がアラネアだからだ。

無理を出来ないと判断していると見て良さそうである。

そのまま、射撃を続けてまた敵をある程度削って行く。

そして、アラネアを壱野が撃ち抜いた瞬間。

壱野が叫ぶ。

「来るぞ。 自動砲座展開!」

「了解ッス。 で、β型は……」

地面から大量に出てくるβ型。なるほど、待ち伏せは本当だったと言う事だ。これはこれは。

アラネアを駆除しながら深入りしていたら、それこそ滅茶苦茶にされる配置だ。

すぐにフォボスを要請。爆撃位置については、これについては一華のお得意の分野である。

即座にどうβ型が攻めこんできて、どう防がれるかを算出し。

丁寧な座標をフォボスに送る。

自身は自動砲座と総力を挙げて、β型の群れを迎え撃つ。

さっきまで守りの一手だった敵が、一斉に攻勢に転じた。やる事がなくて暇そうにしていた兵士達は、大慌てして転びかねないようすだったが。

下手に逃げると死ぬぞと壱野が一喝して、敵の迎撃に掛かる。

それにしても、凄い数のβ型だ。

完全にアーケルスが好き放題している地点がすぐ側にあるとしても、この数はちょっと多すぎるように思える。

本来なら数十両のタンクとニクス、それに千人以上の兵士が必要な敵だが。

もう、やるしかない。

そのまま、必死に前線を支え続ける。

爆撃地点は、弐分と三城にも告げてある。二人とも、敵を攪乱すべく前線に出て。そして爆撃範囲に上手に誘導して回る。

壱野の射撃は相変わらず正確極まりなく、自動砲座の砲列が迎え撃っているとは言え、それでも物量で押し込んでくるβ型を確実に始末していくし、糸による攻撃も的確に回避していく。

後方の兵士達の方が慌てて、フレンドリファイヤしかねない有様だ。

再び増援。

地面から、赤いα型が出てくる。少数の金のα型もいるようだ。

赤が壁になって、金のα型を通すという訳か。だが、ぶっちゃけどうでもいい。

そのまま、弐分と三城がさがってくる。金のα型の攻撃範囲に入らないように、である。

そして、きんと空に飛行音が響く。

フォボスが来たのだ。

「こちらフォボス! 爆撃を開始する!」

目の前が。

劫火に包まれていた。

文字通りβ型の群れが、数百匹一瞬で消し飛んだ。赤いα型も、相当数が巻き込まれていた。

金のα型も数体巻き込まれた様子だが。全てでは無さそうだ。

右手を挙げる壱野。

要注意、という合図だ。

壊滅的なダメージを受けたβ型の群れが、瀕死になってもがいているが。それを自動銃座が容赦なく仕留めていく。

金のα型は暗殺者だ。

味方の死体すら利用して忍び寄り、攻撃を仕掛けに来る。

不意に、壱野が射撃。一体を仕留めたようだった。金色の粒子が飛び散るのが見えた。

ライサンダーZで撃つと、金のα型はあんな風に爆ぜるのか。

ちょっとだけ、感心してしまった。

続けて、三城が誘導兵器でβ型の死体の山を吹き飛ばす。露出した金のα型を、弐分が即座に撃ち抜いていた。

まだいそうだ。瀕死のβ型や、まだ突貫しようとする赤いα型を機銃で撃ち抜いて寄せ付けないようにしつつ。様子を窺う。

自動追尾で敵をたたいている自動砲座は、AI制御に任せる。勝手に敵を判別してたたいてくれるから、ある意味人間より鋭い。このAIも開発当初は色々問題が起きたらしいが、今はすっかり大丈夫だ。

「一華!」

リーダーが叫ぶ。

振り向くと同時に、機銃を叩き込む。

金のα型が音もなく背後に忍び寄り。酸を叩き込もうとして来ていたが。

寸前に間に合い。

機銃弾をしこたま叩き込む事が出来ていた。

沈黙する金のα型。

こんな風にわざわざ声を掛けて来るのは、壱野だけではなく皆の攻撃範囲外か、もしくは死角にいる。

それが確定だった。

だから、即座に動けた。

一華もこの程度は判断出来る。

嘆息する。

まだいるだろうか。兵士達は、かろうじて残敵の掃討は出来ているが、それ以外に役に立てなかったが。

しかし、それでも最初は誰でもそうだ。

村上三兄弟みたいなのがおかしいのであって。

一華だって、生身だったら何もできなかっただろう。

「クリア。 敵軍を掃討」

「流石だ村上班。 すぐに次の戦線に向かってほしい。 途中で、ベースによって補給だけはしてくれ」

「了解」

壱野が、直接千葉中将から指示を受ける。

そのまま、兵士達とはベースで別れる。

兵士達は感謝しているようだった。

「ありがとう村上班。 噂通り凄い……俺たちは何の役にも立てなかった」

「一人でも生き延びて、そして今回の経験を生かして戦ってくれ。 それで、他の戦線がぐっと楽になる」

「ああ……努力して見る」

敬礼をして、補給を済ませて。

すぐに大型移動車で行く。

その間に、長野一等兵がニクスを修理してくれる。案の定、色々言われた。

「かなり無理に動かしたな。 関節が悲鳴を上げている」

「背後に回られてて。 対応しなければ、分隊の兵士達みんなやられてたっスから……」

「……まあそうなんだろうな。 いずれにしても、これでもまだ性能が追いついて来ないのか。 困った話だな」

「……」

長野一等兵は、できる限りの事はしてくれる。

だが、それでもまだ一華の性能を、このニクスは生かし切れていないらしい。

そうなってくると、やはりバージョンアップが必要か。

それも、今のEDFに出来るかどうか。

何とも、言い難い所があった。

 

次の戦線に出向く。

飛行型の巨大な巣から、大量の飛行型が到来。数が多すぎて、手が出せないという話である。

空爆で一掃と行きたいが。

残念ながら、ドローンの護衛付きだ。

ドローンは正直、超音速で飛ぶ航空機に比べたら、ドン亀も良い所だ。プライマーのドローンでも、だ。

なんでも21世紀初頭には、無人の強力な戦闘ドローンが作られていたらしいのだけれども。

それでも所詮は無人機で。

結局、高コスト兵器に過ぎなかったという。

条約で戦闘用ドローンが禁止されてからはその進歩も止まり。

今では無人偵察機が多少動いているくらいだ。

或いは、戦場で王になり得た兵器かも知れないが。今はもう、それどころではない。

いずれにしても、敵ドローンは数で圧倒しに来る。

高価な兵器である航空機の百倍以上の数で現れ。

それがレーザーで弾幕を展開して来る。

元々頑強とは言えない兵器の航空機だ。そうなってくると、もはや近付くことすら出来ない。

一機ずつでの戦いなら、それはEDFの戦闘機が勝つに決まっている。

だが、数が問題なのだ。

無尽蔵にプライマーはドローンを繰り出してくる。空爆が出来ない程に、制空権をやられる所以である。

対空砲火にも限界がある。

結局今では、歩兵がやらなければならない、ということだ。

村上班が現地に展開。

山間にある古びた温泉宿に、わんさか飛行型がいる。赤い奴もいた。赤黒い飛行型は、攻撃能力が高い。

いらだたしい話だが。

あの巨大な巣から発生する飛行型の中には、強力な亜種が生まれやすいのかも知れない。女王さえも。

ヨーロッパで見かけたあの強大な飛行型女王も。

或いは、そういった環境で作り出された存在の可能性もある。

現地には、既に一個小隊ほどの兵士達がいたが。

どうしていいか分からず。温泉宿を見下ろす山頂付近で途方に暮れている状態だった。飛行型が多すぎるし、ドローンもまたしかり。

ならば。戦い方をその場で示して教えていくしかない。

まず、山を挟んで布陣。

自動砲座を展開。

自動砲座は、どの基地にもあるが。殆どの場合基地の守りに使われている事が多くて。外で有効活用されているとは言い難い。

兵士達に使い方をレクチュアしながら。自動砲座を撒いておく。

そしてそれが終わり次第、リーダーに合図を送る。

「オッケーッスよ」

「了解。 釣る」

「釣るって……」

「飛行型の一部を刺激して、こっちに呼び寄せるッス。 あいつら周囲の怪物が攻撃を受けると反応する割りに、なんか妙に鈍くって、見えている範囲の味方が攻撃されてもしらんぷりとか結構あるんスよねえ」

考えて見れば、この性質も良く分からない。

怪物を管理しやすくするためにプライマーがそういう改造を遺伝子レベルとかで施しているのだろうか。

可能性は低くは無いと見て良いだろう。

ドンと、凄い音がして、兵士の何人かは耳を塞ぐ。ライサンダーZの狙撃音だ。

これだけで、今地べたに貼り付いている千体以上の飛行型が全部反応しても不思議ではなさそうなのに。

「よし来た。 数は150前後。 三城、誘導兵器で足を止めろ。 弐分、前衛で攪乱しろ。 他の皆は上空に弾をばらまけ。 事前に話したとおり、被弾すると飛行型は必ず着地をしようとする。 そこを俺が狩る。 一華は対空迎撃に専念」

指示を受けている間に、もう飛行型が来る。

上空に弾幕を展開。

兵士達も、言われた通り上空に雑多に弾をばらまく。直撃でなくても、そもそもホバリングするほど体が繊細な飛行型だ。やはり攻撃を受けると降りてくる。更に、三城の誘導兵器が容赦なく足を止める。

ドローンが来るかな。

そう思ったが、意外にもこない。反応できていないのか。それとも、そもそも今は戦闘に介入するつもりがないのか。

いずれにしても、この程度の数なら。

程なく、片付く。

他の部隊なら、この十倍いても戦死者が出ただろうが。まあ壱野の手並みなら。こんなものだ。

「次行くぞ。 補給をそれぞれしてくれ」

「了解」

「村上班。 良いだろうか」

不意に無線が入る。

千葉中将だ。

何かあった、ということだろう。

「次の任務の話ですか」

「うむ。 今やってもらっている任務にも関係する。 飛行型の巣から、最低でも五体のクイーンが飛び立った。 ……今確認したが、遅れて更に一体追加。 合計で六体が動き始めている」

「!」

「そこにいる大量の飛行型と同じく、巣を離れる理由があるようだ。 理由についてはよく分からない。 ただ、戦略情報部の見解によると、第二の巣を作ろうとしている可能性があるようだ」

最悪だ。

素直にそう思う。

一つの巣だけでもあの攻略難易度である。それが二つに増えたら、はっきりいってどうしようもない。

「クイーンは護衛の飛行型を連れて、同じ方向へ飛んでいる。 これは恐らくだが……新潟県の沿岸部だな。 もう誰もいない地域だ。 エイリアンも集結を開始しているのを確認している。 それほどの規模では無いが、飛行型を招き寄せている様子だ」

「了解しました。 全て撃滅します。 ただ……」

「分かっている。 荒木班とグリムリーパーは厳しいが、スプリガンを呼び戻す。 多分、作戦開始時には間に合うはずだ。 新潟の基地からも、可能な限りの部隊を出して貰う予定だ。 ネグリングも、どうにか調達する」

それは有り難い話だ。

今、此処にいる飛行型の群れも、放置しておけば拡散し、多くの人々を襲うことになるだろう。

殺し尽くさなければならない。

一華も、今は自然にそう思う。

勿論、様々な疑問はあるが。それよりも、まずは駆除が優先だ。

通信を切ると、壱野が言う。

「駆除続行だ。 可能な限り敵を早く片付ける」

「イエッサ!」

兵士達も、多少は今の圧倒的勝利で沸き立ったか。

どうも、既に士気が折れてしまっている兵士達の心を回復するために、村上班が出ているのではないのか。

そんな風なことを、一華は思い始めていた。

 

4、炎の聖剣

 

北京基地で、荒木は受勲式を受けていた。といっても今は状況が状況だ。はっきりいって、盛大なものではなかったが。

丁度今、激しい攻撃を仕掛けてきている空飛ぶ人食い鳥の群れを撃破してきた所である。村上班ほど上手くはやれないが、それでも味方への被害は最小限におさえたつもりだ。

勲章を受ける。

これで、晴れて将官だ。

元々幹部候補だったのだ。

こうなることは分かってはいたが、それでも戦況があまりにも悪すぎる事もある。

これでも、本来はもっと早く将軍になっていたのだろう。

だが。EDF内部の馬鹿馬鹿しいパワーゲームが、出世を遅らせることとなった。

結果としてようやくというところだ。

ささやかな受勲式が終わり。

立食パーティーもなく、すぐにラボに案内される。

北京基地の地下にあるラボに、それは既に送られていた。

ごつい銃だ。

これこそが、ブレイザー。

人類の切り札になりうる、熱線兵器。

EMCの12パーセントの出力を持つ個人携帯兵器であり。その破壊力は一点集中する事からも、EMCと大して変わらない。

ただし充電には本来一都市分の電力を食う。

これは。米軍で開発が中止されたレールガンと同じであり。

同様の欠点でもあった。

いずれにしても、それだけ強力なバッテリーが必要になるという事で。

火力は凄まじいものの、いつでも使える兵器、と言う訳ではなかった。

ディスラプターよりは使い廻しがいいものの。

准将にまで上り詰めた荒木だからこそ渡された最新鋭、最強の武器である。

本来は村上壱野がこれを持つべきだったのだろうと思うのだが。

あいつは狙撃の方がいいと言うだろうし。

荒木で良かったのかも知れない。

ともかく、受け取る。ずっしりとした感触。普通の兵士には、扱えない。それが触ってみてすぐに分かった。

受勲式には、リモートで何人かの将官が来ていたが。

リー元帥の姿はない。

また、中華のEDFの司令官である劉中将の姿もなかった。劉中将は確か今、南京辺りで大規模な戦闘の指揮を執っている筈。

こんな茶番には、出られなくても仕方がない。

「即座に実戦での検証を頼みたい」

「了解しました。 作戦ポイントの指定をお願いいたします」

「既にヘリなどを手配してある。 皆で向かってくれ」

「イエッサ!」

もう、サーと呼ばれるのは自分の方なのだが。

荒木は戦士である。

将官である以上に、荒木は一兵士であるべしと心がけている。

軍曹と呼んでほしいと皆に言っているのもそれが理由。

だから、今後もそうしてもらうつもりだ。

ヘリが来ていたので、皆と乗り込む。

同時に大尉に出世した小田。浅利。相馬がもう待っていた。

「それが例のブレイザーか」

「ああ」

小田大尉は相変わらずだ。

物珍しそうに見ているが、半信半疑の様子である。

「開発時よりも性能が上がっているそうだ。 最終的にEMCの12パーセントの出力が出せるようになった」

「そんなにすげえのかよ」

「凄い事は凄いが、充電には専用の超巨大なバッテリーが必要になる。 レールガンに使っているものと同じものだ」

浅利大尉が小田大尉に説明し、相馬大尉が捕捉する。

いずれにしても、分かっている事がある。

咳払いして、軽く説明はしておく。

「ブレイザーは決戦兵器と言って良い銃だが、勿論限界もある。 この間の戦いで見たように、アーケルスは熱兵器に対して極端な耐性を持っている。 恐らく、ブレイザーでは通じないだろう」

「まああの化け物はどうにもならねえな」

「だが、ブレイザーがこれから役に立つ。 どうやらアーケルスを倒すための手段が見つかった様子だ」

「なんだと……」

小田大尉が立ち上がる。

ヘリの中だ。皆がたしなめたので、座り直して。次を促してくる。

苦笑しながら、説明した。

「まだ機密だから話は出来ないが、関東を脅かしていた敵戦力の主軸を二本とも、一気に折る作戦を計画中だ。 東京基地が体勢を立て直せば、プライマーに対する反撃作戦の嚆矢となりうる」

「大将達も当然参加するんだよな」

「ああ、そうなる。 そこで、地球最強のチームを結成もするそうだ」

「……」

皆、それで静かになった。

地球最強のチーム。

それでも、プライマーに勝てるかは分からない。

だが、それでもだ。

やるしかないのである。

無言で戦地に降り立つ。酷い戦場だ。タンク部隊がかなり痛めつけられている。兵士達も逃げ腰だ。

まずはブレイザーを一閃。

先頭に来ていた敵マザーモンスターに直撃。凄まじい悲鳴を上げて、酸をばらまきまくっていた巨体が身をよじる。

熱量が更に上がり、やがて貫通した。

悲鳴を上げながら大炎上し、やがて倒れるマザーモンスター。

これは、想像以上の火力だと見て良い。

一気に攻勢に出る味方部隊。

怪物共をブレイザーの錆びにさせて貰う。

人類は、炎の聖剣を手に入れたという訳か。

だが、聖剣を持った者が勇者というわけではない。

もし今、人類に勇者と呼べる者がいるとしたら。

相馬大尉のニクスを中軸に、前衛に押し進む。敵をブレイザーで焼き払いながら、どんどん前線へ進む。

「ご機嫌な火力だな! 流石にもったいつけていただけのことはあるぜ!」

「だがさっきも言ったとおり万能では無いぞ」

「分かってるって!」

小田大尉までうきうきだ。

まあ、ムードメーカーが元気を無くすような戦場では、勝てるものも勝てなくなってくる。

それは分かっているから。これで良いと割り切る。

二匹目のマザーモンスターを焼き切ると、蓄積エネルギーが切れた。即座にバッテリーを取り替える。

周囲の皆も、それを察して援護してくれる。皆超がつくほどの腕利きだ。多少の敵など、ものともしない。

「人食い鳥だ!」

「翼のエイリアンが来るぞ!」

「軍曹っ!」

「もう少しだ。 待っていてくれ」

リロードも一手間だ。ほどなく、バッテリーを交換。このバッテリーに充電するのが、軍基地の核融合炉なのだというから、色々と頭が痛い。

空を編隊飛行してくる人食い鳥の群れ。

それに、ブレイザーを叩き込む。

文字通りの入れ食いになった。ニクスの機銃でも落としきれず半分は残った人食い鳥が、文字通り瞬時に黒焦げになってバラバラに散って落ちてくる。

これは、確かに決戦兵器である。

そのまま、戦場を炎の聖剣は一閃し。この戦場では敵を駆逐することに成功した。

だが、荒木は既に聞いている。

次の任務は。

尋常では無く、厳しいと言う事をだ。

 

(続)