岩清水さんとその弟

久々の帰省。
しかし、久々の家族団欒・・・とはいかないようだ。
それもひとえに高校3年生の弟のせいだ。

「ない頭悩ませるんだったら勉強すれば」
受験生が悩み事とはずいぶん余裕じゃないか。
しかもメシが不味くなる。

ため息をつきながら煮物を意味なく突付いている弟に、もっと姉の帰省を歓迎しろと言外に匂わす。
「・・・受験生だから悩んでんだろー」
「けっ」

一刀両断。

撃沈した弟を無視して食事は進む。
やっぱり実家はいいな。準備と片付けがないってだけでありがたい。
「オマエ性格悪くなったな」
復活した弟がぶーたれた顔をして睨んでくる。
性格か・・・。もし変わってるんなら、それはひとえに同居人の斎藤のせいだ。でも性格悪い、というのは決してマイナスではない。
「羨ましいか?」
「・・・もーいーよ」
「待て」
「あん?」
「オマエとか言うな。お姉さまと呼べ」
「マジに呼んでほしいか?」
「当然」


沈黙。



「・・・俺ももーちょっとねぇちゃんに似てりゃあな・・・」
「えっ・・・」

ちょっと今の反応はどういうことですか、母さん。

「あんたも大学に入りゃあ多少は打たれ強くなるよ」
なんだかヘコんでいる弟にフォローを入れてやる。
まあな、受験生だもんな。ちょっとしたことで弱ったりするんだろう。
我が弟ながら随分女々しいのは気になるが。
「そーかなー。やっぱ大学行った方がいーかな・・・」
「入れればの話だがな」



沈黙。



「・・・俺苛めて楽しい?」
「苛めてないじゃないか。正直者なんだ私は」
「正直にしても言い方があるだろう・・・」

まるで私が悪いみたいな言い方ですね、父さん。
しかも微妙にフォローになってませんよ。

「まあ、勉強すれば大学くらい入れるだろ。でも、その様子だと勉強以前につまってる事があるみたいじゃないか?」
「・・・・・・ん」
ナンデわかるんだ。そんな視線を向けられる。
ふん。姉の人間観察能力をなめんなよ。

「大学行くか、就職するか迷ってんだ・・・」
うんうん、と両親が頷く。
「なんで迷う必要があるんだ?」
「大学行って、何やりたいとかもないし。だったら働いた方がいいかな、って思うじゃん」
「やりたい事ないと大学行っちゃいけないか?」
「金の無駄だし」
「じゃあオマエはなんで高校行ってるんだ?」
「え?」
「高校も金かかるぞ」
「・・・だって、一応高校出とかないと職もねーじゃん」
「じゃあ、もっとイイ職につくために『一応』大学行っとけば?」
「大学まで一応でいいのかよ・・・。つーかさ、ねぇちゃんはなんで高校行って大学行ってんの?」
「ヒマツブシ」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。





「・・・サスガねぇちゃん」
「そりゃどうも」

ああ、ご飯が美味しいなあ。
やっぱり実家はいいよなあ。

これからもちょくちょく帰ってこようかな。
弟の行く末も気になることだし。




平和な家庭の平凡な食卓の風景。


+コメント BY ポウさん+
岩清水さん、実家編です。 この後弟は大学入試の勉強をしっかりやっている事でしょう。 つか、彼は家では弱いかもしれませんが、外に出たらものすごく強い気がします。 それはつまり実家では兄に虐げられて育ったポウが今とても頑丈になっている ・・・という実例があるからに他ならないのですが。 というわけで、前に宣言したとおり、斎藤くんと岩清水さんをシリーズにしてみました。
900のキリです。 777は、ありがたく頂戴しておくことにしました。 だってまだやぎの書いてないもん。
・・・ヘタしたら、『ネコ』というお題も、 斎藤くんと岩清水さんが出てくるかもしれません。 いや、いまんとこその予定はないけど。
そいじゃ、次を待っててクダサイ。

ポウさまより頂き物。


+++++MENU***HOME+++++