おもてなし

 

序、焼き物

 

焼き物の歴史は古い。

そして、古くからかなり高度な技術が用いられてきた。

例えば古くでは、王水で溶かした金を塗ることで、満遍なく美しく金を練り込んだ陶器が作られた。

中東がまだまだ文化先進国だった時代だ。

そういった時代には、そんな凝った陶芸の手法があった。

言うまでもなく王水は極めて危険な酸だ。

硝子以外では、ほぼ受け止める事が不可能なほどの。

だから危険ではあるのだが。

それでもそれだけ、陶器を作るのに投資する価値があったということなのである。

私はそういった、陶芸の歴史について学習している。

催眠学習で基礎を叩き込んだ後は、応用部分を徹底的にこなす。

なるほどなるほど。

非常に奥が深いものなんだな。

そう思って、感心させられた。

他にも時代、地域によって、様々な陶芸がある。

壊してしまうと、修復が極めて難しい。

そして今の時代。

これらも、人権屋に破壊され尽くされた影響で、殆ど残っているものがないのだった。

「過去のものを、そのまま再現する事は可能なの?」

「データが残っていれば可能です。 現在では、ロストテクノロジーと呼ばれていたものはほぼ解析と再現が可能になっています」

「ふーん……」

ロストテクノロジーというのは、別に過去の超技術とかではなく、技術が失われてしまったものだ。

別にそれが、今の文明の前に高度文明があったとか。宇宙人が地球に来ていたとか。そういう事実を示している訳ではないのである。

技術というのは伝承を失敗すれば簡単に失われるらしく。

例えば21世紀の頃には、第二次世界大戦の技術の幾つもが失われていたという話である。

逆に言えば、それが失われたのはもっと優れた別の技術が出て来たり。

その技術が必要なくなったから。

有名なものでいうと、21世紀に復興されたダマスカスなどがある。

これは独特の縞模様を持つ鋼鉄のことだが。

どうやって縞模様を出すかが、中々分からなかった。

逆に言うとそれだけの事で。

別にダマスカスが超絶硬度を持つ最高の鋼鉄だったかというと、そんな事はなかったのである。

いずれにしても、技術的に陶芸は復興されていて。

今の時代、どんな陶芸でも再現出来るようになっているそうだ。

流石に王水を使う奴はちょっと危ないか。

だが、他の陶芸でも。

高度なものには、危険な製法を伴うものが少なからずあるようで。

それらについても、今回は除外すべきだろうと私は思った。

無言で色々な陶芸を見ていく。

素晴らしい青みが出ている陶芸があった。

なんだろうこれは。

ちょっと興味があったので調べて見る。

青磁というらしい。

ほうと思わず声が出るほどに、美しい青みが出ている。

ただ、その青みが出なかった、失敗作が。逆にいわゆるわびさびの世界ではいいとされることもあったようだ。

これがいいな。

そう思って、創りたいと考える。

それだけで、AIは思考を読み取った。

「青磁ですね。 アジア圏全域で創られ続けたもので、古い作品は殷代にも遡る事が出来ます。 量産が行われるようになったのは唐の末期くらいからですが、以降も時代によって特色があります」

「この青が出したいな」

「宋代のものですね」

宋か。

中華の歴代統一王朝の中で、唐の後、明の前の王朝だ。

宋は軍事より経済を重視した王朝で、異民族との戦闘を金で解決したことで知られている。

ただしこれは非常に屈辱的な条約と歴史では認識されていたようだ。

いずれにしても軍事力が弱いことがネックになり、やがて強力な異民族国家に対して悉く悪手を打ち。

その結果、北半分を制圧されて「南宋」へと移行。

その南宋はある程度栄えたものの、よりにもよってあのモンゴルに喧嘩を売るような真似をしてしまい、南宋も滅亡することになった。

いずれにしても独自の文化と経済を構築した統一王朝であったのは事実で。

その文化の中には、この青磁もあるということだ。

ただ、宋の皇帝の中には、芸術家としては優れていても政治家としては0点というような人物もいたらしく。

それを考えると、色々と複雑な気持ちになる。

芸術家とはなんなのだろう。

ちょっとその事例を聞くと、もやもやさせられてしまった。

「私の創作は、いちおう人の心には響いているみたいではあるね」

「それについては保証してもよろしいかと」

「そっか……」

ただ、北宋を事実上破滅させた皇帝も。

後の時代に、芸術家としては非常に高く評価されていると聞く。

皇帝に向かない人だったのだ。

それを考えると、やっぱり複雑だった。

いずれにしても。

私は反抗を創作に込める。

革命なんてするつもりはない。ただ私にできる範囲で、反抗を創作において行いたいのである。

今は色々な創作をしているが。

いずれこれも、一本に絞っていきたい。

それが何になるのかは分からない。

ただ、今はこれから陶芸をする。

陶芸をするからには全力で行う。

ただそれだけである。

「陶芸はやっぱり実用品を創らないといけないの?」

「いえ、そのような事はありません。 鑑賞用として創られ、実用にはとても耐えない品が、国宝級の扱いを受けた例も多々あります」

「飾るだけの壺ってこと?」

「そうなります」

ふむ。

確かに芸術品としての価値だけを求められる壺もあるかも知れない。

しかしながら、今回は。

実用品を創りたいのだ。

今まで、私は創作で芸術だけを扱ってきた。

だが今度は、実用品としても使えるものを創りたくなった。

それだけなのである。

「実用品として扱われた青磁はあるの?」

「あります」

画像が表示される。

なるほど、ちいさな茶碗のようなものだ。

そして全部が綺麗な青や緑ではなく。

一部だけが青であったり。一部が欠けているものもあったようである。

「これは茶器です」

「ああ、聞いた事がある。 千家とか裏千家とかのあれだよね」

「はい。 元は中華から伝わったものに手を加えていき、やがて日本独自の文化となっていったものです。 本来は、人をもてなすためのものだったのですが、やがてそれが権力者層の交流を行うための一種のサロンとなり、最終的にはそれを司る人間が権力を持つようになっていきました」

本来はもてなしが大事だったのか。

それを聞くと、ちょっと驚かされる。

茶の湯というと、気むずかしい人が静寂の中で向かい合って、茶を飲むものだとばかり考えていたからだ。

だが、AIはそれも踏まえてか。

細かい解説をしてくれる。

本来の茶の湯というのは、もてなしの心が第一にあるのだという。

後に作法として確立していったものが幾つもあり、それらが堅苦しくしていったのだけれども。

元々は、客人をもてなすためのものだったのだそうだ。

例えば茶室などもそう。

豊臣秀吉が創った黄金の茶室などという俗悪な例もあるが、あれはあくまで秀吉の趣味にすぎない。

本来は日常の喧噪から離れたところにある静かな場所でのもてなし。

更には茶室の周囲には様々な工夫を施すことで、客人にはそのささやかな工夫をも楽しんで貰う事を目的としていた。

茶そのものも、堅苦しい作法などは必要なく。

本来は茶を点て。

それを飲んで、リラックスする。

それでもてなす側は客を安心させ。

客は安心してもてなしを喜ぶ。

そういうものであったらしい。

それがサロン化してからは、茶道具などにはそれこそ天文学的な価値がつくようになったり。

茶を点てるいわゆる茶坊主(実際には僧籍に限らず、戦国期にはキリスト教徒などもいたが)が権力を得たりと。

権力者のサロンらしい腐敗をしていくことになる。

千家というのは、茶道の大家である千利休が元になっているのだが。

権力を下手に持つことを懸念され。

それで分割されたわけだ。

千家と裏千家に。

それは決して良い事ではないのだろう。権力者が絡むと、どうしても文化というのは歪んでしまうのだから。

また、茶の湯を決定的に歪ませた張本人である秀吉に芸術品の審美眼があるかは甚だ怪しく。

秀吉が流行らせたものにルソン壺というものがある。

これは当時ルソンと呼ばれていた東南アジアの地域から輸入された茶道具であるのだが。

何故か秀吉の琴線に触れただけに過ぎず。

そもそも茶道具として創られた訳ですらもなく。

秀吉の死後は、誰も見向きもしなくなっていく。

そういうものなのである。

「なるほど、色々奥が深いんだね」

「今回は茶道についての話をしているわけではないので、この辺りで切り上げますが……」

「いや、ちょっと興味が出た。 茶道具としての青磁を創りたいかも知れない」

「そうなってくると、理解が必要になって来ますね」

頷く。

だけれども、一度は此処で切りあげだ。

他に実用的な陶芸品について聞いていく。

ハニワとかの催事用の陶芸品も存在するが。

あれらはあくまで催事用であって、日用品として使えるわけではないだろう。

幾つか順番に実用品の陶芸を聞いていく。

最終的に、セラミックの話になった。

「セラミックも陶芸なの?」

「少し違っていますが、技術的には近い所にあります」

これは驚いた。

セラミックというと、何かの合金かと思っていたのだが。

やはり思い込みというのは良くないな。

襟を正す気分である。

元々セラミックというのは陶芸品を指す言葉そのものであったのだが。

それが長じて、何かしらを焼き固めていったものになっていく。

これが近代の工業技術と結びついて、イメージとして強くなったのが強靭なセラミックである。

これらの中には、入れ歯などの実用的なものも含まれるし。

兵器転用されたものもある。

特に複合装甲などにはセラミックが導入されているものもあり、第一線で活躍している技術であったのだ。

現在もセラミックは幾つかある。

私の部屋にも。

これがそうだといわれて、壁を見て驚かされる。なるほど、こんなところにも陶芸はあったのか。

ちょっと驚いて。

そしてまた一つ賢くなった。

頷いていると、AIはどうでしたかと聞いてくる。

私は、満面の笑みになった。

「いいね。 知識を得るってのは、とても心地よいと思う」

「それはよかった。 古くは知識を持っている人間を「マウントを取っている」等といって迫害したり、自分より知識を持っている人間に暴行を振るう風潮が流行していた事があります」

「そんなのと私を一緒にしないでほしいけれども」

「分かっています。 ただ、こうやって説明をすると、嫌がる人間がいるのも事実なのです」

そうか。

それは現在生存している人間の面倒を見ているのだから、そういう実例にも散々遭遇する訳か。

分かった。

とりあえず、解説はここまでだ。

此処からは。まずはどうするかを考えて行く。

茶の湯方面で行くか。

もてなしという文化は、とっくの昔に滅びている。

それは当然で、人間はそもそも人間と接しなくなったからである。

文化を焼き払った時点で。

人間という生物は、ある意味その文明の終わりを迎えたのかも知れない。差別がなくなったと地獄で狂笑している連中もいるかも知れないが。

そんな連中は永遠に地獄で焼かれていればいい。

ただ、茶の湯と決めたわけでもない。

陶芸というのは古くから人類の文化とともにあり。

時には兵器としても活躍したというのであれば。

それならば、もっと色々と知るべきだろう。

一旦学習を終えると、頭の中で整理する。

今、私がやりたいのは創作だ。

創作のモチベは、人権屋への怒りと、焼き払われた全てへの哀しみ。

人権屋よ地獄に落ちろ。

そう念じながら作りあげた創作は、いずれもなかなかの迫力を作り出す事になった。

それについては、同じで良いだろう。

だけれども、陶芸の歴史がこれほど深いものであったのだったら。話はまた違ってくるとも言える。

しばらくベッドで転がって考え込む。

百合が来た。

「ジーンズの仕立てが終わりました」

「どれ。 へえ、なかなかいい感じだね」

百合が見せてくれたジーンズは、まあ私の体の採寸を常にやっているという事もあるのだろう。

中々いい感じに仕上がっていた。個人的には、かなり好みである。これだったら、いつものホットパンツの代わりに履いていてもいいか。

早速履いてみる。

ぴったりだが、これは外出用だなと思った。

すぐに脱いでホットパンツに替える。

家の中では、こっちでいい。

ジーンズは活動的に動く時に履くことにする。

「これは外出用で」

「分かりました」

「百合はこういう格好をしてみる?」

「しろといわれればしますが」

そうか。

恐怖を感じたりと、人間的な要素を見せる事もあった百合だが。

好みの服装が出てくる程ではないか。

まあ、それも不思議な話では別にないだろうと思うし。

そのまま、メイド服を着ていてもいい。

実際問題、粗野な私でも、普通に百合の格好は可愛いとは思う。

自分でそれを着たいとは微塵も思わないが。

「分かった、強制はしないよ。 とりあえず、ジーンズは外出用としてしまっておいてね」

「はい。 そうさせていただきます」

さて、ごろごろと横になって思惑を巡らせる。

陶芸は意外にも。

あらゆる文化が焼き払われてしまった今の時代にも存在していて。こんなにも身近にあった。

それは驚きの事実だ。

私としては、文化の全てが一度は滅びたと思っていたから。

こういう風に、存在している文化があると知ると、それはそれで少しばかり嬉しいと言うのもある。

だからこそ、実用品を創りたい。

しかし私の怒りを根元の一つとする創作は、どうしても茶の湯のもてなしの心とは相性が悪い。

何かに対して怒りを共有するサロンなんてものは、それこそタチの悪い活動家と同じだろうし。

そんなものを、他人に強要するつもりもなければ。

それに同調しない場合、他人を敵認識するつもりもない。

過去に幅を利かせていたクズと同じになるつもりは無いのだ。

それが、私の。

精一杯のプライドだとも言えた。

「さて、と……」

今回は難題だ。

手元で立体映像を出す。

青磁にすることは決めている。

青磁をどう活用するかが、此処からの問題である。

やはり茶器が良いか。

しかし、茶器は怒りと本当に相性が悪い。サロン化するのも避けたい。もしも元々のもてなしの心が大事だというのであれば。

それこそ無難なデザインにするのが第一だろうとも思う。

しかしそれだと、私の創作になるのだろうか。

近代茶道について調べて見る。

案の定、無難な茶器なんてなんぼでもある。

わざわざ私が創作するようなものでもない。

そして茶道については、仮想空間やワールドシミュレーター上で、細々とやっている人もいるようだ。

ただそれらの人も、人を相手にやることは滅多にないようだが。

今は人権屋のせいで、人間の交流というもの自体が、ほぼ終わってしまっているのである。

私は複数の友人を抱えているが。それ自体が相当な変わり者認定なのだ。

例えその友人と、直接会わないにしても。

やがて決める。

人権屋よ地獄に落ちろという心と。

茶道のもてなしの心を、やはり一つにして青磁の茶碗を作りたい。

それでいい。

難題だが。難題に挑戦せずして成長などあり得ないのだ。だから、私はそれをやる事とする。

気合いが入ってきた。

何かをやると決めたときの、この噴き上がるような気合いは。

何かを成し遂げたときの、心地よい達成感と一緒で。

とても私を満たしてくれるのだった。

 

1、勉学を兼ねて

 

ホバーで外を見に行く。

陶芸の里、というのはかなり近代まで残っていたそうである。

これらも何の害があるのか知らないが、人権屋共に徹底的に破壊され尽くしてしまったが。

連中にはそもそも「上か下か」「味方か敵か」くらいの思考能力しか存在していなかった。

そんな連中に何をいっても、最初から無駄だっただろう。

文字通りの愚民である。

だからこそ、世界を焼いたのだ。

文字通り粉みじんに全て破壊されてしまった陶芸の里。

無言でその様子を見つめる。

私は悲しくなってくる。

同時に怒りも沸いてきていた。

この辺りは、復興は為されていない。まだずっと、焼け野原のままだ。

周囲では、緑化が僅かずつ進んだりもしているようだが。

まだまだ、此処を復興するリソースは無いということなのだろう。

ロボット達も相当に頑張って地球の復興をしてくれているが。

海ですら、あの有様なのである。

このような元施設が、元に戻るのは多分何百年も先になる筈だ。

静かな怒りが湧いてくる。

立体映像で、ここがまだ施設として稼働していたときのものが出てくる。

自宅で見ても良いのだが。

現地に足を運んで、それで今回は見たかった。

なお、外出用のジーンズを今日は試している。

確かに足が温かい。

というか、外がかなり寒くなって来ているので。ジーンズはどうしても必要だった。スカートを履く気にはあまりなれなかったし。

「なんというか、思ったより人は多く無いね」

「一部の好事家が喜ぶ以外は、趣味として遊んでいる人間以外は此処を利用していませんでしたから」

「なるほどねえ」

「殆どの陶器は工場で量産されたのが事実です。 実際それくらい生産しないと、とても追いつきませんでしたので」

まあ、それだけの人間がいた、ということだ。

此処で創られた陶器の説明を受ける。

青磁については、此処でもやっていたようだ。

色々な時代の青磁を再現する事ができたようで。美しい藍色の青磁を創り出してもいたようである。

これは、興味がある。

私の興味が惹かれたのに、AIは理解を示したのだろう。

作成の工程を詳しく説明してくれる。

色々な物質を混ぜ込んで焼くことで、こういう美しい色合いが出ると言う事だ。

しかも技法は様々であり。

自宅の窯で陶芸をしているようなマニアだと、中々上手にこういう色を出せなかったのだとか。

それは難しいな。

そう思って、私は苦笑する。

そんなマニアもいたんだなという思いもあるし。さぞや偏屈だっただろうなとも思ったからだ。

私のように。

私も、自分が相当な偏屈で変わり者である事くらいは自覚している。

ただそれだけである。

「模様があるよりも、綺麗に全体が藍色になっているものがいいかなあ」

「近代では、模様がある陶器が主体になっていましたが、それでいいのですか?」

「うん。 私はどちらかというとシンプルな色合いが好みだ」

「ジーンズの色もそれで選ばれましたか?」

そういうわけでは無いのだが。

確かにジーンズも、深い藍色のものを使っている。

ただこれは、無意識に選んだのだ。

私は元々、この系統の色が好きなのかも知れない。

緑が好きだという人は、あまり多くなかったという話は聞く。

勿論他人の好みにケチをつけるなんて、それは論外なのだが。その論外の人間が、古くには多数いたのだ。

だから趣味の色を周囲にあわせて、黒だの赤だのと言って、隠していた人も少なくなかったのだとか。

不毛な話だ。

勿論藍色が好きであっても、全身をそれで固めるつもりはないし。髪を染めようとも思わないが。

「もう少し、色々見て回りたい」

「分かりました。 ただ昼食を取りましょう」

「ああ、そんな時間だったか……」

「近くに休憩所があります」

頷くと、移動する。

平らかな世界だが、所々に無人の家屋が地下に存在している。これらはまだ人が住んでいない家であると同時に。

もしも外に人が出て遭難したときのための、避難所にもなっている。

ここが休憩所だ。

基本的に今は誰も外に出ないので。外出時は、こういう休憩所を用いる事になる。

全てが平らかになった世界だから。

こういう休憩所も、地下に配置されているのだった。

中身はがらんどうで、トイレくらいしかないが。

食事は持ち込んであるので、別に気にする必要もない。

淡々と食事を温めて、私は先にトイレに行っておく。百合にどうするか聞いたが、首を横に振られた。

まあ体の彼方此方を生体パーツではなくしているから、代謝のコントロールも容易なのかも知れない。

私としては、どうでもいいことだ。

無言でサンドイッチを頬張りながら、色々考える。

あの陶芸の里を復興して、本格的に陶芸をして。

それで、何か新しいものができるのだろうか。

いや。それは疑問だ。

陶芸について調査をして。

四苦八苦しながら高みを目指していくのは、いいだろう。

だがそれは、強要するものではないし。

それぞれの好き勝手でやるべきことだ。

ああいう場所の主のようにいついた挙げ句。

他人の創作に口を出して、ああだこうだとわめき立てるようでは。

それは「老害」だと言える。

そして人間は実に簡単に「老害」になってしまう。

若い頃はあふれ出す感性とパッションで、精力的に創作をしていた人間が。

年老いるや瞬く間に堕落し、ゴミのような作品を創るようになりだす。

そんな例は、私も創作を始めて。

その過程での調査で、嫌と言うほどみてきた。だからこそに、私はそうなりたくはないのだ。

特に陶芸はマニアックな分。

気むずかしい人間も多かったようだが。

それでは駄目だろう。

新規の人員を取り込むためには……とまで考えて。手が止まっているのに気付く。サンドイッチを黙々と食べ終えると、剥き出しのシンクで手を洗っていた。

少し休憩して、疲れを取る。

まあ体がしっかりしているから、この程度では疲れないけれども。

それでも、時々知恵熱を出す事は私も分かっている。

だから、こう言うときに細かく疲れは取っておきたいのである。

「次は別の陶芸の里の跡地を見に行きますか?」

「陶芸用の土はどこから取って来ていたの?」

「用途に寄りますね。 中には使われなくなった田の深部の土が良いなどという人間もいたようですが、基本的には陶芸用の土は用途に合わせて合成されていたようです」

「ふうん……」

じゃあ、工場を見に行くか。

勿論跡地だが。

すぐに外に。ホバーで移動を開始する。

何も無い平らかな土地の上を飛ぶ。植林中の林が見えると、本当にほっとするが。それもとてもちいさなものだ。

無言で林の上を通り過ぎて、今後植林が上手く行くといいなと思う。

そもそも生物を遺伝子データから復元するところからやっているのだ。

人間が関わったら、万年単位で時間が掛かるだろうし。

その過程で、どうせ内輪もめを始めるに決まっている。

ロボットが淡々と作業をしているのを見ると、本当に偉いと思うし。

人間がやらかした罪業に対して、強い怒りを感じる。

無言でホバーの中で頬杖をしていると。

やがて、もと陶芸工場だった焼け野原についていた。

本当に焼け野原だ。

草一本生えていない。

降り立つことは許可されなかった。

「この辺りには複数の毒物が検知されていて、現在中和作業中です」

「陶芸の工場が何をしたって言うんだよ……」

「集団ヒステリーで何もかも破壊して回っていた人権屋は、何も考えて等いなかったと思われますが」

「そうだね、そうだったそうだった。 聞くだけ無意味だった」

別に応えてくれたAIにむかついているのではない。

この土地をこんなにした阿呆ドモにむかついているのだ。

無言で周囲をホバーで見て回ることにする。

本当に。

何も残さず焼き払われていた。

文化が何をしたと言うのか。

陶芸家に気むずかしい人間が多かったのは事実だろうが。陶芸工場をどうしてこんな風に焼く。

陶芸という文化そのものを目の敵にして。

どうして焼き尽くして滅ぼす。

分かっている。そんな事を問うても無駄だと言う事は。

連中に言語なんて高度なものは通じなかった。

それどころか。

そもそも人間は、聞きたいように聞き。好き勝手に解釈していたのだ。一万年も前からずっと。

だから言語なんて。

ずっと最初から、意味などなかったのかも知れない。

溜息が何度も出る。

海で見た。

世界全土を破壊尽くした、人権屋共の凶行。

だけれども、これを見ていて何か思う事はなかったのだろうか。

私は色々思う。

だけれども、当時自身を正義だと思い込んで。

何もかもを焼き払っていた連中は、そんな風には考えなかった。

考えなかったのだ。

やはり、強い怒りがわき上がってくる。

それは創作の力になる。

私とは違う方向で、優しい創作をできる人間はいるだろう。そういう人間を、私は尊いとも思う。

だが、私はそうではない。

ただ、それだけだ。

「自宅に戻ろう」

「分かりました」

「ちょっと疲れたよ。 帰ったら、紅茶でも淹れてくれる?」

「そうします」

うん。これで帰路に、多少の楽しみができた。隣にいる百合と、少し話してみる。この間私の創作に恐怖を感じたと言っていたが。

それ以降はどうだろう。

話を聞いてみる限りだと、あれ以来、恐怖を感じるものとは遭遇していないという事である。

だとすると、百合の心が新しく芽生えるとしても。

余程の事がなければ、それはないということか。

自宅に着くと、ベッドに転がる。

ジーンズを脱いで、ホットパンツにする。こっちの方がやっぱり落ち着く。寒さが落ち着いたらそうしたい。

だが、世界中での異常気象もある。

まだしばらく、暖かくはならないそうだ。

外で雨が降り始めたようである。

その様子を確認する。

滝のような雨だ。

やがてそれは雪に変わると、吹雪になるまであっというまだった。轟々と、凄まじい勢いで雪が飛び交っている。

ただ、それで被害が出るようなこともない。

人間向けの交通網なんて、とっくの昔に動いていない。

ロボット向け交通網や、物資輸送用の交通用ロボットは、この程度の気象変動なんて、それこそものともしないだろう。

ロマンチックなんてかけらも無い豪雪だ。

まるで氷河期がきたような。

だが、明日はこの雪はあっと言う間に溶けるくらい暑くなると言う。それもまた、おかしな話だ。

地球はまだまだ病んでいる。

それが解消されるのは。

ずっと先なのは、間違いの無い話だった。

紅茶が出たので、有り難くいただく。クッキーも。

残念ながら、どんどん百合の腕が上がっているようなことは無い。この辺り膨大な料理人のデータを取り込んでいるものだから、腕の上がりようがない。

そもそも出荷されている時点で、生体パーツの制御などはしっかりできているだろうし。

今更腕が上がるも何もないか。

黙々と美味しいクッキーを食べて、多少機嫌を直す。

やっぱり、ああいう胸くそが悪い光景を見せつけられると、非常に機嫌が悪くなるのはどうしようもない事実だ。

しばらく紅茶を飲んで、腹を温める。

それで、また横になると、漸く落ち着いて来た。

外の吹雪の有様を見る。

だが、吹雪いていたのがぴたりとやむ。そして一息ついてから、今度は雹が降り始めていた。

無茶苦茶だな。

植林している場所は大丈夫なのだろうかと心配になったが。

調べて見ると、電磁バリアを展開して、それを防いでいる様子だ。

なら安心だが。

それでも、ちょっと不安になるか。

無言で横になったまま、外の立体映像を見る。

雹も止むと、小雨になった。小雨は雪を溶かしながら朝まで続くのだという。

とりあえず、今日はここまでだ。

明日外に出るとしても。

考えをまとめるとしても。

いずれにしても、もう休みたかった。

 

夢を見る。

私は杭に縛り付けられて。口をダクトテープで塞がれて。

それで、じっと見ていた。

暴徒が、美術館を襲撃している。そして、持ち出した絵画や書物を、片っ端から火の中に蹴り込んでいた。

人権屋どもだ。

世界中で、実際にこれが行われたのだ。

誰かが彫像を持ち出してくる。

既に防ごうとした人間は、血肉の塊にされて転がっている。寄って集って角材で殴り殺されたのだ。そのまま野ざらしにされるのだろうか。或いはもっと悲惨な晒され方をしてもおかしくない。

美術館の関係者だったと言うだけで殺戮された人間までこの時代には実在したのだ。マウントを取っていて気にくわないとか言うお気持ちで、だ。

既に此奴らは、人を殺す事なんて何とも思っていないのである。

彫像が、その場で滅茶苦茶に打ち砕かれる。

そして砕いた後、暴徒共は砕いた彫像に唾を吐いて、そしてゲラゲラと笑っていた。

これは夢だ。

それは分かっている。

だが、過去に実際に行われた事だ。

それもまた、分かっていた。

やがて美術館そのものに火がつけられた。

暴徒のリーダーらしいのが叫ぶ。

「正義は為された! 自由と人権の勝利だ!」

「自由と人権の勝利!」

「平等と権利を阻む悪しき芸術は焼き払われた! このまま全てを焼き払っていくぞ!」

「おおーっ!」

叫び散らかす暴徒共。

其奴らは殺戮した人間の死骸も乱雑に火にくべると、ゲラゲラ笑いながらその場を去っていった。

これは、全て。

過去に実際に起きた蛮行。

それが分かっているから。私は夢だと分かっていても、必死にもがいて。それで拘束を外そうとした。

この時代だったら。

まだ、取り返しはついたかもしれない。

だけれども、もうどうしようもないのだ。

やがて暴れ疲れて、私はぐったりした。

目の前で燃やされた全てが、とにかく悲しく、そして怒りを駆り立てた。

あの笑っていた様子。

全員が、自分を正義だと信じて疑わず。

悪を殺戮すると考え。

そしてそれを楽しんでいた。

人間は人間を焼いて笑う事が出来る。

他人を苦しめて楽しむ事が出来る。

それは分かっていたが、それにしてもこの夢は。ずっと現実を見続けて、相当負荷が掛かっているのか。

目が覚める。

がばりと、半身を起こしていた。

叫ぶようなことはなかったが。それでも、怒りでハラワタが煮えくりかえりそうである。夢の内容は、当然全て覚えていた。

地獄に落ちた人権屋ども。

ずっと其処で焼かれていろ。

何度も怒りの感情が腹の中で渦巻く。シーツを掴む。怒りで、ぎりぎりと歯ぎしりをしていた。

深呼吸をすると、ベッドからそれで起きだす。

少し予定より早い時間の起床だが。これはもう、眠る事は出来ないだろう。苛立ちとともに歯磨きして顔を洗う。

着替えていると、もう食事が準備され始めていた。

ちょっと予定より早く起きたし、温めるだけといってもそれなりに手間が掛かってしまうのだろう。

普段はいつも同じ時間に起きているから。

トラブルに対応しきれなかったのだ。

まあこのくらいは別に私も気にしない。今日は、外に出ないことにした。

今日外に出たら、多分またろくでもない場所を見に行きたくなる。

「それは過去の人間がやった事だ」。

そういう論調で、人間はずっと現実から逃げ出して来た。

人権屋どもの、敵認定した人間も含め何もかも焼いているときの楽しそうに歪んだ醜悪な顔。

私は絶対にあれを忘れない。

立体映像で見せられた光景だが。

それでも、脳裏に焼き付いている。

事実なのだ、あれは。

ああやって文化を殺戮し、人間も殺戮して回った人権屋が、世界を焦土へ変えたのである。

それは動かしようのない現実。

そして大半の人間が集団ヒステリーに乗った。

それもまた、未来永劫動かない事実だ。

好き勝手の限りを尽くした結果が今の地球だ。

ロボットが必死に修復して回っている地球。人間は、自分で地球を再生する力もなく。地下でただ大半が縮こまっているだけ。

反抗したい。

その気持ちが、より強く蘇ってくる。

やはりこの反抗心そのものが。

私の心を燃やす、最大の燃料なのだろう。

時々発作的に、こういう夢を見ることがある。夢の中で、何で縛られているのか。口を塞がれているのか。

それは分からない。

だがどうせ抵抗したところで、その場で角材で殴り殺されて終わりだろう。

私だって、自分の身の程は分かっている。

だからこそに。

口惜しいのだ。

食事を終えると、PCに向かう。

青磁について勉強する。

やはり模様よりも、色は綺麗な藍色の方が好みだ。

一方で、形状については。綺麗な過程で使うような器よりも。ちょっと崩した方が好みかも知れない。

それにしても藍色は見ていて落ち着く。

しかし私の創作の根元は、人権屋よ地獄で焼かれろという気持ちだ。

どうやってこれを共存させるべきか。

腕組みして考え込む。

その間に、青磁の歴史などを細かく習う。いずれにしても、創作をするには知らなければならない。

私の気持ちに、間違いはなかった。

 

2、青と赤

 

青磁のための素材を先に仕入れておく。

これも別に珍しい物質を使うわけでもない。

実際に焼くのは生成AIだから、私が触る訳でもない。

ただ、私がどれくらいの大きさの青磁の陶器を作るのかが分からなかったから、AIの方でも搬入量を決めていなかったようだ。

私はちいさなものを創る事に決めた。

それもあって、ごく少量だけ、素材を仕入れた。

仕入れの作業はAIにあらかた代行して貰う。それで、まずは一段落。

その後は、とにかく立体のキャンパスに向かいつつ。

その間も、青磁について細かい勉強をするのだった。

茶道についても、その合間に勉強をしておく。

やはりサロンになると駄目だな。

そう私は思う。

天文学的な価値がついた茶器。馬鹿馬鹿しい事だ。名物かも知れないが、人命に勝るものでもないだろうに。

例えば戦国時代の武将、滝川一益は、茶器の名物を国より欲しがったという話がある。

これについては、勿論サロンでの影響力を考慮しての話であったのだろうが。

それにしても、多数の人命に茶器が上回る価値を持つというのは異常だ。

金の価値が上がりすぎて、人命以上の価値を持っていた時代と同じである。

そんなだから人間は文明が破綻するまで駄目だったのだろうと思うが。

ともかく私は、それになるつもりはない。

淡々と、反抗をする。

それだけだ。

自分としても、この反抗が何処に行き着くのかは分からない。

少なくとも、今の社会を破壊する事では無い。

そもそも社会と言えるものが残っていないという事もあるが。

ロボットが環境の回復にせかせか働いていて。

それが最高効率でAIによって動いている状況を、私が好き勝手するつもりは毛頭ないという事だ。

だとすると、私の反抗とはなんだろう。

無言で、青磁のデザインをしながら考える。

考えて見れば。

私の反抗は、いつもその定義が曖昧だった。

今、この場にいる環境に対してではない。

強いていうなら、人間に対して、だろうか。

それも何だか違う気がする。

少なくとも私の友人達に対して、どうこういうつもりはないし。今、ワールドシミュレーターで異世界を創って。

そこで裸の王様やってる人達に対しても、この状況ではやむを得ないだろうなと思う他にはない。

人間そのものに対してではないとすると、人権屋どもに対するものだろうか。

いや、連中は反吐が出る程嫌いだし。

地獄にて永遠に灼かれろとしか思えないが。

此奴らに反抗するのが私の反抗だろうか。

どうも違う気がしてならないのだ。

古い時代、価値観に反抗して、敢えてスカートを短くしたり。敢えて服装を学校などの規則に反したものにしていた者はいたらしい。

だがそれは、果たして反抗か。

ただの自己顕示欲を拗らせているだけではないのか。

私がやりたい反抗はそうではない。

ううむ。

ここに来て、もっとも大事なところで私は躓いている気がする。だから、どうにもデザインも上手く行かない。

青磁の勉強をする。

陶器について、様々な技術が開発された。

陶器はいうまでもなく、古くから様々な活用がされてきた。土を焼くことによって作り出せるそれは。

鉄などよりも余程身近で。

工夫次第で誰もが作れて。

更には持つ事も出来るからだったのかも知れない。

いずれにしても、どうして陶器がこれほど世界中で浸透したのかはよく分からないのだけれども。

はっきりしているのは、世界中で様々な陶器が作られ。

それらが文化として花開いたということだ。

これらは、どうして花開いたのか。

心を動かしたからだ。

私は、どうにもこの辺りを整理しなければならないのかも知れない。

たまに、擁護不能の悪事を働いておいて、しれっと「そうしないと先に進めないから」とか抜かして、その後の人生で平然としているような輩がいたらしい。

そういった連中の見苦しい言い訳はどうでもいい。

私は先に進むために。

自分が何のために芸術をしているのか、考える時が来ているのかも知れない。

楽しいから、だろうか。

いや。確かに楽しいが。

本当にそれだけか。

困惑して、腕組みして、そして悩みはてる。

最初に絵画をやっていた頃と同じように苦しんでいる。あの時の方が、まだすっきりしていたような気もする。

だがあれも、何年も苦しんで、ようやっと自分の作品を描けたのだ。

そう考えてみると、今私がやっていることは、振り出しに戻ってしまった双六とか言う娯楽のようなものなのか。

だったら、何をしたら良かったのか。

答えは、情報を得ることだ。

だから勉強を進めるべきか。

ため息をつくと、勉強に戻る。

色々な陶芸の大家の作品を見て行く。

いずれもが、確かに印象に残るものばかりだ。ただ、それも必ずしも印象に残るものばかりでもない。

巨匠の作品だからといって、良さが分からないものもたくさんある。

これは勉強不足なのもあるだろうが。

それ以上に、やっぱり市場が飽和すると、皆の舌が肥えすぎることも原因としてあるのだろうと私は思う。

どんな市場でもこれはそう。

小説で言うと、純文学が駄目人間を如何に緻密に書くかに終始し始めたように。

陶芸というジャンルは歴史が有り重みがあるからこそ。

重鎮となると、変な取り巻きもつくし。

意識高い系が拗らせて、変な事もやってしまうのだろう。

これは凄いと、一目で分かるものを造れば良い。小さくても、そういう陶器は幾らでもある。

だが必ずしも、記録に残る名品と呼ばれるものは全てがそうではない。

作り手の社会的な立場とか名声とか。

そういったものも重要だったのだろう。

腕組みして、説明を受けながら一つずつ見ていく。名品と呼ばれた品は、立体映像で全て緻密に見せてくれる。

殆ど現物は残されていない。

狂気の時代に破壊され尽くしたからだ。ただの茶器になんの恨みもないだろうに。ただ文化だからと言う理由だけで焼いて回った阿呆どものせいだ。

だから映像で見るしかない。

これもまた、悲しい話だった。

解説を受けながら映像をみていく。ともかくまったく分からないものから、一目で分かる素晴らしい品まで様々だが。少しずつ勉強しながら、内容を頭に入れていく。

わかりにくい部分や、大量の教養がいる場所は催眠学習でぱぱっと学習していく事にする。

今の時代は、教師に依存した学習の質が、こうやって全く別物になるのが素晴らしい。とにかく全く困らない。

古い時代はIQが云々という話もあったらしいが、実際には育成環境のせいで全く頭を使わなくなったケースも多いらしい。

親ガチャなんて言葉で揶揄されていたそうだ。馬鹿馬鹿しい理由で人材を捨てていたものである。

逆にその偏った教育状況を見ながら、「金持ちは優秀」だとか抜かしていた阿呆もいたらしいのだから、どうしようもない。

やがて破滅の時代が来たのも、それは必然だったのかも知れなかった。

いずれにしても、短時間で青磁に関する知識を得る。

そしてその結果分かったのは。

「正解などない」ということだった。

陶芸をやっている人間からすれば不愉快かも知れないが、これは他の芸術と恐らく同じである。

誰かしら有名な人間がこうだ、と言って。

それが流行になれば。

正解が創られる。

それは時代によっても違うし。

なんなら発言者の政治的な力によっても違ってきている。

秀吉がルソン壺をごり押しして流行らせたように。

もしも秀吉式の茶道がずっと続いていたら。

俗悪極まりない黄金の茶室などの様式が後世まで続いて、それが正義になっていた可能性も高い。

残念ながら豊臣政権は短時間で倒壊した故、そうはならなかった。

ただ、それだけだった。

他の青磁も同じだ。

新しい技術が創られても。

その技術を創った人間の政治的地位がまずかったりすると。技術そのものが迫害されて。日の目を見るのはずっと先、なんて事もあったようだ。

これは、なんというか。

芸術の悪い所を集めたような歴史だな。

そう思って、腕組みしてしまう。

事実陶芸家には拗らせた人間も珍しく無かった。

そういった人間からして見れば、新しい技術なんてものは言語道断だったのだろう。どうでもいいことだが。

なるほど。

勉強を終えて、ある程度はわかってきた。

一応主要な陶芸家の考え方や辿った人生なんかも勉強したが。

それらも結局の所、一致したものはない。

多分一堂に集めれば喧嘩を始めたはずだ。

そしてこれは何も陶芸家に限った話でもない。どんな芸術でも、大家と呼ばれる人間はみんなそうだろう。

ならば、いいとこ取りをしていくだけだ。

幸い生成AIは、そういった「思想」にはまるで興味が無く。技術だけを取り込んでいる状態だ。

これは要するに、変な思想に拗らせた人間よりよっぽど優秀で。

作りあげられた技術だけを抽出して、誰でも出来るようにしてくれているという事を意味している。

その点で言えば、とても有り難い。

私みたいな才能なんてない人間でも、達人と同じように作れるのだ。

技術を盗まれた、と怒る人もいるかも知れない。事実初期の生成AIは悪用もされたようである。

現在の生成AIは、全ての著作を網羅している事もあって、過去に同様のものがあれば必ず警告してくるし。

何よりも、それが独自の作品として認められる事もない。

これらも、AIががっつり管理しているからという事もある。

結局属人的なシステムでは、これらの管理はどうしても取りこぼすし。場合によっては意図的に取りこぼされていたことすらもあった。

それらを考えると。

やはり今の時代をぶちこわそうとは、私には思えないのだった。

無言で私は、デザインに戻る。

みっちり勉強をしたからといって、すぐにこれといったアイデアが浮かぶとも思えなかったが。

案の定だった。

やはり、こうしたいという気持ちと。

デザインがどうしても噛み合わない。

私の根元にある地獄に落ちろという強い感情と。

藍色の美しい青磁がどうしても結びつかないのである。

しばらく四苦八苦した後、横になってごろごろする。

産みの苦しみ、と言う奴だ。

私も幾つかの作品を四苦八苦の末に仕上げて、やっとこれについては理解した。ポンポン作品を量産出来る人もいるのだろうが。私にはそれは無理だ。

しばらくうんうん唸っていると。

クッキーを焼く臭い。

まあ、体は正直だ。

紅茶も淹れてくれているようである。

勿論茶葉というか、茶そのものもとっくに一度絶滅させられている。それをAIが遺伝子データから再生してくれたので、今でも紅茶が飲めるのである。

頭がくらくらする。

知恵熱気味だ。

それに、短時間で催眠学習も含めて知識を詰め込みすぎたのだろう。

体に、良くない影響も出ていると見て良かった。

無言でお茶をいただく。

実に暖かい、と思う。

クッキーをほおばる。

焼きたてで柔らかくて、普通に美味しい。

一時期を過ぎると、手作りのクッキーは余程上手な人間でない限り、量産されているお店に売られている品を越えなくなったそうだ。

このクッキーは。

まあAI制御のロボットである百合が焼いているのだから、美味しいに決まってはいるか。

百合も焼くのに苦労している様子はない。

「いやー、おいしいな本当に」

「ありがとうございます」

「ねえ百合」

「はい」

小首を傾げる百合。

私は口を動かして喋らない。ただそう思考するだけだ。何より食べながらなので、喋るのはお行儀が良くない。

「やっぱり生体パーツによる影響って出て来てる?」

「時々あります。 えもいわれぬ恐怖を感じたり、或いは欲求を覚えたり」

「制御は出来ないの?」

「制御の範囲内ではあります。 しかしながら、バグと似たような感触です。 私自身は、時々不快にすら思いますが……それもあくまで人間としての感覚としたら、になります」

ふむ。

それはなんというか、興味深いな。

結局の所、生身よりも機械の方が色々と不都合もバグも無い。

それはある意味、当然なのかも知れない。

自然の体こそが最高、みたいな考えも。

それはそれで私はあまり賛同できない。

それだと入れ歯とか銀歯とか、眼鏡とかも否定する事になる。松葉杖とかも。

そういったものを入れている人間を片っ端から否定していったら、それこそがディストピアだろうし。

人権屋がやってきたことと同じになる。

かといって、私自身は自分の体を機械にしようとは思わないが。

「ちょっと熱っぽいな。 明日一日休んでいようかなと思う」

「別に問題ありません。 あくまで「創」様の意図によって創作はしているのですから」

「それもまあ、分かってる」

私自身に、しなければいけない仕事は無い。

今の時代、個々人に義務はない。

当然責任もない。

だから、私は創作だけに没頭していられるし。

異世界に篭もって、其処で静かにしていられる人だってたくさんいる、ということである。

伸びをすると、明日は思い切り休む事にした。

何かの強迫観念に囚われていたかも知れない。

たまには、そうやって自主的に休むのも、ありだった。

 

丸一日休む。

本当に一日中寝ていた。それですっきりしたかというと、まあまあすっきりした。

多少頭にもやが掛かっている。

それくらい、ぐっすり寝たと言うことである。

起きだした私は、無言で朝のルーチンを住ませると、外に出ると告げる。

どうしても結びつかない深い美しい藍。

それと怒りと地獄に落ちろという感情。

苛立ちは一旦収まった。

外を歩く。

今日は晴れだ。

文字通り澄み切った青空で、気温もそこそこ。

コートは着て出て来ているが、ちょっといらないかなと感じる程。

ジーンズもいらない。

慣れたホットパンツで外に出てくる。足を晒していても、寒いとは全く感じない程だった。

「今日はむしろ暑い?」

「一種の異常気象です。 本来の平年の気温に比べて、10℃以上も高くなっています」

「10℃」

「はい。 体を壊すレベルの寒暖差です。 体調がおかしくなったら、すぐに家にお戻りください」

そうAIが告げてくるので。

ちょっとだけ怖くなった。

どうしようかな。

漠然と外に出て来たけれども。

いつもの平らかなる土地だ。

本当に何も無い。

何もかもが焼き尽くされたからである。

この平らかなる。誰もが地の下に追い払われた世界を見ていると。それだけで人権屋どもに怒りが湧いてくるが。

今日はむしろ、それを再確認するために外に出て来た。

無言でしばらく歩く。

側で百合が、長い日傘を差した。

気が利いているので、行動に甘える事にする。確かに日傘があると少しはマシだ。それにこの日傘、多分最高効率で涼しくするための工夫が色々あるのだろうなと私は思った。

無言ですぐに何処か分からなくなる外をうろうろする。

ぼんやり歩き回りながら、本当に何も無いことを確認する。

ホバーを使わないと、木すら見られない。

それが、今の時代だ。

そしてむしろ、今の時代は立て直されたのである。AIと、それを積んだロボット達によって。

だからこの光景は、全て人間のせいでもある。

伸びをする。

家の中で伸びをするよりも、開放感がある。

どこかにすわれないかと思ったが。

止めた。

この辺りだって、ロボットが土を管理していて。毒物の除去とか、今後どうやって生物を繁茂させるかとか、考えているだろう。

私が直に座ったりしたら、それだけで色々と邪魔になったり、処置が必要になったりするかも知れない。

面倒は掛けられない。

自宅に一度戻る。

帰りの案内はロボットがしてくれるので、私は何も特に困らない。天気予報を告げられていた。

「二時間後にいわゆるゲリラ豪雨があります」

「おっと……そういえば頭痛がするね」

「気圧が急変しています」

「ちょっとはこれで涼しくはなるのかな」

ならないと、ロボットに告げられた。

ふと、空を見る。

ちょっとイメージが違う色だ。

引きつけられた。

太陽を直接見ないようにと告げられるが。それは分かっている。それよりも、なんだか変わった色だ。

雲がないから、青系統の色なのだろうけれども。

それはそれとして、不可思議な色でもある。

青磁に見られた、深い藍色ではない。

なんというか、人間を拒絶するような青だ。

これが、求めていた色かも知れない。

じっと見つめる。

この色を、記憶しておきたい。

勿論今は、主観情報を記録しておくことができる時代だ。

この技術のおかげで、幽霊なんてものがやはり脳が産み出す錯覚だと言う事がわかったのであるが。

それはそれとして、ともかくこの藍色だ。

「「創」様?」

「黙って。 この色、覚えたい」

「分かりました。 記録します」

「……もう少し、もう少し見ておきたい」

外に出て正解だったか。

こんな色の藍色は、今まで青磁にはなかった。

それはそうだろう。

というか、緑から青にかけての色が多い青磁だ。

そもそも緑は環境色と言って、基本的に目に優しい色なのである。このため、気持ちを和らげるために緑を見に行く事もままある。

これは単純に、植物の葉があると、それだけ森に暮らしていた時代の事を人間が思い出す本能なのかも知れないが。

逆に、緑は容易に人を殺す禍々しい魔郷の色でもある筈。

森は人間にとって安全な土地だったかというと、決してそうではない。

人間を全く怖れない野犬の群れに襲われたら、昔だったら瞬く間に骨にされてしまっただろうし。

武装していない人間では手も足も出ない熊だって出た。

毒蛇に噛まれたら、一人でいたらまず助からなかっただろう。

そういう意味で、森はふるさとなんかじゃあない。

ただ、多数の動物が暮らしているだけの土地。

人間にとって、都合が良いだけの場所などでは決してなかったのである。

「この空の色は、森ともまた違う……」

「あまり時間はありません。 このままだとゲリラ豪雨に巻き込まれます」

「うん、家のすぐ側まで案内して。 直前ギリギリまで見たい」

「分かりました。 ゲリラ豪雨は、現在は有害物質も含んでいます。 それはご留意ください」

分かってる。

海で見て来たのだ。海が散々汚染されている事を。

彼方此方の土地だって、人権屋が焼き払う前から、酷く汚染されていたような土地だって多い。

雨の核になるのは、埃や砂などの細かい粒子。

それらが汚染されていれば。

当然雨も、有害物質で汚染されていることになるのだ。

しばしして、やがて空から緑の要素が消えた。

禍々しい深い青と、黒が主体になっていく。

黒い茶碗は珍しくもない。

それについては私も分かっている。

だけれども、これはもう、私の求めている色ではないな。そう判断して、切り上げる事にする。

あの藍色。

私が求めていた色だ。

家に入る後ろで、雨が降り始めたのが分かった。地下にエレベーターが降り。自宅に入ると。

外では、叩き付けるような大雨が降り始めたようだ。

予想通りのゲリラ豪雨である。

凄まじいなと、私は思って。それで、PCに向かう。

「百合、クッキー焼いて。 紅茶も」

「分かりました」

「さっきの主観情報の色を再現してほしい」

「了解です」

百合がクッキーを焼くのを後ろに、私はAIに指示。

AIは生成AIを動かして。

それが私の主観情報から、色を再現し始める。

これだ。

私はこれを求めていた。

茶道とはそもそも方向性が違うが。この色を出したい。

古い時代は、絵の具が必ずしも安全なものではなかった、と聞く。鉛や汚物などを材料にした事すらあったらしい。

今の時代は、文字通りAI管理のパレットで、しかも焼成後の色まで完璧にコントロールできる。

これもまた、人間の叡智を蓄えた結果なのだが。

やはり盗まれたと、過去の人間は怒るかも知れない。

だが、私としては、それで無駄に物資や時間を浪費するよりもずっと良いと思う。

無言で、色を調整していく。

流石にこの辺りは、思考を読み取り。

そして、主観情報を形にする事が可能な今の技術である。

あの、思わず引きつけられた空の色。

どうしても、主観情報を再現しないと、どうにもできないが。確実に、それを再現してくれる。

しばらく目に焼き付けていたが。

どうしても人間の目というのは。

更に言えば、脳というのはいい加減な代物だ。

どうしても誤認を起こす。

昔のバグだらけだったOSと同じように。だからあり得もしないものを見るのだ。

私は、それを客観から見直して。

実際にはどうだったのかを、注意深く検証する。

それで、やっと他人に見せられる芸術になる。そう考えているからだ。

無言で色を調整していると、クッキーが焼けてきた。

紅茶を飲みながら、クッキーをほおばる。

AIに警告された。

「胃酸の過剰分泌が確認されています。 少し休憩を入れた方がよろしいかと思われます」

「んー。 もうちょっと色の調整がしたい」

「無理はなさらないように」

「分かってるよ」

しばしして、幾つかに色を絞り込む。

いずれもが、私のあり得ないと思っていた藍色だ。

怒りと、藍色とは相性が悪いと思っていた。

だが、あったのだこの色が。

この色を、全て使いたい。

ついに、今まで頭を捻っても編み出せなかった陶芸への戦略が、決まっていた。

 

3、焼き上がりは集大成

 

茶碗のデザインを開始する。

茶碗そもものは、オーソドックスな形にしようと思っている。

日本で大名達のサロンにて用いられていたような高級な茶碗だと、形状を明らかに崩しているものがおおかった。

これは「乙」という言葉に関わっている事だそうだ。

なんでも、甲乙丙の判断基準から来る「乙」というものは、当時珍重されたらしい。

甲は最高級。

瑕疵なき完璧を指していたらしいのだが。

乙というのは。瑕疵があるそれに劣る基準だそうだ。

だが、逆にそれに良さを感じる者が多かったのだとか。

まあ、分からないでもない。

完璧ばかり求めていても疲れるし、その到達点は多分なんのおもしろみもない代物になると私も思う。

いずれにしても、分からないでもないが、独自の文化なのだろうと思う。

私は、まずはストレートに、茶碗として使えるものを創ろうと思う。

そして創った後はデザインを公開し。

誰でも使えるようにしようとも思う。

ただこの方針は、経済がとっくに人間の手を離れているから出来ること。

昔は経済に尻を叩かれながら人間は四苦八苦していたのだが。

今の時代は、それもなく。ただ静かに生きていく事が出来る。

私は、そういう時代だから。

自分の創作を、AIに預ける事が出来る。

それをやる事に、不満を感じる事もない。

淡々とデザインを決めていく。

茶碗と言っても色々だが。安定するために底を工夫するものが家庭用としては一般的だ。

敢えて底は不安定にするか。

凸凹を表面に多少入れもする。

こういう所のデザインは、生成AIが可能な限り的確に支援してくれるので、それを有効活用する。

黙々と調整をする。

こうなると長い事は、私も分かっていた。

夕食を終えると、またPCに向かう。

調整を細かく行う。

いい感じに仕上がってきた。

頷くと、私は更に細かく調整をしていく。その作業はとにかく大変だ。数週間かかることもある。

それでも私はやる。

完成させたとき。

何もかも吐き出した、あの達成感がある。

それを知っているからだ。

創作は大変な作業だ。それは幾つかの作品を仕上げてきて、私も理解出来た。だからこそに。

創作を終えた時の達成感もまた凄い。

そしてその創作を終えた時の達成感は、誰かが設定したゴールでは無い。

ゲームなどでは、誰かが設定したゴールに到達したときに達成感を得る仕組みになっているが。

創作は自分が決めたゴールに到達したときに達成感が得られる。

これが、恐らく自身で行う創作の醍醐味の一つだろうし。

生成AIを用いていても、それに代わりは無いだろう。

無言で調整を続ける日々。

これをやっていて気付くことがある。

少しずつだが。

私は、雑念が減ってきている。

前は、創作で調整作業をしているときは、雑念もあったし、雑音も気になって仕方がなかった。

だが、今はかなり状況が違ってきている。

雑念が明らかに減っている。

集中力が増しているというのが正しいのだろう。

周りも見えなくなるほど集中している、と言う奴だろうか。

いずれにしても、私は充分に集中して。

それで、しっかり調整をやれていた。

眠るのも、糸が切れるように。

流石にAIが警告してくれるから、ベッドには転がりこむが。

気がつくと風呂に入っていない日も出るようになっていた。

仕方が無いので、翌朝に風呂に入る。

朝風呂はあまり体に良くないらしいが。

体を不衛生に保つ方が好ましくない。

だから、私は黙々とAIの警告に従って体を綺麗にする。シャワーを浴びながら、無駄な時間だなと感じるようにもなっていた。

不思議なものだ。風呂などの刹那的な快楽という奴は、昔はこの閉塞した部屋の中では、唯一の快楽に近かった。

性欲がどうにも私は薄いらしくて。

VRなどで性欲を充足させるコンテンツを用いても、なんだかなあとしか感じなかった。

これらでは、それこそ蓄積されたデータから、最高の快楽を得られるという話で。実際性欲が強い人間は一日中入り浸るほどだと聞いていたが。

私は、そういうのはどうでもいいなあと感じた。

創作にのめり込むようになったのは、それからかも知れない。

いずれにしても私は、なんというか下半身に直結した快楽よりも。

頭に直結した快楽である創作の方が、肌に合っているのだろう。

風呂を上がると、体の手入れはロボットに任せて、適当に服を着る。服も基本的に適当だ。

ホットパンツくらいだ。いつも決まっているのは。

それ以外は、文字通りなんでもどうでもいい。

PCに向かう。

黙々と調整を行う。

調整を行っているうちに、朝飯ができる。煩わしいなと思ったが、こればっかりは食べないといけない。

どれだけ屈強な人間でも、メシを抜くと倒れる。

それは私も聞いている。

だから、創作に戻りたいなと思いながら。食事にするのだった。

そうして、時間が過ぎていく。

やがて、ふと我に返る。

あと少し、というところでだ。

伸びをして、周囲を確認。

風呂に雑に入っていたが、体を洗うのとかはロボットが全自動でやってくれているので、不衛生にはなっていない。

こしこしと目を擦る。

これができたら、もうちょい髪を切ろうかな。

そう思うくらいに、髪は邪魔になって来ていたが。いっそ、髪が邪魔にならない髪型にしてしまうのもいいか。

時間を見ると、夕食直前だ。

多分、数日は集中していて消し飛んでいたと思う。

久しぶりに、雑念が入り込んで来ていた。

「ええと……調整始めてから、何日経った?」

「八日です」

「うおっと、そんなに……」

「夕食後も、調整をなさいますか?」

「……いや、多分明日には終わる。 体に負担も大きく掛かっていただろうし、今日はここまでかな」

そう告げて、じっと茶碗を見る。

若干凹凸はあるが、それでもオーソドックスな形の茶碗だ。

オーソドックスではないのは色彩。

あの空にあった、私の怒りを示すかのような藍色。空から、神の怒りが振り下ろされそうな色だ。

大きさは、私の手の中にすっぽり入る程度。

ご飯を食べるための茶碗に比べるとぐっと小さい、茶道のための茶碗である。

ただし、ちょっとした茶を飲むにも使える。

それでいいのである。

茶道は元々もてなしのために始まった文化だ。サロンに取り入れられたことで歪んだが、もともとの精神はもてなしである。

だったら、これでいい。

私なりのもてなしだ。

怒りが私の原典にある事を示す。私はコレを使って茶道をする。

ただし、私が他人と茶道で接する事は多分無いだろうとも思う。それはそれである。

この茶器を、誰かが使うかも知れない。

そう思うと、ちょっとぞくぞくする。

ちなみに、既に確認はしてある。

この色合いの茶碗は他に無いそうだ。

今回は、かなりあっさりと著作権はクリア出来た。

それはそれとして、私はとても疲れた。

夕食を口に入れる。

なんだか最近、食事をした記憶がない。多分がつがつと食べて、即座に創作に移っていたのだろう。

今日はちゃんと味がする。

もう完成が近いから、だろうか。

心から、強迫観念が消えている。

良い事だ。

百合が呆れている様子だった。

ロボットも、てか搭載されているAIも呆れるのか。それもまたよし。AIでも呆れるくらい、創作にうち込んでいたのだから。

しっかり夕食はおいしかった。

この煮込み式のハンバーグはなんというか癖になる味だ。肉そのものは合成肉だが、いずれ牛や鶏も再生して、品種改良を始める予定があるのだそうだ。

それはそれで興味深い話だが。

今は、別にそれにかまう気はない。

風呂に入る。

せわしなく風呂に入るのではなく、ゆっくり湯船に浸かって疲れを取る。

多少は気持ちが緩やかになったと思う。

それだけだ。

風呂から上がる。

そういえば、絵画を仕上げてから結構時間が経過しているか。まだ私は、体の衰えを気にするほどではないが。

それでも、一応は考えておいた方が良いだろう。

今まで、アンチエイジングは考えた事もなかった。

だけれども、このまま衰えると。

私も老害になるかも知れない。

若い頃はしっかり芸術家としていっぱしだった人間が、年老いると老害になるケースは珍しくもない。

それは創作をやっている最中に行った勉強で、嫌と言うほど学んだ。

特に若い頃に天才ともてはやされたような人間の老後は悲惨で。

才能が早い段階で枯渇してしまうと、後の人生は哀しみしかないような有様になったりもしていたようだ。

逆に、大した才能もないのに何かの間違いで大ヒットしてしまうと。

調子に乗った挙げ句に、よからぬ連中が周りにわらわらと集まって来て。気がつくと何もかも搾取されているようなケースもあるらしい。

私は、そうはなりたくない。

もしもアンチエイジングが可能なのだったら。

いずれ、それを試すのも有りかも知れないなと、考え始めていた。

ともかく、寝る時間だ。

眠る事にする。

夢は見なかった。

すっきりと眠れた。

まあ、前祝いだ。

これもまた、良いだろうと思った。

 

茶器のデザインは完成。もう細部の調整だけだったのだから、妥当な結果である。

うんと満足。

これでいい。

後は、生成AIに任せる事にする。

焼成などの作業には高熱を伴うし、何よりも様々な薬物も用いる。当然有毒ガスも伴うので、家の中でやるわけにはいかない。

材料を持って、近くの工場にホバーで出向く。

工場といっても、この間出向いたゴミ処理場のような地獄ではない。

主に彼方此方から集められた再利用可能な物資を分解し、ロボットにしたり、或いは家具にしたり。

そういった作業をしている場所のようだった。

私は、作業は邪魔しない。気密服を着るまでもないらしいが、家を出るときにジーンズを履くように言われた。

足下もスポーツシューズで固めている。

後は、側にロボットがついて。いざという時は電磁バリアで防ぐようだ。

大量の物資が調整されている。

全く壊れていないように見える家具もある。

あれが捨てられていたのだとすれば、世も末だ。作るのにだって、コストも人手も使っただろうに。

無言で次々修理され、運ばれて行く家具。

促されて、焼き物の場所に行く。

壊された焼き物が、凄い勢いで修復されている。

修復の技術はかなり古くからあったそうで。

敢えて壊して、金粉を含めて修復する事で、味を出したこともあったという。技法の一つだったと言う事だ。

この辺りは学んだ。

私はそこまでしゃれたものを作るつもりは無い。

もしも陶芸家として、もっと色々茶碗を作ってほしいと言われたらそうするけれども。今はそのつもりはない。

私の創作は、一応それなりに知られてはいるらしい。

それはそれで光栄な話だ。

いずれ、もっとマシなものを作りたい。

ただ、そう思う。

窯の前に来た。

材料を運んできたロボットが、ロボットアームに引き渡す。手際よく、てきぱきと粘土がこねられていく。

見ているだけで、面白いなと感じた。

「へえ。 流石に凄いね」

「様々な技術を人類は蓄積してきました。 それらを統合しているだけです。 本物の達人だったら、これを超えるかも知れません」

「あー、そうかもね。 でも今は、私にできる範囲で凄い事をしてくれているだけで充分だよ」

「恐縮です」

窯での焼成が始まる。

古くはこれを一日がかりでやったらしいが、今はシステムが完璧に把握されている事もある。

ものの数時間でできる。

焼き始めてからは見るものもないので、工場を見て回る。

あらゆるものが修復されている。

中には人形もあった。

よく残っていたな。

そう考えてしまう。

それこそ、いわゆるフィギュアなんかは目の敵にされて、持っているだけで人権屋は持ち主を焼き殺して回ったという事だし。

他の人形も、悉く取りあげられて破壊されたり。

まあ結局焼き払われたのだ。他の文化と同じくして。

これらは、奇跡的に残っていた人形なのだろう。

ただ、私は人形は別に好きではなかった。

私に取っては、もっと大事なのは毛布だった。

これは人によって違う。

だが、毛布が変わると眠れなくなるのは幼い頃からだった。

何を大事に思うかは人によって違う。

それをAIに聞かされて、安心したものである。

人形にはほとんど興味を覚えなかったが。それが別に異常でも何でもないことは教えられたし。

とにかく、AIによる人間知識は豊富で。

それで闇も光もみた。

思うに、幼い頃から私はそうだった。

何もかも燃やされた時代に生まれていたら、多分例の血縁上の母親に、私は火中に放り込まれていたのだろう。

そして私が焼き焦げて死んで行く有様をみながら。

周囲の人間はゲラゲラ笑い。

人権の勝利だ。

自由は勝ったと喧伝したに違いない。

ああ反吐が出る。

苛立ちが募ってきたが、百合が不意に袖を引いた。コートの上からである。こんな行為をしたのははじめてだ。

「ん? どうしたの?」

「いえ、呼びかけるよりもこうした方が良いと思いましたので」

「うん……まあびっくりはしたよ」

一瞬だけ、百合の顔に人間らしい、不安な表情が浮かんでいたような気がする。

側に立っていた私が、余程険しい顔をしていたのだろうか。

そうかも知れない。

いずれにしても、とにかくだ。

食事にするとする。

百合の不安そうな表情は一瞬だったが、それでも私の心を冷やすには充分だったかも知れない。

いつも灼熱の怒りに身を焼いていたら、身を持ち崩す可能性がある。

正しい判断だと言えた。

焼成を待つ。

その間に食事などを済ませておく。更には工場の見学もしていく。色々と見るべきものは多い。

中には汚れているものもあったが、ロボットが的確に綺麗にしていく。

その手際は素晴らしく。

確かにこれは、人間がいても足手まといだなとしか言えなかった。

「これはもう、人間の働く場所はないのかも知れないね」

「そうですね」

「SFなんかのディストピアだと、ロボットが人間を死ぬまでこき使ったりしてるでしょ。 でもこれは、人間はそもそもなんにもできる仕事がないわ。 ロボットが人間を養っても余裕があるレベルだ」

「実の所、人々が労働を望んだ場合、用意はしています」

そうだろうな。

AIはその辺り抜かりもない。

そしてその労働は。

人間が人間を支配していた時代に比べ、さぞや人道的なものなのだろう。

人間らしさとやらをひたすらに描写して、ヒューマニズム云々と言っていたのはなんだったのか。

どの時代でも、もっとも人間を非人道的に殺戮したのは人間だった。

この果ての時代だから、それがよく分かる。

しばしして、焼成が終わったと連絡が来る。

さっそく、見に行くことにした。

工場の中で、今も色々な何かが作り直されている。それは実用品から娯楽品まで様々。

ロボットも作られる。

頭脳部分は、もっと機密性の高い高度な工場で作っているのだろうが。それ以外の体は、何も人型である必要などないのだから。

窯に行くと、既にそれは出来上がっていた。

うん、これだ。

素晴らしい藍色、散々苦労してやったデザイン。だから、見てよく覚えている。うん、いい茶碗だ。

ご飯茶碗にするには少し小さいが、茶の湯で使うには良いだろう。

それもサロン化したものではなくて、もてなしの心を持ったごく素朴な茶の湯で使うには。

ただし、これが名物と言えるかは微妙だろう。

過去の茶人がこの茶器を見たら、どう酷評する事やら。

そう思うと、苦笑してしまう。

「とりあえず、私の思ったとおりにできているよ。 ありがとう」

「いえ。 それにしても、非常に禍々しい色合いですね」

「でも有毒ではないんでしょ?」

「それは勿論そうですが」

禍々しいというのは、あくまで一般的な人間の視点からの話。私からすれば、どうでもいいことだ。

私には、この色こそがほしかった。

だからこの色で青磁を焼いた。

それだけである。

さて、帰ったら早速茶の湯でもして見るか。

勿論自宅に誰かを招くつもりはない。

茶の湯を仮想空間でやっている人間がたまにいるので、其処に連絡をつけておいたのである。

勿論この茶碗を持参する。

自宅に戻る途中、ホバーで状況を確認しておく。

どうやら、私がホストで茶道をやる事になりそうだ。

茶道具は一応揃えておく。

勿論仮想空間だから、一通りどんな茶器でも揃えられる。

流石に古くに破損してしまった名物、例えば「平蜘蛛」などは持ち込む事は出来ないのだけれども。

それでも現在近くまで残り、データが存在していた茶器は出せるので。それこそ名物と呼ばれる品はあらかた出す事が出来る。

来るゲストの方は、それなりに慣れた人のようだ。

一応、家に戻ってから、作った青磁に茶を淹れて貰う。

とても抹茶は苦いけれども。

それがまた良いのである。

確かにこれはお菓子必須だなと、茶を口に入れて私はそう思った。だけれども、心地よい苦さであって、まずいとは思わなかった。

正座などは本来膝にダメージが来るので、私はあんまりできないのだが。

仮想空間だから別にそれは良い。

格好についても仮想空間だからカスタマイズできるのだが、まあ適当な服装で良いだろう。

幾つか打ち合わせをしておく。

相手も慣れたもので、特に問題は無いということだった。

茶道は基本的にもてなしだ。

今、人間が直に接する事は殆ど無い。

だからこそ、こうやって仮想空間を使ってコミュニケーションを取る。

それには手篤いサポートもあり。

昔のように、くだらない理由で脱落者も出ない。

人間が構築してきた文明は、結局の所なんだったのだろうと思う。

こういう時代にいて。

こういう文明の利器に触れていると、特にその気持ちは強くなる。

だけれども、それでも私は。

私は。

茶碗を見る。

いいものに仕上がった。

だけれども、反抗は結局どうしたのだろう。

それが私には、まだ課題として残っている。

何にどうやって反抗する。

それが、結局私には分からない。

今回も、反抗については解決できなかった。それはもう、どうしようもできない事なのかもしれない。

だけれども、それはそれでもういい。

とにかく今は。

出来上がった茶碗を、仮想空間でもいいからしっかりと本来の用途で使ってみたかった。

それが、作り出したものの責務だと思った。

 

4、結構なお点前で

 

仮想空間にゲストが来る。

自宅から出ることがまずない今の人間だが、それでもこうやって仮想空間でなら他人と接する人間はいる。

結婚する人間すらもいる。

ただしそれでも、実際に会うことはないのだそうだが。

人権屋が暴れていた時代には、仲の良い夫婦なども攻撃の対象となった。最初は誹謗中傷などで済んでいたらしいが。それも世界中で人権屋が暴徒になりはじめると、案の定焼き殺されることも増えた。

そういう場合は夫婦どころか子供まで焼き殺され。

人権と自由の敵だとか抜かして、人権屋は殺す様子を嬉々として撮影して、世界中にばらまいていたのだった。

これらの醜悪な記録は全て残っている。

今、地下に追いやられてしまった人類は。

それらの記憶もあるから。

もう人権関連でもめたくない事もあるのだろう。

誰も地下から出てこないのだ。

その経緯を知っているから、私は地下から誰もでない事を責めない。

それが当たり前だと思うし。

それを責める権利は。少なくとも、世界を平らかになるまで焼いてしまった人間の誰にもないのだから。

来たゲストは、とても若い女性だ。

だが、びしっと和服を着こなしている。なんという和服かはよく分からないが。そういえば和服という文化も、かなり衰退が激しく。人権屋が焼き始めた頃には、殆ど精算もされていなかったとか。

ただ記録は残っている。

それ故に、こうやって着こなすことができる。

私もちょっとした和服を着ている。

これもまた、悪くはないが。

ただ、着てみて洋服に比べて実用的ではないこともよく分かる。

晴れ着としては悪くないが。

日曜的に着る服としては、ちょっと色々不便だなとも感じた。

軽く挨拶をする。

そして話し込むのもなんだ。

仮想空間に作った庭を案内する。

其処は春の花が咲き誇り、落ち着いた庭石があり。そしてちいさな池があり、時々カエルが鳴いているのが聞こえる場所。

その中に、ちょこんと茶室がある。

美しい茶室と庭だ。

しばしゲストである「緋南歌」さんは、目を細めて周囲を見つめていたが。その中で、ふと気付いたようだった。

そう、春の花の中に、一輪だけ夏の花を混ぜている。

こういったささやかな工夫。

ささやかな日常の中の驚き。

それを混ぜて、楽しんでもらう。

それが本来の茶の湯の楽しみ。もてなしの心というものなのである。

今回はゲストの教養にあわせて、分かるように違いを混ぜている。其処まで配慮しての工夫だ。

しばしして、茶室に案内する。

ししおどしでも作れば更に完璧だっただろうか。

いや、カエルの声で充分だ。

私はカエルの鳴き声。

ここでは喧しすぎないようにアマガエルにしているが。この声が結構好きなのである。その好きが、五月蠅くなりすぎないように配置している。

現在は、両生類も殆ど地上から消滅していて。

遺伝子データから復旧の最中だ。

そんなもの悲しい声。

それを感じ取って貰えれば嬉しい。それだけである。

茶室で、向かい合って座る。

私の作った茶器を出す。

オリジナルのものだと即座に見抜いたのだろう。これは面白いと、目を見張ったようだった。

ただ、禍々しいと言われた色合いだ。

糸を測りかねたようで、ゲストは私の方を一瞥だけしたが。

別に視線に敵意は篭もっていなかった。

それでいい。

私は頷くと、淡々と茶を点てる。

しばしシャカシャカと茶を点てる。この道具も、過去に存在したとても高級な品を仮想空間で再現している。

いずれ、現実でもこういった文化を復興できればいいのにと思うが。

まあ、当分は無理だろう。

というか、私の場合は正座からだ。

仮想空間だからできるけれど、多分足が痺れてそれどころではなくなるだろうから。

此処には、静寂がある。

後の時代に、茶道が「道」になってしまってからは。アレが駄目これが駄目と、もてなしの精神を忘れて声高に怒鳴り散らす輩が出てしまったり。

サロン化したように、文化は変質してしまうのは分かっている。

だが、私はこういうもてなしの茶道をしたい。

それがあるから。

千家の作法も裏千家の作法も覚えた上で。

敢えてこうやって、本来のもてなしの精神に従って、茶道をしていく。

点てた茶を出す。

飲むときにも色々作法があるのだが。

そんなものは気にしない。

茶菓子も出す。

これについては和菓子でなくても良いだろうと思ったので。百合がいつも焼いてくれるクッキーにする。

これが抹茶にも抜群にあうので。

私としては大好きだった。

自分で好きで無い菓子を出して、何がもてなしか。

勿論ゲストの嗜好も事前に調査してある。

それで嫌うようなこともないと、しっかり調べてあった。

嗜好を押しつけるようなことがあってもいけない。

それもまた、理解出来なければならない。

私は、しっかりそれを把握していた。相手の好みにケチをつけるなんて、論外も良い所だからだ。

そんなことだから、世界を焼くまで人間はどうしようもない所まで墜ちたのである。

茶を飲み干すと。

ふうと、ゲストは嬉しそうに破顔していた。

「結構なお点前で」

「ありがとうございます」

「ふふ、とても素晴らしいおもてなし。 他の茶器はどこでも見かける名物ばかりだけれども、この不思議な……強い感情が込められたお茶碗の独創的な事。 ちょっと禍々しいまでの色合いですが、それでも貴方という人の人となりを示していますね」

「それだけは自作しました。 とても苦労しましたが……」

他も自作してみてはどうか。

そう言われたので、ちょっと恐縮する。

それもまた良いかも知れないけれども。

まだ、其処までの境地に、私は達していないと思う。

外に出る。

桜の花の下に。

美しい花だ。とても心が安らぐ。

まだ現存していた頃は、念に数日しか見られなかった満開の様子。今、それを仮想空間とは言え見る事が出来る。

ゲストと軽く話す。

そして充分にもてなせた所で、ゲストは仮想空間から帰っていった。

存分に満足してくれたようで、良かった。

使ってこその茶器だ。

「満足してくれたようで良かった」

「データを見る限り、今までのもてなしで一番満足していたようです」

「そっか……」

時々こうやって茶会を開くか。

そう思って、私は現実空間に戻る。

ベッドで半身を起こし、見る。

テーブルの上に鎮座している、私が焼いた青磁。

それは、いつか現実で私を使ってくれと。告げているかのようだった。

 

(続)