ヒロインはたくましく!
九年目の魔法


九年目の魔法 上下巻

原題 Fire and hemlock
          (火と毒人参)
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作 

         訳 浅羽莢子
        装画 佐竹美保
        挿絵 後藤啓介


       東京創元社 



 
 今後読みたい方は下の方は読まないように、な、あらすじ

 19歳の女子大生、ポーリィ・ホイッテカーはある日突然、自分の15歳から以前の記憶が二重になっている事
に気が付きます。自分の部屋にかかっている「火と毒人参」と名付けられた写真を見ているうちに、10歳の頃
のハロウィーンの記憶がよみがえってきます。
・・・・友達のニーナとハロウィーンの変装ごっこをしていて、ついつい潜り込んだハンズドン屋敷での葬式で、
トーマス・リン(トム)と言う男の人に出会った事。そして、彼から「火と毒人参」をもらった事、たくさん本を送って
もらった事、そして両親から‘捨てられた’時、支えてくれた事、・・・彼の事が大好きだった事。
なのに、自分のまわりの人たちは誰も、会った事のあるおばあちゃんでさえリンさんの事を知らないと言う。
ニーナに至っては、自分と友達だった事さえ忘れている。トムの事が好きだったのに、いつの間にやらいまいち
気に入らないセバスチャン(セブ)と婚約しているし。おかしい・・・。

 物語は自分のほんとの記憶を取り戻そうとするポーリィと共に、行きつ戻りつしながら進みます。
舞台は現実世界(出版された1980年代)のイギリス、でも、密かに魔女も現代風に(笑)存在しているのです。

 リンさんはハンズドン屋敷の女主人ローレルと離婚したばかり。何もかも捨てて、チェロ奏者としての道に進も
うとしていました。主人公のポーリィは両親が不仲で、離婚調停が進められるなか、父方のおばあちゃんの元で
暮らしています。

 ローレルの‘母親’の葬式のさなか、二人は出会います。ポーリィはほんの出来心から、‘遺言’に拠ってリンさ
んに贈られる6枚の絵画を、本来選んではいけない絵画とまぜこぜにしてしまった事で運命が変わってきます。
実はローレルは長い長い時を生きる妖精の女王。九十年に一度新しい命を得るために一族の若い女性を犠牲に
します。‘母親の葬式’は、犠牲になった女性(モートンの妻,セバスチャンの母)の葬式。そして、彼女の夫とな
る男性(モートン)は九年毎に命を得る必要がある。一族であるトーマス・リンは、そのためのストック(爆)。
(・・・ストックにする男性はローレルの好み優先(笑)、命を移し替えた後、夫にその要素が混ざるのか?)
一度は手元から離したトムを支配し続けるために、絵を媒体に「トムが話す事はすべて現実になる」魔法がかけ
られます。が、ポーリィが介在した事で、彼女にも魔法が降りかかって来るハメに。
 トムはなんとか運命から逃れようと、ポーリィに謎解きの鍵となる本を贈り続けますが、15歳のポーリィはすべ
てぶち壊してしまい、結果、ローレルによってトムと彼に関わるすべての記憶を失なってしまいます。 
 すべての記憶を取り戻し謎を解いたポーリィは、命を差し出す事となったトムの救出に向かいますが・・。


19歳のポーリィ 美人さんになったねぇ〜。


 むずかしい?むずかしい・・でも面白い!

 読んでいて結構難しい。これを書くまでに4回は読み直しましたよ、マジで。手始めは行きつ戻りつの時間軸、
たくさん出てくる本の名前、ハンズドン屋敷をめぐる謎・・・。児童書でも、かなり上の年代からでないと読めない
のでは、と思います。(数々の謎や出典をしっかりと調べたHPがありますのでそちらへ。)

 
主人公ポーリィ(10歳〜19歳)、不幸な家庭環境にも負けない、不可能を可能にするヒーロー。
                                   (ヒロインではなく、あくまでヒーローなのだ、これが。)
 リンさんとの空想ごっこでヒーローを目指す事になったポーリィは、せっかくのかわいい容姿をかまっちゃいら
れない。いじめっ子にはカラダでぶつかっていく、男の子達とサッカーに興じる。髪を一週間やそこら(もっと?)
洗わなくって気にしない。リンさんに会える事になって、さすがに金髪が茶色くなってシラミが湧いてる事に気付く
のだが、実はこれって母親のニグレクトだったりするのだ。
 「幸せ探し」をする母アイビーは、娘より下宿人の恋人の方が大事。「恋人とうまくいかないのは娘のせい」と
思ったら、さっさか娘を父親のもとへ追い出す。父親も自分の恋人に娘を引き取ると言い出せず、娘を無一文の
まま放りだしてしまう。(あくまで児童書)・・・読んでいて辛かったですよ。
 どう考えてもまともに成長しなさそうな主人公はそれでも、おばあちゃんに守られ、友だちに囲まれ、リンさんか
らの手紙や本に励まされ、りっぱに美少女戦士へと成長していく(違)のですが・・。

 「九年目の魔法」はファンタジーである事をすっぱり忘れるほど、現代の少女の成長物語として読めます。
イギリスのスクールライフを読むのも面白い、1980年代の流行を読むのも面白い。等身大の少女が思春期に
傷付き、破滅を招いてしまう様子を読むのはツライですがね。
 ま、結果的にはめでたくヒーローになり(第四部からのポーリィは実にかっこいい)、最後に14歳の年の差
カップル
が出来上がる・・のか?
 「魔法使いハウルと火の悪魔」のソフィーのように、D・J・ジョーンズのヒロインは実にたくましい。初期の作品は
男の子が主人公のようですが、解説によると1980年代のフェミニズムの隆盛に背を押されて、元気いっぱいの
ヒロインが生まれたようです。

 
 トーマス・リンがポーリィに贈るたくさんの本。これは読書キャンペーンの本か?
 「誰もこれを読まずして大人になってはいけない」と言われましても・・・
どうするよ、ウチのムスメ・・。
ワタシがちゃんと読んだ事があるのは「三銃士」だけだったんですが。
筋くらいは知っているのは「アンクルトムの小屋」「ダルメシアン」「宇宙戦争」、
題名だけなら「ナルニア国物語」「指輪物語(これはDWJの師匠の作品だね)」。
これも内容まで調べたHPがありますので・・・逃。
 すべてトムがポーリィの心の成長を願って贈った本だったはずなのですが、実はこれは裏があったのでした。
謎の核心にせまる「太陽の東・月の西」「金枝篇」「オクスフォード版バラード」に至っては、イギリスの子供たち
の何パーセントが読んでるのでしょーか。・・もちろん、これらの本の事を何も知らなくとも、楽しめます、ハイ。


デュマ四重奏団


 ♪ お ま け ♪

 リンさんはチェリストです。
 始めはオーケストラの団員として。次に四重奏団を組み、ソリストとしても活躍を始めます。
四重奏団の名前は「デュマ四重奏団」。ナゼニ「三銃士」・・・?
とにかくリン他三名は、三銃士のごとく大切な仲間であるリンのためにあきらめずに立ち回ろうとします。

 音楽が重要な鍵を握るのか・・・と思わせますが、それはナシ。 曲名でさえ出てきません。‘英国交響楽団’の
演奏した‘英雄’が、唯一出てきた曲名です。たくさんの本名が出てきて、その上音楽まで出てきちゃ、読者が混乱
する事間違いなしでしょう。あ、妖精の女王は吟遊詩人=音楽家がお好きらしいですね〜(爆)。
 各部の副題は音楽用語になっていますが、これは結構いけてます。第四部のPresto molto agitato(速く、きわ
めて激しく)は、物語そのまんまです。

眼鏡の、巻き毛オールバックのチェリスト・・・う〜ん似た方はいないか?


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