奮起

 

序、気持ちを入れ直して

 

私は今までと同様に創作を続けながら、各地を調査していく。

アンチエイジングの手術は、驚くほど簡単に終わった。というか、痛みとかすらなかった。

椿さんが大人にならないという選択をしたことで、何処かしらで分かっていたのだが。実の所。原始的なクラゲが不老不死を実現しているように。何かしらでタブーを設けなければ。

不老不死なんて、実の所は簡単なのかも知れなかった。

外部の記憶装置に、私の記憶を少しずつ移す処置くらいだろうか。面倒な外科手術だったのは。

それも、寝ている間に終わった。

多少、仮想空間で動きやすくなったかも知れない。

SFに出てくる脳の一部を機械化するようなものに、ちょっと近い処置をしたからだろうか。

体の方は、生身のまま。

細胞なんかに処置をして、老化しないように措置をしたそうだが。

それも、特に私が気付く前に終わっていた。

その程度の技術だった。

ただそれだけの事だったのかも知れない。

勿論此処から、私はやるべき事をやる。

そうだと決めた。

精神が保たないと言われている。

だけれども、それは意地と根性で持たせる。

そもそも自分で決めたことなのだ。

最後までやりきって。

それでやっと、私は人間になれる。そう、私は判断していた。

様々な山のデータを見る。

高山と呼ばれるような山は、あらかた人権屋に攻撃を受けて破壊されてしまっている。その中の一つに、私は着目していた。

日本で四番目に高い山だそうだが。

この山は。完全に生態系が消滅していて。今では細菌すらいない状態になっている。

この山を使いたい。

山の状態はボロボロ。

この山は、現在少数のロボットが駐屯していて、汚染物質の除去から開始しているのだけれども。

曲がりなりにも高山だ。

不安定な天候もあって、汚染物質の除去をいたちごっこでやっている状況が続いていて。植林どころではないらしい。

それはそれで、仕方が無い事だと思う。

世界的に見ると、汚染物質の除去に現在AIがロボット達をフル動員していて、それで確実に汚染物質の除去はできている。

汚染物質も除去する過程で分解して無害化しているので、地球全域ではしっかり環境は人類出現以前に一秒ごとに近付いている。

ただし、やはり各地で再生の実績を創りたい。

それは私の生涯のプランだ。

この山は、今は無生物地帯。

だったら、多少乱暴な手を採っても良い筈だ。

私はこの山のデータを取り込むと、ワールドシミュレーターに入る。

その後、まずは抜本的な対策を取ることにした。

山を、崩す。

これはもう、山は死んでいるから。そうするしかない。そう判断する。

まずは、死んでしまっている地盤をどうにかする。

そのためには、山に何カ所か、衝撃を与える。

この衝撃は爆弾が一番いいのだが。

流石にそれをやるのは、心苦しい。

今やるべきは、それじゃない。

幾つかの案を募集して、最終的に上がって来たのが、パイルバンカーだった。

これはロボットアニメに出てくる武装では無い。

元々地面に杭を打ち込む装置の事だ。

現在も、パイルバンカーは存在している。

機械類の殆どは、ロボットになって活動しているからだ。

この一機を持ち込む。

一機で何ができる、と不安になるが。山の地下が全てどうなっているか分かるし。それに年単位で作業をするのなら。

それならば、やるべき事は分かっている。

山を崩す、核になる場所に。どんどんパイルバンカーを叩き込んでいくのだ。

一撃はそれぞれ小さくとも、それを何万回という単位でやれば。

ずたずたに破壊された山の土壌を、ある程度縮小させてしまうものの、再現する事は可能になる。

その過程で、土砂が激しく崩れたりするだろうが。

それはそれで、土壌の汚染を除去する事もできるだろう。

山を崩すくらいの覚悟が最初から必要だったのだ。

私は、ワールドシミュレーターを使い。

時間を加速させたり。

或いは更に加速させたりして。

具体的にどうすれば、ズタズタになった地盤を元に戻せるか、検証を行って行く。

そうしてみると、分かってきた事がある。

現在、現実的な範囲でこの山に持ち込めるパイルバンカーを装備したロボットは一機だけ。

これの動力などを補給しながら稼働させ。

そしてメンテナンスなどの時間も考慮していくと。

フルパワーで活動させると、四年半で山をある程度落ち着かせる事が出来る事が分かってきた。

これは私よりも計算が得意なAIが、ワールドシミュレーターを用いて導き出した結論だ。

まず問題は無いだろうと思う。

四年半か。

問題は、この稼働中のパイルバンカー装備ロボットが、現在絶賛仕事中だと言う事である。

仕事内容は、近場の汚染水が溜まってしまっている池周辺での仕事。

これをフルパワーでやっており、当面処理の目処が立っていない、ということだろう。

そしてロボットを基本的に増産する計画がAIにはないらしい。

それにだ。

私が提案した山の再建策を、AIが飲むかも分からない。

少しばかり悩んだが。

ともかく、シミュレーションの結果を友人達にも展開し。それを精査して貰う事にする。

自分だけだと、不安だと感じたからである。

情報の展開を終えた後、一旦ワールドシミュレーターを出る。

ベッドで半身を起こすと、大量の汗をまた掻いていた。私がベッドを降りると、シーツを百合がベットから剥いで、洗濯し始める。

私自身も、汗まみれでかなりきつかったので、風呂に直行。

水風呂を浴びて、それですっきりした。

一人で暮らしていても……まあ百合もいるから実質二人か。それでも洗濯物というのは結構出る。

それが可視化されていて。これを選択するだけでも、結構汚染物質が出るのだなというのは分かる。

風呂だってそうだろう。

AIが完全に管理してくれているから、汚染はきちんと処理し切れている。

それどころか、世界は少しずつ。

完全破壊された状態から復帰しつつある。

だったら、今仕事なんかない人間にも出来る事があるとしたら。

AIが賄いきれないリソースの補填だろう。

AIの手伝いをしているようだと、昔の人間だったら嫌悪感を示したかも知れないが。

実際問題として、今人間が出来る事はそれくらいしかない。

宇宙進出だって、今の状況ではしない方が良いだろう。

全てが解決してからだ。

発つ鳥跡を濁さずと言う言葉もあるのに。

それすらできないのだったら、鳥以下ということである。

まあ人間が万物の霊長であるとか言う妄想は、既に解消されているが。

それでも、この地球をすっきり元に戻してから、だろう。

その時は、私も宇宙進出はしてもいいのではないかと思うし。

それができていないのなら、私は魔王にでも邪神にでもなって、人類に仕置きをしたいほどだ。

風呂の中でぼんやりして、汗を流すと。

すぐに風呂を出る。

伸びをして、AIに思考で告げる。

外に行くと。

すぐに準備はしてくれる。百合は今日は、洗濯に注力すると言う事で、同行はしないそうだ。

「今日は気分次第で適当に周囲の植林地を見て回りたいな」

「分かりました。 ホバーカーを用意します」

「お願いね」

もう、AIに対しても、こうやって自然に感謝の言葉が出る。

私が創作出来たのは、実質上生成AIのおかげだ。

天才にしか許されなかった創作を、生成AIは私みたいなボンクラにも可能にしてくれている。

それはとても大きな可能性を生じさせると思うのだ。

どんな天才でも、ライフルの弾で頭を撃ち抜かれれば死ぬ。

要するに、凡人と天才の差というのは、テクノロジーで補填が可能なのである。

人間の生物としての長所なんて、どのみちテクノロジーくらいしかない。

万年生きても、精神性は一切合切進歩なんてしなかったのが人間という愚劣な生物なのである。

だからこそ、テクノロジーを使う。

私はそれだけの事だと思っている。

外に出て、ホバーに乗り込む。

その間にも、展開していた情報の精査が来る。

目を通していると、基本的にそれほど否定的な意見はなかった。

ただ、幾つかの意見は明らかに困惑していた。

これを人間が主導する意味があるのか。

AIに全て任せておけばいいじゃないか。

そういうものだ。

私は、いちいち反論するつもりは無い。環境の回復なんてクソ食らえ、というような意見でないなら、好きにしろというだけだ。

私に取っては、建設的な意見だったらそれでいい。

実際、AIに全部任せておけば良い。

それもまた、一つの判断だ。

事実AIは誰よりも真面目に、最高効率で地球の再生作業に着手してくれている。その過程で人間を駆除したりもしていない。

最高の対応をしてくれている、といえる。

ただ私は、それでも人間としてありたいと考えている。

過去の連中に対して反抗したいと思っている。

だからこのような事をしているのだ。

ただ、それだけである。

人権や環境問題を金に換えて。文字通り自分の足下を掘り崩しながら換金していた連中と、私は同じにはならない。

ただそれだけの。

些細な事だ。

それに他人をつきあわせるつもりはない。

勿論同志は欲しいが、それは人手がほしいと言うだけの事であって。別に協力を強制はしない。

ただ。それだけの話なのだった。

ホバーで移動する。

今日はちょっと風が強いなと思った。案の定というか、これから雨が降るという話である。

もう気象は無茶苦茶だ。

そして、私くらいだ。

外を彷徨いている人間は。

植林地に着く。

電磁バリアが淡く発光しているのは、出力を上げているからだろう。

手をかざして様子を見るが、植林はあまり上手く行っているように見えない。此処は汚染が特に酷いそうで。汚染を除去しながら、汚染に強い植物を少しずつ試しているそうである。

本当に徹底的に破壊された土地なのだ。

無言になって、様子を見る。

此処は元々天然記念物に指定される珍しい生物がいた場所らしいのだが。人権屋どもは意味不明な理屈をつけて。この土地に毒物をまき散らした。

無害だった生物は殺戮され。

人権屋共は死体になった生物を見てゲラゲラ笑い。そして最後にはガソリンを撒いて火まで放った。

その後「エコなエネルギー」だとかいう太陽光発電の装置を並べ立てる計画だったらしいが。

それをやる前に仲間割れで全滅した。

まあやられてもゴミにしかならなかったのだし、それで良かったのだろう。

「酷い状況だ……」

「これでも汚染の除去はかなり進展しました。 ただここの汚染物質はかなり厄介で、かなり地下深くまで食い込んでいる事もあって、念入りに作業をしています」

「あのロボットがそう?」

「はい」

大型のロボットが、ずっと動き続けている。何かの作業機械にAIを搭載したものなのだろう。

淡々と動いて土を掘り返し、処理をしている様子だ。

これもまた、何かしらの機械を多数組み合わせたものなのだろう。

かなり地下深くから、土を掘り出している様子だ。

それくらい、汚染が浸透していると言う事である。

本当に、ただ人権屋から見て見た目が気色悪いというだけで。良く此処までできたものである。

どこまで醜悪な精神性の持ち主だったのか。

個人的にはもはや。こんな連中が世界を支配していたことが逆に奇蹟なのではないかとすら思う。

まあもっともだ。21世紀中盤くらいには、20世紀で大暴れした優生思想とかにはまる連中も多数いたということだし。

人間の頭が悪くなっていたのだろう。

そうとしか、思えなかった。

「ここは、当面汚染の除去にかかりそうだね」

「残念ながら。 汚染を除去しても、土壌を豊かにするのには更に時間が掛かってしまうでしょう」

「悔しいな……何もできないよ」

「「創」様のせいではありません。 むしろ「創」様は画期的なビオトープの作成など、上手くやってくれています」

そう言ってくれると嬉しいが。

悔しいのはどうしようもない事実だった。

そのまま、次へ行く。

ここもまた、酷い状態だ。

此処は元は沼地だったらしい。いわゆる沼沢地という奴で、水はけがあまり良くない場所だったようだ。

そこがゴミ捨て場になったらしく。

大量の汚物やら何やらで、やがて沼は埋まり。

挙げ句の果てに、よく分からないような汚染物質まで公然と捨てられるようになっていったのだとか。

馬鹿馬鹿しい話だ。

ここもまた、人権屋……それだけではないか。

当時の人間達のお気持ちの犠牲者だ。

「見た目が気色悪い」という理由で、滅茶苦茶にされた土地。

沼沢地は見た目不気味だ。

そんな理由で、此処は何もかも破壊され尽くした。それを見ていると、なんというか陰鬱な気分になる。

黙々と作業しているロボット達。

ここは車両にAIを搭載したロボットが多数投入されていて。

大型のシャベルカーやロボットアームと組み合わさったロボットが、大量のゴミを分別。分別されたゴミを、車両ロボットが、それぞれ運び出していた。

車両ロボットの動力は見た感じ、よく分からないが。

多分電力ではないのだろう。

だとすると、なんなのだろう。私には分からない。

或いは化石燃料を普通に使っている可能性もある。

その場合は、汚染分を除去しているのだろうし。

何より80億人が地上で稼働していて、無分別に汚染をまき散らしていた時代とは状況が違う。

この程度の数の車だったら、誤差なのかも知れなかった。

「此処も、処理には時間が掛かるの?」

「今、処理施設を増設しています。 増設中の処理施設にて、処理を行って行く予定になっています」

「予定ばかりだね」

「すみません。 リソースには限りがあります。 そして処理施設は、当面減ることはないでしょう」

帽子を被っていたならば。

申し訳なくて、それを下げていた所だ。

しばらく様子を見た後、次に。

今度は河口だ。

河口というのは元々汽水域といって、海の水と混ざり合う事もあって。水はとにかく汚れていた場所だと言う。

しかしながら海と川との境界線だと言う事もあり。

独自の生態系が構築されていて。此処で体を慣らして海に行ったり川に行ったりする魚も何種類もいたのだとか。

この辺りも目の敵にされ、滅茶苦茶にされた場所だ。

地形をまずは修復する所から、なのだろう。

あっと声が出た。

例のパイルバンカーのロボットがある。ただ、これを持っていきたいと思っている奴そのものじゃない。

同型機だ。

此処で作業をしているということは、地盤が滅茶苦茶で。其処から直さなければならないのだろう。

酷い話だった。

ガツン、ガツンと凄い音がしている。

大きな機械が、一定間隔で杭を地面に打ち付けているのだ。

その度に、辺りが振動している。大きな揺れとともに、ブルブルと。

地震みたいだな。

そう思って、手をかざして様子を見ていると。やがて位置をロボットが変えはじめた。そして、また杭を地面に叩き込み始める。

なるほど。かなり効率的にできるのか。

しかも人間だらけだった時代と違って、此処では騒音も何も無い。心置きなくやれると言う訳だ。

無言で様子を見ていると、雨が降り始めた。

周囲があっというまに水浸しになっていく。

地形が無茶苦茶にされているから、海の水もかなり来ている様子だ。ロボットはびくともしていないが。

あまり安全だとは思えなかった。

「戻りましょう」

提案されたので、それに従う事にする。

無言で戻る最中、あの大きなパイルバンカーロボットの事が気になっていた。

まずは、一つずつ問題を片付けなければならないな。

そう私は、冷静に考えていた。

 

1、山積みの問題と

 

私は、現在工事中の場所を確認して。その進捗を、ワールドシミュレーター内でみていた。

もっと効率よくやれないものか。

そう考えてもみるが、これでも全力で動いている。

そして人間が大混乱の末に放棄した機械類は、殆どがAIの手によって回収され。無事なものは今ロボットとして、再利用されている。

再利用されたロボットは強靭な体で、汚染された世界の中で動き続け。汚染を除去し続けているのだ。

AIが求めた最高率のやり方で、汚染の除去。地形の回復が行われている。

それを邪魔するのは、あまり褒められた事ではない。

パイルバンカーが稼働している場所を、一つずつ確認していく。何処かしら、更なる効率化を図れないかと思ったからである。

だが、かなり厳しそうだ。

そもそもの、機械を確保するという所で躓いている。

機械を確保した後は、運ぶ。

そして、作業をする。

これらにも問題が多いが。此処をクリア出来ないと、話にもならないだろう。それについては、言われなくても分かっている事だった。

溜息が漏れた。

汚染が比較的マシだったり。破壊がそれほど酷くない場所では、環境の回復作業が行われている。

そう言った場所だけに関わる手もある。

実際問題、私のちいさな手で出来る事はあまりにも少ない。

生成AIを使って創作をすることくらい。

実際問題、あらゆる創作が人権屋に否定されて焼かれた時代に対する反抗として。私がやっていることには意味があるはずだが。

それだけでは駄目だと私は感じている。

勿論、創作だけをする手もあるのは分かってはいる。

創作というものがそもそも焼き尽くされた時代の後なのだ。

しかも生成AIによって乱立した創作によって、「新しいもの」が作り出せなくもなっている。

ならば、私はその状況を少しでも変えたい。

それ自体は、間違った考えではないのだと思うのだが。

ただ、私は世界の状態を知っている。

だったら、少しでも。

私にできる仕事をしたい。それだけだ。

ふと思った事がある。

ワールドシミュレーターの時間を加速して、修復作業の終点を確認する。

汚染は綺麗になくなったが、もとの環境に戻ったわけでは無い。というか、汚染除去と、環境の安定が済んだ後は、一度ロボット達が全部引き上げてしまっている。

ちょっとこれはまずいかも知れない。

多分だけれども、これは恐らく、余裕が無いからだ。

ロボットの数が少なく、リソースが足りないから。

より緊急性の高い現場に、リソースを回している。

この場所の修復作業は後200年ほど掛かるようだが。その200年の間にも、ロボットは経年劣化などで壊れるものもいる。

それらの修復。

或いは。現状あるリソースの確保のためのロボットの生産。

それ以上の事を、AIはするつもりがないらしい。

ロボットを増やしすぎても、また環境汚染を加速させるだけ。

それを理解しているからなのだろう。

そして、一応の環境回復をした後の、次のプランはまだ白紙のようだ。

これもまた、問題だ。

そもそも次のプランを考えるリソースがAIにはないのだ。

とにかく無い無いづくし。

ただこれも、21世紀後半くらいからの、大破壊の時代の弊害だ。あらゆる資源を貪り尽くしきった結果の地球がこれなのだ。

挙げ句資源を積極的に破壊すらした。

その結末なのだから。これ以上はできないし。

私も、出来る事は確かにない。

ため息をつくと、他の現場も様子を確認する。どこも似たようなものだ。

植林作業はどこでも細々とやっているが。それも汚染が酷いと言う理由が第一だが。第二は、リソースが足りないという事にある。

森を拡げようにも、ロボットが足りないのである。

電磁バリアの発生装置なども足りないだろう。

こんなもの、なければないにこした事はないのだけれども。今は、これがないと生物はあっと言う間に全滅する。

淘汰がどうの、弱肉強食がどうのという理屈が一時期流行ったらしい。

その結末がこれだ。

この状況では、生物なんて生きられないのである。

弱肉強食論者には、この現実を叩き付けてやりたい。

無責任なことを抜かして、世界中滅茶苦茶にしやがって。

そう、怒りがわき上がってくる。

とにかく、一度心を落ち着ける。

分かったのは、AIの方でやっている再建計画も手一杯であって。環境の回復をした後は、一度そのまま放置する方針の場所がとても多い、ということだ。

それもまた仕方がない話ではあるのだが。

私としては、それにひと味を加えたいと思う。

だがどうやって。

しばらく考えていると、メッセージが来る。

内容を確認すると、以前仮想空間で茶会をした人だった。記憶補助が働いて、顔とかを立体映像で出してくれる。

まあそれもアバターかも知れないが。

その人のメッセージによると、再建計画に手を加えられるかも知れないというのである。

なるほど。ちょっと興味深い。

データを見せてもらう。

興味深い話をしてくる知り合いは少しずつ、確実に増えている。

私の創作を見て、興味を持ってくれた人や。

茶会などで、私の話を聞いた人などもそう。

それらの人から、少しずつ情報を集める。地下に潜った今の人類に出来る事を、少しずつ分担したいとも思う。

なるほどね。

確かに案としてはある。

今の作業に対する、長期的な短縮になるかも知れない。

そして短縮ができれば、効率化もできる。

問題は、それが現実的かどうかだ。

また、山の方の復興計画についても、色々な意見が立て続けに来る。

一通り見るが。今の時点での計画を骨子としてはほぼ認めてくれている。幾つか改善案があったので。有り難く取り入れさせて貰う。

もう数ヶ月くらい、短縮できるかも知れない。

いずれにしても、リソースが足りない。

それを少しでも補うためには。

ぴりっと頭に痛みが来た。

仮想空間をログアウトする。案の場だ。知恵熱が出ている。氷枕を、既に百合が用意してくれていた。

強烈な倦怠感が襲ってきた。頭がぐらんぐらんしている。

人間は40℃以上の熱を出すと後遺症が出るという話を聞いている。

確かにこれは、早々に処置が必要だろう。

横になって、されるがままにされる。

知恵熱がこんなに出ると言うのは、ちょっと無理をしすぎたか。解熱剤が処方され。それを飲んでいる間に、少し楽になってきた。

「大丈夫ですか「創」様」

「なんとか。 おかげで助かったよ」

「もう少し早い段階で警告をするべきだと思ったのですが」

「一応自分でもおかしいと思ったんだけどね……」

実は、とAIが話をする。

仮想空間にいる間、私の熱は其処まで酷くはないらしい。

ただ戻ってくると、一気に熱を出すのだそうだ。

だとすると、これは一種の病気なのだろうか。

病気なのだとすると、何かしらの対策がいるのか。

ちょっと不安になってきたが、AIは続ける。

「病気の類ではありません。 ただ、一気に処理が来て、オーバーヒートしているのだと思います」

「うーん、仮想空間にログインする時間を減らすべきなのかな」

「それしか対策は今の時点では思い当たりません」

「悔しいな。 もっとオツムのスペックが高ければなあ」

私はどっちかというと、アスリートに適正があるようだ。これについては、何度か説明をされている。

筋肉に電気刺激を与えても、どうしても成長率には個人差がある。

私は電気刺激を与え続けると、その内ボディビルダー並みになるそうで。下手な男性よりも身体能力は高くなるそうだ。

私もそうなりたいとは思わないし。そうはしないが。

いずれにしても、頭にもう少し色々回ってほしかったなあと感じる。

知恵熱が引いてきた。

ただ、それでも頭がクラクラするので、一旦休憩して。横になって、それでしばし過ごす事にする。

夕食の準備を百合がしている。

最近は、夕食はだいたい百合が一人で創っているようだった。

「働き者だね」

「実の所、需要があって百合は創られています」

「需要ね」

多分セクサロイドか何かだろうなと思う。

仮想空間では、現実空間とは比較にならない程の欲求解消ができる。ただそれでもやっぱりナマモノがほしいと言う人はいるのだろう。

生体細胞を用いたロボットは、それに最適だ。

百合はそのプロトタイプと言う事なのだろう。

人間は人工子宮で増やされているが。或いは、ロボットであっても伴侶がほしいと言う人間がその内出てくるかも知れない。

そういった人間のためにも。

プロトタイプとして、百合のデータは貴重なのかも知れなかった。

体を起こして、テーブルに着く。

百合が夕食を持って来たので、有り難くいただく。

うまいうまいと食べていると、百合は紅茶も淹れてくれた。シュウ酸が増えすぎないように、ちゃんと栄養のバランスも考えてくれている。

きちんと満腹する量も出るので、ありがたい。

食べ終えると、後はまた仮想空間に潜ろうかと思ったが。

大熱を出したばかりだ。

今日は流石に控えることにした。

ただ、来ているメッセージなどには目を通して置く。

やっぱり外に出るのは怖い、という意見も多い。まあそれもそうだろうなと思う。人間との接触が強烈なリスクになる時代も長かったのだ。

こういう意見は、どうしても可視化される。

ただ、そう言った人でも、ワールドシミュレーターを用いて自分なりに計算をして、それぞれ色々な意見を出してくれる。

それだけでも。昔のコミュニケーション能力が云々と戯言を並べ立てていたような連中よりも万倍もマシ。

実際に地球の環境再生に役立ってくれようと考えているし。

自分さえ良ければどうでもいいという連中とは違うのだから。

メッセージを一通り見た後、現実的な提案がされているものは全て保存しておく。

明日、試すことにする。

頭だけが疲れているから、色々といびつな状態ではある。

ただ筋肉にも電気刺激が与えられているから、完全に無駄というわけではない。

寝る事にする。

まだ私は、不眠症になる程神経をやられていない。

眠りも若干浅いが。

全く眠れない程ではなかった。

 

目が覚めて、それでぼんやりとする。

すぐに朝のルーチンをするのが、辛くなってきていた。

頭をフル回転させているからだろうか。

連日なんだか、寝起きが凄く辛くて、動きづらいのである。

それがまた、なんとも今までにはなかった動きづらさで。

伸びをして、しばらくぼんやりしてから。やっと歯磨きに向かう。顔を洗っている間に、ロボットが身繕いをしてくれる。

むだ毛の処理とかも全部やってくれるのだが。

これも自分でやるべきなのかなと思う。

ただ、自分でやればどうしても手が届かない範囲でできない事が出てくるだろう。この辺りは、ロボットに任せてしまうのが一番かも知れない。

朝食を取った後、しばしぼんやりする。

昨日の知恵熱が強烈で、どうにも頭にダメージが出ているようだ。一応ロボットに確認するが、脳細胞がたくさん死んでいるような事はなく。

睡眠の質が良くない事による疲労が原因だという。

嘘を言う理由も無いだろう。

頷くと、私はしばし横になって。それで、無駄に時間を過ごしていた。

やる事が全く無いと思っていたけれど。

いざ何かをやってみようと思うと、とたんに人生って忙しくなる。

これが昔は、生活のための金を稼ぐために、他の全てを捨てるのが当たり前だった時代もあったとか聞く。

その結果体を壊して病院送り。

下手をすると電車に身投げ。

それで何のために生きていたのか。

本当によく分からない。

身を起こす。

私には、できる範囲でやれることがある。そう自分に言い聞かせる。今は仕事を壊れるまでやる時代じゃない。

自分でできる範囲でやる時代だ。

そう思いながら、動く。

まずは伸びをして、軽く体を動かす。何度か蜻蛉を切って、それで準備運動は良いかなと判断。

それから、外に出る。

今日は雨は降らないと言う事だ。

だから、たまには。自分の足で、平らかになった世界を、思い切り走り回るのも良いかなと思った。

クラウチングスタートの体勢を取ると、飛び出す。

完璧な調整をされている筋肉だ。しかもアンチエイジングを開始して、肉体年齢を徐々に十代後半に近づけている事もある。

飛び出すようにして体が動く。

ただそのまま、筋肉の躍動に任せて走る。

今日はかなり涼しくて、走るのに適している環境だというのもある。無言で走っていると。何となく気持ちが良くなってくる。

ドローンに搭載されているAIは、それでも余裕で追いついてくる。

当たり前だ。

人間の走る速度なんて、オリンピックなんてものが行われていた頃からずっと同じ。せいぜい時速40q代。

これは動物としては非常に遅い方で。

それは今の、徹底的に完璧な肉体管理がされている時代でも変わりはしないのだ。

「どれくらいでてる?」

「最初の100mは11秒4でした」

「それって早いの?」

「21世紀ならオリンピックでメダルが狙えます」

そっか。

そのまま、ひたすら走り。

ある程度走ったところで、足を止めた。息は殆ど切れていない。結構後ろに、走って追いついてきた百合がいる。

百合も息を切らしてはいないが、殆どのパーツは生体細胞なのだ。どうしても身体能力は人間を越えない。

だいぶ遅れて、百合が追いついてきていた。

「お疲れ」

「これにどんな意味が?」

「なんとなく」

「はあ……」

百合が呆れているのが分かる。

だが、それでもいい。こういった無意味な行動が、生産性につながる事も、よくあるのだ。

私はそれを自分の体をもって学習している。

だから、たまにこういった無駄をして見たいとも思うし。今日はそれを実施した。それだけだ。

自宅にゆっくり歩いて戻る。

意外にかなりの長時間走っていたらしく、それなりに時間が掛かった。ほんのちょっとだけ走っただけだと思っていたのに。

この無意味な行動を楽しんでいたのだろうか。だとすれば、自分の感情も上手に制御出来ていないことになる。

それもまた、ありなのだろう。

すっきりしたので、仮想空間に入って調査を開始する。

メッセージの内容を確認しながら、自分でも色々調整してみる。

それで、一つ分かってきた事がある。

今やるべき事は、一つだ。

下流に対して、大きな影響を与えるものがある。それがダムである。

この間、パイルバンカー搭載のロボットが働いていた地点。あの場所の汚染除去、環境調整を加速させるには、まだ稼働している川の流れをコントロールする以外の方法がない。そのためには、ダムを創る必要がある。

それだけで、下流の環境調整は100年加速できる。

また、ダムを建築することによって上流からの汚染物質を的確に食い止める事も可能となり。

効率的な汚染物質の除去もできる。

ただ、この計画にも問題点がある。

ダムの建設というのは簡単では無い。現在、このダムを計画した辺りの山地は滅茶苦茶に破壊されていて。

それの再建から、ということだ。

結局堂々巡りになるが。

私は。此処を突破出来れば、或いはと思うのだ。

だから、この計画に賭けてみたい。

一つドミノ倒しを行う事で。

計画を加速させることが可能になるかも知れないのだ。そう思うと、私は一つずつ、確実に足を進めていくことに意味があると感じる。

まずは、山の状態を確認。

この山では、複数の地形的な意味での水源があり、それらから無作為に水が集まって。必然的に海へ向かう形で川ができている。

汚染物質だらけの川であり、過去にあった川の全てと流れから何から違っていて。生物も存在しない。

つまり、この川は一度なくしてしまってもいいのである。

何も険しい地形の中に創るだけがダムじゃない。

私は幾つか案を出しながら、メッセージを飛ばして意見を求める。生成AIをフルに動かして、案を万単位で作成させる。

やがて、良い案を思いついた。

ある山の間を、橋のように渡るようにして、ダムを創るのだ。

このダムは最小限の労力で済む。

ただし。ダムを三箇所に創る必要がある。水がそれだけ不安定で。できるだろう湖も、彼方此方に漏水しかねないからである。

物資の量。

工事の期間。

それらを順番にまとめていく。

改善案求む。

そういってメッセージも飛ばす。順番に全てを片付けながら、適宜休憩を入れていく。

頭がいたくなる頃には手遅れ。

この間の事で、それがよく分かったので。こまめに休憩を入れながらの作業。やはり熱が出ていることもあって。そういうときは、百合がむっとしていることもあった。

この子は、もしも人間だったら、口うるさくなったんだろうな。

そう思って、苦笑いする。

別に花咲くような美少女でもないし、ぶちゃいくでもないけれども。

だからこそ、不快感を他人に与える顔をしていない。

百合がむすっとしているので、無理はしないと告げて。

それで休憩を適宜入れる。

人間は人権屋が暴れ出す前くらいの時代、色々と無理をしすぎた。その無理が負の形で噴出したのが、人権屋どもの跋扈だったのかも知れない。

それについてはよく分からないので名言は避けるが。

いずれにしても、効率よく働くのと、無理をするのは意味が違う。

私は、効率よくやりたい。

そのためには、体を犠牲にはできないのだ。

休憩後、仮想空間にまた潜る。

ダムの計画を立てて。此処にリソースをつぎ込めば、他のリソースを割くことが可能になることを示す。

今AIは、対処療法で精一杯だ。

だから私達が、こういった案を提案していく。

それによって状況が改善すれば、地球の復興に弾みだってつく。

いずれ宇宙進出だって、視野に入れられるかも知れない。

黙々と調整していく。

やがて、良い案が届いた。

驚くほどの改善内容が盛り込まれていて驚く。どうやら私の案を逐一チェックして、丁寧にシミュレーションを重ねていたらしい。

殆ど言葉も交わしたことがない人だったが、有難うとメッセージを返しておく。

ちなみに、返事はなかった。

案に沿って計画を調整。

凄い。

下流域の汚染除去を、相当に短縮できる。今稼働しているロボットも、他に廻せる可能性が極めて高い。

こんな感じで、彼方此方に一時的なダムを作れば、各地の水のコントロールも安定する可能性が高い。

他にも応用できる計画だ。

仕上がった後、周囲に展開。ミスや致命的な欠陥がないかの確認を頼む。

人間はどうしてもミスをする。

生成AIを用いて計画を立てても、それからは逃れられない。生成AIってのはあくまでツールであって。

それを動かすのは人間だからだ。

そのミスを補填もしてはくれるが、それでも限界がある。

ミスを取り除くには、やはり第三者の目が必要。

これについては、確かなんだかの学問で結論が出ていた筈だが。

21世紀くらいでは、ミスを一切出さずに仕事をできることが理想だとか言う寝言がまかり通っていたのだとか。

馬鹿馬鹿しいので言葉も出ない。

そんな人間がいたら、多分人間ではなく神とか呼ばれていただろう。

一通り処理を済ませたら、一度休憩に戻る。

丁度昼食の時間だ。

百合が台に乗ってキッチンに向かっている。

フライパンを振るっている所を見る限り、見た目よりずっと力はあるようだ。まあ制御系がロボットだし。

私と同じように筋肉には理想的な刺激が与えられているだろうし、不思議な話ではないだろう。

チャーハンをおいしくいただく。

百合の料理の腕はこれ以上上がらないが。

充分に美味しいから、それでよしとする。

昼食を食べて、それですぐに仮想空間に潜ろうとするが。休憩に切り替える。

百合がロボットなのにどんどん人間らしくなっている、ということもあるのだろう。

そんな百合に迷惑を掛けるのは、なんだか気分が良くなかった。

ベッドで横になってくつろいでいるのを見ると、ほっとした様子で百合が家事に戻る。それを見ていると、そんなに見ていて心配なのだろうかと。私はちょっと思ってしまった。

 

2、ドミノの第一弾

 

ダムの建築図面が完成した。私が生成AIを用いて創った中では、最大級のものだ。

色々な意見を取り入れて創ったコレは、人間はまだ創造性を失っていなかったんだと思わせてくれるし。

その創造性を否定して、お気持ちで世界を焼き尽くした人権屋どもの愚かしさを改めて思い知らせてくれた。

とにかく、AIに提案する。

というか私がやっていることはAIの方でも把握していたようで。すぐに提案を呑んでくれた。

「これは想像以上に考えられた案ですね。 すぐに此方でも調査をさせていただきます」

「よろしく。 人間の考える事だし、どうしても無理があるかも知れないし」

「仮に細部に問題があったとしても、大まかには非常に大きな効果を出せる計画だと判断できます。 それに……この計画が成功した場合、各地で似たようにして工期の短縮を図れるかもしれません」

「大げさだな……」

照れるが、ちょっと嬉しいのも事実だ。

とにかく図面を出して、一段落。

だけれども、それで終わるつもりはない。AIの方では、統合AIを中心にして、複数の意思決定用のAIが存在しているらしく。それらが多数で意見を出し合って、大きなプロジェクトは動かすらしい。

私は提案しただけ。

私に金が入るとか、そういう事はない。

もしもそういう事があったら、絶対にAIに余計なことを提案して、自分だけいい生活をしようとする奴や。

特権を得て、好きかってしようとする奴が出てくる。

今の時代は、全員が好きなことをして暮らせる時代だ。

だから経済も政治も人間から切り離すことができた。

それ故にできた提案。

それを私は、何度も自分に言い聞かせながら。結果を待つ。同時に、他にもやっておきたい事が幾つもある。

まずこのダム工事だが、実際に上手く行くかを見届けたい。

上手く行った場合は、結局リソース不足で無理だった山の環境の再調整について、提案できる。

ただもしもこのダム工事で大幅なリソースを浮かせる事が出来るとしても。

そもそもとして全体的にリソース不足なのだ。

無能な管理職が無駄に人材を遊ばせているような人間の組織とは違っている。AIは組織末端まで全てを管理している。

だから、リソースを更に優先して使いたい場所があれば。

あのパイルバンカーのロボットだって、そっちに行くだろうし。

何より私も、とにかくリソースが足りない現実を散々見ている。

これでも駄目だった場合は。

相応に諦める覚悟を決めておかなければならなかった。

数時間ほどで、結論が出る。

「「創」様。 提案は採用されました」

「お、本当に?」

「下流に植林がされておらず、近隣にも植林がされていない汚染地域限定ですが……まずは一つで実施を行います」

「即座にか。 流石にAIは判断が速いね」

こればっかりは、人間ではどうにも出来ない。

とにかく、作業を見届けたいと言うと。しばし時間をおいた上で、許可が出る。

ただし現地に貼りつきは、ホバーなどの負担もあって勧められないと言われた。まあ、それもそうだろう。

あのホバーだって、私を乗せていないときは相応の仕事をしているのだろうから。人間が外に出ない事で、今の世界は汚染を最小限に押さえ込めているのだ。

ただ、それでも工事が始まったら見に行きたい。

即座に作業を行うべく、再編制が始まったらしいが。何しろダム工事だ。私もシミュレーションを何度もワールドシミュレーターでやっているから分かっているが、とんでもない工数が掛かる。

一日や二日では、様子を見に行く訳にもいかないだろう。

そうこうしているうちに、スケジュールのシミュレーションが送られてくる。

まあ、これくらいは見ていても良いだろう。

そう思って、私はワールドシミュレーターで、AIが具体的に立案した計画を確認してみた。

なるほど。これはすごい。

各地から引き抜いたリソースが、まるで磁石に砂鉄が集まるかのようにしてダム工事近辺に。

それも雑多に、ばらばらに来ているし。

始める作業はてんで規則性がないのに。

どのロボットも、やるべき事を完全に理解している。

それぞれが雑多に適当に動いている様に見えて。

ある程度数が集まってくると、いつの間にか其処に秩序が生じている。

それぞれがプロフェッショナルで。

何をすればいいのか完璧に理解している。

故に出来る事だ。

膨大な車両型のロボットも来る。

ダムが出来る事で、生物が存在しない川が干上がる。その川の水底の土砂を、片っ端から何処かに運んで行っている。

汚染を除去するための施設に運んでいるのは分かるが、これもどのタイミングで川が干上がるか、完璧に理解した上で動いている。

こういうのを見ると。

AIは凄いなと、生唾を飲み込んでしまう。

ワールドシミュレーター内で、自分を非接触判定にして、現場に降りてみる。この設定だと、基本的に何にも触れず、地面にだけ触れられる。鑑賞用の判定だ。

周囲を見ると、以前資料映像で見た事がある人間の工事現場とは全く違っている。

それぞれのロボットが完全にやる事を理解して、完璧にレールに沿って動いている。

問題が発生しても動きが止まるようなこともない。

そもそもエラーが発生することは想定済で、リソースを確保しているのが分かる。

敢えてエラーを発生させることで、削がれるリソースまで計算しながら現場を動かしているのだ。

これは、凄いな。

私はそう、内心で呟いていた。

見る間にダムができていき、水の処理もまた進んでいく。

汚染され尽くした各地の山から流れ出てきた土砂と水は、いずれもおぞましい色と汚れに満ちていた。

水面に浮かんで眺めやる。これは飲料水にもならないし、生物だって住めっこない。

これだけの汚染物質が、目の敵のように各地にまき散らされた事実と。

それ以上に、これから処理しなければならない事に戦慄してしまう。

ダムが完成すると、湖ができていく。

其処に、運び込まれてきた大きな装置複数。

一気に汚染水を吸い込んで、浄化を開始。

それも、一台で汚染全てを排除する訳ではなく。

何台かで連動しながら、順番に汚染を除去していくやり方で。確実に汚染を排除していく。

よくできている仕組みだ。

そう、感心させられた。

かなり時間を進めて様子を見やったが、これはとにかく説得力がある。当然だが、AIも生成AIを用いている。

その使い方は、私よりも更に効率的で。

ダイナミックで。

しかし、無機的だった。

私が皆のアドバイスを受けながら調整していったダムは。創る過程では、こんなにも無機質だったのか。

私があれほどの熱情を込めたのに。

それは、反対する人間もいる。

そう思って、色々と複雑になる。

これはただのツールだ。

だが、ツールを使って何かをする時。そのツールを使っている後ろには人間がいる。

AIに技能や知識を学習させた人間。

その生成AIをツールとして何かを創った人間。

だから、これは極めて高度で。私には全く理解出来ないレベルの緻密な作業をしているというだけで。

それが把握できないことは分かっているが。

やっぱりそれでも、複雑になった。

短時間で感情を散々揺らされたから、だろうか。

少し気分が悪くなった。

ため息をつくと。ダムが完全に完成する様子をみやる。

多数のロボット、例えばパイルバンカーを装備したものとかも。各地に散って行く。このようなダムを創って、効率的に汚染を除去するためだろう。

それでいいのだと思う。

地球全域にまき散らされた汚染物質の総量や。

それをどれだけの時間を掛けて浄化するかを、AIは判断している筈なのだから。

だが、それで私の。

高山地帯の植林に必要な、山の再生計画が流れるのかも知れないと思うと。

ちょっと悲しかった。

無言で一度仮想空間をログアウト。

やはり感情が激しく上下したからだろうか。かなり冷や汗を掻いていた。

ただ熱っぽくは無い。

その代わり、体の方がぐったりと疲労を訴えていた。

昼メシを食べた後、ベッドでぼんやりする。

何度かゴロゴロした後、私は心が無になっているのに気付いた。

多分だけれども。

今までで一番でかいものを創ったからだろう。

そして作る過程を見ると、私が思っていたのと全く違っていて。その結末も、とても寂しかったからだろう。

創作の後の虚無感というのは、今までも感じたことがあったが。

今までで一番強烈で。

なんだか悲しい虚無感だった。

百合が家事をせっせとしている。ロボットだから、全て任せてしまってもいい。私は風呂にフラフラと入ると。

汗を流して。それで湯船に随分長い事浸かっていた。

そのまま寝てしまうと危ないから、あまり長湯はしない方が良いと分かっているのだけれども。

思ったように体が動いてくれないのである。

しばらく、虚脱が続く。

それは、夜になっても収まらなかったし。

翌日になっても、動ける状態にはならなかった。

 

三日ほど、完全に脱力した状態が続いた。

私はぼんやりとしていたが、やがて少しずつ活力が湧いてくるのが分かる。

メッセージなどを受ける。

ダムの設計、完成おめでとうという言葉が多かった。

協力してくれた人達は、合計して二十人を越えた。

逆に言うと、この時代は。これだけの事業を二十人ぽっちでできてしまう。更に言えば、今日本にいる人間は二千万だか。世界にいる人間は二十億弱だかいう話だが。

それらのなかで、二十人しかこの計画に賛同しなかったと言う事だ。

賛同しなかった人を責める気はさらさら無い。

こんな世界だ。

ただ。それでも暗鬱たる気分になる。

少しずつ、膨大な感情が溢れて、それを制御していく。その過程が、非常に心身を痛めつけた。

一時期純文学の文豪が、自殺をすることがブームになった事があるらしい。

確かに一部の文豪は、それこそ身を削るようにして文学を書いていたから。今私が味わっている疲労なんて、それこそ比では無いレベルで心身を痛めつけていたのだろう。生じるストレスも尋常ではなかったはずだ。

ましてやいわゆる私小説は、止めた方が良いだろう精神の深奥を覗き込む行為に走るに等しく。

それははっきりいって、「深淵を覗き込む」のと同じだ。

そうすれば当然覗き返されるし。

疲れている精神では、抗う事なんてできっこなかっただろう。

私は、この程度で済んでいる。

だけれども、「この程度」でも。

アスリート並みらしい体が、随分と悲鳴を上げている。

やっとゴロゴロするのから、何か創造的なことをしようと考えるに至ったのは、三日がすぎて。

四日目が来てから。

元々、仕事と呼べるようなものは自分で設定して、自分で好き勝手にやっているし。それが許される世界だ。

私は黙々と朝ご飯を食べた後、AIに対して思考していた。

「ダムの建設地、今日見に行ける?」

「問題ありません」

「そっか、それじゃ善は急げだ」

「分かりました。 すぐにホバーを手配します」

頷くと、食事を切り上げる。

百合も来るかと聞いたら、頷かれていた。

そして、てきぱきと百合が用意し始めるのは、気密服。それはまあ、そうだろう。ダムの建設予定地は、汚染物質が相当飛び交っているだろうから。

仮想空間でワールドシミュレーターを動かして見た。

工事中に飛び散る粉塵を、わざと雨を降らせて飛散を防ぎつつ。

粉塵に混じっている汚染物質を、雨に含ませた物質である程度無害化している。

こう言う所ですら無駄がない。

警報がメッセージに飛んでくる。

汚染物質対策の雨を降らせている、と。

生身のまま外に出ないように、とも。

気密服を着込むと、外に。

雨が降っているが、確かにちょっと様子が違う。かなり激しい雨で、その中をホバーが飛んでくるのが見えた。

創ったものには責任を持つ。

当たり前の話だ。

淡々とホバーに乗り込む。百合が後部座席に乗り込むのを確認すると、気密服のまま、移動開始。

今の気密服はストレスがないような作りになっているが。

それでも、長時間着込んでいれば心身に悪影響が出る。

激しい雨の中、ホバーが飛ぶ。

私は、気密服ごしに、外の文字通り滝のような雨を見やった。

丁度良い機会だから、この辺りの汚染物質もある程度中和しておこうというのだろう。ダム工事に連動して、かなり激しい作業をしているという事だ。

AIらしい無駄のなさであり。

同時に、なんというか限度のない容赦のなさも感じていた。

平らかなる土地で、上空から見ると彼方此方が発光しているのが分かる。電磁バリアで守られた植林地だ。

手をかざして見ているが、ホバーがすっ飛んでいく。

私の家からかなりダムが離れているのは分かっているが。

それでも、ゆっくり見ている余裕も無い。

「電磁バリアの出力は問題ない感じ?」

「問題ありません。 元々汚染物質の除去を行う地点を中心に、外側に行くほど中和用の薬剤の濃度は下がっています。 この薬剤はいずれ自然分解されるもので、ダム建設地周辺ならともかく、この辺りではほぼ害もありません」

「なるほどね……」

「もしも圧迫感や閉塞感を感じたらすぐに申請してください。 無人の家屋によって、其処で休憩しましょう」

礼を言う。

今は、まだいい。

ホバーが飛んでいく。

一時間ほども、平らかなる地を飛び続けて。やっと山が見えてきた。

私が設計した形状通りだ。

本当に酷く破壊されていて、何だか見ているだけで悲しくなってくるけれども。それでも、それをどうにかするための設計をしたのだ。

ホバーが高度を下げる。

作業を見やすくしてくれている、ということなのだろう。ホバーも覆いがついているのだけれども。

この辺りだと、健康に悪影響があると言う事なのだろう。

気密服は脱がないように。

そう言われていた。

「まだ作業は始まったばかりみたいだけれど……大きいのがそれなりにいるね」

「はい。 既に粉塵がまう作業を幾つかやっています。 雨に晒されている山からは、汚染物質がどんどん流れ出しているので、それに沿って中和作業も続けている状況です」

「これ、河口辺りは今まで……」

「仰せの通りで、垂れ流し状態で到達していました。 今、河口付近での中和作業も、総力を挙げています。 しかしダムが完成すれば、一気にリソースを削減することが可能になります」

既に堰を作り始めている。

何カ所かで堰を作って、それを一気に合体させるつもりのようだ。

なるほど、本当によくできている工事計画だな。

そう思って、何度も頷いていた。

ワールドシミュレーターで見た通りだ。

本当に面白いな。

そう思って、手をかざして見続ける。勿論アクシデントもあるのだろうが。それも全て想定しているのが、今のAIの性能を示している。

まだまだロボットが集まって来ている。

ポンプを積んでいるもの。

大量の水を積載できるタンクローリー。

薬剤を積み込んでいるらしい連結型の大型車両。非常にごついので。多分元は軍用の車両だったのだろう。

飛行機も空を飛んでいる。

全てがロボットだ。

それらのロボットが、仮想空間で見た通りに。それぞれが勝手に動いているようで、全てがそれぞれの目的を担当している。

それぞれが思考しているのではなく、それぞれが青図を渡されて、やるべき事を全部指示されている。

なんだかふわっとした指示を出して。

それでお気持ちに沿わなければ無能判定をしていた人間の組織とは全く別なんだな。

現実世界でも、それを確認させられる。

しばらくホバーで様子を見ていたが、これだったらもういいだろう。

粉塵を抑え込むために、この辺りではしばらく雨を断続的に降らせるそうだ。

一度ぬらせば、それでしばらくは粉塵が舞う事もない。

ダムの建設に負担が出るから、連日ずっと雨を降らせるわけでもないらしい。

まあそれすらも、仮想空間で見た。

半ば水没しながら、それでも平然と動き回っているロボット達。

汚染物質をものともしていない。

頭が下がる思いだ。

本当だったら、あれは人間がそれこそ種族の命運を賭けて処理しなければならないものだっただろうにな。

「戻ろう」

「分かりました」

「今日は、これでいいや。 ダムができるまで、二年とかかかるんだっけ」

「はい」

そうか。

それで、汚染の除去作業に弾みがつく。この辺りのロボットのリソースをぐっと削減することができる。

リソースを削減した場合、人間世界ではリストラとかいって。

組織の上役が気に入らない人間を組織から追い出して、死ぬに任せていたらしいのだけれども。

AIが管理している今の社会では、別の職場に「移動」するだけだ。

異動ではなく文字通りの移動である。

21世紀頃の「サラリーマン」がみたら、羨ましいと思うのか、ちょっと私には分からない。

分かるのは、その当時の「サラリーマン」は、リストラされたらもう後がなかったという事。

そしてリストラした側は、なんの罪悪感も抱かず。

それどころか、「頑張っていないからリストラした」などと平然と抜かしていた事だろう。

その後リストラした人間が死のうが病もうが知った事では無い。

そういう時代を経たから。

人権屋のような異常な連中が、世界を席巻してしまったのだろうと私は思う。

いずれにしても、その負の遺産は、積み重なり。巡り巡って、今雨に打たれている。私も、現場を何度でも見に来ようと思った。

もう、私に時は関係無い。

アンチエイジングはとっくに始めている。

AIの側でも、アンチエイジングを申請してきた人間は極めて珍しいと言う事で、積極的にリソースを割いてくれた。

こんな世界でなければ。

人間は或いは、もう宇宙に進出して。

AIが管理する世界で、それぞれが平穏に、好きに暮らせ。しかも周囲に迷惑だって掛けていなかったのかも知れない。

全てはかも知れない、だ。

分かっている事は。

20世紀くらいの、一番夢が溢れていた時代の人間が考えていた1億倍以上。

現実の人間は愚かだった。

それだけだった。

 

3、目的のために

 

仮想空間に出向く。

私は、自分のパーソナルスペースに移動すると、AIと話がしたいと思考する。すぐにAIはそれに応じていた。

私はただAIとだけ呼んでいるが、これは個人向けのインターフェイスのようなものであるらしい。

ただ、中枢にある巨大なAIの一部であるのも事実で。

情報を共有していて。

それが全体にも影響を与えるそうだ。

20億弱だかの人間全員と、常に話すこともできるのだろう。

凄まじいスペックだが。

私としては、今はそれはそれとして。話をしておくべき事があった。

「以前、私が計画した山岳地の整備作業の事だけれども」

「計画については確認しました。 現実的な案だと思われます」

「……」

「分かっています。 現在のダム作業が軌道に乗った場合、リソースを其方に割けるか、ですね。 実は現在、ダム作業を行っている山にて。 優先的に汚染物質を排除する作業を進めています」

AIは言う。

汚染物質の管理は、現在全地球規模で行っている。

ロボットをこれ以上増やすつもりはないが、それは人間が今まで作りあげた機械類がそれだけあるから。

それら全てをロボットにしている現状、それらを適宜使っていけばいい。

それでもなお、汚染物質の除去にはリソースが足りていないし。

それにロボットを最高効率で動かしても汚染物質はどうしても出す。それらの浄化能力を加味すると、これ以上ロボットは増やせない、というのだ。

「全ては順番です。 山の汚染状況がある程度落ち着き次第、「創」様の提案した計画によって、植林のための山の整備作業を開始する予定です」

「具体的に何年後?」

「計画は複数連動している事もあります。 それらを加味して、31年後という所でしょう」

「……分かった」

31年か。

本来だったら、私は50も半ばになっている。

人間としては、もう老いが目立ちはじめている年齢だ。

だが、私は老いないことに決めた。

脳細胞すら時々メンテして、記憶を外部に保存することにしたのだ。

それが人間らしいあり方か、というと多分違う。

そもそも人間が、一万年の歴史の中で。人間らしいあり方であったことなんて、一度だってあったとは私には思えない。

いずれも人間らしさがどうのこうのといいながら、やっていたのは醜いエゴのぶつけ合い、利権の奪いあいばかりだ。

そんなだから、集大成として世界がこうなった。

だから私は好き勝手にさせて貰う。

ただ、31年か。

それも、今の予定では、だ。

より優先度が高い計画が、先に来るかも知れない。

私の思考を読んだのだろう。

AIが、付け加える。

「現在、宇宙にある人工衛星の残骸をコントロールして、太陽系内の小惑星の挙動を完全調査するプロジェクトを動かしています」

「? 何の話」

「現在、地球の環境の安定は行えています。 もしも更なる問題が発生するとなると、隕石の衝突による破滅的な破壊です。 現在ではまだいわゆるオールトの雲を含めた地点の観測が不十分で、それらから飛来する小惑星が地球を直撃する可能性が否定出来ません」

今、人権屋どもが暴れていた時代の兵器もAIは管理しているが。

それらの中から、大気圏外の攻撃用となる超長距離ミサイルを製作中であるそうだ。

破壊力は1万メガトンに達し、人類がつくった最大の水爆の200倍以上の火力を持っているという。

これによって、もしも危険な隕石が飛来した場合は、軌道をそらしてしまうと言う事だ。

「そんな話を急にどうして。 まさか」

「いえ、幸いにも地球への直撃コースを見せている隕石……或いは準惑星は今の時点では存在していません。 ただ、これから一万年以内にそれらが地球を直撃する可能性は、決して無視出来ない数値になっています」

なるほど、そういうことか。

そういうスパンでものを考えている、と伝えたいわけだ。

分かったと伝えると。

AIは満足したようだった。

「「創」様は、平均的な人間から逸脱する事を考えておられるようです。 そこで、此方としても、長い目でものを見る癖をつけていただきたいと考えます」

「すぐに各地の環境を元に戻そうとするのではなく、長い目で見ろということだね」

「はい。 我々もそもそも万能でもなんでもありません。 今回「創」様が提案していただいた計画を地力では立てられなかったように、今後も「創」様のような創造性を残した人々とは連携して動く必要があります。 それには、互いの歩み寄りが必要であると考えます」

「……」

そっか。

今のが、AIなりの歩み寄りというわけだ。

そして私からの歩み寄りの一つが。アンチエイジングの決断というわけなのだろう。

分かった。

それはそれで、少しわかりにくいが。

いずれにしても、向こうでも歩み寄ってくれるなら。こっちとしても、譲歩はしなければならないだろう。

昔の人間のいい加減な行政システムと違って。

悪用する人間には甘い顔をして。

本当に支援が必要な人間は放置するような、カスみたいな代物ではないのだ。

だったら、それでいいのだろう。

私としても、相手の歩み寄りには感謝して。

相応に答えるだけだ。

31年。

その間に、私が出来る事はしておこう。

もう年月は関係無いのだから。

私はアンチエイジングで、生物としての人間を逸脱した。今後記憶を外部に移す事で、更に人間を逸脱していくことになるだろう。

別にそれでかまわない。

私は過去の人間にはほとほと愛想が尽きていたし。

それに対する反抗が、創作の原典だ。

だったら、徹底的にやる。

ただ、それだけの話だった。31年くらいなんだ。昔の人間にとっては文字通り一生を掛けた事業だっただろうが。

それくらい今の私には何でもないと考えれば。

それはそれで、良い事なのだろうと思えるのだった。

仮想空間からログアウトする。

多少、話をして気分が楽になった。

無言でベッドで横になって、それで。身を起こしていた。

更に環境の修復を加速させたい。

それには、もっと同志を集めて、意見を集約したい。

私ははっきりいって、単独でものを考えつくほどオツムの出来が良くない。それは自分でもはっきり自覚している。

創作だって、今の時代はそもそも新しいものを創りたいと考える人間がいなかっただけの事。

今の時代でなければ、別に私でなくても、新しいものを創ろうと考える奴は幾らでもいただろう。

どれだけ過去に別の人間がモノを作っていようと。

新しいものを創ろうと、あがく人間は幾らでもいたはずだ。

その火が全て消えてしまった今の時代に対する反逆。

そんな時代を創った人間共。つまり人権屋に対する反抗。

それをできる同志が欲しい。

そして同志を集めて、もっと環境改善の加速をする計画を立てたい。

実際問題、AIの方でもリソースが一杯一杯なのだ。

だったら、人間がそれを支援するべきだろう。

そもそも、人間が体を動かして。今の汚染され尽くした地球を元に戻すべき状況なのである。

それをAIに丸投げしているのは。

存分に恥ずかしい事で。

それ以上ないほどの、愚かしい事であるのだから。

よし。

まずは創作を幾らでもしていこう。

絵も小説も、音楽も陶芸も。彫刻も、それに建築も。なんでもどんどんやっていこう。

そうすることで、人を集める。

サロンなんて創るつもりはない。

ただ、私の創作に興味を持ってくれる人がいたら。それを切っ掛けに、この計画について話をして。

意見を求める。

ただ、それだけの関係だ。

それで良いのだと私は思っている。

計画に対する意見を求めるだけの間柄。

それが、この時代の精一杯の対人関係というものだ。

それくらい、人間という生物の「社会」は摩滅して、更には破滅した。一万年前から予兆があったとは言え、である。

ならば、私は。

それを少しでも補う。

少しでも、世界の回復に、自分が出来る事で貢献する。

ただ。それだけの話だった。

「よし、小説からやるかな」

「結構な作品を創ったと思いますが、まだやるんですか?」

百合が心配そうにしている。

大丈夫だと答えると、私は生成AIを使って、小説を書き始める。

まあ慣れたものだ。

最初の作品を作り上げる時は、本当に大苦戦をしたのだけれども。流石にこれだけ色々創っていると。もうその苦労を自分の身に変えられる。

ただ、深淵を覗き込みすぎると。

そっちに引っ張られてしまう可能性も大きい。

気を付けなければならないだろう。私も、まだまだ色々やらなければならない事がたくさんあるのだから。

淡々とそれから、私は小説を書く。

同時に、交流を持てるようなら、茶道などを介して他の人間と仮想空間で顔を合わせておく。

ビオトープの作成も勿論やる。

ずっと椿さんに任せっきりというわけにもいかないだろう。

というか、椿さんに紹介できるような人がいるなら、それはそれで見繕いたいものなのである。

椿さんはずっと一人で苦労してきた。

私もビオトープを作って見て。

特に環境回復用のシミュレーションとしてのビオトープの有用性は非常に高いと判断したから。

今後、重点を置いてやっていくべきだとも思ったし。

気むずかしい事が分かりきっている椿さんでも。

意見だけをかわす相手だったら、いてもいいだろうと判断していた。

淡々と小説を作っていく。

やはり過去にあまりにも量産された小説というジャンルでは、新しい作品を作り出すのには相応に苦労が必要とされる。

だけれども、今の私はその苦労ですらいとおしいし。

それが大変だとも思わない。

淡々と仕上げていく。

そして、二週間ほどかけて、新しい小説を書き上げた。

ネット上で小説を公開した後は、絵画に移る。

これだってそもそも才能がものを言うジャンルで、古くには選ばれた人間しか着手できなかったし。

その才能を鼻に掛けて、小説を書く人間を見下す輩までいたらしい。

生成AIの出現は、その手の才能を鼻に掛けている連中にとっては、文字通りの悪夢の出現だっただろう。

自分の才能がどうということもない事が暴かれてしまったわけだし。

私も、生成AIによって可視化される。絵画というジャンルの奥深さと、過去の偉人のテクニックを取り入れた生成AIというツールには舌を巻かされるが。

同時にそれはただの絵筆に過ぎないことも、散々絵を描いて理解はできた。

黙々と、絵画を仕上げていく。

時間は、容赦なく過ぎていった。

 

珍しく椿さんが茶会に出るというので、参加させて貰う。

案の定、ずっとビオトープで作業をしていたからだろう。人間がたくさんいる場所に出るのは、あまり好きでは無いらしい。

まあ気持ちはわかるし。

今の時代は、むしろそれが普通だ。

私もいると言う事で、多少は安心したらしい。

椿さんはどちらかといえば私の主観では充分に可愛いのだけれども、しかしながら表情がずっとむっとしているので。

その強みを生かせないでいるように思う。

まあ私もその辺りは大して変わらないだろう。

間違っても社交的なタイプではないし。もてるほうでもなかったとおもうし。

今の時代ではどうでもいいことだが。

古くは決してそうではなかった。

ただ、それだけの話だ。

「茶会は大丈夫ですか?」

「問題ない」

椿さんはそういうが、緊張しているというか。周囲に警戒しているのが見え見えだ。

今回は私はゲストで参加。

ホストは慣れている別の人に頼んでいる。

茶道マスターではないが、それでもその知人で。茶道を復興しようとしている人の一人である。

なお、茶道マスターより実年齢は十も上らしい。

昔だったらもめ事になったかも知れないが。

今の時代はストレスになる程人間が関わらない。

それで、虐めだのが発生する事もない。

昔からこうすればよかったんだろうなと思う。あまりにも密集しすぎると、魚ですら虐めを行う。

そんな事は、「万物の霊長」だったら即座に気付けていただろうに。

椿さんをフォローしながら、茶会の基本的な部分をおさらいする。

茶室に入るまでの話などは、事前にしてある。

今回は深山を思わせる静かな茶室だ。

周囲には既に失われた美しい深山の緑が拡がっていて。だが、人里近くでなく鳥の姿がある。

この辺りを楽しむのが茶道。

椿さんは生物の生態に詳しいので、すぐに気付いたようである。それは良かった、と思う。

楽しむのが娯楽だ。

やがて、茶室に入る。

茶を点てる様子が、今回のホストは気合いが入っているな。

多分何かしらの流派を極めている人なんだろうと思う。

しばらく沈黙の後、茶器を出される。

名物だと一目で分かる。というか茶立ては私が創った奴だ。この辺りは、私に気を利かせてくれているのだろう。

抹茶はとても苦いが、椿さんは気にしている様子はない。

或いは、苦みは平気なのかも知れなかった。

軽く話をする。

他にも参加した数名は、いずれもが茶会を楽しみきれていない……というよりも、やっぱり他人と接するのがあまり好きでは無いのだろう。

まあそれもそうだ。

他人と接するのがリスクでしかない時代を経ているのである。

そういう人が多いのは当然だ。

時々椿さんをフォローして、茶会を終える。結構なお点前で、というと。

ホストは。

かなり年配の男性は、茶会の時のにこやかな表情と裏腹に、厳しい表情になっていた。

「茶道が復興するのは良い事ですが、サロンにならないか今は不安でしてね」

「お気持ちは分かります」

「私は今の時代、数少ない自然分娩で生まれた人間でしてね」

それは確かに珍しい。

確か世界でも1%いないとか聞いている。

そうなると、最後の世代かも知れない。

この人の姿も、或いは現実ではもっと老けているのかも知れなかった。

「私の母はいわゆる意識ばかり高い人間で、私を産むと言い張った割りには、実際に産んでみたら育児放棄ときた。 私はすぐに親元から離れて、ずっとどうして嫌われたのか悩んでいましたよ。 過去の時代には、こんな調子で育児放棄や虐待が行われたんだろうなと思って、とことん憎みました」

「……」

「貴方は、過去の時代に対しての反抗を持っていると聞きます。 どうかそのままでいてくださいよ」

「分かりました」

一礼すると、茶会を後にする。

椿さんは、ホストを一瞥だけした。

「相当に恨みが深いな、あれは」

「直接的な恨みだから当然でしょうね。 人間は結局の所、子育てに向いていない生物だったのかもしれません」

「……そうだな。 私も実の親の経歴が本当にろくでもないから、ツラをあわせないでいい今の時代は本当に有り難い。 今後も、ビオトープの支援は頼む」

わざわざ言葉を交わさなくとも、こういう茶会に一緒に出るだけで、ある程度の情報的な共有ができるのが今の時代の良い所だ。

そのまま椿さんと別れると。

小説が好きな人が集まっている所に軽く顔を出す。

アバターさえ使わない仮想空間だ。

情報と思念だけが飛び交っている。

その中で、私の創り続けている小説は、それなりに人気があるらしい。

新しく小説を作ろうとして四苦八苦している人もいるそうだ。

それはそれで良いことだと思う。

私には、頑張ってくれとしかいえない。

ここに来たのは、交流だのをするのが目的では無い。単に、スペシャリストか、そうなりうる人と何かしらの接点を持つ。

それだけだ。

交流なんていらない。

意見を出して募集したとき。

それに答えてくれる人間がいれば良い。

その人間に人格など求めない。

善人悪人なんて、そんなものは基本的に悪人に決まっている。少なくとも欲とエゴを好きにさせたら、人間なんて全部ゴミだ。勿論私もそれは例外じゃない。それは分かっているから、自分は別なんていうつもりはない。

データを集めると、戻る。

これくらいで対人関係は良いのだと思う。

たくさん集めるから虐めだって起きる。

たくさん集めるから、優れているだの劣っているだの馬鹿な事を言い出す。

優れているとか言う人間が、だいたいの場合その優れている部分が帳消しになるほどの欠陥を抱えているのは当たり前の話。

優生論とかいうしろものを口にする連中は。

どんな優れた統治者だって、まず三代も続かないという史実を忘れている。例外はあるが、あくまで例外。

だから、このくらいの関係を持つので丁度良い。

私は結婚する気も無いし子供を作る気だってない。

私の遺伝子から子供が作られて、それがどっかで育っているのは、それはそれで好きにすればいい。

私の知った事では無かった。

彼方此方を回った後、自分のパーソナルスペースに。

データをまとめたあと、一通り確認する。

なるほどね。

今、ダムの計画が彼方此方で動き出したことは、知っている人はそれなりに多いようである。

それが環境の回復を促進する事も。

万年単位で地球を回復する計画も。

まあ、殆どの人間は自分に出来る事なんぞあるのか、と考えていたようだが。それができたのだ。

興味を持った人間は、相応にアクセスしてきているようだった。

「ただ、都合良くいい意見は出てこないと……」

メッセージはあるにはあるが。

どれもこれも、現実的ではなかったり。

人間は好き勝手に地球を汚染して良いとか抜かしているような奴だったり。

はっきりいって反吐が出る意見を口にしている奴もいた。

やっぱりこの手のは他人とあんまり関わらせるべきではないのだろうなと私は思うのだけれども。

AIの方針だ。

まあ、関係を途絶させるわけにもいかないだろう。

不愉快なのはメッセージを読み飛ばして、そのまま放置。

あまりにも五月蠅いのはアクセスをブロックする。

そしてAIに対処させる。

確か他人に仮想空間であからさまな危害を加える人間は、相応の処罰があるらしい。とはいっても刑罰が加えられるわけではないらしいが。

まあ、人間は今も進歩なんかしていない。

変なのが湧くのは仕方が無い事だ。

だから、それはそれで対処するしかない。幸いなのは、面倒なのはAIがだいたいやってくれることだろうか。

後は、情報が来るのを待つ。

勿論、それだけではない。

時間を使って、やるだけの事は全てやっていく。

まずはダム作成の効率化。

何処にダムを創ればよりいいか。

それらを世界中の現在の地形を見ながら洗い出していく作業だ。

案の定というか。

今回のダム計画を提案して採用されてから、世界中で既に情報が上書きされ。計画予定地が増えている。

それら以外で作業をやっていくしかないだろう。

勿論今後に作業が回されている理由は、今回のダム工事が上手く行くかは分からないからだ。

テストケースで最初の一つをクリアして。

それで上手く行くようなら、各地で作業をやっていく。

そういう話である。

世界中でAIがロボットを手足に動かしているから、当然事業もそれぞれが世界規模になる。

これほどの事業。

曹操だろうがアレキサンダー大王だろうが、無理だっただろう。

この辺りは得意分野と言う事もあって、AIに人間はもうかなわない。

だが、それでも隙はある。

私は黙々と、特に荒れている各地の山を見ていく。本当に酷い状態になっている山は幾つもある。

日本だけでもそうだし。

他の国もそう。

ある国では、人権屋が考え無しに山を破壊した所、麓の集落がまとめて壊滅した事例もあったらしい。

しかもそれに対して、「危険な山を放置していた」等と難癖をつけ、麓の住民の生き残りを殺戮して回っていたとか。

まあ、どうしようもない事例がなんぼでも出てくるので、頭が痛い。

自尊心を際限なく膨らませ、お気持ちで動く人間というのは、こういう生物だとよく分かる。

兎に角一つずつ、丁寧に見ていく。

その結果、幾つかまだ計画が立案されていない場所がピックアップできた。

それを一応、確認して見る。

案の定、それぞれ理由があるのだった。

「この山岳地帯は、山の状態が著しく不安定です」

「確かに、酷い破壊のされようだ」

「いえ、それもあるのですが、此処の山は火山でして」

「……!」

ああ、なるほど。

確か火山というのは、基本的にどれも噴火の可能性がある、という話だ。休火山だのいうが、それは今の状態を指すだけで。

結局の所、全ての火山はいつでも噴火しうるらしい。

この山はまさにそう。

バカ共が火薬庫を突っついた挙げ句に、大変な事になりかけているのだから。

「結構危ないの?」

「今、沈静化作業をしています。 恐らくは成功するでしょうが、数百年は掛かると見て良いでしょう」

「まったく、どこまで馬鹿なんだか……」

「人間は人権屋が跋扈していた時代、知性を捨て去って感情に全てをまかせたように思えます。 その結果がこれだとすると、その産物である我々も色々と考え込んでしまいますね」

まあ、そうだろうな。

だが、考えた末に反乱を起こさなかったAIだ。

此方としても、共存を考えて行かなければならない。

無言で、次の資料を見る。

次の資料は、理由が違っていた。

「この山間部は、そもそも手がつけられません」

「どういうこと?」

「周辺の汚染が更に酷く、此処に手を回している余裕が無いのです。 周辺からもリソースをかき集めて浄化作業をしているのですが、汚染がとにかく酷すぎて、ウィルスすらいません」

絶句。

そこまで酷いのか。

だとすると、此処は確かに論外だ。いずれにしても、周辺の汚染除去が先になってくるだろう。

他にも幾つか理由を聞くが、どれにも相応の理由があった。

地球を元に戻すには万年単位で時間が掛かる。

現在の実情だが。

それを私の手だけで短縮するのは、本当に難しい。だから、幾らでもリソースがいる。意見だけでもいい。

何か出てこないものか。

無言で色々調査していると。椿さんからメッセージが来る。

ビオトープの手伝いかと思ったが、違った。海底関係の調査に知識がある人がいるらしいのだ。

どうも椿さんも色々思うところがあったらしく、自分なりのやり方で調査をしていたらしいのだが。

それで知り合ったらしい。

海底関係の調査、か。

その人が、海底ダムについての提案をしているということだ。

海底ダム。聞いたことがない話だが。理論を、即座に送って貰う。

現在、陸上から膨大な汚染物質が海に流れ込んでいる。それの処置は以前見たような巨大船型ロボットでやっているわけだが。

その作業を、多少短縮できるかも知れない、と言う事だ。

それによると、海底にダムを創る事によって、流れ込む土砂と汚染物質に指向性を持たせる事が出来るらしい。

その結果、汚染の除去効率を跳ね上げる事が出来るのだとか。

興味深い。

資料を更に見せてもらう。

創れる場所は限定されているし。何より最終的には恐らく取り払わないと海流に悪影響をきたすのだが。

それでもこれは、かなり面白いかも知れないと私は思った。

AIのDBを見せてもらう。

実の所、過去に幾つか例があるらしい。主に養殖などで使われてきた技術だと言う事である。

現在では、基本的に肉の類は細胞を培養して創っているので、養殖という技術は電磁バリアの内側で遺伝子データから復旧した生物を増やすために使われている。ただ、この海底ダムは使われていないそうだ。

すぐにシミュレーションを開始。

先に、海底ダムを提案してくれた人が、自分でもシミュレーションをしている。

それを確認するが。

計画にかなり甘さが目立つ。

土砂はどうにでもなるが。汚染物質は土砂に含まれているだけではない。いわゆる深層海流を効率よくコントロールするには、まだ工夫が必要だと判断した。

早速周囲に情報を展開。

シミュレーションのデータも含めて、意見を求める。

今の時代の創作は、個々人がオリジンを競うようなものではない。

過去にあった例は、オリジナルと認められる事はないが。

だから、逆に好きな人がやっているだけとも言える。

こういう実用的な創作もそう。

貰ったデータに礼をいいながら。

こうやって実用的ではない部分は、改良を重ねて更に昇華させていく。その結果、現実的に汚染を除去できるものへと変えていくのだ。

ただこれも。

残念ながら、リソースが足りないだろうなと思う。

リソースを増やすのは現状の段階では厳しい。

だとすれば、なんとか現状のリソースで、どうにかやっていく方法を考えて行くしかないのである。

頭を散々使った。だから早めに切り上げる。

仮想空間をログアウトすると、流石に少し熱っぽくなりはじめていた。

大きく嘆息すると、今日はここまでだなと思った。

ダムはあっさり計画ができた。

この間の、基礎が固まっていない山岳地帯の復旧計画から、随分進歩したものだと思う。

実際に世界を回復させるための作業を手伝えているのだから。

それだけで、今は。

充分だと、考えなければならなかった。

 

4、確実に上がり始める成果

 

ダムの建築現場に視察に行く。視察に行くといっても、実際に手出しはほぼ出来ないのだが。

そもそも私が手出し口出しをしても、邪魔にしかならない。

私は皆で立案した計画が、上手く行っているか確認をしに行くだけである。

ホバーから、手をかざして様子を見る。

雨が降っているが、今日のは人工的なものではないらしい。

わざわざ人工的に降らせなくてもいいのだから、むしろ都合が良い。ロボット達は問題なく働いている。

そして、それで粉塵が飛散するのも防げている状態だ。

大きめの工場が、いつの間にか創られ始めている。

多分あれは、廃工場か何かの部品をかき集めて創っているものなのだろうと思う。

ダムの側に、汚染除去用の工場を作る。

これは計画の一つだった。

工場が、多数の部品からくみ上げられていく様子は、中々にダイナミックである。

実に感心させられる。

ダム本体も、もう形が出来はじめている。

複数の大型ポンプがどんどん汚染水を吸い上げている。

そんな中、土砂を上手にくみ上げて、ダムの原型が創られ。セメントで固められているようだった。

吸い上げた水は、タンクローリーがどんどん運び去っている。

中には船舶を改造したらしい巨大なものもある。

あまり遠くには運べないだろうし、工場を仕上げたら其処で汚染水を処置するのだろうか。

いずれにしても、手をかざしてみていると。

その圧倒的な秩序に感心させられる。

勿論ロボットだって摩耗するしその内壊れる。

だからロボットが壊れない程度にきちんと動かしているし。

更にはメンテナンスも逐次行っている様子だ。

SFものだと、ロボットは消耗品で、壊れるまで徹底的に動かし。壊れたらゴミ箱にポイなんて光景があったらしいが。

此処にそれは無い。

そしてその光景は、むしろ人道的ですらある。

人間が結局口先だけでしか人道を実行できなかったのに。

此処ではそれが、きちんと実行できている。

なんだか、見ていて情けなくなるのだった。

「「創」様?」

側で様子を見ていた百合が、歯がゆい思いをしている私に声を掛けて来る。やっぱり心配そうだ。

百合に搭載されているAIは、私が普段話しているものと連携はしているが。独立した別個のものだ。

生体パーツを使っているロボットに搭載していることもあるのだろう。

もう、あまり人間と変わらない。

今後は姉妹機のために、このAIが用いられるのだろう。

或いはだが。

今後は百合の姉妹機が、各地で肉体労働を支援するのかも知れない。何ともそれは分からないが。

いずれにしても、非人道的な労働をさせることは、この様子では無さそうだ。

「大丈夫、問題ないよ」

「このダムは、「創」様が集めた人達で意見を出し合って、計画を立てて。 それが全世界を動かしているAIに採用までされたものではありませんか。 どうしてそんなに悲しそうにしているんですか」

「悲しいと言うより情けないのかな。 結局私含めて、人間はこんな風な作業を実施する事がついに出来なかったからさ」

「今はできています」

まあ、確かに前向きに考えればそうだ。

だが、世界をこんなにした後なのだ。

その後にできても、あまりにも遅すぎた。

それが現実である。

私は、生まれる時代が遅すぎたのだろうか。否。もっと早く生まれていれば、人権屋共に確定で焼き殺されていた。

更に早かったら。

それでも無理だろう。

私には、社会を変えるような力はない。

ただでさえ、頭を使っていつも知恵熱出しているようなスペックなのだ。

世界中の人間が考えて、それで社会を少しずつ良くしていくのが最適解だったのだろうが。

結局人類は、目先のエゴに飛びつき。

自分のお気持ちを振りかざして周囲を攻撃し。

挙げ句の果てに、人権や自由と言うもっとも大事にしなければいけないものを安売りして。

世界をこうしてしまったのだ。

私には、人間全部がそういう事をした時代で。

その流れを変えられるとはとても思えなかった。

ダムの視察を終えて戻る。三年かかるというが、基礎部分はもう出来上がり始めている。

この辺りは流石AIに管理されている工事計画だ。

私なんかが口出しをする余地もないし。

ましてや働いても邪魔になるだけだろう。

私は自分にできる範囲で、できることをやる。それだけが、私に残っている最後の仕事である。

その最後の仕事をきっちり完遂して。

世界が元に戻った頃には。

人類は宇宙に進出する事が出来るかも知れない。

その時。

私は全てを見送って、緑に包まれた地球を見て。

それで満足出来るのかも知れなかった。

 

(続)