夕暮れの世界

 

序、願いの時

 

かって、魔物は。人間によって狩られるだけの存在だった。

個別には、人間よりも優れた力を持っていた。中でも最強の一族である魔族やドラゴン族などは、百や二百の人間など、ものともしないほどの強さを誇った。

だが、人間の圧倒的な数と繁殖力は、多少の戦力差など、簡単に覆した。そして、人間にとって、侵略は悪では無かった。自分たちがした事はあらゆる方向から肯定し、された事は末代まで恨むという精神構造が、全ての侵略行動を後押ししていた。万物の霊長。だから何をしても良い。

それが人間の理屈であった。

暴力的な人間の侵略の前に、魔物は、なすすべ無く駆逐されていった。

それだけではない。死後も辱められ、全てが滅びへと向かっていった。

北極に閉じ込められたとき、魔物達はこう思った。もう、外に出ることは不可能だろうと。

対費用効果があまりにも割に合わないから、人間が攻めこんでこない。それははっきりしていた。

だが、貧しい北極での生活は、あまりにも絶望的すぎた。

食料は無く、環境は最悪。

凍死する仲間達も、多数いた。どの種族も身を寄せ合って、絶望の中で震えているだけだった。

だから、魔王が現れたとき。

誰もが、その姿に光を見た。そして補充兵の技術を見て、誰もが希望を感じることが出来たのである。

フォルドワードを奪回。

キタルレアに侵攻。

魔物の滅びは遠ざかった。数も、ほんの少しずつ、回復へと向かいはじめた。

誰もが魔王に感謝した。人間を大量に殺したことに異論を出した者もいたが、少数派だった。

魔物達は、更に酷い虐殺に晒されたのだから。

 

グラは、最終作戦と言われるものが開始されたことを知った。

第六巣穴で、会議に参加したからである。魔王は出陣をきめ、今度こそ聖主を葬ると宣言した。

最近平和な状態が続いていたから、少し気が緩んでいたかも知れない。

まだ、戦争は続いていたのだ。

グラも、北極の地下で生まれた。あの地獄は、今でも良く覚えている。人間が残した書物に、地獄というものが記されていて、それとそっくりだった。

既に、山全体を覆った緑は、裾野に広がりつつある。

川も少しずつ安定してきていて、山頂から見下ろすと、確実な緑の広がりが見て取れる。今後は軍用道を避けながら、緑を広げる工夫をしていく必要があるだろう。カーラなら、そんな指示を出さずともきちんと出来るはずだ。

この緑を、消すわけにはいかない。

第六巣穴を任されてから、時も流れた。グラもそろそろ、ゴブリン族として妻をめとり、子供をもうけることを要求される年だ。それ以上に、ヨーツレットの招聘を受けて、魔王軍のために更に働かなければならない。

魔王軍は、名前の通り、国家と言うより軍事組織の色彩が強い。文官は殆ど数がいない。ましてや、有能な文官となると、相当に難しい。

今までは人間型の補充兵を活用して補ってきたが。それも出来なくなりつつある。

グラも聞いている。あの人間型は、魔王が愛した孫娘を模したものだと。今後はその事情が更に広がり、これ以上数を増やすのが難しくなってくるのは間違いない。

いずれにしても、今回の戦いに勝つ。

それが、全ての大前提だ。

エルフ族の長老が、少し前に来た。植林の様子を見て絶賛。一族の何名かを、移り住ませたいと打診してきた。

勿論グラとしては歓迎だ。森の管理のスペシャリストであるエルフ族がいてくれれば、手間が省けるからである。今まではそれもカーラにやって貰っていたので、そろそろ手が足りなくなりつつあった。

本日の作業終了。

第六巣穴の管理は、午前中に終わるようになった。直接的な戦闘が終わったから、死体を運んでくる輸送部隊が、殆ど来なくなったのだ。その代わり、地下の死体をどう管理するかが問題になってきている。腐乱しているものや、白骨になっているものもある。保存用の術式の整備や、薬剤などの搬入など、まだまだする事はあるのだ。

だが、それも午前中で片がつく。

作業が終わった後、ヨーツレットに連絡を取ろうとして、舌打ち。そういえば、今は出かけているのだった。

代わりに、後に残っている秘書官に連絡。

マロンは冷めた目で、グラを見ているが。まあそれは良い。

「ヨーツレット元帥がいつ戻るかは分からないだろうか」

「現在、現地で激しい戦闘中と聞いています。 まだ戦闘がいつ終わるか、全く見当がつかない状態でして」

「……そうか」

魔王がいるのだ。まず負けることは無いだろうとは思う。

だが、聖主についてはいろいろ聞いている。魔王を圧倒したとか、あまり聞きたくない内容も、それには含まれていた。

魔王軍が誇る九将の過半数が現地に行っているのだ。此処で負けたら、かなりまずいことになる。

どんな様子かも分からないと聞いて、嫌な予感が加速する。

しかし、此処ではどうにも出来ない。文官として、可能なことは限られている。グラは今まで、師団長級の補充兵を何名も第六巣穴から送り出してきた。既に戦死した者もいるし、生きて頑張っている者もいる。

貢献は、している。

後は願うだけだ。

麓の食堂に入り、昼飯を取ることにした。最近は食事の時間が安定してきていて、料理人も文句を言わない。野菜炒めを中心とした定食を口にした後、考えた末、寮に戻って少し寝ることにした。

こういうときだからこそ。

落ち着いていなければならない。今グラがそわそわしていたら、多分皆が不安になる事だろう。

一刻だけと決めて、一眠りする。

仕事が忙しかった頃、決めた時間だけ眠るスキルは身につけた。体が鈍らないようにするためにも、今も寝るときは何時までとしっかり決めて眠るようにしている。少しだけ眠って、すぐに起きて。

顔を冷水で洗うと、だいぶ気分がすっきりした。

山頂に出る。

まだ、報告は来ない。だが、少し前に世界に広がった光の網は、グラも見た。あれが、負けを告げる鏑矢だとはどうしても思えない。

魔王は必ず勝つ。

そう、今では思えるようになっていた。

気がすっきりすると、心も前向きになる。

ならば今は、魔王が勝って戻ってきたために、出来ることをしておこう。そう、グラは思った。

キバがカーラを肩に乗せて、こっちに来るのが見えた。

まずは果物を収穫しておこう。次は料理人に相談して、何かごちそうを作って貰う。

順番に、するべき事が、頭に浮かんできた。

 

1、突入

 

超兵器は出てこない。

発見した聖主は、南の大陸の東にある、廃教会に潜んでいた。テレポート部隊を使い、まずは魔王が其処に。それから、魔王軍九将の五名や、精鋭部隊、人間達も順番に突入作戦を開始しすることにした。

とはいっても、まずは教会の外に布陣することからだ。そして、安全を確保しなければならない。

教会の内部へのテレポートは出来ない。

一度実施しようとしてはじかれた。

だから一旦教会の近くにテレポートして、其処から突入することになった。まず魔王が教会の外を術式で薙ぎ払う。

地面が派手に爆発した。多分何か罠があったのだろう。誘爆した地面には、点々と大穴があったが。それ以上の手品は無い様子だ。

そして、別に無人兵器が出てくるというわけでも無い。

他にも、超兵器の類が顔を見せることも無く、静かに此方を待ち受けているのが分かった。

ヨーツレットは、長い首を伸ばして、まずは周囲を見る。

多分敵の大半は、既に逃げ出した後だ。

「魔王陛下、聖主はまだ中にいるのでしょうか」

「いるのう。 反応もずっと弱いが、確かにおる」

「テレポートによる逃走を防ぐ方法は」

「それについては問題なかろう。 多分もう聖主に手札の類は無いし、腰を据えて攻めれば大丈夫じゃろうて」

実際問題、迎撃戦力が無い事が、それを裏付けている。それに逃げたところで、また大規模探査術式を発動すれば良い。現在、三人もの到達者が揃っている状況だ。これを崩さない限り、聖主に未来など無い。

ただし、教会に入れば、融合不死者兵が此方を出迎えてくるのもほぼ間違いないところである。

それに、外の地面でさえこれだ。内部には、どんな罠が仕掛けられているかも分からない。

「ヨーツレット元帥、いっそ外から全部噴き飛ばしちゃおうか?」

「いや、それは最終手段にしよう」

レイレリアが過激な提案をしてきたので、柔らかく拒否。以前に比べれば落ち着いてきたが、それでもやっぱり地は過激だ。

ミズガルアが、辺りに何か機械を置き始める。多分、内部を調べるための道具だろう。黙々と作業しているので、何をしているのかはよく分からない。咳払いしたのは、イミナだ。

「我々は突入するぞ。 そちらはどうする」

「陛下と、護衛の精鋭を入れる。 九将は、外で敵が逃げてきたときのために待機する」

「そうか、それが妥当だな」

全軍を中に入れてしまった場合、聖主が出てきたときに対応できない。

ヨーツレットは医師が怖い目で見ていることもあって、外で待機しているのが妥当だろう。中は勇者と魔王、それにイミナだけで充分の筈だ。更に護衛の精鋭師団長部隊も入るのだから、これ以上の戦力はいらない。

作戦は特に必要ない。

戦力を、敵の内部で分散させない。それだけで充分だ。

「陛下、それではご武運をお祈りしております」

「うむ。 ヨーツレット元帥も、討ち漏らした敵が出た場合、必ず処理してくれ」

「承知しております」

人間の魔術師とかは、ユキナが指揮を執っている。

魔王軍の人員が足りていない場所に、的確に兵力を配置してくれているので、此方としては何も言うことは無かった。

ミズガルアが、機械の設置を終える。

どこに行っていたのか、バラムンクが戻ってきた。

「周囲に伏兵の類はありませんね」

「……何か引っかかるな」

「罠を張る時間は、敵には無かったはずです」

「ああ、それには同意する。 だがな、あの聖主のことだ。 何を企んでいるか、知れたものではない」

どうも聖主は、負けても自分にとって有利に進むよう、今まで策を巡らせていたように思えてならないのである。

実際問題、世界レベルでの洗脳を成功させているし、それによって奴の目的の一つである世界平和が実現してしまった。

結果としては歓迎すべき事ではある。

だが、奴の能力に関しては危険だ。今は、其処を懸念しなければならない。

爆発音が、地面を揺らすように轟いた。

早速、戦いが始まった様子だ。

 

憎悪充填型の融合不死者兵が三十。

通常の融合不死者兵が百五十。

それが、此処にある戦力の全てだ。自動兵器の類は此処には置いていないし、あったとしても魔王を食い止めることは無理だろう。

既に、入り口付近に配置した戦力と、敵が接触した。

オペレーターもいないから、自分で魔術を展開して、戦況を確認しなければならない。面倒な事であった。

「ふむ、中々やるな」

「俺も行っテ参ります」

「好きにせよ」

のそりのそりと、フローネスが歩いて行く。

もし生き残ることが出来たら、教皇にでも何にでもしてやろう。あまり可能性は高くは無いが。

近代化改修しているとはいえ、別に外からの攻撃に対して強化しているわけでも無い。デウスエクスマキナや光の槌のように、内部に敵を迎撃するための罠を仕込んでいる、という事もない。

文字通りの正念場である。

少しずつ、爆発の音が近づいてくる。敵の気配も。

テレポートで外に逃れても、魔王軍の精鋭が待ち構えていることは疑いない。まあ、もしそうしたところで、また探査術式を発動されて終わりだ。とにかく、今は福音さえ守りきれば良い。

だが、不安もある。

人間を放置しておいて大丈夫だろうかとは、今も思うのだ。福音には自動調整機能の類は無い。

聖主が死んだ後は、愚直に指示を守り続けるだろう。

おかしな話ではある。福音に使ったのは、この星で偉人とされる者達ばかりなのだ。それなのに、死んだ後は聖主が命じたとおりに世界を観察し、その変革を行うだけの存在になり果てる。

ただし、この星での偉人とは、必ずしも本来の定義通りの存在では無いとも言える。

ある意味、無間地獄に墜ちたとでも言えるのかも知れなかった。

フローネスが顔を上げる。足を止めたのは、多分わざわざ出向くまでも無いと思ったからだろう。

もう、かなり近い。

罠の類も設置はしていないから、今更敵を遮る者は無い。憎悪充填型の融合不死者兵はそれなりに頑張ったようだが、どのみち時間稼ぎ以外にはもう使えない。

敵の数は、それほど多くは無い。

ただし、精鋭。それも、恐らくこの世界最強と言って良い精鋭の集まりだ。聖主が福音を弄ったからとはいえ、まさか勇者と魔王が一緒に攻めてくるとは、どうして予想できただろうか。

だが、考えて見れば。それも福音の成し遂げた偉大な奇跡とも言えうる。

玉座から立ち上がる。

何をするべきか、ようやく思い立った。

此処での勝利はくれてやる。だが、勝ちは譲るにしても、完全に未来をこの星の人間共に託すわけにも行かない。

「フローネス」

「はい」

「敵がここに入ってきたら、時間を稼げ。 するべき事がある」

「聖上の、御心のマまに」

完全に精神崩壊を起こしているフローネスに、もう恐怖や悲しみ、或いは聖主を守る者としての誇りや矜恃、などというものは残っていない。

だが、それでも。

フローネスが聖主に殉じたのは、事実だった。

 

戦況に、問題は無い。

ヨーツレットは作戦指揮を執りながら、順調だなと思った。聖主の反応は移動していない。敵の迎撃部隊も、魔王が確実に削り取り、一緒に入った護衛の師団長部隊がとどめを刺して行っている。

歴戦を積み重ねたヨーツレットだから、分かる。

敵はもう、継戦能力を残していない。

聖主は必ず自分が思うとおりに戦いを進めてきた。どれだけ負けようと、確実に目的を果たしてきた。

その結果、福音とやらで世界全てを洗脳することに成功した。

だが、負け続けたことが、今響いている。手にした兵器の類はことごとくを失い、麾下の戦力も分散したか不要と見なしたか既に無く、そして本人も決戦で敗れたことが響いて、かっての力は既に失っている。

ただ、それでもまだ、聖主には得体が知れない部分がある。

不意に、レイレリアが、テレパシーを使って話しかけてきた。作戦指揮中だというのに、だ。

「ヨーツレット、ちょっといい?」

「作戦指揮中だが」

「どうしても聞きたいことがあるの! いいじゃない!」

「……少しだけだぞ」

だいぶ穏やかになったとは言え、レイレリアはまだまだ気性が荒い。怒らせると面倒くさいので、話をさせておく。

戦いは既に掃討戦に入っている。後は聖主を確実に仕留めれば終わりだ。行き来する伝令も、数を減らしつつあった。良い意味で、である。

テレパシーだから、話は互いにしか聞こえていない。とはいっても、レイレリアがこの術式を使えるとは初耳だ。ヨーツレットも知らない内に、勉強して身につけた、という事なのだろう。

「今回の戦いってさ、結局聖主を殺す事が目的なの? よく分からないまま来ちゃったんだけど」

「少し違う」

「え?」

「聖主が作ったらしい今の世界平和については、皆が納得している。 人間じゃあるまいし、我らの中に権力を欲する者などいないし、それは勇者やその周辺だって同じだ。 これで、聖主が目的のために手段を選ばない輩だったら、別に何もしなかっただろう」

だが、聖主は、目的のためにはどんなことでもする奴であった。

ヨーツレットが知るだけでも数回、奴はキタルレア大陸を根こそぎ消し飛ばそうとしている。

聖主が使った手段や、戦略自体に不安は無い。

奴の、目的を達成するためにはどんなことをする、という考え方そのものが危険なのだ。

それに、聖主自身は、おそらく福音の影響を受けていない。それも、排除しなければならない要因の一つである。

「殆どの人間はともかく、ここに来ている人間に関しては、皆考えは同じだろう。 もっとも、勇者の姉は、聖主の立場を妹に乗っ取らせようとしている節があるようだが、それも権力欲からではあるまい」

「なんだか聖主って奴って、どうしてこんな風になっちゃったんだろうね。 人間の中で、世界平和、なんてのを真面目に考えたんだもん。 他の人間とは違って、真面目でまともな奴だっただろうに」

「理想を一度見失ったのでは無いのかな。 調査によると、奴は部下達に裏切られて、幽閉されていたと聞いている。 その時に、人間を導くには理想では無く合理主義だと結論したのだろう。 それ自体は間違っていなかったが、奴はあまりにもそれをやり過ぎた」

行きすぎた合理主義は、却って弊害を生む。

奴自身が、自分を特別扱いしていなかったのは立派だ。だが、それなら福音で自身をも改革すれば良かったのだ。

そうなれば、このような事態は避けられたかも知れない。

此処に集まっている戦力は、数だけならそうたいしたことは無いのである。

或いは、聖主が主導で、魔王と恒久的な和平を作り出すことさえ出来たかも知れない。

一度、普通に話そうとして、レイレリアはやはりテレパシーをまた使ってくる。

「ねえ、ヨーツレット。 この戦いで勝ったら、世界は平和になるのかな」

「少なくとも、以前よりはな。 少なくとも、人間共が一致団結して、魔王領に攻めこんでくるようなことはもう無くなるだろう。 代わりに、此方も人間共の領土に攻めこまないように配慮しなければならなくなるが」

「何だか、嬉しいな」

「好戦的なお前が、面白いことを言う」

戦いはずっと嫌いだったと、レイレリアは言う。

激しい気性の奴だと思っていたが。これは、レイレリアの本音なのかも知れなかった。レイレリアはよく分からないところのある奴だ。今後、もっと話して、相手のことをもう少し知るべきかもしれない。

ミズガルアが、視界の隅で触手を動かしているのが見えた。何か進展があったのかも知れない。

テレパシーでの会話を切る。

何度か咳払いしてから、ヨーツレットは顔をそちらに向けた。

「どうした、ミズガルア軍団長」

「すみません、楽しそうな所。 でもぉ、ちょっと無視できないものを見つけてしまったようでして」

「何をだ」

テレパシーに切り替えてくる。

すぐに、その理由は分かった。

「どうやら、福音の端末のようです。 さっきの探査術式を展開したとき、聖主を発見しましたが、その時に。 巧妙に偽装していますが、ほぼ間違いないかと思いますー」

どうやら、事態は風雲急を告げているようだ。

ミズガルアは研究者らしく、非常に合理的な頭脳の持ち主だ。おっとりしたしゃべり方をするが、ある意味では残酷きわまりない。というよりも、そうでなければ補充兵の研究開発など出来ない。

また、あまり知られていないが、ミズガルアは魔力が非常に強い。

あまり戦闘向けに体が出来ていないため、戦闘用の魔術はそれほどみにつけてはいないようだが、元の知識量が大きいし、魔術の精度は非常に高いと聞いたことがある。

ならば、福音につながりうる場所を見つけてしまったのも、頷ける話である。

「他に、気付いている者は」

「陛下はほぼ確実に。 勇者とその姉も、気付いている可能性が高そうです。 ただ、戦闘中ですし、具体的な場所とか、正体については分かっていないでしょうねえ。 漠然と、何かある、くらいにしか見えていないはずですよー」

「そうか。 では私が陛下に確認してみる」

「それでいいんですか?」

ミズガルアは、含みのある言い方をした。

福音を握れば、確かに世界を好き勝手に出来る。場合によっては、生存への意欲を全て削ったりすれば、即座に人間を滅ぼすことも可能だろう。

だが、それは。

ミズガルアの説明を聞いていたヨーツレットは、首を横に振る。福音について、ヨーツレットは横から利権をかっさらう気は無い。

「福音は、陛下にお任せする。 陛下がいらないのなら、勇者が使えばいい」

「理由をお聞かせ願えますか?」

「陛下はそう判断している。 もしも陛下が福音を手にして、それで人類を滅ぼそうと思っているのなら。 きっと聖主への攻撃は人間共に任せて、自身はそちらにお向かいになられただろう。 勇者はそもそももう人間では無いし、我々を攻撃する意味も喪失しているから、持たせてしまっても問題あるまい」

ヨーツレットとしては、理由はそれで充分だ。

だが、ミズガルアは、研究者らしい冷徹な合理性を発揮して、静かに指摘してくる。

「勇者の方は、まあ良いでしょう。 陛下は、もう限界です。 多分この戦いが終わったら、引退を余儀なくされると思いますよー」

「それが、問題か? その時のために、マリア様に声も掛けている。 人間が攻めてこないのであれば、マリア様で充分だろう。 後は年月を掛けて、マリア様に立派な魔王になっていただければそれでいい」

「あの子は、魔王の器じゃ無いと思いますけど」

「我らが支えていけば良いことだ」

いらだちは、感じない。

ミズガルアは、個人的な欲望から、ヨーツレットをそそのかしているのでは無い。テレパシーを使って、そのまま思うところを告げてきているだけだ。

多分この娘は非常にマイペースであるが故に、福音の影響も殆ど受けていない。更に言えば、自分の研究さえ出来れば、権力などどうでも良いと想っているはずだ。

ならば、そそのかしてきているのは。

魔王軍全体のことを、考えての事。他の魔王軍の将軍が、結局の所無骨な猪武者ばかりだと思って、忠言してきている、という事だろう。

「位置は転送しておきます。 まあ、簡単には落とせないでしょうけど、知っておくだけは知っておいてくださいー」

「そうだな」

「陛下が引退されたら、貴方が事実上魔王軍のナンバーワンになります。 その時に、切り札を持っておくのは、悪いことじゃないですから」

「大きな責任だな。 心しておくことにしよう」

ミズガルアに悪気が無い事は分かっている。権力の掌握をそそのかしてきているのは、彼女なりに魔王軍のことを考えた結果だ。

だが、ヨーツレットは、魔王に恩義を感じている。

魔王は、ヨーツレットと意見が根本的に違うにもかかわらず、粘り強く話し合いをして、折衝に応じてくれた。軍事面ではほぼ全ての行動から掣肘を外してくれたし、可能な限りの支援もしてくれた。

自分を作り出してくれたというだけではない。

魔王こそ、ヨーツレットの全てだった。これ以上の君主は、人間の長い歴史をひもといても、少なくともヨーツレットとの相性で考えれば存在しないだろう。

だからこそ、魔王の今の意思が平和で。

最終的には、静かな隠居生活を送りたいと言うのであれば。

それをかなえたいのである。

「問題が、もう一つありますー」

「それは?」

「実は、聖主が潜んでいるらしい施設、廃教会ですけど。 地下に何かいるみたいですねえ。 聖主が使うつもりかは分からないですけど、ちょっと警戒だけはしておいた方が良いかもしれないです。 多分福音の端末と、無関係では無いでしょう。 一匹強そうなのと、後これはなんだろ。 何だか分からないけど、おっきいのがいますー」

「私は感じなかったが、陛下に警告は必要か?」

恐らく必要ないだろうと、ミズガルアは言った。

或いは此奴は、既に魔王に見切りを付けているのかも知れない。魔王自体が嫌いというのでは無く、覇気を失った時点で、君主としてはもう終わりだと考えている可能性もある。もしそうだとすると、魔王軍九将の中で、唯一魔王に対して心理的な面で反旗を翻したのだとも言える。

だが、具体的な造反行動をしている訳ではないし、それに判断も合理的な理由からというのが全てだ。

あまり、責める気にはならなかった。

「一応陛下に警告はしておく」

「ふふふ、真面目ですねー」

「私はいつも大まじめだ」

ヨーツレットは、魔王にテレパシーで通信をつないだ。

この距離だと、かなり通信は不鮮明になる。だが、テレパシーを感知した魔王が、向こうから回線を強化してくれた。それを察知したクライネスが、無言で回線をこちら側からも強化してくれる。

相変わらず。前に出しゃばらなければ、良い仕事をする。

クライネスはヨーツレットが指揮を執るのを横目に、兵力の配分や、送り込む増援について色々手配してくれていた。後方は完全に任せてしまっても大丈夫だろう。

「どうしたのかのう、元帥」

「実は、ミズガルア軍団長からの指摘があったのですが。 地下空間に、何か潜んでいる様子です。 お気を付けください」

「ふむ、それの件だが。 どうやら、既に警告は遅かったかも知れん」

「何かしらの形で交戦状態に入りましたか?」

その通りだと、魔王は言った。

どうやら流石に相手が聖主だと言う事もあって、簡単に戦いは終わりそうも無かった。

 

2、忠義の形

 

フローネスの意識は、既に形を保っていなかった。

膨大な雑念と、壊れた情報。それがフローネスという人格を、内側から完全に潰してしている。

さらにいえば。かってあった心の芯は既に折れてしまっていた。

ガルフに殺された前後から、フローネスは記憶が無い。復活したとき、心は完全に壊れていた。聖主もそれを知っていたから、奴隷として以上のことは、何も望んでいなかった。そして、超合理主義者の聖主だからこそ。むしろ、もはや人間とはあらゆる意味で呼べなくなったフローネスを、哀れに思ったのかも知れない。聖主自身にも、細かい心理の機微は、よく分からなかった。

フローネスが、権力が欲しいと口にしたとき。

次の教皇にしてやると言ったのは、それだけ哀れだったからである。他の大司教達と、フローネスは根本的に違った。苦汁をなめ続け、聖主に抜擢された他の大司教達も、それなりに苦労はしてきていた。だが、フローネスの場合は、根本的な拒絶があり、エル教会の闇にしか生きる場所が無かった。

恐らく、後世でフローネスは醜怪な悪人として忌み嫌われるのだろう。

だが、邪悪な人格を作ったのは周囲の環境だ。フローネスの悲哀は、聖主には嫌と言うほど分かっていた。

だから、哀れみもわいた。

フローネスを一瞥した聖主は、一つだけ命じておこうと思った。此奴は、最後に残った意思で、聖主に殉じることを望んだのだ。

まだ、迷いがある。

それはやがて、決断を翻すことにつながった。

聖主は、フローネスに、むしろ生き残るチャンスをくれてやろうと考えた。

一つだけ、この状況で生き残る方法がある。

「フローネス」

「はイ」

「時間稼ぎは中止して、これから地下へ降りろ。 一番奥に行くと、硝子のシリンダーがある。 その前のカードリーダーに、これを差し込め」

渡したのは、聖主の生態情報を入れているカードである。

フローネスは、スペックだけを追求した結果、肥大した手でそれを受け取る。しばらくカードを見つめていたが、やがて無言で歩き出した。

まだ、魔王と勇者が来るまで、時間はある。

フローネスにとって、人生とは何だったのだろう。寄生型ナノマシンのネットワークを通じて、フローネスがどんな人生を送ってきたかは、聖主も把握している。

大きく床が揺れた。

起動したか。

後は、逃げることだけを考えれば。フローネスは、生きることが出来るだろう。今でも既に人間とはとても呼べない存在だ。これ以上異形になったところで、何があるだろうか。

しばらくして。

フローネスは逃げずに、聖主の前に来た。

聖主が開発していた、最終強化型融合不死者兵となって。

それは、もはや二足でさえ無い。

全長はおよそ八メートル。四足動物の、しかも猫科の動物に近いフォルムをしている。現在地上において、もっともバランスが取れたハンターである猫科の動物を模して開発したのだから当然だ。ただしそれはフォルムだけであって、全体的には筋肉がむき出しになっており、人間が材料になっているのだと一目で分かる。

全体に憎悪から抽出したエネルギーを込め、戯れに福音で計算した最大効率を出せる筋肉で構成している。そして、数百種類の魔術を自在に操るスペックを実現している。

最初開発したとき、聖主はこれに意識を移そうと思っていた。

だが、既にその気は無い。

此処で敗れるのも、また運命であろうと、今は思っているからだ。

フローネスの意識は、既にこの最終強化型融合不死者兵に入っている。正確には、起動した瞬間、目の前にいる存在を喰って、意識を移すように指示してあったのだ。つまり、元のフローネスの体は、この最終強化型融合不死者兵にひとのみにされたのである。

「素晴らしい体です、聖上」

「うむ。 その体は、私からの最後の贈り物だ。 最後の最後まで忠誠を尽くそうとしたことを評価して、そなたにくれてやろう」

「ありがたき幸せにございます」

フローネスが、ぺこりと頭を下げる。

心なしか、しゃべり方もしっかりしてきているようだ。

融合不死者兵の技術は、魔王が作り出した補充兵のものと近い。これは、魔王が丹精を込めて作り上げた軍団長級補充兵に匹敵するかそれ以上の力を持つ、聖主が自慢できる傑作だ。

もう、何も手札が無い聖主には。これが精一杯の贈り物だとも言えた。

「その肉体であれば、逃げることは可能だ。 そなたが今後の生き方を、好きに決めて良い」

「……」

しばらく、フローネスは黙り込んでいた。

振動。

発生源はかなり近い。

既に最終防衛ラインまで、敵は来ている様子だ。もうあまり時間は無いと言えた。

「やはり、最後まで貴方に殉じさせていただきたいです。 聖上」

「そうか」

「私の価値を認めてくれたのは、貴方だけだ。 歪んだ意識の中で、それでも私は見ていました。 貴方が私に対して、狂っていると知っていながら、価値を見いだしてくれていたことを」

行ってきますと言い残すと、フローネスは玉座の間から消えた。

多分、フローネスは勝てないだろう。

聖主は玉座で足を組み直す。

フローネスに、少しでも報いてやることが出来ただろうか。そう、わずかな後悔が残っていた。

 

教会内部での死闘は、熾烈を極めた。

無数の融合不死者兵が、戦力を出し惜しみせず襲いかかってくる。魔王とその護衛達が果敢に迎え撃つ。勿論イミナもシルンと一緒に、激しい戦いに身を投じた。

敵は意思もなく、何一つ考える事もなく、襲いかかってきているように、最初は見えた。だが、戦術的には的確な行動を取り、学習能力も高いことが、戦っていてすぐに分かってきた。

だから、手は抜けない。

確実に敵を倒しながら、奥へ。教会の中は死臭で満ち、一秒ごとにそれが濃くなっていく。

動いている死体を潰しているのだから当然だ。潰した死体は、元の肉塊に戻っていく。腐敗してはいないようだが、動かなくなれば、ただの死体だ。

イミナも、到達者になってみて、はっきり分かった。

聖主も、魔王も、結局は人間なのだ。だからこの地獄絵図は、人間が引き起こしたこと。種族を変えても、超越しても。

人間である以上、こういったことを引き起こす。それは罪業と言うよりも、もはや宿業と言うべきものなのかも知れなかった。

奥には聖主の気配。

既に到達者になっているイミナには、それが手に取るように分かった。

どれくらい、敵を倒して、部屋を通過して、奥へ進んだだろう。

ひときわ聖主の気配が濃くなった。そう感じた瞬間の事である。

扉をぶち破って、内側からそれが姿を見せる。

イミナの五倍くらいはありそうな、巨大な猫科の姿をした融合不死者兵。全身から、凄まじい闘気を放っている。

途上の敵も強敵だったが、更に格上の存在だと、一目でイミナには分かった。周囲は大乱戦の結果、シルンとレオン、それにプラムしかいない。護衛についてきてくれていたパラディアは、至近で二体の融合不死者兵と同時に渡り合っていて、援護する余裕が無い。

魔王はと言うと、六体を同時に相手中だ。

他の連中も、大なり小なり苦戦中である。此方に手を回す余裕は無い。

「ほう、勇者とその仲間共か」

「その声、聞き覚えがある。 フローネスか」

「左様」

フローネス。

聖主の側にいた存在。既に人間の形を保てておらず、無数の人体が折り重なったような無惨な肉塊の姿をしていた。

今は、巨大な猫科のような姿をしている。いったいこの存在に何があったのか。よく分からないが、あまり知らない方が良いことである事は確かそうだった。

というよりも、雰囲気が以前と全く違っている。

前は狡猾で、策略を持って立つ男という印象を受ける相手だった。今のフローネスは姿が違うと言う事もあるが、覚悟を決めて武を振るう、文字通りの武人のような印象を受ける。

まるで正反対に性格が変わったかのようだ。

「貴様、本当にフローネスか」

「嗚呼、雰囲気が違いすぎるから、疑っているのか。 あいにくだが私はフローネスだ、殆ど記憶は残していないがな」

まるで、フローネスとイミナの周囲が、周囲の大乱戦から切り取られたかのように、静かだった。

シルンが小声で話しかけてくる。

「お姉、どうするの」

「戦うしかあるまい」

魔王に戦わせるのが一番だが、今、それは避けたい。

まだ聖主との戦闘が残っている以上、魔王の力は温存しておきたいのだ。ただでさえ、魔王は若干ならず弱体化が見られるのだから。

「一つ聞きたい。 何故、世界平和を実現しようとした聖上を討とうとする」

「聖主が、それで満足して、後は平穏に生きようというのなら討たないだろう。 だが、お前の主である聖主は、目的のためには手段を選ばない輩だ」

「……それで、か」

「そうだ。 勝つために大陸ごと吹き飛ばそうと、一体何回した」

そんなことをする奴は信用できないとイミナが言うと、フローネスは無言で頷いた。

まさか、納得したのか。

そう思ったが、結果は違っていた。

「合理主義が過ぎるから、世界の支配者の座を渡してはおけない。 そういうことになるのだな」

「そうだ。 それも、歪んだ合理主義だな」

「なるほど、お前達の主張は分かった」

フローネスが、太い前足を舐める。

毛が生えていないが、食肉目の身体構造をベースにしていると一目で分かる。当然、単純な格闘戦闘能力は、同じ大きさ、重さなら、人間の形とは比較にならないはずだ。

「では、私の主張だ。 聖上は私を認めてくれた唯一の存在だ。 だから、害そうとする全てを排除する」

「待って! 聖主は明らかに間違ってる!」

冷静な会話をするイミナとフローネスに、シルンが割って入る。

それも良い。

「貴方が忠臣なのは分かる! 歪んでるけど、その忠義が本物だってのも認めるよ! だったら、聖主の間違いを正そうとしてよ!」

「それは出来ない」

「どうして! 主が好きだったら、主のためになる事を選択するのが、本物の忠臣じゃ無いの!?」

シルンの言葉には、きっとジャドの凄絶な行動が背景にある。

分かる。

全身を肉の塊と化し、もはや闇にしか生きられぬ存在になりながらも、なおもシルンとイミナのために、闇の中の闇に身を投じてくれたジャド。

シルンはずっと泣いていた。

その忠義の痛々しさにだ。だからこそ、思うのだろう。フローネスの、悲しすぎる忠義が、悲劇しか生まないと。

「私は、生きる意味が欲しかった」

フローネスは、静かに言う。

どうしてだろう。

欲望まみれで、場合によっては聖主を裏から操って、世界を好きにしようとさえしていたように見えたのに。

或いは、欲が消えたからだろうか。

「あらゆる迫害を受け、排斥された私には、のぞき見することだけが全てだった。 そんな私は、結局影からエル教会を支配することになったが、だからといって誰の心を支配できた訳でもなかった。 誰もが私を否定した。 そうだな、不思議と、そのことだけは今でも良く覚えているよ」

フローネスの全身に、さらなる闘気が高まっていく。

隣で、レオンが生唾を飲み込むのが分かった。

プラムが、二刀のオーバーサンを、低く構えている。構え自体は、殆ど直立と変わらない。

武器を自在に操るプラムが最終的に辿り着いた、一番良い構えがこれなのだろう。

「結局、人間がいる以上、世界は駄目なままだ。 ならば、せめて私を認めてくれる人間の下で、私は存在したい」

「考え直せ」

「無理だな。 私は記憶もなくし、欲も無くなった。 結果、私に残っているのは、あの方への忠義だけだ。 多分かっての私を見た者が、今の私を見れば驚くだろう事はよく分かる。 だが、もう引く気は無い」

フローネスが、低く伏せる。

それが、食肉目が狩りをするときの姿勢だと、イミナは知っていた。

瞬間。

場の空気が、戦闘状態に切り替わった。

跳躍。

残像さえ残したフローネスが、天井近くまで躍り上がったのだ。しかも、魔術でも使っているのか、空中を足場にして、ジグザグに走り降りてくる。

振り下ろされる爪。

狙うはシルン。瞬時に間合いを詰められたシルンには、魔術で防ぐ暇も無い。

割って入る。盾。はじき会う。

プラムが動く。はじかれて、一瞬動きが止まったフローネスの至近。オーバーサンを振り下ろす。振り下ろす早さは、まるで稲妻が閃いたかのようだった。

だが、それでも。フローネスには届かない。

残像を残し、プラムの後ろに回り込んでいる。

しかし、その更に後ろに、振りかぶったレオン。振り返りつつ、フローネスが圧壊メイスに対して、口を開けた。

レオンが吹っ飛び、壁にたたきつけられる。

空圧を放ったのか。一種のブレス能力だろうか。

シルンが詠唱開始。

イミナが、レオンを追撃しようとするフローネスとの間に入る。左手に楯をつけたまま、低い弾道から蹴りを叩き込む。残像を残して、フローネスが跳ぶ。

だが、イミナは、最初の攻防で。

フローネスの動きを、既に見切っていた。

残念ながら、到達者の力は尋常では無い。更に言えば、イミナと到達者の力は、極めて相性が良い。

フローネスが飛び上がった先に、同じように跳躍。

足場を作って逃れようとする鼻先に、拳を叩き込んだ。

空間が撓むような、瞬間の静止。

わずかに動きを止めたことが、命取りになる。空中に出現した見えない足場を、どうやって見切ったのか。

それを使って跳躍し登ってきたプラムが、フローネスを前後に一刀両断。

更に、シルンが放った無数の光の矢が、フローネスの全身を滅多打ちにした。悲鳴を上げながら、墜ちてくるフローネス。

立ち上がったレオンが、圧壊メイスを振り下ろす。

断末魔も無く、フローネスは死んだ。

ぺしゃんこに潰れた残骸を見ながら、イミナは着地する。

「お姉……」

「生きたいように生きた。 特に最後は、自分の思うままに生きられた。 それだけで、此奴は充分だっただろう。 迷惑を被ったのは我らだけで、それも気にはしていないのだから、何も問題は無い」

それ以外に、返す言葉は無い。

妹を促して、先に進む。

プラムが一瞬だけ振り返った。

「どうした」

「私も、あんな風に難しいことを考えていたら、気の毒な死に方をしてたのかな」

「お前に限っては大丈夫だろう。 それに考えなくても良い」

「うん。 レオンに考えて貰う」

そう言われると、レオンは複雑そうに眉をひそめた。

きっと、思うところがあったのだろう。

フローネスも、腐ったとは言え、エル教会の関係者だったのだ。最後にはこのように立派な武人になれたが、その代わり柔軟な生き方を全て失ってしまった。

レオンは剛直な生を歩んできたが、それが故にエル教会で生きる道を失い、人間では無い存在にされてしまった。

どちらも、幸せとは言いがたい。

それを言うなら、プラムも同じ。プラムに頼られるというのは、或いは好意を寄せられるのは。

レオンにとっては、とても悲しいことなのかも知れなかった。

「後で弔ってやりたいが、良いか」

「好きにしろ」

二体の敵を倒したパラディアが追いついてくる。

流石最新鋭の師団長。殆ど怪我はしていなかった。魔王はと言うと、次から次へ現れる増援を、まだ捌いている途中だ。

部下を守るために、必要以上に無理をしているのが見て取れる。

だが、此処はこのままで良い。

まず、聖主を倒す。それが一番の目的だ。

 

フローネスが敗れたのを、聖主は感じ取って、大きくため息をついてしまった。

今まで、大量の人間を使い捨てにしてきたのに、どうしてだろう。ガルフに裏切られたときより、ある意味ショックが大きかったかも知れない。前にフローネスを一度失ったとき、これほどの喪失感は無かった。

分析してみる。

フローネスは、あれで満足だったはずだ。

それ以上、聖主が言う事は、何も無かった。それなのに、どうしてだろう。妙な寂寥感が、続いていた。

これが、聖主が忘れてしまった、情とかいうものだろうか。

否、そんなはずは無い。フローネスが廃人同然になっても、何も感じなかったのだ。ならば、この感情は何だろう。

玉座から立ち上がったのは、地下からただならぬ気配がしたからである。

同時に、部屋に勇者と、その姉が飛び込んでくる。後二人にも見覚えがある。レオンとプラムか。

最後に入ってきたのは、補充兵らしい。触覚がある以外は、人間の子供と殆ど姿が変わらない。

「聖主……」

「来たか、と言いたいところだが。 余も分からない事態が起こっているな。 気配は感じているだろう」

「ああ。 地下から、何か来ているようだが」

「可能性は幾つか考えられるが……」

フローネスに体をくれてやったが、その関係かも知れない。

作成していた融合不死者兵は、ほとんど福音任せであった。聖主は細かいパラメーターなどを設定しておらず、当然作成の経緯も知らない。

今から検索することも出来るが、そんなことをしている暇は無い。

福音に、バグの類は無い。

だが、命じたことが問題だ。戯れに、最強の融合不死者兵を作れと、聖主は指示を出した。

それが、何かまずかったのか。

ずしんと、教会が丸ごと振動した。

天井から埃が降ってくる。聖主は目を細めると、手を振って自分に掛かりそうになった埃を焼き尽くした。

口元を押さえたのは、鬱陶しいからだ。

これから死ぬかも知れないのに、妙に余裕がある自分が面白い。

「呆れたな。 貴様にも、何が起きているか分からないのか」

「何事もトライアンドエラーだ。 お前達も、様々な失敗をしながら、スキルを上げてきたのだろう? 神に等しい私とて、それは同じ事だ」

「お姉、ちょっとまって」

不意に、勇者が姉の発言を遮る。

そして、真面目な顔をして、周囲を見回した。

「どういうこと。 これ、敵意じゃないの」

「何!?」

「おかしいよ。 もしも貴方が作ったものなら、どうして皆に等しく敵意を向けているのかが分からない。 それもこれ、十や二十じゃない。 百か、二百か、それよりももっと多い……」

聖主は、流石に押し黙った。

教会全体が揺れるほどの衝撃といい、もう何が起こっているのか、全く分からない状態だ。

額に指を当てて、福音にアクセス。

福音は主体的な意思を持たない。聖主の命令に反逆することはないし、嘘をつくことも無い。こうしろと命じたとおりに動く存在ではあっても、何かしらの目的を持って動く事はないのだ。

である以上、この事態は明らかに異常である。今は、隙を作ってでも、調べた方が良い。

無数の光が飛び交う、闇の空間。

それが、福音のコントロールイメージだ。

幾つかの光を操作して、最近のログを確認。そして、出た。膨大なデータを流し見していく。

聖主は、思わず呻いていた。

最強の定義。

福音が出した結論は、あまりにも危険すぎるものだったからだ。

あまりにも、福音は真面目に考えすぎたのである。その結果、とんでもない大惨事が起ころうとしている。

目を開けた聖主は、周囲を見回した。

「まずい。 人類が滅ぶ」

「何だと。 どういう意味だ」

「福音は、最強の存在を人間と定義した。 この人間は、魔物も含む、この世界を支配している種としての存在だ。 だから、最強に勝ちうるには、特化した存在しか無いと結論した」

人間は確かに種としてはこの世界最強の生物だが、弱点はいくらでもある。

魔王は、人間という生物を正面から滅ぼすために、補充兵を作った。だがそれは技術として魔物の延長戦であり、本当の意味で人間だけを滅ぼすためのものではない。

今、福音が作ったのは違う。

また、一つ揺れが来る。

「さっきのフローネスは」

「あれは先兵に過ぎない体であったようだ。 今度のは違う」

何しろ、福音が作り出したのは。

床を突き破って、何かが出てくる。

それは。

膨大な量の、生きた粘液。

粘菌と呼ばれる、自立活動を行う原始的な生物だ。しかも此奴は人間の細胞を好み、胞子をまき散らしてどこにでも出現し、なおかつ福音のサポートを得てあらゆる攻撃を短時間で防ぐ学習能力を持っている。

人間を直接喰うのでは無い。人間がいる場所には必ず侵入し、どこにでも毒をまき散らしていくことで、長期的に人間を殺していくのである。地下に逃げ込もうが無駄だ。福音のデータを見る限り、此奴の胞子は地中でも海中でも平然と泳ぎ回り、そこで発芽して成長する。

見かけは原始的な動物だが、別に人間を滅ぼすのに、それを上回る存在を出す必要など無いのである。

福音の結論は、ある意味で正しい。

聖主も気が緩んでいたのかも知れない。戯れとは言え、最強などと考え無しに命令したのは、事実なのだから。

「止める方法は」

「……」

「福音を使って、書き換えれば良いんじゃ無いの!?」

流石に、シルンも怒声を放つ。

だが、聖主にとっては、失敗こそが成功の元だ。これはむしろ、人間の数を効率よく管理するために、丁度良いものかも知れない。

この教会では大量培養された奴がまるで生き物のように動いているが、外に出てしまえば、人間にとってはちょっと気味が悪い動くカビ、くらいの存在に過ぎない。

つまり、人間にとっては。

魔王が使う三千殺しよりも更に強力な、管理手段になる。特定の相手を一日三千人殺す、などというぬるいやり方では無い。

逆らう人間が多くいる地域を、文字通り無人に出来るのだ。

しかも、人間が分からない内に、その脅威は全てをむしばんでいるのである。それはもはや、災害と言うよりも天罰に近いのでは無かろうか。

天罰を自在に操る。

それは、まさに神では無いか。

人間の自律的な進化が無理だという点で、恐らく魔王も聖主も考えが一致している。聖主は世界平和を実現し、ゆっくり人類を進化させていく方法を選択した。だが、まだ人間にはカスタマイズと、それに天罰の執行者が必要である。

福音を使えば、コントロールはどうにでもなる。

聖主は、思わず高笑いしてしまった。

何だ、偶然からだが、とてつもなく好都合な存在が生じたでは無いか。福音を使えば、まずこの対人間究極粛正生物、通称「天罰」を自在に操ることが可能だ。まず天罰を世界中に拡散させる。そして福音で管理しながら、毒を発する個体と、そうでは無い個体に別けるのである。

そうすれば、人間の管理を、今までに無いほどの高い効率で実現できる。

人間の好戦性を四割削り取っても、どうしてもくだらないことをするクズは存在する。そういうのを削除するのに、もってこいの道具だ。或いは福音は、聖主の深層心理を読んでこんなものを作ったのかも知れない。

否。

これは恐らく、偶然の産物。

つまり、運というオカルトが、此処で聖主に味方した。それは、聖主が文字通り、神の代行者である事を示しているでは無いか。

「私は、いや余は。 此処でお前達に討たれても良いと思っていた」

「一人称が……」

「新しい体に変えてから、人格に微妙なぶれがあったからだ。 それ以上に、余という存在が、成し遂げた虚無感にとらわれていたからだ。 だが、それも終わりだ。 この最終兵器天罰は、余が考える世界の秩序を確実に実現してくれるだろう」

「貴方は、一体どこまで思い上がっている!」

絶叫したのはレオンだ。

だが、だからなんだ。現実も知らぬ若造が、何をほざいたところでもはや痛痒は感じない。

それに、思い上がりでは無い。

聖主は、全てを成し遂げていたと思っていた。それなのに、更にその先に、さらなる完璧があったのだ。

これぞ、聖主が神である路を歩んでいる証拠では無いか。

「勝たせて貰うぞ」

福音の全能力を、聖主のバックアップに回す。

福音を私物化するも同然だから、前だったら絶対にやらなかった。だが、聖主は今、天罰の力を見て、それを活用することに決めた。ならば、どんな卑劣な手を使ってでも勝たなければならない。

既に、福音は意思無き神といっても良い存在である。その全てが、聖主の力を強化することに回されれば、どういうことになるか。

部屋に魔王が飛び込んできた。

何かと通信していたらしいが、どうでも良い。

ここで、邪魔なものを全て潰しておく。福音で人間の好戦性を削るなどと言うちまちましたやり方では駄目だ。

今後は人間の思考や特性などについても検閲を加え、必要に応じて削除していくくらいが丁度良い。

それこそが、聖主が得た力で出来ること。

そして、するべき事だ。

背中に、魔力で出来た翼が六対出現する。辺りをまばゆい光が包んでいく。

相手は到達者三人に加え、この世界でも屈指の使い手ばかり。

だが、それでも。

今の聖主なら、負けるわけが無い。

そして、神というオカルトの極みである存在が聖主を選んだ以上、負けるわけにはいかないのだ。

 

教会から、禍々しい光が立ち上る。

思わず首を伸ばして、ヨーツレットはそちらを見た。感じる力が大きすぎる。聖主は弱体化したはずなのに、これはどういうことか。

魔王が交戦中という、「何か大きなもの」が関係しているのだろうか。

「ミズガルア軍団長、解析を」

「ええと、とんでもなく強力な魔力ですー。 ちょっとこれは、退避しないと危ないかも知れないですねー」

「ひいっ!」

悲鳴を上げたのは、人間の魔術師達だ。

だが、彼らに対して、ユキナが即座に叱責する。

「うろたえるな! 勇者が戦うのは、臆病者の為では無い! 選ばれてここに来ている者が、臆病風に吹かれて見ろ! 魔物達でさえ逃げようとしていないのに、人間が誇りを真っ先にかなぐり捨てる気か!」

「ほう……」

立派な指導者だ。

ユキナのような奴ばかりが王になっていれば、人間はこうも残虐で暴虐な生物では無かったのかも知れない。

だが、人間は世襲を尊び、外見を重視する生物だ。残念ながら、聖主による洗脳は正しかったと言うほか無い。

「戦えそうな者はいるか」

「貴方は駄目です」

「分かっている。 レイレリア軍団長、バラムンク軍団長、行けそうか」

「どうにかいけそうですが、包囲が薄くなりますよ」

その場合は、ヨーツレットが命に代えても敵を食い止めればいい。

アリアンロッドが挙手する。サンワームも、戦線に加わってくれると言った。レイレリアはしばらく不安そうにゆっくり回転していたが、周りを見回す。

「人間達、貴方たちも手伝ってくれない?」

「ちょ、冗談じゃ無い!」

情けない声を上げたのは、多分キタン出身の呪術者だ。

キタンの騎馬隊が展開している防御術式は分厚くて、いつも大変に苦労させられた。ヨーツレットはもっと勇敢な奴らが術を展開していると思っていたのだが。思っていたよりも、遙かに貧弱な奴らであったらしい。

レイレリアが激高するかと思ったが、先に手を出したのは、ユキナだった。

「栄えあるアニーアルスの騎士達、それに魔術師達。 私が指揮を執る。 出向けるか」

「陛下の側にいられるのなら、我らは地獄にでも!」

まだ若い騎士が高らかに宣言。

そうすると、周囲の騎士達が、一斉に勝ちどきを上げた。

眼鏡を直しながら、歩み出る。

エンドレン出身の魔術師だ。確か名前は、レンメルとか言ったか。魔術師としては素人だが、生体魔力が非常に強く、様々な要因からエンドレンで顔役もしていたらしい。

「決戦の手が足りないというのなら。 私も参加します」

「他には! 勇敢なる遊牧の民、恥をさらして終わる気か?」

ユキナが言うと、流石に恥じたか。

キタン出身の術者も、何名かが挙手した。

それに、グラント帝国や、他の強国の術者も、何名か挙手する。

元々今回集まったのは、ユキナが呼びかけたとは言え、世界のことを考えている者達ばかりだ。

あの凄まじい魔力の光を見て怯えたとは言え、それは一時の迷い。

しっかり統率できる者がいれば、こうして力を発揮できる。

人間には、今も不信感しか無い。だが、こうやって動いているところは、魔物にも通じるところがあるなと、ヨーツレットは思った。

「包囲網は此方で指揮を執る。 突入部隊の指揮を頼めるか」

「任せろ、魔物の元帥。 総員、我に続け! 教会内部の敵を駆逐し、勇者殿の勝利を更に確実なものとするぞ!」

「おおっ!」

ユキナの指揮に、周囲の人間達が気勢を上げた。

レイレリアが若干冷めた感触で言う。

「あーあー。 何であれくらい出来る奴を王様にしないんだろうね。 そうすれば、戦争しなくても済んだのかも知れないのに」

「人間の最大の欠点は、種族として全く進歩が見られないことですからね。 技術力ばかりが進歩しても、肝心の中身は猿のままです」

バラムンクがレイレリアを促して、人間達の後に続いて教会へ突入を開始する。

アリアンロッドが咳払いした。

「マリア様はどうなさいますか」

「様、なんて付けて呼ばないでください」

「それが嫌ならば、自主的に行動を」

「分かりました。 回復の術式は任せてください。 私の周囲を防御術式で固めて、けが人を運び込むように。 そうすれば、どうにかして見せます」

マリアの魔力は常識外の域にまで到達しているが、回復に特化させれば、それは効率よくだれもを助けることが出来るだろう。

さて、後は。

敵が包囲を抜けたときの対応について、だ。

「ミズガルア軍団長、儀式魔術の準備を」

「最悪の場合に備えて、ですね」

「そうだ」

最悪の場合。

教会ごと、全てを消し去るしか無いだろう。ヨーツレットと、ミズガルアの魔力を全てつぎ込めば、多分出来る。

だが、それは文字通りの最終手段だ。

今は、ただ準備だけをしておく。勿論そんなことをすれば、ヨーツレットもミズガルアも死ぬ。

本土に残っているカルローネの負担が大きくなるが。

それは、我慢して貰うしか無いだろう。

突入部隊が、教会に我先に入り込んでいく。凄まじい死闘が内部で行われたためか、大きな廃墟は既に罅だらけだ。

少なくとも、今日。

全ての決着はつく。そう思うと、ヨーツレットも、多少は感慨が深かった。

 

魔王が放った炎で、地面からしみ出してくる粘菌を片っ端から焼き尽くす。だが、元々水分が極めて多い上に、質量が大きい。

聖主は、腕組みしたまま、中空で魔王の行動を見つめていた。

「それで何とかなると思っているのか」

「どうも、何とかなりそうもないのう」

「ならば何故」

聖主の右。

跳躍したイミナが、全力での拳を叩き込む。聖主がシールドを張るのと、天井を蹴ったプラムが自動落下しながら斬りかかるのは同時。

レオンがメイスを跳ね上げる勢いを利用して、プラムは跳んだのだ。

聖主は、イミナの一撃を術式のシールドで防ぎつつ、するりと空中を滑るようにしてプラムの一撃をかわした。

既に教会の内壁は、下からの突き上げでかなり酷い状態になってきている。このまま内部で激しい戦闘が行われると、倒壊の危険性もあった。

だが、それでも。

手を抜ける相手ではない。

「ふむ、埒があかぬのう」

「ならば手数を増やせばどうか」

周囲を、紅蓮の炎が包む。

焼き払われた粘菌が、もがきながら炭になっていく。振り返った魔王に、歩み寄っていくのは、ユキナだった。

ユキナが見上げる。

視線が、聖主と絡み合った。

「聖主。 貴様だけは許すわけにはいかん」

「どうしてだ」

「キタルレアの民として、貴様の勝手な判断で滅ぼされそうになった事、許せると思うてか。 同じ意味で、魔王よ、貴様も許しはしない」

「ふむ、中々に弁が立つようだが」

聖主が手を振る。

巨大な触手が、教会の床を割って数本姿を見せる。

恐らくアレが、天罰の姿。しかも、福音で最大限強化されている。此処まで大胆な動きが出来るとは。

「だがそもそも、余はもはやさばきを下される存在に非ず。 余は無制限のさばきを下すべき存在となった」

「これが聖主か。 何が聖人か。 聞いて呆れるな」

ユキナが、此方は任せろというと、騎士達の後ろに下がる。

なだれ込んできた魔術師達が、一斉に術式を放ち、触手を焼きに掛かりはじめた。勿論反撃を受け、吹き飛ばされる者も出る。だが、戦意は高い。騎士達もユキナを体を張って守りながら、確実に触手を仕留めていく。

それに、魔王を守っていた師団長達が加わる。

手数が、拮抗してきた。

次から次へ、床から這い出してくる触手を、数に任せて人間の魔術師達が焼き払う。中には異大陸から援護として来てくれている者達もいる様子だ。それだけの事をしてくれているのに、黙ってみていられるだろうか。

聖主が何か詠唱しようとした瞬間、シルンが術式を発動。鼻先に火球を叩き込んだ。払いのけた聖主だが、今度は後ろに回り込んでいたパラディアが後頭部に蹴りを叩き込む。蹴りは寸前で届かない。空中で見えない力場に捕まったパラディアは、振り回されて壁にたたきつけられる。

だが、一瞬早く割って入ったレオンが、壁にたたきつけられる寸前に、パラディアを抱き留めた。

「大きな術を使う。 時を稼いで貰えるかのう」

「即席のコンビネーションで、どこまでやれるかな」

魔王が炎の術式を一旦止め、詠唱に入る。

聖主は、どうもさっきから肉弾での戦闘を避けているように、イミナには思えた。遠距離を確実に保ちつつ、着実な勝利を狙っているように見えた。

これは、或いは。

聖主は、戦闘に自信が無いのかも知れない。

もしそうだとすると、なるほど、さっきまでの言動にも納得がいく。恐らく聖主は、戦闘で自信が無いこともあって、あのようなあきらめを口にしていたのだろう。

だが、聖主には、彼も想像もつかない幸運(あくまで彼にとって、だが)が舞い降りた。それが、野心を再び刺激してしまったのだろう。

人間の闘争心を削り取って、平和な世界を作る。

それだけで満足しておけばよかったものを。

結局、聖主の討伐は正しかったことになる。この男は、放置しておくにはあまりにも危険すぎたのだ。

「聖主、貴方に一言だけ言っておく」

「何か」

「貴方は結局、到達者になっても人間だったのだな」

聖主の顔が、見る間に真っ赤になった。

聖主は、自分を福音から例外としていた。その時点で、この男に福音を扱う資格は無かった、のだとも言える。

恐らく福音は、現在の人間には早すぎるものだった。

聖主が行った最初の一手だけは、間違いなく正しかった。しかし、この男は結局、最終的には絶対に暴走しただろう。

「魔王の詠唱は、もう少しかかる。 だが当てにせず、速攻で決める」

「分かってる。 あんな人に、これ以上もう好き勝手はさせない」

こんな戦いで死んだら、それこそ犬死にだ。

特にユキナは、キタルレアに絶対に必要な存在だ。どちらかと言えば冷徹なリアリストであるイミナでさえそう思う。

聖主が、両手のひらの上に、巨大な火球を作り出す。

それを、魔王にたたきつけてきた瞬間、イミナは叫んだ。

「GO!」

まず、プラムが仕掛ける。

火球を真っ二つに切り裂き、更にオーバーサンを投擲した。流石にこれには聖主も驚いたか、オーバーサンを中途で迎撃し、爆破する。

だが。

煙を斬り破ったプラムは、両手にオーバーサンを持っていた。

さっき、プラムが拾ったのである。乱戦の中で魔王を守り、倒れた師団長の手から。

両の腕から、左右から、振り下ろされる光の刃。

聖主は空中での機動を可能としている。だが、その動きを明らかに超える速度での、まさに神域の一閃。

究極までに高められた剣術技能から繰り出された二閃は、確かに聖主の体に食い込んだ。

だが。

聖主の体がかき消え、天井近くに出現する。

そう来ると思っていた。

テレポートは、基本的に座標が分からないと出来ない。だから、とっさで行うにはこの部屋の中でするしかない。

或いは、事前にテレポートを行える場所を指定しておくとか、そういったことをしておかなければならない。

だが、聖主にそんな暇は無かったはずだ。

だから、事前に動きを、完璧に読むことが出来ていた。

既に、其処には圧壊メイスを振りかぶったレオンがいた。テレポート完了した聖主に、直撃。

メイスが撓む。

おごり高ぶった翼が、ひしゃげて引きちぎれた。

聖主が体勢を崩す。

其処に、パラディア。壁を蹴って肉薄したパラディアが振るったオーバーサンが、ついに聖主に届く。

翼を、まとめて切り落とした。

両手を左右に広げた聖主が、レオンとパラディアを同時に吹き飛ばす。壁にたたきつけられた二人。

だが。

この時既に、仕込みは終わっていた。

聖主の真後ろに回り込んでいたイミナが、シールドを全開にする。

そして、真上に全力での砲撃を叩き込む準備を整え終えたシルンが、術式を解放する、最後の一節を口にした。

「打ち砕け!」

「……」

凄絶な笑みを、聖主が浮かべる。

そして、シルンの全力砲撃を、片手ではじき返した。

壁を貫いて、遙か向こうへ飛んでいく光の槍。遠くの空が、凄まじい爆発に、瞬間的に漂白された。

これで終わりか。

一瞬、イミナもひやりとした。

だが、とっさにシールドバッシュを仕掛け、聖主を地面に叩き落とす。あの翼は恐らく魔力を増幅するためのものである。好機であることに変わりは無いのだ。

聖主も、バランスを崩して、落下する。

壁にたたきつけられたレオンとパラディアが、ゆっくり墜ちていくのが見えた。

プラムが壁に手を突き、もう一度斬りかかろうと、振り返る。

本当に、何もかもがゆっくり流れていくような、その瞬間。

床から無数に飛び出してきた触手の内一本が、聖主の視界を遮る。

意図的なものではない。

おそらくは、只の偶然。

皮肉すぎる事に。

それが、決定打になった。

 

聖主が、真正面から飛んできた、特大の火球に飲み込まれる。

魔王が放ったのでは無い。

混戦の中、軍団長の一人、レイレリアが放ったものだった。

体に纏わり付く炎を、振り払おうとする聖主。炎そのものは、レイレリア自身も当たるとは思っていなかったから、渾身の術式では無く、致命打にはならなかった。

流れ弾である。完全な。

だが、それでも。聖主には、流れ弾が当たったという事が、大きな意味を持っていた。

ばかな。

何故、此処で運に見放される。

今まで戦いに肝心なところで勝てなかったのは、世界の全てを取り仕切る神が存在するとすれば、それに愛されなかったからだと、今の聖主は本気で信じていた。だからこそに、これは神からの死刑宣告に等しかった。

ゆっくり墜ちていくその体に、無数の矢が突き刺さった。

ユキナが、指示をした結果。ユキナ自身も、弓をつがえ、矢を放った一人だった。流石にアニーアルスの騎士達。射撃は正確無比で、一発も外れる事はなかった。

矢襖になった聖主が、それでも、全身の力をフルに発揮して、矢を瞬時に焼き尽くす。その時、魔王の詠唱が、完了した。

まばゆい光が、聖主の視界を覆い尽くしていく。

そういえば、魔王に敗れるのは、初めてでは無かった。

調整したこの体でも。

そして福音のバックアップを得ていても。敗れた。

或いは、これこそが、神の意志なのかも知れない。

迫り来る光を見て、聖主は抵抗するのを止めた。

神がいるとしたら。

恐らく、もう自分の死しか、望んでいないのだと、思ったのだから。

 

教会の壁を、再度光の柱が貫いた。

斜め下から聖主を砲撃した魔王の全力での一撃が、空へ聖主を跳ね上げる。

その体は瞬時に蒸発した。

聖主は、抵抗しなかった。

着地したイミナは、即座に床に手を突く。福音とやらの暴走を、どうにか止めなければならない。

最低でも、この怪物を外に出してはならない。

どうやって、福音とやらにアクセスする。

魔王が、歩み寄ってきた。

空を見上げた魔王は、大きくため息をついた。

「聖主はな、避けなかったよ」

「どういうことだ」

「恐らく、運が味方しなかったからじゃろうな。 最後に、自分が神では無いと、気づけたのじゃろうて」

「……」

聖主の発想は、最後まで常人離れしていた、という事か。

しかし、体を蒸発させたくらいで、あの聖主が死ぬのだろうかという疑念はある。或いは、わざと体を蒸発させた可能性さえあるほどだ。

だが、今はそれよりもだ。

「福音にアクセスしないと、この化け物は止められまい。 聖主は天罰とか名付けていたが、このままだと、世界全てが「天罰」とやらに滅ぼされることになりかねない」

「あまり長くは保たないぞ」

ユキナが叫ぶ。

事実、魔術師達も、次々に沸いて出てくる天罰の触手を焼き払うのが精一杯だ。まだ毒素は出していないようだが、それも今は、の話だろう。

師団長の一人が、情報通信球を魔王に恭しく捧げてきた。イミナものぞき込むと、映り込んでいたのは巨大なムカデ。ヨーツレット元帥であった。

「ヨーツレット元帥か、どうしたのじゃな」

「陛下、戦勝おめでとうございます、という状態では無さそうですね」

「うむ。 残念ながらな」

「やはり、その巨大な存在は、福音の手によるものですか」

外側でも、ユキナを突入させる際に、その存在は察知していたのだという。

そして、ヨーツレット元帥は、更に絶望的な言葉を口にする。

「急いで対処しなければ危険です。 既にその教会の地下全てが、その怪物に覆い尽くされているようですので」

「なんと。 それは厄介じゃのう」

「福音を止める手は。 アクセスできれば、私が何とかしてみせるが」

「今調べている」

イミナも、流石に焦りが噴出してくるのを感じた。

この教会の地下全てが天罰になっているとすると、そのサイズはベヒモスの比では無い。しかも今後、更に際限なく巨大化していくだろう。

その上、此奴は聖主の説明を聞く限り、一種の植物のようなものだ。世界中に己の分身をまき散らし、そして最悪の場合、毒素でゆっくり全ての人間と魔物をむしばんでいく事だろう。

もしそうなったら。

もはや、なすすべが無い。

床が激しく突き上げられ、悲鳴を上げて人間の魔術師が天井近くまで放り上げられる。それを、レオンが受け止めて、着地した。

「イミナ殿、シルン殿、急いでくれ」

「ふむ、そうした方が良さそうか」

「あの」

挙手する手。

マリアである。

 

まばゆい光が消えたと思ったら、意識だけが闇の中にあった。

そうか、これが福音の中か。

聖主は、自分が福音の中に、意識だけを転送されたのだと悟る。というよりも、最初からそうしようと決めて、設定していたのだから当然だ。

魔王に負けても良いかと思ったとき。

聖主はその後、福音そのものとなり、世界を見守ろうと考えていた。

天罰の圧倒的な利便性に神を見いだして、結局戦う路を選んでしまったが。しかし、これで良いのかも知れない。

もしも天罰を勇者と魔王が打倒したのなら。

もう、素直に負けを認めよう。

それでよい。

長く遠回りをしてしまったが、やっと自分が神の代行者では無い事に、聖主は気付くことが出来た。

もしも世界に神がいるとしても。

それは冷酷非情で、人間などには見向きもしない。それは、何処かで分かっていたのに、どうしても認めがたいことだった。

世界平和だけは、維持したい。

それで良いでは無いか。聖主は、溶けゆく意識の中で、そう思った。

 

マリアが提案する。

「勇者さん、聖主を見つけたときと、同じ手を使えませんか」

「つまり、馬鹿馬鹿しいほどの規模で魔法陣を書いて、超大規模な儀式魔術を使うって言う事?」

「そうです」

「今はその時間が無い」

ユキナが自らも剣を抜いて、床を突き破って伸びてきた触手に切りつけながら言う。そろそろ、触手を押さえ込むのも、限界が近そうだ。

かといって、逃げている暇など無い。

一度守勢に転じたら、その瞬間にここにいる魔術師達を含め、殆どの者は瞬時に倒されてしまうだろう。

「いえ、ここにいる到達者三名だけで、です。 魔法陣も使わなくて大丈夫です」

「何!? どういうことだ」

「私自身を魔法陣としてください。 私の中には二つの心があります。 六芒星の概念は、二つ重なる三角形。 これを応用できませんか」

それはかなり難しいように思えるのだが。

シルンが考え込む。

イミナも、術式の概念について、検索。到達者になった今は、世界中に広がる寄生ナノマシンのネットワークに接続できるから、出来る。

魔王も、同じ事をしている様子だった。

壁の一部が崩落。

プラムが、魔術師の一人に墜ちかかろうとしていた瓦礫を、オーバーサンで一刀両断にする。

「急いで!」

「そうせかすでない。 ふむ……可能と言えば可能か。 だがアニアよ、かなりの負担が掛かるが、耐えられるか」

「おじいちゃん、お願い。 もう戦いを止めるって約束して。 出来るなら、何とか頑張ってみる」

マリアの口から、幼い子供のような声が出た。

今言っていた、二つの心の、もう片方という奴だろう。魔王はしばらく考え込んでいたが、大きくため息をつく。

「儂はよい。 そなたは恨んでいないのか」

「怖かったし、悲しかったし、とても痛かったけど。 あの人達が、人間の代表でもないし、全部でも無いって分かっていたから。 だっておじいちゃんみたいな人だって、いたんだから」

「ならば、いい。 儂は人間を許すことは無いが、そなたがそう言うのであれば」

あまりにも、それは高くついた代償。

人類は己の欲望のままに一人の子供を蹂躙したことにより、大陸一つと半分を失陥し、億を超える同胞を失った。

だが、それもこれで終わる。

歴史は、今、変わる。

 

3、終わりの時

 

南の大陸の片隅で、全てが終わる戦いが始まった。

それは全てが始まる戦いでもあった。

長らく続いた戦いの経緯を、後に語った者はあまりいない。その場にいたユキナでさえ、周囲にはあまりその具体的内容については触れなかったという。

或いはその場にいた人間には、理解できないほど複雑であったからかも知れないが。だが、それでは説明がつかないことも多い。

後の世で、この戦い。通称、「神魔最終戦」について、歴史的な事実では無いと言う説が発表されたこともある。

だが、この前後から人類が著しく非好戦的になったのは歴史的な事実であり、それに福音が絡んでいて、聖主と魔王の戦いに大きな関係があることは、否定派の学者達でさえ認めている事である。

事実は、どうであったのか。

聖主は、最後まで野心家だったという説もある。

聖主を討つために集まった者達は、世界の覇権を握ろうとしていたのでは無いかという説も存在した。

しかし、全てを知る者達は。

最後まで、その戦いについて、語ろうとはしなかった。人間の好奇心が、無数の説を生み出して、やがて後世ではこの戦いに関する学説だけで本棚の一角を埋められるほどに、研究資料が作られた。

歴史上、最大の意味を持つ戦いと言う学者まで実在した。

しかし、当事者達は、沈黙を守り続けた。

 

教会の中に、淡い緑の光が充満していく。

床に出現した、二つ重なった三角形。そう。六芒星だ。

その中心にはマリアがいて、三方向から囲むようにして、シルンと、イミナと、魔王が対角線に立っていた。

既に、術式は動き始めている。

福音へのアクセスを行うための方法を、検索する為の術式。

更に此処に、追い風が吹く。

「ほう……」

「魔王?」

「ヨーツレット元帥が知らせてきた。 福音の端末が地下にあるようじゃ。 少なくとも物理的な座標は、其処に設定して問題無さそうじゃのう」

ユキナが声を掛けて、六芒星の周りに術者達を集める。レイレリアやバラムンクも、既にユキナの指揮能力を見て感心していたらしく、何らためらうこと無く、円陣の作成に協力した。

もはや、触手の群れは、処理不可能な数になりつつあった。

これが胞子を撒きはじめたら、世界は文字通り終わる。聖主が消えた今、どんな風に動くか、知れたものでは無いからだ。

術式の準備が整う。

これだけ激烈な反応が出ているのだ。福音の本体がどこにあるかは分からないが、確実なことが一つ。

必ず、アクセスする方法はある。

問題はその具体的なやり方が、分からないという事だ。

マリアを中心として広がる緑の光。殺傷力も防御力もない。だが、それは地面も壁も無視して、辺り全てにしみこんでいく。

ほどなく、魔王が目を開く。

シルンもそれに続く。

イミナも分かった。

「少し、時間を稼げるか」

「任せよ」

ユキナが、周囲を叱咤する。

既に触手の群れは、教会を覆い尽くさんばかりになっていた。

「行ってこい」

シルンに声を掛ける。

これで、全て予定通りだ。イミナにとっても都合が良い世界が、これで到来することになる。

シルンが崩れ落ちるのを、レオンが支える。

意識を、福音の中に飛ばしたのだ。プラムが近い触手をオーバーサンで焼き切りながら、視線をそちらから背けているのが見えた。

 

福音。

無数の偉人の死体を再生させることで作り出した、擬似的な世界の観察システム。それは意思を持たない神と言っても良い存在だ。

聖主がそれをどう操作していたのか。

一度、ガルフの手でアクセスをした事はあった。だがあのときは、ガルフ自身が操作を行い、シルンは手を下したわけでは無かった。その後ガルフは聖主によって姿が見えなくなり、福音へのアクセス方法は分からなくなっていた。

聞くべきだったのだが。

ガルフは教えてくれなかった。或いは、回数制限があるアクセス方法だったのかも知れない。

そして、今。

儀式魔術により、どうにかアクセスは成功した。

闇の中、無数の光が浮かんでいるような空間に、シルンの意識は来ていた。肉体は福音に入る事が出来ない。意識だけを、福音に送り込むことになる。

見ていくと、何となく、操作方法は分かってきた。

そして、吐き気を催すほど、下劣な内容だと言うことも。

「此処まで来たか」

声。

顔を上げると、聖主だ。

あの妖艶な女性の姿である。どうやら聖主は、こっちの姿の方が気に入っているらしい。或いは、死んだときの姿で、意識が固定されるのかも知れないが。

「聖主!」

「戦う気は無い。 もう余は負けたのだ。 結局余は、神に見放されていたらしい」

「違うよ。 貴方は、ただ人間だった。 それだけ」

「まあ、それでも構わん。 とにかく、もう余に争う気は無い」

此方に来るが良いと、聖主の意識は言う。

恐らく、聖主が言っていることは本当だ。この男は、その気になればまだ肉体を再生できる。

だが、それをやろうとしないのは。今回の戦いの負けを素直に認めて、戦いが終わったことを喜んでいるからでは無いのか。

「天罰を止める気か」

「そうです」

「ならば、此処にアクセスして、天罰のシステムを組み替えよ」

福音は、意識の海を擬似的に作り出し、それを複合させることによって、神を擬似的に作り出している。

つまり、神の構成因子は人間の意識だと言う事だ。

そして、この福音の非人道性は、其処にあるとも言えた。

「これは」

「粘菌研究の第一人者。 それに毒物生成に人生を注いだ何人かの意識を接続している」

「貴方という人は」

「福音が勝手に判断して決めたことだ。 福音に意識は無いが、プログラムを自動で生成することは出来る。 そうして作り上げられたのが、これだ。 止めるには、この意識を操作して、それを直接結果として天罰に送り込むほか無い」

聖主は、手を貸す気は無いようだった。

シルンはためらわず、意識にアクセスする。

見えてくる。その人達が送ってきた人生が。情熱を注ぎ、己の命を燃やし尽くして得た成果。

研究のために人生を全て捨て、作り出した成果に歓喜する姿。

だが、国に研究成果を全て奪われ、死に至った。

それだけでは無く闇に葬られ、存在そのものを否定された。どれだけの無念が其処にはあっただろう。

毒物を作ると言う事が、必ずしも悪では無い。

この人達は、医療品として活用できる薬物として、毒を結果として作った。後の戦争で大々的に悪用されたが、この人達の責任では無い。

何より、人の人生をのぞき見するようなこの行動。悪趣味以外の何だというのか。

こういった無数の人生模様が折り重なって、福音は作り上げられている。いわば、人間の歴史そのものだ。

話しかける。

相手に意思はない。どうすれば良いかと、聞き返してくる。

「毒を中和する方法を。 それに、この粘菌を止めるにはどうすれば良いの」

方法が即座に帰ってくる。

だが。胸が痛い。毒物を作り上げた男は、逆らえないのだと知った上で、シルンに悲しみをぶつけてきた。

「私の研究を、貴方も否定するのか」

「貴方の研究を否定するわけじゃありません。 研究の成果が、地獄を作り出さないようにするだけです」

「……私の人生は、一体何だったのか」

全てを費やして作り出したものを否定された時、人はこんな顔をするのだ。

何となく、シルンはそれを、知っているような気がした。

作業を進めながら、気付く。

そうだ。魔王が、丁度こんな雰囲気だった。いつもにこにこ周囲には笑顔を向けているようだが、鬱屈した闇は、こんな悲しみを湛えていたのでは無かったのか。

人間は、業が深すぎる。

何より、一番の業は。

こういった悲劇を山と積み上げておきながら、今まで全く反省しなかった。そのことなのではないだろうか。

涙をぬぐうと、シルンは作業を終えた。

これで、天罰の成長も、毒物の生成も止まる。いきなり福音が消えて無くなるわけでは無いが。

「天罰を止めたか」

「いきなりあの巨大な粘菌の塊が消えるわけではありませんけど」

「何、そうするのなら、好きにすれば良い」

シルンは、聞いてみたかった。

聖主は、どんなことを思って、動いていたのか。

だが、それは人の心に踏み込むことになる。人の心を土足で踏みにじることがどれだけ罪深いか、今シルンは思い知った。

である以上。

少なくとも、自分は同じ轍を踏まない。そう、シルンは決めた。

「貴方はこれからどうするんですか」

「福音とともにあるつもりだ。 余は人間である事を思い知ってしまった。 それならば神の代行者たる存在に相応しくなるまで、一人で修行を続けるのが良いだろう。 この空間は、それにうってつけだ」

「自分を再生する気は無いと」

「ああ。 ただし、もしも人間がまた愚かな行動に出ようとしたとき。 余は蘇り、人間に鉄槌を下す、かも知れぬな」

さらばだと言い残し、聖主の意識はシルンの前から消える。

シルンは、これ以上福音には手を加えるべきでは無いと思った。これはまだ、人という生物が触れるには早すぎる代物だ。今は眠らせて、そしていずれ人間が種として充分な存在にまで成熟したとき、その前に姿を見せるべきである。

聖主でさえ、触れるには早すぎたのだ。

ならば、今の人類が触れて良いものではない。

意識を集中して、帰ることにする。

この世界は、これから平和に向かうだろう。だが、それには、大きな犠牲が伴ったことを忘れてはならない。

忘れては、ならないのだ。

もうシルンも、人間では無くなっている。寿命は五十年とか六十年とか短いものではなく、何千年にも達するだろう。

だから、この戦いを風化させないようにしていく。

それが、今後のシルンの義務だ。

元の空間に復帰。レオンに抱き留められたのだと気付いて、仲間が支えてくれていたのだなと、シルンは思った。

 

「提案がある」

まだ動いている触手を焼き払っている魔物達を尻目に、イミナが言う。魔王は、多分何を言おうとしているのか、既に理解していたのだろう。

「儂に引退しろというのじゃな」

「ああ。 そもそも貴方は政治家にも軍人にも向いていない。 カリスマとしては悪くなかったが、それも魔物達を地獄から救い出したという実績があったからだ」

「無礼なっ!」

師団長の一人が激高しかけるが、当の魔王がそれを遮った。

イミナは、更に言葉を続ける。

「自分でもそれに、気付いているのでは無いのか」

「ああ、それは当然、ずっと前からのう。 儂が魔王どころか、小さな街の顔役も務まらん事は知っておったよ。 ヨーツレット元帥が軍を、他の皆が政治を、皆で見てくれていたから魔王軍は成り立っていたが。 それも軍としての組織に過ぎなかったからの」

「これから国家として貴方の組織が変化して行くには、貴方では不足だと知っているのだな」

「だが、良い後継者がいない」

マリアには、正確にはその中にいるアニアには、後継者になって欲しくないと、魔王は言う。

政治の路は闇の路でもある。全てを合理主義で片付けなければならず、時によって肉親だって切り捨てなければならない。

魔物は人間よりずっとマシだが、それでもどうしようもない決断をしなければならなくなる事は出てくるだろう。

そんなとき、マリアの中にいるアニアが傷つくと思うと、苦しくてならないのだ。

「ならば私がなろう」

「何?」

「聖主の後継として、シルンを据える。 到達者だし問題あるまい。 そしてシルンの双子である私が魔王になれば、事実上世界から戦争は消える。 悪い話ではあるまい」

流石にぎょっとした様子のユキナが何か言いかける。

魔王は、視界の隅でまだ動いていた触手を焼き尽くしながら応える。

「面白い提案じゃが……」

「前から考えていた。 人間はその科学文明に対して、寿命が短すぎる。 親の意思や信念が確実に引き継がれるわけでも無ければ、種として成長しているわけでは無い。 ならば、それらをクリアしている到達者が両陣営の長に納まり、なおかつ刎頸の仲であれば、何も問題は起こるまい」

そして、これにはもう一つ狙いがある。

到達者となった存在に対抗できる人間はいない。聖主が出てくるまで、魔王は押され気味だったが、それは彼が所詮カリスマであっても、長としての力量を備えているとは言いがたかったからだ。

頭が切れるわけでも無い。武力については申し分ないし、研究者としては充分に素晴らしいが、それでも大組織の首領としてはかなり頼りない。

逆に、イミナが魔王になり、容赦のない手腕で人間に対する政策を打ち出した場合。

人間共は、シルンに頼るほか無くなる。

つまり、シルンの身は保証されるのだ。

レオンは、田舎で慎ましく暮らすなら問題ないように取りはからうと言っていた。だが、世界を救ったも同然のシルンが、何故周囲に怯えて生きなければならない。

人間などに、そのようなことをする資格など無い。

だいたい閉鎖的空間の田舎では、年を取らないシルンは、何年かおきに住処を移さなければならなくなるだろう。まるで鼠が人間の目を恐れて、物陰を行き交うように、だ。何故、人間を救ったシルンが、其処までしなければならないのだ。

許しがたい矛盾である。

シルンは堂々と生きれば良いのである。むしろ人間共は、シルンに感謝してひれ伏すべきだ。

それが出来ないのなら、イミナがさせる。

「ふむ……分かった。 確かに悪くない話じゃ。 外でヨーツレット元帥と相談してみるとしよう」

「陛下っ!」

「良いのじゃ。 儂はもう疲れたのも事実。 それに、やっと帰ってきてくれた孫と、静かな生活をしたいのも事実じゃしのう。 それに、今まで交戦して、銀髪の乙女が頭が切れる事は知っておる。 それにもう人間でも無いようじゃし、余の後継としては問題もあるまい」

これで良い。

多分魔王は、イミナの本当の狙いに気付いていない。合理的に考えれば、イミナに地位を譲って引退するのが一番だと気付くはずだ。

シルンは、抗議するように見ていた。

おかしな話だ。

以前にこの話は伝えたはず。それなのに、どうしてシルンが怒る必要がある。

「お姉……! どうして、今そんなことを」

「今だからだ。 魔王と接触する機会はもうしばらく無い。 それとも、魔王領に出かけて、魔王軍と正面から交戦でもするか? 今の私とお前なら勝てるかも知れないが、せっかくの平和が台無しになるし、何より人間も大勢死なせる事になるぞ。 それが勇者のすることか? 暗殺者の別名を、勇者というとは知らなかったが」

「分かってる! でも、これじゃあ」

「世の中はきれい事では廻らない。 それに、これで目的は達成したも同じだ。 しばらく側を離れる。 魔王についていって、側近達を説得しなければならないからな」

世界が平和になっても。人類がその強すぎる闘争本能を抑制されても。

結局、人類の邪悪さが薄れたわけでは無い。

そのおぞましい本性が揺らいだわけでは無い。

人身売買という形で同胞を売り飛ばす連中はまだまだ出るだろうし、犯罪の類が消えるわけでも無いだろう。

当然、シルンは今後排斥される側に廻る。

もたもたしている暇は無いのだ。

結局の所、人間が全部魔物になってしまえば良いのかも知れない。だが、流石にそれでは、聖主と同じか、それ以上の押しつけになってしまうだろう。

それではいけないというよりも、同じ失敗をしてはならない。聖主がどういう末路を迎えたか、間近で見ているのだ。

人間と違って、イミナは学習できる。

だから、妹を守るために、最善手を取る。それだけだった。

気まずい空気が流れる。

魔術師達の中には、イミナを露骨に裏切り者と呼ぼうとしている者さえいた。聖主がいなくなったら、次は魔王を滅ぼそうと思っていたのかも知れない。

それは無為だ。

聖主が闘争本能をカットした時点で、人間の最大天敵である魔王は死んだも同然だったからだ。

事実、今のやりとりも、かっての魔王だったら考えられない事であっただろう。

しばらくして、おとなしくなった天罰の掃討は終わった。まだ地下には膨大な天罰があるが、既に世界に広がる力も無ければ、競争力も無くしている。当然毒物も生成できなくなっている。ただの粘菌の塊だ。後は放っておけば、腐って消えていくか、虫や鼠の餌になって処理されていくだろう。しばらくこの教会跡は鼠とゴキブリが大量発生するだろうが、そんなものは人里離れているし、関係ない。放っておけば良いことだ。

「引き上げるぞ」

「ユキナ陛下」

「今見聞きしたことは、誰にも言うな。 混乱を招くだけだ」

「しかし……」

ユキナも、不満そうにイミナを一瞬だけ見たが、周囲の騎士達に言う。

「銀髪の乙女の言ったことは全てが正論だ。 確かに人類に対する裏切りになるかも知れないが、そうしなければ今度は勇者を人類が裏切ることになるだろう。 今の世代は良いかもしれないが、お前達の子や孫が、変わらず勇者に感謝し続けると思うか?」

「いえ、確かにそれは、ないと思います。 強すぎる力を持つ英雄は、やはり迫害されるのが、唾棄すべき人類の理だと思いますから」

「私も、勇者にも、銀髪の乙女にも感謝している。 それに、これで安定した勢力によって、平穏が保たれるのなら良いでは無いか」

ユキナは苦虫をかみつぶすような表情で、そう言う。

イミナは、無言で彼女に感謝した。実際、今や世界的なカリスマを得ているユキナがそう言わなければ、真相を話す奴も出てきたかも知れない。

「ユキナ陛下、感謝する」

「良い。 むしろ泥を被らせてすまないな。 一緒にジェイムズや他にも此方では生きて行けそうに無い奴を、そちらに向かわせよう。 ジェイムズには、世の中の悪を全て背負わせてしまうことになるが」

「むしろ本人は嗤って受け入れるでしょう」

「……」

ジェイムズにとって、世間の評価など、それこそ鼻で笑うものでしかないだろう。だが、彼にしても、人類の存続に大きく貢献した。魔王の三千殺しに、そのままではとても対抗できなかっただろう。

聖主がばらまいた闇の福音だけでは、時期が遅すぎた。ジェイムズが早めに行動を開始していたから、ユキナだけでは無くハーレン王やカルカレオス皇帝も死なずに済んだのである。

全てが、これで終わった。

「帰るぞ」

勝ち鬨も勝利だというのに上がらない。

これが、魔王と聖主の、完全な決着となった。

 

4、これからの道しるべ

 

南の大陸で発生した怪奇現象は、世界中で瞬く間に広がっていった。辺境で膨大な光が発生して、目もくらむばかりだったという。そこで戦っていたらしいユキナとその護衛の騎士達は、キタルレアに戻ってきてからも黙して語らず、とにかく世界に平和が来たとだけ言うだけだった。

多分ユキナ以外の人間がそう言っても、誰もが半信半疑だっただろう。

だが、西ケルテルという難しい場所で、魔王軍との最前線に常に身を置き、厳しい状況で指揮を続けたユキナを、誰もが信頼している。

多少の不安感を残しつつも、急速に安心感が広がっていった。

魔王軍との国境からも、両軍の撤兵が続く。

しかし、兵士達の中で、不安が噴出し始めていた。

 

西ケルテル北方の前線。既に魔王軍は姿を消し、砦の物見櫓から魔王領を監視するだけの仕事が続いていた。

しかし、いざというときには狼煙を上げなければならないし、防衛の体制も整える必要がある。それ以外の時は保存食や武器の状態をチェックし、手入れを行い、そして偵察もしなければならない。

砦の指揮官であるユナンは、アニーアルスの騎士だった。何とかアニーアルスから逃れたとき、下っ端だったユナンだが。戦闘での働きが評価され、今では砦を一つ任されるに至っている。

まだ若い騎士であるユナンは鼻が大きく特徴的で目立つため、美男子とは言いがたい。だが戦士としては評価されているし、近々結婚してはどうかという話も上がって来ていた。だが、当人としては、それどころでは無いと言うのが本音であった。

今日も、兵士達の士気を引き締めなければならない。

小さな砦だから、見回りは一刻もあれば終わってしまう。廊下で兵士達が無駄話をしているのを咎めるのが、日課になり始めていた。だが、今日は例外だった。気になる話を耳にしてしまったからだ。

「勇者様を見たか?」

「ああ。 だが噂通り、乙女の方はいないな」

「何でも、決戦で裏切って魔王側についたって話だぜ。 何だか今までも汚い仕事は全部やってたらしいし、魔が差したのかもな。 実は魔王をその場で殺して、新しく魔王になったとかって話もあるらしいな」

「何だよそれ。 あの人遠くから見たけど、確かにおっかないけど綺麗な人だったのになあ」

頭が悪そうな兵士が、心底残念そうに言う。

そういえば、側にレオンという美青年の若僧がいたから誰も近づかなかったが、勇者も銀髪の乙女も、兵士達には人気があった。まず美少女と言って良い外見の上に、戦場では文字通り戦女神のように戦っていた。

実際問題、勇者の奮戦で撤退できた兵士も多かったのである。ユナンは見ていないが、魔王軍の巨獣を倒したこともあったそうで、兵士達の人気は絶大だった。その姉が敵に寝返ったかも知れないとなれば、心理的打撃は相当だろう。

「勇者様は悲しんでるのかなあ。 あの坊主、慰めてるのかなあ」

「分からないが、南の大陸から戻ってないとか聞いてるぜ。 何だか、まだやることがあるんだとか」

「何だよそれ。 魔王軍はおとなしくなって、戦争は無くなったのにか?」

「しらねーよそんなの。 ただ、女王陛下は安心しろって言ってるし、今はそのままでいいんじゃないのか?」

気配を消して話を聞いていたユナンは、その場を後にする。

新しい戦いが始まるとは、思えない。魔王軍の損失は甚大で、それは此方も同じだからだ。戦っても最終的には人間が勝つだろうが、損害が大きくなりすぎる。それに、兵士達の中からは、以前のようなぎらついた戦意が失せている。

だが、どうもきな臭い。

少し休憩してから、見張り台に上がる。

敵に動きは無し。偵察隊が戻ってきたが、国境近くには魔物どころか猛獣もいないという。

兵士達を交代で休ませながら、ユナンは執務室に戻る。

不安なのは、ユナンも同じだ。

アニーアルスに戻れる日は来るのだろうか。

ぼんやりしていると、書状が来た。ユキナからのものだった。それは、指揮官級以上の人間に、真相を知らせるものであった。

「このことは、他言無用」

最後にそう記されていた。

恐らく、ユキナに信頼されているから、この書状を受けたのだと、ユナンは悟った。誇らしくもあったが、それ以上に内容が悲しかった。

勇者であるシルンを守るために、イミナは魔王になった。

すぐに手紙を暖炉にくべる。

何も見なかった。

そう、ユナンは自分に言い聞かせた。人間の業が、浅ましい欲望が。結局姉妹を引き裂いたのだと思うと、情けなかった。

 

グラは戦いが終わったと聞いて、胸をなで下ろしていた。

これで、第六巣穴も静かになる。補充兵は戦争以外でも使い道がいくらでもある。これからは魔王軍の、いや魔王国の重要な労働力として国を支えてくれるだろう。それだけではない。

ただ、今後は補充兵のあり方についても、議論が生じてくるだろう。

人間が補充兵について知ったときには反発も生まれるだろうし、簡単な問題では無い。出来るだけ早めに処理しなければならないことも、いくつもある。

キバが来る。肩にカーラを乗せていた。

「あにきー!」

「どうした」

「戦争が終わったらしい! おれ、うれしい!」

「そうか。 俺も嬉しいよ」

カーラを下ろすと、キバは右手にあった籠を大事そうに見せた。

リンゴが一杯入っている。

「さっきもいできた! カーラが、戦争が終わったときのためにとっておいてくれたらしい! みんなでたべよう!」

「ああ、そうだな」

すぐに手配させる。

どの魔物も、リンゴを嬉しそうにほおばる中、グラは何処か冷めてその様子を見ていた。本当にこのまま終わるのか、不安を感じていたからだ。

魔王が交代するかも知れない。

その話を聞いたのは、ささやかな宴が終わって、すぐのこと。

夕暮れの中、情報通信球で、直接ヨーツレットに聞かされた。

「幹部会議を行う。 君もすぐに魔王城に来て欲しい。 テレポート部隊を、迎えによこす」

「分かりました」

やはり、来たか。

人間と今後の和平を作るには、今の魔王では駄目だろうと、グラは思っていた。直接的にあまりにも多くの人間を殺したからだ。

今は良くても、いずれ不満が爆発するのは目に見えている。

三千殺しの力は強烈だった。あれでどれだけの戦況が動いたか。国が潰される切っ掛けになったか。

しかし、後継は誰だろう。マリアか。

いや、マリアが後継になることを、ヨーツレットは望んでいるかも知れないが。魔王は望まないだろう。

ならば、誰か。

ヨーツレットの線は無い。

悩んでいる内に、迎えが来た。

今は、とにかく現地で話を聞こう。そう決めて、グラはフォルドワード大陸に行くこととした。

 

(続)