オーケストラアンサンブル金沢特別公演
G.ヴェルディ
椿姫
演奏会形式・イタリア語上演
2000.7.9 金沢市観光会館
指揮 ジャン=ルイ・フォレスティエ
演出・構成 池田 直樹
副指揮 工藤 俊幸
岡崎 正春
ヴィオレッタ 濱 真奈美
アルフレード レンツォ・ズリアン
ジョルジュ ステファノ・アンセルミ
案内役・医師グランヴィル 池田 直樹
椿姫のお話は、ナント小学生の頃から知っている。 りぼん誌の付録に、当時世界の名作・ヒット映画をマンガ化したものがシリーズであったのだ。 主人公(小説なのでマルグリット)カワイソ〜、と当時はそんな風に読んでいた覚えがあるが、 今思うと、りぼん誌は実にアブナイお話を小中学生向けの付録にしたもんだ。 (ン十年前・・・です。) ヴィオレッタ(マルグリット)にはモデルに当たる実在の女性がいたそうで、 (アルフォンシーヌ・プレシス 後にマリー・デュプレシスと改名 1824ー47) お針子としてパリで働きはじめ、才能を生かして高級娼婦までのぼりつめるも、 わずか23歳で病で死んでしまったらしい。 原作者の小デュマともつきあいがあり、彼女の葬列に加わっているとのこと。 また、ヴェルディはヴェルディで、恋愛問題で父と不仲となっていたそうで、 原作者,作曲者の想いがぎゅぎゅっと詰まっている作品なのだ。 La Traviata・・・道を踏み外した女。 何て悲しいタイトルなんだろう。 森鴎外がつけたタイトル『椿姫』は、まるで薄幸の女性ヴィオレッタへの花束のようだ。 演奏会形式と聞いていたので、てっきり合唱団は後ろに並んで歌うだけ、と思っていた。 参加体制は昨年までの選抜と違い、(一応)全員。 「蝶々夫人」の参加はキツかったし、今年は一休みの感じかな、と。 なのにフタを開けてみると、衣装を着て演技をするだと?! 気楽に参加気分がふっとんだ。 合唱指揮の工藤さんの練習は、表情のレッスンから始まった。 (笑い,怒り,泣きの表情に瞬時に変える練習) そして、日常生活から舞台の世界に近づける事。 (おおっ!ガラカメの世界だ!) 「みなさん、本番までフォークとナイフで食事を!」 「イタリア人の名前を付けて、お互い呼び合いましょう。」 (これは実現しなかったけど・・一応図書館で伊語辞書調べて決めていた) てな具合。 後ろ向きな気持ちが、すこしずつ前を向けるようになった。 第一幕 乾杯の歌 そうこうしているうちに、演出の池田 直樹さんの演技指導がはいる。 池田 直樹さんは、バス・バリトン歌手。 小学校鑑賞教材LDで毎年お顔を拝見している。 眉の間にホクロがあるので、「大仏さん」なんて言ったガキンチョもいた。 金沢で何度も舞台に立っていらっしゃる方だ。 県庁南分室の練習場で、第一幕を想定して歩く練習から始まった。 高級娼婦ヴィオレッタの屋敷は上流階級のサロン。 当然集まるのは貴族,金持ち,それからアルフレードのような田舎者・・・そしてうさんくさい連中も。 特に女性はヴィオレッタと同業者もいる事だろう。 (映画版「椿姫」で、屋敷においてある物をしっけいしていく中年女性が印象的だった。) 自分がどんな種類の人間か、自分なりにつくって、 ヴィオレッタの屋敷に入ってくる演技をする。 池田さんはベテランのオペラ歌手であり、舞台俳優でもあるので、表情つくりがスゴイ。 彼に励まされ、注意され、何度も何度も歩くだけの練習を繰り返す。 ・・・いつしか熱中して練習に取り組んでいた。 「何で演技つきなのよ〜!」と思っていたのに、本番が楽しみになっていった。 サロンに一人で現れる無粋な人間も無かろうと、男声女声が組みになる。 が、女声の人数が圧倒的に多く、一人の男声に女声が三人というありさま。 (あ、これは「トスカ」の時よりマシでしたかね。) それで各自相談して演技しろと・・・う〜ん。 そんなわけで、ご一緒する方達と打ち合わせ、男声N氏を私ともうひとりで取り合い、 もうひとりが間に入ってとりなそうとする・・・事に。 なにぶん狭い舞台の隅でやっていたので、ちょっとは見えたでしょうかね。^^; ところで、この作品が取り組んだオペラの中で一番低予算だったんじゃ・・・? プロのソリストはわずか三人、 女中のアンニーナは合唱団員、 親友フローラ,ガストン子爵,ドビニー侯爵,ドゥフォール男爵は合唱団員二人がかり。 (全曲演奏しなかったため、特に一人にする必要が無かった) 演出の池田さんは自ら歌い、なんと小道具大道具まで用意なさった! 舞台の暖炉もどきは池田さんのお手製・・・そういや、この方は料理も得意とか。 低予算におさえるためもあるでしょうが、何か作るのがお好きな方なんですね。 予算といえば、何と言っても衣装! ソリスト五人分の衣装以外は、全部自分で用意する事に。 これにはホントに女声はみんな困った。 もともとソロ活動をしている方は問題ナシ、 そんな方から借りた人、 手作り(えらい!!)、 所属合唱団のユニフォームをアレンジした人、 貸衣装の払い下げ・・・。 中にはドレスアップをやめて、進んで男装ギャルソンになった方も。 私は合唱団仲間に借りたふくらはぎ丈のフォーマルドレスに、 同系色の布を買ってきて足が全部隠れるようなペチコートを作った。 (いや、義母に作ってもらった) パニエ付きだったので、けっこうそれらしく見えた。 唯一カネをかけたのが手袋。 今はたんすの肥やしと化しているが、再び使う事は・・・無いだろうなぁ。 さて本番、観光会館の舞台にオケが並んで、 合唱団&ソリストが演技する幅は3m・・・あったかな? とにかく狭い! その上、上手側はバイオリン,下手側はチェロの弓が伸びてくる。 (特に真横に伸びるチェロの弓がこわい!) 2幕の終わり、アルフレードが他の客達を呼ぶ場面、 ほんの数小節で何十人かの合唱団がダダダッと舞台になだれ込む場面がホントに大変でした。 オケがピットに入っている舞台なら、何の問題も無い場面なんだろうけど。 とにかく練習ごとに自分が立っている位置が違うという・・・。 この場面の歌は、速いし、アドレナリン出しまくり! みんなしてヴィオレッタを侮辱したアルフレードに怒りをぶつけ、「出て行け!(va!)」と罵ります。 今、歌えと言われても歌えません。 歌えるようになるのも、覚えるのも、そして感情をむき出しにするのも大変でした。 その後、アルフレードの父,ジョルジュが後ろから登場。 彼が入ってくるのを計算して立たねばなりません。 (その日、その時によって立ち位置が違うというのに・・・) それだけ苦労していながら、後日地元新聞評を読めば、 「合唱団は表情に乏しい(・・のような表現だったと思う)」。 ううっ、 舞台は奥深い!! 本格的なオペラ体験は、この「椿姫」でしばらくおさらば。 プロからいっぱい指導を受けて、みんなで悩んで相談しあって・・・ こんな機会はもう無いかも・・・・なんて思うと、しんどい練習もなつかしい。 (中央左が指揮 ジャン=ルイ・フォレスティエ 右が池田 直樹氏) (打ち上げにて 主役二人と指揮) |