降臨するもの

 

序、飛行する殺戮者

 

壱野が到着した指定地点は、これは発電所だろうか。

周囲は複雑な地形になっていて、丁度良い。

既に部隊は展開。

周囲の住民は、退去を完了したようだった。

最近のEDFにしては兵力をだいぶ出してくれている。一個中隊ほどの兵力が既に周囲に展開していて。

話通り一両だけ来ている強力なミサイル車両であるネグリング。

更には対空特化型らしい、ミサイルポッドを多数搭載したニクスが来ている。

一華がニクスを歩かせ、それらに合流。

更に、一華が指定してくる。

「周辺に自動砲座を撒くので、手伝ってほしいッス。 ニクスのバックパックに入っているから、そこから取りだして、指定位置に設置してほしいッスけど」

「分かった。 手伝ってくれ」

「了解しました」

現地に展開済みの兵士には、やはり新兵がかなり多いようだ。

病院はパンク寸前。

荒木軍曹の話によると、医療技術は各国のものを統合して急速に進歩しているらしいのだが。

それでもとても間に合わないらしい。

市民は基地の地下に住み着いたり、都会を放棄して田舎に。更には山の中などに逃げ込むなど。

戦況の悪化を悟って、「自主避難」を続行している様子だ。

経済はもはや悪化どころではなく。

金はほとんど紙屑になりつつある。

そして労働先として斡旋されるのはEDFだ。

もう老人や病人でもかまいやしないという雰囲気である。

新兵も、若い兵士ばかりではない。

もう生きて帰れそうに無いと言う顔色をしている、中年男性も見かけた。新兵のようだが。どう見ても、元々軍人だったようにはみえない。

プライマーの攻撃が苛烈すぎる。

そう考えると、もはやこの末期的な状況も、仕方がないのかも知れない。

「よし、自動砲座の展開完了ッスね」

「……」

壱野は空を見る。

ヘリが誘引して来るという事だが。どうにも様子がおかしい。

殺気がびりびり来ている。

下手をすると、ヘリなど関係無く攻めてくるのではないのだろうか。

「あーあー、聞こえますか」

「誰か」

「此方戦略情報部の成田軍曹です。 これより村上班の専属オペレーターを務めさせていただきます。 よろしくお願いします」

「……分かった。 以降よろしく頼む」

まだ若い娘のようだ。

声も十代に思える。それに、何というか。明らかに経験が足りていないのがちょっと接するだけで分かる。

戦略情報部直下で、しかも軍曹待遇である。この時点で、ある程度訳ありの人物である事は分かるのだが。

一華のような頭が良すぎて云々の人物だろうか。その割りには、何だか抜けている印象を受ける。

いずれにしても、最初の第一人称だけで人は測れまい。

それに、何よりだ。

有能かは別として、EDFの情報を一手に担っている重要部署。戦略情報部とのパイプ役として充分に意味がある存在だ。

そう考えて、我慢することにする。

それにあの冷酷な少佐と直接接する事がないだけでも、壱野は不満を抑えられるとも言えた。

今の時点では、だが。

「戦場で凄まじい戦果を上げ続けている村上班の腕の見せ所ですね。 今回の戦闘も期待しています」

「それで、敵は」

「は、はい。 ヘリの誘引から途中で外れ、挑発を無視して群れが拡散。 包囲するように、村上班の地点に向かっています。 最初の一群は北から来ます」

「分かった」

そうかそうか。それを真っ先に連絡しろ。

そう面罵したかったが我慢する。まだ分からない。ともかく、周囲に指示を出す。すぐに戦闘を開始する準備を、と。

「空を飛ぶ怪物か……」

「でかい鳥なのか? 恐ろしいぜ……」

「いや、α型に似ているらしい。 それはそれで恐ろしいが」

「来るぞ!」

空に無数の黒点。

慌てた様子で銃を構える兵士達。飛行型をろくに知らない時点で、新兵か、ほとんどそれ同然である事は明らかである。銃が撃てるだけマシ、と考えるしかない。

荒木軍曹ほど上手にはやれないが、皆に丁寧に指示を出す。

「飛行型の怪物は、圧縮した酸を高圧で放ってきて、それが針のように見える。 現在支給されているアーマーでも、そう長くは耐えられない危険なものだ。 その上鳥と違ってホバリングし、的確に此方を狙って来る。 皆、物陰に伏せながら、余裕を見てひたすらに撃て。 アサルト、ショットガンを支給されている兵士は、とにかく空に向けて撃ち続けろ。 味方を撃つ事だけは絶対にするなよ」

「い、イエッサ!」

「ネグリング、ニクスは敵が有効射程に入り次第攻撃を開始。 三城、ネグリングに寄ってくる飛行型は任せる。 誘導兵器で叩き落とせ」

「分かった」

入り組んだ建物の中で、それぞれが展開する。

更に、弐分にも指示を出す。

「弐分、すまないが最前衛で敵の注意を惹いてくれるか」

「任された。 飛行型は一定距離を取って攻撃してくる。 誘爆誤爆はそれでも気を付けてほしい」

「分かっている。 ネグリング、聞こえていたな」

「イエッサ。 何とかします」

この様子からすると、重要な兵器であるネグリングのパイロットまで経験が浅い兵士なのか。

壱野だって一年も兵士をやっているわけではなく、ある意味でルーキーのようなものだけれども。

それでも、ちょっとこれは酷すぎると思う。

弐分が凄まじい勢いですっ飛んでいくのを見て、兵士達がおののくが。

咳払いして、敵に備えさせる。

程なくして、空に見えた点が。一斉に此方に飛んでくるのが見えた。

だが、先行していた弐分が群れに小型ミサイルを一斉に放つ。アームハウンドというミサイル兵器だ。ミサイルが着弾したことで、群れの一部が狙いを弐分に定めるが。

その混乱の隙に、ネグリングが放った多数のミサイルが、容赦なく飛行型を叩き落とし始めた。

続けてニクスの対空型も、ミサイルを放ちはじめる。

凄まじい勢いで飛行型が削られていく中、壱野も狙撃を続ける。

今回は狙撃銃を二種類用意してきた。

ライサンダーFはいるらしいクイーン対策に。もう一つは、取り回しがいいKFFというスナイパーライフルだ。

このスナイパーライフルはライサンダーのような超火力はでないものの、飛行型なら確殺出来る程度の火力は持っている。

マガジンを取り替える形式の銃で、かなりの速射が出来る事もあって、壱野には相性が良い銃だ。

連射を続けて、次々に飛行型を叩き落とす。

兵士達が、近寄りさえ出来ずに撃破されていく飛行型を見て、喚声を挙げる。

「流石ニクスとネグリングだ!」

「飛行型だかなんだか知らないが、敵じゃないぞ!」

「……少なすぎるな」

壱野は狙撃を続けながら思う。

前衛で弐分が気を引いてくれているし。近寄ってくる相手は片っ端から叩き落としているとは言え。

いくらなんでも、ある程度戦術を理解して動いている怪物が。

こんな無駄な特攻作戦を仕掛けて来るか。

この間の欧州でも、前線を喰い破って暴れていたβ型の群れと呼応するようにして、新型のアンカーが投下された。

もしも村上班があの場に出向いていなかったら、多分β型が制圧した地域にアンカーが多数落とされ。

その結果、パリの至近に巨大な敵の拠点が作られていただろう。

そうなったら、猛将バルカ将軍と言っても手も足も出なかったことは疑いない。

そのまま狙撃を続ける。

周囲全域に悪意が充満しているが。

やがて、びりりと肌に来る。

「弐分、そのまま残党を引きつけろ。 ネグリング、残弾は」

「まだ充分です」

「三城、次が来る。 備えろ。 ニクス、南から来る。 準備」

「わ、わかりました」

ニクスの兵士もあまり経験がなさそうだ。

一華は無言で南に向き直る。

そして、南のかなり低空から、飛行型が全速力で突っ込んでくる。低空からこうやって来るか。

しかも、建物などを盾にして、くさび形の陣形まで作っている。

これはもう。話に聞く昆虫とは別物だ。

殺戮のために産まれてきた生物兵器、いやそれ以上の存在である。

慌てた様子でネグリングが射撃を開始。ニクスも続く。

三城が誘導兵器を全力で展開し、一瞬で前衛を溶かすが。まったく気にせず飛行型は飛んでくる。

ネグリングとニクスがミサイルを連射するが追いつかない。

見る間に上空に飛行型が展開し始める。

「み、南から更に飛行型来ます!」

「……」

「スカウトからの情報が今入りました! すみません!」

まあ、誰でも最初から上手く行くわけでもない。

成田というこのオペレーターが上手くやれないことはまあ我慢するとする。

ともかく、上空を取られた事で、周囲に針のような圧縮された酸の雨が降り注ぎ始める。

ネグリングは狙いにくい位置に伏せ、更に三城が誘導兵器で近づく奴を狙っているが、それだけではかなり厳しい。

更に南から敵が来るとなると。

「弐分」

「分かってる。 今引きつけている飛行型もろとも、南に移動してデコイになる」

「頼むぞ」

「出来るだけ急いで救援してくれ、大兄」

一華が無言で自動砲座を展開。

一斉に、上空の飛行型を狙い、AI制御の砲座が咆哮する。

傷を少しでも受けると着地する飛行型。

「飛行型はダメージを受けると降りてくる! 其処を狙え!」

「ひっ、ひいっ!」

「こんなにでかいのか! 象よりでかい!」

「こんなのが空を飛ぶのかよっ!」

兵士達が、至近に降りて来た怪物に慌てている間に。砲座が相手を穴だらけにしていく。

砲座はそもそも弾丸の消耗が激しい。

上空は取られたが、無言で奮戦を続ける一華のニクスの活躍もあり(もう一機の対空型は慌てて上手く動けていない)。上空の怪物はほぼ駆除される。

更に南。

文字通り、空を黒く埋め尽くす勢いで、次の群れが来る。

「ネグリング、残弾は」

「さ、三分の一という所です!」

「全弾撃ち尽くし次第補給! 皆、補給を手伝ってほしい。 怪物への対処は俺たちでやる」

「わ、分かりました!」

不慣れな様子で補給トラックに走る兵士達。

生き残った飛行型が兵士を狙うが、それは壱野が逐一叩き落とす。

一華はリモートで別の補給トラックを呼び寄せると。同じくリモートで、ニクスの補給を済ませる。

三城が通信を入れてくる。

「ちょっとあれはまずい。 小兄が急がないと殺される」

「……分かっている」

もたつきながらも、ネグリングは全弾を発射。更に対空型ニクスもミサイルをそのまま全弾ぶっ放す。

空に炎の華が連鎖して咲き。

爆発に巻き込まれた飛行型が、粉々になって吹っ飛ぶのが見えるが。

やられた味方のことなど気にもせず、凄まじい殺気をまき散らしながら生き残りが迫ってくる。

そういえば、あの飛行型。

何というか、α型やβ型と違って、殺意が強く感じ取れる。

怒り狂っているというか、そういう感情的なものが分かるのだ。

「一華。 あの飛行型は、怒り狂っているように見えるが……」

「確か蜂って、ギアナ高地で確認された昆虫の中ではずば抜けて生物としての完成度が高いそうッスよ」

「……そうか」

飛行型によく似ている蜂という昆虫の完成度が高いというのであれば。

あるいは。それが理由かも知れない。

感情は必要なものだと祖父に聞いている。

例えば恐怖は、死を免れるために必要なものらしい。

そういった感情をあの飛行型を身につけているのだとすれば。

怒りは恐らくだが、敵を排除するために、己に強化を施すためのものなのだろう。

だが、やられてやるわけにはいかない。

「ほ、補給終わりました!」

「先と同じ配置について、対空攻撃を続行!」

「イエッサ!」

もう、上空近くまでかなりの数の飛行型が来ている。

大量のミサイルで迎撃し続けるが、それでもかなり厳しい状況だ。

壱野も狙撃を続けるし。

三城も誘導兵器で片っ端から飛行型を叩き落とすが、それでも怖れている様子は無い。

無数の毒針に似た酸を放ってくる。

それが建物や発電所の構造体に突き刺さるのを見て、兵士達が悲鳴を上げるが。

それにかまっている暇は無い。

そのまま黙々淡々と、上空に展開する飛行型を片付ける。

火力が大きいニクスが集中的に狙われている。

特に途中からは、対空特化型のニクスが集中攻撃を受け始めていた。

「此方ニクス2! ダメージ甚大! た、助け……」

「射撃を中止し、後退して建物の影に隠れろ。 装甲を補給し、その後戦線に復帰しろ」

「わ、わかりました!」

鈍い動きでさがろうとするニクス。

随伴歩兵につけている兵士達は役に立っていない。

見かねたか一華が自動砲座を更に展開して、それを起動する。

それらがニクスを狙って集中射撃を続けている飛行型を叩き落とす。どかどか落ちてくる飛行型の巨大な死体にすら、兵士達は悲鳴を上げていた。

練度どころか、これでは敵のまともな説明すら受けずに戦場に出てきたとみて良い。

EDFでは兵士をかなり強引に募集しているらしいが。

開戦同時にEDFに入隊できた壱野達は、むしろ幸運な方だった可能性もある。

「敵残存数わずかです」

「……いや、まだ来る」

「えっ」

「スカウトに周囲を警戒させてほしい」

ようやく上空の飛行型が片付いたので、一華とネグリングに弐分に集っている飛行型を叩かせる。

一瞬で敵が吹き飛んでいくが。

その分ミサイルの消耗も激しい。

一華がまた補給をすると言ってきた。これで、ニクスは二機とも下がった事になる。

その隙を突くように。

更に、強い殺気が周囲に充満する。

「クイーンが現れました! 随伴の飛行型も多数います!」

「来たな。 ニクス、補給を急げ! 残弾をありったけ敵に叩き込め!」

「大兄、ちょっと数が多すぎる!」

弐分が唖然としながらも、声を張り上げる。

確かにこの最大の殺気。

クイーンが放っているだけのものではあるまい。いずれにしても、まずはクイーンを叩き潰す。

ライサンダーFに持ち変えると、既に見えている巨大な影に叩き込む。

幸いクイーンは巨大だが、空を飛ぶという性質状マザーモンスターよりもだいぶ柔らかい。

その代わり、別地域などで戦闘データが出ているが。放ってくる酸の針の出力が桁外れで、数発喰らっただけでニクスが大破したという。

絶対に近付かせる訳にはいかない。

それに飛行型も、ヘリに劣らない速度で飛んでくるのだ。

高額な兵器である戦闘ヘリが、とんでもない数で攻めてくるのと同じである。

ネグリングが必死になって射撃を続けるが、これでどうにかなるとも思えない。とにかく、数が多すぎる。

弐分がかなり敵を引きつけてくれているが、それでも上空を取られる。

壱野はライサンダーFをクイーンにたたき込み続けるが。

その分、小型は他の味方に任せるしかない。

「た、対処できる数じゃありません!」

「やるしかない!」

そのまま射撃を続行。

その内、戦略情報部が広報の通信を入れてきた。千葉中将が、それに兵士達に代表して応じている。

「北京で味方が勝利した理由が分かりました。 コロニストの死骸を先進科学研が調査した結果、驚くべき事が分かったのです」

「何が分かった?」

「コロニストの主に呼吸器系が大きなダメージを受けており、皮膚などにも相当なダメージがありました。 頭部だけを損壊したコロニストの死骸に、です。 これらのダメージは、有害物質……戦闘直前までフル稼働していた北京の工場から出た霧に含まれていた有害物質によるものだと分かりました」

「大気汚染にやられたというのか」

毒ガスどころか、単なる有害物質にやられたのか。

それは驚くべき事だ。

だが、驚いている暇は無い。

一華のニクスが奮戦してくれているし。三城はフライトユニットのコアが焼き付きかねない勢いで誘導兵器を使って飛行型を叩き落としてくれているが。流石に飛行型もネグリングを見つけて、猛攻を仕掛けて来ている。

対空特化型のニクスは、不慣れな兵士達もあってまだ修理と補給が済んでいない。

自動砲座でも、群がってきている飛行型を処理し切れていない。

「これはとても不自然な事です。 そもそもあのコロニストは、人間と同等の知性を持っているようですが、その割りには体を改造されており、人権を完全に無視された作戦を強要されていました。 しかも各地の戦闘で、あからさまに使い捨てにされています。 プライマーの社会構造が歪んでいるという可能性もありますが、そもそもとして人間と同等の知性を持つに至ったのなら、大気汚染程度なら経験していてもおかしくありません」

「確かに大気汚染によるダメージ程度で、まともに身動きが取れなくなるのはおかしいな」

「今までの情報を総合するに、コロニストはどうもプライマーの文明を構成しているエイリアンだとは考えにくいというのが戦略情報部の見解です。 しかも先進科学研の調査によると、彼らの遺伝子データは極めて偏っており、恐らくクローン生成された兵士だという事も分かっています」

「つまり、プライマーという文明を構築しているエイリアンは他にいる……」

なるほどな。それなら今までのコロニストに対する違和感も納得が行く。

そのまま射撃を続ける。如何に巨大といっても、そもそもライサンダーFはテレポーションシップを確殺し。この間の戦闘では移動基地に致命傷を与えた武器の一つである。

ほどなくして、クイーンが粉々に吹き飛ぶ。

他の怪物でもそうだが、ダメージが一定を超えるとあのように粉砕されることが多い。クイーンなどの大物でも例外では無い。必ずしも起きる現象ではないのだが。

「クイーンは仕留めた! 残敵を掃討する!」

戦意を無くした兵士達は、隅に隠れたり敵もいない空を撃ったりしているが、それでも勇気づける必要がある。

ネグリングの搭乗員が悲鳴を上げた。

「も、もうネグリングがもちません!」

「三城」

「敵はもう少し。 次の斉射でネグリングを狙ってる奴は片付ける」

「分かった。 ネグリング、踏ん張れ。 あと少しだ」

一華が無言で、残った自動砲座を一斉に展開する。

飛行型が次々叩き落とされていき、周囲は飛行型の死体で埋まっていく。

ネグリングが煙を上げているのが分かった。あれは修理工場行きだなと、内心でぼやく。

だが、それでも運転手は踏ん張った。

そのまま、残弾を弐分に群がっている飛行型に叩き込む。最後の最後で復帰した対空型ニクスも、ミサイルを全弾発射。残党を全て片付けるのに成功した。

「飛行型の駆除、完了です! 荒木班からも連絡。 荒木班でも飛行型を全て駆逐したそうです!」

「……スカウトと連携して、もう少し正確に情報を届けてほしい。 今回が初任務だから仕方がないが、君のオペレーションが皆の命を握っている事を忘れるな」

「は、はい。 すみません……」

「最初だから仕方がない。 次からは頼むぞ」

通信を切ると、周囲の被害を確認。

建物などは酸に酷くやられているが、致命傷を受けた兵士はいないようだ。ただ、かなり負傷者は目立つ。

うめき声や、痛い痛いと叫んでいる兵士は目だった。

すぐにキャリバンに後方へ送らせる。

弐分も戻って来たが、かなりフェンサースーツをやられていた。

「弐分、すまなかった。 支援が遅れたな」

「いや、いいさ。 それよりも大兄、兵士の練度が目だって落ちてきているな」

「そうだな……」

帰投命令が来る。

いずれにしても、飛行型が繁殖しているというのはほぼ確実のようだ。

皆が帰投していくのを横目に、先に荒木軍曹と話をしておく。通信で、だが。

「荒木軍曹。 先の話を聞きましたか?」

「ああ。 北京での戦闘の話だな。 確かに腑に落ちる事が多いとは感じた」

「そうなると、今後その文明の担い手が出てくる可能性が高い、と判断するべきでしょうね」

「……そうだな」

いずれにしても、今後事態が改善する見込みは無さそうだ。

負傷者が撤退を終えたのを見計らい。

壱野は自分達も撤収する。

今後、こう言う作戦で同伴する味方兵士は更に減るだろうな。そう思いながら。

 

1、包囲網

 

飛行型の猛攻を退けて数日。スカウトが飛行型の繁殖地を探すべく展開しているのを、村上班は待つしかなかった。

その間、一華は今までの戦闘データをまとめて、何回かレポートを出す。

一応戦略情報部は、村上班を最重要戦力と見なしてくれているはず。

ある程度は聞いてくれるだろう。

特に、ニクスの搭載している機関砲を車両に乗せるべきと言う意見については、何度か報告した。

これで、多少は兵器を有効活用できるといいのだけれども。

二足歩行兵器は確かに色々有利な点もある。

だが、機動力を殆どの兵士が行かせていない現状。

いっそ、車両にニクスの兵装を積んでしまうのが一番強いと思う。

敵はゲリラなどではないのだから。

レポートを書き終えた後。

ベースに出向く。

今は大阪基地にいるのだが。大阪の都市復興のために土建屋がかなり来ていて。非戦闘員のEDF隊員は、かなり協力をしているようだった。

とはいっても、現状が現状だ。

復興は遅々として進んでいないようだが。

それでも、少しでも経済活動を起こすために。世界政府は必死なのだろう。

わざわざ日の下に出て来たのには理由がある。

基地のバンカーに出向く。

胡散臭そうに一華を見る整備班の兵士にライセンスを見せると、即座に態度が変わる。

「村上班!」

無言で頷く。

大阪では、基地破壊のために村上班は文字通り最重要の活躍をした。

兵士達は比較的好意的に見てくれる。

整備班もそれは同じ。

一方で、一華はあまり知らない人とは話したくないので。無言でこういうときはいる事にしていた。

既にリーダーが、話をつけてくれている。

今回は、タイタンと。

もう一つ。

開発段階の最強兵器、プロテウスにちょっと触りたいと思ったのだ。

まずはタイタンに乗せて貰う。

近畿最大のベースである大阪基地には、当然タイタンが常駐している。まずは乗せて貰うが、そもそもこの巨大戦車は。EDFの兵器にしては珍しく複数の操縦者を必要とする。

各国の戦車の技術を統合したブラッカーが一人で操縦できるのとは裏腹に。

この大艦巨砲主義の権化みたいな巨大戦車は、多人数で動かす事が前提になっているのだ。

まずは乗って見るが、非常に広い。

早速PCを接続して、OSとリンク。色々操作してみる。

EDFがシンボルの一つとして作りあげた巨大戦車だ。

実際の所、人間相手の戦争には出たことがないらしく。プライマーとの戦闘で初の実戦経験を積んだらしいが。

まあ乗って見て納得だ。

これは色々と、兵器として未完成である。

色々弄ってみて、すぐに分かった。

主砲や装甲については申し分ない。特に主砲については、下手な艦砲より凶悪な火力がある。

火力に関しては、対移動基地戦で。移動基地の砲台をドカドカ粉砕している事からも確かだし。

その装甲も、移動基地との戦闘で壁を張っていたことからも中々だと言える。

だが、鈍重すぎる。

更には、無駄に大量に積んでいる兵器の数々。

確かに敵の攻撃に対する自動迎撃システムなどは搭載しても良いと思うが。コロニストのアサルトライフルやショットガンを迎撃するのは正直無理だろう。

世界政府設立前の各国の戦車などには自動迎撃システムが搭載されたが。それはRPG7などの対戦車兵器や、あるいは戦車砲に対応するためのものだ。

文字通りアサルトライフルの感覚で撃って来るコロニストの巨大銃には、とても対応できない。

無駄な兵器を積みすぎだと思ったので、幾つかメモを取っておく。

タイタンを降りる。

相変わらずPCを出し入れするのが大変だけれども。

それはそれだ。

次は、プロテウスである。

機密の塊であるこの兵器は、エイリアンを体格的にも圧倒し。何より戦場での兵士達を鼓舞するために有用と作られた。鉄の巨神だ。

ニクス型の歩行システムを導入し。

更にブースターで短時間の飛行も可能。

そのままニクスを巨大化したような兵器ではあるのだが。

しかしながら、これがそれほど強いのかというと。

正直疑問に思わざるをえない。

まず乗って見たが、色々と欠陥だらけだ。

動きが重すぎる。

専用の訓練を受けた兵士でも、これは戦場で鈍重に動かす事しか出来ないだろう。

第二次世界大戦で、最強を謳われたティーガーUなどの戦車が。圧倒的な火力と装甲を誇りながらも。

足回りに問題がありすぎて。追撃戦などでは全く役に立てなかったという話を聞くが。

また人間は、同じミスをしようとしているんだなと。一華は思った。

しかもこの兵器は四人乗りだ。

砲座なども確認するが。これは酷いとしか言いようがない。

確かに火力は凄まじいが、それだけだ。

操縦システムなどは欠陥だらけ。

いずれにしても、実戦に投入しても、大きな戦果は上げられないと思う。

整備班にこくりと頷くと、戻る。

肩が凝った。

これは、駄目だな。

そう思いながら、自室に戻る。

バイザーをつけているのが有り難い。コレのおかげで、他人と視線をあわせなくても良いから、である。

自室に戻って、レポートを書き。

さっさと戦略情報部に送る。

その直後。リーダーから無線が入っていた。

「一華、出動だ」

「了解ッス。 で、場所は……」

「京都だ。 テレポーションシップが多数展開している。 すぐに出てほしい、ということだ」

そうか、敵は戦意旺盛だな。

そう一華は思った。

プロテウスは、あの様子だと今のままでは役に立たないだろう。

もっと火力を上げて。もっと移動周りのシステムを整備して。それでやっと戦えると思う。

ニクスだって、まだ発展途上の兵器なのだ。

今は豊富に実戦を積んで改良を出来るといっても、味方の損耗が大きすぎる。

何とか、少しは戦況を改善できればいいのだけれども。

筒井大佐はもう兵力を準備してくれていた。

ただ、大阪基地はこの間の大勝利の後、各地の基地に兵員を戻したこともある。実際にはそれほどの兵士は集まらなかった。

それだけ、日本中で連日怪物との戦闘が続いているのである。

コロニストもかなり数は減らしたものの、それでも相当数が世界中でのさばっているのが実情だ。

大型車両にニクスとグレイプ。それに補給トラックとキャリバンを乗せる。

兵員も乗って来た。

ウィングダイバーとフェンサーが一小隊ずつ。レンジャーが二個小隊、というところか。

厳しい状況だろうに、筒井大佐はかなり頑張って兵を集めてくれたのだろう。

移動しながら、話を確認する。

村上班が出ると言う事もある。

例の成田という、一華から見てもあまり良い気分がしないオペレーターが応じて来た。

「敵の規模は、テレポーションシップが八隻、コロニストのドロップシップがかなりの数来ている様子です」

「転送は始まっているか」

「いえ、テレポーションシップはハッチを閉じており、今の時点では滞空しているだけのようですね。 ただ周辺の上空にドローンがいて、フーリガン砲搭載の航空機は接近が難しい状況です」

「分かっている。 我々で地上から撃墜する」

如何に無尽蔵の戦力を持っているとは言え、プライマーにも限度があるとリーダーは言うけれど。

本当にそうなのだろうか。

プライマーはもう飛行型を本格的に運用し始めているし。

次の兵器を出してきてもおかしくない。

更に、この間の通信を聞いたが。やはりコロニストは奴隷兵士に過ぎず。支配者階級のエイリアンがいてもおかしくない、ということだ。

もう一機くらいニクスがほしいなあと思ったが。基地の外で、タンクが四両ほど来てくれた。

「こちらタンク近畿方面軍第四一部隊。 戦闘に参加する」

「ありがたい。 ただ、敵は怪物が多数の可能性が大きい。 気を付けてくれ」

「了解した」

「歩兵はタンクの随伴歩兵となってほしい。 割り当ては今から言う」

リーダーがてきぱきと人員を配置している。

これはそろそろ、少佐では収まらなくなるだろうな。

そう、一華は思う。

大阪から京都までは、それほど距離もない。

やがて京都に到着。大型車両にキャリバンを残して。タンク四両とともに展開する。

一華はこの間からずっと赤いニクスに乗っているが、これがバランスから言っても最適だと思う。

試験的に、火炎放射器を装備したニクスなども作られているようだが。

火炎放射器は屋外向けの兵器ではないし、或いは基地内でニクスを用いて敵を迎撃する事を主眼に置いているのかも知れない。

「す、すごい艦隊だ……!」

「移動基地を二機失ったのに、奴ら諦める気もないぞ!」

「……」

テレポーションシップはまだ怪物を投下していないが、EDFの部隊が展開するやいなや。すぐに陣形を変えた。

迅速に、此方を包囲してきたのだ。それも、周囲を回転し始める。一箇所を破られても、簡単には逃げられない体勢だ。

リーダーが指示を出す。

「一華、グレイプに俺が乗る。 すぐにリモート操作であの路地まで移動させてくれ」

「了解ッス」

「一華はこの地点で、自動砲座をありったけ展開。 補給トラックを中心に陣形を展開し、敵の攻撃を防げ。 弐分、三城。 それぞれ自由に動き回ってかまわない。 コロニストが投下されたら、多数との同事戦闘は避けろ」

「了解」

弐分と三城が、それぞれ別方向に飛ぶ。

テレポーションシップが、怪物を投下し始める。

EDF隊員を引きつけ。

少しでも殺そうという殺意がバリバリ感じられる。

自動砲座を兵士達に手伝って貰って、彼方此方に展開。

弐分と三城が最前線にすっ飛んでいったので、怪物の何割かはそれに引きつけられたが。

しかし、多数が此方に向かってくる。

「ひいっ! に、逃げる場所もないぞ!」

「そう、逃げる場所もない。 だったら戦う! それしかない!」

レンジャー部隊の隊長らしい人がそう叫ぶ。

どうやら、残っているベテランの一人らしい。

そして、怪物をテレポーションシップが撒きはじめた直後。

二隻のテレポーションシップが、立て続けに爆発四散していた。

リーダーと三城が、瞬時に叩き落としたのだろう。それぞれそれを出来る装備をもっているからだ。

弐分は高機動戦に特化した装備にしているようで、テレポーションシップはガン無視してそのまま怪物を翻弄し続けている。

怪物が多数接近。

自動砲座を展開。タンクも、言わなくとも円陣を作り、周囲からの猛攻に備える。

「一華、今度は二ブロックグレイプを北に」

「単独で平気ッスか?」

「この程度の数なら、グレイプの速射砲と俺のアサルトで充分だ。 それよりも兵士達を守ってくれ」

「了解ッス。 ……簡単に言ってくれるッスね」

こうしている間も、一華はニクスの操縦、自動砲座の操作、ついでにグレイプの遠隔操縦と速射砲での砲撃と。全部をマルチタスクでやっている。一部マクロに手伝って貰ってはいるが、それでも結構頭を使う。

時々ブドウ糖のまずい錠剤を口に入れてガリガリ噛みながら、更に戦闘を続行。集まって来る怪物は、今まで見た全種だ。

幸い変種はいないが、近付かせないようにするだけで必死。

酸も飛んでくる。

タンクが次々に被弾しているが。最初の頃のα型の酸を喰らってクリームみたいに装甲が溶けるような事もない。

耐酸コーティングがだいぶ強化されている。

だが、それでも絶対はない。

兵士達も、必死に射撃して近寄ってくる怪物を撃っているが。

目立つ動きをしているα型ばかり狙う兵士が多いので。リーダーがアドバイスをしていた。

「β型が最も危険だ。 β型を意識的に狙うようにしてくれ」

「い、イエッサ!」

飛行型は一華のニクスがたたき落とせ、ということだろう、

まあいい。

今回は一個中隊以上の兵士が来ている。

タンクも四両いるし、筒井大佐はかなり村上班に無理して兵力を回してくれたことになる。

それもタンクの動きからして、この間の移動基地戦に参加して生き残った精鋭だとみて良い。

兵士達の質が落ちるのは、これだけ戦闘が続いているのだ。仕方がないとしても。

それでも、生き残って鍛え抜かれていく兵士もいる。

立て続けに、また二隻のテレポーションシップが落ちる。

流石だなと、思う。

またグレイプの操縦指示が来たので、遠隔で移動させる。コロニストが、ドロップシップからその時投下されるのが、遠目に見えた。

複数のデータが画面に絶えず表示されている状況だから、ニクスのメインカメラの映像まで見ている余裕がない。

勿論、リーダーは気づいているようだった。

「コロニストだ! 三隻のドロップシップから投下された! そのうち十体以上が一華の方に向かっている! ショットガン持ちに注意してくれ!」

「了解ッス」

「エイリアンだ!」

兵士達が悲鳴を上げる。

アサルトライフルを乱射しながら突貫してくるコロニスト。自動砲座に迎撃され、更に戦車砲を喰らってもまるで怯まない。

レールガンを浴びせてやれば確殺出来るだろうが、あれは製造コストからしてもそうそう作れる兵器では無い。

自動砲座を生かして敵の足を止め。ニクスで集中攻撃を浴びせて一体ずつ屠る。肩砲台の狙撃も上手く行くことが多くなり。二匹混じっていたショットガン持ちは即座に始末する事が出来た。

タンクが陣形を変え、コロニストに対して壁を作る。装甲が限界だろうに、泣き言一つ言わない。

「タンク3、ダメージが限界だ。 さがって装甲を補給してくれ」

「まだいける」

「やられては本末転倒だ」

「分かった。 すぐに戻る!」

補給車に積んできている装甲はそれほど多く無いはずだ。この攻撃はあまりにも急だったから、である。

激しいが短い戦いが終わり、何とか敵を撃退するが。

兵士達には負傷者が多数出て、中には手足を失うものも少なくない。

痛い痛いと悲鳴を上げている兵士も少なくなくて。一華は閉口せざるを得ない。

また二隻、殆ど同時にテレポーションシップが落ちる。飛行型の怪物を落としていたテレポーションシップは潰されたようだが。その分、残っているテレポーションシップが狂ったように怪物を落としてきている。

結果、物量はあまり変わっていない。

ただ、β型を落としていたテレポーションシップも落ちた様子で。敵はα型だけになっていたが。

「残りのコロニストも全て来たようだ! 気を付けろ!」

「厄介ッスねえ……」

一華は前に出る。

自動砲座を展開し直して、更に敵を迎撃するが。ニクスが見る間にダメージを受けていく。

足を止めて戦っている以上仕方がない。

そして味方が負傷者多数の現状。

ニクスが頑張らなければ、味方が全滅する。

タンクも砲身が焼け付きそうな勢いで射撃を続けてくれているが、それでも限界はある。

α型が、タンクに食いつく。

直後にニクスの射撃で消し飛ばすが。α型はどんどん迫ってくる。全く死を怖れていない様子に、兵士達が恐怖の声を上げる。

ウィングダイバー隊もフェンサー隊も頑張ってくれている。

だが、それでも敵の物量が危険すぎるのだ。

いっそ、全員で移動しながら……と思ったが。

いや、それだと足が遅いフェンサー隊が遅れて全滅するか。

全員で生き残るために、リーダーは必死に働いているという事を考えれば。

これ以上は、無理はさせられまい。

最後の二隻が、爆発炎上。

テレポーションシップは全滅する。

リーダーはもうグレイプから降りて、自分の足でテレポーションシップをつぶしに行ったようだが。

その超人ぶりを、どうこう言うつもりは無い。

「コロニスト接近!」

「タンク2、装甲が限界だ。 補給に戻る」

「タンク3、応急処置完了! 戦線に復帰するぞ!」

ニクスがアラートを出している。

装甲が限界、ということだ。

だが、テレポーションシップを落とされたことで。村上三兄弟にコロニストの主力は向かったようで。

コロニストの数は、あまり多くはなかった。

だが、コロニストはコロニストだ。危険な存在に変わりはない。集中攻撃で仕留める。

後は、数に限りがある怪物を仕留めていけば良かった。

戦略情報部の通信が入る。

いつものように千葉中将が応じていた。

「ロシアに敵出現。 ドロップシップ多数から降下し、モスクワ基地を強襲した模様です」

「モスクワ基地か……。 結果は」

「敵の数は二百前後。 人型の装甲を身につけた存在で、現地の生き残りはアニメに出てくるロボットのような武装だったと口にしています。 モスクワ基地は陥落。 駐屯していた部隊は脱出したもの以外は、全滅です」

「なっ……! 短時間で師団規模の守備部隊を全滅させたというのか! 彼処にはタイタンやニクスの部隊もいたはずだぞ!」

千葉中将が驚くが。一華だって思わず口をつぐむ。ロシアのモスクワ基地と言えば、EDFの基幹基地の一つ。

それがあっと言う間に全滅か。

移動基地を建て続けに短時間で二機潰したEDFだが、しかしそれ以上に大きなダメージを受けた事になる。

更に、良くない情報も届いていた。

「此方村上班オペレーター成田軍曹! マザーシップNO8が太平洋側から日本に接近しています! どうやら奈良、京都付近を通過する模様です!」

「……これは、恐らく意図的な行動ッスね」

一華はぼやきながら。敵の残党を片付ける。

リーダーが戻ってくる。

当然のように無傷だった。

「無線は聞いていた。 筒井大佐、話の通りです。 敵は新兵器の投入を開始した可能性があります。 モスクワ基地を壊滅させたものが来るかも知れません。 最優先で、出来るだけの戦力を整えてほしいのですが」

「任せや。 こっちは今、荒木班に声を掛けた所や。 それと、レールガンを三両何とか呼べそうや。 兵士も出来るだけかき集める。 それで何とかしてほしい」

「了解です。 撃墜出来ると保証はできませんが……」

「ともかく、奴らの正体だけでも暴かないとあかん。 東京基地にも増援を要請するさかいな、たのむで」

リーダーが手を叩き、皆を集める。

負傷者が多いが、それでもまだ二個小隊ほどの戦力は負傷せず残っている。

すぐにキャリバンを手配して、皆をさがらせる。

マザーシップNO8はその後の動向を、成田に監視させる。

いずれにしても、此処を通過する。

そして、兵力がいれば、切り札を切ってくる可能性が高いとみて良いだろう。

彼方此方の戦線に散って、飛行型や各地で怪物の拠点を潰していた戦力が集まってくる。筒井大佐が必死に呼び戻してくれている。

だが、それでも。

マザーシップNO8が来た時には、荒木班と。一個中隊の兵力が追加で集まるのが、やっとだった。

 

2、支配者来たる

 

マザーシップNO8は、京都上空にて停止した。三城はビルの上から、それを監視していたが。

やがてかなり怪物が増えてきたので、一旦皆のいるところへ戻った。ただ、一華に渡された監視カメラは設置して、だが。

京都も奈良同様、世界政府が手を入れ。様々な貴重な文化遺産を保護しつつ。近代化を進めるべく投資をした都市である。

文化遺産に関しては、現在手を入れる人員が最低限いるだけで、観光客も何もない状態であり。

都市は殆どがらんどうだ。

その上空にマザーシップが停泊すると、まずはコロニストと、怪物。α型、銀色と赤色を落とし。

最小限の拠点を作り始めた。

それを、最悪な事で知られたバス。日本最悪のバスと悪名高かった京都バスの駐車場に集結しながら監視する。

荒木班が合流してきたのは、最後だった。

「荒木班、現着。 ニクス二機を連れてきた」

「ええと、相馬少尉のニクスも含めて三機ッスか?」

「そうなる。 其方の高機動型も含めれば四機もの大軍だな」

「……そうっスね」

荒木軍曹も、最近は不平と皮肉を隠さなくなってきている。

三城が見ていても、大兄と一緒に上層部への不満をぶつけ合っているので。

EDFという組織が、少し心配になる。

ただ、荒木軍曹も、現場での行動のグリーンライトは貰っているらしい。

それだけEDFの総司令部も、荒木軍曹の実力は認めているという事だ。

この人が総司令官になったら、多少は変わるのだろうか。

そう、三城は思ってしまうが。

一個中隊半くらいの戦力が整った時点で、戦車部隊、補給車が来る。

戦車は八両。

補給車は四両。

グレイプは十一両いた。

車両ばかり多いが、これは大阪基地に戦力を集めていたときの名残だ。既に近畿各地の基地に散ったが。

そもそも兵力を集めていてなお、近畿の各地での怪物の跋扈を止められていた訳でもなく。

筒井大佐が交渉して、かなりの兵力を大阪基地に残したらしい。

「もう少し兵力がほしいな」

「此方筒井大佐」

「荒木中佐です。 どうかしましたか」

「今、東京基地からまとまった部隊が出立した。 ただ、それが到着するまでかなりかかる。 悪い、そこにいる戦力で何とか仕掛けてみてや」

すまなそうに筒井大佐が言う。

荒木軍曹は周囲を見回して。一応ウィングダイバーやフェンサーの部隊もいること。更に機甲部隊にレールガンもいる事を見て。まあまあだろうと判断したようだった。

「分かりました。 しかし撃墜よりも、威力偵察を重視します」

「それでええ」

「此方千葉中将」

「!」

千葉中将が出て来たか。

まあ、マザーシップとの戦闘だ。

その国の最高司令官が出てくるのが当然だろうとは確かに思う。

「現在、総司令部では南米のリオデジャネイロに居座っている移動基地への攻撃に部隊を集めている。 東京基地からも、かなりの数のビークルが輸送されている状況だ。 現在後詰めは送っているが、それでもあまり多くは期待しないでほしい。 申し訳ないが……」

「北米の移動基地も落としたことで、かなり撃破のノウハウは蓄積したという事でよろしいか」

「そうなる。 君達には感謝の言葉しかない。 そして、無理をさせてばかりで本当に申し訳なく思う。 作戦の総指揮は私が引き継ぐ。 まずはマザーシップ下部にいる敵の掃討をしてほしい。 敵には強力な主砲がある。 もしも主砲を展開した場合は、レールガンを集中投射して、破壊を試みてくれ」

「イエッサ」

荒木軍曹が頷く。

大兄が頷いている。

今回の前線での作戦指揮は荒木軍曹が執る。

総指揮は千葉中将が執るが。

現場での作戦指揮が、兵士の士気を高めることに非常に適正が高い荒木軍曹なのは、三城としても嬉しい。

それだけ、人を死なせなくて済むはずだからだ。

「今回の目的は、マザーシップのばらまいたコロニストと怪物を撃破して、更には可能な限りマザーシップを撃退することだ。 威力偵察が任務となるから、可能な限り無理はしないでほしい。 更には、既に聞いているかも知れないが、敵が新兵器らしきものを投入してきている。 短時間でモスクワ基地が壊滅し、ロシアの守備隊は各地で後退を重ねているようだ。 少しでも戦況をよくするために、被害を最小限に抑え、敵の情報を探り出すぞ」

「イエッサ!」

「一華少尉。 遠隔操作については任せる。 自動砲座も、ありったけ使ってくれ」

「了解ッス。 タンクを四両ほど任せて貰うッスね」

指揮車両は、一華のニクスにするらしい。

兵士達も、村上班の凄まじい戦果についてはもう疑っていない様子だ。

少し前も、八隻のテレポーションシップを叩き潰したばかりである。

もう、流石に疑いようがない、ということなのだろう。

まずは戦列を整えつつ、兵士達をタンクやニクスの随伴歩兵に分割し、全身を開始する。

もう動いていない京都の電車の高架があるので、其処を第一の戦線とする。

そこにレールガンを含むタンクが展開。ニクスも展開した。

少し距離を置いて、α型の怪物を引き連れたコロニストが展開しているが。数が正直それほど多く無い。

はっきりいって、わざわざ小兄と三城が前に出て、攪乱戦をするまでもないだろう。

この間の移動基地戦でも大きな戦果を上げたプラズマグレートキャノンを輸送車から取りだす。

狙うのは、コロニストだ。

「高架への展開完了!」

「よし、一斉攻撃開始!」

「オープンファイヤ!」

八両の戦車、十一両のグレイプ、更にニクス四機が一斉に攻撃を開始。更に兵士達も射撃を開始する。

驟雨のような攻撃を浴びたα型の怪物と少数のコロニストは、反撃さえままならぬ状況で一方的に殺戮された。

最初の頃、EDFの兵士達は逆にこう言う目に合っていた。

そう思うと、戦力さえ集中できれば。EDFも健闘できるようにはなって来たという事だろうか。

プラズマグレートキャノンをぶっ放す。

プラズマ弾が飛び、コロニストを直撃。文字通り、十メートル超の巨体が粉々に消し飛んでいた。

凄まじい火力に、さがることさえ出来ずコロニストも含めた敵集団が消滅する。

撃ち方止め。そう荒木軍曹が声を張り上げると、皆射撃を止めた。

大兄が、手をかざして向こうを見ている。

気配を探っているのだろう。

「敵はマザーシップの下部に展開しているものだけですね。 伏兵として地下に潜っている怪物はいません」

「よし。 全軍、2ブロック前進。 一華少尉、状況を確認してくれ」

「この先にちょっとした掘になる川があるッスね」

「了解した。 その川を挟んで布陣。 敵の数は」

すぐに一華が監視カメラなどの情報から割り出す。

成田というオペレーター。やる事がなくて、あわあわしているようだったが、まあ良いだろう。

この仕事、始めたばかりなのだ。

「砲兵のコロニストが少数。 赤いα型、銀のα型がそれぞれ百程度ッスね」

「この戦力なら近寄る前に射すくめられるが、問題は砲兵だな」

「俺が仕留めます」

「頼むぞ」

大兄の狙撃と聞いて、荒木軍曹が頷く。

まあそれはそうだろう。

少し噂を聞いたのだけれど、大兄は現在のシモヘイヘとか言われているらしい。

二次大戦の時、ロシア軍の大軍を少数の狙撃兵部隊で食い止めた伝説的な人物らしいのだけれども。

確かに、大兄の実績はその人に比べられても、まるで見劣りはしないだろう。

そのまま前進。三城は自由行動を許されているので、手近なビルの上に出る。

「大兄、此処から見ると、左側の砲兵が少し離れてる。 それは私がやる」

「そうだな。 頼むぞ」

川の向こう。

ちょっと盛り上がった、公園のようになった地点に、敵は布陣していた。

その上空にマザーシップNO8が浮いている。

真下に行くのは愚策だ。

マザーシップと初邂逅したとき、あの主砲で死にかけた。今マザーシップは主砲を展開はしていないが。

それでも、あの時の事を思い出すと良く生きていたものだと思う。

レールガンが来ているし、タンク部隊もいる。

だから、恐らくは敵を一方的に射すくめられるとは思うが。

丘のようになった地形が邪魔をして、一部の敵を仕留め損なうかも知れない。

だから、高い所に陣取る必要がある。

先の戦闘で、負傷せずに残ったウィングダイバー隊が、周囲に降り立った。

「護衛をするようにと、荒木中佐から指示がありました」

「了解。 これから大威力プラズマ砲で狙撃をするので、万が一の時は怪物を撃退してほしい」

「イエッサ」

そこそこ士気が高い部隊だ。

ウィングダイバー隊は消耗が激しく、新兵もなるのを嫌がるケースが多いらしいが。歴戦を重ねてきた部隊かも知れない。

大兄がカウントを開始。

ちらりと見ると、小兄も大火力砲を装備している。恐らくだが、機動戦を挑むまでもないと判断したのだろう。

0。同時に狙撃。

敵にいる砲兵の頭が、文字通り吹っ飛ぶと同時に。

プラズマグレートキャノンの巨弾が、もう一体の砲兵を直撃していた。

周囲にいる怪物ごと、吹っ飛ぶコロニスト。

アサルトライフル持ちのコロニストが一斉に反応するが。重装型の相馬少尉のニクスが最前列に出ると。

その両手に装備している凶悪な重機関銃で敵を撃ち据え始める。

向かってくるα型には、最初の頃は戦車砲を弾くことで兵士を怖れさせた赤い奴もかなりいるが。

此方にはレールガンもいるし、ニクスも四機いる。

コロニストの数も大した事がないし、はっきりいって敵ではない。

指揮下に入ってくれたウィングダイバーはレーザー兵器に持ち換えると、怪物を撃ち始める。

三城もそれで良いと思ったので、小賢しく丘を利用して攻撃を避けているコロニストに対し。

プラズマグレートキャノンの巨弾を叩き込み。

粉々に消し飛ばす。

レールガンの火力は圧倒的だ。

弾幕をかいくぐったコロニストが、文字通り一発で消し飛んでいる。

あの火力、接近さえ許さなければ文字通り最強だろう。

程なくして、敵は消滅。

目を細めて周囲を確認するが、ビル影に隠れたり。地下に伏せたりした敵はいないようすだ。

「敵沈黙。 伏兵もなし」

「よし、此処からだ。 マザーシップは強力な主砲をもっており、更には敵はロシアで新兵器を展開したばかりだ。 わざわざ姿を見せたと言う事は、此処でも新兵器を投入してくる可能性がある。 一旦一ブロック後退し、最悪の場合にそなえて退路を確保する」

「了解」

兵士達も粛々と従う。

基幹基地の一つであるモスクワ基地が、短時間で潰されたと言う事は此処にいる全員が知っているのだ。

それは、慎重が過ぎても誰も文句はいわないだろう。

EDFは、プライマーが新兵器を投入する度に大きな損害を出してきた。

毎度毎度、同じ轍を踏むわけにはいかないのである。

一列に並んでの射撃を続けていた部隊が後退を開始し、退路を確保できるように陣形を再編する。

一方で、一華のニクスと、相馬少尉の乗っているニクスは最前列に残り。

レールガンは少し後方に。

一華がリモート操作している無人のタンク四両が、最前列に展開。最悪の場合の、盾となる。

更に、多数の自動砲座も展開。

準備を整えている時に、凄まじい殺気を感じた。

「大兄!」

「分かっている! 荒木ぐ……荒木中佐!」

「敵か」

「恐らくはモスクワを壊滅させた奴です!」

荒木軍曹が、総力戦準備と叫んだ。陣形を組み直している味方が、にわかに緊張する。

凄まじい殺気だ。

コロニストは、動物的な。

目の前にいる敵を殺戮するだけの殺意に満ちていた。

これはα型やβ型、飛行型の怪物も同じだ。

だが、これは違う。

明らかに、それぞれが強い意思を持って、殺意をもっている。

成田軍曹が、初めてオペレーターとしての仕事をする。

「マザーシップの主砲格納ハッチの周囲にある、小型ハッチが開きました! ドローンを投下するのに用いる装置ですが……何かが落ちてきます!」

「! 人型……」

そう、人型の何か全身に鎧を纏った存在が降りてくる。

コロニストはずんぐりとした体型をしていたが、ずいぶんとスマートな体型である。それでいながら、コロニストより長身のようだ。

勿論手には武器。

しかも、コロニストのものと違う。

「敵のロボット兵器と思われるものが降下しています!」

「此方千葉中将。 敵ロボット兵器と思われるものと交戦しろ! できる限りのデータを集めろ!」

「了解!」

大兄が、落ちてくる途中の人型にヘッドショットを決めるが。

鎧というかヘルメットを砕いただけ。

ライサンダーFの射撃に耐え抜くのか。

そして、それで分かる。

あれは、ロボットでは無い。

着地と同時に、無機質な一対の目が、周囲を睥睨する。そして、次々に落ちてくる人型も、同じ鎧を着ていた。

「エイリアンのロボット兵器だ!」

「モスクワを短時間で潰した化け物だぞ! 火力を集中しろ!」

「アニメだと、だいたいの宇宙人は二足歩行のロボット兵器で襲ってくる! 現実になりやがるとはな!」

「いや……まて」

レールガンが後退しながら射撃。最前列に残っている一華のニクスと、相馬少尉のニクスも射撃しながら後退する。

敵の動きが、とんでもなく速い。

コロニストも回避行動やサイドステップなどを、巨体からは信じられないほどの機敏さで行っていたが。

それどころじゃない。

サイズがおかしいが、アスリート同然の俊敏な動きでローリングやサイドステップをこなしながら、射撃してくる。

その射撃の正確性も凄まじく、一瞬で最前列にいたタンクが一両爆散した。

どうやら装備しているのはアサルトライフルのようだが、火力も射撃の速度も、コロニストの装備しているものとは桁外れのようだ。

「なっ……」

「こ、此奴らロボットじゃないぞ!」

「中にエイリアンがいる!」

その感情の見えない目。射撃が集中して、鎧が吹っ飛ぶエイリアンもいて。それで体が露わになる。

三城はぞくりとした。

なんというか、此処にいてはいけない生物と相対しているように思ったのだ。

ひっと、ウィングダイバーの一人が悲鳴を上げる。

大兄が、最初に狙撃した一体の頭を吹き飛ばした。

ヘルメットが吹っ飛んで頭が露出していたから、出来た事だが。

頭を吹っ飛ばせば殺せるが、そもそも鎧が尋常でなく頑強だ。レールガンの一撃にすら耐えている。

プラズマグレートキャノンの一撃を叩き込む。

鎧が吹っ飛ぶが、中の体は無事。

あの鎧、恐らく許容範囲以上のダメージを受けると自壊して、内部の着用者を守る仕組みなのか。

確か戦車の装甲にも、似たような仕組みがあると聞いているが。

展開している鎧エイリアンは五十ほどか。

最前列に来た奴を数体仕留めたが、もう二両目のタンクが爆発。何より展開速度が早く、ビルを盾にしコロニスト以上に俊敏に動いている。

「後退。 あのビルに下がる」

「い、イエッサ!」

「なんて不気味な姿……」

「人型じゃない!」

兵士達が我先にさがる。

荒木軍曹も、最後尾に残って射撃を続けながらも。包囲されて集中砲火を喰らっている状態だ。

三両目、四両目のタンクが爆散。

小兄が、機動戦に切り替えた。数体の鎧エイリアンを仕留めたが、もう前線の維持は限界と判断したのだろう。

戦略情報部が通信を入れてくる。

「戦闘情報を解析しました。 あのエイリアンの装備している鎧は、どうやら宇宙服のようです」

「宇宙服だと」

「頑強で攻撃を防ぐ鎧の意味もあるようですが、恐らくは大気汚染を防ぐためのものなのでしょう。 何カ所かに、大気汚染の除去装置と思われるものがあります。 しかも、内部にいるエイリアンは多少の大気汚染はものともしないようです。 これは恐らくですが、大気汚染を経験したことがある存在……ということでしょう」

「つまり、コロニストどもの親玉と言う事か!」

千葉中将が、机を叩いたらしい。

撤退。

すぐに指示が出される。

言われるまでもなく、レールガンは真っ先に後退。タンク部隊とグレイプ部隊も後退を開始している。ニクスは真っ先に残り二機が破壊されたが、搭乗者がどうなったかは分からない。

荒木軍曹が指示を丁寧に出している。

「負傷者と足が遅いフェンサーをグレイプ部隊は回収し、それから撤退! タンク部隊は壁になって、左右から回り込んでくるエイリアンに牽制射撃をしながらさがれ!」

「敵の走行速度、α型の怪物以上です! ほとんど併走してきます!」

「ビルを利用して射撃を遮りながら行け! とにかく突破しろ! レールガンを守り抜け! レールガンは射撃を考えず、突破だけを考えろ! 前にエイリアンが出た時だけ撃て!」

完全に取り残されたな。

そう思いながら、もう一発グレートキャノンを叩き込む。エイリアンの鎧がバラバラに消し飛び、中身の人型が露出。そこへ一瞬で躍りかかった小兄が、スピアを叩き込み。貫いていた。

そうすれば、不気味なエイリアンも死ぬ。

どうしてだろう。

二足歩行、手は二つ。形は人型なのに、どうしてこうも不気味に感じるのか。

更にさがりながら、射撃を続ける。

相馬少尉の重装ニクスが壊れた。最後尾で、コロニストの比では無い強烈な火力を喰らい続けていたのだ。仕方がないだろう。

相馬少尉が脱出。

大兄も、ここまでと判断したのか。逃げる味方を守りながら、下がりはじめる。

だが敵の追撃が凄まじい。

三城のいるビルにも迫ってきている。

一華が通信を入れてくる。

「それぞれ指定した場所に逃げ込むッスよ! 急いで!」

「……生き残りたかったらついてくる」

「イエッサ!」

もう交戦を諦めて、三城も飛ぶ。ウィングダイバー隊は必死についてくる。後ろから、凄まじい射撃音。初遭遇時、コロニストの装備していたアサルトライフルは、短時間でタンクをスクラップにした。しかしそれからEDFは装備の改良を進めて、タンクの装甲は何倍も頑強になった。それが、一瞬で。

奴らが何者かは分からないが、コロニストとは桁外れの火力を持っている。

「それぞれ今指定された建物に身を隠せ! 急げ! 交戦は諦めろ! 必ず重装備の救援部隊を送る!」

千葉中将が叫んでいるが。ともかく大型ビルの地下駐車場に逃げ込む。

一番心配なのは一華だ。

あの様子だと、村上班では生存率が一番低いだろう。

文字通り蹂躙された。

通信を聞いている限り、先に逃がした主力はどうやら敵の追撃を振り切ったようだが。それでも、かなりの人数が取り残されたようだ。

周囲にはまだ40体を遙かに超えるあのエイリアンがいる筈だ。マザーシップから更に追加されているかも知れない。

流石に狭い地下駐車場には入り込んではこれなかったのだろう。

エイリアンの追撃は、なかった。

泣いているウィングダイバーもいる。三城は、やるべき事をすると判断した。

「負傷者は申し出て。 応急処置をする。 それが終わったら、ビル内を探索して、食糧と水の確保を」

「……」

「私の兄はあの村上壱野。 EDF最強の戦士。 絶対に助けに来る。 それに東京からも支援部隊が来る。 だから、諦めない」

少しだけ、皆が恐怖から解放されただろうか。

三城だって不安だ。

何だか知らないが、どうしてか腹の底から擦られるようなおぞましい恐怖をあのエイリアンからは感じた。

人型の筈なのに。

人型じゃないと叫ぶ兵士がいたが。

それも道理に思えた。

 

3、脱出作戦

 

荒木は、激戦の中皆を最後まで踏みとどまって逃がし、孤立していた。

側には煤だらけの村上壱野だけ。

呼吸を整えると、傷がないか確認する。

戦闘時は凄まじい興奮状態に人間はなる。アドレナリンが大量に脳を満たし、手足を失っていても気づかないことすらある。

周囲にはあの不気味なエイリアンが多数闊歩しているが。

皆を救わなければならない。

壱野が側にいることだけが救いだ。

この男は。

文字通りのワンマンアーミー。

どんな特殊部隊員でも、まとめて畳む最強の男だ。

「負傷はしていないか、壱野」

「問題ありません」

「よし……」

通信を順番に入れていく。

まずは、本部の通信が入った。

「此方千葉中将。 現在、機甲師団を編成して救援部隊を構築している。 京都にて取り残された部隊は、生き残る事を最優先に身を隠せ」

「機甲師団か。 大げさな話だな」

「いえ、機甲師団でも勝てるか微妙な相手です。 特に不意を打たれると、かなり危ないでしょうね」

「……そうだな」

荒木も負傷は無し。

そのまま、周囲を確認。

どうやら、エイリアンは負傷者を一旦下げ、再編制して街を見回っているようだ。

生き残りがいる事。

特に、乱戦の中六体もエイリアンを屠った壱野を、探しているのだとみて良い。

「奴らがロシアを襲ったエイリアンだとみて間違いない。 そうなると、生半可な戦力だと救援どころではあるまい」

「ええ。 それに……エイリアンはどうやら分隊単位に別れて生き残りを探して殺そうとしているようですね。 弐分や三城、一華が心配です」

「弐分は数名の兵士を連れて、ビルの影に隠れるのを見た。 三城はダイバー隊と一緒だし、恐らくは生き延びている。 問題は一華だが」

「此方一華」

通信が入る。

生きていたか。ほっとする。

「良く無事だったな」

「相馬少尉のニクスが時間を稼いでくれたッスから。 何とか、愛機とともに隠れるのには成功したッスよ」

「そうか。 今の座標は」

「送るッスね」

なるほど。バスの格納庫に逃れたのか。

確かにエイリアンからみれば、大きなビークルがたくさんある場所だ。見分けがつかないかも知れない。

後は、小田、浅利、相馬だ。

あの三人は、別方向に逃げたが。一番敵の守りが分厚い場所にいるとみて良いだろう。

それにまだ彼方此方に点々と兵士が隠れているはず。

主力は突破出来たとは思う。

だが。それは主力だけだ。

レールガンも無事かどうか。今後の戦いのためにも、レールガンは必要になる。簡単に破壊はさせられない。

「三城少尉、無事か。 ……駄目だ。 通信が入らない」

「戦闘を開始すれば、あいつは恐らく出て来ます」

「そうだな。 勇敢な娘だ」

「……」

荒木も、三城が相当な鬱屈を抱えている事は何となく分かっている。だから、壱野が黙ったのにも、何となく理由が分かった。追求はしない。話してくれるときに、話してくれればそれでいい。

荒木だって、そもそも色々臑に傷持つ身だ。

他人に対して、どうこうは言えない。

「来ました。 三体で分隊を構成しています」

「仕留める自信はあるか」

「なんとかやってみます。 荒木軍曹、支援を頼みます」

「任せておけ」

最新型のストークのマガジンを確認。

ショットガンの方が良いかも知れないと思ったが、補給車は少し離れた地点に放置されている状況だ。

まずは、この分隊を片付ける。

「他のエイリアンの部隊と連携している様子は」

「ありませんね。 ただ殺気は濃いし、コロニストのように耳が悪いことも無さそうです」

「手強い相手だな……」

「完全にコロニストとは別物ですね。 それに、さっき更に追加で部隊が投下されるのも見ました。 装備も違っていましたね」

厄介な相手だ。

コロニストだけでもとんでもない手強い存在だったが。今度のエイリアンは、文字通りの化け物だ。

荒木は見た。

レールガンで、鎧を破壊するのが精一杯。一華がリモートで操作していたタンクの主砲でも、数発打ち込まないと鎧にはダメージすら入らなかった。

それに対して敵のアサルトは、集弾率も凄まじく。何より敵の俊敏なこと。コロニストの比では無かった。

それに見て分かった。

あれは訓練された兵士の動きだ。

コロニストは何というか、自爆特攻でも平然とやるような。使い捨てとして訓練を受けた兵士に見えたが。

新しいエイリアンは明らかに違う。

エリート教育を受けたエイリアン。特殊部隊のような存在だと判断して良さそうだった。

基幹基地の一つであるモスクワ基地が短時間で潰されるわけだ。

むしろ此奴ら相手に。十体近くを屠り。主力を逃がせただけで、大健闘なのかもしれない。

いずれにしても現時点では、此奴らが登場しただけで戦況は一変したと判断してもいい状況だ。

まずは、無理をする兵士が出無いように。

通信を入れる。

「此方荒木中佐だ。 作戦地域に残っている兵士に告げる。 これから、独自での戦闘行動を行う。 現在エイリアンは、建物に隠れた兵士を探して殺すために分隊単位で別れて周囲を巡回している。 味方の支援部隊については、到着がまだ先になるだろう。 このままだと、皆発見されて殺される。 だが、慌てるな。 我々が少しずつ分隊を処理して、皆を救援に向かう。 救援に向かうのが見え次第、合流してくれ」

聞こえては、いる筈だ。

そのまま、頷く。

壱野はライサンダーFを、無言でぶっ放し。後頭部から、三体一組で動いていたエイリアンを撃ち抜く。

ヘルメットが吹っ飛んだ瞬間、即座にアサルトに切り替え頭を撃ち据える。それだけでも普通は死ぬ。だが、数発に耐え抜いた。だが、そこまで。流石に血だらけになった頭部に、致命傷が入ったのだろう。

エイリアンが膝を屈する。

だが、残り二体が、此方に振り向き、凄まじい射撃を浴びせてくる。

其処に荒木も反撃を入れる。

相手の鎧の胴だけを狙う。

罅が多少はいる程度か。焦るな。そう言い聞かせながら、銃撃戦を続ける。

ライサンダーFの射撃が入り、もう一体の頭に直撃。ヘルメットが粉砕される。

感情の見えない不気味な目。兵士達が怖れるのも道理だが。しかし、それに合わせて狙いを変え。一息に頭を撃ち据えた。

目に入った弾。顔を押さえるエイリアン。何か喚いているが、容赦なく壱野が追加で射撃をしてとどめを刺す。

味方を見て、何か喚くエイリアン。

行動が、コロニストより更に人間的だ。

更に接近して、激しく射撃してくるエイリアン。身を隠すしかない。コンクリの遮蔽がごりごり削られる。そんな中、完璧にリロードのタイミングを見切った壱野が一撃を叩き込み、胴の鎧を吹き飛ばした。

其処に飛び出した荒木が、叫びながら集中攻撃を浴びせる。心臓部分に三十発は叩き込んだが。

それが致命傷になったかは分からない。

ともかく、エイリアンは膝から倒れ。前のめりに血の海に沈んでいた。

「移動します。 今の銃声、聞こえている筈ですので」

「いや、そのままでいて貰えるッスか」

「一華?」

「さっき撒いた自動砲座、大乱戦で使い路がなかったッスけど。 活用させて貰うッスよ」

さっそく、三体のエイリアンが来る。

だが。それと同時に。仕掛けられていた自動砲座が咆哮し、四方八方からエイリアン三体を撃ち据える。

流石に右往左往するエイリアンに向けて、飛び出した壱野が、一体の頭を撃ち抜く。ヘルメットが壊れるだけでは無い。どうも今の射撃でダメージが入っていたらしく。その傷を正確に撃ち抜いたようだ。

一体が、吹っ飛ぶようにして後ろに倒れる。

二体が慌ててビル影に隠れるが、そこも自動砲座の射撃カバー範囲内だ。何処にいるかバレバレである。

荒木も一緒に走る。

鎧にダメージを受けて慌てたか、一体が飛び出してくる。

足を集中的に狙って、鎧を剥がす。鎧を剥がすと、細い足が出て来て。更にストークの集中射撃で簡単に破壊出来た。肉体に関しては、案外脆弱なのかも知れない。この鎧のような宇宙服は、パワードスーツも兼ねているかも知れなかった。

倒れるエイリアンだが、慌てている様子は無い。

コロニストのように、再生するのかも知れない。

だが、再生する暇を与えるか。

そのまま射撃を続けて、ヘルメットに傷を穿つ。

その傷に、自動砲座が集中射撃をしたようだ。痙攣するようにエイリアンが動くと、大量の血をヘルメットから噴き出しながら動かなくなる。

一体が飛び出してくる。砲座による集中砲火に耐えられなくなったか。胴に穴がある。

其処に、壱野がピンホールショットを決めていた。

立ち尽くして、空に向けてアサルトを放った後。後ろに倒れるエイリアン。

呼吸を整える。

「よし……周囲を確認するぞ。 一華、砲座を止めてくれ」

「了解。 それと、支援はするッスよ。 今、街中の監視カメラは私の手の中なので」

「ありがたい。 頼む」

「まず敵の数は確認できた範囲で50前後ッスね。 さっき隠れた後、百体は追加で出て来たから……これは恐らく、本部の救援部隊を奇襲にいったとみて良いッス」

舌打ちする荒木。

本部に通信を入れてほしいと、それでも言うだけの余力はあった。

もうやったと、一華はいう。

流石だ。戦場のコントロール能力に長けていることは知っていたが、更に成長している。村上班に専属のオペレーターがついたらしいが。噂に聞くそのオペレーターとは正直比べものにならないほど有能だ。

文字通りのエアレイダー。空軍の支援を全面的に任せたら、本当に戦場をコントロール出来るだろう。

この戦闘を生き延びたら、本部に昇進を推薦しようと荒木は思う。まずは、生き延びないといけないが。

「敵は半数ほどがさっきの公園に集まって、今始末した二分隊の他に……六分隊が巡回を続けてるっス。 荒木軍曹の所の三人がいる辺りに、一分隊。 今の二分隊撃破で孤立しているので、やるなら今ッスよ」

「分かった。 位置を転送してくれ」

「了解ッス。 その辺りは自動砲座撒いてないので、地力で対処して貰えるッスか」

「問題ない」

移動。途中で、補給車を見つける。放棄されたまま、手つかずになっていた。

場所は一華に知らせておく。

これは、有り難い事だ。

ビル影をぬうように移動しながら、現地に。確かに、三体のエイリアンがいる。更に言うと、その内の一体は違う武器を持っていた。

「凄い武器だな……」

「あのエイリアンはコロニストではありませんが……配下に使っているコロニストの武装傾向からして、アサルトライフルでなければ砲撃兵器かショットガンでしょう。 それもオートエイム機能は最低でもついているとみて良いでしょうね」

「まったく、技術力の差を見せつけてくれる」

「どうします」

敵はかなり開けた場所にいる。

此方の襲撃を警戒している、ということだ。

此方を侮ってくれていればまだやりやすかったのだが。どうやらそれすらも期待出来ないらしい。

全く、プライマーの戦力は、どれだけ底知れないのか。

「まずはショットガンらしい武器を持っている奴からだ。 狙えるか」

「大丈夫です」

「この地形だと、残り二体の反撃も厳しそうだな」

「何とかしてみます」

そう言うと。壱野はショットガンらしいのをもっているエイリアンの、腕を吹き飛ばしていた。

腕部分は装甲が薄いのか。吹き飛んだ腕を見て、唖然とするエイリアン。慌てる他二体が此方に銃口を向ける前に、胴部分にストークで乱射を叩き込む。罅が入った頃には、残り二体が反撃してくる。

すぐに建物に隠れると、腕を失った一体は後退、残り二体は機敏に動きながら距離を取ろうとする。

なるほど、戦術としては正しい。

だが。

「小田少尉! 浅利少尉! 相馬少尉! 今だ!」

「おうっ!」

飛び出してきた三人が、一体の不意を突く。一斉にストークと対物ライフルで集中射撃を浴びせて、動きを止める。

もう一体がどちらに対処するか一瞬悩むが、それが命取りだ。

さがった一体の胴の、鎧のわずかな亀裂に壱野が一撃を叩き込む。大量の鮮血をぶちまけながら、エイリアンは後ろ向きに倒れる。

慌てて反撃しようとする残り二体は、文字通りクロスファイヤーポイントに誘いこまれている状態だ。壱野がアサルトを連射しながら近付くと、反撃しようとするが。其処に小田少尉のロケランが直撃。爆発に怯んだ所を、スナイパーライフルが鎧の隙間を貫いていた。

残り一体を、集中攻撃で仕留めるが。

凄まじい勢いでローリングを繰り返し、攻撃を極めて的確に回避してくる。

だが、壱野のスナイプがそれすらも上回り、頭を撃ち抜き。

ヘルメットが壊れて頭が露出したところを、全員掛かりで集中射撃して仕留める。

三人が出てくる。

「皆、無事か」

「助かったぜ軍曹、それに大将も」

「皆、散り散りになってしまっていますね。 何とかしないと」

「呼びかけは聞こえました。 皆、潜んで待っていると思います」

これで、荒木班は揃ったか。

次は村上班だ。

特にコンバットフレームを温存している一華とは何とか合流したい。まずは補給トラックまで引いて、状況を確認する。

「ちょっとマズいッスね。 数人の兵士が隠れているビルの側で、エイリアンが明らかに攻撃行動を取ってるッス。 コレは気づかれているとみて良いッスよ」

「分かった、すぐに向かう」

「……俺が先に行く。 今、応急手当が終わった」

「弐分か」

隠れていた弐分の声。どうやら多少の負傷をしたらしい。

それはそうだろう。あの未知のエイリアン相手に接近戦を挑んだのだ。それは手傷くらいは受ける。

銃声が聞こえる。どうやらエイリアンどもが、建物を攻撃し始めたらしい。もしも打って出たら、即座に粉々にされてしまう。

「耐えろ! 今救援が向かった!」

「ひいっ! 来るな来るな……」

「今行く! とにかく隠れてそのままにしていろ!」

パニックに陥りかけている兵士の悲痛な声が聞こえる。弐分が向かったのなら安心と言いたいが。

そうも言い切れないだろう。

壱野が言う通り、コロニストとは次元違いの手強い相手だ。確かにこれならば、プライマーの指揮官級の存在だとも認識は出来る。

せめてグレイプが一両でもあれば、その場に急行できるのだが。

「その道を曲がって。 そのまま行くと、別の分隊とばったりッスよ」

「くそっ!」

「公園に集まっていたエイリアンが、複数分隊出始めてるッスね。 多分ゲリラ戦で味方がやられているのに気づいていると判断して良さそうッスよ」

「敵もデータリンクか何かしているようだな。 手強い相手だ」

走りながら、指定地点を目指す。

見えてきた。スピアで頭をぶち抜いた弐分が、直後に反撃を盾で受け止めながらさがっている。エイリアンは一分隊だけではなく、更に増援が来ている様子である。

もう何名かフェンサーがいるが、盾で耐えるのに精一杯のようだ。

「撃て、撃てっ!」

壱野が、今の弐分のスピアで頭を露出させたエイリアンを一射確殺する。

それで壱野に他のエイリアンの砲口が向くが、完璧な連携で横殴りに弐分の立体攻撃が入る。スピアを叩き込まれたエイリアンが蹈鞴を踏む。其処に、雄叫びを上げながら荒木班全員で集中攻撃を浴びせ、胴の鎧をたたき壊す。露出した同部分に、更に集中攻撃を浴びせると、エイリアンは立ち尽くしたまま痙攣するようにして銃弾を喰らい続け。倒れた。

他のエイリアンも反撃してくるが、さがりながら射撃をしてくる。とにかく狙いは正確で、何度も掠めた。アーマーもその度にあからさまな衝撃を受ける。このアーマーは、開戦時とは別物に強化されているのに。

「フェンサー部隊、移動してビル影に! 射撃戦になる!」

「イエッサ!」

「い、生き残りは私一人です! 救援を!」

「手が足りないな……」

ビル影を挟んで射撃を続ける。今通信を入れて来たのはウィングダイバーか。大半は三城と行動を共にしている筈だが、はぐれた兵士がいたのか。

射撃を続けているうちに、一体のエイリアンのヘルメットが吹っ飛ぶ。壱野の精密射撃だ。そこに集中攻撃を浴びせて、一体を仕留める。

「後方より三体。 急がないとマズいッス」

「おう、そうだな。 一華、てめーの周りはどうなんだ!」

「二分隊が彷徨いていて、脱出どころじゃないッス。 今、三城のいる所を見つけたッスけど。そこもちょっと三城の周囲にいるダイバー隊だけだと脱出は厳しそうッスね」

「クッソ! どこもかしこも敵だらけかよ!」

小田少尉が叫びながら、敵に攻撃を浴びせ続ける。エイリアンは少人数の筈の人間に手こずって苛立っているのか、時々攻撃を無理にしてくる。だが、その隙に背後に回った弐分が、スピアをたたき込み。一体が道路に放り出された。こう言うときの動きが、どうにもコロニストよりも人間に近い。集中攻撃を仕掛けて仕留める。更にもう一体。道路に飛び出し、後退しようとした所を、足を狙って集中攻撃し。倒れたところを仕留めた。

「相馬少尉、隠れている兵士を救出してくれ。 一華少尉、後方から来ているエイリアンは」

「どうやら交戦中のエイリアンが全滅したと悟って、動きを変えたようッスね。 急いで其処、離れた方が良いッスよ」

「手だれているな……」

ビルの中から、数名の兵士が助け出される。

粗相をした様子もあったが、この状況では仕方がない。歩けるかと聞くと、青ざめきった顔で頷いた。

「彼らは戦力には数えられませんね」

「分かっている。 とにかく、安全な場所を探すしかないが……」

「敵が来ます。 三個分隊同時」

「……一度さがるぞ。 まともに対処できる数じゃない」

距離を取って、近くのビルに隠れる。

フェンサー部隊はかなりダメージが大きく、盾が壊れてしまっている兵士もいたし。大きな怪我をして、うんうん呻いている者もいた。

三個分隊のエイリアンは味方の死体を確認した後、声を掛けて一度公園に戻っていった様子だ。

同時に、散らばっていたエイリアンが一度集まり始める。

好機かと思ったが。

恐らくだが、違う。

この狡猾な動きからして、罠だとみて良い。

「敵が公園に集まっている。 一華、孤立した味方の位置は分かるか」

「皆のバイザーに転送するッス」

「……よし。 一華、孤立している部隊と連絡を取ってくれ。 我々は一度、先に戦った高架の地点まで戻る。 エイリアンは恐らくだが、一度距離を取って此方が出てきた所で一網打尽にするつもりだ。 そこを逆に一網打尽にしてやる」

「まともにやりあうつもりッスか? エイリアンは多分お代わりを出してくるッスよ」

そうだ。先に蹴散らされてからも、百体近いエイリアンが出て来たのである。

それだけじゃあない。

そもそもとして、まだマザーシップNO8が上空にいる。

どれだけ増援が来ても不思議ではない。

それに、これでは空軍も近づけない。

だが、だからこそ好機がある。

「補給車は先に一つ見つけた。 敵はどうも補給車に興味がない様子だ。 リモートで動かせるか」

「……何とかやってみるッス」

「では、補給車を全て先の高架の公園からみた死角に動かしてくれ。 まあ位置はばれるだろうがな。 浅利、先のデータを見て、孤立した部隊を集めて回ってくれ。 小田、先に動いて一華と高架で合流。 ありったけの自動砲座を準備してほしい。 弐分もそれを手伝ってくれ」

「自動砲座だけでどうにかなるか?」

小田少尉がぼやくが。

まだ手はこれだけじゃない。

「恐らく敵は壱野を最大の相手と認識した筈だ。 ならば、壱野が出れば出てくるとみて良い。 それを利用する」

具体的な作戦を説明した後、解散する。

兵士達は青ざめながら動く。

逃げ遅れた兵士達が集まって、少しずつ撤退を開始。エイリアンは不気味なほど、公園に群れて動かない。

そうこうしているうちに、救援部隊がエイリアンとぶつかったようだ。

「此方救援部隊α! エイリアンと遭遇! 戦闘力が凄まじく、コロニストの比ではありません!」

「此方でもそれは確認している! 負傷者を収容し次第、撤退しろ!」

「りょ、了解です!」

「戦力を更に整え次第、孤立した村上班と荒木班、更にマザーシップ攻撃部隊の救出は別に行う! データが足りていない相手とまともにやりあうな!」

千葉中将が救出作戦の指揮を執ってくれているようだが。

やはり大苦戦しているようだ。

当然だろう。

此方には壱野がいるのに。

これだけの慎重な戦闘を余儀なくされているのだから。

 

生き延びた兵士達が集まる。手足を失っている者も少なくない。

ある程度まとまった兵士は、後でまとめて動いて貰った。絶対に、エイリアンどもは見ているからだ。

弐分は、三城を見つけてほっとした。

完全に怯えきっているウィングダイバー隊だったが。三城が落ち着き払っていたので、錯乱したり逃げだそうとした者はいなかったようだ。

それだけでも、随分成長したと思う。

三城が意図的にやったことではなかったとしてもだ。

「指示が来るまで、よく頑張ったな」

「小兄も、あのエイリアン相手によくたたかって凄い」

「なあに、大兄ほどじゃない……」

その大兄は、地下下水道を通りながら移動して。補給トラックに積まれていたあるものを設置している。

ほどなくして、浅利少尉が戻ってくる。

最後の隠れていた兵士達を連れてきたようだ。

かなりの被害を出したが、それでも二十人以上がまだ生きている。撤退の途中で、相当数殺されただろうと思うといたたまれない。

撤退時、グレイプもタンクも逃げる途中で何両か破壊されたようだ。搭乗していた兵士達も、その場で殺されてしまっただろう。

コロニストよりは感情が見える新しいエイリアンだが、それでも何というか。

残虐性には、代わりがないように思える。

ただ、それは人間も同じか。

人間が如何に残虐な生物かは、弐分だって良く知っていた。

「此方壱野。 設置完了」

「よし、合流してくれ。 ……皆、聞いてほしい。 あのエイリアンは装甲の強力な宇宙服を着込んでいて、その上恐ろしく俊敏だ。 装備も強力で、戦闘力はコロニストの比ではない。 更に戦術も柔軟に使いこなしてくる手強い相手だ。 だが、此方も奴らの戦い方を既に見た。 対応策はある」

大兄が姿を見せて、合流する。

同時に、エイリアンが公園から動き始めた。

スカウトをしてくれている兵士達が、ふるえる声で通信してくる。

「こ、此方スカウト! エイリアンどもが、一斉に歩いて此方に向かってきます! 威圧的に……!」

「よし、スカウト戻れ。 奴らに足下が掬われるというのがどういうことか、見せつけてやろう」

残ったのは、壊れかけのニクス一機だけ。破壊されたビークルは、どれもこれも徹底的にやられていて、補修どころではなかった。

威圧的に歩いて来るエイリアンども。

此方を恐怖させるためにやっているかのようだ。

そのまま高架で射線を遮って、じっとしているようにと軍曹が指示。生き延びた兵士達は、皆そうする。

ほどなくして、敵の後衛が、予定通りの地点を越えた。

その瞬間、一華が行動を開始する。

「全自動砲座、展開!」

凄まじい数の自動砲座が同時に動き出し、一斉に後方からエイリアンを襲った。

エイリアンは明らかに苛立った様子で、自動砲座に攻撃を開始する。まずは後方の小うるさい虫を始末する、というのだろう。

補給トラックに積んでいた自動砲座全てを使った攻撃だ。

エイリアンは鎧を破壊されるものもいたが。それでも先に自動砲座に散々仲間が苦しめられたから、だろうか。

冷静に対応し、一つずつ砲座を破壊していく。

そうこうしていく内に、自動砲座がどんどん減っていき。壊す度にガッツポーズのような姿勢をエイリアンが取る。

そういえば。

弐分も見ていたが、さっき味方が崩れ始めた時。逃げる味方を撃つときも、あんなことをやっていたな。

殺しを楽しんでいる。

そう思うと、流石に怒りがわき上がってきた。

「エイリアン、41体が予定地点に入ったッス!」

「よし、やれっ!」

「全C30爆弾、起爆!」

次の瞬間。

エイリアンの足下が、文字通り消し飛んでいた。

高架を挟んで伏せていたのは、これも理由。爆風の直撃を受けるわけにはいかなかったからである。

C30爆弾。

改良を重ねたC4の後継型爆弾だ。その火力はC4の比ではなく、軍用兵器でも文字通り瞬殺する。勿論仕掛けた地点にさしかかれば、だが。

コロニスト対策で考え出された兵器だが。このエイリアンにも効いたようだ。

更に成形爆弾なので、火に放り込んだ程度では爆発せず。独自の雷管を使わなければならない。

いずれにしても、文字通りエイリアンの大半は消し飛んでいた。

今度は、負傷したところを、一方的に狩られるのはエイリアンになった。

荒木軍曹がやれ、と叫ぶと。

全員が出て、一斉反撃に出る。

今ので消し飛んだエイリアンも多かったが、手足を失ってもがいている奴も多い。壱野が動ける奴から片っ端から仕留める。他の兵士達は滅茶苦茶に攻撃をしていたが、それでも存分に効果がある。

というのも、足が脆い事は、既に荒木軍曹が調べてくれていた。

弐分から見ても、それは確かだ。このエイリアンども、妙に素足が細いのである。

宇宙服でもあるだろうこの鎧はパワードスーツも兼ねているのは確定。ならば、足回りを破壊されればどうなるか。

三城が突貫。レイピアで、エイリアンを片っ端から狩って廻る。弐分だって負けていられない。

更に生き残っていた自動砲座も、エイリアンを次々に仕留めていき。

程なくして、此方を狩る気でいた、勝ったつもりだっただろうエイリアン共は。

全滅していた。

マザーシップが高度を上げて離れていく。

「か、勝った……! モスクワ基地を全滅させた化け物共に!」

「マザーシップが逃げていくぞ!」

「やった! 俺たちに恐れを成したか!」

兵士達が血を浴びて興奮して叫んでいるが、恐らく違う。確かに投下したエイリアンが全滅したから、というのもあるが。

救出部隊を迎撃に出た部隊が孤立したから、回収と指揮に移動したのだろう。

それに、その孤立した部隊だって、しっかり準備しないと撃破するのは厳しい。

今、勝っただけだ。

「此方千葉中将。 荒木班、村上班、凄まじい活躍だったな。 無茶をするな、といいたいが。 お前達に本当に助けられた」

「いや、村上班の……特に壱野の活躍がなければ、俺たちは確実に全滅していた。 本部でも、壱野の昇進を考えてほしい」

「うむ。 それよりも、まずは撤退だ。 敵はドロップシップに乗って、各地に散り始めた。 拠点を守っているコロニストと合流するつもりなのだろう。 更に世界中に、あのエイリアンが展開し始めている。 この様子だと、コロニストでは埒があかないと判断したプライマーが、更に上の兵器を出してきたと見ていい。 今回の戦闘データを持って帰還してくれ。 帰路については、此方でナビゲートする」

「了解。 帰投する」

程なくして、キャリバンと大型輸送車、グレイプが数両来る。

負傷者を収容。更に、戦略情報部の人間もいた。新しいエイリアンの装備や、死体を回収するためだろう。

荒木軍曹は最後まで残るといった。先に帰してくれた。

小田少尉は、それを苦笑いして許容していた。

軍曹はそういう人だ。

だから、尊敬できる。

例え、理想的な軍人なんて、虚像だとしても。その虚像を本物にしようとしているなら、それは立派な人だと弐分は思うのだった。

 

4、破滅への序曲

 

元々米国では、無理に移動基地を破壊したこともあり。その過程でかなり強引に兵を集めてエルギヌスを撃破していたこともあり。兵力の消耗がひどくなりつつあった。

新兵の訓練を急ぎ、更に兵器の増産を進めていたが。

其処に、モスクワを壊滅させた新しいエイリアンが、一斉に出現したのである。

移動基地を無理に破壊したことが徒になった。

各地の拠点が次々に陥落。

皮肉な話だが。

その陥落した基地からの脱出作戦で、もっとも冷静に指揮を執ったのは。客員としてきているタール中将で。

米国の担当指揮官達は右往左往するばかりだった。

憮然としているリー元帥の所に、戦略情報部が情報をまとめてきた。デスクについて無言でいるリー元帥に。少佐が話をしてくる。

「新しいエイリアンについての情報が概ねまとまりました」

「聞かせてくれ」

「新たなエイリアンは、以降コスモノーツと呼称します。 情報を確認する限り、着用している宇宙服は強力な鎧であり、かなりの衝撃にも耐えます。 それに実験もしましたが、そもそも中に入っているエイリアンは、有毒ガスに強いようです。 コロニストが動けなくなる濃度の有毒ガスでも、平然と活動している様子が確認できました。 コロニストと違って、プライマーという文明を主体的に担っている存在であることは間違いなさそうです。 また、コロニスト以上に戦術を使いこなす他、高度なリンク機能を使って部隊同士で連携もしている様子が確認されました。 一体一体が高度リンクシステムで接続された戦車部隊と同じ危険性を持っています」

そうか。とんでもない相手を送り込んできたものだ。

そうリー元帥は思う。

プライマーはまだまだ底知れない戦力を持っている。

更に、新兵器を投入してくる可能性は高いだろう。

「リオデジャネイロの移動基地攻略作戦は中止だ。 集めた兵力を、コスモノーツだとか言う敵への対処に振り分けろ」

「分かりました。 そのように伝達します」

「兵士が足りない。 もう、半ば徴兵するしかないだろうな。 出来るだけ、戦闘に参加するまでの訓練プログラムを短縮してくれ。 これから人類は、今までの歴史に類を見ない総力戦に突入する」

「……了解です」

通信を切ると、リー元帥は大きく溜息をついていた。

もう、これは勝ち目がないかも知れない。

三隻の潜水母艦が必死に活動してくれている。

サブマリンの艦隊とともに、各地の海を行き来し。洋上を好き勝手にしているドローンをミサイルで撃墜して回ってくれている。また、沿岸部にいる敵に、テンペスト大型巡航ミサイルを叩き込み、相当数を削ってもいる。

プライマーは確かに強力だが、空軍戦力に関しては数で押してくるだけだ。

現状、レーザーへの対応策がある以上。

マザーシップの砲撃以外では、潜水母艦は止められない。

現時点では潜水母艦のうちパンドラはずっと欧州にはりついていて。

現地で苦戦中のEDFを支援し。武装をたまに補給しながら、ミサイル攻撃で怪物を削ってくれていた。

だが、プライマーもそろそろ潜水母艦に手を焼いて、対策を考え始めるだろう。

今の時点で潜水母艦はプライマーに対するカウンターウェポンとして機能してくれているのだが。

それもいつまで続くかどうか。

少し悩んだ後、リー元帥は決断する。

戦略情報部に、また連絡を入れた。

「何か新しい作戦ですか?」

「いや、そうではない。 希望がいる。 三隻の潜水母艦の存在を、そろそろ皆に公表するべきだ」

「しかし、プライマーは此方の通信などを傍受している可能性があります。 時々、不可解な動きで先手を打ってくるのです」

「分かっている。 だが、此処まで厳しい敵が現れた状況だ。 このままだと、兵士達はとてもではないが戦い続けられないだろう」

少し沈黙が流れたが。

やがて、少佐は応える。

「分かりました。 EDFで掌握しているマスコミなどから、潜水母艦の戦果を伝えるようにします」

「そうしてくれ。 少しでも希望はあった方が良い。 このままだと、精神を病んで壊れる兵士が激増するだろう」

「既にかなりの兵士がPTSDを受けています。 今の時点では、薬物を用いて無理矢理戦場に立たせるしかない未来が見えてきています」

黙り込むと。

好きにしてくれと、いうしかなかった。

リー元帥も、戦争の悲惨さは知っている。

EDFの設立と。

世界政府の樹立までに、人類は大量の血を流した。

最後の決戦とも言える「紛争」は本当に悲惨な戦闘で。これを引き起こしたテロリスト数百人は死ぬか死刑になったが。

それでも今でも、禍根を残している。

新しいエイリアン。それも恐らく、プライマーにとっての支配者層であろう精鋭が出てきた事で。

更に戦局は悪化した。

今後、更に悪化していくだろう。

もしも逆転の目があるとしたら、マザーシップを撃墜するしかないが。どうにも弱点が見当たらない。

フーリガン砲は、移動基地すら倒せなかった。

そして、人類のテクノロジーでは、これ以上の火力を作り出す事は不可能だ。

今、チラン爆雷という兵器を先進科学研が提案しているが。まだ理論上の産物で、とても完成どころではない。

それを用いても、マザーシップを落とせるかすらも分からない。

兵士達に希望を強要しておいて。

自分が一番希望を持っていないな。

そう自嘲しながら。

リー元帥はまずい紅茶を飲み下す。

紅茶はもう、冷え切っていた。

 

(続)