移動基地の最期
序、前哨戦
東京周辺での戦闘を行い。東京基地の戦力再編に協力。やっと一息ついたところで、壱野は村上班を率いて関西に出向いた。
関西でもかなり怪物が彼方此方に出ていて、作戦予定時刻までは各地での戦闘を続行。
二十を超える小規模拠点を叩き。
そして大量の怪物やコロニストを駆逐した。
荒木班とも合流したが。
大阪基地で軽く話すくらいしか時間がなく。
どちらも精鋭部隊として、引く手あまたと言う事もある。
近畿各地での戦闘に引っ張り出され、話をゆっくりしたり、食事をともにする時間もなかった。
いずれにしても、荒木軍曹は中佐に昇進したそうだ。
この間の富士平原での戦い。その前の、アーケルスとの戦いで、また多くの士官が死んだ。
穴埋めに必要とされたのだ。
そもそもとして、兵士の出世が異様に早い軍は、それだけ苦戦しているか。もしくは身内人事がまかり通っているかのどちらかだという。
EDFは前者だ。
荒木軍曹は、確かに多くの功績を挙げているが。
それでも、中佐になるのは早すぎるし。
本部肝いりといっても。
他の本部肝いりの兵士は、まだ少佐か大尉止まりらしい。
それだけ、EDFが苦戦していることの、証左であるのだと。荒木軍曹は、悲しそうに言っていた。
いずれにしても、また吉野近辺に出張ってきていたプライマーの小規模部隊を叩き潰して、大阪基地に戻る。
兵士達は村上班と荒木班が来てから、戦闘で死ぬ仲間が露骨に減ったと言って歓迎してくれているし。
筒井大佐もかなり顔を立ててくれる。
大阪の人間はとにかく強かだと聞いていたのだけれども。
実際に接してみると、やはり地域だけで性格は決まるものでもないらしい。
いずれにしても、既にタイタン十両、ニクス二十機、タンク五十四両が大阪基地に集結しており。
前回のロンドンにおける移動基地攻略作戦ほどではないが。
充分に、移動基地を潰せる戦力は整った、と言う事だった。
ようやく、戦略情報部が作戦を実施できると判断したらしい。
千葉中将が、リモートで参加。
大阪基地にいる佐官以上の士官全員が参加する会議が開始され。
其処で、戦略情報部の作戦が説明された。
「大阪にまず霧を流し込みます。 これは時間稼ぎと同時に、展開しているコロニストに視覚的ダメージを与えるためです」
「そうなると、霧は……」
「生成装置から流し込みます。 霧の生成は難しくありません。 ただしこれはあくまで接近のための目くらましです」
相手が対策してくることは想定済と、戦略情報部は言うのだった。
その後、接近したタイタンとニクス、戦車隊によって。移動基地についている砲台を徹底的に攻撃する。
移動基地は危機に陥れば、確実に立ち上がる。
まず狙うのは、対空砲台だという。
「ロンドンでの戦闘で、どれが対空砲台かは分かっています。 タイタンとニクス、戦車隊は基地の周辺に展開しているコロニストを歩兵部隊と連携しながら掃討し、まずは対空砲台を優先的に破壊してください」
「了解や。 それで、その後は」
「まずはフォボスによる爆撃で、残る砲台……大きなダメージを大阪の街に与えた主砲を含む地上部分の砲台を破壊します。 フォボスによる爆撃が開始される前に連絡を入れますので、皆基地から一度距離を取ってください」
「……」
説明は続く。
砲台を破壊した後は、二段階の作戦で行くと言う。
既に二十隻以上のテレポーションシップを落として実績を作ったフーリガン砲搭載の新型機。
戦闘開始から五ヶ月の時点で、試作機が全滅した事で兵士達を萎えさせたあれだが。
あれで、攻撃を試すという。
移動基地の装甲が、黄金の装甲であることは分かっている。テレポーションシップのと同じ奴だ。
戦術核を搭載したバンカーバスターでなら、何とかテレポーションシップは撃墜できたが。
同じ火力が、通じるとは限らない。
テレポーションシップと移動基地では、大きさが違い過ぎる。
装甲が違い過ぎても、不思議では無いからだ。
通じなかった場合についても、作戦はあるという。
「ロンドン基地で撮影しましたが、要塞下部には大量の砲台があります。 これを包囲を維持しながら、破壊してください。 破壊後、レールガンを含む部隊で接近を行い、下部にあるハッチを狙います」
「基地の下部にハッチがあるのか!」
「はい。 ロンドンでの戦闘で確認済みです。 常に開いているわけではないようですが、少なくとも直衛戦力を失えばハッチから補給を試みるはずです。 其処に、一撃を叩き込んでください」
「了解や」
レールガンについては、三両だけ来ている。
ただし、レールガンはここ一月ほどの戦闘で、一華がデータを提出したのだが。
接近戦に極端に弱く。敵を貫くことはできるが。敵に接近された場合、為す術がないという。
挙手。壱野から、意見を言う。
「恐らく移動基地は怪物とコロニストを危機とみれば投下してきます。 レールガンは肉弾戦を挑まれると文字通り何もできません。 我々も攻撃を試したく」
「分かりました。 レールガンの接近が困難と判断した場合は、柔軟に現場で行動を行ってください」
「分かったで。 村上班、頼むわ。 何とか隙は作るさかいな」
「有難うございます筒井大佐。 必ずや」
他にも、幾つかの指示が出る。
恐らくだが、若狭方面に移動基地は抜けようとするだろう、という話もされる。
いずれにしても、移動基地に踏みつぶされるのを避ける為。対空砲を移動基地が失ったら、即座に全軍が離れる。
これについては、ロンドンでの戦訓からだ。
移動基地を逃がさないために、機動力に長けたグレイプによる機動部隊も編成される。
プライマーに中華で致命的打撃を与えてから一月。
不気味なほど静かなプライマーに対して、ここで決定的な打撃を与えておきたい。
それが、必死に負傷者の現状復帰と。
新兵の訓練を進めているEDF司令部の思惑。
そして、その本気を示すように。
作戦は二重三重に練られていた。
ミーティングが終わり、各自解散する。
作戦開始は六時間後だ。
今回は大軍が動員されるが、この間の撤退戦の時の戦闘データを本部が見たのか。村上班は独自の動きをするように、と言う事だった。
作戦の行動に関するグリーンライトを渡されていると言う事だ。
荒木班もこれは同じらしい。
最初の戦闘から作戦のグリーンライトを行使していいという事だが。
村上班に対して、反感を抱いている部隊もいるらしい。
各地での戦績が嘘くさい、というのである。
その一方で、村上班と一緒に戦闘した部隊からは、そういう話は聞かない。
だが、それはそれ。
これだけ人間がいる。
最初一千万いたEDFの兵士達も。今は半数ほどが入れ変わった状態だ。大半が戦死し、残りは予備役や新兵に変わった。
開戦から既に八ヶ月が経過しているが。
今は小康状態とは言え、各地で被害が出続けているのは変わりなく。
ようやく撤退作戦が終わったアフリカを除いて、世界中がまだまだ怪物とコロニストの脅威にさらされている。
民間用のアーマーが今何とか製造を開始されているらしいのだが。
それも配布されるのはいつの事になるやら。
壱野はまずは、皆の所に戻り、作戦を伝える。
一華は、改良を続けているらしい赤いニクスを今回も持っていくそうである。
頷くと、壱野は皆に告げる。
「全員、遠距離から大火力を出せる武器を必ず持って行ってくれ。 移動基地は必ず逃げようとするはずだ」
「今度こそ逃がさない、というわけだな」
「そうだ。 アフリカに逃げ込んだ一機以外は、仕留められるように今回で実績を作る」
「分かった」
弐分と三城がそれぞれいい。
それぞれ、武器を手にする。一月で、多くのデータが取得できた。先進科学研は、それなりのスピードで新しい武器を開発、古い武器を改良してくれている。
壱野が渡されているライサンダーFも、何度か調整が入って。渡されたときとは比べものにならないほど性能が上がった。
だが、それでも暴れ馬には変わらない。
そういう事もあり、やっと普及が始まったライサンダー2と違い。ライサンダーFは、まだ一部の兵士にしか回されていないそうだ。
「出撃まで少し時間がある。 データを共有しておく」
EDFは今回の作戦までに、多数の無人機を利用して。移動基地の対空砲台についての調査を進めていた。
その位置を共有する。
恐らくニクスとタイタンによる接近攻撃だけでは、砲台の破壊は不可能で。
砲台を破壊しきらなければ、絶対に爆撃機や攻撃機は撃墜される。
効率よく戦闘を進めれば進めるほど、被害も減る。
それを考えると。
なおさらに、腕を信頼出来る皆に、情報は共有しなければならなかった。
なお、今回はニクスだけでは無く、グレイプも支給される。
移動基地が逃げ始めた場合は、快足を誇る歩兵輸送車であるグレイプで追撃をかける。
この時のために、壱野はこつこつと勉強して、グレイプやブラッカーの運転ライセンスを取ったのだ。
流石に一華のような最高位ランクのライセンスではないが。
それでも動かす事はもう出来る。
恐らくレールガンの操縦も出来るだろうが。
しかしながら、レールガンを一華ほど上手には扱えないだろう。
質問を幾つか受けたので、答えておく。
戦闘前に、疑問は解消しておかなければならなかった。
そろそろ時間か。
そう思った頃、連絡が来る。
荒木軍曹からだった。
実際の階級は中佐だが。
「壱野。 其方は準備万端か」
「いつでも出られます。 以前の撤退戦で受けた傷は皆大丈夫ですか」
「ああ、問題ない。 EDFの技術統合によって、軍医療の技術も大幅に進歩しているからな」
「分かりました。 武運を祈ります」
軽く出撃前に話をしておく。
荒木班もニクスを支給されるが、流石に相馬少尉の技量では、一華ほど上手にニクスは使えない様子だ。
だがそれが当たり前である。
ニクスを破壊されても生還しているのだから、それだけで可とするべきなのだろう。
今度は戦略情報部から通信が入る。
あの少佐からだった。
「村上壱野少佐。 今回の戦闘に参加すると聞いています」
「その通りだが、何だろうか」
「データを可能な限りとってください。 現実的と判断し次第、各地で移動基地の破壊作戦を開始します」
「了解した」
通信は最低限に。
はっきりいって、戦略情報部は好きになれない。
いずれにしても、今回でしっかりデータを取り。
少なくとも残り三機の移動基地は破壊してしまいたいのだろう。アフリカにいる奴は、はっきりいってもはやどうにもならない。
弐分が、ぼそりと言った。
「大兄、移動基地を破壊したとして……勝てるのかな」
「いや、それだけでは無理だろうな。 移動基地は明らかに使い捨ての無人兵器だ。 兵員を搭載はしているようだが、中にプライマーが乗っているとは思えない。 修理もしている様子がない」
「そうだな。 そんな自動兵器でも、なんとか犠牲を払いながら破壊するしかないんだな」
「そうだ。 そんながらくた兵器に命をすてる人間を可能な限り減らすように動くのも、俺たちの役割だ」
三城もこくりと頷く。
出撃の時間が来た。
現地に出向く。
道頓堀の辺りは、移動基地が主砲をぶっ放したおかげで、完全に更地になっている。
既に霧を作り出す部隊は動き始めており。
現地には、霧が充満し始めているようだった。
大型輸送車にニクスとグレイプを乗せ、移動を開始。他にもかなりの兵員が、輸送車に乗り込んでいた。
この規模の開戦だと、村上班専用とはいかないのである。
兵士達の声は聞こえる。
「大阪基地に運ばれて来ていた大物兵器は根こそぎ出るらしいな」
「今回、総司令部は勝負を賭ける気だぜ」
「関東ではずっと敵との小競り合いが続いているらしいな。 例の228基地からまだ敵が来続けているらしい」
「いつまでこの戦闘続くんだろうな。 移動基地を潰したら、その228基地を叩くのかな」
厭戦気分が広まっている。
まだ移動基地を潰せてもいないのに。
関東だけではない。
近畿だって、ずっとプライマーの断続的な攻撃に晒されてきていた。
マザーシップも、この一ヶ月で二回、日本に接近し。一度は数百本のアンカーを投下してきた。
投下されたアンカーはそれぞれ現地の部隊が対応して撃破したが。
決してその過程で出た犠牲は小さくなかった。
それでも必死に兵力を準備して、ひねり出したのが今回の作戦の兵士達である。
それが厭戦気分に包まれているのを見ると。
八ヶ月の戦闘で、もうEDFは疲れているとみるしかない。
「この間の富士の戦闘でとんでもないキルスコアを出した部隊が今回は参加してくれるらしい」
「どうせ本部の大げさな発表だろ」
「いや、そいつらが追撃を食い止めたのは事実だそうだ。 関東にいる友人が、話をしてくれた」
「そうか。 だったら、移動基地も其奴らだけでぱぱっと破壊してほしいもんだな」
無理を言うなよ。
そう口を挟みたくなったが、壱野も我慢する。
愚痴が出るのは当たり前だ。
こんな戦況なのである。
プライマーはアフリカを完全掌握。
それどころか、いわゆる第三諸国だった地域では、まだまだプライマーが圧倒的に優勢だ。
何とかEDFも奪回作戦を考えているらしいが。
兵力がとてもではないが足りない。
アフリカや、プライマーに蹂躙されている地域からの難民は。当然逃げた先の住民をもめ事を起こしているらしく。
医療設備はどんどん増設されているが常にパンク状態。
更に、様々な社会的システムがどんどん停止していき。
今では、政府に対する不満があふれかえっているという。
こんな状況になっても、まだプライマーとの講和とか騒ぐ議員がいるらしいが。
それもまあ、仕方がないのかも知れない。
大阪基地と、大阪に居座っている移動基地はそれほど距離がない。霧の中部隊が展開すると、すぐに大型輸送車は戻っていった。ピストン輸送で兵士やら兵器やらをこうやって運ぶのだ。
移動基地の主砲の火力は分かっている。
最悪の事態に備え、部隊はかなり広範囲に展開していた。
村上班は基地の中、ライトを振って誘導している部隊についていき。重装備のニクスとタイタンで構成された先鋒と合流する。
この部隊が、霧をついて接近し。
基地の周辺に展開しているコロニストの部隊を排除する。
コロニストとの戦闘も、膨大なデータが集まっていると言う事もある。
流石に、ニクスもタイタンも、装甲を相当に強化され。
有効とされた火器もどんどん採用されているようだ。
ただ、一華がぼやく。
「どのニクスも、機動力を重視していないッスね」
「それは仕方がない。 一華のPCのようなものを量産するわけにもいかないだろう」
「それはそうかも知れないッスけど。 いざという時に逃げられなくて爆発四散するし、射撃は名人芸に頼る事になるしで、改善が絶対に必要ッスよ」
「そうだな。 そうかも知れないな」
実は、一華にこの間訓練を見て欲しいと言われて。
弐分と一緒に射撃訓練につきあったのだ。
確かに自己申告通り、本当に酷い技量だった。
かなり精度が良い銃を渡しても、まるで当てられる気がしなかった。
銃弾の無駄と判断して、途中で切りあげさせたが。
ともかく、一華は戦場ではビークルを使ってもらい。
また、支援や自動砲座のコントロールなど、ブレインとして活動してくれればそれでいい。
それ以外は求めない方が良いだろう。
「後、二足歩行システムにこだわっていないで、やっぱり足回りは無限軌道にでもした方が良いッス。 この足回り、私みたいに高機動で活用するのでなければ、はっきりいってむしろ足枷ッスよ」
「レポートは出している。 ハイロウミックスだったか。 戦況が悪化し、無事な兵器も不足し始めている今、本部も検討は始めている様子だ」
「……」
「それに、義手や義足の開発延長という経緯もある」
モヤシという言葉以外が出てこない一華でも、銃を持ったり重い軍用の装備を運べるのは、戦闘時に身につけているパワードスケルトンがあるからだ。
フェンサー用のものほどごつくはないが、それでも一華が軍用のアサルトライフルを持つことが出来。反動でひっくり返らないほどのパワーは出るようにはなっている。
それで充分と判断する他なかった。
「現在、部隊の72%が予定地点に展開完了」
「此方筒井。 村上班、敵の様子はどうや」
「今の時点では動きはありませんね。 本音を言うと定点目標なのだし、火砲による集中投射を試したい所ですが」
「米国で既にやったそうや。 砲弾は全部弾きかえされたらしいで」
そうか、ならばやむを得ない。
霧が、急激に晴れていく。どうやら、これは全軍が展開し終える前に、戦闘を始めなければならないらしい。
「敵が気づきましたね。 筒井大佐、戦闘を開始する準備を」
「分かった。 戦略情報部、部隊の展開のサポートたのむわ。 千葉中将、我等これより戦闘を開始せり。 総合的な指揮は頼みますわ」
「任せておけ。 総員、総力戦準備! 今日、なんとしてもこの移動基地を破壊し、日本での優勢を決定的なものとする!」
喚声が上がるが。士気はやはり高いとは言えない。
タイタンの一両が、筒井大佐の乗っている指揮車両だ。
絶対にやらせない。
既にコロニストが、ガアガアと鳴きながら集まり始めている。
展開したニクスが、前面に出る。戦車部隊も。
移動基地の砲台が、動き始める。
「戦闘開始だ」
前に出ると、壱野は出会い頭に。突貫しようとしてきたショットガン持ちのコロニストの頭を、吹き飛ばしていた。
1、要塞肉薄
三城は渡されている兵器にエネルギーを充填させていく。
プラズマキャノンの一種だが、少し前から本格運用が始まった兵器。
最大級に火力のみをたかめ、一撃でコロニストを確殺し。テレポーションシップもハッチに攻撃を叩き込みさえすれば確殺で撃墜できる兵器として作り出された代物。
プラズマグレートキャノンである。
エネルギーを火力に相応しい大出力食うことが欠点だが。
有り難い事に、この間まで使っていた誘導兵器のように、過剰な負担をフライトユニットには掛けない。
今回、三城が使う狙撃武器がこのプラズマグレートキャノンとなる。
弾速もなかなかなので、当てる事は難しく無かった。
ニクス隊、戦車隊、タイタンで構成された主力部隊が、移動基地周辺に展開しているコロニストに猛攻を加え始める。
大兄が、目立つ個体を次々に仕留めているが、三城はその戦闘は無視。
後方に飛び、ビルに上がると。
そこからグレートキャノンをぶっ放す。
敵の大型砲台に着弾。凄まじい爆発を引き起こし、砲台に大きな罅を穿っていた。
三城は大兄に言われている。
戦闘が開始されたら、皆はコロニストと基地の対空砲台の排除に夢中になる。
だが、敵のプラズマ砲やレーザー砲は兎も角。主砲を放置しておくと危険だ、と。
「三城と弐分は機動力を生かし、大口径砲をフル活用して。敵の大型砲、主砲を叩いてほしい」と。
作戦許可も、筒井大佐に貰っている。
それに、行動のグリーンライトというのを貰ってから、格段に動きやすくなったのも事実だ。
更に第二射。
下部からドローンをどんどん射出し。大火力で攻撃隊に痛打を浴びせていた大型砲台に着弾。
モロに巨大な大型砲台が爆裂し。ドローンもろとも、粉々に吹き飛んでいた。
「グレート」の名前に相応しい火力だ。
だが、それで移動基地の砲台が、一斉に此方を向く。
それでいい。
注意を少しでも惹けば、味方に飛んで行く攻撃が減るし。
何よりこの辺りのビルは既に無人だ。
エネルギーをチャージしながら移動。別のビル屋上に降り立つと。再びエネルギーチャージを開始。
「タンク第二隊、消耗12%! 後退して後続と合流する!」
「東攻撃部隊、急いで攻撃に加われ! 西部隊はどうなっている!」
「突出してきたコロニストと戦闘中! 基地まではたどり着けていません!」
「敵の動きが速いな。 正面部隊は!」
大兄から通信が入る。
正面に展開したコロニストが多く、まだ敵基地には到達できないと。
ならば、三城は敵の大型砲をつぶし続けるだけだ。
以前、威力偵察をした時に幾つか潰したが、まだまだたくさんある。それを片っ端から破壊していく。
プラズマグレートキャノンが唸る度に。大型砲台が激しく損傷する。
小兄も大口径砲の連射で、敵の大型砲台を狙って徹底的に破壊してくれている。それで、敵の注意が周辺のビルに向き。次々と大型の高層ビルが粉砕されている。復興はとても大変だろうが。
それでも、人命の方が先だ。
発射時の反動がもの凄いが、それでもまた一つ、大型砲台を粉砕する。
兵士達が、少しずつコロニストを押し込み始める。
「よし、主砲を潰す。 三城、あわせろ」
「分かった」
小兄から通信が来たので、すぐに動く。
大型砲台は殆どが機能停止か、半壊している所まで破壊した。まあ事前に何処にはえているかは分かっていた。
それに、前回威力偵察したとき。ロンドンで戦闘した時に。
この移動基地が使い捨てで、修理もされないことも知っている。
故に、とにかく砲台は破壊していく。
主砲はまだ動いていないが、好都合だ。
前の威力偵察でダメージを与えた主砲に、更にプラズマグレートキャノンを叩き込む。ぐわんと、基地が揺れたような気さえした。
流石に主砲だけあってタフだが。
それでも、今の一撃がモロに入ればきちんと効く。
火を噴き始める主砲。
更に傷口を抉るように。大量に飛んでくるレーザーとプラズマに狙われないよう移動し続けながら。何度も攻撃を叩き込む。
七発目の射撃を叩き込んだ瞬間。
ついに移動基地の主砲が、へし折れていた。
爆散しながら、主砲が基地の下部へと落ちていき。
其処で戦闘していたコロニストをまとめて押し潰し、爆発する。
兵士達が驚きの声を上げていた。
「支援砲撃か!? しかし、スゲエ火力だ」
「いずれにしても好機だ! エイリアンどもを押し潰せ!」
「よし……。 これで主砲の脅威は去ったな。 後は二人で連携して、大型の砲から集中して潰してくれ」
「コロニストは大丈夫?」
問題ないと、大兄は言う。
大型砲の支援がなくなったコロニストは、全方位の部隊展開が終わった事もある。集中砲火を受けて、次々に潰されているようだ。
ドローンも出て来ているが。ドローンの発射口になっている砲台が潰された事。
更に、少数ながらネグリング自走ロケット砲が出てきている事もある。
次々に叩き落とされ、脅威にはなっていないようだ。
頷くと、そのまま砲台の破壊を続行。
一番大きい砲台はあらかた潰した。後は順番に、目につく砲台を一つずつ破壊していく。
対空砲については、大兄や他の味方に任せる。
今は、移動基地の戦力を順番に削る。
それが先だ。
プラズマグレートキャノンが唸る。
放つときの衝撃が凄まじくて、文字通りずり下がる程だが。
それだけの火力は充分にある。
中型くらいの砲台だったら、一撃で消し飛ぶ。敵は主砲で此方を薙ぎ払うこともできなくなり。
しかしながら、大量のコロニストで味方の接近を阻んでいる。小型の砲台によるダメージも侮れない。
だが、大兄と一華のいる前衛が、ついにやったようだ。
「此方正面攻撃部隊。 コロニストの排除完了や。 敵前面に展開し、砲台を削れ!」
「此方ニクス隊。 指定の砲台を攻撃開始する」
「此方タイタン。 同じく敵砲台を破壊する」
「此方荒木班」
む、荒木班も戦線に到着したか。
かなりのコロニストに行く手を阻まれていたはずだが。
少し不安になったが。
すぐに安心できた。
「此方も前面の敵を排除完了した。 これより基地への肉弾攻撃に移る」
「流石やな。 作戦通り、接近のしすぎは避けるんやで」
「分かっている」
基地が、四方からの猛烈な火力投射に晒され始める。一部のニクスや戦車は、味方部隊と交戦中のコロニストを横から狙い始めたようだ。十字砲火に晒されたコロニストは、勇敢だが無意味な抵抗を続ける。
或いは、敵にも人間はこう見えているのか。
いや、周囲を飛び回る五月蠅い虫くらいにしか見えていない筈だ。
「三城」
「小兄」
「砲台の攻撃は順調か」
「問題ない」
声を掛けて来たというのは、黙っているのが少しばかり心配になったか。
時々小兄は五月蠅いほど世話を焼こうとするが。
それは別に嫌いじゃなかった。
「まだ少数のコロニストが彼方此方にいるようだ。 戦闘時は気を付けろ」
「分かった」
通信を切ると、プラズマグレートキャノンに火力を充填。
狙いは砲台じゃない。
どうやら、その言葉通りに。
少数のコロニストが、キャリバンを狙って動いている様子だったからだ。
ビル影を通って、器用に視線を切って動いている。
いずれにしても、後方支援要員や。ましてや救護車両を奇襲するなんて、許されることではない。
容赦なく、グレートキャノンを叩き込み。
数体で動いていたコロニストを、まとめて吹き飛ばしていた。
手足も胴体もバラバラになって吹っ飛ぶ。
全部死んだな。
それを確認した後、基地への攻撃に戻る。
それにしても凄い火力だ。連発が出来ないのが玉に瑕だが。それでも、この火力だったら。
もっと洗練すれば、きっと戦況を良く出来る筈だ。
戦闘開始から二時間。
激烈な抵抗を制して、味方の全ての部隊が移動基地に猛攻を加えている。筒井大佐が接近しすぎないようにと注意しているが。いずれの部隊も血を浴びて、相当に興奮しているようだった。
「此方タンク21! 目標の砲台を破壊!」
「タイタン4、レクイエム砲にて目標の可動型砲台を破壊! やったぞ!」
「よし、敵の防空能力はほぼ沈黙した! 総員下がり、今のうちに補給と陣形の再編を済ませろ!」
「イエッサ!」
千葉中将が指示を出すと、全軍が下がりはじめる。
既に周囲はコロニストのしがいの山。
対空砲も、あらかた黙った。
移動基地は恐るべき事にまだ多数の砲台を備えて稼働しているが、いずれも小型のものばかりである。
本番は此処からだと、三城も分かっている。
だから、グレートキャノンにエネルギーチャージをしながら待つ。
わずかに残っているコロニストの残党を片付けながら、味方が後退を開始。
主力になる大型砲を根こそぎやられている移動基地は、いつ動き出してもおかしくないし。残った小型砲だけでも、まだまだ充分な脅威だ。
きんと、音がする。
この飛行音は、間違いない。
フォボスである。
「此方フォボス。 まちかねたぞ。 これより空爆を開始する!」
「対空砲は沈黙している。 容赦なく吹き飛ばせ!」
「まずは露払いだな。 ロックンロール!」
大量の爆弾が、一斉に投下されるのが三城の位置からも見えた。
爆音が連鎖する中、基地の上部にある砲台が殆ど消し飛んでいくのが見える。
残っていたわずかな対空砲台がフォボスを狙おうとしたようだが。それは大兄が狙撃して潰したようだ。
大兄から通信が来る。
「よし、弐分、三城、戻れ。 ここからは肉弾戦だ」
「了解した」
「わかった。 すぐに其方に行く」
ビルから飛び降りつつ、フライトユニットを噴かし前線へ。
そのまま降り立ったのは、一華がリモートコントロールしているグレイプの上だ。
怪物がわんさか投下されて肉弾戦という可能性もあるが。
今基地の下部にあり。埋まっている砲台を潰す事からまずは始めなければならない。
これからフーリガン砲とか言う、テレポーションシップを落とせる攻撃を試すようだけれども。
どうせ効かないだろう。
そう思っていると、ずいぶんとずんぐりとした大きな飛行機が飛んでくる。
あれが、新兵器とやらか。
「まずは予定通りフーリガン砲を試す。 総員、基地が動き出した時に備えろ」
「英国での戦闘の記録によると、基地の下にはわんさか砲台がついとる。 更に基地からは怪物やコロニストも出てくるようや。 これからが本番や。 皆気張りい!」
筒井大佐が声を張り上げる。
兵士達が見守る中、ぽんとミサイルみたいな形をした砲弾が投下され。
それが基地を直撃。
ずんと、凄い音を立てて爆発していた。
「此方バンカー8。 効果を確認されたし」
「此方スカウト。 基地の装甲には損傷を与えた模様」
「やったか……?」
「いや、駄目です! 基地、健在の模様! 動き始めます!」
グレイプに乗ったまま、三城はグレートキャノンを構える。
基地が、激しい地震のような揺れと同時に動き出す。
分かりきっていた事だ。
兵士達が、恐怖の声を上げた。
「ほ、砲台だらけだ……!」
「上についていた砲台と、殆ど数も変わらないぞ! 空爆だって、あの位置だと通らない!」
「あほう! 全部分かっていたことや! テレポーションシップとあのデカブツだと大きさも違い過ぎる! 通じなくてもしかたがない! みな、ここからが本番や! 怪物やらコロニストやらが出てくる前に、可能な限り砲台を黙らせえ!」
「い、イエッサ!」
凄まじいドリルのような多数の足を見せつけながら、移動基地が立ち上がる。
英国の時とは違う。
上部についている砲台はあらかた沈黙している。
つまり、敵の主砲はなく、しかも此方は敵が動く事だって分かっている。
既に肉弾攻撃が出来るようにレールガンが待機しているが。
立ち上がるや否や、移動基地は動き始めていた。
「逃がすものか! 総員、攻撃を集中! まずは砲台をつぶし、敵の火力を削げ!」
「此方戦略情報部。 映像を確認。 英国で交戦した移動基地よりも、砲台がかなり多いようです」
「なんだと」
「英国の移動基地に損傷を受けたことで、その間に強化改造をしていた可能性があります」
そうかそうか。
だが、知った事か。
早速、プラズマグレートキャノンを叩き込む。
下部にある砲台は、高出力のレーザー砲が主体だ。戦車隊もタイタンも、主砲を叩き込み始める。
ニクスも無理矢理上半身をめい一杯上げて、攻撃を開始。
砲台が次々爆散し始める。
だが、移動基地も黙っていない。北に向け移動しながら、ぼとぼとと凄まじい勢いでβ型、α型の怪物を落とし始めていた。コロニストも少しずつ落としているようだ。
「此方レールガン! 怪物多数で近づけない!」
「砲台は」
「攻撃は苛烈! とてもではありませんが、無視して近づける状態ではありません!」
「やむをえない。 双方に対処しつつ好機を狙え」
千葉中将が、おおざっぱな指示を出す。
まあそうだろうな。
そう思いながら、グレートキャノンで目立つレーザー砲台を次々に粉砕する。特に多数ある砲台の中でも、緑色のレーザーを放つ砲台が強烈なようで。集中攻撃を受けたグレイプが見る間に赤熱、爆散しているのを何度も見た。
怪物の数もかなり多く、包囲している部隊が苦戦しているのが見える。
「三城、今は砲台の攻撃に集中しろ。 一華は怪物を近づけるな」
無言のまま、味方に次々被害を出させている凶悪なレーザー砲台を次々に粉砕する。
エネルギー充填を急ぐと、フライトユニットが動かなくなるのが厳しい。
一華が周囲に自動砲座を展開。
近付いてくる怪物を、片っ端からそれで射すくめ始めるが。ニクスにもレーザーが集中していて、装甲がどんどん削られているのが見えて分かる程だ。
「こ、こちらタイタン3! 一度後退する!」
「此方タイタン1! 多数のコロニストの攻撃を受けている! 支援をしてくれ!」
「くっ……! 移動基地の戦闘力はこれほどか」
「いえ、移動基地は明らかに予想通りに北部に逃げようとしています。 追い詰めているのは間違いありません。 攻撃を続行してください」
戦略情報部の冷酷な指示。
視界の隅で、α型に集られた戦車が大破するのが見えた。
ニクスも次々におぞましい火力が集中するレーザーにやられているようだ。だが、大兄の狙撃もある。
緑色のレーザーは、見る間に減ってきている。
三城も射撃を続行。
味方も苦戦しながら、レーザー砲台を次々に破壊してくれている。砲台そのものは、小型が中心。
その小型レーザー砲台の火力が異常すぎるのだ。
「レーザーってエネルギー食うッスけどねえ。 あの基地、ばらして動力がどうなっているか調べたいッスねえ」
「そんな余裕があるか!」
「まあさっさとぶっ壊して、後は先進科学研に任せるのが一番ッスかね。 私自身で調べたいくらいだけど」
「はあ。 相変わらず頭のねじが飛んでいるな」
一華とやりとりをしているのはどうも浅利少尉のようだ。
荒木班も、前線で勇戦を続けていて、次々にレーザー砲台を潰しているが。
際限なく沸いてくる怪物とコロニストに、相当な苦戦をしているらしい。
「味方損耗率、12%を超えました。 そろそろ戦闘の限界です」
「敵怪物、際限なく追加されています!」
「このままだとじり貧や。 レーザー砲台は……」
「敵のレーザー砲台、消耗81%! もう少しで排除完了します!」
無言で三城は更に一つ、レーザー砲台を粉砕する。
至近まで怪物が迫っていたが。三城がリモートコントロールしているグレイプが、速射砲で吹き飛ばしていた。
レーザーが減ったことで、味方も怪物とコロニスト相手に集中攻撃をし始めている。
それで、やっと形勢は何とか持ち直したが。
此処までに失った戦力が多すぎるようだ。
もう一つ、レーザー砲台を粉砕する。
そこで、ついに大兄から指示が来た。
「よし。 俺たちで突貫する。 弐分、三城。 先陣を切れ」
「了解!」
「わかった。 行く」
立ち上がる。ついに出番だ。
敵のレーザー砲台はまだ残っているが、それでもどうにかなると見た。
コロニストは恐らく品切れ。
見た感じ、もう内部にコロニストは乗っていないのだろう。
大量のα型とβ型がいるが、変種はいない様子だ。金のα型や銀のβ型がいたら大変だったのだが。
あいつらがいないのなら。いける。
補給トラックに飛び込むと、自衛用のレイピアを取りだす。
そして、先にブースターとスラスターを同時に噴かしてすっ飛んでいった小兄を見送りつつ。
グレートキャノンにエネルギーをチャージ。
それから、飛んでいた。
大兄とニクスは後方から来てくれる。
また、リモートコントロールしているグレイプも、続いてくれるはずだ。
フライトユニットを緊急チャージ状態にしてしまっても、大丈夫。
少し前に一華に話したバイクの件。
フライトユニットが使えなくなったとき、バイクに乗れたらと言う事を話した事があったのだが。
バイクにすぐには乗れなくても。グレイプにタンクデサンドすればいい。
前衛で、怪物相手に阿修羅のように暴れている小兄は一旦無視。あの様子だと、グレートキャノンを敵ハッチに叩き込んでほしいのだ。
そのまま、加速して飛ぶ。
怪物がかなりの数反応するが、大兄と一華の支援攻撃が、怪物を黙らせてくれる。怪物の大半も、四方八方からの飽和攻撃に対応するので手一杯で、三城を見ているどころではない。
一部のレーザー砲台が反応。
何カ所か、肌を擦る。
かなり熱いし痛いが、それでもどうでもいい。
こんな程度の痛み。
親とは言えないあの野獣共に、幼い頃感情を殺された時に比べれば。
はっきりいってなんでもない。
見えてきた。敵はハッチを開けっ放しにしている。
空中で、グレートキャノンをぶっ放し、ハッチに叩き込む。
大爆発が発生すると同時に、敵の基地があからさまに揺れた。
怪物が出てくるのが止まる。
ハッチを閉じようとする移動基地だが。
勝機を見いだしたのか。
筒井大佐が叫んだ。
「よし、村上班がやった! 基地にダメージを与えたで! 怪物を今のうちに掃討! レーザーもブッ潰すんや!」
「イエッサ! EDF! EDF!」
兵士達が突貫を開始。
怪物相手に、怖れずに立ち向かう。
残っているタイタンが猛攻を加え、生き残ったレーザー砲台に集中攻撃。移動しながら基地は逃げようとするが、兵士達はグレイプに乗って、果敢に追っていく。
一度グレイプに着地した三城。フライトユニットのエネルギーが枯渇寸前だ。チャージをする時間がもったいないが、またなければならない。
大兄が、一華に指示。
「速度を上げられるか」
「グレイプだけなら、真下に特急便出来るッスよ」
「分かった。 それでいい。 やってくれ」
本当に、ぐんとグレイプが加速。
大兄もグレイプにタンクデサンド。アサルトで、周囲の怪物を薙ぎ払いながら、ハッチの真下を目指す。
小兄が追いついてきた。
「大兄、周囲の雑魚は俺が蹴散らす!」
「頼むぞ! 三城、あわせろ! 一撃で……後一撃で決める!」
「わかった」
エネルギー、充填完了。
十秒程度の時間が、長く感じる。
此処から、グレートキャノンにエネルギーを充填。向かい風が凄い。グレイプがそれだけスピードを出していると言う事だ。
移動基地が逃げられないと判断したか、ハッチを開放する。多分、今まで以上の数の怪物やドローンを出してくる気か。
だが、それが移動基地の最期だった。
ハッチが開いた瞬間、大兄が文字通りのピンホールショットを決める。ハッチ内部に飛び込んだ弾丸が、内部を無茶苦茶に破壊したことは想像に難くない。あのテレポーションシップでさえ、ハッチ内部を攻撃されたらひとたまりもないほどに脆いのである。
動きが、完全に止まる移動基地。
とどめ。
そのまま、プラズマグレートキャノンの光弾を移動基地のハッチに叩き込む。
爆発が、基地全体を揺るがし。
そして、傾き始める。
そこに大兄が、もう一発叩き込む。
文字通りのだめ押しだ。
グレイプが全力で駆け抜ける。完全に止まった移動基地を追い越して、味方すらグレイプを避けた。
振り向く。
さっき、フーリガン砲の砲弾が直撃した地点から、激しく移動基地が火を噴いているのが見えた。
なる程、装甲は貫通できなかったが、やはり効いていたのか。
「退避! 退避ー!」
筒井大佐が、皆を避難させている。
彼方此方から火を噴きながら、移動基地が崩れ落ちていく。
ドリルのように回転し、以前ニクスを一瞬で踏みつぶした凶悪な足も止まり。
小規模な爆発を連鎖しながら。
移動基地は、地面に膝を屈したのだった。
「やったぞ! 移動基地を粉砕した!」
「人類の勝利だ! EDF! EDFっ!」
爆発が一段落して、移動基地が動かなくなると。
皆が喚声を爆発させた。
残党狩りは、もう任せてしまって良いだろう。三城は、汗を拭った。グレートキャノンを外していたら、もう一度Uターンして突入しなければならなかったかも知れない。
ざっと被害を見るが。
実の所、移動基地の攻撃軍は、戦闘続行の限界まで損耗していた。
エルギヌスなどの怪生物が横やりを入れに来たり。マザーシップなどが現れていたら、とても倒せなかっただろう。
溜息が出る。とても疲れた。
勝ったはずなのに。周囲のように、無邪気に喜ぼうという気には、とてもなれなかった。
2、三つの目標
リー元帥がテレビ会議を開く。戦況は好転したように報道しているが。こうしている毎日も、各地で佐官や将官が戦死している。
EDFは決して有利でも何でもない。
少なくとも、現状は明確にまだまだ不利だった。
テレビ会議に参加した面々は、また減っている。もしくは、面子が変わっていた。
戦死したり、その代わりに昇進したりしているからだ。
そしてEDFの正規兵の損耗率は、もう開戦時点から考えると。あまり考えたくない域にまで到達し。
更に半ば無理矢理集めた兵士達を、最低限の訓練だけして戦場に出した結果。
何処の国でも、被害がうなぎ登りに増えているのが実情だった。
それでも、日本の大阪で、移動基地を破壊した。
それで、なんとか最初に掲げた三つの目標を、達成出来た事になる。
故に会議を開いたが。
現実を知っている各国の将官は、あまりいい顔をしていなかった。
「怪生物エルギヌスの撃破、怪物の繁殖阻止、更には移動基地の破壊。 当面の目標である三つの課題はクリアした。 戦略情報部、これにて最初の目標はクリア出来た、と判断して良さそうだな」
「そうですね。 しかしながら、怪生物は更なる強力なアーケルスが出現。 これを撃破する目処が立っていません。 それに大本であるマザーシップは一隻も撃墜出来ておらず、敵がどのような新兵器を投入してくるか分からない状況です」
少佐は冷静に状況を説明。
その後で、言った。
「まずは新たに二つの課題をクリアしなければならないでしょう」
「ふむ……」
「一つは怪生物アーケルスの撃破です。 アーケルスは既に各国に姿を見せ始めており、縄張り内のEDFは著しく行動を制限されています。 エルギヌスについては既に撃破例が幾つか上がって来ていますが、アーケルスに関しては艦砲射撃、空爆、いずれも効果を示していません。 睡眠は取るようですが、睡眠中のアーケルスに対してバンカーバスターを投下した映像がこれです」
映像が共有される。
日本では無く、南米のチリに出現したアーケルスに対する空爆の映像だが。
バンカーバスターが直撃しているにも関わらず、アーケルスは平然と立ち上がると、五月蠅そうにその場を離れていた。
「この生物は、テレポーションシップの黄金の装甲を超える外皮でももっているというのか……!」
「いえ、攻撃そのものは確実に効いています。 超高速で再生されているのです。 エルギヌスですら、EMCの集中投射で仕留める事が出来ることが証明されていますが、このアーケルスは……」
「分かった。 対策については、先進科学研と連携して練ってほしい」
「了解です」
更に、戦略情報部は二つ目の課題について説明する。
それは、移動基地だった。
「現在、四つの移動基地が健在です。 一つはアフリカの内陸に移動したこともあり、現時点では脅威と見なさなくても良いでしょう。 問題は米国、南米、中国にそれぞれ居座っている移動基地です。 この三つについては、撃破が必要でしょう」
「分かっている。 大阪の戦闘データを見たが、あれほどの戦力を集中投入して、それでやっと撃破だ。 しかも移動基地は随伴に大量の戦力を投入してくる」
「現在のEDFだと、奴らを撃破するだけで、体力を使い果たしかねないぞ」
「それでも必ず撃破してください。 先進科学研が、データを元に兵器の改良は進めています。 撃破出来ない存在がいる、ということが大きな兵士達にとっての負担になっているのです」
「米国の移動基地は俺が叩き潰したいが」
挙手したのは、アフリカの戦線から撤退を完了したタール中将だった。
顔にある向かい傷以上に、長い戦いで更に人相が怖くなったとさえ言われている。
それはそうだろう。
アフリカから撤退した後、生き延びた事を何度も悔いている様子が見られたと、リー元帥にも報告が来ている。
村上班や荒木班の奮戦もあって、アフリカの戦線からは難民を逃がすことに成功はしたのだが。
本当は、その場で死ぬつもりだったのだろう。
「戦闘データを見たが、砲台を潰しても大量の随伴歩兵を何とかしない限り移動基地を倒す事は不可能だ。 村上班や荒木班、スプリガンやグリムリーパーなどの精鋭を消耗しながら倒す事になるだろう。 俺のような老廃兵がどうにかするしかないだろうよ」
「タール中将……」
「どうせ故国を奪還する見込みもない。 俺を使い捨ててくれ」
「中国の方は小官が」
挙手したのは項少将である。
北京決戦で勇名を馳せた中国の将軍だ。
だが。中国の司令官である劉中将はいい顔をしていない。
北京決戦の後、中国の司令部で不穏な動きがある事を、リー元帥は知っていた。どうも項少将と劉中将が不仲らしいのだが。
今の時点で、内ゲバなどしてはいられない。
もしも此処で項少将が移動基地を撃破したら、北京決戦の功績もあり、昇進はしなければならないだろう。
それを考えると。
リー元帥としては、頭が痛い所だ。
「劉中将、異存はないだろうか」
「確かに四川に居座っている移動基地はどうにかしなければならない。 だが、各地での戦闘で疲弊している部隊をまとめあげ、四川に送り込むのは相当な苦労が必要だ」
「それならこうしましょう。 一つずつ、移動基地に戦力を集中して叩いていく作戦を提案いたします」
戦略情報部が落としどころを出してくる。
そして、まずは米国をというと。劉中将は安心した様子だった。
タール中将は、出世したとしても。アフリカ方面軍という空位を渡せばそれでいい。どうせアフリカは奪還の見込みもないのである。
そしてタール中将は、出世欲もなにもない。
復讐鬼と化している。
次の作戦で死んでも、タール中将本人すら満足するだろう。
そういう存在になっている。
リー元帥は咳払いして、皆を改めて見直した。
「分かった。 移動基地の撃破で、敵がどう動くか分からない。 各国で一斉攻勢に出て、失敗でもしたら洒落にならない。 無理は出来ない状態だ。 まずは米国の移動基地から、順番に叩いていくことにする」
「了解……」
各国の将軍達も、安心した様子だ。
もう一つ、聞いておくべき事がある。
「戦略情報部。 北京での戦闘については、分析が終わったかね」
「現在分析を先進科学研と行っている最中です」
「秘密兵器があるのなら、是非此方に回してほしいのだが」
千葉中将が言う。
大阪で移動基地は撃破した。
だが、東京基地、大阪基地、いずれも戦力を大きく消耗しており。更にはアーケルスはどうしようもない。
日本のEDFも、有利には程遠い。
何とか死刑台を遠ざけた。
その程度の戦況なのだ。
特に東京基地は、至近にアーケルスの縄張りがあり。更には228基地からは際限なく敵が出現している。
富士平原での大会戦以降目だった動きはないものの。
奪還の見込みがない現状、多くの戦力を確保しなければならず。
アーケルスの機嫌を伺いながら、各地で怪物を処理するために戦闘を継続しなければならない状態に変わりはない。
厳しい状況なのは、リー元帥も理解していた。
「秘密兵器は何度か説明しましたが、存在しておりません。 風説があるようですが、あくまで風説です」
「トップシークレットと言う訳か……」
「千葉中将。 頼みがある」
不意に、バルカ中将が挙手する。
フランスの指揮を執っている人物だ。
以前、フランスにマザーシップが出現した時。攻撃作戦の指揮を執ったルイ大佐が戦死し。
その後の撤退戦で、見事な手腕を見せた。
今も不利な状況の欧州で、何とか戦線を維持できているのは。バルカ中将の手腕故、といえる。
「荒木班と村上班を貸してほしい。 現在、欧州ではβ型の被害が大きく、特に強力な一群がパリ近辺を蹂躙している。 アフリカから上陸してきた怪物の中には、噂にある銀色のβ型も確認されていて、大きな被害が出ている状況だ」
「分かった。 すぐに手配しよう」
「頼む。 欧州でも荒木班と村上班の評判は非常に高い。 スプリガンの消耗が大きく、各地での転戦で人員の補充もロクに出来ていない状況だ。 一息つくためにも、エースチームの投入でどうにか戦線を立て直したいのだ」
リー元帥としては、否定する理由がない。
戦略情報部に調整を任せると、後は会議を終えた。
紅茶を淹れさせて、適当に飲む。
まずい紅茶だ。
元帥の所にさえ物資が来なくなりつつある。それはそうだろう。こんな状況では、当然とも言える。
翌日には、北米の移動基地破壊作戦が戦略情報部から上がって来た。
内容に目を通したが、次も大きな被害が出ることは確実だ。
最初は、北米は米軍からEDFに移籍した主戦力がいたこともあって、他の国よりも戦況は全然マシだった。
今では、かなり厳しい状況にある。
もう、覚悟は決めておくべきなのかも知れない。
少し悩んだ後。
リー元帥は、作戦の許可を出す。
消耗が大きくとも。
今、対処できる問題には。対処しなければならなかった。
欧州に輸送機で移動する。二日かかった。制空権がどんどん失われているからである。
一華は輸送機の中で、情報を収集する。
移動基地に対しての決定的大勝利。
各国で報道しているが、戦いには近畿地方のEDFがほぼ全軍動員され。戦闘続行の限界まで消耗したことは知らされていない。
相変わらずの大本営発表だ。
呆れた話だが、この手の駄目ニュースはどこの国でも。世界政府が出来ても。代わりはないらしい。
頭を掻き回しながら、レポートを書き上げ、リーダーに提出。
必要な装備。
改良が必要な装備。
それらについての、レポートだ。
一華が提出したレポートには、殆どリーダーは文句を出してくることはない。まあ、レポートにはテンプレートが用意されていて。
書くのに殆ど手間が掛からないのも、理由の一つではあるのだろうが。
「一華少尉。 いいだろうか」
「ああ、荒木軍曹」
立ち上がると、敬礼する。
軍曹とは呼んでいるが、相手は中佐だ。一華については、この間中尉に昇進の話が来たが、多分来月のことになるらしい。
いずれにしても、世話になっているし。
一華に対しても、比較的好意的に接してくれる人物である。
あまり嫌がられることは避けたかった。
「何か問題ッスか。 ニクスの整備だったら見るッスけど」
「いや、次の欧州の作戦だ。 β型の中に銀色が確認されているらしい」
「ああ、マズいッスね。 あいつら強いッスよ」
「分かっている。 次の作戦では、充分な兵力が指揮下に入らず、少数でβ型と戦闘することになるそうだ。 かなりの数のβ型とな」
それなら、空爆が必須だなと思う。
いずれにしても、浸透能力に優れているβ型を相手に、陸上の歩兵だけでやり合うのは無謀だ。
特に銀色のβ型は硬い上に動きも速い。
コロニスト以上にタフかも知れない。
空爆が必要だろうという話をしておくと。荒木軍曹も同意してくれる。
「分かった。 此方から、フランスEDFの司令部に掛け合ってみよう」
「空爆のタイミングとかは、私が管理するッスよ」
「頼むぞ」
輸送機はかなり大きく、ニクス二両、グレイプ二両、補給トラックを二両。 更に大型車両を搭載しても、余裕を持って飛んでいる。
これで制空権さえあれば、もっと楽に欧州に行けるのだろうけれども。
海上でマザーシップが連日大量のドローンを撒いている状況だ。
そうもいかないのだろう。
レポートも書き上がったので、またニュースを見る。
やはり兵士達の間では、北京で使われたらしい「新兵器」が話題になっている様子である。
北京で報告が多数上がっているが、交戦前に既にコロニストが弱り切っていたというものがあり。
それで怪物も動きが鈍り。一方的な戦闘になったらしい。
マザーシップが撤退したというのだから余程だろう。
中国では、以降EDFが各地で押し気味に戦闘を進めているらしいが。
それくらい、コロニストが受けた被害は大きかったと言う事だ。
更に移動基地が一機落ちた。
これもまた、追い風になってくれると良いのだが。
まもなく、フランスに到着すると言われて。頷いて、PCを落とす。
ニクスにPCを搭載。
今回は、レールガンはもってきていない。
最初からβ型との戦闘と言う事を聞いているので、もってくる意味がない。
都市部でβ型とやり合うのは、レールガンは正直色々と相性が悪い。
自走砲であるレールガンである。
小回りがきかないし、都市部での戦闘にはむかない。ましてや相手が素早いβ型ならなおさらだ。
空港で降りて、現地の部隊と合流する。
今回は荒木軍曹が作戦の総指揮を執る。
中佐だから、作戦の総指揮も任される立場、ということだ。
だが、不安に一華は目を細めていた。
フランスのEDFから貸し出された戦力は、一個小隊もいない。
今回、事前に目を通したデータによると、β型はかなりの数だと言う事だが。
これは使い捨てということだろうか。
「現在、確認されているβ型は二千体を超えています。 パリに向けて進撃を続けており、途中にある防衛線が既に幾つか突破された状況です」
「分かった。 すぐに戦線に赴こう」
「お願いいたします……」
一華はニクスから出ない事にした。
空爆については、既に要請が通っている。既にフォボスが発進した様子だが。それでも二千か。
厳しい相手だ。
大型車両にニクスとグレイプ、補給車を乗せて移動開始。
一華から見ても、兵士は練度が低いものが多い様子だ。
それはそうだろう。
そうでなければ、村上班と荒木班を、わざわざ呼んだりしない。
余程欧州は状況が悪いらしい。
それについては、今の戦力を見ただけで分かった。
「喰い破られた戦線の話を聞いたか?」
「ああ、三十分ももたなかったらしいな。 β型が食い散らかした後は、地獄絵図だったそうだ」
「倒しても倒してもきりがない。 最初の五ヶ月間、テレポーションシップから怪物を落とされ放題だった結果がこれだ」
「北京で使った新兵器、さっさとまわしてほしいんだがな。 毒ガスでもなんでもいい」
そんなものは多分ないだろう。
そう告げるのは簡単だが、死刑宣告に等しい。
兵士達の中には、明らかにまずい薬物に手を出しているものもいるようだ。
そうでもないと、とてもやっていられないのだろう。
現地で展開する。荒木班は二個分隊を連れて行った。村上班は後方で、二個分隊とともに迎撃態勢を整える。
という話だったのだが。
既に戦地は、それどころではない。
彼方此方で、石畳をつきやぶってβ型が出現。市民に襲いかかっていた。
すぐに全員出る。
逃げ腰の兵士達を叱咤せず、リーダーは弐分と一緒に真っ先に躍り出て。凄まじい集弾率のアサルト捌きで瞬く間にβ型を駆逐していく。
更に三城がかなり高い尖塔のような建物に上がると。
以前、圧倒的な数のドローンを一瞬で駆逐した誘導兵器を展開する。
光が大量に迸り、一瞬でβ型数十を屠る。
だが敵は二千と聞いている。
ニクスを前に出しつつ、一華はスカウトからの情報を集め、皆に情報を再分配する。
「荒木軍曹、ちょっとまずいッスね。 さがった方が良いッス」
「どういうことだ」
「そのまま其処で応戦していると、敵の本隊に囲まれるッスよ」
「……分かった。 総員、全力でさがれ。 村上班と合流する!」
戦闘続行。
次々に地面を突き破り、β型が現れる。
α型も達者に地面を掘るが、β型もなかなかの速度で地面を掘り進んでくるし。アスファルト舗装くらいなら簡単に突き破っても来る。
ニクスで周囲を薙ぎ払いながら、皆に少しずつさがって貰う。
次々に現れるβ型だが。出現地点は村上家の三人がある程度予測してくれる。
その情報も合わせながら、程なく結論を出し。
既に此方に飛来中のフォボスに、爆撃ポイントを伝達。
かなりギリギリになるが、やれる。
そう信じ、射撃を続行。
ニクスも次々糸が被弾するが、先進科学研がどんどん装甲を強化してくれている。同じ重さでも、かなり強くなっているのが分かる。
β型は此方を難敵と認識したのだろう。
一斉に地面から噴出。
下がって来た荒木班を半包囲しつつ、猛追してくる。
一気に数の暴力で押し潰すつもりなのだろう。
だが、そうはさせるか。
グレイプも遠隔操作。更に、急いで撒いた自動銃座を、一斉に起動する。
グレイプの速射砲と、ニクスの機関銃。更に自動砲座の一斉射撃で、向かってくるβ型を足止めし。
必死に逃げてきた荒木班麾下の分隊兵士を自陣に受け入れ。
更に、殿軍を務めた相馬少尉の重装型ニクスが、糸まみれになっているのを横目に。自分が代わりに前に。
押し合いへし合いで押し寄せてくるβ型に、猛射を加える。
凄まじい爆発。
リーダーがあのスタンピートという歩兵用面制圧兵器というとんでも無い代物をぶっ放したのだ。
それだけじゃあない。
弐分も同じく、散弾迫撃砲をぶっ放したらしい。
密集していたβ型が、一瞬で五十体以上は消し飛んだ。
更に其処へ、エネルギーを充填し終えた三城が。誘導兵器を起動し。光の矢がβ型を蹂躙。
多数を一瞬で屠り去った。
だが。攻撃に耐えて、β型が猛反撃に出てくる。
その出会い頭に。
フォボスが、大量の爆弾を降らせていた。
炸裂する爆弾が、大量のβ型を一瞬にしてバラバラに吹き飛ばす。吹き飛んだ中には、あの銀色のβ型も混じっていた。
「あ、あの大軍を、正面から……」
「噂通りの部隊だ……」
フランスのEDF隊員達が、恐怖に声を上擦らせている。
残念だが、まだ戦闘は終わっていない。
「一華、次が来る。 フォボスの空爆はまだ来るか?」
「もう一度来る予定ッスけど。 ちょっと戦線を下げるッスよ」
「分かった。 市民は……自主避難してもらうしかないな」
「……」
喰い破られた前線や、β型の進撃路にいた市民は全滅とみて良いだろう。
更に後続が来る。だが、今押し返した兵士達は意気が上がっている。そのまま、旺盛な戦意で反撃に出る。
敵を食い止めつつさがる。
銀色のβ型がかなりいるが、関係無い。目立つ奴は、リーダーが針の穴を通す狙撃で確殺している。
流石の銀のβ型も、ニクスの猛射で足が止まった所に、ライサンダーの狙撃を受けてしまうとどうにもならない。
消し飛ぶ様子は、小気味が良いほどだ。
装甲を補充した、相馬少尉の重装ニクスが戻って来た。
そのまま最前列で並んで壁を造り、β型の侵攻を抑える。
猛攻を受けて装甲がガリガリ削られるが、富士平原の決戦や、その後の追撃戦を考えるとなんてこともない。
二度目のフォボスが来る。
また、上手に誘導できたβ型の群れに。
最高効率で、爆弾が叩き込まれていた。
殆ど全てが消し飛んだβ型の、残党を始末する。夕方までに、残党の掃討戦は終わった。
街は廃墟に変わった。
だが、それ以上に多くの人を救えた。
そう荒木軍曹をはじめとする皆は、信じたいようだった。
一華はドライだ。
これが結果だと思ったし。勝ったとは、とても思えなかった。
更に、良くない報告が来る。
「此方戦略情報部。 マザーシップ、高高度を移動中。 数時間後に、荒木班、村上班のいる地点を通過します」
「……分かった。 アンカーなどの投下に備える」
「アンカーに潰されたら助かりません。 気を付けるようにしてください」
「分かっている」
荒木軍曹が、いらだたしげに通信を切った。
小田少尉がぼやく。
「どう気を付ければ良いってんだよ……」
多分皆同感だろう。
だが、それ以外に。言える事もないのだろうなと、一華は思った。
3、杭の雨
バルカ中将に、大兄が戦果について報告している。バルカ中将は感謝の言葉を述べていたが。
それよりも人員と物資をという言葉には、応えてくれなかったようだった。
それはそうだろう。
弐分が見た所、もうフランスに展開しているEDFは半壊状態だ。
長い事欧州は苦戦を続けていたと聞いているが。ついにアフリカから、怪物がどんどん押し寄せるようになった。
その結果、各地で大苦戦が続いているという。
さっき、大兄に戦略情報部から個人通信とやらが来ていた。
村上班の活躍が群を抜いており。
明らかに尋常では無い事。観察対象とさせてもらうこと、などを告げていた様子だけれども。
正直、弐分にはどうでもよかった。
というか、そもそもだ。
今更それに気付いたのなら遅すぎると思う。
荒木軍曹は、EDF最強の戦士と大兄を評していたし。弐分もそれについては異議がない。
大兄は、あまり機嫌が良く無さそうだが。
それを兵士達にぶつける事は当然しなかった。
「皆、聞いてほしい。 マザーシップがこの周辺にテレポーションアンカーを落としてくる可能性が高い。 これより迎撃に入るが、当然の事ながら頭上に落ちてきた場合は対応策がない。 それで皆で一旦散り、テレポーションアンカーが落ちてきた後集合して戦闘を行う」
「了解しました!」
「荒木班も既に散っている。 此方も同じように散って直撃を可能な限り避け、アンカーの投下が一段落し次第反撃を行う。 皆、すぐに展開してほしい。 ……経験上、敵はアンカーを効果的に落としてくる。 重要なインフラ設備や、兵器などの集まっている場所にだ。 それを頭に入れておいてほしい」
兵士達がばらばらと散る。
負け戦ばかりで士気が下がりきっていただろうが。何とかさっきの戦闘で盛り返したという所だ。
負傷者が数名出て後送されたが、その程度で済んだとも言える。
ニクスは相手が狙って来る可能性が高い。だから、建物の影に隠す。また、落ちてくるまで時間がある。
一華には彼方此方移動して貰い。
自動砲座を準備して貰った。
大兄が、陽光を遮るように手をかざして目を細めている。
或いは、テレポーションアンカーが落ちてくるのが、ある程度分かるのかも知れない。
「来た。 ……どうやら直撃は避けられそうだが」
一瞬後。
どん、という凄まじい音と共に、今で見た事もない太く巨大なアンカーが、地面に突き刺さっていた。
どうやら水道管をぶち抜いたらしく、激しく水が周囲で噴き出している。
なんという巨大なアンカーか。
「此方戦略情報部。 映像を確認しました。 どうやら、敵は新型のアンカーを投入してきたと見て良さそうです」
更に、十本以上が立て続けに降り注ぐ。やはり重要なインフラなどを狙って来ているようである。
それだけではない。
後方に控えさせていた大型輸送車が、アンカーの一つの直撃を受けて粉砕されていた。
運転手は逃げ出したようだが、あれはもうスクラップだろう。
「此方荒木班! 村上班、無事か!」
「現在点呼中。 後方の大型輸送車がやられましたが、運転手は脱出。 ニクス、グレイプはいずれも無事です」
「よし、其方に合流する。 アンカーはまだ稼働していない様子だ。 下手に手を出すなよ」
分かっている。
アンカーも怪物などと同じく、攻撃を受けると周囲が連鎖的に反応を起こすことがあったりする。
特にあのばかでかいアンカーは、下手に手を出すと周囲のアンカー全てが起動しかねない。
更に、十本以上のアンカーが周囲に降り注ぐ。
あの大型も、更に三本追加だ。合計で四本の巨大アンカーが周囲を蹂躙し。その中の一つは残っていたガスタンクを直撃したようで。大爆発が引き起こされていた。
β型の大軍を食い止めた地点よりも少し下がってはいるが。まだ住民がこの辺りにはいるのだ。
それを敵は、的確に狙って来ている。
「点呼完了! 全員無事です!」
「よし……」
「此方荒木班。 ガスタンクに直撃した大型アンカーが反応した模様!」
「畜生! 勝手に落ちてきて、勝手に目を覚ますなよ!」
小田少尉が悪態をついているのが聞こえる。
ただそれについては、皆が同意見だろうし、何も言う事はない。
更に大型のアンカーは、α型の怪物を周囲にボトボト転送し始める。それだけではない。かなりの数のドローンも出現していた。
また、予想していたことだが。
大型のアンカーが起動したことで、周囲にある数本のアンカーも連鎖的に反応。α型、β型。更には飛行型まで転送し始める。
α型はご丁寧に銀色と赤色が両方とも。
このままだと、パリの辺りは此処から出現した怪物に、文字通り蹂躙されるだろう。
荒木班が合流してくる。
先の戦勝による意気高揚は、既に消し飛んでしまったようだった。
「よし、まずは端から削って行くぞ。 攻城戦だ」
「はい。 彼方に抜けましょう」
「ちょ、まて。 大将、あっちのアンカーはもう動いているぞ」
「だからです。 敵を潰しつつ、一旦安全圏に抜けます」
弐分は、幾つかのアンカーを潰すように指示を受けたので。頷いて、即座に動く。別方向に、三城も飛んでいた。
他の皆は、集まって戦線を構築しつつ、少しずつ進み始める。既に稼働している大型アンカーに、大兄が狙撃を開始するが。
とんでもなく硬い様子で、一撃では破壊は無理だった。
ライサンダーFの火力を持ってしてもか。
「くそ、硬い!」
「あの大型は俺が潰します。 荒木軍曹は、周囲の敵の始末を」
「分かった。 任せるぞ」
幾らタフでも、それでもライサンダーFの攻撃を受け続ければ壊れるだろう。
前衛に出た相馬少尉のニクスと。一華のニクスがもっている間に、敵の数を可能な限り減らさなければならない。
突貫し、まずは敵の前衛にスピアをしこたま叩き込む。そして敵の一部を引きつけつつブースターで飛び、スラスターで加速。
アンカーの一つの至近に出ると、スピアを叩き込む。
これも、普段のアンカーより硬い。
ひょっとすると、プライマーは既存の兵器を改良し続けているのか。
だが、二撃目には耐えられない。
アンカーが爆発四散。
三城も、一本をへし折ったようだった。
怪物が彼方此方に伏せられていた自動銃座と、ニクス二機の火力。更にグレイプの速射砲で次々撃ち抜かれる。
だが、アンカーから幾らでも沸いてくる。
アンカーを叩かなければ駄目だ。
「負傷者はグレイプに! 負傷者をかばいつつ、前進を続けろ!」
「む、無茶だあっ!」
「逃げれば背中から食われるだけだ! 同じ死ぬなら、戦って死ぬんだ!」
敵の数に、逃げ腰になる兵士達を荒木軍曹が必死に叱咤。
こうやって兵士を勇気づける力は、本当に凄いとしか言いようがない。
更に大兄が、ついに。
五度目の狙撃で、巨大アンカーの粉砕に成功していた。
おおと、喚声が上がる。
やはり、硬いとしても、鉛玉を叩き込み続ければ壊れると言う事だ。そういう点では、アンカーに変わりはない。
その時点で、既に弐分は二本、三城は三本の通常アンカーをへし折っていて。
そして弐分が続けて三本目をへし折る。
敵の包囲を味方が突破。数人遅れていたが。とって返した弐分が、怪物の群れにスピアを叩き込んで、無言で救出した。
「戦略情報部、上空のマザーシップは」
「既に海上に抜けました」
「よし。 ならば追加でアンカーが来る事はないな」
荒木軍曹が、そのまま反転して防衛線を構築。これは攻城戦だと分かっている。そのまま、反撃を開始する。
大兄の狙撃が、また一本アンカーをへし折る。怪物の数をある程度コントロールしながら、確実にアンカーをへし折って行く。この目は、流石荒木軍曹だ。大兄はそれと完璧に連携している。
最強の現場指揮官と、最強の戦士のタッグである。
これなら最強に決まっている。
戦略情報部が、淡々と通信を寄越す。
「以降、大型のテレポーションアンカーをビッグアンカーと呼称します。 ビッグアンカーはタフな上に高性能と、非常に危険です。 優先的な破壊を心がけてください」
「ああ、やれるならやるさ」
「バルカ中将。 残念ながら、この作戦だけで荒木班と村上班は日本に戻してください」
「何か問題が発生したのか」
バルカ中将も不機嫌そうだが。
それ以上に、次の通信で皆の顔色が変わる。
当然だろう。
今飛ぶようにして戦っている弐分だが。見なくても分かる程だ。
「日本で飛行型の大軍が確認されました。 近くにテレポーションシップ、テレポーションアンカーはなく、繁殖したものと想定されます」
「さ、最悪の事態だ……!」
「怪物の繁殖の中でも、飛行型の繁殖は最優先で阻止しなければなりません。 飛行型はヘリと同等の速度で空を舞い、海も越えてあっと言う間に世界中に拡散します。 繁殖を阻止できなければ、人類は負けるでしょう」
「分かった。 ともかく、荒木班、村上班、ともに目の前の敵を片付ける事に今は集中してほしい」
バルカ中将が、以降は通信が邪魔になると判断したか。
通信を切った。
また一本、アンカーをへし折る。味方の消耗が、そろそろ洒落にならなくなってきている。自動銃座も、弾が切れる頃だ。
まだ敵は半数ほど残っている。此処からは根比べになるだろう。
「補給車!」
「もう弾薬は補給車にあるぶんで全部ッスよ」
「くそ、壊し切れるのか」
「何とかするしかない!」
アンカーが一斉に起動した。周囲の戦闘を察知したか、それとも。
いずれにしても、こうなったらやる事は一つだ。
「弐分、三城。 悪いがアンカー破壊よりも、敵の攪乱と誘引を優先してくれ。 アンカーは俺が全てへし折る」
「大兄、大丈夫か!?」
「いくら何でも……」
「もうビッグアンカーとやらの強度は分かった。 お前達が力尽きる前には、何とか全て敵の供給源を打ち砕いてやる」
そうか、大兄が其処までいうなら。
前線は、ニクス二機と荒木班の奮戦で、何とか支えられている。ならば踏ん張りどころだ。
前線に飛び出す。
そのまま、怪物どもの興味を惹きつつ。隙を見てはスピアを叩き込み、一撃離脱する。
後方にドローン。
だが、荒木軍曹が叩き落としてくれた様子だ。
そのまま、乱戦になるが。シールドがもつ間に乱戦から抜け、怪物を数体倒して即座に離れる。
また、一つアンカーが爆破された。
コロニストが守っているアンカーは色々厄介だったんだなと思い知らされると同時に。
敵が投入してきた新兵器を、此方に損害なく一気に撃破出来たことは大きいとも弐分は感じた。
そのまま、戦闘を続ける。
怪物は立体的に迫ってくる。特にβ型は油断するとすぐに背後に回り込んでくる。
周囲全てに油断出来ない。
危険だらけの中、飛び続ける。
最後の一本のアンカーが折られて、怪物の供給が止まったとき。
滅茶苦茶にされたフランスの街には。
夕陽が差し始めていた。
それから残党狩りを皆で行う。特にドローンは拡散させるわけにはいかない。攻撃を集中して全て叩き落とす。
三城が先に戻っていく。
かなり疲弊していた様子だ。
回避はもう弐分よりうまいかも知れない。飛行に関するセンスについては、抜群のものがある。
弐分はフェンサースーツの性能を最大限まで引き出しているとは思うが。
空間の把握能力までは、三城には及ばないと思っている。
体力については多分三城よりはあるが。
皆の所に戻る。
兵士達は、あからさまに引いているのが分かった。
「噂には聞いていたが、本当に人間かあいつら……」
「あの距離での狙撃を外しもしない。 怪物も一射確殺。 軍が作った強化人間とか言う噂もあるらしいぜ」
「そういえば、肝いりの連中も……」
「……」
兵士達の噂は聞かなかった事にする。
荒木軍曹が、先に疲れてねむった三城と一華を除いて、話を始める。
「これから急いで日本に戻る。 少し休憩したら、空港に直行する」
「分かりました。 しかし此処は大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳がないだろう。 欧州を支えている部隊は士気も低い。 指揮官は有能だが、しかしこれではいつまでも支え切れまい。 あの大型アンカーは、今後どんどん実戦に投入される筈だ。 アフリカに続いて、欧州が陥落する日も近いだろうな」
「……」
荒木軍曹の言葉に、皆が黙る。
兵士達は鼓舞するが。指揮官の間では、こうやって現実を認識しておく必要がある。だから、荒木軍曹はこんな話をする。
分かってはいるが、世知辛い。
更に言えば、日本で繁殖が確認された飛行型。アフリカを完全に陥落されたプライマーである。
アフリカで増やしていないとはとても思えない。
テレポーションアンカーの入り口となる装置は、まだ発見はされていないらしい。
だが、アフリカはもはや、偵察機も近寄れない状態らしく。
アフリカで増やされ。
各地にテレポーションアンカーで飛行型が送られたら、文字通り手に負えない状態になるだろう。
飛行型の戦闘力ははっきりいってα型やβ型よりも上だ。
その上各地で迅速に拡散したらどうなるか。欧州や中央アジア、南米辺りはかなり危ないとみて良いだろう。
「今、北米で移動基地を攻撃しているようだ。 結果はまだ分からないが、もしも北米の移動基地を潰せたら、北米の戦力をある程度活用出来るだろうな。 そうなれば、マザーシップ攻撃作戦を再度立案できるかもしれない」
「マザーシップを撃墜するとしても、どうやって……」
「やはり下でしょうか」
大兄が言う。
頷く荒木軍曹。
「どうもプライマーの兵器は下からの攻撃を嫌う傾向がある。 弱点部分も下に作っている事が多い。 ひょっとするとだが……彼らの天敵が、空にいるのかも知れないな」
「プライマーの天敵だって?」
「おかしな話ではないさ。 あれほどの重武装で攻めてきた奴らだ。 もしも地球を舐めていたのなら、もっと原始的な兵器を大量投入してきただろうよ。 奴らには天敵がいて、交戦経験があったのだろう」
初めての着眼点だ。
弐分は少なくとも驚かされた。
確かに、あの戦術。
天敵がいても不思議では無い。
そして同族同士の戦闘だったら、そもそも下に弱点をつけるなんて事は考えないだろう。すぐに対策されるからだ。
空に何かしらの絶対的な天敵がいる。
それが故の、下に弱点を集中させる兵器の数々。それに、数で制空権を無理矢理奪いに行くスタイルと、その説を補強する事実は幾つもある。確かにあり得る話ではあった。
移動用の大型車両が来る。此処で、部隊は解散。
さっき陰口を言っていた兵士達も、日本に戻ることを大兄が告げると。流石に不安そうにしていた。
あのβ型との戦闘さえ、この兵士達だけなら生き残る事は不可能だったろう。
そして今後、この兵士達が激しさを増すだろう欧州の戦いで、生き残れる可能性は限りなく低い。
見捨てていくのはつらい。
EDFは仲間を見捨てない、か。
同じ戦場ならそうだ。
だが、違う戦場にいる仲間までは、どうしようもないのが実情だ。
そのまま部隊を解散して、急ぐ。
「あの兵士達は」
「欧州中で戦闘が続いている。 彼らはこの激戦を生き延びた強者扱いとして、更に過酷な戦場に投入されるだろうな」
「……」
「少しでも生き残る確率を作った。 それが彼らを救えると信じろ」
弐分に、そう荒木軍曹は応えてくれる。
そうか、そうやって鼓舞をするのだな。そうするしか無いと言うのもあるだろうが。人を動かす方法は分かっていると言うことだ。
大兄が、話をしてくる。
「戦略情報部が有り難い事に、俺たちに専属のオペレーターをつけてくれるそうだ」
「そういえば大兄に個人通信が来ていたな」
「そうだ。 戦略情報部による監視の意図もあるだろう」
「監視、か」
確かに、村上班はあまりにも大きな功績を挙げ続けている。
監視がつくのは当然かも知れない。
戦略情報部は、まだプライマーと連絡を取ろうと四苦八苦しているようだし。
場合によっては。
最悪の状況も、考えなければならなかった。
「此方千葉中将だ」
「!」
「欧州に行って貰ったのに、とんぼ返りして貰って済まないな。 現在、大阪基地から出た戦力で飛行型の押さえ込みを行っているが、想像以上の数だ。 飛行型は拡散が早く、案の定各地で被害が出始めている。 定着を試みていると思われる大きな群れも確認されている他、コロニストに使役される姿もまた確認されている」
「危険な存在ですね……」
現在、戦略情報部が概ねの飛行型の発生地点を特定したらしい。
どうやら飛騨と信州の間くらいの山間部らしく。
大軍を送り込むのはかなり難しい場所の様子だ。
しかも近場には大量の飛行型がいる。
動きが鈍い砲兵などを送り込むのは厳しい、と言う事だった。
「プライマーの移動基地がいなくなったことで、ドローンも怪物も近畿からは激減したが、それ以上に飛行型が脅威になっている状況だ。 矢継ぎ早に来るこれらの状況……恐らくはプライマーは計画的に、戦力を潰され次第動くようにしているのだろう」
「その間に人類の被害は増すばかりと」
「そうだな……」
「分かりました。 日本に戻り次第、作戦に参加します。 これ以上戦況が悪化したら、マザーシップに仕掛ける事はかなり厳しくなると思われますので」
頼む、と千葉中将に言われた。
戦略情報部とは、温度差がありすぎると大兄がぼやく。
本気で敵を打倒しようと考えている戦略情報部とEDFの各国支部は同じだろうに。
どうして温度差がこうも出るのか、ともぼやく。
だけれども、それに答えることは出来ない。
戦略情報部は独立部所だと言うし。
どう判断して良いか、分からないからだ。
通信が入る。
「欧州では、イタリアで特にEDFが苦戦を強いられています。 コロニストは欧州でかなり数を減らしたものの、その代わり怒濤の勢いで欧州にアフリカから怪物がなだれ込んできている様子です。 イタリアの主要都市は殆ど機能を停止しており、敵の橋頭堡になりつつあります。 現在、北京での決戦に用いられたコンバットフレームの一部を欧州に送り、更に新型兵器を投入して戦況の悪化を防ぐ試みをしているようですが。 現在EDFでは、まだ健在な敵移動基地の殲滅に主眼を置いており、また怪生物に対する被害も無視出来ず、輸送は難航しています」
「大本営発表もしなくなってきたな」
「各国で批判が相次いでいるらしい。 事実、人類が敗色濃厚なのは誰もが悟っているのだろうな」
「それなのに国会の様子みたか? EDFは努力が足りないだとか、和平の道を模索すべきだとか。 まだ頭が花畑の連中が騒いでやがる」
小田少尉が吐き捨てる。
浅利少尉すらも、それをたしなめなかった。
「ともかく、日本に戻って作戦に参加するぞ。 我々に出来る事は、一つずつ出来る事をこなして行く。 それだけだ」
「階級は上がっても、こき使われるのは同じか……」
「俺たちにしか相手に出来ない強敵がいる。 他のチームが戦えば大きな被害を出して更に戦況が不利になる。 そう考えて、軍服を着た自分を誇れ」
「ありがとうよ軍曹。 そう言って貰えると、多少は勇気も出るぜ」
お通夜ムードの輸送機の中で。
一華が起きだして、キーボードを叩き始める。
レポートでも書くのか。
それを切っ掛けに、逆に荒木軍曹が、今のうちに休んでおくようにと皆に指示。
皆、それぞれの部屋に散った。
三城はまだ起きて来ていない。
あれだけの数の怪物とやりあったのだ。
蓄積した疲労も、尋常では無かったのだろう。
弐分も寝る事にする。
小さな風呂場もあるので利用して、日本に着くまでに多少は疲労を取る。こんな戦闘が、いつまで続くのだろうか。
大兄は、前に変な事を言っていたっけ。
妙な夢を見た、と。
その時に聞いた話では。EDFはもっと大苦戦をしていて。早期に全面核戦争になり。それにも負けたという話だ。
ならば、これでもまだ戦況はマシ、ということなのだろうか。
確かに、もっと戦況が悪い状況も、考えなければならない。
今後、戦況が好転する見込みは。
あれほどの激戦を経て移動基地を撃破したというのに。
恐らくは、ないのだろうから。
最高巡航速度で飛ばしたのだろう。
輸送機が日本に到着する。同時に輸送ヘリが来て、そこで荒木班とは別行動になった。
「かなり大きな飛行型の群れが来ているそうだ。 それも二つ。 俺たちはそれぞれ別の群れと戦う事になりそうだ」
「分かりました。 ご武運を」
「ああ……お前は特に絶対に死ぬなよ。 俺たちはまだしも、お前達が死んだらこの戦争は負ける」
荒木軍曹は、そんな事を大兄に言う。
そこまで評価してくれているのは嬉しいけれども。
だけれども、現実はどうなのだろう。
たとえ大兄がいても。流石にあまりの物量差は、ひっくり返す事が出来ないように思うのだが。
ともかく、やるしかない。
戦略情報部から通信が入る。
「此方戦略情報部。 村上班の全員に、作戦の概要を通達します」
「了解した」
「以降は、戦略情報部が直接貴方方をサポートします。 私の部下を既に専属として任命してあります。 役に立つでしょう」
「……」
大兄が苦虫を噛み潰している。
どうも事前に少し話したようなのだが。どうにもあまり役立ちそうもないと、ぼやいていたのだ。
戦略情報部では、やたら「少佐」が作戦などに出張ってくるが。
ひょっとして有能なのは、この人だけではないのだろうか。
「荒木班と別々に大型の群れを相手にして貰うことになりますが、荒木班の方は対空ミサイルとしてネグリングを集中運用して、殲滅効率を実験します。 装甲などに問題がありますが、非常に強力な対空戦力として期待が持てます。 今後の戦闘のためのサンプルとして、データを取りたいのです」
「それで此方は」
「ネグリングはまだそれほど数が揃っていません。 一両だけは回しますが、それを守りながら飛行型の群れと交戦してください。 どうやら女王個体であるクイーンも群れの中にいるようです」
大兄が、流石にひくりと口の端を引きつらせるのが見えた。
それはそうだろう。
いくら何でも、無茶が過ぎる。
他の兵士達の負担だって増えることは確定だ。
それを、まるでデータがほしいなら、一定数の犠牲が出ても当然のように考えるのは。
囲碁やら将棋やらのゲームだったら、捨て駒というのもありだろう。
これは戦争だ。
実際に先頭に立っているのは人間だ。
それを使い捨てながら、データが必要と口にするのは。確かに弐分としてもあまり感心は出来なかった。
「米国で現在、移動基地攻撃のための最終準備が行われています。 これを邪魔させないためにも、飛行型に対する戦闘データを少しでもとる必要があるのです。 健闘を期待しています」
「……」
大兄の返答を待たず、少佐は通信を切った。
一華が、キーボードを叩きながら皮肉混じりに言う。
「相も変わらずのAIっぷりっスねえ」
「ちょっと人の心がない」
「今のうちに休んでおけ。 輸送ヘリは数時間もかからず戦地に着く。 そこだと、ぐだぐだは言っていられないぞ」
大兄は表向きたしなめたが。
どう見ても、あからさまに相手を好意的に見てはいない様子だ。
それはそうだろう。
弐分だって、苛立ちを覚えるほどなのだから。大兄は怒ると正直祖父の次に怖かった。今は、もうかなり限界が近いとみて良い。
大きな被害を出しながらも、移動基地を撃破したのに。
戦況が良くなる見込みなんて、微塵もない。
無尽蔵に戦力を投入してくるプライマーには、まるで限界が見えない。
マザーシップが更に追加投入されるようなことは流石にないようだが。
それでも、もはやこれは。どうにもならないように弐分には思えた。
他の戦場では、兵士達が恐怖にすくみ上がりながら、圧倒的な数の怪物と戦っている。彼らはみんな、大兄のように強くはない。だから、殆どの戦場では、味方が押される事になる。
特に最近は、新兵が露骨に目立つようになってきていて。
戦況の悪化に、拍車を掛けるばかりのようだった。
「悩みは今は捨てろ」
「分かってる」
大兄に見透かされたように、そう言われたので。憮然として、応えるしかない。
誰もが苛ついている。
それは、弐分も分かっていたから。怒る気にはなれなかった。
4、倒しても倒しても
グリムリーパーのジャムカ少佐は、米国に戻ると即座に移動基地の破壊任務。正確には、破壊するための露払いの任務に立て続けに参加。
負傷者がまだ戻らず、部隊の規模が小隊程度にまで減っている状況ながら。
それでも、前線で修羅とかして戦い続けた。
今日も四ヶ所の戦場で怪物を倒し。そして味方を救った。
これが米軍の姿か。
新兵だらけの状況を見て、そうぼやきたくもなる。
勿論米軍ではない。
今はEDFだ。
だが、世界最強を誇った軍勢の今の姿だと思うと、それはそれで悲しくもなる。
すぐに次の任務が来たので、出向く。周囲は疲れきっているようだったが。叱咤して、戦いに出向く。
「現在、8個師団の兵力を結集し、移動基地を叩き潰すための準備を進めています。 そのためには露払いが必要です」
「分かっている。 それで、確実に移動基地を潰せるのだろうな」
「日本でのデータがあります。 基地下部にあるハッチに攻撃を続ければ必ず倒す事が可能です」
「ふん。 まあ必要なら俺たちに声を掛けろ」
日本での実績、か。
村上班と荒木班が大暴れしたとは聞いている。
富士平原の戦いおよびその後の追撃阻止戦で間近で見たが、確かに村上班は噂に聞くだけのことはある。特に村上壱野。近距離でも遠距離でも、非常にバランス良く戦える。狙撃の腕前に関しては、恐らくジャムカが見て来た人間の中でも図抜けて最強だ。人外じみた実力者が多かったシールズでも、此処までの使い手はいなかっただろう。
その弟と妹。
更にはなんでか村上班にいるニクス乗りも、相当な腕前の様子だ。
だが、どうも妙なのである。
村上班にいるニクス乗り。
あれには違和感がある。どこかで見たような気がするのだ。
EDFには肝いりと言われる連中がいる。ジャムカのようなたたき上げでは無い。どこからかEDFが連れてきて。将来の幹部候補として育成している連中だ。確か荒木がその一人だったはず。米国にも、何人か特殊部隊のメンバーで肝いりの奴がいるはずだ。直接の面識はないが、何人かは知っている。
また、別の場所で戦闘を行う。
広い米国の全域で、プライマーが攻勢に出ている。
怪生物の脅威もある。
出来るだけ急いで、移動基地を潰さなければならないというのは分かる。
だがあからさまに息切れしているEDFに対して。
プライマーは、移動基地の一つや二つという雰囲気だ。余裕があからさまに透けて見える。
それがジャムカには不快だった。
突貫。
α型の怪物。金色がいる。
村上班と荒木班。それにスプリガンと共闘したときに、注意を促された危険な個体だ。
そいつが、酸を飛ばしてくる。
とっさにシールドを展開して防ぐが、凄まじい衝撃だった。
「ぐうっ!?」
「隊長!」
「問題ない!」
かなりの距離を吹っ飛ばされたが、そのまま突貫。第二射を放とうとする金のα型を、正面から貫いていた。
ブラストホールスピアで貫いた感触がかなり重い。
赤いα型と同等かそれ以上のタフネスをもっているというのか。この火力で。
「噂通り手強いな。 金色のα型には一撃離脱を試みろ。 まともに攻撃を受けていたら、俺たちの盾でもひとたまりもないぞ」
「イエッサ!」
「敵を殲滅する! 容赦なく刈り取れ!」
機動力を駆使しながら、戦場を縦横無尽に駆け回り、敵を貫く。
負傷者をさがらせ。
病院を出て来た兵士を部隊に加え。
転戦を続ける。
殆ど休みなく、ずっと戦闘を続けた。
悪鬼のように。
その間、夥しい数の敵を屠ったが。それでも、まだ味方は移動基地攻略のための戦力集中に、手間取っているようだった。
流石に二日ほど戦闘を続けて、限界が来て休む。
一眠りして起きだすと、戦略情報部が連絡を入れてきた。
「移動基地への攻撃を行うようです 現在、予定戦力の60%ほどしか集まっていませんが、もはやこれ以上の猶予はないと米国のEDF司令部は判断したようです」
「そうか。 それで40%は俺たちに補えという話か?」
「いえ、流石にそれは無理でしょう。 貴方方の戦闘力は分かっていますが、それでも限界はあります。 ただ、多少は兵力が必要なのも事実です。 現地に向かってください」
「ふん、まあ獲物としては悪くは無い」
他の兵士達は、死んだようにねむっている。
今のうちに軽く体を動かして、筋肉を温めておく。そのうちに、部下が一人ずつ起きて来たので。
全員が起きてから、軽く話をする。
副官であるマゼランが、明らかに不満そうにぼやいた。
「目標の六割程度しか集まらない状況で戦闘を強行。 どうにも被害が増えてもいいという雰囲気ですね」
「実際には、これだけの混戦が続いている状況だ。 兵をいざ集めてみたら、それしか集められなかったというのが実情なのだろうよ」
「……最悪ですね」
「そうだな。 だが移動基地を叩き潰せば、多少は余裕も出るだろう。 怪生物どもが暴れ回っている地域はどうにもならんがな」
流石に、ジャムカ少佐もエルギヌスと正面からやりあって勝てる自信はない。
各地で集中運用されているEMCは被害も出しつつエルギヌスを屠っているが、アーケルスとの交戦は避けていると聞いた。
米国でもアーケルスがちらほら見られるようになって来ている。
このままだと、米国は落ちる。
欧州ほどでないが、プライマーの戦力が集中しているのはあからさま過ぎるほどで。
流石に20世紀以降世界最強をずっと維持してきた米国の戦力を中心とした北米EDFでも。
どうにもならないのは、明らかだった。
移動基地へ向かう。
米国の移動基地も、かなり厄介な所に居座り。コロニストの大軍に守られている。
一応の数のタイタンとニクスは集まったようだ。
レールガンもいるが、これは相手に警戒させるため。
ただ、グリムリーパーはレールガンの護衛を任された。
要するに、無理矢理突貫して、レールガンを叩き込んで基地を破壊するつもりなのだろう。
大量にいる移動基地の随伴歩兵であるコロニストと怪物を叩き潰すためには。
精鋭が必要、というわけだ。
ニクスだと足回りに問題がありすぎる。
自走砲であるレールガンはそれなりにスピードも出る。
流石に移動基地の砲台は先に破壊しておかなければ厳しいというのが現実だが。
それさえやってもらえれば。なんとかして見せる。
作戦が開始された。
苛烈な移動基地の攻撃を、圧倒的な火砲で黙らせるというわけにもいかない。やはり予定の六割程度の戦力では、かなり無理がある。
それでもどうにかタイタンとニクスの奮戦により、地上部分の砲台はあらかた黙らせ。空爆を叩きこむ。
立ち上がる移動基地。下部には、同じ程度の砲台がある。
元々大量に移動基地周辺に屯していたコロニストと怪物との戦闘でも消耗しているのだ。
周囲からは、援軍を請う悲鳴に近い通信が満ちていた。
そんな中、ジャムカは立ち上がる。
「行くぞ。 あのデカブツを刈り取る」
「レールガンをなんとしても守れ。 下部の砲台は、各部隊に任せろ」
「イエッサ!」
その日の戦いで、グリムリーパーは数名の戦死者を出しつつも。レールガンを守りきり。
ハッチに対するレールガンの射撃により。米国の移動基地は陥落した。
だが、作戦に参加した5個師団弱の戦力は、損耗率三割を超え。
無理に戦闘を開始したツケを、露骨に払う事になった。
そしてこのツケが。
後の戦いで効いてくることになる。
(続)
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