クリスマスの贈り物

山の中の小さな町に、一人の女の子が一人で住んでいました。
女の子の名前はココ。 誰にでも優しい子だったので、町の人は何かとココの世話をしていました。 ある年のクリスマスの事です。ココは近所の小さい子と遊んでいました。
「今日は、クリスマスだね」
小さな女の子が嬉しそうに言いました。
「クリスマスって、何をする日なの?」
ココが聞きました。子どもたちは口々に答えます。
「大きなツリーを飾るんだよ」
「サンタさんにプレゼントをもらうんだ」
「お母さんが、ケーキを焼いてくれるのよ」
ココは子どもたちの話す"クリスマス"の話をひとしきり聞くと、夢見るようにいいました。
「ああ、なんだかとても楽しそうね」

夕方になり、みんなが帰った後、ココはベンチに座り込んで外を眺めていました。
いつもと変わりない、冬の冷たさがあたりを包んでいます。
「今日、本当にそんな素敵なことがある日なのかしら。 いつもとおんなじようにしか見えないけどなあ」
ココはみんなの言うクリスマスの様子を想像してみました。

『お母さん、ツリーの飾り付け、出来たよ』
『お母さん、今日はサンタさんにお人形をくださいってお願いしたの』
『お母さんのケーキ、おいしいね』

クリスマスの風景を考えてみると、そこには暖かい家族の団欒がありました。 ココは、なんだか悲しくなって、泣き出してしまいました。
「どうして、私にはお母さんがいないの?  わたしも、一度でいいからみんなみたいに楽しいクリスマスを過ごしてみたい」
ココは泣き疲れてそのうち眠ってしまいました。

日もすっかり落ちた頃、空には針金のように細い月が昇りました。
その空を、トナカイのひくそりが滑っていきます。 ゆっくりと方向を変えて、そりは鈴の音を響かせながら大地に降り立ちました。 そりには優しそうな女の人が座っていました。 女の人は、眠っているココを見ると、優しく微笑みました。
その時、ココは目を覚ましました。
「赤い服……白い袋……もしかして、サンタさん?」
女の人は頷きました。
「なんでも一つ、あなたにプレゼントをあげましょう。何が欲しい?」
ココは言いました。
「私、お母さんが欲しい。みんなみたいに楽しいクリスマスをしたいの」
女の人は言いました。
「それなら、簡単ね。あなたのお母さんは私なのだから」
ココはびっくりしました。
「あなたが、私の……お母さん……!?」
「ココ、ごめんなさいね。寂しい思いをさせてしまったわ。 サンタクロースの町はサンタクロースじゃないと入れないものだから」
ココはお母さんサンタに抱きつきました。
「お母さん、お母さん!」
「さあ、お母さんからココに最初のクリスマスプレゼントをあげましょう」
お母さんが、そっと小さなガラスの玉をココに渡しました。 ガラスの中に、小さな星のついたクリスマスツリーが入っています。 手の中で、クリスマスツリーはくるくる回ります。 それにあわせて、かわいい音楽が響いていました。
ふとココが空を見上げました。
「……うわぁ……綺麗……」
空からふわふわと綿のような雪が音楽に合わせて舞うように降り出しました。 星の海から舞い落ちる真っ白な雪の結晶の中、ココはうっとりと立ち尽くしました。 繊細な音楽に彩られ、それはそれは幻想的な光景でした。

「クリスマスって、何の日か知ってる?」
お母さんがココに尋ねました。
「わからないわ」
ココが首をひねると、お母さんは言いました。
「クリスマスはね、大切な人が幸せでいられるように、心をこめてお願いする日なのよ。 その気持ちをプレゼントにこめて渡す日なの」
「大切な人?」
「そう。サンタクロースはそのお願いをみんなに伝えるお手伝いをしているのよ。 それがサンタのお仕事。みんなに夢と幸せの祈りを届けるのよ」
「夢と、幸せの祈り……」
「でも、そのためにココに寂しい思いをさせてしまったわね。 でもね、お母さんはクリスマスが来る度に、ココが幸せでいるようにってお願いしていたのよ。 その気持ちは、届いていたかしら」
お母さんはココの頭をなでました。 ココは笑顔で言いました。
「届いてたよ。クリスマスの日、私、一人だけど一人じゃなかったんだね」

2人はしばらく話していましたが、その後でお母さんが言いました。
「……お母さん、もう行かないといけないの」
ココが寂しそうに見つめる中、お母さんはそりに乗りこみました。
「お母さん、今度はいつ会えるの?」
ココが聞きました。
「次のクリスマスにまた来るわ。それまで一緒にはいられないけど……。 ……忘れないで、お母さんはココの事をいつも考えているわ」
ココは言いました。
「うん。忘れないよ。私も、お母さんが幸せでいられるようにお願いする。 だから、クリスマスまで、元気でね」
お母さんが微笑むと、トナカイが走り出しました。
「ココ、またクリスマスに会いましょう!」
お母さんの声を残して、そりは空に走り去りました。 ココは、いつまでも空を見上げていました。
いつのまにか雪もやみ、手の中のガラス玉がやさしい音楽を流していました。

それからココはガラス玉を眺めては、クリスマスを心待ちにするようになりました。
そして季節が巡って、またクリスマスがやってきました。

……さあ耳をすましてください。 そりの鈴の音が聞こえて来るかもしれません。
おしまい。

+コメント+
パネルシアターのために書いたお話。
やはり作画で泣いた記憶が。
夢の卵の代わりに出した話です。
愛は離れていても届くのか。テーマはそんな感じです。


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