希望が一つ消える日

 

序、再びの邂逅

 

久々の大規模作戦だ。五機のニクスを動員して、兵士も数百人単位で参加する。これほどの規模の作戦に参加するのは壱野も久々だが。

問題は、作戦内容だった。

小田原で敵の精鋭と戦った後。静岡に敵の拠点が構築されていることが確認された。

アンカーが多数。ビッグアンカーまでいる。

しかも静岡はあのアーケルスの縄張りである。

戦闘を可能な限り迅速に終え。

アーケルスが来る前に、敵の拠点を粉砕する。

そういう作戦であるらしい。

今回は村上班だけではなく、荒木班も参加する。更に、スプリガンも参戦することになった。

少し前に、難民船団と一緒に日本に到着したのだ。

その間訓練をして、十名ほどの兵士を一応戦えるラインにまで育ててくれたようだけれども。

主要メンバーは十名程度。

合流したジャンヌ大佐も、ほろ苦く笑っていた。

ともかく、小田原で結集。

まず、戦闘ヘリ部隊がアーケルスに仕掛けて、残弾がなくなるまで叩き込む。これによって、アーケルスの気を引く。

問題はアーケルスを支援するために怪物、特に飛行型やあの人食い鳥が現れる事だが。

これは愛知の県境にネグリングを展開し、戦闘ヘリ部隊を支援することになる。

そしてアーケルスがいないうちに、ニクスを主力とした部隊で敵を殲滅し、戦闘が終わり次第大型の輸送ヘリを強行突入させ。それによって撤退を行う。

そういう作戦だと言う事だった。

五機のニクスに加え、一華の高機動型もいる。また相馬中尉は、今回の作戦は速攻という事もあり。バランス型のニクスを支給された様子だ。バランス型といっても、多彩な武装を搭載しているタイプで。非常に扱いが難しいらしい。

相馬中尉の技量を買って、総司令部が支給してくれた、と言う事なのだろう。

重装型は限界が近い。

それは総司令部も、分かっているのかも知れなかった。

いずれにしてもこれで合計してニクス七機。更に荒木班とスプリガンもいる。壱野としては、戦力不足は感じない。

問題はアーケルスが来た場合。

それに、アンカーが今まで射出していた怪物についてだが。

スカウトが戻ってくる。

「此方スカウト!」

「状況を聞かせてくれ」

今回は、千葉中将が出て来ている。

しばらく関東を荒らし回った怪物の転送拠点となっていたのが此処である可能性が極めて高い。

ニクスの一機を指揮車両として使っている。

千葉中将も、ニクスに乗る事が出来る、と言う事だ。

「アンカー、七本。 ビッグアンカーが一本あります。 敵は主に、飛行するエイリアンを投下。 一部がα型を投下しているようです」

「厄介だな……」

空飛ぶ人食い鳥の事を、飛行エイリアンと現在呼称し始めている様子だ。

容姿が似ている事もあるが、戦略情報部が今情報を色々と調べているらしい。

何かしらの原因があるのだろう。

「あの敵は厄介だ。 ニクスは対空に全力で応じるしかないな」

「千葉中将」

「なんだね荒木大佐」

「アンカーの破壊は我々が行います。 ニクスは他の兵士達とともに対空陣を組んで、支援に徹してください」

少し考え込む千葉中将。

どうせつつけば、敵は盛大に反応するのが目に見えている。

それに、壱野は既に気配を感じ取っているが。多少のコロニストもいるようだ。コスモノーツではなくコロニストである。

罠の可能性は高い。

「可能な限り迅速にアンカーは破壊します。 破壊完了時には、敵の空軍戦力は全て始末している状態が望ましいかと思います」

「何かあるのかね」

「罠でしょうね。 この規模の転送拠点を守るにしては、敵の守りが甘すぎる。 この間姿を見せたあの重装コスモノーツなどがいても、不思議ではないくらいです。 それが、攻撃を誘っているかのようだ。 しかも此処は放置している訳にもいかない。 敵の対空戦力がある以上、攻撃機や爆撃機も安易に呼べない。 ならば罠を喰い破るしかない」

「分かった、その通りだろう。 では、迅速に片付ける。 総員、フォーメーションを組め! 対空戦特化だ! 随伴歩兵をニクスは守れ! 随伴歩兵部隊は、上空に弾幕を展開!」

千葉中将が物わかりが良くて助かる。

アンカー近くに展開。

確かに相当数のあの飛ぶエイリアンがいる。空を自由に飛び回っているあれが、人を残忍に貪り喰う事を壱野も知っている。

「よし、アンカーを出来るだけ一斉に破壊する。 どういく?」

「三城にビッグアンカーは任せます。 ファランクスの最新型なら可能でしょう」

「そうだな。 他は」

「俺が奥にあるものから破壊します。 弐分、手前から順番に。 攻撃が集中するだろう事もあります。 皆は対空戦闘を頼めますか」

頷くジャンヌ大佐。

空中戦なら負けないというが。

あの空飛ぶ人食い鳥の恐怖は、ここの皆が知っているのだろう。スプリガンの新入りは、皆青ざめていた。

一華が前に出ると、手際よくてきぱきと小田中尉が自動砲座を撒きはじめる。

手を振って、壱野に陣地構築完了を告げてくる。

ならば、後はやるだけだ。

「作戦開始します」

「よし、総員戦闘開始!」

千葉中将が叫ぶ。

今回も、機甲師団に匹敵するだの評価をしてくれている村上班を中心に動いてくれる様子だ。

有り難い話だが。

それでも、味方への被害は、出来るだけ抑えたい。

ライサンダーZで、ビルの隙間をぬうようにしてアンカーを撃ち抜く。通常アンカーは、ついに一撃粉砕だ。ただ一撃ずつの間隔が長い。自動リロードが行われるし、インペリアルドローンと戦った初陣時に比べればマシだが。それでもまだ難がある。

ライサンダーそのものが癖があるシリーズだが。

このZ型は、特に酷いと思う。

火力については申し分ない。

だが、それ以外に問題がありすぎる。

とにかく、当てさえすればかなりのダメージが期待出来る。恐らくだが、時間辺りに敵に与える打撃は、今までのライサンダーの中でも最強になる。

それなら、それで我慢するしかない。

一斉に人食い鳥が動き始める。

ニクスが対空攻撃を開始。

あの人食い鳥についての戦闘データは、荒木班が中華で散々取得してくれた。特に編隊飛行を好むようで。途中まではそれを続け。最終的にはわっと散って集中的に爆撃を仕掛けて来る。

その爆撃が高火力なのも危険な要素だが。

何よりも地上に降りた後も人間を積極的に喰らおうとしてくるし。

突進速度が尋常ではない。

兵士達が怖れるのも当然だ。

空でも陸でも普通にスペックを維持し。

更に大口を開けて襲ってくる姿は、トラウマものらしい。

アラネアなどの怪物も怖れられているが。

あの人食い鳥は、今までの時点でもっとも人類に恐怖を与える事に成功しているかも知れなかった。

二射目。

二つ目のアンカーを打ち砕く。

手応えが若干弱い。ひょっとするとだが、アンカー自体も改良が入っているのかも知れない。

三城の突貫をスプリガンが援護してくれる。

空への集中射撃で、三城を援護してくれているが。

どうにも不快そうにしているのがいる。

確か前に三城に絡んでいた河野という奴だ。まだ生き残っていたとは驚きである。

まあいい。

ともかく、射撃を続ける。

三本目をへし折ると、目だって敵の数が減ってくる。

コロニストが此方に来るが、荒木隊が近づけない。相馬中尉のニクスが射撃を続けて、元々弱っている所を撃滅していく。

コロニストはやはりろくに補給も受けていないようで、初めて姿を見せたときとは別物に弱っている。

動きも遅いし、装備がジャムったりもしていた。

それを見て、顔を歪める兵士も多い。

消耗戦をしている。

そう感じるのかも知れない。

ショットガンを持った赤いコロニストが、蜂の巣になって倒れるのを横目に、更にアンカーをへし折る。

三城は飛行技術の粋を尽くしてビッグアンカーに接近。

ついに取りつき、ファランクスの大火力を叩き込む事に成功していた。

それでも数秒は耐えるのは、流石にビッグアンカーという所だろうか。

ビッグアンカーを三城が破壊。

凄まじい爆風が、断末魔の悲鳴のように、周囲に拡がっていた。

びりびりと来る。

嫌な予感だ。

「荒木軍曹!」

「どうやら何かあるらしいな。 分かった、周囲の対応は任せろ!」

「くそっ! 鳥どもが鬱陶しいぜ!」

「何とかするしかない!」

空中から、各チームに大量の空飛ぶ人食い鳥が襲いかかっている。ニクスの対空砲火ですらも処理しきれない数だ。

周囲に今まで転送されていたものが、全て集まって来ているのだろう。

それに、コロニストと姿が似ている事もある。

何か、関係があるのかも知れない。

「此方GX1! 被害が大きい! 先にさがらせて貰う!」

「此方GX3! 此方も人員の負傷者多数! 敵の物量が多すぎる!」

「ニクス隊は互いにカバーしながら被害を減らせ! 敵の動きの癖については皆シミュレーションで叩き込んでいるはずだ!」

千葉中将が激を飛ばす。

荒木隊が中華で散々データを取ってくれたから、飛ばせる激だが。

いずれにしても、今使うべきデータだ。

ともかく、ニクスの圧倒的火力で制圧して、集中砲火の段階にまで敵を持って行かせない。これしかない。

だが、数が多すぎるのだ。

至近距離に、どばどば大量の鳥が落ちてくる。

一華のニクスが迎え撃った群れだ。半数以上が生きている。

弐分が飛び回って片付けてくれているが、それでも相当数が此方に向き直り、襲いかかってくる。

仕方がない。

アサルトに切り替えて、射撃射撃。周囲を片付ける。まだアンカーは残っているし。びりびり嫌な予感がする。

「此方A14!」

「A14、どうした!」

「不意にドローン多数が飛来! ネグリングでも対応できないほどの数です!」

A14はアーケルスの足止めをしている戦闘ヘリ部隊だ。敵はアーケルスに航空支援をつけるつもりがないらしく、今回はその特性を利用して足止めに向かって貰っていた。飛行型などが来る事も想定し、対怪物のためのネグリングまで配備していたのだが。作戦を読まれていたのか。

まあこれほどの大規模な攻撃だ。

可能性はある。

奴らは人間の言葉を理解している。

それがこの間はっきりした。

喋る事は出来るのに、そもそもそのつもりがないのだとも。

作戦くらい先読みすることは、恐らく難しく無いのだろう。

「残念ながら、撤退する! ドローンの追撃を振り切るので精一杯だ!」

「分かった、無理をするな。 村上班、荒木班、スプリガン! 戦況は!」

「アンカー、残り2。 敵の軍勢、まだまだ来ます!」

「まずいな……攻撃ヘリ部隊から解放されたアーケルスが移動を開始したようだ。 恐らく其方に向かっている!」

ああそうだろうな。

壱野がプライマーでもそう指示する。

やむを得ない。

「一華、俺の周囲に集まるあの鳥共を対処してほしい」

「ああ、分かったッスリーダー」

「頼むぞ」

そのまま、アンカーの破壊に切り替える。鳥どもは一華の腕に処理を期待。まあ、どうにかなるだろう。

かなりの至近距離に火焔弾が着弾したが、ガン無視。

この集中力が、怖れられる理由らしいが。

ともかく今は。それどころじゃない。

スプリガンも阿鼻叫喚の中、戻って来た三城とともに激しい乱戦を繰り広げている。人食い鳥どもは、周囲から凄まじい勢いで集まり続けている。

「こちらGX2! げ、限界だっ! 後退する!」

「残ったニクス部隊は集結し、火力を集中して敵に当たれ!」

「イエッサ!」

千葉中将が指揮をしているが、しかし無理がある。

いずれにしても、集中しながら、ライサンダーZの弾を当てる。

そして放つ。

アンカーが吹っ飛ぶ。

それを、もう一回やって。敵の転送拠点はなくなった。

後は残党狩りだが。

これは、恐らくだが間に合わないだろう。

壱野は無線に通信しつつ、アサルトで周囲の人食い鳥どもを薙ぎ払う。

「撤退を開始してください。 残りは俺たちでどうにかします」

「し、しかし」

「アーケルスが確実に来ます。 何、俺たちなら地力で撤退して見せます」

「……分かった。 くれぐれも無理はするなよ」

ニクス隊が下がりはじめる。

これで、周囲に集中できる。

ただ、火力が半減したのも事実。

ニクス隊の随伴歩兵も下がりはじめたからだ。大型の輸送ヘリが、撤退してきた味方を飲み込み始める。

「三城」

「分かってる」

少し高い所に飛ぶと、三城は誘導兵器を発動。

ヘリの方に向かった人食い鳥を叩き落とし始める。落ちれば、後は歩兵達の集中火力でどうにか処理出来る。

また一編隊くる。

どれだけ、周囲に展開していたのか。凄まじい数だ。

だが、これくらいならどうにかしてみせなければならない。

一華と相馬中尉のニクスの機銃が叩き落とせる分は任せてしまう。自動砲座が対処できる分も。

弐分はかなり敵を引きつけてくれているが、それにも限界がある。

限界があるが、死なせない。

アサルトで、確実に対処能力を超えている敵を叩き落とす。

無力化を優先順位をつけながら行っていく。

アンカーが破壊されたことで、際限なく敵が湧き出してくることはなくなったのが大きい。

少なくとも、倒せば倒すだけ、周囲の敵は減っていくことになる。

「スプリガン、三城の誘導兵器はフライトユニットの消耗が激しく、単独での行動は厳しい。 支援を頼めますか」

「此方は手一杯だと言いたいが、まあいい、やってみせる!」

「頼みます!」

ジャンヌ大佐が、直接カバーに当たってくれる様子だ。

それなら安心できる。

また人食い鳥が一群来るが、同時に依頼していたらしいものを、一華が発動した。

「ウフフ、見えたわ。 そこね?」

「お願いするッス」

「任せなさい」

ドンと、空から光の刃が降り注ぐ。

スプライトフォールと呼ばれた衛星射撃兵器だ。

以前人食い鳥が現れた時に、これが効果的な事が判明している。人食い鳥は編隊飛行をする上に、回避運動を取ろうともしないからだ。

モロに降り注ぐ光と熱の雨に突貫した人食い鳥は、その場で丸焼けになるか、そのまま粉々に砕ける。

光の柱が消えた時には、新しい一群は消失。

更には、三城の誘導兵器で拘束され叩き落とされた人食い鳥は次々叩き落とされ。味方に駆除され続けている状態になって来ていた。

それでも数が多いから油断出来ないが、追加がなくなったことで一気に戦況が楽になる。

残りの敵を片付けつつ、ヘリの離脱を確認。

さて、問題は此処からだ。

「アーケルス接近!」

成田軍曹が通信を入れてくる。

人食い鳥の死体が山のように積み重なっている周囲を蹂躙するように、殺気が近付いてくる。

エルギヌスは以前の交戦で、EMC無しで倒した事がある。

だが、アーケルスは完全に格上だ。

装甲、防御、機動力。全てにおいてエルギヌスを凌いでいる。まずは、優先して横やりの可能性を消す。

アサルトで徹底的に残党駆除。死んだふりをする奴もいるが、残念ながら見逃さず撃ち抜く。

多少傷を受けていても平然と動き回る習性については、身に染みて分かっている。

一匹も逃さない。

程なくして、人食い鳥の殲滅は完了。

荒木軍曹が叫ぶ。

「負傷者は後方に! 奴が来るぞ!」

「アーケルス……」

「残念ながら、まだブレイザーは届いていない。 通常火器でやるしかない」

おののきの声をスプリガンが上げるが。

荒木軍曹も腹をくくっているのだ。

やるしかない。

補給車に走る者、自動銃座を再展開する小田中尉。負傷したらしく、後方にさがるスプリガンの数名。

更に、一華は長野一等兵を呼んで、ニクスの応急処置を頼んでいた。

「アーケルスが到来するまでまもなくです!」

「機甲師団を蹂躙する奴だぞ! 手に負える相手じゃ……」

「今、ここにいる面子でならなんとかなる!」

小田中尉が明らかに怯むが、荒木軍曹が活を入れる。

それで、どうにか恐怖を皆が押し込む。

というか、ここにいる面子でどうにも出来なければ、誰にも彼奴を止める事は出来ないだろう。

準備をどうにか終える。怪物の気配が消えた場所に。

アーケルスが乱入していた。

 

1、激戦怪生物

 

アーケルスとの戦いの時、何をするべきか。

実は、何回かシミュレートしている。

弐分はその内容を覚えている。

弐分は囮役だ。

あれの突貫をまともに食らうと、重装型ニクスですらどうにもならない。

また、スプリガンにも何とか戦術の共有は出来ている。

スプリガンはジャンヌ大佐を中心に精鋭揃いだ。

勿論完璧な連携は無理だろうが。

それでも、できる限り動いてもらうしかないのである。

アーケルスだ。

来た。

相変わらず、丸まって転がってくる。早速大兄が、ライサンダーZで歓迎の一撃を叩き込むが、多少怯む程度である。

携行用艦砲とまで言われる火力で。

この間は、インペリアルドローンにも痛打を入れたライサンダーZが、この程度のダメージしか与えられない。

弐分は突貫して、アーケルスの至近に。

直立した背丈だけで五十メートルはある。

ビルを相手に戦うようなものだが。

それでも、何とかするしかない。

戦術はこうだ。

弐分とスプリガンが敵の至近で気を引き、ニクス二機の火力で敵に継続でダメージを与え続ける。

荒木班三人は移動しながら、得意な武器で距離を取りながら攻撃。

その間に大兄が一箇所。

今回は腹と決めているが、集中的に攻撃を続け。

三城が隙を見てファランクスを叩き込む。

こういう手はずだ。

「荒木軍曹。 俺は狙撃に専念します」

「分かっている。 任されたぞ、壱野!」

攻撃開始。

アーケルスは鬱陶しそうに近くに来た弐分を見ると、踏みつぶしに来たが、ブースターとスラスターをふかして回避。ただ爆風だけで。体勢を崩しそうになる。これは重装型ニクスが、一撃で粉砕されるはずである。

右に逃れる。

逆側に回り込んだスプリガンが、熱線兵器マグブラスターで火力を叩き込み続ける。それも、五月蠅そうに見るアーケルスだが。

大兄が、狙撃を決める。

腹に、少し傷が入った。

少しアーケルスがさがる。

五月蠅そうに狙撃地点を探しているようだが、大兄は動き回りながら狙撃に専念。ニクスも移動しつつ、攻撃を続けている。

「あら、次は大物ね」

「頼むッスよ!」

「うふふ、楽しそうだわ!」

例の科学者の狂った声とともに。

空より光の嵐が到来する。

さがることまで計算に入れていたらしく、完璧にスプライトフォールがアーケルスに叩き込まれていた。

人食い鳥の群れをまとめて抹殺する兵器だが。

アーケルスはシャワーくらいにしか感じていないようで、周囲に爆発する弾丸を撒きはじめる始末。

さがれ。

ジャンヌ大佐が大慌てで叫び。弐分も勿論そうする。

周囲が爆発した。

スプライトフォールの火力で、爆発が早まったのかも知れない。

アーケルスは足下で大爆発が起きているのに、ダメージを受けている様子すらもがない。

本当に化け物だが。

しかし、少しずつダメージは蓄積しているはずだ。

「あら、効きが悪いわねえ。 改良をしておかないと……」

科学者の通信が切れる。

衛星兵器は頻繁に移動していると聞く。衛星軌道までプライマーは余裕で上がる事が出来るから、だ。

アーケルスがサイドステップ。更に、転がろうとする。

そこに、ニクスの肩砲台が目を直撃。

相馬中尉のニクスも、遠距離砲に切り替えつつ、少しずつ移動して踏みつぶされるのを避ける。

何度もやられて、流石に頭に来ているのかも知れない。

アーケルスは何しろ巨大なので、少し移動するだけで非常に大きく動く。追随するのはかなり大変だが。

それでも足に接近しつつ、スピアを叩き込む。

ディスラプターは使わない。

あれは恐らくだが、アーケルスを倒し切れないし。近くで使う時はこっちも足を止める事になる。

「全身にダメージを与え続けているが、回復速度が早い……!」

「くっそ! エルギヌス以上の化け物だぜ畜生!」

「回復には何か秘密があるはず。 戦闘データを出来るだけとりましょう」

「分かっている!」

大兄がまた同じ箇所を狙撃。

腹に穴が開くのが見えた。

やはり、全身に満遍なくダメージを与え続けつつ、一点に集中投射して穴をこじ開ける戦術は正解か。

三城が突貫。

開いた穴に、ファランクスの火力をねじ込む。

だが、アーケルスは五月蠅そうに三城を払い落とそうとする。

ジャンヌ大佐が、ドラグーンランスで相手の左目を抉り。五月蠅そうにアーケルスは両手を振るって「ハエ」を叩き落としに行く。

勿論注意がそれたから、三城もジャンヌ大佐も回避に成功するが。

それにしても、とんでもない。

ファランクスの火力をねじ込まれても、まだ平気なのか。

「三城、もう一回行くぞ」

「わかった」

大兄の声。

弐分はとにかく敵の気を引くだけだ。

アーケルスの至近で高機動を繰り返し、スピアを何度も叩き込む。そのまま、徹底的に抉り続ける。

アーケルスはやはり、ニクスの攻撃程度では多少の痛痒程度しか感じない様子だ。

これだけの攻撃を受け続けていても、どうにもならないのか。

「次の手、行くッスよ! ちょっと離れて!」

「分かった!」

距離を取る。

同時に、通信が入った。

「此方潜水母艦エピメテウス! 座標を確認した!」

エピメテウス。三隻の潜水母艦の一つ。

そういえば、日本近海に来ていたはず。そしてエピメテウスが来たという事は。

「高速巡航ミサイル、ファイア!」

アーケルスが爆発弾をばらまきまくり、周囲を激しい炎に包む。その中で雄叫びを上げているアーケルスに、無数の巡航ミサイルが襲いかかった。

爆発の凄まじさ、今までで恐らく最大だ。

しかもこれはテンペストなどの超大型ミサイルと違い、速度がマッハ20程度は出るはずである。

直撃し、連鎖する爆発の中で。

今までで、一番のダメージが入っているように見える。

アーケルスが五月蠅そうにミサイルを叩き落とそうとする所に、大兄の狙撃がまた入り。

初めて、アーケルスが苦痛の悲鳴を上げていた。

体勢を低くするアーケルス。腹をガードに入ったか。

だが、続いてアーケルスは。

爆発弾を、凄まじい勢いで、遠距離投射していた。

周囲にばらまいて周りをまとめて爆破する以外に、指向投射まで出来るのか。

「まずい! 全員、散れっ!」

荒木軍曹が警告の声を掛けるが、遅いというように。

周囲全てが、炎に包まれていた。

アーケルスが身を起こす。

弐分はどうにか、爆破を見切って逃れた。だが、スプリガンが何名か吹っ飛ばされたようだ。

爆発に巻き込まれれば即死だろうが。

どうにか上空に逃れてダメージを抑えたようではある。

だが、もう戦えないだろう。

呼吸を整える中。煙を突き破って、三城が突貫。大兄が開けたアーケルスの腹の穴に、再度ファランクスをねじ込む。

凄まじい火力がまた叩き込まれた筈だが。

アーケルスはけろっとしたもので、叩き落としに掛かる。

だが今度は弐分が、アーケルスの目をスピアで抉りに行く。

一華も肩砲台から、口の中を砲撃。

それぞれがアーケルスを一瞬だけ怯ませ、そして三城の火力投射が終わる。三城は逃れる。

「駄目。 効果を感じられない」

「……ひょっとすると熱兵器そのものが駄目なのか?」

「可能性はある」

「ならフォーメーションを変えるべきだ。 俺が行く」

大兄が少し悩んだようだが。

荒木軍曹は、それに対して通信を入れてくる。

「やってみよう。 彼奴を倒せるなら、なんでもいい!」

「了解!」

今度は三城が敵の気を引く版だ。

潜水母艦は戦域を離れたようだし、もう巡航ミサイルの攻撃は期待出来ないと見て良いだろう。

残った全員で集中して火力を叩き込み続け。

アーケルスは体勢を低くして腹を庇いながら、あの爆発弾を飛ばしてくる。狙いは恐ろしく正確だ。

「うわああっ!」

「尼子先輩!」

「だ、大丈夫! 此処までは届いていないよ! でも爆発音が凄くて!」

「……」

ちょっと呆れたが。

バイザーで確認して、尼子先輩の乗っている大型移動車の地点までは、アーケルスの攻撃は届かないと言う事だ。

それだけでも意味があるデータだ。

米国で基地が蹂躙されたり、機甲師団が蹂躙されたりしたときは、ろくなデータがとれなかった。

火力で押しつぶせば良いという動きを、現地の司令官がしたからだ。

今、大兄のライサンダーZで一点突破を狙っている状況。

それも、下手をすると、無意味になる。

大兄がかなり接近していたらしく、また狙撃が腹の傷を抉る。

そこか。

そう言うように、アーケルスが大兄の方を見て。転がり始める。アレに巻き込まれたら助かりようがない。

全員で集中攻撃を続けるが、止まる様子がない。

余程頭に来たのだろうか。

いや。違う。

上に高機動で躍り出る。

そして、三城とタイミングを合わせて行く。

三城が横殴りに、転がっているアーケルスの顔面に対して。横からファランクスを併走しつつたたき込み。

弐分はタイミングを合わせて。

アーケルスの腹の傷に、スピアをぶち込んでいた。

転がっていたアーケルスが、明確に怯む。

「効いています! アーケルスに、ダメージが通っています!」

「いや……これは……」

大兄がぼやく。

腹の傷が、見る間に塞がっていく。

その気になれば、一点集中で回復する事も出来るという事だ。アーケルスも、いい加減同じ位置に攻撃を受けるのが面倒になって来たという所だろう。

「プランを切り替える。 口の中を狙う」

「しかし……」

「いや、やってみよう」

「くっ……倒せるのかこの怪物は」

ジャンヌ大佐が呻く。

それはそうだろう。こんなのをまともに相手に出来ている時点で、ある意味おかしいのだから。

アーケルスの顔面に迫る。

三城と左右から、挟むようにして。

アーケルスが、手を振るって叩き落としに来るが。その瞬間、口の中にライサンダーZの弾が飛び込む。

完璧な一撃だ。

舌の一部が吹っ飛び、欠損するのも見えた。

だが。アーケルスは五月蠅そうにするだけで。

効いているようには思えない。

やがて、アーケルスは面倒くさそうに周囲をねめつけると、転がってさがっていく。

呆然としていた様子で。

成田軍曹が通信を入れてきた。

「アーケルス、逃走しました……」

「衛星兵器、巡航ミサイル、いずれも効果が認められません。 しかも一点集中の攻撃も、今回対応して見せました。 熱兵器はそもそも効果が薄いようです」

戦略情報部の少佐が通信を追加で入れてくる。

冷静に戦闘を分析していたのだろう。

その辺り、きちんと仕事はしていると言う事だ。

「アーケルスの再生能力は、エルギヌスを数倍凌いでいるようです。 再生能力を超える火力が必要になるかと思われます」

「しかし具体的にどうする。 核はもう殆ど残っていない。 しかも水爆はいずれも開戦当時に発射基地が破壊されてしまっていて、戦術核程度しか在庫がないぞ」

「現在、対策を検討中です」

「我々は撤退する。 敵地にいることに変わりはない」

荒木軍曹がそういうと。

しばし無言になった後、千葉中将は許可してくれた。

もう一度、輸送ヘリが来る。

最初の部隊の撤退は何とか完了した様子だ。この規模の作戦にしては、被害も最小限に抑えられたらしい。

良い事ではあるが。

勝ちとは、とても言えないだろう。

大型移動車に物資を全て積み込み、ヘリに運び込む。

此処はまだ敵地だ。敵が来る前に、迅速に撤退作業を済ませる。

負傷したウィングダイバー隊も、手足をもがれるようなことはなかったようだ。だが、出血がひどくて、呻いている隊員はいる。

輸送ヘリ内に医者はいる。すぐに診せる必要があるだろう。

「物資の搬入完了」

「よし、撤退してくれ」

千葉中将の指示で、大型輸送ヘリが動き始める。皆が無言になっている。ジャンヌ大佐ですらもだ。

そんな中、荒木軍曹だけが冷静だった。

「負けだな。 奴を倒すプランはあるか?」

「ちょっといいッスか?」

「なんだ」

「多分ッスけど、熱兵器は当てるだけ無駄ッスね。 彼奴の攻撃のなんか爆弾みたいなのを飛ばしてくる奴を見ていて思ったッスけど、奴はひょっとして熱を吸収して体内にため込めるかも知れないッス」

それは、あるかも知れない。

弐分も、実際にファランクスの効きが悪いことは感じていた。

大兄の狙撃は通じている。

弐分のスピアも、通ってはいた。

それにだ。

弐分が見た感じだと、巡航ミサイル群が一番ダメージを与えることに成功していたように思う。

ということは、だ。

マッハ20で飛んできた、ミサイルそのものが効いたのであって。

ミサイルの爆発はあまり効いていなかった事になる。

これは恐らくだが、同じくらい弾速が出るライサンダーの弾がちゃんと効くことの説明にもなると思う。

弐分も、それを淡々と告げると。

荒木軍曹も頷いていた。

「なるほど。 要するに質量兵器の方が良いという事だな」

「今回の戦闘データを見る限りはそうとしか言えないッスね。 多分EMCが今まで駄目だったのもそれが理由ッスよ。 エルギヌスはEMCで倒せるから、それでまずい意味での成功体験を積んでしまったのかも知れないッスね」

「そうだな……」

「確かに狙撃銃の方が、ロケットランチャーよりも効いているように見えましたね」

浅利中尉も話を合わせてくれる。

どうやら、尊重してくれているようだ。

一方、ジャンヌ大佐は意見が違うようだった。

「ドラグーンランスは効果があったように見えたぞ」

「或いは、体内にまで熱兵器が届いた場合、吸収の能力が働くのかも知れないッス」

「表皮は熱兵器で破壊出来るが、それ以上は無理と言う事か」

「恐らくは……」

ジャンヌ大佐は声が低く、威圧感がある。

一華はニクスの中で喋っているのだが。それでも気圧されているのが分かる。

いずれにしても、分析はもう少し進めた方が良いだろう。

次に戦闘になったとき、また蹂躙されるのはごめんだ。

千葉中将が、通信を入れてくる。

「前線で戦い、アーケルスを追い払ってくれたのは事実だ。 君達の意見については、しっかり上奏しておこう。 ただ、戦略情報部でも正直手をこまねいているのが実情のようだな……」

「何かでっかい質量をぶつける兵器はないッスか?」

「それも正直よく分からない。 戦略情報部に任せる他無い。 すまないが、皆にはこなしてほしい任務が山ほどある。 東京基地に戻ったら、一旦解散してほしい」

「……」

無駄な議論で体力を使うな。

そう言われた気がした。

いずれにしても、確かに戦って見た感触。更に側で見ていた印象では、高速で飛来した巡航ミサイルが一番効いていた。

だとすると、一華の意見は的を得ていると思う。

だが、巡航ミサイル以上の質量兵器なんか、あるのだろうか。

すまないが、軍曹の言うブレイザーという兵器でも、倒すのは困難だと見て良いだろう。EMCが効かないのだ。

EMCの一割程度の出力の兵器なんて、通じる筈がない。

基地に戻ると、一度解散となる。

三城が視線を向けてきたので、話を聞く。

口べたな三城は基本的にアピールをあまりしてこない。これについては、良くない癖だと思うのだが。

仕方がないとも思う。

「どうした?」

「小兄、次にアーケルスが出て来たら、どうする。 ドラグーンランス持って出るべきだと思う?」

「三城はあれ苦手だろう」

「……」

こくりと頷く三城。

ドラグーンランスは玄人向きの武器の見本で、ウィングダイバーにとってのライサンダーのような兵器である。

とにかく反動がえげつなく凶悪なので。

ジャンヌ大佐くらいの手練れでないと、振り回されてまともに使えない。

使えたとしても、反動で大きな隙が出来る。

大火力を良い事に、これを振り回して。

生じた隙に狩られてしまうウィングダイバーは、戦場でよく見かけるという話だ。

「苦手なら、練習する。 それでもどうしても肌に合わないようだったら、使わなくてもいい。 俺たちがサポートする。 苦手な武器を使って怪我でもされたら、むしろ俺たちが困る」

「分かった、善処する」

こくりと頷くと、三城が行く。

さて、自分も行くかと思ったときに。

ねえと、声を掛けて来たのがいる。

スプリガンの一人。

河野というウィングダイバーだ。

「何か」

「貴方あの子の兄貴よね。 あの年になっても兄貴べったりで良いのかしら」

「俺の階級は君より上だが」

「これは失礼しました上官殿。 それで?」

なるほど、この性格の悪さでは、三城が嫌がるのもよく分かる。

良くいるスクールカースト上位で我が儘放題を許されて、性格が歪みきった女子そのものだ。

こいつはたまたま実力主義のスプリガンに潜り込み。

強運で生き残っては来たけれども。

それでも、戦場で目だった動きはしていなかった。とにかく要領だけは良いタイプなのだろう。

「他人の家庭に干渉するのは感心しないな。 世間一般ではどうだか知らないが」

「それはそれは失礼しました。 それにしても本当にお兄ちゃんっ子ですねえ」

「だから何か問題でもあるのだろうか?」

「いいえ、それでは」

敬礼して、去る河野。

何がしたかったのかあいつは。

三城に対して過保護気味なのは祖父にも指摘されている。だが、三城がどんな幼少期を育ったかを考えれば、多少は報われても良い筈だ。三城が嫌がらない程度に注意深く、それでも家族はいると思えるように振る舞っている。それのなにが悪いというのだろうか。何も知らない人間が、何を言うか。

そういえば、あいつの目。スクールカースト内で目をぎらつかせる奴とおなじに見えた。

学校内では、弐分は怖れられていたから。そもそもスクールカーストの外にいた。

米国だと不良生徒は絡むリスクが高すぎるので、そもそもスクールカーストの外にいるらしいのだが。

恐らくは、弐分はそれと同じ状態だったのだと思う。

学校での虐めには教師も高確率で荷担し。更には虐められている生徒をむしろ虐めることを推奨するような輩もいる。

そういう教師を二度、シメたことがあるので知っている。証拠を押さえた上で叩き伏せたので、教師は二度と学校に姿を見せなかった。

意外と、外から見ているからこそ、スクールカーストはよく分かるものなのだ。その無意味さと醜悪さが。

アレはそんなカスみたいなスクールカーストでの上位を狙うような女。

関わるのは、面倒だから止めておくべきだろう。

三城に近付くようなら消すか。

そう思ったが、流石にそれはやり過ぎだ。多少考えながら、自室に。次の出撃まで、少し休むように指示を受けている。

ベッドで横になって休みながら、頃合いを見て大兄に話す。

大兄も、河野については知っているようだった。

「あの問題児か。 実はジャンヌ大佐から、先に連絡は受けている」

「そうなのか」

「ああ。 基本的に無視でかまわない。 あれは三城にマウントを取りたいだけだ。 特に日本に戻ってきてから、技量に差がついていることが余程気にくわないらしいな」

「……」

そういえば、彼奴は確かフライトユニットの大会で、地区優勝者だったか。

三城も同じ大会での地区優勝者。

色々と、ライバル意識を抱くのもあるのかも知れない。

ましてや三城は見た感じ、明らかに周囲に対して棘をつくって接するのを拒否しているタイプ。

あの手のタイプにしてみれば。

不愉快なのだろう。自分より評価されていることが。

頭を振る。

こんなくだらない人間関係で、命のやりとりをしている中で悩む必要なんてないだろうに。

どれだけ追い詰められても。

どこまでいっても。

人間は、人間なのかも知れなかった。

 

2、霧中の影

 

一華はくだらないなあと、端から様子を見ていた。

連携任務が増えてきた。恐らくだが、話に聞いている合同チームを作る前段階なのだろう。

グリムリーパーはまだいい。

ジャムカ大佐はとにかく分かりやすい人物で、狼のように戦場で最前列にたち、荒くれの部下達もそれについていく。

部下達もグリムリーパーという部隊の重要性は理解している様子で、評判を落とすような真似は絶対にしない。

ある意味、自分達の強さにプライドを持ち。

それで圧倒的な戦果につなげていくような、分かりやすい精鋭部隊だ。

一方スプリガンは違う。

ジャンヌ大佐は自他共に厳しい性格で、全く隙を見せない鉄の女っぷりを見せ、部隊を統率しているのだが。

あれは実際問題、色々嫌悪感とかあって、恋愛沙汰とかに根本的に興味を見せないタイプではあるまいか。

一華でも何回か経験があるのだが。

女子の一部は本能的に恋愛沙汰になんでもかんでも話を結びつける傾向がある。本能なのである。

勿論一部だが。ジャンヌ大佐には、そもそもそういう雰囲気が微塵もないのだ。

多分だが、ジャンヌ大佐自身は、鉄の女そのものなのだろう。

問題は部下達だ。

みんな実力で抜擢されているだけあって、そうおうの実力者揃いではある。

だが、河野とかいうウィングダイバーが三城に突っかかっているのを何度か目撃して。

それでうんざりしてしまった。

学校については、飛び級ばかりしていたから、殆ど横目で見るくらいだったのだけれども。

自分より倍も年上の人間が、くだらない派閥争いで如何にアホらしい行動を取っているか。

いやというほど見せつけられた場所だ。

小学生と大学生で、その辺りは何も変わらない。

カースト上位者が「黒」といったら白だって黒になるし。

プライドがあるから、それを曲げることは絶対にしない。

放置しておけば虐めは簡単に殺人にまで発展するのはそういう理由がある。

何をやっても許されると負の成功体験を積み上げると、考えるようになっていくのである。

その程度の事は一華でも分かる。

そしてあの河野という女は、まんまそのタイプだったので。関わり合いになりたくなかった。

弐分とかは普段寡黙で温厚だが、あれは怒らせると結構怖い。壱野ほどではないにしても。

もしもこれ以上下手な事をヤったら、翌日死体になっていてもおかしくないだろうなと思うが。

それはそれとして。

今は手練れが一人でも必要な状況だ。

あんなのでも、活用しないといけないのが厳しい。

今日は三つの戦線を片付けて回る予定になっている。例の飛行型の大型巣攻略ミッションの下準備である。

途中まではスプリガンと一緒だったが、二つ目のミッションを終えた所でなんとか離れることが出来た。

はあと溜息が漏れる。

村上家の三兄弟はむしろけろっとしている。

一華の方が、端から見ていて面倒だとしか思えなかった。

「一華大尉、何か問題があるのか?」

気づかれる。

ニクスにずっと乗っていて、顔も見せていないのに。

頭には梟のドローンを乗せていて、いつものように落ち着く体勢を取っているのだが。

あの河野が来てから、どうもやりづらい。

「いーやー。 別に……」

「誰にも色々な悩みがある。 俺は他人を侮らない。 無能な人間は、理解出来ない相手の事を「悩みがなくて良さそう」とか抜かしたりするがな。 ましてや一華は色々面倒な経歴持ちだろう。 何かあったら相談に乗るぞ」

「あー、ははは。 有り難いッス」

今まで殆ど放任主義だったのに。

まあ有り難いと言えば有り難いか。

ともかく、大型移動車で移動を続ける。今日はかなり山奥まで移動する。飛騨近辺では、今必死に幾つかの前線を確保する事を東京基地の部隊が行っていて。大規模作戦の下準備をしている。

この間アーケルスに何をやってもどうにもならなかった事もあって、対アーケルス用の兵器を開発することも視野に入れている様子だ。

いずれにしても、千葉中将は重要な前線には作戦指揮で出張っても来る。

時間はなんぼあっても足りないだろう。

いちいち苦労を掛けたくはない。

次の任務をさっさと片付けてしまいたいところだ。

まあ、一華は面倒だと思っても。

戦闘で手が鈍るようなことは無い。

ぶっちゃけ一華自身のスペックは高くないので。先に組んであるサポートプログラムと。ニクスに乗せている相棒のPC頼みの部分が大きいからである。

だから一華が多少鈍ろうが。

実際の戦闘には、あまり変わりはない。

長野一等兵が、整備を終えてくれる。

また、クレーンを使って補給もしてくれた。

手際がどんどん良くなって来ている。

ニクスの具体的な問題点も指摘してくれるので、本当にありがたい。

更に、村上三兄弟の装備についても、調整をしてくれているようだ。壱野がライサンダーZの調整をしてもらって、かなり満足そうにしていた。

「おっと、霧が出て来たよ」

「この先の小さな街で戦闘だ。 厄介だな……」

「此方成田軍曹。 村上班、作戦をサポートします」

「頼む」

戦略情報部からの連絡か。

多分だが、霧が出ていることを問題視しているのだろう。

実際問題、事故が起きてもおかしくないのである。

「現在、現地に二個分隊が待機しています。 どちらもスカウト相当の装備で、敵との本格的な交戦は避けたい所です。 現地にはエイリアンが降下した形跡があります。 気をつけてください」

「あのドロップシップをどうにか出来ないのか」

「どうにも……。 あらゆる火器でダメージが入りません。 黄金の装甲以上の防御力を持っているとしか……」

「分かった。 何とか此方で対処する」

成田軍曹は、そのまま後はお願いしますと言って通信を切った。

無線の向こうでばたばたしているようだったし。戦略情報部も色々と忙しいのかも知れない。

まあそれを責めるつもりは無い。

各地の戦況は絶望的な状況だ。

特に中華は重装エイリアンが登場してから、劣勢に歯止めが掛からないという話を聞いている。

空飛ぶ人食い鳥に大きなダメージを受けた所に追い打ちを受けている状態で。

流石の猛将項将軍もどうにもできない状態の様子だ。

だとすると、余裕が出てきたプライマーが、重装のコスモノーツを投入してくる可能性もある。

油断はできない。

程なくして、止まる。無線が入ったからだ。

「村上班、此方レンジャー26。 到着はまだか」

「間もなく到着する。 それまで敵との交戦は避けてくれ」

「了解。 現在二手に分かれて、敵の位置を捜索中だ。 コロニストが数体、コスモノーツが数体いるようだ。 レーザー砲持ちを見た者がいる」

「分かった。 とにかく、絶対に仕掛けないようにしてくれ」

通信を切る。

レーザー砲持ち。霧の中で、か。

本来、水の中や霧の中では、レーザーは火力が落ちる。

だが、この程度の霧では。

あの桁外れのレーザー砲をどうにかする事は出来ないだろう。先に発見して、叩き潰すしかない。

あのレーザー砲をまんま車両に搭載して、そのまま使うだけで充分な火力が出せそうなのだけれども。

そういう柔軟な思考は、残念ながら先進科学研にはないらしい。

ともかく、やるしかないか。

ばらばらと降りる。

今回は村上班だけではなく、二分隊が作戦に参加するべくついてきている。いずれも新兵ばかりだ。

あまり戦力にはならないが、それでも生きて帰さなければならない。

新兵をこんな戦場に送り込むくらい、兵力の枯渇が酷いのである。

EDFは、確実に追い詰められている。

「全員、マスクをつけろ。 会話はバイザーごしなら小声で聞こえる」

「サー」

「……思ったよりいるな」

壱野は霧の街を見て、敵の数を把握したようだった。

と、霧の中を、数体のコロニストを引き連れたコスモノーツが通り過ぎるのが見えた。

そのまま、壱野は狙撃。

ショットガン持ちの、傷だらけのコスモノーツの頭を吹き飛ばしていた。

オープンファイア。

そう壱野が叫ぶと同時に、戦闘が始まる。

高速機動で敵に間合いを詰める弐分と、もう敵が近い事に気付いていただろう三城が。それぞれスピアと電撃銃でコロニストの足を止める。

一華は即座に機銃でコスモノーツを撃ち抜く。

火力が上がっているし、不意を撃てれば装甲で守られたコスモノーツもそれほどの脅威ではない。

激しい乱打を浴びて、がくがくと無様なダンスをした後。

血をぶちまけながら、コスモノーツは地面に倒れていた。

更に霧の中に、壱野が狙撃。

見えないんだが、どうやっているのか。いずれにしても鈍い音がしたから、直撃したのだろう。

「クリア。 近くにいるレンジャー26と合流する」

「う、噂通りだ。 どうやってるんだ……!?」

「何だか見えているらしいぞ」

「ひえっ……」

新兵達がひそひそ話している。

まあ咎めても仕方がない。そのまま進んで、レンジャー26と合流。近くにレンジャー11もいるそうだが。

例のレーザー砲持ちの集団を監視しているそうだ。

「急ぎましょう」

「いや、先に補給を済ませてくれ。 一華、自動砲座を」

「ああ、分かったッス。 新兵の皆さん、ニクスのバックパックにあるから頼むッスよ」

「え、は、はいっ」

一華が士官であることは聞いているのだろう。兵士達はあまりなれていない様子で動く。

小首を傾げているレンジャー26だが、すぐに青ざめた。

ドロップシップが見えたからだ。霧の中を飛んでいる。

そして、コスモノーツを中心とした戦力を落としてくる。慌てて、自動砲座を展開する兵士達。

まあその位置でも大丈夫か。

「皆、少しこちら側に移動してくれ。 ニクスを盾にして、戦闘は行ってほしい」

「サ、サー!」

「あの、今の敵の到来に気づいていたのですか!?」

「ああ。 オカルトでは無く、感覚を研いでいるからな。 飛行音などを総合的に判断して、奴らの到来を感知した」

いや、充分にオカルトの範疇に入ると思う。

心中で突っ込みを入れるが。

まあ不毛なだけなので、其処までにしておく。

ともかく、降りて来たコスモノーツ達の中にはショットガン持ちがいる。あれは最優先駆除対象だろう。

「リーダー。 ショットガン持ちは私が駆除するッス」

「頼む。 俺が先制打を浴びせるから、弐分、三城、同時に仕掛けてくれ。 一華は俺の狙撃と同時にニクスで攻撃を開始。 自動砲座もつかってくれ」

カウント3。

それが0になると同時に、霧の中で周囲を見張りはじめたコスモノーツの一部隊に対して仕掛ける。

文字通り最初の一撃で、ショットガン持ちのヘルメットが吹っ飛び、頭が露出。

其処に、PCのサポートを受けながら、一華も肩砲台を発射。頭を綺麗にヘッドショットしていた。

頭を失って倒れるショットガン持ち。

他のコロニストが反応するより先に、弐分がフラッシングスピアを至近距離から叩き込み。三城がファランクスをぶち込み。それぞれ一体ずつ片付ける。残り三体に対して、自動砲座が射撃を開始して、動きを拘束。

逃れようとするが、いちいち壱野が先手を打つ。

一華は特に考えずに、機銃で掃射しているだけで大丈夫だ。正直この程度の相手だったら、もう困らない。

程なくして、遠隔操作で自動砲座を止める。

残りのコスモノーツも血の海に沈んだからだ。

青黒い血が地面に拡がっていく。

兵士達が、銃撃を止めるように言われて。やっとアサルトでの射撃を止めていた。

「深呼吸をしてくれ。 その後は、弾倉をリロード。 補給車に急いでくれ」

「い、イエッサ!」

「……」

兵士達には優しいな。

そう思う。

というか、利害関係がないからか。壱野はとにかく、敵とみた相手には微塵も容赦しない怖いところがある。

そう考えると、あの兵士達は結構幸運なのだろう。

「此方レンジャー11。 コスモノーツの部隊が公園にいる。 霧が深く様子は見えにくいが……数は六体程度だと思われる」

「よし、その場で動かないで待機。 これから其方に向かう」

「イエッサ!」

確実に敵を屠って行く村上班を見て、兵士達は青ざめつつも、これで死ぬんだろうという恐怖からは解放されていくようだった。

補給車をそのままリモートで追随させて。移動。

それほど遠くない場所に、レンジャー11はいた。

ひげ面の伍長がリーダーらしい。

敬礼をかわす。

「今は見えませんが……前に大きめの戦闘で、レーザー砲持ちを見た事があります。 見間違いではないと思います」

「……なるほど。 分かった。 では、すぐに自動砲座を展開してくれ。 敵はこの拠点に更に増援を送り込んでくる可能性がある。 今のうちに準備をする」

さっきより多少手際よく、兵士達が自動砲座を準備する。

壱野が注文をしたのは、後ろの方だ。

まあ、そっちに配置するのには意味があるのだろう。更に兵士達は、ビル影に移動させて。指定の方向に射撃するように指示していた。

一華には殺気はあんまり分からないので。

ともかく、リーダーの化け物じみた勘を信じるしかないのが残念なところだ。

「弐分、三城。 移動開始。 三城はライジンを使ってくれ。 狙いは彼奴を。 一華は、姿を見せたコロニストを片っ端から射撃して牽制してくれ。 一体ずつ俺たちで仕留める」

「もう何処にレーザー砲持ちがいるか分かってるんスか?」

「ああ」

「……」

呆れた。

多分気配の違いとかで分かるんだろうが、それにしてもないわと思う。

ともかく、ライジン型レーザー砲を持ち出す三城も、霧の中に指さしただけで狙い始めているし。

村上家の三兄弟になんかそういう普通とかは通用しないのだろう。

まあそれで良いと思う。

そのまま、一華は射撃準備。

壱野が狙撃。

同時に、全員事前の指定通りに射撃を開始した。

レーザーは飛んでこない。

やはり三城のライジン型が、鎧をブチ抜き、更に内部の体を粉砕したのだろう。レーザーは長時間照射兵器だから、コスモノーツと相性は抜群にいい。

更に一華も、次々霧の中から現れるコスモノーツと戦う。

前は戦車でもコスモノーツの射撃にはほぼ耐えられなかったが、戦闘が続く度にニクスの装甲は強化されている。

今なら、アサルト持ちのコスモノーツが相手だったら、殴り合いをある程度する事は可能である。

一体が横殴りに飛んできたスピアの一撃で、ヘルメットを飛ばされたので。

間髪入れずに肩砲台で頭を吹き飛ばす。

支援ツールは偉大だ。

一華が生身で銃を持っても、こんな神業は絶対に不可能だ。

それに敵もオートエイム機能付きのアサルトとかショットガンとかインチキ武器を使っているのである。

これくらいは許される筈。

それはそれとして、かなり被弾する。装甲が警告を発し始める。

珍しく手間取っているな。

そう思いながら、また一体を仕留める。最後の一体が、霧の中で仕留められたらしく。射撃やめと通信が入る。

壱野の通信は声に威圧感があって。

兵士達も、狂騒のまま射撃するのを、すぐに止めていた。

「一華、補給車をあのビルの影に移動してくれ。 皆は補給車で補給を。 ニクスの装甲はまだもちそうか」

「いや、多少ダメージを受けたッスね」

「そうか、ならば応急処置を急いでくれ。 長野一等兵」

「おう」

補給車に控えていた長野一等兵が、すぐに工具を持って駆け寄ってきてくれる。弐分が手伝って、ニクスの装甲の応急処置を開始する。

ぶちぶち文句を言っているのが聞こえた。

「壁になるのが仕事とは言え、お前さんも大変だな……」

「ニクスの声が聞こえる感じッスか、長野さん」

「機械はみんな喋る。 職人に対して文句を言ったりもする。 こいつはお前さんの腕が凄すぎてついていけないといつも嘆いているよ」

「……そうっスか。 過大評価ッスそれ。 私では無くて、積んでるPCが……」

長野一等兵は応えない。

程なく、応急処置が完了する。

この霧の中では、一華では流石に空爆要請を綺麗に当てる自信はないか。

DE202を呼ぶのは止めた方が良いだろう。

「補給完了!」

「負傷者は後方に下げてくれ。 結構な数が来る」

「えっ……」

「噂に聞いているかも知れない重装が多分いる。 激戦になるぞ。 気合いを入れてくれ」

兵士達が絶句する中。

向こうで、何かが降り立つ音がした。

どうやら本当らしい。

そして、向こうは既に、戦闘の痕跡を発見し。此方に接近してきている様子だ。壱野の様子からそれが分かる。

それであの位置に自動砲座を。

味方の再配置を壱野が急がせる。兵士達はビル影に。ただしビルには入らないように念も押された。

重装がいるとなると、ビルを簡単に消し飛ばすロケットランチャーを装備している可能性が高い。

ビルの中に隠れても意味がないのだ。ビルの高所からの狙撃兵なんて、文字通りの好餌である。

程なく、ボロボロのコロニストが姿を見せる。ニクスであしらう。

まだ必要はないだろう。壱野は霧の中に射撃を続けているが。もう誰もそのシュールな光景に何も言わない。

ほぼ同時に顔を上げる弐分と三城。

三城の方が、わずかに早かったか。

「接近戦を頼む。 重装がやはりいる。 気を付けてくれ」

「分かった。 雪辱戦だ」

「今度はたたきふせる」

弐分と三城が霧の中に消える。

程なく、自動砲座を起動するように指示が来た。勿論、即座に起動する。

重装がいるなら、遅すぎる位だ。

自動砲座が、識別システムを使って、霧の中に射撃を開始。

それをリンクシステムで辿って、敵の位置を大まかに確認すると。

一華も射撃を開始。敵の位置は大まかに分かる。肩砲台をぶちこんで、更に機銃も叩き込む。

兵士達も半ばヤケクソになって射撃をしているが。

程なく反撃が来る。

これは、あのガトリングか。

バックステップして避けるが、凄まじい火力だ。しかも追尾してくる。見る間に装甲がアラートを慣らす。

更にロケットランチャーが数発直撃。

ニクスが揺れるが、別に悲鳴とかは上げない。上げてもしょうがないからだ。

少なくとも重装は二体か。

自動砲座が激しい攻撃を続けている。更に壱野の狙撃が、淡々と続けられている。

霧の中から飛び出してくるコスモノーツ。鎧が禿げている。胴体部分を機銃で射撃して、即座に仕留める。

激しいダンスの後、吹っ飛ばされるコスモノーツを踏みにじるようにして、重装が姿を見せる。

かなり鎧にダメージを受けているが、戦意が落ちている様子がない。

ぞっとするが、兎も角射撃射撃。自動砲座の攻撃が集中。ニクスの射撃も集中する。

ロケットランチャー持ちだが、手元に傷がある。さっき数発程度の直撃で済んだのは、多分壱野の狙撃か、弐分か三城がアシストしてくれたのだろう。

舌なめずりしながら、射撃。

鎧を粉砕。

其処に、霧の中から現れた弐分が、横殴りにスピアを叩き込み。

重装は、悔しそうに軋みをたて。大木のように横倒しになっていた。

程なく、壱野が通信を入れてくる。

「射撃止め」

「こっちも片付いた」

霧の中から、弐分と三城が姿を見せる。

一華も冷や汗を掻いたが、見るとアーマーは限界値だ。これは長野一等兵に後でぶちぶち言われるだろう。

「此方成田軍曹。 あ、あれ……」

「此方村上班。 敵は掃討した」

「中華からドロップシップが其方に移動しているのを偵察機が見つけて、それで……」

「重装も含めて全て片付けた」

ぽかんとしている様子の成田軍曹は。

やがて咳払いしていた。

「さ、作戦終了ですね。 分かりました。 近くにベース250があります。 そこで解散後、補給を受けてください。 次の指示は、追って行います」

やはり頼りないな。

そう嘆きたくなる。

だが、それでも戦略情報部から情報は仕入れてくれた。遅いとは言え、である。

弐分が来る。どうやらフレンドリファイヤでアサルトの弾を少し貰ったらしいが、フェンサースーツが防いでいた。

この辺りは、霧の中だ。気にする事もない。

「皆、撤収だ。 引き上げるぞ」

「……さ、サー」

兵士達も困惑している。

だが、いずれにしても相当数のコスモノーツを倒し。レーザー砲持ちも倒し。更に重装コスモノーツ二体もしとめた。

これは、多少味方の負担を減らすのには、充分な成果の筈だ。

そう信じる事にする。正確にはしたかった。

 

3、撃沈

 

スプリガンとグリムリーパーと、現地で合流する。現地には、既にかなりベテランらしいレンジャー部隊が控えていた。

此処は以前に出現した敵の前線基地だ。

場所は香港。

九州に出向いて、各地の戦線を点々とした後。

此処をどうにかしてほしいと中華の劉中将から連絡を受けて。様子を見に来たのだが。

確かにこれは、生半可な部隊で対応は不可能だろう。

三城にもそれは一目で分かる。

何しろ、多数のシールドベアラーが既に展開しており。

それらがテレポーションアンカーを守っているのだ。何重になったバリアの壁。空爆は何の意味もない。

しかも此処は、香港の機関部とも言える工場地帯の一つ。

此処を失う事は、あまりにも痛い。

とにかく、何とか奪回作戦を成功させなければならない。

三城は、ブリーフィングに参加する。

今回は荒木軍曹がいない。

軍曹は軍曹で、別の戦線で厳しいミッションに参加しているそうだ。

ならば、手助けは頼めないだろう。

作戦指揮についてどうするかという話になったが。

ジャムカ大佐も、ジャンヌ大佐も、そろって大兄に任せると言って。

それで大兄も、頷いて受けていた。

「これは攻城戦です。 アンカーの位置を把握しましたが、シールドベアラーと密接に噛んでいて、一機に破壊するのは不可能でしょう。 ヒットアンドアウェイを繰り返し、少しずつ破壊するしかありません。 アンカーより出現している怪物もα型、β型、飛行型と多様で、侮れない戦力です」

「しかも工場のパイプが露骨に邪魔だ。 上層部は工場を可能な限り破壊するなと注文もしてきているのだろう?」

「此処は軍の備品を生産している重要拠点です。 それも致し方がないかと思います」

「やれやれ……」

ジャムカ大佐がウィスキーの瓶を探して、ブリーフィング中だと言う事を思い出したように手を止めた。

呆れてそれを見ていたジャンヌ大佐だが。

意見を出してくれる。

「我々が破壊任務を請け負おうか」

「いえ。 どっちにしても全員で一撃離脱の波状攻撃と、敵の排除を根気強くやらなければなりません。 戦闘は長時間になると思いますので、その都度指示を受けていただけると……」

「分かった。 そうだな、これだけの規模の城塞だ。 簡単には陥落させられないだろう」

「それでは、装備について各自点検をお願いします」

移動車両から降りる。

近くに輸送車をとめる。今回は流石に作戦規模が規模なので、近場の基地からかき集めて来たらしい部隊がいる。

ただ、一種の囮戦法を取るらしく。

あくまで城塞の攻撃は村上班、グリムリーパー、スプリガンで担当。

アンカーからあふれ出た怪物を、この部隊で対応する流れだ。

ニクス二機とタンク六機、それに対空の戦闘を行うネグリングが一両いる。兵士も百人ほどと、最近の作戦としてはかなり大判振る舞いだ。

兵士の士気もそれなりに高い様子で。

まあ、逃げ出したりはしないだろう。

三城は悩んだ末に、ファランクスを手にする。

ドラグーンランスになれるべきかと思っているのだが。どうにも。

一応、小規模な戦闘では使う事が多いのだが。

今回はシールドが満遍なく戦場を覆っていると言う事もある。近接武器しかほぼ役に立たない。

ならばレイピアとファランクスの二択。

そして敵にはビッグアンカーも確認されている。

ならば火力を重視して、ファランクスだろう。

シールドベアラーに好き放題動き回られると厄介だが。どうも此処のシールドベアラーは、転送されてきてから固定位置に貼り付いていて。ずっとそのままであるらしい。

多分動く恐れはないだろうと、戦略情報部から当てにならないお墨付きが来ていた。

作戦開始。

まずは周囲に点々と展開している飛行型を、大兄が狙撃。

一斉に反応した飛行型が近づいて来た所で、味方のニクスとネグリングが射撃を開始。近付く前に叩き落としていく。

敵はα型、β型も一斉に要塞地帯から出てくる。

タンクが射撃を開始。凄まじい砲撃で、敵の群れに穴を開け始める。

前に出て、陣形を組み直すと。

敵も陣形をくんで突撃してきたのと、正面から渡り合う。

其処に、横殴りに投擲されたのが。

スタンピートの超火力だ。

多数のグレネードを一斉に広範囲に放ち、歩兵で面制圧をするこのゲテモノ兵器の火力は使いこなせれば凄まじく。

一瞬で敵の戦列を瓦解させていた。

其処へ、歩兵達の熱狂的な攻撃が入り、掃討戦に移行する。

ただし、これは今いる敵に対してだ。

「よし、主力部隊は陣形を維持。 村上班、グリムリーパー、スプリガン、突入する!」

「フーアー!」

「おうっ!」

突貫開始。

グリムリーパーは流石だ。凄まじい機動で、一気に敵陣を喰い破っていく。

更にスプリガンによる雷撃銃が、的確に飛行型を叩き落としていく。

三城はそうやって出来た道を驀進。

まずは、最初に潰せと言われていたシールドベアラーに接近すると、ファランクスで粉砕する。

同時に、小兄が、アンカーを一つ粉砕していた。

だが、怪物がぼとぼととアンカーから落ち始める。

大兄が、指示を出す。

「よし、後退!」

「後退する」

三城は無言で後退を開始。わっと飛行型が追ってくるが。

誘導兵器で、数十匹を一気に拘束する。

そもそも誘導兵器は使える人間が殆どいないらしく。更には開発の過程で廃人になるものが出たとか言う噂がある、曰く付きのしろものらしい。

だが、妖刀大いに結構。

一番怖いのは妖刀なんかではなく人間だ。

だから、妖刀を使う事になんら躊躇なんてものはない。

そのまま、中空に誘導兵器。今回持ってきているのはミラージュというものだが。これで一気に飛行型を制圧しつつさがる。

多少射撃速度は遅いが、ゴーストチェイサー型に比べて燃費が良い。これはもう少し改良したら、更に完璧な兵器になるかも知れないなと、三城は思う。いずれにしてもさがりながら敵を削り、補給車に駆け込む。

殿軍は一華のニクスがやってくれた。機銃で近寄る怪物を片っ端から蹴散らしてくれたので、活躍である。

怪物を今度は横殴りに主力部隊の火力が襲う。

大兄がアサルトに切り替えて、まだ此方に纏わり付いてきている連中を片付けてしまうと。

後はまた、先と同じような状況が出現した。

これをくりかえしながら、敵の兵力を削って行くのだ。

緊急通信が入る。

千葉中将だ。

「村上班、非常にまずい情報だ」

「なんでしょうか」

「潜水母艦の一隻、パンドラが大きなダメージを受けて沿岸部に接舷したという報告があった。 どうやら地上への支援任務中に、インペリアルドローンの部隊に集中攻撃を受けたらしい。 現在停泊して修理中らしいが、マザーシップナンバーエイトが接近していると言う事だ」

「任務を切り上げて其方に行きましょうか」

間に合わない、という。

なんでもオーストラリア近辺だと言う事で、今から作戦を切り上げて其方に向かっても、絶対に間に合わないそうだ。

マザーシップは恐らく三十分も掛からずにパンドラに到達するとか。

それは、チェックメイトかも知れない。

「分かりました。 ……此処での戦闘を続行します」

「現地では救援部隊が向かっているが、相手はマザーシップだ。 希望はあまりない……」

「……戦闘に戻ります」

今のはグリムリーパーもスプリガンも聞いていた筈だ。

そもそも潜水母艦は今までの戦いで、かなりの海上支援を行ってきてくれている。一応話は聞いているが、元々ノアの方舟として作られたものらしく、戦闘艦というよりも移動型避難シェルターの側面が強いらしい。

最悪の場合は深海に引きこもり、隙を見て人類再生のための作業に入るというのが任務らしいのだが。

最近の戦況は、潜水母艦にも積極的な支援を必要とさせていたし、

何よりも、潜水母艦を面倒くさがったプライマーが付け狙っているのも、三城でさえ知っていた。

いつか来る事態だった。

そう思うしか、ないのかもしれない。

「敵59%撃滅!」

「再突入開始! 狙いは二番目のターゲット!」

「よし!」

今回は、かなりパイプに頑強に守られている真ん中に巣くっているシールドベアラーと。絶妙な位置にいるアンカーの粉砕が目的だ。

大量の怪物をまずは横殴りの攻撃で削り取り、穴を開ける。其処から突入。機動戦をこなしながら、グリムリーパーは壁になってくれる。

工場に入り込むと、身動きが取れなくなることは分かっているのだろう。

今度はジャンヌ大佐が前に出る。

また、一華もだ。一華は文字通り怪物を蹂躙しながら、敵を強行突破。かなり酸を浴びたようだが。

しかしながらかなり強引に敵陣をねじ開け。

肩砲台を数発叩き込んで。

綺麗にアンカーを粉砕していた。

更に、同時にジャンヌ大佐が援護を受けながらも、面倒な位置にあったシールドベアラーを破壊する。

ドラグーンランスを使いこなしている。

大したものだ。

見ながら、使いこなし方を覚える。

理屈は分かっている。ジャンヌ大佐はドラグーンランスの名手としても知られていて、何度か実戦映像もみた。

いわゆる見稽古だが。

近くで見ると、色々と気づきもある。

またシールドが剥がれるが。面倒な位置にあったシールドベアラーの割りには、敵の守りはそれほど崩れていない。

本当に複雑にシールドを重ねているな。

そう思いながら、後退。またわっと敵の増援が出てくる。

アンカーが出力を上げているのか。

アンカーそのものが減っているのに、出てくる怪物の数はあまり変わっていない。

ただ、比率としてはβ型が増えている。α型の出てくるアンカーを二本へし折ったからだ。

また、ビッグアンカーからは金のα型と銀のβ型が出現するのを確認。

警告を飛ばす。

「ビッグアンカーから金銀出現」

「!」

「急いでさがって、体勢を立て直す!」

普通のニクスだったら、後退している途中にやられてしまっただろうが。一華の高機動型は器用にさがると、ジャンプを駆使して逃げ切る。

グリムリーパーが最後尾になって敵の群れを捌きつつ、後退。

金のα型が、大兄の狙撃で消し飛ぶ。

かなり厄介な方向から死角をつこうとしてきていたのだけれども、即応だった。銀のβ型が、マイペースに飛んできている。

さっと前に出たのはあの河野か。

ファランクスを銀のβ型に叩き込む。

まずいな、あの位置。

そう思ったので、無言で援護。

そのまま背後をα型に取られそうになっていたが。そのα型を誘導兵器で拘束し。逃げる時間を作る。

銀のβ型を焼き切って自慢げな河野は、後方に気づいて慌てて逃げる。

逃げるときに、心底嫌そうに三城を見るのが分かった。

この手の人間は、プライドが全てなんだな。

そう思うが、それでも今は戦力が大事だ。

さがりつつ、味方の火線上に誘導。

タンクとニクスが、殺到してきた敵を押し返す。かなり士気が高い部隊だ。連携がとてもやりやすい。

「次は予定を変更。 五番目を叩く」

「……それがよさそうだな」

金のα型に果敢に接近戦を挑み仕留めたジャムカ大佐がぼやく。

五番目。

最初はあまり危険視していなかったビッグアンカーと、中央部分にあるシールドベアラーの事である。

今の発言通り、最初は五番目に叩くつもりでいたのだが。

作戦を変えた、という事である。

敵を削りきるまで戦闘。味方部隊も、負傷者が増え始める。浸透力が高いβ型が多く、どうしても防ぎきれないからだ。

「タンク2、装甲の補修を急げ!」

「今のうちに補給!」

「ネグリング、一度さがってミサイルを補給する! 援護してほしい!」

味方部隊に集っている敵を、大兄がアサルトで横殴りに蹴散らす。とにかく集弾率が尋常ではなく、見る間に減っていく。アサルトで撃っているのに弾を殆ど無駄にしていない。

大兄が周囲を見回す。

「どうした、大兄」

「金のα型が一体足りない。 気を付けろ。 奇襲してくるかも知れない」

「!」

小兄の側背。

味方の死骸を上手にカモフラージュに使いながら、潜り込んでいた金のα型が姿を見せる。

小兄でも間に合わない。

大兄も、気づくのが一瞬遅れた。まずい。

あれの酸は、フェンサースーツでどうにかできる代物ではない。接射されたらニクスですら全損だ。

ゆっくりと動いていく時間の中。

雄叫びとともに、横殴りにブラストホールスピアを叩き込んだのは。

ジャムカ大佐だった。

「ナイスアシスト」

「ああ。 気を付けろ。 巧妙な怪物もいる」

「ありがとうございました」

「任せておけ」

たまたま一番近くにいた。

だが、それでも反応してくれた。冷や汗が流れる。ともかく、こうやってカバーしあって行くしかない。

敵が減ってきた。接近攻撃を再び仕掛ける。

ビッグアンカーに接近。まだ敵陣地近くに居残っていた怪物が迎撃してくる。シールドが複層になっていて本当にやりづらい。

それでも、やるしかないのだ。

こんな状況でも、ジャンヌ大佐はドラグーンランスできちんと怪物を落としている。

戦闘地帯に多数存在する、工場のパイプを蹴って何度も加速しながら。三城はビッグアンカーに到達。ビッグアンカーが怪物を転送するまで、もう時間がない。

ファランクスをアンカーの宝石のような部分に叩き込む。

凄まじい熱量が至近で炸裂しているのが分かる。冷や汗が流れるが、それでも怪物が出現するより早く。

ビッグアンカーは爆発四散していた。

小兄が、下の方でシールドベアラーを粉砕している。

そのまま引くように指示。

やはり、怪物がかなり出てくる。味方の主力部隊は、補給が終わっているだろうか。少し心配になる。

「此方ネグリング! 補給まで五分ほど待ってほしい!」

「ニクスでどうにか迎撃をするしかない!」

「……飛行型を此方で引き受けるしかないな」

ジャンヌ大佐が空中戦だ、と叫ぶ。

良く躾けられたもので、スプリガンのウィングダイバー達は踏みとどまると、それぞれ飛行型との格闘戦の準備に入る。

金銀が出てこないだけでかなり楽になったはずだが。飛行型は増える一方。

アンカーが破壊される度に出力を上げている。管理をしているエイリアンの姿は見えないということは。

そういうプログラムで動いているのかも知れない。あれは単純な構造だが、精密機器だ。

そういう機構が仕込まれていてもおかしくはないだろう。

「敵の中枢を守っていたシールドベアラーを粉砕したことで、アンカーを狙撃で破壊出来る! 支援をしてください!」

「了解した!」

大兄が移動開始。何名かグリムリーパーがその護衛につく。

大量の怪物が来るが、大兄がわざわざ此処で選択をした理由は一つ。狙えるようになったのが飛行型を出していたアンカーだからだ。

危険度はどうしても飛行型が高い。

そう考えると、基本的に危険なものから破壊するのは当然の戦略となる。

ならば。

三城は誘導兵器で、スプリガンの援護をする。周囲の支援は小兄がしてくれる。任せられる。そのまま誘導兵器で飛行型をばりばり叩き落とす。スプリガンも奮戦してくれているが、それが更に楽になるように。

「ネグリング戻った!」

「よし、グリムリーパー、スプリガン、全員後退! 敵を火線の中心に引きずり込んでください!」

「ようやくか!」

「ふっ。 楽勝だな」

強気なジャンヌ大佐の発言だが、見ていると本当に紙一重だ。

そして分かる。

ジャンヌ大佐がずば抜けて強いだけで、他のウィングダイバーは正直それほどでもない。連携戦は上手いけれど、それ以上でも以下でもない。

面白い事に、あの河野もそれは同じだ。

きっちり連携に混じっている。

この辺りが、要領のいいとされるゆえんなのだろう。

全力でさがって、頭に来た様子で追ってくる怪物を誘導し。

そして、戦車隊が一斉に主砲を叩き込み。

兵士達がロケランをはじめとする大きい火力の武器を叩き込み。

更にはネグリングが飛行型の残党を駆逐する。

凄まじい火力で敵を薙ぎ払い。

だが、敵主力はβ型だ。赤いα型の壁が崩れる寸前に一部が踏みとどまると、糸をタンクに向けて放射する。

昔は、これだけで致命傷だっただろう。

今でも、戦車隊が大きなダメージを受けたことに変わりはない。

「くっ、戦車部隊、被害甚大! 擱座2、中破3!」

「歩兵隊、負傷者大!」

「時間を稼ぐ。 応急処置をして、次に備えてほしい! 少し無理に攻めます! いけますか!」

「無論だ!」

ジャムカ大佐が吠える。

ジャンヌ大佐はふっと笑ってみせるが。スプリガンはそろそろ体力的に限界の筈である。

だが、それでも。

大兄は頷いていた。

「作戦変更。 全員で散って、残ったシールドベアラーを全て粉砕してください。 後は狙撃で片付けます」

「任せろっ!」

即座にバイザーに対応するシールドベアラーが送られてきた。

この切り替えの速さ、流石大兄だ。

だが、シールドベアラーを粉砕すると言う事は、次の怪物の群れはまんま同じのが出てくると言う事だが。

耐えられるか、この状態で。

いや、やるしかない。

そもそもさっきの味方主力のダメージだって、戦闘が長引いた結果だ。これ以上は無理だと判断したのだろう。

補給車が、味方部隊の方に向かっているのが見える。

もう戦車隊は固定砲台として見るしかない。

三城のバイザーに通信が来る。

「三城。 シールドベアラーを粉砕したら、すぐに補給車に戻ってくれ。 射線が通ったら、ライジンに切り替えて、一本ずつアンカーを粉砕しろ。 出来るな」

「……大兄、まさか」

「俺ならこの程度の数は捌ける。 弐分も一華もグリムリーパーもスプリガンもいる」

「わかった」

唇を噛む。

これは、最高に責任が重大だ。

上空に出る。

一気に、高度を速度に変える。飛行ユニットが、速度が出すぎていると警告を出してくるほどだ。

フェンサーの事実上の最高速度。

小兄の使うブースターとスラスターの併用での最高加速すら、凌いでいるかもしれない。

飛行技術の粋をつくし、飛ぶ。

燕や隼がそうするように、空気抵抗を極限まで減らすように体を縮め。更に加速をする。そしてファランクス一閃。

シールドベアラーを粉砕。

そのままさがる。

この部隊だ。

全員が、やれることをやれるはず。

そう判断して、後は全力でさがる。後ろは見ない。一つ、アンカーが破壊される音がした。多分大兄が、ついでに粉砕していったのだ。

「C7地点に集結! 敵を迎え撃ちながら、少しずつ後退してください!」

「おおっ!」

「本番だな……」

「無茶苦茶な作戦ッスね……」

一華がぼやいているのが分かるが。ジャムカ大佐は吠え猛ることで己を鼓舞し。ジャンヌ大佐は冷静ながらも己の中で覚悟を決めている様子だ。

三城だけが、しくじるわけにはいかない。

補給車に到達。

クラゲのドローン。

頭に乗せる。

一華がたまに、梟のドローンをニクスのコックピットでいつも頭に乗せていると言っていた。

三城もそれを真似してみることにする。

随分とこれが落ち着く。

なるほど、これが。

ならば。その効果が。まあ自己催眠だろうけれども。消えないうちに、一気にけりをつけさせてもらう。

ライジン型レーザー砲を構え、エネルギーを充填。

一射。

ぼとぼととβ型を落としているアンカーを粉砕。

飛行型を出していたアンカーは、さっきついでの駄賃に大兄が粉砕していた。

三城は、ここからは狙撃に専念。

大兄みたいに、「当ててから放つ」は無理だとしても。

それでも、やれることをやるだけだ。

エネルギー充填完了。

発射。

周囲が暗くなるほどの、凄まじい光とともに。超高出力レーザーがぶっ放される。アンカーが粉々に砕ける。

後三本。

怪物の数は凄まじい。

パイプの群れを上手に盾にしながら、村上班もグリムリーパーもスプリガンも激しく戦っている。

時間を掛ければ、死者を出す。

味方の主力は再編制の途上。戦車隊を応急処置するだけで、多分全く結果は違ってくるはずだ。

もう一射。

残り二本。

呼吸を整えながら、ライジンが限界近いことを悟る。このライジン型レーザー砲、モンスター型に比べて火力が大きい分、レーザー砲そのものが連射を想定していないらしい。一華に聞いた話だ。

もう二回、もってほしい。

そう願いながら、エネルギーを充填していく。

そして、ぶっ放す。

更に一本が砕ける。

無線が入ってきた。

千葉中将からだった。

「村上班、良くない知らせだ……。 オーストラリアで、修理中の潜水母艦パンドラがマザーシップナンバーエイトに撃沈された……。 指揮官である上杉上級大将も戦死したようだ。 救援部隊も急行したが、間に合わなかった。 人類は……切り札の一つを失った……」

そうか。

全長千メートルを超える巨大潜水母艦。撃沈されたとなると、護衛のサブマリン艦隊も無事ではすまなかっただろう。

今は、それは頭から忘れる。

最後の一射。

同時に、ライジンが内側から爆ぜるように、砕けていた。

気にしない。

当たったかどうかだけを確認する。

問題ない。一撃とともに、アンカーは砕けていた。

呼吸を整えながら、傷を確認。大丈夫、指は飛んでない。ただ、今爆ぜた破片が、何個か腕や足に突き刺さっていた。

動脈をやっているような破片は無い。全てその場で引っこ抜く。

鏡を見て、被弾した可能性がある位置は確認。

アドレナリンが出過ぎていて、痛みがない。だから、こうしてむしろ冷静に状況を見なければならない。

戦闘時の興奮状態になると、傷が分からなくてそれが敗因になると、祖父から何度か教わり。

苛烈な訓練の末に興奮状態を再現して。

それで、そういうときこそむしろ冷静になる訓練もした。

だから、今こうやって対応できる。

思うに、祖父は大兄と全盛期なら互角レベルの使い手だったのかも知れない。

全てが、役に立っている。

無事だったクラゲのドローンを補給車に戻すと、ファランクスに切り替える。

戦えるうちに、敵を減らす。

「こちらタンク部隊! 応急処置は終わった! 機動は無理だが主砲は撃てる! 残敵の掃討に参加する!」

「よし、我々が引きつけている敵を誘導する! 一斉射で仕留めてくれ!」

「イエッサ!」

無言で上空に出ると、誘導兵器をぶっ放す。皆に集っている怪物の足止め、それだけ出来れば充分だ。

皆が出来た隙をついて後退してくる。それぞれ傷を受けているようだ。それもそうだろう。あれだけの数とガチンコしたのだ。

何人か、ウィングダイバーが仲間の肩を借りている。意識がない様子だ。

味方を引いて逃げようとしているウィングダイバーを狙うβ型を、誘導兵器で優先的に吹き飛ばす。

そして、撤退を支援した。

「三城、完璧だった。 すごいぞ」

「でも、皆が……」

「覚悟の上だ。 死者は出ていない。 死者さえ出さなければ……どうにでも挽回は可能だ」

「……そうだね」

上空から、もう一閃。

敵を更に拘束して、その陣容を薄くする。

敵を射撃しながら下がって来たみんな。それを、追ってきた敵。味方部隊が敵の横っ腹をつく。

激しいが、短い戦いが終わると。

工場地帯には、静寂が戻っていた。

フル稼働しているキャリバンが、次々と負傷者を運んでいく。

ヘルメットを取ったジャムカ大佐が、頭から血を流していた。ふうと嘆息しながらどっかとあぐらをかき、ウィスキーを口にする。

「もう敵はいない、だったな。 壱野中佐」

「ええ、もう周囲に悪意はありません」

「そうか。 指揮を任せて正解だった。 俺だったら、多分俺以外は生き残れなかっただろう」

「……」

ジャンヌ大佐は無言で部下達をキャリバンに優先で運び込んでいる。

負傷者の中には河野もいた。腕から結構出血している。多分あれは、β型の糸にざっくり抉られたのだろう。

肩を大兄に叩かれる。

「三城、お前もだ。 治療を受けてこい」

「分かった。 でも、敵の増援が来たら呼んでほしい」

「分かっている。 今回のMVPはお前だ」

「……ありがとう」

大兄はそうやって、いつも褒めてくれる。だけれども、MVPは作戦立案、途中の柔軟な行動、更には縦横無尽の暴れぶりから考えて、大兄に決まっている。

それを考えると。

少しだけ、寂しかった。もう少し大兄は、欲を出してもいいのにと。

 

4、帰還

 

全員が大なり小なり怪我をしている中。

日本に戻る。東京基地に直行するのでは無く、九州の福岡基地に一度着陸。そこで、本格的な手当や再編制を行った。

一華は伸びをしながら、与えられた部屋に直行。

ベッドで横になりたいが。流石に今回は冷や汗を掻いた。

それにだ。

パンドラが撃墜された経緯と、ダメージを確認しておかなければならないだろう。

状況を見る。

どうやら、パンドラは支援のために浮上した所。雨に紛れて接近してきたインペリアルドローンによって集中砲火を受けて、動力炉に大ダメージを受けたらしい。更に装甲にも、だ。

まるで、どこにパンドラが浮上するか知っていたかのような動きだ。

必死に対空砲火でインペリアルを撃墜しつつ、パンドラは沿岸域に向かう。

同時に、ほぼ完璧な移動路でパンドラに迫っていたマザーシップナンバーエイトが、パンドラに接敵。

オーストラリアの部隊は数少ない精鋭を先発してパンドラに向かわせたが、間に合わなかった。

彼らの目の前で、マザーシップの主砲がぶっ放され。

パンドラに直撃。

パンドラは、二つにへし折れ。そのまま海の下へと沈んでいったそうである。

そして、海上の輸送路などに、大きな影が出来ている。

今まで潜水艦隊がカバーしていた輸送路などが、まるまる使えなくなった。

支援が期待出来た場所が、ごっそりなくなっている。

三隻の潜水母艦の内一隻が落ちたのだ。

それは、こうなるのも自明の理だったのだろう。

ふうと嘆息する。

やはり、一人。

或いは少人数の精鋭で出来る事には限界がある。そう結論せざるを得ない。

敵のシールドベアラーに守られた陣地の陥落には、大きな意味があった。中華本土への軍需物資への再輸送を行える。物資の再生産も出来る。

更には、敵の大規模な守備隊、多数のシールドベアラーの破壊にも成功した。

だが。そこまでだった。

さて、どうするか。

プライマーはこっちの言葉を分かっている。

近代戦の基本は、対話のチャンネルを開けておくものだ。

それをやらないということは、プライマーは地球人を皆殺しにするつもりだ。降伏も受け入れるつもりはないのだろう。

絶滅させるつもりなら、降伏させた方が早いはず。

それすらもやらないということは、何か理由があるのだ。

三城と接触した赤いコスモノーツが言っていたように。

「必要」なのだろう。

地球人類を絶滅させる必要性なんてどこにある。それも宇宙人が、だ。

例えば、地球人類がいわゆる空間相転移のような、宇宙全土を破滅させるような事を引き起こしたりとか。

そういうのが理由だろうか。

いや、どうにもそれならおかしい。それだったら、もっと攻撃は容赦なくなるはずだ。地球の環境どうこうをプライマーが気にする必要性がない。

色々と考え込むが。

どうにも情報が足りなさすぎる。

一次資料がない歴史談義が無意味なように。

適切な資料がない上での情報について分析することは、はっきりいって徒労だと。一華は考えていた。

部屋で色々キーボードを叩きながら情報を整理しているうちに、アラームがなる。

リーダーがお冠だ。

風呂に入って、それからさっさと休む事にする。

そして、起きた時には。

疲れきっていたからか、時間が飛んでいた。

夢は見なかった。

伸びをしていると、無線が入る。

「一華か。 今起きた所か」

「リーダー。 どうしたッスか」

「可能な限り急いで出撃の準備をしてくれ。 次の作戦だ。 関東に戻る」

「了解ッス」

パンドラがやられたのだ。

人類の最大戦力の一つが、である。

それならば、更に村上班の負担が大きくなってくるのも道理だろう。

残りの潜水母艦、エピメテウスとセイレーンも危ない。

この二隻も負担が増える。

当然、それだけ撃沈される可能性が上がっていくと言う事なのだから。

準備を終えると、集合地点に出向く。

バンカーだったので。予想して、PCを荷造りしてキャリーで押していった。皆、既に待っていた。

村上班だけ。

グリムリーパーとスプリガンは、別のミッションにもう飛んだそうだ。

再び連戦だろうな、これは。

そう思いながら。一華はニクスにPCを積み込むのを、長野一等兵に手伝って貰った。

 

(続)