心やさしきホラー  今 市子作 ネムキ連載


                     百鬼夜行抄




「妖魔と共存する飯嶋ファミリーの、愉快でちょっぴり怖い日々を描いた傑作シリーズ」
というのがこの作品のキャッチフレーズ。

はじめはちょびっと劇画調の絵柄があまり好きではありませんでした。
(ふわっとした色調のカラーのイラストはとっても美しいですが)
でも、何度も読み返すうちに、表情の描き分けがとっても巧い,年配の人物の表現があたたかい,
そして‘世の中の役に立たないもの’へのいとおしい視線に、ぐいぐいはまっていきました。

今まで読んできたホラー物のなかでは、とても読後感があたたかな作品です。
どちらかというと‘癒し系’で、ホラー好きな方にはちょっともの足りないかもしれません。
よくよく読めば、結構深刻などろどろしたお話、悲しいお話もあるんですけど。
でも、「飯嶋ファミリー」のキャラクター達の妖力のせいでしょうかね、
どんどん引き込まれていく事、間違いなし。


私は人様からお借りしたコミックスでこの作品を知り、文庫で買いそろえました。
掲載されている「ネムキ」誌が隔月発刊であり、時々別の作品掲載もあったりで、
1995年から連載が続いているわりに、作品数は少ないです。
一話読み切りなので、どのお話から読んでもOK。
(背景を知りたければ、もちろん初めから 笑)

しかし、書店で探すのには苦労します。
特に「ネムキ」誌(朝日ソノラマ)は小さな店には絶対出ていませんな。


私的にコワイ系話のラインナップ。
「人喰いの庭」(1995  文庫1巻)
「神借り」(1996  文庫2巻)
「封印の家」(1997  文庫3巻)
「反魂術の代償」(1998  文庫3巻)
「人形供養」(1999  文庫4巻)

結局一番コワイのは、妖魔達に心を明け渡してしまうくらいの人間の妄執だったりします。
特に「人形供養」は救いがなくって、どうにかしてくれ〜状態です。


私的にちょっと泣ける系話のラインナップ
「闇からの呼び声」(1995  文庫1巻)
「雪路」(1997  文庫2巻)
「言霊の木」(1996  文庫3巻)
「不老の壺」(1999  文庫4巻)

当然コワイ系とダブるのですが、うるると来たり。


結構笑える又はほんわか系話のラインナップ
「桜雀」(1995  文庫1巻)
「夏の手鏡」(1997  文庫3巻)
「青い鱗」(1998  文庫3巻)
「行李の中」(1998  文庫4巻)

いや、どのお話読んでいても笑えるところはあるんですけど。


文庫一巻表紙 律と司


「飯嶋家の人々」

*主人公 飯嶋 律*

初登場時は高一、一浪して現在大学生(何年なんだ?)。
小さい時から、‘人には見えない物’が見える事で苦労をしてきたらしい。
人間の友達を持てずに成長してきたが、そのワリにノーテンキでやさしい男の子。
これは、‘バケモノ屋敷’に暮らしてきたわりにノーテンキな祖母と母の影響か。

だが、連載の一話目(闇からの呼び声)から、いとこ達とのかかわりから人間関係が広がり、
人間と妖魔達との世界をしなやかに生きられるようになってきている。

強い霊感はあっても、妖魔達に対し別段何が出来るわけではない。
律に出来る事は、妖魔達の声、妖魔に心を奪われた人間の声を聴き、
出来る限りの解決策を練る事くらい。
(受験の時に、律が言っていた「やりたい事」ってこの事か?)
でも手に負えないと知るや、さっさと逃げようとする所が、まあ彼らしくてオモシロイ。



*祖父 飯嶋 怜(りょう)*

作家でペンネームは飯嶋 蝸牛。
律の霊感は怜の血筋。
妖魔達を使役し、人間と妖魔の世界を自在に行き来した。
若き日の怜は、「鬼の居処(文庫4巻)」で単独で語られている。
どうも律達は、祖父のかつての所業にふりまわされる運命のようで。

物語は彼の死から始まる。
律が早くに父を失ったのは、怜の術の失敗のせいだった。
自分の死に際し、同じ力を継いだ孫の律を守るために、用心棒を付けていった。
死んで十数年たつのに、いまだにそのへんをさまよっているらしい。



*子ども達の世代*

怜の子ども達、つまり律の親の世代の話が最近語られた。
(ネタばれ御免!)

長男 覚(父と対立し、家を出る。司の父)
次男 恍(姿も見せず  爆)
長女 斐(結婚し、家を出る。晶と潮の母)
次女 環(どうもキャリアウーマンらしい)
三男 開(父と対立し独立。最近まで失踪。)
三女 絹(婿養子を取り、家に残る。律の母)
四男 浄(五歳で溺死)

どの子も父の力を少しずつ継いでいるらしいが、
三女 絹以外はみんな家を飛び出してしまった。

最近になって突如現れた開さんと律の、これからの関係が楽しみ。



*いとこ達*

ふたりの従姉,晶(あきら)と司(つかさ)の存在が、律にとって大きい。
(他にまだいるのかもしれないが、存在感がない。)
律は彼女達と同じ夢をみるくらい、祖父と同じ血を分け合っている。

8歳上の晶は数々の怪異事件にまきこまれているが、実に明るいオネエさん。
大学では律の先輩。
彼女の‘彼氏’は、ホントはとうの昔に死んだハズの三郎さん。
(「人喰いの庭」では、ナント‘石’で登場した。)
人呼んで「女シャーマン」。

4歳上の司の登場が、律にとっての転機だったかも。
晶と同じく霊感少女くずれの彼女もまた、律のもとにいろんな事件をもたらす。
体に妖魔が巣くい、暗〜い少女時代を過ごす。
律との出会いが、また彼女の転機ともなった。
美人なのに、方向オンチ&のんべのカオを兼ね備えている。
母や祖母は、「司を律のお嫁さんに」と夢見ているが、本人はその気がない。
少なくとも、律にとっては気になる存在だけど。
律の事をまるごとわかって受け止めてくれそうな異性は、司くらいのものだろうに。
(逆も真なり、と思うのだけれどね。)



*同居の妖魔達*

ホントは死んでいる律の父 孝弘の体に住み込んでいるのが、用心棒の青嵐。
もとは怜の式神(術師に使役される妖魔)。
ホントは‘自由で気高い’龍の姿の妖魔なのだが、
人間の体に住み込むうちに、物の考え方が人間っぽく、トボけたキャラになっていく。
はじめのうちの「怜に命令されているから守ってやる」の態度が、どんどん変化し、
まるでホントに‘ファミリー’と化していくようだ。
妖魔も人を‘愛する’事(そう言っていいんだろうか?)が出来るのだろうか。


そして、小さなカラス天狗の尾白と尾黒。
夜はカラス天狗だが、昼はなぜだか文鳥(東南アジア原産なんだけどな〜)。
どうも作者の今 市子家に飼われている文鳥たちがモデルらしい。
律にとっての式神だが、かわいいペットであり、友達であり、家族。
「役に立たないからもののけ、役に立ったらエンジェル」と律に評されているが、
司ちゃんはこの二羽(?)のおかげで、ずいぶん笑い上戸のオネエさんになっちまった。

(このページの壁紙は、二羽が住む飯嶋家の桜の木のイメージにしました。)


文庫一巻「逢魔の祭」より



*こまった遊び仲間*

祖父怜の‘遊び仲間’妖魔の鬼灯(きちょう)。
律は一方的に彼に‘遊び仲間’にされ、次々と事件をふっかけられる。
青嵐よりも古い生き物らしいが、茶パツのオニイさん風。
かなり凶悪な妖怪だが、はり倒された経験から、司ちゃんを苦手としている。





その他の作品から


文庫「砂の上の楽園」表紙

コミックスの「孤島の姫君」、文庫の「砂の上の楽園」、
「夜と星のむこう」(マンスリーアワーズライト連載中 少年画報誌)を読みました。
今 市子のほとんどの作品は、「ちょっぴりこわい、そしてあたたかな不思議な話」です。

たとえば、文庫にあった「僕は旅をする」は、一歩間違えれば猟奇モノです。
踏切事故で死んだハズの弟が、自分の腹違いの兄に会いに旅をしているらしい。
彼の跡を追って、姉がその旅先の金沢を訪ねます。
確かに弟はそこに来たらしい。
家に戻った姉のもとに、弟は帰ってくる。
お茶を入れて部屋に戻ってくると、弟の姿は消えていたー。

最後のシーン、弟が持っていた黒い旅行カバンを開けると、
そこには、行方不明だった弟の生首が入っている。

でも、読者は「よかった・・・安らかな寝顔だ」というモノローグに、ホッとさせられるのです。



(2002 1/03 UP)