エイリアン降下

 

序、欧州へ

 

随分と少ないな。

そう、欧州のマルセイユ基地に到着した壱野は。マザーシップ攻撃のために集まった部隊を見て思った。

マザーシップを落とすなら、タイタンなどの超大型戦車や、ニクスを数十機は出すべきだろう。

それが此処にいるのはブラッカー四両。

歩兵が三個小隊。

そのうち二分隊はウィングダイバーだが。はっきりいって戦力は足りないという他ない。

こんな戦力で、都市ほどもあるマザーシップをどう落とすのか。

不満しかないが。

ともかく、輸送機から一華のニクスが降りてくるのを見て。兵士達が安堵した様子である。

この有様では、恐らくだが他の兵士達も同じような感想を抱いたのだろう。

マルセイユ基地はなんとか最初の襲撃を乗り切ったらしいが。それにしても傷跡が目立つ。

荒木軍曹……もう少尉だが。少し遅れて現着する。

荒木軍曹もニクスに乗っていたが、相変わらずの四名チームのようだ。ニクスを出すなら、随伴歩兵がもう2個分隊くらいはいると思うのだが。まあ、荒木軍曹は歴戦の軍人だ。

壱野も教わることが多かった。

その考えに、異を示しても意味がないだろう。

「久しぶりだな、村上班」

「お久しぶりです」

「テレポーションシップを千葉でも3隻落としたそうだな」

「1隻はダン少尉による戦績でした」

ニクスから降りてくる荒木軍曹。

そういえば。

少し前に、変な届け物がきていた。

一華と三城にと、くだんの先進技術研から届いたのだが。

どちらも支援用のドローンである。

しかも形状が。一華のは梟。三城のはクラゲを模している。どちらも可愛らしくデフォルメされているが。

一華は気にいったのか、飛行機の中で開封して。今は頭の上に載せていて。

三城はバリバリに前線でやりあう関係上危険だと判断したのか。

基本的に、補給トラックに乗せている。

補給トラックを輸送船から、一華が無線操作して降ろす。

これで、一応の部隊の戦力は整ったか。元々マルセイユ基地にいた補給トラックも出してくれるので。

まあ、補給は大丈夫だろう。

補給は。

現地の将軍が来る。

ごっついいかにも軍人と言う風貌の大柄な男性だ。はげ上がった頭と、カイゼル髭が少し時代がかっているかも知れない。ただ筋肉質で、威厳はしっかりある。

「ルイ大佐だ。 今回、日本から支援に来てくれて礼を言う」

翻訳されている。

アプリを一華が機動してくれた結果である。

壱野が敬礼すると。

流石に、最低限の敬意を払ってくれた。

「マザーシップを撃墜する前に、露払いに1隻テレポーションシップを落としたい。 パリ近郊でハラスメント攻撃を繰り返していて、こいつがいると背後を怪物の群れに突かれる可能性がある」

「分かりました。 出がけの駄賃に潰して行きましょう」

「手並み、期待している」

荒木軍曹に敬礼をするルイ大佐。

さて、いきなりテレポーションシップ破壊からか。

今、全世界でEDFが攻勢に出ている。

欧州では、英国でそこそこ頑張っているらしく。今朝も1隻の撃沈に成功したと言う話である。

欧州本土も負けてはいられないのだろう。

欧州は元々、各国の仲があまり良くない。

世界政府とEDFによって統一される前にはEUだかいう連合を組んでいたようだが。これはいつ瓦解してもおかしくない代物だったそうだ。

欧州本土は飛行機で移動中に戦況を見たが、どうやらかなりβ型に苦戦している様子であり。

フランスを中心にEDFを集めて交戦しているようだが、どうも戦況が芳しくない様子だ。

そこで、多少は形勢を改善するためにも、テレポーションシップの撃破を狙っているのだろう。

恐らく佐官ともなると政治的な話も噛んでくる筈で。

ルイ大佐という人も、それを意識しているのかも知れなかった。

ともかく、即座に大型車両にニクス二機と補給車両を積み込み、現地に移動開始する。

思ったより、都会では無いんだなと周囲を見て壱野は思った。

どの国でも、メトロポリスを出るとすぐに田舎というのは珍しくもない。

日本だってそれは同じだ。

フランスもどうやらその辺りは同じらしい。

移動中、軽く荒木軍曹と話をする。

「スプリガンと連携して戦闘したそうだな」

「はい。 優れた実力者でした」

「スプリガンは腕利きだが問題集団として知られていてな。 隊長のジャンヌ中尉は超がつくほどの実力主義者で、部下の素行がどんなでも腕さえ良ければ気にしない。 だから愚連魔女隊とか悪魔小隊とか陰口をたたかれている。 何か不快な事は無かったか」

「三城が軽く部下の一人に絡まれていたようですが、それくらいです」

無線については、壱野も聞いていた。

中国四国地方の大会。フライトユニットを使ったコンテストの優勝者が、EDF入りしていたとは知らなかった。

確かにこの状況がこなければ、全国大会でぶつかっていた可能性が高かっただろう。

バチバチにマークされていたようだし。更に今の時点では敵視もされていた。

ただ。EDFにいっそ入ってしまうという選択肢はありだと思う。

この情勢だ。

アイドルやるよりも、EDF隊員になって自分で選択して納得した上で生きて死にたいと思うのは不思議な事ではないだろう。

ただあの河野という軍曹は、あまりガラがいい人物では無かった。

ああいうのに、三城が悪影響を受けて欲しく無いというのはある。

だが。それは過干渉では無いかとも思う。

中々に難しい所だった。

程なくして、車両が止まる。兵士達が展開する中、壱野達も展開する。

かなりの数の怪物が、人気がなくなった田舎街に貼り付いていた。

どうやらマザーシップに辿りつくまでが、そもそも作戦のようだ。テレポーションシップがいるのもこの先だろう。

いずれにしても、叩き潰す。それだけだ。

もちろん、それまでに被害は出したくない。

武装救急車であるキャリバンもあとから到着する。

これで、一応の軍勢としての形は整ったということだ。

ルイ大佐が、指揮車両であるブラッカーから指示を飛ばす。

「前線指揮を今回は私が取る」

「相当にEDFは本気のようだな……」

荒木軍曹がぼやく。

例え此処にいる人員を捨て石代わりにするとしても、それで最大限の成果を上げるつもりなのだろう。

「荒木少尉。 本部肝いりの君が指揮を執ってまずこの街の怪物を殲滅してほしい。 出来るか?」

「分かりました。 すぐに出向きます」

「うむ……」

本部肝いり、か。

軍曹と呼ばれる事が多い荒木少尉だが。やはり本部の肝いり。

それも相当に重視されているのだろう。

本部の人間と、かなり対等に口を利いているし。

相当な何かがある、と見て良さそうだ。

すぐに壱野の班も声を掛けられる。

ニクス二機が前に出る。ニクスから降りた荒木軍曹が、相馬兵長にニクスを譲った。

「相馬兵長にライセンスをこの間とって貰った。 作戦指揮は俺自身が前線で執りたいのでな」

「おお、戦力強化に余念がないですねえ。 なんなら制御用のPCをチューンして、ニクスのOSも弄りましょうか? 世話になってますし、タダでやるッスよ」

「いや、流石に必要ない。 メンテナンスの手間も掛かるしな。 ただ感謝はする」

「いえいえ」

一華と話した後。

荒木軍曹は、控えている兵士達に言った。

「ニクス二機と我々で前進し、敵の注意を引きつける。 敵が動き次第、歩兵はそのまま前進し、指示が出た地点を攻撃してほしい」

「分かりました!」

「よし、前に出るぞ」

都市にいる怪物達は、時々此方を見ている。

田舎街とは言え、それなりに風情のある街だ。

或いは観光で食べていた場所だったのかも知れない。

もう人は追い出されるか食われてしまって。

テレポーションシップも停泊し、怪物の街となっているが。

欧州は戦線の状態がよろしくないという話だが。間近で見て、それは納得出来た。

特にβ型の跋扈が酷いと聞いているが。

確かにβ型が、相当数街にいる。

ただ、この程度の数なら、どうにでもなる。

街の建物への被害はやむを得ない。

今の時点では、殺気も感じない。

伏兵をする暇も、敵にはなかったのだろう。

マザーシップへの攻撃は警戒していても。

周辺地区はどうでもいい。

プライマーのある程度雑な部分が見え隠れする。

村上流軍学で、色々な兵法は壱野も習った。

だが、それが実戦で使えるものなのかは、こうやって戦場に立って何度も確かめている。

結論としては。

武術としての村上流は、応用がなんぼでも効くが。

軍学としての村上流は、恐らくは基礎的な話しかしておらず。

知っていても参考程度にしかならない、というのが実情だ。

武田信玄を二度も破った村上義清だが。その軍略は本人の才覚に依存する所が大きかったのだろう。好意的に考えてもそう。ましてや実態は、子孫が食べて行くために創設した軍学なのだ。戦闘術以外は、それっぽい話を考えて並べただけだったのだろう。

こくりと、荒木軍曹が頷いたので。

意図を察した壱野が、敵の群れの端の方にいる怪物を撃ち抜く。

同時に少しずつ下がり。

どっと街から押し出してきた怪物を、ニクス二機の砲火が迎え撃った。

しばらくは、さがりながら火力を展開し、敵をじりじりと近づけさせる。

そしてある程度敵の主力が纏まって出てきた所で。

後方に展開していたブラッカーを含む部隊が、一斉に火力投射。

前に出てきていた怪物達を、まとめて薙ぎ払っていた。

爆破が連鎖する中、それでも煙を喰い破って怪物達が前に出てくる。

だが、それらは弐分と三城に任せてある。

即座に対応して、酸を放とうとする個体を潰して行く二人。

ただ、あまりに機敏に動いている事もあって、兵士もフレンドリファイヤを怖れる様子で。

二人が暴れている場所近くでは、砲火が鈍る。

苛烈な攻撃を続け。

敵を順番に削って行くが。

怪物もやられっぱなしでは無い。

「後方に敵!」

「数は」

「およそ150!」

「……街から出た怪物の一部が迂回してきたな。 村上班、後方に回ってくれ。 前面は俺の班とニクスで抑え込む。 時間だけ稼いでくれればそれでいいが、勝てるようなら潰してしまってくれ」

「了解!」

一華のニクスが向きを変えると、ぽんぽんと跳ねながら移動を開始。

それを見て、兵士達が瞠目する。

ニクスが機能としてジャンプやブースターを備えていることは知っていても。

それを実際に使っているのは、初めて見るのかも知れない。

まあ、街から正面に攻撃を仕掛けてきている敵の数は、かなり減ってきている。

そのままなら、すぐに荒木軍曹が支援に来てくれるだろう。

味方本隊を抜けて、後方に。

α型が戦列をつくって攻めこんできている。

後方は火力投射を続けているが。戦列をつくって浸透を狙う敵を通したら、相応の被害が出るだろう。

火力を投射。

全力で敵をたたく。

めぼしい相手は壱野が撃ち抜く。

もうライサンダー2は、すっかり手になじんでいた。

無言で戦闘を続け、敵の浸透を阻みながら様子を見る。

後方での戦車の射撃が終わった様子だ。

敵を抑え込んでいたが。

味方がどっと来て、火力投射に加わり始める。ウィングダイバー隊もいるが、あまり数は多く無い。

すぐに戦力の差が出て、敵を押し包み始めるが。敵は恐れも知らず。最後の一匹まで戦い続けた。

その間に、戦闘の合間を抜けた三城が敵陣を一気に突っ切り。テレポーションシップにプラズマキャノンを叩き込み、撃墜。

もう慣れたものだ。完勝である。

「よし、終わったな。 スカウト、街の中を確認。 味方の損害は」

「負傷者四名のみです」

「負傷者はキャリバンで手当を。 補給を済ませ次第、進軍を開始する」

「緒戦は快勝だな……テレポーションシップをこんなに簡単に落とせるなら、最初の半年は何だったんだか……」

欧州の兵士がぼやく。

現地の人間に話は聞いておきたかったが、まあそうも行かないだろう。

三城と一華には休んで貰って。壱野は弐分を連れて街の中に入る。スカウト班だけでは不安だったからだ。

β型が主に跋扈していただけあって、周囲はさんさんたる有様だった。

人間の残骸らしい酷い襤褸もたまに見かける。

右手だけだが、祈る。

祈るくらいは、されても怒らないだろう。

人間はあまり好きでは無い壱野だが。

こういう光景を見ると、流石に怒りが湧く。

街そのものも、酸を含んだ糸を彼方此方にかけられたからだろう。

襲われた時にやられたのかも知れないが。

遠くからでは分からない事も、近くに来てみると分かる。

彼方此方が酷く傷つけられ。

家などは、バラバラにされているものも多かった。

どうやら、こういう風に破壊行為を行う習性がα型β型、ともにあるらしい。

まず間違いなく意図的にやっているとみて良いだろう。

恐怖を与えるため。或いは家に潜んでいる人間をまとめて殺すため。

いずれにしても、怒りが湧いてくる。

だが、それは抑え込む。

怒りは、敵に叩き付ければいいのだから。

「此方荒木。 壱野、敵の伏兵はいるか」

「いえ、特に。 ただ……」

「何か気になった事があったら遠慮無く言ってくれ」

「はい。 厳しい戦いです。 いざという時の退路や避難路として、この街は確保しておいた方が良いと思います」

そうだなと、荒木軍曹はぼやく。

マザーシップのあの主砲の苛烈さ。

よく覚えているのだろう。

今回だって、見せびらかすように停止しているマザーシップである。

都市のように巨大な浮遊技術を持つあの怪物兵器が、何を目論んでいるか分かったものではない。

とにかく、あらゆる準備は欠かせない。

「工兵部隊は先に入れておく。 スカウトは先に進ませて、様子を窺わせておこう」

「お願いします」

「それでは戻ってくれ。 お前達の敵の殺気だかを観測する技術は信頼出来る」

頷くと、戻る。

弐分が周囲を見回しながら言った。

「許せないな、大兄。 こんな良さそうな街なのに……」

「欧州は血塗られた歴史の土地だ。 この街だって、一見すると良さそうだが、そもそも戦争を想定して作られたから、こんな風になっている」

「それは分かっているが……」

「そうだな。 それでも許せないというのは同意だ。 プライマーという存在が何を目論んでいるのか、早めに確かめて。 確かめた上で、一撃を叩き込まないといけないな」

頷く弐分。

そのまま街を出ると、一旦皆と合流。

既に休憩の指示が出ているのか。

兵士達は交代で休みはじめていた。

周囲の話を聞いておく。

マルセイユ基地が千体の怪物に襲撃されたとき。何とか撃退には成功し。そしてその戦いで生き延びた兵士もいる様子だ。

酸の飛沫を浴びたらしく、顔に凄惨な痣が残っている。

今ではアーマーが改善されているとは言え。

あの様子では、生きているのが不思議なくらいの激戦だったのだろう。

「さっきの手際見たが、流石にやるな。 本部肝いりの部隊なだけあるぜ」

「ああ、そうだな。 彼奴らがマルセイユにいてくれたら、もっと被害は抑えられたかもしれないな」

「……だが、本部の鍛えている精鋭もいくらでもいるわけじゃない。 それに戦友はベストを尽くして死んでいった」

「実は俺はほっとしているんだ」

話している兵士は、俯いていた。

何だか悲しそうだった。

「EDFの武装は明らかに過剰だ。 いずれこれを人間に使わなければならないと思うと、非常に心苦しかった。 エイリアンが攻めてきたことは不愉快だ。 だが、人間に対してこの過剰武装を紛争の時みたいに使わなくても済むと思うと、不謹慎だがほっとしているんだよ」

「そうだな。 今開発されている移動式レールガンなんか、従来のタンクなんか問題にもならない火力だそうだしな。 それを人間に使うかと思うと、ぞっとする話だ」

「だが、不謹慎な話だ」

「そうだな」

湿っぽいと思ったのか。

兵士達は会話を止める。壱野も、同じように皆苦しんでいるんだなと思った。

今は、どこも苦しい。

欧州も大変だが、アフリカのEDFなどは苦戦が特に酷いと聞いている。

この作戦をまず終わらせたら。

アフリカの最前線に出ることを提案しても良いかも知れない。

そう、壱野は思った。

 

1、ついに来たりしもの

 

スカウトが戻ってくる。

ルイ大佐が顔をしかめているのが見えた。大した規模の部隊では無い。大佐の顔は、どうしても見える。

「宇宙人だと!?」

「は、はい。 間違いありません!」

「馬鹿馬鹿しい。 我々の敵はエイリアンだ。 知らないとはいわせん」

「いえ、そうではありません! 宇宙人です!」

どうにも要領を得ないなと一華は思ったが。そのまま話を聞く。というか、スカウトの動揺が酷い。

スカウトについては、五ヶ月間荒木軍曹について一緒に戦いながら、戦闘について教わる過程で話を聞いた。

そもそも単独で身を守る力を持ち、それでいて敵地にも浸透して情報を持ち帰る。

斥候というのは過酷な仕事だ。

EDFのスカウトは優秀な事で知られているらしいが。

それでも、民間人に化けて紛れ込むとか、そういうような事は現状出来ないし。

何よりも、ジープやバイクでも怪物は追いついてくる。

スカウトになる兵士は、軽武装でも戦う覚悟がある精鋭で。

だから皆兵士達は敬意を払うと。

戦場ではスナイパーが嫌われるという話もあるそうだが。

スカウトは問題なく尊敬されるそうだ。

命を賭けて情報を集めてくるのだ。

それは当然の話だろう。

そして怪物を見慣れているはずのスカウトが。こうも怯えきっている。

余程のものをみたのだろう。

「ルイ大佐、かまいませんか」

「ああ、荒木少尉。 醜態を見せたな。 こんな新兵のような……」

「いえ、彼らは余程恐ろしいものを見たのだと思います。 少し俺が代わってもよろしいでしょうか」

「かまわんよ。 何が宇宙人だ……」

荒木軍曹が、青ざめているスカウトの兵士と話し始める。

丁寧で、それで高圧的では無い聞き出し方だ。

「宇宙人といったな。 それは怪物とは別のものだったのだな」

「はい……」

「映像はあるか」

「あるにはありますが、バイザーのものしか」

余程慌てていたのだろう。

ともかく、バイザーの情報を共有させて貰う。

それには、背丈が軽く十メートルを超えている巨大な人影のようなものが映っていた。

ざっと解析してみるが。手足がそれぞれ二本ずつ。

だが、全体的にずんぐりとした人型だ。

不思議な事では無い。

人間は更に大きくなる場合。

生物として無理がない状態で大きくなるなら、ずんぐりとした体型になると聞いたことがある。

ゴリラなどが良い例だ。

人間型のまま大きくなる巨人症という病気もあるのだけれども。

それは内臓などが常人とはあまり変わらないらしく。

とても病気に弱い。

見た目とは裏腹の、とても厄介な病気だという。

「数はどうだった」

「複数がいました。 何か話しているようでした。 どこの国の言葉かすらもわかりませんでしたが」

「……戦略情報部に確認します。 それに今のうちに情報を届けた方が良いでしょう」

「そうだな……」

ルイ大佐は不愉快そうだが、仕方が無い。

宇宙人か。

もしもそれがプライマーなのだとすると、怒りをぶつける好機だが。

ただ、あの巨大な怪物を使役する存在だ。

怪物と同じように。

巨大な姿をしていても、おかしくはなかった。

「此方荒木。 戦略情報部、データを届けたい」

「荒木少尉、此方戦略情報部の少佐です。 データを受領しました。 宇宙人の噂は、実は少し前から流れてきています」

「出来れば早めに共有してほしかった」

「アフリカでの目撃報告で、苦戦の中兵士が目撃した程度でしたので、信憑性が薄かったのです」

というと、最激戦区ではもう目撃されていると言う事か。

いずれにしても、荒木軍曹は渋面を作っていた。

「もしも怪物の統率をしている宇宙人が来ているなら戦闘になる可能性もあるし、あるいは逆に交渉を持ちかける好機かも知れない。 もう少し情報が欲しい」

「現在では有用な情報は入っていません。 ただ、それらしきものと交戦した部隊が壊滅した例が数件程度です。 いずれも劣悪な装備の部隊で、正直なんの参考にもなりません」

「そうか、分かった」

通信を切る荒木軍曹。

相当苛ついているようだった。

確かに戦略情報部の冷徹さは、壱野から見ても明らかだ。

そして何となく理解出来た。

恐らく敵が打ってくる次の手の一つがこの「宇宙人」かも知れないと判断し。

生還してデータをもってこさせるために、この班を出したのだと。

「ルイ大佐、最大限の警戒を。 相手はマザーシップで、更に宇宙人と思われるアンノウンがいるとなると、早期の撤退判断も必要になるかと」

「分かっている。 いずれにしても、前進を開始するぞ。 この街を抜いたことで、敵の防衛網には穴が開いている。 他の場所でも、幾つかの部隊が陽動で戦闘を行っている最中だ。 彼らの奮闘を無駄にはできん」

「その通りです。 では、急ぎましょう」

「ああ、そうしよう。 総員、前進を開始する!」

さて、鬼が出るか蛇が出るか。

一華としても、宇宙人には興味がある。

それにしても、巨大な人型か。

なんだか、いにしえの神々のようだなと。一華はちょっとだけ思った。

進軍を続ける。

空軍の支援は、この辺りになるともう期待出来ない。

マザーシップが見え始めていた。

作戦開始前に、飛行機内で聞かされている。

彼奴はマザーシップナンバーナイン。

9番目の番号を割り振られた機体である。一応、EDFでもマザーシップの動向は24時間態勢で監視しているらしく。

十機全ては、常に何処にいるか把握しているそうだ。

ドローンが多数。

ただ。それほどの数には見えない。

せいぜい数百機。

この戦力でも相手に出来る数だ。

「まずはドローンを蹴散らす。 地上兵力は」

「確認しました。 α型が二百程度」

「ふん、好機だな。 で、宇宙人とやらは」

「現時点では見当たりません」

やれると判断したらしい。

ルイ大佐が指示を出す。

「よし、セオリー通りに行く。 狙撃の達人がいたな。 ドローンを釣り出してくれ。 それを撃破しつつ、相手の様子を見る」

「分かりました。 壱野、頼むぞ」

「はい」

壱野がノータイムで、一番外側を飛行していたドローンを一射確殺する。

おお、と声が上がった。

兵士達が備える中、多数のドローンが飛んでくるが。

既に兵士達のアーマーは対レーザーで相当強化されている。兵士達は以前のように怖れず、整然と迎え撃つ。

補給用のトラックやキャリバンはすぐ後ろに控えている。

今の時点で、補給の心配は無い。

二機のニクスと、兵士達の整然とした射撃で。人間を捕捉して襲いかかってきたドローンの群れが、次々と落とされていく。

ルイ大佐は流石に指揮車両に引っ込んだが。

恐らく、EDFにてブラッカーの射撃システムに手も入れているのだろう。

そのまま斜角が低い状態でも狙えるドローンは、戦車砲が火を噴いて叩き落としている。

これについても、戦闘経験を五ヶ月積んで来た結果だ。

最初の一群を撃破するまで、さほど時間も掛からない。

前進、とルイ大佐が声を張り上げる。

かなり目減りしたドローンを、マザーシップが補充する前に進むと言う事なのだろう。

α型が此方に気付いて、どっと来るが。

大した数では無い。

それに村上三兄弟が反応している様子は無い。

今のところでは、悪意は周囲にはないということか。

何だか罠の臭いがぷんぷんするんだが。

今は気にしていても仕方が無いか。

ともかく前線に出る。

ニクスで、兵士達の盾になりながら機銃をぶっ放し、α型を掃討する。

弐分と三城が前線で暴れているが。他にもフェンサーやウィングダイバーが相応の数いて。

それぞれがしっかり敵の攪乱と、味方の防御をこなしている。

フェンサーは今回、大口径砲を装備している者が多いらしく。

盾とこれを組み合わせることで、敵の攻撃を防ぎつつ、対空戦闘も対地戦闘も可能となる。

あわよくば、下からマザーシップに一撃を与えられるかも知れない。

それ故の装備だろう。

だが、マザーシップに近付けば近付くほど。

兵士達の士気が落ちていくのが、一華には分かった。

「でかすぎる……!」

「街くらいもあるぞ! あんなもの、勝てる訳がない! 技術のレベルが違い過ぎるんだ!」

「勇敢さでは我々が上だ! 戦場では、技術だけで勝負が決まらないことを見せてやれ!」

ルイ大佐が気炎を吐く。

やれやれと一華は思った。

梟みたいなものは頭に載せている。そいつはぴくりともしないし。何よりも重さが適切で、据わりがいい。

戦略情報部が何を考えてこれを贈ってきたのかは分からないが。

ともかく、デザインは可愛いし。

個人的には一華も気に入っていた。

ただ。頭を掻きたくなった。

そうすると、ちゃんと飛んで頭から離れてくれる。

その辺り、とても賢いようである。

「確かに、技術レベル差をひっくり返して勝った戦いも歴史上たくさんあるんですけどねえ。 大半の戦いは、技術レベル差が違いすぎると戦闘にすらならないんスよ」

「……」

「あんたに愚痴っても仕方が無かったッスね。 とりあえず掃討、と」

機銃が止まる。

周囲に生きているα型はいなくなった。

弐分に声を掛けて、一緒にニクスの補給をする。

ドローンの攻撃でレーザーを多少喰らっていたが、まだまだ装甲の方は大丈夫だ。これに対して、弾はどんどん使う。

ニクスの機銃は有用だなと、一華は思う。

正直な話、これを車なり無限軌道の車体なりに搭載するだけでも、凄く強い兵器が作れるのではないかと思う。

更に言えば、その兵器はニクスと違って歩行システムを必要としないから、ぐっと安く上がる筈だ。

EDFでそんな兵器を量産出来れば、かなり状況は変わりそうだなと思う。

今、一華の方でも足りない兵器については頭の中で考えてリストアップしているので。いずれ戦略情報部に送りたい所だ。

戦略情報部は最初一華を欲しがっていた。

戦場で活躍出来ているから、一華をそのままにしているが。

データを贈れば見てくれるかも知れない。

そのまま、相馬兵長のニクスの補給も行う。

こっちもダメージは軽微。

ただ、無駄弾を多少出しているようだった。

相馬兵長は寡黙だが、今日は機嫌が悪そうだった。一華も少し眉をひそめる。

「兵士達が怯えきっている。 何かあったら総崩れになりかねない」

「仕方ないッスよ。 空にあんなものが浮かんでいたら、それは誰だって」

「いざという時は我々とフェンサーが殿軍だ。 頼むぞ」

「……」

寡黙な相馬兵長がよく喋る。

と言う事は、相当に厳しい戦いになると判断しているのだろう。

それは一華も同じだ。

街に入る。

街のど真ん中の空にマザーシップは浮いている。ドローンは既に排除。周囲にいるα型の残党も、もうほぼ排除し終えた。

「よし、対空攻撃準備! 奴に座薬をぶち込んでやれ!」

「……ルイ大佐! 後方から何かきました!」

荒木軍曹が言う。

兵士達も、明らかに怯んだ。

それは、半透明の飛行体で。円筒形のシリンダを三つ並べて二列にし、六つつなげて、全体的に長方形に四角くまとめたようなものだった。

そして半透明だから見えるのだ。

それにナニカが載せられていると。

緑色の体色をしたそれは、人間型をしていた。

人間よりも、ずっとずんぐりとしていたが。

「あ、あれはなんだ!」

「攻撃開始!」

「……荒木軍曹、リーダー。 戦闘データ、とっておくッスよ」

「頼む」

荒木軍曹はそういい、壱野はこくりと頷いた。

そして、スナイパーライフルやロケットランチャーで攻撃を開始する。戦車砲も火を噴く。

次々着弾。

半透明の飛行体は、それほど速度がない。

着弾はする。

だが、黄金の装甲で守られたテレポーションシップ同様、まるで攻撃を受けつける様子が無かった。

「あ、あれが宇宙人か!?」

「……」

ルイ大佐が黙り込んでいる。

空を飛んでいるときは距離感の問題があったが。

今、至近距離で浮かんでいるそれは、明らかに凄まじい威容を周囲に見せつけていたからである。

六人乗りの輸送船か輸送艇という所か。

だが、文字通り詰め込まれている、という感触だ。

半透明だから、映像も見える。

武器のようなものを手にしている。それに、通信機らしいものを頭部と思われる場所につけている。

ニクスのカメラから映像を可能な限り取り込む。

前方に三隻の輸送船が停泊。

内部には十八体か。

背丈十メートル以上で、武器を持った人間型。

人型兵器は弱い、という話は。ニクスの登場で過去の話題となった。ニクスはそれだけ各地で戦果を上げてきているからだ。

ましてやエイリアンの作る人型だとすると。

それが生身だろうが、サイボーグだろうが、弱いとはとても思えない。

「降りて来たあっ!」

兵士の一人が叫ぶ。

文字通り、輸送艇らしいものの下部が開いて。

人型が投下される。

それは街の中に降り立つと。

明らかに言語と認識出来る声を張り上げて。ずんぐりとした緑色の体で、銃を持ち。攻撃隊に襲いかかってきた。

 

周囲は阿鼻叫喚だ。

降りて来た巨大な人型は、容赦なく手にした銃を撃ち始めた。それはアサルトライフルのように見えたが。

何しろ十メートル以上背丈がある怪物の手にあるアサルトライフルだ。

撃ってきているのは光の球のようだが、これがレーザーかプラズマか。

いずれにしても、ブラッカーが短時間で大ダメージを受けていくのが一目で分かった。

衝撃から即座に立ち直った三城は、中空に躍りかかると、まず前線に。同時に、小兄も動いていた。

大兄の狙撃が、エイリアンの一体の頭に直撃。片目を潰す。

そう、巨大な口の上には、小さな鼻と。巨大な目がある。目はかなり離れていて、人間とはあまり形状が似ていないが。

どうやら、穴だけではあるが、耳もあるようだった。

更に一撃。大兄の狙撃が口に飛び込み、それが致命打になったのだろう。エイリアンが後ろに倒れる。

それを機に、兵士達も次々倒されながらも反撃を開始。散ってそれぞれが狙われないようにしながら、反撃を始める。

ブラッカーが一両、爆散。

どれを最初に狙うか、あの巨大な人型は決めている様子だ。

ブラッカーが後退しながら射撃し、更にニクスが前に出て壁になるが、火力でもニクスに負けていない。他のブラッカーも次々にやられる。

まずい。

とんでもない怪物だ。

ダッシュを駆使して、敵の狙いから身をそらし続けるが、どうしても弾が擦る。

見ると、相手のもっているアサルトライフルに似た武器は、オートエイム機能がついているようである。

オートエイムがついているアサルトライフルなんて、地球人にしてみればビックリ仰天の代物。

着地と同時に飛ぶ。

一瞬、着地した地面が、苛烈に抉られていた。

すぐに弾が迫ってくる中、無言でそのまま、頭にランスの熱量を叩き込んでやる。

頭が半分潰れるようにして、エイリアンが死ぬ。

頭を潰せば死ぬのか。

だが、その近くで。

小兄が、嘘だろとぼやいていた。

小兄は左右に苛烈に動きながら距離を詰め、スピアで見事にエイリアンの左足を吹き飛ばしたのだが。

左足が、見る間に再生していくのが見えた。

見たくなかった。

それだけじゃない。

続いて、武器を持っている右手も叩き落としたが。それも普通にすぐにはえてくる。勿論ノータイムではないし。傷を受けるとそれなりに体力を使うようだが。あの再生速度は異常だ。

「あれはエイリアンの地上部隊だ! ついにエイリアンが地球に降りて来たんだ!」

「落ち着け! 相手は地上に来たばかりだ! 市街戦には此方に分がある! 分隊単位で別れて、建物を利用して相手の射線を切れ! 背後に回り込んで叩け! 連携戦闘の基礎を思い出せ!」

「て、敵がおとりに動いています! じゅ、十字砲火です!」

「何っ! ぎゃああっ!」

ルイ大佐の叱責も、彼方此方から聞こえる悲鳴の前に意味がない。

目の前にいた一匹を更に仕留める。

頭を吹き飛ばせば一撃だが、確実に他の個体が狙って来る。

彼方此方から殺意が向けられるから、ひやひやのし通しだ。

これは接近戦は、避けるべきかも知れない。

「三城、遠距離戦に切り替えろ。 俺が一匹ずつ処理する。 弐分はそのまま、盾と相談しながら格闘戦を続けろ」

「分かった」

建物の屋根を蹴って跳躍すると、乱射される光弾をかろうじて避けながら、建物の影に。

コンクリの壁を、光弾がゴリゴリ抉るのが聞こえて生きた心地がしないが。それでも、戦車砲ほどの火力はないようだ。弾の一発一発は。

だが、周囲から聞こえるのは相変わらず阿鼻叫喚。

「此方相馬兵長、ニクスがもたない!」

「放棄しろ! 後退する! 一旦射線からさがって好機を待て!」

「くそっ!」

荒木軍曹が後退指示を出すと、兵士達がもはや我先に逃げ出す。相馬兵長も、ニクスから飛び出すと逃げ出す。ニクスが爆散。大きさが大きさとはいえ、何という火力の武器か。

それを見て、ルイ大佐も流石に決定的な不利を悟ったのだろう。指揮車両ブラッカーを後退させようとするが。

恐らくそれを待っていたのだ。

エイリアン達が、一斉に指揮車両ブラッカーに攻撃を浴びせていた。

履帯をやられた。

擱座した指揮車両に、数体のエイリアンが迫る。

その一体の頭を、横に回り込んだ大兄が撃ち抜く。やはり当たり所次第では一撃か。

いや、そもそも艦砲並みの火力のライサンダー2の一撃に、当たり所次第で耐えるのがおかしいのだが。

既に戦闘が開始された広間は死屍累々。

呻いて倒れている負傷者にも、エイリアンは容赦なくとどめを刺している。

それだけじゃあない。エイリアンが犠牲を出しつつも肉薄し指揮車両を数体が囲むと。ガア、ガアと勝ち誇ったような声を上げた。

此奴を助けに来て見ろ、

すぐに蜂の巣にしてやる。

そんな風な悪意が感じ取れる。

敵は数を少しずつ減らしているが、それを気にしている様子も無い。

小兄が一体を屠る。味方も大きな被害を出しつつ、どうにか敵を減らしてはいるが。敵は明らかに市街戦を知っている。

「くそっ! 背後に回られた!」

「カバーする!」

「此奴ら、ゲリラかそれ以上に市街戦をしってやがる! 軍事教練を受けた兵士だ!」

「怪物も戦術を知っていたが、それ以上に高度な戦闘をするエイリアンか! 畜生っ!」

一華のニクスも煙を噴き始めている。だが、遠くで見ている補給トラックは近づけない。

だが、一華はコツを掴んだらしい。

ニクスはさがりながら、確実に一体ずつ仕留めていく。とにかく、射線が集中しないように立ち回っている様子は。

一度覚えた事は忘れない、頭の良さを思い知らされる。

大兄が、また別の方向からエイリアンを狙撃。頭を吹き飛ばす。

頭に来たのか、エイリアンの残りがまとめて大兄の方に向かうようだが。

その瞬間、躍り出た三城はエイリアンの足を電撃銃で焼き飛ばす。

転んだエイリアンの顔面を、一華のニクスの機銃が、一瞬で蜂の巣にした。エイリアンはその場から動かなくなる。

「よしっ! 敵が釣られた! それぞれ総攻撃を……」

荒木軍曹が声を張り上げ、建物に隠れていた全員が、動き始めたエイリアンを一斉射撃し始めるが。

しかし、その瞬間。

業を煮やしたらしいエイリアンが。

ルイ大佐の乗っていた指揮車両に、至近弾を叩き込み、爆破していた。

「ルイ大佐っ!」

あれでは、助かる筈も無い。

エイリアン達が、勝利の咆哮を上げようとするが。それを大兄が頭を吹き飛ばして阻止する。

更に三城も、一体の足を吹き飛ばし。反撃に出ようとした其奴の頭を小兄が吹き飛ばしていた。

それに、出て来た数体が荒木軍曹の指示で集中攻撃を受け、確実に倒されていき。

ほどなく、動くエイリアンはいなくなった。

「地上に降りたエイリアンを掃討……」

「ま、また空にいるぞ!」

「此方欧州フランス方面軍司令官、バルカ中将。 ルイ大佐の戦死を受けて代理で指揮を執る。 総員撤退せよ!」

空に、輸送艇が見える。

エイリアンの強さを知った兵士達が、もはや我先と逃げ出す。

三城は、まだ生きている兵士の反応を確認。急いで荒木軍曹に伝える。

エイリアンの輸送船は確実に迫ってきている。全員が最速で動かないと助けられない。

「助けられるか!?」

「最速で動けばなんとか!」

「よし、村上班やってくれ! 対応は任せる!」

頷くと、三人で動く。同時に、大兄が、一華にキャリバンの移動ルートを伝えた。

生きている兵士の所に飛ぶ。

三人別々に。

輸送トラックとキャリバンをそれぞれ一華には遠隔で動かして貰う。

弾薬が尽きて囲まれたら終わりだ。

キャリバンには医療スタッフも乗っている。

殺させるわけにはいかない。

キャリバンが遠隔操作で来る。

負傷者の側に降り立つと、手を振る。キャリバンが走り来て、後方を開き。医療要員が手慣れた様子で負傷者を収容。小兄も大兄も同じく負傷者を見つけて手を振る。そうやって五人を救助。そして、先に逃げている一華を追って、キャリバンを守りながらエイリアンも人間も死屍累々となっている広間を抜ける。

エイリアンの輸送船はその間も飛んでいて。

先に倍、いや三倍する数が、此方を包囲するように動いている。そこで、キャリバンは敢えて速度を落とさせ、全速力でバックさせ。以降は運転手に大兄が全力でルートを指示して離脱させた。

荒木軍曹達の所に追いつく。

だが、その時には。

既に完璧な包囲網を整えたエイリアン達が、周囲に降り立っていた。

だが、迷路のような街の一角に逃げ込んだこともある。

それに、先陣があっさり全滅したということもあるのだろう。

エイリアン達はガアガアと鳴き声を上げて、此方を威嚇はしているが。それでも、すぐに仕掛けては来ず。

それどころか、迷路のような町並みの中で。

包囲は出来たものの、此方の位置は見失ったようだった。

ニクスに追いつく。

補給トラックは元々無人で動かしていたし。

先回りして、皆の集結地点についていた。

へたり込んでいるもの。

泣いているものも多い。

生き残りは三分の一もいるかどうか。

三分の一がやられれば普通全滅判定である。これは荒木軍曹と五ヶ月一緒に戦う間に教わった。

それなのに損害は三分の二である。

文字通りの全滅だ。

データが戦略情報部に届いてはいるだろうが。

それだけだった。

バルカ中将という人も、それから通信を寄越していない。

恐らくエイリアンに通信を傍受されることを怖れたのだろうとは思うが。

空にはマザーシップ、周囲には背丈十メートルを超え武装したエイリアンの群れ。

文字通り、絶体絶命だった。

 

2、包囲網突破

 

荒木軍曹が、雑多に生き残った兵士達を集める。

フェンサーの損害が特に酷い。元々フェンサーは、弐分のような例外を除くと其処まで機敏に動けず。

銃火器を使って、敵と火力でやりあう事を重視するし。

何よりもこう言うときは盾になって味方の損害を減らす。

生きているのは弐分を除いて二人だけ。

また、ウィングダイバー隊も壊滅状態。

生きているのは三城を除いて四人だけだった。

残りは皆レンジャーだが。

全員が、例外なく真っ青になっていた。

「それぞれ補給を済ませろ。 負傷している者は、どんな小さな傷でも良い。 しっかり手当をしておけ。 排泄がしたいものは、近くにある無人になっている民家のトイレを利用しろ」

「相変わらず軍曹はこんな時も冷静だな……」

「……」

小田兵長の減らず口もあまりキレがない。

今、ここにある戦力は、一個小隊にまで削られ。しかも士気が折れている兵士達。

それに壊れかけの一華のコンバットフレームニクスのみ。

幸い武装は補給トラックから補給できる。

だが、ニクスの装甲は応急処置しか出来ないし。

あの数のエイリアンに集中攻撃されたら、相馬兵長の乗っていたニクスのように、容赦なく破壊されてしまうだろう。

率先して食事を始める大兄。

それを見て、他の兵士もレーションを食べ始める。

迷路みたいな場所だが。そもそもコンバットフレームはニクス型より前から、市街地でのゲリラ掃討での被害を減らすために作り出されたという話である。

確かに様々な紛争で、20世紀でも大国が大きな被害を出すというのはいつもの事だったし。

それらを払底するには、多少の火器ではびくともしない上。

取り回しが効く兵器が必要だったのは事実なのだろう。

それが結果として、エイリアンの猛攻でも何とか生き残る兵器になったのだから、不思議な話だ。

見ていると、三城は補給トラックからクラゲみたいなのを取りだしてほっとしている様子だ。

なんだか気に入ったらしく、時々持ち歩いているのを見かける。

一華に至っては、同じく届いた梟みたいなのをニクスの中で頭に載せているようだし。

二人とも気に入っているようで何よりだ。

気が立っている兵士もいるようだが。

流石にこの状況で、苛立ちを周囲にぶつけることはしていなかった。

騒げばエイリアンに見つかるだけだ。

食事を済ませた後。

ようやく荒木軍曹が話を始める。

そういえば、軍曹と呼んでくれと言われているが。

どうして軍曹で良いのかは、結局五ヶ月の間聞かされなかった。

今ではもう少尉どのなのに。

「よし、そろそろ皆覚悟が出来ただろう。 皆、聞いてほしい。 まずエイリアンについて俺が先の戦闘で分析したことを話す」

荒木軍曹は、相馬兵長のニクスを犠牲にしながらも、きちんと見るものは見ていたということである。

更に、一華の記録したデータも、さきの休憩中に見ていた。

それで分析を終えたのだろう。

「奴らは明確な知能を持ち、少なくともゲリラ戦に習熟した正規兵並みの訓練も受けている兵士だ。 だが、俺たちと同じ欠点もあった。 それは目で見て、耳で聞くと言う事だ」

「確かに、それはそうだ」

「俺もみた。 でかい目玉で、こっちを見て、射撃してきていた」

「そうだ。 奴らは目を使って此方を見ている。 そして耳で此方の動きや兵器の音を聞いている。 それは俺たちとなんら変わりは無い。 データを見る限り、むしろ目はそこまで良くない様子だ。 村上弐分軍曹の動きはみていたと思うが、明らかに視線が追い切れていなかった」

弐分の方を、兵士達が一斉に見る。

いきなり話題に出されてちょっと困ったが。

だが、それで兵士達の恐怖が紛れるなら。

「続いて奴らの体についてだ。 何しろ奴らは巨大で、しかも驚異的な再生能力を有しているようだ」

「ああ、俺もみた。 千切れた手足があっと言う間に再生したな」

「その通りだ。 だが、頭をやれば死ぬ。 胴体に関しても同じだ。 戦車砲の直撃を受けても死ななかったが、それでも数発くらったら死んでいた。 まずは手足を狙い、動きが止まった所を胴体……腕に自信があるなら頭を集中攻撃しろ。 それで殺せる」

「一利あるかも知れない」

生き残っていた別部隊の軍曹の一人がぼやく。

開戦時におけるフランスのマルセイユ基地の襲撃を生き延びた兵士の一人らしいと、進軍中に聞いた。

「その他は、都市ゲリラとの戦闘と同じだ。 連中は軍事教練を受けたプロだが、此方も同じく軍事教練を受けたプロだ。 特に俺たちの中には、手練れの中の手練れが四人いる」

そういって、荒木軍曹は大兄、弐分、三城。それに一華を見た。

一華は手練れと言うよりも作ったものが凄いような気がするが。

まあ、ニクスの恐るべき集弾率や、他と違う機動力は他の兵士達も見ていただろう。

少しずつ、確実に希望を作っていく。

そして精神をやられかけて敗残兵になってしまった兵士を。

荒木軍曹は、プロの軍人達に戻していく。

「敵は迷路同然の場所に逃げ込んだ此方を追い切れていない。 一体ずつ確実に始末し、退路を確保するぞ。 その後、防衛線に開けた穴を利用し、離脱する」

「分かった……一利あるかも知れない。 やってみる価値はある」

「このまま味方の救援を待っても、助けが来る可能性は低いと思います。 その賭けに乗ります」

生き残った兵士達が口々に言う。

荒木軍曹は、本当に肝いりで。

将来のEDFを背負う人として教育を受けたんだなと。何度も弐分は感心していた。

相馬兵長が戻ってくる。

スカウトのような事をしていた様子である。

「荒木少尉」

「どうだった」

「はい。 一時五十体を超えていたエイリアンですが、三十体以上が再びあの輸送艇に乗って移動を開始。 欧州の各地に散って行ったようです。 つまり、最初に出現した数と同程度が、街に残っているのみです」

「……俺たちにとっては朗報だが」

「はい。 恐らく敵は、あのエイリアンを本格運用してくるということでしょう」

「生き残らなければならない理由がまた一つ出来たな。 早めに彼奴らの脅威をデータとして持ち帰らないと、多くの仲間がやられるぞ」

攻勢に出たとは言え。

ただでさえ、今までの損耗が大きかったのだ。

此処に来て、あれほど強大な敵の出現。

下手な兵器が出てくるよりも、余程兵士達へのダメージは大きいはずである。

しかも、生身で戦車砲に耐える事は今までの怪物と同じだ。

怪物向けに作られた徹甲弾に耐えたのだ。

怪物よりも更に高度な戦術を駆使してくる事といい。

今までに無い脅威。

恐らく、人類が遭遇した、史上最悪の脅威と判断してかまわないだろう。

「よし、脱出作戦を開始する。 村上班、お前達は火力を担当してくれ。 誘引した敵を確実に仕留めていってほしい」

「了解しました」

大兄が敬礼する。

大兄の狙撃が、何体ものエイリアンを倒していたのを、周囲の兵士達も見ている筈である。

恐らく、それで安心感を与えられるだろう。

「だが、村上班、それに俺たち荒木班の支援だけでもあのエイリアンを倒し切れる事は無いだろう。 皆も集中攻撃を心がけてくれ。 よし、危険だが、一体ずつ敵を奇襲して屠り、退路を開く。 可能な限りこの街に残ったエイリアンを駆除するぞ」

「分かりました!」

「……空を」

三城がいう。

マザーシップ9が、空に消えていく。

此処にもう用は無い、という雰囲気である。

人間に恐怖を叩き込んだから、十分というわけだ。

いや、これ以上のリスクを冒す必要はないという意味もあるのか。

やはり、人間に下部への接近を許すのを出来るだけ避けているのか。

ちょっと、その辺りは分からない。

いずれにしても、荒木軍曹の指示通りやるだけだ。

補給も済んでいる。

盾も新しいのに換えた。

スピアはかなりあっている、と思うが。

実の所、刀や薙刀を使いたいと思っている。

フェンサーらしく、長大なのを使える筈だ。

別に槍が使えないわけではない。選択肢として入れておきたいのだけれども。

今の時点では、これで我慢するしかない。

すぐに全員が動き出す。

大兄は、少し背が高いビルに上がって、其処から双眼鏡で敵を覗く。

敵の配置は、他の兵士達も集めてくる。

それを一華のニクスに積んでいるPCに集約していく。

「北側に孤立している集団がいますね」

「それは罠だ」

大兄が即答。

何でも、それを狙うと他の部隊から囲まれると言う。

荒木軍曹は、データを見た後に、同意した。

「そうだな。 その部隊に攻撃して殲滅している間に、周囲から袋だたきにされるのが落ちだろう」

「ふむ、ではどの地点を狙いますか」

「西の部隊がいいだろう」

一見すると、南に部隊が近いのだが。

その部隊は、かなり入り組んだ路地を通ってこないといけない。

奇襲を仕掛けて全滅させ、後退すれば到着する頃には既に戦闘は終わっている。

他にも部隊は散っているが。

正直エイリアンの感覚器官は人類ほど鋭くない様子である。

ただ通信装置はつけている。

エイリアンがどれくらいの高度な言語を使っているかは分からないが。

気になる事はある。

背中とかに、かなりの数、機械のようなものが埋め込まれているように見えるのである。

あれはひょっとすると。

洗脳とかをされているのではないのか。

そういえば、戦術的な行動は取っていたが。

恐怖を感じている様子は無かった。

もしも文明とかを構築するほどの知能を持つに至ったエイリアンだったら、恐怖などの感情が生きるために必要なものである事は理解している筈。

それが洗脳を受けていると言う事は。

いや、まだそう確定した訳では無い。

ともかく今は、幾つかに別れた敵部隊を各個撃破していく。

それに集中する。

大兄が少し後方からついてきてくれている。

それだけで、相当な安心感がある。

三城とともに最前衛を務める。

補給トラックはもとの位置に待機。

兵士達も、それぞれ狭い路地を通りながら、移動を開始。

荒木軍曹の指示は的確で。

誰も困ることなく、素早く動き始めていた。

いた。

四体のエイリアンが、大きめの路地を移動している。

巡回するように周囲を見張っていて、互いにカバーしているようだが。

それなりに大きな街だ。

五十体がそのまま残っていたらどうにもならなかったが。もう此処での作戦は充分と判断したのだろう。

それが命取りだと教えてやる。

「総員、配置につきました」

「よし、先頭の一体は壱野、お前に任せる」

「了解しました」

「俺たちで二体目。 後ろの二体は皆で集中攻撃して仕留めろ。 いいか、反撃を受けたら即座に建物に隠れろ。 皆で皆をカバーし合うんだ」

GO。

指示が出た瞬間、大兄の狙撃が。先頭を歩いていたエイリアンの頭を横殴りに吹っ飛ばしていた。

頬から入って、脳天を抜けた感じだ。

片目を潰したときに、大兄は学習したのだろう。脳をやらない限り頭を潰したとはいえず、倒せないことがあると。

流石だなと思いながら、そのまま飛び出す。

荒木班が、二体目に同時に猛攻を仕掛ける。三人はスナイパーライフル、小田兵長はロケットランチャーを叩き込み。まず先ほど話をしたように足から。倒れた瞬間に、胴に集中攻撃をしている。

更に三体目には、下から弐分が。上から三城が襲いかかる。

三城を撃とうとしたエイリアンの腕を吹き飛ばし。

動きが止まった瞬間、三城が頭を焼き切る。

四体目は、三十人近くの猛攻を喰らって、一瞬で肉塊になった。

「よし、後退! 他の敵部隊が来る前に距離を取れ!」

先とは、状況が違う。

敵はどうやら味方がやられたことに気づいたようで、走り寄ってくるが。

倒された味方を見て、通信機に手をやった瞬間。

其奴の頭を大兄が消し飛ばし。

残り三体に、全員で襲いかかる。

周囲を見回している間に、ウィングダイバーのマグブラスターやフェンサーの大口径砲が直撃し。

更に荒木班の的確な攻撃が四肢を消し飛ばし。

エイリアンは仲間の後を追って地獄に落ちた。

「人間にそっくりだ。 手が震える……」

ぐちゃぐちゃの肉塊になったエイリアンを見ながら兵士がそうぼやく。

確かに、このエイリアンは。人間とは形状がだいぶ違うのに。なんだか人間に近しいと感じさせる。

一華が通信を入れてきた。

「一部隊、南から来ているッスよ。 ただ。 其奴らにもう一部隊後続がついているッスね」

「よし、此処での戦闘はここまでだ。 一度距離を取り、敵の配置を確認し直す」

「イエッサ!」

今、一華に出て貰わなかったのは。狭い路地からの攻撃で敵を主に仕留めた、というのがある。

コンバットフレームが市街戦用に作られたとは言え。

ここまで狭い路地には流石に入れない。

それに、いくら何でも跳躍したりすれば、敵全員に見つかる。

ニクスの火力はこの場で最強だし。

何より短時間ならエイリアンの火器にも耐えられるが。

此処では切り札として使わなければならない。

何より、増援が出てこない保証はないのだ。

先にいった三十体だかのエイリアンが戻ってくれば、完全に勝機は失われる。

一度、補給トラックの所まで戻り、補給を済ませる。

その間、相馬兵長がまたスカウトに行ってきた。

この様子だと、この人はスカウト出身なのかもしれない。

精鋭が多いと言うし。

肝いりの荒木軍曹の部下として、相応の経歴なのかも知れなかった。

「敵が配置換えをしています」

「確認させてくれ」

情報を弐分も共有する。

今、八体を仕留め、敵は残り十体になったが。

エイリアンは三体ずつの部隊が二つ。四体の部隊が一つに再編成をすぐにすませ。

街の南側に展開している。

大通りに全部の部隊が展開し。攻撃を受けたら即座に相互補完できる配置に切り替えた様子だ。

一方向を露骨に開けているが。

その場合、そちらから逃げ出したら、追撃をかけてくると見ていい。

しかも、大通りから街の北側を一望できる。

これは、かなり基礎的な作戦の一つ。

退路を開けておいて。敵の撤退を誘い。

徹底的に追撃戦を行う構えだ。

殲滅は出来ないかも知れないが、大きな打撃を与える事が出来る。

本当に軍事訓練を受けているんだなと、弐分は感心した。

「切り替えが早い奴らだ。 ……それに何というか、戦術シミュレーターとでも戦っているような雰囲気だな」

「それでどう攻めますか、軍曹」

浅利兵長が聞く。

こういう場合は、一番感性が普通の兵士に近い浅利兵長が話を聞くべきだと思ったのだろう。

ムードメーカーの小田兵長。周囲と認識が近い浅利兵長。寡黙でいざという時に真理を突く相馬兵長。

荒木班は、こうして役割分担をしているというわけだ。

「敵はこう巡回しているんだな」

「はい。 此方から、東西に」

「ならば、ニクスを出す。 一華、いけるか」

「オッケーッスよ。 ただ、最初の三体は集中攻撃で仕留めたとして、七体ぶんの攻撃を受け続けると、今の装甲だとあまり長くは保たないッスね」

そう。やるならば。

敵が伸びきったことを利用し。一部隊を今までのように瞬殺。押し寄せてくる七体を、ニクスをおとりに他の部隊で集中攻撃し、可能な限りの速度で削りきる。

これしかない。

納得が行く作戦だ。

すぐに他の兵士達にもその話がされる。

皆、路地裏に分散して潜む。これは可能な限り、殺到してきた七体を一気に仕留めるためである。

敵が動くのとあわせて、此方も動く。

そして、配置につくと同時に。

まずはニクスが堂々と大通りに姿を見せる。エイリアンも即応し、射撃しようとするが。

大兄が一体の頭を消し飛ばし。

残りの二体には、頭上から三城が襲いかかって頭を焼き切り。更には至近に接近した弐分が、胴にゼロ距離から大口径砲を叩き込み。

ふらついたところを、ニクスの機銃が頭を吹っ飛ばした。

すぐに弐分と三城は、大通りを突っ切って向こう側に抜けるが。

その最中にも、かなりの巨大な光の弾が飛んできて、冷や冷やさせられた。

一華のニクスは、話通り長くはもたない。

射撃をしてエイリアンに対抗しているが。

七体のエイリアンは、隊列を綺麗に組んで間合いを把握した上で射撃しつつ接近して来る。

だが、そのマニュアル通りの動きが命取りだ。

最後尾を荒木班が強襲。

仕留めた瞬間、敵が振り返ろうとしたが。

その時には勝負はついていた。

残る五体に、生き残った兵士が一斉に仕掛け、手足をもぐ。

後は接近したニクスが猛射を浴びせ。

更に大兄が頭を狙撃して吹き飛ばし。

エイリアンが手足を再生した頃には、既に半数が集中攻撃で死に。

残りも、ニクスの機銃が容赦なく穴だらけにしていた。

荒木軍曹が、即座に通信を入れる。

「よし、掃討完了だ! 此方マザーシップナンバー9攻撃班。 フランス本部、応答願いたい」

「此方バルカ中将。 戦況はどうか」

「一時は五十体ほどのエイリアンが街に降下したが、その内三十体ほどは周囲に散った様子だ。 残り二十体弱ほどは、此方で始末した。 戦闘のデータを共有したい。 それとすぐにエイリアンの死体および装備の回収をしてほしい」

「今救援部隊を編成していた所だが、その必要は無さそうだな。 分かった、大型輸送ヘリを其方に飛ばす。 無理をするな、と言いたいところだが……よくやってくれた」

バルカ中将という人は、何というか感情があまり見えない声だが。

最後の様子からして、本当に安堵している様子が分かった。

程なくして、ヘリの音が聞こえてくる。

先に退避させたキャリバンの方からも、エイリアンの話は既に伝わっている筈である。

ともかく今は、対応を急がなければならない。

輸送ヘリが来る前に、荒木軍曹は指示を出す。

「一華、戦略情報部に戦闘データを送信できるか」

「いや。 このデータ量だと、出来れば軍基地から直接送りたいッスね」

「分かった、ならばそう此方で手を回そう」

「お願いするッス」

輸送ヘリが広場の真ん中に到着。

ばらばらと展開する、防護服を着た兵士達。更に、大型の輸送トラックも来たようだ。

三十六体ぶんのエイリアンの死体を回収し。武器も回収する。

この武器は解析すれば、多少は何かの役に立つかも知れない。

何しろ、オートエイムアサルトライフルというとんでもない武器である。

もしも人類側の武器に導入できたら、それこそ戦場に革命が起きるだろう。人間に使えなくても、例えばニクスの機銃に導入できたら、まるで状況が変わるはずだ。

「荒木少尉、本部肝いりと聞いているが、流石だな」

「俺たちよりも活躍したのは村上班だ。 本部にも良く言って欲しい」

「分かった。 ともかく、データをすぐに本部に送りたい。 すぐに輸送ヘリに乗ってくれ。 他の兵士達も、良く生き延びてくれた。 作戦は失敗だが、絶対に無駄にはしないぞ」

バルカ中将の声はほろ苦いが

だが、恐らく弐分も思っているが。

これは戦略情報部が、ある程度罠と分かった上でやらせたことだ。

本当に残忍なのは人間なのかエイリアンなのか。

分からないなと、弐分は思った。

 

3、邪悪の使役者

 

欧州に降下(実際にはアフリカに既に降下していたようだが)したエイリアンの情報は、マルセイユ基地経由で本部や戦略情報部に伝達され。

同時に戦闘データも送信された。

死体もすぐに回収されて、解析され始めたようだが。

何しろ巨大な死体だ。

すぐに何もかもを解析しきるのは無理だろう。

壱野は茶を啜る。

マルセイユ基地で、少しだけ休憩を貰った。

三城と一華は先にねむらせている。

特に一華は、表にこそ出なかったが。支援やデータ収集で頭をフル活用していたらしい。元々体力が無い様子だし、更に飛行機で此処まできた直後だ。

どうしようもなかっただろう。

荒木軍曹が来る。

敬礼をかわすと、座るように言われた。

「中尉に昇進だそうだ。 そして壱野。 お前は恐らく少尉に昇進の人事がそろそろあるだろうな」

「……」

「他の皆は曹長に昇進は確実だ。 今回の戦いでは、お前達がいなければ攻撃部隊の全滅は確定だった。 最後にキャリバンを最適路で動かして、負傷者を脱出させたのも大きい」

「負けは負けです」

そうだなと、荒木軍曹はほろ苦い口調で言う。

軍曹、か。

もう中尉になろうというのに。

軍曹という階級に、余程の拘りがあるのだろう。

「次の戦いでは、お前は恐らく部隊を率いる事になる。 更に厳しい状況になるだろうが、可能な限り皆を生還させてやれ」

「分かりました」

「俺は四人での戦闘が向いている。 だが、今後は更に連携しての戦いが増えるだろうな」

軽く話をした後。

荒木軍曹は本題に入った。

「各地にあのエイリアンが飛来したそうだ。 特に中国の少数民族だので揉めている地域に、多数が飛来。 中国に展開しているEDFが、相当な苦戦を強いられているらしい」

「敵の動きの速さは瞠目させられますね」

「テレポーションシップについては対抗戦術が構築され、今日も各地で十機以上が落とされたようだが。 攻勢に出たEDFに、戦況のコントロールをさせる気は敵にはないようだな」

「あのエイリアンは強い。 早々に対応をしなければ、怪物の時以上の被害を出す事になるでしょう」

頷く荒木軍曹。

そして、話し始めた。

「俺にとっては軍は家族のようなものだ」

「……」

「俺の部隊は訳ありの連中ばかりでな。 だからこそ、俺がしっかり皆をまとめなければならない」

「そう、なんですね」

壱野にとっては道場が全て。

だが、荒木軍曹にとっては、軍が全てなのだろう。

その強い目的意識はどこから来ているのか、前から少し不思議だったのだが。

今の言葉で、少し分かった気がした。

EDFは決して地球の守護者というだけの組織では無い。

荒木軍曹が認めているように、かなり後ろ暗い事だってやってきた組織である。

だが。それでも家族というのなら。

それは壱野がああだこうだ言って良い話では無い。

人には踏み込んではいけない心の庭というものがある。

きっと、軍にいることが。

荒木軍曹にとってのそれなのだろう。ならば、踏み込まないのが正しい。そう壱野は判断した。

「死ぬなよ。 俺が死んでも、大勢に影響は無い。 だが、お前が死んだら人類は負けるだろう」

「大げさですよ、いくら何でも」

「いや、お前は下手なムービーのヒーローよりも強い。 いずれお前は人類の命運を賭けた決戦に挑む事になるはずだ。 それまで、絶対に生き延びろ」

その言葉には、強い確信があり。

そして頷く他無かった。

荒木軍曹は、一足早く日本へと戻る。

一華が起きだしてきて、ふらふらとPCの方へ。

軍のVPNを使っているらしいのだが。

データがどれだけ転送されているか、確認している様子である。

「終わった、と。 さて、戦略情報部が中華の戦地でどれくらいこのデータを生かしてくれるか、ッスね」

「まだ休んでいなくて大丈夫か」

「まあ何とか。 データの送信が終わったので、PCを落として、その後はちょっとダラダラするっス。 甘いもの食べたいッスねえ」

「ああ、そうしてくれていい。 それと、辞令がそろそろ来るそうだ。 曹長に昇進となる」

こくりと頷く一華。

微塵も興味が無い、という顔だが。

まあ、実際にどうでもいいのだろう。

外にでる。

兵士達が、敬礼して車を迎えていた。大型の輸送車だが。あれは恐らく、遺体の回収車だ。

ルイ大佐他、あの戦いで戦死した兵士達の遺骸も回収されてきたようだ。至近弾を喰らって指揮車両ごと爆散したのだ。酷い状態だろう。

敬礼をして、死者達を迎える。

だが、恐らくそんな余裕はもうなくなるだろうな。

そう、確信に満ちた予想をして。壱野は、暗澹たる気持ちになっていた。

程なくして、今回の作戦で各地の陽動作戦を展開していた部隊も戻ってくる。エイリアンが現れたと言う事もある。

下手に戦線を拡げると、どこに現れて大きな被害を出すか分かったものではないと判断したのだろう。

賢明な判断である。

バルカ中将という人物。

少なくとも、相当に切れる将軍のようだった。

新任の基地司令官が来る。敬礼をかわした。かなり若い人物だが。EDFでは人材の抜擢に積極的なのかも知れない。まだ三十代になったばかりに見える。厳つい顔の、逞しい軍人らしい人物だ。無精髭も威厳を出すための工夫だろう。

どうやら陽動作戦の一軍を率いていたらしい。さっき中佐に昇進したばかりの人物のようだった。

「クレルモン中佐だ。 今中佐になったばかりだがな。 酷い戦況の中、生き残りをまとめて撤退し、しかも貴重な情報を持ち帰ってきた作戦の中核になったと聞く。 あの本部肝いりの荒木どのが認めているだけの事はあるな」

「はい。 ありがとうございます」

「早速で悪いのだが、作戦に参加してほしい。 エイリアンどもは姿を現した後、各地に恐ろしい勢いで展開している。 フランスでも、早速拠点を構築しようとしている様子だ」

「!」

早速か。

ただでさえ欧州では不利な戦況が続いていると聞いている。

確かにこれ以上は看過できないだろう。

「君は確か少尉に今日中に昇進すると聞いている。 それならば、一部隊を任せるのは問題ないだろう。 君に一個小隊を預ける。 威力偵察をして来て欲しい。 もしも撃破出来るようなら、頼めるか」

「分かりました。 ただ、うちのニクスはちょっと特別製のPCを搭載していまして」

「ああ、話は聞いている。 今、新型のニクスが本部から届いた。 ミサイルは搭載していないが、機銃の威力を更に強化し、機動力を改善した新型だ。 それを供与する」

「ありがとうございます。 しかし、無事で返せるかは分かりません」

苦笑するクレルモン中佐。

それに苦笑を返す。

敵が展開しているのは、ロレーヌ地方と言う場所らしい。

資源的にかなり重要な土地らしく。

第一次大戦の前に、ドイツとの係争地になったそうだ。

エイリアンも、資源がある土地の重要性を理解しているらしく、積極的に攻撃してきているらしいが。

いずれにしても、出来るだけ早く反撃はした方が良いだろう。皆を起こしに行く。

弐分は既に準備万端。フェンサーのスーツも、すっかり板についている。

起こすのは、弐分に任せてしまうか。辞令だのもあるし。

「大兄、次の仕事か」

「ああ。 もう少し休ませたかったが、すまないな」

「別にかまわない。 それと、何だか辞令だかで呼んでたぞ」

「分かっている。 三城と一華に無線で連絡を入れておいてくれ。 作戦だ」

後は、辞令を受けに行く。

少尉からは士官。

士官は本来、色々な訓練だの試験だのを受けないとなれないらしく。それがたたき上げの有能な兵士の出世を防いでいるらしいが。

EDFではその辺りをかなり柔軟に運用しているらしい。

過去の軍組織の失敗を鑑みて、柔軟に運用する試みを色々試しているそうなのだが。

その辺りは、また荒木軍曹に聞くしか無いだろう。

少尉になって、階級章ももらった。階級章をつけてくれたのはクレルモン中佐だった。常に階級章をつけるように言われたので、敬礼して礼を言う。

そして地上に出ると。

輸送トラックと、新型らしい赤いニクス。

更に、大型の輸送車。

八個分隊の兵士達が来ていた。兵士達は皆レンジャーだが、まあこれは仕方が無いだろう。

威力偵察が目的だ。

出来るなら、現地の敵を全滅させて欲しいと言う事だったが。

実際には、恐らくクレルモン中佐の方でも、其処までは期待していないだろう。

だが。敵の戦力次第では、やる。

そうすることで、少しでも敵の戦力を削る事が出来るのなら。ここで戦う価値はある。

敬礼をする。

既に、話は聞いている様子で。

兵士達も、壱野を侮る様子はなかった。

「これよりロレーヌ地方に展開しているエイリアンに対して威力偵察を行う。 苛烈な戦闘になる可能性がある。 皆、気を付けてほしい」

「イエッサ!」

後ろで、一華がPCを新しい赤いニクスに積み込んでいる。

そして、軽く動かしていたが。確かにかなり機敏だ。ジャンプやブースターも試している。

機敏に動くニクスを見て、兵士達は驚いている様子だ。

ニクスと言えば、動きは多少鈍いものの、ロケットランチャーを喰らおうと平然と迫ってきて。凶悪な火器で敵をなぎ倒す兵器。

そういう印象があるのだろう。

「これは、ご機嫌ッスね。 補給トラック内にセントリーガンもあるようなので、使わせて貰うッスよ」

「好きにしてくれ、一華曹長」

「了解ッス」

大型輸送車には、グレイプ四両も乗せられる。

これは今回が威力偵察である、という事も意味している。

歩兵が高速展開するためには、兵員輸送車でもあるグレイプは必須だ。足回りとしても活躍が見込める。勿論、開戦当初と違って装甲も酸に対して強化されている。ただエイリアンの火器に耐えられるかは微妙だ。

ともかく、現地のスカウトがもっている間に行く必要がある。

欧州から日本に戻るまでに。

少なくとも、目前で投下されたエイリアンくらいの数は、全て処理しておかなければならないだろう。

現地に出立。

各地で苦戦している欧州。フランスではついにエイリアンが出現したことで、此処を基点に戦線を崩される可能性もある。

途中で何カ所か協力したい戦線があったが、まずは最重要地点からだ。今回助けを求められたと言う事は、余程の事態だとEDFも判断したのだろう。

なお、報道はかなり早い。

移動中に流れてくる。

「欧州にてエイリアンが確認されました。 プライマーという種族なのかどうかまでは分かりませんが、人型で背丈は十メートル以上もあり、緑色の肌で言葉を操り、武器を装備して人間を襲うという事です。 欧州での戦闘の後各地で姿を見せ、特に中国の辺縁部にて大規模な軍事衝突が発生しています」

「報道が早いな。 この無線は一般人にも公開されるはずだが……」

「恐らくだけれども、早めに注意を促したいんだと思うッスよ」

「なる程な」

五ヶ月前。

最初に世界をプライマーが襲った日。各国のマスコミは完全に事態を侮っていて。その結果、世界中で大きな被害が出た。

怪物の猛威はそれから瞬く間に見直され。

世界各国で実際に人が襲われる映像が流されることで、ようやく皆が危機を意識することになったが。

いずれにしても既存のマスコミはまるで初動の対策に役に立たず。

それどころか、被害を増やす結果にまで至った。

一部の物好きが、止せば良いのに怪物を見に行こうとしたのだ。

中には怪物を撮影しに出向いたマスコミ関係者までいて。当然その場で食われてしまった。

今回も、あまり良い方向に進まないのでは無いかとも思う。

ロレーヌ地方はパリからかなり近い。

兵士達の緊張を保つためにも、話はしながらの方が良い。

「エイリアンの戦闘能力は、でかい人型というだけではなく、それが人間と同じ戦術を使ってくる事にあると思うッスねえ。 それも微塵も容赦が無い。 解析が進まないと分からないッスけど、ひょっとしたら洗脳されている可能性も高いッスよ」

「そうだな。 組織的に動いていたが、少なくとも仲間が死んでも怒る様子は無かったし、恐怖する様子も無かった。 感情が麻痺しているとしても、消耗品として扱われているかのようだった」

まるでブラック企業の社員だな。

そう思って、憂鬱になる。

世界政府が作られて、世界にあった格差はかなりマシになった。これについては事実である。

実際問題、21世紀初頭に存在した過重労働をさせるような企業は、世界政府の流通政策によって殆どが消失したが。

もしもコレが無かった場合。

各国で、それこそ労働者をすり潰すような仕事が蔓延していたのでは無いかと言う指摘がある。

それを専門用語でブラック企業というらしい。

そういう企業では、人格をひたすらに否定し、奴隷として人間をすり潰しただろうという予測があったのだが。

まるでそれをあのエイリアンはやらされているかのようだ。

反抗はしないのか。

出来ないのか、それとも。

「仮にッスよ。 アレがプライマーそのものでは無くて、どっかから適当に連れてきたり、あるいは生物兵器として作られた存在だったとすると。 クローンで大量に生産されている可能性も否定出来ないッスね」

「クローンか……」

「戦闘力が高い個体を単純にわんさか増やせば、それで戦力を均一化出来るッスからねえ」

「そうだな。 気を付けて掛かろう」

兵士達にも、今の話は聞こえるようにしておいた。

マザーシップ撃墜作戦の時、何が起きたか兵士達は知っている筈だ。

これから交戦する相手が如何に危険なのかは、先に認識しておいて貰わないと困る。

それに急激に制空権がなくなっている今。

航空支援なんて、簡単に行えるものではないのだから。

「そろそろ到着です」

「分かった。 各員、戦闘に備えてほしい。 相手は大柄だが、人間の訓練された兵士と同レベルに市街戦を理解し、連携して戦闘を行う。 十字砲火やおとりを使った誘引など、あらゆる戦術を駆使してくると判断してほしい。 現地で細かい作戦は出すが、各自大きいなら頭が悪いなどとは絶対に思わないでくれ。 相手は精鋭だと判断してほしい」

「イエッサ!」

三十人か。

今まで三人だった、預かっている命が。

十倍になった。

勿論、全員生かして返すつもりで戦う。

現地のスカウトから通信が入る。

「此方コヨーテ17」

「そろそろ到着する。 現地の様子は」

「確認できているエイリアンは10前後。 ただ……」

「ただ、どうした」

エイリアンが、怪物を従えているという。

そうか、そうだろうな。

プライマーに派閥があって、多数の怪物が好き勝手に人間を攻撃しているとかならやりやすかっただろう。

だがそんな風にはいかない。

「怪物の数は」

「およそ500程度です。 しかしながら、現地では手をこまねいております。 街は完全に敵に占領されている状況です」

「分かった、距離を取っていつでも逃げられるようにしていてくれ。 すぐに合流する」

「了解」

無線を切る。

戦闘準備、と声を掛け。まず考える。

怪物を従えているとなると、ある程度怪物に対して指示を出せる事になる。そうなれば、まずはエイリアンを潰す事が定石だろう。

一番厄介なのは、連携されて互いの長所を生かした戦闘をされることで。

命を捨てて襲いかかってくる怪物が、更に高度な戦術を使ってくるようになったら手に負えない。

現地近くに到着。

この辺りは係争地だった事もあって、色々古い軍事施設の残骸とかもあるが。それらとは関係無く。エイリアンが市街地を闊歩している。

スカウトであるコヨーテ17にはさがって貰う。軽装備の彼らに戦わせるのは酷だ。

エイリアンは数体ごとにチームを組み、巡回しながら怪物をどんどん呼び込んできているようだ。

中国で本格的に展開しているエイリアンだけではない。

恐らくだが、本格的に各地でこのようにして展開を開始しているのだろう。

プライマーは大軍だ。

怪物も既に億を超える数が地球に投下されたという話もある。

エイリアンは、一体を十人以上の兵士が、決死の覚悟で相手にしなければ倒せないだろう。

ましてや怪物を従えるとなると、とんでもない事になる。

まず、三城が様子を見てくる。

弐分も別方向に展開。

グレイプにのったまま、部隊にはまず待機して貰う。

エイリアンは、巡回を続けていて。

怪物は徐々に増えている様子だ。

恐らく怪物は、ドイツ方面から来ている。ドイツも戦況が最悪だという話は聞いているから。

プライマー側からしてみれば、其方で余力があるから兵力を回してきているのだろう。

開幕に早速数十体のエイリアンを失った事など、痛痒にも感じていないという事だ。

「此方村上班」

「此方クレルモン中佐」

「怪物をエイリアンは次々に呼び込んでいるようです。 ドイツ方面の部隊はどうなっていますか」

「残念ながら、ドイツ方面では防衛が精一杯だ。 とても怪物に対して攻勢にでる余裕などはなく……」

そうか、そうだろうな。

ともかく、此処もエイリアンをたたき出したとしても、すぐに奪回される可能性が高いとみて良い。

それでもやらなければならない。

此処にいる敵戦力を全滅させれば、他に多少の余裕は出来る。それを最小限の被害でやれば。

他の部隊が少しは楽になるのだ。

三城が帰ってくる。弐分も。

概ねスカウトからの報告は間違っていない様子である。

「ただ、エイリアンは想定より多いと思う」

「詳しく聞かせてくれ」

「ドイツ方面に、かなりの数のエイリアンが見えた。 既に向こうでも大きな陣地を構築していると思う」

「エイリアンには国境など関係無いからな……」

世界政府が出来たと言っても。

国家は一応まだ残っている。

かなりの権限を手放してはいるが。それでも国境だのが問題になることはまだ時々ある。EDFが目を光らせていてもだ。

今ではもう殆ど無くなったが、ゲリラなどがでる地域も存在していた。

そう言った場所は、真っ先にプライマーに蹂躙されて。今はそもそも人間が存在していない。

だからゲリラも治安もなにもない。

皮肉極まりない話だった。

ともかく、やる事をやるだけだ。

それぞれ、配置につかせる。

同時に、壱野がライサンダー2を取りだし。

かなり距離がある。三キロほど先にいるエイリアンの頭を、正確に撃ち抜いていた。

目玉を撃ち抜いても駄目だ。

頭を撃ち抜くときは、脳を破壊しなければならない。

あのエイリアンは目玉が大きく、頭の上にせり出すかのようだ。

目玉は脳と直結していて。外部に露出している脳の一部だとも言える。

だが、あのエイリアンは驚異的な再生能力を持っている。

それにタフだ。

目玉を吹き飛ばしたくらいでは、行動を止める事は出来ない。

側で仲間がヘッドショットを食らって、一緒にいたエイリアンが周囲に声を上げようとするが、それも黙らせる。

残り一体は即座に建物の影に隠れて、怪物をけしかけてきた。更に、他のエイリアンが此方に向かってくる。

今ので、狙撃がどっちから飛んできたか特定したのか。

目が良いのか、それとも。

兎も角、グレイプは展開済み。ニクスが前に出る。

弐分と三城が、ニクスの両脇に展開。二人をフレンドリファイヤしないように、兵士達には既に告げてある。

グレイプには射撃手と操縦手(ブラッカー同様、一人でこなせる)を残してあり。

他の兵士は全員遠距離武器と、アサルトライフルを装備して貰ってある。

これでまずは遠距離で射すくめ。

近距離はアサルトライフルに切り替える。

この辺りは入り組んでいる地形が多いが。怪物は立体的に浸透してくる。見た所、α型ばかりだが。

それでも赤い奴が混じっているし。

非常に綺麗に赤い奴が前衛になり、突貫してくる。

ニクスの機銃が火を噴くと。

グレイプの速射砲もそれに続く。

流石に最新鋭のニクスだが、それでも火力が何倍、というわけにもいかない。エイリアンは五体ほどか。建物に器用に身を隠しながら接近して来る。怪物を盾に、本命の火力である自分達が接近する訳か。

だが、そうはいかない。

既にビルのかなり高所に陣取った壱野が、一体の頭を吹き飛ばす。

おおと、他の兵士の声が上がった。

「先に降下したエイリアン部隊に、もっとも大きな損害を与えたとは聞いたが、すごい腕だな……」

「俺たちも負けていられねえ!」

フランス語だけでは無い。色んな言葉が混じっているが。それがインカム通じて翻訳されて聞こえてくる。

そのまま怪物の群れを乱射で押し止めつつ。近付いてくるエイリアンを高所から狙撃して処理していく。

だが、四体目を処理した時点で、居場所がばれた様子だ。

エイリアン達の銃口が、モロにこっちを向いたのを見て。壱野は即座に飛び退いて距離を取る。

一瞬で、その階そのものが消し飛んでいた。

「大兄、大丈夫か!」

「問題ない。 次の狙撃地点に移動する」

「エイリアン追加。 四体」

「そうか。 問題なく処理する」

二階駆け下りると、そのままノータイムで狙撃。

一体の頭を消し飛ばす。

まだ増援の四体とはかなり距離がある。

怪物は間を詰めてきているが、酸の間合いにはない。赤い怪物が次々倒されているが。相変わらず恐れは無い様子だ。

突貫してくる怪物の群れに、兵士達は戦々恐々だろう。

この規模の怪物を相手できる戦力では本来ないからだ。

だが、配置が良い事と。

前衛で敵を三城と弐分が翻弄している事もある。

浸透が遅れ。

速射砲とニクスの機銃が敵を効果的に刈り取っている。

兵士達も、それぞれスナイパーライフルでの狙撃に注力できるが。

そろそろ、少しまずいと判断。

「グレイプと皆は2ブロック後退。 後退後、射撃を続行」

「了解。 2ブロック後退」

「一華もだ」

「了解ッスよ」

ニクスの足回りは後退に問題がある。

そう一華は言っていたが、その通りのようだ。機敏に動く赤いニクスも、後退は少し足が遅い。

そのまま射撃を続けつつ、さがるニクス。敵はそれだけ前に出てこようとするが、弐分がスピアで赤い怪物を次々貫き。

何度か猛禽のように舞い降りた三城がレイピアの熱量で焼き払う。

エイリアンは狙撃のために、迂闊に前に出ることが出来ず、建物を盾に少しずつ接近して来るが。

高所から狙撃をしてくる壱野を相手に、まだ手間取っている。

四体追加できているエイリアンの一体を、射貫く。

だが、次の瞬間、壱野の居場所に大量の弾丸が叩き込まれる。

光の弾のようだが。レーザーなのかプラズマなのか。いずれにしても戦車を破壊するのにそう時間は掛からなかった代物だ。エイブラムスの後継機であるブラッカーの装甲を、である。

喰らったら文字通りひとたまりもない。すぐに位置を移す。

幾つか狙い目のビルは見つけていたのだが。エイリアンはどうやら小賢しいスナイパーがいると判断したようで。

ビルを幾つか、射撃し始める。

先に狙撃ポイントをつぶしに掛かるか。

まあいい。

ビルを降りて、そのまま路地裏に入り込む。高所を狙撃して、道を確保しようとしているエイリアンを確認。

針穴を通す必要があるが。

それでも、路地裏から。

三キロ先のエイリアンの側頭部に、ライサンダー2の弾を当ててから、放っていた。

吹っ飛ぶエイリアンの頭部。

平べったい頭だから、綺麗に吹き飛ぶのを見ると。或いは頭部が何かしら外れやすい構造になっているのかも知れないと感じる。

だが分析は後だ。すぐにエイリアンが、今度は路地裏の地形を利用した狙撃に切り替えてきたと判断したのだろう。怪物をけしかけてくる。

だが。それは正面火力が少なくなることを意味する。

「2ブロック前進。 今度は押し返せ」

「イエッサ!」

怪物の何割かが壱野に向かってくるのと同時に、全火力が正面に叩き込まれる。それによって、一気に怪物の集団が崩れ始めた。

赤いα型は全滅。銀色のα型は、アウトレンジから一方的に射すくめられ、それでも前進を続けようとする。エイリアンの指示通り、けなげに。

それをアウトレンジから一方的に殲滅する事が出来るが。

ただ。弐分と三城への負担はかなり大きくなっているはずだ。

更に、一華のニクスも次々被弾している様子だ。エイリアンとの相対距離が縮まったからだ。

「流石に狙いが正確ッスね。 新鋭機でもかなりダメージが大きいッスよ!」

「エイリアンは後三体だ。 耐えてくれ」

「ん? 後四体では……」

その言葉の直後。敵陣に潜り込んだ壱野が、一体のエイリアンの頭を吹き飛ばす。

これで残りは三体だ。更にそのまま移動を続ける。

怪物がかなり正確に追尾してくるが。

先に一華が作ってくれたこの辺りの周辺地図はしっかりナビをしてくれる。

敵は地の利を得ていると思っただろうが。

残念ながら、この辺りの地形を色々自分に都合良く弄ったのは、人間なのだ。

地下下水道に入り込むと。エイリアンの真後ろにでる。そのまま狙撃。

そしてまた地下下水道に。

マンホールの辺りが消し飛ばされ、残ったエイリアンが殺到してくるが、残念ながらもう遅い。

既に怪物を掃討した事で。弐分と三城が、同時にエイリアンを攻撃。

二体とも、仕留めていた。

地下下水道からでて、皆と合流する。

わっと、兵士達が沸くのが分かった。

グレイプはかなり被弾している。最後の方で、がむしゃらに突貫してきた怪物と、距離が近くなったエイリアンから攻撃を受けたのだ。余波で、兵士も七人負傷していた。

だが、それでも歓喜が勝った。

明確な完全試合だ。

「此方クレルモン中佐。 戦闘の様子はモニタしていた。 見事な手際だ!」

「すぐにこの辺りに防衛線を再構築してください。 敵はまた、此処を狙って来ます」

「分かっている。 見事な戦いぶりではあったが、被害はある筈だ。 戻って来てくれ」

「イエッサ」

撤収、と声を掛ける。

兵士達は、安堵の声を上げて。煙を上げているグレイプに乗り込む。

「生きて帰れるとは思わなかった。 覚悟はしてた」

「それにしても此処はペット持ち込み禁止だぞ。 誰か注意してやれよ」

「放し飼いも禁止だ。 迷惑な話だ」

「奴ら牧場でもやるつもりかも知れないな。 何しろまだ地球には七十億もエサがいるし、立派に育つだろうしな」

軽口をたたき合う兵士達。

余裕がようやく生まれた、と言う事だ。

大型車両で、撤収を開始する。

途中で襲撃される可能性もある。壱野はライサンダー2の整備を、帰路でも行っていた。

「大兄」

「三城、どうした」

「日本にはすぐに戻るのか」

「いや、指示があり次第だな。 それに、俺としても攻撃隊の仇は出来るだけとってやりたい」

何処かで本音では無い。やっぱりまだ。壱野には道場が一番大事だ。だが、それでも助けられる範囲での人は助けたいという気持ちもあるにはある。

いずれ、本音になるかも知れない。

それで、良いのかも知れなかった。

 

4、猛攻

 

形勢が逆転したと思った矢先の、エイリアンの降下。

これによって、攻勢は一度中断せざるを得なかった。

エイリアンは重要地点に集まりつつ、テレポーションシップを護衛。

既に戦闘データは回収されており。エイリアンの火器が現状のニクスでも長くはもたないほど強力である事。

更には戦術を理解していて、高度な組織戦をしてくる事。

数も少なくないこと。

なおかつ、恐れも知らなければ退くことも無い事も分析されていた。

リー元帥は、地下施設で戦略情報部も交えて、会議をする。

また参加する人間が減っている。

流石に開戦当初ほどの被害は出ていないが。

それでも、会議を開く度に各国で大きな被害が出ているのは確かだった。

だが、テレポーションシップを撃墜できるようになった事で。

まだましになった、とは言えた。

「以降、エイリアンをコロニストと呼称します。 現在、中国に既に千体以上が投下され、内蒙古やウィグル方面を中心に展開。 怪物も中央アジアから、相当数をかき集めている様子です。 攻撃機にも正確に反応してくるため、迂闊に空軍もしかけられない状況になっています。 他にも欧州には既に二百体、その他の地域にも百体以上が投下され、更に数は連日増えています」

「戦闘のデータは見た。 完全に軍事訓練を受けているな。 対抗策は何かあるか」

「装甲を強化していくしかありません。 幸い、先ほど先進科学研からデータの提供がありました。 現状の装甲に電磁装甲というものを加える事により、防御性能を八割ほど上げる事が出来ます」

「八割だと!」

電磁装甲というのは、EDFでも研究が進んでいた技術で。21世紀初頭には幾つかの案が出されていた。

大電流で攻撃を弾き返すものや、コイル式で敵弾を粉砕するものなど色々研究されていたようだが。

先進技術研はEDFの最先端技術を担う部署とは言え、そんなものを開発できていたのか。

「現在、各地の工場にて急ピッチで製造を行っています。 また、歩兵のアーマー、火器の改良も同じように実施を進めています」

「それで各地への配備は」

「残念ながら、流石に少し時間が掛かります。 各地は出来るだけ守勢に徹し、コロニストとのまともな交戦は避け、武器のバージョンアップが進むまで敵からの被害を抑えてください」

「やむを得ないか……」

落胆の声が上がる。

そんな中。

アフリカで、かろうじて何とか抵抗を続けているタール中将が提案をする。

「既にアフリカの戦線は限界だ。 海軍、潜水母艦、潜水艦隊を利用しての、民間人の避難を行いたい。 このままだと、現地のEDFは壊滅する。 悔しいがアフリカは一度放棄するしかない」

「分かった。 此方から最精鋭を送り、時間を稼ぐための作戦を実施したい」

「千葉中将! ありがたい。 恩に着るぞ」

「例の部隊だな。 降下してきたエイリアンに対しても、勇敢に戦ったと聞いている」

頷く千葉中将。

リー元帥も見ている。

確かに戦闘データ内で、エイリアンに綺麗にヘッドショットを決めていた。

つい先日、ロレーヌ地方で行われた戦いでも。

単独でエイリアンの群れを翻弄し。

見事な戦闘で、多数のエイリアンを撃破していた。

村上班と言えば、既に最強の特務部隊として名前が上がり始めている。

フェンサーの最強精鋭部隊グリムリーパー。ウィングダイバーの最精鋭スプリガンと並ぶという評価もある。

更に、どちらも小隊単位の規模の部隊なのに対して。

村上班は四人だけの混成部隊というのが違っている。

いずれにしても、それだけでは足りないだろうが。タール中将が、苦しそうに言う。

「激戦を生き抜いた部隊を参加させる。 ウィングダイバーとフェンサーの肝いりの部隊だ。 必ず力になる」

「分かった。 すぐに作戦を開始する。 具体的な作戦は戦略情報部、任せる」

「分かりました。 直ちに揚陸艇を中心とした戦力と、航空母艦による打撃作戦を開始します。 更に潜水母艦とサブマリン艦隊の火力で、今回は敵にダメージを与えられるか検証します。 潜水母艦セイレーンが近いので、それを利用する事になるでしょう」

「分かった、そうしてくれ」

テレビ会議を終える。

嘆息すると、リー元帥は席を立った。

米国でも、基地の一つがコロニストと先に命令されたエイリアンの軍勢の強襲を受け、大きな被害を受けたばかりだ。

EDFの本部がある米国ですらこの状況だ。

矢継ぎ早にプライマーは手を打ってくる。

まるで、人類がどれくらい抵抗できるか、知っているかのように。

それでもやらなければならない。

リー元帥はもう一度嘆息すると、自室に戻って休む事にした。

とにかく、疲れる事ばかりだ。

それでも、彼以外に現状EDFをまとめられる人物はいなかった。

 

(続)