止まる事なき流血

 

序、慟哭

 

アリアンロッドが目を覚ましたのは、獰猛な殺気を感じ取ったからである。戦闘生物として作られている補充兵では無いアリアンロッドだが、歴戦の勘と何よりも強い魔力で、決して補充兵の師団長に戦闘力で引けを取ることは無い。

すぐに寝間着の上からマントを羽織ると、枕元の剣を手に取る。細身のエルフであるアリアンロッドだが、歴戦で鍛えられて、実戦向きの筋肉で全身を覆っている。だから、下手な人間の男よりも、ずっと腕力は強い。その上手にした剣は、魔力を吸って切れ味を増幅する魔術が掛かったものだ。

とはいっても、その魔術の正体を、既にアリアンロッドは知っている。それが神秘的なものではなく、むしろ過去のおぞましい罪悪の象徴であることも。

一瞬の躊躇。

だが、それでも歴戦の経験が、頭をすぐに臨戦態勢に切り換える。戦場で悩んでいたら死ぬ。幼い頃から、体に叩き込まれてきた鉄則だ。

魔術は力だ。どうしても身体能力が低いエルフ族でありながら、この魔術を武器にアリアンロッドは生き延びてきた。その武器が如何に汚れきったものであろうと、どのように使うかは完全に把握している。だから、アリアンロッドはそれを使って、戦うのだ。部下達を守るために。同胞達の平穏な生活のために。

宿舎を飛び出すと、大きな音を出す術式を発動。淡い赤い光の球が手のひらの上に出現。それは中空に打ち上げられると、炸裂して、周囲に大きな音をばらまく。心臓が十回鼓動するほどの間、音は鳴り続け、アリアンロッドの部下達がばらばらと起き出してきた。補充兵も、純正な魔物もいる。

既に副軍団長に正式就任したアリアンロッドの下には、師団長も何名かつけられている。戦闘向けの、人間型補充兵もその中にはいた。

二階の宿舎からぽんと飛び降りてきた師団長が、それだ。

「アリアンロッド師団長、何事ですか? あの殺気ですか! 殺気なんですね!」

「そうだ。 すぐに部下をまとめて向かって欲しい」

「アイアイサー! 行ってきます! いってきまーす!」

ぎゃいぎゃいと五月蠅い。眉をひそめたアリアンロッドは、その師団長、パジャマのままでオーバーサン量産型を手にしているクズリの後ろ姿を視線で追った。名前は小型の肉食動物みたいだが、見かけは食虫植物と一体化しているため、ちょっと緑っぽい。この辺りの魔王の命名センスには、いつも小首を捻らされる。

周辺に師団長はクズリだけだ。他は連隊長級以下ばかりである。

起きてみて気付いたが、殺気がかなり上手に姿を隠している上に、数が多い。これはかなり危険な相手かも知れない。

「点呼を終え次第、すぐにクズリ師団長の援護に向かえ。 敵を見つけ次第倒せ。 無理に捕らえようとはしなくても良い」

「分かりました!」

点呼を終えた部隊から、即座に向かわせる。

だが、それでも不安が残る。ラピッドスワローが、警告の鳴き声を発した。敵を発見したらしい。

起きてきた人間型の秘書官が、すぐに術式でラピッドスワローからの映像を、情報通信球に出す。

「敵、正体不明。 これは、何でしょうか」

「分からんが、数は五十……。 この程度の人数で、一個師団の駐屯地に攻め寄せるとは、命知らずな」

「油断するな。 感じる気配がかなり強い」

たとえば師団長なら、五十名もいれば一師団を充分に蹂躙できる。そういうものだ。魔王が一個師団もいれば、世界を滅ぼすことも容易だろう。戦争は基本的に数だが、それでも世の中には常軌を逸した存在もいるのだ。

アリアンロッドは素早く鎧に着替えると、外に再び出る。その頃には、既に激しい戦闘音が響きはじめていた。戦場で鍛えられたアリアンロッドの鋭敏な耳は、それを確実にとらえていた。

秘書官が青ざめている。

映像に映し出されているのは、大根のように斬り伏せられる味方兵士だ。敵は残像を残して飛び回り、凄まじい勢いで味方を切り払っている。クズリが良い勝負をしているようだが、それも敵より多少強いという程度で、一方的に倒すには至っていない。三体目を斬り伏せたところで、かなり息が上がっているようだった。

「予想が悪い形で当たったな」

「他の師団に援護を求めますか」

「そうしろ。 後の戦士達は私に続け」

兵士達の士気が上がるのが分かる。

アリアンロッドは魔王軍で最古参の師団長の一名であり、昔から苛烈な戦いぶりで闘将と呼ばれてきた。魔王軍に入ってからは、森で穏やかに過ごすことも無く、ずっと戦場か、もしくは野戦陣にいる。その仕事ぶりでも、部下達はアリアンロッドを慕っている様子である。

近衛の部隊をつれて、戦場に。

野戦陣の一角は既に紅蓮の炎に包まれており、其処に奴らはいた。

巨大な人間。一瞬オーガかと思ったが、違う。グロテスクな、筋肉がむき出しの姿をしている。しかも、どう見ても死人を融合させた存在に見えた。

キタルレアには、そういう敵がいると聞いている。此処にどうしているのか、何故アリアンロッドの陣を襲撃してきたのか、詮索するのは後だ。今は此奴らを排除する。

既に詠唱を終えている。

印を切ると、アリアンロッドが敵に突きだした手から、青く光る稲妻がほとばしる。それは今まさに味方を切ろうとしていた死人兵の背中に直撃。死人兵は絶叫して動きを止め、よってたかって味方が槍を突き刺し、炎の術を浴びせて、灰にしていった。

視界の隅で、オーバーサンをふるって数体と渡り合っているクズリが見える。クズリを支援するように、何名かの連隊長に指示。自身は更に次の敵を探す。

殺気。

飛び退く。地面が深々と抉られた。

一瞬前までいたところを、拳が砕いていた。別の不死兵。今の悲鳴におびき寄せられてきたか。

「何者だ」

誰何に返事は無い。

だが、相手に知能があるのは分かる。戦い方が妙に手慣れているし、多分この火も連中が付けたものだからだ。

構える。

戦場で勝負を決めるのは、瞬きするほどの差である事も多い。腕力が如何に相手より強くても、急所を抉られればそれまでだ。間合いを計る。本能的に剣を振り上げて、はじく。驚くべき事に、敵の腕が伸び、爪がアリアンロッドを切り裂こうとしたのだった。

二合、三合。火花を散らす。踏み込んで突く。体を捻ってかわされる。かわしたところを、振り返りざまに、抉るように切り上げる。綿のように身軽に飛び、敵がかわしたが、その瞬間ため込んでいた術式を発動。

空中で爆発に包まれる不死者兵。

地面に落ちてきたところを、味方がよってたかって槍で突き刺す。次と思ったが、味方が切り裂かれて、肉片が飛び散った。

飛び起きた敵が、うなりを上げながら、アリアンロッドに躍りかかってくる。火炎の術式を、顔面から浴びせてやる。だが、意にも介さない。

必殺の間合いに、入られた。

振り下ろしてくる爪。冷や汗が流れる。剣を振り上げて、防ぐ。

だがその時には、奴の膝蹴りが、アリアンロッドをとらえていた。吹き飛ばされ、天幕に突っ込む。

背中から地面に強打した。痛みに声も出ない。

立ち上がろうとするところに、味方の連隊長が必死に敵に触手を絡ませ、動きを止めている姿が飛び込んできた。敵が爪を振るい蹴り潰そうとし、大量に体液をばらまきながらも、なおも動きを止めている。

その連隊長の名を叫びながら、剣を突き出す。

敵の胸に突き刺さった剣を媒介に、術式を発動。

不死兵が、炎の柱に包まれた。絶叫は、程なく途切れた。

これで、二匹目。

呼吸を整える。

駆け寄ってきた部下達に、捨て身で敵を止めてくれた連隊長を、後送するように指示。自身は回復の術式を唱えて、全身の痛みを緩和する。

どうもおかしい。

敵は彼方此方に、敢えて戦力を分散しているように見える。そうなると目的は師団の殲滅だろうか。それにしては戦い方が消極的な気がする。

となると、陽動か。

アリアンロッドの師団は、今特に重要な拠点を押さえている訳では無い。軍団長の暗殺だったら、もっとマシな部隊を襲うはずだ。

「敵が撤退を開始しました! 空に正体不明の飛行物体が!」

「叩き落とせ!」

アシュラが大砲状の腕から、火球を連射する。だが、空に浮いている何者かに直撃しているのに、殆ど効いている様子が無い。

アリアンロッドは見る。

不死兵の一匹が、手に何かを抱えているのを。それがマリアなのを、アリアンロッドの目はとらえていた。

マリアが、魔王軍と人類の平和を模索していることは知っていた。

だが、何故不死兵がマリアを浚う。

程なく、周囲から殺気は消えた。敵が撤退したのだ。

「味方の被害をまとめよ」

「分かりました。 直ちに」

「情報通信球を」

秘書官に、情報通信球を持ってこさせる。つないだ先は、カルローネ軍団長である。魔王にまでは、トスアップする必要は無いだろう。今回の件では、まずカルローネに話して、それからヨーツレットに話をするか判断するべきだ。

カルローネはすぐに出た。そろそろ眠るつもりだったらしく、若干声がのんびりしている。こればかりは、ご老体である事もある。仕方が無い。

「どうしたのじゃ、アリアンロッド副軍団長」

「私の野戦陣が、敵の最精鋭と思われる不死者兵に襲撃されました。 私の陣で預かっていたマリアという女がその際に浚われたもようです」

「何……」

「どうなさるか、判断はお任せします。 私はこれから被害状況をまとめて、敵の再度の襲撃に備えます」

「分かった、トスアップは儂から行う。 副軍団長は、再度の襲撃への備えと、現場検証を進めてくれ」

通信を切る。

損害が分かってきた。死者だけで五百を超えている。わずかな時間に、それだけの兵士が倒されたのである。その中には連隊長四名、旅団長一名も含まれていた。

それだけではない。激烈な死闘の末、十体ほどの敵は倒していたが、負傷者を考えるとしばらくアリアンロッドの直営師団は行動不能だ。

ふらふらになったクズリが来る。

「アリアンロッド副軍団長ー!」

「見事な活躍だったな」

「もう無理! 死ぬ! 今死ぬ! すぐ死ぬ!」

ばたーんと前のめりに倒れたクズリは、そのままぐーぐー寝息を立て始めた。限界になって倒れる寸前までやかましい奴である。

嘆息した旅団長が、アリアンロッドを見上げた。

「今のは、人間側の新兵器でしょうか」

「ほぼ間違いないな」

「あんなものを前線に投入されたら、我が軍は支えきれません。 たった五十で、一個師団が此処までの被害を出すことになるとは」

「あれだけ強力な兵を、簡単に量産できるわけが無い。 何かしらの弱点もあるはずだ」

残った死体を集めさせ、解析に回す。

ミズガルアだったら、きっと敵が弱点を補強する前に、対策を見つめてくれるはずだ。引きこもりも同然の研究者だが、腕も頭脳も認めている。

だが、問題はもう一つある。

「敵も、最新鋭の兵器を惜しみなく投入し、損害もかなり出している。 其処までして、どうしてマリアを浚う必要があった?」

「さあ。 元人間にしては感じが悪くない奴でしたが……」

「分からんな」

身体検査などのデータは、もしもそれが問題になるのなら、多分上層部で洗うはずだ。何か、マリアにおかしな事はなかったのか。田舎のエル教会司祭だと聞いているし、王族や貴族やらの血統が、聖主にとって大事だとも思えない。

魔力も、確かに強かったとは言え、魔王に匹敵するとか、そういう事は全くなかった。戦闘経験を豊富に積んでいると言うことも無く、知恵や勇気が図抜けていたわけでも無い。使命感は人一倍あったようだが、だからといってそれが誘拐につながるのか。

一体聖主は、何を考えてマリアを浚った。

或いは、敵の中の派閥が独走したのだろうか。それにしてはおかしな点が多々見受けられる。あれだけの最精鋭を揃えるのは、よほどの難事だったはずだ。敵が如何に強大とは言え、内部で派閥闘争していて出来ることでは無い。

マリアに対しては、アリアンロッドとしては思うところがある。

自分に出来ることをしようと、いつも一生懸命だった所は好感が持てる。どうすれば戦争を止められるのか、本気で考えていた所もである。

だが、言葉の力だけで、物事は変わらない。

人間が攻めてくるのは、利権が原因だ。此方にある資源や、土地そのものが目当てなのである。個人の憎悪で、人間の組織は動かない。動く場合もあるらしいのだが、今回は確実に違っている。

人間に戦争を止めさせるには、その際限が無い欲望をどうにかしなければならないだろう。

魔物と人間の決定的な違いは、その異常な欲望にあるのではないかと、アリアンロッドは考えている。実際問題、人間に対して復讐しようという気持ちはアリアンロッドにもある。一族が皆平穏に暮らせればと言う気持ちの方が今はずっと強いが、それでも確かに復讐心は燻っている。

だが、それで実際に周囲をどうしようとか、そういうことは考えない。欲求が働かないのである。

人間は違う。

名誉欲にしても物欲にしてもそうだ。相手を殺してでも得られるものを得たいとする。エゴのままに敵を殺戮し、奪って焼き尽くす。

それをどうにかしない限り、人間を止めることは不可能だ。

マリアは、それが分かっていたのだろうか。

いや、わかっていなかったような気がする。マリアは、そんな人間は一部だと言っていた覚えがある。

だが、その一部が、世界を動かしているのではないのか。ならば、人間世界が、種族レベルでのエゴによって動いているのと変わりはないではないか。

後始末が終わった頃には、昼が過ぎていた。増援の部隊と色々話し合い、南岸や重要施設の警備を強化する。街にも守備のための兵を増やす方針で、話し合いをすることに決まった。

休めたのは翌日の夕方から。しばらく眠って、気がついたのは真夜中。

ドアを叩く音。

どうやら、秘書官らしかった。

睡眠は不十分だが、動かなければならない。寝巻きの乱れを直して、寝台から出る。

「アリアンロッド軍団長」

「副軍団長だ」

「あっ、すみません。 副軍団長、カルローネ軍団長からの通信です」

「すぐに出る」

マントだけ羽織って、通信を受けた。

カルローネの声は緊迫していた。

「すまん。 大変なことになった」

「敵の大攻勢ですか」

「違う。 マリアという娘の中に、陛下にとって大事な存在の意識が目覚めていたらしい」

意味がよく分からない。

もう一度聞き直す。カルローネは嘆息すると、もう少し詳しく説明してくれた。

「陛下が玉座の間の後ろに飾っている結晶体。 あの中に封じられている子供の意識が、マリアの中に目覚めていたそうなのじゃ」

「死人の意識が? しかも他人の中に?」

「大変珍しいことらしいのう。 というよりも、通常では確率的にまずあり得ない事だそうじゃよ。 つまり、聖主の手によって、何かしらの細工が行われた可能性が高いという事だ」

「確かに私も聞いたことがありません」

そして、浚われたと。

アリアンロッドに責は無いと、カルローネは言った。それに関しては当然だ。これで責を求められても困る。

だが、問題はその先である。

アリアンロッドも気付いていた。人間型の補充兵が、どれもこれもあの結晶体の中の子供と同じ顔をしていることに。性格は不自然なくらいに、皆違っていることに。どの性格も作為的で、どうも後から手を加えられてああなっているかのようだとも、前から思っていた。

魔王の妄執は深い。

尊敬している魔王だが、その点だけは悲しいことだと、ずっとアリアンロッドは思っていた。だが、この間聞かされた話は、魔王のあまりにも悲惨すぎる境遇の物語も含まれていた。

大事な孫娘を守れなかった老人の嘆きである。

それを妄執と一言で片付けるのは、気が咎める。同じような経験は、アリアンロッドにだってあるからだ。

「して、如何するのです」

「敵がどう出るか、であるな。 陛下は今のところ、ショックは受けておられるようじゃが、それでも自分で助けに行くとか、そういうことは言っていないそうじゃて」

「救出作戦が、ある可能性は」

「正直な話、敵が罠に使うのが目に見えておる」

アリアンロッドはさっさと着替えると、外に出る。情報通信球で話を続けながら、出撃の準備を整えた。

解析班の所に行く。既に、敵が使ったテレポートと、どこに消えたかは分析が出来ているはずである。歩きながら、カルローネと話す。

「つまり、敵の状況コントロールを避けたいと」

「そうなるな」

「もしも出るのであれば、私もお連れください。 これでもマリアを預かっていた身でありますから」

「そうじゃなあ。 うーむ、ヨーツレット元帥は出るつもりらしいが、そなたは無理かも知れん。 まだ知らせてなかったが、実は今、エンドレンで敵の大軍勢が海岸線に集中していると報告がある。 敵の数は一千万に達するかも知れないとかで、一昨年と同規模か、それ以上という話じゃ」

つまり、フォルドワードから高官は出せないと言うことだ。

まだカルローネにしか話が行っていないと言うことは、来たばかりの情報を総合した結果、ということだろう。それにしても、一昨年以上の規模で、しかも魔術による戦力も含むとなると、現在の戦力では足りないかも知れない。

ならばなおさら、敵の状況コントロールだけは阻止しなければならないだろう。

「もしもどうしてもと言うのなら、作戦が早く終わるように、戦力をありったけ投入するときじゃろうな。 闘将と言われるそなたは、子供師団長達ばかりで頼りない状況を緩和するには必要じゃろうて」

「……」

「続報が来たら、また連絡する。 今は、単純に備えていて欲しい」

通信が切れた。

解析班の宿舎に到着。ひときわ大きな土まんじゅうで、入り口から地下へ地下へと降りていく。地下は無数のトンネルでつながっていて、防火壁でそれぞれ区切られている。空からの攻撃にも、砲撃にも強い作りだ。

解析班は、ミズガルアのところで経験を積んだ若いマインドフレイヤ族の学者をリーダーに、十名ほどの魔物で構成されている。死体を色々と調べていたらしいマインドフレイヤ族のリッキーが振り返る。

顔の見分けはつかないが、気むずかしい者が多いマインドフレイヤ族の中では、比較的温厚な青年だ。

「アリアンロッド副軍団長、如何なさいましたか」

「分析の結果は」

「一通り、基礎的な調査は終わりました」

言いながら、青年は手袋をゴミ桶に捨てる。手袋は当然のように、真っ赤に染まっていた。

炭化した死体ばかりだが、そうではない状態のものもある。いうならば巨大な人体を解剖しているようなものであり、血だらけになるのも当然だ。

「キタルレアの戦線で見受けられる融合不死者兵と基本的な構造については変わっていないようです。 ただし、これには芯がある」

「特定の強力な個体が中心でまとまっていると言うことか」

「そうです。 で、恐らくそれを可能にしているのが、これでしょうね」

キューブ状のものを出してくる。

エンチャントという技術がある。魔力を物体に付与する、というようなものだ。見たところ、魔力の蓄積装置に思えるが、実際の仕組みはよく分からない。

「壊れてしまっているので解析はしきれませんでしたが、多分これに特定の感情だけを抽出して詰め込んでいて、それをエネルギーとして戦闘タイプの師団長にも匹敵する動きを実現していたのだと思います」

「感情をエネルギーにする、だと」

「はい。 理論的にはあり得る事です。 ただ、我々の技術では、とうてい実現は不可能ですが」

多分、感情が高ぶると痛みが減ったり、頭が異常に冴えたりといった事とは別の次元の話なのだろう。

勇気で無いものは作り出せないし、根性で空腹を誤魔化すことは出来ない。

そういった精神論では無くて、多分別の事なのだと、アリアンロッドは理解した。

いずれにしても、こういった技術面を見ても、聖主の陣営は圧倒的だ。あまりにも尋常な領域を超えすぎている。

他に何か分かったことがあるか、聞いてみる。腑分けをしていた連中では無く、現場を調べていた憲兵が挙手した。オークの中年男性で、良く太り、口からは短いが鋭い牙が覗いている。

「アリアンロッド副軍団長、気になることが」

「何か」

「マリアがいた宿舎に寝泊まりしていた魔物は殆どが殺されていましたが、一名だけ生き残っていました。 事情を聞いたところ、床下に隠れて難を逃れたようです」

おどおどとしているのは、イビルアイ族の青年だ。

見たことがある。以前偵察兵として任務を失敗し、降格して今は部隊内限定の伝令をしている男だ。

恥では無い。イビルアイ族も数が少ないし、戦争に適性がある者は限られている。戦争が向いていないなら、後方で一族のために繁殖に励むべきなのだ。実際、どうにか数が安定している魔物はロードランナー族ぐらいで、繁殖力が高いオーク族でさえまだまだ全然種族として安定するには至っていないのである。

「話を聞かせてくれないか。 敵の戦術が分かれば、次の戦いで有利になる」

「は、はい」

「勘違いしないで欲しいが、君を臆病とか責めるつもりはない。 むしろイビルアイ族のために、良く生き延びてくれた。 勝てない相手から逃げることはとても悔しいが、それは私にも経験がある。 たくさんある。 そうしないと生き残ることが出来ないのだから、恥じなくても良い」

無数の触手を持つ眼球の姿をした青年は、ぼたぼたと大量の涙をこぼした。

しばらく言葉を詰まらせていたが、やがて触手を動かして話し始める。

「昨日の夜、俺、いや小官は、眠れなくて窓から外を見ていました。 そうしたら、不意に空にあの円盤見たいのが出現したんです」

「テレポートか」

「おそらくは。 其処から、あの化け物共が飛び降りてきました。 やばいと思ってみなを起こそうとしたんですが、凄い強いって分かって、必死に隠れました。 隠れるのが一瞬でも遅れてたら、小官も死んでいたと思います」

その後は、宿舎に火が付けられたそうだ。

煙が廻ったが、元々空気が少なくても生きられる種族である事が幸いした。外の騒ぎが一段落してから、青年は外に出た。大暴れしている化け物共に見つからないように、必死に逃げ回り、そして朝まで生き残ったという。

無言で戦っていた兵士達が大勢死んだのを見て、罪悪感に心が押しつぶされそうになったという。

「小官も、何か出来るんじゃ無いかって思って、軍に志願したんです。 それなのに、ずっとずっと、何も出来なくて」

「いや、嘆かなくても良い。 敵のことを少しでも話してくれればそれでいい。 それが、君に今できることだ。 気付いたことは他に無いか」

心が弱い奴だと、アリアンロッドは思った。

だが、兵隊として優秀である事だけが存在価値では無い。今では、純正の魔物は、皆が貴重な存在なのだ。

幸い今回の襲撃で、命を落とした純正の魔物はいない。ただし、怪我をした者はかなり出た。損害が大きい中、それは唯一の救いであっただろうか。

「そういえば、円盤が出現する前に、空がぴかって光りました。 あんまり強く、ではなかったですが」

「光った?」

目だけで出来ているような種族である。彼らが見た光景に関しては、相当な精度が期待できる。

「どんな光だった」

「魔術を発動するときのものとはだいぶ違ったような気がします。 恐らくは、エンドレンの連中が使っているような科学技術に起因するものかと」

「……なるほど。 他に気付いたことは」

「そういえば、空から降りてきた不死者どもも、出現の瞬間は消えていたような気がしました。 足から見え始めたように思えましたので」

意外に、よく見ている。

アリアンロッドは考えた後に決めた。

「名前は?」

「バスティークです」

「よし、バスティーク。 そなたは臆病だが、観測を行う者としては優秀だ。 カルローネ軍団長の側にて仕えよ。 そして、軍団長の目として活動して欲しい」

「わ、分かりました」

すぐに紹介状を書いて、渡してやる。

バスティークが去った後、アリアンロッドは秘書官を呼んで、カルローネと再び通信をつなげる。

今分かったことは、結構有用だ。

たとえば、敵は魔術に関係なく、姿を消す技術を持っている。これが先に分かったことは大きい。

しかもその技術は、かなり制約が多い。今のうちに調べておけば、弱点を洗い出すことも出来る。

奇襲に失敗したとき、敵は最大の隙を晒す。勝機に直結するかも知れない。

臆病なバスティークだが、ひょっとすると魔王軍の勝利に貢献できる可能性がある。欠点一つでその存在を見るのは本末転倒だ。前線で戦う武人としては失格かも知れないが、彼は有用な情報をもたらしてくれた。

「なるほど、分かった。 儂からも魔王陛下に報告しておくとする」

「後、もう一つ」

「何じゃね」

「やはり、私も奪還作戦を行うのであれば、出ます」

アリアンロッドの言葉を聞いて、カルローネは少し悩んだ末に、分かったと了承してくれた。

 

2、聖主との対面

 

マリアが目を覚ますと、薄暗い空間だった。

どうも地下らしいと言うことは分かる。拘束はされておらず、だが空間に出口は見当たらない。

服を脱がされたり、乱暴されたりと言うことも無い様子だ。

何があったかを、順番に思い出す。

魔物達の野営地に、何かが攻めてきた。マリアは起きたところをいきなり組み伏せられ、口を塞がれてとらえられた。

そして、運ばれた。

其処までは覚えている。そうなると、誰だかは分からないが、わざわざマリアを浚うために、魔王軍の精鋭一個師団に喧嘩を売ったという事なのか。しかも闘将アリアンロッドが率いる、なおかつフォルドワードという魔物にとってのホームグラウンドで、である。

内通者の仕業かと、一瞬思う。

だが、人間ならともかく、魔王軍でそれはあるのか。魔王軍の兵士達とも接してきたが、彼らは一様に魔王に忠義を誓っていて、尊敬を感じることも出来た。これは、人間の国家では、見られなかったものだ。

人間の国家では、国家の指導者に対する崇拝を要求することはあっても、民が尊敬している姿を見たことが無い。善政を敷く王ならともかく、殆どは情報によって作り出された虚像ばかりだ。

魔王はそれを獲得していた。

部下が、裏切るとは思えないのである。

そうなると、やはり聖主の仕業なのか。

仕業と考えて、ちょっとがっかりする。エル教会の出身であり、愛の思想については今でも素晴らしいと思っている人間としては、そんな風に古巣が動いているとなれば、失望を感じてしまう。

床は石。多分天井も壁もだ。光が差し込んでいるのは、マリアの背が届かないほどの高さにある壁の穴である。

「誰か、いますか」

呼びかけてみるが、返事は無い。

体の傷を調べてみる。痛いところはないが、何カ所か擦り傷があった。回復の術を詠唱して、傷を治す。

一通り傷を治すと、壁に背中を預けて嘆息した。

戦闘向けの術式は、殆ど学んでいない。それに今は、もうじたばたしても仕方が無いだろう。

どうすれば脱出できるか、考えた方が有意義だ。

勿論怖い。ただ、娼館とかに売り飛ばされることは考えていない。魔力だけでは無く、身体能力も増しているし、その気になれば空を飛んで逃げることだって出来る。

怖いのは、これから拷問を受けることだ。だがそれにしては、手足を鎖でつながれているようなこともないし、何より何も知らない。だったら、悠然と構えているしか無い。

アリアンロッドの影響だろうか。こうも平然としているのは。

グラの影響だろうか。静かに頭が回るのは。

分からないが、どんな人間と接したよりも、二人の側にいたことの方が、今は有意義に思えていた。カーラとまた会いたい。キバがカーラをかわいがっているほほえましい光景を見たい。

そう思うと、心細くなってきた。だから、考える事を止める。

膝を抱えて、しばらく座っていると。足音が近づいてきた。ただし、人間の足音ではない。もっとずっと重苦しいのが二つに、床を這いずるようなのが一つ。

ドアが開けられる。

まぶしくて、目をかばった。三つ、人影がある。

二つは見覚えがある。マリアを浚いに来た奴らだ。人間よりもずっと大きくて、体中の筋肉が露出した禍々しい姿をしている。手には鋭い爪があり、魔物よりもずっと大きくて見かけも怖い。

もう一つは、無数の人体が溶けて混じり合ったような怪物だ。魔物にも、似たような姿の者はいたが。どうしてか、不思議とまがまがしさを感じる。否、多分邪悪さを感じているのだろう。

「出ろ。 話を色々と聞きたい」

「……」

きっとにらみつけてやると、風がなった。

頬を切り裂かれたのだと分かる。

「……っ!」

「連れ出せ。 それ以上傷は付けるな」

巨人に腕を掴まれる。

そして、引っ張り出された。

通路に出て、無理矢理歩かされる。素足のままだが、小石を踏んだりすることは無かった。それにしても、巨人に腕を掴まれて分かる。体温がとてつもなく低いのだ。これは、死人では無いのか。

少し広い部屋に出た。

拷問道具が点々と並べられている。

「此処は、憎悪を抽出する前段階の調整をする部屋でな」

「……?」

「最近は、使えそうなのも少なくなってきたから、前線とかから使い物にならなさそうな連中を引き取っては、此処で調整しているのさ。 そうして得られた憎悪で……おっと、この話はしても仕方が無いか」

「まず、名乗ってはどうですか」

機嫌が良さそうな相手に叫ぶ。

いきなり殴られた。溶けた人体の間から、触手が伸びてきたのだと分かる。そのまま、首を絞められ、つり上げられた後、落とされた。

激しく咳き込むマリアを、冷然と怪物は見下ろしている。

「ふん、まあいい。 私はフローネス。 二三質問がある。 お前に回復の術式が備わっている事は分かっている。 不遜な態度を取れば、腕でも足でも折る」

「脅しても無駄です。 私は何も知りません」

「折れ」

音も無く、巨人が動いた。

そして、事務的にマリアの右腕を掴んで、小枝でも潰すようにへし折った。

声も無く呻く。此奴は本気だ。

だが、それでも屈しない。回復の術式を唱えて、右腕を掴む。ぐっと奥歯を噛んでこらえながら、回復の術式を発動。

折れた骨を癒やす。回復力も上がっているし、それほど時間を掛けずに直すことが出来た。

乱れた呼吸を整える。

その様子を、じっとフローネスは見ていた。

「余計なことを喋ったら、また折る」

にらみつけてやる。

屈してたまるか。

また、折られた。今度は足だ。しかも巨人に体を押さえつけられて、回復術を使えないようにされた。

顔の側に、フローネスが触手を近づけてくる。

触手が膨らんで、顔になった。おぞましい技術を持っているものだ。

「まず、魔王のことを聞きたい。 お前は、本当に魔王の下の世話をしていたのか」

「な、何のことですか! 魔王には会ったこともありません」

「お前には聞いていない。 足を捻れ」

折られた足を、更に捻られる。

意識を失ったらしい。目を覚ます。水をぶっかけられたのだ。

「手間暇を掛けさせる。 いるんだろう、此奴がもっと苦しむぞ。 アニアぁ!」

「アニア……?」

「魔王が飼っていた奇形の子供だ。 此奴が人間に惨殺されたことが、魔王が人間を止めるきっかけになったのさ」

けたけたと、フローネスが笑う。

違う意識が、中にあるのが分かる。怯えている。いや、それ以上に悲しんでいる。魔王は、お爺さまはとても優しかった。人間だと思わなかった周囲と違って、本当のお爺さまのように接してくれた。

アニアの記憶が、マリアに流れ込んでくる。

怒りに、全身が震えるのが分かった。

人間の、闇の歴史。絶対に風化させてはならない、罪業の時。

こんな事をする連中を、マリアは人間だと認めない。たとえ、全ての人間が、マリアと意見を異としてもだ。マリアは、そんな奴らと一緒にはならない。それでも、人間はそういう生物だというのなら、マリア自身が人間を止める。

そして、人間という生物を、変えなければならない。どんな手を使ってもだ。

意識を、強く保つ。

こんな奴に、屈して溜まるか。

気がつくと、また牢の中にいた。足は折れたままだ。まず、折れた足を治す。触ると気絶しそうなほど痛い。だが、それでも。

彼奴らに屈するくらいなら、この場で死んだ方がましだ。

足を治した後、連れて行かれた通路や部屋のことを思い出す。脱出の機会を作るためには、少しでも見たことを頭の中ではっきりさせておく必要がある。

そもそも、此処は地上なのか、地下なのか。

「此処は、地下だよ」

「え?」

「連れてこられるとき、私見ていたの。 お空を飛ぶ道具が、地下に入っていくの」

「そう……」

空なら、まだ脱出は容易だったが。地下となると、少々面倒だ。

マリアに戦う力は、あまり無い。防御や回復の術式は持っているが、それだけだ。戦いのための術式も、アリアンロッドは教えてくれようとしたのだが。どうしても、身につかなかった。

だが、それでも。

戦う事は、出来るはずだ。

「そもそも、どうしてあいつらは貴方を浚ったの?」

「それは、きっとお爺さまが、私のことをずっと悲しく思っていたから。 きっと私を餌にして、お爺さまをおびき出すつもりなの」

「ひどい……」

勝つために手段を選ばないというのは分かる。

実際戦争できれい事は通用しない。最小限の被害で、戦争が終わるのなら。どんな汚い手でも、使うべきだという理屈についても理解は出来る。

だが、アニアの記憶を見て分かった。

この子より不幸な人間がいるのか。更に、不幸にしようというのか。魔王が、どうして同じ顔をした補充兵ばかり作っていたのか、ようやくマリアには理解できた。魔王は、あまりにも優しかったから、人間の社会では苦しんでいたのだ。

不幸な弱者を救うのがエル教会の思想では無いのか。弱者を犠牲にして全部を救うなんて、そんな合理的な判断は、許せない。

「人質にしているというのなら……」

好機は、作れる。

なぜなら、人質という存在には。

その場で殺せなければ、意味が無いからだ。

 

仮設魔王城に、矢文が打ち込まれた。

といっても、普通の矢では無い。巨大な火を噴く筒に、くくりつけられていた。

ヨーツレットが手紙を開封する。

予想通り過ぎる事態であった。

「如何なさいますか」

「これだけ派手に矢文を打ち込んできたのだ。 陛下に見せないわけにはいくまい」

魔王も当然、手紙の到来を知っているはずだ。

魔王は玉座に座って、手紙が来るのを待っていた。ヨーツレットが手紙を差し出すと、じっくりと隅々まで読む。

手紙には、こう書かれていた。

「アニーアルスにて決着を付けるべし。 此方からは銀髪の勇者を参戦させる。 もしも魔王が来なかった場合、此方にてとらえているアニアに、考えられる限りの痛みと絶望を与えた末、意識を永遠の地獄に落とす」

「卑劣な……」

「いや、合理的な判断なのじゃろう。 一人の人間を犠牲にして、儂を殺す事が出来れば、確かに安い話じゃ。 いや、聖主は、アニアを人間だとは恐らく思っていないだろうが」

ただ、聖主は、恐らく魔物も人間も同等の存在だとは思っていることだろう。魔王は、そう言った。

正直な話、ヨーツレットは全身から怒りが溢れてくるのを抑えられない。

「すぐに救出のための部隊を派遣しましょう。 こんな卑劣な申し出、乗ってやる事などありませぬ」

「……アニアは、哀れじゃな」

魔王が、ため息をついた。

ヨーツレットは、以前アニアの話を聞いて、思ったことが一つある。きっとアニアが魔王の言うとおりの性格だったとしたら、きっと今回は助けに来て欲しいとは言わないはずだと。

だが、それでも魔王は助けに行くだろう。

人間だったら、助けに行かないかも知れない。だが、魔王は、優しすぎるから、人間社会ではずっと差別迫害されてきた。

今も、それは変わっていない。

「陛下、ご決断を」

「そなたらを危険にさらすわけには行かぬ」

「陛下!」

「ただし、無策でも行かぬ。 今回は、此方にも策がある。 アニアを救うことが出来ないとしても、儂も今死ぬわけにはいかぬからのう。 ヨーツレット元帥、幾つか仕込みのために動いて欲しい」

魔王が、幾つか正気とは思えない策を提示してきた。

ヨーツレットは、全身が震えるのを感じる。そんな策を実施するのか。

今まで、魔王は人間を皆殺しにすることを、絶対の信条としてきた。ヨーツレットは、それは現実的では無いと諫めてきた。

事実、人間を管理することで、実例を示しても来た。

だが、魔王は。今回、組織のために、自分を殺すつもりでいる。

「分かりました。 直ちに」

「うむ。 さて、儂自ら戦うのは久方ぶりじゃのう。 実戦の勘がさび付いていないと良いのじゃが」

魔王は立ち上がると、護衛のエルフ達に指示。

アニーアルスに飛ぶと。

 

西ケルテルに、聖主からの使者が来た。

エル教会の大司教だと名乗るその男は、イミナが見たところ、もう人間では無い様子だった。多分闇の福音を体に入れているのだろう。痩躯でひょろ長く、顔はフードで隠していた。法衣から出ている手は節くれていて、水を垂らすと痛みを覚えるのでは無いかと思えるほど、肌が乾いている。

ただし、動きは老人のそれでは無い。奇妙なギャップが、この大司教の存在感を確かなものとしていた。

手紙が、ユキナとシルンに手渡される。

レオンは、じっとその様子を見つめていた。

食事が殆ど必要ないとは言え、最近レオンは全く食べ物を口に入れていないように見える。現に、頬は痩けていた。

「レオン、大丈夫か」

「ああ」

言葉短く答えると、外に出かけていく。

西ケルテルでレオンは、新しく流入してきたアニーアルスの難民と元の民、それにグラント帝国との交渉を続けている。やはりグラント帝国は一筋縄ではいかない相手であり、戻ってきたばかりだというのに苦労ばかり掛かっているようだ。

プラムはと言うと、少し前からふらりと出かけて、ぼろぼろになって帰ってくる事が多い。彼女なりに色々と思うところがあり、強くなろうとしているのだろう。

イミナはずっと本ばかり読んでいた。鍛錬の時間以外は、ずっと本だけとにらめっこしていたに等しい。

既に、それまでの人生で読んだ本の総量を、数倍上回るほど読んでいる。此処一月ほどで、速読のスキルや観察力、理解力ばかりが向上した。到達者になるまでは、まだ遠そうだが、それでも着実に近づいてはいる。

それに伴って、以前シルンが説明してくれた世界の仕組みについても、わかりはじめていた。

手紙をシルンが帰してきた。

さっと目を通す。

聖主は、以前一騎打ちの状況を整えると言っていた。どうもそれがこの手紙に書かれている、招集らしい。

「魔王がアニーアルスに来るから、シルンが戦え、だと」

「胡散臭いね」

「ああ。 どういうつもりなのか」

少し前に、魔王と聖主が戦ったとき、シルンの話によると、下手をすると大陸がまとめて消し飛ぶような戦術が使われたという。

救われないことに、それを使ったのは聖主なのだ。

多分聖主は、愛の思想で世界を包むために、ある程度の犠牲は仕方が無いと考えるタイプなのだろう。昔はどうだったかは分からないが、少なくとも今はそうだ。闇の福音のような危険物をばらまいたり、各地での戦乱をコントロールしているところからしても、疑いが無い。

仮に此処でシルンが魔王を倒したら、どうなるのだろう。

イミナには、良い未来が来るとは思えない。

しかし、魔王を放置するわけにも行かない。魔王を放置しておけば、フォルドワードのように、いずれ人類が皆殺しにされるだけだ。

師匠は喜ばない。

シルンは悲しむ。

だから、イミナが、それを避けるべく動かなければならない。

手紙を読み終えたらしいユキナが来た。最近彼女は、アニーアルスの元騎士達を、護衛として身辺に侍らせている。

今までの義勇軍上がりの精鋭もいるが、やはり根本的な腕が違うらしい。

「銀髪の乙女、銀髪の勇者。 既に手紙は読んだようだな」

「はい」

「それで、どうするつもりか」

「行くつもりです」

拒否する選択肢は無い。

多分聖主は、いくつも次の手を用意してから戦いに挑むタイプだ。最悪の場合、この大陸を消し飛ばすくらい、平気でする可能性がある。

イミナの本音からすれば、聖主と魔王が共倒れになって欲しい。だがその時には、多分キタルレアはこの世界から消えて無くなっているだろう。

此処は、出向くしか無い。

「出向きます」

「嫌な話を聞いた。 この間の戦いでは、下手をするとキタルレアが丸ごと消し飛んでいたそうだな」

「はい」

「聖主は何を考えている。 この大陸そのものを、捨て石にするつもりなのか」

ユキナの発言は的を得ている。

「それを防ぐためにも、今回は行きます」

「我らに手伝えることは」

「一つあります」

「何だ」

ユキナに、イミナは提案する。

現在、魔王は切り札を失っている。聖主も、光の槌の代用兵器を、即座には動かせない状況だ。

つまり、どちらも出来ることが限られている。即座に人間を全滅させるような手段を、有していないと言うことだ。

それならば、此方にも打つ手がある。

「南の大陸へ渡る手段を、準備できますか」

「グラント帝国と、それにキタンとも協力しないと難しいな。 そもそも南の大陸は、エル教会が支配しているも同然の土地だ。 しかも、今は聖主が完全に実権を掌握している状態だろう」

その通りである。

聖主はエンドレンもほぼ掌握しているはずで、恐ろしい技術による軍を再整備している可能性が高い。

エンドレンからフォルドワードに襲いかかったガルガンチュア級戦艦はその恐ろしさが噂になっているが、それも多数あるのではなかろうか。

それに、今は海上に魔王軍も展開して、封鎖を行っているはずだ。

イミナは少し前から戦略会議に参加しているが、グラント帝国の海輸が困難になり始めているという話を聞いている。

「聖主を倒すつもりか」

「出来るのであれば。 魔王も倒さなければなりませんが」

「出来るのか」

「難しい、でしょうね」

今、シルンの実力はかなり高い。単純な戦闘力なら、魔王や聖主と並ぶかも知れない。並ばないかも知れないが、イミナやレオン、プラムが手助けすれば、最悪でもワンチャンスは作れるだろう。

そのワンチャンスを、歴戦のシルンは必ず拾えると、イミナは信じている。

「分かった。 グラント帝国の皇帝と、少し前から連絡が取れている。 相談して、何か手を考えて見る」

「よろしくお願いいたします」

「ああ。 それにしても、神という存在がいるにしても、これでは恐らく、人間が夢想している都合が良い者では無いのだろうな」

「聖主を神とするならば、合理性の怪物という印象を受けました。 かっては理想主義の巨頭であったが故に、反動も大きかったのでは無いのでしょうか。 今では合理的な判断のためには、人類の何割かを殺しても良いと思う男になっている。 行動を見る限り、そんな風に思えます」

「……」

ユキナは考え込む。

シルンを促して、イミナは城を出た。

レオンとプラムと合流して、北に。話には乗るが、そのまま魔王と戦う気は無い。

既に、アニーアルスからの難民振り分けはだいたい終わっていた。街道はゴミも殆ど落ちておらず、軍用道路としての整備が進んでいる。

時々ある見張り台は、油断無く北を見据えていた。或いは見張りの兵士達の中には、アニーアルスの生き残りがいるかも知れない。

今度こそ、敵襲に的確に対応する。

そういう強い意志を持って、見張りの任務を続けていることだろう。

「ねえ、お姉」

「何だ」

「もし魔王と聖主、どちらかを選ばなければならないんだったら、どうすれば良いんだろう」

「人類が生き残るためには、聖主だろう」

それは分かっている。

だが、普段はベターな結果を選ぶ事になれているイミナにも、その選択には抵抗があった。

レオンが首を横に振る。

「それは、私は賛成できない」

「魔王につきたいの?」

「そうではない。 どちらも信じるには値しないと、私は結論した」

レオンははっきり言い切った。さぞやつらい葛藤があったことだろう。同情してしまう。

プラムはしばらくレオンの顔を下から見上げながら横を歩いていた。

「じゃあ、私もそれでいいや」

「プラム?」

「正直あのおっさん気に入らなかったし。 レオンがそういうなら」

「主体性が無い奴だな」

レオンがげっそりしきった頬で返すが、プラムは水を掛けられた蛙のように平然としていた。

そのまま、国境地帯まで出る。

国境には柵が巡らされ、重点的に見張り台がある。見張り台の後ろには狼煙が多数据えられて、いざというときには対応できるように処置がされていた。

幾つか、国境地帯でわざと空けている場所がある。沼地だったり、或いは見晴らしが良い荒野だったり。

そういった場所から、入り込むこととした。

魔王軍は姿が見えない。アニーアルスが凄まじい死闘で焼け野原になったから撤退したのだろうか。

いや、わざと開けているだけだろう。

「もうすぐだな」

「なんだか、知らない場所みたいだね」

すっかり焼き尽くされたアニーアルスの平野を見て、シルンが悲しそうに呟いた。

 

マリアは連れ出されて、不思議な空飛ぶ乗り物に乗せられた。

大きさは中型の船くらいなのだが、扁平で、とても空を飛ぶとは思えない円盤状の姿をしている。

しかも浮き上がるやいなや、姿が消えるのだ。ただし、影だけは消せないらしく、地面にはくっきり円盤状の形が残っていた。どうしてそれが分かるかというと、乗り物の内部に映像を映し出す板がたくさんあり、自身も映し出されているからであった。

後は音も無く、ただ北へ北へと飛んだ。周囲を、あの巨人に囲まれたままである。

「私を、どこへ連れて行くつもりですか」

「まずは聖主にお前を引き合わせる」

一緒に乗り込んできたフローネスは、そんなことを言った。

あれから、どれだけ拷問されても、一切口は聞かなかった。

爪も剥がされたし、針も刺されたが、じっと耐えた。もっとひどいことも色々されたが、耐え抜いた。

どうも人間を止めてから、痛覚を遮断する技術も身につけていたらしい。最初はひどい痛みに心が折れそうになったが、あるときから不意に楽になった。そうすると、ついにはフローネスの方が根負けしてしまい、拷問は止んだ。

フローネスが離れると、今度は別の大司教が来た。紳士的な老人で、色々と丁寧に質問してきた。アニアの事は質問には含まれていなかったので、だいたいのことは答えていった。

出身地やどうやって育ったか、それに本名や趣味嗜好など。

その質問が終わって、しばらくしてから。この乗り物に乗せられたのである。

信じがたい速度で乗り物は目的地に到着。加速と減速の時にちょっと揺られたが、それ以外では全く不快感が無かった。

一体どういう技術の産物なのか、見当もつかない。

乗り物から降りると、小さな田舎町に出た。だが、雰囲気がおかしい。或いは噂に聞く悪名高いシオン会の拠点かも知れない。城壁は妙に高いし、住民も異様な乗り物を見ても集まってくる様子も無い。見慣れているのだろう。

街の中央には城では無く大きな教会がある。中は質素だったが、壁は分厚く、武器がたくさん蓄えられていた。それも、剣や槍では無い。大砲や、用途が分からない代物ばかりである。

どうやら予想は当たったらしい。此処はシオン会の拠点だ。

今度は地下に。

長い長い階段を下りる。

途中から石壁では無く、見たことも無い素材になった。この教会そのものが、多分建物としてはダミーなのだ。或いは、上にあるシオン会の拠点が、まるまるそうなのかも知れない。

とんでもない規模の城塞が、地下に存在していた。

此処に、聖主がいるのか。

よく分からない乗り物に、また乗せられる。箱状で連なっており、トロッコのようにレールの上を走る。しばらくそれに揺られて、降りた。かなりの速度で移動していたのに、乗っていた時間はかなり長かった気がする。

一都市どころか、一地方に跨がる規模の地下要塞では無いのだろうかと、マリアは怖くなった。

「此処だ。 降りろ」

フローネスに突き飛ばされて、降りた。

もう床も天井も、淡く発光する見たことが無い素材だ。歩いていると、かなり高い靴音が反ってくる。といっても、今マリアは素足だ。何名かいる周囲の高僧が履いている靴の音だが。

もし隙を作るとしたら、今では無い。

しばらくおとなしくして、様子を見る必要がある。

あれだけ拷問されても、耐え抜けたのだ。アニアが、マリアの中で怯えているのが分かる。この子を守るのだと思えば、大概のことには我慢できる。

「つれて参りました」

「うむ」

突き飛ばされ、無理矢理座らされる。

左右に巨人型が立ち、何があっても対応できるように、肩を押さえてきた。慎重なことである。

フローネスは、少し接してみて分かったが、かなり臆病だ。残虐な行動は、臆病の裏返しから来る物だろう。

マリアが戦闘能力など持たないことは、知っているだろうに。ちょっと滑稽だなと、思ってしまった。

改めて見上げる。

聖主は、髭を蓄えた、威厳のある男性だった。玉座について、此方を見下ろしている。みくだしている雰囲気では無く、観察している様子である。

「そなたがマリアか」

「はい」

「そなたの中にいるアニアについて、話を聞かせて貰いたい」

「貴方がたとえ神の代理人であっても、断ります」

周囲に殺気が満ちるが、聖主は右手を挙げて遮った。

警戒するマリアに、聖主は多少声を柔らかくしてくる。

「このような世界を、変えたいとは思わぬか」

「私を人質にとって、世界が変わるというものなのですか」

「そうだ。 今、世界は理想的な形になろうとしている。 だが、一つだけ、どうしようもない異物がある。 それが魔王だ」

「……」

アニアが悲しむのが分かった。

聖主が言うには、現在世界は魔物と人間の間で、理想的なバランスが作られつつあるという。

このまま状況が安定すれば、強大な仮想敵が互いにいるため、戦争も止まる。何よりも、人間は己を万物の霊長とする妄想から、ようやく解放されるとも。

それについては、マリアも同意できる部分が多い。

しかし、それならば。

魔王がいても、実現できる部分はあるのではないのか。

「ところが、そうはならぬ」

「!?」

「この距離であれば、そなたが考えている事くらいは全て把握できる。 ニューロンの状態を見れば、記憶を全てのぞき見ることも可能だ」

「な……」

単語は分からないが、マリアにも何を言われているかは分かった。

相手の記憶を覗く魔術があると言うが、そんな次元の代物では無い。文字通りの化け物が、眼前にいる。

しばらく聖主はマリアを見ていたが、やがてつまらなそうに言う。

「やれやれ、この程度の小娘の中に、どうしてアニアの意識が再生したのか。 世の中には必然というものがあるのだがな」

「聖主、貴方は」

「世界は、変わる。 私が変える。 人という卑小な生き物が宇宙で他の種族に迷惑を掛けず飛翔するには、変えなくてはならぬ。 だが、目先の平和しか見えていないお前に、それは理解できないだろう」

連れて行くようにと、聖主が言う。

マリアは、地下要塞の一角にある、小さな部屋に放り込まれた。其処からは、食事も出されなかった。

人間を止めてから、あまり食べなくても大丈夫になった。だが、抵抗能力を奪うための行動だというのは目に見えていた。

拷問も加えられることは無くなったが、周囲は窓も無く、扉も無く。明かりも無かった。完全な闇の中、マリアは究極の孤独に放置された。

目を閉じて、じっとする。

「大丈夫?」

「平気よ」

「あのおじさん、とても怖い人……」

「そうね。 でも、きっと好機はまだあるわ」

半ば自分に言い聞かせながら、マリアは孤独に耐える。

聖主が、どういう相手なのかは、少しずつ見え始めた。

思っていたよりもずっと恐ろしい人だ。論理の塊。血や涙はあっても、利をそれに優先することを、絶対的に行える人。

だからこそに、あの化け物のようなフローネスを、従えていられるのだろう。

歴史上に出てきた覇王も、あの人に比べれば子犬のようなものなのかも知れない。もはや人間という域を超えてしまった、化け物。

マリアが願う平和を一笑に付したその態度は、さらなる先にあるものを見ているから、なのだろう。

だが、それが故に、足下が見えていない部分もあるはずだ。

絶対に、足下を掬ってやる。

このまま、人質でなどいてはやらない。

「貴方のこと、アニアちゃんって呼んでもいい?」

「うん……」

「大丈夫。 私は魔王も止めたいって思ってるから。 このまま、人質として良いように使われるままでいてはやらないわ。 絶対に抜け出して、あの恐ろしい神みたいな聖主に、必ず平和を考えさせてあげるんだから」

妙に、心が好戦的になっているのが分かる。

だがそれも仕方が無い事だろう。今まで、魔物達が如何にマリアに優しく接していたのか、よく分かってしまった。性暴力こそ振るわれなかったが、他のあらゆる苦痛は浴びせられたと言っても良い。

「アニアちゃん、二人で考えよう。 どうにかして、此処を抜けだそう」

「でも、どうするの」

「しばらくはおとなしくしているの。 それで、相手が油断した隙を突くの」

傍目から見ると、マリアは何も喋っていない。じっと目を閉じて、口を引き結んでいるだけだ。

意識が二つあり、それが会話をしている。元のマリアと、後から生じたアニアである。不思議な事に、アニアが意識に生じてから、無自覚の内にかなり魔力が強くなってきている。

魔王や聖主ほどでは無いが。

ひょっとすると、あのフローネスだったら、自力でどうにか出来るかも知れない。

闇の中に一人でいると、どうしてもおかしくなる。マリアはその状態を避けるため、体を時々動かして体操をしたり、後はアニアと他愛の無い話をした。

アニアは、魔王のことを聞くと、本当に嬉しそうにする。

それ以外のことを聞くと、とても悲しそうにする。

魔王に引き取られるまでは、虐待と言うも生ぬるい地獄の中にいたらしい。魔王には、とても優しくして貰ったという。御本を読んで貰ったり、美味しい食べ物をもらったり。

孫が出来ると、性格が険しい人でも優しくなると聞いたことがある。

魔王は多分、元々優しい人だったのだろう。ならば、それはなおさらだ。

だが、アニアの話を聞く限り、魔王の家族はそうではなかったようだ。そういえば、フローネスが下劣な事をほざいたが、それも魔王の家族が口にしていたことだそうだ。

話を総合する限り、アニアは魔王の家族達になぶり殺しにされた。

どうやら家族がアニアを魔王の愛人と勘違いし、遺産を譲り渡すつもりでは無いかと邪推したのが原因だそうだ。

そんな連中は、人間と呼ぶに値しない。

マリアは、そう思う。

だが、魔王の周囲では、そうではなかったらしい。むしろ、そんな連中の言うことが、正しいとして受け入れられていた様子だ。

「その街は、滅ぶべくして滅んだのかも知れないね」

マリアは、どうしようもない連中に囲まれて生活していた魔王のことを、心底気の毒に思った。

この世界は、歪んでいる。どうしようも無い部分もある。

そして、そんなゆがみに押しつぶされるのは、いつも優しかったり、真面目だったりする人たちだ。

だが、世界の全てを否定するわけにはいかない。

マリアがいた小さな村も、閉鎖的な社会だった。マリアが人間を止めるまでは慕ってくれていた。だが、マリアが闇の福音を服用してからは、手のひらを返した。今でも、その時のことは思い出す。傷つく。

だが、それでも。人間全てを排斥したいとは思わない。

聖主は、愛で世界を包むと言っているらしい。それは聞いている。だが、その愛が手前味噌な勝手な思想であったのなら。結局、神以上の力を持つ独裁者が、人類を好き勝手にするに等しいのでは無いのか。

でも、このままで世界が良いとも、マリアは思わない。

目を開いた。

周囲は真っ暗なままだ。だが、気配が近づいてくるのが分かる。フローネスだ。

「ほう。 まだ正気を保っているか」

もう此奴とは、口をきかないことに決めた。

出るように言われたので、言われたままにする。周囲がまぶしすぎる。多分ずっと闇の中にいたからだろう。

言われるまま、廊下を歩く。

聖主の気配はしない。

「これから、お前は特等席に座る。 そしてお前を救おうとする魔王が、勇者に殺される様子をなすすべ無く見るのだ」

意味はよく分からなかったが、これだけは確かだ。

好機到来。

此奴は、マリアが抵抗しないと思っている。勝ち誇った様子からも、それは明らかだ。

それに、マリアは少しずつ力が強くなっている。内在している魔力も、闇の中でアニアと一緒に練り上げて、相当に高まっていた。

勿論、それをフローネスに悟らせはしない。

他人を傷つけるために、力は使いたくない。だが、今回ばかりは、その禁を破る必要があるだろう。

フローネスは、かわいそうな奴だと思う。

見たところ、この男は、とても能力が高かったのだろう。だが、誰にも認められなかった。故に歪んだ。

ずっとマリアは、皆を観察してきた。司祭として、村人達を少しでも幸せにしようと生活していたからだろう。何故悲しいのか、何故喜んでいるのか、鋭敏に分かるようになっていた。

魔物については、分からない部分も多かった。

だが、人間は。

特に、フローネスのような、能力は高くとも心が寂しい腐りきった男は。どうしてそうなってしまったのか、何となくだが理解できるのだ。

「貴方、覗きか何かが趣味ですか」

ぴたりと、フローネスが止まる。

図星か。

「貴方は、悲しい人ですね」

「き、貴様に、何が分かる」

「貴方はとても優れた力を持っていたのに、周囲から認められなかったのではないですか?」

やはり、これも図星だ。

周囲を固めている巨人のような死人達も、困惑したように歩みを止めている。マリアは、ただ静かに指摘を続けた。

「きっと貴方は、影から人を操ることしか出来なかった。 だから、そんな卑劣な性格なのに、聖主には絶対の忠誠を誓っている。 自分を認めてくれた、唯一の存在だから」

「だ、だま、だま……!」

「でも、心の奥底では知っているんでしょう。 聖主は平等だが、自分は特別に扱って欲しいという願いは、かなわないって」

アニアが、吃驚していた。

此処までマリアが強烈な弾劾をするとは思わなかったのだろう。フローネスは、無数の人体が崩れ溶け合ったような体を震わせて、絶叫した。

無数の触手を伸ばして、マリアを叩き伏せようとする。

だが、側にいた巨人が、その触手を一掴みにした。

「なっ!」

「フローネス、目的を忘れたか」

淡々とした声。

後ろから来たのは、筋骨隆々とした大男だった。目には異様な光があり、人間とは思えない気迫を放っている。

これは。

フローネスよりも、数段危ないかも知れない。人間と言うよりも、草原で育った野獣のような気配だ。

そして野獣でありながら、聖主に忠義を誓っているのも見て分かる。

「ガルフ……!」

「我らの目的は、その人質を適切な場所に輸送し、魔王を勇者が討ち果たすまで、的確に扱うことだ。 此処で打擲することでは無い」

「しかし、おのれ」

「貴様は戦争屋の私と違い、知恵で聖上に認められたのだろう? ならば私のような戦争屋に諫められてなんとするか」

流石にそう言われると、フローネスも頭が冷えるらしい。

マリアも、頭が冷えた。

巨人がフローネスの触手を離す。その手の動きは、全く見ることが出来ないほどに素早かった。

「フローネス、貴殿は戻っていろ。 この女は、俺が見張る」

「勝手にするが良い」

「今回は地味な仕事だ。 お前の方が手柄を立てやすいかも知れぬぞ」

「知るか……っ」

フローネスが、ずるりずるりと去って行く。

ガルフと呼ばれた大男は、マリアを見下ろしながら言う。

「まるで伝承にある女淫魔だな。 それだけ妖艶な体つきをしてながら性格は清楚というのも、おかしな話だ」

「これは先天的な体型ではありません。 闇の福音を摂取した結果です」

「そうか。 ならば、その魔力もか」

「おそらくは」

或いはマリアの中には、先天的に強い魔力があったのかも知れない。

だが魔力を鍛える機会は少なかったし、良い師匠にも恵まれなかった。恵まれたのは、皮肉なことに魔王軍に入ってからだ。

ガルフは見た感じ、フローネスのように賢い反面つけ込みやすい輩では無い。頭はさほど良くは無いかも知れないが、動物的な勘が働くタイプだ。最もだましにくいし、つけ込みにくい。

しかも、雰囲気で分かる。この男は、人間を止めてしまっている。どういう経緯かは分からないが、闇の福音がらみである事は間違いない。

多分、この男を出し抜くのは無理だろう。

今は機会を待つ。藪をつついたら、大蛇が出てしまった。蛇が通り過ぎるまで、待つしか無い。

だが、脱出は、諦めない。

 

3、陰謀の果てに

 

アニーアルスに入った途端、イミナの前に現れたのは、以前フローネスと名乗った肉塊だった。

見たところ、非常に機嫌が悪そうである。何があったのかは分からないが、丁寧な口調の裏に、いらだちが見え隠れしていた。

「良く来てくれましたね」

「聖主は」

「聖上は今、この戦いを見守っておいでです」

つまり出てくる気はないという事か。

魔王と戦って、シルンが勝てると思っているのか、或いは。何か、秘策があるのかも知れない。

そもそも、どうして魔王が出てくるのかが謎だ。どうやって奴をおびき出したというのか。どうも嫌な予感がしてならない。

「供の皆様には、此方を」

大司教達が、恭しく差し出してくる。

どれも、人外の技術力で作られた武具ばかりであった。

レオンは少しためらった後、手を伸ばす。手を伸ばした先にあったのは、淡い光を放つメイスだった。

全体的には、棍棒と言うよりも木剣に近いスマートな構造である。全体が発光しているのは、何か機能があるからだろうか。

「これは」

「此処のボタンを押すと、殴った相手を重力で圧壊させます」

無言で、レオンは言われたまま近くの岩を殴ってみる。

岩が、まるで巨人にでも殴りつけられたようにへこんだ。凄まじい破壊力に、殴ったレオンの方が驚いたくらいである。

「これは……」

「貴方は戦闘向けでは無いとは言え、これくらいの自衛手段は必要でありましょう」

「分かった。 いただいておく」

レオンが、既にエル教会から心を離しているのは、イミナには見え見えだ。だが、それでも今は力が欲しいのだろう。

プラムは、小さな筒状の何かを手に取った。

見かけはコップのようで、プラムの小さな手にすっぽり納まる。

「魔王軍がオーバーサンと呼んでいる、陽電子剣です」

「ヨウデンシ?」

「要するに、万物の根源を熱に変えてしまう剣だと思ってください。 凄い熱で斬るから、どんな盾も鎧も役に立ちません」

「……」

プラムは無言でコップについているボタンを押す。

刀身が出現した。

言われてみれば、確かに見たことがある。最近魔王軍の師団長級が持っている事が多い、光る剣だ。

聖主の側でも、既に実用化していたと言うことか。

もっとも、魔王軍師団長の場合は、素が強い。これを持ったからと言って、安心するには早いだろう。

プラムはオーバーサンを二本手にする。

二刀流か。今のプラムなら、使いこなせるだろう。元々二刀流は見た目の派手さに反して難易度が大変に高いが、剣の技術に関してプラムの右に出る者はいない。

イミナ自身は、今は武器はいらない。

むしろ、知識を手っ取り早く増やしたい。最近頭を使いすぎてくらくらしているが、それを補助する道具は何か無いか。

ただ、それを表に出すわけにはいかない。

多分、魔王も聖主も、到達者が現在三人であるという状況を元に、根本的な戦略を組んでいるはずだ。

それを崩すには、到達者が四人になるという異常事態を引き起こす必要がある。

当然、異常事態は戦略を根本的に崩すから、聖主も魔王も阻止しようとするはずだ。今は、そんなそぶりは見せるわけにはいかない。

「これを貰おうか」

「へえ?」

フローネスが不思議そうに声を上げた。

イミナが手にしたのは盾だ。どういう原理かは分からないが、攻撃をほぼ完璧に防ぎ抜くという。

空間を歪曲させて攻撃をそらすとか言う説明を受けたが、良くは分からない。まあ、とにかく、役に立てばそれでいい。

元々、イミナはシルンの盾。格闘戦術を学んだのも、シルンに迫る攻撃をはねのけるためだ。師匠には、この辺り徹底していると言われて、ちょっと嬉しかった。師匠は、イミナの感情を引き出せた、数少ない人間だ。

「魔王は、本当に来るのだろうな」

「来るでしょうね。 ただし、本当に一人で来るかは分かりませんが」

「……」

やはり、何か陰謀を仕掛けたか。

強い気配が近づいてくるのを感じる。シルンが、警告の声を上げた。

「魔王。 来る」

「すぐに接敵するか」

「ううん、こっちの状況をうかがってるみたい」

まあ、そうだろう。イミナが魔王でも、そうしている。

空気が、緊張を孕んでいく。

 

魔王はアニーアルスに入ると、手をかざして向こうをじっと見つめていた。

側で護衛しているヨーツレットも不安になる。魔王は見えているとしても、ヨーツレットの視力ではとらえられないからだ。

地平の果てに、魔王は何を見ているのだろう。

「何か見えますか」

「うむ、勇者は既に来ておる。 供が三人。 銀髪の双子の片割れと、後は坊主と子供」

「以前から、報告のある四人組ですな。 私も交戦したことがありますが、なかなかやる連中です」

「仲が良いことじゃて」

魔王はからからと笑った。

ヨーツレットにしてみれば、笑い事では無い。どうせ聖主から、ろくでもない武器が引き渡されているに決まっている。下手をすると、交戦にさえいたらないような、超兵器かも知れない。

作戦は既に頭に入れているが、しかし。

周囲に展開している部隊からは、今のところ合図は無い。マリアはまだ発見できていないと言うことだ。

「陛下。 万が一の時は、マリアの救出よりも、陛下の安全を優先いたします。 それはご了承ください」

「そもそも、儂はそなた達の命を、マリアに優先しようとは思っておらぬ」

「しかし、敵の通告によると、マリアの中には陛下の大事な方の意識が眠っているという話ではありませんか」

「もしもの時は、アニアも分かってくれるじゃろう。 悲しいことじゃが、それでも今生きているそなた達に優先するわけにはいかぬからのう」

ヨーツレットは胸が痛くなった。

そう言ってくれているのは、本当に嬉しい。そして、魔王のその言葉に、嘘が無い事もよく分かっている。

だが、以前聞かされた魔王の過去を考える限り、悲しいなどと言う話では無いはずだ。アニアという子供は、本当に魔王にとって生涯唯一家族と呼べる存在だったのだから。

「上空に映像出現!」

顔を上げると、上空にどうやら情報通信球と同じ系統の術式らしい映像が出現していた。とらえられたマリアである。左右には、あの強力な融合不死者兵の姿がある。

あれの戦闘力は、師団長級の補充兵に匹敵する。マリアは戦闘向けの能力など有していなかったし、抵抗すれば瞬時に肉塊にされてしまうだろう。そして、マリアの傍らに立っているのは、筋骨隆々とした、多分シオン会の男だ。見た感じ、人間を止めている様子である。

「魔王に告ぐ。 いるのは分かっている。 出てこないと、この魔物を処分する」

「ふむ、どうやらお呼びのようじゃな」

「解析を開始せよ。 居場所を特定し次第、テレポート部隊にて強襲を仕掛ける」

魔王が輿から立ち上がる。

ヨーツレットの側には、師団長十名の精鋭部隊が待機していた。いつでも戦闘が実施できる体制である。

魔王はてくてくとマイペースに荒野を歩いて行く。一度徹底的に焼き払われたアニーアルスの荒野では、まだ草一本生えてこない。純正の魔物は絶対に足を踏み入れないようにと、魔王は念を押していた。多分、何かしらの毒素が出ているのだろう。

何も無い荒野で、魔王は勇者と相対する。

本来なら絵になる図の筈なのに。

神とも言える男が質を取ってそれを強制しているも同然の状況である。心が穏やかになろう筈も無かった。

魔王は、今回の作戦で、聖主に一泡吹かせるのが目的だと言った。いざというときには、マリアの命よりも皆の命を優先して欲しいとも。

つまり、作戦は柔軟に実行して良いということだ。

だが、それでも。

ヨーツレットは、魔王にとって唯一の家族と言えた、アニアを救出したかった。

魔王は、ヨーツレットの全てだ。意見が合わない部分もあるが、それを差し引いても魔王がいなければヨーツレットは立身できなかった。そして意見が合わなくても、それをも包み込んでくるその器。こんな主君につくことは、多分無いだろう。

「解析、まだ出来ません」

「陛下がジャミングを中和してくれているはずだ。 位置さえ分かれば」

「映像は、何カ所かの中継地点を経由して送られてきている様子です。 陛下が強力な術式を使って、緩和してくれているようなのでありますが」

アリアンロッドがぼやく。

彼女ほどの術者でも、困難だというのか。

だが、それも無理は無い。聖主はあまりにも異常な技術の数々を手にしている。世界を支配していたも同然のエル教会を作った男である。そして、今はエル教会を一手に握ってもいる。

その底力は計り知れない。

魔王が、勇者となにやら話し始めた。

緊張が、高まっていく。

 

イミナの前に、魔王が歩いてきた。シルンを促して、前に出す。

シルンは、ずっと考えていた。

多分、魔王と何を話すかだろう。双子なのだ。このくらいは分かる。

そして、結論は、もう決まっているはずだ。

「また会うことになったのう」

「魔王……」

「聖主は手段を選ばぬ男じゃて。 どうせ逆らったら、西ケルテルごと消し飛ばすつもりなのではあるまいか。 そう判断して出てきたのじゃろ? 正解じゃよ。 奴は、そういう輩じゃ」

からからと魔王は笑う。

当然、聖主が見ているのを、分かった上で言っているのだろう。

「教えて。 貴方にとって、あの人はそんなに大事な存在なの?」

「人では無い。 人だと、周囲は認めなかった」

不意に、辺りの空気が絶対零度の殺意を孕む。

なるほど、そういうことか。

だいたい事情はイミナにも理解できた。そして、悲しいことだとは思ったが、それ以上は考えなかった。

魔王はフォルドワードでもキタルレアでも、大量の人間を殺してきた。そのきっかけが人間の愚行である事は分かったが、しかし殺された人間の中には、平和に生きていた子供や、真面目に世の中を良くしようと働いていた者も大勢いたのだ。

どちらにも、正義など存在しない。

殺し合いに、正義も悪も無い。

「勇者、魔王を殺せ」

「……」

声がした。シオン会の男のものだ。

きっと、シルンが上空の映像をにらみつけた。

魔王は杖を突いたまま、じっとしている。イミナには、だいたい何をしているのか、見当がついた。

プラムが刀身を出す。既に、オーバーサンとやらの使い方は理解しているようだ。レオンは気は進まない様子だが、それでもメイスを構えた。

魔王は平然としている。シルンに加えて、イミナ達三人を同時に相手にしても、勝てる自信があるのだろう。

実際、魔王はのほほんとした雰囲気だが、圧倒的な強さを感じる。全力で挑んでも、勝率は五分を超えるかどうか。

しばし、間合いを計る。

シルンが、再び話しかけた。戦闘態勢を保ったままだ。

「魔王。 人間と、和解は出来ないの?」

「不可能じゃな」

「どうして」

「人間はこの世界の害悪そのもの。 今までの欠点を克服できるチャンスがあるにも関わらず、自身を万物の霊長などと妄想し、自分たちが生み出した全ての邪悪をへりくつで肯定する存在は、この世界どころか、宇宙に必要ない」

「全ての人間が、そんなじゃない!」

シルン、それは無為だ。

水掛け論に終わるだけだ。

呟くが、声は届かない。シルンは必死に、魔王に語りかける。

本気で説得できると思っているのか。時間稼ぎのつもりか。シルンは到達者とやらになっても、シルンのままだと思っていたのだが。

以前は、魔王に対して、もっと露骨な敵意があった気がする。

敵を知ったから、態度が変わってきたのか。あるいは。

「今までの不幸な歴史も、到達者が三人もいる現状、変えることは不可能じゃ無いはずだよ! 皆で、どうにかする方法を考えよう! 何なら、わたしだって協力してもいいから!」

「そなたがどれだけ働いても、人間の本質は変わらぬ。 豊かな資源、広々とした土地、平和的で優れた知性対。 考えられる限り最高の、自身を客観視できる環境が揃っていても、人間は変わらなかったのじゃ。 今更そなたが何を言ったところで無駄じゃろう」

それは同意だ。

だが、人間という生物がそういう存在である以上、仕方が無いともイミナは思う。

しかし、魔王の言うことも分かる。

恐らくこの戦い、人間という生物が変わらない限り、永遠に続くだろう。情け容赦ない殺し合いとして。

そういう意味では、魔王が言っていることは、正しくもある。

ただし、イミナは思う。

それが正しいとしても、他に手はあると。

自分ならもっと上手に出来る、とは思わない。だが、魔王のやり方だけが、手段では無いだろう。

事実魔王は、人間を止めた存在とは会話もしているし、受け入れもしているのだから。

「無駄話を止めろ。 これ以上くだらない会話を続けるなら、人質に拷問を加える」

じっとしていたマリアが、肩を掴まれ、無理矢理座らされる。 ばかでかいペンチを持ち出してくるシオン会の男。 アレを使って、腕を折ったり、爪を剥いだり、指を千切ったりする気か。

下劣だが、効果的なやり方だ。

魔王は肩をすくめる。

「無粋じゃのう」

「ごめん。 わたし達も、あまり時間は稼げない」

「ん?」

なるほど、イミナにも、シルンの意図が分かった。

そういうことか。

 

「場所、特定できました!」

ヨーツレットが顔を上げる。その背中に、師団長十名が乗る。更に、アリアンロッド副軍団長も乗った。

人間型四、様々な動物の要素を入れた者が六。人間型にはオーバーサン改良型が全て渡されている。他の者達も、最新鋭の武装や、魔術にて、戦闘態勢を整えていた。

ヨーツレットの周りに、エルフの戦士達が集まってくる。

輪を組んで、術式の準備開始。

「陛下が稼いでくれた時間、無駄にはせぬ」

「しかし、本当に人質を救出するために、此処までするんですか?」

「違う。 陛下の本当の意図は」

「準備、整いました!」

空間が、ひっくり返るような衝撃。

そして、ヨーツレットは、部下達を乗せたまま、見たことも無い地下空間に出ていた。周囲は石壁だらけであり、魔力の類は不自然なほど感じない。それだけではない。多分此処には、機械類も無い。

填められたか。

一瞬不安を感じたが、すぐにそれは消える。

敵気配確認。

以前確認したマリアの気配も、すぐに感じた。というよりも、マリアの魔力が、相当に強くなっている。

これは、下手をするとレイレリア並みか。

軍団長級の魔力をまさか元人間から感じるとは。魔王も元人間だが、到達者という次元が違う存在である。

驚いている暇は無い。

無言で、ヨーツレットは突進する。

不意に、脇に気配。

出現したのは、バラムンクであった。背中にはクズリも乗せている。この間、アリアンロッドの陣にいて、マリアの奪取を防げなかった師団長である。食虫植物の要素を持つ人間型で、手には当然オーバーサンがある。

「間に合いましたな」

「今までどこにいた」

「いえ、陛下に言われて、ちょっと内偵をね。 で、丁度良いので、元帥に合流したというわけです」

「ほう」

此処はどこなのかと聞いてみる。

意外な答えが返ってきた。

なんと、此処はアニーアルスだという。戦いが行われていた地点の、すぐそばだったという事だ。

南の大陸か、或いはグラント帝国では無いかという予想をしていたのだが。敵は一体、何を考えているのだろうか。

気付く。

いざというときは、まとめて戦略兵器で薙ぎ払うつもりではないのか。

此処アニーアルスは、何度となく戦略兵器を打ち込まれ、当分草一本生えない枯れ果てた大地と化している。確かに、まとめて何もかも滅ぼすには都合が良い場所ではある。

だが、それにしても。

聖主は、自分の理想の世界のために、どんな手段をも厭わないことは分かってはいた。だが、此処まで徹底していると、空恐ろしい。

驀進。

前に気配。あの融合不死者兵か。

違う。見たことも無いタイプの不死者兵だ。アリアンロッドが即応し、火炎の魔術を叩き込んだ。焼き尽くし、踏みしだいて進む。妙に脆い。

「何だ、雑魚ばかりだな」

「それはもう。 何せ此処は、連中が失敗作を放り込んでいた場所ですから」

「何」

「人間の中に、ジェイムズという科学者がいましてね。 そいつがアニーアルスに、結構良い研究所を構えていたのです。 それを後から秘密裏に再利用したのが此処のようでしてね」

飛び来る矢。はじき返す。

ヨーツレットの防御術式を抜くには、あまりにも貧弱。さて、マリアはどうしている。

 

気配を感じた。

マリアは目を見開くと、今までため込んでいた魔力を、一気に解放した。

肩を掴んでいた不死者が、吹っ飛ぶ。

座ったまま、魔術を展開。防御の術式だ。

「何のつもりだ、女」

「答える義務はありません」

後は、時間を稼げば良い。

うなりを上げて、不死者が鋭い爪を振り下ろしてきた。だが、防御術式が、軽々とはじき返す。

マリアの魔力は、此処まで高まっていたか。自分でも驚いている。

「そうか、奪回部隊が来るのを待っていたのか」

「私に人質の価値があると言うことは、魔王はそう動くと思いましたから」

「ふむ、意外に冷静な読みだ。 お前のような優秀な人材を、司祭にとどめておいたとは、エル教会の旧支配者層は許しがたい無能ぶりだな」

ガルフが、右手を挙げる。

不死者兵達が、構えを解いた。

嫌な予感がする。

「今からでも良い。 聖上の下で働け。 俺が口をきいてやる」

「お断りします!」

「それは、お前の倫理観が故か」

「……っ、違います」

聖主は、邪悪な存在では無いと、マリアにも思えた。

だが、違う。

彼が犠牲にしようとしている「最小限」には、年若い子供達や、善良な老人も多く含まれている。

愛の思想で世界を包もうというのなら、そういった者達にこそ、慈愛の光を注ぐべきなのでは無いのか。

魔王に協力しようとは思わない。

だが、今の聖主には、なおさら従うわけにはいかない。

エル教会の司祭など、もう関係ない。

今のマリアは、聖主を許すことが出来なかった。

「まあ良い。 青臭い倫理で、全てを投げ捨てるというのも、また一興だろう。 お前達、アレを出せ」

「……」

不死者達が消える。

ガルフという男は、そういえばさっきの魔力放出にも平然と耐え抜いた。見たところ、僧と言うよりはバリバリの軍人という気配があったが。それにしても、ちょっと度が過ぎているような気がする。

人間を止めたときに、何かしたのだろうか。

ガルフの所に運ばれてきたのは、巨大なツゥーハンデッドソードだった。

両手で扱うこの剣は、よほど熟練した使い手で無いと役に立たないと聞いたことがある。魔王軍の魔物達の中には、もっと大きな剣を振るっている者もいたが。まさか、人間大の存在が、これを得物にするとは。

壁が吹っ飛ぶ。

姿を見せたのは、ヨーツレットだった。

「発見。 掃討開始」

アリアンロッドがいる。しかも、状況を見るやいなや、躊躇無く爆発系の魔術をぶっ放した。

視界が、紅蓮に覆われる。

防御術式が耐え抜くと読んでのことだろうが、過激きわまりない。いつも静かなあの人は、戦闘になるとこんなに激しい行動に出るのか。

ヨーツレットが躍りかかる。

周囲で、凄まじい激戦が開始された。

 

「さて、どうやらヨーツレット元帥は、作戦行動に入ったようじゃのう」

呟きながら、魔王は振り下ろされたメイスを右手で受け止めた。枯れ木のような細腕だが、勿論それだけで受け止めたのでは無い。

手に魔術で小さな盾を作り出し、それで防いだのだ。

飛び退く。

盾が割れ砕けた。どうやら、強度関係為しに砕ける仕組みらしい。無言で突っ込んできた僧が、更にメイスを振るい上げる。

魔王は後ろに下がる。今度は飛び退いたのでは無い。魔術によって自分の体を加速したのだ。飛ぶのと同じ要領である。

だが、後ろには、オーバーサンを二本持った子供が回り込んでいた。

真横から、二閃。

当たったら、流石に危ない。

だが、その時既に、魔王は術式を展開し終えていた。

右手を握り込む。後ろに回った子供が、足下から吹き飛ばされて、空に舞う。地面の下を爆砕したのだ。

降り注ぐ土塊。

子供をキャッチしたのは、坊主だった。

勇者は詠唱中だ。大技を出すつもりか。代わりに突っ込んできたのは、双子の姉の方。動きは大変に見事。魔王が放った火球を、手にしている小さな盾で防ぎ止める。炎が周囲を照らす中、至近にまで迫ってくる。

繰り出される拳。

魔王は表情を変えず、それを握り込むように受け止めた。

「何……!」

「そりゃ」

振り回して、地面にたたきつける。もう一撃たたきつけようとしたところで、子供と左右に分かれた坊主が、タイミングを合わせてメイスをたたきつけてきた。攻撃の軌道から、真上に逃れる。

視界が、紅蓮に染まった。

直撃。

詠唱を終えた勇者が、どうやら万を超える℃の火球を放ってきたらしかった。

防ぎ抜くが、視界が覆われる。至近。真後ろに、オーバーサンの気配。振り抜かれる。

ローブの裾を切り裂かれつつも、間一髪逃れた。

着地。

既に、周囲はクレーターだらけだ。勇者の姉も、埃を払いながら立ち上がってきていた。

「流石に手強いのう」

「息一つ乱していないくせに、よく言う」

「何、老は疲れると、息が乱れるのではなく、動けなくなるのじゃよ」

からからと笑いつつ、意外に厄介な連中だと、魔王は認識を改めた。

いずれの戦士も、反応速度でとっくに人間を超えている。しかも、歴戦を重ねてそれを使いこなせるようになっている。

さて、そろそろ良い頃だが。

ヨーツレットによるマリア奪還は、あくまで布石の一つ。今回の目的は、別にある。

だが、聖主は当然、此方の動きを読んでいる可能性も高い。

ヨーツレットは既に奪還に動いている様子だが、どうもテレポート先がアニーアルスだったというのが気になる。

まさか、ICBMなどの戦略兵器で、此処を完膚無きに破壊するつもりではないのか。

そうだとしても、防ぐ手はある。

残像を残して左右にステップしながら、勇者姉が拳を叩き込んできた。一撃、二撃、はじきつつ飛ぶ。後ろ。絶妙のタイミングで回り込んでいた坊主が、メイスを振り下ろしてきた。

振り返りつつ、軽めの術を叩き込む。吹っ飛ぶ坊主には目をくれず、更に回転しながら、勇者姉の拳をはじく。体勢を崩した相手に、術式を叩き込んだ。

さて、最後は。

真上。

降り注いできた、光の槍を防ぐ。右、子供。オーバーサンを、既に振りかぶっていた。

なるほど、此方の対応を読んだ上での連携か。見事。

地面を、オーバーサンが切り裂く。

周囲を粉塵が覆い尽くした。

もう一本のオーバーサンは、地面に突き刺さっている。

魔王の側を駆け抜けた子供が、倒れた。一瞬の攻防、魔王がオーバーサンを持っている右手を跳ね上げ、軌道の間をすり抜けるようにして逃れたのである。

肺の空気を絞り出しながら、子供が立ち上がろうとする。

坊主が駆け寄り、回復の術をかけ始めた。間に割り込むようにして、勇者姉が構えを取る。

「これほどの体術を使えるとは」

「儂も伊達に魔王では無いと言うことじゃよ」

さて、そろそろだ。

秒読みを開始する。

 

「ふむ……これは一本取られたか」

聖主が呟くのを聞いて、フローネスは愕然とした。

モニタには、魔王と勇者の死闘が映り込んでいる。激烈な格闘戦が行われてはいるが、どうも戦闘が地味だとは思った。

だが、一本取られたとは、どういうことか。

「魔術リンク切断」

「は? はい」

「遅いか」

聖主が言うやいなや、モニタが爆発。オペレーターをしていた男が、顔面を吹き飛ばされて後ろに倒れた。既に人間を止めている男であったが、それでも顔面を吹き飛ばされればただではすまない。

医務室に、すぐに運ばれていく。

まさか、これは。

「その通り。 魔王に、この位置を知られたという事だ」

「な……」

「ガルフに撤退するように指示。 やむを得ぬか。 デウスエクスマキナを動かすタイミングが少し早くなるが、仕方が無い」

聖主は立ち上がる。

そして、この遺跡。デウスエクスマキナと聖主が呼ぶ、巨大なる死した移動式要塞の中を歩いて行った。

周囲は光の槌同様、星の海を思わせる調整が施されている。

違うのは、あれが衛星軌道兵器だったのに対して、これが陸上を移動する文字通りの移動式要塞であることだ。

ただし、本来は稼働できる状態には無かった。当然の話である。

聖主から聞いた限りのこの世界の成り立ちを聞く限り、このデウスエクスマキナは強大に過ぎる。

何故、こんなものが此処にあるのか、フローネスにはよく分からなかった。

「フローネス」

「はい」

「この世界を愛に包むに、不要なものとは何か分かるか」

「人間の傲慢でありましょうか」

これは、聖主がいつも言っている言葉から、推察した答えだ。

聖主は頷く。

だが、ほっとしたのもつかの間だった。

「ならば、何故傲慢は生まれる」

「人間の愚かしさが故」

「そうだ。 故に、魔王を殺した後、これを用いる」

其処には、巨大な筒状のものがあった。硝子ケースになっていて、中では何かが培養されているのが見て取れる。

これは、闇の福音か。

いや、違う。これは、何だ。

「せ、聖主、これは……」

「これは、そうさな。 福音と呼ぶべきか」

「闇の福音では無く、そのまま福音でありますか」

「そうだ」

まもなく、ガルフが撤退してきた。

マリアは奪還されたという。だが、ガルフは決して、手ぶらで戻ってきたわけでは無かった。

「ヨーツレットという魔物と、コンタクトを取りました」

「ほう」

「ヨーツレット自身は、義理堅い男にて、籠絡は不可能でしょう。 しかし、残念ながら頭が回りすぎる。 聖主が仰っていた例の作戦には、或いは引っかかるかも知れません」

「そうか、重畳」

今回の結果も、決して想定外では無い。

此処で魔王を倒せていれば言うことは無かったのだが、当然到達者であり、前回見事な戦術を見せた魔王がそれだけで倒せるとまで楽観視はしていなかった。

それに、今回の策では、勇者の出方を見るというものもあった。

これではっきりしたが、勇者は既に「戦闘を終わらせる」方向に傾いている。魔王を殺したいとは思っていない様子だ。

到達者が三名いる異常事態で、これをはっきりさせることが出来たことは大きい。

今後は、勇者も消す対象に入るだろう。

最悪の手段は、今は保留する。

だが、もしもの場合は。

「グラント帝国と、キタンの動きは」

「どうやら、キタルレアを捨て石にするかも知れないと、気付いた様子です。 密偵を動かして、水面下で協調行動を始めています」

「ふむ、そうか」

「如何なさいますか。 制裁であれば、簡単ですが」

捨て置けと、聖主は指示。

フローネスは、もう一度、硝子の筒を見つめてから退出することにした。

あれは。

福音と呼ばれたあれは、何だ。

この世界に散布されている、寄生型ナノマシンとは別なのか。

もしそうだとすると、どのような目的で散布するのか。

人間は変わらないと、聖主は言っていた。確かに聖主が作ったエル教会を、搾取のための組織と作りかえ、戦争を繰り返し、今もエゴのまま蠢いている。それが世界に蠢く人間達だ。

如何に誰もが感動する演説を行っても、人間は変わることが無い。

恐怖を見せたところで、それも何世代かすれば忘れ去るだろう。

だとすると。

聖主の目的は、或いは。

もしそうだとすると、少々厄介だ。聖主の下から離れる気は無い。だが、その下で実務を担当したいというフローネスの野望は、挫かれてしまうかも知れない。

それは、困る。

しかし、魔王は殺さなければならない。勇者も、多分殺す必要が出てくるだろう。

今はまだ、行動するときでは無い。

ガルフとすれ違う。

一瞬だけ、視線を合わせるが。特に語り合うことも無い。そのままフローネスは、思索のため、自室へと退出した。

 

4、さらなる混沌へ

 

魔王は、何か術式を発動した後、戦闘態勢を解除した。

短い時間だったが、激しい攻防の末である。イミナは盾をいつでも使えるようにしながら、間合いを計る。

「やはり、何か狙っていたな」

「此方をうかがっていた蠅を叩いただけじゃよ。 それに、これで蠅の居場所もはっきりしたのう」

聖主のことだなと、イミナは思った。

今回、フローネスの動きがおかしかった。だが、フローネスが、聖主のコントロールを離れているようには思えないのである。

シルンも、戦闘態勢を解く。

「魔王、話を、聞いてくれると嬉しいな」

「お前達も大変な立場じゃのう」

「え……」

「お前達は、どうして人間に与している。 仮にお前達が儂を倒したとして、その後どうなるのか、考えたことが無い、とは言わせぬぞ」

的確に、急所を突いてくる。

魔王の言うとおりだ。

もしも魔王を倒せば、人間では無いシルンに居場所は無くなる。というよりも、人間であっても、即座に英雄の座を追われるだろう。

だからイミナがいるのだ。

「その時は、私が対処する」

「ふむ、そのような面倒な事はせずに、うちに来ぬか。 皆まとめて、面倒を見てやるがのう」

「断る」

レオンが、短く、だがはっきり言う。プラムも、頷いた。

「何故断る」

「確かに人間は多くの罪業を積み重ねてきた。 もしも我らが貴方を倒したら、次に迫害されるのは、確かに我らかも知れない」

「それで?」

「その時は、私がどうにかする」

レオンはずっと悩んでいた。だが、結論はもう出ているようだった。

戦いの中、レオンの動きには悩みが無かった。だが、その理由については、イミナもよく分からなかった。

「確かに英雄としては生きられなくなるかも知れない。 だが、後の生活を静かに送るだけなら、どうにか出来る」

「やれやれ、献身的なことじゃのう。 人間は自分たちの世界を守ってくれた存在にすら、感謝できない者達だと分かった上で、それを守ろうというのか。 儂はそこまで献身的になる事もできんし、悟ることも難しい。 で、勇者よ。 そなたも、それで良いのか?」

シルンはうつむいていたが、答える。

「みんながいるなら、きっとなんとかなるよ」

「そうか。 ならば好きにするとよい」

「魔王。 貴方の力なら、憎しみを捨てれば、共存の路だって探せるはずだよ」

「分かったようなことをいうでない……」

拒絶。

魔王の身からほとばしった殺気は、あまりにも高密度だった。

同格の存在とも言える到達者の言葉でさえ、魔王には届かない。魔王はそれ以上何も言うこと無く、その場から消えた。

初めての総力戦。

だが、それで得るものは、あったのだろうか。

まだ、足りない。だが、もう少しという気がする。

イミナは、早めに到達者にならなければならない。双子の妹が出来た事だ。イミナに出来ないはずが、ない。

魔王の言うことは正論だ。たとえシルンが聖者としての無欲に生きることを選ぶとしても、イミナがそんなものは嫌だ。

どうして、シルンばかりが犠牲にならなければならない。

人間共を守って戦ったら、その見返りが迫害などと言う現実は、絶対にイミナが認めはしない。

「帰るぞ」

「うん」

「イミナ殿」

「戻ったら、すぐに戦いの準備だ。 多分今回の件で、大きく世界は動く」

イミナの言葉に、レオンはその通りだと呟いた。

 

激烈な死闘の末、ヨーツレットはついにガルフを退けた。だがガルフを殺したわけでは無い。

まさかヨーツレットと互角に戦えるとは思わなかった。だが、それでも。撤退にまで追い込んだのは事実だった。

全身には、奴の持っていた大剣が刻んだ傷が無数にある。防御術式を解除したマリアが崩れ伏す。駆け寄ったクズリが助け起こした。

「マリアさん、大丈夫ですかっ?」

「大丈夫。 それより、誰か怪我はしていませんか」

「平気へいき。 ヨーツレット元帥、引き上げましょうよ。 ここ、なんだかとってもいやな空気ですっ」

「私も賛成だ」

剣をしまったアリアンロッドが、尻餅をついていた兎耳の人間型師団長を助け起こしながら言う。

確かに、此処の空気は尋常では無い。

辺りには、気付けば死臭が満ちている。この地下空間で、何か異常なことが行われていたのは、間違いない所だ。

だが、どこか見覚えがあるような気もする。

或いは、此処は。

一瞬、マリアの脳裏を、闇の福音を手渡してきた老科学者の顔がよぎった。

可能性は、あるかも知れない。

「アニアという者の意識はあるか」

「はい。 アニアちゃんは、ずっと私の中にいます」

「そうか。 陛下も喜ぶことだろう」

撤退すると、ヨーツレット元帥は言った。

そのまま、隊形を保ったまま行く。しばらく行くと、少し広めの空間に出た。たくさん本が並べられている。

そして、散らばっているのは、多分人骨だろう。

「人間は、同胞を実験台にすることも厭わぬのだな」

「そんな人ばかりじゃありません」

「そうか」

ヨーツレットが、マリアから視線を背けた。

マリアは悟る。

多分、人間と魔物が相互理解できる日は、来ないと。

それでも、最後まで諦めずに、戦ってみたい。

「魔王陛下にお会いしたいです」

「そうだな。 陛下もそうしたいだろう」

機会を設けてくれるか。

それならば、或いは。

聖主の説得は非常に難しいように思える。だが、まずは魔王から。魔王が説得できれば、聖主を説得できるかも知れない。

まだ、希望はある。

だから、マリアは諦めずに、頑張ってみようと決めた。

 

(続)