〜くらもちふさこ〜
       
遅れて読む青春像


私は中3で萩尾望都を 山岸涼子を知った。
あの頃に会えたから、ずっとずっと心の中にしまえる作品になったのだと思う。
マンガも映画も小説も、きっとその人の生きている間の、出会うに一番いい時期があるんではないかと思う。

くらもちふさこの作品は、私にとって、『遅れて読んだ作品』だ。

くらもちふさこの作品に出会ったのは、多田かおるの死後。
イラスト集や文庫のあとがきに必ず出てくる名前だったから。
(多田先生はくらもちふさこを『お師匠さん』と呼ぶ。)
多田かおるは、くらもちふさこにあこがれてマンガ家を目指し、その後も深い繋がりがあったことがわかる。
そんな興味からくらもち作品を読んでみたのだ。


「いつもポケットにショパン」を中3で読んでいたら、もっとピアノの練習をしたのか?!
と言われれば、ちょっと困るが。(実際には絶対出会えません・・・自爆)
そうだな、もう少し音楽に対し、あのころから真摯になれたかも。
「おしゃべり階段」を高3で読んでいれば、もう少し冷静に自分を見つめられた・・かも。


今となっては、「ああ、思春期ってこんな感じだったのかな」と読んで思うくらい。
もったいない。
もっと早くに出会いたかった。


くらもちふさこは、現在はレディス誌に『天然コケコッコー』をず〜っと連載しているらしい。
まだ全然読んだ事がない。
そのうち遅い出会いをするかも。


森本 加南 須江 麻子 田代 寿子(チャコ) 星野 葵 二藤ようこ 碓井 千花
おしゃべり階段 いつもポケットにショパン いろはにこんぺいと Kiss+πr2 アンコールが3回 千花ちゃんちはふつう

ちょっと中抜けしてますが、年代順です。
えらく違うもんですが、どの頃の絵がお好き?



・・普通じゃないふつう?・・



千花ちゃんちはふつう  (1987〜1988 別冊マーガレット連載  集英社文庫)

                           千花ちゃんちはふつう 文庫表紙

ホステスだった千花(ちはな)のママが結婚した相手は、テレビで人気の大学教授。
湘南のステキな洋館に、のんべなお手伝いさんのシマさんに、一歳年上の義兄のカイ
このお兄ちゃん、ハンサムで頭はいいけど何を考えているかわからない、
まわりから、父親からでさえもこわがられている存在。
ママ以外の初めての家族のために、あまり普通でない家族が‘ふつう’の家族になるために、
ホントはとってもシャイな千花ちゃんが、毎日奮闘努力する。

「カイ」という名からは、アンデルセンの『雪の女王』を連想する。
女王についていって瞳に氷のかけらを入れられ、もとの世界に戻れなくなった少年の話。
くらもちふさこの代表作『いつもポケットにショパン』にも逸話として使われているので、
この童話を意識してつけた名だと思う。

『雪の女王』は彼の実母であり、彼女の思い出。
(母もまた、瞳に凍りを突き刺された人だった。)
母親の心の病を治そうとして、結果的に彼は愛する母を死に追いやってしまう。
でもカイは自分で自分の瞳の氷を取り除こうと、必死だったのだ。
唯ひとり、彼の目的を知る千花ちゃんは、お兄ちゃんのためにガンバルのだ。

目的をはたし、千花ちゃんに心を開いたかに見えたカイお兄ちゃんだったが、
素直に気持ちを伝えられないがために、
夫婦げんかで家を出ていこうとする母を止める千花に、冷たい態度をとってしまう。

シマさんに励まされた千花ちゃんは、お兄ちゃんの背中に、ふくらはぎに、
渾身のドツキと蹴りを入れる。
涙をぽろぽろ流して、読者も一緒にお兄ちゃんにドツキを入れるのだ。
 『おい!カイよ、お前は自分から氷の城にひきこもる気?!』って。

                  


いろはにこんぺいと    (1982〜1983 別冊マーガレット連載  集英社文庫)

                          いろはにこんぺいと 文庫表紙

チャコこと田代寿子(ひさこ)は、同じ社員用アパートに住む幼なじみの姫野 透(とおる)ちゃん
がずっと気になる存在だった。
だけど肝心な相手は、いつも別の人といい仲。
会えばついついケンカになって、まともにしゃべれない。
同じアパートに住んでいる事実だけが、チャコの安心。
そんな関係で10年目、高2で同じクラスになってしまった。
なのに、彼は今度は自分の親友とつきあい出すわ、
やっと自然に話せるようになったと思ったら、透一家が引っ越して行くわ・・。

ラブストーリーの王道のひとつ、‘幼なじみ’モノ。

ただの甘いお話にならなかったのは、小さいクンちゃんこと君子ちゃんのおかげ。
(彼女が、このお話の影の主役だったりする。)
透が大好きで、なんでもマネしたくて、しゃべり方まで透とおんなじになっちゃった女の子。
加えて太い眉毛で、スカートはいてなかったら、まるっきり男の子に見える。
少女マンガ的にはちっともかわいくないけど、中身はとってもカワイイ。
チャコが素直に気持ちを言えない分、彼女はとってもストレートで、ある意味うらやましい存在。
クンちゃんの透恋しさの行動が、結果的にチャコと透をぐっと近づける。

闘病していたクンちゃんのママが亡くなって、
お通夜の席から出されたクンちゃんが歌う「ハニホの歌」に、チャコと一緒に読者も泣ける事間違いなし。
  (ピアノ教師だったクンちゃんのママは、ドレミを日本の音名ハニホヘトイロハで教えたので、
   当然「ドレミの歌」は「ハニホの歌」!になるのだ。ハはハチミツのハ・・ニはニンジンのニ・・って。)

チャコと透の未来は見えた。(そのまま行くところまで行くでしょう・・・爆)
読者が見たいのは、断然クンちゃんの未来。
彼女を主役とする続編『こんぺいとはあまい』が存在するらしいが、
現在読む事ができるのでしょうか?
一体どの本に収録されているんでしょうか?

どなたか教えてくだされ〜!!(爆)





・・悩んで悩んで大きくなる?・・


おしゃべり階段       ( 1978〜1979 別冊マーガレット連載  集英社文庫)

                          おしゃべり階段 文庫表紙

初期の名作、ラブストーリーの教科書、
今は絶滅したような学校生活の日常、一生懸命な少年少女達。
読んでいて郷愁をさそうかのようだが、ホントのことはどんな時代にも変わらない、たぶん。


森本加南(もりもと かな)中山手 線(なかやまて せん)が、中2から別々の高校に進学し、
浪人を経て大学に合格するまでのお話。

奥手で、チビで、くるんくるんの天然パーマの加南は、コンプレックスのかたまり。
先生にはいつもおこられるんじゃないかと思っているし、
誰かにいじめられるんじゃないかといじけている。
でも、友達の粟ちゃんはサラサラストレートヘアで、あこがれの先輩といい感じ。

そんな加南に、立川先生は話しかける。

「『自信ある』部分と『自信』ない部分と、両方かねそなえているやつが魅力的だと思うぞ」と。

加南はいじめる方だった線が、バスケをするのに不利な近視と、背の低さに悩んでいる事に気付く。
彼のそれでも努力しようとする姿に、加南はなんとか自分の自信を持てる所を探そうとする。
そして、いつのまにか線が加南のなかで大きくなっていく・・・。


青少年の悩みなんて、昔も今も変わらない。
容姿のコンプレックスなんて、今時の子の方が、我々の時よりもはるかに脅迫的な悩みかも。
「ばかばかしい」なんて言う事なかれ。
いい大人が仕事で悩んでいるのも、太っていると15歳の女の子が悩むのと、
本人のなかでは悩みの大きさは同じなのだ。
真剣に悩んだ分、あとからやってくる新たな‘悩み’への、対策テキストとなってくれる。
くらもちふさこは、この作品を通して、一貫して若い読者にそう語りかけているのだ。


線と別々の高校に進学した加南は、‘たぶん生涯を通しての親友’と、
‘たぶん未来’のスターに出会う。
なんだか線と似たかんじの光咲子(みさこ)と、
真っ赤な髪&眉毛が無い、ホントは一歳年上の同級生,とんがらしことロックシンガーの真柴くん

ナゼだか加南を気に入った真柴は、加南の巻き毛がイカしてる(化石語?!)と言う。
メイクや服装や、なにくれと加南をコーディネート(!)しようとする。
大好きな線は、もう別の人とつきあっている。
真柴とつきあうも、なかなかカラを抜け出せないし、線を忘れられない。
恋に傷つく恐れから、光咲子と制服という共通項でくっつきあっていた加南は、
光咲子の真柴への恋心を知るや、お互いを縛ることなく、思いを大切にしてつきあっていく道を探る。
やっぱり線の事が好きだ、と自分の気持ちを再確認した事で、加南はコンプレックスから抜け出る。
(といっても、加南は一生何かに悩み続けるヤツである。)

くらもちふさこの作品は、どれも日常生活を大きく逸脱しない。
奇をてらう事なく、日常のなかのきらめきをみごとに表現していく。
ところが、加南のコンプレックスを解消してくれた人物「真柴くん」は、
話の中から浮いて、実に非日常的なヤツだ。
加南にふられての去り際が実にかっこよかった。
その真柴くんが、自分が好きな女とくっついちゃった男(線)の目の前で、
加南にメイクする場面、実に印象的!


加南と線が、お互いの気持ちをさらけ出して恋人同士になるまで約5年の、実に気が長いラブストーリー、
最近の刺激が強すぎるマンガを読み慣れた方には、一服の清涼剤でございます。
(宮崎 駿の「耳をすませば」を ちょっと思い浮かべます。)

                      

Kiss+πr2          (1986〜1987 別冊マーガレット連載  集英社文庫)

(「たいへんおまたせしました」と「Kiss+πr2」との2編構成。パイアール2乗と読んでね。)

                          kiss+パイアール2乗 文庫表紙

ハハオヤは蒸発し、チチオヤは狂言自殺に失敗して死に、
親代わりの祖母が死に、高2の雑賀喜由(さいがきよし)はどん底にいる。
そんな雑賀のもとに突然現れたのは一歳年上の星野葵(ほしのあおい)
彼女がくれた一枚の宝クジが2000万円に当たってから、彼の人生は180度変わったかに見えた。

始まりはドラマチックだったが、雑賀クンはフロ付きアパートに引っ越して電話を引いたくらいで、
自分の生活をまったく変えず、むしろ慎重に生き方を選ぼうとしているオトナなヤツ。
その不幸の固まりのようだった雑賀クンが、悩みながら恋人と親友を得ていく一年間のおはなし。

もう15年も前の作品なのだが、なんせ日常生活を淡々と描いているので、
あの当時の流行ったものってなんだっけ・・と読んでいるのもオモシロイ。
さりげに『101人に聞きました!』って・・・。


彼をとりまくオンナ達・・・君なら誰を選ぶ?】

〈園田冬子〉
同級生。彼のあこがれのマドンナで、クラスメートの男達の女王様。
雑賀クンの気持ちを十分知っていて‘ゲーム’を仕掛けてくる。
彼と趣味の話をすると、ツーカーの仲。
恋愛経験は豊富のようだが、同性からは嫌われており、友達はいないタイプと見る。
コミュニケーションの取り方がヘタなのを ごまかしているのではと思う。


(星野 葵)
一学年上。高校在学中は通学のバスのマドンナだったらしい。
恋愛経験はなさそうだが、バレンタインにいきなりチョコケーキをもってアパートを訪ねる積極性はある。
彼氏の事を家族にあらいざらいしゃべるが、雑賀クンと会話していると、全然脈絡が無い。
わりとどんな人とも合わせられるタイプ。


(阿保 貴子)
同級生。子供っぽく、思春期特有のテレの男言葉を高3になっても引きずっている。
雑賀クンの前にくると、さらに声が大きくなる。
素直で単純、笑顔がかわいかったりする。同性の友達は多いタイプ。
雑賀クンと同じバイトをしようとするも、いまひとつ攻めきれない。


【彼の親友・・・と言えるのか?】

(青沼 文男)
雑賀クンが誰かと組むのが面倒くさくって、あまったヤツとくっついていた時からのつきあい。
彼以外話せる相手がいない。当然女の子ともつきあえない。
最新のゲームを持っては雑賀クンのアパートに現れる。
だけど決して裏が無い、ウソをつかない、彼との間に隠し事がない。


(氷見 覚)
ファッション雑誌から抜け出てきたようなヤツ。で、ニックネームがポパイ。
オカルト大好き、クサそうな事は大ッキライ、何考えているかイマイチわからないタイプ。
だけど、さりげにまわりを見渡している。
雑賀クンの冬子と葵の間で揺れる気持ちを見透かした彼は、トンデモないイタズラをしかける。


誰を選んだかって、書いてしまったらそれでおしまい。(だから書かない)
主人公以外のキャラが、どれをとっても魅力的だ。




・・あまりフツーでない音楽のお話二題・・



いつもポケットにショパン  
                              (1980〜1981別冊マーガレット連載  集英社文庫全3巻)

                         いつもポケットにショパン 文庫表紙


  「音楽だ 
    わたしのまわりのすべてが歌いはじめた
      時計の音がバッハを奏でる
        女学生のおしゃべりはモーツァルトに変わり
          きしんちゃんのポケットからショパンが聞こえた」

有名ピアニストを母に持つ高2の須江麻子(すえあさこ)は、幼なじみのきしんちゃんこと
緒方季晋(おがたとしくに)
がいるドイツへ、いつかピアノで留学するのが夢だった。

いつの間にか日本に還っていたきしんちゃんにようやく会えたのに、彼の態度がおかしい。
麻子に異常なライバル意識を抱き、
ちいさい頃麻子をかわいがってくれた季晋の母が、ホントは麻子を憎んでいた、と言うのだ。

きしんちゃんの母華子は、麻子の母愛子とピアノのライバル同士であり、恋愛においてもそうだった。
そして、華子さんは自分が腱鞘炎でピアノが弾けなくなったのも、
愛していた村上 稔(麻子の父)が去っていたのも、
すべて愛子のせいだと信じ、息子季晋には、絶対麻子に負けさせたくなかった。
列車事故で愛子は死に、失明の危機に陥った季晋は、母の角膜を移植され、失明を免れる。
(アンデルセンの『雪の女王』のたとえ。季晋は母の角膜という『氷のかけら』を目に入れている)

憎いと思う反面、幼い頃を一緒にすごした麻子を大切に、そして愛しく思っているのに、
季晋は、麻子に勝つ事だけが母に対する供養だと信じ、コンクールで挑んでくる。
だが、その季晋の腕も、腱鞘炎にかかっていた。
‘ピアノに愛されたきしんちゃん’の腕を守るべく、麻子は動く、ピアノを奏でる・・・。


冒頭のモノローグは、物語の最後のネーム。
作者は、物語を描くにあたって、最初の幼年時代の話と終わりのネームから出発したという。
ここからステキなタイトルが生まれたわけだが、
物語の終わりから、未来へ続く道が出発している事を表す、見事なネームだと思う。


くらもちふさこの代表作のひとつではあるが、この作家の作品の中ではかなり異質。


ロック関した作品が多いのだが、この作品はど・クラッシック
ヒロインのラブストーリーは、
物語の終わりでようやくスタートライン
これでもか、これでもかとヒロインに降りかかる
苦悩
「死んだ」と聞かされていた父が現れたり、これがまた新進の指揮者だったりで、何だか
ドラマチック
‘腱鞘炎(けんしょうえん)’なんてコワ気な言葉を聞くと、まるでスポ根

絵柄も、物語に合わせて何だか劇画調で陰影が深い。
ピアノを弾く手の表現が、女の子の手と思えないくらい関節ポキポキでおっきいのだ。
そうだな、
ちばてつやの絵が、「あしたのジョー」に合わせて劇画調になったように。
ただし、ちばてつやは「あしたのジョー」が終わったら元の表現方法に戻った。(by BSマンガ夜話)
くらもちふさこの場合、もとから時代に合わせて変化していく作家でのようある。
「いつも・・」は、この時期のくらもちふさこの絵柄に、ピッタリの物語だったのかも。
なお、ファンサイトでみたところ、くらもちふさこは5歳から18歳までピアノを続けたそうで、
結構説得力のある表現になっています。


蛇足ですが、
いったい一日どれだけ練習したら腱鞘炎になるんでしょ?
わたしゃ三時間練習したら、肩がこりにこってもうダメモードだった&もともと根性が無かった故に、
まったく縁が無い言葉です。
なんですが、最近得た情報。
合唱指揮のS先生が、ピアノの初心者状態で芸大声楽科受験のためだけに、
一日八時間,一年半練習
して腱鞘炎になった、などというお話をしてくれました。(は、八時間・・・白目)
人によって違うでしょうが、参考記録ってところでしょうか。
 
        高校の定演で麻子がラフマニノフのピアノ協奏曲
        第二番を演奏する場面。(2巻)
        左下がきしんちゃん。
        ラフマニノフのピ−コンと言えば、映画音楽でも有名
        ですが(なんつー映画だったか忘れた)、
        それとは別に、映画「シャイン」でも取り上げられてい
        ます。(でも同じ2番だったか忘れた
←いいかげん
        主人公の音大生は、この曲に全身全霊を打ち込む
        あまり、身も心も破滅してしまうんです。
        (実話をもとにしています。あ、狂ったままとは言え、
        いちおう立ち直るんですが。)
        こんな曲、音楽学校とは言え高校生にやらせる?!
 いつもポケットにショパン 2巻より 

では、いつものくらもちふさこのコンセプト、「日常のなかの輝き」はどうなったか。
しいて言えば麻子の母親、須江愛子の教育方針か。
子育てはほとんど全部自分の母親に押しつけた形の愛子さんですが、
とにかく自分の娘には、出来る限り自分の事は自分でやらせ、生活力をつけさせたかったようで。
麻子はピアノを弾く手でシチューを作る、裁縫する、重いモノを持つ、殴り合い(おい!)までする・・・。
日常に息づくリズム、人々の心が、ピアノを弾く心に通じるという愛子さんの信念だったようです。

麻子が愛子さんとの親子関係のなかで、どんな人間に成長していくかがなかなか興味深い。
「ただでさえカオを会わせないのに、たまに会っても全然甘えさせてくれない冷たい母親」のはずが、
麻子の成長に伴って、母親を見る目が変わっていく。
麻子が母愛子の教育方針に気が付くのと同時に、
冷たく見えるのは、実は母が人とのコミュニケーションを取るのがとっても不器用であるせい、と気付く。

親子でも麻子は愛子さんのようにはならない。
次第に音楽で語れるようになっていく麻子は、
それと同時に、言葉にしなければ絶対伝えられない事がある事も学ぶ。
だから彼女はとってもおしゃべり&おせっかい。
(あまりにストレスをため込む生活のため、髪の毛が少ないのがちょいとカワイそうだったりするが)
偏屈モノだらけの音楽家の登場人物の中で、小さい頃から「不器用だ」と言われ続けた麻子が、
実は一番、人間関係を 逃げたりせず器用にこなしていけるタイプなのだ。
個性を押し出す季晋に対し、
麻子はたぶん、アンサンブルが得意なピアニストになるんじゃないかしらん。




アンコールが3回   (1985〜1986 別冊マーガレット連載  集英社文庫全2巻)

                         アンコールが3回 文庫表紙

「いつも・・」とは180度転換、こちらはギンギンの芸能界。

ロック界のアイドル二藤ようこは、実は敏腕マネージャー不破 類(ふわ るい)と夫婦だった。
スカウトされたようこがデビューする条件が、不破くんとの結婚。
好きだったワケでもなく、(そりゃカッコよかった事は確かだが。)ただ、母の再婚相手がいる家から、
連れ出してもらいたい一心での事。
始まりはどうであれ、人前でいちゃつく事は出来なくとも、幸せなハズだった・・。

だけど不破くんは、「担当した歌手は必ず売れる」と折り紙付きのマネージャー。
以前担当した桂木 麗太は彼を取り戻そうとするわ、
会社の都合で新人の売り出しに不破くんをもって行かれるわ、
不破くんの元婚約者が替わりのマネージャーになるわ・・。
すっかりようこはペースを崩してしまい、新人に足場を奪われていく。

どうしても不破くんを取り戻したいために、武道館でのコンサートを成功したいがために、
ようこは事務所社長に離婚を申し出る。


15.6年前のアイドルって、こんなだったか。
現在の人気アーティストが、実にあっけらかんと出来ちゃった婚をして、
出産してさっさと復帰してくる様子を見るに、ああ、時代だなあ、などと思う。
だとすると、このお話は現在だと成り立たないのか?!
今は出産でさえ売りになる時代だもんなあ。


不破くんとまったくコミュニケーションを取れなくなり、不安定になったようこは、
ホントは不破くん目当てに近づいてきた麗太(実はゲイ)と、本気でお互い引かれ合うようになる。
そして、ふたりの密会がマスコミに流れてしまう。
離婚届に署名捺印した不破くんは、麗太と2度と会わない事を約束させ、
武道館ライブを最高のものにする約束をしてくれる。

まだ10代のようこの気持ちが、振り子か糸の切れた凧のようで、なかなか読み切れない。
(オバサンになっちまった〜)
歌を続けると決意したハズなのに、
いったい自分が何を望んでいるのか、
アーティストとしての地位なのか、
不破くんなのか、
ようこ自身もわからぬまま、ライブになる。
不破くんがまた担当を離れる事を知らされながらも、
ようこは歌いきる。

終演、満場のアンコールの声に、彼女は現れない。
照明がついてもアンコールが続くのに、ようこは現れない。
観客が帰りかけた頃、不破くんはただひとり、舞台下正面からアンコールをかける。

最後8ページは、まったくのセリフなし、モノローグなし。
(効果音とて、手書きで観客の‘ワァー’がたった1回入るだけ 爆)
読者は息を詰めて最後のシーンを迎える事になるのだ。
くらもちふさこ、最高!!