空中機動作戦

 

序、少しでも戦況を有利に

 

吉野。

奈良に存在する山岳地帯である。

大阪が半ば陥落し、EDFの大阪基地が強烈な圧迫を受け始めると同時に。ここにテレポーションアンカーが六本落とされた。

大阪基地は、現在避難民の誘導と負傷者の他地域への輸送で手一杯。

また、各地から兵力をかき集めて、大阪に居座っている敵巨大兵器への対策でも手一杯。

まずは近畿の他の危険要素を排除する。

その必要があると、判断が為されたようだった。

壱野はそのまま、二分隊だけを率いてでる。

ウィングダイバーとレンジャーがそれぞれ一分隊ずつ。

これだけの戦力で、テレポーションアンカー六本とその周囲にいる怪物を吉野近辺から排除しろ、か。

しかもスカウトが持ち帰った情報によると。

アンカーの周囲にはコロニストも多数存在しているそうだ。

「呆れた話ッスね……」

「それだけ信頼があると思おう」

一華の不満に、そう答えておく。

ただ、実際問題。動きづらい山の中で、一華のコンバットフレームを主力にするにしてもだ。

この少人数で、大量の怪物に囲まれたらどうしようもない。

先に地理を確認する必要がある。

三城にと。試作品のフライトユニットが送られてきている。

パワーの容量は少なめだが、飛ぶ事に特化したフライトユニットだという。そう聞かされると。三城は嬉々として身につけた。

空色の翼をしていて、かなりしゃれたデザインだ。

今はデザインなんか、気を配る余裕はないだろうに。

それでも、確かに少し飛んでみて、かなり良いと三城が言っていたので。専門家が満足する程度には良いものなのだろう。

「敵の分布を確認してくる」

「頼んだぞ」

「我々は……」

「いや、地中に潜んでいる敵も察知しておきたい。 皆はこの場でいて欲しい」

吉野の山道の入り口で。

そんな会話をしながら、まずは三城の戻りを待つ。

ほどなくして、三城は戻ってくる。

「どうも出払った直後みたい。 大阪に向けて、かなりの怪物が進軍した」

「一応大阪基地に連絡を入れておく。 好機ではあるが……」

「地底に潜んでいる怪物は多分いない。 速攻でアンカーを潰せば、恐らく敵は対応できないと思う」

なるほど、そういうことか。

上空から確認した所、それぞれのアンカーには三体から四体のコロニストがいるようだ。

勿論これを残してアンカーを潰すのは自殺行為である。

幸い六本のアンカーはそれなりに離れている。

それに、コロニストも。

持ち場を離れて、殺到してくる事はないとみて良いだろう。

勿論備えはする。

楽観は敵だ。

それについては、ここ半年以上の戦闘で、嫌と言うほど思い知らされていた。

「荒木軍曹、無事ッスかねえ」

「一緒にいてくれれば頼もしいが……一応今朝の段階では無事のようだったな」

「そうっスか」

「エース部隊の一つとして各地で転戦している」

一方、少佐にまで出世したダン元軍曹は、今は東京の守備で連日ハラスメント攻撃を捌いているそうだ。

東京の包囲がとけた今も、関東を伺うプライマーにより怪物が連日姿を現すそうで、東京基地はかなり忙しいらしい。

ただし村上班を呼ぶ程でもないと判断したらしく。

今の時点で、東京基地の作戦に声は掛かっていなかった。

村上班は、こういう無茶な作戦ばかりやらされている。

多分噂に聞くグリムリーパーや。このあいだ共闘したスプリガンもそれは同じ事なのだろう。

作戦開始。

山間の道を移動する。

かなり足回りのOSを改善しているらしいのだが。

それでも一華のニクスは、かなり動きが鈍い。

山道を歩けるだけでも凄いのかも知れない。

通信が入ってくる。

千葉中将からだ。

「無理な任務をすまない。 しかし大阪では其方に回せる人員がいない。 君達が指摘したとおり、かなりの数の怪物が迫っていて、迎撃のために戦力を割かなければならない状況だ」

「いえ、問題ありません」

「ともかく武運を祈る。 頼むぞ」

なお、壱野はこの戦いに勝利したら大尉に昇進だそうである。

どうでもいい。

給金は正直少尉の頃からあんまり変わらないし。無駄に時間を使って研修を受けなければならない。形だけだが。

ただ、大尉になれば作戦指揮の全権を任される状況も増えると思う。

そうなれば、少しでも戦況をよくするために、動ける。

ただそれも驕りかも知れない。

この間、赤いα型の津波に飲み込まれかけたのだ。

それを忘れてはならないだろう。

「そろそろ一本目のアンカーが見えます」

「コロニストは」

「確認。 四体います」

「よし。 俺と弐分、三城でそれぞれ一体ずつを同時撃破。 もう一体は、皆で攻撃してくれ。 仕留めきれなかったら三城が倒す」

流石にこんな作戦に新兵を回すわけもなく。兵士達はそれぞれ、即座に狙撃武器に切り替える。

皆怪物との戦闘経験は相応に積んでいる。

だから、戦う事そのものには問題もない。

ニクスは補給トラックが入れない山中だから、バックパックに弾薬も詰め込んできているが。

逆に言うと、ニクスが弾切れになったら火力のメインを失う事になる。

今回は、リソースを使い切らないように敵を潰しきる必要がある。

かなり難易度が高い任務と言えた。

一応、山の麓に補給トラックは待機している。

最悪の場合、一度戻る事になるだろうが。

その無駄な時間、アンカーから怪物が沸き続け。

更にはそれによって人的被害が出る。

そういうものだと判断して、作戦を進めなければならなかった。

「GO!」

声を掛ける。

皆、同時に構え。

三城と弐分が一気に前線に躍り出る。

そして、三城がふわりと後ろを向いているコロニストに襲いかかるのと。弐分がブースターを使って浮かんで、コロニストの頭にスピアを繰り出すのがほぼ完璧に同時。

流石だなと思いながら。

壱野は、ライサンダー2で。コロニストの頭を吹き飛ばしていた。

更に皆の攻撃が集中して、コロニストを一斉に撃ち据える。

少なくとも武器を持つ腕は吹き飛ばしたから、後はいい。一華のニクスが少し鈍重ながらも前に出て、怪物に制圧射撃を開始。

そのまま、アンカーに対してライサンダー2を撃ち。

二発目で粉砕していた。

爆発し、砕けるアンカー。

まあ、これで充分だろう。

無言で殲滅戦に参加する。アンカーを守っていた怪物達は。そのままニクスの火力と、前線で暴れる弐分と三城。それに他の兵士達の射撃で射すくめ、仕留めきる。

まずは一つ目だ。

殲滅が完了すると、戦略情報部の少佐が声を掛けて来る。

「そのまま、殲滅作戦を続行してください」

「了解」

「指定地点に、後でドローンによって物資を空輸します。 補給してください」

気を利かせてくれたか。

ともかく次だ。

山間に。周囲を確認しやすい地形があって。そこにアンカーが突き刺さっている。地蔵を砕いて刺さったようで。残骸が足下に見えた。

罰当たりなことをする。

エイリアンだからといって、やって良い事と悪いことがあるだろうに。

或いは、分かった上でやっているのかも知れない。挑発の意味で。

だとしたら、まあ末路は覚悟してもらいたいものだ。

そのまま、状況を確認。

「コロニストは三体。 先の襲撃には気付いていない様子ですが……」

「いや、四体いる」

双眼鏡を覗いていた兵士が報告してくるが、一体隠れている。

さっきの襲撃に気づいたのがいる、ということだ。

小賢しくも、背後に回ろうとしている。二十体ほどの怪物も連れている様子だ。しかも地中に潜ったまま、怪物は移動している。

かなり巧妙な戦術だが。悪いが先手を打たせて貰う。

少し移動して、敵のアンカーが見えない所にまでさがる。

そこで待ち伏せる。

伏せながら、コロニストが移動してくるのが分かる。恐らくだが、知らないフリをしているアンカーの守備隊と挟み撃ちにするつもりだったのだろう。

だが、残念だったな。

ほぼ完璧な狙撃位置から、側頭部からヘッドショットを決める。

膝から崩れ落ちるコロニスト。

鮮血を噴き上げながら、大穴が開いた頭が、地面にぶつかる。

同時に怪物が地面から湧き出すが。周囲に展開していた味方部隊が、全て仕留めきった。

上々の内容だ。

相手はβ型だった。

接近されていたら、大きな被害を出していただろう。

「すぐにアンカーの守備隊が来るぞ。 備えてくれ」

「分かりました!」

兵を再展開。

案の定、奇襲を失敗したと判断したコロニストが、アンカーを離れて此方に来る。怪物もかなり連れてきている。

その隙にアンカーを叩くのもありかと思ったが。

コロニストを削った方が良いだろう。

これは山城の攻略戦だ。

簡単にいくものでもない。

また移動して、位置を変える。味方には少し小高い場所に陣取って貰い。更に壱野だけは、別の場所に陣取る。

腹ばいに伏せて、狙撃の態勢を取る。

β型の怪物を連れて、コロニストが来る。木々を分け入るようにして、急いで周囲を探しているようだった。

三体だったら、一気に仕留めきれるが。

問題は、連れているβ型が話よりずっと多いと言う事だ。

或いはコロニストは、アンカーから怪物を呼ぶ事を、促せるのかも知れない。

いずれにしても、油断したらあっというまに部隊は壊滅するだろう。

更に言えば、コロニストを倒せば、怪物は無差別に周囲を攻撃し始める。統率を失っても、怪物は侮れないのだ。

コロニストが、死体に気づいて、声を上げようとした瞬間。

頭を撃ち抜く。

三城と弐分が強襲を仕掛けて、一気に残り二体を狩る。

そして怪物は、少し高い所から撃ち下ろすようにして、皆で一斉に射撃を浴びせる。

近付かれたら簡単に死人が出る。

α型の酸は、まだ対策が出来る。もろに直撃を喰らわなければ、そうそうは兵士がやられることはない。

だがβ型の糸は、とにかく放出される量が多い上に鋭い。

更に接近速度が早く、陣も何も関係無く浸透してくるため。脆いが同時に極めて危険な怪物でもある。

だから兵士達も必死だ。

ニクスも途中から射撃を開始。

いずれにしても、完全に挟み撃ちを逆用して、綺麗に敵を殲滅することには成功した。

ふうとため息をつく。

上手くは行ったが。

毎回こうは行かない。

それについては、自分を戒めなければならないだろう。

この間のように、爆撃が失敗したら即座に終わり、という状況もあったのだ。

二本目のアンカーの所に戻る。

コロニストの追加はなかったが。

β型をボトボトと落とし続けているのが見えた。

「厄介だな……」

「すぐに対応する」

「ああ、分かっている。 弐分、前衛を頼むぞ」

「ああ、任せてくれ大兄」

弐分が最前衛。それに三城が続く。

接敵。

β型は、即座に反応して、糸を浴びせに掛かるが。明らかに弐分の反応速度が早い。

おおと兵士達が声を上げるが。

関係無く、そのままアンカーを狙撃。ほどなくして、叩き折る。

この調子だ。

β型の殲滅は、他の兵士達に任せる。ニクスは弾を温存。

さて、次だ。

次のアンカーは山頂近くにある。そしてそこから、かなり近い所にもう一本。

此処を潰せば、ある程度安心して戦えるだろう。

放置すればするほど、周辺に被害が出る。

それにだ。

今、EDFでは山岳地帯に密かに地下シェルターを作り、住民を逃がす計画を立てているらしい。

実施には、こういうアンカーがもっとも邪魔だ。

ただでさえ、穴を掘って地下の基地にまで侵入してくる怪物である。

出来るだけ、危険要素は排除しなければならない。

地蔵に手を合わせて。

皆にも、無礼がないようにいうと。

そのまま、奧へ。

別に信心は深い方ではないが。

何の害悪もない素朴な信仰には、特に悪意もなかった。

 

最後のアンカーをへし折った時には、夕方になっていた。

やはり三本目と四本目が厄介で。八体のコロニストを怪物も含めて相手せざるを得ず。かなりの激戦になった。

結果として四名が負傷し。今、キャリバンで基地に戻って貰っている。

幸い死者はでなかったが。

至近までβ型の怪物に接近されたので、本当にひやりとした。

彼奴らに陣内に飛び込まれると、簡単に死人が出る。

以前、何度も目にしたことだ。

「よし、流石だな。 村上班をスーパールーキーチームと呼ぶ者達がいるというのも、納得出来る」

「ありがとうございます」

千葉中将が、激励の言葉を掛けてくる。

特務に近い部隊とは言え、今回もしっかりやり遂げた。

普通の兵士だったら、中隊規模の戦力を投入して、相当な被害を出さないと対応は出来なかっただろうと千葉中将は言う。

そして、それだけの兵士を他に廻せるという事もそれは意味している。

「すぐに大阪基地に戻ってくれ。 また、実験武器が来ているそうだ。 次の戦いで試してほしいらしい」

「分かりました」

またか。

スタンピードは、結局村上班などの一部の部隊だけに配備されることが決まったようだ。

あれは切り札としては非常に使いやすいが。

しかしながら、誤爆した場合の味方への甚大な被害が容易に想像できる。

何より、パワードスケルトンをつけた体格が悪くない壱野ですら重いと感じる程だった。

正直、使える兵士はそれほど多く無いと思う。

基地に戻る途中、兵士達が気が抜けたのか、雑談をしているらしい。

「何かのSF小説で読んだが、エイリアンが水に弱い作品だった」

「水に弱いか。 そういえばさっきの山でも、川沿いには布陣していなかったっけ」

「雨でもふればイチコロなのかな」

「確かにそうかも知れないな」

そう上手く行くだろうか。

それに対して、一華がぼやく。

「少し調べてみたんスけどね」

「何か分かったのか」

「あのコロニストってエイリアンの顔やら手足やらの特徴が、やっぱりレアな生物……両生類ってのに酷似しているッスね」

「両生類?」

全く聞いたことが無い種族だ。

詳しく話を聞く。一華は、こういうのを丁寧に調べてくれるし、解説もしてくれる。

「どこだかの閉ざされた洞窟で発見されて、現在では本当に絶滅危惧種中の絶滅危惧種の生物ッスよ。 ただ、生物学上は重要な存在ッスね。 魚類が川から陸上にあがって、やがて爬虫類と哺乳類の先祖が出現したのが三億年くらい前。 そのくらいの時期に栄えた事はある生物種ッス」

「聞いた事もないな……」

「生物としては蟻や蜘蛛と違って、絶滅していてもまったくおかしくないくらい欠点だらけの生物みたいッスね。 どうして今になっても生存しているのかよく分からないらしくて、科学者が厳重に現地を守っているそうっスよ」

「調べてくれて有難う。 それについては、戦略情報部にもデータを送っておいてくれるか」

勿論基地に戻った後だと告げると。

了解と帰ってきた。

一華は、少し前に例の少佐から連絡を受けて。

戦略情報部にほしかったが。村上班で働いてほしいと言われたそうである。その方が戦果が出せると。

とはいっても、戦略情報部が欲しがった人材であり。

更には自作のPCとの組み合わせ、問題も多いEDFの兵器の操作系統を自在にカスタマイズする事も既に知られているだろう。

その発言は無駄にはされないはずだ。

「それにしても、どうしてこう地球のマイナーな生物にばかり似た連中が出てくるのか、不思議ッスね……」

「確かにそれはその通りだ。 一体どういうことなのか……」

「大兄。 油断しすぎると危ない」

「分かった。 その通りだな」

三城に言われて、会話は一旦切る。兵士達も、油断したところを奇襲された話は散々聞いているのだろう。

雑談がぴたりと止んでいた。

それに、見事な空中戦を見せた三城だ。侮る気にもなれなかったのだろう。

山を下りて、補給トラックと合流。

その後は、大型輸送車で、大阪基地にまで戻る。至近にあの巨大兵器がいる事もあって、かなり兵士達が殺気立っていたが。

作戦内容は知っているのか、戻って来た村上班を馬鹿にする兵士はおらず。敬礼で迎えてくれた。

「また勝利してきたらしい」

「すごいな。 荒木班と並ぶ日本の最精鋭だ」

「この間一緒に作戦に出たが、とにかく作戦の展開が早い。 ついていくのがやっとだったぜ」

「ただ激戦区にばかり投入されるとも聞いてる。 少し心配だな……」

激戦区に行く事はかまわない。それで、少しでも他の皆の負担が減るのなら。

壱野はそう思う。

そして、まだまだ。

どうにもならない問題ばかりなのだ。

それらの一つでも解決できればいい。

そう、壱野は考えていた。

 

1、空中機動作戦

 

コロニストを乗せたドロップシップが、大量に奈良の街に向かっている。

それを聞いた村上班は、食事を切り上げてすぐに現地に向かう。大型車両を運転しているのは。

あの先輩だった。

そう、最初にベース228で顔を合わせた、脳天気な先輩である。

なんでも警備会社が潰れてしまったらしく。EDFに入隊したそうである。

ただし戦闘技能とかはないので。もっている免許を生かして。大型車両の運転をしてくれているとか。

運転は丁寧だし、有り難い話ではあるのだが。

これから大量のコロニストが来るのだ。

非常に危険な戦いになるだろう。

筒井中佐から連絡が来る。

「なんとか一個小隊の戦力をかき集めた。 レンジャーばかりやけども、コロニストとの戦闘経験はある。 現地に既に集合している。 後は民間人の避難やけど、これはもう自主避難してもらうしかないで」

「分かりました。 まだ周囲に民間人がいる可能性があると想定して戦います」

「頼む。 それと、変な活動家の類が来ているらしい。 くれぐれも気を付けてや」

活動家か。

いまだにプライマーと交渉を試みている集団がいるというのは聞いている。

何度も使節団が皆殺しにされているのに、だ。

それはEDFの陰謀だとかチラシを撒いて。

きっとプライマーと仲良く出来る筈だとか、好き放題を吹聴している。

そしてそういう活動家の集団が、何度も殺されている。

現地に到着。

なお、先輩の名字は尼子というそうだ。

「よし、ついたよ。 展開して」

「分かりました。 尼子先輩、すぐに此処から距離を取ってください。 数十体のコロニストがこれから攻めこんできます」

「分かった。 大阪基地に全力で戻るよ」

「お願いします」

未だにのんきな雰囲気で、不安なのである。

壱野はまだ時々変な夢を見るが。

滅びの未来では。

人類の九割以上が犠牲になり。人間はもはや、汚染された大地と。そんな中でも襲ってくる怪物から逃れながら。地下でほそぼそと生きるしかなくなっていた。

むろん尼子先輩も死んでいただろう。

そう思うと、かなり悲しい話だ。

ニクス展開。

補給車は一華が遠隔操作してくれる。

一個小隊の兵士が、既に来ていた。コロニストのドロップシップは、かなり近付いているそうだ。

「スカウトから連絡。 一隻のドロップシップが、既に街に侵入したようです」

「コロニストの戦闘力は知っての通り凄まじい。 ニクスを中心に戦闘をしていくが、くれぐれも無理はしないでほしい」

「分かりました!」

わっと、誰だか人が出てくる。

何やらたすきを掛けていて。EDFは悪だとか。戦争はすぐに止めろだとか書いていた。

「プライマーへの虐殺を止めろ!」

「我々は話し合えるはずだ!」

「これから此処にプライマーが来る! すぐに退避を!」

「その武器を捨てろ! そんなのもってるからプライマーは攻撃せざるをえないんだ!」

わめき散らす連中の目は、狂熱を帯びていて。とても正気とは思えなかった。

しかも何十人もいる。

この時のために、潜んでいたらしい。

兵士達が抑えようとするが、腕尽くで抵抗してくる。

流石に市民に発砲するわけにも行かない。

それに急な攻撃だ。

市民の避難だって、終わっていない可能性だって高い。

「来ました!」

「ニクス、前に。 皆、その者達を抑えてくれ」

「巫山戯るな人殺し! 鬼畜! 悪魔!」

わめき散らす市民団体。

昔はデモなどを崇高な行為として神格化する時代があったらしいが。今ではこの通りである。

これでは、ベース228の人達も大変だっただろう。

そう思いながら、ともかく村上班だけで、ドロップシップの前に出る。

今回は、ドロップシップが大量に来ているという話だ。

あれは、文字通り先鋒に過ぎないだろう。

「コロニストの投下と同時に射撃開始。 地面につくまでに、可能な限り戦闘力を奪え」

「了解!」

「エイリアンの輸送艇、停止! 来ます!」

押し合いへし合いをしている兵士達が叫ぶ中。

前に出た村上班は、戦闘を開始する。壱野は舌打ちをすると。降りてくるコロニストの一体の頭を撃ち抜いていた。

 

三体のコロニストが無事に降りてくると。容赦なく押し合いへし合いをしている市民団体に発砲を開始する。

兵士達はわっと散るが。市民団体の中には逃げようとしない者さえいて。そういう者達は見る間に消し飛んだ。

戦車にすら痛打を浴びせるコロニストのアサルトライフルだ。

EDFの防護装備も身につけていない市民では、ひとたまりもない。

あーあ。

ぼやきながら、一華は前に出て。それでも少しは被害を減らすために盾になる。

射撃を続けてコロニストの戦闘力を削いでいくが。

それでも、市民団体は頭の中が花畑のようだった。

「お前達を愛している……逃げてく……」

そう陶酔しきった様子で声を掛けた男の頭が。その愛しているらしい相手の射撃で体ごと吹っ飛ぶ。

文字通り赤い霧になってしまう様子を見て。溜息が漏れる。

一瞬の射撃で十数人がミンチより酷い状態になったが。それでも市民団体はギャアギャア喚いている。

お前達のせいだとかなんだとか。

ともかく、これでは戦闘がやりづらくて仕方が無い。

「皆、無事か!」

「かろうじて! しかし市民達が!」

「戦闘区域に無理矢理侵入してきたんだ。 責任は自分で取らせるしかない! ともかく、近くのビルに押し込んで鍵を掛けてくれ!」

「イエッサ!」

最初に降下したコロニスト最後の一体が、手も足も全てもがれながらも、必死に再生しようとしている。

それを、容赦なく壱野が撃ち殺した。

一旦、周囲を確認。兵士達が、ぱらぱらと集まってくる。

「生存している市民団体、ビルに閉じ込めました。 ジープで入り口に蓋をしたので、恐らく簡単にはでられないと思いますが……」

「長くはもたせられないな。 すぐにけりをつける」

「エイリアンの飛行艇だ!」

声が上がる。

今度は二隻。

撃墜手段が無いことを知っているのだろう。悠々と飛んできている。そして、コロニストを、此方を挟撃するように投下した。

「弐分、後方の攪乱を頼む。 皆、一方向を集中攻撃……」

「待つッス。 見慣れないのがいるッスよ!」

赤いコロニストがいる。

緑色の肌がコロニストの基本だが、赤い肌は初めて見る個体だ。

しかも、もっている装備が違う。

「一華、済まないが前に出てくれ。 データを取る必要があるだろう」

「了解ッス」

「他の皆は、弐分が攪乱している後方の敵と交戦、可能な限り削ってくれ。 三城、ビル影を使いながら、敵に接近。 一体ずつ削ってくれ」

「分かった。 大兄も気を付けて」

即座に全員が動く。

赤いコロニストが数体いるが。接近しながら、射撃してくる。

凄まじい音と共に、地面が豪快にえぐれた。

壱野が一射確殺して緑のコロニストを即座に削り取っているが。赤い奴がもっているのは。あれはひょっとしてショットガンか。

ショットガンは射程が短いと思われているが、実際の所は結構遠くまで届く危険な武器である。射程が短い設定のゲームなどは多いが。それはあくまでゲームのバランス上の都合だ。

しかもコロニストが手にしていると言う事は、当然オートエイムつきだろう。

危険極まりない。アサルトライフルでもあの火力だ。ショットガンではもはや言葉もない。

「ダメージ大! 極めて危険ッス!」

「データはとれたな」

「ハイッス!」

「よし」

赤いコロニストの頭が。瞬時にヘッドショットされる。

同時に、ビルを使って射線を切りながら接近していた三城が。残っていた緑のコロニストを強襲。

一華も攻撃を続けて、残りのコロニストに射撃を浴びせる。

簡単には死なないが、それでも乱射すればその内死ぬ。

だが、ショットガン持ちのコロニストに少し攻撃を受けただけで。重装の筈のニクスが、既にアラートを発していた。

「後方の戦況!」

「残り二体!」

「エイリアンの輸送艇、三隻が接近中!」

「くそっ!」

あの赤い奴、まだいてもおかしくない。

そしてエイリアンは、明らかに此方の動きを見ながら。撃墜不可能な輸送艇を動かして、包囲するように展開してきている。

これはいわゆる空中機動作戦だ。空挺兵を用いて、敵を攪乱しながら攻撃する。

「後方の敵を迅速に排除後、移動する! 敵の一点を突破しつつ、残りの敵を射線上にまとめて相手をしやすくする!」

「了解!」

兵士達も必死だ。

射撃を浴びせて、どうにかコロニストを仕留めるが。一人の兵士が、射撃をもろに喰らって吹っ飛んだ。

アーマーのおかげで市民のように赤い霧にと言う事はなかったが。

それでも、意識はなく。持ち込んできているジープに、仲間の兵士達が運び込んでいる。

戻って来た三城が、残ったコロニストを潰しているが。

補給車を呼んで、なんとか装備を補給している間に。もう、三隻の輸送艇が迫ってきていた。

「まずいな……」

「敵は此方の動きを確認しながら、展開する位置を変えている様子です!」

「方向転換だ。 総員走れ。 後ろに回り込もうとしているコロニストをまず撃破して、とって返す!」

このままだと、かなり不利な位置で戦う事になる。

奈良の街も、観光に使われる場所以外は。21世紀以降の世界政府の政策と支援で近代化されている。大きなビルが幾つもあり。それらは遮蔽物として機能する。

ただしそれはコロニストにとっても、だ。

ビルに閉じ込められた市民団体が悪さをしないか心配だが。

ともかく、急いで敵を撃破するしかない。

全員で走る。一華はなんとか無理矢理ニクスを跳躍させて。ブースターをふかし。足回りを相当無理させながら連続で跳躍して進む。

これは整備班に渋面を作られるだろうなと思うが。

それでもなんとか無理矢理、味方の兵士達の前衛となって移動する。

ドロップシップから、コロニストが降りてくる。案の定、赤い奴が混じっているが。もうデータは不要だ。

落ちてきた瞬間、壱野が即殺。もう一体は、弐分がジグザグに高速で接近して。腕を一撃でもぎ取っていた。

射撃戦が始まる。

全火力を投射して、まずは前面の六体を撃滅する。後方から、コロニストが迫ってきているのが分かるが。ともかく各個撃破だ。

ニクスが最大危険要素だと判断しているのだろう。

コロニストが後ろから撃ってくる。

やりたい放題してくれるなあと、怒りを感じるが。

一華としては、ニクスに実の所思い入れはない。

機械いじりは嫌いではないけれど。

それ以上でも以下でもない。

ニクスが傷つけられる事は、それほど悲しいとは感じなかった。

千葉中将から緊急連絡が来る。

ろくな内容ではないだろうなと思ったが。

その通りだった。

「緊急事態だ! 四隻のドロップシップが其方に向かっている! しかもそれだけではない! かなりの数の敵が、奈良に向かっている様子だ!」

「この数での対応は厳しいでしょう」

「分かっている! コロニストを突破し、退却してほしい!」

「……ともかく、近場のコロニストを撃滅します」

激しい銃撃戦の後、数名の負傷者が出て。しかし、前面のコロニストを撃破完了。長く伸びきったビル街の道だが。敵は遮蔽を上手に利用して、射撃戦を仕掛けて来る。そこに、頭を出した瞬間。腕を出した瞬間。壱野が撃ち抜く。

「赤い奴は何体いる!」

「スカウトからの情報を分析……残り三体です!」

「よし、残り二体!」

飛び出してきたショットガン持ちを、壱野が即座に撃ち抜く。

おおっと、声が上がる。

「流石は村上班だ!」

「負けていられるか! 訓練で磨いた狙撃の腕、見せてやる!」

更に大軍が迫っている事よりも、兵士達の戦意が目の前の戦いに向けて上書きされる。

猛烈な射撃戦が続き。コロニストはバタバタと倒れていくが。兵士達も、次々に重傷を受けていった。

「被弾したら即座にさがれ!」

「くっ……」

「弐分、シールドはもちそうか」

「なんとか!」

前衛で大暴れしている弐分と三城が、相当に敵の注意を惹いてくれているが。

逆に言うと、それ以外の弾の七割くらいがニクスに集中している。

ただ。顔を出した敵は壱野が一射確殺してくれるので、それでもかなり被弾は軽減されているのだが。

ああもう。

ニクスはどうして歩行システムなんてのを搭載したのか。

それは市街戦でテロリストやゲリラとやりあうためだ。

どうしてこんなに鈍重なのか。

どこからもロケランを喰らっても耐えるためだ。対戦車地雷でも平気だ。何しろ設地面積も小さい。

総合的に見て、かなり合理的で強い兵器であるニクスだが。

その代わり戦車と比べて作成コストがとても高く。かといって、戦車に比べて何倍も強い訳でもない。

そして何よりだ。この歩行システムの欠陥ぶり。

最初から手を入れさせてほしいと、一華は何度も思いながら。必死に次々現れる敵を捌き続ける。

敵が半減した頃だろうか。

ついに本命の敵部隊が来る。

その内一部隊が、市民団体がいるビルの近くを通る。市民団体が、ぎゃあぎゃあと呼びかけた。

止めろと壱野が叫んだが。もう遅い。

それこそ、蚊を叩き落とすかのように。ビルに射撃を叩き込むコロニスト。

そして、何事もなかったかのように。市民団体だった肉片が静かになり。コロニストは此方に向かってくる。

「我々は、大きな転機にさしかかっています」

誰だかの演説が聞こえてくる。どうやら街中のスピーカーから流しているらしい。

これ、聞いた事があるな。

確か世界政府の野党の一人。野党といってもまだまだ未完成な民主主義の野党。与党の政策にケチをつけるだけで、具体的で実施可能な対案など口にせず。実施する能力もない連中の事だ。

そんな野党の議員の一人。

過激な発言ばかりして、女性の有権者に人気があるとか言う、女性議員。

今回の戦いがもう半年続き、人類が二割以上も殺されているにもかかわらず。プライマーとの交渉をとずっと議会でわめき散らしている輩だ。

「我々は隣人と接するとき、どうしていたでしょう。 銃や爆弾などを用いていたでしょうか。 我々は常に対話で問題を解決していたはずです」

そんな歴史、存在したか。

人間の歴史は、一華が知っているだけでも血塗られたものだ。

とにかく殺し合い。

相手の文化の否定に終始する。バルバロイという言葉は有名だ。ギリシャ人が、他の民を差別して言った言葉。そんな古くから、人間は差別をしあっていた。

平和になっても、経済的に戦争をする。

挙げ句差別をしあい。世界政府が出来た今でも、民族同士は犬猿の仲なんてのは珍しくもない。

どの口からそんな寝言が出てくるのか。

あのヒステリックにわめき散らしている国会中継を思い出して、一華は頭が痛くなってきた。

「違う星の生まれであっても、きっと対話で解決が出来る筈です。 今回も、対話で解決を!」

「その対話を相手がする気が無いんスよ……」

「一部の民間人は、まだこんな事をいっているのか。 さっきの市民団体も、あの演説を垂れ流している連中の手下か?」

「銃を持ってるだけではなく此方に撃ってきている相手だぞ。 どうやって対話しろって言うんだよ。 しかも非武装だろうがなんだろうが殺しに来やがるんだぞ!」

兵士達が怒り狂いながらも、戦闘を続行する。

ともかく、可能な限り急いで片付けなければならない。

「装甲が限界ッス! 誰か補給を」

「支援する。 二人、ニクスの追加装甲をつけてくれ!」

「分かりました!」

壱野が飛び出すと、アサルトでコロニストを滅多打ちにする。

調子に乗って数で押そうとしてきたコロニスト達が一瞬で手足をもがれて。残りもビル影に隠れる。

更に、一匹が横殴りに吹き飛ばされて、道に転がった。ビル影を梟のように音もなく飛んだ三城がやったのだ。

コロニストが三城の方をみると、今度は弐分が至近に迫り、スピアで手足をもがれたコロニストの頭を吹き飛ばす。

ガアガアと鳴きながら、さがりつつ射撃をするコロニスト。

味方が瞬時に数体倒されても、慌てる様子が無い。

不意に、街の一角が爆発。攻撃の正体が分からない。とにかく危険だ。

既に大半の市民が脱出しているとは言え。

どうやら時間は無さそうだ。

装甲をある程度追加完了。

ここは、賭に出るしか無いだろう。壱野は、そう思った様子だ。

「一華、前に出てほしい。 残った兵士は、全員弾倉を換えてくれ。 一気に勝負に出る」

「し、しかし敵の数は……」

「俺たちがどうにかするしか、生き残る道はない!」

「! 分かりました!」

また、街の一角が爆発する。

よく分からない。コロニストの装備なのか、それともアンカーでも落とされているのだろうか。

ともかく、前に出る。コロニストも、勝負に出て来たことを悟ったのだろう。

ビル街を高速で飛び回って一射確殺してくる三城と、前衛で暴れ回る弐分を相手に出している被害が大きいという事もある。

ここで後続を断つつもりになったのだろう。

十体近くが飛び出してくると、一斉にニクスに射撃を浴びせてくる。

凄まじい負荷に、一気にアラートが鳴る。

もつかなこれ。

もたなかったら、まあ即死だな。

一華は、どこか冷静過ぎるほどに、そう考える。

死が近い。

今までのどの戦場よりも。

ただ、それは分かっているが。それでもとにかく踏みとどまり、射撃し返す。次々コロニストに着弾するが、ライサンダー2の火力がおかしいのだ。コロニストは生身で戦車砲にすら耐える奴らである。着弾はしても、すぐには殺せない。当然、更に反撃は苛烈になる。

ニクスの右腕破損。機銃が吹っ飛ぶ。

ついでミサイルポッドが爆散。両側とも。

それでも、残ったニクス左腕の機銃だけで射撃を続ける。

その間に、敵は見る間に数を減らしていく。ほどなくして、周囲は静かになった。

メインカメラがやられた。

映像が見えない。

しかたがないので、コンソールを操作して。まだ生きている周囲の監視カメラを確認。どうやら、戦闘は勝ったようだった。

「よくやった……。 見事な戦果だ」

「全員が大なり小なり負傷しています。 すぐに撤退の許可を」

「分かっている。 今、敵が正体不明の攻撃をして来ている。 すぐに大阪基地に撤退し、それに対する備えをしてほしい」

「……分かりました」

なんとかニクスの歩行システムは問題なし。

壱野が声を掛けて来た。

「大丈夫か、一華」

「なんとか。 今、監視カメラの映像で周囲を確認しているッス」

「歩けそうか」

「ニクスはどうにか。 ともかく、先輩に街の側まで来て貰うしかないッスねコレは……」

無言で、撤退を開始する。

全員が負傷している状況だ。また、市民団体が隠れたビルは。その後砲撃で爆破されたようで。ミンチすら残っていない。

ジープもひっくり返ってしまっていた。

無事だったジープに、兵士は分乗して貰う。皆、手傷を受けている。

また爆発が起きる。もはや。此処からは一旦、すぐに逃げ帰る他なかった。

 

2、焦土の乱戦

 

大阪基地に戻る。筒井中佐が、兵を集めている。村上班のニクスの悲惨な有様を見て、皆黙り込む。

だが、数十体のコロニストを仕留めたという話を聞いて、兵士達は沸く。

三城は、それを静かな目で見ていた。みんな勝手なものだなと思ったからだ。

作戦に参加した兵士達は全員負傷。

馬鹿な政治家に扇動された活動家達は、皆コロニストに殺された。

とてもではないが、沸く場面では無いだろうに。

それでも、戦況をひっくり返したのだ。

絶望的な状況で。

希望は必要なのかも知れなかった。

筒井中佐に、大兄が連れて行かれる。更に、ニクスも整備班が即座に引き取った。この様子だと、少し休憩してすぐに出撃だろう。この基地が攻撃されていないのがおかしいくらいである。

シャワーを浴びて、気分転換。

大量に血を浴びた気がした。

少しねむる時間があるので、横になってねむる。

コロニストを殺す事に、それほど忌避感はない。

人によっては、人間に似すぎていて怖いとか。殺した後トラウマになるらしいけれども。三城はその辺り。蛋白極まりなかった。

恐らくだけれども。幼い頃に、血がつながった両親とか言うけだものに心身を陵辱されつくしたのが要因なのだろう。

学校でも三城の噂は広がっていて。男女関係無く近付いてこなかったし。

学校でも周囲を怖れさせている不良生徒が。三城を見るだけで、青ざめて逃げていくのを見た事がある。

祖父と大兄小兄は三城に優しかったが。

それ以外は別。

三城は、既にそういう意味で。割切っていたのかも知れないし。

何よりも、色々な意味で心が濁っていたのかも知れなかった。

起きだす。三時間ほどねむっただけだが。それでも、疲れは最低限取れていた。

一華がいて、キーボードを叩いている。指が残像を作るくらい速く動いている。

データを確認しているようだった。

「何が起きてる?」

「例の演説、やった政治家がEDFが虐殺をしているとか国会中継で吠えてるッスねえ」

「呆れてものが言えない」

「同じ政党の人間すら、うんざりしてるッスよ。 ほら」

国会の生中継が流されているが。

確かに、ヒステリックにわめき散らす女政治家は、鬼のような形相をしていて。

EDFが虐殺をしているからコロニストが反撃してきたのだとか。

それで数十人が死んだのだとか。

EDFを即座に解体して、プライマーと本格的に交渉をするべきだとか喚いていた。

ただし答弁時間が過ぎたので、黙らされる。

それでも喚こうとしたので、同じ政党の人間が押さえつけて。更には外に連れて行ったようだった。

「これってパフォーマンス?」

「いや、政治家ってのはだいたい財源があるんスよ。 昔は特にそうだったし、世界政府が発足した今もそう。 財源がカルトだったり犯罪組織だったりするケースも多くて、こいつは裏が真っ黒でしられていて……」

なんでも、一種の火事場泥棒を目論んでいるのでは無いかと言う噂だ。

戦況の分が悪い事を察し。

プライマーに率先して降伏することで、自分の身の安全を確保する。

そういう事を目論んでいるのではないのか、という噂話があるそうだ。

ただ、それはあくまでも噂話。

いずれにしても、あの市民達の異様な様子。

まともとは思えなかった。

「強引にまとめられたこの星ッスからねえ。 プライマーという外圧が出現すると、やっぱり無理矢理まとめた弊害が出てくるんスよ」

「いずれにしても、獅子身中の虫」

「まあそうッスけど……言葉のチョイスがしぶいッスね」

「祖父がよく言ってた」

苦笑いする一華。

だいぶ、喋ってくれるようになって来たと思う。

一華は方向性は違うが、孤独だったという点では三城とあまり違っていない。

そういう意味では、似た者同士なのかも知れない。

通信が入る。

大兄からだった。

「出撃だ。 二人とも、準備をしてくれ。 弐分は既に出ている」

「了解ッス。 一華、PC運ぶの手伝って」

「分かった」

PCを落とすと、配線などを外して運ぶ。

ニクスは部品などを大急ぎで取り替えたらしく、フルスペックは発揮できないと整備班に一華が言われていた。

三城も急いでウィングダイバーの装備を身につける。

外に出ると、タンクが三両。

補給トラック一台。

更に、タンクの随伴歩兵三個分隊がいた。

タンクがいるのは有り難い。代わりに前回の戦闘よりも更に歩兵の戦力が減っているが。これで何をしろというのか。

無茶ぶりがどんどん酷くなってきているが。

それだけEDFの戦況が良くないと言う事である。

獅子身中の虫が湧くくらいだ。

それも、仕方が無いのかも知れなかった。

大兄が来る。

「先ほどコロニストが進行してきた街が破壊尽くされた後、相当数の怪物が押し寄せてきたそうだ。 一度は撃退したが、再進行の構えを見せている。 そこで、我々で対処してほしいと言う話だそうだ」

「まった大兄。 この兵力で?」

「すまんな。 これで一杯一杯なんや」

筒井中佐が、本当に悔しそうに声を掛けて来る。

余程の大戦力との交戦だったらしく。ニクスも複数でて。移動要塞と名高いタイタンまで出してやっと撃退したらしい。

死傷者も多数出たそうで。

その再編制などで、とても大阪基地は動けないという。

それに、これ以上兵力が減ると。大阪にいるあの巨大兵器が動いた時、何もできなくなるという。

あの兵器に備えて兵力を集めているのだ。

それがこれ以上減ったら、本末転倒、ということらしかった。

色々不満はあるが、タンクを三両出してくれただけでマシなのだと納得する。いや、自分を納得させる。

「スカウトの情報によると、コロニストはおらん。 その代わり、α型は銀も赤も。 β型も。 ドローンもいるそうや」

「分かりました。 何とかしましょう」

「たのむで。 本当にすまん」

「ただ、あの謎の攻撃については解析を急いでください」

それも分かっていると、筒井中佐は本当に申し訳なさそうに言う。

仕方が無い。

三城は、大兄が無言で頷くのを見て。

色々言いたいのを飲み込み。戦場に向かう大型車両に乗った。

なお、運転しているのは先輩ではなかった。

大阪基地を離れると、すぐに多数の難民を見かける。動揺しているのが一目で分かる。EDFの大阪基地に入るのか。それとも、東京に向かうのか。東京に行くにしても、交通手段は。

本当に難民だ。

更に大阪から近い奈良で、今激戦が行われている。

勿論多数のスカウトも展開しているし。プライマーの猛攻も行われている状況である。

不安の目が、多数此方を向く。

「少しでも俺たちで敵を減らさないといけないな」

「荒木軍曹がいてくれれば、少しは楽になる」

「……そうだな。 だけれども、荒木軍曹も別方面で苦戦中だ」

「分かってる」

一華はずっと黙り。

多分ニクスの調整を続けているのだと思う。

後、筒井中佐にごねて、もう一台補給トラックを出して貰っていた。多分ニクスの継戦能力を考えての事だと思う。

程なくして、煙が見えてくる。

凄まじい有様だ。

さっき戦った街が、文字通り破壊し尽くされている。

あの爆発は一方的だったが、一体何が使われたのか。

弾道ミサイルとかには思えなかったが。

「こんな。 まるで更地だ……」

「エイリアンどもめ!」

一緒に来た兵士達が、皆怒りに声を震わせている。

この辺りは貴重な文化遺産なども多く。更に観光以外でもやっていけるようにと世界政府が出来てから投資が行われ。近代化された町並みは、どんどん美しくなっていたのである。

それが、この悲惨な有様。

地元の人間としては、怒りを抑えきれないだろう。

すぐに展開する。

三城もびりびりと感じる。

凄まじい悪意の数だ。

タンクが展開するのを横目に、レイピアを取りだす。

小物相手にはこれが一番だ。それとサブウェポンとして、雷撃武器を出す。

マグブラスターも悪くは無いのだが、どうもこっちの方が性にあうのである。

プラズマキャノンは、必要ないだろう。

乱戦になる。

自爆の恐れがある兵器は、使いたくなかった。

やがて、姿を見せる敵。

恐らく一編隊だろう。

ドローンが数百機、凄まじい勢いで迫ってくる。

更にその下には、大量のα型。全て銀色だ。いずれにしても、叩き落とす。

「一華と俺で対空を行う。 タンクは砲撃開始。 他の皆は、タンクとともに敵前線に制圧射撃」

「イエッサ!」

「弐分と三城が前に出る。 くれぐれも背中を撃つなよ」

そう言われると同時に、飛び出す。

小兄は既にフェンサー用の大型パワードスケルトンを完全に自分のものにしている。ひゅんと飛んで行く様子は、凄まじいものがある。

三城も飛んで行くが、あれほどの速度はでない。

その代わり、ウィングダイバーの飛行技術の粋を尽くして飛ぶ。

ミサイルが、多数三城を追い越していく。

一華のニクスからぶっ放されたものだ。

それらがドローンを直撃。

雷撃銃を数発放って、通り抜け様にドローンの群れを数機叩き落としながら。

武器を切り替え。

上空からα型の群れに強襲を掛ける。

既に前線を機動戦で攪乱されているα型の群れに、猛禽として襲いかかって熱量で焼き払う。

このレイピア、プラズマアークなんとかいう正式名称があるらしいが。

いずれにしても、多数の怪物を雑に焼く事が出来るので。

飛ぶ事に集中できるという点で、とても個人的には有り難い武器である。

至近で戦車砲を喰らったα型が吹っ飛ぶ。

戦車砲の火力が上がっているのが分かる。大兄が目立つ相手を叩き落としてくれているのもあるが。

実に戦いやすい。

焼き払いながら、地面を蹴って浮き上がると。

ダッシュを駆使して、α型が放ってくる酸を避ける。

三城に気を取られたα型が、次々兵士達に射貫かれる。

緒戦は、完全に翻弄している状態だ。

「よし、圧勝だな!」

「流石は村上班だ。 生きて帰るぞ!」

「……」

まずい。

また急降下攻撃を仕掛けて、α型を焼き払いながらそう思う。

焦土になっている街の背後の方に、強い殺気が多数。急いで片付けないと。

至近にドローンが来る。

着地。すぐに跳び上がって雷撃銃を放つが。背後に一体が回り込む。

対応できないタイミングだ。

それでも無理にフライトユニットをふかして上空に出るが。

レーザーが擦って、翼の一部を削られていた。

背中に痛みが走る。

レーザーが抉ったのでは無くて、多分翼の熱によるものだ。

空中で反転しつつ、雷撃銃で焼き払い。着地。

「放熱します」

「急いで」

フライトユニットから、幾つかのダメージについて説明が機械音声でされている。

背中は見えないからどうしようもないが。

かなりダメージは深刻らしい。

数匹のα型が群がってくるが、一匹を大兄が撃ち抜き。他は地力でレイピアで焼き払った。

そのまま、低空飛行で自陣に戻る。

すぐに補給トラックを漁り。フライトユニットを取りだす。

外してみて分かったが。翼が半分ほど熱で溶けていた。

熱いわけだ。

一応、服の背中には対熱用の工夫が色々されているが。

それでも熱かったのだから、状況はお察しである。

無言で新しいフライトユニットに切り替える。

少し痛みが背中にある。

医者に後で見てもらわないといけないだろう。

「三城、いけるか」

「問題ない」

「そうか。 タンク、向きを反転。 残敵は弐分が片付ける。 次に備えてくれ!」

「次!?」

兵士達が慌ててマガジンを交換する。

即座に、地中からわき上がるようにして赤いα型の群れと。空の向こうからドローンが出現する。

完全に背後からだ。

だが。タンクは素早く反転。ニクスが向き直り、大兄が手伝って補給をしていた。

この辺り、近代戦車は小回りがきく。

「赤い奴だ!」

「近付かせるな! 食いに来る!」

「戦車の装甲を喰い破る奴だぞ! 噛まれたらどうなるか分かるな! 撃てっ!」

分隊長らしい兵士が叫んで、必死に敵を撃ち始める。

ドローンも多数来て、レーザーを浴びせていくが。兵士達のアーマーはレーザー対策をしている。

今は更に優先順位が高い赤いα型に、集中攻撃。

戦車砲も立て続けに放たれるが。戦車はそれほどたくさんの砲弾を積めない。

「タンク1、後退! 補給する!」

「此方弐分。 銀のα型殲滅完了! そっちに行く!」

「流石だ!」

兵士達がいうか言わないかの間に、小兄がびゅんと戦車隊の上を飛び越し、赤いα型に向かって行く。

フライトユニットを換えた三城も負けてはいられない。

背中の痛みくらい、精神力で抑え込む。

そのまま飛行し、敵陣に躍りかかると。赤いα型を、レイピアで焼く。

赤いα型は熱にも強く。銀のα型よりも焼き殺すのに時間が掛かるが。その代わり酸を吐かない。

時々背中に着地して、蹴って跳ぶ。

そうすることで、相手の動揺を誘えることを既に知っていた。

また、敵を引きつけられることも。

三城の機動力なら、充分に赤いα型をどうにか出来る。そのまま、徹底的に焼き払う。今度は一華のニクスの援護射撃が的確だったのか。先よりもドローンが少なかったのか。その両方か。

ドローンに集られる事もなく。

赤いα型は、間もなく全滅していた。

「よし、補給! アーマーが傷ついている兵士は取り替えてくれ。 すぐに次が来るぞ!」

「ま、まだ来るのか!」

「スカウトはβ型がいるって言ってた! 奴らが姿を見せていない!」

「β型……」

すぐに自陣に戻る。

大兄は、南を見据えていて。補給を終えたタンクも、其方に砲列を向ける。

三両だけではなく、もっと数がほしかったが。

敵はそれを見越して、兵を出してきている。

これ以上出せば、大阪基地が襲撃を受ける可能性もある。

確かに、これでやるしかない。

敵は戦略を知っている。

的確に兵を削るための手を打ってくる。

だが、それはそれこれはこれ。

こっちも、徹底的にやらせて貰うだけだ。

わっと、地面から湧き出してくるβ型。かなり近い。兵士達が怯えの声を上げるが。既に大兄の指示で、半数がロケットランチャーに切り替えていた。

β型はα型と火力が桁外れだし、その上凄まじい跳躍であっと言う間に浸透してくるが、その代わり脆い。

一斉に放たれた攻撃で、文字通り消し飛んでいくβ型。

上空に三城は出ると。

ドローンに絡まれないように注意しながら、中空から雷撃銃で撃ち据える。

だが、まだまだ嫌な予感が消えない。

ゆっくり高度を落としながら、時々寄ってくるドローンを雷撃銃で打ち砕く。

β型は火力の滝に晒されて、中々近づけずにいるが。主力以外があからさまに左右に廻って来ていて。

それらが、いついきなり自陣に飛び込んでくるか分からない。

「左方向に十五」

「よし、俺が駆除する」

小兄が回ってくれる。その間も、三城は敵を焼き続ける。

敵の数が減った来た所で、大兄が叫ぶ。

「総員、補給を今のうちに!」

「ま、まだ来るのか!」

「冗談じゃないぞ!」

「こんな程度でプライマーが攻撃を諦める訳がない。 多分本命は次だ!」

兵士達が青ざめているが、上空からでも分かる。

そのまま着地しつつ、β型の群れを至近から電撃銃で薙ぎ払って仕留める。こんな近距離に接近されるとは思っていなかったのか。三城の動きが速かったのか。十体以上のβ型が、瞬時に薙ぎ払われひっくり返った。

跳躍して、反撃をかわすと。

反撃してきたβ型に雷撃を浴びせる。

フライトユニットが警告音を出してきている。派手に攻撃しすぎたか。すぐに自陣に向けて飛びつつ。時々それでも反撃を入れていく。

かなり散りつつ四方から自陣に迫るβ型だが。大兄の指揮が的確で。三両のタンクの奮戦もあり、自陣に飛び込む事は出来ていない。

だが、糸の射程には既に入っている。

四方から飛んでくる糸に、戦車がダメージを受けているのが見える。

兵士も、負傷者が出始めていた。

だが、開戦当初のように糸を喰らうだけでバラバラ。即死。というような事態は避けられている。

EDFのアーマーは、半年で対怪物用に著しい進歩を遂げたのだ。

最後のβ型が倒れる。

周囲は怪物の死体と、撃墜されたドローンの残骸だらけだが。まだまだ悪意は周囲に感じられる。

補給トラックを二台連れてきて正解だったなと、三城は思う。

フライトユニットを冷やしながら、トラックに積んでいたクラゲのドローンを取りだしてぎゅっと抱きしめる。

これがどういうわけかやたらと落ち着く。

自室にはぬいぐるみの一つも無かったのに。

でも、それもすぐ終える。

深呼吸すると、きっと北を見た。

「来る」

「ああ、分かっている。 皆、本命が来るぞ! 備えろ!」

「ま、まだ来るのか!?」

「終わりだ!」

兵士達の一人が絶叫する。

それはそうだろう。

そして、その絶望を表すように。今までの全ての敵をあわせたよりも多い怪物が。北に出現。

ドローンも凄まじい数だ。

だが、これを叩き潰せば、周辺への脅威をそれだけ減らせる。

たくさんいた難民達。

あの人達だって、此奴らに襲われたら、とんでもない数の被害を出す事になるだろう。

「ありったけの弾を叩き込め! 一体も生かして返すな!」

そう叫び、鼓舞してから具体的な指示を出す。

「まずはβ型を、銀のα型、そして赤いα型を集中射撃! 敵は足の速さがそれぞれ違っている! 進軍するまでに差が出るから、それを利用して各個撃破する! そして皆、少しずつ後退! それで接敵まで時間が稼げる!」

「う、うおおおおおっ! やってやる! やってやるぞ!」

もう自棄になったのか。兵士の一人が、絶叫しながら射撃を始める。

戦車隊も、もう予備の弾全てを撃ち尽くす勢いで射撃を開始。

三城も敵陣に向けて飛ぶ。

此処が、今日の山場だ。

 

戦闘が終わる。

タンク二両が大破。兵士は脱出。煙を上げているタンク一両。なんとか動けるようだ。

ニクスもかなりのダメージを受けていた。物量を捌ききれず。最後尾に残って、敵の攻撃をしこたま浴びたのだ。

特に胴体に食い込んでいる赤蟻の顎が痛々しい。赤蟻はもう顎しか残っていないが。それでも、それほどまで接近を許したという事である。

兵士達も、β型の接近こそは阻止したが。α型の接近までは止められず。最後はもみくちゃの中乱戦になった。

小兄と三城で敵の浸透はかなり遅らせたのだが。それでも兵力が少なすぎたのである。

ただし、敵も全滅した。

周囲に悪意は、もう残っていなかった。

千葉中将から連絡がある。

「よくやってくれた村上班。 地獄を見たようだな。 敵の遠距離攻撃については、解析が先ほど終わった。 戻って休んでほしい」

「了解。 これより帰投する」

「君達は荒木班と並ぶ日本のEDFの宝だ。 それは嘘偽りない事実だ。 今後も……頼むぞ」

千葉中将は、嘘を言っている様子は無い。

だけれども、今後も無茶苦茶な作戦をさせられるのは目に見えている。

それでもやってやる。

そう、三城は。

大量の死体が散らばる戦場の跡を見て思った。

大型車両が来る。

兵士達は、皆魂が抜けてしまっているようだった。

あれほどの大軍と戦って、それでも生き残った。それが、不思議でならないのかも知れない。

大破した戦車を、クレーンもついている大型車両が牽引して乗せる。そのまま、帰路につく。

帰路は兵士達を気遣って。

三城は無言のままでいる事にした。

大兄も小兄も同じようにしていた。

陽が沈み始めている。

赤く染まった、破壊され尽くした街。

大量の怪物の死骸は、恐らくもう回収どころではないだろう。

既にEDFは、継戦能力を失い始めているのが。三城にも分かっていた。

 

3、砲兵

 

朝までぐっすり眠る事が出来た。

弐分は起きだすと、トレーニングをしっかりする。この間した火傷は治ったが。それはそれ。

連日の戦闘で、細かい傷は絶えない。

それらに耐えられるように。

肉体は、常に鍛え上げておかなければならない。

肉体の頑強さについては、大兄より上の自信はある。

だけれども、戦闘のセンスは大兄がずっと上だ。

だからやりあったら勝てない。

それはよく分かっている。

実の所、大兄もフェンサースーツを使えると思う。というか、使ったら弐分よりも上手いのではないのかとすら思う。

それが、時々怖い。

自分の居場所は今あるが。

それも、いつなくなるか、知れたものではなかった。

ましてやフェンサー用の大型パワードスケルトンは、メンテナンスが必要な装備だ。連日無茶な使い方をしていて、整備班には色々言われている。

勿論、アサルトライフルやスナイパーライフルだって使える。

ただ、当てて放つの領域に入っている大兄ほどでは無い。

色々と、ままならない立場だ。

先に起きていたらしい大兄から、通信が来る。

「起きて来たか、弐分」

「相変わらず早いな大兄。 ミーティングか」

「そうだ。 三城にも一華にも声を掛けておく必要があるが……まあ二人とももう起きているだろう」

「私は起きてる」

三城が来る。

そして、軽くトレーニングを始めた。

三十分後にミーティングだと言われて。頷くと、さっと朝の訓練を全てこなしておく。

三城は昔、体力という観点では本当に酷かった。

朝練もまともにこなせなかった。

これはクズの両親のせいで、基礎体力がゼロだったからだろう。

だけれども、朝練に三城は弱音一つ吐かずに。徐々に確実に体力をつけていった。

数年で、祖父が瞠目するくらい体力をつけたのは、間違いなく三城の努力の賜であり。

それはとても尊い事だと弐分は思う。

一通りトレーニングを終えたので、ミーティングに向かう。

筒井中佐だけではなく。テレビ会議で、千葉中将も参加している様子だ。それだけ大事な作戦、ということだろう。

また、戦略情報部の少佐も、作戦について提案しているようだった。

「先日の戦闘で、町を破壊した兵器について判明しました。 マザーシップや、先日大阪に降下した大形兵器からの攻撃を懸念していたのですが。 衛星画像から、正体を割り出すことが出来ました」

「具体的に何が起きていた」

「超長距離の攻撃を得意とする砲兵です。 コロニストが砲撃兵器を装備し、十キロ先から正確に街を破壊したのです」

「十キロ先から、携行火器で街を破壊しただと!」

千葉中将が皆を代表するように驚いてくれる。

おかげで兵士達が動揺しなくて済む。

多分、千葉中将はこれを意図的にやっているのだとみて良い。

自衛隊時代には陸将という階級だったらしい千葉中将だ。

その頃から、兵士を統率するために。自分がしなければならない事を、把握していたのだろう。

「ショットガンを装備したコロニストが確認されていますが、プライマーはコロニストに砲撃用の長距離兵器も支給したようです。 いずれにしても排除しなければ、大阪基地はアウトレンジの砲撃にさらされる事になるでしょう」

「まさか先日の戦いは……」

「恐らくは、予行演習かと」

「くそっ! 予行演習のために、街を一つ消し飛ばしたのか!」

怒りを込めて千葉中将が言う。

この様子は、兵士の言葉を代弁してくれる。

大変に有り難い。

指揮能力という点で、千葉中将はどうしても問題があると言われる事があるようだけれども。

日本にいるEDFのトップとしては、こうやって振る舞うべきだという事を知り尽くしているように思う。

事実、兵士達の動揺は。

それで最低限に抑えられている。

「現在、砲撃装備のコロニストは日本では奈良近辺の放棄された街に潜んでいる事が分かっています。 これに高速で接近し、近距離戦を挑んで粉砕してください。 上空はドローンに守られているため、航空機での攻撃は出来ません」

「分かった。 そうなるとニクスを持ち込む事は出来ないな……」

「恐らく敵の砲撃兵器は出力が大きく、近距離での戦闘でも大きな破壊力を発揮するとみて良いでしょう。 くれぐれも懐に飛び込んでも、油断だけはしないようにしてください」

「分かった。 それでは、具体的な作戦の提示に入ってくれ」

戦略情報部の少佐が言う。

部隊を三つに分ける。

一つの部隊はタンク一両、グレイプ三両に分乗し。それぞれが別方向から接近する。これが三部隊、時間差をつけて敵に接近する。

途中、怪物の攻撃が懸念されたが。

それは昨日の戦闘で全て排除された。

現時点で、衛星画像などを確認しても、怪物が近くに移動した形跡は無く。砲撃兵は孤立していると判断出来る。

故に、迅速に接近し。

タンクとグレイプの火力。

更に展開した歩兵の火力で敵を殲滅する。

以上である。

「コロニストは二十数体が確認されています。 全てが砲撃装備とは限らず、護衛部隊の存在も考えられます。 油断せず作戦に当たってください」

「了解した。 よし、すぐに編成を開始してくれ」

此処からは、筒井中佐の出番だ。

筒井中佐が、指揮官としては大兄を指定。

まあそうなるだろう。

大阪基地に集まっている部隊のうち。軽装備の部隊幾つかを更に周囲に展開し、機動力で敵の攪乱を行う。

要するに、接近に気づかれても的を絞らせないように、陽動をしてくれるということだ。

ただし軽装備の部隊だ。

街を破壊し尽くすような砲撃兵器には長時間耐えるのは厳しい。

もっている間に、接近するしかない。

一華は、今回ニクスの修復が間に合っていない。

というか、流石にもう駄目だそうである。

一華もそれは分かっているようで、無言でいた。

代わりに、最新鋭のブラッカーを提供してくれるとか。

「ブラッカーは運転できるか?」

「問題ないスよ。 訓練時にランクSSの免許取りましたんで」

「おお、流石やな。 頼むで」

すぐに皆が展開する。

まだ外はかなり暗いが。このくらいの時間の方が、コロニストも動きが鈍るのは分かっている。

更に言えば、怪物も同じだ。

ならば、この時間に多少無理をしてでも敵地へ侵攻するのは合理的な判断だ。

チームは三つに分かれて攻めこむが。

先陣は村上班と、随行する二両のグレイプに乗った二分隊が務めることになる。

ただニクス無しでコロニストの群れを相手にすること。

更には町を破壊するような火力の相手をすること。

これはどうしようもない不安条件だ。

移動開始。

今回は、三班がそれぞれ別方向に移動する。それで敵が此方の動きを察知していたとしても、対応が出来るようにする。

弐分はグレイプに乗り込んで、タンクの後からついていく。

三城も、別のグレイプに乗り込んだ。

各地で激戦が続いている事もある。

恐らく人員を用意できなかったのだろう。

今回は一個中隊近い戦力が参加する作戦だが。

しかしながら、ウィングダイバーもフェンサーもいない。

損耗が二兵種とも激しい。

故に、なのだろう。

現地が近付くと同時に、陽が昇り始める。昨日は陽が沈み、街が真っ赤になるところで切りあげたっけ。

タンクとグレイプは速度を意図的に同じにしている。

大兄が、軽く作戦の説明をした。

「今回は敵の火力が分からない事もある。 敵を視認出来次第、AFVの操縦者以外は総員降車。 戦場になる場所は敵が都合が良いからか、破壊され尽くしていない事が分かっている。 遮蔽物を利用して、コロニストとの戦闘を行う」

「三部隊で連携して、同時攻撃ですか?」

「いや、我が部隊が先行して攻撃する。 敵の攻撃手段が分からない以上、最大戦力を最初にぶつけて、どれくらいの火力があるのか、攻撃頻度があるのか、近距離への対応能力はどうなのか、試す」

マジかよと、同じグレイプに同乗している兵士達は顔に書いたが。

しかしながら、他の兵士の命に関わることだ。

それに、砲撃兵器をもったコロニストは恐らく世界中にこれから出現してくる事になるだろう。

同時に威力偵察するのは無意味だ。

それならば、誰かが最初にやらなければならないのである。

「最前衛は弐分と三城が務める。 皆は後方から支援に徹してほしい」

「イエッサ……」

「それでは行くぞ!」

速度をぐんとグレイプが上げたのが分かった。

映像で、コロニストが確認できたからだ。

弐分が立ち上がり、グレイプの後方に立つ。後方を開けて兵士が展開出来るようになっている。

これはブラッカーも同じだ。

防御に特化した戦車であるメルカバシリーズのシステムを利用しているらしいのだけれども。

ブラッカーは、要するにそれだけ世界各国の戦車のシステムを取り込んでいると言う事だ。

何でも世代的には第六世代くらいに相当するそうで。

それだけEDFが無理に軍拡をしてきた、と言う事でもある。

「よし、降車! 展開!」

声が掛かると同時に、グレイプの後方が開き。弐分は飛び出す。

同時に高機動力を生かして。一気にタンクを追い越す。コロニストは、何やら巨大な兵器を担いでいる。

そして、目があった。

至近距離まで、既に詰めている。

スピアを頭に叩き込むが。同時に、コロニストも狙いこそずれたが、上空に砲撃していた。

当然砲撃は外れたが、その瞬間はしっかり見た。光の球を撃ち出すのは同じようだが。弾がアサルトよりも何十倍も大きい。

これは。危険な兵器だ。

そう思いつつ。すぐに機動力を生かして、二体目に向かう。もう三城も、敵に向かっている。

連続する爆発音。

案の定、近距離戦も出来る仕様か。

「ブラッカー、無事か!」

「思った程の火力ではないッス! でも喰らい続けると危ないッスよコレ!」

「よし、展開した皆はスナイパーライフルで集中射撃! 一匹ずつ仕留めていけ!」

「イエッサ!」

グレイプも射撃を続けているが、横目に見る。たった一撃で、車体が大きくぐわんと揺れるのが分かった。

兵員輸送車とはいえ、二次大戦の頃の戦車なんかとは比較にならない装甲をもっているグレイプが、である。

それも、開戦当初とは比べものにならないほど装甲は強化されているのに、だ。

これはまずい。

とっさに盾を構えるが。かなりの距離を吹っ飛ばされる。

連射して、それで爆撃していくタイプの兵器のようだが。一発一発がとてつもなく重い。これは、危険だ。

「連射できる迫撃砲のようなものだ! 皆、気を付けろ!」

「き、気を付けろってどうやって!」

「とにかく移動し続けろ! 一点に留まるな!」

叫びながら、三匹目の頭を叩き落とす。戦闘の様子はモニタされているはず。後続はこれで少しは戦いやすくなる筈だ。

コロニストが距離を保ちながら射撃を続けてくる。

迫撃砲と大兄は言ったが、これはオートホーミングしてくる連射可能なスナイパーライフルのようなものではないかと感じる。

いや、流石に弾速が遅いからそこまでの脅威ではないか。

ともかく、左右にスラスターを使って移動しながら、敵に間を詰める。爆発が至近で何度も起きる。

冷や冷やさせられるが。それでも間合いを詰めきって、頭を吹き飛ばす。

上空からの攻撃には弱いのか。

三城が、コロニストの頭を撃ち抜くのが見えた。対応できていない。対空砲としては使えない様子だ。

ガアガアとコロニストが鳴く。

それで、ドローンが降下してくる。制空権を抑えておかないと、どうやら活躍出来ないらしい。

そういう意味では、人類のAFVと同じかも知れない。

「ドローンが来ます!」

「相手にせず、コロニストだけに仕掛けろ!」

「ちょっといいッスか」

一華が提案をしてくる。

無線を敵に傍受されているとは思えないし、まあ良いだろう。

そういえば、一華は軍用無線も使えるのだったか。

「分かった、やってくれ」

「弐分さん、三城、これから指定するコロニストからは離れて貰えるッスか?」

「? 分かった」

そのまま、戦闘を続ける。

流石に前衛で暴れている弐分を五月蠅いと思ったのか、ビルの上によじ登ったコロニストも含めて複数が狙撃をしてくる。

とにかく弾が途切れなく飛んでくる危険な代物だ。

迂闊に仕掛けられなくなってくる。

だが、そこで第二班、第三班が現着。

「此方ブラボー! 攻撃に参加する!」

「此方チャーリー! 攻撃を開始!」

「指定したコロニストに攻撃を集中してくれ!」

「了解!」

二チームが参戦するが、まだまだ余談は許さない。

グレイプの一両が、被弾。兵士が脱出し、続いて爆散した。タンクもかなり集中砲火を受けている。

「凄い武器を持ってるぞ!」

「でかい上にあんな連射できるのか! やっぱりテクノロジーが違い過ぎる!」

「だが村上班は戦えている! 此処でデータを取れば、世界の他の何処でも戦えるようになる筈だ!」

その通りだ。

コロニストも増援の到着を見て、それぞれターゲットを変える。既に今までの戦闘を遠隔で見ていたのだろう。

追加で到着した班も、ビル街を盾に戦闘を開始。

狙撃戦になると、大きい分コロニストも不利になってくる。

ただしライサンダー2のような超ド級対物ライフルでもない限り、ヘッドショットでも一撃で殺すのは厳しい。

ウィングダイバーやフェンサーの武器のような大火力は。レンジャーの武器には備わっていないのだ。

「よし、行くッスよ!」

一華の声。

とりあえず、指定されているコロニストは。一番高いビルの上に陣取っている奴だ。

まあ近付きようがないが。兎に角見ているとするか。

「此方DE202! ドローンがいなくなった事で現着した! 支援攻撃を開始する!」

「ガンシップか」

「バルカン砲、ファイヤ!」

文字通り雨霰と叩き込まれる弾丸が、コロニストを蜂の巣にする。

流石に頭部を中心に叩き込まれると、どうしようもない。血まみれになりながら、ビルを落ちていくコロニスト。

上に射撃をしようとして、コロニストが視線を逸らした瞬間。

弐分は接近して足を叩き潰し。更に頭も続いて吹き飛ばした。

ドローンは所詮機械。

人間に近付いて攻撃してくるように命令を受ければ。その命令が更新されない限り何もできない。

「よし、航空支援か。 有り難い!」

「そのまま皆、コロニストに攻撃を続けてくださいッス。 隙を見て第二射、行く……」

連続して、タンクに着弾。

一華の声が途切れたので不安になるが。

見ている余裕はない。

「無事か!」

「まだ大丈夫! 第二射頼むッスよDE202!」

「分かっている! 指定座標確認! バルカン砲、喰らえっ!」

二匹目のコロニスト。ビル屋上に陣取って好きかってしていた奴が、文字通り蜂の巣になってビルから転落する。

だが死んではいない様子だ。

三城が側に降り立つと、首を落として楽にしてやる。相手を嬲る必要はない。敵ではあっても、殺すだけでいい。

コロニストは三方向からの攻撃に晒されるが、それでもやはりタンクに集中攻撃を続けてくる。

もつか。

不安になるが、そうなると注意を惹くしかないだろう。

接近する。めざとく弐分を見つけたコロニストが集中放火してくる。それだけ、他の皆への攻撃が減る。

その分回避は大変になるが、今はもう少し、というところだ。

かなりの数のドローンが接近して来る。コロニストが、ガアガアと鳴いているのも、此方の阻害をさせるためか。

いずれにしても、もう少しだ。

大兄の狙撃で、コロニストがかなり減ってきている。あの兵員輸送船も来ない。

この様子だと、プライマーはこの戦線を見捨てたとみて良いだろう。

攻撃を続ける。ドローンは可能な限り無視。

三回目のバルカン砲が炸裂した所で、ほぼ戦闘の趨勢は決まった。

だが、まだタンクを狙った攻撃が着弾し続けている。

それにコロニストはどれだけやられても逃げようというそぶりを見せない。やはり洗脳でもされている可能性が高そうだ。

激戦が終わる。

夕方近くまで、戦闘は続いた。

兵士達は多くが負傷した。吹っ飛んだビルの瓦礫の下敷きになって、タンクで瓦礫をどかしてやっと救出した兵士もいる。

重傷者も多い。

吹き飛ばされて、意識が戻っていない兵士や。

両足を失って、瀕死の兵士もいた。

だが。敵砲兵隊は全滅。

都市を一つ丸ごと破壊し尽くした砲兵隊が、文字通り消滅したのである。

敵の物量が、如何に天文学的だったとしても。

これは、大きな勝利だった。

キャリバンが来て、多数の人々を運んでいく。

腕を押さえている三城を見て、弐分は心配になったが。破片でざっくり切っただけで、骨まではやっていないと三城は言う。

だから、他をもっと心配してくれと。

少し、過干渉になっていたかも知れない。

歳が離れた三城は、過干渉にされる事をあまり嫌がっていないし。むしろこの年からは考えられないくらい甘えてくるが。

しかし、それでも。

そろそろ、尊重すべき年齢なのだろうと判断。

弐分は、救助に当たっている他の兵の手伝いに向かい。逃げ遅れていた民間人や。ひっくり返っていた車両の回収。

更には、敵の新兵器の回収などに。

夜中まで、手伝いを続けた。

 

戦闘が終わって基地に戻ったのは結局次の日だった。

何しろ敵も新兵器を投入してきていたのである。

一華は先に戻っていたが。

これは、全世界に新兵器のデータを送信するため。

それにだ。

戦闘が終わった後確認したが。一華の乗っていたブラッカーは、もう全損寸前だった。良く生きていたと思う。

一華を少しだけ、弐分は見直した。

なんというかエゴイスティックで勝手な奴だと思っていたのだが。

それについては実際の所、未だに道場が一番大事な村上家の三人兄弟だって同じ事だし。

モヤシだと思っていたけれど。

此処まで踏ん張れるなら。その評価は変えるべきだろう。

まあ、そう面と向かって言うつもりはない。

今後は、相手に対する態度を変えるだけだ。

そして、弐分は知っている。

人間は、一度相手にした評価を変えることはまずない。

特に自分より下と判断した人間に対しては、絶対に評価を改めないし。もしも相手が何かしらの自分が知らない事をしたり知っていたりしたら、相手を殺してでも否定しようとする。

そういう「普通の人間」と弐分は一緒になりたくなかった。

「弐分、三城。 もう休め。 俺はもう少し作業をしてから寝る」

「大兄、大丈夫か」

「案ずるな。 それよりも、二人とも前線で激しくやり合っていただろう。 俺は二人ほど体を使っていない。 まだ余裕がある」

「……分かった」

三城が疲れきった様子で、シャワーを浴びると言って消える。

弐分も同じく。風呂に入ってから寝る事にした。

大兄はこんな時でも変わらないな。

レポートについては、こんな状況だ。

EDFは色々と簡略化していて、人によって差異が出やすいものをテンプレ化し。バイザーから撮る事が出来るデータを付与することで、OKとしている。

弐分も何回かレポートは書いたが。

バイトしているときに書いたレポートとは雲泥で。本当に楽だった。

ただ、それでも激戦の後だ。

指揮を執っていた大兄の負担が一番大きいのは確実だし。

出来るだけ早く休んでほしかったのだが。

風呂から上がって、ベッドに直行するが。

その途中、兵士達がひそひそ話しているのを聞く。

「中国で確認されているコロニストが、既に四千を超えているらしい。 日本でも千近い数が既に確認されたそうだ」

「この数日だけで数十体倒したのに……」

「勝ち目なんかあるのかな」

「俺たちが弱気になってどうするんだよ。 今人員募集してるだろ。 新兵の中には、半ば無理矢理連れてこられる奴だっているんだぞ。 そういう奴らが今みたいな話を聞いたら、絶対に敵前逃亡する。 そうなったら、勝てる戦いだって勝てなくなる」

無理矢理に徴兵、か。

そうだろうな。

あの巨大兵器が降ってきて、更に人類の受けたダメージは深刻になった。

優勢に戦っていたイギリスなどでも、アレの出現によって戦況は一変したと聞いている。

それに、まだ一般兵士達には話が行っていない様子だが。

アフリカでの巨大生物の増え方がおかしいらしい。

テレポーションシップやアンカーから投下されている怪物と。衛星写真などから確認される怪物の数が合わなくなってきているそうだ。

それはつまり、繁殖を疑わなければならない。

そういう事態になりつつある、ということだ。

今は、もう何もできない。

疲れ果てている体を引きずって、ベッドに潜り込むと。

後は泥に埋もれたように、深くねむる。

それしか、出来る事はなかった。

 

4、苦しい中での反撃作戦

 

リー元帥が、テレビ会議に出る。

いざという時のために、総司令部は既に地下に移動し。更に各地を定期的に転戦している状況だ。

一緒に移動している面子も基本的に違っている。

戦略情報部も、似たようにして行動を行い。

継戦能力を失わないように、工夫を続けていた。

また、多くの面子が変わっている。

戦死した中将級の司令官はかなり多い。将官の戦死報告は、連日と言う程上がって来ている。

また、アフリカの獅子と言われるタール中将も、流石に疲弊が目立つようになって来ていた。

本当に頭が下がる思いである。

「各地の戦況についての話をしたい。 現在、アフリカを放棄する作戦の最終段階が進んでいるが。 戦略情報部の分析を聞いてほしい」

「戦略情報部、少佐です。 以前くだんの村上班が偵察任務を行った巨大な洞窟ですが、どうもあの深部から、おかしい数の怪物が出現していることが分かりました」

「おかしい数、だと」

「恐らく繁殖しているのだと思われます」

皆が呻く。

少佐はあくまで淡々と言ったが。

落とされてくる怪物だけで、とんでもない脅威になっているのである。

装甲が強化されたコンバットフレームだって、大量の怪物に集られるとひとたまりもないほどなのだ。

村上班があり得ないくらいによくやっているだけで。

各地で、大苦戦をEDFが続けているのは。

単純に、人間が磨き抜いてきた近代兵器よりも。

怪物が強いからである。

ましてや怪生物に関しては、もはや打つ手がないというのが現状だ。

「現在、三つの作戦を同時に進めている。 少佐、説明してほしい」

「はい。 まず第一に、アフリカでの怪物繁殖阻止作戦です。 民間人を逃がした後、タール中将は残存戦力をまとめ。 巣に対する強襲作戦を行うべく、防衛に徹してください」

「巫山戯るなと言いたいところだが……繁殖などされては話にならん。 仕方がないだろうな。 ただし、潜水母艦の支援は必須だ。 それと、巣への破壊作戦には、例の村上班を廻してくれ。 あの四人は恐らくEDF最強戦力だ。 その二つの条件を満たしてくれるなら、まだしばらく耐えて見せる」

「分かりました。 善処しましょう」

タール中将が、凄惨な。疲弊しきった表情で頷く。

気持ちは良くリー元帥にも分かる。

ただ、今は。

EDFの全隊員が、無理を強いられているのが実情だ。

彼だけが、酷い目にあっているのではない。

「続いての作戦です。 現在怪生物の撃滅計画として、EMCの改良と量産を進めています」

「以前のK6作戦では、まともに動かなかったあれか」

「作戦を急いだのが要因です。 現在先進科学研の協力により、EMCの試運転には成功し。 増産も行っております。 まずは日本にいるエルギヌスの撃破作戦を発動し、その際には十両のEMCを投入します」

1億ドルとはいうが。

戦闘機はもっと高いし。十両のEMCならまあ怪生物撃破作戦には妥当なところだとは思われる。

誰も、それについて文句を言う将官は存在しなかった。

「次を頼む」

「はい。 現在の最大懸念事項は、敵の巨大兵器です。 巨大兵器は戦略上の要地に居座り、周辺地域を制圧したも同然の状況を作り出しています。 イギリスのロンドンに居座る巨大兵器に対して、タイタン、ニクス、それぞれ多数を投入した攻撃を計画中です」

「砲台を破壊する事は可能だが、装甲を破壊出来ないと聞いている」

「巨大兵器の強みは、何よりもその圧倒的な対空能力です。 まずはビル街を盾にして、EDFの高火力兵器を接近させて、砲台を破壊。 対空戦闘能力を奪いつつ、更にドローンを釘付けにします。 その後、航空機による爆撃。 更には、気化爆弾による爆破を試みます」

これに関しては、不安そうな顔をする将軍が多い。

それはそうだろう。

テレポーションシップの撃破に関しては、五ヶ月でこんな無駄な会議を何度も何度もやったのだ。

その結果、夥しい戦力を喪失した。

村上班が荒木班と連携してテレポーションシップを撃墜するまで。

黄金の装甲を装備した敵については、どうしようもなかったのだ。

「相手は黄金の装甲を装備している。 それらで対応できるのか」

「攻撃機に装備しているのは、黄金の装甲を研究して作り出した改良型バンカーバスター、通称フーリガン砲です。 核兵器ではありませんが、貫通能力に関しては核を搭載した既存のバンカーバスターを凌ぐ火力を実現しています。 既に回収している比較的原型を留めたテレポーションシップで実験し、貫通できる事は確認しています」

「それについては聞いている。 だがかなり鈍重な攻撃機で、制空権がないと撃墜されること必至と聞いたが。 それに、テレポーションシップよりも、あの巨大兵器の黄金の装甲は厚いのではないのか」

「千葉中将。 一つずつ、試して行こう」

リー元帥が声を掛けると。

千葉中将は、黙り込むのだった。

挙手するのは、劉中将である。

中国の指揮をしている劉中将は、コロニストの苛烈な攻撃に、連日悲鳴に近いレポートを送ってきている。

以前は村上班がめざましい活躍を見せて、多数のコロニストと怪物が参加した作戦で快勝したが。

それはあくまで例外。

各地での戦闘では、やはり苦戦が続いているのだ。

「対コロニストの作戦は何かないのか。 敵はどうやら北京を狙っている様子で、その数も増えるばかりだ」

「つい先日、日本で新兵器を装備したコロニストが二種類も確認されました。 特に大型ショットガンと、十キロ先を正確に砲撃爆破できる連射式迫撃砲は脅威です。 コロニストの戦力は、更に今後強化される恐れがあります。 敵の底が知れない以上、賭けに出るのは無謀です」

「その報告は聞いた。 というか、此方でも既に現れ始めている。 前線での被害は甚大だ。 敵を一網打尽に出来る策はないのか」

「残念ながら」

そんなものがあったら、とっくにやっている。

リー元帥は心中でぼやくが。

もう、どうしようもなかった。

「まず、これら三つの作戦を並行して進めます。 いずれも成功するか、よりも。 敵の底を調べ、対抗策を作り出すくらいの気持ちでいてください。 いずれの作戦にも、村上班に参加して貰います。 それで被害を劇的に抑える事が出来るでしょう」

「村上班か。 確かに英雄という言葉が相応しい者達だ。 もうグリムリーパーとスプリガンを超えたかも知れないな」

英国のジョン中将が皮肉混じりに言うが。

誰も、それを嗤うつもりにはなれないようだった。

今は、本当にエースチームが頼りなのだ。

その中でも、連日冗談のような戦果を上げている村上班には、本当に頼みますと頭を下げたい所である。

いっそのこと、階級を一気に引き上げて、将官にし。

各地の戦闘指揮を任せてはどうか、などという意見すらある。

ただ、あの四人はあくまで四人でまとまっているようにも見える。

故に、リー元帥はそれには反対だった。

「ともかく、細かい各地への指示は戦略情報部から追って行う。 皆、作戦に備えてほしい」

「イエッサ!」

敬礼をすると、テレビ会議を終える。

リー元帥は冷や汗を掻きながら、部下に茶を淹れるように指示。

適当に紅茶を淹れて貰うと。

それを啜りながら、少しばかり考えた。

今、EDFはかなり厳しい状況にある。

戦闘開始から、七ヶ月。

既に正規兵の損害は、壊滅というレベルに近付いている。

予備役兵は全て招集したし。

何よりも、各国で兵を募集して。急ピッチでの訓練を進めている。

民間人への被害は、テレポーションシップをどうにもできなかった時期に比べると抑え気味だが。

各地の大都市ですら、既にかなり厳しい状況になっており。

いつプライマーが来るか。

それに皆が、戦々恐々としている状況だ。

経済の停滞も大きく。

各国は悲鳴を上げていた。

なんとかプライマーと和睦を結べないかという声が上がってきているのも事実。

だが、プライマーは此方からの通信を意図的に無視していることが分かっている。

破壊したテレポーションシップを調べた所、想像を絶する程高度ではあるが。通信を解析できるシステムなどが搭載されていることが分かっている。

つまりそれは、人間側からの呼びかけはプライマーに通じている、ということだ。

通じている上で無視しているのなら。

此方から出来る事は、残念ながら一つもないとしか言いようがないのだった。

日本でも先日、扇動を行う政治家によって、活動家数十人がコロニストの所に出向き。

殺されるという事件が起きている。

その事件を、EDFのせいだとその政治家は喚いているそうだが。

そろそろそういった輩を逮捕するしかないかも知れない、とリー元帥は思い始めている。

だが、それでは民主主義は死ぬ。

ただでさえ、人間は限界が近いのだ。

これ以上、自分の首を絞めるような事があってはならないだろう。

秘書官であるカスター少将を呼ぶ。

例外的に、本部を移転するときに常に一緒に来て貰っている人物だ。

「参謀長はどうしている」

「戦略情報部の指揮を少佐に任せて、作戦全体の精査をしてくれてはいますが……」

「そうか」

参謀長。

戦略情報部の指揮を執っている人物である。

通称「参謀」。

EDFの軍師と言えば聞こえはいいが。独立部署である戦略情報部を私物化しているという噂もあり。

今まで提案してきた作戦の数々を見ても、あまり柔軟な頭脳をもっているとは言い難かった。

しかしながら人脈については相当に強いものをもっており。

そのため、EDFとしては欠かせない人材である。

リー元帥と同様に、世界政府とEDFの設立に関わった立役者の一人で。

恐らくプライマーにとっては、最重要ターゲットの一人だった。

なお名前は基本的に伏せられている。

ある意味、EDFの影を代表するような人物だった。

「先に戦略情報部の少佐が挙げた三つの作戦に、全力で取り組むようにと念押しをしておいてくれ」

「……分かりました。 此方から、声を掛けておきます」

「頼む」

プライマーは、まだ本気を出していないようにリー元帥は思う。

いや、正確にはマザーシップが追加で10隻とか現れない時点で。恐らく基幹戦力については同じなのだろうが。

その全てを見せてきていない、というのが実情だろう。

いずれにしても、敵の手の内を全て知らない限り、勝つ事は恐らく不可能に近いと判断していい。

今は、一つずつ敵の兵器について分析し。

対応策を練っていくしかない。

それまでに、どうにかEDFをもたせなければならない。

少し悩んだ後。

リー元帥は、もう一度カスター少将を呼んで。

世界政府麾下の各国首脳との会合について、席を設けるように告げた。

兵士の増強を行う必要がある。

今まで以上の出血を、世界政府に覚悟して貰わなければならなかった。

 

(続)