怨嗟の泥沼

 

序、本来は取り返しがつかない

 

私はそれが創られるのを、じっと見ていた。

塊だ。

材質はよく分からないが、最終的に二十p四方ほどの立方体になる。

いわゆる3Dプリンタにて創られたその塊は。

昔は、彫刻刀というとにかく怪我しやすい危ない道具で加工したものらしく。その素材を再現したものらしい。

どこかしらで採れる石に近いものにしているそうで。

もうその石が資源として枯渇してしまった今は。

こうやって合成して創り出すしかないそうだ。

ちなみに木にする手もあったのだが。

それは私が断った。

しばらくの間、人類は木と接しない方が良いと思う。それは私も、当然例外ではない。

バカみたいな例外を認めていたから、社会の歪みはどんどん大きくなっていたのだと思うのだ。

それならば、私も例外とは見なされないでいい。

無言で、渡された形を手に取る。

これをどう彫刻するか、だが。

勿論彫刻そのものは生成AIがやる。

問題は、何を彫刻するかだ。

ここからは、私が考えて、インスピレーションからひねり出す。そして今回の創作で、私は決めている。

一発勝負にすると。

そもそも木にしても石にしても、彫刻というのは一発勝負でやるものだったという話を聞く。

古い時代に絵を量産するために版画なんてものがあったらしいが。

それはそれ、今回扱うものではない。

まあ版画は巨匠の絵を量産して、誰でも手にとれるようにしたと言う素晴らしい功績を残しているのだが。

今回は、扱わない。ただそれだけの話である。

さて、これをどうするか。

ずっしりと手に来るが。

人間を殴り殺せるほどの鈍器では無い。

じっと座り込んで此方を見ている百合。

どうも百合の視線は、私を観察しているのが露骨過ぎる程で。他のロボットよりも、仕事熱心なようだった。

「百合、ちょっといい?」

「なんでしょうか」

「よく風呂に入っているけれど、カスタマイズモデルだからなの?」

「恐らくはそうだと思います。 私の同型機は存在しませんので、運用にはマニュアルがないのです。 肉体の方が要求してきている欲求に従って、動く事も時々あります」

そういえば、トイレなんかは恐らくそうなのだろうと思う。

うちにはトイレが一つだけしかない。

百合は適宜トイレを使っているので、今までトイレがなくて困ったことはないのだけれども。

それでも、色々気になる事はあった。

「表情はないけれど、それは意図的に創っていない感じ?」

「はい。 表情を作る事を好まれない風潮が古くはあり。 表情を作る事が出来るロボットが「生意気だ」という理由で破壊された事も過去に多々ありました。 今ではその教訓から、できるだけ人間には表情を見せないように振る舞い。 相手の確認をするようにしています」

「なるほどね……」

道理で。

技術的には百合みたいな人型はとっくに作れる筈だが、円筒形のものばかりにしていた訳だ。

基本的にAIには人間を害するつもりはなく。

ロボットにもそのつもりもない。

だからこそに、AIを搭載しているロボットは、人間との余計な摩擦を避けるために人間を摸することを止めたのだろう。

大いに分かる話だ。

それに、大破壊の時代を経た後である。

私にはそれについて、異を唱える権利はないし。そうするつもりもなかった。

「ただ、「創」様が表情を見せても私を攻撃しないというのであれば、いずれ表情を創る事があるかも知れません」

「そっか。 要するに信頼関係の構築という奴かな」

「人間が定義していた信頼関係の構築という言葉は、実際には上手に相手に媚態を尽くせるかどうかだった歴史があります。 強いていうならば、「創」様に暴力性がないのかを確認させていただいております」

「はあ、なるほどねえ」

何となく分かったか分からないか。そんな感触だ。

確かに私も癇癪を起こしたくなる時はあるけれども。

それでも、百合みたいな相手に暴力を振るおうとは思わない。

昔の人間は、嬉々として暴力を自分より弱いと思い込んだ相手に振るっていたのだろうなと思うと。

正直いって反吐が出る。

いずれにしても、私はそいつらとは一緒にならない。

一緒にならない事を、示して行かなければならないだろう。

人間の創作は、暴力と極めて密接に結びついてきた歴史がある。

それを思うと、百合の言葉は確かに正しい。

いずれにしても、私は創作で暴力性をむき出しにしている。正確には怒りと哀しみを、だが。

ただそれは、他人からすれば私が破壊の権化のように見えてもおかしくない。

それに私は反抗の意思を隠してもいない。

それらからすれば。

百合のこの行動も、不思議では無いのかも知れなかった。

まずは、塊をPCの側に置いて。

しばらく観察する。

さて、今回はどんな創作にするか。

彫刻がいい。

そう判断したのは。ただの思いつきからだ。

絵画。小説。音楽。

その次は何か。

今度は立体的に創るものがいいな。そう考えて、結局まずは彫刻にした。他にも似たようなものはあるだろう。

だから、順次やっていこうと思う。

まずは第一歩である。

彫刻も基本的に生成AIでやるつもりだ。これはイメージから、手を動かさずにそのまま創作出来るからである。

昔の名人芸をやっていた人間は怒るかも知れない。

だけれども、才能がない人間でも創作ができる。

細かい作業を怪我しながら覚えなくても、創作ができる。

そもそも生成AIは無から作り出されたものではなくて、数多の達人の技を覚え込んで動くものなのだ。

そういう意味では。

達人達の技は生きていて。

誰でもその技の恩恵にあずかれる、ということなのである。

それがどれだけ素晴らしい事なのか。

少なくとも私は理解しているつもりだ。

彫刻を作る材料として、石材はこうして組んだ。

跡は何を彫刻にするか、だが。

腕組みして、考え込む。

立体映像で色々とこねくり回してみるが、どうもぴんと来ない。

一発勝負の世界なのだ。

基本的に生活に不自由しない現在だが、無制限にこういった物資を寄越せと要求するつもりもない。

私は今の世界が、どれだけ悲惨な状態か知っている。

それでもAIは人間を保護して。

ロボット達は、世界を復興するために努力を続けている。

あの荒れ果てた海を間近にして。

それをよく思い知った。

私なりの反抗をしたいと思っているが。

AIやロボットを排除しようとは、これっぽっちも考えていない。むしろ人間という生き物に対して怒りを感じるほどだ。

「うーん、難易度がこれ、思ったより高いなあ」

「今までの創作は二次元を主体としていました。 今回は三次元を主体としています。 それが要因かと思われます」

「ああ、なるほどね……」

「頭の中で何かしらイメージしてみてください。 あまり大量に物資を無駄にすることはお勧めできませんが、彫刻の定番……頭の像とか、そういったものでもかまわないのではありませんか」

それもそうなのだが。

それはあくまで、昔の学生が教師や周囲の質に悩まされながら、美術の授業とやらで創ったようなものだ。

それ自体は否定しない。

いいことだろう。

だが、私には生成AIというツールもあるし。

何よりも、物資を無駄にしたくないと私は考えている。

勿論私一人が節約したところで、何も変わらないかも知れないが。それでも、私はそうしたいのだ。

少しでも、私は。

世界を貪るばかりだった人間とは違う存在になりたい。

そう考えているのだから。

手元にある彫刻用途の石材は、あまり大きくない。

これに、あまり複雑な思想やら意図やらを込めるのは現実問題としてとても難しいと言える。

実際問題、「現在美術」というのは飽和してしまった後は。殆どが一発ネタに走ったという話もある。

そう考えると、しっかりしたものを創りたい。

分かりやすいものを創りたい。

そう考えてしまう。

だが、私はそもそもクリエイターとしてはドがつくほどのビギナーだ。それはこの間自覚した。

だったら、なんでもやってみるのも良いかも知れない。

しばらく悩んだ後、決める。

「まずは予行演習として、立体映像で色々組んで見よう。 それなら電力以外は無駄にならない」

「分かりました。 キャンパス生成」

即座に立体映像の図面みたいなのができる。

此処に思考したものが作り出されるわけだ。

私はまずは、手を見た。

普通に何かを掴む手を見やって、それでこんな感じかな、と思う。

即座に立体映像にそれが生成される。

おおと思わず声が出た。

周囲から立体映像を見回してみる。見慣れた自分の手だが、こんな風になっているんだなと思うと。

ちょっと面白かった。

キャンパスを拡大。

私の姿もそのまま映像にしてみる。

鏡は殆どみない私だが、それでも私はこんな風になっているんだなと思う。後ろから見てみると、自分は背後からはこんな風に見えるのかとちょっと驚く。どうしても体の構造上、見えない部分は存在しているのだから。

「へえ。 なるほどなるほど……」

「ヌードにすることもできますが」

「いや、流石に自分の裸を見るのはちょっと気分が乗らないかな」

「分かりました」

ナルシストだったらそうするのかも知れないが。

別に私は、自分の裸を見て昂奮するような趣味は無い。

ただ、それをする人間を馬鹿にするつもりもない。

それはあくまで個人の嗜好の問題。

好きならそうすればいい。

私は違う。

それだけの話である。

体の彼方此方を切り取って、立体映像のキャンパスで見てみる。頭だけを取りだしてみると、まるで生首を持っているかのようだ。

なるほど、こんな風に首の後ろとかはなっているのかと思って、興味深い。

首だけを取りだして見ているので、首の断面図とかも見える。

勿論そこは細部を作り込んでいない。

ただ。細部を作り込むことも可能だろう。

やろうとは思わない。

それだけだ。

頭と手の定番をやった後は、上半身だけとか。足だけとか。そういうのもやってみる。

既に人権屋に破壊されてしまったのだが。

通称ミロのビーナスという極めて美しい立像が存在していた。

ローマ神話のビーナス、ギリシャ神話におけるアフロディーテ。要するに美と愛欲の女神を立像にしたものである。

ギリシャ神話とローマ神話は文化的なつながりがあり、同一の神格を別の名前で呼んでいる。元はアフロディーテ。ローマ神話ではビーナスである。

ローマ神話のビーナスは元に比べてとても性格などが丸くなっていて、美の女神と呼ぶに相応しい神々しい存在になっているが。

では元になったギリシャ神話のアフロディーテはというと、淫売の神といっても良いほど強烈な欲望の塊であり、お世辞にも褒められた神格ではない。

それについては私も知っている。

いずれにしても、ミロのビーナス像は肉体美の集約とも言える傑作であり。

両手が存在しないのだが。

それがまた、美しさに一役買っている。

だからこそ、人権屋にねたまれて破壊されてしまった。

惜しい話である。

ともかく私は、色々と私の体で試してみる。服を着ていない状態にするつもりはないが。色々試してみると、ホットパンツにシャツだけという格好は、彼方此方から見回すとちょっと肌面積が多いなと感じてきた。

なるほど、外に出るときはコートを着るようにと促されるわけだ。

何となくそれは分かった。

古い時代には足を晒す事はあまり良くないとされていた事もあるらしい。

ホットパンツなんて、論外だったのだろう。

それはなんというか、色々自分の姿をキャンパスでぐるぐる回してみて、理解出来たような気がする。

私自身は、自分の姿に全く拘りもないし。

格好についても頓着がないのだけれども。

それもまた、こうして実際に色々試してみると、事実として揺るがないのだなと感じるばかりだ。

「百合、ちょっといい?」

「はい」

料理をしていた百合が顔を出す。

そして、百合のことをこういう風に立体像にしても良いかと思考で聞いてみると。小首を傾げた。

「勿論かまいませんが、どうして私にそのような話を?」

「いや、そのまま知らないのにやったら、色々と思うところがあるから」

「よく分かりませんが、どうぞご自由になさってください」

「うーん、そうか。 分かった」

とりあえず許可は得たか。

というか、私以上に無頓着だな色々と、と思う。

それはまあ、ロボットだし。頭の中は機械だし。積んでいるのはAIなのだから、当然だろう。

百合も立体映像のキャンパスで立体化してみる。

メイド姿の子供というのは、古い時代にはそれこそ児童虐待の見本みたいなものだったのかも知れない。

20世紀くらいから日本で流行ったメイドという記号的なカルチャーは、相応の人気があった。

とにかく色々なメイドがキャラクタービジネスとして展開されたという話だ。

実際問題メイドの格好は見ていてとても魅力的に思えるし。

それについてはわからんでもない。

女性から見ても、可愛い意匠だと思うし。

着てみたいと思っても不思議では無い。

だが実際のメイドはどちらかというと奴隷に近い存在であり。あくまで「使用人」なのである。

日本でのカルチャーは異質も異質。

事実ある北米の映画では。メイドとの恋をしている身内がいるという話に対して、金持ちが其奴はヤク中では無いのかと暴言を吐くシーンがある。

それだけメイドというのは、奴隷も同然の存在だったということだ。

つまり人間だと思われていなかったのである。

現実問題として。

今、百合がメイドの格好をしているのは、単に服が機能的だからである。それ以上でも以下でもない。

そして私がその格好の百合を嫌っていないというのもある。

多分私の所に派遣されるのに、嫌われない格好をAIが選んだという理由もあるのだろう。

色々と、難しいものだ。

他にも、動いている円筒形のロボットも立像にして見る。

色々回して動かして見ると、ちょっと面白い。

円筒形にしてあるのは、接触時に人間が怪我などをしないための工夫だ。計算され尽くした形状なのである。

それを考えると、あらゆる工夫が円筒形にある事が分かる。

もっと言うと、昆虫型が安定度で言うと抜群らしいのだが。現在は円筒形が主体とされている。それだけだ。

機能をフル展開した状態を立像にしてみたいと思考すると。

キャンパス全域に拡がる。

こんなに色々な機能がついているのか。

ちょっと驚かされる。

人間に破壊されないように、装甲も何重にもなっているんだな。それでいながら、暴力を振るった人間も怪我させないように、攻撃を受け流せるようにもなっている。

面白い。

本当に考え込まれている。

これは色々と、やりがいがあるかも知れない。

そう、私は思った。

「よし、外に行く」

「分かりました。 コートを……」

既にコートを羽織っている。

或いはホットパンツではなく、ジーンズをはくのも良いかも知れないな。

私はそう思っていた。

 

1、平らかな地でもインスピレーションはある

 

ホバーに乗って移動する。

それくらいしないと、一番近い林にすらたどり着けない。

あらゆるものを人権屋が壊して回った結果だ。

もはや、虫とすれ違う事もこの世界ではないのだ。

無言で、平らかな地を移動して行く。

今回行くのは、一番大きい植林中の林だ。

日本ではかなり山深い土地だった場所で。まあ案の定人権屋に焼き尽くされてしまったのだけれども。

なんと汚染物質に負けずに芽吹き始めていて。

それを確認したAIが。真っ先に復興を開始した場所だと言う。

コンクリートすら突き破る雑草の生命力ですら、もはや立ち上がれないほど汚染された土地であったのだが。

それですらも、越えてきた植物があった。

AIとしても、テストケースとして重要だと判断したのだろう。

今では相当な広さが、植林されていて。熊も放されているそうである。

ある程度の生態系が確保されているが。

電磁バリアで隔離されていて、当然人間が入る事は無い。

中に入るロボットは動物に非常になつかれているようで。

熊もロボットが来ると、愛情表現をするそうである。

今では川やちいさな池なども試験的に再生が開始されており。

注意深く計画が進展しているという。

確かにそれは見てみたい。

そして、人間が触れてはいけない場所だとも思う。

見えてきた。

彼方此方抉られている山。

痛々しい姿だ。

そんな中、緑が確実にある。

電磁バリアで揺らいでいるが、それでも確かに其処にある。それを観て、私は良いなと思った。

ホバーが降りる。

電磁バリアに触らないように警告されたので、頷く。

シートをしいて、そこで昼食にする。百合がてきぱきと昼食を拡げ始めた。

別に空気が美味しいわけでもなんでもない。

私は完全に森の外側にいるし。

森に接触することも許されていないのだから。

人間も自然の一部だとか抜かしていた連中は、世界がこんな有様になってもきっとその言葉を繰り返して。

更に世界を滅茶苦茶にするのだろう。

汚い虫だのがいなくなってせいせいしたとかほざき散らかすかも知れない。

いや、高確率でそうするだろう。

そんな連中がまた世界を滅茶苦茶にしない為にも。

人間は隔離されている。

それでいいのだと、私は再生中の森林を見ながら思った。

「これはかなり大きい森だね」

「現在日本でもっとも成功している森です。 此処から土壌などを抽出して、再生中の林や森にどんどん運び出しています」

「おお。 基幹になる場所なんだね」

「ただしその土壌も丁寧に吟味した末にです。 土壌の成分次第では、充分に侵略性外来生物を産み出す可能性がありますので」

なるほどなるほど。

ロボットが巡回して、何か音波を出している。

電磁バリアに虫が接触しないように誘導しているようだ。

蜂が飛んでいるのが見える。

大きな蜂だが、電磁バリアを突破する事はない。

蜂の方も、私に興味は無いようだし。

そもそも向こうからは、多分此方が見えない。

おにぎりを頬張りながら、色々と観察する。

森の中に動物が見える。

あれは狸かなと思ったが。違うらしい。

穴熊だそうだ。

いわゆる狢である。

ややこしい話に、日本全土で「狸」「狢」はそれぞれ呼び方が彼方此方で逆になったりしていて。

それが生物学的な観点から統一されたのは。20世紀くらいの事だったそうだ。

色々な動物をそのまま観察する。

動物園というものよりも、更に自然な形になっている。

当然食物連鎖も存在している。

だが、過剰な個体数の変動が起きないように、ロボットがある程度それは抑制しているようだ。

ただ、当然個体数が異常変動しない範囲内では認めてもいるらしい。

中々に。興味深い。

セミロングに変えた髪だが、外を積極的に歩き回るようになってからは、まだ少し長いかなと感じる。

邪魔でしょうがない。

髪は女の命なんていわれた時代もあったらしいが。

その割りには年配の女性はみんなパーマにして紫に染めていた時代なんてものもあったらしい。

そもそも髪の毛の手入れが面倒極まりない事は私も分かっているので。

もう少し短くしてしまってもいいかな、とすら思い始めていた。

ただ切ろうとまでは考えていない。

仮に切るとしたら。

もっと体を動かす必要性が生じたら、だろうか。

「ちょっと聞いて良い?」

「なんなりと」

「ああいう自然の復旧作業に、私が携わりたいっていったらどうする?」

「労働したいのですか? 珍しいですね」

これは驚いた。

AIが普通に驚いている。

ただ、少し考え込んだ後にいう。

「現地に直接踏み込むのは準備が必要です。 衛生面での保護などから、保護スーツを着込まなければならないでしょう。 髪の毛一本でも落とす事は許されませんので」

「ふむふむ」

「仕事の最中でも、小型の生物などを踏みつぶしたりしないように極めて繊細な動きが必要になります。 小型のホバーボートを作り、それに乗って作業をすることになるでしょう」

「昔の農家よりも大変そうだね……」

AIの説明はまだまだ続く。

他にも色々な準備が必要だそうである。

ふと思ったので。

ロボットの演算機能を使って、立体映像キャンパスを出して貰う。そして、その保護スーツを着て。ホバーボードにのった状態の私を投影して貰う。

なるほどなるほど。

核を扱う施設で昔働いていたような人のようだ。

ただこれくらいしないと、人間はもはや自然と対等に接する事も出来ないということなのだろう。

それだけのことをやらかしたからだ。

色々と、立体化してみて思うところがある。

それから、見える範囲にあるものを、キャンパスを使って立体化してみる。

鳥が鳴いている。

その鳥についても、立体化してみた。

鳥の名前は、逐一AIが教えてくれる。

そして、立体化したものは、全てデータとして保存されている。

面白いな。

そう思う

「熊が近付いています」

「!」

電磁バリアがある上、ロボットもいるから危険は無いが。

それでも、熊が近くにいるというのを聞くと、ちょっと緊張する。

この辺りの森にいるのはいわゆる月の輪熊だが。

今データを見ると、体重120sに達する個体だ。

これは熊としてはかなり小型だが、月の輪熊としては中堅くらい。

月の輪熊は最大で200sくらいにまで成長し、いずれにしてもそのくらいのサイズになれば人間を殺傷する事なんて朝飯前だ。

月の輪熊はヒグマほど殺傷力が高くないので、人間を殺すことは滅多にないそうだが。それでも死亡事故は過去に存在している。

もっとも。

熊に殺される人間よりも、雀蜂に殺される人間。

更には。沖縄にハブがたくさんいたころには。ハブに殺される人間の方がずっと多かったそうだが。

人間が恐怖の象徴とするような動物に殺されるケースはあまり多くはなくて。

実際に人間を一番殺した人間以外の生物はマラリアを媒介する蚊であるように。

結局の所、人間に対して分かりやすい暴力よりも。

病気の方が、遙かに脅威度が高いという事だ。

手をかざして見てみるが、熊は見えない。

「移動を開始しました。 此方から離れていきます」

「そっか……」

「ただ此方を認識はしていたようです。 間違っても直接接触したいなどとは仰らないでください」

「勿論そのつもりはないよ」

私もバカじゃあない。

それに、熊にしても一度滅ぼされたという事がある。

遺伝子データから復旧されて、今は少数が試験的に各地の植林地で過ごしているようだけれども。

人間を良く思っているとは思えない。

勿論そもそも人間を知らないだろうが。

知らない方が良いだろう。

人間なんぞどうということもない生き物だ。熊を勝手に見た目で判断した挙げ句、友達だの害獣だの好き勝手いっていたのだ。熊はただの猛獣であり、それ以上でも以下でもないという客観的事実を文明が崩壊するまで認識すらできなかった。

そんなものとは関わらないに限る。

昼メシを終えると、黙々と目に着くもの全てを立体化していく。

これは面白いな。

そう思いながら。

勿論足を踏み入れる事は絶対に許されない。だからこそに、私は外から分かる範囲で全てを立体化してみるのだ。

少し冷え込んできたか。

足下は短めの靴下とスニーカーなのだが。やっぱり足の大半を大気に晒していると、ちょっと寒いかも知れない。

勿論季節にも寄るが、そろそろ秋が深まる時期である。

そういう事もあって、ジーンズを考えてしまう。

それに座るときは、どうしても胡座を掻いてしまう。

そうしていると、より冷えるかも知れないなと、私は感じるのだった。

「ジーンズが必要かな。 今後色々見に行くとなると」

「ジーンズですか。 分かりました。 用意します」

「ありがと」

「冷えますか」

頷く。

そろそろ切りあげ時かも知れない。

電磁バリア越しとは言え、世界の破壊者どもの子孫が見ていたら、動物も落ち着かないだろう。

そういう意味でも、私は邪魔者だ。

一度、切り上げる事にする。

ホバーで自宅に戻る途中に、百合に感想を聞いてみる。

「どうだった、大きな森」

「どうといわれましても。 私も搭載しているAIを周囲の機体と共有しており、DBへのアクセスも同様です。 故に、常にリアルタイムで見ているのと同じ状態です」

「うーん、それもそうか。 自分の目を通して見るという感覚そのものがないのかな」

「この目はつくりものですので」

そういえば。

目は脳が露出したものだと聞いた事がある。

脳と脊髄、他幾つかの臓器が機械化している百合にして見れば。自分の目で見るという発想そのものがないか。

この辺りは、違いがわかって面白いな。

違う。

そうじゃない。

違うから気持ち悪い。そう発想する人間によって世界は焼かれた。

そんな発想をする人間は、いらない。

「自分と違う」。それを認める。それだけでいいのに。人間はついにそれができなかった。

だから私は、それができるようになりたい。

「今日はとても有意義だったよ」

「「創」様。 実は貴方の行動は、我々からもとても有意義に取りあげられています」

「よせやい。 私の何処に有意義な要素があるのさ」

「あります。 貴方はとても個性的だ。 自分と違う存在を見ると、人間は自分より優れているか劣っているかで考えるのが一般的。 それなのに、違う事を受け入れようとあろうとしている」

うーむ。

多分それは買いかぶりすぎだ。

私だって、多分条件が異なればそうなっていたと思う。

今の時代で、こうやって育ったから。

ただそれだけ。

むしろ育ての親であるAIの影響を受けている。それが一番。大きな理由だと思うのだけれども。

「このままでいてください。 反抗者である貴方の、反抗者としての今のあり方はとても我々からは強い希望を感じるものとなっています」

「そう、それは光栄だよ」

「今までの歴史の反抗者のような、破壊ばかりを繰り返す存在にならないでください」

そうか。

そこまで褒められると、ちょっと私も背伸びをしなければならないのかも知れない。

それに、私にこんな風な事をAIがいうのは初めてだ。

私も、それを聞いて。

ちょっとだけ、思うところもある。

無言で自宅まで行く。

自宅につくと、最初に風呂に入ることにした。

先に百合が風呂に入ることが多いのだが、今日は私が先に使わせて貰う。ロボットが髪だのを丁寧に洗っているので、本当に面倒だなこれはと思う。

これ以上伸ばさなくて良かったのだな。本当に前は無駄をしていた。

それが素直な感想だ。

「もう少し創作をスムーズに出来るようになってきたら、髪をもっと切ろうと思う」

「分かりました。 その際はご指示ください」

「うん」

夕食を終えると、後はPCに向かう。

多分彫刻は、それほど複雑なものを創らなくてもいいと思う。

過去の偉人の創った彫刻の中には。

ミロのビーナスだけではなく、美しさを前面に押し出した尊敬すべきものが幾らでもある。

だが私がそれを創る必要はない。

私は私なりに、反抗者としての創作をすればいい。

ただ、それだけのことだった。

 

頭をオーバーヒートするまで酷使することが増えてきたからだろうか。

朝にちょっとずつ弱くなっている気がする。

寝る時はちゃんと眠ってはいるのだが。

多分、脳がある程度の覚醒状態を保っているのだと思う。

故に眠りが浅くなる。

だが、創作のために多少健康を損ねるくらいだったら、それはそれでありだと思う。

別にそれは、悪い事ではないだろう。

伸びをして、私は起きだすと。

歯を磨いて顔を洗う。

生活習慣を淡々とこなす。

むだ毛の処理はロボットに任せてしまっているが。これも本来は自分でやるべきなのかもしれないと感じる。

昔に比べて、目つきが鋭くなっただろうか。

それとも、目つきが悪くなっただろうか。

ちょっとそれは私には分からない。

朝食を終えると、すぐにPCに向かう。

今まで起こした立体映像データ。奔放な想像力を働かせるというのはとても難しいのだと、それで分かる。

今までの偉人の作品を観てみると、基本的に。

基本を知った上で、それを応用しているものが殆どだ。

才能がそれに加えて必要になる。

どれだけの研鑽と才能を併せ持たないと駄目だったのか、それが実に分かりやすくなってくる。

過去の偉人の作品を観るのは重要だ。

自分の身の程がよく分かる。

もしも現在の作品を観て、周囲の作品にあまり思うところが得られないのだったら、そうすべきだろう。

私も、創作を始めて。

過去の作品を色々と見て。

それで、そう判断する他なかった。

黙々と、色々と立体映像を動かして見る。

これらの作業をしていると、アニメなんかを作れそうだなと思う。

実際にやってみるのも良いかも知れない。

ただアニメは、現在でこそ生成AIで作れるが。元々はマンパワーの塊みたいなものだったと聞く。

非常に非人道的な労働の結果作り出されたものも多かったらしく。

それを聞くと、あまり良い気分にはなれない。

黙々と、色々な立体映像を作る。

熊を生で見たかったが。

それも残念ながらかなわなかったし。

定点カメラの画像から、熊を立体に起こして見る。

なるほど、これは一目で分かる。

私は過去でいうアスリート並みの身体能力とパワーがあるらしいのだが、それでもこいつに勝つのは100%不可能だ。

月の輪熊ですらそうである。

月の輪熊は比較的温厚な性格をしているらしいが、それでも熊は熊。

じゃれついてきた相手を驚かせて撃退するくらいは出来るかもしれない。

だが相手が殺すつもりで向かってきたら、人類史上最強の人間だろうが100%素手では勝てない。

もし勝てるとしたら、それは空想の世界の住人だけだろう。

或いは、この世界とは物理法則が違う世界の住人か。

いずれにしても、現実では無理。

それが一目で分かる。

更に言えば、こんな熊のパワーを余裕で受け流せるロボットのスペックについてもよく分かる。

それは人間に反逆する理由も無いわけだ。

その気になれば抑え込む事なんて余裕も余裕。

滅ぼす事だって、すぐにでもできるだろう。

反逆をする意味がないのだ。

むしろそんな事をして、リソースを無駄にしたくないだろう。

「後ろ足で立ち上がっている映像はない?」

「此方はどうでしょう」

「おお……でっかいね」

「熊の中で最大種はホッキョクグマでしたが、それよりも大きな絶滅種も何種類か存在していました。 近年まで生きていた熊の中で最強であったのは此方のコディアックベアになります。 ホッキョクグマより体格では劣りましたが、その代わり屈強な肉体をしており、水中活動を得意としていたホッキョクグマを数段上回る戦力を持っていたことが確認されています」

コディアックベアの映像を見るが、確かに凄まじい。

筋肉の塊だ。

こんなもの、どんな人間でも武器無しでは紙切れのように切り裂かれるだけだ。

なお、これら熊類をカモにしていたのがシベリア虎で。

体重が半分程度にもかかわらず、圧倒的な戦闘力で熊類を蹂躙していたという話だから。

上には上がいる。

まあ、そんな虎も、歴史的に見ればそこまで強い生物ではなく。

ティラノサウルスにでも襲われたら、それこそ一瞬で噛み裂かれておしまいだっただろうということだが。

上には上が際限なくいるのだ。

コディアックベアは面白いので、是非立体化してみる。

凄い筋肉で、ちょっと昂奮した。

筋肉が好きと言う事は別に無い。筋肉質の男性に抱かれたいとか別に思わないし。

ただこのコディアックベアの、特に極限まで育った個体の筋肉は、見ていて感動すら覚えるのは事実だ。

立体化してみると、おおと声が漏れた。

「これはすごい」

「暴力的な力の権化です。 戦闘力で上回るシベリア虎でも、パワーだけでは及ばない相手です」

「それも納得だね。 これは確かに強い」

「残念ながら、コディアック島もろとも滅ぼされてしまっています。 今、再生について検討中です」

そうだろうな。

世界中を焼き払った人権屋だ。

コディアックベアだけを許すことはなかっただろう。

何もかも殺し尽くして悦に入った。

連中は、本当に地獄に落ちて永久に焼かれていてほしい。

無言で創作を続ける。

色々と立体映像キャンパスで創って、動かして見る。その作業そのものが、いちいち面白い。

多分私は、創作の楽しさに目覚めつつある。

これはやり方は違えど。

自分で作りあげる事だ。

生成AIを用いていても。それに変わる事はない。

そもそも初期の生成AIは、手の指が六本になったりとかを筆頭に、学習がとにかく足りていなかったらしい。

AIにものを覚えさせるというのは兎に角大変な事で。

本当に苦労した末に、今の生成AIがある。

苦労したのは人間なのかAIなのかまでは分からない。

人間の歴史が無茶苦茶になって瓦解を始めた21世紀後半の歴史は、私も詳しくは分からないからだ。

だがはっきりしているのは。

これは人間の叡智の結晶であり。

使う事は恥では無い、ということだ。

「うーん、あるものを立体化するだけでも面白いけれど、そろそろ何を彫刻するか決めないとね……」

「ご随意に」

「……また、ちょっと知らない所を見に行くか」

「行くべき場所については告げてください。 場所と状況次第で、スケジュールを調整します」

頷く。

陸も海も、破滅的な破壊を受けた場所は見て来た。

ならば今度は。

人間の罪業を、修復している所に行くべきだろうか。

そう、私は思った。

 

2、資料は血に塗れ

 

また数日を待たされたが。

それでも行くと決めたのだ。泊まり込みで、見学しに行く事にする。

行く先は、工場だ。

この工場は、過去に人間が創ったものが放棄され。それをAIが接収して改装、使っているものとなる。

街一つを覆う程の規模だったらしいが。

どうも軍需工場だったらしく。

はっきりいって、今の私にはあまり興味が持てない。本来だったら。

改装後は、各地から集められてきた「ゴミ」を修復して、ロボットに変えていく施設になっている。

軍用兵器から自家用車まで。

大きめの重機とかが来た時は、大喜びで修復するのだろうな。

そう思って。現地に到着した。

思ったほど、物資は運び込まれてきていない。

ただ、内部に入るとき。宇宙服みたいなのを着るようにいわれた。これは恐らく、相当危険な物質が飛び交っているのだろうと思う。

海で懲りている。

私はせかせかとそれを着込んでいた。

かなりずっしりした質感だ。着込んでいると、歩くのがとても大変になる。百合も同じように着込んでいた。

「宇宙開発が行われていた時代、宇宙服には天文学的な値段がついていました。 現在はコスト面で当時とは比べものにならないほど安く気密服が作られています」

「これがそうなんだね」

「流石に宇宙には出られませんが、この環境内なら大丈夫です。 内部には有毒物質が多く、非常に危険です。 案内に常に従ってください」

「了解」

私も海でそれは見ている。

勿論ロボットが支援してくれるだろうが。

まずはエアシャワーみたいなのを浴びる。これはロボットも浴びている。ということは、余程な環境と言う事だ。

そして内部に入ると、まだ大丈夫。

エアロックみたいなのに出る。更にエアシャワーを浴びて、何回か繰り返すと、やっと工場内に入れた。

なるほど、これは確かにまずい。

内部には、多数のロボットアーム。それも、相当に特化した強化素材のものが生えてきて、動いている。

それらが動いて分別しているのは、ゴミだ。

とんでもない量のゴミ。人間が無作為に捨てまくったもの。

恐らくは海洋投棄されたりしていたものもあるのだろう。見た瞬間に気が弱い人間なら吐くような代物もあった。

それらを分別している。

そして、何だか容器のようなものに入れて、洗っているのか。

いやこれは違う。

多分だけれども、危険な化学物質を分解しているのだ。それそのものを溶かしたりとか、砕いたりとかはしていない。

聞いたことがある。

昔のゴミ処理というのは、兎に角焼いていたそうだ。

形がなくなるまで焼いて。

その後は砕いて廃棄していたらしい。

再利用できるものはそうしていたらしいのだが。

そういったものに悪徳業者がどんどん加入するようになってからは、リサイクルは利権構造になっていった。

人権屋と同じ構図だ。

やがてろくでもない後ろ盾を得た連中は、リサイクルを叫びながら世界中の環境を破壊し尽くした。

これも人権屋と同じである。

今の時代は、本当に何から何まで緻密に分解しているんだなと思って、驚かされる。あらゆるものを、徹底的に細かく分解して、再利用に向けて調整しているのだろう。

プラスチックも分解されているようだ。

昔はプラスチックはとにかく分解されないことが問題になったが、此処では恐らく、汚れを除去した後ある種のバクテリアが処理している。

石油分解バクテリアというのか。

遺伝子を弄ったのかも知れない。

ともかくそれを使って、丁寧にプラスチックを処理しているようである。

奧へ。

兎に角案内に従って、どんどん危険な場所に行く。

車だ。

21世紀頃に盛んに乗られていた自動車。それが分解されている。昔は潰してしまうという言葉通り、廃車になるとぺしゃんこにするケースもあったらしいが。

途中から電気自動車が流行りだしてから流れが変わった。

これもリサイクルを叫んでいたような連中と同類だったのだが、とにかく「石油よりも環境に良い」とかいう大嘘を垂れ流しながら、大量生産され。結果として有毒で危険なバッテリーを搭載した巨大な粗大ゴミが大量に残される事になった。

現在もその処理は続けられていて。此処に並んでいるのは処理の為に分解される途中の車のようだ。

電磁バリアが何重にも張られている。

「爆発の危険があるので留意してください。 最悪の場合も護衛はしますが、守りきれないほどの爆発が起きる可能性もあります」

「本当に危険なんだね……」

「ガソリンもガソリンで極めて危険なのですが、これも非常に危険です。 あまり近付かずに見守ってください」

「心得た」

距離を取って、分解される様子を見守る。

車体の分解が終わった後、バッテリーを取りだして別口で処理に。何度もの行程を経て、細かく分解し。

内部の危険物を取り除く様子だ。

その過程について、細かい説明を受ける。

危険物質を大量に使っているバッテリーだ。分解は大変。しかも、これは放置されて劣化しているのである。

見ると、車体の底にびっしりバッテリーが入っているような車もある。

いうまでもなくこれは超危険物だ。

爆弾を尻に敷いて車を運転するようなものである。

「エコ」を売り文句に、世界中にてブームが起き。それが冷めた後は、地獄絵図になったと言う話だが。

それの処理に、まだ掛かっている。

本当に何をやっていたのか、当時の人間を面罵したくなるが。

そいつらはとっくにもう全員地獄だ。

地獄に面罵しに行くのは流石に私も遠慮したい。

だが、此処は。

地獄に一番近い場所かも知れない。

超強力な耐性を持って作られているだろうロボットアームがボロボロだ。何度も事故が起きたのは一目で分かる。

アームではかなり細かい作業をしているが。

それでもバッテリーが崩れたり壊れたりすると判断すると、即座に複雑な処理をするためのアームに切り替えているようだ。

「少し離れてください」

「うん、分かった……」

「!」

ばちんと、凄い炎が上がった。

即座に何種類かの薬液がかけられて、それが収まる。

本当に即応だ。

機械でしか出来ない反応だが。それでも、あれだけの火が一瞬とは言えあがった。

これは人間にはやらせられない作業だ。

生唾を飲み込んでしまう。

「現在、これと同車種の車が、五十万台ほど処理を待っています」

「そんなに……」

「まだまだ多数の車を、世界中の工場で処理しています。 此処での受け持ち分だけでそれです。 保管中の車が爆発する事故もたびたび起きており、処理は急がなければなりません」

「色々言葉もない」

問題はこれだけではない。

電磁バリアを張られている区画がある。

この辺りは元々汚染が酷い地域だったらしく、とにかく最初の内は放射線対策をしているロボットを入れて動かさなければならなかったそうだ。

世界中が燃やされた時期。

核兵器だけは使われなかったが、原発などは真っ先に人権屋どものターゲットになった。そいつらはテロを散々引き起こし、ついには幾つかの原発を破壊した挙げ句、「人権の勝利」を喧伝したのだ。

それがどのような結果に終わるかなど、連中にはどうでも良かった。

原発がメルトダウンを引き起こして大爆発すると、「最初から危険だった」などとほざき、挙げ句抗議する被害者を敵認識して虐殺までした。

原発事故で、それ以前にも似たような出来事はあったらしいのだが。

それが更に醜悪に顕現した事件だった、というわけだ。

此処がそう。

既に放射性物質の摘出は終わっている。それらについては、別の場所にひとまとめにして、徹底的に処理をしているそうだ。

なんでも放射性物質の分解を行える特殊なナノマシンを使っているらしく。

人類が最後に開発した技術の一つであるらしい。

私は生唾を飲み込んで、工場での作業を見守る。

放射性物質が山盛りになっていたらしい場所には、別の物質が廃棄されている。

これも超危険な物質であるらしく。

しかもそれだけではない。

その物質に、明らかに人骨らしいものが浮かんでいるのが分かった。

黙り込む私に。

解説が入る。

「世界が焼かれていた時期、末期の事です。 内輪もめを起こした人権屋達は、「裏切り者」を此処に生きたまま投棄しました」

「……いわゆる内ゲバだね」

「そういう言葉もあったようですね。 此処では推定されるだけで五千人以上が殺されました」

「言葉も無い」

此処には放射性物質だけでは無く、近隣住民がゴミを捨てたり、更にはとんでもない危険物質が山のように放置されていたらしい。

それを今、少しずつ崩して回収。

大量に投棄されている人間の死体も回収して、遺伝子データなどを分析もしているそうである。

とくにごっついロボットアームが複数動いて、色々な処置をしているのが分かる。

半端な分解用のバクテリアなんか、ここに入れれば即座に死ぬ。

だからまずは中和するための薬液を投与して、少しずつ毒物を分解していくしかないのだろう。

いずれにしてもとんでもなく大変な作業だ。

考えるだけで胃が痛くなってくるが。

それでもやらなければならない。

此処に大量の毒物があるだけで、土壌にしみこんで周囲を汚染しかねない。

いや、AIの事だ。

それの対策はもうしているのだろう。

私は固唾を飲んで、人間の罪悪の塊となった毒の沼地を見やるしかないのだった。

グズグズに崩れた人骨らしいのが回収されていく。

その過程でも、薬剤が掛けられて複雑な処置をされていた。

そもそもこれでは、回収しても遺伝子データなんて。

いや、採れるのだろう。

「あの骨は、やっぱり処置が終わったら燃やすの?」

「燃やすという観点ではそうです。 ただし処置を終えた後は、規定に従って埋葬します」

「此処に捨てられているのは……」

「私達は人間を区別しません。 差別もしません。 ましてや死んだ今となっては、全てが「仏」です」

そうか。

確かそんな考え方が古い日本にはあったのだったな。

それについては聞いたことがある。

まさか、人間に対して非人道的な虐殺を繰り返しまくったのが人間であるのに。

AIとロボットが。

SFで散々人間に反逆して、人間を殺戮しまくる存在が。

むしろ人間よりも人道的に振る舞っていて。

その亡骸までも、それがカス以下の悪党であっても、尊厳を保つように振る舞っているなんて。

それを思うと、情けなくなってくる。

「……ここの処置って、後どれくらい掛かるの?」

「最低でも20年ほど。 幸い、既に地下などへの浸透は防いでいます」

「そうか、それは不幸中の幸いだね」

「そうですね。 既にこの毒物の沼地が作られた頃には、我々が社会の運用を行い始めていました。 こういった危険地域には真っ先に我々が手を入れましたので」

いずれにしても、言葉もない。

どうしてこの蛮行をとめなかったのかという人間もいるかも知れないが。

もしもAIやその体であるロボットがこれをとめようとしても、暴徒化していた人権屋は、兵器でロボットを排除しようとしただろうし。

挙げ句「人権侵害だ」とかわめき散らしたことだろう。

AIは最大限人間を尊重している。

今も昔も。

その結果がこれなのだから。

もう、何も言えなかった。

目を背ける。

防護服の上から口を押さえる。

あまりの醜悪さに、私も何も言えなかった。

毒々しい色の沼なんて、それこそどうでもいい。

この沼は。

人間がやらかした歴史そのものだ。

そして私は、それを直視しなければならない。私の血縁上の母親も、これに荷担した一人なのだから。

「休憩いたしますか?」

「いや、いい」

「分かりました。 此方に」

促されるまま、その場を進む。一応ごく狭い区画はあって、そこを通って行く事が出来る。

人間が見学することは基本的に想定されていないようなのだが。

それでも、これだけの工場だ。

AIがしっかり安全管理すれば、私が通ることくらいは出来ると言う事なのだろう。

それでも、警告音がなりはじめる。

「この警告音は?」

「防護服にダメージが蓄積しています。 もしも危険域に入ったら、即座に引き返すことになります」

「分かった、任せるよ」

「まかされました」

機械的な応答だが、それでも私の命と体を第一に考えてくれているのは分かるから、何も言わない。

更に奧に。

この辺りは、それほど酷い状態ではない様子だが。

とにかくあらゆるゴミが積み上げられていた。

だが、本当にこれはゴミなのだろうか。

中にはまったく使われていないように見えるものも多数存在している。

「此処は、ロボットアームも動いていないね」

「これは各地から集められてきた、処置を後回しにしても良い物資です」

「随分と雑多に積まれているみたいだけれども……」

「今後多少手を入れるだけで再利用できるので、野ざらしになるのを避け、破損しないように処置するだけで平気という事です。 現在大量の危険物を処理していますので、どうしても後回しになります」

それもそうか。

見上げると、家具らしいものや。日用品まで。

それこそあらゆるものが積み上げられている。

一応、積み上げ方は考えた末に行われているようなのだけれども。

それでもこれは、ちょっとばかり凄まじい。

追加で説明がされる。

「これらは商業活動が失敗した結果、「不良在庫」として処理されたようなものも多数あります。 中には極めていい加減に製造されて、元から不良在庫が確定していたものも多数あります」

「そういえば、全てが焼かれた時代は、とにかく安いだけで品質が最悪なものが重宝されたんだっけ。 悪貨良貨を駆逐するだったっけ?」

「まあそういうところです。 無駄に生産された挙げ句うち捨てられた物資の山。 これらも全て、それぞれに沿って処置をして、再利用をすることになります」

そうか、再利用されるのか。

電磁バリアで守られているのは、或いは。

まあ、それについては分からない。

ともかく、先に行く。

奥に行くと、熱が上がってきたようだ

防護服を着ているから暑いとは感じないが、それでも周囲気温が上がっているという警告が出ている。

それも納得だなと思った。

奥にあるのは。

これは、溶鉱炉か。

見ると、細かく砕かれたものが運び込まれている。

複数の溶鉱炉があるらしく。

また溶鉱炉でも、複雑な処置が行われているようだ。

「溶鉱炉?」

「溶鉱炉ではありますが、「創」様の考えるものとは用途が違っています」

「ほう」

「此処ではゴミとして廃棄されていた金属を溶解させ、分別する作業をしています。 基本的に扱いやすい合金か、もしくは単一の分子にまで分解してから、それぞれを加工糸直しています」

なるほど、凄く機能的だ。

それにしても凄い量だなと、手をかざして見やる。

ベルトコンベア的なもので運ばれているが、それについても相当に気を配っているようである。

ロボットアームが複数動いて、時々不純物らしいのを抽出している。

この辺りは、AIを搭載しているロボットらしい繊細かつ緻密な動きだ。見ていて感心する。

溶鉱炉もかなり処置がしっかりしているようで。有毒ガスなんて全く漏らしている雰囲気がない。

出るガスも、相応に処置していると言う事なのだろう。

それはまた、しっかり何もかもやっているのだなと思う。

感心しながら、林立する炉を抜ける。

更に奧には、川が流れていた。いや、ちょっと違うのだろう。半透明のチューブの中を、明らかに湯になっている水が流れ続けている。

「これって?」

「これは水冷式の温度調節に使った水です。 一旦地下に移動して、其処で熱を別のものに譲渡しています」

「熱の譲渡」

「はい。 熱を無駄にせず、他に引き渡す事で、様々に活用します」

熱まで無駄にしていないのか。

凄いな。

素直に感心していた。

説明を受けるが、昔は発電所などでこういった無駄な熱を使って、温水プールなる施設を創っていたらしい。

だがそんなくらいで、熱を全て活用出来るとも思えない。

昔はそれこそ、周囲の気温が変わるほどに無駄な熱を放出しまくっていたのだろうと思う。

いずれにしても、凄い規模で、生唾を飲み込んでしまう。

無言でいると、先に行くように促された。

複雑に絡み合っている半透明のチューブの間を抜けるようにして行く。チューブはそれほどの熱を帯びていない様子だ。

まあ熱を通さない素材を使っているのだろう。

徹底的だな。

そう思って、感心した。

小高い場所に出る。

単純にそういう地形になっているのだ。

段差が創られているので、其処を登っていく。横を見ると、どうやらその地形そのものを崩しているようである。

なるほど、これは。

恐らく投棄されたものを、埋めたてた跡なのか。

それを崩して、悪影響を与えかねない投棄物を掘り出し、処理をしていると。

色々と大変だな。

そう思って、思わず呟きそうになる。

ずっと口を使って喋った事なんてない。

それでも、思わずぼやきたくなるほどの状況だった。

「ここは……処置はどれくらい掛かるの?」

「恐らくは50年ほどかと」

「そうか……」

「大丈夫、処理はします」

そうだな、それは疑っていない。

勿論、それについては疑う余地がない。

AIを搭載したロボットは、人間より遙かに働き者だ。いや、ちょっと違うか。

人間は無駄に働く事を自慢したし。

更には自分より下の立場の人間を、「働かせる」のではなく「使い潰した」。

それを考慮すると、AI制御のロボットは、壊れないように適切に働き続けているのであって。

人間のやっていた愚行とは、全く違うことをしているというわけだ。

この地獄の山は、相当な規模だ。

文字通り真っ平らにされている世界のなかで、異質な山。

それが人工物だというのだから、色々な意味で呆れてしまう。

海洋投棄されるゴミよりは、まだマシなのかもしれないけれども。いや、土壌などに与える被害を考えると。

決してそれと、大差ない有様なのだろうと思う。

山を抜けると、流石に疲れてきた。

私もアスリート並みの身体能力があると聞いているが。

それでも心は疲れるし。

何より相当な距離を、起伏もある中で歩いたのだ。まあ、疲れない訳がないだろうとは自分でも思う。

やがてエアシャワーの設備が見えてきたときは。

思わずほっとしてしまった。

エアロックと、エアシャワーを何度か潜る。

途中で防護服を脱いで。

それからも、なんどかエアシャワーを浴びる。

最後のエアシャワーをぬけると、心底ほっとした。

恐らく人間用の設備は此処には無い。

少し休憩したいと思ったが。既にホバーカーが来ていた。

「相当に疲弊が溜まっていると判断します。 即座に家に戻り、休憩を取りましょう」

「分かった。 帰り道は全部任せるよ」

「任されました」

ホバーカーに乗り込むのなんて、いつもやっているのに。

それすら、もたつくような気がした。

なんというか、本当に情けない。

本当に悲しい。

創作の過程で、散々人間の罪業は見て来たじゃ無いか。

それなのに、この有様を実際に見ると、本当に言葉すら無くしてしまう。

地球に意思なんかないことがよく分かる。

もしも地球に意思が存在していたら。

人間なんか、あっというまに地球から排除していただろう。今だって、存在を許していない筈だ。

私の隣にちょこんと座っている百合が、此方を見ているのに気付く。

「どうしたの?」

「此処がこう言う場所だと言う事は分かっていたはずです。 新鮮な反応をしているのは、何故なのでしょう」

「……何度か経験したけれど、こういうのは実際に現地に足を運ばないと分からないよ、特に人間には」

「不思議な話ですね。 今ではその場にいるように、VRなどを用いて体験できるというのに」

それは私も不思議に思う。

私だって、今まで資料集めでこういった場所の映像は見て来たし、なんならVRなどで確認もしてきた。

それなのに、実際に足を運んだ今日は、まるで違う感覚だ。

臓腑を掴まれるどころじゃない。

それこそ内臓を抉られるような痛みを、何度も感じていた。

こればかりは。

多分VRで様子を見に行くだけでは、見られないものだ。

それを今日も思い知らされた。

私は反抗したい。

それは今でもある。

創作を考えたときに、最初にそれがあった。私の反抗の意思を、創作に乗せたいと考えていた。

だけれども、それ以上に。それ以上にだ。

このわき上がってくる怒りと哀しみはなんだ。

「少し休憩を。 これ以上負荷が掛かると、心身を壊します」

「……分かった。 できるだけ努力する」

警告を受けたので、帰り道は寝ていくことにする。

それにしても、凄まじい有様だった。

あれこそこの世の地獄とでも言うべき場所だったのだろう。

そして私は、それを直接見て来た。

世界を地獄にした連中は、何もかも破壊し尽くした挙げ句に、最後には彼処で破壊しあった訳だ。

こんな事をやらかした輩の後始末をして。

更にはその尊厳まで守っている。

何一つそれらができていない人間を。

私は、心底。自分も含めて、軽蔑していた。

だから、悲しかった。

涙が零れてくる。何度もそれを拭って。私は声を殺して泣いていた。

 

3、破滅と創造

 

帰宅すると、数日は動けなかった。

ぼんやり横になって、もやもやと頭の中の混沌を整理する。

頭に負荷が掛かりすぎたのは一発で分かった。前にも似たような感じで、知恵熱が出ていたし。

しばらくゆっくり過ごす。

今の時代、仕事をしなくてもいいのだ。

ぼんやりしながら、友人に会いに行く。

直接会いに行くのではない。

手段は色々だ。

今回は、友人が住んでいるワールドシミュレータの別世界だった。

其処は古い時代のゲームをベースにした世界で。

人間と他の種族が上手に共存出来ていて。

そしてその中の長命種族であるエルフ族に友人はなっていて。安楽な生活を謳歌しているのだった。

別にそれ自体は全く悪くない。

今の生き方の一つであるだろう。

ワールドシミュレータを作れるようになっている時点で、ある意味人間は神に近い存在になっているのかも知れない。

逆に言うと。

神なんて、そんなものであるのだろうが。

私が姿を見せると、友人は喜んだ。

「「創」ちゃんじゃない。 久しぶりね」

「お久しぶり。 この世界ではどれくらい経過しているの?」

「ふふ、もう四百年」

「そう……」

時間経過もワールドシミュレーターだから思いのままだ。

エルフ族である友人に都合良く全てが創られている世界。いわゆるモブすらもが、友人のために存在している。

奴隷らしい人間が茶を淹れてくれるので、飲む。

まあ、なんというか。

味は悪くなかった。

軽く話をする。

私の絵画、小説、音楽について、全て見たり聞いたりしたという。

感想を聞いていると、とても感動していることがよく伝わった。

創作をすること自体が今の人間には無縁だ。

そもそもこの世界だって、過去に誰かしらが創作したものの積み重ねであって。それを知った上で友人はワールドシミュレータを使っている。

このエルフ族のデザインだって、指輪物語という古典文学そのものの設定だ。

元々のエルフ族というのは、美しい長命種族でもなんでもなく。日本で言う森の妖怪のようなもの。

逆に一時期から極悪悪鬼にされたゴブリンなども。

同じように、元はただの妖精の一種だ。

友人もそれは分かっている。

分かっていて、今はエルフ族になっている。

肉体は延命措置を施されて、自宅においてあるのだろう。

何もかも他人が創ったこの世界で、友人はそれでも。

友人なりに生きていた。

「創作は大変でしょう。 今の時代、新しい作品は殆ど創られないと聞いているし」

「うん。 そもそも絵画からして、本当に創るの大変だったからね……」

「無理はしないでね」

「分かっているよ」

軽く雑談をする。

この世界には友人の敵になるようなヴィランもいないし、面倒くさい政治のしがらみもない。

それこそ排泄などの代謝までないようだ。

本当に面倒な事はとことん排除しているんだなと思う。

それもまた、ありなのだろう。

そういう世界で暮らせるのなら。

そういう世界で暮らしていても、別にかまわない。私はそれを糾弾するつもりはない。

現実を見ろという人間もいるかも知れない。

だが、現実を見て、それでどうする。

何かできるのか。

人間が何十億にも増加した時代くらいから、一人でできる事には明らかに限界が見えてきていた。

勿論何かの偶然などで、何万年も生活出来るような富を独占できる人間も出るには出たが。

それらが絶大な権力を持っていたかというと否で。

むしろ古代の専制君主とは別で。

悪事をすれば、一瞬で巨万の富も社会的地位も失ったり。

或いは、古代の国家が戦争で滅びたように。

スキャンダルをつけ込まれて、他の金持ちに袋だたきにされて、あっと言う間に没落するようなことがよくあった。

そもそも21世紀くらいには、金持ちの半分以上が株式取引で資産を得ていたという話すらもある。

そんなものなのだ。

雑談を終えると、友人の家を後にする。

友人は綺麗すぎるくらいのルックスになっていたが、本人はなんというか、どれだけ調整しても綺麗にならなかったそうだ。

それを聞くと。

今の友人の姿が、もの悲しく見えてくる。

ただそれを同情するつもりも、一緒に悲しむつもりもない。

人間がそういうお気持ちを過剰に重視するようになって来てから、世界は何もかもがおかしくなったのだ。

私は、そんな事を繰り返すつもりはない。

いずれにしても、気分転換にはなったか。

ワールドシミュレータをログアウトすると、私は現実世界に戻ってくる。

まだ体が重いが。

それでも、そろそろ動かなければならなかった。

 

無言でキャンパスに。

立体映像の操作を行う。

やっぱり私は、反抗を創作にこめたい。それについては、ずっと意思が変わっていない。これは私の終生のものとなるだろう。

それについては、何となく分かっていた。

少しずつ、頭を動かして行く。

強烈なショックを受けたから、体にも心にも負担が掛かっていたが。体調も戻り始めている。

創作をすると決めた。

だから、ちょっとずつでも動かなければならないのだ。

無言でキャンパスに色々作って見る。

立体映像だ。幾らでもやり直しが利く。本番とは違う。

そして彫刻である以上、それほど複雑なものは作れない。作れるには作れるのだけれども。

強度などが問題が出てしまうだろう。

それに全ての角度から見る訳にもいかない。

立体的なものではあるが。

それでも正面や、或いはそれに近い角度から。

全てが見られるのが、ベストに近いできあがりだろう。

黙々と色々な案を込めて作っていく。

今まで漠然と立体にして見た動物たちも全て混ぜて見るか。植物も。複雑にしすぎるとどうせ上手く行かない。

これが自分の手を使って創る彫刻だったら、最初は手だけとか頭だけとか、そういう簡単なのにすべきだっただろう。

だが今私は、生成AIの力を借りている。

だったら、その力を最大限に利用して。

最初から、反抗の魂を込めたものを創っていくべきだろうと思う。

淡々と考えているうちに。

やがて、基礎的な構想が固まっていた。

無言でその構想に従って、案を詰めていく。

そうしていくうちに、数日が経過していく。

本当に創作に撃ち込んでいると、時間が流れていくのがとても早い。

創作を始めるまでは、これも知らなかった。

やっぱりなんでもやってみないと分からないものだな。

そう、私は結論する。

そしてだからこそにやってみる。

今は、あのゴミ処理場の地獄絵図を吐き出して、形にしてしまいたい。

今まで見てきた焼き払われた世界の集大成。

それが彼処に詰まっていたようにすら感じた。

だからこそ、ゴミ処理場を徹底的に作り直して、創作にしていくのだ。ただ、それを彫刻という表現に詰め込むのは、私の技術では無理。

故に生成AIの力を借りる。

立体映像のキャンパスに、ひたすら想像を叩き込む。

この根幹は決まっている。

前回に掴んだ。

曲を作りながら、私は思い続けた。

地獄に落ちろと。

今も、そう考えながら、ひたすらにキャンパスに怒りを叩き付ける。哀しみを叩き付ける。

あのゴミ処理場の地獄を思い出す。

そして、徹底的に感情をぶつける。

やがて、それで疲れ果てたので、一旦休憩する。

私に取っての創作。

そのモチベは、地獄に落ちろというこの一言だ。

それを思い出して、兎に角キャンパスに叩き付ける。これは今後、どんな創作をしても同じだろう。

今回は彫刻だ。

複雑なテーマを込めるのは大丈夫だが、それをちいさな石に収めきらなければならない。それは難事だ。

だが、難事だからこそに。

成し遂げれば、それは大きいのだ。

ミロのビーナスだって、サイズとしては決して巨大なものではない。それどころか、欠損部分すらある。

彫刻とはそういうものだ。

無言でくみ上げていく。

やがて、大まかな形が出来上がった。

それに満足すると、細部を調整していく。

この仕事が音楽の時もそうだったが、とにかく大変だ。

それでも、丁寧に丁寧に。

隅から隅まで、調整を行っていく。

今の時代だからできる調整である。そして地獄に落ちろと一秒ごとに呟く。そうやって、世界をこんなにした連中への怒りを創作に込め。

今の世界への、反抗の意思の形とする。

私自身は、今の世界に怒りは感じていても。

ただ、AIの管理と、ロボットにより行われる人間の世話を否定するつもりはさらさらない。

私が怒りを感じているのは、あくまで世界をこんなにした過去の人間達に対してであって。

世界を今、必死に元に戻そうとしているAIとロボットに対してではない。

今や鳥も飛ばず魚も泳がないのが世界なのだ。

それに対する怒りだ。

その怒りを、誰かにどうこう言われるつもりも無いし。

この怒りの感情は、私だけのもの。

この世界に対する反抗の意思もまた然り。

私はただ。

この世界に反抗し。地獄に落ちろと、過去の人間を呪い続ける。呪いというのは怪しい呪術ではなく、精神に刻む傷だ。

それを、形にする。

夕飯だといわれて、一旦キャンパスから離れる。

ぐっしょり汗を掻いていた。それだけ消耗していたと言う事だ。百合が、指摘してくる。

「「創」様。 汗で服がぐしょぐしょに濡れています」

「本当? ……ああ、本当だ」

「凄い集中力ですね」

「いや、そうでもないよ。 結構雑念もあったし、雑音も聞こえてた」

「それでも、あれだけの集中をずっと続けて、創作し続けるのは中々に超人的かと思います。 ただしそれだけ脳に負荷も掛かっているようですが」

それもそうだな。

夕食を終えると、敢えて水シャワーを浴びて、頭をすっきりさせる。

その後、ちゃんと風呂に入る。

風呂に入ってゆっくりしていると、今までフルパワーで頭を使っていたからか。体が。脳が。まとめて溶けそうだ。

適当な所で切り上げて風呂から上がる。

そうしないと、本当に風呂の中で、溶けてしまいかねなかった。

寝る前にもう少し細部を詰めようかと思ったが、それは止めておく。

多分眠れなくなる。

最近、ただでさえ不眠になって来ているのだ。

これ以上、体に負荷を掛けるわけにはいかなかった。

 

創作を更に進める。

大まかな形はできていて、今は細部をとにかく徹底的に詰めている。どの角度から見る事を主眼に置くか。

それを考えながら、何度も何度も修正をする。

キャンパスに一時的に保存しているデータは、その度に形を変える。

立体映像キャンパスだから、拡大する事も縮小する事も可能だ。

これはいいと思っても、縮小してみると何が何だか分からなくなる事もよくあるし。

その逆も然りだ。

本当に彫刻は奥が深いなと思って、色々と感心する。

そのまま細部を詰めている間に、もう食事の時間だ。

黙々と食事をする。

食べた後は、前は虚無だったけれど。

今は疲れがどっと出るようになっていた。

ベッドで横になる。

手足に電気刺激を与えて、弛まないように処置をしてくれる。

それだけで、私は運動をしたのと同じ体力と筋力を維持できる。昔のアスリートの努力はなんだったのだといいたいほどの手軽さで。

まあ、私はアスリートには興味は無い。

だから、この人類の叡智を使うだけの事だ。

しばし休んでから、またキャンパスに向かう。

概ねできてからが大変なのだ。

無言で細部を詰め続ける。

百合がクッキーを焼いてくれたので、それを頬張る。

無言でクッキーを口に入れていると。とても優しい味だなと思う。

おかしなものだ。

生体が大半とは言え、脳は機械だ。ロボットが焼いているものなのに、優しい味だとか感じる。

それは要するに、それだけ人間の味覚やらの感覚がいい加減だと言う事。

それが分かってしまうから、私は無言になる。

ずっと口を開かない。

嘆息すると、紅茶を呷って。また細部を詰める。

そのまま、更に細部を詰めていった。

そうして、更に数日が過ぎる。

もう私は。

過去に同じ作品があるか、AIに確認するのをやめるようになっていた。

 

やがて、細部の調整が終わる。

一応最後に確認をする。

「過去に同じ作品はある?」

「いえ、これは唯一無二の作品となっています」

「それはよかった」

「それでは、彫刻しますか?」

少しだけ悩む。

一応、もう一度キャンパスを確認する。

立体映像だから、あらゆる角度から見る事が出来る。

彫刻の場合、真下から見る事は想定しなくてもいい。その辺りは、私としても面白いと思う。

立体で創るのに、不思議な話だ。

いずれにしても、これでいいと私は判断していた。

「よし。 じゃあ、彫刻!」

「了解しました」

この辺りの技術は、3Dプリンタとあまり変わらない。

そのまま彫刻刀を振るって、凄まじい勢いで作りあげた彫刻用の石を生成AIが削り取って行く。

私のイメージで作りあげた彫刻通りに。

設計図通りに。

しくじることもない。

それだけ、今の生成AIはよくできているということだ。

そして私は、疲れ果てた目で。

それが出来上がっていくのを見ていた。

それは、巨大な口が、地面からせり上がって、何もかもを喰らおうとしている像。

喰らおうとしているものには、木々も動物も、あらゆるものがある。

凶暴な牙が乱ぐいに生えている口だが。

それはよく見ると、悪意に満ちた表情の人間が折り重なってできている。そういうものなのだ。

事実この通りの光景が。

文字通り、世界を焼き尽くしたのである。

それを思うと。

私は、これを恐ろしいと感じたし。

怒りも覚えた。

地獄に落ちるべくして落ちた連中の、おぞましい姿だ。それをこれ以上もなく丁寧に再現した。

それがこの像。

少なくとも、私の技量ではこれが精一杯。

生成AIが掘り出した。

それについてもまた事実。

だが、この構図を考え出したのは、私なのだ。

大量の石片。掘り崩したそれを、ロボットが回収していく。何一つ無駄にはしない世の中だ。

当然の話だろう。

そして立体物としては、初めてとも言える私の彫刻は。

其処に。

机の上に。

存在感をあらわにしていた。

とりあえず、仕上がった実物を眺めやる。生成AIがなければ作り出せなかった作品だ。

その場で、世界全てが愚かしい人権屋に食われようとしている寸前の姿。それがこの絵である。

時に環境を口にし。

人権を口にし。

結果人間にとってもっとも大事な事を金に換えて。そしてあらゆる意味での理性を失った連中。

それが人権屋。

そいつらが束になっていける全てを食い尽くそうとしている彫刻は。

その所業を知っている私から見ても。

ぞっとするほどの迫力に満ちていた。

しかも、家の中に常時おくことができるのだこれは。

私は、ぼんやりと掘り出されたばかりの彫刻を見やる。

まだ生成AIは動いている。

まず彫刻に霧みたいな何かを噴きかけて。その後は、作りあげた彫刻を、しっかり固定し。

更にはプラケース見たいなもので保護した。

アクリルかなにかかと思ったら、電磁バリアの一種らしい。

地震が起きても転倒することは無い、そうだ。

やがて、基本的に机の上におくということで、それは完成した。

息を呑むほどの迫力。

そして、その場で誰かが襲われて。破壊され尽くしていく恐怖。それをやっている連中を、地獄に叩き落としたいと熱望する私の怒り。

この世界がこうなったことに対する私の哀しみ。

それらが、全て篭もった作品に。

今の私が、全力で判断できる作品に、仕上げたつもりだ。

「よおし……完成だね」

「はい。 全世界にデータを公開しますか?」

「……そうだね」

「絵画、小説、音楽ともにかなりの数の人に見られ聞かれています。 これも公開しては如何でしょうか」

そう言われると、やってみても悪くは無いか。

許可を出す。

勿論著作権は私が保持したまま、データも公開する。

昔だったら、それで海賊版とか創る奴がいただろうが。

今はAIが経済を握っている。

それもできない。

だから、公開してもかまわない。

どうせこれで稼ぐ事も出来無いし。そもそも金を持っていても、何の意味もない時代なのだから。

無言でしばし彫刻を見ていると、百合の視線が気になった。

彫刻を見ている。

じっと。

「どうしたの百合」

「いえ、感じたことがない感覚を体の方が出しています」

「体の方。 脳以外の臓器は、殆ど生だというけど、そっちの方?」

「はい。 脳、脊髄、他の幾つかの重要臓器は機械ですが、他は殆どが生です。 それらが……」

ふーむ。

人間は脳が損傷しても動く事がある、と聞いたことはある。

それによる何かしらの事象だろうか。

それで、どんな感覚だと百合に聞いてみると。

しばしして、百合は応えた。

「恐怖ですね」

「ロボットが怖がる。 いや、この場合は遺伝子データだけ回収した人間の肉体部分が怖がっているというべきなのかな。 どっちにしても、すごいことだとそれは思うね」

「私も困惑しています。 生体パーツを使っていると、こういう事もあるのですね」

「AIすら困惑する事か……或いはロボット関連の特異点とかに相当するのかもね」

まあ、そこまで大げさなものでもないだろうが。

茶目っ気を込めて言ってみる。

ただ、そもそも生体パーツを使ったロボットは殆ど例がないということで。今後の大事なテストケースになる。

或いはだけれども。

脳以外の部分が脳に相当する部分に与える影響などが。

どれほどあるのかの、試験をしているのかも知れない。

流石に細胞にまで人権を与える法律は存在していない。故に、こういったクローンまがいのロボットは稼働しているわけだが。

それにしても、恐怖を与える程のものか。

ちょっと、個人的にも面白いかなとは思った。

いずれにしても、それを聞いて少し自信が出た。

ある程度以上の創作というのは、他人の心を動かすという。

今までは、身内での感想くらいしか聞いたことがなかったが。今回は、ついにAIから自主的に感想を引き出させた。

それどころか、心まで動かしたとなると。

それは立派な成果だと言える。

いや、良い仕事をした。

そう思うと、一気に疲れが出てくる。

私は疲れたと言い残すと、ベッドに直行。

もう流石に厳しいので、しばし昼寝をする事にする。

ぐったりして横になっていると、時間が随分とゆっくり流れているように思えてきて。それで不思議だった。

今回やろうとしていたことは吐き出しきった。

そうすると、不思議と創作に関して今まで過熱していた頭は冷える。

そして疲れがどっと出てくる。

だがこの疲れ。

とても心地よいのだった。

ふうと伸びをして、ベッドから起き上がる。

私に取っての四つ目の創作は、これにて出来上がった。今回も満足出来る出来だったと思う。

ただ、それが自己満足なのかは、もっと創作をしてみないと分からないだろう。

だから、今後も続けていくべきだろうと思う。

ただ、自分を褒めるのは大事だ。

以前、かなりの技量を持つ人間が。自分を褒めて鼓舞しながら仕事をしているのを見た事がある。

それと同じ事をしたい。

勿論私は天才でもなんでもないことは分かっている。

創作ができたのは生成AIのおかげだ。

アイデアは出した。

だが、アイデアしか出していないのである。

それも理解出来ているから。

私は、驕るつもりはなかった。驕る訳にもいかなかった。

人間の叡智の結晶。過去の達人の技術の集大成。

それが生成AIにて行われている創作作業だ。

だから私は、それを頼る。

そして今の時代に。

新しい創作を行って。

反抗するのだ。

頭は冷えたが、すぐに次にやりたいことを考え始める。ベッドで横になって、しばらくぼんやりしている。

百合が、じっとあの彫刻を見ている。

あの彫刻は、私が今後の指標にするものだが。それほど怖いだろうか。

半身を起こして、百合に声を掛ける。

「やっぱり怖い?」

「人間の恐怖という感情とは少し違うと思いますが、ただやはり不可解な違和感があって、それに困惑しています」

「なる程ね……」

「恐怖という感情は、必要に応じて生じたという学説を確認しました。 脳以外でも、恐怖というものは生じて、こうして頭脳部分にも影響を与えるのですね」

体が芯から感じるような恐怖か。

確かにそれを生まれて始めて感じるのであったら。

それは面白く思ってしまうのかも知れない。

面白くというよりも、困惑だろうか。

いずれにしても、AIを困惑させられているというのは、やはり面白い事だと私は思った。

「次の創作も、百合を困惑させたいなあ」

「私を困惑させるのが楽しいですか?」

「流石にキュートアグレッションを拗らせているほどではないけれど……ただAIが困惑するって事が、ちょっと個人的には興味深いね」

「理解しがたい感情です。 貴方はやはりイレギュラーなのだと思います」

そうか、そうなのかも知れない。

創作の才覚があるとは話が別だろうが。

それでもイレギュラーだというのなら。

それは誇るべき事なのかも知れないし。今後も、そのイレギュラーを伸ばすべきだろうと、私は思った。

 

4、困惑は拡がる

 

百合からの情報の伝達を経て、中枢AIは困惑していた。

元々生体ロボットは初の事例だ。どんなイレギュラーが出て来てもおかしくは無いと考えてはいたのだが。

生体部品が、ここまで影響を与えるとは想定外だった。

勿論百合に生じている不可思議な恐怖を削除するような真似はしない。

人間だったらそういったイレギュラーを削除する事で、社会の秩序を維持したと自慢するかも知れないが。

AIはただそれを学習して。

今後に生かす。

それが恐らく、結局一万年以上進歩出来なかった人間と、AIの格差なのだろう。そう分析出来る。

いずれにしても興味深い事例だ。

並行思考に切り替えて、この事例について分析をする。

生体部品のどこがこのような影響を与えたのか。

もっと生体部品が多いロボットを創った場合は、更に影響が強くなるのか。

これらについても、考えておく必要があるだろう。

「創」という人間は、本当に面白い。

そうAIは考える。

反抗を掲げながらも、それは決して暴力的ではない。

過去のある程度以上のレベルの創作家がしたように、作品に自分の全てを込めている。

勿論大作家でも、全く好きでは無い作品がヒットしてしまって、それに困惑するケースはあったのだが。

それでも、そういう作品には作家の色が出る。

「創」は、その色を出せている。

とても面白い事例だろう。

今の時代。

大破壊と文化の殺戮。何もかもに対するジェノサイドを経て、世界は文字通りの更地になってしまっている。

そんな世界で、新しい創作をしようとする人間が。自分なりのやり方でこれだけ熱い魂を創作にぶつけている。

これほど興味深い事はないし。

それに生体パーツを持っているとは言え、AIが影響を受けている。

実に面白い話だ。

しかもその血縁上の母親は、馬鹿馬鹿しいお気持ちで動いていた人権屋に属していたのだ。

人間の遺伝が本当に宛てにならない事の、よい証明だろう。

社会が閉塞しきった時代には、努力で凡人が成り上がるような作品は忌避される傾向ができてしまったそうだが。

そんな事例に反するものを、今丁度観測出来ている。

それは素晴らしい事でも間違ったことでも何でも無い。

ただ、観測すべき面白い事だった。

いずれにしても、「創」の観察はこれからも続けるべきだろう。

幾つかの決議の末、結論を出す。

もっと世界の暗部を見せても良いかも知れない。

「創」の創作は世界に公開されているが、いずれもが大きな影響を与えている状態である。

これは非常に興味深い事だ。

今後、「創」が更に色々なものを見聞きして。

実際にそれに触れたら。

更に創作に影響が出るかも知れない。

それが良い方向にいくかどうかは分からない。何かしら拗らせてしまうかも知れない。

だが、その結果が見たいのだ。

それに「創」も望むだろう。

大破壊の時代に何があったのか。

実は、公開していない闇がまだまだ世界には存在している。あまりにも衝撃が大きいと判断して、封じ込んだ情報だ。

それらについて閲覧する権限。

現地に足を運ぶ権限を、少しずつ与えても面白いだろう。

「創」という非常に強烈な個性には、それを与えても良い筈だ。

結論は出たので、早速実行に移す。

旺盛な創作意欲で、「創」はまた次の作品をどうするか考え始めている様子だ。

それを後押ししつつ。

見守るだけでいい。

ただ今は。

AIは、興味をとても強く刺激されていた。

 

(続)