駄目な神の話
序、最初のお仕事
産まれたばかりの神様がいた。
神様というのは要するに精神生命体の中でも最高位に属する存在。その神様は、生命が出現した星に宇宙を統べる神様より命令を受けて派遣された。
とにかく、星に命が生じるというのはとても貴重な事例だ。
だから。神はみまもる義務がある。
星にいる生き物が、星の外にまで出られるようになる時は、その時はまた別の神様が介入する。
今するべき事は。
この荒れ狂う星に生まれた生命を、守りはぐくむことだった。
この星は。
まだ形成の途中にある。
集まって来た膨大なガスが、重力を引き起こして中心部に集まり。それが恒星となり。その恒星の周囲を回っていた物質が、衝突を繰り返して巨大化していく。
その中の一つの星は、別の星が超新星爆発を引き起こしたときに生じた鉄より重い物質達が多く含まれていて。
なおかつ恒星から適切な場所に存在しており。
故に、生物が誕生した。
生物と言っても、まだ原始的な複製機能があるだけのものだ。
此処で、下手に触ってしまうのは良くない。
この星の神は指示を受けていた。
まずは見守るように。
もしも滅びそうになった場合は、星の周りの環境を変えることを許可する。ただし一度ではまず上手く行かないだろう。
故に、マニュアルを手に、周囲の状況を確認する。
神にとっては時間などあってないようなもの。
だから、時間が過ぎることは別に気にならない。
隕石がどかどかとその星に落ちる。
この星系はまだまだ生まれたばかりなのだ。
だからこの星系は激しく衝突し、次々と幾つかの大きな星になっていっている。その過程で、星になる事に失敗して、砕けてしまうものもある。
重力の辺縁に飛ばされてしまい。
凍てついて光を殆ど受けなくなる星もある。
それでも、光が一年ほど掛けて進む距離くらいまでは、中心部の恒星の巨大な重力は影響する。
十億年もすると、星々は少しずつ形をなし。
やがて安定した軌道で回るようになっていった。
まずは、一段落だろうか。
その時、上位の神から連絡が来る。
「遊星が接近している」
「!」
マニュアルを急いで見る。
遊星とは、恒星の影響を受けていない惑星だったり。或いは独立して移動している白色矮星やブラックホールなどの事だ。
これらの遊星は案外宇宙にたくさんあり。
惑星でも恒星でも関係無く、多数が好き勝手に宇宙を飛び回っている。
此処近辺だと、この惑星系が所属している銀河の重力によって移動はある程度パターンがあるのだが。
それはそれである。
どうやら接近しているのは小型のブラックホールであり、しかもかなり恒星系の中心部に近い場所を通過する。
これは、よろしくない。
ブラックホールなどが星系の中心を通ったら、それはとても酷い被害を出すだろう。もしも今神が面倒を見ている星に直撃でもしたら、全てやりなおさなければならなくなってしまう。
神は恒星系の辺縁まで移動する。
光の速度なんて遅すぎる。高位次元に存在している神は、そんなものよりずっと早く移動出来る。
そのまま、接近してきたブラックホールを押し返す。
普通あらゆる干渉を弾き返すブラックホールだが。
宇宙のルールそのものに干渉するのだから、話は別だ。
そのままブラックホールは弾かれて、明後日の方向に行く。後は、別の神の仕事である。
ふうとため息をつくと。
神は生物が出現しようとしている星に戻る。
しばらく、其処を見守る事にする。
また十億年が過ぎるが、生物はある段階に達するまでは、殆ど形状の変化をしない。少しずつ、少しずつ構造が複雑になっていく。
星も同じく。
基本的に温度が高い星は、燃え尽きるのも速い。
逆に温度が低すぎる星は、それはそれで問題が多い。
今神がいる星系は、幸い完成した恒星がバランスが良く、あと七十億年くらいは存在できるだろう。
だから、この惑星も。
しっかり面倒を見てやらなければならなかった。
また、時間が過ぎていく。
生物は、基本的に全てが同じであるわけではない。
ある星では、RNAを主体にして生命体が発展していくこともある。
別の星では、DNAを主体にすることもある。
何で呼吸するかも違ってくる。
同じ星で、呼吸に違う物質を使う事もあるし。
そもそも呼吸などというものを行わない生物も存在している。
希に星に依存せず、ガス雲に出現する生物もいて。そういう生物には、別の神が対応するそうだ。
だから別にそれはどうでもいい。
とにかく、見ているだけ。
どのような生物になろうと慈しめ。
それが神の仕事。
今は、ただそれだけを考える。仕事を順番にこなして行くことで、全てを丁寧に回していく。
そう考えて、自分の仕事をするだけだ。
そのまま、神はじっくりと観察を続け。たまにくる、致命的な事象に備えていた。
ほどなくして、星の環境が安定し始める。
二酸化炭素を中心とした大気の中で、ぐつぐつと煮立ったプールが出来はじめ。そこに生物や、その生物の前段階の存在が満ち始めた。
いよいよだ。
そう判断して、此処からは隕石などの衝突には特に気を配る。
もう星系内の星の動きは安定しているが。それでも、この星が壊れるような事態は警戒しなければならない。
この段階くらいの生物は、兎に角タフだ。
体の構造が単純だから、ちょっとやそっとの大規模破壊で滅ぶようなことは滅多にないし。
また体の構造が単純だから、既に星の地下深くにまで潜り込み。
其処で別の生態系まで構築している。
故に、多少の隕石は大丈夫なのだが。
それでも、星が壊れてしまっては元も子もないのである。
かなり大きめの隕石がくる。
殆ど小さな星と変わらない程だ。
しばし判断して、衝突をするのを防がない。
直撃した隕石は、星の自転軸を文字通り揺るがした。
星に甚大なダメージを与え、多くの生物が一瞬にして消し飛んでいた。
だが、滅亡はしないし。
星は一時期滅茶苦茶になったが、それでも得るものの方が多かった。
まず隕石が直撃したことにより、星の体積が増えた。
これはとても大事な事であり、星が内包している熱が増えるのはとても意味がある。
勿論星が冷え切っていても生物が誕生することはあるのだが。
それはそれだ。
隕石の衝突によって、千切れた星の一部が宇宙にも出たが。
それは星の隕石を振り切る事が出来ず。
長い時間を掛けて衝突を繰り返しながら球体にまとまって行った。
衛星としては、異例に大きいものの出現である。
計算通りだ。
これは星の傘として機能する。
ある程度の大きさの隕石であったら、防ぎ切ってくれるだろうし。
何よりも、隕石が落ちる確率を劇的に減らしてくれると言う事は。それすなわち環境の安定に寄与する。
隕石が落ちたことで無茶苦茶になっていた星も。
長いスパンで見ると、すぐに復旧していく。
またぐつぐつに煮立った栄養のスープが表面に満ち。かなりの数が死に絶えた生物も、すぐに戻っていった。
マニュアルを見る。
見守る事。
そうとだけあったので、そうする。
煮立ったスープの中には、毒素もあれば栄養もある。ただ栄養というのは、生物によって違う。
つまり色々な可能性が満ちていると言う事だ。
その中に原始的な生物は溶け込み。
あらゆる可能性を、膨大な時間を掛けて試して行く。
そもそもなんでもありなのだから、どんな風になってもいい。それが、この場所なのである。
生物のあり方としては、ありだ。
隕石が落ちる確率が劇的に減っていく。
星系が安定している証拠だ。
うん、すばらしい。
そう思って、神は見守り続ける。
良い方向に動いている。
あの隕石の衝突も含めて、である。
あの隕石が落ちたことで、一時的に多数の生物が死んだが。その代わりこの衛星も出来た。星の堆積も増えた。
それはとても素晴らしい事なのだと。
神はマニュアルを見ながらみた。
だが、此処から全てが台無しになる可能性もある。この段階から生物そのものが滅びる事は滅多にないだろうが。
それでも、見守るのが。
神の仕事である。
再び、星系に大きめの遊星が侵入する。
今度は大きめと言ってもブラックホールのような超危険な代物ではなく、かなり大きめのガス惑星だった。
それ独自の大きな重力を持っていたが。
星系に入り込む角度が浅かった事もあり。
星系辺縁部の小さな星を飲み込んだり、幾つかを重力に取り込んで自分の衛星にしていったが。
その代わり遊星の衛星が星系に入り込んだ影響で、星系に逆に幾つも取り込まれ。
遊星が出ていったときに、特に星系の質量に大きな影響は出なかった。
だが、星系の外縁部にある小さな星は、幾つも軌道に影響を受けた。こういった星には、隕石として直撃すれば、生命が誕生している星にダメージを与えるものも幾つも存在している。
確認すると、やはり幾つかが場合によっては直撃するコースに入ったのが分かった。
これは、一応警戒しておくべき事だろう。
いずれにしても、マニュアルを見て対応は調べておく。
そうこうするうちに、栄養のスープの温度は徐々に下がっていき。何でもありの中で何でもありの環境適応をしていた生物たちは。
少しずつ、環境適応の方向性を変えていくのだった。
全てのデータを取っておく。
一番偉い神の所にデータを送るのだ。
一番偉い神は、データを集めて管理するのも仕事にしている。
それは、今此処にいる神が。
閲覧することも可能だ。
アカシックレコードというのだったか。
それも所詮は知識の塊であって。
特に閲覧に制限は掛かっていない。
ただ生物のレベル程度では、単に閲覧が出来ない。それだけである。
やがて、大きめの変化が起きる。
大気成分に、少しずつ変化が生じていったのだ。
二酸化炭素主体の大気が、少しずつ変わってきている。栄養のプールに二酸化炭素が吸収され。それによって、温室効果がやわらぎ始めている。
より内側にある星は、二酸化炭素の量もさながら。恒星から降り注ぐ熱量をため込みすぎて、生物が発生するのは非常に厳しい状態になっている。
生物が発生した星では、恒星からの距離がもう少しあった事で、熱量のため込みすぎを防ぎ。
その結果、それに適応した生物が誕生したのだが。
一度誕生した生物は、いきなり真空に適応出来るようになるわけでもない。
生物というのは、進化などはしない。
環境に適応するだけだ。
だが。環境がいきなり変わりすぎると、適応出来ない事もままある。酷すぎる環境の変化が起きると。
そのまま滅びてしまう事もある。
故に、こうやって星の環境が変わり始めたときが。
一番危ないのだ。
マニュアルを確認。
億を超えるデータが出てくるので、それらを素早く閲覧していく。
なるほどなるほど。
今の一番偉い神様は、幾つか前の。この宇宙が出来る幾つも前の宇宙から存在しているらしいけれども。
その時から、データを蓄えているらしい。
宇宙というのは、出来る度にその姿やルールを変えるらしいのだが。
そのたびにぬかりなく情報を集めている。
とにかく膨大なデータは非常に良く整理されていて、分かりやすいのだが。
データがあまりに膨大なため。例外的事項も多く。
それらも、状況に応じて学んでおかなければならなかった。
そうして神が学んでいる内に、星の気温は更に下がっていく。
それが破滅的な変化かというと、そうでもなく。二酸化炭素がどんどん栄養のスープに吸収され。
むしろ栄養のスープの栄養が更に濃くなり。
生物は星全域の温度が下がっても、関係無く活動を続け。むしろどんどん環境適応して、多様化していった。
素晴らしい事だ。
そう神は思う。
また星系に侵入者だ。今度はマイクロブラックホール。もしも直線コースで来ると、この命の星に風穴を開けてしまうだろう。
それは、好ましくない。
故に星系外縁部に神は出て。
直接突入してきたマイクロブラックホールを、そのまま握りつぶしていた。
ブラックホールも、その気になればいつでも滅ぼす事が出来る。
元々放っておけばそのまま蒸発してしまうような代物だ。
ちょっと早く蒸発しても、別に問題はないだろう。
きゅっとマイクロブラックホールを握りつぶして、満足した神は。
そのまま、生命の星の監視に戻る。
何かが脅かすようなら。それが理不尽なものであったら。
何であろうが潰す。
そう考える事が、出来るようになってきていた。
別の神が、珍しくアクセスをして来る。
勿論受ける。
仕事はそもそも監視を続けるだけ。それほど忙しくないのだから。
「其方の状況を確認したい。 生物の発生後、環境適応は順調だろうか」
「順調」
「そうか。 では、その星に侵入しようとしている私の監視下にある生物を、私の手で止めておく」
「頼む」
それぞれの生物にはテリトリがある。
正確には生物種そのものではなく、星に生まれた生物のグループには、である。
そうでなければ、無差別に宇宙に拡がって。他の生物の環境適応の可能性を潰す事になる。
ましてや、自分達の下位において。
勝手に自分達のルールを押しつけるようなことが、生物どうしの間であってはならないのだ。
やがて生物が高度に環境適応して行くと、生態系というものが出来るようになる事がある。
その場合には、生物同士が複雑に絡んでいくこともあるが。
それはあくまで同一環境内での生物での話であって。
環境が根本的に違う場所から来た生物が、他の生物の可能性の芽を摘む事があってはならないのだ。
それが、この宇宙の一番偉い神の考え。
調べて見ると、その神が何度か目撃しているが。
ある程度複雑化した生物は、自分を神に近いと思い込んだ挙げ句。
自分と同一種の生物を、彼方此方の星に無作為にまき散らすような暴挙に出ることがあるという。
一番偉い神の知っている定義によると。
それを意図的パンスペルミアというらしい。
いずれにしても、自分を素晴らしい生物だと勝手に勘違いした挙げ句。
他の環境にあって他の発展を遂げている生物を蹂躙する行為だ。
文字通り、本当の意味での侵略である。
許すことは出来ない。
これによって起きる弊害は尋常では無く、銀河単位、それどころか銀河団単位で似たような生物が溢れることがあって。
それらは自分達を絶対正義とでも勘違いして。他の環境を勝手に改変し尽くし。自分達に住みやすいようにした挙げ句。
それをしてやったとでも言わんばかりに動くそうだ。
それは、あまり喜ばしい行動では無いなと。
熱のスープの中でどんどん環境適応している生物を見て。神は思う。
少しずつ。
今見守っている生物に、愛着を覚え始めていた。
1、歯車が狂い始める
見守っていた星の温度がどんどん下がっていく。栄養のスープが二酸化炭素をどんどん吸収していくからだ。
その内、星の気温は存分にさがる。
栄養のプールが、少しずつ色を変えはじめていた。
雑多なあらゆる物質が混じっていたものが。
少しずつ、変わり始めたのである。
神はマニュアルを確認する。
そして、星の生物のデータを、確認していた。
高次元に存在している神は、そのまま見るだけで生物のデータをあらかた確認することが出来る。
それによると、類例が出てくる。
二酸化炭素で満ちていた星に出現した生物の中に、ある時二酸化炭素を酸素に変換していく生物が出現した。
それによって星の環境は激変し。
やがて酸素を主体に生きていく生物で、星は満たされていくことになった。
それはそれは。
ただ。それはそもそもこの星の環境で生まれた生物によって。この星が改変されたことを意味する。
他の生物にたいして、上から介入しているわけでは無い。
それならば、見守るしかない。
そう判断して、神は様子を見るのだった。
程なくして、酸素を主体に生きる生物が、どんどん酸素を増やしていく。
それが、恒星から注いでいる宇宙放射線と反応。
やがて酸素はオゾンになっていった。
オゾンが増える事により、宇宙放射線の影響は激減し始める。その結果、栄養のスープの中でしか生きられなかった生物は。
それ以外の場所でも生きられるようになり。
更には、栄養のスープそのものも。生物が激増していく事により、どんどん性質を変えていくのだった。
生物の星の温度がどんどん下がっていく。
ちょっと心配になったので、マニュアルをみていく。
このくらいの温度低下は、別に問題ないそうだ。もしも温度低下が過ぎて、生物が滅亡してしまうケースもある場合には。
データだけとって撤退。
そういう事になる。
隕石やらの衝突で、環境が外部的に破壊される場合は、阻止しなければならないが。
在来生物によって星の環境が致命的に書き換えられ。
それによってその生物が滅ぶことは、それは仕方が無い事として受け入れなければならないらしい。
なんでだろう。
よく分からないが、それが一番偉い神の判断だ。
ならば、今の時点ではそれに従うだけである。
しばし様子を見守る。
煮立っていた栄養のスープは、すっかり冷え込んでいて。一部では固体になる事も起き始めていた。
個体となった下では、液体のままの栄養のスープが流動を続けており。
環境の変化に伴って、生物が環境適応を続けている。
その一方で地下に潜った生物群は、我関せずと言う勢いで静かに確実に増えている。
それもまたいい。
見守る事にする。
この段階になると、ある程度以上の隕石の衝突は好ましくない。
マニュアルにはそうある。
故に、神は飛来したちょっと大きすぎる隕石を弾き返していた。
弾き返された隕石は、生物が生じていない別の惑星に激突。かなり大きな破壊を引き起こしたが。
元々生物はいないし。
逆にそれが、生物を発生させる切っ掛けになるかも知れない。
そういえば、どうして一番偉い神は、生物にそれほどこだわるのだろう。
今の時点では分からないが。
或いは神と同じように。
生物に愛着を感じたのかも知れない。
だとすれば、何となく分かる。
いずれにしても、愛着を感じようが。必要以上の干渉はしない。それが絶対のルールである。
だから、静かに見守る。
やがて液体の水がかなりの量、まとまって星に出現し始める。
栄養のスープは、水を主体に星の表面を覆い始め。
それどころか水は気体になって星の大気に強い影響を与え始めたばかりか。
場所によっては、空中でまた液体に代わり。
地上に降り注ぐようになりはじめた。
いわゆる気化熱によって、それが更に熱を奪っていく。
また場合によっては、何かしらの別の物質を核にして気体の水が密度を増すことにより。地上への光を遮るようにもなった。
その結果、地上の温度が更に下がるようになり。
今度は熱に満ちていた星の地上が、複雑な温度体系になりはじめていた。
そんなものなのか。
神はマニュアルを見て、感心する。
こういうダイナミックな変化が起きていくものなのだなと、感動もした。
だが。それに不必要な干渉をすることは許されない。
やがて、星の全面が温度が下がりすぎたことによって、固体の水で覆われる。その下でも、生物は環境適応を続ける。
ふと気付く。
どんどん生物のサイズが大きくなっている。
これは或いは。
環境適応が、更に加速するかも知れない。
今までは、栄養を奪い合って、互いに溶け合うようにして接する事もあった生物どうしが。
もっと大きな単位で、栄養の奪いあいを始めるかも知れない。
その予想は当たった。
程なくして、単細胞生物から、多細胞生物が出現した。
それと同時に。
爆発的に、生物は大きさを増し始めた。
感心しながら見守る。
そうこうしている内に、恒星の挙動が少し不安定になりはじめた。マニュアルを見て、一段階上にいる神に相談する。
相談の結果は、放置。
多少不安定になっているだけで、長期的には問題がない。
もしも爆発するような傾向を見せ始めたら対応すべし。
以上。
なるほど。
そういうものなのだなと、神は思う。
そもそも、過剰な干渉を避けるのが基本的な方針だ。だったら、今言われた事も確かに理がある。
無言で黙々と観察を続ける。
やがて、星の全域を覆っていた固体の水が溶け始める。
恒星の影響もあるだろう。
それ以上に、星の環境が変わりつつある。
また少しずつ星の気温が上がり始める。
同時に、生物が。
液体の水を主体にした栄養のスープの中を、動き回り始めていた。それは短時間で、更に更に大きくなり。
そして、今までにない多様性を見せ始めたのだった。
環境への適応が、生物の本質だ。
ただし、環境があまりにも短時間で変わりすぎると、対応できず滅びてしまう。
何回か、マニュアルを見直して。
それを確認。
そして目の前で起きている事象をみて、それを再確認。
神だろうが何だろうが。
全ての存在は常に学び続けなければならない。そう、見守りを続けながら。神は自分に言い聞かせていた
大量の種類の生物が、食い合いを続けている。
液体の水の中には、形が全く違う生物が多数うごめいていて。ついに生態系が出来はじめていた。
星の大気はいつの間にか酸素と窒素が主体に成り。
二酸化炭素は殆どが置き換えられていた。
ただちょっと酸素が多すぎるかも知れない。
そう、神は見ていて思う。
まあ、それは別にどうでも良い。
環境適応には問題がない範囲内だからだ。
しばらく様子を見ていると、栄養のスープはどんどん栄養を減らしている。前はカオス極まりなかったのだが。
その栄養がかなり薄くなり。
生物へと凝縮され始めていた。
というよりも、あらゆる栄養に対して、生物が紐付き始めている。
これは環境適応の結果だ。
何をもとに生きていくか。
そう生物は環境適応の結果、変わっていき。何をもとに生きるかで、姿を大きく変えていく。
素晴らしいな。
そう神は思って、観察を続け。データを一番偉い神に送る。
一番偉い神はずっと眠っているのか、基本的に返事はしてこない。だが、それは関係がない。
ただ、自分の仕事を続けるだけだ。
黙々淡々と観察を続ける。
やがて、オゾンによってほぼ恒星からの放射線が遮断された結果。
生物は、液体の水主体の栄養のプールから、少しずつ体を露出させるようになっていった。
ついに、自分とずっとともにあった液体の水からすらも、体を出すようになっていくのか。
これはまた、凄い事だな。
勿論、星の外にまで出始めるようなら、その時は対応のステージを変えなければならないだろうが。
いずれにしても、やってはいけないのは。
自分の主観で、生物に優劣をつけてはいけないと言うことだ。
そのテリトリで過ごし。
他の星系の、他の環境で発生した生物に干渉したりしない限りは、最大限寛容に見守らなければならない。
マニュアルをみていくと、歴史について記載がある。
今の一番偉い神は、元々はそうではなかったらしい。
なんでももっと古くに存在した一番偉い神は、自分の主観で生物に対しての依怙贔屓を行い。
それが宇宙レベルでの災厄を何度も何度も引き起こしたそうである。
それなのに、一切その態度を改めず。
挙げ句の果てに、自分の姿に似るように、生物に干渉までしたのだとか。
やがて反発を覚えていた今の一番偉い神は、反旗を翻し。
古き神をその手下もろとも滅ぼした。
幾つも前の宇宙における出来事である。
その後は、無惨なもので。
おろかな古き神が「自分に似せて作った美しい生物」はあっと言う間に統制を失い、滅んでしまったそうだ。
ふうんと、そう思う。
いずれにしても、自分の主観で生物を判断するのは良くない、か。
それは同意だ。
ただ、神は思うのだ。
見ていてどの生物も良いではないかと。
これは、ずっと見守ってきた者の贔屓目なのかも知れないが。
だとしたら、過去にあった依怙贔屓による宇宙レベルの災厄を引き起こさないように。
気を付けなければならなかった。
力を持つなら、相応の責任がある。
それは、わざわざ言われるまでもなく、当たり前の事なのだ。
そのまま観察を続ける。
またか。
星系に入り込もうとしている大きな質量。調べて見ると、とっくに滅びた文明の残骸らしい。
一種の宇宙船という奴だが。
そんなものを入れたら、どんな影響が出るか分からない。
星系外縁部に出ると、きゅっと握りつぶして消滅させてしまう。
文明レベルにまで複雑化したのに、どうして宇宙船を放置して滅びたのか、これが分からない。
古き神が依怙贔屓していた種族は、宇宙を自分の私物か何かと考えていたようで。見境なくテリトリを拡げ。
自分と違う生物は容赦なく殺戮して回ったそうだ。
違うと言う事を許さないのは、どれだけ偏屈なことか。
違う存在に迷惑を掛けて平然としているのは、どれだけ愚かしい事か。
いずれにしても、上の地位にいる神に報告はしておく。
出所などを調べてくれると言う事だ。後は、対応を任せる事とする。
いずれにしても、自分の見守ってきた生物が、好き勝手されるのはあまり良い気分ではない。
ひょっとしてだが。
滅びた古き神は、こんな風に考えて。
猫かわいがりした生物を依怙贔屓したのでは無いのか。
そう思うと、ちょっとぞくりと来るものがあった。
それははっきり言って好ましくない。
自分もそうならないように、戒めなければならない。そう神は思って、再び生物を見守る。
おお。
なんとついに、生物がほぼ存在しなかった水のない場所。乾燥し、栄養もない陸上に。生物が環境適応し始めた。
ただ、まだまだ地下から溶岩が噴き出しており。
環境が極めて不安定だ。
追い返されてはまた環境適応し。
環境適応してはまた海に追い返される。
それでもしつこく難所に挑んでいく生物。環境に適応するというのは面白いものだなあ。そう、神は思い。
更に見守る。
まずは、そもそもとして。いきなり陸上に上がるのでは無く、少しずつ体を慣らすべきではないのか。
具体的には、栄養素が薄い水の流れ。
そうだな。
資料によると川というのか。
川にまず住めるようにして、其処で生態系を確保する。
そうすれば、川の栄養も増す。
川の生態系を確保したら、其処を足がかりに陸上に進出すれば良い。そうすれば、更に環境適応はしやすくなる。
だけれども、それはあくまで見守りながら思う事だ。
生物はじっくりと、自分の足で踏みとどまりながら。環境適応して行く。
その様子を見て、神は感動した。
ただ感情移入しすぎては、古き神と同じになってしまう。
宇宙全土を危険にさらす可能性すらあるだろう。
だから見守るだけにする。
それが神の責務だと考える。
やがて、地上にまずは根付いたのは。二酸化炭素を酸素にする生物。それは殆ど動くことはないが。
とにかくどっしりと根を下ろし。
地上に適応し、急激に拡がっていった。
それに続いて、体が簡単な構造の生物から上陸を開始する。
それらの生物は、どれだけ噴火が起きようが、火事が起きようが。関係無く。どれだけ焼き払われても、地上に拒否されても。
環境への適応はしたといわんばかりに、次々と上陸していき。
やがて、どれだけ過酷な地上にも適応し。
しっかりと、根を下ろした。
その過程で、環境にも変化が生じる。
今まで水が降り注ぐ……雨という現象だが。雨の度に栄養が垂れ流されていただけの地上が。
しっかりと二酸化炭素呼吸する生物が根付いたことで、栄養が保全され。
急速に栄養が地上に固定化され。
それが生物の環境適応を、更に加速させていった。
そして、じっくりじっくり時間を掛けて。ついに複雑な体をした生物が上陸を開始する。
これらの生物は、環境の適応にも時間が掛かるし。
環境の変化にも脆い。
それぞれは体が大きく頑丈かも知れないが。実はもっとも脆い生物といっても過言ではないのだ。
生物のデータは、最初から見ているから分かっている。
実の所、もっとも有利なのは体の構造が単純な生物だ。
そういった生物は環境への適応がとにかく早い。
勿論、体が大きな生物には簡単に殺されてしまうが。だが数も多く、とにかく環境への適応も早いので。滅びる事は無いし。
どんどん環境に適応して、優位に立っていく。
真の主役はこの生物たちだな。
そう思いながら、神はアラートを感知。
どうやら、隕石だ。
だが、この隕石はサイズ的にかなり微妙。しかも同じ星系内のものである。これは、激突を見逃すべきだろう。
そう神は判断した。
やがて直撃コースを取った隕石は、生物の星に落下。
凄まじい相対速度で激突していた。
既に大気が安定していた生物の星では、大気と隕石の間に摩擦が起きて、もの凄い熱が発生し。
更に直撃の瞬間。
運動エネルギーと熱が、文字通り辺りを蹂躙し尽くす勢いで吹き荒れていた。
すごいな。
そうとだけ思う。
陸上にいた生物の半数以上が消し飛び。隕石直撃の影響で、液体の水にも大きな影響が出た。
空を舞い上がった粉塵が覆い尽くし。
一気に生物の星にいた九割以上の生物が死滅していく。
だが、それは見守らなければならない。
これは生物にとっては、環境適応に必要なこと。
滅びてしまう生物には気の毒だが。
それはそれとして、これによって更なる環境適応が促される。
どんな環境が良いのかは、生物にしかわからない。
生態系が半壊するが。
既に生態系には多数の栄養に応じたニッチが生じている。
それらのニッチを埋めるべく生物が次々と環境適応していき。今まで日の目を見ていなかった生物たちが、次々とニッチを埋めていく。
いいことだ。
そう神は思った。
そして見守りながら、周囲の監視を続ける。
ほどなく、空に舞い上がっていた粉塵も収まり。
環境が安定し始めると。
既に地上に適応していた生物たちは、急速に穴を埋めていくのだった。
これでいい。
そう思って、神は資料を上役に送る。
滅びてしまった生物だって、いずれその時が来れば何かデータが必要になるかも知れない。
全ての発生した生物たちのデータは、こうやって収拾し続ける。
それを主観で判断してはいけない。
主観で判断したから、古き神の時代の宇宙は無茶苦茶になった。
故に客観で全てを判断する。
それでいいのだと、神は思う。
再び繁栄し始める生物たち。
水の中の生物も、地上の生物も、とにかく大型化が進む。一方で。酸素の濃度は少しずつ下がり始めた様子だ。
少し酸素濃度が高いかも知れないとは、監視していて思っていた。
だから、良い傾向だなと判断する。
また、今まで鉄壁の要塞に等しかった。二酸化炭素で呼吸する生物の巨体も。死ぬと分解され、溶けるように消えていくようになった。
今までは分解されず、埋まるのを待つしかなかったのだが。
それも環境適応の一つだったのだろう。
これもまた、興味深い。
何もかもが興味深いので。
神は、生物が好きで好きで仕方がなかった。
だが勝手な干渉は許されない。それが歯がゆくてならなかった。
2、幾度の滅びを経て
また隕石が生物の星に迫っている。
星そのものの活動。
ゆっくり流動する地面。それが、時々溶岩の大噴出を引き起こす。
これに加えて隕石。
この二つが、生物を大量絶滅させる主な要因。
生物の星ではそうだ。
神は、それを理解していた。だが、生物の大絶滅が起きると、新たな環境適応によって様々な事が発生する。
それがまた、生物にとって+になるのも事実だ。
故に、全てを見守る事にする。
勿論、星に致命傷が入るようなサイズの隕石は弾くし。星系に我が物顔に入り込もうとする遊星の類もお帰り願う。
それはそれとして、生物が全滅しないような環境の変動は大歓迎だ。
それが神にとっての結論。
ただ、見ているだけにする。
生物にとってはそれがベストなのだ。
隕石の大きさを確認し、これなら問題ないと判断。
生物の星に落下した隕石は、凄まじい大爆発を引き起こした。
今までで一番強烈かも知れないなあと、爆発を見ながら神は思う。水が激しく押し出され、隕石の爆発の影響を受けなかった地域にも襲いかかる。勿論これほどの苛烈な現象である。
地上だろうが水中だろうが、生物の壊滅的な打撃は避けられなかった。
再び、凍り付いた時代がやってくる。
生態系の上位にいた生物は、こう言うときには真っ先に滅亡する。
そしてそのニッチを埋めていくのは、他の生物だ。
一方で、生態系の上位に興味がない生物も存在する。
そういった生物は、淡々と平然と、大変動にも動じない。
どちらも実に興味深い。
神の尺度で見れば、何もかもあっと言う間だ。
いままで隅っこで細々と生きていた生物が、生態系のニッチを埋め始める。面白いなあと、神は思った。
ただその生物は、何というか嫌な予感を覚えさせた。
勿論主観で生物を決めつけるのは良くない行為だ。
だから、すぐにマニュアルを見る。
なるほど、そういうことか。
生物には修練進化と言うものがあるという。
まあ進化と言うものは幻想なのだが。環境適応の結果、似た姿になっていく生物がいるのは事実だ。
此奴は。
古き神が入れ込んだ挙げ句、宇宙を滅茶苦茶にする要因にした生物に生態がそっくりなのである。
すぐに一番偉い神にデータを送る。
返事は無いだろうと判断していたが。
やがて、驚くべき事に返事があった。
滅ぼせ、とかそういうものではない。注意深く観察して、状況を見続けろ、というものだった。
なるほど、承知した。
すぐにそのようにする。
そうこうしているうちに、また星系内に遊星が入り込もうとする。
その遊星は、どうやら星間文明……既に滅びたものによって改造されたものらしく。入り込む事は許されなかった。
きゅっと、握りつぶしてしまう。
普通に握りつぶしただけだとブラックホールになってしまうので、潰した上で斥力で弾き返す。
向きは無生物の星系。
これで、誰にも何の迷惑も掛けずに処理は出来る。
少しずつ神としての仕事が板についてきた。
再び、観察に戻る。
神の時間感覚は、今観察している星の周期で文字通りあっと言う間に万年単位が過ぎる。
生物は環境適応に万年単位を掛ける。
特に新種が出るのには、それくらいの年月が掛かってくるのが普通だ。
だから、観察を続けて行く。
どうもかなり栄養が星全域にて増えている様子で。
大絶滅の後は、かなりの勢いで生物の巨大化が進んでいる様子だ。ただ、絶滅前に繁栄していた生物ほどの巨大さはない。
海中は話が別だが。
ただ、巨大な生物ではあっても、小さな生物を濾過して食するものが増えているのだった。
その過程で、激しい生存競争が行われる。
基本的に大きな生物は強そうに見えるが。
実際に有利なのは、大きい事では無い。
あらゆる環境に適応出来る事だ。
万年単位では、大きくて強い生物は好き勝手に出来るかもしれないが。
環境が変化すると。
真っ先に煽りを喰らうのが、生態系の頂点生物である。
生態系の頂点というのは、実際には罰ゲームに等しく。
安定した環境下ならともかく。
環境が変動すると、真っ先に滅びる事になる。
これはどれだけ戦闘力の高い生物だろうが同じである。
そもそも生物がどれだけ背伸びしたところで、噴火や隕石の衝突と言った自然現象には絶対に勝てない。
それが現実だ。
だから神は監視を続ける。
生物が絶滅しかねないリスクは防ぐ事にする。
しばらく監視していると、ついに起きる事が起き始める。
文明の発生である。
すぐに一番偉い神に連絡を入れる。
此処から、大変だ。
周辺の星系を担当している神々と集まって、会議を行う。
会議と言っても、秒間数億のやりとりを出来るので、すぐに終わるのだが。それでも、やっておく必要がある。
なお会議に集まると言っても、思念の一部を飛ばすだけだ。
それでも、秒間数億程度のパフォーマンスは確保できる。
神と言うのは高次元生物だから。
光速だとかのとろくさい物理法則には捕らわれていない。それより上位の次元から干渉できるのである。
ともかく、データを皆に渡して、説明をする。
近隣には、現時点では文明の存在する星系は存在しない。
そうなってくると重要なのは。
文明の発達速度。
更には、宇宙に文明が出て。
他の星系に迷惑を掛けるか否か、だ。
様々なデータを提示する。
ある神が言った。
「この生物は極めて攻撃的で独善的なのですわね」
「そのように見える。 既に信仰の類も持っているようだが、それを社会システムを悪い意味で維持するために使っている。 既得権益層を保護するための理屈としてだ」
「愚かしい。 社会の流動性を保たなければ文明そのものが弱体化する。 そんな事はあらゆるデータが示している。 この生物も、所詮考える事は同じか。 文明を作り出した時点で、滅ぼしてしまってもいいと思うのだが」
「……」
他の神の意見を聞きながら、判断を進める。
ただ、決めるのは一番偉い神だ。
宇宙の支配そのものをしている神は、会議の内容を精査すると、即座に連絡を入れてきた。
宇宙空間にその生物の文明が出るようならば、また会議を行う。
ただ、現時点ではそのままでいい。
それだけだった。
了解したので、そのまま監視に戻る。
急速に生物は文明を進歩させていくが、基本的に進歩するのは技術だけ。
思考回路は全く進歩せず。
生物としては、むしろスペックを落としていた。
それでいながら、その進行は身勝手極まりなく。
神として見ていて、呆れる程だった。
ただ、自分が担当している生物だ。
どれだけ呆れるような信仰をしていても、それはそれこれはこれ。
見守り続ける必要がある。
好き嫌いで相手を滅ぼすようでは。
それでは意味がない。
古い神と同じだ。
ましてや自分の似姿の生物を宇宙中にばらまいて、偉そうにするのは文字通り論外と言えるだろう。
監視を続ける。
大規模な集団での殺し合いをはじめる文明。
複数の文明が生じると、必ず殺し合いを開始する。
そして、別の文明を見下し。
殆どの場合は、相手を殺し尽くすまで止まらなかった。
これは生物として欠陥があるのではあるまいか。
そう判断する。
基本的に、バランスが悪い生物は滅びる運命にある。
戦闘力が高かろうが低かろうがそれはまったく変わらない真実である。
環境に適応する事そのものが大事なのであって。
その環境にある利を独占するようなことをする生物は、いずれ全てを食い潰して破滅してしまう。
ただその結果、その生物がいなくなって。またニッチがあくので。
爆発的に別の生物が環境適応して、新種が出現して行く事になるのだが。
これは、数万年ももたないな。
そう思いながら、神は文明を見続ける。
やがて、星中に拡がったその文明は。
安定した環境を良い事に、自分達を「万物の霊長」だとほざき始めていた。
呆れるが、それでも生物は生物だ。
自分がずっと見守ってきた星の生物である。
一応、逐一一番偉い神に連絡は入れる。
そして、来る時が来る。
宇宙に、文明が飛翔体を発射したのである。それは観測用のものであったが。同時に殺し合いのためのものでもあった。
やがて核融合の力をその文明は手に入れ。
殺し合いの加速は、度を超して更に進むようになっていった。
宇宙に文明が進出した結果、もう一度会議を行う。
此処からは、どうするか面倒だ。
もし他の星系。
特に生物がいる星系に進出出来る場合は、対策が必要になってくる。
とくに今見ている文明は。
他の文明と共存出来るような代物では無い。
同じ生物の別の文明同士で凄惨な殺し合いを続けるような代物である。
間違っても他の星系に出すわけにはいかないだろう。
「さっさと滅ぼしてしまえば良いだろう」
近くの星系を担当している神がいう。近くと言っても、光の速さで二千年程掛かる場所の星系だが。
今神が担当している銀河は、恒星の数だけで9600億。
直径は19万光年に達しており。
現時点で四百三十七の神が、それぞれ生物の存在する星系をそれぞれ担当していた。
今思念体を飛ばして会議をしているのは、その銀河でも近隣の星系の神だけである。
「それは私の権限では出来ない」
「それはそうだが、その生物を放置しておけば、明らかに他の星系に出て彼方此方で迷惑を掛けるぞ。 自分達のルールを他の文明に押しつけ出すかも知れない」
「そもそも宇宙に出られるんですの? 話を聞く限り、破滅に向かって突き進んでいるように思えてなりませんわ」
「……いずれにしても判断は最高神に仰ぐしかあるまい」
一番年上の神が言うので、それで納得。
すぐに、連絡を入れる。
まあ、この連絡は必須だったのだ。会議をしている神々皆が、話を聞くことになる。
一番偉い神は、簡単に一言だけ言った。
「もしも、本格的に宇宙進出を開始するようなら、「姿を見せて」やればいい」
「それだけで良いのですか」
「ああ。 それだけでかまわない」
「了解いたしました」
すぐに解散する。
姿を見せる。
確かに、下位次元で認識出来るように姿を調整する事はできる。だが、それをして何になる。
ただ、今まで一番偉い神の判断に従ってきたし。
指示が間違っていた事もない。
ともかく。見ていて宇宙に進出してくるようなら、姿を見せれば良いわけだ。ともかく、様子を見守る。
ふむ。
核融合の力を使って、文明同士で殺し合いを始めた。
それがどのような結果になるか分かっている筈なのに。
愚かしいと思ったが、止める事は勿論しない。
というか、はっきりいって。
地表を核汚染した程度では、星から生物の光が消える事はない。
今存在している、文明を構築している生物は滅ぶかも知れないが。五十万年もすれば星はすぐに別の生物で溢れるようになる。
それは、神にとっては一瞬。
だから、核戦争をしようとなんら興味は無い。
核戦争は、文明を構築していた生物の99.9パーセントを死滅させて終わった。
それだけではなく、彼方此方を放射性物質で派手に汚染もした。
文明を構築している生物の核戦争に巻き込まれて、多数の生物が絶滅に追い込まれたが。文明を構築している生物は、それで反省するどころか。
まだ、我が物顔で星の支配者を気取り。
各地で、傲慢に支配を続けているのだった。
まあ、どうでもいい。
記録は取っておくが。
それだけだ。
それから五百年ほどで、その生物は滅びた。最後に残っていた集団二つが、それぞれを潰すために核融合を使ったのである。
結果として両方が全滅。
かくして、文明は潰えた。
報告を入れる。
一番偉い神は、それを聞いても何の興味もない様子だった。まあ、宇宙全土を統括して管理しているのだ。
端から見れば、眠っているように見えるかも知れない。
それくらい、動きがない。
いずれにしても、どうでもいい。
まだ生物が全滅したわけでは無い。
恒星が超新星爆発を起こすようなことがあれば、監視はそこまでだが。
安定した恒星だ。
しばらくは、見守っているだけでいいだろう。
様子を見守る。
放射性物質が、どんどん半減期を迎えていく。その結果、放射線が減っていく。
焼け野原になった場所にも、どんどん生物が再進出していく。
文明が存在した事など、誰も気にもしていない。
文明を構築していた生物は、自分を万物の霊長だとかほざいていたが。
結局はこの有様か。
ただ、生物として平等に見なければならないのは神の立場としては当然だ。
環境の変化で滅びるのでは無く。
文字通り自滅した事に関しては。
神としては、色々思うところはあったが。
いずれにしても、文明など大した代物ではない。文明が出来てから、資料を調べて確認しているが。
どれもこれも独善的で。
万物の霊長だの知的生命体だの、都合が良いときは自分を特別視しておきながら。
都合が悪いときは自分も動物の一種だのと言う。
社会を構築しても、既得権益層は如何にズルをして利権を確保する事だけを考えるし。
法を作っても、既得権益層に有利なようにするのが当たり前だ。
そんな生物の、どこが知的で万物の霊長か。
まあ、どうでもいい。
既に滅びた生物で。
記録に残してあるだけの存在なのだから。
監視を続ける。
かなりの生物が全滅した。
隕石が落ちたときほどの被害では無いが、それでもかなりの大規模絶滅だ。それでもたくましく多数の生物が環境適応を開始。
放射線にある程度強い生物もうまれ。
想定通り。
五十万年ほどで、ほぼ文明が滅びる前ほどの賑やかさに、星は包まれていた。
喜ばしい事である。
ただ。やはり大量の放射性物質がばらまかれたという事もある。
どうしても、影響はある。
全体的に生物が小型化したな。
そう判断して、情報を一番偉い神に送る。
いつも、返事は無い。
ただ見てくれているのは事実だ。
だから、それで良かった。
しかしながら、一つ前と変わった事がある。神にとって、変わった事だ。それは、文明に不審を覚えた事。
それまではどうでも良かった。
だが、今は文明を構築する生物に対して、興味を感じなくなっている。
星全域に破滅をもたらした挙げ句、最後の最後まで文明を構築した生物は被害者を自称していた。
勝手な信仰をぶち上げた挙げ句、他の者の信仰を否定し。
それによって他の者を殺す事を何とも思っていなかった。
確かに、これは宇宙に出してはいけないだろう。
万年経ってもこの性質がなんにも変わらなかったのである。宇宙に出せば他の生物に散々迷惑を掛けた挙げ句。
それでも自己正当化を止めないだろう。
しばし、考え込んでいると。
既に放射性物質は分解され尽くし。
また、星は多数の生物が満ちる環境に戻っていた。
これでいい。
神はそう思った。
更に1000万年が過ぎた。
大規模な環境の変動は以降発生しなかった。ただ一つ、気付いた事がある。星から、何か微弱な信号が出続けている。
それは電波信号だが。
なんだこれは。
いずれにしても、他の星系には届かないように遮断はしてあるが。
調べて見る必要はあるだろう。
というわけで、調べて見る。
調べて見ると、地表から下、地下二千メートル程からそれは出ている。そして、調べた結果思わず言葉を失う。
滅びた文明が残していったものだ。
この年月を耐え抜いたのか。
数十年程度しかもたないような物質を量産して、それで生きているような文明だったのだが。
一千万年を耐えるとは、どういうことだ。
とにかく調査する。
調べた所、それは一種の計算機である事が分かった。
それも、極めて身勝手な、である。
内容は、地上の放射性物質の量、環境の安定を調べると同時に。他に知的生命体がいるなら、救援を求めるもの。
つまり星系外に向けて電波を飛ばしていた。
一度星の生態系に大量絶滅をもたらしておいて、被害者面で救援信号とは正直言って恐れ入る。
神としても、正直呆れざるを得なかった。
他にも調べて見る。
どうやら文明構築をしていた生物のDNAデータを保存していた様子だ。
時が来たら、地上に出て。そして既存の生物を駆逐し尽くして、DNAデータを下に文明を再構築する。
そうかそうか。
自分達であれだけの大量絶滅を引き起こしておいて、それでまた地上に君臨するつもりと言うわけか。
しかも調査用の電波の内容には。
他の生物が文明を構築していた場合のものもあり。
もしも他の生物が文明を構築していた場合。
駆逐するための準備もしているようだった。
なるほど、これは色々と度し難い。
とりあえず、一番偉い神に連絡を入れる。
そうすると、珍しく指示が即答で帰ってきた。いつもは眠っているように何もしないのに。
潰せ。
それだけが指示だった。
言われた通りに、即座に潰す。
同様の装置が、200箇所に存在しており。
それらの中には、兵器の設計図などが内包されていたり。工場の設計図などが内包されているものもあった。
これだけ無茶苦茶をやっておいて、それでもなおもまだ支配者を気取るつもりなのか。これが文明を構築する生物というものなのか。
呆れる。
そして、その愚かしさに、嫌悪を神は明確に覚えていた。
かくして、文明を構築した生物は、痕跡も残さず消滅した。
それでいいと、神は思った。
いずれにしても、このままだとこの星に最後の最後まで悪影響を与え続けただろう。だから、滅びて良かったのだ。
結果に神は満足する。
新しい生物が跋扈する星の様子を確認。
今の時点では、文明を構築する生物は存在しないとみて良い。ならば、それでかまわない。
星系にまた遊星が入り込んでくる。
今度は大型のガス惑星だ。侵入してくる角度が浅いから、それほど迷惑は掛からないので放置する。
ただ、幾つかの星系辺縁の星の軌道を乱していった。
その結果、隕石が生物のいる星を直撃。
また、大絶滅が引き起こされていた。
だが、それは仕方がない事。
大絶滅によって、また大きな影響を星が受け。環境が大きく変わる。
環境が変わる度に、食物連鎖の頂点がごっそりと抜け落ち。
生態系に大きな影響が出る。
環境が落ち付くまで十万年以上。
そして、環境が落ち着くと。
開いたニッチを埋めるために、多数の生物が環境適応を始める。それを、満足して神は見ていた。
3、再び起きるもの
完全に安定した星系。まだ寿命は四十億年ほど先だ。
神はその間も、ずっと連絡を続ける。
気になる事がある。
少しずつ、星に存在している水が減り始めている。
宇宙に流出してしまっているのが原因なのだが。それはそれである。星の環境が変わるのは当然の事。
いちいち干渉する事は許されない。
今は、かなり高温な環境が作られていて。
生物は大型化を続けており。
それは、星の歴史上最大のものだった。
記録を逐一神は取る。
そんなおり。不意に一番偉い神から連絡を受けていた。
「宇宙の寿命が見えてきた、ですか」
「この宇宙の寿命はあと800億年ほどだ。 その星系がなくなるのは40億年ほど先だからあまり気にしなくて良いが、意識には留め置いてほしい」
「了解しました」
いずれにしても、何か問題があるような話でもない。連絡を受けたが、言われた通り40億年後には滅びる星系だ。
放っておいてもなんら関係はないだろう。
問題は文明が生じた場合だ。
調べて見るが、何処の文明もだいたい同じだという結論が出ている。
とにかく利己主義の塊のような代物なのだ。
それが文明を作り出す。
生物は文明なんかない方が良いのかも知れない。
神はそうとさえ思う。
だが、その時が来る。
再び、文明が生じ始めたのだ。巨大な生物が闊歩する生物の星の片隅。細々と、だが。
文明が生じた。
それは確かなことだ。
しかも、今はこの星の歴史上、もっとも豊かな生態系が構築されているのである。それが無茶苦茶にされるのか。
少し懸念を覚えたが。
ともかく指示通りに動くだけである。
まず、一番偉い神に連絡を入れる。
そうすると、淡々と指示が戻って来た。
やはり、宇宙に文明が出るまでは放置するように。そういうことだ。だが、文明はあっと言う間に巨大化する。場合によってはあっと言う間に星を覆い尽くす。
それを知っていたから、不安を感じたのだが。
ともかく。今は見守るしかない。
いっそ、今のうちに潰してしまうか。
そう思う程、神は文明に対する嫌悪感を感じるようになっていたが。それでもこの星に生じた生命だ。
嫌悪感で、行動を変えてはならない。
そう判断する。
ともかく、観察を続ける。
案の定というか。
前に出現して滅びた文明と、同じような事をやり始めるその生物。姿も似ていた。収斂進化そのものだ。
本来だったら絶対に勝てないような生物を、テクノロジーで殺戮し始める。
そして、どんどん自分達のテリトリを拡げ。他の生物を、片っ端から殺して行くのだった。
別に、環境が変化したときなどには、ままあることだ。
問題は、また信仰を持ち始めたこと。
その上、自分達を万物の霊長で、神に選ばれた存在だとまた考え始めた事である。
こんな所まで前の連中に似なくてもいいのに。
そう思ったが。
既得権益層に有利なシステムである宗教を作り出すのは、どうしても文明を構築する生物が避けては通れない道なのかも知れない。
だとすると、文明そのものが駄目なのか。
知的生命体そのものがカスなのだろうか。
神は悩む。
いずれにしても、まだ見守るだけだ。特定の生物に肩入れするわけにはいかない。そうこうしている内に、星系に入り込もうとする遊星がある。
これは、まずい。
かなり大きな中性子星だ。
接近させると、文字通り星系が瓦解することになるだろう。非常に危険な天体である。
即座に対応。
握りつぶして、無力化する。
そして、銀河中心にあるブラックホールに向かうように。他の星系に当たらないように計算してから、軌道を変えた。
これでいい。
後はブラックホールに残骸が吸い込まれて終わりだ。
さて、星の観察に戻る。
やはりというかなんというか。あっと言う間に文明を持った生物は、星全土に拡がっていく。
そして文明をあちこちで作り。
殺し合いをはじめた。
その姿は、全くという程前の滅びた文明生物と同じ。
自分を知的生命体を称し始めるのも、また同じだった。
これは文明を構築する生物の宿痾か。
基本的にどんな生物も、ただ環境に適応するだけだ。それが文句なしに美しい。だが、此奴らはどうだ。
己のために勝手に何もかも書き換えて。
挙げ句の果てに、自分達を正当化する。
その理屈はあらゆる意味で我田引水の極み。
何となく、近くの星系の神が滅ぼしてしまえと息巻いていたのが分かった。
あの神は、前の宇宙から存在している神だ。
それだったら、文明が生じた星を担当し。
こうなるのを、見ていたのかも知れない。だとすると、あまりにもなんというか、愚かしい話だ
あの神だって、自分と同じように。最初は全ての生物を慈しんでいたのかも知れない。その考えを一瞬で変えてしまうほど、何もかも文明を作った生物は愚かしかったのだとすると。
その抱えている罪業は。
色々と、許しがたいと神は思った。
だが、それでも監視に留める。
無作為に宇宙進出をしないような星間文明の中には、干渉しなくてもいいとされるようなケースも希にある。
現在いる銀河には、そういった星間文明がよっつ存在していて。
かなり古株の実績がある神が、監視を担当しているそうだ。
神はまだまだ生まれたばかり。
名前も必要ない。
というのも、そもそも他の神と関わらないからだ。
一番偉い神の名前も知らない。
滅多に関わらないからだ。
名前というのは、多数の存在が緊密に連携を取るときくらいしか必要にならないのであるが。
それを端的に示しているとも言える。
ともかく、淡々と作業を進めていく。
この文明生物も、同じ過ちを繰り返すのだろうか。
今のままだったら。
高確率でそうなりそうだ。
案の定、凄絶な殺し合いが更に加速していく。前に滅びた生物よりも、更に殺しあいが苛烈に思える。
殺し合いをした後、共食いをするケースも目だった。
別に共食いをする生物など幾らでもいるのだが。
これはちょっとばかり珍しい例だろう。
他の文明と戦って勝ったら、生き残りを全て殺して食う。
そういう事を続けているのが分かる。
別にその行為自体に嫌悪は感じない。
ただ、DNAで繁殖する生物にとっては悪手だ。
案の定の事態が起きる。
DNAで繁殖する生物が、その遺伝子プールを狭めていったらどうなるか。すぐに生物として弱体化が進む。
優秀な遺伝子などと言うものは存在しない。近親婚を続ければあっと言う間に生物の集団は絶滅する。
その程度の事は分かっているだろうに。
他の集団を殺して回れば、当然の事ながら遺伝子のプールは狭くなる。そうなれば、待っているのは破滅だ。
壮絶な殺し合いを続けた挙げ句、最後の一つの集団が残った。
その集団は、既に相当に遺伝子プールが弱体化しており。生まれてくる子供の99パーセントに致命的な遺伝子疾患があった。
どうしてこうなったのか。
その生物は神に祈りを捧げる。
迷惑だから祈るな。
神はそうぼやく。
そもそも、祈る前にやる事が幾らでもあったはずだ。それなのに、此奴らのやってきた事はどうだ。
結局、その文明生物は核融合の力に辿り着く事なく滅び去った。
最後は文明すら維持できなくなり。
生き残っていた大型生物たちに追い立てられ。
言葉も文化も失って。
ただ食われて、滅びていった。
それを見て、神は何とも思わなかった。
どれだけこの生物が、自己正当化の挙げ句に他の生物を殺戮して回ったか。
まあ、当然の末路だな。
そう神は思った。
すぐに、失われたニッチを他の生物が埋めていく。
生物の基本は進化などでは無い。
環境への適応だ。
どうも文明を構築する生物は、それを根本的に勘違いしているように思う。環境への適応をしようとせず、環境を無理矢理自分に都合が良いものに会わせようとしているように思う。
二酸化炭素を酸素に変えていった原初の生物は、別に意図的にそれをやった訳でも何でもない。
だが、文明を構築する生物は違う。
資料を調べて見るが、文明生物の大半がこんな有様だ。
これは、確かに長い間神をやっていれば関わるのも嫌になるのも納得だ。
そう、神は思う。
ともかく、次の仕事だ。
文明生物が滅んだことを連絡する。
一番偉い神は、そうか、とだけ言った。
それだけだった。
少しずつ、星の水が減っていく。大気の成分も変化していく。それは仕方が無い事だ。どれだけ条件が良くても、星の環境は変わる。
時々隕石が落ちて物質が補給されるけれども、それはあくまで物質が補給されるだけの事。
別に根本的な解決にはつながらないし。
何よりも、無意味な干渉をするのでは。
あの愚かしい文明を作った生物と同じだ。
だが、それでも嫌悪感があっても。
平等に行動しなければならない。
古い神のデータを調べてみた。
自分の似姿の生物を宇宙中にばらまき、天使などと言う自分に都合が良い取り巻きを侍らせ。
何もかも自分の主観で判断して。
暴虐の限りを尽くす存在だった。
それは要するに、文明を構築する生物の大半と同じ。
出自については、よく分かっていないそうだ。今の一番偉い神が記録しているデータより古いからだ。
ただデータを調べると。
何処かの文明を構築した生物が、最終的に辿りついた存在である可能性が高いと言う話である。
だとすると、その文明生物は宇宙規模で迷惑をかけたと言う事か。
はっきりいって害悪でしかない。
生物の活動が鈍り始めているのが分かる。
この星の監視も、終わりが近付いているのかも知れない。
いずれにしても、最後まで監視をして、データを取る。
それでいい。
神の仕事はそういうものだ。
近くにある、生物が存在しない星系で超新星爆発が発生した。四光年先と至近距離である。
だから、ガンマ線バーストも強烈な放射線も来るが、全て防ぎ抜く。
今はまだ生物が存在している。
故に、こういう干渉は行う必要がある。
今見ている星の所属する星系の恒星が超新星爆発を起こしたら、その時はその時。干渉はしない。
だが、別の恒星系からの干渉で生物が滅ぶことがあってはならない。
はて。
なんかよく分からないが、これもルールだからか。
ただ、生物というものがそう簡単に生じないこと。
そして生物が生じた以上、それは保護する必要があること。
保護をする場合は、主観では無く客観で行わなければならないこと。
そうしなければ、古い神と同じようなカスに成り下がること。
それは、既に神にも分かっていた。
だから、淡々と責務を続けて行く。
それだけである。
見ている星の生物が、どんどん小型化していく。
栄養になる物質が減っている上に、暮らせる場所がどんどん少なくなっているからである。
環境適応といっても限界がある。
既に生物の一部は、内陸から撤退を開始し始めていた。
もはや生存できなくなりつつある地域が出て来ているのだ。
地下に存在している生物のプールも小さくなってきている。
星の内部熱量が下がってきているからだ。
星の活動が弱まり始めれば、それは生物の弱体を招く。文明生物が二度も誕生したこの星も。
その運命からは逃れられない。
だからといって、星に干渉はしてはならない。
主観で勝手な干渉をすれば、それは無惨な結果を招くだけなのだから。
それについては、文明生物の行動でよく分かった。
あれを宇宙規模で神の力でやれば。
それは古い神のように災厄を引き起こすし。
そしてあれが何処かの文明生物の成れの果てだと考えれば。
それにも納得が行く。
やがて、星は干涸らびていく。
生物は僅かに残るだけになり。やがて最後の一つの命が消えた。
最後は生物とも呼べないような、生物と蛋白質の中間だけが残っていたのだが。それもやがて環境による劣化で崩壊したのだ。
全ては終わった。
星にあった水は全て干上がり。
恒星が不安定に成り。
見ている内に、超新星爆発が起きる。
星系そのものが消し飛んで。そして、次に出来る星系は、長期間存在できるものではないこともはっきりした。
ならば、一度仕事は終わりだ。
宇宙の中心部に戻ることにする。
一番偉い神に、全てのレポートの提出を終えると。待機する。
そうすると、今までの感覚で二年ほどで、すぐに次の指示が来た。
神の感覚だと、こんな程度の時間はあっと言う間だ。
指示されたのは、別の星系の監視と管理。
今までとは知識という観点で、全てが違っている。だから、前よりうまくやれるかも知れない。
同時に文明生物には全く期待していない。
出現する度に、隕石が落ちるのと同じような劇的な変化を滅ぼし。星の寿命を明確に縮める。
それに生物全てを愛するのに、平等に接しなければならない。
そうしなければ、そいつらと同じになる。
この全てが。
神にとってはストレスになっていた。
新しく管理する事を指示された星系は、前よりずっと小さな銀河に存在していた。銀河の規模は恒星500億程度。
ただし所属する銀河団の物質密度が濃く、かなり活発に星が生成されている近辺である。
ダイナミックな天体現象が発生する反面、生物が誕生しにくいという欠点も存在しているが。
それはそれで。
任された星系は、そういった星がどんどん生まれている星域からは少し離れている場所にあり。
丁度いい恒星系が、今出現しようとしていた。
良い感じだ。
二重星になる事もなく、安定性もいい。
しかも一度超新星爆発を起こして再構築の最中らしく、物質には鉄以降の重い元素がかなり含まれていた。
生物が誕生するかも知れない。
そう思って、確認を続ける。
すぐ隣の星系にも、同じようにして神が派遣された様子だ。
どうやらそっちも生物が誕生する可能性が高いのだとか。
やがて、恒星の周囲の物質が衝突を繰り返し、星になっていく。
目をつけたのは、第三惑星。
なかなか良い環境だ。
これなら、生物が誕生するかも知れない。
だが、予想外の事が起きる。
生物は必ずしも、温度が高すぎず低すぎずの環境で出現するものではないと資料で知っていたが。
着目していなかった第四惑星で、生物発生の可能性があると理解していた。
すぐに様子を見に行く。
少し恒星から遠い事もあって、かなり寒冷な星だ。
だが、その星の地下にはかなりの熱量があり。
非常に巨大な星だという事もあって、豊富な水が凍り付いていたのだが。その水は熱によって液体化。
更に温められて対流し。
短時間で生物が誕生しつつあった。
これは、面白い。
観察を確認。
ほどなくして、珪素系の生物が誕生し始める。最初は生物と物質の中間から。やがて、物質では明確になくなる。
生物として自分のコピーを作るシステムもDNAではない。
それもまた、面白い話だった。
さて、この海中にある生物は、どう環境適応して行くのか。
他の星でも、生物が誕生するかも知れない。それはそれで、また面白い。
監視を始める。
流石に、新しい星系という事もある。
活発な活動をしている星系も近場に多い。
頻繁に星系外縁部に出向いては、ガンマ線バーストや放射線をさばかなければならなかったが。
別にその程度は苦にもならない。
ブラックホール程度だったら問題にもならない力も手にしている。
そしてそれは。
何かに暴虐を振るう為のものではない。
公平に接するための力だ。
そう、考えていた。
生物が第四惑星に生じてから十二億年後。
生物は、簡単には生じない。それを理解させられていた。
前に担当していた星だったら、生命はとっくに誕生していそうなのに。一向に第四惑星以外では生物が誕生する気配がない。
それなのに。前とは全く条件が異なる星で、生物が誕生している。
なるほど、これはかなり運が絡むのだな。
そう理解して、納得する。
神としても学ぶ事はたくさんある。
一応、既に生物が誕生するのはレアケースであることは、とっくに分かっているのだけれども。
それでも実例を目の前で見ると、それはそれで好ましい。
やがて水中だけに特化した生物が、発展を続けて行く。
とにかく巨大化が著しい。
これは、餌を確保するためなのと。簡単に体熱をさげないためなのだろうと判断して。逐一データを一番偉い神に送った。
程なくして、指示が来る。
分かっていると思うが、監視中の生物群が宇宙進出したらそれはそれとして連絡を入れてくるように。
分かっている。
そもそも、宇宙進出する気配もないが。
いずれにしても、巨大化した生物たちは、長いスパンで生きている。
餌は殆どの場合動物質のものではなく、水の底に溜まっているもののようだ。これも、以前監視していた星とは違う。
何もかもが興味深い。
文明が発生する可能性もなさそうだ。
生物はどれもこれも、基本的におっとりとしたコミュニケーションしかしない。これは文字通りの意味。
腐った文明で使われる、コミュニケーションというただのご機嫌取りでは無い。意思疎通の意味だ。
これは、凍った水の下の楽園だな。
神はそう思って。
この星の生物たちが好きになった。
いずれの生物も、前に観察していた生物とは、体の形態が悉く根本的に異なっているけれども。
それは嫌いになる理由にはならない。
文明生物は、自分の主観で。みてくれが気にくわないという理由で相手を種族ごと殺戮するのが当然だったが。
それと一緒になるつもりはない。
そんな生物は、滅びてしまえば良い。あっと、ちょっと本音が出てしまった。
ただ、生物には偏食傾向というものがあり。
味などが気に入った生物を集中的に食べるケースがある。
これはどんな悪食な生物でも同じなので。
要するに文明を構築までしておいて。
結局の所、実態はそういった生物以下。
それが文明生物の特徴なのかも知れなかった。
まあ、いずれにしても今の星の生物たちは見ていて落ち着く。縄張りを争うような事もない。
というのも繁殖方法が非常に限られているからだ。
元々熱量が限られている上に、外に進出しようがない。
これはどうしても、環境適応している内に理解出来てしまうことなのだろう。
だからこの星の生物たちは、様々な環境適応を試しつつも、繁殖という観点ではどうしても少数の子供を大事に育てて血脈をつなぐという結論に達した。
それでいいのだと思う。
生物の観察を続けて行く。
データは全て取っていく。
だが、楽しい時間というのは長続きしないものである。
億年単位の時間が、あっと言う間に過ぎていく神としては、なおさらだ。
珍しい事態が起きる。
どうしても生物が発生しなかった、同じ星系の第三惑星に。
生物が発生したのである。
そしてそれは。
以前嫌悪を抱いた、文明生物になりうるのではないかと予想させるものだった。
二酸化炭素主体の大気が酸素に切り替わっていく。
それを見て。
神は、判断を一番偉い神に仰ぐ。
一番偉い神は、淡々と指示を出す。
観察を続けるように。
それだけだった。
懸念は当たる。
二十億年ほどで、第三惑星に多細胞生物が出現する。それは炭素生命体で、神が最初に担当した生物に近い性質を持っていた。
爆発的に酸素呼吸をする生物が環境適応して行く。
穏やかな氷の下に住んでいる生物たちの害になるのでは無いのだろうか。
そう思う。
ただ、通常の生物が星の重力を振り切るのは基本的に不可能である。嫌な予感が加速していく。
この星系では、初期の段階でかなり上手く星の構築がいったこともあり。殆ど隕石の衝突は起きない。
これは環境に対する大きな障害が、星そのものにしか起因しないことを意味する。
そこそこの熱量を内包している星だ。
だから大陸移動は相応に起こるし。
それに伴って火山の噴火も頻繁に起きた。
それらは全てが全滅しない程度に生物を環境適応させ。修羅場をくぐらせる方向に持っていった。
生物全てを愛せよ。
それは神の役割である。
今の時点ではそれは出来る。
だが、どうにも。
神は不安になりつつあった。
ともかくとして、二つの星の観察を続けるようにと、一番偉い神からは連絡が来たので、そうする。
近隣の神々とも、情報を交換する。
新しく神が産まれる事は、あまり珍しく無いそうだが。
この星系の周辺は、環境が難しいと言う事もあって、一つ以上の星系を最後まで管理した神が多く集まっている様子だ。
勿論データは調べて知っていたが。
やはり、一つの星系に二つ以上の星で生物が発生する事はかなりのレアケースであったらしい。
八千光年ほど離れている星系を担当している神から、興味深い話を聞かせて貰った。
「古き神は知っているな」
「はい。 一番偉い神からも話は聞かされています」
「あれは元々地球という星出身の生物であったらしい」
「ほう……」
そうか、それは。
生物でありながら、どうやって高位次元を管理するにまで至ったのか。
少しばかり、興味深い所である。
話をそのまま聞く。
これについては、今までのデータを見た中にも、記録がなかった。或いは、一番偉い神が作り出した、最古参の神々くらいしか知らないのかもしれない。
「詳しく聞かせていただけますか」
「いや、私も直接誕生の瞬間を見たわけでは無いから、全ての情報を知っている訳ではなく、一部は伝手になるがそれでもいいか」
「かまいません」
「……分かった。 元々その地球という星の文明は、大した代物ではなかったらしい。 だが、一体だけ、特別な個体が突然変異で出現したそうでな。 元々は神と呼ばれる存在も、その突然変異が出るまでは存在しなかったそうだ」
確かに、天体現象の殆どは自然現象だ。
それについては、神が関与する必要もない。
そういえば、生物を大事にするという思考回路も、そもそもどこから来ているのかは疑問だった。
神々は生物に対して致命的な天体レベルでの破滅を防ぐように行動しているが、それは仕事と割切っていた。
それの要因が。
古き神にあるというのか。
「その古き神は、突然変異で出現すると、高次元の存在に成り上がった。 そして文明を構築した生物そのものの思想で、宇宙全域に介入を開始した」
「それはまた、不愉快な話ですね」
「その通りだ。 自分から見て美しいものは依怙贔屓し、自分から見て気持ちが悪いものは徹底的に絶滅させた。 自分に心地が良い言葉を発する天使を多数作り出して侍らせ、自分の姿に似ている生物を作り出し、「完璧な美」と称して宇宙中にばらまき無作為に繁殖させた。 更には、気まぐれでそれら生物に文明を与えた。 何が起きたと思う」
「混沌でしょう」
その通りだと、古参の神は言う。
これは、滅多に一番偉い神も口にしない事実だと言う。
古き神は、文字通り何でも出来た。
宇宙に初めて出現した高次元生命体だったからだ。
古き神の文明では遊戯でズルをする事をチートと呼んだそうだが。
自分の力をチートと称し。
好き勝手にあらゆる事をねじ曲げて、遊んでいたという事である。
つまり、確信犯でズルをしていたと言う事か、
客観性を失うと、どんな存在でもそこまで墜ち果てると言う事だ。
呆れたが。
今はそれよりも、話を聞いていくのが先である。
「宇宙が終わって新しい宇宙が始まっても、古き神の凶行は変わらなかった。 自分から見て美しいものだけで世界をみたし、醜い生物は全て排除すべきだと主張した。 そんな宇宙が数回続いた後に、今の最高神が出現した。 今の最高神は、古き神を愚かしいと判断した」
「妥当な判断でしょう」
「そうだな。 そして戦いになった。 何しろ敵が存在しなかった事もある。 古き神の手下として侍っていた天使やらも、古き神自身も、全てが滅びた。 まあ、なんでも好き勝手に自分の思い通りにしてきたような存在だ。 それに高次元の存在になる前には、戦闘そのものを経験したこともなかったらしいからな。 実際に同格の存在が出現して、本気で殺し合いを仕掛けて来た時点で、腰が引けてしまったらしい。 格下の相手に無茶な力をぶつけて「全能」などを気取っていた存在であったから、その末路も妥当だったのだろう」
「……」
全能ね。
一言で分かる矛盾した言葉だ。
全能のパラドックスという言葉があるが。それをどうしてもクリア出来ない。クリア出来る理論は存在していない。
「今の最高神は、以降同じような存在が出現しないように、干渉はできるだけ抑えるようにしつつも、監視することに精一杯だそうだ。 突然変異とはいえ、どうしてそんな存在が出現したのかは、今も分からないらしい」
「詳しいですね」
「それはそうだ。 我々古参の中には、元天使も混じっているからな。 私もそうなのだよ」
「そうだったのですか」
古き神は文明を構築した生物の、悪い所を全てかき集めたような存在だったらしい。
高次元生物になっても欲はそのまま。
客観も持ち合わせなかった。
自分がどれだけ愚かしい事をしているかも。
どれだけ不公正なことをしているかも理解出来ていなかった。
力があるなら何をしても良い。
そう言ってはばからなかった癖に。
いざ今の一番偉い神に追い詰められると、必死に命乞いをしたと言う。
天使であった古参の神は、それを見て呆れ。その麾下から離れることを決意したのだそうだ。
「我々も、主観で生物を判断する事があってはならない。 くれぐれも、気を付けるようにな」
「分かりました。 心に留め置きます」
「うむ……」
仕事に戻る。
今の言葉は、非常にためになった。
確かに、古き神と同じようになってしまったら何もかもがおしまいだと言っても良いだろう。
そんな事には、絶対にならない。
なってはならないのだ。
生物の観察を続ける。
危惧していたが。とうとう第三惑星に文明が生じる。それは、前に見た星の文明と同様で。
極めて独善的で客観性に欠け。
そして獰猛で残虐だった。
嫌悪を覚えるが、少なくとも宇宙に本格進出するまでは何もしてはならない。それがルールだ。
ただ、思うのだ。
静かに生きている第四惑星の生物たちを。
この第三惑星の独善的な文明が蹂躙したら。それは許しがたい事では無いのだろうかと。
勿論主観に基づいて行動してはならない。
それが分かっているからこそ。
歯がゆくてならなかった。
4、神の姿
一番偉い神にいわれていた事を実行に移すときが来た。
宇宙に文明が進出したら。
神の姿を見せてやるように、と。
第三惑星に生じた文明は、宇宙への本格的な進出を始めた。それは第三惑星にあった有用な物資を独占した挙げ句に食い潰した結果だ。
そのまま自滅してしまえばいいものを。
どういうわけか、宇宙進出を成功させてしまったのである。
今、かなりの数の文明生物が、宇宙に出始めている。それを、ただ見逃す訳にはいかなかった。
一番偉い神に確認を取る。
そして、言われた。
姿を見せるようにと。
だから、敢えて存在の次元を下げて。
姿が見えるようにした。
くしくも、収斂進化ということもあるのだろう。
文明生物は、前に見た二つの文明の生物とよく似ていた。
だから、神とは。
姿が似ても似つかなかった。
その日、宇宙ステーションに勤務していた者達は。何かとんでもなく巨大なそれが接近して来るのに気付いて。
やがて、恐怖に絶叫していた。
それは触手が無数に存在しており、円筒形の体には触手より多い巨大な目が存在していて。
宇宙を泳ぐようにして、此方に向かってくる。
その速度は、光速の20パーセントにも達しているのにもかかわらず。
どうみても、明らかに余裕を持ってゆっくり近付いてくるのだった。
悲鳴を上げた宇宙ステーションの船員達は、装備されているミサイルを全弾発射する。
だが、それらは何か得体が知れない存在に当たるどころか。
途中でくしゃりとつぶれて、消えてしまう。
宇宙ステーションから我先に逃げだそうとした者達は。
押し合いへし合いの末にエゴを剥き出しにし。
他の者を踏みつぶして脱出シャトルに乗り込もうとした挙げ句。
まだしがみついている者達を無理矢理振り払ってシャトルは飛び出し。ロケット燃料で多数の生存者を焼いた。
そのシャトルも無理矢理飛び出した事もある。
宇宙に無作為にばらまき続けたスペースデブリに衝突して。
粉々に消し飛んでいた。
宇宙ステーションがパニックになる中、誰かが神に祈りを捧げようと言い出した。だが、次の瞬間には、宇宙ステーションのすぐ側を得体が知れない巨大な何かが通過。
目が、宇宙ステーションを覗き込んだ。
その瞬間。
宇宙ステーションにいた者達は、全てが正気を失った。
地上からも、その得体が知れない何かは観測された。当然だろう。何しろ星より大きかったのだから。
そして、誰もがみた。
目を。
それによって、誰もが発狂した。
あらゆる兵器を叩き込んだが、あらゆる兵器が無駄になった。
ただ、向こうは見ているだけ。
それだけで、何もかもが終わった。
文明の火は消えた。
文字通り何もかも正気を失った者達は、その場で笑い続けたり。ふらふらと歩き続けたりして。
食事を取ることも忘れ。
それほど長い時間も掛けず、滅びた。
神は、文明の末路を見た。
ただ、自分と違う存在をみる。
それだけで、これほどの効果があるのか。
何となく、古き神が主観に凝り固まり、愚かしい行動と判断を繰り返した理由がわかってきた気がする。
自分の主観に反するものを、生物の範疇では怖れる。
ただ、それだけなのか。
そして排斥しようとする。
つまり、そんな精神のまま高次元生命体になってしまったことが、古き神の罪業。
滅びて当然だったのだろう。
むしろ、それが滅びるまでに、どれだけの生命体が蹂躙されたのかと思うと、非常に悲しくなってくる。
さっき滅びた文明生物も。
宇宙に出たら、どれだけの災厄を撒き散らかしたか分からない。
穏やかに暮らしているだけの第四惑星の生物たちも、「弱いから」だの「醜いから」だの理由をつけて、皆殺しにしていたのだろう。
愚かしすぎる。
そもそも、みただけ。
攻撃をしたわけでもなんでもない。
それなのに、勝手に怖れて勝手に攻撃をして。
それが効かなかったら発狂して全滅か。
文明というものには、そもそもとして根本的に欠陥があるのでは無いのか。そうとすら思う。
逆に言うと、今宇宙に出ている僅かな星間文明は、神の姿をみてもいきなり拒否反応を示して、攻撃をしたわけではなく。
更に勝手に発狂して全滅したわけでもなかったのだろう。
そういう文明は滅多に存在しないのだな。
そう神は学習した。
そして、思った。
自分の主観と、文明生物だった頃の思考のまま、高次元生物になり。
自分勝手でいい加減な理屈を振り回して宇宙中に災厄をまき散らした古き神は。
本当に駄目な神だったのだなと。
それは文字通り宇宙規模の災害そのもの。
滅びて良かったのだろう。
監視に戻る。
静かな気持ちで、以降は監視が出来そうだ。
そもそも、相手を勝手に主観で決めつけて、発狂して滅ぶような生物はそれまでだったということだ。
充分に理解出来たことで。
神の思考は、とても穏やかになっていた。
(終)
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