偽る
序
私は少し考えさせられる事件に遭遇したので少し書き留めておきたい。この事件はトリックだの推理だのは一切ない。従ってそう言った物を要求する読者に取ってはいささか不満かもしれない。
しかし、ぜひとも読んで、考えて頂きたい。なぜなら、これはトリックや推理より更に深く追求した内容なのだから。
さて、この事件を考える鍵となる言葉を私の知っている範囲で書き出して見ようと思う。うろ覚えなので正確ではないかもしれないがその辺は大目に見て頂きたい、
「人は誰でも何かしらの仮面を被って生活している」(C・G・ユング)
「仮面を被らなきゃ、恥ずかしくて生きていけないさ。問題は他人を傷付けるかどうかだ」(露西亜館殺人事件/金成陽三郎、さとうふみや))
「仮面なんて被ってられっかよ!」(仮面劇場)
「『仮面を被るとけんかなんか起きない』
『ねえ、あの話どう思う?』」(素顔同盟/すやまたけし)
「嘘も方便」(日本の諺)
私はゲーテやシェークスピア、あるいは芥川龍之介や太宰治などの優れた文学家ではない。推理作家のマネをするプログラマーなので何が言いたいのかがイマイチ解らないかもしれない。
さて、前口上はこの位にしておいて、本編に入る事にしよう。
第一章
「ねえ、仮面被る必要あると思う?」
学園祭で演劇をやることになった萌ちゃん。彼女は私の所でいつものように愚痴をこぼす。よくある光景で私に取っても、そして恐らく彼女に取っても、生活の一部となってしまっている。
彼女の話だと演劇をやるのだが仮面劇だそうだ。仮面劇と言うのは日本の能や狂言のように仮面をつけて演じる劇である。
「いいんじゃない?」
私は率直に意見を言った。
「いいよね。みんな付けてるんだし」
「うんうん」
私はうなづいた。
私は仮面について色々彼女に話した。なんでも仮面劇の説明を口上として入れるそうである。むろん、自分を偽るという心理学用語の仮面でなく、実際の顔につける仮面の話だが。
ギリシア悲劇の事、宗教用の仮面、戦争用の仮面、中世ヨーロッパの飢餓のマスクと呼ばれた拷問に使われた仮面・・・。
私は拷問具の話をすると気分が悪くなる。しかし、なぜかしてしまうのである。怖い物見たさという奴なのだろうか?
「ふうん。ジージョって文系、理系の知識が揃ってて知らないのは・・・」
「芸能関係。あいにく、誰と誰が結婚しようが興味ないんで」
私は苦笑いを浮かべる。とその時、私の携帯が古畑任三郎を奏でた。着信あり。
「はい、もしもし」
「久しぶりだな」
西口警部である。
「久々です、警部」
私は泉のようにわき出る好奇心を抑えて言った。
「異常犯罪、って興味あるか?」
「異常犯罪?」
私は意外さのあまり訊いた。
「そりゃ、一応、エド・ゲインとかには興味ありますが・・・」
エド・ゲインとはアメリカの異常犯罪者でどのような事をしたかはここで語るにはあまりにも残酷すぎるので控えておく。
「あと、切り裂きジャック、宮崎勉・・・」
「解った、解った。もう、その辺にしといてくれ」
警部は私が異常犯罪者の名前を上げたので気分が悪くなってしまったようである。
「解りました。そしてどんな事件なんです?」
萌ちゃん、いや相方も興味津々なようだ。
「ああ、世間で仮面鬼と呼ばれている事件だ」
「仮面鬼!」
私はいやが応でも興味をそそられた。それは私の調べた限りではこう言う事件である。
発端は九月二日、一人の高校生が殺された。警察はすぐに犯人が割れるだろうと思ったがなかなか犯人の手掛かりがつかめない。
それもそのはず。
彼は誰からも恨みを買うような少年ではなかったのである。成績もそこそこ良いし、校則は破った事がなく、学習態度も勤勉、無遅刻無欠席だった。彼の名前は一条瞬と言う高校二年の少年である。そして彼の側には『オペラ座の怪人』の仮面が割られて落ちていたのである。
次に事件が起きたのは九月七日、茶髪でバイクを乗り回している十九才の専門学校生が殺害された。敵はもちろん多く、それゆえの犯行かと思われたが、やはり例の真二つの仮面が落ちている事から、一条殺しと同一犯の可能性が高いとして捜査してきた。
しかし、学校も出身中学も違う。なかなか犯人は浮かび上がらない。そうこうしている内に九月十一日、また新たな犠牲者が出てしまった。
そして十四日、十六日、十七日と“生贄”はどんどん増えていった。そして私に依頼してきたのである。
「この事件の興味深い所は」
私は言った。
「なぜ仮面が落ちていたかと言う点です」
「ふむ」
「ここで考えられる可能性は、同一犯に思わせる点と仮面というのに何らかのコンプレックス、あるいは執着心を抱いている、という点の二つです」
「ふむ」
警部が相槌を打つ。
「仮面は心理学から見るとご存じの通り、偽りの自分を象徴しています」
「ペルソナだな」
「そうです」
「俺もかなりこの事件で仮面について詳しくなったよ。犯罪心理学の専門家を訪ね回ったからな」
警部は苦笑する。
「それでぼくにお鉢が回ってきた訳ですか」
私は好奇心満々の笑みで言った。
「ああ、その口調だとやってくれそうだな」
「ええ、もちろんです」
私はこの頃、心理学に興味を示している。凝り性の私はその手の専門書を買いあさり、片端から読んでいるのだ。ユング、フロイト、エリクソン・・・、ドイツ語をある程度知っている私は、それらの著書を原文で読んでいる。その方が翻訳に左右されないからである。
そんな今の私に取ってこの事件は大変興味を惹いたのである。まあ、心理学に興味を持っていなかったとしても興味深い要素はふんだんにあったが。
「じゃ、今からそっちに行くからな」
「パトカーで来るのだけは止めて下さいね」
と言って切ったのにも関わらず警部はパトカーで来た。私はその度に恥ずかしい思いになる。
第二章
先程、私は簡単な事件のあらましを述べたがここに詳しく書き留めておきたい。
九月二日。陽はもう既に傾きかけていた。上条瞬は部活で遅くなったために近道をしようと裏道を使う。遅くなり、裏道を行くことははさほど珍しい事ではない。
その裏道は小学校の頃、友達とよく遊びに使っていた道だ。相変わらず草の手入れもしておらず、ボロい一軒家があるだけだ。その一軒家は生活感が全くないため、昼間見ても不気味なのに薄暗い中見るとより一層不気味に感じる。
上条少年は幼年時代を思い出したに違いない。それからふと足を止める。仮面が落ちていたのだ。しかし例の『オペラ座の怪人』の仮面ではなく、子供用に作られたロボットのお面だった。縁日で買ったのだろう。上条はそう考えた。
五才くらいの可愛い子供が走ってきて、
「それ、取ってぇ」
と言ったので彼は無言でその子供に渡した。
「仮面、か」
彼は呟いた。
(ぼくはいつも、両親の期待に背かないように努力してきた。しかし本当のぼくはどこへ?)
彼は彼自身の問いに答えることができなかった。彼は自分自身を演じ続けてきたのである。それはいつからだろう?いつかは解らなかった。解らなかったが少なくとも無邪気にここで遊んでいた時は演じてなかった。
こうした悩みは浮かんでは消えてしまう。真剣に自分の事など考えた事などなかった。全て親任せだったから。
曲がり角に差し掛かった瞬間、包丁を持った男に刺されてしまった。一条に激痛が走る。しかし、それはやがて消えてしまった。彼の心臓、呼吸、そして脳の働きとともに。その後、彼は静かに仮面を置き、叩き割ったのだった。
九月七日、鴨戸修一(かもと しゅういち)は栄の大通りをダーティ・ハリーのごとく暴走族仲間とバイクで疾走していた。スピード・メーターは百キロを差している。後ろから数台の白バイが追っかけてくる。
「そこのバイク、止まりなさい!」
と呼びかけても彼らはいっこうに止まる気はない。止まってくれたら有り難いのだが。しかし鴨戸だけは一瞬、いや、かなりの間躊躇した。
最初は好奇心と学校に行くために取った十七才に取ったバイクの免許。しかし、親への反発でいつしか酒、タバコはもちろん、バイクで暴走するようになったのだ。
止めたかった。足を洗いたかった。親への反発の時期は過ぎたが、今までやってきた恐喝、万引き、傷害、あるいは障害致死などの事もあった。しかし、族を抜けたら先輩たちにいつか殺されるという理由がまず最初に上げられる。
彼は十七才の時にそういう人を見ているのである。族を止めると言いだした十五才の少年を鉄パイプなどで叩き、死に至らしめた事件を。
彼のバイクは少しスピードを落とした。九十キロ、八十キロ、七十五キロまで来た時に、前のバイクから叫び声が聞こえる。
「おい!何やってんだ!おいてくぞ!」
鴨戸はバイクを加速させる。そして見事逃げきったのだった。
「おい。例の所で打ち上げ行くぞ」
「お前、缶ビール買ってこい」
一人の族仲間が少年に言いつける。小銭を渡された少年はコンビニに向かう。
「修一、何やってたんだ?」
少年に言いつけた男が鴨戸に訊いた。
「えっ?何のことっすか?」
「ポリに捕まりそうになった時、減速したろ」
「すみません。少し考えごとを・・・」
少年はコンビニの袋をぶら下げ、戻って来た。
「何だよ、つまみ入ってねぇのか」
「えっ?あ、すみません」
数分後、十人の少年は心地よい感じだった。しかし鴨戸は、
「すみません。俺、酔っちゃったみたいで・・・。先に帰らせて下さい」
「何だよ、もうかよ」
一人の少年が笑いながら言う。
「だらしねぇなあ」
鴨戸は公園を後にした。本当は酔っていない。ワルの仮面を被って生活している自分。そんな事を考えながら歩いていると銀色の刃(やいば)が見えた。見えた時にはもう遅かったのだ。
第三の被害者、神本哲哉はごくごく普通の高校二年生だった。彼は仮面、と言ったら大袈裟かもしれないが、二年生に進級してからクラス・メートとは自分から進んで喋ろうとはしなかった。
喋るのは小学校、中学校まで一緒だった友達のみ。性格を抑える事で適応できると考えているのである。言わば自分自身を演じているのである。しかし、それで適応できたのは事実である。
修学旅行のバスの中で、仮面を全く被らない、気さくな少年、庄司隼人にこう言った。まあ、彼も気さくすぎて、クラス内から孤立していたのは事実だったのだが。
「お前みたいになあなあで生きてるといつかしっぺ返し食らうぞ。お前、学習しないだろ?」
庄司は何も解っていないと思った。自分は学習しているつもりだった。いや、事実二年生になってから口数が減ったのだ。違うクラスなので知らないだけ。
前の会話でエクソシストだの黒い家だのを見すぎると性格が歪んで犯罪を犯すと言われた。しかし自分の性格を抑えつけている方が自分自身を型にはめ、ストレスが溜り、やがて爆発して、犯罪を犯す事になるのだと考えている。言わば子供用の服をこの服が好きだからといつまでも着ているようなものである。
性格は経験などによって日々、変化している。それを無理に抑えつける方がよほど犯罪者になりかねない
これが彼の思想だった。むろん、どちらが悪いとは一概には言えない。
「今の所、全員に共通しているのは仮面を被って生活していると言う事だけですね」
「でも仮面は誰でも被るだろう」
「ユングの説ですね」
「そうだ。有沢だっていくらヤりたいからってあの子を襲ったりはしないだろう?」
私は苦笑した。
「警部、仮面と理性を混同してませんか?」
その時、警部の着メロが鳴った。電子音でピピピッというだけの無味乾燥な物である。
「何?犯人が捕まった?」
嬉しそうな声を上げた。
「ぼくにも調書を見せて下さいね」
「あいにくだが」
警部は言った。
「口外するわけには行かないんでな、しかし、何が知りたいんだ?」
「動機ですよ」
「動機?」
「ええ、人間に意味のない行動なんてありませんから」
「意味のない行動ね・・・」
「ぼくは今、心理学に凝っていましてね。ユングとかを片っ端から読みあさっているんです」
「それでまたマスターするのね」
萌ちゃんが口をはさむ。
「とにかく、動機が知りたいんです」
「解った」
と言い残し警部は事務所を後にしたのである
第三章
私は数日後、警部から一冊のノートを渡される。ごくありふれた青い大学ノートである。表紙には太いマジックで「No.4(8/20~」と書かれていた。
「動機が知りたいんだろ?これを読むといい」
「これは?」
訊く所によるとこれは殺人犯Mの日記であるそうだ。未成年、しかも十六才なので仮にMとしておく。
なお、できるだけ日記を忠実に書くつもりだが、未来の事も考えて彼の個人情報が特定されないように細心の注意を払っている。その辺はご容赦願いたい。
8/20
晴れ。夏休みなので今日は一日中、ごろごろしていた。語学研修の疲れもあるし。宿題、そろそろやらないとなばいなあ。と思いつつも手が伸びるのはマンガばかりだった。
ああ・・・。そろそろ、宿題マジやばい・・・。数学のセンター問題なんか二年生で出すなよな。
8/21
晴れ。これが日本か?と思いたくなるような暑さだった。今もクーラーを書けてこの日記を書いている。
オフ会まであと四日。幹事のぼくは来るメンバーの再チェックに追われている。十二人・・・。喫茶店とか大丈夫かな?ああ・・・。
その前に三角関数のセンター問題・・・。今日も手が出なかった。やろうと何度も思ったのだが。
8/22
晴れ。ついに宿題に手が!と言っても英語の宿題で「OKINAWA INTRODUCTION」というワークブックだった。もともと英語は得意なのですっと手が伸びたのだ。
出校日に職員室で英語の先生が、
「生徒がやるには難しすぎませんか?」
と言うのを聞きやってみようと思ったのだ。予想していたよりは、はるかに簡単だった。どこが難しいんだ?
ああ・・・。数学・・・。オフまであと三日。いまだ誰が来るのかははっきりしていない。
8/23
晴れ。昼頃メッセで〈ume〉が来れない事を〈るびい〉から聞かされる。彼女は病弱だそうで、東京オフの際に風邪をこじらせたそうある。私は凄く残念だったがN市内なので会おうと思えば会える訳である。
それからぼくの幼稚園時代からの友達で今もなお親交を続けているK(本名だったが私の判断により伏せ字にした)から、メッセで
「何で部外者を呼んだの」
と訊かれた。
「呼んでいけない?大人数の方が楽しめると思ったんだけど」
「でも、知らない人呼んで楽しめると思う?」
以下、ぼくとKの話し合いでKを納得させた。ああ。疲れた。
8/24
晴れ。宿題のセンター問題をやり始める。意外と簡単だった。これがセンター?
次の日は待ちに待ったオフ会だ。ああ。楽しみだ。
8/25
晴れ。今日は待ちに待ったオフである。H線に乗る時もどきどきしていた。
が、しかし!早くも問題発生!待ちあわせ場所が解らないのである。知らないというのではない。文字通り解らないのだ。迷ってしまった。〈H〉さん(ハンドルだが本名のようなので私の判断で伏せ字にした)に三井信託銀行の前でピック・アップしてもらい、ようやく着いた。
ぼくはオフ初参加だったので誰の顔も解らない。しかしようやく〈るびい〉たちと合流。カラオケに行ったりと楽しい日を過ごしたのだった。
「君が代」を歌ったら大爆笑。狙いは見事当たったのだった。いやあ、本当に楽しかった。久々にハメを外せた。
「これのどこが動機解明に繋がるんです?」
私はあくびをしながら言った。
「まあまあ、九月一日から読んでみろ」
私は言われるがままに九月の最初の日から読み始めた。
9/1
晴れ。学校始まる。「素顔同盟」の最初に主人公が仮面を付けるシーンがあるが、ぼくは一日中仮面を付けている。本当の自分をさらけだせるのはネット上だけ。家でも学校でも自分自身を演じていた。苦しい。
仮面を付けていないSが羨ましいが、あいつみたいに全員から総すかんを食らうのは嫌である。あいつも仮面をつけて苦しいんだろうか?とにかく今のぼくはぼくではなく他人なのだ。苦しい、苦しい、苦しい。
「だったら仮面なんて被らなきゃいいじゃん」
ああ。ぼくもそうしたいよ。全く。とにかく今は苦しいのだ。学校、部活、家・・・。あらゆる場面で仮面を被っている。本当は目立ちたい。しかし、仮面がそうさせてくれないのだ。ああ。本当のぼくをさらけ出せる所。そこはネットの世界だけである。
9/2
天気なんか覚えてない。晴れだったような気がする。今日、ぼくは人を殺した。誰でも好かった。自分の存在を世間にアピールしたかったのである。
この目立たなく大人しい仮面をつけたぼく。そんなぼくにはネット上にしか素顔をさらけ出せる所がなかった。なのにネット上でも仮面を被ってることに気付いた。ああ。素顔をさらけ出せる所が欲しい!
他のチャットに移動する?いや。二年通い続けてきた所をおさらばするにはあまりにも寂しい。〈るびい〉、〈ume〉、〈星〉、〈むうん〉・・・。その他多くの人々とお別れになるのだ。
罪悪感は感じた。強い自己軽蔑に襲われている。ああ、いっその事この世から去って自分の存在を初めからなかった事にしてしまいたい・・・。
9/3
とても日記なんてつけたくない。何があったかすら覚えてない。ただまた一つの仮面を被る事になってしまった。殺人を犯したという事実を隠す仮面を。
9/4
苦しい。罪の重圧。仮面の重圧。仮面の重圧から逃れたいばかりに殺人を犯してしまった。本当は目立ちたがり屋、人の視線を浴びたい。できない。仮面のせいなのだ。こんな仮面、捨てたい。そして粉々に割ってやりたい。
9/5
一人の時が一番怖い。学校に行く時、学校から帰る時、ベッドの中の時間・・・。あの殺人の光景が生々しく思い出される。ぼくは最悪な人間だ。最悪な人間だよ、全く。
9/6
夜中の二時頃に起きた。悪夢。あいつを、オレが殺した名も知らぬ奴を夢の中でまた殺した。ああ、夢を見ている時も殺人と仮面に苦しめられるだなんて!
9/7
また一人殺した。仮面から逃れる束の間の休息のために。茶髪とピアスという不良っぽいカッコウだった。オレは陰からじっと奴が来るのを待った。正直誰でも好かった。
かなり酒を飲んでいて、ふらふらしながらこっちへ向かってきた。オレの目の前は赤一色に染まった。もう自暴自棄だった。オレはどうせ犯罪者だ。最悪な男なんだ。
自分でも笑っちまうよ。最初は小さな仮面だった。にも関わらずそれがどんどん膨らみ自分が自分でなくなっちまった。もはやオレは笑うしかない状況なのかもしれない・・・。
9/7
もはやオレは人間ではない。殺人の事など誰に打ち明けらるっていうんだ?打ち明けたら間違いなくオレは刑む所行き。苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい・・・・。
9/7
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい、苦しい・・・・(と言う文句が何行にも渡り、書き連ねられていた)
ここまで来て私はぱたんと手帳を閉じ、警部に返した。
「もういいです」
私はふらふらとまるで病人のようにソファに倒れ込んだ。
「これはどうする?」
日記帳を突きつける警部。
「警察の方としてはもう要らないが・・・」
「じゃあ、ぼくが取っておきます」
額に手をやりながら答える私。
「大丈夫か?」
私を心配そうに見やる警部。
「ええ、大丈夫です」
大丈夫でないのが自分でも解る位、か細い声である。
「そうか・・・用はそれだけだ。帰るぞ。大事にな」
「ありがとうございます」
蚊の泣くような声で私は言う。扉の閉まる音。数十分後、私は萌ちゃんに起こされた。
「ねえ。ジージョ。文化祭の仮面劇の前口上ほめられちゃった」
「今は仮面と言う言葉は聞きたくないんだ・・・ゴメン・・・」
「どうしたの?」
心配そうに言う彼女。
「その青い大学ノートを見れば解るよ・・・」
萌ちゃんはコーヒー・テーブルの上にある大学ノートを読み始めた。一通り読み終わると、
「ねえ、仮面って被る必要あるのかな・・・?」
と哀しげな声で呟いたのだった。
二〇〇一年一〇月二日、名古屋の事務所にて執筆完了
この作品はいかがでしたか?
一言でも構いませんので、感想をお聞かせください。