どうして雨は降るんだろう。

薄暗い公園のベンチに腰を下ろしたまま。
考えても仕方の無い事が、つらつらと頭の中をよぎっていく。

クダラナイ疑問。

それを真剣に考える一方。何やってんだか、とため息をつく自分がいる。
額の形が気になるから、普段は絶対あげない前髪。
けれど今は、額にベタリと張り付く感触が嫌でかきあげている。
どうせ誰もいないし。黒々とした髪が、水を吸ってよりいっそう重たい感じだ。

ふと、ポケットに入れたケータイを思い出す。

屋根を叩く雨の音に起こされて、なんとなく深夜の散歩。
・・・家にある傘が――といっても全てビニ傘だ――ことごとく壊れていたので、手ぶらのまま。
ポケットにケータイと財布と家の鍵だけ。

家を出てもう1時間ほど。全身、濡れてないところなんてない。
―――この上着、防水じゃないんだよな・・・。
手をポケットに突っ込んでみれば、濡れた布のぐじゃっとした感触。

ケータイ、もう使えねえかな・・・。

それもいいか。

ぼんやりと考えながら上を見上げてみる。
青白い街灯の蛍光灯の光に、細かな水滴がきらきらと反射して、綺麗だった。

―――ああ、なんか埃みたいだな。

体育館に日が差し込んだときに見える、舞い上がる埃のようだ。
綺麗なんだか、汚いんだか。

ま、別にいいんだけど。

家を出たときよりは、小降りになった雨が顔にあたってちょっとくすぐったい。

こんな雨の日は、普段考えないようなことばかりが思いつく。
自分の存在とか、なんかそういう、根本的な部分が細かく震えるような感じ。
雨に癒されもするし、孤独にもさせられる。

―――あ・・・雨に躍らされてるってーのかな・・・。

散歩なんかしちゃってるしね。ちょっとそんな自分が可笑しいし、愛しい。

顔を上にむけたまま、目を閉じる。
額に落ちた水滴が、重力に引かれるまま頬をすべる。
目頭のくぼみに溜まった雨水が、まるで涙のようにつたって、唇の端から、口内に転がり込んだ。

舌先に、生ぬるい水滴。
味があるわけでもないし、キタナイってこともわかってる。ついでに身体にも悪そうだ。
でも。

―――あ・・・。

目を、あける。
街灯の灯りがまぶしい。
相変わらず、降り続ける雨。

意識せず、顔が綻んだ。

―――雨って、なんか、懐かしいんだ・・・。

なんでだろう。子供のころの記憶とか、そんなんじゃなく。
揺さぶられる記憶。



ずっと変わらないからだろうか。
雨は酸性になったけれど、雨が降ることは変わらないから。

水は、熱せられ、水蒸気になり、雨になって、大地へ帰り、河をつくり、海になる。
海の水はまた雨になる。足元にある、濁った水溜りでさえ、地球という小さな檻の中で静かに循環を続けている。


それは、いつの頃からか。
何千年、何万年と、この星で続いてきた静かな儀式のようで。

水には記憶がある―――。
遠く遠く、この惑星に生命が誕生したときからの、太古の記憶。

水なんて、酸素と水素の結合物だなんてこと、わかっているけれど。それでも。


身体の中に息づく、古代の記憶がある。
指先にまで伝わる 細胞の記憶。
ヒトという種族によって受け継がれてきた、DNAの螺旋のなかに、間違いなく。
大地を、水を。
求める記憶がある。

―――ちょっとセンチメンタルに過ぎるか・・・。
くすりと笑いがこぼれる。

でも、こんな日も悪くない。
舌先で、もう一度唇を濡らす水滴を掬い取って、よしっとばかりに立ち上がる。

ポケットからケータイをとりだした。
目で追わなくても、指が覚えている。
リダイヤルで1発。コール5回目。優秀なほう。
「・・・もしもし?今からいく。ん・・・ちょっとね、イーことがあったから。あと10分くらいでいくから・・・」
あと10分あたりで、突然電話が切れた。
―――ぎりぎりセーフ・・・かな。
液晶も死んでる。

まあ、こんなのもアリでしょう。
なんだか今日は、気分がいい。
あったかい寝床も確保できたし。


そんなことに関係なく、やっぱり雨は降り続いているのだけれど。

終わった。

+コメント+
ポウ様のHPで345HITを踏んだために頂きましたv
大分苦労されたようですが、そのかいあってか良い雰囲気です。
どうもありがとうございましたv

ポウさまより頂き物。


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