真の姿

 

序、三つの目標の第一

 

戦地に移動しながら。少し前に大尉に昇進した壱野は話を聞く。今、EDFでは三つの大規模作戦を企図しているという。

いずれにしても、それを実施するには。

敵の直衛戦力を大きく削らなければならない。

そういう事で、今英国に到着して。休憩もせず。ロンドン近くの丘に向けて、壱野達村上班は移動していた。

ヘリを使えればいいのだが。そうもいかない。

ロンドンにあった英国基地本部は既に陥落。

現在英国のEDF総司令部はロンドンから見て北にある都市バーミンガムに存在しており。

ここで反撃の牙を研いでいる状況だ。

英国はもっともプライマーに対して善戦していた地域で。

それがこれだけの苦戦に一気に追い込まれたのである。

それは、動揺も大きいだろう。

大型車両で、現地に到着。

補給車を最初に降ろし。更にはEDFから支給された新型ニクスを降ろす。赤いカラーの高機動型だ。

重装型よりもこっちの方が良いと一華がいうので。ミサイルの搭載量を減らし。機銃の火力を上げた高機動型ニクスを支給している。

ただしこれは実験機。

更に一華が提案した、ジャンプを駆使して機動する戦闘を想定して足回りが作られているため。

ワンオフ機に近く。

壊した場合、次が来ない可能性もあった。

現地には、既にスナイパーライフルを装備した特務部隊が待機している。

一個中隊ほどいる。

通称ブルージャケット。

英国各地で転戦し、数え切れない怪物を屠ってきた精鋭部隊だ。英国の特殊部隊SASは世界的に有名だが。

ここの指揮官も、そのSAS出身で。

いかにもなごつい男性で。鍛えているのが一目で分かった。威圧的な口ひげを蓄えており。鋭い眼光が、容赦なく壱野を見据えてくる。

「村上班のリーダー、壱野大尉だな。 俺はブルージャケットの指揮官、ウィリアム中尉だ」

「勇名は聞いている。 よろしく」

「ああ、頼む」

小高い丘の上だ。狙撃兵を集めた部隊のようである。

壱野はざっと周囲を見回す。

此処はロンドンから少し離れた地点。現在、例の巨大兵器に攻撃する作戦が進んでおり。この辺りにいる怪物。

欧州では特にβ型の被害が大きいと聞いているが。

ともかく、大量のβ型と。コロニストを撃滅するために、部隊が出て来ているという。

英国軍は切り札をきったという事である。

だが、壱野から言わせると。此処の地点はまずい。

三両のタンクがいるが。それでも足りない。

周囲は殆ど焼け野原になっているが。これはこの辺りで、二隻のテレポーションシップを撃墜した戦いがあったから、らしい。

それまでは小さな街があったそうだ。

確かに、彼方此方にその名残らしいものが見える。

「早速だが移動する」

「どういうことだ。 狙撃兵にはこのポイントが絶好だ。 壱野大尉の狙撃については、神がかった技量である事を俺も認めざるを得ないが、狙撃兵の戦闘能力を最大限に生かせるこの地点は放棄したくない」

「いや、このままだと全滅する。 この部隊の対応能力を超えた戦力が恐らくは来るとみて良い」

「周囲では陽動のために部隊が出ている。 そう簡単に突破はされない」

そうは思えない。どうやら敵も、移動基地に仕掛けて来るつもりなのは察知しているのだろう。

凄まじい悪意を感じる。

恐らくだが。この部隊はこのまま此処に展開していると、敵の大軍に飲まれて全滅することになる。

それは避けたい。激しい戦いが今後も続くのだ。

精鋭は、少しでも残した方が良いはずだ。

「一華、制空権はとれているか」

「かろうじて。 ただし直通で此処に即時で爆撃機飛ばすのは無理ッスよ」

「ならば、先に出るように言っておいてほしい。 準備をもう始めさせてくれ」

「了解ッス」

ニクスから出て来もしない一華に、苛立ちが隠せない様子のウィリアム中尉。

兵士達も、皆自分はプロの狙撃手だという自負があるのだろう。

このまま、無理に意見を通しても、話を聞いてくれない可能性が高いとみた。

壱野はならば、示してみせるしかないと判断。

「弐分。 あの辺りに。 三城。 あの辺りに。 行ってくれるか」

「あの辺りは……」

「大兄。 かなりたくさんいる」

「分かっている。 我々を奴らは敢えて通した。 包囲して殲滅するためにな」

大型車両も襲わなかった。

怪物は戦略に基づき動き。人間を効率よく戦術的に殺して行く。

「何をするつもりだ。 壱野大尉」

「あの辺りに敵が潜んでいる。 しかも、この部隊では処理出来ない程の数がそれぞれに、だ」

「スカウトはそんな報告はしてきていないぞ」

「すぐに分かる」

今回。弐分は携行散弾迫撃砲。聞くだけでも頭が痛くなるような兵器だが。フェンサーだが搭載可能な。迫撃砲弾を広範囲に叩き込む兵器をもってきている。先進技術研から送られてきた兵器である。

スピアとこの携行散弾迫撃砲に加え、高高度強襲ミサイルという、多数のミサイルを同時発射して。敵を一斉に爆破する凶悪な破壊兵器も積んできた。どっちも試験運用の段階だが、一応ここに来るまでに試射はしている。

三城は今までよりも更に凶悪なプラズマ弾を発射するプラズマキャノンを持ってきている。

それに加えて、壱野も。

支給されたエメロードというミサイル兵器を渡されていた。

プライマーからの鹵獲技術を応用した兵器らしく。小型のミサイルを大量に敵に叩き込む上、ロックオン機能もついている。

「爆撃機、準備中ッス」

「よし。 爆撃指定地点は……」

「まて壱野大尉。 何をするつもりだ」

「すぐに分かる」

程なくして、弐分と三城が指定地点に到着。

攻撃はまだしないようにと指示。敵にコロニストの姿は今の時点では見えないが。この様子だと、来ていてもおかしくは無いだろう。

まもなく、爆撃機が離陸と連絡が来た。

このタイミングだ。

「よし、総員射撃戦準備。 指定し次第、全力で撤退に移るので、そのつもりでいてほしい」

「逃げるって、一体何から」

「……」

悪意は強くなる一方だ。

戦車三両だけでなく、グレイプがもう同数ほどいれば話は違ったのだろうが。

しかし、英国の支部がこれだけ兵を出してくれただけでも感謝しなければならないだろう。

問題はこのブルージャケット。

練度は高いものの、恐らく勝てる戦いにしか今まで出てこなかった、と言う事なのだろうが。

いわゆる勝ち癖というのがあって。

自信がつけば、確かに戦力は上がるし、格上に怖れず挑むようにもなる。

それは壱野も、祖父から聞いている。

だが、それが高ずると。

絶対に勝てない相手に、無謀な戦いを挑み。命を落としたり、それこそ何の意味もないほどに負けてしまうことになる。

そういうものなのだそうだ。

今のブルージャケットがそうだ。

ウィリアム中尉が無能だとは思わない。

実際に、夥しい戦果を上げてきている部隊の指揮官なのだ。

本人も狙撃兵として自信があるのだろう。

だからこそ。此処は危険すぎるのだ。

「爆撃機、まもなく到着!」

「よし、弐分、三城! やれ!」

「了解!」

二人がそれぞれ、指定地点に爆撃を行う。

同時に、それこそ地面を埋め尽くすほどのβ型が、出現した。

どうして伏せていたのに分かった。

そういう感覚だ。

怪物は実に匠に地中を移動する。

地面近くを大軍が移動する場合は、振動を誰でも察知できる場合があるが。

そうでない場合も珍しく無い。

今回は、ブルージャケットや後続の村上班を敢えて通し。

包囲殲滅する体勢を整えていた、と言う事だろう。

そしてこの数。多分指揮を執っているコロニストがいる。

「と、とんでもない数だ!」

「攻撃開始。 弐分と三城には当てないように」

「く、くそっ! 撃て撃て!」

射撃が開始される。

凄まじい糸の弾幕から逃れてこっちに来る弐分と三城。

β型の大軍は、β型特有の浸透能力を見せつけながら、凄まじい勢いで間合いを詰めてくる。

この群れだけでも、ブルージャケット全滅は確定だっただろう。

タンク三両も砲撃を開始。

爆発が連鎖。

流石に腕が良い狙撃兵の集団だ。かなりの数のβ型を仕留めているが。敵の数が多すぎる。

もう至近にまで、一部が来ている。

だが、それで敵に疎密が出来。反転した弐分と三城が暴れ始めた。

「此方爆撃機フォボス! 指定の地点に爆撃を開始する!」

「まさか、この状況を読んでいたのか……!」

「爆撃開始! ロックンロール!」

爆撃機から投下された凄まじい量の爆弾が、β型の大軍勢。それも二方向から弐分と三城に誘引されて混雑までしていた……に降り注ぐ。

以前の海岸での戦いで、フォボスの有用性が確認されてから。各国に配備が始まっている。

そしてそれはまた、証明されたことになる。

フォボスが爆撃した後には、文字通り粉々に消し飛んだβ型の死体が散らばるばかり。

焼け野原は、更に酷い焼け野原になっていた。

「総員、今攻撃した地点に向け突貫! 不発弾がある可能性があるから、先頭はタンク!」

「な、何故だ」

「まだ敵が来るからだ」

「なんだと……」

怪物は戦術として、基本的なものを習得している。

おとりの部隊で気を引いて。本命が側背から強襲を掛ける。

α型もβ型も、当たり前のように使ってくる戦術だ。プライマーで戦術を使ってくるのはコロニストだけではないのである。

これについては。命を捨てていないと出来ない戦術なのだが。

怪物は、どうも個々の命などどうでもいいらしく。

この戦術を何のためらいもなく。群れの規模も関係無く用いてくる。

コロニストもそれは同じだ。

「急げ! 逃げないと先以上のβ型の群れに飲み込まれるぞ!」

「じょ、冗談じゃない!」

兵士達も、事態を悟ったのか慌てて丘を降りはじめる。

タンクが先頭で行くのは、説明したとおり不発弾処理も兼ねる。まあ、フォボスの爆撃の不発弾とはいえ、一発や二発なら耐えるだろう。

その後を、わっと一個中隊の兵士達が続く。

最後尾はニクス。

後方を向きながら、さがってくる。

時々ジャンプもしながら。

不満そうながらも、走ってついてくるウィリアム中尉。

そして、怪物は前衛の部隊が全滅したことを理解したのだろう。

わっと、一斉に姿を見せていた。

やはり、全方位が囲まれていた。

今穴を開けた部分以外の全ての方向から。先の三倍以上の物量が姿を見せている。

恐らくブルージャケットが相当な戦績を上げて来ている事は、プライマーも理解していたのだろう。

だから本気でつぶしに掛かった。

しかも連中にとって、怪物なんぞ消耗品に過ぎないのである。

幾ら使い捨ててもおしくもないということだ。

「な、なんて数だ!」

「長篠の戦いとか言うのが有名だとか聞く! 鉄砲隊で騎馬隊を打ち破ったとか……」

「それは最近は否定されている説だ」

「そ、そうなのか!」

兵士達に壱野が軽く話をしておく。

長らく鉄砲の三段撃ちで知られた長篠の戦いだが、これについてはどうも近年嘘が多い事が分かってきており。

具体的な経緯については、よく分からないとしかいえない。

ましてやこの状況。

長篠の戦いのような展開にはならないだろう。

「フォボスは!」

「現在要請中!」

「急いでくれ」

一華がさがりながら、潮のように押し寄せてくるβ型の大軍を射撃し始める。

兵士達には足を止めるなと叫ぶ。

おいつかれたらおしまいだ。

壱野は最後尾で、一華のニクスと。弐分と三城とともに、敵に火力投射を続ける。

ウィリアム中尉が、屈辱に塗れた声で叫ぶ。

「くそっ! くそっ! 俺たちは誇り高いブルージャケットだぞ! SASの元隊員だっている部隊なんだぞ!」

「活躍の機会はある! だから今は逃げるんだ!」

「畜生っ!」

必至に走るブルージャケット部隊だが。容赦なく敵は追いついてくる。

そして、コロニストが最後尾に見え始めた。

それはそうだろう。

指揮を執っていないと、こういう動きなんて出来ない。

さがりつつ、近づいて来ている個体を撃ち据える。それをしばらく続ける。

きんと、空気が鳴る。

来たな、と思った壱野は。

全員に指示を出した。

「よし、反転! 総員、射撃構え!」

「なんなんだよ! こんな数、倒せるはずが……」

「フォボス、指定地点に爆撃開始!」

「了解。 フォボスの恐ろしさを思い知らせてやる」

さっきとは違うパイロット。

そう、二回に分けてフォボスを呼んでおいたのだ。

今回はかなり年齢が行っているパイロットらしく、かなりしぶい声だった。

「ファイヤ!」

投擲される大量の爆弾。

それは、追撃の結果集まりつつしかも陣形が伸びきっていたβ型の大軍を、文字通り蹂躙していた。

爆発で、どれだけの数のβ型が消し飛んだか分からない。

いずれにしても、最高効率に近い爆破をしたのは確かだ。

おおと、ウィリアム中尉が呆けたようにいうが。生き残った数だけでも、相当にいるのだ。

ここからが、本番だ。

戦車が反転してきて、最前列に壁を作る。

「よし、ブルージャケットの力を見せてくれ!」

「了解!」

「ワーテルローの戦いを再現してやる!」

ワーテルローの戦いか。

再起を図ったあの不世出の英雄ナポレオンが、一敗地にまみれた戦い。

β型の大軍は。別にナポレオンの軍でもなんでもないのだが。

ともかくやるしかない。

近場の敵は、一華と弐分、三城に任せる。

壱野はおもむろに更に改良が加えられているライサンダー2で。

一射確殺で、後方にいて爆撃を逃れたコロニストを撃ち抜く。

どこから射撃が飛んできたと、唖然としているコロニスト。

ライサンダー2の弾が、六キロ先まで届いたのだ。

普通、どんな狙撃銃でもここまで弾は飛ばない。

これが歴史上類を見ない狂った狙撃銃、というだけのことだ。

そのまま、ブルージャケット隊が。逃げるしかなかった鬱憤を晴らすように、激減したβ型の群れを撃ち抜いていく。ただし、前衛のタンクとニクスには、次々糸が着弾しているのも分かった。

跳躍したβ型を、無言で三城が叩き落とす。

陣に飛び込んでこようとするβ型は、率先して始末してくれているが。前衛のタンク三両は、凄まじい密度の糸を浴びて既に限界近い。

これは無理を聞いていたら、多分全滅は免れなかったな。

そう思いながら、黙々と射撃を続ける。

最後のコロニストを壱野が撃ち抜く。

以降はアサルトに切り替える。

レイブンというシリーズのアサルトだ。

常識外の弾数を誇るアサルトライフルで、機関銃やガトリング砲並みの装弾数を実現した代物である。

仕組みはよく分からないが、弾倉がかなり重く。更に火薬では無く電磁式の銃らしいので。

小型のレールガンらしい。

弾倉の重さは主にバッテリー関係らしく。

小型の弾の威力を、レールガン特有の超高速で補うものらしかった。

とはいっても、試作品だ。

至近距離でしか火力を発揮できない。

勇敢に前に出る壱野を見て、ウィリアム中尉も何も言わなくなり。以降は狙撃に専念してくれた。

後は、夕方過ぎまで。

敵の殲滅戦が続いた。

夕方近くに、最後に残ったβ型を撃ち抜く。補給車を一華が無線で呼んでくれたので弾薬は足りたが。それでも、兵士達は全員青ざめていた。

下手をすると今頃全員β型のエサだった。

それを思うと、とても勝利を喜べないのだろう。

戦略情報部の少佐から、通信が来る。

「戦闘をモニタさせていただきました。 流石ですね。 敵の戦力を、相当数削る事に成功したと言えるかと思います」

「次の戦地は」

「現在、新種のドローンが確認されています。 敵も巨大兵器への攻撃を察知して、幾つかの手を打ってきているようです。 対策をお願いします」

「分かった」

通信を終える。疲れきった様子で、ウィリアム中尉が言う。

歴戦の勇者らしくもなく。

明らかに疲弊を隠せないようだった。

「助かった。 どうやら貴殿を侮っていたようだ。 ……いつか借りは返す」

「いえ。 歴戦の精鋭を失うのはあまりにも惜しい。 皆が無事で良かった」

とはいっても、十名以上の負傷者が出ている。

三城も生傷が絶えなくなってきているが、足にも腕にも糸が擦ったようで。今、自分で手当をしていた。

新種のドローンか。

いずれにしても、ここで敵のβ型の主力は削ったはずだ。

これで、少なくともあの巨大兵器の随伴兵力のうち、相当数を奪ったはず。

攻撃の準備は一つ整った。

それで、可とするべきだった。

なお、支給された新兵器は一応使って見たが、感想はまだまだ当面は実用には至らない、である。特に弐分のミサイルは、下手をすると自爆しかねなかった。

戦略情報部にそれは伝えておく。

これが新兵器として、いきなり最前線の兵士に支給されなくて良かったと。壱野は思うのだった。

 

1、彗星

 

英国にも鉄道網はある。

そこに、幾つかの部隊が事前に待っていた。

β型の大軍勢とやりあった直後だ。一応、散々に被弾したニクスの修理はしてもらったけれども。

一華は新型のドローンと聞いて不安は隠せなかった。

プライマーが投入してきたドローンは、レーザー砲を装備し、あり得ない数で攻めこんでくる。

航空機は高価な兵器だ。

一両一億ドルというのが話題になったEMCだが。それをも上回る。

勿論戦闘機の方がプライマーのドローンよりも遙かに強いが。

それでも、数に任せてレーザー砲を乱射されると、近付きようがない。

ミサイルキャリアと化していた近代戦闘機の、最悪の意味での弱点を突かれているとも言える。

更に調べた所によると、EMPの類も効果がないそうだ。

ドローンの残骸を調べて見ると、内部の構造が未知のものばかりらしく。

EMPで回路を焼き切って全滅させる、なんて都合が良くはいかないらしい。自律兵器といっても、地球産とはレベルが違うと言う事だ。

ついでにいうと、EDFがドローンへの対策をどんどん進めている今。

敵がこのままでいてくれるとは、一華には思えなかった。

そこまで楽観できるほど、楽な戦場を廻って来ていないからである。いつもいつも、いつ死んでもおかしくない場所ばかり巡っている。

モヤシに等しい一華なのに。なんだか世知辛い話だ。

「村上班現着。 敵は……あれか」

「昨日はβ型の大軍勢を撃破したとか。 ともに戦えて光栄です」

敬礼してくるのは、大口径砲を装備したフェンサーの部隊。

それに、スナイパーライフルを装備したレンジャーの部隊。

いずれも、少数だった。

ああ、これは。

使い捨てだなと一華は見抜く。

というのも、プライマーの新兵器はどれもこれも凶悪なものばかりだ。

最悪、戦闘データだけとれればいい。村上班はどうせ生還してくる。

そういう考えなのだろう。あの冷酷な戦略情報部らしい采配である。或いは英国の将軍の采配かも知れない。

そして敵だが。

ドローンはドローンだが、赤い。

今までのドローンと違って、全体が真っ赤。

何だか、大気圏に突入し。

真っ赤に燃えている隕石を思わせる赤さだった。

「数は十程度……か。 戦略情報部。 あのドローンは」

「β型が撃破された直後、巨大兵器から出現しました。 データが必要です。 撃墜してください」

「了解。 これより交戦に移る」

「大兄、嫌な予感がする」

三城がそういうと。

子供っぽい……西洋人から見るとなおさらなのだろう。三城を見て、ぷっと噴き出す兵士もいたが。

一華も実の所三城と同意見だ。

これは、嫌な予感しかしない。

プライマーのドローンは、数百を一編隊として編成される。そして、それで制空権を取る。

それがたった十機程度で出てくるのだ。

あれが普通のドローンと思うような奴が、なんでこの戦場に来ているのか。

EDFの兵士の損耗が激しすぎて、ただ生きているだけの奴がベテランになっているのと。

そもそも、あの冷酷な戦略情報部が、データを取得するのに必要だと判断したからなのだろう。

「リーダー」

「どうした」

「浮遊している姿を撮影していて気づいたッスけど。 あの赤い奴、装備しているレーザー砲が桁外れにデカイッスね。 あの大きさだと、多分出力の桁がだいぶ違うッスよ」

「……分かった。 総員、周囲の建物の影に隠れろ。 狙われたら最後だと思え」

馬鹿にしている様子の兵士だが。

流石に尉官に逆らうつもりはないのか、三々五々周囲の建物に散る。

隊長だけは、不安そうに聞いてくる。

「貴方の勇名は聞いていますが、たかが十機のドローンにやけに慎重ですな」

「物量戦を得意とするプライマーがあの程度の数でドローンごときを出してくることがおかしい。 そしてあれは明らかに別物の機体だ。 三倍どころか、百倍は強いかも知れないな」

「そんな大げさな……」

だが。

それが、大げさでは無い事は。すぐに分かる事になった。

空を巡回していた一機が、群れから離れた所を壱野が狙撃する。

流石だ。かなりの速度で飛んでいるドローンに、一発で当てた。

だが、戦車砲どころか。艦砲レベルの火力を持つライサンダー2の直撃を受けたにもかかわらず。

ドローンは爆散も墜落もせず。

大きく飛ばされはしたが。すぐに体勢を立て直す。

舌打ちする壱野。

「やはり予想以上に危険な相手だ。 皆、あれは今までのドローンとはまるで違うぞ!」

「なんだよ、今の弾が不良品だっただけじゃないのか?」

そう舐め腐った口を利いた兵士の隠れているビルに、まるで他のドローンとは別物の。猛禽が強襲するような動きでドローンが迫る。

そして、レーザー砲が禍々しく光り始めた。

まずい。

機銃を浴びせるが、ジグザグに動きながら回避してくる。

「まずい、逃げろ!」

「たかがドローンのレーザーが……ぎゃあああっ!」

放たれたレーザーは、文字通りビルを貫通。

一瞬早く壱野が狙撃を叩き込んでずらさなければ、それこそビルを丸ごと溶かしていただろう。

絶句する兵士達。

しかも、今の狙撃でレーザーの軌道が逸れた結果。

ビルが斜めに切り裂かれ。上部分が地面に落ち、ごおんと凄い音を立てていた。

「兵長、無事かっ!」

「総員、建物の一階に移動! 攻撃をしてくると判断したら、その建物から離れて逃げろ!」

「くそっ! あのドローン、化け物かっ!」

壱野が、更に一撃を浴びせる。

凄い動きをしているドローンだ。データをとりながら、一華は動きを分析していく。

これは、最初に別部隊が戦っていたら。あれ一機に全滅させられた可能性も高いだろうなと思う。

五発目のライサンダー2の弾を浴びて。

やっと一機目が落ちる。

爆散も凄まじい。

どうやらみかけと中身が全く一致していないらしく。

装甲も。火力も。何もかもが全て別物と判断するべきのようだった。

狙撃を受けた兵長は溶けかけたビルから助け出されたが。腕一本と足一本をまるごと吹き飛ばされ。瀕死の様子である。

来ていたキャリバンに乗せられる。

いや、あのレーザー。

キャリバンでも喰らったら危ないだろう。

「一機ずつ確実に始末する。 釣り出しは俺がやる」

「あ、あんなドローンに勝てる訳がない! 逃げましょう!」

「今、一機を落とした。 必ず勝てる」

「……」

青ざめて戦意を失っている兵士が多い。まあ、当然だろう。「ドローン」という括りが同じだけで。駆逐艦と超ド級戦艦ぐらい違う。

これは他の兵士達は弾よけにしかならないなと思う。

弐分が前に出た。三城は、装備を変えた様子だ。

多分、今までのドローンと同じ感覚では戦えないと判断したのだろう。

当然の判断だ。一華もやるべき事をやらなければならない。

一華は急いで今の動きのデータを分析中。

現状のニクスの性能では、機銃を擦らせる事も出来ないだろう。

それをどうにかする。それが出来るのは戦略情報部では無い。この現場にいる一華だ。

「リーダー。 もう二三機、撃墜してくれるッスか」

「分かった。 データの分析、頼むぞ」

「了解ッス」

壱野が狙撃。

また、他から離れた一機を叩いて起こす。

動きをぴたりと止めた赤いドローンは、やはり猛烈な強襲を掛けてくる。

ジグザグに飛んでくる様子は、機械と言うよりももはや生物的な姿にすら思える。

「速度は通常の三倍以上、と。 それだけでも洒落にならんッスねコレ……」

ニクスの至近。

勿論一華だって相応に経験を積んだニクス乗りだ。機銃を放って撃退に掛かるが、一発も擦らない。

レーザー砲が光る。一瞬早く、壱野の狙撃が着弾したが。

ニクスの装甲が、一撃擦っただけで悲鳴を上げていた。

そのまま、しゅんと飛んで行く赤いドローン。

だが、その先に不意にビル影から躍り出た三城が。完璧な一撃を決めていた。

使ったのはランスらしいが。

以前、少しだけ見た事があるウィングダイバーの最大火力武器、ドラグーンランス。

最大火力を展開出来る、ランスの中でも特にピーキーな武器らしい。

それをたたき込み。

既に二発のライサンダー2の弾を受けていたとは言え。

赤いドローンを撃墜していた。

「これで二機目……」

「助かったッス。 誰か、装甲の補給を」

「くそっ! ニクスでもこんな……」

「なんだあのドローン!」

兵士達がぼやきながら、補給車から追加装甲を出してきてくれる。

勿論この兵士達も射撃はしていたが。相手が速すぎて一発も当てられなかったのだ。

やばい。

あんなものを量産されたら、それだけで人類は負ける。

壱野は当てられるかも知れないが。それだけでは戦争には勝てないのだ。

追加で装甲をつけると、データを更に分析。

分かった事がある。

「一つ弱点らしいものが見つかったッスよ」

「聞かせてくれ」

「あのレーザー砲、大火力過ぎて発射の瞬間は動けないようッスね。 誰かが敵意を引きつけて、狙って来たところを全員で狙い撃てば或いは……」

「誰がそんなのやるんだよ!」

兵士の一人が喚くが。

無言で前に出た者がいる。

フェンサー隊の隊長だった。弐分が出ようとするよりも、更に早かった。

「俺がやる。 皆、外すなよ」

「た、隊長!」

「このまま、好き放題にやられてたまるか! 多少敵を侮ったが、兵長だって手足をもがれるほどの事をしたわけじゃない! このままだと、アレが野放しにされて大勢市民を殺す! 黙っていられん!」

「分かった。 弐分、お前はアタッカーだ。 最大火力の砲を装備してくれ」

頷くと、弐分も補給車に向かって装備を変える。

三城はこのままでいいようだ。

あのドラグーンランス、確かに当てられれば最強だろう。

準備が整うと、壱野が三機目を狙撃。直撃させる。

三機目が反応。

そのまま、敵認定した此方に飛んでくる。

ビルから飛び出すと、フェンサー隊の隊長は、盾を構えながら大口径砲を放つが。ことごとくかわされる。

そして、至近でレーザー砲が光った瞬間。

弐分の放った特大の大口径砲が、壱野のライサンダー2の弾と一緒に、ドローンを直撃していた。

爆発。

盾で爆発を塞いだフェンサー隊の隊長は、やれると叫ぶ。

頷くと、壱野は更に一機を釣り出した。

 

最後の二機が、一緒に迫ってくる。

八機までは、同じように処理出来た。しかしながら、前にも観察された現象。ドローンはある程度数が減ると、急に攻撃モードになる事がある。戦略情報部が掴んでいなかった、第四の攻撃モードへの変化条件だ。

だが。これは厳しい。

一華が前に出る。既にデータは取った。だから、やれると判断した。

「時間は稼ぐッスよ。 もう一機、できれば即座に倒してほしいッス」

「了解した」

「来いっ! どんなに恐ろしい火力だろうと、俺は恐れはしないぞ!」

侠気を見せるフェンサーの隊長。

なんというか、勇敢な人物だ。

だが、無謀でもある。

しかしながら、一瞬で壱野の技量を見抜き、命を賭けるに値すると判断した胆力は本物だろう。

すごいなあと一華は思った。

そもそもだ。

一華はEDFにハッキングをかけるまでは、闘争とは無縁の世界にいた。

こんな風に、宇宙人が攻めてくるなんて、思いもしなかった。

いずれにしても。

もしもなんにも知らなかったら、いずれプライマーに為す術なく殺されていたのだろう。

今は、戦って抵抗できる。

死に方だって選べる。

それで充分過ぎる程だ。

「さあ、来いっ!」

迫るドローンに、分析したデータを元に射撃。

凄まじい動きで来る赤いドローンだが、それでも当てて見せる。

見に徹したのだ。

分析して、どう動くかはある程度もう分かる。

射撃を続けて、当て続けるが。それでも落ちる様子は全く無い。

恐ろしい装甲だ。

戦車どころか、戦艦クラス。いやそれ以上ではないのだろうか。

あんな小型飛行兵器に、そんな装甲を積んで。それでありながら、あの狂った動きである。

一体プライマーは、どんな技術力を有しているのか。

だが、それでも。

散々データを見た。

今なら。性能をある程度見切った。

射撃を浴びせることで、敵の注意を此方に向けさせる。それだけで、充分過ぎる程である。

赤い奴は、傷つきながらも至近に、

そして、レーザー砲が光る。

あれをまともに食らったらおしまいだ。

だから、至近で。

レーザーを放つ瞬間に、全力で機銃を浴びせて、レーザーの軌道を逸らせる。

がつんと、凄い音がした。

逸らしたレーザーが、ニクスの左腕を丸ごともっていったのだ。

なんつう火力か。

しかしながら、これで時間は稼いだ。

隣で大爆発の音。

ダメージ甚大、脱出推奨とOSが騒がしいが。完全に無視。まだまだ、気を引かなければならない。

一撃離脱を狙う赤い奴に、追撃の射撃を浴びせる。

右腕の機銃はまだ生きている。そして、当てる事は出来ている。

赤いドローンは一度距離を取ってから、周囲のデータを分析しているのだろう。上空に逃れて、ゆっくりと弧を描くように飛ぶ。

それが命取りになった。

壱野の狙撃が直撃。

今まで、散々ニクスの射撃を受けていたのだ。それに、当たり所が悪かったのだろう。

ふらふらと墜落し初めて。

鉄道の高架にぶつかりながら、爆散していた。

今更になって。

冷や汗が、全身からどっと出て来た。

もしも、もう少しレーザーをずらすのを失敗していたら、どうなっていたことか。

真っ二つになっていたのは一華かも知れない。そう思うと、恐怖しかなかった。

「状況終了。 負傷者は」

「兵長は既に軍病院に。 他負傷者も、既に手当をしています」

「ありがとう隊長」

「いえ、貴方の狙撃がなければ、奴らを倒す事は出来なかったでしょう」

敬礼をかわしている壱野とフェンサー隊の隊長。

暑苦しい光景だが。それでも、死が間近にあるよりはよかった。どこか、安心するものがある。

大型車両が来る。

後は、基地に撤収だ。

帰路で戦略情報部から通信が入る。

「見事な戦果でした。 あの赤いドローンの性能は此方でもモニタしていましたが、今後は分析を進め、効率よく撃墜する方法を模索します」

「ドローンの撃墜に自信がある兵士ほど危ない。 周知してほしい」

「分かっています。 バーミンガム基地で、巨大兵器の攻略のミーティングにそのまま参加してください。 現在、ロンドン周辺での巨大兵器攻略作戦の陽動は最終段階に入りつつあります。 翌日には、攻撃を開始できるでしょう」

「……」

いやな予感しかしない。プライマーにしては、あらゆる全てが手ぬるすぎる。

以前威力偵察したとき、一華にはあの巨大な兵器はまるで本気を出していなかったように思えた。

更にあの赤いドローン。

あれは恐らく、あの巨大兵器の内部で生産されたものではなく、転送されてきたものだと判断して良いだろう。

敵は攻撃を察知し。

此方を誘引して、英国の戦力を一網打尽にするつもりでいるのではないのか。

なお、作戦の指揮は英国の司令官であるジョン中将本人が執るらしい。

作戦の重要性から言えば当然ではあるのだが。

それも危険なように思えた。

「それと、戦果著しい貴方には佐官への昇進の話が来ています。 いずれ、検討をお願いします」

「……分かった」

壱野は佐官か。

そうなると、いつまでも四人での遊撃部隊とはいかなくなるだろう。

意外と村上家の三兄弟との環境は、居心地が良い。

一華に余計な干渉をしてこないし。

だから、このままが一番良いのだけれども。

どうもリーダーどのは。

自分がもっと主体的に戦場に介入して、損害を減らしたいと思っているようだ。それはそれで、確かに一利あるから。

一華には、何も言えなかった。

バーミンガム基地に到着。

ニクスからPCを降ろして。機体を引き渡す。

見事に切り裂かれたニクスを見て、メカニックは唖然としていた。

「何と戦ったんだこれ……」

「敵の新型ドローンらしい。 レーザー砲の出力が狂っていて、ビルを切り裂いたりしたそうだぜ」

「ひえ……」

「ただ、流石に大量生産は出来ないみたいだがな。 その証拠に、一度の戦場で十機程度しか姿を見せなかったそうだ」

それはその通りだが。

かといって、今後楽に戦えるとも思えない。

壱野はミーティングにでて。

弐分と三城は寝ると言って寝室に。

つまり流れ解散である。

一華はPCにモニタやらキーボードやらをつなぐと。

あの赤いドローンが出た時のために。誰でも対抗できるように、ニクスの操作アプリを組み始めていた。

さっき戦場で即興で組んだ奴は、多分一華にしか使えない。

だから、それこそニクスに初めてのったような奴でも使えるくらいに使いやすくする必要がある。

それだけで、まるで戦況が代わるはずだ。

止まった瞬間に撃て、という攻略法が分かったとしても。狙われた奴は高確率で死ぬし。

それに腰が引けて、一瞬の隙に集中砲火が上手く行かない場合だってあるだろう。

やはりニクスがどうにかするしかない。

まて。

やはり、ニクスの機銃。無限軌道なり車輪なりの、車体に積んだ方がいいのではないのだろうか。

ぶっちゃけ一つだけでもハンヴィーにでも乗せたら、それだけでかなりの怪物に対する戦力になる。アサルトライフルもたせた兵士を、ばたばた死なせるような事にはならないはずだ。

少し考えながらも、アプリに調整を入れていく。

いつの間にか戻って来ていた壱野に、咳払いをされた。

「熱心なのは有り難いが、休んでおけ。 明日は朝早い」

「あー、分かったッス。 後十五分作業したら休むッスよ」

「頼むぞ。 ニクスについては、部品を取り替えて何とかしてくれたそうだ」

「……」

整備班には頭しか下がらない。

ともかく直ったのならそれでいい。

いずれにしても、最後の締めまで作業をすると。後は機械的にシャワーを浴びて、泥のようにねむった。

甘いものがほしい。

ブドウ糖の錠剤でなくて、ジャンクフードを食べたかった。

 

2、もやの中の接近

 

霧が出ている。ロンドンにだ。

昔、霧の都と言われたロンドン。

理由は最初に産業革命が来たからだ。つまり霧と言うよりも汚染物質がその正体だった。

産業革命とは名ばかりの。人類初の、ブラック労働時代の始まりである。

子供を鉱山で一日17時間労働させ。

三年鉱山で働けば死ぬ。

乳幼児に酒を飲ませて主婦は働きに出かけた。

労働力がこれほど安くなったのは、地方の民が「囲い込み」とよばれる政策によって土地を追われ、ロンドンに流れ込んだからで。

その結果人命が綿よりも安くなり。

資本家はその人々の生き血を吸血鬼のように啜りながら、富を蓄えていったのである。

血塗られた人類の歴史の一ページである。

そして、今日も霧がロンドンに出ている。

中央に鎮座する巨大兵器。

更に周囲に点在しているコロニスト。

数隻のテレポーションシップ。

これら全てを隠すようにだ。

戦略情報部の作戦である。

ロンドン郊外から、膨大な霧を流し込んだのだ。

台風を消す事は、現在の人類にはまだまだ難しい。

だが、霧を作り出して、大量に流し込むくらいの事はそれほど難しくは無いのが現状である。

プライマーの側は気にもしていない。

元々毒ガス兵器が使われたことは、第一次世界大戦の頃からあったし。

テロで毒ガスが使われたことだって既にある。

人類にとって、ガス兵器は別に珍しいものではないし。

視界を奪うための霧程度など、それこそ余技である。

作戦前のミーティングで。

三城は霧に包まれたロンドンを見て。これが霧の都かと思った。

一応真面目に授業は受けていた。

三城は特級の危険児童として見られていたからだ。

まあ、悪い噂ばかりが先行していたというのもある。

だが、授業では基本的に指名されたとき以外口を利かなかったし。

成績は上の中くらいを維持していた。

遅刻だってした事はない。

それくらいで、教師に目をつけられることは少なくなった。

ただ、それでも他の生徒が怯えるとか。祖父にクレームが行く事がたまにあったようだけれども。

そんなもの、どうすればいいのか三城にも分からなかった。

ただ授業は真面目に受けていたから。

ロンドンが霧の都だという話は知っていた。

それだけである。

「まず第一に、我々を含む部隊が敵に接近。 テレポーションシップとコロニストを撃破する。 同時に爆破チームが敵の基地に接近し、大型の特殊爆弾を仕掛ける」

「多分、大量のドローンとコロニストが、怪物と一緒に待ち伏せてる」

「一応戦略情報部の分析によると、連日の戦闘で巨大兵器の付近の怪物はほぼいなくなっているそうだ。 ただ伏兵が少数いる可能性はあるとか」

「……」

確かにブルージャケットと一緒に相当数を削った。

減っているとは思いたいが。

それでも、テレポーションシップが周囲にいる。

あまり、侮れる状況ではないと思う。

それを指摘したかったが。

まずは全ての話を聞く。

「予想外のトラブルが起きた場合は、力押しに切り替える。 砲台にはダメージを与えられる事が分かっているから、先鋒のコンバットフレームと後衛のコンバットフレームで連携して砲台を破壊。 更に、今回のために温存してきたタイタンを投入し、主砲で兵器にダメージを与える」

「タイタン」

「そうだ」

バーミンガム基地で見た。

確かに凄い戦車だ。

全長は二十メートル以上。普通だったら自走できない巨大戦車だが。設置面積などを工夫することにより、陸上での動く要塞として機能する。

搭載している主砲の火力は艦砲並み。

また装甲も強力で、生半可な敵兵器ではびくともしない。

実際問題、今までにEDF基地に配備されているタイタンは、最初期を除いて怪物に集中攻撃をされてもびくともせず。

主砲はコロニストを一撃で粉々に消し飛ばしているそうだ。

「だけど、相手は黄金の装甲」

「その通り。 だからタイタンが狙うのは敵兵器の砲台になる。 大型の砲台も、タイタンで破壊する。 そして制空権を取り次第、新開発の黄金の装甲を貫く爆弾でダメージを与えて兵器を破壊する」

「……」

上手く行くとは思えない。

まず、あの新型ドローンの存在が気になる。

あれを試運転として出してきたと言う事は、本格的にプライマーも使い出すと言う事ではないのか。

コロニストだって、実際に最初に姿を見せてから。

大量投入されるまで、それほど時間は掛からなかった。

「これらの攻撃で効果がない場合は、タイタンを殿軍にして撤退する。 以上が作戦の概要だ」

「それで大兄。 私達は」

「我々は最前衛だ。 今回は英国EDFの総司令官であるジョン中将が指揮を執る。 タイタンの一両は、指揮車両になるようだ」

「……」

指揮車両か。

英国EDFの総司令官が出てくるということは、それだけ重要な作戦だと言う事だけれども。

それでも、更に嫌な予感が加速するばかりだ。

「俺たちは最前線に出る。 いざという時は、可能な限り味方の損害を減らすぞ」

「……」

「まず俺は迅速にテレポーションシップを撃破する。 弐分、三城。 お前達は確実にいる伏兵を処理してくれ。 一華はコロニストの相手だ。 恐らくショットガンや砲兵もいる。 撃破を頼むぞ」

「了解。 急あしらえの例の兵器もためさせて貰うッスよ」

一華のニクスには、機銃の他にショルダーハウィツアーという大型砲が搭載された。

これは試験兵器の一つらしく。

ニクスに搭載する遠距離砲の一つらしい。

反動制御などに問題が残っているらしいのだが。

先進技術研が今足回りなどでニクスの設計などを根本から見直しているらしく。

その過程で実戦投入が決まったそうだ。

現状主力機としてコンバットフレームの最前衛で投入されているニクス型の、後継機も開発が予定されているらしい。

最初期のニクスは、ベース228で見たように逆関節だったが。

今はほぼ棒立ちに近い状況で。

これをやがて人間と同じような通常関節で歩くようにするそうだ。

装甲については、今の状況では薄すぎると判断。

開発中の電磁装甲というのを投入する事で、同じ装甲で倍近い防御力を実現する予定らしいが。

はてさて、そこまでやれるまで、人類が継戦能力をもたせられるか。

甚だ疑問だが、まあやるしかないのだろう。

三城としても、一華のコンバットフレームは頼りになるとは思っているが。

同時にはっきりいって未完製品の兵器だとも思う。

完成品になったら、多分プライマーにもがつんと浴びせられるはずだ。

だが、それがまた、遠そうである。

「それでは、前衛に合流する」

皆で立ち上がる。

そして、ロンドン近くの前哨基地で。既に待機している一個中隊と合流した。

この一個中隊の他。大尉クラスが指揮している中隊があと二つ前衛を務める。今合流した一個中隊は、村上班の指揮下におかれる。

一個中隊、それも敵に肉薄して攻撃するだけあって。コンバットフレーム二機、タンク四両がいるかなりの規模の部隊だ。

後衛には更に強力な部隊がいて。

師団規模の兵力と、八両のタイタン。三十機近いニクスと、百両の戦車が控えているそうだ。

英国のEDFは、この作戦のためにロンドン近辺の敵の掃討を本気で行ったと言う事である。

だがこれでも心配だ。

今回の作戦は、それこそ兵力をかき集めたという感じで。

最新鋭のニクスと、最初期のニクスがごっちゃに混じっている。

兵士の練度もまばらで。

後衛には新兵もかなりいるそうである。

三城が聞かされているくらいだ。

実態は、かなり危ないのだろう。

EDFは戦力をかなり失っている事は分かっているが。これで立ち直れない大敗北をしなければいいのだが。

「せめて荒木軍曹がいてくれれば心強かったのに」

「昨日連絡が来た。 荒木軍曹は、今アフリカだ」

「アフリカ」

「以前潜って酷い目にあった洞窟があっただろう。 タール中将とともに、あの洞窟の掃討作戦に参加している。 かなりの被害を出しているが、一度潜った辺りまでは安全確保に成功して、奧から出てくる敵を自動迎撃するシステムを構築したそうだ」

こくりと頷くことしか出来なかった。

いずれにしても、これから戦闘開始だ。

霧の中を進軍し始める。

凄い悪意だ。

やはり、かなり敵がいるとみて良い。

ニクスとブラッカーが均等に陣列を作る。テレポーションシップは敵兵器の周囲を移動し続けていると言うことなので。

かなり柔軟な対策が必要になるだろう。

補給トラックも着いてきている。

三つの中隊は、いわゆる鏃。三角形に陣を組んで進んでいる。最前衛は村上班の指揮する中隊。後ろ二つが、後方をカバーし、連携をするための部隊だ。

敵中突破をする陣形であり。

戦略情報部も、最初から敵の抵抗が苛烈になる事は分かっているようだった。

「お、おい。 ドローンが飛んでるみたいだぞ」

「当たり前だ。 あの基地の周囲には、ドローンがわんさかいる。 釣り出して狩っても、どんどん次が来る」

「本当に倒せるのかよ……」

「無駄口を叩くな。 コロニストは音だって聞いているんだぞ」

兵士達のひそひそ話が聞こえるが。

まあ相手にしなくて良い。

無言で飛ぶ。

フェンサー部隊はいるが、ウィングダイバー部隊は後衛に控えているそうだ。

なお、スプリガンがくる予定があるらしいが。

今の時点では、まだ到着はしていないらしい。

いずれにしても、この強烈な悪意。

いつどこで何が起きてもおかしくない。

「よし、周辺確保。 一ブロック前進」

「前進!」

「……」

大兄の声が、兵士達のバイザー通じて届く。

大兄も、一緒に歩いているが。

こうするのが一番確実だ。

ロンドンの、誰もいなくなった道を行く。兵器が落ちてきた当初は、ホームレスやら活動家やらがいたそうだが。

それも兵器が落ちて、どうにもならなくなってからは救出しようがなくなり。

やがて皆、怪物やコロニストにやられてしまったようだ。

彼方此方に、古い血の臭いがある。

目を細める。

やはり、相手には。会話をする気がないと見て良さそうだ。

人間も、相手と会話をする気がないケースはかなり多い。自分の意見やら善意やらを押しつけ。それで相手がどうなってもいいと考える人間は少なくないのだ。

三城はあのクズから解放されて。村上家に来てからも。

そういう人間の業は散々見てきた。

だけれども、人間が無慈悲に殺戮されるのを見ると、苛立ちもする。

不可思議な話だ。

人間はあまり好きでは無いと思うのだが。

それでも、殺戮を容認するほど。三城は残忍ではないのかもしれなかった。

死にかけて苦しんでいるコロニストに介錯をすることもたびたびある。

それも、同じ理由なのかも知れない。

「止まれ。 いるぞ」

三城も感じ取っている。

α型だ。

霧に紛れて接近、という作戦だが。

まあこうなるだろうなと言う事は分かっていた。

どっと、霧を斬り破ってα型が襲いかかってくる。幸い、霧のおかげでレーザーは威力が軽減される。

代わりに、此方も視界を封じられるのが痛い。

均等に陣列を作っているコンバットフレームが応戦を開始。一華のニクスが一番動きが速い。

押し寄せてくるα型に、兵士達も応戦を開始。かなりの近距離での遭遇戦だが。三城と小兄は今回は敵前衛に強襲しない。

この状況だと、味方の弾が高確率で当たるからだ。

三城は上空に出ると、雷撃銃で敵を撃ち据え始める。

小兄はそのまま、ガトリングの圧倒的火力で敵を薙ぎ払う。

敵の一群は消えるが、ぬっとコロニストが姿を見せる。

見せた瞬間、大兄のヘッドショットが入る。

赤いコロニストだったから、ショットガン持ちだったのだろうが。

脅威を即時で排除できた事になる。

「此方村上班。 接敵。 他部隊も注意されよ」

「了解。 戦闘の様子はモニタしている。 援軍は必要か」

「現状は不要。 このまま敵を押しつつ敵兵器に接近する。 爆破チームは村上班後方にて待機せよ」

「了解」

ビルに降り立つと、電撃銃でびりびりとα型を焼き続ける。

立体的に動いてくるα型だが。正面からの圧力が凄まじく、ビル上にいる三城に仕掛ける余裕がない様子だ。

ドラグーンランスに切り替えると、ビルを飛び降り。

ビルの背後を回って近づいて来ていたコロニストの頭を、真上から撃ち抜いていた。

音もなく倒れるコロニスト。

「大兄、ビル影をぬって動いているコロニストがいる」

「処理を頼む」

「ラジャ」

着地。そのままぽんぽんと飛んで、更にもう一体。至近で出くわす。

赤いコロニストだった。相性が悪い相手だが。相手が反応するよりも、三城が動くのが早い。

連日生傷が絶えないとはいえ。

生傷を少し受けたくらいでは、動きに支障がない程度には鍛えている。

頭を吹き飛ばして、確殺。

更に、周囲を回る。

どうやら、主力は押していき。ついに敵兵器の至近に出たようだ。

「敵兵器、砲台は稼働していない。 だが伏兵がいる。 まずは伏兵と視認できているテレポーションシップを排除する」

「ど、どうしてそれが分かる」

「見ていて欲しい」

三城はビル街を抜ける。大兄に指示を受けたからだ。

補給トラックに飛び込むと、電撃銃からプラズマキャノンに持ち変える。クラゲのドローンはちゃんとある。それで安心だ。

そういえば、一華はニクスの中では梟のドローンを頭に乗せているらしい。

こういう所では、意外に趣味があうのかもしれない。

最初は絶対に相容れないだろうなと思っていたのだけれども。

分からないものだ。

変われることはとても貴重なことだと。祖父は言っていた。

もしも変われるのなら。

三城は少しずつでも、変わりたいものである。

ともかくだ。伏兵がいる辺りの地面を、プラズマキャノンで爆砕する。大量のβ型が沸いてくるが。

大兄は、備えさせていた。

「よし、斉射! 動かさずに撃破しろ!」

「イエッサ! 動けなけりゃどうってこたあねえ!」

兵器付近に伏せていたβ型、およそ百数十匹が。ニクスと戦車隊の火力であっと言う間に壊滅する。兵士達が歓声を上げる中。テレポーションシップが、下部のハッチを開くが。

それを待っていた大兄と小兄が、同時に別のテレポーションシップのハッチに弾丸を叩き込む。

ライサンダー2は当然として。

小兄も、大火力砲を今日はもってきている。

兵器の砲台対策だ。

テレポーションシップの撃墜数も、既に二人とも二十隻を超えている。

慣れたものである。

撃墜され、落ちていくテレポーションシップ。

だが、プライマーも黙ってはいない。

「コロニストのドロップシップ接近! 数、十以上! 此方を包囲する動きです!」

「第二陣、第三陣、前進して村上班の補助に当たれ。 相手はコロニストだ。 油断せずに叩け」

ジョン中将の冷静な指示が飛ぶ。

三城はもう一発、地面にプラズマキャノンを叩き込む。やはり伏せていたβ型がわんさか現れるが。

殺気がダダ漏れだ。

即座に皆で集中攻撃をして黙らせる。

だが、本命はこれから来るのだ。

「総員少し後退し、ビル影に隠れつつコロニストに備えろ。 戦車隊とニクスは、敵兵器の砲台に攻撃を開始!」

「爆破チームを前に出せ」

「いえ、砲台が動いたら全滅します。 敵の砲台を減らすまで待ってください」

「……確かにそうだな。 よし、他の班も村上班の動きに習え。 コロニストの空挺兵どもを殲滅しつつ、敵兵器の砲台を削り取れ! 狙うは対空砲台を中心にいけ!」

ジョン中将は、少なくとも無能ではないようだ。

EDFは設立され、各国の軍を吸収して大きくなっていったが。

その過程で、利権だけで将軍になっているような無能な高位軍人は、かなりリストラされたそうである。

ジョン中将は、あまり良い印象がない人物だが。

それでも、作戦指揮は的確に思える。

側に腰巾着の参謀を置いていないことからも。

プライマーとの戦いは、常に自分で指揮をしていたのだろう。

見かけとは能力が違う人物なんだなと思いつつ。

プラズマキャノンを、敵兵器にぶっ放し。まずは小物の砲台から順番に片付けて行く。コロニストが展開する前に、少しでも敵の戦力を削りたい。

「来たぞ、ドロップシップだ!」

「前方だけで六! かなりの数だ!」

「落ちてきた瞬間は無防備だ! 戦車隊、ニクス隊、集中攻撃の準備!」

三城はフライトユニットから、プラズマキャノンにエネルギーを最大までチャージしていく。

警告音が鳴っているが。エネルギー残量が減っているだけだ。

一華のニクスが前に出る。

多分、考えている事は同じだろう。

大兄、小兄も同じく。大火力砲を構えていた。

ドロップシップの下部が開き、コロニストが落ちてくる。

同時に、プラズマキャノンを最大火力で。コロニストに向けてぶっ放す。

炸裂した爆発が、コロニストの群れを直撃。六体全てを瞬殺とはいかなかったが。六体にまとめて痛打を浴びせたようだった。

あのドロップシップは無敵でも。

コロニストはそうではない。やはり、開いてしまえばどうにでもなるというわけだ。

手足を失って、必死に再生しようとしているコロニストに。兵士達が斉射を浴びせて黙らせる。

続いてもう一発と思ったが。ニクスの影に隠れる。今のをコロニスト達も、霧で見えにくいとはいえ。見ていたのだ。

射撃が集中してくる。ニクスでも、あまり長時間は耐えきれない。

赤い奴は大兄が率先して屠ってくれているようだが。そもそもアサルトでも火力は危険すぎるレベルなのだ。

更に、である。

ごうと、凄い音がし始めた。

「お、おい! 霧が晴れていくぞ!」

「霧発生班、何をやっている!」

「風向きなどを計算して、霧はきちんと流し込んでいる! 何かプライマーがしているということだ!」

「畜生、霧を自由に晴らすことも出来るのかよっ!」

霧が、消えていく。

巨大な要塞の前に、大量に展開しているコロニスト。この様子だと、増援はまだまだ来るとみて良いだろう。

最初に展開した三個中隊と、ガチンコでの戦いが始まる。アサルトライフルを持ったコロニストだけでも充分な脅威だ。他の班にも、赤い奴は優先して倒せと連絡が飛んでいる。被害が、出始める。

「此方右翼タンク2中破、後退する!」

「此方右翼ニクス6、被害甚大! 一度さがる!」

「負傷者多数! 増援を頼む!」

「踏みとどまれ! 砲兵隊が支援砲撃をする! 村上班、少し下がって敵を誘引しろ!」

言われたまま、少しずつ後退する。同時に、コロニストがガアガア叫びながら突貫してくる。

戦車砲を喰らおうが、関係無しだが。

その瞬間。一華のニクスの肩に乗っている大型砲が、火を噴いていた。

炸裂した砲弾が、数匹のコロニストをまとめて吹っ飛ばしていた。まあ即死まではいかなかったようだが。密集した地点に着弾し爆発したのだ。被害は甚大である。

さがりながら、戦車とニクスで猛攻を仕掛け、敵の陣に開いた穴を集中攻撃していく。また、敵が一部突出したことで、十字砲火を形勢。コロニストは此方にも被害を出しながらも。ばたばた倒れていく。

更に、ジョン中将の行っていた砲撃隊の攻撃が炸裂。

飛来した大型榴弾砲が、コロニストを文字通り一網打尽にしていく。

「おおっ!」

「鈍重だとは聞いているが、とんでもない火力だ!」

「いけるぞ!」

「……負傷者はキャリバンに、ダメージを受けている戦車やニクスは装甲の補修を急いでくれ。 霧はもう晴れている。 もしも来るなら……」

大兄が冷静に指示を出し、皆がすぐにそれに従う。補給車に兵が殺到し、マガジンを交換したりアーマーを変えたりし始める。

準備が整うと同時に、巨大兵器に攻撃を開始。

展開しているニクスと戦車が、敵砲台を狙って集中投射を開始する。コロニストを一掃できた直後だ。もう遮るものはない。凄まじい砲火が集中し、爆炎に巨大兵器が包まれていく。

兵士達が歓声を上げるが。

嫌な予感は、次の瞬間。最高潮に達していた。

揺れだ。

地震では無い。

大規模な怪物の群れでもない。殺気を感じない。むしろ目の前にいる巨大兵器が、動いている。

「な、なんだ……」

「巨大兵器が、動いているだと……!」

「爆破チーム、接近を中止する! 後退開始」

「……総員さがって様子を見る。 後退開始。 砲兵隊は退避」

ジョン中将が冷静に指示を出す中。

霧をどういう技術でか撃ち払い。

そして、地面から巨大な姿を這い出そうとしている巨大兵器。それは、無数の足を円周上に生やした。

歩行式の巨大戦車だと言う事が、三城にもわかった。

今の総攻撃で、上部の砲台はある程度削った。

だが、地面に埋もれていた部分にも、同数以上の砲台が存在している。

ジョン中将の指示に従って、兵士達が我先に後退を開始する中、大兄は冷静に言う。

「……俺たちが最後尾になる。 全員、撤退を急げ!」

ここはビル街。戦い方はある。

三城は頷く。小兄も。一華も頷いていると思う。

村上班が多少無理をすることで。

被害を、少しでも減らす事が出来るかも知れない。

 

3、蹂躙

 

「巨大兵器が歩いています! 見かけ以上に、かなりの速度です!」

「砲台が稼働しています! プラズマ砲、レーザー、なんでもありのようです!」

「右翼部隊、撤退が遅れ……ぎゃあああっ!」

「ニクス5! ニクス5が……踏みつぶされましたっ!」

弐分は阿鼻叫喚の無線を聞きながら舌打ちしていた。

大兄の危惧が当たってしまった。

だが、これが恐らくこの兵器の戦闘形態。

此奴を暴くことが出来たという意味では、今までの戦闘は意味がある。後は、被害を可能な限り減らすだけだ。

「要塞からコロニスト出現!」

「!」

狙撃をして、どんどん敵砲台を叩き落としている大兄が反応。

弐分は前面に出ると、射撃を続けつつさがっている一華のニクスを追い越していた。

「弐分、いいか」

「任せてほしい」

「今、コロニストが更に出現したとあったな。 前衛で戦いながら、コロニストがどこから現れたか確認してくれ。 俺が知る限り、コロニストはテレポーションシップやテレポーションアンカーからは現れない」

「分かった。 ただし支援は頼む」

弐分の上空で爆発。

複数の砲台が粉々になり、爆散して落ちていった。

三城のプラズマキャノンによる支援だ。

また、一華のニクスの肩砲台も、逃げる味方を撃っている移動戦車の砲台を優先して潰してくれているようだ。

一華が言っていた様に。

味方のニクスは、確かに見ていると、後退速度が遅い。

歩行システムに問題があるとは聞いていたが。やはりその話には、嘘は無い様子だ。

何カ所かで、ニクスが大苦戦しているようだ。砲台からの砲撃を集中して喰らっているようだし。

何より要塞から出て来たコロニストがいる。

鈍重にさがりながら、踏みつぶされないように必死にしているだけ。他の事に気を配れず、どんどんダメージが加算していく。

要塞の足がドリルのような恐ろしい殺意に満ちた造りになっているのも、兵士達を怖れさせる要因だろう。

あんなのに踏まれたら、どうにもならない。

ジョン中将が、淡々と指示を出す。無感情だが、的確な指示だ。

「狙撃班、出ろ。 前衛部隊の後退を支援。 コロニストを狙撃して動きを阻害しろ」

「了解! ブルージャケット展開。 霧を取り払ったことを後悔させてやる!」

「ウィリアム中尉、敵の動きは予想より早い。 指定地点を敵が越えたら、ジープで撤退せよ」

「イエッサ!」

ブルージャケットはこの間の戦いで被害を免れた。嬉々として参戦している。

三城が意外に有能だなとぼそりと呟いているのを弐分は聞いてしまったのだが。

それについては同感だ。

何となく気にくわなかったのだが、態度は改めなければならない。

大兄がさがりつつも、確実に赤いコロニストと邪魔な砲台は破壊してくれている。

弐分は可能な限り前に出つつ。敵の大型要塞のデータをバイザーに納める。後で一華が分析してくれるはずだ。

要塞下部には、凄い数のレーザー砲台がある。

マザーシップもそうだが、どうも下部に過剰に火力を集中する傾向があるように弐分には思える。

映像を納めると、即座にブースターとスラスターを生かして、最大限の機動戦を行う。

コロニストは、どこから出て来ている。

迫ってくるコロニストの横っ面を吹き飛ばすように、大兄の狙撃が入る。

基地の周囲に散らばっているコロニストは、ブルージャケットがアウトレンジから攻撃してくれているようだから、任せてしまう。ともかく、味方の被害を減らすことだ。隙を見て砲撃を入れ、レーザー砲台を破壊する。破壊は、出来る。だが、苛烈すぎる攻撃が、盾を見る間に消耗させる。

「!」

見えた。

要塞下部に、巨大なハッチがある。それが開いて。コロニストが落ちてきた。

即座に大口径砲を叩き込む。だが、ハッチに突き刺さり、ダメージは与えたようだが。とても破壊は出来ていない。

そのまま、急いでさがる。コロニストが集まって来たし。レーザー砲台が集中して狙って来ているからだ。砲台の斜角を見てある程度はかわすが、レーザーは放たれたら避けられない。

少しでもフェンサースーツの操作をミスしたら死ぬ。

内臓を掴まれるかのような威圧感だ。

飛ぶように機動しながら、コロニストの頭をスピアで貫く。狙って来るコロニストも、横殴りに飛んでくる大兄の狙撃に対応するのか、飛び回る弐分に対応するのか。それで動きが鈍る。

その動きの鈍りをつく。

「大兄、いいデータを撮れた。 離脱する」

「よし、戻ってこい。 味方は被害甚大。 これは多分駄目だ」

「……分かった」

やはり後退が上手く行かない。

村上班がどれだけ暴れて砲台を削っても、相手が大きすぎる。村上班の主力部隊はどうにか味方本隊に合流したが。右翼部隊はニクスを踏みつぶされるわ、タンクをコロニストに破壊されるわ、相当数の被害を出しているようだ。味方からの支援攻撃でも救いきれない。

すぐに右翼部隊の救援に向かうと言われて、そうする。

確かに、悲鳴を上げながら逃げ惑う兵士が目立つ。その背中を、容赦なくコロニストが撃っている。

コロニストに躍りかかった三城が、ドラグーンランスで頭を吹き飛ばす。三城に気づいたコロニストだが。今度は弐分がスピアでその手足を連続してもぐ。

即殺は出来ないが。命を惜しまないコロニストでも、痛みは感じるらしい。

手足をへし折ると、動きは鈍る。

とどめのスピアを叩き込み、逃げ惑っている兵士に叫ぶ。

「逃げろ、急げ!」

「すまない、恩に着る!」

「此方ブルージャケット、敵が想定地点を越えた! 退避する!」

「よし、狙撃部隊は各自バーミンガム基地に撤退せよ。 ここからは重戦車を試す」

味方本隊に、敵の巨大移動戦車が迫っている状況か。

ともかく、退却が遅れている右翼部隊の兵士をカバーしながらさがる。何度もフェンサースーツをレーザーが掠めたり擦ったりしているが。耐えるしかない。

大型の砲台が狙って来ているが。

大兄の狙撃と。三城のプラズマキャノンが同時に着弾し。大型砲台が半壊しながら、崩れ落ちていくのが見えた。

あんな巨大砲台が。いや、多分エネルギーが溜まった瞬間に着弾したからだろう。

兎も角、キャリバンを呼んで、動けない味方兵士を収容させる。その間、仁王のように立ちふさがり。

コロニストを片っ端から叩き伏せて回る。

一華のニクスが、バックジャンプしながら側に来た。肩の砲台で、纏まって追ってきたコロニストを吹き飛ばす。即死まではいかないが、それでも手足がばらばらに千切れるのが見えた。

あれは、多分手足を再生してももう動けないだろう。

恐ろしい事に、それを判断したのか。

他のコロニストが、動けなくなって散らばったコロニストを射撃して、とどめを刺す。

役立たずはいらない。そういう事なのだろうか。

「奴ら、悪鬼か……?」

「α型の怪物に似ていると前に言った生物……昆虫の蟻は働けなくなった仲間をゴミ捨て場に捨てるんだそうっスよ。 他にも、冬場になると子供はエサに早変わりだとか」

「おぞましい生態だ」

「合理的、なのかも知れないけれど。 ちょっと真似したくはないッスね」

一華は更にさがる。移動基地は容赦なく迫ってきている。右翼部隊の撤退を更に支援していくが。

後退を続けるうちに、砲列を並べている巨大戦車と。展開しているタンク多数が見えてきた。

ニクスも多数が既に戦闘態勢を整えている。

「村上班、よく頑張ってくれたな。 総員、攻撃開始! 砲台を集中的に狙って潰せ!」

「レクイエム砲、発射! 最強の陸上兵器の火力を見せてやる!」

レクイエム砲。超巨大戦車、タイタンの主砲のことだ。

なんでも弾速が遅く、着弾までにレクイエムを唱えられるからだそうだが。

実際には巨大な車体が後ろにぐんと押されるほどの反動があるし。

着弾までは、他の砲弾と変わらない様に思えた。

ともかく、半壊している右翼部隊を救援しながらさがる。後は任せるしかない。

「砲台は多数破壊! しかし、要塞からコロニスト、怪物、多数出現してきます!」

「ちっ。 さがりながら、コロニストと怪物を撃破。 ドローンは」

「上空より飛来! 凄まじい数です!」

「……戦略情報部」

レクイエム砲が敵移動基地に着弾している。タイタンが斉射を続けているのだ。当然何発も。

それぞれが巨大ビルを一撃破壊するほどの火力だと聞いている。

凄まじい爆発が起きる。確かに砲台は破壊出来ているが、巨大兵器の装甲にはダメージが入っているようには、残念ながら弐分にも見えなかった。

黄金の装甲は凄まじい。

更に、敵が「立ち上がった」ことで車高が上がり。対空砲を狙いづらくなっている。

もしも無理に狙おうとウィングダイバーが向かっても、残っている砲台や。コロニストの射撃の好餌になるだけだろう。

「以降、この巨大敵兵器を移動基地と呼称。 脅威度を一ランク上げます」

「それで」

「どうやらレクイエム砲も効果がなく、対空砲撃を止める事も不可能なようです。 これ以上は損害を増やすだけです。 撤退を開始してください」

「聞いての通りだ。 総員、追撃してくるコロニストと怪物を叩きながら撤退。 ニクスは上空から来るドローンを叩き潰せ。 歩兵はAFVに怪物を近づけるな。 敵の予想移動経路は」

少し遅れて、戦略情報部が連絡を入れてくる。

どうやら、西に向かっているようだと。

「海上に出るつもりのようです。 砲台に少なからずダメージを受けているので、補修をするつもりなのでしょう」

「潜水母艦やサブマリンでの攻撃は出来ないのか」

「現在、三隻とも近くにはいません。 サブマリンの艦隊も距離があります。 それに、敵の対空戦闘能力は健在。 何より魚雷に対黄金装甲の新型兵器の搭載はまだ成功していません」

「ちっ。 西の部隊はすぐに逃げろ。 蹂躙されるぞ」

慌てて西方向の部隊が散って行き。それをカバーするように味方が動く。

だが、それだけだ。

悠々と移動して行く「移動基地」。残された怪物とコロニスト、ドローンの始末だけでもかなりの被害が出た。

やがて、移動基地はロンドンを後にはしてくれたが。

英国のEDFは、多くの被害を出す事になり。ニクス、戦車を多数失う結果に終わったのだった。

なお、スプリガンは間に合わなかった。大量のドローンを移動基地が放ったため、制空権を確保できず。輸送機が接近できなかった。同じ理由で、到着するはずの部隊が多数、展開出来なかった。

 

バーミンガム基地に帰還したのは、翌日だった。

大きなダメージを受けた部隊をまとめたジョン中将は、ロンドン基地を奪回。ただ、基地は破壊され尽くされていて。内部に怪物が入り込んでおり。村上班も攻略に協力しなければならなかった。

いずれにしても基地機能は完全に沈黙しており。

復興どころでは無いと判断。しばらくは、工兵部隊を常駐させるだけで。前哨基地として扱い。主力はバーミンガム基地にて動く。そうジョン中将は判断した様子である。

負傷者が次々と運ばれて行く中。

村上班は、一日休んだ後。ジョン中将の執務室に呼び出される。

なんだかど派手なポスターが多数飾られている部屋で、高位軍人の部屋とも思えなかったが。

ジョン中将は、不愉快そうな顔をそのままに。一応、感謝の言葉をくれた。

「噂に違わぬ見事な活躍だった。 お前達のおかげで、命を救った兵は多い。 それに、貴重なデータも得られた」

弐分を見るジョン中将。

あの敵移動基地下部にあったハッチ。

あれが弱点になっている可能性は高い。

ただし、大火力の火砲を叩き込んでも基地は破壊出来なかった。破壊するためには基地を逃がさず、何度もあの規模の攻撃を叩き込む必要があるだろう。

戦略情報部が、今作戦の改定を進めているそうだ。

もしも敵移動基地を破壊出来れば。

戦略的に、優位に立てるのである。

「此方からも推薦をしておいた。 村上壱野大尉。 恐らく近日中に少佐に昇進の人事が届く筈だ」

「ありがとうございます」

「ああ。 俺はこの通り、なんというか他人に嫌われやすい性格でな。 多少嫌な風に感じるかも知れないが、少しでも多くの兵を生還させてやりたいと思っている事に関してはお前達と同じのつもりだ。 次は……あの忌々しい移動基地を破壊しよう」

敬礼をすると、部屋を出る。

一華が小首を傾げていた。

「あのおっさん、なんつーか私と同じ臭いがするッスねえ」

「どういうこと?」

「コミュ障」

「……」

呆れたように三城が口をつぐむ。まあ三城もあまり他人と意思疎通をするのは得意ではないようだから。何となく分かるのかも知れない。

一華のニクスは戦場で活躍著しく、特に配備されたばかりのニクス用火砲を使いこなしていたことは評価が高かったようだ。

別室に移動してから。

大兄が言う。

「皆、恐らくこれで昇進だろう。 俺は少佐に昇進するらしい。 皆は中尉に昇進する事になる」

「中尉っていったら、普通の軍隊の兵隊からすると雲の上の人ッスよね」

「そうだな。 だが此処は特務だ。 もっとも厳しい戦場で、それだけの活躍をするから階級を貰っている。 そう思って励んでくれ」

弐分は頷く。三城もこくりと頷いた。

一華は頷きはするが。

何か言いたそうである。

「出世すると、どんどん無茶ぶりをされることになるッスよ」

「それは分かっている。 だが、今回の作戦でもそうだったが。 指揮権が大きくなれば、味方の被害は減らせる」

後で聞かされたのだが。

先の移動基地攻撃戦。右翼部隊の先鋒の指揮官だった大尉は。移動基地に踏みつぶされて命を落としていたそうだ。

それであれほど動きが鈍かったのだ。

そう考えると、確かに納得は行く。そして、移動基地の恐ろしさも、思い知らされる。

今回の件で、先進科学研には装備の刷新が求められる筈だ。

まずは更にレーザーに強いアーマーの支給。

今後、あの赤いドローンが出てこない保証はない。

それに大量のドローンに集られれば、いずれ今支給されているアーマーでは必ず対応できなくなる。

戦闘機だってそうだ。ドローンが行く手を阻んできたら、近寄る事が出来ないだろう。

鳥がぶつかっただけで、飛行機は大きなダメージを受ける。

バードストライクという奴だ。

十sもないような鳥がぶつかるだけで、セスナ機やジャンボジェットが大きなダメージを受けるのである。

十メートルを超えるプライマーの殺戮ドローンがぶつかったら、戦闘機などひとたまりもない。

一華が挙手。

ほしい装備について、色々と上げている。

頷くと、大兄はメモを取り。

取り終えると、弐分や三城にも聞いてくる。

「お前達は」

「俺はフェンサースーツの性能はそのままで、防御力を上げてほしい」

「そうだな。 特に盾はそれが必要だろう」

「ああ、そうなる」

分かったと、大兄は頷く。

三城は聞かれると、こくりと頷いた。

「ドラグーンランスが暴れ馬過ぎる。 反動で吹っ飛びかねない」

「分かった。 もっと制御しやすいように調整を頼む」

「お願いする」

村上班は実験兵器を回されている部隊だ。恐らく先進科学研も、話はある程度聞いてくれるだろう。

大兄は、これから執務だそうだが。

弐分達はもう休んで良いという事なので、言葉に甘えることにする。ガタイは弐分の方が良くても。多分体力は大兄の方がある。

ただ、それでも無理はさせられない。大兄には、しっかり休んでほしいと時々思う事があった。

まあ、それも面と向かっては言えない。

昨日今日と疲れた。弐分も、すぐにねむって。一日くらいねむりたいくらいなのである。

もはや、それ以上何にもかまう余裕はなくなりつつあった。

 

翌朝。大兄に呼ばれて、朝食後に集まる。

英国から離れた移動基地は、海上に消え。姿が確認できなくなったそうである。今、姿を探しているそうだ。

英国から追い払った、とも言えるが。英国のEDFは、奴との戦いで大きなダメージを受ける事になった。

しばらくは再建で追撃どころではない。

それに欧州本土は各地が凄まじい怪物の猛攻に晒されていて。とてもではないが英国の救援どころではないという。

欧州本土は英国のEDFによる支援を期待していた所に。大きく肩すかしを食らった形になったわけだ。

それらを聞かされた後。

今後の村上班の行動について説明を受ける。

「今、アフリカで凄まじい猛攻にタール将軍が晒されている。 難民はまだかなりの数が残っている。 救出作戦を進め、敵を防ぐ大規模作戦が予定されている」

「アフリカッスか……」

「例の洞窟への攻撃作戦への布石?」

「そうなる。 此処で敵をたたき伏せることが出来れば、かなりの余裕が生まれるようだ」

叩き伏せる、か。

ただでさえとんでもなく不利な戦況が続いている状況だ。敵も凄まじい数を動員してくるだろうに。

弐分だって、それくらいのことは分かる。

ただ、荒木軍曹(もう大尉か少佐になっている筈だが、多分まだ軍曹と周囲に呼ばれているのだろう)がいる。

それは、心強いとは言えた。

いずれにしても、輸送機が来る。

夕方には準備が終わり、乗る事が出来た。

EDFでは、移動要塞への第二次攻撃計画を立てているという。次は日本の移動基地への攻撃だそうだ。

そうなると大阪での決戦か。

確かに、日本の移動基地を潰せれば、大きく戦況のコントロールを奪い返せる。

もともと日本では東京がある程度無事である事もあって。

EDFのダメージが他の国より小さいという。

それに、実験をしてデータを取りたいのだろう。

米国にいる移動基地も潰せれば、反転迎撃が可能になるし。

後はエルギヌスに注力できるのだから。

十時間ほど、飛ぶ。その間、大兄に輸送機の中で休むようにと言われた。

休むのも軍務だと。

一華はプログラムを組むといって、カタカタキーボードを叩いていたが。それもほどほどにするようにと言われていた。

それもまあ、そうだろう。

無理矢理にねむって、起きる。

ねむるのはそれほど難しく無かった。

時差のある英国に来ていたし。

何より連戦に次ぐ連戦で、全身を酷使していたからである。

ただ、アフリカに到着すると、流石に目が覚めた。輸送機は、そこそこ乱暴に着陸したからである。

アフリカの基地は、揚陸艦がまだたくさんいて。どんどん難民を飲み込んでいるようだった。

アフリカの放棄を世界政府が決定したとしても。

まだまだ、彼方此方に取り残された人々がいて。

怪物やコロニストの脅威にさらされている。

奇しくもプライマーも早期に占領したアフリカを実験場か何かのように思っているらしく。

他では目撃されていない兵器や、エルギヌスでは無い怪生物の目撃情報の噂まであるらしい。

ともかく、輸送機から降りると。

あまり良い臭いはしなかった。

たくさんの、酷い目にあいながら逃げてきた難民達。

負傷しているし、衛生面だってよろしくない。

死の臭いだ。

医師団をEDFが派遣しているようだが、担架を担いで走り回っている彼らは、血相を変えている。

担架に乗せられているのは、兵士だけではない。

良くない病気を発症した難民も、かなりいるのだろう。

それに怪物に襲われたとなると、アーマー無しだと無事でいられるとは思えない。

一人で泣いている子供もたくさん見かけた。

EDFの兵士達も殺気立っていて。

此処はこの世の地獄だなと、弐分は思う他なかった。

兵器もそれなりに集められているようだが。一大決戦を行うにしては、バーミンガム基地よりだいぶ少ない。

揚陸艇で運んでこられるのに限りがある事。

それにEDFも此処から最終的に撤退しなければならないこと。

それらが影響しているのだろう。

それは、何となく弐分にも分かる。

荒木軍曹が来た。部下達もみんないる。また、ニクスも新しく支給されているようだった。

四人で敬礼をする。やはり。荒木軍曹も、少佐にまで出世していたようだった。

「久しぶりだな、村上班。 皆、無事なようでなによりだ」

「またたくましくなったな。 俺たちが守って貰う立場だな、これは」

「ああ、有り難い話だ」

「もうレーションの味云々の状況ではなさそうだな。 立派な一人前の兵士だ」

小田、浅利、相馬の各少尉がそういう。

彼らも特務として最激戦区で生き抜いてきたのだ。

そして、元々一等兵だった彼らが少尉になっていると言う事は。

EDFの損耗率が、それだけ激しいと言うことである。

「早速だが会戦だ。 コンディションは充分か」

「はい。 いつでもいけます」

「うえ、マジッスか……」

大兄が即答するのに、一華はげんなりした様子である。

三城も若干疲れが見える。

まあ、輸送機で英国から飛んできているのだ。

それも直線距離では無い。制空権をとれている場所を、うねうねと飛んできているのである。

仕方がない部分はある。

「かなりの数の怪物が、俺たちが途中まで拠点を確保した洞窟を奪還しようと迫っている状況だ。 現地にいる部隊は疲弊していて、戦えばコロニストの大軍との決戦までに戦力を残せないだろう。 俺たちだけで片付ける」

「分かりました。 空軍は出せそうですか」

「DE202が出せるとは思うが、それもあまり長い時間は厳しいだろうな。 フォボスは決戦に向けて温存している。 恐らくは厳しいだろう」

「分かりました。 それで恐らく、かなり楽になるはずです」

すぐに大型車両で現地に出る。

アフリカの大地を行くが。途中でかなり戦闘の痕跡が見受けられた。

前線は縮小する一方。

難民を救出したら、即座に拠点放棄。

そうやってどんどん戦線を縮小しているらしい。

タール中将は連日胃を痛めるような判断をしているのだろう。或いは状況次第では前線に出て来ているかも知れない。

弐分も、少しばかり同情した。歴戦の猛者そのものであるあの人も、そんな風な状況だ。

普通の兵士達は、もうたまったものではないだろう。

現地に到着。

かなりダメージが大きいタンク四両がいた。装甲がボロボロだ。兵士達は雑多な装備の歩兵ばかり一個小隊ほど。

ニクス二機が来たのを見て、少しだけ彼らの目に希望が差すのが分かって。

弐分はいたたまれない気持ちになった。

「荒木班、村上班、現着した。 敵の様子は」

「集結を続けています。 数は既に五百……もっといるかと思います」

「地面に隠れているのがいる。 多分既に千は超えてる」

「……」

ぞくりとしたように、兵士達が三城を見た。

だが、千なら。

この面子なら、何とか出来る。

ましてや相手はコロニストもいないのである。

「リーダー。 遠隔操作プログラムを組んでいるんスけど、試してみても良いッスか?」

「何を遠隔操作するつもりだ」

「タンク」

「……元以上の性能を引き出せるというならかまわない」

一華が組んでいたのはそれか。

だが、ニクスを操作しながら、タンクも操作するつもりか。

大丈夫なのか不安になったが。

先読みするように言う。

「大丈夫ッスよ。 私の相棒のPCが最大限支援してくれるッスから。 私自身が頭をフル回転させる訳ではないッス」

「いずれにしても、タンクの兵は不慣れです。 もしも遠隔操作なんて事が出来るなら、やっていただけますか」

「分かった。 うちのニクス乗りは少しばかり特別だ。 やってみせる」

現地の指揮官が不安そうに言うが。

大兄は、一華を信頼している様子を見せる。

少しばかり羨ましい話だ。

「よし、相馬少尉。 ニクスは頼むぞ」

「分かりました」

「壱野、指揮はお前が執れ。 俺たちはお前の指揮に従って戦う」

「……ありがとうございます。 光栄です」

荒木軍曹に、最大級に認めて貰った。

それは、弐分にとっても、自分のことのように嬉しかった。

すぐに戦闘が開始される。

この戦闘一回で終わりでは無い。

各地で苦戦している部隊を救援して回ると言う事で、数回はこういう無茶な規模の敵をたたき伏せなければならないらしい。

それでも、今のだけで気力がわき上がってくるのが分かる。

戦闘開始。

誰も死なせず。

この戦いを生き残ると。弐分は全力で、指示を受けたとおり敵へ突貫していた。

 

4、着々と進む準備

 

東京基地に、続々と大型の揚陸艦が到着。

乗せているのは、米国で建造されたEMCである。

日本で建造されたものも含め合計十両。

エルギヌス討伐作戦のために集められたものだ。

主にヘリ部隊でエルギヌスを誘引し。爆撃を浴びせ。弱った所に、このEMCでとどめを刺す。

今、アフリカで繁殖地撃破作戦のための準備が進んでいるが。

エルギヌス撃破作戦の準備も、こうして進んでいる。

ただし。作戦には村上班と荒木班を参加させる事も決まっている。

英国での移動基地撃破作戦は失敗した。

まあ移動基地という名称は、奴が真の姿を見せてから名付けられたものだが。

リー元帥は、各地の準備の映像をみやり。

そして、ため息をついた。

三つの大目標。

その全てが、まだ途上だ。

特に移動基地は、正体は暴けたものの。それによって多くの被害を出す事になってしまった上に。

移動基地そのものが、何処へ行ったか分からない状態だ。

それに、である。

アフリカの戦線で、エルギヌスではない怪生物が目撃されている。

まだ戦略情報部が真偽を確認中で。

戦闘には至っていないと言う事だが。

プライマーのことだ。

いつ、その新怪生物を何処に投入してきても不思議では無い。

良くないニュースはまだある。

各地に、英国で目撃された赤い強力なドローンが出現し始めているらしい。

どうやら相当な高コストで作られているらしく。空を埋め尽くす他のドローンほどの数はいないようだが。

一機いるだけで、大きな被害を毎回出すので。

兵士達には、「彗星の悪魔」とよばれて怖れられているそうだ。

一応、撃破記録も出ている。

命がけで村上班がデータを取ってくれた結果である。

ため息をついていると。

戦略情報部の少佐から、連絡があった。

「リー元帥。 よろしいでしょうか」

「うむ……」

「潜水母艦エピメテウスが、移動基地を確認しました。 海上を移動しながら、アフリカに向かっているようです」

「アフリカに来るつもりか……」

南北のアメリカ大陸。中国。日本に投下された移動基地は、まだ動いていない。

英国にいた奴は、砲台をかなり失ったものの、逆に枷が外れたと言う事か。

「受けたダメージはどうなっている様子だ」

「上部の砲台はかなりダメージを受けているようですが、下部にある砲台や、本体の装甲は……。 何より、充分過ぎる対空戦闘能力を有しているのは、一目で分かる状況です」

「意外だな。 補修はされていないのか」

「恐らくですが、ドローンと同じ無人兵器なのでしょう。 あの規模ではありますが」

分かった、とリー元帥は答える。

いずれにしても、アフリカにあれが上陸したら。揚陸艦やアフリカで必死に交戦している部隊は終わりだ。

難民の救助を急いでいるが。

そもそも受け入れ先が殆どない。

何処も今は危険なのだ。

米国や日本ですら。今はもう、何処を安全だと断言できない状態になって来ている有様だ。

その上難民達の中には、エボラをはじめとする凶悪な病気を移動中に受けてしまったり。

両親と離ればなれになってしまった子供がいたりと。

ともかく、目を覆う程にいたましい有様だという。

「可能な限りの支援は世界政府に頼んである。 連携して、ともかく一刻も早く計画を進めてくれ。 それにタール中将は必要な人材だ。 死なせるな」

「……タール中将は、最後まで撤退を指揮すると言っています」

「ならば、撤退の最終局面では村上班を投入する他あるまいな」

「分かっています」

他には、と聞く。

だいたい戦略情報部の少佐が連絡を入れてくるときは、二つ以上の情報があるものである。

その予想は当たっていた。

「先進科学研が電磁装甲の改良に成功。 今、増産を進めている状況です」

「例の強力な装甲か」

「プライマーの黄金の装甲の解析を進めていて、その一部に使われている技術が解析できました。 どうやら黄金の装甲は、多数の装甲を複合化しているもののようで、その大半は人類にはまだ解析できないものなのですが。 各地でテレポーションシップを撃墜することにより、サンプルが多数手に入り。 少なくとも強度などは解明が進みつつあります」

「分かった。 ニクスやタンク、他戦闘車両への搭載を急いでくれ。 装甲を二倍近くに強度を上げられるのだったな」

念押しをすると。

どうやら、想定よりも更に強度を上げられるらしく。

現在最強と想定される複合合金装甲の2.2倍前後の強度を実現できるそうである。

それは、素晴らしい。

初めていいニュースを聞いた気さえした。

「もう一つ、先進技術研が新しい兵器を開発しています」

「それはどのようなものだ」

「小型のEMCです。 出力はEMCの一割強程度であり、何より電気式なので充電に都市一つ分の電力を用いるのが難点ではありますが、携行火器です」

「ふむ……」

それはまた凄い。

EMCの実験映像は、先日見せられたばかりだ。

確かにあれ十両の照射をくらったら、エルギヌスでもひとたまりもないだろう。それについては事実だ。

エルギヌスはそもそもとして、凄まじい再生能力を持っていて。それで生半可な攻撃では倒せないことが分かっている。

問題は、エルギヌス以上の怪生物が現れた場合だが。

いずれにしても、小型の携行火器で。

EMCの一割なら、存分に強力だ。

「いつ生産できる」

「半年ほどかかるそうです」

「また半年か……」

「フーリガン砲は予定通り完成しました。 制空権さえとれていれば、テレポーションシップも撃墜できる事が確認できています」

分かっている。

米国、フロリダの戦いだ。

怪物を多数転送し始めたテレポーションシップを。制空権をとった後。フーリガン砲を搭載した鈍重な新型機で攻撃。

撃墜に成功したのである。

黄金の装甲を貫くことに、ついに成功したのだ。

画期的な成果だが。

各国の戦況が悪すぎる。

それに、あまりにも搭載機が鈍重すぎるという最大の問題点もある。

手放しに喜べる話ではない。

「プロトタイプを生産後、量産に掛かるそうです。 量産し、兵士達に行き渡れば、戦況は確実に変わると予想されています」

「プライマーが今までの戦力のままであれば、そうだろうな」

「……」

「報告有難う。 そのまま、戦略情報部としての仕事を進めてくれ」

そもそもだ。

充電に都市一つ分の電力を使う携行火器を、量産出来るのか。そんな電力をどこから供給するのか。

核融合炉は最近やっと実用化の実験に成功したが。それも、いつプライマーに襲われるか分からない状況だ。

人類の文明は、後退さえ始めている。

軍事に全てをつぎ込み始めているから、である。

そうしないとプライマーには勝てないとは言え。

人類は仮にプライマーをこの星からたたき出せたとしても。大きな文明的後退と。何より資源の枯渇を目前にすることとなるだろう。

プライマーを殺しつくし。兵器を破壊し尽くせば。画期的な資源を大量に手に入れられるかもしれないが。

そんな仮定の話はしても意味がない。

自室に籠もると他の者に話すと。

リー元帥は、ウィスキーを開けた。

酔っ払っている姿なんて、他の者には見せられない。

だが、酔いたい時だってある。

今が、そうだった。

 

(続)