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足長の悪魔
序、空を覆う新型
また少し、あのコスモノーツというエイリアンが現れてから時間が過ぎた。
各地での戦況は悪くなる一方。
戦争が始まってから、ちょうど一年だ。
各地の学校などは、既に完全に停止状態。むしろ避難施設へと変わっている有様だった。
大本営発表も減ってきた。
そろそろ、各地での戦闘があまりにも戦況的によろしくないことを、隠せなくなってきたのだろう。
そう壱野は判断していた。
「起きろ、三城」
「ん……」
移動中。少しでも休ませたかったが、起こすしかない。グレイプの中で寝ている所を起きて貰った。
今、村上班は戦地を転々としている。
コスモノーツと呼ばれるエイリアンが現れてから、各地の戦況は文字通り一変。コロニストなら対処できていた各地のEDFが、更に不利になりはじめている。特にロシアは悲惨で、基幹基地のモスクワ基地を失ったあとは、一方的な蹂躙が続いているようだった。
今、壱野はロシアにいる。
何とか生き延びている兵士達を救うために、支援作戦に来たのだが。
周囲に転々としている破壊されたタンクの数々を見るに、気が重い。現在ロシアの残存勢力を必死にシベリアに集めているようだが。この様子だと、ロシア全域が陥落するのも時間の問題だろう。
起きだした三城は目を擦っていたが。
ぱんと頬を叩いて、目を覚ました様子だ。
皆で大型移動車両から降りる。グレイプを四両連れてきているが、これは全て兵士の撤退用だ。
駐屯地とは名ばかりの難民キャンプに到着。
一緒に来た兵士達が、すぐに撤退を指示。無気力な様子で、完全に心が折れている兵士達がふらふらと現れた。
そして、言われるままグレイプに乗せられ、運ばれて行く。
敬礼をしてきたのは、ロシア方面軍の中佐だった。
この間、壱野も中佐に昇進した。
一応は同格と言う事になる。
弐分、三城、一華はそれぞれ中尉に昇進している。
この様子だと、大佐への昇進も近そうである。
「名高い村上班が来てくれて心強い。 早速だが、この前哨基地に怪物がかなりの数迫っている。 撃退してほしい」
「了解。 すぐに対応する」
一華の乗っているニクスが降りてくる。
更に強化改造が加えられた赤いニクスだ。コスモノーツ戦でのデータを取り入れ、短時間で奴らの鎧を破壊出来るように、武装を強化した。
装甲の軽量化が進んでいる事もある。メインウェポンである機銃を、更に強力なものへと換えることには成功。
ただしその代わり、ミサイルは失った。
怪物の掃討は、壱野達でやるしかない。
「グレイプで兵士はシベリア基地にピストン輸送する。 逃げ遅れた市民は」
「市民、か。 もう、助けられる市民など……」
「周囲の怪物は此方で可能な限り殲滅する。 少しでも多く、助けられる命は救ってほしい」
「分かった……」
指揮官らしい中佐まで、やる気を無くしている。
まずい状況だ。
確かにコスモノーツの戦闘力は圧倒的だ。コロニストは戦車砲で倒れないといっても効いたし。
何よりヘッドショットで確殺出来る相手だった。
だがコスモノーツの鎧は、ダメージを吸収して自壊するらしく。
どうしてもヘッドショットで一撃確殺とはいかない。
それに、組織的な戦闘を行うだけではない。
コロニストを指揮下に入れて、戦闘で肉壁にしている様子も確認されている。
非常に手強い相手だ。
「此方成田。 作戦をサポートします」
「まず周辺の敵の数と種類を、可能な限り正確に頼む」
「はい。 スカウトが既に周囲に展開出来ておらず、推測でしか分からないのはご容赦ください。 現時点で周囲で兵士達に確認されているのは、α型が主体。 マザーモンスターもいるようです。 β型は確認されていませんが、代わりに少数のコロニストが目撃されています」
「……分かった」
その程度の事しか分からないか。
だが、スカウトもいないのではどうしようもあるまい。
欧州も壊滅的な被害を受けていると聞いているが。ロシアもどうやら、同じような状況らしかった。
更に、EDF本部のある米国が、今コスモノーツの猛攻を受けている。
あのタール中将が中心になって必死に抵抗作戦を続けているらしいが。
それでも、米国から各地に兵士が派遣されることがなくなってきている。
グリムリーパーの活躍の記事も殆どなくなってきた。
米国を本拠に活躍しているグリムリーパー。
欧州を本拠に活躍しているスプリガン。
どちらもまともに記事が出て来ていないということは。もはやEDFが組織的に抵抗できなくなってきているのでは無いかとすら思わされる。
いずれにしても、戦うしかない。
まず弐分と三城に、周囲の敵を偵察して来て貰う。
この辺りに自動砲座を撒いて、陣地に帰る。
輸送トラックに亡者のような兵士がさっき視線を向けていたが。残念ながら食糧はほとんどないと言って追い払った。
グレイプによるピストン輸送で兵士を集めたとしても。
あれではどこまでやれるのやら。
程なく、二人が戻ってくる。
「まずい。 敵の数がかなり多い」
「こっちもだ」
「具体的に言ってくれるか」
「α型４００、しかも金がいる。 β型は２５０、飛行型が後方に１００は控えているとみていい」
「こっちはマザーモンスターが２、α型が５００。 しかも金もいた」
最悪の状況だ。
恐らくだが、敵はこの「前哨基地」とは名ばかりの難民キャンプをエサに、EDFの戦闘可能な部隊を釣り出したのだ。多分、敵は更にいるとみて良いだろう。徐々に包囲網を狭めてきているだけで。敵は戦闘力がある部隊を釣れると知っているのだ。
すぐに本部に連絡を入れる。
幸い、戦略情報部が出してくれた専属のオペレーター成田は。
作戦関連では無能だが。
パイプ役としてはそこそこに出来る。
まあ、取り柄が一つでもあれば良い方だろう。
それにどう考えても、十代でこんな重要な仕事を任されており。しかも戦績を上げている村上班の専属になっている。
何か訳ありなのだろう。
「とんでもない兵力ですね……」
「特にマザーモンスターがいるのが危険だ。 近くで繁殖している可能性もある」
「すみません村上壱野中佐。 もう本部から、兵を出す余力はありません。 空爆もとても其処までは……。 砲兵はロシアでは、既に壊滅してしまっています」
「俺たちだけでやれということか」
帰ってきたのは沈黙だけだが。
しかたがない。
やるしかないだろう。
こちらは四人だけ。
だが、恐らくはもっとも敵を殺してきた四人だ。コスモノーツが降臨してきてからも、奴らを多数倒して来ている。
戦況は悪化するばかりだが。
奴らをこれ以上のさばらせず。好き勝手させないという所を見せてやる。
「弐分。 マザーモンスターを足止めできるか」
「なんとか」
「よし。 三城、まずは俺が金色のα型を仕留める。 その後、残りの怪物を攪乱してほしい」
「分かった」
二人には先行してもらう。
そして、一華には。集まっている兵の撤退を急ぐように、ロシアのEDF部隊に無線を飛ばして貰う。
あれだけ無気力になっていても、マザーモンスターが接近していると言う事をしれば、流石に逃げるのに必死になるだろう。
マザーモンスターの恐ろしさは、各地の戦闘で既に知られているのだ。
自動砲座を撒く。
Ｃ３０爆弾も、持ってきた分は全て設置する。
それから、大型車両に登って、高い地点を確保。
近くに木などがあれば良かったのだが。正直、まともに狙撃地点として使えそうな木などなかった。
そのままスコープを覗き込む。。
見えた。金のα型だ。
あれに接近されることは死を意味する。既に警告はしているが。事実各地での戦闘で、大きな被害が出ているようだ。
至近に接近されたコンバットフレームが一撃で大破に追い込まれたという事件も起きているようで。
先進科学研が必死に努力している装甲の強化改造を嘲笑うかのように。プライマーの実力は文字通り底が知れない。
数は、七、いや八か。
流石に金のα型は戦闘力が高い事もあって、簡単には産まれないらしい。
文字通りの変異種、なのだろう。
重要な戦闘ではそれなりの数が出てくるようだが。
プライマーにとっても戦線が拡がった今は、流石に其処までの数を。こんなどうでもいい戦闘には出してこられないというわけだ。
三城と連絡を取ってから、連携して動く。三匹が纏まっているので、それをプラズマキャノンで吹き飛ばして貰う。
残りの四匹を潰した後は、続いてマザーモンスターの狙撃に入る。
ともかく、接近される前に金のα型とマザーモンスターを片付けてしまえば、どうにかなる。
三城と弐分の負担は大きくなるし、申し訳ないとも思う。
だが、これしか手がない。
以前、駄目出しをして突っ返したミサイルランチャー、エメロードを補給トラックから取りだす。
ようやく実用レベルにまで性能が上がってきた兵器だ。
手元に置くと、まずは金のα型から狙撃開始。
同時に、凍土を揺らすような音が轟いた。三城による、プラズマキャノンでの射撃である。
金色のα型だけではなく、多数の敵が消し飛んだとみて良いだろう。
「前線の様子は逐一確認できないか、一華」
「無理ッスねえ……生きている監視カメラも無いッスわ」
「そうか……」
スコープを覗き、続けて引き金を引く。
金のα型を仕留めつつ、三城の支援をする。
敵は三城を包囲するように動いているが、金のα型は文字通りの暗殺者のように、音もなく背後へ忍び寄っている。
金のα型はただでさえ強いのに、人間に対する必殺の火力を持っていることを自覚している様子だ。
怪物はそれなりの知能を持っている。
いったいどこから来たのか。
一華が言う、奴らに似ている昆虫という生物も、地球上に広まっていないのがおかしいくらいの性能を持っているが。
或いは怪物どもと同じくらいの知能を、実は持っているのかも知れなかった。
連続で射撃して、金のα型を仕留め終える。奴らの刺し殺すような殺気は独特なので、いるかは分かる。
続けてマザーモンスターの狙撃を開始する。
弐分に連絡して、同時に仕掛ける。
ラインサンダーＦの狙撃でも、一撃確殺とはいかないが。
しかしながら、弐分が同時に散弾迫撃砲を叩き込めば、話は別になってくる。
文字通りのとんでもない超兵器だが。
これを全弾浴びせれば、流石のマザーモンスターも無事ではすまない。
そこにライサンダーＦを更に叩き込んでやれば、まあ確殺だ。
弐分の腕なら出来る。
戦闘開始。
ライサンダーＦの弾が着弾すると同時に、弐分が散弾迫撃砲の全弾をほぼ余さずマザーモンスターの一体に叩き込む。
其方でも、とんでもない轟音が響いていた。
マザーモンスターは凄まじい悲鳴を上げたようで。
きいんと鋭い音が此処まで届く。
恐らくは、怪物達を活性化させる意味もあったのだろう。
一斉に、弐分に怪物が襲いかかったようだった。
そのまま、狙撃続行。
傷ついていたマザーモンスターを、確殺。
更にもう一体へ狙撃を開始する。
「大兄、まずい。 抑えきれない」
「よし、少しずつさがってこい。 自動砲座とニクスの火力で応戦する」
「分かった。 削りながらさがる」
三城が通信を入れてくる。
まあ、仕方がない。想定の範囲内だ。
ドカンドカンと凄い音がしてきているが、プラズマキャノンで敵を吹き飛ばしているということだ。
それでも怪物は怖れるどころかひるみもしない。
潜水母艦や、どこだかにあるバレンランドとかいう基地から発射される大型巡航ミサイルで、数百体が一瞬で消し飛ばされてもまるで怖れる事なく怪物は進軍してくる。それを見て、恐怖を感じる兵士もいるらしい。
マザーモンスターへ集中攻撃を続け。弐分の奮戦もあって片付けきる。
スコープを覗いて、厄介な変異種がいない事を確認してから。
ありったけのマガジンを使い切る勢いで。
小型誘導ミサイル、エメロードを壱野は連射し始めた。
先進科学研が開発した、兵士が背負えるＭＬＲＳ。とんでもないコンセプトの兵器ではあるが。
ミサイルの小型化は、プライマーから鹵獲した技術で実現したらしい。
数えるほどしか兵士達には行き渡っていないようだが。
基幹基地には既に固定砲台として配備が始まっていて。
怪物やドローン相手に、かなりの戦果を上げているようだ。
持ち出しを許されているのは有り難い。
村上班は、それだけの戦果を上げてきて。
本部も戦果を期待出来ると思ってくれているのだろう。
ただ、その代わり。
こう言う無茶苦茶な作戦をするようにも言われる訳だが。
射撃を続ける。かなりの距離にいる敵に吸い付くようにロックオンをして、ミサイルを凄まじい勢いで連射する。
ミサイルの挙動がちょっと癖があるのだが。
それでも一度高高度に舞い上がってから、敵の頭上から襲いかかる。
量産が出来ていれば、少数の歩兵で、多数の怪物を制圧出来るようになる筈だが。
プライマーも軍需工場を優先的に狙って来ている。
既存兵器の弾薬は有り余るほどあるようだが。
流石にこういう新鋭兵器の弾薬は厳しいのが実情だ。
「敵視認。 報告よりずっと多いッスね……」
「自動砲座とニクスの火力で抑え込んでくれ。 後は俺と三城で片付ける」
「あいあいさ。 しかしひっどい任務ッスよ」
「……そうだな」
さがってくる三城が見えてくる。プラズマキャノンはフライトユニットへの負担が大きく、おいそれとは使えない様子だが。
代わりにレイピアを使って、とって返しては敵を焼いている。
怪物も、逃げるだけでは無く反撃をとって返してしてくる三城に手を焼いている様子で。なんとか囲もうとしているが。
それだけ損害を増やすばかりだ。
そこに、自動砲座からの整然たる砲撃と。
ニクスの精密な射撃が襲いかかる。
纏まることも出来ずに、射すくめられていく怪物。更に壱野は樹上からアサルトで集中攻撃。
目だった動きをしている怪物を、容赦なく仕留めていく。
三城が自陣に逃げ込んできた。
着地すると、プラズマキャノンでの狙撃に切り替える。
移動基地を落とした時に使った奴だ。
火力は凄まじく、一撃で敵を群れごと粉砕している。誤爆したらとんでもない被害が出そうではあるが。
「大兄、此方もそろそろ限界だ」
「三城が連れてきた敵をそろそろ始末し終える。 踏ん張ってくれ」
「分かった。 だが出来るだけ急いでくれ」
弐分も大苦戦しているようだが、そもそも四人で抑える規模の敵部隊ではない。
もう何処にも余剰戦力も、機動戦に使える戦力もいない。
それを考えると、非常に厳しい状態だが。
時間を稼いで味方の命を救えば、少しでも戦況は改善する。
そう思って、目の前に迫っている敵を撃退し続ける。
かなりの数の糸や酸が飛んでくるが、場合によっては視認してから回避する。
銃弾ほどの速度で飛んでくるわけでは無い。
アーマーで多少擦った程度なら何とかなるが。モロに直撃するとかなり危ない。だから、ダメージは出来るだけ回避しなければならなかった。
まもなく、三城が連れてきた怪物は壊滅。累々と積まれている屍を思うと。此奴らに殺された市民と。更には此奴らが戦闘を強要されているだけでは無いのかとも思ってしまう。ただ、許さない事には変わりはない。
壱野にとって何より大事な場所を此奴らは踏みにじった。
故に、殺す。
「よし、弐分。 後退を開始してくれ。 支援を開始する」
「分かった。 頼む」
「任せておけ」
戦闘続行。
弾薬は、今回も使い切ることになりそうだと、壱野は思った。
戦闘が終わって、難民キャンプ同然の駐屯地に戻る。
唖然とした。
兵士達は整然と撤退するどころか、物資を持って離散してしまったらしい。士官すらもがだ。
グレイプは放置されている。コレを使ってピストン輸送で逃げろと言ったのに。それすらも、出来なかったのか。
どれだけ兵の練度が落ちているのか。EDFとしてのプライドはどこへやった。
呆然としていると、成田が通信を入れてくる。
「撤退を、お願いします……」
「分かった。 此処にいた兵士達は」
「戦闘音を聞いて逃げ出してしまったようです。 各自がそれぞれ好き勝手な方向に……敵に狙われるからと、武器や弾薬も、AFVすら放棄して」
「……」
無言で、グレイプを積み直す。更に補給トラックに、兵士達が残していったものから、使えそうなものを回収していく。
食糧や医療品の類は根こそぎにされていたが。銃などは残されていた。
呆れた話で、猟銃等まであった。そういうものまで動員するほど、戦況が逼迫していると言う事だ。
その間、三城と弐分は周囲を警戒して貰う。
「こりゃ、もうこの辺りは守りきれないッスね」
「……いや、何とかしてみるさ。 まだ戦う意欲がある兵士はいるはずだ」
「いればいいッスけど」
一華は皮肉塗れに返してくるが、それが道理だとも思ったので、何も言わなかった。
敵を退けたのに。
戦況は好転する兆しもなく。味方の厭戦気分は、蔓延するばかりだった。
１、到来する攻撃機
我が物顔に到来したマザーシップ。ナンバーはどうでもいい。本部がどうにかかき集めてくれたわずかな兵士が、現地に到着していた。
黙々と、三城は味方を数える。
レンジャーが一個小隊。ウィングダイバーが二個分隊。
これでは、怪物もまともに迎撃できないが。
これしか今の九州のEDFは用意できない、ということだ。
九州の福岡。
九州にも、既にかなりのコスモノーツが降下している。各地で戦闘を続けている村上班だが。荒木班との連絡も、まともにとれなくなりつつある状況だ。
せめて荒木班がいてくれれば。
兵士達が、一華が乗って来たニクスを見て、ほっとしている。
前線では、ニクスを集めるのさえ厳しくなりつつある。
グレイプも積んで来ているが、それは撤退用だ。
「マザーシップの迎撃作戦だというのに、これだけか」
「此方千葉中将」
大兄がぼやくと、千葉中将が連絡を入れてくる。
声には疲労が満ちていた。
「今、そこにいるマザーシップナンバーセブンの他に、マザーシップナンバーツーが日本上空にユーラシア大陸から接近している。 どうも無人になった地帯に何かを投下しているようだ。 気を付けてほしい。 ナンバーセブンも、同じ事をしてくる可能性がある」
「イエッサ。 それよりも、もっと兵力……兵器を廻せませんか」
「すまない。 コスモノーツによる被害が甚大な状況だ。 コロニストはどうにかできるが、奴らは君達以外では、纏まった戦力をぶつけないと勝負にもならない。 各地の基地を守るのに精一杯で……」
「分かりました。 監視くらいしか出来ませんが、それでもいいなら」
千葉中将も、血を吐きそうな様子だ。
それは悔しいだろう。
ため息をつくと、兵士達に指示を出す大兄。
「見ての通りの戦力では、マザーシップを落とすどころでは無い。 もしも何か兵器を出してきたら破壊する。 そのつもりでいて欲しい」
「分かりました」
「村上班となら安心ですね」
「……そうだな」
大兄は中佐に。三城達三人は中尉に昇進した。
何の意味もない。
お給金は上がったけれど、もはや通貨は紙切れ。
既に物々交換が主体になりはじめている。
コスモノーツが現れてから人類の被害は更に深刻になり、既に人口は開戦前に比べて半分を割り込んだらしい。更に加速度的に各地で人は殺されているようだ。人間という種族が、壊滅しつつあるのだ。
それでいながら、EDFは基地を守るのに精一杯。
悲しいが、これが現実と言う事だ。
「！ 皆、ビル影に移動。 何か出てくる」
「ドローンだ……」
すぐに兵士達がビル影に移動する。
九州方面を指揮しているのは、大友という少将だ。九州は今までもずっと散発的な戦闘を行っていたが。
コスモノーツが現れてからは、福岡にある九州最大の基地に兵力を集め。其処で必死に抵抗を続けている。
その近くに今回マザーシップが飛来したのだ。
タンクくらいは出してくれてもいいものを。
まあ、輸送トラックに物資は積んでくれたのだ。三城としても、補給はしてくれたのだから、もうそれ以上はもとめないと諦めている。
ドローンが次々にマザーシップから出てくる。
相手はもう攻撃モードで、赤く染まっている。
幸い、あの強力な赤いドローンはいない。
ならば、苦戦するような相手ではあるまい。
「ドローンが出現しました。 数は二百を超えています。 拡散を防いでください」
「了解。 叩き落とす」
大兄が、成田軍曹に乱暴に応えると。
ＫＦＦという速射が出来るスナイパーライフルで、次々にドローンを落とし始める。
一華はニクスをビル影に潜ませると、たまに射線に入ってくるドローンだけを射撃している状況だ。
誘導兵器を使うか。
いや、今は別に良いだろう。
雷撃兵器を補給トラックから取りだす。クラゲのドローンをぎゅっとしたいところだが。今はそれどころではない。
クラゲのドローンは今も此処にある。
これが、随分とみているだけで心が安らぐ。
雷撃銃を取りだす。これも火力がかなり向上していて、先進科学研が努力しているのは分かるが。
量産を進めて配備して。
少しでも戦況をマシにしてほしいと思う。
ともかく、躍り出るとドローンを落とす。小兄も、大口径砲で、次々ドローンを叩き落としていく。
兵士達も、その戦闘ぶりをみて勇気づけられ。
射撃を続けてドローンを落とす。
「敵が主砲を展開したら対応できない。 その場合は、即座に彼方に移動して、ビル影に潜んでほしい」
「了解しました！」
兵士達も、村上班の活躍については連日のニュースで聞いているのだろう。この間のシベリアでの撤退支援についても、大げさにニュースになったようだ。
大兄は、あの後かなり怒っていた。
逃げ散った兵士達は結局見つかったが。彼方此方の無人化した都市で物資を漁ったり、酒を飲んだりとやりたい放題をしていた所を連れ戻されたそうだ。
そういう醜聞を隠したいのだろう。
中には武器を持ったまま逃亡して、市民を襲う賊と化した恥知らずもいるようだが。
そういう連中は、怪物にだいたい市民もろとも食われてしまうので。ニュースにもなっていないようだった。
「ドローン全滅。 今までの例から考えて、この程度の攻撃で済むとは思えません。 コスモノーツなどの投下に備えてください」
「分かっている」
成田軍曹が警告をしてくるが。
大兄は、静かにそう応じるだけだ。
実際問題、三城もあまり成田という子とは話したくない。
無能なのが苛立つ、というよりも。
なんというか、すごくメンタルが脆そうだと感じるのである。
スペックは高いが、メンタルの問題でまるでスペックをいかせていないのではあるまいか。
それは、恐らく外れてはいないだろう観察である。
ただ、マザーシップがこの程度で引き下がるわけがないという事に関してだけは同意である。
備えていると、マザーシップがまた何かを落とし始める。
なんだ、あれは。
それは、長細い菱形に見えた。最初畳まれていたが、降りてくると同時に展開。ゆっくりと周囲を舞い始める。
「敵、アンノウンを投下！ 警戒してください！」
「見た所ドローンのようだが……」
「此処で投下してくるアンノウンだ。 皆、注意してくれ！」
「イエッサ！」
今、村上班の手際を見た兵士達は、皆戦意が多少は戻っている。
連日負け戦の話ばかり聞いて、相当にまいっていただろう。其処を、圧倒的な勝利で敵をねじ伏せたのだ。
意気が上がるのは分かる。
大兄が一機を叩き落とす。
最初にライサンダーＦで狙って。それで落とせることは確認。同時に、敵ドローンらしいものが、一斉に攻撃態勢に入った事が分かった。やはり此奴らも、色が変わるらしい。
地上に、凄まじい出力のレーザーが降り注ぐ。連射してくるパルスレーザーという奴である。
火力は以前のドローンとは比較にもならない。
しかも、両翼先端についている砲からは、敢えて拡散するようにレーザーを撒いているようだった。
「ビル影に潜んでやり過ごしながら、少しずつ削る。 決して不用意に前には出るな」
「頭上に回り込んでいます！」
大兄は無言で、KFFで上に来た新型ドローンを狙撃。
一撃では落ちてこない。
雷撃銃で三城がそれを叩き落とす。
以前から空を好きかってしているドローンよりもだいぶ大きいだけはある。相当に頑強な様子だ。
「硬い！ 対物ライフルが効かない！」
「アサルトライフルじゃ撃つだけ無駄だ！」
「慌てるな。 対物ライフルを集中的に浴びせれば倒せる。 幸い速度はそれほどないから、集中して攻撃をするんだ」
「い、イエッサ！」
大兄が冷静に指示を出し、ライサンダーＦでの狙撃に切り替える。
射撃速度は落ちるが、一撃が重くなり、流石に新型だろうがドローンなら確殺だ。あの赤い凶悪なドローンほどの火力はないらしい。
小さい兄も、大口径砲で確実に新型を落としていく。
ただ、敵の火力が猛烈だ。三城は周囲を見ながら確実に敵を雷撃銃で落としていたが。埒があかないと判断。
輸送トラックに走ると、ドラグーンランスを取りだす。
かなりの暴れ馬だが、こいつでないと多分対応できない。
それにクレームを先進科学研に入れた結果、だいぶ反動は減って使いやすくはなってくれている。
「空中戦行く。 支援頼む」
「よし。 気を付けろよ」
「ん」
飛ぶ。ダイバー隊がついてくるが、案外被弾しない。なるほど、そういうことか。
ドローンの一機に飛び乗ると、そのままドラグーンランスで寄ってきた一機を叩き落とす。
流石はドラグーンランス。
凄まじい火力で、文字通り一瞬で敵を融解させた。
更に足場にしていたドローンを叩き落とすと、もっと高度を上げつつ。フライトユニットと相談しながら、射撃を続ける。
「敵の分析をしました。 どうやら地上への攻撃に特化したいわゆる攻撃機型のドローンのようです。 数で制空権を抑え、市民を無差別殺傷する今までのドローンとは違い、明確に歩兵への殺傷を目的とした兵器だと思われます。 故に装甲もあついということでしょう」
「対策は」
「す、すみません。 集中攻撃をしてくださいとしか……」
「そうだろうな。 聞いての通りだ。 確実に一体ずつ落とせ！」
無言で一華のニクスが出ると、機銃でドローンを次々落としていく。当然ドローンも反応するが、機動力を生かして跳躍し、敵を確殺しながら戦場を移動して行く。
あれがニクスか。
そんな驚きの声が上がるが。三城としては、見慣れている光景だ。手が足りないときは、あの機動力を生かして一華がおとり役を買って出る。最近は四人だけでの出撃も増えてきたから、ああいう行動を取ることも増えてきた。
「新型ドローン、更に来ます！」
「まずいな。 ダイバー隊、一度戻れ。 集中攻撃を受けると文字通り蒸発するぞ」
「い、イエッサ！」
「一華、敵の気を引く以上の事はしなくていい。 皆、一華を狙うドローンを集中攻撃して叩き落とせ！」
三城は行動のグリーンライトを貰っている。
だから、そのまま飛ぶ。
時々ドローンの上に乗り、蹴って跳びながら高度を上げ。
マザーシップから降りて来て、まだ翼を畳んでいるドローンに対して、レイピアで近距離攻撃を叩き込む。
次々爆発して墜落していくドローン。一瞬で十機以上が落ちたが、フライトユニットのエネルギーがそろそろ限界か。
高さは速度に変えられる。
そのまま落下して速度を稼ぎつつ、追ってくるドローンを引きつける。右、左、左。ダッシュで移動し、驟雨のように飛んでくるパルスレーザーをかわすが、やはり擦る。痛みは気にしない。
ビル影に隠れると、代わりに飛び出してきた小兄が、まとまっている敵に大口径砲を連続で叩き込む。
これにはドローンもひとたまりもなく、次々に墜落。さっと拡散しようとするが。大兄が許さず、速射で二機を立て続けに落とした。
大兄が射撃すれば、無駄弾はでない。
凄まじい手練れに、味方が興奮する。そして、対物ライフルで、必死に敵を撃ち始める。やはり一撃では落とせないが、それでもダメージは与えていく。たまに、味方も撃墜に成功する。
三城は包帯を補給車から取りだすと、乱暴に何カ所かの傷を縛る。
そして、すぐにまた飛び出す。もうフライトユニットのエネルギーは溜まっている｡出る度に、何機でも落としてやる。
「更に増援……数が今までの比ではありません！」
「かまわん。 何百機でも叩き落とす！」
「おおっ！ EDF！ EDF！」
大兄の凄まじい一射確殺ぶり。
敵の気を引きながら、まだ平然と飛び回る一華のニクス。
大口径砲を使って、確実に敵を落としていく小兄。
皆、その活躍を見て興奮が完全に恐怖を上回った。そのまま、攻撃を続行していく。確かに空は敵だらけだが、それは撃てば当たると言う事だ。
成田軍曹が、唖然としているようだ。
「て、敵、半減。 更に減りつつあります」
「マザーシップが主砲を展開する可能性がある。 その兆候があったら知らせてくれ」
「わ、分かりました」
「敵の物量は凄まじいが無限では無い。 此処で物資を無駄にしたことを後悔するんだな」
大兄はそんな事をいうが。
恐らくは、少しでも味方を勇気づけるためだろう。
ビル影にいる味方を上手に狙撃できず、うろうろするばかりの敵も多い。そこに、ビル内を移動して上を取った三城が、容赦なく上からドラグーンランスを叩き込む。吹っ飛ぶ新型ドローン。爆散するときに、僚機を巻き込む。更に立て続けに三機を落とし、ふらついている新型ドローンの上に乗る。集中攻撃が飛んでくるが、その時にはさっと飛び退く。味方機から集中攻撃を貰った敵新型ドローンが。フレンドリファイヤで爆散するのを初めて見たが。
まあこういうこともあるのだろう。
更に敵が四半減し。
一華が流石にビル影に戻って来て、かなり削られた装甲を補充し始める。
味方も、興奮で気づいていなかったが、ちょっとかすっただけで手指を吹っ飛ばされたり、骨が露出するような傷が出来ている者も多い。補給車から物資を出して、応急手当を始める。
残りは、大兄が片付けると言う。
言葉に甘えさせて貰い、三城も救援を手伝った。
戦略情報部より広報の通信が来たのは、そのタイミングだった。
「以降、以前からいる敵ドローンをタイプワンドローン、今回確認された新型ドローンをタイプツードローンと呼称します。 タイプツーは対兵士に特化し、制空権を数で強引に取りに来た今までのドローンとは違う攻撃機です。 装甲も厚く、火力も高いので非常に危険です。 以降、兵士達に徹底してください」
「分かった。 攻撃機となると、AFVを動員して対応しなければならないだろうな……」
「もう一つ、良くない情報があります。 マザーシップナンバーツーが、新潟に上陸し、現地に謎のロボットを投下し始めました。 成層圏から投下されてくる三足歩行の大型自動ロボットで、周囲全てを無差別殺戮するドローンの最終形態のような兵器です。 多彩な武装を持っており、現地のEDF部隊に大きな被害が出ています。 恐らく無人地帯にも、これらは投下されていたものと思われます」
「新型を矢継ぎ早に……」
千葉中将が呻く。
更に戦略情報部によると。
この三足歩行ロボットは、世界各地に投下され始めているという。
既に確認されただけで千機以上。
勝利に沸いていた兵士達が、完全に黙り込むのが分かった。
なお、上空にいたマザーシップナンバーセブンは、嘲笑うようにして高空に消えていく。
「好き放題をしおって……！ 奴はどうにも下からの攻撃を嫌っているようだが、理由は分からないか」
「確かにマザーシップは下方向に攻撃を集中し、兵器や兵士を排除する傾向があるようだと戦略情報部でも分析しています。 地上にいる兵士を殺す目的なら、他に幾らでも手はあるのに、マザーシップは地上にいる部隊が不利になると火力を集中するか逃亡する傾向が確かにあるようです。 近々インドで航空機を集めて、敵に対して制空権をとれないか実験をするのですが……その時にマザーシップの行動を見て、判断する事になるでしょう」
「そんな悠長な事をしている余裕がある状態ではないぞ」
「分かっています。 インドでの攻撃作戦には、勿論万全を期す予定です。 それよりも、村上班を新潟に廻してください。 新潟だけでも、既に数十機の新型敵ロボットが投下されており、更に増え続けている状況です」
分かったと、千葉中将が疲れきった様子で言う。
そして、通信が入った。
「戦闘お疲れ様です。 すぐに輸送機を回します。 軽傷も受けている所すみませんが……新潟に移動してください」
「他の兵士達は」
「福岡基地からキャリバンが向かっています」
「分かった。 くれぐれも無事に基地へ戻してくれ」
新潟では、スカウトの少数部隊だけが展開しており、とてもではないが新兵器に対応できる状況ではないという。
三城は兵士達に礼を受けながら、その場を後にする。
輸送機は、VTOL機の大型の奴が来た。
街の公園に無理矢理着地する。大型輸送車両もろとも、乗り込むが。内部で、一華は黙々とニクスの装甲を補給し始める。
小兄がそれを手伝う。
三城はやることもないので、隅で膝を抱えて座って見ているだけだ。
「三城」
「大兄？」
「疲れているようなら少し休め。 それに傷も受けているだろう」
「うん……」
大兄は、相変わらずだなと思う。
新型の敵兵器、このタイミングで投入。
弱い訳がない。
更に、追加で通信が入ってくる。
「米国で新型三足歩行兵器とEDFの陸軍部隊が激突しました。 何とか破壊に成功したものの、一機だけで一個小隊が全滅しました。 敵は遠距離砲、近距離に接近した相手に凄まじい火力を浴びせる多数のレーザー、更には誘導ミサイルまで装備している様子です」
「話を聞く限り、とんでもない兵器のようだな……」
「勝てるかな……」
「負けたら皆死ぬだけだ」
大兄の言葉には淀みがない。
的を撃ち抜くときと同じだ。当ててから放つの領域にまで到達している大兄の弓術は、師範をやっているような人間でも瞠目していたし。それを見ると、とても自分の事のように誇り高く思ったものだ。
「現地に着いたら起こして」
「毛布がある筈だ。 使え」
「うん」
一華は頭に梟のドローンを乗せたまま作業をしている。大兄は、一華にも休むように言っていたが。
一華はやる事があるらしく、もう少し作業したら寝ると言うことだった。
横になってねむる。
あの新型ドローン。村上班をひょっとしてピンポイントで狙うつもりだったのではあるまいか。
そして悠々と去って行ったマザーシップナンバーセブンだが。
ひょっとして、下に何か致命的な弱点があって。あの数の新型ドローンを潰した村上班とやり合うのを避けたのではあるまいか。
夢うつつの間に考える。
もしも、この考えが当たっているのだとすれば。
ひょっとしたらだけれども。
マザーシップには。何か、決定的かつ致命的な弱点があるのかも知れない。
そもそもだ。移動基地もテレポーションシップも、下に弱点があった。マザーシップも同じだとすれば。
何故、プライマーはそれを改良しようとしない。
それが、どうにも分からなかった。
２、三つ足蹂躙
新潟に到着。新潟の近くには基幹基地はなく、小さなベースが幾つか点在しているだけである。
その中の一つ、ベース４１３に輸送ヘリは降り立ち。
補給トラックに、物資の補給を受ける。
相変わらず弾薬だけは備蓄が豊富だなあと思う。だけれども、そもそも使う兵士がいなくなりつつある。
一華はここに来るまでに、新型の三足ロボットとやらについて少し調べた。
三足とは言うが、そもそもベースになっているのは。先に福岡で戦闘したタイプツードローンと呼ばれた新型ドローンに酷似している。
或いは、部品としては同じなのかも知れない。ただ、十倍以上はタフなようだ。
更に、足というのも少しおかしい。
米国での戦闘記録も見た。ニクスを配備した部隊で迎撃していたが、文字通り雨霰のような火力によって、兵士達が文字通りなぎ倒されていた。
その時に見たのだが、どうも足を使って「歩いている」というよりも。
単に浮いている本体から足が伸びていて、地面に突き刺さっているようにしか見えなかったのだ。
事実、三本足の内一本を槍のように突き刺してくる、近距離用の強力な殺傷力を持つ迎撃もしていた。
文字通り単騎で、長距離戦から殲滅戦までこなせる。万能兵器と言う事だ。
これが千機以上投下された、ということか。
一華は連絡を入れる。
「戦略情報部。 この辺りの制空権は大丈夫ッスか？」
「はい、まあ何とか大丈夫です。 今の時点では」
「ならばDE202をまわして貰えるッスか。 回してもらえれば、多分村上班だけで、新潟の掃除を終えて見せるッスよ」
「そんな、まさか……」
成田という軍曹。
彼女を村上三兄弟は大嫌いなようだが。
はっきりいって一華も意見が同じ。
必要な情報を出してくるのが遅いし、作戦全域のコントロールも出来ていない。結果として、後手後手に回る。
生きていられるのは、村上三兄弟がワンマンアーミーレベルの化け物揃いだからであって。
一華だけだったら、とっくに死んでいる。
だから、工夫するのだ。こんなのがオペレーターでも、生き残れるように。
いずれ成長する可能性はある。
だが、今の時点では。まだだ。
だから、自分でどうにかしなければならない・
戦略情報部とのパイプ役としてだけは使える。だから、其処だけを使っていくだけだ。
「DE202が其方に向かいました。 しかし、一チームだけでは……」
「今ベースの指揮官にリーダーが掛け合っているッスよ。 まあ一個小隊くらいは出して貰える筈ッス」
「そ、そうですか……」
「じゃ、そういうことで。 増援が来そうなら連絡してくれッス」
通信を切る。
さて、整備は一応終わった。
この戦闘が終わったら、根本的な修理がいるだろう。
補給車を覗くと。
いつも三城が大事そうにしているクラゲのドローンがあった。奥の方にしまわれている。
これも今までよく無事だったなあとおもう。
三城はぬいぐるみとか好きそうには見えないのだが。補給車なんて、今までの戦闘で何度も破壊されている。たまたまこのドローンが乗っている補給車が壊されなかっただけである。良く補給車に放置するなあと思う。
かといって、基地においても焼き払われる可能性が大きい。
基地だって、いつまで無事だか分からないのだ。
日本にある基地だって、コスモノーツが降り立ち始めてから、幾つもが陥落しているのである。
せめて側に。
そういう事なのかも知れない。
とりあえず、自動砲座や銃弾の数をチェックしておく。狙撃銃の弾は相変わらずとんでもなく大きい。
また、アサルトライフルの弾も、たんまり積まれていた。
チェックを終えると、リーダーが戻ってくる。
「現地にいるスカウトと合流し、更にこの基地から出してくれる一個小隊と合流して、現地に向かってほしいと言う事だ。 一応ウィングダイバーの分隊もいる」
「ビークルは？」
「先日の戦闘で殆どが修理中だそうだ。 グレイプだけは出してくれるそうだが、キャリバンは厳しいらしい」
「そうなると、負傷者が出るとグレイプに格納して後送するしかないッスね」
頷くリーダー。
仕方がない。移動中に、周辺の地図を確認しておこう。
リモートで操作して、おんぼろのグレイプでも擱座しないように自動で基地まで行けるようにしておく必要がある。
ニクスに乗り込むと、梟のドローンを頭に乗せて。
さっとアプリに手を入れる。
乗せているPCのスペックはまだまだ余裕。
金に任せてHDDの容量もたっぷり確保してあるのだ。
大型移動用車両にニクスでそのまま乗り込む。
兵士達も来るが、青ざめているのが分かった。
やはり、戦意は落ちざるを得ないか。ロシアが陥落寸前だという話は、彼らも聞いているのだろう。
「聞いたか。 ロシアの国境付近から、旧ソ連の各諸国、それに中華へも怪物が攻めこんできているらしい。 米国も押し気味に戦っていたのが、一転して劣勢に追い込まれているらしいぜ……」
「このタイミングで最強のドローンが投入されるのか……」
「プライマーめ……戦略を理解しているんだな」
「俺たちより進んだ文明の持ち主だ。 さぞや戦争の経験も豊富なんだろうよ」
最近戦略情報部が、ぼそりと漏らしたのだが。
どうも今までの攻撃は威力偵察に過ぎなかったのでは無いか、という見解が出て来ているそうだ。
それを千葉中将に聞かせている所が。
モロに公共の通信に乗ってしまった。
士気が下がるのは当然だろう。
今までプライマーは本気なんかまるで出していなかったという事を、戦略情報部がばらしてしまったも同然なのだから。
リーダーが声を掛けて、移動を開始。
大型車を運転しているのは、トラックの運転手をしていた人間らしい。民間人も、もう容赦なく戦場に投入されている。支援要員だったらまだマシな方。こうやって、戦闘を想定される任務にも来ている。
今回はいないが。各地の戦闘で投入されるキャリバンに乗っているのは、殆ど病院からなかば強制的に徴収された者達らしいとも聞く。
世界政府は勝つために、総力戦の体制を整えたようだ。
今後は戦争のために、他の全てが犠牲になる。
とはいっても、プライマーの無差別攻撃ぶりを見る限り。
それ以外に手は無いのだろう。
実際問題、和平の使者は皆殺しにされるばかりで。
全面降伏を申し出ようとする使者も、同じように殺されているらしい。
それでは、こうやって抵抗を続けるしかない。
EDFは市民を守れなくなってきている。
アフリカから救出した多数の市民は。今は各地の基地の地下などに住み着くか。もしくは兵士としての訓練を受けて各地で戦闘をしているらしい。
見ると、今回動員された一個小隊にも、そういう兵士らしい人がいる。
まだ若い。一華や三城よりも若いようにすら見えた。
少年兵が出てくるようでは、末期的だ。
人間を安値で買い取って兵士に仕立てていた悪辣なテロリストと同じではないか。
そう思って、やりきれない気分になる。
一華だって、面白半分にEDFにハッキングを仕掛けた身だ。
テロリストを一方的に邪悪と断じる資格はないのかも知れない。
だが、現実にこういう状況を見てしまうと。
一体何のために戦っているのかと、思ってしまうのだった。
現地に着く。
すぐに兵士達に展開するようにリーダーが指示。ニクスを降ろした後、大型車両からグレイプをリモートで降ろす。
その後、大型車両には後退して貰う。
まだこの辺りには敵のロボットはいないが。
いつ来るか分からないからだ。
「村上班へ連絡です。 成層圏にいたロボット兵器が降下を開始。 今展開している地点周辺に、十数機が落ちてくると思われます！」
「……そうか」
「テレポーションアンカーよりも落下速度は遅いので、落下位置は此方でなんとか予想します。 退避してください！」
「分かった。 すぐに位置を送ってくれ！」
一華のPCにデータが送られてくる。
それぞれのバイザーに、一華から位置を送る。
これを信じるしかない。
「まるで包囲するように落としてきているな。 真上に落ちてくる奴はいないようだが……」
「交戦時の記録から、敵はドローンと同じ性質を持っている事が分かっています。 ただ今回は、既に村上班を認識している可能性が高く……」
「ああ、分かっている。 何とかする」
リーダーが周囲に指示を出す。
最初に落ちてくるのは二機。
これをまず破壊してみせるから、勇気を出すようにと。
以降は、敵兵器の様子を見ながら、指示を出す。
必ず生きて帰してやる。
無傷では帰れるかは分からない。
だが、それでも訓練通りにやれば生きて帰れる。
だから逃げ出したり、指揮を外れて動かないように。
そう指示すると、不慣れそうに対物ライフルを抱えているレンジャーや。まだフライトユニットにもなれていなそうなウィングダイバーは、青ざめたまま頷く。
村上班が凄まじい戦果を上げているという噂は、彼らの希望になっているのだろう。
だが、村上班が同時にとんでもない戦場にばかり投入されているというのも、彼らは知っているのだろう。
それは、青ざめて当然だ。
間もなく、空から火の玉が降り注いでくる。
隕石というには、速度が遅い。
一般的に隕石は相対速度で音速の二十倍くらいで地球に飛んでくることが多いそうである。
これはICBMなどの巡航ミサイルとだいたい同じくらいだ。
EDFでは、大量の破壊システムを搭載したテンペストと言う怪物兵器を装備していて。これは破壊力を重視しているため非常に速度が遅いが。
普通ICBMは、極超音速で飛んでくるため、迎撃が極めて難しい。
近年になってやっと人類でも迎撃システムが作られ始めた程なのだ。
「火の玉だ！」
「あんな速度で落ちてくると言う事は、相当に兵器に自信があるようだな……」
リーダーが呟く。
弐分が言う。
「さて、どうする？」
「三城、右側にプラズマキャノンを最大火力で叩き込め。 多分立ち上がった直後、周囲の様子を確認するために止まるはずだ。 そうでなくても、資料映像を確認する限り、動きはそこまで速くない」
「わかった」
「弐分は俺と一緒に左側に攻撃。 俺はライサンダーＦで撃つから、お前は大口径砲で集中攻撃。 狙うのは一番上の、タイプツードローンとにた形状の場所だ」
まだ残っていた民家を押し潰しながら、火の玉が着弾。
爆発はしない。
だが、民家は炎上しているようだ。それはそうだろう。後で、戦闘が終わった後、消防車を出さなければならないかも知れない。
「立ち上がったぞ……」
兵士達が、恐怖の声を上げる。
三つ足の生物は、地球には存在していない。
それがまた、恐怖を煽るのかも知れない。
そもそも三つ足で立ち上がったと言うよりは、所定位置まで浮き上がったという動きだなと一華は見ていて思う。
いずれにしても、戦略情報部の予想は概ね当たるようだ。
だったら。
先に一華でも手を打っておく。
立ち上がって動きが止まった瞬間。
三つ足ロボットの頂上部分に、プラズマキャノンの巨弾が直撃。プラズマグレートキャノンだったか。一撃でテレポーションシップを叩き落とす凶悪兵器だ。文字通り、一撃でロボットが粉砕され。足の部分がバラバラに崩れて地面に落ちていく。
資料映像で兵士達が鏖殺されながらも必死に反撃し、対物ライフルや戦車砲を浴びせかけて、破壊していたが。
やはり弱点部分の強度はあの程度か。
殆ど同時に、ライサンダーＦの弾が直撃し、もう一機も粉砕される。
大型砲の弾は当たらなかったようだが。つまりライサンダーＦの弾だけで充分、ということだろう。
「おお……」
「やれるぞ！」
兵士達の声に希望が点るが、リーダーは冷静に言う。
油断するな、と。
「あの兵器は遠距離、近距離、全てに対応した装備を持っている。 特に近距離での対人殺傷能力は凄まじい。 とにかく近付かれるな。 ウィングダイバーは、距離を取りながら戦闘。 レンジャーはもし近付かれそうになったら、走ってでもいいから距離を取れ」
「い、イエッサ！」
「すぐに次が来る！ 破壊出来ることは証明した！ 皆、勇気を振り絞れ！」
何だか荒木軍曹みたいなことを言っているなあと思うが。
別にそれはいい。
ともかく。次は三機同時に来る。
だが、既に準備は整った。
落ちてくる火の玉。正確極まりなく飛んできたDE202。そう、置き石戦法だ。
「此方DE202！ これより攻撃を開始する！」
「頼むッスよ」
「１０５ミリ砲、ファイヤ！」
集中砲火が炸裂し、文字通り地面に降りたばかりの兵器が蜂の巣にされる。粉々に消し飛ぶ敵ロボット。
なるほど。殺傷力に特化しているが、防御力はそれほどでもないか。
それが分かれば充分。
どんどん破壊していくだけだ。
立ち上がった二機に、それぞれプラズマグレートキャノンとライサンダーＦの弾が直撃し、破壊する。
わっと兵士達が歓声を上げるが、すぐにリーダーが移動を指示。この辺りに、四機次は落ちてくる。
上空を旋回しているDE202に、次の攻撃位置と時間を指示。
困惑しながらも、DE202は応じてくれる。
「指定通りには撃つが……」
「外したら、戦略情報部に文句を言ってほしいッスよ」
「分かった。 そうだな。 あんたの指示通りに撃ち抜いて、随分な戦果を上げてきているからな」
DE202のパイロットは、最近知ったが元々自衛官だったらしく、世界政府がEDFを作った時に統合され。以降はEDFの空軍パイロットになったらしい。
実力は見ての通り。
かなりの年配パイロットのようだが。年齢を重ねた分、実力も充分に蓄えているということだ。
頼りになる。
続けて落ちてくる。今度は四機だ。
しかもわずかに時間差をつけて落ちてきている。
「これは一機仕留め損なうな……」
「かまわない。 データを取ろう。 弐分、俺たちが倒す以外の一機に、大口径砲で攻撃を続けて、多少は敵に攻撃させろ」
「分かった大兄、そうする」
「……来るぞ」
また、火の玉が落ちてくる。一つは既に人が退去した病院を直撃したようだ。
人の神経を逆なでするような行動だが。こういうのは、敢えてやっているのかも知れない。
まるでタチが悪いならず者国家の軍隊だな。
そう思うが。
近年は比較的お行儀がいい国の軍隊だって、昔は似たような事をしていたのだ。
近年の例を持ち出して、相手を蛮族呼ばわりするのは、おかしな事なのかも知れなかった。
とにかく、一機には置き石戦法で、DE202から掃射を喰らわせるが。なんと耐え抜いて立ち上がってくる。
仕方がない。対応するしかない。
「どうやら、ロボットにも足の長さや耐久の違いがあるようッスね。 DE202の射撃は全弾命中したのを確認したッス」
「分かった。 そういう前提で動く。 皆、あのロボットに集中攻撃！ とにかく近付かせるな！」
「イエッサ！」
それだけじゃない。
プラズマキャノンの巨弾が直撃した一機は爆発四散したが。ライサンダーＦの弾を食らった一機も壊れない。大口径砲を連射している弐分が、心配そうにみた。
攻撃を耐え抜いたロボットは、節くれ立った足の。全ての節から。パルスレーザーを放ちはじめる。
アレ全てが、タイプツードローンと同等の火力があるのか。
しかも、上についているタイプツードローンと似た形の部分は、プラズマ砲を放ってくる。
「移動しながら攻撃！ 足を止めるとやられるぞ！」
リーダーが叫ぶ。
ライサンダーＦの弾を、走りながら直撃させるのは流石だ。
新潟のベースから連れてきた兵士達が、プラズマ砲の爆発の余波で吹っ飛ぶのが見えた。アーマーを着込んでいるから、死ぬ事はないと思うが。それでも、直撃しなくても恐ろしい火力だ。
近付いてくるロボットを、最初に弐分が。続いてリーダーが倒す。冷静に距離を取っていた三城が、プラズマキャノンの第二射を発射。足を使って歩いていると言うよりも、何というか地面に突き刺して高度を維持しているように見えるロボットの中枢に直撃させる。
流石にひとたまりもなく爆発するロボット。
今まで元気にパルスレーザーを発射していたロボットが、崩壊していくのが見えた。
「負傷者！」
「二名負傷！」
「よし、指定したルートから後退！ グレイプに乗れば、基地に戻れる。 二名付き添え」
「わ、分かりました……」
すぐに兵士達がさがっていく。まあ、一人は腕から大出血していた。歩いて行かせるのは酷だろう。
次は、六機同時だ。しかも囲むように降ってくる。
「せ、世界中で更にロボットが投下されています！ このままでは……！」
「成田軍曹」
「は、はいっ！ なんですか凪中尉」
「制空権がとれている位置では、攻撃機からの空爆を。 戦闘データは見ているッスね」
慌てている様子のオペレーターに、冷静に指示を出しておく。
そして、落ちてくる六機のロボットの一機に対し。置き石戦法で、DE202に攻撃を指示。
「次は仕留めてみせる。 任せろ」
「ロボットにはどうもそれぞれ強度が違うのがあるみたいッスから、気にしなくても大丈夫ッスよ」
「そうか、ありがとうよ。 ともかく指定通りの位置に叩き込む！」
六機が、同時に地面に着弾。それぞれ民家やビルを押し潰しながら地面に降り立ち。そして立ち上がる。
三機が、殆ど同時に爆発した。
DE202による射撃。ライサンダーFによる射撃。プラズマグレートキャノンの射撃。全てが直撃した結果だ。
だが、三機は移動を開始。
かなり足が速い。というか、やはり位置を固定するために、地面に足を突き刺しているだけにしか見えない。
「かなり移動が速いな」
「大兄、接近されると流石に危ないぞ！」
「ああ、分かっている。 一華、今の掃射をもう一機に直撃させられるか？」
「やってみるッス」
やるしかない。
敵の動きを見ながら、次の位置を特定。見ていると、足を地面に刺して移動しつつ、周囲を警戒。人間を発見し次第、攻撃に移るようだが。
予想通り、対空戦闘能力はあまり高くないようだ。
位置を指定。DE202から、了解と来る。
兵士達は必死にそれぞれの武器でロボットを攻撃しているが、相手にもされていない。むしろ威圧的に光り始めるロボットの足を見て、兵士達は怯えて逃げ腰になる。
さっきのパルスレーザーの火力。至近に接近されたら、ニクスや、下手するとタイタンですら瞬殺される密度だった。
ロボットがプラズマ砲を放つ。
ニクスで前に出て、兵士達の盾になる。
同時に、ロボットにそれぞれ着弾。DE202の攻撃を受けると、撓むようにしてロボットが地面に向かって体勢を崩したが。それでも、正確に全弾DE202は当てて見せる。
爆発し、粉々に崩れる三機のロボット。村上三兄弟の攻撃が、残りの二機に集中したのだ。
「よし、これで終わりか？」
「お、終わりです。 しかし既に投下されたロボットが、新潟市内に三十機以上はいます……」
「ならばそれを撃破しに行く。 丁度からだが温まった所だ」
敢えて、そんな事をいうのだろう。
リーダーは兵士達の前で、まるで怖れていない様子を見せる。
確かに、遠距離から射すくめてしまえばなんとか出来る。だが、あれは恐らく、そんな甘い相手ではないだろう。
接近された時にどうするか。
今のうちに、考えておかなければならないかも知れない。
ニクスを降りて、プラズマ砲によるダメージを確認。
思ったよりも威力はない様子だ。主力兵装は、あの足のレーザーだろう。
あと、まだ目撃はしていないが、ミサイルを搭載しているロボットもいるという話だ。それについても、確認をしておきたい。
あのオペレーターは動揺していたが。千機投下された内の、１パーセント以上を今ここで撃破したのだ。
それを少しは考えてほしいものだ。
対策は出来る。
今は各地で戦力が足りていないかも知れないが。ともかく、攻撃機を近づければ比較的容易に潰せる筈だ。
勿論敵も、そう簡単にやらせてくれる事はないだろうが。
それでも、対歩兵兵器を続けて出してきた状況だ。
恐らくは、高空攻撃で今の奴に対抗するのは、充分にありだと判断して良いはずだった。
３、巣窟
負傷者を後送し。更に補給トラックに、物資を補給した後。いちおう追加で来てくれた二個分隊と合流。
新潟基地の司令官は確か中佐の筈だが。
戦況は見ていたはずだ。
村上班が、今世界中を恐怖に叩き込んでいる三つ足ロボットに比較的容易に対策したのを見て、好機だと思ったのだろう。
兵士は出してくれた。
有り難い事にタンクも二両追加で出してくれている。
このタンクについては、基地を守るための虎の子だったらしい。
まあ基地にあったＡＦＶもニクスも壊れかけだらけだった。
好意的な行動、とみて良いだろう。
弐分は兵士達がまだ青ざめているのを見て、少し不安になる。
これから先に撃破したロボットの倍はいる集団に仕掛けるのだ。
これで撃破が上手く行けば、撃破のマニュアルを作る事が出来るかも知れない。そうなれば、被害を少しでも減らせるはずだ。
先行していた三城が戻ってくる。
「大兄、小兄、一華、あまり良くない」
「説明してくれ」
「分かった。 配置についてはこんな感じ」
大兄が提示したタブレットに、とんとんと点をつけていく三城。
三城の空間把握能力は非常に高い。この位置は、まず正解だと思って良いだろう。
ロボットは今の時点では停止している様子だ。
それはそれとして。確かにこの位置はまずい。
「こう密集していると、連鎖的に反応すると見て良さそうだな」
「確実にする。 しかもこのロボットは大きい。 多分ドローンよりも敏感」
「……ウィングダイバーは兎も角、歩兵は逃げ切れないし、俺たちでも仕留めきれないだろうな」
そう、呟くと。
大兄は、兵士達に指示をする。
レンジャーをそれぞれタンクデサンドさせる。タンク二両、グレイプ。更には大型移動車両も用いる。
昔は愚策の筆頭とされていた行動だが。今行っている戦闘は、「対人兵器を使ってくる人間」が相手ではない。
故に、高速で移動するにはこれはありだ。
バイクなどを使う手もあるのだが。残念ながら、こうプライマーとの戦いが長引くと、悪路も増えている。
実際の所、戦車よりもジープのほうが良かったのだけどなと、大兄が呟くのを見て。弐分も少し複雑な気持ちになった。
新潟基地の司令官、長尾中佐は。
恐らく祈るような気持ちで兵を出してくれた筈だ。
それを考えると、そんな風なことを面と向かっては言えない。
大兄は冷静を通り越して時々冷酷だな。
そう思う。
だけれども、大兄は皆を生き残らせる事を主軸に戦術を組んでいる。
それは下手に温情があるよりも。
より的確に、多くの人を救うのかも知れない。
「まずはこの機体から仕掛ける。 仕掛けるときは、確殺したい。 三城、頼むぞ」
「分かった。 ただ、あのロボット、大きさによって強度が違うみたいに見えた。 街の中心部に、他とは段違いのがいた。 アレは確殺出来るか分からない」
「そうだな。 それについては、反応したら集中攻撃をしかけよう」
「ん」
移動開始。
声を張り上げると、兵士達を乗せたままAFVが移動を始める。
タンクはもう最初から、敵の弾よけとしての覚悟を決めているようだ。そもそも相手がタンクと相性が悪すぎる。
斜角が高すぎるから、戦車砲が届かないのである。
逆にそういう意味では、タンクは命を拾ったのかも知れない。
少しだけでも見せられたあのロボットの超火力。
まともに喰らったら、タンクでは弾よけにもならなかっただろうから。
「村上班。 戦略情報部です」
「何か」
「マザーシップナンバーツーが引き返してきました。 またロボットを投下してくる可能性があります」
「好都合だ。 まとめて叩き潰す」
大兄は、周囲を敢えて怖れさせるように発言しているな。
そう思いながら、弐分は大口径砲のチェックを済ませる。
この砲は、かなりフェンサーの間では評判が悪く。火力はあるがとにかく暴れ馬すぎるし、命中もさせづらいというのである。
だが実際に使ってみると、弐分はとくに当てづらいとは思わない。
思うに、フェンサー用の大型パワードスケルトンに問題があるのだと思う。
移動を続け、新潟市街の端に出る。
丁度良い土手があったので、其処を拠点にすることを大兄が明言。確かに、新潟の市街に、わんさかあのロボットが陣取っていた。
「お、恐ろしい光景だ……！」
「し、師団規模の戦力じゃないのか」
「……端から少しずつ破壊する。 先の戦いを思い出せ。 対応を間違わなければ倒せない相手では無い」
「い、イエッサ！」
さて、此処からだ。
大兄が、指さし。三城が頷いて前に出る。
一華がDE202に指示を出している様子だ。一華がＯＫと言ってきたので。全員で同時に動く。
まずは、三城がプラズマグレートキャノンから、巨弾を発射。
地面に蹲るようにして停止しているロボットに直撃、一撃で爆散させる。
同時に、四機のロボットが立ち上がった。
「予想通り、ドローンと同じプログラムで動いている様だな。 ……まだ撃つな」
「い、イエッサ」
「あの位置にいる敵を下手に撃つと、他のロボットも反応する。 もう少し引きつけろ」
ロボットの内三機はまっすぐに向かってくるが、一機は横に移動している。どうやら此奴らも、回り込む程度のＡＩは持っている様子だ。
回り込もうとしている一機は無視し、さがりながら敵を引きつける。かなり足が速いが、人間が走るのに比べて、である。戦車やグレイプに比べれば遅い。距離を保ちながら、やがて充分と判断したのか。
大兄が叫んだ。
「よし。 俺が真ん中、三城は右。 弐分は左。 他の皆は、集中してロボットの頂点部分を狙え」
「イエッサ！」
「攻撃開始！」
一撃で右側が吹き飛ぶ。まだあの程度のサイズでは、プラズマグレートキャノンの火力には耐えられないか。
ただ、真ん中は耐え抜いてくる。ライサンダーＦの火力は下手な艦砲を上回る。それを考えると、恐ろしい話だ。
弐分も大口径砲で射撃を続けるが。
中々破壊する事が出来ない。その代わりこれは連射が出来るので、多少ミスをしても問題はない。
程なくして、真ん中の一機が粉砕され。弐分が相手をしていた一機も爆発四散する。だが、至近。
ぬっと、回り込んできていた一機が来ていた。
プラズマ砲が、前に飛び出した一華のニクスを直撃。更に、レーザー砲台が光り始める。
それらが一斉に射撃を開始する前に、上空のDE202から通信が入る。
「105ミリ砲、喰らえっ！」
強烈な機銃掃射を喰らって、文字通り撓む大型ロボット。
あの動き、ひょっとして上空の攻撃を受け流そうとしているのか。
いずれにしても、それに耐え抜くロボットだが。
大兄が冷静に一撃を叩き込んで粉砕。レーザーを放つ事なく、ロボットの足はボロボロと崩れていった。
「よし、まずは四機。 一華、ニクスのダメージは大丈夫か」
「平気ッスね。 このプラズマ砲、多分火力をそれほど重視していないッスよ。 狙撃兵にプレッシャーを掛けるためのハラスメント用の武装だと思うッス」
「なるほどな。 後でレポートを上げてくれ」
「あいあい」
そのまま、点呼。誰も欠けてはいなかった。ウィングダイバー隊は、接近された事に懸念を示していたが。
しかし、相手がああいう動きをすることは。プライマーとの戦闘を経験していれば嫌でも分かる。
本当に経験が浅いのだなと思って、むしろ弐分は同情した。
「次に仕掛ける。 新潟市街の外側から、順番に敵を釣る。 敵が起き上がった直後には、絶対に仕掛けるな。 連鎖的に、多数のロボットを叩き起こす可能性がある」
「イエッサ！」
「よし、次だ。 移動する」
四回しかけて、合計十七機のロボットを破壊。
新潟市街の周辺にいたロボットは、あらかた撃破が完了した。
問題がある。
上空に、まだマザーシップナンバーツーがいるということだ。
それに、市街中枢は敵の密度が高く、一度仕掛けると何体反応するか分からない。
しかも、敵はまだ十五機が残っているのだ。
十五機が全て同時反応したら、文字通り地獄絵図になる。
今まで調子良く行っていたが。
逆に上手く行かなくなれば、一気に崩れる可能性も高かった。
「此方戦略情報部。 これよりあの三足のロボットを、ディロイと呼称します。 ディロイは一定数がアフリカやロシアなど、人類が手放した地域に投下された他。 各地でEDFが激しい抗戦をしている地域を中心に投下されているようです。 これは敵の制圧した地域を保持すると同時に、抵抗を続ける地域の組織的抵抗力を奪う目的がある、ということなのでしょう」
「対策について聞きたい」
「現時点では、ネグリングなどの多段ロケット砲で足を潰すのが有効である事が分かってきています。 プラズマ砲は長射程ですが、殺傷力はそれほど高くありません。 むしろ高い殺傷力を持つレーザーなどの主力兵装は、足に集中しているようです」
「足か。 しかし、相当数の節が確認できるようだ。 潰しきれるかどうか……」
千葉中将が、戦略情報部の少佐と話をしている。
こういう通信は兵士達も聞いているのだが。
あまり士気を高めるために役立っているとは思えない。
米国では特にディロイの被害が深刻らしく。各地で進めようとしていたエルギヌスなどへの攻撃作戦が中止され。各地の基地を守るために、EDFも守勢に回っている様子だ。EMCも、一度ロサンゼルスにある総司令部に引き上げたらしい。まあそれはそうだろう。
「ディロイには複数のタイプが確認されていますが、足が長いタイプは武装も豊富で、本体部分の耐久も高いようです。 特に非常に足が長い指揮官級と思われる機体が確認されています。 このタイプはロングタイプ、他はショートタイプと呼称します。 ロングタイプは、生半可なスナイパーライフルでは本体を狙えないほど高度に本体を設置して、凄まじい火力を発揮します。 要注意の敵と認識してください」
「認識したところで、どうにかなる問題では無い……」
「誘導ミサイルを保有した機体も存在しています。 此方は足の節が膨らんでいるので、見分けがつきます。 ミサイルは低速ですが、落とさない限りはどこまでも追尾してくるようです。 此方のタイプはタイプＢと称します。 ロングタイプは例外なくタイプＢのようです」
「分かった。 いずれにしても、まともに相手にしていたら、EDFが全滅するだけだろうな」
千葉中将も苛立っているようだが。
良い報告もあるようだ。
米国では、潜水母艦より発射した巡航ミサイルで、ディロイの一群を一瞬で壊滅させたという。
ただしその地区そのものが消し飛んだそうだが。
「とにかく戦闘データが必要です。 少しでも交戦して、データを集めてください。 我々で有用な戦術を分析します」
「分かっている」
通信を大兄が切ったのが分かった。
相当に頭に来ているらしい。
ただ、弐分も感情的にはあまり気分は良くないものの。戦略情報部の言う事が正しい事も分かるのだ。
未知の相手には、戦術は立てようがない。
人間は生物としては極めて弱い。
大兄だって、武器がなければ熊に勝つ事は不可能だろう。格闘漫画の主人公ではないのである。
人間がどうしてこうも繁殖することができたか。
それは膨大な遺伝子プールを確保して様々な状況に対応できるようになったこと。
そして、何よりも。
武器を使って、様々な戦術で動物に立ち向かう事が出来たからだ。
対抗戦術が分からない相手には、何をどうしても対応しようもない。
「よし。 仕掛ける。 懸念材料は上空を通過中のマザーシップだが……」
「此方成田軍曹です。 もしもマザーシップがロボットを……ディロイを投下するようであれば、すぐに連絡します」
「分かった。 頼むぞ」
大兄が指さす。
頷くと、三城がすぐに充填済のプラズマグレートキャノンを向ける。
兵士達は大兄の指示通り、それぞれ一定距離を取りながら様子を見守っている。ウィングダイバーは、最悪の場合は散るようにと指示もしてある。
これは、攻撃が集中しないようにするためだ。
あの足のレーザーが集中したら、タンクでも危ない。
人間なんか、瞬時に消滅である。
だが分かってきた事だが。あのディロイというロボット、対空性能に問題がある。
ならば、ウィングダイバーは高空を取って散れば生き残れる可能性がそれだけ上がるという事だ。
三城の攻撃が着弾。
同時に、五体のディロイが立ち上がる。
その中の一体は、くだんのロングタイプだった。
「後退。 まだ射撃は避けろ」
「上空のマザーシップナンバーツーがロボットを投下！ 二分後に地上に激突します！」
「激突地点を一華に送ってくれ」
「了解です！」
成田は指示を出せばそれなりに動けるようだ。まあ、それならまだ良いだろう。
兎も角、ブースターとスラスターを駆使してさがる。ディロイは想像以上に足が速い。特にロングタイプは、明らかに他を随伴歩兵代わりにしながら、悠々と歩いて来ているのが良く分かる。
「よし。 攻撃開始！ 俺たちは全員であの大きいのを潰す。 他の皆は、周囲の四機を攻撃してくれ！」
「イエッサ！」
「大兄、いいのか」
「かまわない。 あの大型がどれくらいの能力を持つか、今のうちに調べておく必要が……」
大型がミサイルを射出した。確かに足に膨らんでいる節があり。それが展開して、大量の小型ミサイルをばらまいてくるようだ。
確かに露骨にゆっくり飛んできているが。
これは恐らくだが、殺傷用の兵器ではない。
何となく分かってきた。
このディロイという兵器。他の武装は全て、人間に恐怖を与えるためだけについているものだ。
本命は足のレーザー。
それ以外は、人間を怖れさせ、手元を狂わせるための武装なのだ。
なるほど、性格が悪いなプライマーは。そう弐分は思う。コスモノーツも意地が悪い戦術や、あからさまに兵士の恐怖を煽る行動をしていたが。
此奴も同じ、ということだ。
或いは、プライマーも学習したのかも知れない。
人間の恐怖を刺激することで。
より効率よく、殺す事が出来るという事を。
集中攻撃を浴びせるが、長足のディロイは兎に角タフで、まるで応える様子がない。やはりプラズマグレートキャノンの直撃にも耐えるほどだ。凄まじい耐久力に、恐怖の声さえ上がる。
ミサイルが更に多数射出される。
「み、ミサイルだ！ たくさん来る！ 終わりだ！」
「大丈夫だ。 アレは動きも遅いし火力も低い。 タンクを破壊する事さえ出来ないだろう。 ディロイに当てる自信が無い者は、アサルトで狙え」
「い、イエッサ！」
兵士達に指示を出しながら、大兄がライサンダーＦで何度も長足ディロイへ狙撃を続ける。
本体部分に直撃は何度もしているのに、どういう堅さか。弐分も何度かブラスターとスラスターを使って距離を取りながら、大口径砲で打ち込む。だが、そろそろまずい。ディロイが追いついてくる。
長足のレーザーが光り始める。
あの火力だと、狙われたら即座に終わりだ。
やむを得ない。一瞬でも、おとりになるか。
弐分が前に出ようとした瞬間、一華が声を掛けて来る。
「ちょっと大きいの行くッスよ。 さがって」
「む」
足を止めた瞬間。
DE202が見えた。普段はかなり高空を飛んでいて見えないのだが、急降下攻撃を仕掛けたらしい。
連続で、長足に攻撃が直撃する。かなり大きな口径の砲を叩き込んだ様子だ。明らかに、長足が揺れる。
そして、その砲が直撃した箇所を、大兄が狙い撃った瞬間。
長足も、レーザーを放っていた。
周囲が抉り取られるような出力。
一つ一つに、あの赤いドローンのレーザー並みの出力があるのか。
だが、ライサンダーＦの弾丸が突き刺さった長足ディロイの本体が火を噴き、やがて爆散する。
足を止めると、即座にターゲットを切り替える。必死に他の兵士達が対物ライフルで撃っているが、あまり四体のディロイにダメージは行っていない。ウィングダイバーのレーザー兵器も同じだ。
「数秒待って。 フライトユニットが限界」
「大丈夫、カバーする」
三城が後方にさがると、着地して残心をする。
まあこういうのは、単純に習慣として根付いている。
弐分はそのまま、突出してきたディロイを大口径砲で粉砕。殆ど同時に、大兄のライサンダーＦがもう一機を砕く。
だが、二機のディロイが間を詰めてきて、レーザー砲台を解放。
また、凄まじい閃光が迸る。
タンクに直撃。
見る間に装甲が赤熱していくのが見えた。
「まずい、退避……」
「バルカン砲、ファイア！ 喰らえっ！」
DE202の支援攻撃が間に合う。ディロイ一機が吹き飛び。更に、味方兵士達の射撃が集中したこともある。
最後の一機に、まぐれ当たりかも知れないが、致命傷が入る。
爆散するディロイ。
皆、青ざめていたが。それでも、ディロイを倒したのだ。
爆散し、ぼろぼろと崩れていくディロイ。
だが、そのタイミングで。
更に追加で。例のマザーシップが投下したディロイが、落ちてきていた。
それも後方に。此方を包囲するように四機である。
新潟の市街中心部にはまだ十機以上のディロイがいる。即座にDE202の空爆が入るが、仕留めきれない。
四機が立ち上がる。
一機は、フライトユニットを冷やし終えた三城のプラズマキャノンが火を噴き、一撃で叩き落とす。
もう一機は、大兄が即応して叩き潰した。
弐分も大口径砲を放つが、一瞬ディロイが速い。
プラズマ砲を喰らって、思い切り吹き飛ばされる。
地面に叩き付けられて、舌打ち。フェンサーは一度倒れると、立ち上がるのが大変なのである。
口の中に血の味がする。
まあ生きているだけでマシか。そのまま、射撃を続けてとどめを刺す。空爆でとどめを刺しきれなかった一機は、一華のニクスの肩砲台が撃ち抜き、爆散させていた。
「更にマザーシップナンバーツー、ディロイを投下した模様！ 数、投下時間を送ります！」
「……ちょっとこの位置はマズいッスね。 すぐに離れるべきッスよ」
「分かった、ナビゲートしてくれ。 皆、弾丸を再装填！ ウィングダイバーはフライトユニットを冷やせ！」
「い、イエッサ！」
更に増援が来る。
近付かれたら終わり。
あのレーザーの出力は、今誰もが見ているのだ。一瞬で道路が切り裂かれ、まだ赤熱している。
もし人間がまともに喰らったら、蒸発である。
一方で、多数飛来した小型ミサイルは、タンクの装甲で充分防げた。完全に、兵士の手元を狂わせるための兵器だった、と言う事だ。
爆竹とまではいかないが、はっきりいって殺傷力など考えていない。
あの異常な動きの遅さも、恐らくは人間を怖れさせるためだろう。じわじわ近寄って、攻撃時に手元を狂わせるのだ。数を出してきているのもそう。
要するに、初心者狩り。
プライマーも、兵士達に初心者。訓練を終えたばかりで無理矢理戦場に出てきたものが増えていることは、理解しているのだ。
「大兄、ディロイの性質は分かってきたな」
「ああ。 人間の恐怖を刺激して、動きを止めてからレーザーで殺す事に特化した兵器と言う事だ。 他の全ては虚仮威しだな」
「圧倒的な力を持っている筈のプライマーが、どうしてそんな事をするのだと思う」
「……さてな。 単に殺しを楽しんでいる、と言う風には感じない。 その割りには、人間を殺すことをあまりにも大味にやっている」
移動を続ける。タンクとグレイプに兵士達を乗せて、その場を離れる。
次に落ちてくるのが此処だと、既に連絡は受けていたからだ。
ディロイが落ちてきた。即稼働する。だが、落ちてくる箇所について分かっていれば、ある程度対応は可能だ。
三城の放ったプラズマグレートキャノンの巨弾が、二機のディロイを同時に爆風に巻き込む。
おおと、声が上がった。
どうも小型のディロイもいるらしい。ショートタイプよりも、更に小型のようだ。
当然性能も落ちるようだが、こんなものをどうして作っているのか。
或いは、コストなどの概念が、プライマーにもあるのだろうか。
いずれにしても、容赦なく破壊する。六機落ちてきたディロイに対応しているうちに、次の投下の報告がある。
「次は二箇所、挟み撃ちにするように落ちてきます！」
「……まだ弾薬は大丈夫だな。 かまわない。 全て破壊する」
「こ、この人数でディロイＢを含むこの軍勢を……」
戦略情報部の少佐がおののいていた。
初めて声が驚きに震えるのを聞いたかも知れない。
鉄面皮が少しだけ剥がれた。
それだけでも、少し驚かされていた。
激しい戦いは夕方まで続いた。
新潟基地からも、戦況を聞いて援軍を出してくれた。周辺に展開しているスカウトが敵がいないことを報告したこともあるのだろう。
更に虎の子のレールガンが来てくれた事もあり。
追加で二十機以上降り注いで来たディロイは、全て破壊が完了した。新潟市街に居座っていたものも、である。
此処だけで数十機のディロイを破壊したと言う事になり。プライマーの攻撃に対して大きなカウンターダメージを与えることが出来たが。
しかし、完勝出来たのは此処だけらしい。
他にディロイを投下された地点は、殆どで守備隊がなぎ倒され。大きな被害を出したと言う事だった。
大規模な兵器を使ったり、大軍で対応した場所も。被害は免れなかったらしい。
「すぐに戦闘結果を全世界に転送します。 これで、少しは戦況も有利になる筈です」
「……」
「分かっています。 此処の戦闘で敗北していたら、希望のひとかけらも残らなかった、というのが正しいでしょう。 以降、ディロイとの戦闘は村上班の撃破例を参考にしながら行ってください」
「分かっている。 だが、あのような名人芸、誰にも真似できるものではない。 今後ディロイの大軍を相手にする時は、ニクスを多数含む大規模部隊で行うしかないだろうな」
千葉中将が、少佐に応じているが。
声は、低く沈んでいた。
新潟基地に戻ると。兵士達は喚声で迎えられていたが。
大兄は、その影から抜けるようにして、基地の地下へ。
レポートを出すと言って、自室に消える。
一華も同じように、与えられている部屋に。三城がPCを運ぶのを手伝っていた。
弐分は手持ち無沙汰になったので、力仕事でも手伝うかと思ったが。見越しているかのように、大兄が通信を入れてくる。
「弐分、お前は休んでおけ」
「すまん、大兄」
「いいんだ。 三城にも一華のPCの組み立てを手伝ったら休むように告げてある。 お前達が前衛で敵の気を引いてくれるから、相当に被害を減らせているし、俺も狙撃に集中できる。 だから胸を張って休め」
「大兄は……」
良いんだと、もう一度言われた。
今、生き残って戻って来た兵士達は。なけなしの酒を振る舞われて、武勇伝でも語っているだろう。
だが、分かっている。
村上班は、他に日本の各地に落ちてきたディロイを撃破しに向かわなければならない。
各地の守備隊は蹂躙された。
もはや、日本各地での被害はうなぎ登りであり。
敵が再び東京基地に大規模攻撃を仕掛けて来るのも時間の問題だろう。
こんな状態では、はっきりいってマザーシップを落とすどころでは無い。プライマーはにやつきながら。人間が破滅していく様子を見ていることだろう。勿論あくまで戦況が悪いからそんな意地が悪い想像をしただけだ。
シャワーを浴びて、さっさと寝る事にする。
横になってぼんやりしていると、いつの間にかねむっていた。
体力があるから、こういうことは今までには無かったのだが。
それでも、限界が来ていたという事だろう。
大兄が心配だ。
起きだしてから、通信などを確認しておく。
既に三城も起きだしていた。
「三城」
「大兄はまだ寝てる。 一華は起きて、ニクスの整備を整備兵と一緒になってやってた」
「そうか……」
「この基地の戦力を少しでも整備したいと思うのは、一華も同じらしい。 一華とても残酷なのにね」
三城はそういう風に、表情筋があんまり動かない顔で言う。
三城が本当に笑っているのを見たのは、フライトユニットの大会で飛んでいる時くらいだろう。
笑顔を実の両親とか言うケダモノに殺された三城が、笑顔をやっと取り戻したのはあの時。
だけれども、三城にとって笑顔を作れる「楽しい」は。
もはやなくてはならない戦力となってしまっている。
三城自身は、それで良いのだろう。
だけれども、いたたまれなかった。
「休暇を無理にでも申請しようか」
「いい。 私達が頑張れば、それだけ人が命を拾う」
「だがこんな戦況では……」
「それでもやるべき。 千機だかディロイ投下されたらしいけど、私達だけで一割は削れる。 それだけで、どれだけ他の兵士達の負担が減るか、分からないと思う」
そうだな。三城の言う通りだ。
それに、コスモノーツが攻めてきている基地だってあるだろう。何処にでも、村上班の出番はある。
荒木班もいてくれれば、更に戦力は増すだろう。
だが、荒木班も似たような過酷なミッションにかり出されているはずで。
最近は殆ど顔さえ見なかった。
グリムリーパーやスプリガンは無事かどうかすら分からない。
欧州の戦況については、既に殆ど報道が来なくなっている。それほどに状況が悪いと言う事だ。
米国だって、何処の基地が落ちたとか、そういう報告が来るばかり。
総司令部すら危ない状況だ。
此処で、休む事はあり得ない。
そういう事だ。
食事を終えた頃に、大兄が起きて来た。これほど遅れて起きてくるのは、珍しいとも言える。
レポートを書いて提出したらしい。
食事を終えると、三人で軽く朝の調練をする。
これすらも、最近は実戦続きで出来なくなって来ていた。
調練をやっていると、通信が来る。
まだ陽が上がりきっていないのに。
「此方千葉中将。 村上壱野中佐、もう起きているようだな」
「今、村上流の調練をしていた所です」
「ああ、そういえばそういう古流武術の家系なのだったな。 調べさせて貰った。 道場は、残念だった。 戦いが終わったら、再建する事を約束する」
「有難うございます」
千葉中将も、こんな時間から仕事か。
恐らく、まともに寝ている時間など、存在しないのだろう。
日本も既にかなり劣勢になって来ている。もしも新潟がディロイの攻撃で壊滅していたら。
此処を足がかりに、敵は更に侵攻を加速させていた筈だ。
「現在、日本の七箇所で、ディロイが都市部に居座っている。 居座った都市部は、全て破壊され尽くした状態だ。 荒木班と連携して、ディロイが進軍を開始する前に、出来るだけ撃破してほしい」
「分かりました。 次は何処へ向かえばよろしいでしょうか」
「まずは仙台、次は旭川。 その後は、状況を追って伝達する」
「了解です」
通信を切る。
ヘリも送ったらしい。そうなると、一華にも声を掛けてこないといけないか。
三城がさっと一華を呼びに行く。
嘆息すると、大兄は調練で締めとなる動作をする。鈍るのを、少しでも避けたいらしかった。
「弐分、補給トラック内の物資をチェックしてくれ。 ロシアでは盗難が相次いでいたそうだ。 此処で同じ事が起きるとは思わないが……」
「分かっている。 三城が大事にしているクラゲがなくなったらことだ」
「そういうことだ」
大兄は、長尾中佐に挨拶に行くのだろう。
移動しながら、起きだしてきたらしいオペレーターの成田から連絡を受ける。
「新潟でディロイを撃破してくれてありがとうございます。 本当に……。 希望が出来ました」
「それで、仙台の敵の規模は」
「ディロイ十六、コロニストが三十ほどです。 怪物の姿はありません」
「厄介だな……」
「どうもプライマーは、コロニストをこれ以上投下するつもりはないようです。 生き残っているコロニストは、ディロイのいる所や敵の拠点に集まっています。 コロニストだけでも充分な脅威ですし、排除できれば大きな戦果になります」
仙台周辺の基地から、一個小隊ほどの戦力をかき集めてくれるという。
一応タンクも出るそうだが。どれだけの練度を期待出来るかは、はっきりいってかなり怪しい。
「先に旭川の戦力も確認しておきたい」
「わ、分かりました」
「旭川の方でも、今日中に攻撃部隊を用意しておいてくれ」
大兄の言葉に、成田は明らかに引いている。
少なくとも、日本ではディロイは好き勝手をさせるつもりはない。
コスモノーツだって、これ以上好き勝手に暴れさせるものか。
その強い意思が。
成田と話している大兄の声から、弐分も感じる事が出来た。
輸送ヘリが来る。かなり傷ついているのが見える。途中でドローンに嫌がらせの攻撃を受けたのか。
それともドローンが制空権を取っている地域を無理矢理突破して来たのか。
総司令部も、相当無理をして兵を動かしている。日本ですらこれだと、他の国は文字通り絶望的だろう。
この戦いは、このままいくと負ける。
それは、弐分にもどうしようもない規定の未来として。把握できるのだった。
４、壊滅を遅らせろ
ディロイの軍勢が、コスモノーツもろとも進軍している。まだ無事な米国の都市を破壊するためだ。
そう、文字通りの破壊。
占領では無い。住民もろとも、何もかも壊し尽くす。
プライマーは人間の作り出したものなど、何一つ必要としていない様子だ。
その一方で、巻き込む以外で地球に生きている他の生物を攻撃するつもりもないようである。
これらについては。意図が分からない。
エサにしている様子も無い。
怪物が人間を襲って喰らうことは分かっている。
だが、コロニストは未確認情報で、怪物を喰らっているらしいという噂があるくらいで、何を食べているか分からないし。
コスモノーツも、それは同じだった。
リー元帥は、状況を見ながら、指示を出す。
「よし。 潜水母艦、攻撃を開始しろ」
「此方エピメデウス。 ライオニック高速ミサイル発射！」
「……」
エピメデウスは、全長千メートルを超える巨体を誇る潜水母艦。人類の切り札の一つである。
名前の通り潜水艦であるが、戦艦としての機能を持ち。
また多数の遺伝子データと植物の種。内部には、他にも様々な機能を搭載している。
事実上無制限に深海に隠れる事も可能だ。
合計三隻の潜水母艦が。
陸軍も空軍も、戦艦などの海軍も。やられ放題の今。各地でプライマーに有効な打撃を与えられていた。
陸軍だと日本の村上班が恐るべき戦果を上げ続けているが。
あれは例外だ。
今戦略情報部が調査をしているらしいが、四人揃ってあまりにも化け物過ぎる。
ここ数日で、村上班だけで百数十機のディロイを破壊しているが。
数字を聞いても、にわかに信じられないほどだ。
「ライオニック着弾！ ディロイ六大破！ コスモノーツにもダメージを順当に与えています！」
「マザーシップ出現！ エピメテウスに接近！」
「エピメテウス、そこまでだ。 後は陸軍に任せろ」
「了解。 エピメテウス、潜行する。 陸軍の武運を祈る」
通信を切る。
マザーシップが、最近は潜水母艦を狙って来ている。明らかに、潜水母艦のいる空域に来るのが速い。
いずれにしても、進軍を続けていたディロイ部隊へは、攻撃を陸軍で行うしかない。
「グリムリーパーが先鋒として突入。 更に、突入の寸前に砲兵隊、更にはガンシップ部隊でディロイを集中攻撃します」
「分かった。 やってくれ」
「行けっ！ ファイヤッ！」
米国で、空軍は昔は軍の華だった。
今でも米国のEDFでは、空軍が非常に尊敬される傾向がある。
今もガンシップからの攻撃で、敵に痛打を浴びせている。
日本の村上班が、ディロイが航空攻撃に脆い事を示してくれた。こんなに早い段階で弱点が分かったのは、本当に大きい。
「ディロイ撃破２４！ 残りのディロイも大きなダメージを受け、コスモノーツは後退を開始！」
「無理に追撃はしなくてもかまわない。 とにかく、ディロイを破壊し、敵を追い払うだけにしろ」
「了解……」
「味方の損害を可能な限り減らせ。 それ以上は、無理に望まなくていい」
リー元帥が、躍起になっている味方を抑える。
そうしないと、無理に追撃して逆撃を受けかねない。
いずれにしても、突貫したグリムリーパーがコスモノーツの部隊と交戦を開始。元々ダメージを受けていた部隊だ。文字通り、縦横無尽に狩っていく。
流石だな。
そう思いながら。リー元帥は、カスターを呼んでいた。
副官も、目の下に隈を作っている。
殆ど眠れていないのは、リー元帥も同じだが。
「インドでのマザーシップ攻撃作戦の準備はどうなっている」
「現在、兵力を極秘で集めています。 空軍の将校達が無理押しで作戦を進めましたが……正直上手く行くとは」
「そうだな。 村上班からレポートが上がって来ているが、どうもマザーシップは下からの攻撃を極端に嫌がっている節がある」
「貴重な空軍戦力を失うのは得策ではありません。 今からでも、無理に止められませんか」
首を横に振るリー元帥。
今回作戦を進めている空軍将校達は、EDFのスポンサーになっている大企業と大きなコネがある。
大企業か。
そんなもの、もはやないも同じなのだが。
コネだけは呪いの鎖のようにまだまだ人間を縛り付けている。
それに戦略情報部を私物化している「参謀」の意向もある。
奴はEDF内で独立部所を作りあげているように。その権力は、リー元帥でも無碍にはできないのだ。
「先進科学研から何か報告はあるか」
「いえ。 例のプロフェッサーが、次々に兵器の改良を進めてくれてはいます。 特に高機動型のニクスは、村上班がデータを取ってくれている事もあり、更に進歩しそうだと言う事です。 重装型のニクスについても、足回りを更に改善できそうだとか」
「もうニクスを人型にする必要はない。 いっそ車体にニクス用の武装を乗せてしまってもいいくらいなのだがな」
「そう、ですね……」
プロテウス計画は少し前に凍結した。
幾つかの前線から、使い物にならないというレポートが来たこと。更に実績を上げている村上班から駄目出しが来た事も大きい。
しかしながら、プロテウスそのものは実験機として残し。ニクスの戦闘データをどんどん反映して、いずれ実戦投入を再度目指すそうだ。
兵士向けのアーマーやアサルトライフル。対物ライフル。タンクの性能、ヘリの性能などはどんどん向上しているが。
敵がそれ以上の速度で新兵器を繰り出してくる。
もはや。EDFはとにかく負ける時間を遅らせる以外に、出来る事がないとリー元帥は思う。
「カリフォルニア基地から連絡です。 ディロイ五十機以上の部隊が、進軍を開始しています。 市街地を目指しているようです」
「……空軍をありったけだせ。 サブマリンの艦隊にも通達。 敵の進軍を出来るだけ遅らせろ」
もう、対処療法しか出来ない。
EDFは半壊状態だ。
それでも、どうにかするしかない。
対処療法であっても、だ。
それしか、リー元帥に出来る事はなかった。
（続）
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