お寺ワンダーランド
ファンシィダンス
今年の白山登山の途中、下山してくるたくさんの若い雲水達と出会った。 おとなり、福井県の禅宗(曹洞宗)の名刹,永平寺の雲水達だ。 みんながみんな作務衣に薄いアノラック(天気がいまひとつだった)、アタマに手ぬぐいを巻いて。 重装備の我々に比べてなんとも軽装備、 荷物も方にビニール袋そのまま担いでいるだけだし、薄いズックで駆けるように下りてゆく。 (一体ワタシらのたいそうな格好はナンなんだ、と思ってしまうくらい。) それが何人も何人も、次から次へと大勢「オハヨウゴザイマス」と下山してくるものだから、 「全部同じカオに見える・・・」 「ひょっとして同じ人に何度も会っているだけだったりして・・」 「きゃ〜!クローンだったりして〜!」なんて、おばかなおしゃべりをしたものだった。 ☆★☆★☆★☆★ 岡野玲子の「ファンシィダンス」は、なあんと禅宗のボーズを主人公にしたマンガである。 ロックンローラーの塩野陽平は、実は禅寺の長男、将来はボーズになる身。 美人でクールな赤石真束(まそほ)のハートをようやくつかんだか、という時に、 彼は修行のためにお山,明軽寺に入山する。 キビシイキビシイ修行の日々、 斜に構えていたつもりが、首座(しゅそ・・・修行僧のリーダー格)を務めるハメになっちまう。 1年で送行(そうあん・・・修行を終えてお山を出る事)のつもりが、ズルズルと3年。 その間のヨーヘー君のあ・かるい修行生活(おてらライフ)すべて、 たいして進展もしてない恋人未満なのに、3年間待たされるハメになったマソホさんの苦悩、 ・・・人の不幸をおなかをよじって笑えちゃうのだ。 すっかり「陰陽師」でフィーバーした感のある岡野玲子だが、 オリジナルでこんなブッとんだ作品があるのだ。 この作品を読んでいると、ひょっとして原作ナシでも「陰陽師」を描いちゃうんでは・・と思えてくる。 (百面相のヨーヘー君は、源 博雅そのもの。) ‘あ・かるい’が信条の青年僧の青春モノだが、中身はむちゃくちゃ骨太だったりする。 道元禅師の肖像の首まわりみたく。 ☆★☆★☆★☆★ ワタシは「ファンシィダンス」は、映画から入った。 かの周防正行監督作品の「シコふんじゃった」が面白かったもんで、 (主演 本木雅弘 鈴木保奈美 竹中直人・・・う〜ん、周防作品のレギュラーだったのね。) 同じ監督作品の「ファンシィダンス」をビデオで借りて見たのだった。 映画の冒頭は、寒行,真冬の托鉢の実際の記録映画だ。 「あ、これはちょっと前の金沢だ。」と思った。 (ぜんぜん確かめていません・・笑。) 映画のロケ地のひとつが、金沢の禅宗の名刹,大乗寺。 地元でずいぶん話題にもなったのだが、一歩間違えれば禅宗をずいぶんコケにした内容の映画を 当時の貫首が、あえて受け入れたのだった。 この貫首様は、地元紙の人生相談はやってるわ、 足が悪くて座禅出来ない人のための椅子を考案するわ(これはかなりのヒットだった)、 ここの境内ではいろんなイベントが開かれるわ・・・。 お山の門を広く世間に開けたお坊さんだった。 (その後、別の寺院の貫首を務められ、現在は‘南老師’的立場らしい) 合唱団の知り合いが、PTAのイベントで大乗寺の境内でスーパー・パーカッションのコンサート を企画しているとか。 境内でヨーヘー君がロックコンサートしても、全然OKなお寺なんである。 (雲水さん達は普通にキビシイ修行をしていると思う・・・たぶん。) ☆★☆★☆★☆★ そんなワケで北陸に住んでいると、禅宗やら浄土真宗やら、いろんな宗派のお坊さんたちと接触がある。 残念ながら、まだ大乗寺の托鉢と出会った事はない。 が、うちわだいこを叩きながら托鉢に来る尼僧さんには、何度かウチの玄関で出会った。 ミッションスクール出身の知人は、修学旅行は永平寺宿泊だったとか。 合唱団員の浄土真宗のお坊さんは、忙しい時は墨染めの法衣のままいらっしゃる。 (そのお姿でBACHなぞを歌っている姿をお目にかけたい!) 前カレ(ミッション系大学)と今カレのヨーヘー君の対決を前に真束サンがつぶやいた一言、 「人間関係に恵まれていたのね、わたし・・」というのが、ちょっとだけ当てはまったりして・・・。 そしてそして・・・大学の研究室に、いたんですよ、禅宗のお寺の跡取り息子が。 (彼はベースギターではなく、ピアノでショパンを弾く方だった。) 彼は卒業後、永平寺に入山したのだが、修行中の彼を大学の仲間達と訪ねていったんですよ〜。 入山してしばらくは、外部との接触を完全に断たれますが、そのすぐ後でした。 ‘明軽寺’は東北にあるらしいが、福井県の永平寺はモデルのひとつだと思う。 食事の時間を知らせる魚のカタチの‘ほう’,観光客を案内するお坊さん,回廊,マンガそのものだ。 観光客と同じルートを案内してもらった後、応接室でイロイロ修行の話を聞いたのだが、 あったんですよ・・・アノ話。 番外編「角弓影(かくきゅうのかげ)」にあった、 雲水が恋人の生首を函櫃(かんき・・・修行僧のロッカーみたいなもの)に隠していたという話! 閉鎖された社会で起こりうる、ホントにあった話だろうが、 ひょっとしてこれはお寺の世界での、‘都市伝説’かもしれない。 あとから彼に送ってもらった手記によると、永平寺にもちゃんと‘七不思議’がそろっていて、 左側通行の回廊を夜中に右側を歩くと、二代目の貫首のユーレイに出会うとか・・、 まりつきの少女のユーレイが出るとか・・・。 彼自身もユーレーを見たとか見ないとか(おいおい)。 その彼がめでたく3年間の修行を終え、生家の寺院を継ぐための儀式にもおじゃまさせてもらった。 お稚児行列やらいろんな儀式のなかに、あの、法戦式がちゃんとあった。 マンガでは首座を務める陽平が、25人を相手に問答するのだが、 彼の場合、近隣のお寺の子息達が5・6人相手だったように思う。 (マンガと違って「誰が何を聞いてくるか、事前にわからない」と言っていましたが。) 儀式用のりっぱな袈裟を脱いで、なぜか網代笠を持って杖をついて、旅装で現れてきました。 どういう意味がある演出なのか、よくわかりませんでした。 ちゃんと聞いてくればよかった・・・。 そんなこんなで、私には「ファンシィダンス」の世界がわりに身近に感じられるし、 また逆に、大学の知人が、「こんなにツライ修行をしてたのね」と、改めて思い知ったのだった。 |
永平寺パンフレットの一部
だけどしっかり写真撮った・・→
この作品は、一人の青年・・陽平クンの成長物語などでは、ゼッタイ無い。 彼は不思議なヒーローである。 お山で彼はたくさんのヘマをやらかす。 それは真にドジだった・・・というものもあれど、 心のモヤモヤをセーブ出来ないものであったり、何より単に目立ちたいための確信犯的だったり。 とにかく、‘目立ちたい’‘お寺ライフを極限まで楽しみたい’で、彼は3年間の修行生活を乗り切るのだ。 お山を下りた陽平クンは、考える時間が出来た分、さまよい続ける。 ハガネのような精神ではなく、さらにしなやかな心を磨き上げているのだ。 そうして得た‘悟り’が、「真束サンとおうちに帰る事」! いいのか?・・・いいさ。 初登場は実に食えないオンナだった真束サン、 陽平クンと接するうちに、実にかわいいヒトになっていく。 (う〜ん、誤解されるかな?) 他から見るとちょっとコワい女性なんだけど、自分にまっすぐで、 とっても強いヒトなんだけど、寂しがりで、 ボーズが嫌いで、でもヨーヘー君を見守りたくって・・・。 9巻でサラダを口にほおばる真束サンには、ヨーヘー君でなくとも、ぐっと来てしまいます。 連載終了から10年以上、陽平クンはもうそろそろ落ち着いて坊主稼業についている頃だろうか。 ご両親がパワフルな方々なので、まだまだ住職にはついていないだろうな。 HPで「ナマグサ坊主のハチャメチャ人生相談」なんかやっていそう〜。 ハッキリしているのは、しっかり真束サンの尻にしかれてるだろーなー、と言う事くらいか。 |