Be myself☆  


鮮やかな夕暮れの木曜日、武之内空はいつもどうり部活を終え、隣の練習場でサッカーをしている少年を見ていた。

...わたしもサッカーやりたいなぁ....。

そうつぶやきながら、その少年、八神太一を目で追う。

いままでずっと同じ季節(とき)をすごしてきた空にとって自分の知らない太一を見るのはとても楽しかった。

試合終了のホイッスルとともに駆けてくる太一の顔には試合に勝った喜びの笑みが浮かんでいる。

「なぁ空、ちょっと練習付き合ってくんない??」

太一はそういうと空の手を掴みグラウンドのほうへと走っていった。

「たいち...ちょっと、太一ってば」

有無を言わせず引っ張られて驚いていたのだろう、空は無理やりその場に立ち止まった。

「なんだよ」

「「なんだよ」じゃないでしょ?どうしたのよ、いきなり...」

「だから、サッカーしようぜ!」

「それはいいけど、わたし制服なのよ??」

「あ、そっか」

太一は一瞬曇ったような表情をみせるとグラウンドに背を向けた。

「しょうがないわね、付き合ってあげるスパッツはいているしね」

空の言葉を聞いて、太一はパッと明るい表情を見せると、再び空の右手を引いてグラウンドへ向かった。

一方、サッカー場はというと........  フェンス越しに、ギャラリーが群れをつくってサッカー部のアイドル兼エースストライカーの八神太一を待っていた。

ところどころで太一の名前が聞こえてくる。

こういう状態のときははっきりいって入りづらい。しかも太一に手を引かれているとなおさらだ。

「さすがエースストライカーね」

と、つぶやきながらグラウンドへ続く階段を降りる。

いやーーーーーーっ、などとギャラリーの悲鳴が聞こえてくる。

まぁ、当然といえば当然なのだが、太一は全然解ってない。 「なんで騒いでるんだ?」と、このくらいである。

「太一がわたしをグラウンドに連れてきたからじゃない??」

「なんで?」

空はきょとんとした顔で自分を見ている太一と目があうと、スッと靴ひもへ視線を落とすとひもを結び始めた。

「.....わかってないんだから」

「なにがだよ」

ひとつ、溜め息をつく。

「太一さん、空さん、いまから練習ですか?」

聞き慣れた声の方向に目をやるとそこには光子郎の姿があった。

「おう、お前は....今帰りか??」

太一の言葉に反応し、時計を見る。 光子郎は、時間に余裕があることを確認したらしく、

「しばらく見物していきます」

と返事を返してきた。 ゼッケンを受け取り、空は不思議そうな顔でグラウンドの中央へ向かった。

「なんでゼッケンがいるの?」

「.....」

しばらく分が悪そうにしていた太一だったが、

一度空と視線を合わせると、パンッと手を合わせて「ゴメン」と言うと、事情を話し無理やり練習を付き合わせることをあやまった。

「べつにいいわよ、いつものことでしょ」

空は笑顔で答えると、太一の肩をポンと叩き、

「がんばんなきゃね」

とつけたした。

  「あれ、あれって太一と空か?」

光子郎に向かって声をかけたのは石田ヤマトだ。

「はい、試合に出ることになったみたいですね」

「たしか、あいつのパートナーが、怪我したんだったよな」

「はい、で、代わりに空さん」

「大丈夫なのかよ、空、制服だぞ?」

「大丈夫....と、思いますけど」

試合開始のホイッスルとともに、勢い良く太一がボールを蹴り出す。 ボールの先には空が上がってきている。

太一が空を、空が太一をお互いにフォローしながら、一点、また一点と、次々にゴールを決めていく。

「ねぇ、あのこすごくない」

「制服で試合している人でしょ?」

「八神君の相手がつとまってる」

......などと騒いでいるギャラリーの姿を横目に、光子郎はその目にミミの姿をとらえた。

「ミミさん」

私服で校内をうろついていた少女は、自分の名前を呼ばれると光子郎と、ヤマトの方に手を振りながら駆け寄ってきた。

「久しぶり、光子郎くん、ヤマトさん」

「帰国してたんですか?」

「うん、パパが用があって日本へ行くっていってたからついてきちゃった」

「そうだったんですか」

「あれ、太一さんと空さんは?」

「あそこですよ」

光子郎はグラウンドを指差すと、ミミはまるで納得したかのような表情を浮かべた。

「どうかしましたか?」

と、光子郎がたずねると今度は逆にミミがギャラリーの方を指差した。

「だって、空さんの話題で持ちきりよ、制服のコがサッカーしてるって」

  ズシャッッ

「空っ!!」

膝を抱えて痛みをこらえている空のもとへ太一が駆けつける。

ヤマト達が無駄話をしている間に太一達のグループは6対4でギリギリ勝ってはいるが、少し危ない状況だった。

そこで、相手チームとボールの奪い合いをしていたところに足がもつれ今に至っているのである。

「空、大丈夫か?」

「うん、なんとかだいじょうぶみたい」

「でも.....」

「大丈夫、あともう少しよ太一ガンバろ」

太一の言葉を遮るようにして、空は痛みをこらえながら歩き出した。

太一の相手はわたししかつとまらないんだから....心の中で何度も繰り返される言葉。

膝から流れ出る血、痛む足首、痛くない痛くない痛くない痛くない..

「そらー、いったぞー」

「まかしてっ!!」

容赦なく続行される試合に終止符を打つべく空は思いっきりボールをゴールへ蹴り出す。

「試合終了」

ホイッスルとともに完成がわきあがる。 それはもちろん太一達のチームのもの。

はぁぁぁぁぁぁっ、溜め息をはきながら空は足首を押さえてその場に座り込んでしまった。

「空やったなっ」

太一は嬉しそうな表情を浮かべると空の足元に目を移した。

「あ゛...空、その足....」

「だ、大丈夫よ、これくらい」

やったねと続ける空の表情は心配させないように無理していることが、太一にはよくわかった。

「よぉし、おぶってってやる。」

え゛っ

「い、いい、いいっ」

何てこと言い出すのよ、太一っ、そんなことしたらわたしの心臓壊れちゃうじゃないっっ。

「ほら、それじゃ歩けないだろ?」

そのとおりだった。痛みをこらえて頑張ったせいで、空の足はさっきよりも痛みが増し、血が流れてきていたのだ。

「ほら」

と、太一は空の前に背中を向けてしゃがみこんでいた。

「いいってば、自分で行けるよ...痛っ」ほら見ろといわんばかりに太一は無理やり空をおぶった。

「我慢すんなよ」

照れくさそうに太一は一歩一歩校舎のほうへ進んでいく。

「うん.....ありがと、太一」

太一が進んでいく方にはギャラリーの群れができており、その前にミミ、光子郎、ヤマトが立っていた。

「ちょっと!!太一さん、空さんに怪我させたわねっっ」

「太一さん試合おめでとうございます。でも、すこしやりすぎですね。」

ミミに圧倒され、光子郎にお小言を言われ、ヤマトにいたってはギャラリーのうるささに疲れ、太一にお小言を言う気力さえなくして「ちゃんと送れ」の一言だった。

ギャラリーは太一が空をおぶっているのが気にくわないらしく、ギャーギャーと、まるで怪獣のように騒ぎ立てる始末。

「ちょっとと通してくんない?」

といっても、興奮しているギャラリーが聞くはずもなく、太一に向かっては質問攻撃。空は痛みのあまり気が遠くなるような状況での罵声攻撃。

その中からなんとか抜け出した太一は保健室へ急いだ。

ガラッ

「先生ーっ」

....いないのか。 空を保健室の治療用ベットの上に腰掛けさせると、太一は消毒道具を探し始めた。

「あれ、どこだ?」

太一の様子を見て、空は笑いながら一緒になって探し始めた。

「げ、いいって空、座ってろよ」

「大丈夫よ」

「でも.....」

「ほら、わたし保健委員だし」

空はぎこちない歩き方で探し出すと、要領よく自分の足の手当てをはじめた。

空が湿布薬を取り出すと、太一は不思議そうな顔をして、なんで湿布薬を使うのか、と問いただしてきた。

「あ、足首の方もなんか捻挫しちゃったみたいだから、一応ね」

「ごめん」

「は?」

「俺が無理やり誘ったから空....怪我して...」

「いいの。私は久しぶりに太一とサッカーができて楽しかったもの」

「空.....」

空はいつもどおりの笑顔で太一に微笑みかける。

「太一だって怪我してるじゃない」

空は太一の手を取ると素早く消毒を施す。

「空....」

太一は消毒道具を片付けようと立った空の腕をとり、自分の方へ引き寄せた。

「ち、ちょっと、太一?」

空は真っ赤になって心臓を押さえた。 まだ自分の気持ちを知られるのは怖い。

「たいち.....」

「俺、空のこと....好きだ」

「....っ....」

空の目には涙が溢れてきた。自分じゃないと思ってた。 タイチノスキナヒト。考えるだけで怖かった。

「うあっ、そ、空?」

「ありがと、太一...わたしも太一のこと好き」

太一は真っ赤になって、空の涙を拭うと空の唇にに自分の唇を重ねた。

恥ずかしくて空はしばらくうつむいたままだったが、2人は自然とお互いの手を取っていた。

大好きよ、いつまでも変わらないといいね。この気持ち。

冒険をしよう。あのときみたいに。わたしたちの心の中で。

  「ひかりちゃん、なに見てるの?」

「タケルくん」

「この間、ミミさんが帰国した日ね、お兄ちゃん達のサッカーの試合があったの。」

「それで?」

「撮ってきちゃったんだ☆空さんとのらぶらぶな写真」

そこには太一が空をおぶっているところと、抱き合っているシーンがうつしだされていた。

「どうするの?それ。」

カチッ、

「え゛?」

ひかりはおずおずと自分のパソコンをのぞいた。

「て、転送??」

そしてアドレスを見るとあて先は光子郎とミミだったので、ひかりはひとまず胸をなでおろした。

...でも、お兄ちゃんに怒られるかも....

「まっ、いっか☆」

「デジタルゲート、オープン」

.....そして、ひかりがデジタルワールドから戻った後、光子郎とミミから、「なにこれ」と太一宛に送られてきたヒカリが送った画像と

、メールでこの一件がバレ、ヒカリはたっぷりしかられることになる。

お終い


管理者からの感謝の言葉

はう・・・v太空の小説、保健室vあ〜やっぱ良い この小説を送ってくれたmeimuさん有り難うございます

そして、載せるのが大幅に遅くなってすいませんでした。


 

しあわせ〜じゃ戻ろう