光の死線

 

序、迫る大軍

 

村上班は関東に呼び戻されていた。

しばらくは岐阜近辺で転戦し、飛騨近辺から現れる大量の飛行型と交戦していたのだけれども。

しかしながら、状況が急変したのである。

愛知県境に陣取っていたコスモノーツの大軍が進軍を開始したのだ。

どういう目的があるかは分からない。

実際、アーケルスを従えて好き勝手をしていたのだ。

主に周辺地域へのハラスメント攻撃を中心にやっていたのである。

何故に、攻撃を仕掛けてきたのかよく分からないが。

兎も角、村上班は出向くこととなった。

現地では、東京基地から全力に近い兵力が出て来て、展開している。

荒木班は今、オーストラリアに向かっているらしい。

其処に何やら無視出来ない敵の新型兵器が姿を見せたらしく。

データをとるために。

更に今はオーストラリア方面軍の司令官になっている、アフリカで共闘したタール将軍を助けるために。

出向いていると言う事だ。

それならば、荒木班にしか任せられないだろう。

既に荒木軍曹は、実際の階級は大佐になったらしい。

軍でも幹部になる地位だ。

だが、今も現場主義を変えるつもりはないらしく。

軍曹と今後も呼んでくれ、と言われていた。

常に軍曹であるつもりなのだろう。

小田原近くで、部隊と合流する。

かなり目減りしているが。それでもニクス四機を有する大部隊だ。コスモノーツ五十体を相手にするとなると、これくらいはいる。

指揮官達と敬礼をかわし。その後、前線に出向く。

今回は、千葉中将が直接指揮を執るそうだった。

前線での指揮は、壱野に一任された。

それで、かなり被害を減らせると思いたい。

「村上壱野中佐。 今回も頼むぞ」

「はい。 事前に準備が出来れば良いのですが……」

「そうもいかない。 小田原の辺りまで敵は既に進出してきていて、このままだと残っているインフラ周りが破壊し尽くされる。 更に平地でレーザー砲を装備したコスモノーツとの戦闘は自殺行為だ。 敵はまだ小田原に集まり続けている状況で、其処を強襲し殲滅してほしい」

「分かりました」

とはいっても、進軍速度がまちまちだ。

戦車隊は既に揃っているが、タイタンは恐らく間に合わない。ニクス四機は既に周囲に展開していた。

ニクスは単体で既にコスモノーツと互角以上の戦闘が可能だ。

それだけEDFがというか、世界政府が徹底的に軍事に注力して、バージョンアップを重ねているからである。

しかしながら、ショットガンを装備したコスモノーツや。更にはレーザー砲を装備した相手とやりあうのは分が悪い。

一華の高機動型のように、高機動で移動する事も大半のニクスは出来ない。

そういう意味では、この部隊を分散はさせたくなかった。

かといって、レーザー砲を装備したコスモノーツがいるとなると、市街戦が一番正しい作戦だろう。

それについては、壱野も異論がない。

戦略情報部の少佐が作戦を提案してくる。

「此方戦略情報部。 敵を包囲しながら、街に突入する作戦を提案します。 村上班が遊撃で動けば、突入後包囲されるのをそれで防げる筈です」

「いや、その作戦は恐らく失敗する。 コスモノーツは街に展開して、各個撃破を狙って来るだろう。 奴らは市街戦にコロニストより遙かに習熟している。 相当に訓練された精鋭だ」

「なるほど。 他の作戦がありますか?」

「快足のグレイプを使用して前線に突入し、速攻で後退する。 その際に敵を数体打ち抜き、引きずり出す」

懸念を示す少佐だが。

グレイプは遠隔操作で一華が操作する事。

更には、全員の火力を集中するには、それが都合が良い事を告げると。

納得はしてくれた。

「分かりました。 ワンマンアーミーである貴方の言う事を信じましょう。 作戦については、サポートします」

「了解」

「敵、確認! 確認されただけでも三十体います!」

「よし。 では行くぞ」

小田原の街の辺縁に展開。

この辺りもそれなりの規模のビルが多数建っており、少なくともレーザー砲持ちの射線は遮ることが出来る。

ニクスが展開。戦車隊も。

兵士達も、それぞれ若干動きは鈍いながらも、建物の影などに伏せた。

グレイプを一華が遠隔で動かし、前に突貫する。

相変わらず凄まじい速度だ。コスモノーツどもが反応するが、前にC30爆弾で一掃された事件を知っているのだろう。

さっと距離を取ろうとする。

そう動くと分かっていた。

速射。立て続けに数体のヘルメットをライサンダーFで撃ち抜く。弐分と三城、勿論一華もクロスファイヤーポイントに控えている。

そのまま射撃を続ける。流石にコスモノーツも無視出来なくなり、次々に姿を見せるが、出会い頭に射撃を当てる。この速度で動き回りながら、射撃を当ててくるとは思っていなかったのか。

コスモノーツどもは独特の声で喚きながら追いかけてくる。

「次、右に曲がるッスよ」

「よし。 その次の角だな」

至近に、レーザー砲持ちのコスモノーツ。出会い頭に、腕を吹き飛ばす。文字通りレーザー砲を「手放した」コスモノーツは、呆然と吹っ飛ばされた手を見ていた。鎧にまもられていると言っても、流石に手先などの細かい部分までは守りきれないのだ。

多数のコスモノーツが追ってくる。此奴らも、相当な速度で走る。そりゃあ体格が大きいのだから当然である。

角を曲がる。

そこには、ニクス隊と戦車隊が。

ここぞとばかりに、砲列を揃えて待ち構えていた。

手足が吹っ飛んでも再生する。

コロニストもコスモノーツも、そういう驚異的な生命力を持っている。

だから、既に兵士達には徹底されている。

胴体か、頭を撃ち抜けと。

完全に誘引されたコスモノーツ達は、一方的な攻撃に晒され、文字通り鎧を吹き飛ばされ。剥き出しになった体を撃ち据えられる。

勿論踏みとどまって反撃しようとする者もいるが、それは壱野が優先的に撃ち抜いていった。

十体以上のコスモノーツが一瞬にして肉塊と化し。

残ったコスモノーツの背後に、三城が降り立ったらしく。閃光が迸る。不利とみて距離を取ろうとするコスモノーツが、今度は弐分のフラッシングスピアで竿立ちのまま撃ち抜かれたようだ。

更に、ビル影をコスモノーツが通り過ぎた瞬間を壱野は狙撃。

ヘルメットが吹き飛ぶ。

頭にはダメージを与えられなかったが、奴の頭はもう守られていない。

激しい射撃音。

反撃を受けた弐分と三城が、ビルを盾にしながら逃れてくる。

大型の徹甲弾を搭載した戦車が前に出ると、ビルを粉砕。コスモノーツを露出させ。慌てて逃げる前に、ニクスが蜂の巣にした。

「よし、前進。 ビルは破壊しても再建できる。 だが奴らが支配した土地は全てが破壊し尽くされる。 奴らを倒せ。 この街を取り戻す!」

「EDF! EDFっ!」

兵士達が進む。

今までやりたい放題をしてくれた礼だとばかりに、滅多矢鱈にコスモノーツを撃つ。

各地での戦況はEDFが圧倒的に不利。

生き延びた兵士も、別に技量が高い者ばかりでは無い。

中には生き延びつつ戦闘の才能を開花させた者だっているが。

それは例外中の例外。

パワードスケルトンの補助があれど、アサルトもスナイパーライフルも、半分どころか十分の一の弾も当たっていない。

だが、それでもだ。

数撃てばそれなりに当たる。

コスモノーツが逃げ腰になるのが分かる。それはそうだろう。姿を見せれば即座に壱野の狙撃が飛んでくる。

だが。この逃げ方は誘っているな。

そう壱野は見抜いた。

「全車停止! ニクス隊も!」

「!? わ、分かりました!」

「追撃を止めろ! 全員、持ち場に戻れ! 皆戦車隊の随伴歩兵に戻れ!」

走って敵に猛烈な攻撃を浴びせていた兵士達が、小首を傾げながらさがる。

同時に、通信が入った。

「此方スカウト! エイリアンのドロップシップ接近!」

「数は」

「四隻です! 其方の後方に展開しようとしているようです!」

「……全員、後方に移動。 弐分、三城、最後尾を任せるぞ」

戦車隊もニクスもきびすを返し、敵のドロップシップに全砲門を向ける。ビル街に逃げ込んだ敵は反撃をしてこようとするが。顔を出した瞬間、壱野が頭を撃ち抜いた。さっきヘルメットを砕いたコスモノーツだろう。

そのまま、頭を失った死体が立ち尽くし。

前のめりに倒れる。

「ショットガン持ちがいる可能性がある。 気を付けろ」

コロニストのアサルトライフルですら非常に危険だ。コスモノーツのアサルトライフルは更に危険だし、ショットガンは言うまでもない。

弐分と三城に警告を出してから、壱野は戦車隊とともに前に出る。

ドロップシップが停泊。

そのまま、コスモノーツを投下してくる。

レーザー持ちがいた。

即座に攻撃。戦車隊もニクスも、敵が落ちてきた瞬間を狙って一斉砲火を浴びせる。まさか、戦力の大半を集めていた方に来るとは思っておらず。出がけに集中攻撃を食らうとは予期していなかったのだろう。

コスモノーツは困惑している内に主力のレーザー砲持ちと、ショットガン持ちを蜂の巣にされる。

更に一華が叫んだ。

「よし、座標ばっちり。 行くッスよ!」

「待ちかねたぞ! DE202、急降下攻撃を開始する!」

コスモノーツは、それでも反撃してくる。さがりながら、アサルトライフル持ちが射撃してくる。

動きは機敏で、非常に正確に建物を利用し。周囲を飛び回りながら攻撃の的を絞らせないようにしているが。

さっき蹂躙したことで、建物は殆ど無くなっている。

動きは機敏だが、壱野が交戦意欲を捨てていない奴の足を撃ち抜いて、動きを止める。それだけで、他の兵士が一斉攻撃をする。

戦車隊が盾になって、攻撃も防ぐ。ニクスが集中的に狙われていて、敵の数も多いが。壱野の狙撃が強烈な抑止力となり。動きがいいコスモノーツから次々と倒れていく。更に其処へ、DE202からの制圧攻撃が加わる。大口径の105ミリ砲による攻撃は、連射されると言う事もあって、一瞬でコスモノーツの鎧を吹き飛ばし、内部の体を露出させ。粉砕していた。

誘引部隊が此方の攻撃を引きつけ。

主力で背後を突くという作戦だったのだろうが。

この時点で、コスモノーツの作戦は破綻した。

既に殆どのコスモノーツが鎧を破損させており、兵士達の攻撃にさえたじろぎ始めている。

文字通り消耗品で、死ぬまで戦う事を止めなかったコロニストとこの辺りが決定的に違っている。

コスモノーツが威嚇射撃をしながら後退していく。

「此方弐分。 コスモノーツが撤退を開始した」

「どうする大兄」

「二人で深追いせず、倒せる相手だけ倒してくれ」

「了解」

弐分がそのまま、敵の残党を蹴散らしている様子だ。三城も活躍が著しい。

壱野はそのまま、逃げようと後退するコスモノーツを徹底的に撃つ。一撃撃つ度に、鎧を吹き飛ばされているコスモノーツが竿立ちに成り、或いは吹っ飛んで倒れる。鮮血が辺りにぶちまけられるが。

コスモノーツの細い体からは、青黒い血が出ている。

確か地球にも青い血の持ち主はいた筈だ。

そうなると、鉄を利用して呼吸しているわけでは無さそうだ。

「敵、逃げ出し始めています!」

「よし、今のうちに各自補給をすませてくれ。 まだ次が来てもおかしくはない」

「イエッサ!」

一華が補給車を遠隔操作で呼び出す。

トラックの運転をする人間も、今やEDFの協力員として戦闘に参加しているが。

そういう人員すらも消耗が激しい。

一華が無人操作できる戦場なら、そうした方が良い。

補給トラックが来て、兵士達がすぐに弾薬だのを補給し始める。

専門の訓練を受けている兵士が、パッケージ化されている戦車の弾薬や装甲の補給を開始した。

東京基地の千葉中将と、戦略情報部の少佐の通信が流れてきたのは、その時だった。

「オーストラリアで敵の新兵器が確認されました」

「なんだと。 一体奴らはどれだけの兵器を保有しているんだ。 今まででも、もう戦線は各地で崩壊しつつある状況なんだぞ」

「残念ながら、この新兵器も極めて強力です。 此方の攻撃を全て跳ね返し、敵の攻撃だけを通過させる光の膜……防御スクリーンとでもいうべきものを、自由自在に操作するようです」

「そんなものを使われたら、勝負にもならないぞ!」

同感だ。

流石にちょっとそれは、冗談ではすまない相手だ。

バリアというのはSFに良く出てくるものだが。

それが実際に使われたら、どうなるか。

通信を聞いていると、これらの情報は現地にいった荒木軍曹が持ち帰ったらしい。悲報も、だ。

「様々な攻撃が試されましたが、空爆も一切受けつけません。 しかしながら、前線で決定的な弱点が発見されました」

「なんだそれは」

「一定以下の速度の物体は通過させてしまうようです。 弾丸やレーザー兵器などは一切通しませんが、人間や車両などが低速で移動する分には、全く害はないようです。 これを利用し、オーストラリアではタール大将が自ら精鋭を率いて攻撃。 部隊は全滅しましたが、この兵器の破壊に成功しました」

「タール将軍は!」

少佐は応えない。

つまりは、そういうことだ。

壱野は天を仰ぐ。

タール将軍は、立派な人物だった。

野生の猛獣のような荒々しさも持っていたが。兵士のために常に命を張り、前線で戦う勇気も持っていた。

米国で持て余されていると聞いた時、流石に苛立ちが募ったが。

そうか。

恐らくだが、此処が死に場だと思ったのだろう。そして、今までももっとも凶悪な敵兵器の弱点を、自ら暴いてくれたのだ。

「以降、この新兵器をシールドベアラーと呼称します。 既にプライマーは、この兵器の有用性を判断したのか、各地の戦場にテレポーションシップを用いて投下を開始しているようです。 恐らく近々日本にも姿を見せるでしょう。 充分に気を付けてください」

「分かった……」

千葉中将の声が、疲労に満ちている。

それはそうだ。

タール将軍は、有能な将軍だった。

本当に、EDFの宝と言える人物だっただろうに。

EDF内部でのくだらない政治闘争の結果、命を落としたようなものだ。

何度も溜息が出る。

成田軍曹から、通信が来た。

「コスモノーツは撤退を行い、既に戦域を離脱しました。 味方の被害は軽微。 流石です……」

「敵は何処かしらで再結集するはずだ。 その位置は分からないか」

「ドロップシップを使って、移動を開始している様子です。 残念ながら、追撃は厳しいでしょう」

「……分かった。 此方も撤退だ」

皆に撤退を指示。

大型の輸送車両が来て、タンクやニクスを乗せ。

兵士達もそれぞれ撤退していく。

敬礼して、壱野に感謝の言葉を述べていく士官もいるが。

あからさまに壱野を恐ろしい化け物のように見ている者もいた。

それもまた、仕方が無いだろう。

いずれにしても、こんな戦績を上げているのはわずかな部隊だけだ。負けるのが当たり前と思い始めている兵士達にとっては。

こんな状況は、むしろ変なのかも知れなかった。

弐分と三城が戻ってくる。

回収班が来るらしく、村上班だけは此処でしばらく周囲の警戒をしてほしいと言われた。

コスモノーツの残骸を回収し。特に鎧を回収することで、新素材の開発などを行いたいらしい。

更にコスモノーツのレーザー砲を解析することで、新兵器の開発をしたい、ということらしかった。

前に戦略情報部から不愉快なのが来たが。

今回は寡黙そうな細い青年が来た。

それが黙々と、コスモノーツの残骸を回収していく。

どうやら先進科学研の人間らしく。

今回は、戦略情報部の人間は来ていないらしかった。

「どうも気になるな」

「どうしたんスか、リーダー」

「このタイミングでの攻勢が不自然だ。 奴らはそのまま構えているだけで勝ちにいけるだろうに」

「さっき話題に上がった兵器を、日本に持ち込んで体勢を整えるための時間稼ぎとか?」

一華の言葉に、思わず顔を上げる。

なるほど、その手があったか。

そもそもコスモノーツの軍勢となると、日本のEDFもそれに注力せざるを得ないのである。

確かに拠点を守るための最強の兵器とも言えるシールドベアラーを配備する時間稼ぎであり。

しかも最大の邪魔になる村上班の誘引作戦だったとすれば、納得が行く。

コスモノーツがあっさり逃げ出したのも、それが理由か。

おのれ。

思わず呟くが、どうしようもない。

この先はアーケルスの縄張りだ。

下手にこれ以上進むと、手痛い逆撃を喰らう事になるだろう。

「此方先進科学研。 サンプルの回収、完了した」

「了解。 撤収する」

「ほぼ完全な形でレーザー砲を鹵獲出来たのは大きい。 これを元に、必ず実用的な新兵器を開発してみせる。 待っていてほしい」

「期待している」

敬礼をかわすと、戻る。

反吐がでそうだったが。今回の先進科学研の士官に罪はないし。何より敵の行動がほぼ完璧だった。

ならば。此方の負けと言う事だ。

戦術では勝ったが戦略では負け続けている。

今後も、それは恐らく変わらないのだろうな。

そう、壱野は思うばかりだった。

 

1、霧

 

オーストラリアから戻って来た荒木軍曹から弐分達に連絡があった。

大佐に正式に昇進したらしい。

人事としてはそれだけ戦況が悪いということなので。おめでとうございますとはいえど。喜べない。更に言うと、タール大将の戦死を現地で確認もしたのだろう。それを思うと、何も言葉がなかった。

なお、小田、浅利、相馬の三人組も、皆中尉に昇進したそうである。

一方。弐分と三城、一華も大尉に昇進。

どうして大兄が昇進しないのかはよく分からないが。

恐らくだが、荒木班と非常に親密なのを利用し。

荒木班を首輪として利用しようとしているのでは無いのか、という事を一華が言ったので。

弐分は呆れた。

どうしてそういう悪知恵ばかり思いつくのかと告げると。

一華はそう言われてもと、口をとがらすばかり。

いずれにしても、次の戦地に赴く。

村上班が行く所常勝有り。

そういう話が、景気よく各地で吹聴されているようだ。

実際には、敵の大軍に毎回苦戦しているし。

怪我だって絶えない。

三城はこの間とうとう入院する事になった。大兄だって、戦闘の度に小さな手傷は散々受けている。

弐分だって、フェンサースーツがなければ死んでいた場面がかなり多い。

それを思うと、不死身の人間なんていないし。

軍の広報には思うところも多い。

それに、である。

大本営発表をしなくなってきた事は評価は出来るが。それ以外は、やはり扇情的なニュースばかり流している。

一度徹底的に腐敗しきったマスコミというものは。

もう、一度全て壊さないと、再生は不可能なのかも知れなかった。

「此方千葉だ。 村上班、そろそろ現地に着く頃か」

「はい。 何か問題が」

「既に先行部隊としてウィングダイバーの部隊が到着しているが、良くない報告を受けている」

「敵が大軍だとか?」

大兄は、静かに応じているが。

言葉には不平が籠もっている。千葉中将も、大兄が不満を口にする権利がある事を、良く理解しているのだろう。

それに対して、どうこういうような事もなかった。

「現地に霧が出ている。 β型がいるらしい事は分かっているが、それ以上は……」

「分かりました。 霧の中での戦闘ですか」

「可能な限り、此方でも支援はする。 ただ霧の中だ。 空爆などは、正確に座標を指定しないとまともに機能しないだろう」

「大丈夫、理解しています」

今、輸送機で現地に向かっているのだが。

戦地は、埼玉である。

東京のすぐ側だ。

小田原近辺での戦闘の後、敵が強襲してきたのだ。多数の怪物が地中から現れ、戦闘は厳しいと判断した現地の部隊は撤退。

その後始末を、しに来たのだ。

もう関東も安全では無い。

それは分かりきっていた事だが。東京基地を直接伺う場所に拠点を作られては困る。

しかも霧が出ていると来たか。

大兄は、ずっと最近ふさぎ込んでいる。

戦争をしているのだから、人が死ぬのは当たり前だ。

だが、タール将軍の戦死はこたえた様子だ。

欧州での戦線も著しく状況が良くない。

ジョン将軍や、バルカ将軍もいつ戦死の報告が届いてもおかしくは無いだろう。

覚悟は、決めておかなければならなかった。

輸送機で急いで移動して、現地に展開する。

今回は、急な作戦だったという事もある。

現地にはウィングダイバーの二個分隊だけが来ていた。スカウトすらも、霧が濃くて状況が分からないというのである。

しかも現地周辺は、敵の攻勢が続いており。

前線から兵士を回すのは無理らしい。

要するに、ここをさっさと片付けて。そして前線の救援もしてほしいと言うことらしいが。

流石に人を酷使するにも程があるのではあるまいか。

弐分もそう思うくらいだ。

大兄は、顔が険しくなる一方だが。

それにどうこうは、言えなかった。

輸送機から、村上班だけで展開する。補給車両があることだけが救いだろうか。

現地には、ウィングダイバー隊がちゃんといた。全滅していないのは、救いだったと言える。

「村上班、現着」

「ありがたい。 此方はどうしようもないと、指をくわえて見ているばかりだった。 最強の部隊の支援は心強い」

「最強かはともかく、ベストは尽くす」

頷くと、さっそくウィングダイバー隊が説明をしてくれる。

街に霧が立ちこめ始めたのは、β型が地下から現れてすぐだったらしい。

余りにも不自然な気象で、気象庁でも全く予期できていなかったとか。

「恐らく敵の何かしらの工作によるものでしょう」

「EDFでも移動基地を攻撃する際に、霧を使う作戦を何度か実施した。 敵がそれを真似してきても不思議では無い」

「そう、ですね。 しかし敵と我々は……」

「そうだ。 霧を払う技術が此方にはない。 視界を殆ど塞がれた状態で、戦う事になるだろうな」

咳払い。一華だった。

全員のバイザーに、街の地図が転送される。

寂れた街だ。

高層ビルもあまりない。

埼玉の辺りは、世界政府の誕生による再開発にありつけなかった地域の一つである。

世界政府が樹立し、各地で再開発が行われたが。当然、後回しにされた地区も珍しくはない。

ここもそう。

開戦前から、既にゴーストタウンだったらしい。

「霧の中にβ型の大軍がいるのが分かってはいますが、それ以外はまったく……」

「分かった。 ならば、端から潰して行こう」

大兄が、周囲を見回して、すぐに告げた。

敵の位置を、である。

まあ、弐分にも大まかに分かるが。

大兄は、もう感覚が研がれすぎていて。弐分でも時々、超能力でも持ってるんではないのかと思うようになりはじめていた。

「この辺りに非常に強い敵意を感じる。 恐らくはアラネアだな」

「アラネア!」

「まずはこの辺りを確保して拠点とする。 だが、どうもこの布陣……いやな予感がするな」

「この辺りに増援が出て来たら、対処が難しい」

三城が何カ所かを指定する。

確かにその通り。

そして、プライマーは悪意の塊みたいな戦術を行使する。

やってきても、不思議ではないだろう。

「敵の規模は幸いさほどでもない様子だ。 近接戦はニクスと弐分と三城に任せろ。 ウィングダイバー隊は、モンスター型レーザー砲を装備してくれ」

「一発でフライトユニットのエネルギーを使い果たすが……」

「大丈夫だ。 とにかく、敵影に当ててくれればそれでいい」

戦力として期待していない。

そう大兄は告げているが、それでも少しでも戦闘を経験して貰って、それで他の戦場で活躍して貰いたい。

そういう意図もあるのだろう。

静かに移動を開始。

スカウトの一分隊がいて、敬礼をかわして合流する。

今は少しでも兵力が多い方が良い。

それに、これでは偵察どころではないだろう。

「装備はアサルトしかありませんが、合流いたします」

「ありがとう。 敵はβ型が主力だ。 恐らく接近戦が主体になる。 補給車にショットガンがある筈だ。 それに切り替えてくれ」

「分かりました」

補給車に一個分隊ほどのスカウトが走り、すぐに武器を切り替える。

それよりもだ。

スカウトが装備していたバイクに、大兄が興味を示した。

フリージャーという軍用バイクだが、しばらく見ない内にかなり進歩している様子だ。大兄が借りても良いかと言うと、スカウトは困惑する。

「かまいませんが、ライセンスはありますか?」

「問題ない。 少し、周囲を確認してくる」

フリージャーは大型バイクで、装甲もある程度あり、何より機銃を装備している。

自衛能力がある移動手段として、そこそこに人気があるらしいが。

ちょっとした高級車くらいの価格がするということだった。

それでも軍の備品よりは安い。

ジープやハンヴィーといった軽戦闘車両でも、そうとうなお値段がするのが軍用品である。

大兄は少し動かしていたが、問題ないと判断したのだろう。

霧の中に、すっ飛んでいった。

すぐに戻ってくる。

どうやら悪意を巧妙に避けながら、周囲を確認してきたらしかった。その間、悪意がある方向にニクスが最前衛となり。

皆待つ事になったが。

戻って来た大兄が、恐るべき事を告げる。

「想定以上の戦力がいる。 まずディロイが六」

「!」

「アラネアが十以上。 既に巣を作り始めている。 その巣に守られるようにして、β型が150程度。 β型の中には、銀色もいる」

「そ、そんな」

兵士達が慌てる。

開戦当初から生き延びている古参兵は少ない。いたとしても、最前線だ。

この兵士達も、それほど経験を積んでいるようにも思えない。

それがそんな状況だと知れば、それは困惑するだろう。

「ディロイの配置を見たが、霧が出ている範囲の中心にいる。 恐らくディロイが霧を出している犯人だ」

ディロイは様々なタイプがいる兵器だ。

しかしながら、何処から出て来た。

霧が出た後。地中を通ってきたのだろうか。

日本に投下されたディロイは、あらかた駆除した筈だが。最近は偵察機などもほとんど機能していないと聞く。

例えば静岡辺りに投下された機体を、何かしらの方法で地下経由で運んだのだろうか。

ちょっと分からないが、いずれにしても厄介極まりない話である。

「大丈夫、少しずつ釣って倒していく。 敵は幾つかの集団に別れている。 一つずつ潰すぞ」

「それにしても、敵の目的は……」

「恐らくは時間稼ぎだ」

シールドベアラーは既に各国に姿を見せ始めていると聞いている。

それならば、各国で準備をしてから、一斉に攻撃を開始するはずだ。

オーストラリアでの戦いでは、タール将軍が戦死し。その代わりに、シールドベアラーの破壊には成功した様子だ。

その後の経緯は弐分も聞いた。シールドベアラーを破壊されたことで、敵は一旦前進を止め。オーストラリア全域での戦線崩壊は免れたという。

ということは、シールドベアラーはプライマーでも簡単には利用できない高コスト兵器なのかも知れない。

確かに機能から言えば相当なものだ。高コスト兵器でも、不思議ではないだろう。

「この地点を基点に、行動を行う。 敵は霧の中でも此方の位置を把握できている可能性が高い。 包囲しようと動こうとする可能性もある。 各自、それを常に念頭においてくれ」

「イエッサ!」

「では行くぞ」

なんのためらいもなく、大兄が狙撃。

音からして、これは当たったな。

同時に、ざわっと気配が来た。β型が来る。

一華が前に出たのは、そうするように言われたから。直後、至近にβ型が現れて、兵士達が恐怖の声を上げていた。

だが、ニクスが即応。

射撃して、蹴散らす。後退しながら、今の攻撃に反応したβ型を蹴散らしていく。がつんと、凄い音がニクスからした。

アラネアの狙撃か。

カウンターの狙撃を、大兄が入れる。

アラネアの甲高い悲鳴が聞こえた。

続けてもう一発。今の狙撃で、相手の気配を把握して。それで霧の中で狙撃しているのか。

アラネアの断末魔の声。これも覚えている。つまり、確殺したのである。霧の中で。気配だけを頼りに。

どんどん人外じみてきているなと、ちょっとだけ呆れた。

弐分もブースターとスラスターを駆使し、スピアでβ型を駆逐して回る。

三城もレイピアで飛び回りながらβ型を焼く。

必死に霧の中に射撃を続けていた他の兵士達だが、あまり戦果は上げられなかったようだった。

「射撃やめ。 まずは一群をクリアだ」

「大兄、補給をすませよう」

「そうだな」

弐分がこういったときは、言いたいことがある場合だ。

暗語を作っているのである。

大兄と一緒に、皆から少し離れる。

「大兄、なんだか人外じみて来ていないか」

「別に。 俺は鍛錬を欠かしていないだけだ」

「それはそうだが……兵士達が怯えるぞ」

「俺は家族を守るために誰よりも強くなければならない。 それだけのことだ」

そうか。

確かに大兄は、そういう重荷を背負っている。それは、弐分にも分かっている。

分かっているが、何というかやるせない。

「次の群れを片付ける。 準備をしてくれ」

「分かった。 ただ、あまり無茶苦茶はしないでくれ」

「……承知している」

補給を済ませた皆の所に戻り。

大兄が狙撃。

立射で、なんのためらいもない。

そのまま、霧の中にいる恐らくアラネアに着弾。

また、β型が此方を察知したようだ。

相手も相手で大概か。

そもそもこの霧の中で、狙撃されたことを察知し。狙撃した相手の位置を正確に割り出して襲ってくるのだから。

臭いとかそういうのもあるのだろうが。

怪物達は、何かそういったものを超えた超越的な嗅覚を持っているとしか思えなかった。

やはり怪物と言う事か。

また、ぬっと霧の中からβ型が現れるが、大兄は完全に無視。アラネアへの狙撃に集中している。

十メートルを超える巨体を誇るβ型だ。

霧の中から突然現れると、流石に気が弱い奴は心臓が止まりそうになるかも知れない。

だが、兵士達は慣れている様子だ。

銀のβ型が姿を見せて一瞬ひやりとしたが、ウィングダイバー隊がファインプレーを見せた。

既にエネルギーをため込んでいたモンスター型レーザー砲を、一斉に叩き込んだのである。

これには頑強な銀のβ型もひとたまりもない。

更に、スカウトの兵士達も、数匹のβ型をショットガンで倒す事に成功していた。

その間に、弐分と三城、一華で他のは片付けるが。

充分過ぎる程の成果と言える。

「よし、次を行くぞ」

「敵からして見れば、霧が徒になったなこれは……」

「……本来は空爆でもして全部まとめて吹き飛ばすべき状況なのだろうがな」

「それもそうか」

苦笑しながら、次へ。

次は少し銀のβ型が多めだったが。それを察知した大兄が、何度か霧の中に射撃。

どうやらちょっとした霧の向こうの気配で何がいるか分かるらしく、正確にβ型を貫いて減らしていた。

化け物じみているなと呆れたが。

弐分や三城だって、他の兵士から見れば似たようなものだと思って諦める。

そのまま苛烈だが短い戦闘を終える。

戦闘の様子をモニタしていたらしい成田軍曹が、声を振るわせた。

「あ、あの、村上壱野中佐、どうやって狙撃を……」

「五感の全てを駆使して敵の位置を察知している」

「……」

「大兄は凄いだろう」

言葉もないらしく。成田はそれで黙った。

まあ普段あまり役に立たないし、溜飲が下がったのでそれで可とする。

更に二度、敵を釣り出しては削り倒し。

ほどなくして、大兄は一華に指示を出した。

「座標を伝える。 衛星兵器を使えるか」

「ちょっと今、申請してみるッス」

「頼むぞ」

「許可、出たッスよ。 多分今の戦闘の様子を戦略情報部も見ていて、それで大丈夫と判断したんスねこれは……」

一華も呆れているが、ともかくこれで終わりにする。

また、とても楽しそうな声が無線に割り込んできた。

「エアレイダー、貴方とっても見る目があるわ。 こんどわたくしの家に呼んで可愛がってあげる」

「い、いや、遠慮しておくッス。 それよりも指定の位置に射撃をどんと」

「うふふ、急かさないの。 それじゃあいくわよ。 神の雷、うけなさい! ファイア!」

どん、と霧の中に強烈な熱量が叩き込まれる。

音からして直撃か。

六体ディロイがいるということだが。恐らく大兄が叩き潰したのは、その中で霧を出している奴か。

もしくは以前おぞましい頑強さを誇ったロングタイプだろう。

「よし、総員後退。 後退しながら、残ったディロイを撃て。 接近されなければ、致命傷になる攻撃はしてこないが、奴らはかなり足が速い。 ウィングダイバー隊、モンスター型の火力を見せてくれ。 期待しているぞ」

「い、イエッサ!」

「霧が薄くなってきた」

「どうやら仕留められたようだな」

バック。

大兄が叫ぶ。

スカウトの兵士達も話を聞いていたのだろう。スナイパーライフルに切り替え、更にバイクに手を掛けていた。

それを止めない。

レンジャーがディロイと真っ向からやり合うのは無謀だ。

距離を取って、狙撃に専念してくれればいい。

最近はかなり技量が怪しいスカウトも増えてきたが、このスカウト部隊はそこそこ出来るようだ。

任せてしまって間違いないだろう。

霧の中から、先の衛星砲の直撃を逃れた四機のディロイが姿を見せる。二機が衛星砲で破壊されたということか。一番長い奴に、大兄が集中攻撃を始める。

右に、三城が攻撃するつもりのようだ。

以前も使っていたライジン型レーザー砲にチャージを開始する。

ならば、左にいる奴か。

大口径砲を構えて、連射開始。

一撃では駄目だが、連射を浴びせればダメージが蓄積して行く。

足が速いディロイに悲鳴を上げるウィングダイバーもいたが。直後、足長が、大兄の一撃で粉砕され、崩れ落ちていった。

続けて、三城がライジン型レーザー砲をぶっ放し、一体を粉々に。

更に、弐分の攻撃で、もう一体が吹き飛んでいた。

一華は最悪に備えて最前列で機銃での攻撃を準備していたが。もしそうなれば被害甚大だろう。

他の兵士達が、一斉に攻撃。

モンスター型レーザー砲の斉射が最後に残ったディロイに集中する。凄まじい火力に、ディロイの本体部分が赤熱していく。

スカウトの対物ライフルも直撃。

ぐらりと、体勢を崩したディロイが。

爆発四散したのは、直後の事だった。

「さ、作戦完了です……」

「だがこれは恐らく陽動だ。 シールドベアラーを配備した敵が、いつ進軍を開始してもおかしくないだろう。 戦略情報部、作戦指示を」

「は、はいっ!」

成田が慌てている中、三城が不意にライジンをぶっ放し。

生き残り、影に隠れていた銀色のβ型を撃ち抜いていた。

大兄は一瞥だけしたが。それについては、特に何も言わなかった。

近付いてこないから妙だなとは思ったのだが。

あれは何だったのか。

まあいい。

ともかく、作戦は完了である。

ウィングダイバー隊も、スカウトも。敬礼する。

「助かった。 次の作戦では、此方が助けになる」

「ありがとう。 それでは、次の戦いで一緒になるまで、かならず生き残ってくれ」

「イエッサ!」

「では解散とする。 それぞれ指示に従ってほしい」

輸送機に向かう。

大兄は人間離れして来ているが、弐分を見る周囲の目もそれと大して変わらなかった。

それを思うと、今後の事をどうしても考えてしまう。

負ければ死。

プライマーは、人類を皆殺しにするつもりで動いている。これは明らかすぎるほどである。

かといって、勝ったらどうなるのだろう。

大兄は英雄として尊敬されるだろうか。

絶対にされない。それは断言していい。

今の時点ですらも、兵士達は大兄を恐怖の目で見始めている。それはそうだろう。霧の中にいる敵を正確に狙撃するなんて事をやってみせれば、怖れるのは当然かも知れない。

仮に大兄の活躍で勝ったとして。皆がそれに感謝するだろうか。恐れはしても、感謝などしないはずだ。

めでたしめでたしで話はどうして終わるか。

それは、英雄は戦後に必要ないからだ。わざわざ言う間でも無い事である。

その場合は、大兄が人類の敵になるのだろうか。

弐分だって、迫害を受け入れるつもりはない。

もしも、戦争が終わって。その時大兄が迫害されるようなことがあれば。

無言になる。

覚悟は、今のうちにしておかなければならなかった。

 

2、あいつぐ陽動

 

群馬に大規模な怪物の群れが出現。現地のEDF部隊からの救援要請を受けて、すぐに村上班が出る事になった。

半壊しているEDFの中では、比較的マシな状況の日本のEDFだが。それでも四方八方から繰り出される攻撃の前には、どうしようもないのが実情だ。各地に兵力を少しずつ貸し出しているそうだが。

文字通りの焼け石に水。

各地の戦況が良くなったという話は聞かない。

北米が既に他に兵力を回す余裕が無いという状況なのである。

プライマーが制圧したアフリカとロシアから、無尽蔵に怪物が送り込まれてくる現状。

もはや、対応策はないのかも知れなかった。

三城は無言で、皆と一緒に群馬に出向く。

数日前に大尉に昇進した。他の皆と一緒に、である。

講義を少し受けたが、難しいものではなく。

責任がより重くなり。

更に過酷な戦闘に引きずり出されることが明確なだけだった。

EDF前の軍隊では、この階級の士官はもう前線にはでなかったらしいが。

今のEDFは、将官が相次いで戦死していることもある。

尉官が前に出ることなど、珍しくもない。

そして、三城が小兄や一華と同じく大尉に昇進するというこの異例の出世速度は。

如何にEDFが負けこんでいて。

人員が削られているかも、よく示していた。

今回は、輸送機は使わず大型輸送車でいく。

怪物の規模がかなりのものだと言う事で、東京基地も兵を惜しんでいられないようだ。

更に、千葉方面でも攻撃があるらしく。

其方はダン中佐が指揮を執っているらしい。

昨日、ダン中佐とは顔を合わせたのだが。

連日凄まじい激務に晒されている様子で。頬がこけてしまっている有様だった。

荒木軍曹と同じく「肝いり」らしいが。

その意味は兎も角、村上班がどれだけ敵を倒しても。他の兵士達の負担が減っているようには思えない。

千葉中将も時々かなり辛そうにしているし。

これは、休暇がないとぼやく小田中尉の気持ちが、色々分かるのだった。

「そろそろ現着します」

「ありがとう。 現着したら、後方にさがってください」

「分かっています」

輸送車を動かしているのは尼子先輩だ。

ベース228で助けた、警備会社にいた先輩。

どうやら、輸送車の運転手として上手にやれているらしいが。移動中に聞かされた。

最近、銃火器を持って戦うべく訓練を受けたという。

要するに、運転手まで歩兵としてかり出さなければならないほど、戦況が切羽詰まっているということだ。

寂しそうに尼子先輩は笑っていたが。

正直、笑い事ではないだろう。

現地に到着。

既にタンクが十両ほど、山深い群馬の地に布陣していた。更に、ネグリングが二両。これはありがたい。

コンバットフレームは一機だけ。

それも、あまりこの山深い土地では使いやすそうでは無い、重装甲型だ。

「最新鋭型じゃないッスね、アレ。 急速にニクスが進歩しすぎというのもあるんスけど」

「かまわない。 俺たちの負担が増えるくらいだ。 どうせ来た怪物共は、ここで全て片付ける。 最新鋭は他の戦線で、他の兵士の負担を減らしてくれればそれでいい」

「そういうこと」

「はあ、あんたら元気ッスね……」

大兄と三城の言葉に、若干呆れているように一華が返す。

兵士は一個中隊程度はいる。兵員が確保できなかったから、兵器を集めて補ったという感触だ。

ネグリングはちらりと見たが、連日様々な戦場で酷使されている様子だ。

砲兵も彼方此方行き来していて大変らしいが。

これは本当に、苦労が絶えなさそうだなと思った。

「此方スカウト。 大規模な軍勢は、相変わらず進軍を続けています。 敵はα型β型が主体ですが、どうやら近辺にいた怪物があらかた向かってきている程の規模の様子です」

「好都合だ。 テレポーションアンカーなどはあるのか」

「以前はありましたが、既に破壊済です」

「ならば余計に好都合だ。 叩き潰して、少しは他の兵士達の負担を減らす」

怪物は合計千体近い規模らしい。しかもそれが前衛に過ぎないのだとか。

まず、空に見える飛行型。

あくまで主力がα型β型というだけである。

生きた戦闘ヘリどもは、あっと言う間に群がってくる。

「三城」

「分かってる」

大兄が、対空攻撃の指示を出し。同時に三城は、誘導兵器を全力でぶっ放す。

ゴーストチェイサーだ。

今回は一個中隊ほどの兵が来ているから、フェンサー部隊もウィングダイバー部隊もいるが。

誘導兵器は使うのに才能がどうこうだとかで、他に使う兵士を見た事がない。

いずれにしても、一瞬にして数十の飛行型を拘束して、大ダメージを与える。それで敵の前衛が動きを止めた瞬間、ネグリング二両がミサイルを多数発射し、一機に飛行型を叩き落としていた。

更にスナイパーライフル部隊も、思った以上に活躍している。

練度が高い部隊を寄越してくれたのかも知れない。

今の誘導兵器全力放出で、動きを止めた飛行型は、次々に落とされていく。だが、それでも味方前衛に多数の針のような形をした酸が投擲され。

主に戦車隊が、被害を受けていた。

飛行型はのりものの天敵だ。

ニクスなども対空装備をしている事はあるが。

そもそも攻撃ヘリはこんな数で飛んでこない。

飛行型は飛行速度からして攻撃ヘリなみだ。武装もそれと大して変わりが無い。

やはり飛騨にあるらしい飛行型の繁殖地をどうにかしない限り、日本のEDFはやがて飛行型にやられる。

どうにかしないと、まずいのは確実だ。

「飛行型排除!」

「補給急げ! すぐに次が来る!」

「β型確認!」

「ネグリング、補給が終わり次第攻撃開始! ミサイル部隊!」

大兄が率先して動く。

山向こうから大量に迫ってくるβ型。ひと飛び百メートルは迫ってくる。不規則な動きもあり、狙撃に特化した部隊でも手を焼く。

以前英国でブルージャケットという腕利き部隊と一緒に戦闘したことがあるが。

あれくらいの手練れでも、β型には相当に苦労していた。

そのため、簡単に扱える誘導兵器であるエメロードが実用仕様になったのは大きい。五人ほどの兵士が今回は装備している。

更に、以前は論外レベルの武装だった高高度強襲ミサイルも、フェンサーに配備が決まったらしい。

それだけ、使えるようになってきたという事だ。

大量に放たれるミサイルの群れが、接近を試みるβ型の大軍に降り注ぎ、山の中で爆発が連鎖する。

一部の足を止めるだけだが。

本命はネグリングだ。

大兄もしばらく試作品らしい、更に大型のエメロードで。

小兄も巨大な高高度ミサイルで、無心にβ型にミサイルの雨を降らせていたが。

それでも浸透力に優れたβ型は、まもなく距離を詰めてくる。

「戦車隊、攻撃開始!」

「120ミリ滑空砲、斉射!」

「撃て撃て! 一匹も逃すな!」

「一華、判断は任せる。 相手が間合いに入ったら攻撃を開始しろ。 重装型ニクスも同じようにしてくれ」

大兄が、ミサイルからいつものライサンダーに装備を切り替える。

当たり前のように。

当然の権利かのように。

銀のβ型が混じっていたからだ。

その分敵の足止めが出来なくなる。

しばらく雷撃銃で戦闘していた三城は、武器をゴーストチェイサーに切り替え。山の斜面を埋め尽くす勢いで迫ってくるβ型にぶっ放す。

機動力と火力は高いが、どうしても脆いβ型はひとたまりもない。

次々と、斜面がβ型の死体で埋まり。

山の斜面から、無惨な死体が転がり落ちていく。

小兄がスピアに切り替えると、突貫していった。もう、そろそろ前線が接触すると判断したからだろう。

三城も今の誘導兵器を打ち切ったのを終わりに、補給トラックに走り、レイピアに切り替える、

そして、敵陣に斬り込む。

「接近戦開始! 前衛はショットガン、後衛はスナイパーライフルで支援! タンクがもっている間に、β型を片付けろ!」

「敵、更に来ます!」

「……今は、β型に集中!」

山の稜線を超えて、赤いα型が見えた。その後ろには、銀のα型と、金のα型が続いているようだ。

恐るべき数だが、それでもβ型に力負けしていない味方は奮い立っている。

だが、攻撃範囲に入ったβ型が酸を含んだ糸を放ちはじめると、どうしても負傷者が出始める。

アーマーをどれだけ強化しても、仕方が無い事だ。

「二名負傷、さがります!」

「問題ない! 負傷者を庇え!」

「うわっ!」

悲鳴を上げた兵士。凄い量の糸を一辺に喰らったのだ。

開戦当初だったら細切れだっただろうが、今のアーマーはかなり進歩している。事実細切れにされた兵士も見た事がある三城はひやりとしたが、死ぬ事はなかったようだ。

レイピアで、目立つβ型を焼き払いながら飛ぶ。

β型に近距離戦を挑むのは怖いらしく、他のウィングダイバーはマグブラスターで距離を取りながらβ型を焼いているようだ。

それでかまわない。

あらゆる方向から飛んでくる糸を全てかわしながら、レイピアの熱量を叩き込んでいく。

β型は、ニクス二機の凄まじい機銃掃射と、タンクによる猛射で数を減らしつつ。それでも突貫してくる小兄と三城を捕捉しようと糸を放つが。

全てが空振りに終わる。

ヘイトを集めればそれだけ味方への被害が減る。

そう考えて前線で暴れ敵を叩き伏せ続けるが。

敵はまだまだ来る。

β型の最後の一体を焼いた瞬間。

きんと、聞き覚えのある飛行音がした。

「此方ウェスタ! 戦場に突入する!」

「弐分、三城、さがれ」

「了解」

「分かった」

フォボスではないのか。

いずれにしても、この山林は既に荒れ果てている。戦場になっている期間が一年を超えている事もあるし。

雑木林を管理するどころではないからだ。

山は手を入れないとあっと言う間に荒れる。

祖父が小さな山を持っていたから、それは知っている。

時々道場の皆で山に出かけては、雀蜂とか駆除をしたものだった。一度熊が出たことがあったけれども。

それは猟友会に任せた。

あまり大きな熊ではなかったけれども、それでも絶対に近接戦はするなと祖父は釘を刺していたっけ。

飛来したウェスタという爆撃機は、フォボスよりも更にずんぐりしていた。

そして、いわゆるナパームを投下。

派手に爆裂したナパームは天をも焦がしかねない炎を上げ。突貫しようとしていたα型を、炎で巻き込んでいた。

凄まじいα型の鳴き声がする。

これは、山は丸焼きだな。

そう思いながら、一旦距離を取り、誘導兵器をぶっ放す。見えないのだから、こうして少しでも足を止める。

「よし、戦車隊は攻撃を続行。 ネグリングも、自動ロックオン機能を生かし敵を集中的に攻撃しろ」

「イエッサ!」

炎に猪突したα型は足を止められ、アウトレンジ攻撃で次々に倒されていく。それでも仲間のしがいを踏み越えて突貫してくるα型もいたが、それらは全て戦車砲のエジキになった。

しばらく一方的な戦いが続いたが。

炎が収まってくる。

どうやら延焼しないように、特殊な処置をしているものらしい。

ただし、焼けた地点は地面が溶けるほどの高熱を受けていて。

凄まじい死に様のα型の死体が、山と折り重なっていた。

「敵、第二陣接近!」

「ま、まだ来るのか!」

「怪物ばかりだ。 エイリアンはいない!」

「接近さえされなければ、大した相手ではないぞ!」

兵士達は互いに鼓舞しあっているが。

そうでもしないと、多分まともに戦う勇気が湧かないのだろう。

それを責めるつもりは。

三城には無かった。

 

激しい戦いが数時間続いて。ようやく怪物の撃滅が終わった。三波に渡って飛行型が来たが。

奴らは恐らく既にネグリングを危険な敵と認識している。明らかにネグリングを狙って動いているのがいた。

怪物にはある程度の知能がある。

その割りに引くと言う事をしらないが、理由はよく分からない。

ともかく、ネグリングを狙うのは大兄と三城が片付け。

何度も押し寄せてくる怪物の群れは、前衛に小兄と三城で片付けて。

それで戦闘は、どうにか終えた。

兵士達は二割強が負傷していて、他の兵士達も疲れきっていた。戦車隊もダメージが大きい。

特に何度も攻めこんできたβ型の相手は非常に辛かった様子だ。

仕方が無い。

ともかく、撤退を開始する。尼子先輩の大型輸送車に乗って、東京基地まで戻る事にする。

今回は一華のニクスの機銃をバージョンアップするらしい。

帰路、何だか心が疲れたので。

補給車からクラゲのドローンを取りだして、ぎゅっとして座る。

これが随分と落ち着く。

無言でいる三城に、大兄も小兄も優しい。

あのケダモノども。実の両親とか言うクズが三城を痛めつけたのは、「可愛くない」というのが理由だったらしいと最近調書を見て知った。人形のように大人しい子供の方が好みだったそうだ。

そういう意味では、こういう性格になる前の三城は。むしろ良く喋る子供だったのかも知れない。

今では、よく覚えていない。

覚えているのは、連日の罵声と暴虐だけだ。

それを思い出すとつらい。

無言で、ドローンを抱きしめて過ごす。

「それにしても、戦略情報部が寄越してくる気が利いたものは、このドローンだけッスねえ。 ニクスは先進科学研が寄越してくるものですし」

「お前も梟のドローンをいつもニクスの中で頭に乗せているようだな」

「帽子みたいなもので、なんか重さが丁度いいんスよ」

「そうか。 いずれにしても、気に入ってくれているようで何よりだ」

基地に到着した頃には、夜になっていた。

大兄は千葉中将の所に戦績の報告を。

三城は三城で、報告書を書かなければならない。

報告書はそれほど手間ではないのだが。

それでも、こう言うときはすぐに寝たいのが人情だ。

だから、ぱっぱと済ませる。

本当に、誰でも書けるテンプレートが用意されていて。

報告書に無駄な時間を使わなくて良いのは助かる。

あまり大きくないとは言え、東京基地にはそれぞれ個室も用意して貰ってある。

活躍からすれば当然だと大兄が言うので、使わせて貰っているが。

時々兵卒達の事を考えて、申し訳なくなる。

いずれにしても、報告書を上げて、メールで送る。

その後は風呂に入って、後はねむる事にした。

いつ叩き起こされるか分からないから、美容だの何だのを気にしている余裕は無い。

とにかく眠れるなら泥のように眠る。

そして、ぴたりと目を覚ます。

七時間、しっかり寝た。

多少は体が軽くなったか。戦地で寝る事も多いから、ベッドが使えるのは本当に有り難い。

起きだしてから、大兄を探しに行く。

食堂で会う。

士官用の食堂とかそういうものはなく、兵士は雑多に群れている。村上班は大兄も小兄も大きいので分かりやすい。

一華は自室で食べるそうだ。

元々ジャンクフードの方が口に合うらしく。こういう所は絶対に無理だと言っていたので。強要は出来ない。

周囲では、ひそひそ声が聞こえる。

「村上班が、また凄まじい大暴れをしたらしいな」

「ああ。 凄まじい活躍だ。 だが、どれだけ怪物を倒しても、幾らでもプライマーは新しく運んで来やがる……」

「日本はまだ戦況が良い方らしいが、それでもこれだ。 余所の国にいった連中は無事かなあ」

「婚約者が殺されたって、嘆いていた同僚がいた。 正直、覚悟はしておいたほうが良いだろうな」

明るい話題は聞こえない。

それはそうだろう。

此処ですらそうなのだから。東京の都民は、地下に逃げられるように世界政府に嘆願を出していて。

東京では急ピッチでシェルターの建造が続いている。

しかし、世界でも珍しい「安全な都市」である東京への人員流入は凄まじく。

とても追いつきそうにないそうだ。

まあ、レーションよりはおいしいし、量もある朝飯を食べると。

大兄に続いて、外に出る。軽く体を動かしていると、大兄が通信を受けた様子だ。

「なるほど、分かりました。 それでは現地に向かいます」

「大兄、次の任務か」

「そうだ。 静岡で、シールドベアラーが確認された。 被害を減らすために、今回は我々で対処する」

「奇襲作戦だな」

そういうことだ。

静岡はアーケルスが縄張りにしている。更にコスモノーツとの戦闘も想定される状況だ。村上班以外が行ったら、自殺行為だろう。

ダン中佐が来る。

敬礼すると、ダン中佐は疲れきった笑みを浮かべた。

「既に話は行っていると思うが、静岡でまだ進軍していないシールドベアラーが確認された。 恐らくは、配備途中のものだろう。 これを奇襲して破壊する。 我々も、特殊部隊を連れて参加する」

「中佐が二人もですか」

「そうなる。 更に、増援もある」

ダン中佐の後ろから歩いて生きたのは、厳しそうな顔をした白人男性だ。

誰だろうと思ったが、声を聞いて思い出す。

「久しぶりだな村上班」

「グリムリーパーのマゼランどの」

「ああ。 俺はマゼラン、階級は大尉だ。 今回の作戦に、グリムリーパーの一分隊を率いて参加する。 うちの隊長が、ノウハウを共有したいと言う事だ」

「我々もいる」

更にもう一人。

見覚えがない女性だが、体格からして多分ウィングダイバーだろう。

基本的にウィングダイバーは小柄な女性が多い。

これはフライトユニットの負担を減らすためだ。

ただ、実際にはフライトユニットの性能を上げれば、あまり体型とかは関係無いと思うのだが。

その辺りは、三城にもよく分からない。

「スプリガンのシテイ中尉だ。 今回、スプリガンの一分隊を率いて戦闘に参加する」

「足を引っ張るなよスプリガン」

「此方の台詞だグリムリーパー」

隊長だけでは無く、部下同士も仲が悪いのか。

更に、現地で荒木班も参戦すると言う話だ。そうなると、恐らく揃えられるだけの精鋭を揃えるという事なのだろう。

ばちばちと火花を散らしているグリムリーパーとスプリガンに、咳払いをしたのは大兄だ。

「まずはミーティングといきましょう。 作戦が雑だと、勝てる戦いも勝てなくなります」

「分かっている」

「うむ……」

そういうと、二人ともすぐに言う事を聞いてくれる。

いずれにしても、戦場以外で血を見なくて済んだのは良かった。

そう、三城は思った。

それにしても、どうしてスプリガンとグリムリーパーは仲が悪いのか。

よく分からないので、ダン中佐に聞いてみる。

そうすると、ダン中佐は苦笑いした。

「昔、紛争という酷い戦いがあった」

「知ってる。 EDF設立後に、最後に起きた酷い内戦」

「そうだ。 その戦いで、結成当初のグリムリーパーは敵の最精鋭と交戦して、敵に横流しされていた初期型のコンバットフレーム三機を破壊したが、その戦闘で生き延びたのはジャムカ隊長だけだった。 スプリガンはまだ試作段階のウィングダイバー隊で大きな戦績を上げたが、敵の攻撃の前に多くの犠牲者を出した。 それ以来、どうしても紛争の時のめざましい活躍が互いに目障りに感じるらしい」

「どっちも強い。 それでいいのでは」

そうもいかないのだと、ダン中佐は言う。

その紛争で、多くの犠牲をどちらの部隊もだした。

多くの仲間の屍の上に、今の最強の称号がある。だからこそ、譲れないらしい。

そういう話をする。

だとすると、あのマゼランという人と。シテイという人は、あまり関係がないように思えるのだが。

何というか、憎悪は伝染するのかも知れない。

作戦会議を行うが。千葉中将も、やはり仲が悪いスプリガンとグリムリーパーを見て、眉をひそめたようだった。

戦略情報部の成田軍曹が、作戦の内容について話をしてくれる。

「ヘリによる強襲作戦です。 敵の監視が厳しく、大型の輸送ヘリは展開出来ない事もあり、持ち込めるのは一華大尉のニクスと補給車、最低限の重機だけです。 可能な限り迅速にシールドベアラーを破壊し、出来れば残骸を回収してください」

「残骸の回収か。 現地にはエイリアンもいるのだろう」

「恐らくは、攻撃を行えば確実にコスモノーツも出てくると判断して良いでしょう。 静岡には数を減らしたコロニストも集結しています。 それらの残党も出てくる可能性が高いです。 それに、戦闘が長引けばアーケルスも来る可能性があります」

「丁度良い相手だ。 腕が鈍らずに済む」

シテイ中尉はそういうが。

しかしながら、コスモノーツがいるとなると危険だ。

特にレーザー砲持ちがいると、非常に危ないだろう。

「主にシールドベアラーの破壊任務は、グリムリーパーで。 集まってくるコスモノーツおよびコロニストの撃破は、村上班と荒木班、それにスプリガンで。 敵残骸の回収は、ダン中佐の部隊でお願いいたします」

「了解した。 ただ、どの部品を持ち帰れば良いかはよく分からないが……」

「先進科学研が遠隔でサポートする手はずです」

「了解した。 どうにかしてみよう」

千葉中将が解散、というと。

皆が散っていく。

特にマゼラン大尉と、シテイ中尉は視線も合わせなかった。

これは本格的に仲が悪いんだなと思ったが。

別にそれはどうでもいい。

現地で足を引っ張り合ったら最悪だ。

それだけは、どうにか気を付けて止めなければならなかった。

自室に戻る途中、シテイ中尉に会ったので、軽く話をする。シテイ中尉は、同じウィングダイバーだからか。三城を嫌っていないようだった。

「シテイ中尉。 次の作戦ではお願い、する、します」

「ああ、此方こそ頼む。 もう其方の方が階級が上なのだな」

「……ええと、お恥ずかしいこと、です」

「気にするな。 出来ればスプリガンに来て欲しいのだが、その気はないのだろう?」

頷く。

シテイ中尉は、さっきの敵意をどう思っているのか。

少し悩んだ後、話を聞いてみる。

そうすると、少し悩んだ後、言う。

「実の所、グリムリーパーにはあまり敵意は持っていない。 少なくとも恨みとかはない」

「……」

「だが、過酷な戦場でみんな怒りの矛先のぶつけ先を探し合っている。 怪物にはいつもぶつけているが、奴らはあまりに人間と違う。 だから、人間の敵が必要なのさ」

「愚かしい話」

苦笑するシテイ中尉。この人は。ジャンヌ中佐よりも年上なのかも知れない。

それだとすれば、なおさら馬鹿馬鹿しい話だと思う事は思うのだろう。

「戦場では互いに邪魔をするつもりはない。 敵の新兵器はただでさえ不利なEDFを一気に敗北に追い込みかねない危険なものだ。 絶対に勝って情報を持ち帰るぞ」

「はい」

「……」

目を細めると、シテイ中尉はそのまま自室に行く。

決戦は明日だ。

ヘリで低空を行き、敵に強襲を掛ける。猶予時間はあまりたくさんはないし、ビークルもそれほど多くはない。

ニクスに強化が入ると言う事で。それだけが救いだった。

 

3、決戦光の壁

 

東名高速の上を、低空飛行でヘリが行く。

流石に戦車を多数運べるような大型機では無理だ。かなり大きな輸送ヘリだが、それでもニクスと補給車二両、重機一両を乗せると。シールドベアラーの残骸を回収する分を考えると、ほぼ余裕は無い。

乗っている兵士は、一個小隊程度しかいないが。

それでも、ここにいるのはみんな一騎当千の強者だと信じる。

一華だけは例外か。

苦笑いしながら、朽ちた車が散らばっていて。更に彼方此方高架も壊されている東名高速を見る。

酷い光景だ。

車の中には、死体もたくさんつまっているだろう。

東名高速も、開戦当初に攻撃を受けた地点の一つだ。プライマーは各地の重要インフラだけではなく、空軍基地や各地の大型戦略基地を破壊して、EDFの戦闘能力を初日でかなり奪い去った。特に後で聞かされたのだけれども。

核兵器を発射する能力を持つ戦略基地は、殆どが潰されたという。

異常な軍備を整えているEDFが、初日でメタメタに叩かれたのはそれが理由の一つであるらしく。

事実核はテレポーションシップに効くことが分かっている以上。

敵が撃ってきた手は、あからさまにおかしい程に的確だったと言う事だ。

「ダン、久しぶりだな。 其方も上手くやれているか」

「ああ。 なんとかな。 指揮ばかりで、前線での活躍からは離れて久しいが。 それでも、今回の任務は上手くやってみせるさ」

荒木軍曹とダン中佐が話している。

この二人は肝いりという共通点だけではなく、前々から個人的に交友があったらしい。

小田、浅利、相馬の三人も、ダン中佐とは話を色々としていた。

やれどこの司令官が無能だ。

どこの兵士達は鍛え方がたりないの。

そう小田中尉がぶちぶちと言うと。ダン中佐は、後で上層部に話をしておくというのだった。

グリムリーパーとスプリガンはヘリの逆側にそれぞれ固まっている。

今回は、必死でスカウトが集めて来た情報を基にした奇襲攻撃だ。

ここのところ先手を取られっぱなしだったが。今回ので逆襲する。

そのためだろう。

ただでさえ大劣勢な欧州から、最強のウィングダイバー隊を一部だけでも。かなり追い込まれている米国から、最強のフェンサー隊を一部だけでも。千葉中将が、連れてくる事が出来たのは。

「此方戦略情報部少佐です。 作戦をサポートします」

「少佐自らが?」

「今回はEDFにとって……いや、今後の人類の滅亡を掛けた戦いです。 此方の様子を見てください」

映像が流れる。

オーストラリアでの戦闘の様子だった。

文字通りの蹂躙だ。

シールドベアラーが展開する防御スクリーン。バリアみたいなものは、好き勝手に伸び縮みし。

戦車砲だろうがレーザーだろうがびくともしない。

フォボスによる空爆も無意味。

更にコスモノーツは、その性能を理解した上で戦闘行動を取っている。

「噂以上に危険な兵器だな」

「タール大将が命を賭けて破壊方法を見つけてくれなければ、今頃各地で好き勝手にプライマーは暴れていたでしょう。 しかしながら、更に効率的に破壊出来るように、データの収集が必要です。 破壊する方法そのものは分かりましたが、突入する部隊が全滅せず、生還する……。 これが各地で戦闘を維持するために、必要となる事です」

「分かった、善処する」

マゼラン大尉が言い。

更に、壱野がそれに続けた。

「敵の配置などはどうなっているのだろうか」

「スカウトが探し当てた時は、まだシールドベアラーの周辺に敵の護衛はいませんでしたが、それは14時間前です。 今はどうなっているかは……」

「分かった。 臨機応変に対応する」

「健闘を祈ります。 可能な限り、此方からサポートします」

少佐が引っ込むと。

いつもの成田軍曹が通信に出てくる。

「これより戦略情報部は、情報の分析と敵の監視に当たります。 総力を挙げてサポートしますので、前線での戦闘、お願いいたします」

「了解。 必ずや目標を破壊し、持ち帰る」

荒木軍曹がそう答えて、通信を切る。

きりきりと空気がひりついている。

それはそうだろう。

何でも防ぐインチキバリアを相手に、これから無茶な突撃作戦を敢行するのだ。

「そろそろ現地に到着。 低高度から、一気に行く。 着陸し次第、全員展開してくれ」

「とにかく情報がない。 最悪の場合は、コスモノーツの大軍が待ち構えている可能性さえある。 怪物も引き連れてな。 すぐに離脱することもあるかも知れないから、常に準備をしておいてほしい」

「分かりました」

ヘリのパイロットはかなりの年齢のようだ。

ヘリは確か相当な名人芸が操縦に要求されるはず。特にこんな大きな奴になると、なおさら難しいだろう。

そういう意味では、飛行型なんてトンチキ生物を訳が分からない数繰り出してくるプライマーの反則ぶりがよく分かる。

東名高速の高架に沿って飛んでいた大型輸送ヘリが高度を落とす。そして、ほどなくして。かなり柔らかく着陸していた。

GO。

荒木軍曹が叫ぶと、全員が飛び出す。

軍曹と呼んでいるが、実際の階級は大佐。この面子の指揮を執るに相応しい人物だ。そして、階級に関係無く。全員をまとめられるのもこの人だけだろう。

壱野が全力をふるえるのも、恐らく荒木軍曹の指示があってこそ。

全員が展開し終える。そして、まずは周囲の状況を観察した。

「シールドベアラー確認! 反応から見て全部で五機います! ただ二機はかなり距離があるようです!」

「コスモノーツ確認! 一体が護衛にいますが……」

「罠だな」

「だが、わざと飛び込むべきだ」

荒木軍曹が看破するが。

それに対して、マゼラン大尉が言う。

同感だ。

一華もそう思う。

「よし。 村上班、あの広場にいるコスモノーツと、その近くにあるシールドベアラーを破壊。 グリムリーパーは高架に一旦上がり、その下にいるシールドベアラーを粉砕してくれ。 スプリガンと我々は残っているビルを伝って、更に先にいるシールドベアラーを目指す。 後は追って指示を出す」

「イエッサ!」

全員が即座に動き出す。

まだダン中佐の回収部隊は出番が無い。最悪に備えて、ヘリの守りと。重機の準備をしている状況だ。

「あの光の壁に飛び込むのか……正気じゃないな」

「関係無い。 正気など戦場では捨てろ」

「イエッサ!」

グリムリーパーが動き出す。同時に、一華もニクスを進める。村上班は、動きも迅速である。

「コスモノーツの周囲に悪意がある。 一華、気を付けろ。 多分α型だ」

「どんどん勘が人外じみて来てるッスね……」

「褒め言葉として聞いておく。 グリムリーパーが仕掛けると同時に行くぞ。 コスモノーツは三城、お前が仕留めろ」

「分かった」

高架の上、シールドベアラーの直上にグリムリーパーが到達。

バイザーを通じて、指示が来た。

「よし、行けっ!」

「光の壁だろうが何だろうが、ぶち破る! ダイブ!」

「副隊長に続けっ! ダイブ!」

「ダイブっ!」

グリムリーパーが突貫する。

シールドベアラーが展開している防御スクリーンだかバリアだかは、あっさり通り抜けられた様子だ。

そして、スラスターを使っての高速機動を主に生かし、シールドベアラーへ彼らは突貫。

縦横無尽にブラストホールスピアという、彼ら専用の大型スピアを叩き込み。シールドベアラーを一瞬で粉砕していた。

同時に、三城がシールドベアラーの防御スクリーンの内部に突貫。

コスモノーツが振り向いた瞬間、ファランクスで頭を粉砕していた。

噴水のように血を噴き上げるコスモノーツ。そいつが前のめりに倒れると同時に、周囲の地面からα型が一斉に沸く。金もいる。

だが、突貫した壱野が、ショットガンを叩き込み、瞬殺。弐分と一緒に大暴れ開始。一華もニクスに集ってくるα型を蹴散らしながら前進。

どうやらニクスでも、低速で進むならバリアだか何だかは普通に通り抜けられる様子だ。操縦席でそれを通り抜けるとき、ちょっとひやりとしたが。

いずれにしても、今はダメージよりも速度優先だ。

α型の群れを守ろうと、シールドベアラーが拡大して、防御スクリーンを拡げるが。

どうやらこいつ、防御スクリーンの大きさを変えるときに棒立ちになるらしい。

しかも周囲の味方勢力を守ろうともするわけだ。

それをバイザーで全員に告げる。

荒木軍曹が、でかしたと言った。

殆ど間をおかず、三城がついでにシールドベアラーを粉砕する。かなり足が速いようだが、ウィングダイバーにはかなわない。

「今の情報はダイヤより貴重だ。 全員、今の情報を頭に刻んでおけ。 三機目を破壊するぞ!」

「こちらダン班。 これより粉砕したシールドベアラーを回収する」

「敵が罠を張っている可能性が高い! 周囲を充分に警戒してくれ!」

「分かっている!」

そのまま進軍を続行。絶好調のグリムリーパー隊が三機目のシールドベアラーに突撃していくが。

次の瞬間、一華は見た。

地面から、大量の赤いα型が出現する。

案の定の罠だ。

「むっ!」

「一旦防御スクリーンから離れてください! 爆発するタイプの武器は誤爆した報告があります!」

成田軍曹が通信を入れてくる。

確かにあの防御スクリーンの性質だと、それは起きても不思議では無い。

高機動を生かして赤いα型の群れから逃れるグリムリーパーだが、シールドベアラーがそれに追従する。

一華の方にも、赤いα型が来る。

かなりの数だ。

「此方荒木班! グリムリーパー隊、そのままの方向に後退を続けてくれ」

「かまわないが、大丈夫か!」

「問題ない!」

上空から躍りかかったスプリガンが、殆ど一瞬でシールドベアラーを粉砕していた。装備が恐らく三城と同じファランクスだろう。一線級の部隊には、支給されていると言う事だ。

即座に反転したグリムリーパー隊が、赤いα型と交戦を開始。

上空から一方的にスプリガンが赤いα型を潰して廻っている。赤いα型にとっては相性が最悪というわけだ。

「ふっ、軽く叩き潰してやる!」

「油断するな。 いつまでもフライトユニットは浮いていられる訳ではない! 攻撃時、赤いα型は恐ろしい速度で突進してくる!」

「分かっている!」

スプリガンはかなり巧みにエネルギー管理をしている様子で、不慣れなウィングダイバーのようにエネルギーを切らして着地したところを赤いα型に食いつかれて真っ二つ、等と言う事はないようだった。

だが、それでも支援が必要だろう。

合流しながら、赤いα型を掃討していく。ニクスの火力も装甲も、開戦当時のものではない。

それに比べて、赤いα型は別に強くなってはいないのだ。

ましてや村上家の三兄弟はそれぞれ狂った実力の持ち主。

しばしして、赤いα型は周囲から掃討されていた。

「此方荒木班。 四機目のシールドベアラーを発見」

「すぐにいく」

「いや、それよりもだ! 気を付けろ!」

荒木班の言葉と同時に、閃光が迸る。

狙って来たのはニクスだ。凄まじい負荷に、一瞬でアラートがなる。

これだけ強化したのに、まだこんなにダメージが入るのか。

「レーザー砲だ!」

「くそっ! この位置だと狙い撃ちだぞ!」

「すぐに其方に行く! 俺たちが盾に……」

「いや、奴らの狙いは私ッスよ」

一華はそのまま、わざと肩砲台からの一撃を、荒木班がいる方向へ叩き込む。

シールドベアラーが反応した様子で、防御スクリーンがわっと拡がった。

更に、である。

「赤いα型が更に来たぞ!」

「くっ、これは厄介だ。 次の射撃に耐えられそうか!」

「なんとか」

必死に操作して、狙撃地点を割り出そうとするが、難しい。

多分今の一撃を叩き込んだ後、即座に居場所を移したのだ。かなり手だれているコスモノーツである。

更に赤いα型は硬く、簡単に殲滅できる相手ではない。

今のうちにニクスを葬ってしまえば、文字通り他は入れ食い狩りたい放題というわけだ。

これで分かったが、コスモノーツはこのシールドベアラーを使う事を基本戦術として叩き込まれているのだろう。

奴らは軍隊だ。

そして、完璧に攻撃を防げる盾があるなら、それを最大限使う。

赤いα型を駆逐している内に、荒木班から連絡が入る。

「見つけたぞ。 座標を送る!」

「コスモノーツだけで三体! レーザー持ちは一体だけとはいえ……」

「建物を上手く使っているな。 そうなると……」

「俺が行く」

弐分がすっ飛んでいく。瞬間速度だけなら弐分が一番出る。

全員で、即座にそれを援護。勿論低空で行くからだ。赤いα型と交戦しながら。なおかつコスモノーツに気づかれないようにいかなければならない。

レーザー砲、二射目。ニクスを直撃。

激しい衝撃が機体に走った。ニクスのコンソールがエラーだらけになる。かなりまずい場所を直撃したらしい。これは、下手をすると動かなくなる。

PCでのサポートプログラムをフル稼働させて、必死に耐える。赤いα型が食いついてくるが、機銃で吹き飛ばした。前は牙が食い込むくらい威力があったが、今ではこの通り。ただ続けてこられると、関節をもぎ取られる。

激しい銃撃音がする中、伝えておく。

「もう一回は耐えられないッス!」

「分かっている!」

「敵はニクスとの交戦経験があるようだな!」

「……」

シテイ中尉の言葉に、黙り込むマゼラン大尉。

恐らくだが、あまり良い意味には取れなかったのだろう。

激しい射撃を繰り返しながら、必死に赤いα型を削る。CPUがフル稼働しているから、もの凄い熱を出している。

これはいかん。熱暴走する。

ハッチを開ける。周囲の空気が涼しい。勿論、意図的な行動だ。熱暴走を避ける意味もあるが、もう一つ。

それが今は、一華にも出来るようになっていた。

この一年以上の戦闘がなければ、絶体に無理だっただろう。

それでも、今は。

たくさんの死を見て来て。知っている人が翌日には死んでいる事があたりまえになってきた今は。

少なくとも此処で、誰かを死なせたくはなかったし。

故に、おとりになる事は出来た。

コスモノーツが、此方を狙って来る。

当然だろう。

あの凶悪なレーザー砲二発の攻撃に耐え抜いたニクスだ。搭乗者を確実に仕留めたいと狙って来る。

そしてダメージを受けているのも確認できていた以上。何らかのアクションを搭乗者が起こすのも分かっていた筈だ。

読みあいは。

一華の勝ちだ。

その瞬間、弐分がフラッシングスピアで、横殴りにレーザー砲持ちを打ち砕いていた。

二体のコスモノーツが反撃しようとするが、銃撃音。これは荒木班が回り込んでいたな。

一華の位置からは見えないが、どうもそうらしいと判断。

一華は頭に梟のドローンを乗せ、パイロット剥き出しのまま操作を続けて機銃を乱射。ロボットアニメとかだと熱いシーンだろうが、ばたばた風が来るわ、周囲は敵だらけで生きた心地がしない。

赤いα型が多数いるから、はっきりいって恐ろしい。擦っただけで死ねる。

だが、他は生身であれとやりあっているのだ。アーマーをつけているとはいえ。

怖いが、それでも隅っこでふるえている訳にはいかない。

恐らく敵陣に侵入したグリムリーパーが、またシールドベアラーを破壊したのだろう。防御スクリーンが消える。

同時に、飛び出してくるコスモノーツ。タンとキーを押して、肩砲台を発射。直撃させる。

勿論エイム補助のアプリも働いているが。

それでも、当てれば正義だし。

奴らの武器にもオートエイム機能がついている。

お互い様だ。

鎧が吹っ飛んだコスモノーツ。即座に、壱野が狙撃を決める。文字通り胸の辺りに風穴を開けられたコスモノーツは、しばらく虚空に銃を乱射した後。背中から地面に倒れていた。

「荒木班、無事かっ!」

「正直かなりきつい!」

「今のはMVPだな! 流石は名高い荒木班だ!」

スプリガンが、そのまま荒木班の支援に行く。

激しい戦いの末に、赤いα型を制するが。ダン中佐の部隊から警告が飛んでくる。

「敵だ! 北から来るぞ!」

「まだ重機でシールドベアラーを運ぶのは掛かりそうか」

「残念だが、まだしばらく掛かる!」

「ならば対応するしかあるまいな」

防御スクリーンが見える。

あれは、五機目か。

それが悠然と、コロニスト多数と、コスモノーツとともに歩いて来る。あれが、敵の本命戦力か。

今までのは全部おとりというわけだ。

「何重にも罠を仕込んでいやがる」

「かなり高等な戦術を使って来ますね」

「分かっていたことだ。 対応するしかない」

小田中尉、浅利中尉、相馬中尉が口々に言う。

当然コスモノーツにはレーザー砲台持ちもいる様子だ。

「一華、少し下がって応急処置を急げ。 俺たちであれはどうにかする」

「しかし、ニクスの火力無しで……」

「大丈夫だ、いけ」

「分かったッス」

赤いα型の死体をかき分けて、高機動型を何とか動かして戻る。

ヘリまで戻ると、簡易の整備装置があるし。補給トラック以外にも物資を積んで来ている。

受けたダメージを確認。

どうやら幾つかの回線が焼き切れている様子だ。

更には装甲に二箇所、えぐい穴が穿たれている。

ダン中佐の部隊が、二機目の残骸を重機で引っ張ってきた。重機といっても、旧型になったブラッカーの車体に、シャベルカーとブルドーザーをあわせたようなアタッチメントをつけているものだ。

一応ロボットアームもついているから、キメラ的でちょっとなんというか。

美学持ちには、耐えられないかも知れない。

「凄まじい被害だな……」

「整備に誰か手伝ってほしいッス。 流石にニクス無しだとあの戦力は……」

「分かった、一人手伝いに回れ。 三機目の回収に行く!」

「イエッサ!」

中年の男性兵士が、手伝ってくれる。

一華も散々ニクスを乗り回してきたのだ。新型もマニュアルを全暗記しているし、どこがどうまずいのかは一目で分かる。

幸い致命傷はまだ受けていない。

ニクスが積んでいるPCは残念ながら、もう駄目だ。だが、それは一華のPCで支援すればいい。

制御系の回線を組み替えて。

積んで来た予備の装甲を、無理矢理溶接する。

中年の男性兵士は手際が良くて、溶接の手順がものすごく手慣れていた。

「整備兵ッスか、おじさん」

「俺は化石みたいな町工場の人間でな。 町工場を奴らにやられて、それで軍に連れてこられたのさ」

「専属の整備兵にならないッスか?」

「そうだな、それはそれで面白いかも知れないな。 ダン中佐に交渉して見てくれ」

応急処置終わり。

だが、十分以上掛かった。

急いでコックピットに戻ると、PCからニクスを強制的に再起動させる。本来なら幾つものフェイズを経ないと無理な仕組みなのだが、これもPCから強制的に全て飛ばしてしまう。

再起動。

指を立ててOKと、最後まで装甲を補強してくれていた整備兵のおじさんが見送ってくれる。

そのまま、歩き始める。

機能は80%程度しか発揮できないか。だが、弾はまだまだ残っているし、やれるはずだ。

跳躍。何度か跳躍を繰り返して、前線に急ぐ。他のニクスでも理論的には出来るが、まず出来ない行動。

前線では、建物を利用して、凄まじいエイリアンどもの砲撃を凌いでいるところだった。

更にシールドベアラーがいるから、文字通りどうにもできない。

ただコロニストは制御し切れていないようで、シールドベアラーの防御範囲から出て来ては村上三兄弟に即殺されている。

その度に、兵士達が感心していた。

「今のヘッドショット、すげえな……」

「だが、コスモノーツは隙がない! シールドベアラーをどうにかしないと、文字通り詰むぞ!」

小田中尉に、浅利中尉がそう返している。

程なくして。

だったら、一華が気を引くしかない。

壱野にバイザー経由で通信を入れる。

「此方一華」

「戻ったか」

「「一発だけなら、耐えられる」ッスよ。 その瞬間を、絶対に掴んでほしいッス」

「よし、カウントを取る。 カウントがゼロになり次第、突入してくれ」

これだけで通じるのはありがたい。

そのまま、ジャンプしながら移動を続ける。コスモノーツは気づいたが、ニクスがボロボロなのにも気づいただろう。一応警戒はしているが、それだけだ。

死にかけのニクスなど恐るるにたらずか。

生憎、こっちはニクスをお前達より知っているので。

そう呟きながら、一華はカウントを聞き、速度を調整。

一旦踏みとどまるようにして、時間を調整した後。

カウントを聞きながら、不意に動き。

ゼロになる瞬間、突入していた。

まさか死にかけのニクスが突貫してくるとは、思わなかったのだろう。自分達は散々怪物やコロニストを自爆特攻同然の作戦に駆りだしているのに。

至近距離から、機銃を乱射。ショットガン持ちのコロニストが下手なダンスを踊って、装甲を粉砕されて血をぶちまけながら吹っ飛ぶ。

レーザー砲持ちのコスモノーツが、間髪入れずに、ニクスに射撃。

今までにない猛烈な衝撃が、ニクスを襲った。

ばつんと、何かが切れる音がした。

多分このニクスが死ぬ音だ。機械も、壊れるときにこういう音がしたりする。

一華のPCからどんなに支援しても、動かない。

モニタも、全て死んでいた。

バイザーから、戦況を見るしかない。後は、終わるまで。一華は何もできない。

今の瞬間、レーザー砲持ちを仕留められれば良かったのだが。奴は味方の壁の中にいた。だから、その壁の一番面倒なショットガン持ちを仕留めた。

だが、それが功を奏した。

突貫したスプリガンとグリムリーパーが、恐ろしい手際でコロニストとコスモノーツを次々倒して行く。

レーザー砲持ちは躊躇した瞬間に、頭を三城のファランクスに吹っ飛ばされたようだった。

生き残った数体のコスモノーツは形勢不利を悟って逃げようとしたようだが。既に盾にするコロニストもいない。

更に言えば、スプリガンの方が足が速い。

容赦なく命を刈り取られて、早々に自分で作った血だまりが拡がる地面に沈んでいた。

成田軍曹が通信を入れてくる。

「最後に残ったシールドベアラーの足を破壊してください。 本体を持ち帰りたいです」

「だがこれを乗せたまま、ヘリが飛べるだろうか」

「それは……」

「解析している暇は無い。 分解してしまうぞ」

一華は、何とか強制脱出用の装置を動かして、ニクスのコックピットを開ける。

案の定というか、もの凄くえぐい……動力関係の部分が貫かれていた。

「私がやるッスよ」

「無事だったか、良かった。 一華大尉、頼むぞ」

「ただ私力仕事が苦手なので……後、足はすぐに壊してほしいッス」

「了解した」

グリムリーパーが、即座に四本あるシールドベアラーの足を粉砕してしまう。

頷くと、一華は外に出ると。荒木班に手伝って貰って、ニクスのバックパックから解体用の器具を出す。

そして、足を失ってもまだ動いているシールドベアラーを、順番に解体して行く。

どうも中枢部分らしい部品を見つけて。動力炉も見つける。

残念だが、これを生きたまま持ち帰るのは無理だろう。ヘリが飛んでいる時に、何が起きるか分からない。

動力炉と中枢部をつないでいる、プライマーの機械……主にドローンなどでも使われているコードを切り離すと。シールドベアラーの展開していた防御スクリーンが消滅した。

すぐにダン中佐が来て、最優先で機能停止したシールドベアラーを回収していく。これはとても良い状態のものだ。最優先は当然である。

ニクスも引っ張って行ってくれた。

他の皆は、補給車に群がって、補給を済ませてくれている。村上三兄弟の姿はない。多分周囲を警戒してくれているのだろう。

そう思っていたら、通信が来る。

「此方壱野」

「新手か」

「はい。 コスモノーツとコロニスト、怪物の混成部隊です。 あまり時間はないと見て良いでしょうね」

「よし、引き上げるぞ。 比較的傷のないシールドベアラーは回収出来た。 それだけで充分だ」

一機未回収のシールドベアラーが残っていたが、再利用できないように、徹底的に破壊していく。

走れと言われたが、パワードスケルトンの補助無しには走るのも無理なほど一華には体力がない。

一年以上戦ってこれだ。

如何に乗り物専門でやってきたかが一発で分かる。

ヘリに逃げ込むと、点呼。全員揃っている。

ただ、グリムリーパーもスプリガンも傷だらけだ。如何に激しい戦いだったのかが、一発で分かった。

「よし、撤収!」

「充分な戦果です! 敵は侵攻用のシールドベアラーも、配置していた防衛用の部隊も失いました!」

「……」

成田軍曹は喜んでいる。だが、局所的な勝利はあくまで局所的な勝利だ。

あのシールドベアラーという兵器。破壊は難しく無さそうだが。破壊するためには接近が必要だし。それが出来る部隊は限られているだろう。

ニクスなどを使って無理矢理接近するか、或いは。

コスモノーツやコロニストは、ヘリを追うつもりはないようだった。

ほっとした後、一華は壱野に整備兵のおっさんの話をしておく。壱野は頷いた。

「実は、うちの……村上班の後方支援部隊を編成するという話がある。 それほどの腕利きなら、前線で戦わせるよりもその部隊に入って貰った方が良いだろう」

「お願いするッスよ」

「多少の無茶なら話が通る。 任せておけ」

うちのリーダーは物わかりが良くて助かるな。そう思って、他を見る。

グリムリーパーとスプリガンは、悪口を言い合う事もなく。別の所に固まって静かにしている。

何というか、実際には実力は認め合っていて。士気を高めるために戦場で悪口をたたき合っているのでは無いのか。そう、一華は邪推してしまった。

 

4、暗雲

 

EDF総司令官リー元帥は、地下の施設を転々としながら、戦況を確認。もはや瀕死の欧州からは、撤退すべきだという声も上がり始めている。

バルカ中将が必死に奮戦しているが、イタリアに続いてスイスも落ちた。スペインは既にどうなっているかも分からない。フランスとドイツは国土の七割以上を蚕食され、ポーランドはもう虫の息である。

難民は少しずつ英国に逃げ込んでいるが、英国は軍の再編中にディロイを散々投下されて、再起不能に近いダメージを受けている。

とてもではないが、難民を救援するどころではなかった。

ただ三隻の潜水母艦が奮戦して、潜水艦隊とともに難民救助や、要所へのピンポイント攻撃を敢行してくれている。

それもいつまで続くか。

明らかに敵は、潜水母艦を面倒くさい存在として認識し始めている。

今では、潜水母艦が姿を見せると、全速力でマザーシップが動いて攻撃を仕掛けてくるようになってきていた。

新しい報告が来る。

デスクについて憮然としていたリー元帥に、副官であるカスターが言う。

「ノルマンディーに展開していた潜水母艦パンドラは、からくもマザーシップの攻撃を逃れましたが……難民が多く犠牲になっています。 敵は民間人も容赦なく殺しに来ています」

「最初からそうだ。 酷い作戦ばかりをさせて、各地の指揮官の心が病まないか心配だな」

「……」

「荒木班と村上班が、スプリガンとグリムリーパーとともにシールドベアラーのかなり状態がいい残骸を回収してくれたそうだな。 解析を急いでくれ。 此方でも再現したい」

敬礼すると、カスターは行く。

ため息をつくと、リー元帥は中華の劉中将に個人通信を入れていた。

劉中将は気むずかしい男だが、昔色々とあったため、リー元帥とはある程度個人的な交友がある。

胸襟を開いて話し合うというほどの仲では無いが。

既に世界政府がある今は、米国と中華の対立も過去の話だった。

「劉中将。 其方の状況はどうかね」

「また一人少将がやられた。 北京にコスモノーツが波状攻撃を仕掛けてきている。 ロシアが陥落したせいでな……」

「四川の移動基地を潰すどころではなさそうだな」

「とてもではないが無理だ。 インドで計画しているらしいマザーシップへの攻撃も、今はその段階では無いといいたいくらいだ」

頷く。

その通りだと、リー元帥も思う。

各地でシェルターに人々が逃げ込んでいるが、怪物はシェルターを喰い破ってそれらの人々すらも殺している。

コスモノーツの登場で決定的に戦況は変わった。

先進科学研は武装をどんどん強化してくれてはいる。なんでもプロフェッサーという人物が、驚異的な兵器を次々に作ってくれているそうだが。

それはそれ、これはこれ。

兵器が行き渡るかは別問題だし。

何よりも、どんどん戦闘を経験している人員も減ってきている。

各国の戦略情報部の支部も次々壊滅している様子だ。戦略情報部の本部も、近々地下に移転する予定である。

「まだしばらくは耐えて欲しい。 何とか今、反撃のための準備を整えている状況だ」

「少なくとも怪生物をどうにかしないと戦況の好転は難しいだろう」

「ああ、分かっている。 エルギヌスはEMCの集中投入で、昨日も一体倒した。 だがアーケルスがどうにもならん。 今、総力を挙げてアーケルスをどう倒すかの研究を進めている最中だ」

「頼む。 急いでくれ」

敬礼をかわすと、通信を切った。

大きくため息をつくと、まずくなる一方の紅茶を啜る。

兵士達の士気を保つのが大変だな。

そう、リー元帥は。

何度も、同じ事を思うのだった。

 

(続)