『 狼男は雌羊を愛すか?』

俺は深夜の森を疾走していた。
先刻喰った野鹿の味がまだ喉の奥に残っている。
うん・・・実に美味かった!今夜は最高の満月だ!

上機嫌で走り続けていると周りの木々がまばらになってきた。
森の終わり、草原への入り口近くまで来ていた。

スピードを落とす。

俺は走るのも好きだが歩く方がもっと好きだ。
二足歩行とくらべものにならないほど四足歩行は愉快だ。
いや・・・単にリズムが俺好みなだけかもしれない。
リッキー・マーティンでも口ずさもう(無理だが)とした
その時
甘い匂いが鼻腔から脳天まで貫いた

血の匂いだ!

狼の嗅覚のおかげで匂いの主はすぐにみつかった。
子羊だ。
可哀想に群からはぐれたあげく、傷つき
森の中で震えている・・・震えている・・・俺を見て怯えている・・・

あろうことか、なんと
俺は「彼女」に一目惚れをしてしまった。

理由なんてわからない
とにかくビビッときたんだ。

「彼女」はブルブル震えて酷く怯えていたが
俺が二本足の男の姿になり
彼女の傷口をそっと舐めてやると
戸惑いながらも「メエェ」と鳴いてすり寄ってくれた。

「彼女」との同棲は想像していたよりも快適で、そして幸せだった。

「彼女」の食事は牧草だから大して金もかからなかったし
どちらかというと無口なほうだったし
何より、俺のベッドで一緒に眠ってくれたからだ。

だが、再び満月の夜はやってきた。
こればかりは仕方のないことだ。

俺は抑えがたい衝動と闘おうとしたがあっさりと負けてしまった。
(そもそも勝てるようなものなら俺は狼男なんかにはなっていない)

歯が疼き、全身の毛穴から汗が吹き出る。
剛毛が皮膚を覆っていくのが熱くてたまらない。
肩に激痛が走ると辺りに骨の音が響いた。
森の中なら大声でわめき散らすのだが自宅では我慢するしかない。
口だけでは呼吸が苦しい。鼻を使って激しく呼吸すると涎と鼻水が垂れてきた。
四つん這いになると同時に指の骨が指先の皮膚を突き破り
その勢いで爪が血を連れて弾け飛んだ。

俺が声を出すまいと必死になってシーツにしがみついてあえいでいると
「彼女」がベッドから飛び起きた!

「彼女」はキッチンへ駆け込んだが大理石の床で蹄を滑らせパニック状態になっていた。

その滑稽な彼女の「ダンス」を見ているうちに
俺は「おかしさ」と「悲しさ」とが入り交じって涙ぐんだ。

ああ・・・震えている・・・震えている・・・俺を見て怯えている・・・

あの夜と同じだ。

ただ一つ違うことといえば俺は腹がペコペコだということだった。

俺は「彼女」を愛していた。
本当に愛していたんだ。

だが、考えてみてくれ
あの牧場だって肉屋に子羊を売ってたんだ。

俺は会社の同僚がバーベキューの子羊の肉が大好物だったことを思い出して

「彼女」にサヨナラした。

END


機械魚さまがイラストを描いて(正しくは年賀状)くださったので
うほうほしながらのっけさせていただきました!
かーわいー!!!!