手痛い停滞
序、最初の一歩に
手をかざして、それを見る。
あくまで現在の研究の結果によって創られた仮想空間上の場所だが。
人類文明、最古の都市。最古の文明。
オリエントだ。
最初の都市国家。
かの有名なギルガメッシュ王のモデルになったらしい人がいたらしい場所。
勿論、それ以前にも人類は文明を構築していただろう。
だけれども、此処が発見されている最古の都市国家。
今から10000年近く前の場所。
中華の文明は、夏王朝を考慮しても4000年程度であることを考えると。その凄まじさがよく分かる。
最初の文明らしい文明は、中東に興った。
それが、ここなのだ。
早速内部を見て回る。
私からすれば、此処が最初。
ここをまず調べて、人間を知りたい。
それなりに栄えている街だが、衛生観念とかが今とは全く違うなと言う結論しか出てこない。
それは別に悪い事でもなんでもないのだろう。
カラフルな服なんて誰も着ていない。
一瞥するが、王族らしい人間すらも。
そんな染色技術がなかったのだ。
その代わり、稚拙な技術で加工した宝石などを用いて、身を飾っているようではあったが。
中東に古代に栄えた文明は、功罪色々と人類史に影響を与えた。
そもそも彼等は、土地をあまりにも搾取しすぎた。
結果として塩害が発生し。
何も生えない土地が彼方此方に出来るという事態に陥ったのである。
人類がどれだけ土地に悪い影響を与えるか。
その見本とも言える事例だった。
ただ、この文明から発展していった事はたくさんある。
それらの事を考えると。
人類の歴史は、このオリエントの時代に。
既に方向性が決まっていたのかも知れない。
他の文明も、順番に見ていく。
古くの王は、神官を兼ねていた。故に、神の代理人でもあった。
これは古い時代の信仰は、現在とは比べものにもならないほどの力を持っていたからという理由もある。
一方で、王は神に近しいという名目上。
天変地異などが起きたときに、それを収束できなかった場合は。
あっさり殺される事も多かった。
そういう危うい立場だったのだ。
また、神に近しい立場だという事もあってか。
エジプトでは、王族が近親婚を繰り返し。
結果として、破滅的な病気だらけの子供だらけになっていき。それが滅亡につながっていくことともなる。
愚かしい話ではあるのだが。
それもまた、人類の歴史だと言える。
四大文明を見終わった後は、各地でまだ研究が進んでいない他の文明も見ていく。
実の所、四大文明というのはそう言われているだけであって。
古代から研究が進んでいない大きな文明というのは、相応の数が存在していると言う。
中華にしても、長江や黄河以外にも、四川辺りに文明があったという説があるほどであって。
他の地域にも、色々な文明があってもおかしくない。
発掘できていないだけだ。
そういった文明の残滓は、信仰や怪異などに残されていたりする。
それもまた、おかしな話ではあった。
勉強を一通り終えてから、現実世界にログアウトして戻ってくる。
背伸びして、今日の勉強は終わりと呟く。
ビオトープを創ってから。
多分吹っ切れたのだろう。
私はガンガン勉強しつつ、どんどん色々な創作をしている。
小説は既に20作品書いた。絵画も15作。
音楽は19作品。
茶器は7作。
彫刻も、14作を創っている。
いずれもが、世界に向けて公開しており。私が創った茶器を使った茶会も行われているそうだ。
絵画を最初に創れてから、一年くらいが経過している。
私は、少し悩んでいるが。
機会を見てアンチエイジングをしようと決めている。
それくらいはしてもいいだろう。
もっと創作をしたい。
そして反抗につなげていきたいのだ。
ビオトープに関しても、これを参考に彼方此方で同じようなものが創られ始めて。成果を上げているという事だ。
ビオトープを一緒に創った椿さんは、乾燥地帯のビオトープの作成に成功。
今、熱帯雨林の方に取り組んでいるという。
難しいだろうなと思うが。
熱帯雨林は、今AIも試行錯誤しているもっとも再生が難しいものだ。
急務と言える。
私が、それに少しでも関われたのだとすれば。
それはとても嬉しい話だった。
だからこそ、創作を続けたい。
この最果ての時代で。
少しでも、私は反抗の炎を噴き上げたい。
人間の命は、本来の寿命では40程度。
生物的には15くらいに子供を作って、40になる頃には死ぬのが本来正しいのだ。
そういう意味では40は老人。
つまるところ、人間は古くから、「自然の摂理」だとかいうものには逆らって存在してきた。
だから今更、テクノロジーで長生きする事に不満は無い。
ただ私は。
淡々と創作をしていこうと思っていた。
さて、何をやるか。
しばし考え込んだ後。
私は決める。
絵画をもう一度やってみよう。
ただし、絵画であっても、ただ見て楽しむものではなくて。もっと何か別の、発展したものがいいだろう。
私は何をしたいかが既に分かった。
それでやっていきたいこともだ。
音楽にしても小説にしても、今後はその方針でやっていきたいと思っている。ならば、絵画であっても。
何かの役に立ち。
地球を再建し。
勿論人間のためではなく。生物が多数生きていける環境にするために、必要な絵画を創りたかった。
方針が決まれば、後は楽だ。
ただ、絵画でそれができるのか。
いや、建築でできたのだ。
今、私と椿さんが創ったビオトープは実際に稼働を開始している。遺伝子データから再生させた生物が、「ならし」をするための場として、である。
昔のビオトープはただの趣味だったりしたそうだが。
今は実際に役に立つ場所になっているのだ。
絵画もそういったものであると嬉しい。
だとすると、どういう絵画を創るべきか。
立体映像を考えて、それは違うなと思った。
立体映像は、あくまで蜃気楼みたいなものだ。
そこに実体は無い。
勿論生物を騙す事は出来るが、騙したところで意味があるのだろうか。
PCを立ち上げると、仮想空間にログインする。
そしてしばらく、無心で仮想空間を漂う。
あらゆる古今の絵画を見ていく。
何かヒントがあるかも知れないと考えたからである。
ある程度以上のレベルの絵画になってくると、どうしてもその人間の人間性が反映されてくるものとなる。
これは別にそういうものだ、というだけだ。
ゴッホの絵などがわかりやすい。
後代に書かれた絵画も同じ。
その人の癖や好きが、どうしても絵画には出てくるものなのだ。
ただし、それが善悪に関係するかは別の話。
こんな綺麗な絵を描く人が、悪人の筈がないとかいうのは、見当違いも甚だしい。
芸術全般というのは、そういうものなのだ。
古今の膨大な絵を見ていく。
膨大な数の絵を見ていると、自分の卑小さを感じる。
素晴らしい絵もあるし。
実にくだらない絵も。
だが、それらの絵も、全て自分を叩き込んだものだ。少なくとも、そうでなければ心は動かない。
生成AIの時代が来てからも。
結局の所、これらの絵から技術をラーニングして。
絵筆に乗せたに過ぎない。
自分で生成AIを用いて絵を描いてみてよく分かったが。
結局ただ漠然と指示をするだけでは。
それ相応の絵にしかならないのだ。
生成AIはあくまで絵筆だ。
絵筆を振るっているのは人間。
そして人間は絵筆を振るって絵を作り出すが。その先にあるものが駄作になるかどうかは、人間に掛かっている。
無言で多数の絵を見ていると。
ふと気付く。
風景画の中に、大きな山を描いたものがある。
関連する絵画を探していくと。
意外と山を描いているものは多い。
特に圧巻なのは葛飾北斎の描いたものだ。
ゴッホも大きな影響を受けたと言われているものだが。
それにしてもコレは凄い。
版画で量産されたものしか残っていないのも事実だが。それにしても凄まじい迫力である。
色使いに関しても強烈だが。
それ以上に、大迫力の画が、実に心を揺さぶってくる。
なるほどね。
これは確かに凄いな。
そう思って、私はじっと北斎の絵を見る。
この人も、筋金入りの変人だったらしく。引っ越し魔として知られていた存在だったらしいが。
それはそれとして。
この絵の気迫はどうだ。
絵をたくさん描いた人だが。それは描き散らしたのではなく。こうやって多数の絵に、それぞれ入魂していたのだと分かる。
無言で考え込んでしまう。
私はまだまだ、創作は始めたばかり。
こんな巨人が、創作の歴史にはたくさんいて。
その全員が私より上だ。
未来の絵筆である生成AIを使ってなお、これには及ばない。勿論似たような絵を創る事は出来るが。
ただ、それだけだ。
しばし、北斎の凄まじい絵の数々に圧倒されてから、仮想空間をログアウトする。
この仮想空間の美術館にある絵は、全て焼かれてしまった後だ。
人権屋どもに。
それを思うと、また悲しくなる。
そして、大きな溜息が漏れていた。
ベッドで横になると、ごろごろする。
とにかく、今取り込んだ圧倒的な巨匠達の絵を、少しでも頭の中で自分流に解釈したい。
それだけでも、膨大な気力を消耗した。
本当に凄い絵は、見ているだけで圧倒されるんだな。
そう感じて、心の底から凄いと思うし。
とにかく尊敬してしまう。
無言でごろごろしていると、百合が紅茶を淹れてくれる。有り難い話だ。ごろごろを一旦切り上げて、伸びをする。
大きな溜息をつく。
そして、紅茶をいただくことにした。
茶菓子も出してくれる。
クッキーの味は向上しない。
だけれども、普通に最初から今に至るまでプロの味だ。
それを考えると、これで充分なのだろう。
完成形なのだから。
私はまだ自分が完成していないことを良く理解出来ている。だから、その先に行きたいのだなとも思う。
「美味しい紅茶だなあ」
「ありがとうございます。 ただ「創」様は満足されていないようですが」
「心を読まれるというのも、時々不便だね」
「はあ、まあ」
小首を傾げる百合。
その動作が、どんどん人間くさくなってきているように思える。
生体パーツを使うと言うのは、或いはロボットに想像以上に大きな影響を与えるのかもしれない。
それはそれで、面白い話である。
百合はそういう意味で、変化はしているのだろう。
そして今後、百合と同じような生体パーツを用いたロボットがたくさん創られる時には。
そのデータが、有効活用されるのだろうと思う。
「実生活に役に立つ絵画って、どんなものがあると思う?」
「なんともいえませんが、標識とかでしょうか」
「標識」
「はい。 命を守るために、必須のものだったと言われています」
ふむ、確かに。
標識はそういうものだっただろう。
存在は知っている。
道路を多くの人間が行き交っている時代。道路には多数の絵が溢れていた。
交通事故を防ぐためのものだ。
それは全てが極めて分かりやすい絵になっていて。何をしてはいけない。此処は何が危ない。
それをダイレクトに、見ている人間に伝える効果を持っていた。
標識か。確かに実世界で影響を与えている絵だっただろう。
そういう意味では、標識以外にも似たようなものがあると思う。
例えば誘導灯など。
これらに描かれている絵も、同じような意味を持っていただろう。
トイレなどを示すマークもそう。
これらに関しては、後々に様々な問題を引き起こして。更には人権屋が騒いでどんどん方向性が迷走したそうだが。
そんな事ははっきり言ってどうでもいい。
人権屋は全部地獄に落ちた。
だから、連中は地獄で炙られていればいいのであって。奴らのやったことなど、人間の歴史から抹消しておけば良い。
いずれにしても、百合の意見の方が、遙かに猿以下の人権屋のものよりも有意義だと感じた。
頷くと、参考になったと思考する。
それだけで、意図は通じる。
言葉なんか喋らなくてもいいのが、今の時代だ。
それは私には、とても有り難かった。
おなかを温めてしばらく休んだ後。
また仮想空間にログインする。
標識を見て回るが、とにかく分かりやすいものが並べられている。
これはこれで、デザインの究極型と言えるかも知れなかった。
とにかく一目で分かること。
これに特化しているデザインだ。
いずれもが分かりやすい。
そして、見ていてストレスを感じないようにもなっていた。
無言で標識を見ていくと、やがて行き当たる。
落石注意、というものだ。
「地形か……」
世界中が平らかになってしまった今の時代だ。
巨大な山岳地帯ですら、穴だらけにされている。
かのエベレストを有するヒマラヤも、彼方此方に人権屋の手によって巨大な爆弾が仕込まれて。山が原型を残さないほど崩されているという。
日本の山々も同じ。
昔は富士山なんて山が遠くに見えたらしいが。
今ではその影も形もない。
人間を殺し尽くした後は、人権屋共はその殺戮の矛先を他の生物に向け。最後は地形までも破壊して回ったのである。
文字通りの滅茶苦茶だ。
破壊された山などの残骸は、各地でそのままにされている。
また、破壊されたときに舞い上がった膨大な粉塵は、空を覆い尽くして陽を遮り。
現在にまで続いている異常気象の要因ともなっている。
仮想空間を移動。
破壊される前の、山々に行き当たる。
これらを全て再現するのは不可能だ。
何しろ、徹底的に破壊されたのだから。
だが、ある程度再現するのはどうだろうか。
再現するとしても、一体どうやって。
山というのは、見た目以上に非常に巨大な地形だ。膨大な土砂を積み上げても、できるものではない。
いわゆる造山活動なんてもので、何百万年、何千万年とかけてできていくものであって。
私がそれを再現しよう何て、烏滸がましいにも程がある。
だが、何かこういうものを、できないだろうか。
そう思って、私は腕組みして、しばし考え込む。
絵画でできるか。
いや、絵画は。
そこで思い当たる。
ひょっとしたら。絵画が何かしらの意味を持つ事をやれるかも知れないと考えると。確かにそれは、ぴたりと当てはまるかも知れなかった。
1、スケールの違う行動
私が思考すると。
私が常にアクセスしているAIは、流石に驚いたようだった。
「山を創るですか?」
「正確にはあった山を作り直す、だけれどね」
「少しお待ちください」
流石にAIも困惑したか。
時々こうやって、思考状態に入るのをみている。AIも人間の何万倍もの速度で思考はするけれども。
それは全能でもなんでもなく。
昔のPCはよくフリーズだのというのをして固まったらしいが。
それに近い事が、たまにおきるようだった。
「「創」様が絵空事を口にしない事は理解しています。 どの程度の山の再構築を望んでいるのですか」
「そうだな。 最終的には富士山かな」
「現時点では、残念ながら目処が立ちません」
「うん、それは私でも分かってる」
今、AIはロボット達をフル活用して、世界中にばらまかれまくった有毒物質を中和し、回収し。
更には異常気象の中で、汚染された世界を少しでも綺麗にするべく活動を続けている。
それは私が足を運んで、散々各地で見て来た。
まずは、生物が満ちる世界を取り戻す。
それがAIの最優先目標だ。
その汚染物質ですら、優先順位を設けて処理しているくらいなのである。
とてもではないが、地形の再構築なんて、やっている余裕は無いだろう。
ロボットの増産をしている様子もない。
要するにAIは、万年単位での再建を視野に入れていて。
それを人間は、邪魔しない事しかできない。
今、やりたい放題に地球を破壊した人間ができるのは。
その再生を邪魔しない。
それくらいしかないのだ。悲しい事に。
だけれども、その状況に私は反抗したい。
私も、できる範囲で再建計画を立てたいし、協力だってしたいのだ。
それが私の。
人権を口にして、その実人権を金に換えて暴れていただけの愚か者どもに対する反抗。私の生き方だ。
「そこで、計画を立てたいと思う」
「計画ですか」
「うん。 今、世界中で植林と生態系の再生をやってるでしょ」
「はい。 当面掛かります」
それは大いに分かっている。
私だって、散々彼方此方で見て来たからだ。
海の再生も、後万年と時間が掛かってしまうだろう。
だから、私が生きている間には、その成果の一端くらいしか見る事はできないだろうとも思う。
だけれども、それでも。
私は数万年後の世界で。
地球が元に戻った時に。少しでも役に立てるように、動いておきたいのである。
「私はその先を考えたい」
「ふむ……」
「破壊された山岳なんかの再建計画はあるの? 将来的な話だけれど」
「いえ。 それに、火山などに関しては、事前に破壊的な気象現象を抑止する方向で動いています」
なるほど、再建計画についてはそういう考えなのか。
火山の噴火抑制については、私もそれはありだと思う。
例えばだが。
恐竜が滅ぶ前くらい、一千万年くらい前から。地球は破壊的な気象変動に襲われていた。
たまに恐竜滅亡の原因は、6550万年前の隕石では無いとかほざく輩がいるのは、これが要因で。
この気象変動によって、南半球の生態系は文字通り壊滅を余儀なくされたのである。
滅んだのは恐竜だけではない。
海の中で圧倒的隆盛を誇っていたアンモナイトですら滅びた。
この気象変動の要因は。
当時はまだ亜大陸……大きな島に過ぎなかったインドが、ユーラシアに大陸移動で激突したこと。
その結果、強烈な噴火活動が繰り返され。
それによって、膨大なチリが大気中に巻き上げられたことが要因だ。
恐竜は天寿を全うして滅びたなんて言葉があるが、それは違う。
世界でもっとも繁栄していた生物であるがゆえに。
気象の破壊的な変化には、対応出来なかったのである。
要するに、火山活動にはそれだけの破壊力がある、という事を意味している。確かに地球の再建計画を進めているAIとしては、対策を考えたいところだろう。
なるほど。
だが、それと折半する形で、なんとかやっていきたい。
それは私の中で、しっかりとある。
「火山の活動を抑えることと、山を再生する事で、なんとか折り合いはつけられないのかな」
「今の時点では、残念ながら机上の空論と言わざるをえません」
「あー……」
「あくまで「創」様に対しての話です。 「創」様はアンチエイジングも辞さない考えのようですが、それでも万年単位という時間は、人間には長すぎます。 脳細胞などの若返り処置をしたり、記憶を外付けの装置に適宜移すような処置をしたとしても……その時に、「創」様の精神が耐えられるかどうか。 普通の人間には少なくとも無理だと言えるでしょう」
まあ、そうだろうな。
もしそれができるとしたら、神域の存在くらいだろう。
少なくとも私は違う。
私も身の程はわきまえているから、それは分かっている。
だが、考えついたことだ。
実施はしてみたいのである。
「それならこういうのはどうだろう。 山の規模を落とす」
「山の規模を落とすですか」
「うん。 高山地帯に住んでいた生物も、いずれ再生しないといけないでしょ。 その環境を再現するためには、どっちみち山は必要だと思うんだ」
気象に影響だってある。
元々日本の、いわゆる日本海側は。強烈に雪が降る事で知られていたが。
これは日本の中央に走っている巨大な山岳地帯が原因だった。
現在は、その山岳地帯が破壊され尽くした結果、日本全土で気象が無茶苦茶になっている。
それは日本に限った話では無いのだが。
まあ、それについては後にする。
ともかく。山岳地帯で復旧出来る場所は、復旧したい。
その青図を私は創りたいのだ。
実用的な絵画となると、これが現実的に思える。
勿論それに芸術性はないかも知れないが。
芸術に残されている絵画を、私が立体的に再構築し。そして万年掛かろうと、再建の計画を練る。
それは、決して。
無理な計画ではないと思う。
しばしAIが考え込む。
私の思考を読んで、それが現実的かどうか判断しているのだろう。
しばしして、AIが結論を下していた。
「結論しました」
「うん。 聞かせてくれるかな」
「現時点では、やはり汚染物質の除去、可能な地点での生態系の再生が最優先となります」
「そうだろうね」
ただ、それだけなら無理と答えるだろう。
何か、他にあると言う事だ。
「現在、残されている山岳地帯の一部で、生態系の再生活動をしている場所があります」
「結構高地でも植林はやっているんだね」
「というよりも、実は生態系の再生活動を最初に開始したのは、高山地帯なのです」
「へえ……」
それは、意外だ。
続けて話を聞く。
なんでも高山地帯というのは、砂漠と同じくらい生態系が小さく、非常に厳しい状態で生物がくらしていたのだという。
まあ理由はわからないでもない。
気象の変動が激しいし、何より温度差も苛烈。
高山に行けば行くほど植物が減るという話は聞いていたが。
それは単純に、環境が過酷というのもあるのだろう。
故にまだ残っていた高山地帯の生態系復活は、AIが最初に着手したものであって。現在はある程度の成果が上がっていて。
それで徐々に低地に、その活動を移しているのだとか。
なるほど、確かに理にかなう話ではある。
私も、感心させられていた。
「現時点ではそういう理由から、高山地帯では安定を求める状況となっています。 しかしながら、最終的に山を再現したいと考えているのも事実ではあります。 膨大な土砂が流れ込んでいる海域も多く、それらの土砂には汚染物質も混じっていることもあって、一度引き上げなければなりません」
「ふむふむ、それで?」
「土砂の一部に関しては、山などに配置して、地形の回復に努める予定が元々存在していました。 ただそれも、やはり数万年後に計画をしていました。 そもそも各地で働いているロボットの手が足りていません」
「そっか。 それもあるのか……」
ロボットといっても、円筒形のや、百合みたいな生体パーツを使っているだけのものではない。
土木工事機械にAIを搭載したものや、船舶に同じような処置を施したもの。航空機などにAIを搭載したものもあるし。
中には戦車などから武装を取り外し、AIを乗せて土木工事機械に造り替えたものもあるそうだ。
それらを総動員していても、毒物で汚染された世界を元に戻すには至っていない。
それだけ人権屋による無差別の破壊が凄まじかったと言うことだ。
かといって、これ以上ロボットを生産することはAIも考えていないらしい。
まあ確かに、ロボットだって活動するのに電力なりなんなり必要とする。
それを考慮すると、あまり増やしすぎてもやはりロボットがゴミになってしまうケースもある。
元々ゴミとして廃棄されていた機械類を、ロボットとして再構築して活用しているくらいなのだ。
新たにゴミを創るつもりはないのだろう。
後には、百合みたいな生体パーツを用いたロボットが主体になり。生体パーツロボットが、世界の再生を行って行くのかも知れない。
それはそれで凄い事だとは思うが。
ただそうなると、遺伝子改造した巨大な生物が、世界を再生していくことになるから。気を付けないと、別の意味でロボットの暴走が起きるかも知れない。
それらの説明の後。
AIは言う。
「現在の時点で、低地での生態系再生作業は少しずつ進めている状況ですが、実は高地での生態系再生作業は……一段落して以降、どうにも行き詰まっています」
「それはまた、どうして」
「破壊された地形では、どうしても無理が出て来ているからです。 地形に撒かれた汚染物質などの排除は既に終わっているのですが、どうしても地形が変化した事によるデータが不足しています」
元々高山の生物は、過酷な環境に適応した側面もあるが。
同時に、高山に追いやられた生物であるという側面もあったそうだ。
そういう意味で、環境の変化には著しく敏感で。
再生の作業に関しても、相当苦労を最初はしたらしい。
それもあって、ビオトープを私と椿さんが完成させたときには喜んでいた訳か。なるほど、確かに合点がいく。
「山の地形を再生させるというのは、そういう意味では意義がある活動に思えます。 ただ残念ながら、現時点では労力が不足している事もあって、現実的ではないのです」
「なるほどねえ」
「もしも現実的なプランがあったら採用します。 現在AIの計算処理能力は、現在稼働中の世界の再生計画に大半を振り分けています。 もしも計算処理能力の補填をしていただけるのなら、それはそれで此方でも有り難いのです」
「了解。 ちょっと考えて見るよ」
会話を打ちきる。
そして、ベッドで横になって、ごろごろしながら考える。
決める。
こう言うときは、気分転換だ。
外に行く事にした。
幸い、外の天気は今日は安定していて、いきなり雹とかに襲われる事も無さそうである。
百合と一緒に、外に出ることにする。
天気は大丈夫だが、少し肌寒い。ジーンズをはいてきて正解だったかも知れない。無言でホバーに乗ると、近くの植林中の林でも見に行くことにした。
ただ。それだけでは面白くないか。
要望を伝えておく。
「せっかくだから、高地の植林地を見たい」
「分かりました。 ただし低地での植林地以上にデリケートですので、間違っても触る事は出来ませんが」
「うん、勿論。 そんなつもりはないよ」
「分かりました。 それでは計画を立てます」
ホバーで移動しながら、そんな話をする。
私としても、
自分で決めたことだ。まずは、順番に。計画を現実的なものにするべく、思考を巡らせていきたい。
そのためには。今までと同様。
知識を蓄えるのが、最低条件だった。
高山地帯は、非常に体調に影響を与えやすい。
いわゆる高山病の存在だ。
今もそれは変わらない。
飛行機などでも高高度に行くが。
それで高山病にならないのは、酸素などの濃度が変わらないからと言うのも大きいのだとか。
いずれにしても、私は酸素マスクを渡されて。それを口に当て。
更には、百合が不安そうに見ている中、ホバーの中から、首を伸ばして植林地を見ていた。
高山地帯の植林地は、木など生えていない。
かなりの面積に、低木……いや低木ですらないか。草が生えていて。そこはとても静かだった。
雪も積もっている。
その静寂の中で、静かにある草。
これだけでも、再生は相当に難しかったらしい。
解説を受ける。
「見えている範囲にある草だけではなく、地面の中にも生態系があります。 また草の影に隠れるようにして、ちいさな植物も存在しています」
「低地だともっと競争は激しそうだけれど……」
「深海と同じで、この辺りにはそもそもとしてのリソースがないのです。 故に奪いあいも比較的緩やかです」
「なるほど……」
感心して見ていると、雪の中からちいさな影が姿を見せた。
ライチョウと呼ばれる小型の鳥らしい。
手をかざして見ていると、周囲を見回した後。
すぐに隠れてしまった。
相当警戒心が強いのだろう。
まあ、それでいいと思う。そもそも人間によって、あのライチョウも皆殺しにされたのだから。
人間を警戒するのは、当然だと言えた。
「この辺りだと、あのライチョウって鳥もやっぱりあまり数を養えないの?」
「この植林地には現在十二羽がいます。 つがいも存在していて、繁殖も行われています」
「順調なんだ」
「今後、他の植林地に増えすぎた場合は移す予定です。 ただ……」
ロボットが動いている。
昔話に出てくる雪女かと思った。
ホバーつきの円筒形のものだが。どうしても雪の積もっている中、無言で動いているのを見ると。
なんというか、異質さを感じてしまう。
「あのロボットが、ライチョウの雛の世話をしています。 今までどうしても親鳥が上手く世話をできずに、何度も死なせてしまっています」
「そうなんだ……」
「基本的に鳥などは、子供の育成は本能で知っています。 上手く子育てができない場合は、ストレスによる育児放棄などもありますが……やはり環境がまだ未完成なのだと思われます」
いずれにしても、今はロボットが世話をして。
それで巣だった雛も出て来ているという。
近親交配を避けるために、別の植林地にそれらの子供は移しているそうだが。
それにしても、やはり育成が難しい事に違いはないらしい。
今も卵の大半が育つ事がないのだとか。
何かが、足りないのである。
こういうミスを避けるためにも、ビオトープには意味がある。
試験的に生物を放してみて、どう行動するか。何を必要とするか。それらを学習できるからだ。
ただそれにも限界がある。
やはり、現実にあった通りに地形を再生するのも、大事なのではあるまいか。
ただそれも、AIが言っていたように、リソースの問題がある。
山に比べて人間はあまりにも小さすぎる。
いま生きている人間を全部動員して土砂を運ばせたところで、山の形を元に戻すのは無理だろう。
私が一人で土砂を運ぶとしても。
終わるのは、何万年も後になるだろう。
悔しいな。
腕組みして、考え込んでしまう。
いずれ、AIとしてもやりたいとは考えてくれているようだが。こう言う場所にくると、どうしても無力さが表に出る。
それが、たまらず口惜しい。
人間による破壊は、文字通りの一瞬だ。
一瞬でこの山は、原型を留めないほどに破壊され尽くした。
そして今も、この山の再生はできずにいる。
それが現実だ。
山を下りる途中で、何段階かに別れて行われる植林を見学する。残されている山は、思った以上に植林がされているが。
これは環境変化が緩やかな地点での植林が、試験的に行うものとしては丁度良かったからなのだろう。
実験を兼ねて積極的に植林が行われた。
それには失敗も多かった。
本来はこんな事はしなくても良かったのだ。
それなのに。
やはり、こう言う光景を見ていると、苛立ちが募る。それが噴火しそうになる。だが、それが私の原典。
そしてただの創作から。
世界の再生へと移行するために必要なプロセス。
私は、できる範囲でできることをする。
それには、こういった現実を見て。
その有様を、学ぶ必要があるのだ。
試験的に創られている川もある。それにそって、多数のロボットが配置されているのも見る。
それらのロボットがやっているのは、当たり前だが汚染物質の除去だ。
上空でもロボットが飛んでいて。同じ事をしている。
私は、これをやった連中を許せない。
その子孫である自分自身も。
ずっと人生は償いになるのだろうと思う。
悲しくて、何度も涙を拭っていた。
ちょっとビオトープを創ってから、涙もろくなったかも知れない。だけれども、それくらいでいいのだろうと思う。
これを見て、何とも思わないようだったから。
人間は世界を焼き尽くしたのだ。
文字通りの意味で。
だから地底に閉じこもることになったのだ。
それが正解になってしまっている。
何度か、深呼吸して。
それで、気持ちを立て直した。
次を見に行く。
百合が心配そうな表情をした。そういう表情をされるとずるい。ロボットだから、ある程度計算はしているのだろうが。
それでも、なんというか心が苦しくなる。
一度下山して、それで自宅にまで戻る。休憩をする。ベッドで横になってゴロゴロしながら。
見て来た光景を、脳内で反芻する。
一度決めたことはやり遂げたい。
だから、計画を練る。
AIに指摘されたことは、全てもっともだと思う。実際問題として、労力を割いてやることではないし。
できないのだ。労力のリソース的に。
だったら、やる意味を作り出すしかない。
勿論それが自己目的化してしまっては意味がない。
何より私が政治に関与してしまっても駄目だ。
AIが政治を見るようになったから、やっと人間が世界を無茶苦茶にするのをとめる事が出来たのである。
それは絶対。
色々思うところがある私でも。
今更人間の手に政治と経済を取り戻すべきでは無いと感じていた。
自分さえ良ければいいと考える人間が、もっとも儲けるようになっている世界は。それだけで狂っているのだから。
さて、考えろ。
色々な案を束ねた方が良いかも知れない。
ただ、ちょっと考えすぎた。
知恵熱が出始めていると思ったので、今日はそこまでで切り上げる。
大きな溜息が出る。
私は、体の方はアスリート並みに強化していても。
脳の方は、どうしても弱いのかも知れない。
そう感じてしまうと。
なんとも悲しかった。
2、文殊の知恵
仮想空間にログインする。
今日は、計画中のビオトープを見に行く。
椿さんに頼まれて、時々手助けに行っているのだが。案の定、今日もマングローブ林を創ろうとして大苦戦していた。
マングローブは水場に根を張る変わった植物で、その性質もあって水場に影を創り出す。
それが何をもたらすか。
言う間でもなく、魚礁だ。
マングローブ畑があった時代は、天然の魚礁がそこに創られ。多くの生態系的な意味での価値が生じていた。
見た目が気色悪いとかいう理由で人権屋がマングローブを焼き尽くして、それもなくなってしまったが。
今は再生のために。
こうやってビオトープで、四苦八苦をしていると言うわけだ。それもワールドシミュレーター内の。
椿さんが、ホバーにちょこんと座って考え込んでいる。
私がログインすると、ちょっとだけ私を見て。それで考え込むのに戻った。
前は髪の毛を伸ばし放題だった椿さんだったけれど。最近はリボンで頭の後ろにまとめている。
大人になりたくない。
その根元も、たまに聞かされる。
過去に人権屋が行った所業の数々。
連中は事あるごとに人権や平等を口にして、それを盾にすれば何でも許されると本気で考えていた。
そいつらを操っている連中は、制御不能になるまで、人権も平等も金に換える事だけを考えていた。
自分さえ良ければ、地球の未来すらどうでもいい。
そういう考えの連中が、地球を実質的に滅ぼした。
そしてそれを主導していたのは、周囲から「立派な大人」としてもてはやされた連中であり。
しかもその「立派な大人」という言葉の定義は。
昔から殆ど変わっていないのである。
それらを見せつけられた椿さんは、大人になるのを拒否した。多分今後も、ある意味でのアンチエイジングを続けるのだろう。
なんだか創作に出てくる長命種のエルフみたいだなと思ったけれども。
いずれにしても、はっきりしているのは。
椿さんを責める気にはなれない。
それを責める資格は、地球を実質的に滅ぼした挙げ句に。今も責任を取らずにいる人間にはない、ということだ。
マングローブ畑の水面下に潜って、色々調べて見る。
根はそれなりに伸びているのだが、どうも魚のいつきが悪い様子だ。仮想空間だから、こう言う事も出来る。
データを取って、そのまま椿さんに渡す。
腕組みして、椿さんは考え込んでいた。
「どうですか? 何か問題が起きていたりしますか」
「……マングローブ畑の育成に丁度良い温度は保っている。 だけれども、どうしてか魚が居着かない。 多分だけれども、このまま現実でビオトープにしても、これは上手く行かない」
「……」
ワールドシミュレーターの性能は非常に高い。
私もじっと腕組みして考え込むが。
これを現実にやってみても、多分同じになるのは分かっている。
マングローブにしても、今は遺伝子データから少数が復帰して。それで少しずつ植林が続いている様子だが。
案の定。激しすぎる気候の変動や。
海の汚染があまりにも酷い事もあって。
魚まで放流するには至らず。
マングローブが少数だけ、ロボットの手入れで其処にあるだけ、という状況が続いている様子だ。
熱帯雨林のビオトープを作る時に、話を椿さんがしていた。
本来熱帯雨林というのは土壌が脆弱極まりなく、一度崩すと簡単には元に戻らないのだという。
そう考えてみると、見境なく熱帯雨林を切り開き、資源に変えていた連中は犯罪的な愚かさだった、と言う訳だ。
とにかく、データを集める。
大きめの魚は、あっと言う間に死ぬ。
それはそうだろう。餌がいないのだから。
小型の魚をどうにかしてマングローブ畑にいつくようにしてやっていくのだが。どうにも上手く行かない。
日本環境のビオトープが如何に楽だったか思い知らされる。
「水をもう少し汚してみるのは」
「確かに汽水域がマングローブの主戦場だったから、それはありかもしれない」
「やってみましょう」
すぐに水質を変えてみる。
此処での汚染は、化学物質による汚染ではなく。上流から流れてきた土砂によるものである。
色々試してみるが。
少しずつ、変化が現れ始めた。
魚が、マングローブ畑にいつき始める。
どうやら明るすぎたのが問題であったらしい。水の明度が下がったことにより、マングローブ畑に集まり始めた様子である。
なるほど、こう言う手があったのか。
魚がいついていくのをみて、椿さんが何度も頷いていた。
「「創」はすごい」
「いえ。 ここまで組み立てて、後一押しまできていたからですよ」
「それにしても凄い。 今後もアドバイスを頼みたい」
「私で良ければ幾らでも」
後は、調整を続ける。
大型魚もこれならいけそうだという感じになる。ワールドシミュレーターだから、時間を進めるのも自在だ。
それにこの研究成果。
或いはだが、現実のマングローブ畑の植林にも利用できるだろう。すぐにAIにデータを渡して、結果を見たい所だ。
椿さんと別れた後。
軽く、自分でワールドシミュレーターを動かして見る。
現在の世界の状況を再現。
其処で、崩されている地形の状態を確認した。
これはAIのデータベースとリンクしているので、リアルタイムで各地の状況を確認できるものだ。
やはり、各地の地形の破壊が著しい。
何の恨みがあるのかとぼやきたくなるくらい、山やら川やらを徹底的に破壊し尽くして。
その挙げ句に仲間割れして滅びていった人権屋共の爪痕が、嫌になる程残されているのだった。
私は、この間見に行った山をチェック。
植林地が上手く行っていない。
植林のデータも全公開されているから、こういうことが分かる。この辺りは恐らくだけれども、マスクデータにする意味がないのだろう。そもそも政治的な云々とかが関係しないからだ。
ならば此処に、私が手を加えてみる。
それも、現実的な提案であればAIは飲む。
実際私と椿さんが創ったビオトープを、あっさりAIは実用的と認めて取り入れたのである。
プライドとかを優先したり。地位確認のためにバカみたいなことをする人間と違って、この辺りAIは非常に柔軟だ。
早速シミュレートだ。
生成AIを用いて、様々にデータを弄ってみる。
もしも山を復旧する場合。必要とされる土砂と人手。それを計算。
実際に計算してみると、確かに天文学的な人手と時間が掛かるのが分かった。これはAIが指摘していた通りだ。
万人単位で人間を動員しても、全く足りない。
当然ロボットに頼る事になるだろうが。
各地で復興作業をしているロボットを、此処に連れてくるだけの意義があるかというと、確かにないのだ。
腕組みして、次の代替案を見る。
確かにAIは無理だといったが。
ただ、リソースが足りていないという点もあるのは間違いない。
だから私が案を出す。
確かに今人間は完全に地底に潜っているけれども。
椿さんのように、少しでも世界のためにと考えている人はいる。
私も恥ずかしながらその一人だ。
だったら、少しでも案を出せれば。
友人達にも案を募集してみる。
みな、それぞれ案を出してくる。
ほとんどは的外れだったが。それでも案を出してくれたのだから、礼を言って参考にさせて貰う。
生成AIを用いて、現実的な範囲でどう山を変えればいいか。
どうすれば劇的に環境を変化させられるか。
それらを確認していく。
頭をフル活用すると、結構簡単にオーバーヒートを起こす。
私は多分、昔で言う脳筋型だったのだろう。
体の方は、電気刺激で簡単にアスリート並みの身体能力を得ていたが。
頭の方は、催眠学習で知識とかを埋め込んでも。頭のスペックそのものは鍛えようがない。
無理矢理フルパワーを引きだしているから。
こうやって知恵熱を出している、ということなのだろう。
一部だけ修正するような形で、何度も色々と試してみる。
だが、殆どが付け焼き刃の対応だ。
この辺りには、古くには水源もあった。
水源は人権屋どもに吹き飛ばされてしまった。
「気持ち悪い虫が湧いていたから」という理由だ。清流にしか住めない無害な虫だったのに。
その時、まだ僅かに生き残っていた生物学者が、体を張って凶行を止めようとしたが。
寄って集って殴り殺されて。
そして死体はバラバラにされて、埋められてしまった。
感情で行動する人間が如何に邪悪で危険なのか。
これらだけでも、よく分かる。
とにかく、少しずつできる事はやっていかなければならない。
そういえば。
どうして上手く行かないのか。
水については、実は足りている。
形はいびつになったが高山だ。
高山というのは雲を受け止めるような形でそびえ立つから、どうしても水を得るのには困らない。
雲が近いのだ。
雲というのは、結局の所何かしらのちいさな物質を核にして、水が集まっている状態である。
バランスを崩すと雪になり。
それが地面に落ちてくる頃には雨になっている。
山の上では、雲ともろに鉢あうことがあり。
それが霧と呼ばれている。
既になくなってしまったが、富士山などでは山頂近くで、雪に降られることが多々あったそうだが。
それは、そもそもダイレクトに雲から雪が降り注いでいるからなのだ。
現状では、そういう理由で水は足りているのだが。
まさか。
水源を作って見る。
元々の水源について分析してみると、色々と分かってきた事がある。
辺りの地形が原因で、霧などから得た水分がまとまって、其処に湧出しているのである。そうなってくると。
水が集まる地形を作りあげれば、湧き水を再現する事が出来るのではあるまいか。
湧き水のビオトープについては、またいずれ考えなければならない。
最初にビオトープを作った方が良い。
それは、研究している椿さんが説明をしてくれた。
いきなり考え無しに生物を放つと、全滅するか最悪の侵略性外来生物になるか、そのどちらかだ。
そのためにも、ビオトープで様子を見るべき。
ワールドシミュレーターは恐るべき精度を誇るが。
それでも遺伝子データを元に再現した生物をワールドシミュレーターで動かすのと。現実世界で動かすのでは、誤差が出てくる。
これはDBにデータが足りないケースが原因で。
どれだけ進歩しても、AIは万能ではないのである。
方向性が決まる。
順番に、やる事をやっていく。
崩された地形に対する埋め立てについても、勿論継続して調査をしていく。
あらゆるデータを分析して、シミュレートさせて。
その結果を取っていく。
加速させた時間の中で作業をしていくので、とにかく膨大なデータが取れる。
あたまがくらっときた。
どうやら限界らしい。
データの進捗を保存すると、一度戻る。
やっぱり、かなり体が熱っぽくなっていた。部屋は冷房をしっかり効かせてくれているのに。
「「創」様、無理をしてはいけません」
「大丈夫……てやっぱりちょっと無理か。 百合、ごめん。 冷やくれる?」
「すぐにお持ちします」
半身を起こすと、ぐっと冷やを呷る。
百合が心配そうな表情をしている。これが効くと学習したのか。それとも、生体パーツの影響か。
ちょっとそこまでは分からないが。いずれにしても、この顔をされると私も弱い。
トイレに行って、すっきりすると。
ベッドで横になって、少し頭を冷やした。
ため息をつく。
それにしても、かなり消耗している。足下がフラフラしたし。頭もちょっと揺れているように感じる。
元々頭が良いわけでもないのだ。
こうやって無理をすると、どうしてもガタが来る。
髪の毛もかなり濡れている様子だ。
風呂でロボットに手入れさせる事になるが。
そろそろショートくらいまで切ってしまうか。
別に髪の毛に拘りはない。
元々願掛けで伸ばしていて。それもかなったから、動きやすい程度にまで切った。
今の時代は、男も女も無い。
仮想空間では、本来の性別とは違う状態で、別の人間と結婚しているケースもあるという事だ。
私も、それらの生き方を否定するつもりもないし。
これでいいと考える。
いずれにしても、ちょっと今回の作業が終わるまでは切るのはやめだ。
もしも切るとしたら。
また願掛けでやりたい。
それに、これは個人の気分が許される範疇の行動だ。
エゴを際限なく肥大化させた人権屋の時代の人間は、気にくわないものはなんでも燃やして良いと本気で考えていた。
その悪しき例を知っているから。
私は、そうなるつもりはないし。
逆に、エゴで好き勝手をしていい範囲を理解もしている。
それでいいのである。
「夕食をつくります」
「今日はラザニアがいいなあ」
「ラザニアですか。 分かりました、そういたします」
「よろしくねー」
百合がぱたぱたと走って料理を始める。まあ食材は合成とは言え、なんぼでもあるのだからそれを使って貰うだけだ。
私がラザニアをつくる事も可能ではあるが。
まあ、百合にやらせた方が良いだろう。
しばらく横になって休んだ後。
風呂に入って、汗を流す。本当にぐっしょり汗を掻いていたので、自分の頭のスペックの低さに苛立ちが募る。
湯船でリラックスしていると、溶けそうになるが。
意識を失わないように、気を確かに持つ。
無言で風呂から上がると、パジャマに。
たまにそれすら面倒くさくなるが。
まあ、自分なりの拘りだ。
ラザニアが出たので、食べる事にする。
中々に美味しいラザニアである。ただ、いつもの夕食ほど美味しいとは感じない。急にリクエストしたからだろうか。
それとも、私が疲れきっているから、かもしれない。
「すみません、あまり美味しくなかったですか?」
「いや、普通に美味しいよ。 それに急にリクエストしたのは私だし」
「そうですか……」
まあ、思考が読まれているのだから、取り繕っても無意味か。
しゅんとしている百合。
どんどん感情が豊かになって来ているな。
ちょっと罪悪感が湧くか。
それよりも、だ。
今は少しずつ、私はできる事をしていきたい。
生成AIは、芸術だけに使えるのではない。
ある意味私が今やっていることは自己満足で芸術なのかも知れないが。
それでも実用性がある事をやっていきたい。
寝る前に、もう少し仮想空間に潜る事にする。
シミュレートで様々にデータを動かして見る。
どうも水源が安定しない。
こういう水源というのは、それこそ何千年と時間を掛けて、ゆっくり創られていくものなのだろう。
そうすぐにできるものでもない。
本当に、安易に吹き飛ばしやがって。
住んでいる生物がお前の主観で気色が悪いとか、そんな理由で殺戮していい理由になるとでも思っているのか。
私はそうぼやきたくなる。
ただ。非道と安直な残虐行為が。
見せつけられて、悲しい。
だから、少しでも頭を働かせる。
幾つものデータを確認しながら、水がどう水源を創っていくのか、調べて行く。シミュレートは、短時間で数千パターンも用意できる。
ワールドシミュレーターの得意分野だ。
そしてこれは、ある意味生成AIの大親玉とも言えるシステムだとも言えた。
また疲れてきた。
切り上げる事にする。
悔しいが、私のスペックは自分でもある程度把握できている。
だから、切りあげ時も、分かるようになってきていた。
もう少しで、何か掴めそうなのだが。どうしても、そのもう少しが勘の域を超えないのである。
だから、それが本当なのか分からない。
ワールドシミュレーターでは、生物の生態を完全再現するのは厳しいが。
水などの動きを完全再現する事は可能だ。
だから、私が徹底的に色々と実験をして見る。
ログアウトすると、また少し汗を掻いていたが。このくらい。また風呂に入る程でもないだろう。
冷やを呷ると。今日はもう眠る事にする。
高地で水源を再現出来れば。
いずれ山を完全復活させる頃には、山には生態系が戻っているだろう。
美しい草木が、というほどにはならないだろうが。
それでも、砂漠のように少なくとも。生物が其処で暮らす場所が、戻って来ている筈である。
疲れているからか、すぐに眠気がくる。
やっぱり体が色々な意味で正直なことを感じて。
私は苦笑いしながら、眠りに落ちていた。
夢を見る。
私は、かなり分厚く服を着込んで、山に来ていた。自分の足で山を登りたくなったのだ。
アンチエイジングを始めて、随分と経った。
世界が再生され続けて。
更に緑が増えてきている。
まだまだ無意味な破壊の痕はたくさんたくさん残っているけれども。
それでもこうやって、足を運ぶと。
其処には、黄泉の世界から戻って来た生物たちがいる。
踏みつぶさないように、僅かに地面から浮くホバーシューズを使っている。
髪の毛などを落とさないように、しっかりその辺りもガードしている。
山を上がって行くと、やがて水源が見えてきた。
ちいさな池のような水源。
そこから、ちろちろと水が流れている。水はやがて川になって、山を降ってどんどん麓へ。
その過程で、多くの生物をはぐくむのだ。
ぼんやりと、水源を見ている。
水源周囲には、草が幾つか生えている。
この辺りは寒さもあって、木が育つのには向かない。
ちいさな草が、水源を守るかのように少しだけ生えていて。
水の中には、ちいさな虫が少しだけいた。
清流にだけ住まう。貴重な虫だ。
姿は人間から見ると美しくも可愛らしくもない。性質もかなり獰猛だが。
だが、この水源のちいさな守護者だ。
触れてはいけない。
相容れない存在だからだ。
ただ。この水源を守る誇り高いちいさな戦士。
それに敬意を払う。
辺りの森なども確認。巡回しているロボットに礼をして、その辺りを見て回る。
良い感じだ。
昔は、この辺りの植林が上手く行っていなかった。
今はそれも過去になった。
既に山全域の植林が成功して。この山の生態系は元に戻っている。
破壊され尽くした場所は、まだ世界中にたくさんたくさんあるが。それでもこの山は。
ふと目が覚める。
夢だ。
夢だったと理解する。
だけれども、とても良い夢だ。
やってきた事が、全く報われない人生なんて、昔は珍しくも何ともなかったという話である。
だが、もしも私のやってきたことが。こういう風に報われたとしたら。
ふうと、私はため息をついた。目元を拭う。
やっぱり涙もろくなっているな。
私は、反抗の精神を持ち続けてきたけれども。それをどうしても形にできなかった。それを形にできたのは、やっぱりあの時のビオトープを成功させたときだと思う。
それ以降、私は。
少しずつ、感情が豊かになって来ているのだろうか。
それは否定出来ない。
既にアンチエイジングは絵空事ではなくなっている。
手が届く技術だ。
あの夢を、現実にしたい。
それが私の。
今の、新しい目標となっていた。
3、反抗の末の再生
茶会に出る。
私は少しずつ、世界の再生について自分ができる事を話している。
茶会は特権階級のサロンとして無意味な作法やらが散々増えていった歴史が存在しているが。
今はおもてなしの心を相手に伝える。本来のものとなっている。
これも権力と金が人間の手から離れたからだ。
そうでなければ、こんな風な元々の茶道なんて、戻ってくる事はなかったのだろう。
茶会に来た数人。
私が茶道具を今の時代にオリジナルで製作した。
それを聞いて、茶道に興味を持った人が、それなりにいるのだ。
ホストは以前最初に茶道で交流した人にやってもらう。
私はゲストの一人として、茶会で交流を増やしている。
交流を少しでも増やし。
地下で惰眠を貪る事に疑念を持つ人が増えてくれれば。
自分なりのやり方で、この焼き尽くされてしまった世界を修復したいと思ってくれる人が出てくる可能性がある。
椿さんのような例は、極めて希。
私もその例外の一人。
だから、100人と交流を持って。賛同してくれる人は、一人いれば良い方だと思う。
自分に都合が良い世界に閉じこもっている方が楽だし。この状況で、それを否定する事などできはしない。
それでも、少しでも状況を改善するために。
私は茶会に出て、少しでも交流をしていくのだ。
もてなしが終わり。
それで軽く交流を持つ。
茶道に興味を持ってくれる人はごく少数だ。いっそのこと、西洋風の茶会でも良いかも知れない。
そっちの方が、今では楽だろうか。
あっちはあっちで、陶器が音を立てないようにだの。
色々と面倒な作法があるらしいのだが。
中には、出された茶やらコーヒーやらを飲まないのが作法だ等という、噴飯モノの理屈まであったらしい。
馬鹿馬鹿しい話だ。
まあこれらは、マナー講師だとか言う社会を無茶苦茶にしていった連中が勝手に作りあげた理屈らしく。
20世紀から21世紀でしか通用しなかった馬鹿馬鹿しいくだらない代物であるので。
今はとっくに死に絶えているが。
何人かと話してみるが。
やはり自分で世界の再生をしてみたいと考える人間は、ごくごく希だ。
何しろあの椿さんでさえ、外に出て現状を見て回るのはごくまれだという話である。
それだけ、人権屋が猛威を振るったということだ。
人間は、実際に外に足を運び。
ましてや他人と本当に接する事が、恐怖にさえなってしまっている。
遺伝子レベルで恐怖が刻み込まれてしまっているのだ。
それもまた、やむを得ない話だ。
ただ、それでも支援だったらできる。
外に実際に出なくても、ワールドシミュレーターなどの操作とか。支援だったら誰にでもできる。
そう言ったことで、助けを求めたいが。
それもまた、今回は外れだった。
ため息をついていると。
ホストの人が、声を掛けて来た。
この人も、自分で名前を持っていない。
今の時代では、珍しくもない。
ただ茶道マスターとだけ呼ばれている。
確かに茶道に関しては、あらゆる流派の作法を本当に極めているらしいから。そう呼ばれても不思議ではないだろう。
着物を着込んでいる彼女は。淡々と言う。
「今日も外れであったようですね」
「残念ながら。 ただ、長期的に興味を持ってくれればそれでかまいません」
「本当に熱心な事。 もしも古い時代にも、もてなしの心を主体に茶道が使われていれば、堅苦しい作法だらけの自己満足のサロンにならなかったでしょうに」
「本当にそれはもったいない話ではありますね」
茶室から出る。二人で軽く庭を歩く。
なお、この茶道マスターも。
以前はこういった茶室は、全部アセットで済ませていたそうだ。
だが、私が新しく茶器を作り。
そして何かを新しく、この時代に作り出そうという姿勢を見て。それで触発されたらしい。
自分で様々なデータを見て、茶室や庭園を、毎回少しずつカスタマイズしているそうだ。
今度茶室を自分で設計から作ってみるつもりらしい。
素晴らしい事だと思う。
それに、私に影響を受けたと言って貰えれば。それは嬉しいに決まっていた。
「茶道をする人は、増えていますか」
「少しずつ。 誤差にも思える程少数ずつですが。 最近は別言語圏の人も、興味を持って来てくれます」
「良い事ですね」
「今度は西洋風の茶会もやってみようと思っています。 彼方は日本式の茶会同様に……いやそれ以上にサロンの色彩が強いですが。 政治的な権力構造や、マネーゲームの要素がなくなった今だったら。 ただ皆で楽しむための茶会ができるのでは無いかと考えています」
茶道マスターさんも。
色々と考えて、前に進んでいるんだな。
そう思って、私は嬉しくなる。
或いはこの人が、自分なりに世界をよくしてくれようと考えてくれた事が、最大の収穫かも知れない。
そう思って、私は礼をかわすと。仮想空間からログアウトした。
自宅で半身を起こすと、ふうと息をつく。
収穫は、あったか。
まあ、それでよしとする。
すぐに次と行きたい所だが、百合が冷やを持って来たので、ぐいっと呷る。
ちょうどいい冷たさに調整されていたので助かった。そのまま飲み干すと、私は一度横になって、天井を見上げていた。
「ねえ、百合」
「なんでしょうか」
「ワールドシミュレーターで、一緒に手伝ってくれる?」
「実は、処理速度などで支援をしています」
ああ、なるほど。
確かにそれは助かる。
苦笑い。
言われなくても、手伝ってくれていたんだな。それを手伝っていないと決めつけていたのでは。
主観で好き勝手ほざいていた、人権屋と同じになってしまう。
非礼をわびると。
百合は小首を傾げる。
「いえ、私に礼など言われても……」
「いいんだよ。 受け取っておいて」
「分かりました。 他のデータを見ても、ロボットに感謝する人はほぼ存在していません。 「創」様は本当に変わっていますね」
「変わっていてもいいよ別に」
変わっていたらいけない。そういう時代を創ったから人間は世界を焼いたのだ。
だから私は変わり者でかまわない。
無言で横になって、少し休憩する。いっそ昼寝と思ったが。やりたいことが多くて。それが脳を過熱させるから。昼寝どころではなかった。
クッキーをほおばる。
それで、頭に糖分を入れてから。ワールドシミュレーターに潜る。
作業をしていると、メッセージが届く。
友人の一人、ゴーストからだった。
なんでも、ゴーストの方でも、私のやっている事に興味を持ったらしい。昨日、外に実際に出て見たそうだ。
本当に世界が真っ平らにされてしまっているのを見て、ショックを受けたらしい。
知識として知っているのと。
実際に外で刺激を受けるのでは、大きく意味が違ってくる。
それを知って。それで色々と思うところがあったそうだ。
それでいいと私は思う。
別に、この状況だ。
ワールドシミュレーターが作り出す自分に都合が良い世界にて、一生を送るのだって良いだろう。
それを責める資格は誰にも無い。
ただ。ゴーストは、この状況で外を見ようと思った。
それはとても尊い事だと思う。
気合いが入る。
頬を叩くと、水源の作成を続ける。
シミュレートをしていくと。どうしても地形の変化が問題になっている。上手に水が集まらない。
かといって、大きく地形を変える作業は現実的ではない。
それも分かっているから、困りものだと私は感じた。
だが、このままだと。
小手先の方法では、水源を再現する事は不可能だ。
地下に幾つか、水を誘導するための仕組みを埋め込むとしても。それだけだと、どうしても無理が出てくる。
水源を長期間安定させるには、今のいびつな山では無理だ。そう結論せざるを得なかった。
まずは、そのデータをAIに送っておく。
そうすると、数秒で返事が戻って来た。
「実の所、水源の再生については少しだけ計算していたのですが、此処までのデータを提供していただけるとは有り難いです」
「そう。 それで解決策は何か思いつく?」
「現時点では、此方ではなんとも……」
正直で結構。
それでいいと思う。
AIは己を現実以上に大きく見せるような事はしない。だからこそ、此方としても対応はしやすい。
軽く幾つかの話をする。
水源を創るには、やはり地形の変更が必要だという結論に対しても、AIは少し考え込んでいた。
「現実問題として、この破壊された山を短期間で元に戻すことが不可能であるという結論は、「創」様と共有していると認識はしています」
「うん、それは問題ない。 代替案を出したい」
「現時点では、計算に割くリソースがありません」
「それも分かってる」
今回はあくまで中間報告だ。
それに、何が駄目なのか、結論が出ただけでも大きな意味があると私は考える。
それに、だ。
他の山でも、もしも水源を再建できたら、それは大きな意味を持つ事になってくるだろう。
過去の成功例があるというのは、大きな力を持つ。
成功例が100%再現出来るようになれば、それはもう科学の領域だ。
私は、そこまで状況を好転させたい。
野望はちょっと無駄に大きいかも知れないが。
それでも、意味はしっかりあるのだ。
一度情報共有をして。
それで後は、また作業に戻る。
山をもとの形にした場合、簡単に水源が戻ってくる。それはそうだろう。元々そうだったのだから。
だが、この山に最低限の。
現在できるリソースを割いて、手を加えることで。
どうにか水源を作れないか。
小型のダムを作る事も考えたが、止めた方が良いだろうと結論。
ダムだと規模が大きくなりすぎるし。
そもそも現在、地下水脈が寸断されていて。それが要因で、水源で水が噴出してこないのである。
地下水脈を少しでも戻すには。
ふと、気付く。
地下水脈の状況を、現在視覚的に表示しているのだが。これは人間で言う毛細血管に近くないか。
そして毛細血管が全体的に傷ついているから、鬱血しているような状態に現在はなっている。
だとすれば、植林が上手く行かないのも納得出来る。
ではどうして、そうなっているのか。
なんとなく、見えてきた。
これはひょっとしてだが。
彼方此方の抉られている地形が、そのまま人間で言う傷口になってしまっているのではあるまいか。
だとすれば、この状況にも納得が行く。
そうか、そういう事だったのか。
私は頷くと。
それが分かったのなら一度撤退すべきだと判断した。
何度も、頭の使い過ぎて体を壊した。
それで私も、少しずつ自分の頭をどれくらい酷使すれば潰れるかが分かるようになってきている。
一度仮想空間をログアウトして。
それで、案の定熱が出始めているのに気付いて、苦笑いしていた。
百合がすぐにお冷やを持ってくるので、口にする。
しばらく冷房で涼しさを味わってから、その間に決める。
傷口を、応急処置すれば良いんだ。
今まで、それすらしていなかったから、毛細血管のような地下水脈が、悉く機能していなかった。
具体的な方法は、資料を集めるしかない。
だが、それでも。
やってみる価値はあると、私は考えていた。
翌日から、作業の方向性を変えてみる。
現在、基本的に植林地は電磁バリアで覆われていて、生物は地下も空も含めて、其処から出られないようにしてある。
これは電磁バリアの外が毒物だらけ、というのが理由として大きい。
現実問題として生きていけないのである。
アスファルトを貫通して生えてくる雑草が生命力の象徴みたいにされた時代もあったらしいが。
そんな雑草すら生きていけないのが、今の時代の土壌なのである。
要するに、現時点で。
植林地以外の地面は、それこそ塞いでしまっても問題は無い、ということだ。
人間が傷を受けたとき。
免疫機構はどうするか。
簡単だ。
血小板を用いて体の外への傷口を塞いで。時間を掛けて修復していくのである。
同じ事をしてみれば良い。
彼方此方の、破壊を受けた地面を確認していく。
これらの場所では、やはり水が変な風に流れている。
水がしみ出してしまったり。
或いは変な流れを創っていたり。
これを変える。
まずは地面を単純に塞ぐ方法を採ってみる。素材は別になんでもいい。ワールドシミュレーターなので、パラメーターとして塞いでみる。
やはりというか、なんというか。
それで劇的な変化が起きる。
勿論良い方向ばかりではない。
地面の下があっと言う間に乾燥して、周囲に悪影響を出したり。
逆に、周辺の地面が凄く潤ったりした。
やはりこれが正解か。
問題は、具体的にどうやってこの壊されたクレバスだらけの地形を埋めていくかになるだろう。
どのくらいの地形を埋めるかも、判断が難しい。
とにかく、一つずつ順番にやっていくしかない。
丁寧に進めていく。
地面を塞ぐ素材を、少しずつ考え始める。
一番良いのは勿論土だ。
だが現時点では、その土が用意しづらい。今後の課題がそれだ。まずは応急処置として、何が良いか。
維持にコストが掛かるのではちょっと問題がある。
例えばアスファルトとか、ポリマーとか。
ただでさえ雪が降る地帯なのだ。
そう考えてみると、土以外の適切な素材はあるのだろうか。
水で凍らせてしまうのはどうか。
いや、ちょっと駄目か。
水が常に凍っているほどの場所では無い。
もしもそうだったら、処置は簡単なのだけれども。考えて見れば、北極海ですら、常に全ての海が凍っているわけではないのだ。
むしろ余計に手間が掛かってしまうだろう。
だとすると、何か良い手は。
幾つかの素材をDBからリストアップする。
いずれもが帯に短したすきに長し。
土が一番良いのだけれども、それだって適当に穴を埋めていては多分逆効果になってしまう。
だとすると。
しばらく考え込む。
今まで交流を持った人間にも、有識者に意見もとむとメッセージを送ってみたが。やはり簡単に答えは来ない。
現在、人権屋が無茶苦茶にしてしまった湖底や海底などから土砂の運び出しをしていたりもするようだが。
そういった土を安易に運び込むわけにもいかない。
特に海底の土なんてその辺りに埋めたりしたら、生態系が壊滅しかねない。
植物がどれだけ塩に弱いか何て、私ですら知っている事だ。
しばし考え込んでいると。
やがて、メッセージが少し遅れて飛んできた。
茶道で交流していた人だ。
他の人同様、名前もない。
茶道に来たのも、初めてだったらしい。それも怖くて、茶道が終わるとそそくさといなくなってしまった。
こう言う人は珍しく無い。
それだけ人間と関わるのが、リスクになった時代が長かったのだ。それに対して、私はどうこう言うつもりは無い。
その人から送られてきたメッセージを見て、私は瞠目する。
こんな手があったのか。
なる程、確かに使っていない土なら普通にある。
しかも、どうせ一度処置をしなければならないのだ。
今の時点では、植林地を守るだけで精一杯。これ以上汚染が拡がらないように、周囲を痛めないようにはしているが。
それ以上の措置はしていない。
だったら、この手もありか。
早速試してみる。
彼方此方で、クレバスになっている地点を、周囲の土を崩すことで埋め立ててみる。他の地点も同様。
全ての地点で、地面のえぐれている場所などを。悉く周囲の地形を崩す事でならしていく。
そう。
そもそも生物がいなくなるほど痛めつけられている土壌だ。それによって、環境汚染は引き起こされない。
確かにこれは手の一つだった。
しかも、もとの地形はAIがDBに立体的に記録しているのだ。
後に土壌を持ち込んで修復するのであれば。
現在、多少の形を変えてしまっても、問題は起きないだろう。
ただし、問題が起きないように。
こうやってワールドシミュレーターで、徹底的に検証しておく必要はある。安易に目の前にぶら下げられた最適解と思えるものに食いついていてはいけない。
しっかりこうやって、対処をしてからだ。
古い古い時代には、これを環境アセスメントとか言ったらしいが。
残念ながら、それがきちんと機能した例はほとんどなかったそうだ。
何しろ貴重な原生林を目先の金目当てに切り開いて太陽光発電を並べるような状況だったのである。
それはまあ、機能しないのも当然だったと言えるだろう。
ただ、人間の手から既に経済は離れている。
だから、そのままこうやって、色々試せる。
そして実施するのもAI制御のロボットだ。
私はきちんと責任を取った上で。
こうやって行動できるのだ。
徹底的に調査をしていく。やはりすぐには上手く行かない。というよりも、山は想像以上に痛めつけられていた様子だ。
下手な場所を崩すと、崩壊が文字通り波及する。植林している地域まで亀裂が走ったりする。
山全域に、強烈な爆弾での攻撃が行われたのだ。
これはひょっとするとだけれども。
或いは、表面しか見えていなかったのかも知れない。
それでは人権屋が暴れていた時代の人間と同じだ。
強く猛省する。
そして、山の構造を徹底的に調べる。
やるべき事は、まずは表層の一部を崩して土砂をその場で確保する。
続いて、壊れている地盤の修復をする。
これについては、どうすれば良いか専門家の意見が聞きたい。人間の専門家がいない場合は、DBから探すしかないだろう。
最後に、水の流れを正常化させる。
この順番でやっていくしかない。
丁寧に調査をしながら、色々試して行く。
予想通りと言うべきか。
幾つかの地盤が、文字通り壊れている。これをまず復旧することから始めないと、山全域が崩壊する可能性がある。
人権屋による攻撃を受けた山は、どれもこの調査をしないとまずいだろう。
火山にも人権屋は似たような事をして、まとめて吹っ飛んだりしたらしいが。
それも納得だ。
これだけの巨大構造体に、無茶苦茶の限りを尽くしたのだ。もしも地球を破壊出来る兵器を与えていたら。
連中は躊躇無く、地面にそれを撃ち込んだに違いない。
しかも、自分達は正しい事をしているから、生き残るのだと考えて。
救いようが無い。
とりあえず、どうすればいいのかを考える。この山を一度潰してしまうのも手ではあるのだが。
その場合は、どれほどの影響が周囲に出るか分からないし。
何よりも、どうやって山を潰すのか。
鉱山を掘り崩すように、バケットホイールエスカベーターでも使うのか。いや、この規模の山にそれは不可能だ。
「……地盤補強工事、これか」
調べて行くうちに、ほしかったデータが出てくる。
なるほど、これが地盤補強工事か。
巨大な杭みたいなのを叩き込む必要が生じてくる。
しかも、せいぜいビルを創る工事でコレだ。
この山を元に戻すには、どうしたらいいのだろう。
困惑と同時に。
絶望がわき上がってくる。
杭を直接叩き込む必要はない。時間を掛けてコンクリートのようなものを土台にして、それを補強材に使えば。
だけれども、それはそれだ。
それだけの素材をどこから運んで来る。
良い考えが出て来たと思ったのに。文字通りの根元から、それが崩されてしまった。非常に口惜しい。
引き続き、進捗を知り合いに連絡しながら。
自身はワールドシミュレーターを動かす。
何とか亀裂を埋められないか。
亀裂に土砂を全て流し込むにしても、それをどうやってやったらいいのか。一応出来るにはできるらしいが。
専門の機材が必要になる。
その機材を運び込むまでのコストが確保できないのである。
これが八十億だかの人間が地球にひしめいていた時代だったら、話は違ってくるのだろうが。
今は、世界中が汚染され。
その回復をしないと、そもそも酸素が足りない。二酸化炭素が足りない。大気がやがて変質して、なんの生物も住めなくなる。
そういう状況なのだ。
腕組みして、考える。
これでは、やはり駄目なのか。
煮詰まってきたので、一度ログアウト。ベッドで半身を起こすと、ぐっしょりと汗を掻いていた。
水を飲んで、少し頭を冷やす。
ワールドシミュレーターで、相当な回数試行錯誤していた。
なお試行錯誤の様子は、公開している。それで、誰かが何かしら思いつくかも知れないと思ったからだ。
だが、そんな他人任せで上手く行くとも思えない。
氷枕を百合が持って来たので、それを使わせて貰う。知恵熱が出ている頭を冷やしながら、来たメッセージなどを確認していくが。
残念ながら、有用なものは見つからなかった。
だが、これは自分でやっている事だ。
元々AIは、万年単位で地球を再生させる計画を立てて、それを今も確実に実施し続けている。
世界中にゴミとして投棄された物質を回収し、それを再利用している。人権屋が声高に唱えていたエコなどとは全く別の次元の再利用でだ。
私は、それに少しでも荷担したいが。
それも厳しいか。
はあと、大きな溜息が出る。
そもそも多数の生物が、滅ぼされてそのままだ。遺伝子データから復旧されてもいない。それが現在の地球の状況。
それを改善するには、それこそ万年単位で時間を掛けて、ゆっくりやっていくしかないし。
人間のスケールではむしろそれに抗うのは邪魔なのか。
何度も溜息が零れる。
過去のお気持ちで何もかも焼き払って回った人権屋どもに反抗する。そのための心は、こんな事で折れるのか。
いや、折れてはなるものか。
奮起するが。
しかし、色々な案を募っても。
一度滅茶苦茶にされた山を、元に戻す方法は。それこそ時間でも戻さない限りない。或いは、時間を進めるか。
どちらかしかないと、結論せざるを得ないのだった。
やがて、万策尽きる。
現実的な案は、出なかった。
4、一人の命では限界がある
私は、どうあがいても無理だと判断して、そして一度考えをとめた。
これ以上は心身に大きな負担を掛け、悪影響を受ける。それを理解したからである。
やるべきことは、分かっている。
植林が上手く行かない理由だって分かった。
時間を掛けて、山の地盤を修復するしかない。
それにはマンパワーがいる。
そして今の時代は、マンパワーを捻出出来ない。
だから、何千年、早くても何百年かは掛かってしまうだろう。それが理解出来た事は、有意義だった。
幾つか、地盤を補強する現実的な案は確認した。
それを行って。
山そのものを、元に戻せば。
水源は回復する。
だが、それをすぐに実行するのは不可能だ。
本当に、人権屋どもが付けて行った傷は深かった。それを理解出来ただけでも、今は可とするべきだったのだろう。
それは頭では理解出来ているが。
理解出来ると、納得出来るのは別の話である。
そして分かっている。
納得出来ないという気持ちで行動していたら、人権屋どもと同じになってしまう、という事を。
大きな溜息がでた。
酒でも飲むかと思った。
肉体年齢的に、酒を飲むことは許可されている。勿論無尽蔵にある訳ではない。今はただ、何かに逃避したかった。
分かっている。
結論は出た。
そして、今すぐできないという結論は、科学的に考えれば立派な成果だし。それで満足するべきなのだということも。
具体的なやり方も、幾つも提案された。
それらは、いずれもマンパワーさえ注げれば、実際に山を修復し。水源を回復し。植林も上手く行くことも。ワールドシミュレーターで確認済みだ。
皆、よく手伝ってくれた。
私一人では、できないという結論にさえ到達出来なかった。
それなのに、どうしてこうも悔しいのだろう。
涙もろくなったせいか。
どうにも、涙が止まらない。
20世紀くらいまでの女性は、泣くという行動で敵対行動を弱める事を意図的にやっていたそうだ。それだけ図太かったと言う事だ。
21世紀以降に人権屋が暴れ出してからは、感情を見せる事そのものが示威行動と化し。
人間の社会行動全てが、加速度的に崩壊していく中で。
泣くという行動を見せる事自体が悪とされ。
実施した人間は、周囲の女性から角材で殴り殺されることすらもあった。
実際に起きたことだ。
「「創」様……」
「ごめん。 百合、なんだか情けない所見せてる」
「いえ……」
困惑している百合の様子がわかる。
どうしてこんなに感情が乱れるのか、理解出来ていないのだろうか。
いや、違う。
百合も多分生体パーツのせいもあって、感情が乱れる不可解な経験をたくさんしている筈だ。
それもあって、私の様子を見ていると、どうにも困惑してしまうのだろう。
それは人間らしいのか、そうではないのか。
ちょっと私には判別できなかった。
「少し横になるよ。 酒を入れるかなと思ったけど、どうにも肝臓に押しつけるみたいで、気分が悪い」
「分かりました。 でも、何かストレスを発散しないと、潰れてしまうと思います」
「そうだね。 分かってる。 後でワールドシミュレーターに潜ってなんかぱっと騒いで来るよ」
「……」
気付く。
百合も悲しそうだ。
それで、私も二重に悲しくなってきた。
とりあえず、視線を逸らす。
私は今更ながらに。
今、この世界がどれくらい無茶苦茶になっていて。絶望的な状況の中、ロボット達が復旧作業をしているのか。
今更ながらに、理解していた。
分かっていたのに、理解出来ていなかったのだ。どのくらい絶望的なのか。
AIが世界の修復には万年単位で掛かると言っていたではないか。
それが本当だったのだと、よく分かった。
とにかく、その日はワールドシミュレーターに潜って、片っ端からあらゆるストレス発散手段を試した。
酒やら性交やらの比ではないレベルのストレス発散手段がワールドシミュレーターには多数用意されていて。
あらゆる全てを試して。それで、ようやく心が落ち着いたと言える。
ワールドシミュレーターをログアウトして。
それで、私は。
決意を固めていた。
AIに話をする。
「私、あの山を修復するわ。 時間がどれだけ掛かってもかまわない」
「それは、アンチエイジングをすることを決めたと言う事ですね」
「そういう事。 今だと実質上幾らでもいきられるんでしょ?」
「理論上は。 ただ、安楽死を選んでしまう人が多いこともあって、アンチエイジングで事実上の不老不死を選ぶ人はいないのですが」
だったら、私が一人目だ。
幾つも、山を修復する手段は分かった。
時間が掛かるのも理解出来た。
だったら、私が責任を持って最初の一人になる。
そして、もう一つ。
先にやっておくことがある。
「あの山で植林した地域、別の場所に移した方が良いと思う。 山があんな風に、ずたずたにされていない場所に」
「確かに、「創」様の調べたデータを見る限り、これ以上の植林は上手く行かないと判断した方が良さそうですね」
「そうなる。 モデルケースとしては立派だけれども、残念だけれど今後はどんな事故が起きるかも分からない。 いま生きている生物のためにも、今後は地盤の調査をしてから植林をすべきだと思う」
「分かりました。 今回のデータは大変有意義に活用させていただきます」
頷く。
今回、私は失敗した。
新しく何かを創り出せなかった。
だけれども、この状況では何かを創り出せないという事を理解出来た。
それは大きな財産になった。
負けを認めて、人は強くなれる。
私は、まだ強くなっていないけれども。
これで強くならなければならない。
それと、アンチエイジングについては、早速やって貰う。今の私は肉体的には全盛期に近いが。
その状態のまま。
人類がやった罪業と向き合い。無間地獄で焼かれ続ける覚悟はできた。
だったら、それをやっていくだけの事だ。
アンチエイジングの処置自体は、そんなに難しいものでもないそうだ。
ただ、記憶は流石に人間の脳細胞の仕様もあって、ある程度は外部に定期的に移さないといけないらしい。
それらについても同意する。
まあ外部記憶を呼び出してリンクするなんて、別に今の技術では難しくもない。
その難しくも無い技術を、利用させて貰うだけだ。
全て吐き出しきって、少しだけ私は楽になった。
人間が散々バカをやらかした結果、地球は無茶苦茶になった。
だったらそれを修復する義務が私には……人間にはある。
ただそれだけの事を、再確認した。
今回の失敗には大きな意義があったのだと、私は。自分に強く言い聞かせるのだった。
(続)
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