雪だるまへの贈り物

それはどこのお話だったのか、今ではもうわかりません。 雪の深深と降る、小さな森でのお話です。

いつのことだったか、その小さな森にいつもよりとても多くの雪が降りました。 近くの街の大人は雪かきで大忙しになりました。 近くの街の子供たちは、大雪で外に出られなくてつまらない思いをしていました。 いつもより多くの雪は、森や街にゆっくりと降り続きました。

ある日、降り続いた雪がやみました。 大人たちは雪かきを終えて一息つきました。 子供たちはわれ先にと森へと飛び出していきました。 真っ白な雪に覆われた森は、子供たちの絶好の遊び場でした。

子供たちが森に辿り着くと、そこには一つの雪だるまが作られていました。 誰が作ったのかもわかりません。 雪だるまは森の片隅にひっそりとたたずんでいます。 子供たちは少し戸惑いましたが、しばらくすると雪で遊ぶのに夢中になりました。

子供たちが帰ったあとには、雪だるまが残されました。 雪だるまの横には、子供たちが作った雪うさぎが沢山並んでいます。 降るような星の中、雪だるまと雪うさぎは静かに空を見上げています。

その空に、何かの光が走りました。 光は尾を引いてゆっくりと空を走り、鈴の音を響かせながら雪の大地に降り立ちました。 雪の大地に降り立ったのは、トナカイに牽かれたそりでした。 そりには赤いコートを着た女の人が座っています。

女の人はそりから降りると、雪だるまたちに言いました。
「今日はクリスマスです。貴方たちにプレゼントをあげましょう。 何が欲しいですか? なんでも差し上げましょう」
雪だるまは言いました。
「私は何も要らないよ。その分でほかの誰かを幸せにしてあげてください」
雪うさぎは言いました。
「雪だるまさん雪だるまさん。せっかくだから何か貰ったら? そうだなぁ、飾りを貰ったら? そうしたら綺麗になって、皆が良くしてくれるよ」
雪だるまは、笑いながら言いました。
「いやいや、私は飾りなんて要らないよ。 飾りなんかつけたって、体が重くなるだけだもの。 飾りなんてつけたって、私そのものが綺麗になるわけじゃないからね」
雪うさぎは首を捻りました。
「そうかなぁ、でも私はちょっと、飾りが欲しいな」
「それでは貴方に飾りをあげましょう」
女の人は、雪うさぎに飾りをあげました。 雪うさぎは喜んで、飾りを持って行きました。

二匹目の雪うさぎは言いました。
「そうだ、足を貰おうよ。そうすれば誰かの元に歩いていける。 寂しい思いをしなくてすむよ」
雪だるまはそっと首を振りました。
「いやいや、私に足は要らないよ。 暖かいところへ歩いていったら、私は溶けてしまうのだもの。 それに私が歩いていかなくても、誰かそばに来てくれることもあるからね」
「そうかなぁ。でも、私はほかの誰かのところへ歩いていきたいな」
女の人は微笑んで言いました。
「それでは貴方に足をあげましょう」
雪うさぎは喜んで、小さな足で街へと跳ねていきました。

「それなら雪だるまさん、手を貰ったらどう? そうすれば大好きな誰かを抱きしめることだって出来るよ」
雪うさぎは言いました。けれども雪だるまは笑って首を振ります。
「いやいや、私に手は要らないよ。 私が誰かを抱きしめたりしたら、その誰かは凍えてしまうもの。 それに抱きしめたりしなくても、大好きだという気持ちを伝えることは出来るからね」
雪うさぎは考え込みました。
「そう? でも私はやっぱり誰かを抱きしめる手がほしいなぁ」
女の人はそっと雪うさぎに手をあげました。 雪うさぎは嬉しそうに誰かを抱きしめに行きました。

4匹目のの雪うさぎは言いました。
「じゃぁ雪だるまさん、目を貰ったらどうかな。 目があれば、景色や周りにいるものを見ることが出来るよ」
「いやいや、私には目も要らないよ。 じっと見つめたりしたら、森の木々も疲れてしまうもの。 それに見つめることが出来なくても、周りの空気を感じ取ることは出来るからね」
「そうかな。でもやっぱり私は周りを見たいな」
4匹目の雪うさぎは目を貰うと周りを見に行きました。

「それなら口はどう?」
5匹目の雪うさぎは言いました。
「言葉を話す口があれば、自分の気持ちを伝えられるよ」
雪だるまは微笑みました。
「いやいや、私には口も要らないよ。 突然雪だるまが話し出したら、みんなびっくりしてしまうもの。 それに言葉じゃなくても気持ちは伝えられるものだからね」
雪うさぎは首を振ります。
「ううん。やっぱり言葉が一番気持ちを伝えられるよ。 私は口がほしいなぁ」
女の人に口を貰うと、雪うさぎは嬉しそうに笑いながらどこかへ行きました。

「それじゃぁ……それじゃぁ耳はどう? みんなの気持ちを聞くことが出来るよ」
雪だるまは、優しそうな目で6匹目の雪うさぎを見つめました。
「いやいや。私には耳も要らないよ。 言葉なんか要らない。そばにいるだけで、何でも分かり合うことが出来るのだからね」
6匹目の雪うさぎは考えました。
「そうかな。そばにいるだけじゃわからないこともあると思うよ。 私は耳がほしいよ」
耳を貰った雪うさぎは、嬉しそうに梟の鳴き声を追っていきました。

7匹目の雪うさぎは一生懸命考えました。
「えぇと、えぇと」
雪だるまは愛しそうに雪うさぎを見つめました。
「そうだ、雪だるまさん、冬がずっと続くようにしてもらおうよ。 だって、春が来たら私たち皆溶けて消えてしまうんだもの。 ずっと冬のままなら、いつまでも溶けずにいられるよ」
雪だるまは、優しく頭を振りました。
「いやいや。私はずっと続く冬なんて要らないよ。 冬がずっと続いたりしたら、皆凍えてしまうもの。 雪の下で眠っている生き物も、起きられなくて運動不足になってしまうよ。 それに私は溶けてしまうことが嫌ではないよ。 溶けて、大地に還って、ほかのみんなの糧になるんだ。 私は大地になるんだよ。こんな素晴らしいことがほかにあるかい?」
雪うさぎは言いました。
「でもでも、私はやっぱり溶けたくないよ。 ずっと続く冬が私は欲しいな」
女の人は、雪うさぎをずっと冬が続く国に送り届けました。 雪うさぎは嬉しそうに雪野原を走りました。

最後に残された雪うさぎはもう何も思いつきません。
「雪だるまさん、雪だるまさん。 私は、雪だるまさんに幸せになって欲しいんだよ。 どうしたら雪だるまさんは幸せになれるの?」
雪だるまは言いました。
「私は今、もう十分に幸せだよ。 飾りもないし、歩くことも、抱きしめることも、見ることも、聞くことも、話すことも出来ないけれど。 でも、私は幸せなんだよ」

雪だるまは周りをゆっくりと見回して言いました。
「森の木々は優しく日の光をやわらげてくれる。 鳥たちは飛び回って美味しい空気を運んでくれる。 子供たちは君たちという友達を作ってくれた。 君たちは私を幸せにしようと、一生懸命考えてくれたじゃないか。 こんなに幸せなことは無いよ。 だから、私の願いは皆が幸せになってくれることだよ。 私を幸せにしてくれた皆が、もっと幸せになってくれれば、私はもっと幸せになれるんだ」

雪うさぎは雪だるまを見つめました。 雪だるまは本当に幸せそうに笑って言いました。
「私は、君たちが幸せになってくれることが、一番嬉しいんだよ。 だから、飾りや足や手や目や耳や口や、ずっと続く冬が君たちを幸せにするのなら、 それが一番嬉しいんだ。さぁ、君もあの人に一番欲しいものを貰いなさい」
雪うさぎはいいました。
「私は、雪だるまさんが幸せになってくれることが一番嬉しいな。 雪だるまさんが幸せになって、笑ってくれることが一番嬉しい。 一緒にいられれば、雪だるまさんは笑ってくれるよね。 雪だるまさんが何も要らないなら、私も何も要らないよ」
雪だるまは、優しく笑って雪うさぎを見つめました。

女の人は穏やかに微笑んで雪だるまと雪うさぎを見つめました。 そして、一言言いました。
「永遠に続く幸せは、要りますか?」
雪だるまは笑って言いました。
「いやいや、そんなものは要りません。 わざわざ作り物の幸せを頂かなくても、この胸にしっかりと幸せな気持ちは根付いています。 その分の幸せを皆に分けてあげてください」
女の人は頷きました。
「では、私はこれから世界中の人々に幸せを配りに行ってきます。 世界中の人々が幸せになれるように、その願いをかなえる手伝いをしてきます。 いつまでも貴方たちが幸せでいられるよう、祈っています」
優しい微笑を残して、女の人はそりに乗りました。 軽やかな鈴の音が、静かに空に溶けていきました。

雪だるまと雪うさぎは、次の日も並んでいました。 その次の日も、またあくる日も、ずっとならんでいました。
いつしか暖かくなったころには消えてしまいました。 雪だるまも雪うさぎも、解けて消えてしまうまで優しい笑顔を浮かべていた、ということです。



おしまい。

+コメント+
この話はサークルで作る紙芝居のために書いたものです。
幸福の王子っぽい話になってしまいました。
幸せの形は人それぞれです、というお話。



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