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私の英訳を見てもらった友人に

FILE1、父からのエアメール

 以前、どこだかで私の父がアメリカで探偵社を経営してる事を紹介したと思う。その父から毎年、11月後半から12月前半に「クリスマス位アメリカに来い」と言うエアメールが届く。私は仕事が面倒なので忙しいとか何やら理由をつけて断るのだが。
 さて、今年も例によって父からエアメールが届いた。私は毎年のごとく断ろうと思ったのだが今年は父の方が一枚上手だった。
 私が断りの電話を掛けようとした時、萌ちゃんが嬉しそうな歓声を上げて、ノックもせずに駆け込んできた。手にはエアメールを握っている。
 まさか・・・と思いながら
「どうしたの?」
と怖々訊いた。
「見て見て!」
と彼女はエアメールを見せてくれた。私はその手紙を受け取ると差出人の名は両親になっていた。私は彼女に事情を訊くと父からクリスマスに誘われたと答えた。やられた!こういう姑息な手を・・・。
「ねっ、行こうよ。」
「いいけど、パスポートは?」
と私は口が滑って言った事を言った後で後悔した。持ってる訳がないと言う気持ちが半分あったのかも知れない。
「大丈夫。持ってるから。一回、家族で海外旅行、行こうって話になって取ったは、いいけどそのままなんだ。」
「ふーん。何年前に申請したの?」
「うーんっと、5年位前よ」
「じゃ、期限切れてないと思うよ。」
 そう言う訳で冬休みに私は萌ちゃんと一緒にアメリカへほとんど父に謀られた状況で里帰りする事にした。
 そして冬休み。
「おまたせ。」
「よし。じゃ、行こうか。」
「うん」
隣の少女は元気よく嬉しそうに言った。
 私たちは数時間後、アメリカのロサンゼルスにいた。父の事務所はここハリウッド大通りにある。
「ええと・・・。たしか・・・。この辺りなんだけど。」
私はきょろきょろしながら探偵事務所を探した。私は観念して道行く人に尋ねる事にした。父の家がわからずに通りすがりの人に尋ねる息子はこの世で私一人だろう。
「Well...Excuse me.(あの。すいません)」 と一人の背の高くブロンドの髪をした萌ちゃん位の歳の男性に訊いた。
「Where is Mr. Shunsaku's Detective Office?(俊作さんの探偵事務所はどこですか?)」
「A client?I don't look so....OK!Follow me.(依頼人?そうは見えないけど・・・。OK.ついてきな。)」
「No.His son.And this girl is my friend.(いいや。息子ですよ。この女の子は私の友達です。)」
「A son didn't know his father's house?(息子が父親の家を知らなかったのかい?)」
と意地悪っぽそうな笑みを浮かべた。
「No,only forgot(違うよ。忘れただけ。)」
「Same meaning.(一緒だよ)」
「By the way,What's your name?My name is Shoji Arisawa.And her name is Moe Asaka.(ところで、名前なんて言うの?有沢翔治と浅香萌だけど)」
「Samuel Spade.I live by house you asked me some time ago(サムエル・スペード。君がさっき訊いた家の近くに住んでいるんだ。)」
「Your parents have good sense.May I call you Sam?(君の両親はいいセンスをお持ちだ。サムでいいよね。)」
「Of couse.But Why did you thaught it?(もちろん。でも何でそんな事思ったの?」
「Do you know Hammett?He is American writer.Sam Spade is in his novel of hero.(ハメットを知ってる?アメリカの作家なんだけど。サム・スペードは彼の小説の主人公なんだ。)」
「We arrived(着いたよ)」
私は礼を言って別れた。
「何て喋ってたの?」
と萌ちゃん。
「雑談さ。」

FILE2、無表情な少女

 私たちは父の事務所は3階にある事を知った。たいそう丁寧にデザインされている青銅の看板は数センチ曲がっていた。一方に傾いているため、看板の文字使いは単純であるにも関わらずいかにもわざとらしいと私は感じた。
 中に入ると冷房がついていた。
「お父さん。看板直したら?」
と言うと皮肉っぽい笑みを浮かべ、
「いいじゃないか。読めれば。」
と言った。
「わざとらしく見えるんだって。」
と文句を言った。と、誰かがノックした。
「Bonjour!(こんにちわ 仏)」
依頼人らしき人は言った。私は 「Enchante!Monsieur.(はじめまして、ムッシュー 仏)」
と言い更に続けて仏語で英語を話すよう言った。
「I see(解りました).」
客人は更に続けて、
「I want to follow about my wife.She sometimes meet a young man.She may have a flirtation with him!(妻を尾行して欲しい。若い男と会っている。不倫しているかも知れない。)」
と多少発狂しかけて言った。母は、
「Please speak more quietly,Mr.(もっと落ち着いて喋って下さい。)」
とコーヒーを4つ出して言った。
「萌ちゃんはコーヒーで大丈夫だったわよね。」
と念を押した。彼女はこくんとうなづいた。
「Please show me a picture which shows her.(彼女が写ってる写真を見せて下さい)」
と父は言うと客人はバッグからごそごそと取り出した。
「Here you are.(はい、どうぞ)」
と言って手渡した。父はしばらく下を見て考えていたがやがて顔を上げ、
「I see.I take on it.(解りました。お引き受け致しましょう)」
「Merci.Thank you(ありがとう 仏、ありがとう。)」
と仏語と英語で言った。父は、車の鍵を取って
「7日間程、戻らない。ごめんな。2人とも」
と言って客人に
「Bye!」
と言った。私は、
「Au revoir!(さよなら。 仏)」
と仏語で挨拶した。
「さてと。」
と私はコーヒーをすすりながら1週間何をするか考えた。今日は22日・・・・。明後日はどこの家でもクリスマスパーティーが開かれる。  ちなみに萌ちゃんは買い物で2人と一緒に出ていっていて今はいない。
 「ねぇ、お母さん。」
と奇妙な数分の沈黙を破り、客人のコーヒーカップを洗っている母に声をかけた。
「ん?」
手を動かしながら母が言う。
「クリスマスパーティさぁ、一体誰が来るの?」
「隣のスペードさんをとりあえず呼ぶ予定だけど。」
「わかったよ。」
と私はコーヒーカップを口に運んだ。それから母はカップを洗いながら何日間滞在するかとか今夜は家に泊まるのかを訊いた。私はコーヒーを飲みながらそれに答えた。
「ねぇ、ちゃんとぼくと萌ちゃんの部屋は分けてあるんだろうね。」
とコーヒーを口に運びながら言った。
「えっ、一緒よ。」
私は顔を真赤にした。
「あら、まずかった?」
何という無神経さ!私は呆れてしまった。
「大丈夫よ。隣のコーディーと代わってもらえばいいし。」
「コーディー?」
「隣に住むスペードさんの娘よ。本名はコーデリア、綴りはC-O-R-D-E-L-I-Aよ。」
私は愛称の綴りを尋ねた。
「C-O-R-D-Yよ、Dを重ねたかもしれないけど。どう?代わってもらう?」
「そりゃ、もちろん。」
「あら、そう?なら。」
とその時、ドアベルが鳴る音が聞こえた。
「Hi(こんにちは)」
と母が手が離せない様子だったので私がインターホンに出た。
「This is Cordelia.Will you open the door?(コーデリアよ。開けてくれる?)」
とドアベルのせいかも知れないが、どことなく無表情に言った。少なくとも私はそう感じた。
「Hello!(こんにちわ)」
と私は精一杯の愛想笑いをしてドアを開けながら言った。入ってきたのはブロンズの髪がふわりと肩までかかった女性・・・いや、少女だった。
 結構可愛い。これが私の彼女に対する第一印象だった。碧い眼。私よりも少し低い背。歳を背丈や体つきからから考えると12才から16才位だろうか。もっとも個人差はあるので一概には言えないが。
「Good-afternoon(こんにちわ)」
と無表情ににこりともせず挨拶した。私は彼女の無表情さに少々驚いた。
「May I ask your name,please?,Mr?(あなたは誰?)」
「I'm Shoji Arisawa and her son.(ぼくは有沢翔治って言ってここの息子なんだ。)」
「I see.I don't like to chat with any men very much,sorry.(解ったわ。ごめんね。私、男の人と話すのあんまり得意じゃないの。)」
「OK.Never mind!(OK.気にしないで)」
「Thanks(ありがとう)」
と言ったが心から言っていないような気がした。
「Well,Did you come here alone?(ところで、あなた一人で来たの?)」
「No.I came with my friend.(いいや、友達と一緒に来たんだ)」
「Boy?Or girl?(男?女?)」
「Latter(後の方)」
「I felt at ease that I heard it(それを聞いて安心したわ)」
「Why?(何で?)」
「I dislike any men.(男の人が嫌いだから)」
とそっけなく言った。
「Ummm(うんんん)」
私は言葉に詰まってしまった。
「Is she your girl-friend?(彼女?)」
と訊いたので私は真赤になった。
「No,no,no,no.She is not my girl-friend(違う違う違う違う。彼女じゃない。)」
それを見たコーデリアはくすくすと忍び笑いをした。
「But you want to be her boy-friend,don't you?(でも、彼氏になりたいんじゃない?)」
とくすっと笑いながら言った。
「By the way(ところで)」
私は言った。
「What?(何?) 」
とコーデリア。
「I am going to sleep with her.So I want you to shift beds with her. (彼女と一緒に寝る事になったんで代わってほしんんだけど。)」
彼女はまたくすりと笑って、
「Why.Jast good.You love her.(あら、ちょうどいいんじゃない?好きみたいだし)」
私は耳まで真赤になった。
「Why.Even Japanese good detective will become only a boy when the subjects are love(あらあら、日本の名探偵さんも恋が絡むと普通の子供になってしまうのね。)」
くすくす笑って言った。
「All right.I'll shift them(解ったわ。代わってあげる)」
と笑いを止めて言った。
 こうして代わってもらうのに成功した。コーデリアと萌ちゃんは我が家に、私とサムはスペード家に泊まる事になった。しかし、この事が一人の少女の命を救う事になるとは誰が夢にも思うだろうか?

FILE3、クリスマスパーティ

 2日間は何事もなく過ごした。ただ萌ちゃんの買い物に無理矢理付き合わさせられた事を除いて。
 そしてクリスマス。子供は皆、サンタクロースの夢を見て眠りにつく。そして父親か母親かがプレゼントをそっと置く。
 白いテーブルクロスのかかった丸机が5つ程庭にあり、その周りに背もたれのある椅子が並んでいる。私はクリスマスの手伝いをし終わると疲れてどっと眠りについた。
 目が覚めると5時だった。私はトランプゲームを軽くシェリー酒を呷りながらやっていた。ふと、目をやるとコーデリアがぽつんと隅のテーブルに座っているのが見えた。
「Shall we play cards,Cordy?(コーディー、一緒にトランプをやらない?)」
と誘った。
「No,thank you(いいえ。)」
と無表情に言った。サムが立ち上がって彼女に何やら隣に座り話し掛けた。すると、コーデリアの表情は無表情のままだったが声は震えて、
「Sure.(解ったわ。)」
と言った。loom(織機)という単語が辛うじて聴き取れた。
「What did you talk to her?I heard to a "loom".(何話してたの?『織機』っていう単語が聴こえたけど)」
「It's nothing.(何でもない。)」
そしてわざとらしく、
「Let's continue.Next game's winner will be me!(さあ、続き、続き。次のゲームの勝者は俺だ。)」
と言った。そしてトランプを切ってまた続きをした。
 とにかく、あのコーデリアの態度は尋常ではなかった。そして彼は夜、また奇妙な行動をとった・・・。

FILE4、奇妙な行動

 毎日(と言っても2、3日しか一緒に寝てないのだが)、サムは夜中の2時位にベッドから這い出す。私は不審に思って、そのこと尋ねてみた。
「I usually go to the bathroom around two in the midnight.(俺はね2時位にトイレにいくんだ)」
「Oh.I see.Could it be true?(ああ。解った。で、本当は?)」
「It is true(本当なんだって)」
「You are there about one to three hours!You are so long time that you are in the bathroom!(1時間~3時間もいたんだよ。トイレにしちゃ長すぎる!)」
「Uuuu.You are worthy to be Sir Sunsaku's son.(ううううう。さすが俊作さんの息子だ。)」
と吐き捨てるように言った。
「I meet my girl-friend every night.But She is a black.So my parents dispute meeting with her.(彼女と会ってるんだよ!!でも黒人なので親から反対されてね。)」
「Then,you avoided your perents, don't you?(それで、親を避けたわけだね)」
「Don't repeat this secret to my family,please.(この話は俺の家族には言わないでくれよ)」
と声を潜めて言った。
「I know,I know(解ってるって)」
時計を見るとまだ4時だった。私はおやすみを言って寝た。

FILE5、スペード一家の悲劇

 私は翌朝7時に目が覚めた。隣に寝ていたサムがいないので起きてリビングにでもいるのだろうと考えた。私は寝ぼけ眼で、
「Good-morning!(おはようございます!)」
と階段を降りて行ったが、下にもいない。
 変だな。まぁ、ゆっくり待とう。
 そう言う事を考えながら今日一日の行動を考えていた。まぁ、どうせまた買い物に無理矢理付き合わされる事になるのだろうが。
 やがて10分が過ぎ20分が経過。私は20分も姿を見せないスペード一家を変だと思いはじめた。7時半を過ぎた。いくらなんでも変だと思った私は手当たり次弟に扉を荒々しく開けた。
 一階を捜し回っている時、私は鼻をつんと突くような異臭に気付いた。この臭いは・・・。
「くそっ、鍵がかかっている!!」
と大きな声で独り言を言いながら裸足のまま庭に行った。
「What happened!?(何があったの!?」
と近所の人が騒々しいという口調で言った。私はこれまでの事情を端的に説明すると、
「May I help you?(何かお手伝いできませんか?」
と言った。男は更に続け、
「Shall I check on window.(窓を調べましょうか)?」
「Thanks(ありがとう)」
と私は言うと男は走って行った。
「Windows are locked from the inside!(窓も内側から鍵がかかっている!)」
男はそう言うと、
「Let's open it by sheer!Are you OK?(力ずくで窓を開けよう!いいね。)」
と結構力のありそうな男は私にそう言った。
「OK!!」
「One two three!(1.2.の3!)」
私は全力で窓を引っ張った。ダメ。開かない(あかない)。
「More challenge!OK?(もっとやってみよう!いいね?)」
「OK!」
私は唾を飲んだ。3回目にしてやっと成功!途端に塩素独特の刺激臭が辺りにたちこめる。
 口にハンカチを当て、毒ガスを吸い込まないように注意した。ドアの錠を外し、換気をする。
 男はすぐさまロス市警へ連絡した。
「That to say(つまり)」
コン警部補は私の話を聞き終えるとそう言って手帳をぱたんと閉じた。
「Fummm.This case is a double suicide.(ふむむむ。この事件は無理心中だな。)」
「Did you find the will?(遺書は見つかったんですか?)」
「No.But this must be it,mustn't you?(いいや。でも間違いないだろ。)」
と決めつけるように言った。
「I think that this is not a sach easy case.(ぼくはそんなに簡単な事件じゃないと思いますよ)」
と多少、感情気味な自分を抑えながら言った。
「But the door and the windows were locked,weren't they.(でも、ドアと窓には鍵がかかってたんだろ?)」
「Yes.(ええ)」
男は答えた。私は、
「Yes.But...(ええ。しかし・・・)」
と言葉に詰まってしまった。
 まあ、この状況だ。警察が無理心中だと思うのも無理のない話。でも、本当に無理心中なのか?気にかかる点は遺書が見つかってない事位だ。
「無理心中・・・。」
私は低くそう呟くと静かに部屋を出た。そして、玄関に立って刑事たちの様子を事件の事を考えながらじっと見つめていた。
「Ah.Excuse me.(あの。すいません)」
と近くに立っているコン刑事の部下に話しかけた。
「What?(何?)」
「May I see the body?(死体を見てもいいですか?)」
「No!Need not to see!(だめだ。見る必要はない!)」
 やっぱりだめか!しかし、そこへコン警部補がひょっこり顔を見せた。そして、何やらぼそぼそと話し掛けた。そしてさっき言った部下が無愛想に、
「OK.」
と言った。そして死体を運び去ろうとするレスキュー隊員を止め、私に見せてくれた。
「Why did they daid?(何で死んだんですか?)」
と私は念の為訊いた。
「They inhaled much chlorine(塩素をたくさん吸ったんだ)」
やっぱり。
「How did he make it?(どうやって塩素を作ったんですか?」
「Here you are(ほら。)」
と渡してくれた袋には塩素系漂白剤と酸素系洗剤が入っていた。
「なるほど・・・。これで塩素を発生させたわけか・・・」
と私は低く呟いた。
「Did you find fingerprints in the packs?(容器から指紋は発見されましたか?)」
「Yes.We found it of all people who is living in the hause and many ohere fingereprints.But they are...(この家に住む全員の指紋他たくさん指紋が見つかった。でもそれらは・・)」
「They are clerk's or relative...aren't they?(店員か親戚の・・・ですね?)」
と私は微笑して言った。
「Perhaps(恐らくな)」
 さっき見た死体から微かだが甘い香りがした。
「Then how do you explane a sweet scent?That is chloroform,isn't that?(では、甘い香りはどう説明します?クロロホルムですよね?)」
私は更に続けて
「Why did he use chlorine?Why didn't he use CO or CO2?I'm sure that he wants to cover chloroform's scent by stlong scent.(なぜ塩素を使ったのでしょう?一酸化炭素や二酸化炭素を使わずに。きっとクロロホルムの臭いを塩素の強い香りで覆い隠したかったんだと思いますよ。」
 それに、今は冬。ストーブをがんがん焚いて一酸化炭素中毒にすれば・・・。
 そこへ女の子2人組が到着した。
「You should not look!(見ない方がいい!)」
「Cordy!(コーディー!)」
と懐かしそうに大男は言った。
「Joe.(ジョー。)」
と大して関心がなさそうに言った。更にコーデリアは 「What happened?(どうしたの?)」
と私たちに尋ねた。私は低く呟いて答えた。
「Sam died(サムが死んだ)」
ところが彼女は悲しもうともせずに中に入り死体の方向につかつかと歩み寄った。ところが死体を見た途端、低く、
「I want to be alone.(一人にさせて)」
と言った。浅香萌が
「シャル アイ スリープ ウィズ ヒム(彼と一緒に寝ようか?)」
と提案した。コーデリアはこくりと黙って肯定した。そして一歩一歩ゆっくりと階段を上がっていった。
 彼女の目が濡れていたような気がしたのは私だけだろうか?

FILE6、私の部屋

 「本当にいいの?」
階段を上る途中私は尋ねた。
「うん、いいの。」
彼女は躊躇らわず、肯定した。
「でも、何で心中なんか」
萌ちゃんはドアノブを捻りながら言った。
「いや、あれは心中なんかじゃないよ。」
「えっ、じゃあ、殺人事件?」
意外というような口調で言った。
「ああ。たぶんね。」
と私は静かに低く呟いて言った。  「あっそれと、ジージョ、廊下ね。」
と平然とした調子で廊下を指差して、言った。
「えっ?」
思わず訊き返した。
「私の貞操を守るためよ。」
私は苦笑した。
「なーんてね。冗談よ。本気にした?事件にしか興味ないジージョが私を襲うなんて考えにくいし。でも床ね。」
私はまた別の意味で苦笑した。
 「それにしても。」
と彼女は急に言った。
「コーデリアさん可哀想・・・。」
「ああ。」
と私は悲しい調子で呟いた。
 ドアのノック音が聴こえたので母だろうと思いながら、腰を上げドアノブを捻った。
「コーヒーでも飲む?」
と言いながら盆に乗せてあったコーヒーカップを私と「妹」の前に出した。
「それで、コーディーの様子は?少し落ち着いたみたい?」
母は首を横に振った。
「そう・・・。」
悲しげに「妹」は呟いた。彼女の目は哀しそうで今にも涙が零れ落ちそうだ。

FILE7、夜の冒険

 あれこれ事件について話し合ったが結局、納得いく答えは出せなかった。
「あら、もうこんな時間。」
私の机にある白いデジタルを見て、萌ちゃんは言った。私もつられてちらっと見た。もう10時半。
「お風呂どこ?」
と萌ちゃんが訊いた。アメリカの浴室は大抵トイレと一緒になっている。私はその事を言うと
「下にお風呂あるでしょ?そこで入ってくるよ。」
と言って部屋を出て行った。浅香萌のハミングする声。それと伴ってシャワーのジャーという音などが微かに聴こえる。
「あ~、気持ちよかった♪」
短パン、Tシャツ姿の浅香萌は次入るように言った。私は面倒なので二階の風呂で済ます事にした。
「ふぅ~。」
と長いため息をつくと私は顔を風呂の湯で洗った。
 こんな豪華な風呂に入るのは久しぶりだ。いつもだったら、ステンレス製の安物の風呂。しかも、水道代節約の為に湯をためずシャワーで済ますのでこんな事はできない。そんな事を思いながら風呂で悠久の時間を過ごした。モーツァルトの曲をハミングしながら・・・。
 私は服を着替えて、部屋に戻った。浅香萌は毛布に包まっていて、私が部屋のドアを開けると、
「おかえり~」
と言った。私は床の布団に「妹」と似たような姿勢になった。
「ねぇ、ジージョ。」
と毛布に包まったまま「妹」は呼んだ。
「何?」
「私、私ね、コーデリアさんの気持ち解るの。お兄ちゃんが死んで私、ああいう気持ちがよく解るようになったんだよ。だから・・・、だから・・・・。」
私は何も言えずに黙って俯いてしまった。15分位経って、やっと、
「萌ちゃん?」
と声をかけたが返事がなかった。ベッドの柵に手をついて見てみる。片想いの少女は寝てしまっていた。かわいい寝顔。柵に腰掛けたまま片手でショートヘアの髪を優しく撫でた。つややかな髪。
「やれやれ。」
とため息混じりに呟いた。
 無邪気な寝顔。一体どんな夢を見ているんだろう?普段は大人ぶってるけど寝顔を見るとまるで子供のよう。ちょっぴり男勝りな一面もあるけどやっぱり女の子なんだな。あどけない。その一言で他に表現できるだろうか?
 彼女の寝息と共にそんな事を考えていた。
 そしてどきどきしながらその可愛い頬に軽く唇を当てた。起きないのが残念でもあった。
 コーヒーのためか、それともさっきしたキスのためかこの晩は眠れそうになかった。私はむくりと這い出し外を散歩する事にした。
 夜風が私の頬を撫で、また去って行く。恋でほてった体を冷やしてくれる心地よい風。私が子供の頃通ったお気に入りの散歩道。哀愁のこもったクラシック曲をハミング。その道を昔を懐かしみながら通っていると、何やら音が耳に入ってきた。
 風の音や虫の声?いや、違う。明らかに人のぼそぼそという話す声だ。ついさっきのロマンスを忘れ、昼間感じたあの事件を解く時の感情に戻った。私は太い樅(もみ)の木の陰に隠れてじっと話を窺う事にした。
「... Sam.....by him(サムは彼に・・・)」
と時々聴こえず弱々しく聴こえた。それを咎めるかのような声。 「Don't talk such nonsense!(馬鹿な事を言うんじゃない!)」 「But...(でも・・・)」
「Ha!Her parens were killed by us,weren't they.(はっ!奴の親は俺らが葬り去った。違うか?)」
「You called away a such poor subject!?(そんな、つまらない事で呼びだしたの!?)」
女性の声だ。声の感じからすると大体10代後半から20代前半だろう。きついドイツ訛のある英語だ。肯定の時にも
「Ja.(はい 独)」
と言ってその後、英語にすると言う仕草が度々あった。
 その後、3人は
「Good-night and bye!(おやすみ、バイバイ)」
「Gute Nacht(おやすみ 独)」
と言って別れたので私も寝る事にした。

FILE8、第二の死体

 私は翌朝、まともに彼女の顔を見られなかった。
「どうしたの?」
朝食のトーストをかじりながら浅香萌は言った。私は平静を装い、
「ん?何が?」
と返答した。
「さっきから、私の顔を見ないじゃない。おまけにおはようって声をかけてもぼそぼそと返事しただけ。」
そりゃ、そうだ。あんな事をした翌朝だ。まともに顔を見れりゃしない。私はコーヒーカップを手に取った。
「まぁ、気持ちは分かるけど。」
浅香萌は言った。私は動揺してコーヒーをこぼしそうになった。
「私の気持ちも考えてよね。事件の事ばっかりに熱中しすぎて。」
私は残念と言う気持ちもあるし、よかったという気持ちにもなった。
「あれ?違うの?」
「いやいやいや。そうなんだ。昨日なかなか寝つけれかったんだよ。それで、散歩したら3人の人が話してるのが聴こえて、それがなかなか離れられなくて。」
ウソはついていない。
「ふーん。じゃ、今日一日、事件の事は忘れて買い物でもしよう。」
「おいおいおいおい。」
何呑気なこと言ってんだ?今はそれどころじゃないだろ。私はそう思った。
「だって、たまにはリフレッシュも必要よ。」
「そりゃ、そうだけど、ぼくは不思議と事件の事を考えると疲れないどころか疲れが吹っ飛ぶんだよ。」
と言って私はコーヒーをまたすすった。
 結局、萌ちゃんに押され買い物に行く事になった。まぁ、「妹」の言う通りたまには気分転換も必要だろう。

「ねえ、これなんかどう??」
「はいはいはいはい」
事件の事を考え出した為、さっきの感情は薄れてしまった。
「ん?やけにトイレに人盛りができてるな。」
私はそう呟くと「妹」に場所を動かないよう言った。 「Well.Excuse me.(あの。すみません。)」
「What?(何?)」
「What happened?(何かあったんですか?)」 「A man was killed.(男が殺された。)」
「Killed?(殺されたって?)」
私はおうむ返しに訊いた。
 そして群衆を掻き分け中へと入ると、コン刑事がいた。
「Hey.Mr.Con(やあ、コン刑事)」
「Oh.Sir.Shoji.(ああ、翔治君)」
「Mr.Con.Who is killed?(コン刑事。誰が殺されたんですか?)」 「He is Thomas Jeford.High shool student.Samuel Spade's friend.Reason of dying is pistol.(トマス・ジェフォード。高校生。サムエル・スペードとは友達だ。死因は銃殺。」
「Where did it make?I want to know maker.(どこで作られたのですか。メーカーを知りたいんで)」
「WaltherPPK 22-caliber gun(ワルサーPPKの22口径)」
「How many bullet did he suffer?(何発発射されましたか?)」
「Just one(一発だけだ。)」
「Where did he shoot?(どこを撃ちましたか?)」
「Head(頭)
 Do you want to see the body?(死体を見たいかね?)」
「Yes.(はい)」
と言ったのでコン刑事は私を死体のある場所へ連れてってくれた。
「Don't tuch.We haven't take autopsy yet.(触るなよ。検死解剖はまだだからな。)」
「I know,I know(解ってますって)」
私は長いため息をつくと、
「Will you get out?I want to focus this puzzle.(出ていってくれませんか?このパズルに集中したいんです)」
「I see.(解った)」
「Ahh.And.May I leave here?I want to tell messege to my friend.I'll come back soon.(ああ、それとここを少し離れていいですか?友達に言いたい事があるんで、すぐ戻りますんで。)」
「OK(構わんよ)」
「Sorry!I shall be back here within a several minits(すいません。6、7分以内に戻ります。)」
「Sure(解った)」
と言うと私は走って萌ちゃんの所に行った。
「あら、遅かったじゃない。」
と時計を見ながら彼女は言った。
「ごめんね。萌ちゃん。またすぐ行かなきゃいけないんだ。」
と息を切らせながら私は言った。
「何が起こったの?」
「サムの友達がここで銃殺された。」
と低い声で言った、
「で、私に帰れと。」
「そうなんだ。」
「ふーん。」
冷ややかな声。
「解ったわ。ここの喫茶店で何か食べて待ってる」
やけに聞き分けがいい。いつもなら私も行きたいと言うのに。
「悪いね。」
「どのくらいかかりそう?」
「さぁ・・・。」
「じゃ、2時間経っても戻ってこなかったら帰るね。」
「解った。」
「あっ、そうそう。ジージョと寝たの結構楽しかったよ。何年ぶりかなぁ。」
と昔を懐かしむような口調で言った。
「さぁ。行ってくるね。」
「行ってらっしゃい。」
「あっ、注文はできるよね?」
私は数歩歩いてから、振り返って言った。彼女はこくりとうなづいたのでコン警部補の下へと向かった。

FILE9、証拠の山

 私は死体の前に屈みこむと、トマス・ジェフォードの死体をよく見た。
「額に一発か・・・。」
私は低くそう呟くと手袋をはめた手で頭部をそっと持ちあげた。貫通していない。
 青いジーンズのポケットからくしゃくしゃの紙が覗いていた。私はそれを取り出すと広げてよく見た。書いてあるのはただ一言。「PATLICK(パトリック)」と。
「これはひょっとすると・・・」
私はそう呟くと、再度死体を観察した。別に着衣に乱れもないし財布も無事なため、強盗とは考えにくい。
 金が目当てでないとすると復讐か?だとしたら、犯人はどうやって呼び出したんだ?偶然見つけたのか。いや、違う。偶然同じフロアに居て、偶然同じトイレで、偶然用を足そうとしたら、偶然鍵が開いてて、偶然相手が憎んでる相手で射殺したと言う事になる。そんな偶然などありえない。
 呼び出すのに最もオーソドックスな方法といえば電話か手紙だ。しかし、相手は高校生。両親が応対したら不審に思って取り次いでまずもらえないだろう。私は「電話」で閃いた事があった。
 それを考えに入れ、ポケットを再度探った。何か固いものにぶつかった。独り、にやりと笑うとそれを引っ張り出した。携帯電話。これなら両親に見つかることなく秘密のやり取りができる。私は手袋をした手で携帯のアドレス帳を見た。ハイテク万歳。
「Patlick...Patlick...Patrick」
そう私は何度の私は探っているうちに興味深い人の電話番号を見つけた。Cの欄。「Cordelia.S。」
「コーデリアってあのコーデリアか。」
私はそう呟くと、またこの事について考えた。何でクラスメートの妹の番号まで・・・。  まあ、私も故優太の妹の萌の携帯番号も入れているが、これは特別交流が深いのであり、普通は入れない。おまけにSSと横になっているのも気になる。SSとは?
「SS...SS..SS」
私はそう口の中で何度も言った。Screw Steamer(スクリュー船)?でもこんな所に船が出るとは考えにくいし。
 日曜学校か!でも服装から見て被害者はキリスト教にさほど熱心じゃなさそうだし・・・。
 船?(SS.Kobeは神戸丸という具合に船名の前につける。)んな、訳ねーか・・・。
 ヒトラー親衛隊?(Schutz-Stuffel)んなアホな。第二次大戦から50年近く経っているんだぞ。何で今更、ドイツナチスやヒトラーが出てくるんだ?
 国務長官?州務長官?(the Secretary of State)。そんなお偉いさん、12才のコーデリアには無縁の話。
 えー。じゃーSSって何なんだ?
 まぁ、一番可能性としてあるのはヒトラー親衛隊だろうけど、親衛隊というからには他にSSがつくはず。しかし、SSがついてるのは彼女一人だけ。
 第一、そんな組織耳にした事ないぞ。
 じゃあ、SSは?
 他にも陸軍、(Silver Ster)同サイズ(Same Size)ラテン語の処方箋(Sensu Stritcto)、同じくラテン語の宣誓供述書(Scilicet Sections)海峡植民地(the Straits Settlement)、超音速の(SuperSonic)等を考えたがどれもぴんと来なかった。
 私は彼の一応アドレス帳をノートパソコンに写すとその場を立ち去った。
 「SS」も思い付くままに書き加えるとその言葉を呪文のように呟きながら「妹」の下へ向かった。

FILE10、奇妙な点

 私が萌ちゃんの待つ喫茶店へ駆けて行った。
「あら、速かったじゃない。1時間しか経ってないよ。」
萌ちゃんは意外そうな顔をしてこちらを見た。私は椅子を引いて腰を下ろした。
 「それで。」
彼女は私が椅子に座ると唐突に切り出した。
「何か解った?」
「ああ。かなりね。」
私は微笑を浮かべて言った。
 「第一の事件については。」
私は手を上げてウェイターを呼んで言った。
「謎が幾つかあってね。」
私はコーヒーを頼みながら言った。
「一つ目の謎は、」
とエラリィ・クイーンのする様に眼鏡を拭きながら言った。
「犯人はいかにして密室を作りおおせたのか?あの部屋は両方から鍵が掛けられる様になっているけど鍵は部屋の内側にあった。」
「うーん。」
と相方はうなり声を上げた。
「更に言うと」
とコーヒーカップに口をつけながら言った。
「あの部屋の鍵はどうあがいても外側から入れる事は不可能。」
「どうして?」 「だってドアと床の隙間が鍵の厚みよりも大きいんだもん。横はもちろん、斜め、縦、全部だめだった。」
「うーん。ディフィッカルト・・・。」
と某コマーシャルのマネをして見せた。
「こんな時にふざけないの!」
と笑いながら注意した。
「はーい」
聞き分けのいい子供の様に返事をするとまた真剣な表情になった。
 「第二の謎。それは犯人はどこから侵入したのか?」
とコーヒーカップに口をつけながら言った。
「扉じゃないの?」
「確かに、ね。扉と言う事にしておこうか。」
「『ということにしておこうか』って?」
「ぼくは、窓とか調べてないんだよ。つまり、泥とかを見落としてる可能性があるんだ。」
くすくす笑って、
「あらあら、名探偵らしからぬ行動ね。」
と「妹」は言った。
「冷やかすのはよしてくれよ。」
と肩をすくめて言った。
「あら、ごめんなさい~。」
とわざとらしく言った。
「でも。」
と私は低く呟いた。
「萌ちゃんの言う通り完全な手落ちだったな・・・」
 私は一口、コーヒーを飲むと更に話を続けた。
「第三の謎。コーディーとサムの中に何があったのか。これはさっぱり解らない。」
「どういうこと?」
「つまり。」
私はコーヒーカップに口をつけた。
「夜こっそり抜けだすんだ。黒人の彼女に会いに行くためだと言ったけどサムの親は人種とかにうるさくないらしい。」
「つまり、何も夜、こっそり会わなきゃいけない理由はどこにもないわけね。でも、彼女の両親が白人の彼氏を禁止しているという場合も・・・」
「いや、それはないな。」
私は素早く遮った。
「どうして?」
「だって、ぼくに言ったんだよ?親が彼女と会うのを禁じてるって」
「でも、彼女をかばうためかも知れないじゃない?」
「ああ、確かにそれも考えたさ。」
私は呟いた。
「でも、あのコーディーの声の震え方。あれは尋常じゃないと思うんだ。」
「私は聞いてないから解らないな~」
そう彼女は呟くとまたコーラを一口飲んだ。
 「次にトム殺しについてだけど。」
と私は口の中で言った。
「ねぇ、SSって何だと思う?」
私は萌ちゃんに訊いてみた。
「SS?イニシャルとか?」
「ああ、」
私はあえぐ様に言った。そして、
「イニシャルか・・・。何で最初に思い付かなかったんだろ。」
と呟いた。しかし、私はイニシャルだと少し妙な点に気付いた。突然、私は鳩の様な忍び笑いをした。
 そうだ。姉または妹は英語でSister!もしあれがSam(uel)'s SisterのSSだとしたら!一致する。何でこんな初歩の事に気付かなかったんだろう?
「ねぇ、何か解ったのね?」
「ああ、解ったよ、SSの謎がね。」
私は更に続けて
 「それと肩を並べる位、妙な点はパトリック、つまりP-A-T-L-I-C-Kと書かれたメモ。」
「パトリック?誰なの?それ。」
「さあ・・・。」
といらだたちげに言い、右手で頭を掻きむしった。
 私はノートパソコンを取り出しSSのファイルに「Sam's Sister?」とこの事を忘れないうちに書き加えた。
 私たちはこの後、家に帰った。

FILE11、夜の散歩

 「ねぇ、聞いてる?」
「ん?あ、ああ」
夕食後、例の事件を考えている所に「妹」が私の体を揺すってこう言った。私は「妹」の質問に対してに生返事をした。
「じゃあ、私の言った事最初から言ってみて」
言える訳がない。私は事件の事を考えていて聞いてなかったのだから。
「ごめん」
「ほら、やっぱり」
それ見なさい、といった口調だ。蛇口から水が流れ出る音と共に母の笑い声が漏れる。
「何だよ。」
「別に。」
と白々しく言って更に続けて、こう言った。 「さてと、お母さんちょっと脚本を打たなきゃいけないのよ。萌ちゃんの言う通り、2人でその辺を散歩でもしたら?」
 事件の事を一旦小休止して散歩にでも行こう。これが浅香萌と母の提案だった。
 彼女は散歩を楽しんでる間、事件の「じ」の字も口にしなかった。リフレッシュするためだと彼女は言うが、私は何を考えていいのか解らず(私は常に脳を働かせていないと落ち着かない)、ぼんやりと昨日の夜の事を思い出した。
 突然、私は顔を赤くし俯いて歩いた。隣にいる片想いの少女の顔を見つめすぎない様にして・・・。そう、私は昨日の寝顔の頬に唇を当てた事を思い出したのだ。
「どうしたの?」
不思議そうな顔で私の顔をのぞきこんだ。そのあどけない顔で私はますます顔を赤くした。
「な、何でもないよ。」
私は平静を装って答えたがその声が動揺してると言う事は私自身でも解った。
「何でもない事ないでしょ?」
と少し笑って言った。
「風邪?」
「い、いや、本当になんでもないんだ。」
理由なんて言える訳がない。寝顔の頬に口付けしたなんて・・・。
「だって、顔が赤いよ。」
「だ、だから・・・」
声がぼそぼそと小さくなっていく。
「その・・・、だから・・・」
口の中でぼそぼそと言う。私が愛する少女は何か病気になったのだと勘違いして道端にある白いベンチに座ろうと提案した。まぁ、確かに「恋の病」なのだが。そんな病名はないに決まっている。
 私はそれにやむなく同意した。漆黒の闇。その中で浅香萌の顔がぼんやりと浮き上がる。
「熱は・・・、」
と私の額に手を当てて彼女が言う。
「ないみたいね。」
「おでこ、こっちによこして」
私は彼女の指示に頬を赤く染めながらしたがった。次の瞬間、私は更に赤くなって言葉すら出なくなった。
 額に額をくっつけたのだ。
 漆黒の闇。
 その中でぼんやりとではなく、はっきりと浮かび上がる。口と口との間はわずか。このまま時が止まればいい。しかし、その反面で早く終わってほしいとも感じた。
 たった数秒間のできごと。それなのに、なぜかこうしていると遅い。心臓が速くうつ。口の中が唾でいっぱいになる。
 額をやっと離した。
「やっぱり熱はない。」
そう不思議そうに呟いた。
「ねぇ、どこか痛い所とかは?」
私は不自然な位、力んで首を横に振った。
「ねぇ、少し横になったら?膝枕はできないけど手位なら頭に置いてあげてもいいよ。」
当たり前だ。膝枕何かされた日にゃ、その場で卒倒するか、次の日原因不明の高熱にうなされる。
「あ、うん。」
私は上の空で生返事をした。私はその白いベンチに横になった。
 愛する少女の手が枕代わりになった。
 手の温もり。温かい。この一言だ。他にどう書けばいいのか解らない。
「風邪、悪化するよ。」
と言って少女は自分のジャンバーを脱いで、ふわりと乗せてくれた。
「ねぇ、萌ちゃん?」
と私は少女の名を呼んだ。 「ん?」
「どう言う風の吹き回し?」
「何が?」
「こんなに優しくしてくれるなんて。」
「あら、私、いつも優しいよ。」
と含み笑いをして言った。
「そうじゃなくて・・・・」
「解ってる。それはジージョが・・・」
「ぼくが?」
数秒の沈黙。黒い世界の中、2人だけの空間。そう私には思えた。
 少女は何やらぼそぼそと言った。そして、
「病人だから。ジージョはあと4日で事件を解かなきゃいけないんだから。」
と大きな声で言った。本当の答えをごまかすかのように。
 2人だけの世界を邪魔するかの様に、草むらがガサッと微かに音を立てた。
 私は懐に愛用の拳銃、コルトパイソンを忍ばせた。そして、ゆっくりと物音を立てない様に近付いた。緊張の一瞬。
 ニャーオ。間の抜けた声と共に現れたのは何とネコ。私はほっと一息ため息をついた。
「ん?」
私はそう呟くと、耳を立てた。
「So.I said!(だから言ったんだ。)」
「Tom is killed by waltherPPK,the dick said.(トムはワルサーPPKで殺されたってポリ公が言ってたわ。)」
と昨日聞いたドイツ訛。
「WaltherPPK!He used the same pistol,didn't he?(ワルサーPPK!奴が使ってたピストルと同じじゃないか。)」
「Shit(くそっ)」
「And There is a piece of paper which said "PATRICK" in his wear.(それにパトリックって書かれた紙が奴の服にあったってよ。)」
「Do you know the speling?(スペル解る?)」
「P-A-T-R-I-C-K.(PATRICK.)」
「Reary?Has he lived yet?It is cortain that we buried him!(本当?奴はまだ生きてるの? 確かに奴を埋めたのに!)」
「Fraulein Anne.Mr Pat is living now if he will kill us first of all.(アンネ。パットが今も生きていたら俺たちを殺すだろうな。)」 「What do you want to say?(何が言いたいの?)」
その質問には彼は答えなかった。
「Surely there is ghost!?(まさか幽霊がいるとでも!?)」
「Nein Fraulein.(違う。 独)」
「Don't lay off!(ふざけないで!)」
「But Patrick is Coddy's father.(だってパトリックはコーディーの父親だぜ)」
サムの父親はパトリックじゃない。アルマンだ。
 待てよ?真っ先に殺される?
「そんな馬鹿な」
 私は自分の推理の導き出した答えを信じたくなかった。でも、その結論だと全てが一致する。犯人はまだ解らない。しかし犯人の動機はこの事に絡んでいるに違いない。
 私は「妹」の隣に腰を下ろした。
「ねぇ、萌ちゃん・・・」

FILE12、解くべきか?

 私は迷った。
 「生きるべきか。死ぬべきか。それが問題だ」。これはシェイクスピアのハムレットの有名な台詞だ。私は今、解いた方がいいのかそれとも解かない方がいいのか迷っている。
 コーデリアの気持ちを考えると解かない方がいい。
 私は夜中一人、萌ちゃんと座ったあのベンチに腰掛けていた。
 解かない方がいい?でも、解かないと真相は永遠に闇の中。解いたら解いたでコーデリアを傷付けてしまう。
「どうしたの?」
私は何でもないと答えた。はっと振り返った。
「ああ、萌ちゃんか。こんな時間にどうしたの?」
私は力なく微笑んだ。
「ジージョが外に出るの見えたから後をついてきたの。」
彼女は私の表情を見て察したのか、黙りこくっている。
「解かないでいいの?」
やがてぽつりと言った。
「自分の信じたくない結論が出た時は放っておくの?」
厳しい一言。
「それでいいの?あらゆる可能性を・・・」
私は力なく遮った。
「探ったさ。」
「ごめん。」
彼女は素直に謝った。
「事件を解いて傷付いたら私が慰めてあげるから。」
「ははは。ありがと。」
「ねぇ、ジージョ。覚えてる?犯人をあばく方がその人のためになる。って言った事。」
「ああ。」
と私は短く答えた。
 でも・・・・
 私は次の一言に勇気づけられた。
「コーデリアさんもきっと事件の真相を解いて欲しいと思ってると思うよ。」
「何で?」
私は静かに言った。
「言ったはずよ?私と同じ立場だからすぐに解るって。」
 確かにコーデリアの目には涙があった。
 私はコーデリアの事が少々気になりながらも決意した。解こう。

FILE13、捜査

 問題は密室トリックだ。私はロス市警のコン刑事を翌朝ジャンパーをを着こんで訪ねた。空一面の曇り空。雪がちらついている。「妹」はしきりに手に「はぁ~っ」と息を吹き掛けたり擦り合わせたりしている。
「寒いの?」
と言ってジャンパーのジッパーを降ろし、「妹」へ着せてあげた。
「どう?これで少しはあったかくなった?」
「うん!ありがと♪」
と元気よく言った。
「しばらく着てな。」
「でも、ジージョは?」
「ぼく?ぼくはいいよ。」
 私たちはやがて警察署へ入った。コン刑事が笑顔で向かえてくれた。
「Hello.Sir.(おはよう)」
と刑事は挨拶した。
「Hello.Mr Con.(こんにちわ。コン刑事)」
と私も挨拶した。
「Did you find new clues?(何か進展はありましたか?)」
刑事は重々しく頭を振った。
「Then will you show me any clues?(では、手がかりを見せてくれますか?)」
彼は無言でうなづくと、ついてくる様に合図を送った。
 「This shaft was near the window.Meybe it is a lock(この棒は窓の側にあった。多分錠だろう).」
小中学校の時の廊下側の窓についているのとほぼ同じ鍵だ。これは外から鍵を開ける事はできても鍵を掛ける事は不可能。
「ん?あの窓は確か・・・。」
私は呟いた。不自然に折れ曲がっている!折れ曲がるのは当然の事だが折れ曲がり方が逆なのだ。つまり、もう一方の窓の方から力が加わった事になる。
「もしかしたら!ダメだ・・・・。」
本当に鍵がかかっていたに違いない。私と大男の二人でやっても開かなかったのだから。しかし・・・。何で折れ曲がり方が逆何だろう?
「くそっ!」
私は頭を掻きむしった。
「出ようか?」
「妹」は私を気遣いそう提案した。
「いや、いい。」
私はそう呟いて相方を引き止めた。
「あら?そう。」
と彼女は意外そうな声を出した。
 ああ、くそっ!全然解らなねぇ。犯人はいかにして密室を作りあげたのか?  私の口元に微笑が浮かんだ。推理がうまく行かない時の微笑。犯人との知恵比べを楽しむ時の微笑だった。
「うーむ。」
私は口に手を当てて考える仕草をした。どう考えても解らない。鍵は縦にしても斜めにしても、横にしてもダメ。という事は窓からか?あの不自然に折れ曲がった錠も気になる・・・・・。
 どうして一家皆殺しにするなら私まで殺さなかったんだ?隣で寝ているサムが大声でも上げれは場私に知られて、この計画は台無しになってしまう。
「You showed me all clues,didn't you?(これで全部ですよね?)」
「Yes.」
と刑事は即答した。
 例の棒。死体以外、何も手がかりになりそうなものはない。
「ねえ、ジージョ。」
と萌ちゃんが急に耳元で囁いた。
「トイレどこか聴いて?」
もじもじしながら言った。
「Well....Where is a toilet?(あの・・・・。トイレはどこですか?)」
刑事はトイレへの行き道を説明した。私が訳して説明すると、萌ちゃんは立ち上がりドアに向かって歩いた。
「アイ キャント オープン ザ ドア(ドアが開かないんですけど)」
コンは近くに行って、
「Hahaha.Not push.Pull.OK?(ははは。押すんじゃなくて、引くんだよ。解ったかい?)」
「オーケー。サンキュー、ミスターコン(解りました。コンさんありがとうございます)」
「You are welcome!(どういたしまして。)」  そうか!この手を利用したんだ。
 先入観は全く恐ろしい。私は鳩の様にくっくと忍び笑いを一つした。そしてこう呟いた。
「なるほどね・・・。」



FILE14、意外な展開

 私はコン警部補にある事を依頼して、「妹」と共に帰った。
「ああ、それと」
私は思わず日本語で呟いた。
「Please gether participant in the case tomorrow.(事件の関係者を明日、集めて下さい。)」
とにやりと笑って言った。
「OK.But what time do you want to gether them?(解った。でも時刻は?)」
「About ten in the morning.(大体、10時頃に)」
と微笑して言った。コンは黙ってうなづくと私たちに手を振って別れた。
「ねぇ、ジージョ?」 と「妹」が話し掛けた。私は彼女に視線を傾けた。
「犯人、解ったんでしょ?」
「まぁ、それは明日のお楽しみ。」
 翌朝、コン刑事から9時位に電話がかかってきた。私は準備をしていたので・・・といってもパジャマから普段着に着替えていたのだが・・・
「萌ちゃん、代わりに出てくれる?」
と相方に頼んだ。階段を下る音が聞こえる。
「ハロウ?ディス イズ モエ アサカ。・・・アンンン。ジャスト モーメント プリーズ。(こんにちわ。浅香萌です。あんんん。ちょっとお待ち下さい。」 と言う声が下で聴こえてきたかと思うと私の名を呼んだ。
「はいはいはいはい。」
と悪態をつきながら私は階段を下った。そして、受話器を受け取ると
「Hello!(こんにちわ。)」
コン刑事だった。
「Hello!Sir.」
いつもの明るい声ではなく重々しい声だった。
「What.... happened?(なにか・・・あったんですか?)」
私も慎重に言う。
「Joseph,Anne and William died.(ジョセフ、アンネそしてウィリアムが死んだ。)」
と重々しい口調で言った。
「Where is the bodies?(死体はどこですか?)」
「Joseph's house.(ジョセフの家だ)」
「I see.I'll arrive there soon.(解りました。すぐ行きます。)」
と受話器を荒っぽく置くと駆け出した。  「Show me the bodies,will you?(死体を見せてくれますか?)」
と私はコン刑事に頼んだ。
「Joseph committed suicide.(自殺ですね。)」
私は静かにそう言うと現場を後にした。

FILE15、真相

 「ねぇ、で、事件の真相はどうなったの?」
萌ちゃんは私の部屋でベッドの柵に腰掛けて訊いた。
「ああ、第一の事件については、」
私はコーヒーを飲みながら言った。
「萌ちゃんのあの行動が解く鍵になったよ。」
「あの行動って?」
「I can't open the door.だよ。」
「あの行動が?」
「そう。」
そう私は短く答え、またコーヒーを口に含んだ。
「どういうこと?」
萌ちゃんは不思議そうな表情を浮かべた。
「つまり、鍵がかかってる事とぼくが考えた事自体が間違いだったんだ。」
「えっ、でも開かなかったんでしょ?窓。」
萌ちゃんは私の言ってることがよく解らないと言う様子で言った。
「確かに開かなかったよ、それはぼくが断言する!」
「えっじゃあ、鍵がかかっていたんじゃ・・・」
「いやいや、窓が開かないということと鍵がかかってるって事は別なんだ。」
私はコーヒーカップに口をつけるとそう言った。
「えっ、えっ?」
「妹」は頭にクエスチョン・マークが浮かんでいるようなそんな顔をしてじっと私の顔を見た。
「あっ、解った。犯人は何らかの方法を使ってドアに・・・」
私は意地悪っぽい含み笑いをして
「ブー、残念ながらドアには鍵がかかっていました。ちなみに縦にしても斜めにしても入りません。第一、そんな細工できないしする必要もないんだよ。」
「えー、じゃあ、犯人は一体どうやって。」
「密室だと言う先入観かあるからいけないんだ。」
「密室じゃなかったの?」
私は微笑してこう言った。
「ああ、犯人に必要なのは演技力。これだけがものを言うね。」
私はコーヒーカップを手に取って口をつけた。
「つまり、最初から密室じゃなかったというわけね?」
「妹」は難しい数学の問題で簡単に計算する方法を見つけたような笑顔をした。
「でも、窓が開かなかったのは?」
「ああ、あれか?あれはね。犯人がぼくと反対側の方向に力を加えてたからさ。」
萌ちゃんはいまいちよく解らないといった不思議そうな顔をして私を見つめた。
「つまり、」
と私はコーヒーを一口飲んで言った。
「このベッドを2人で引くとするよ。萌ちゃんが押して、ぼくが引いたらどうなる?」
「動かないに・・・あっ!」
彼女の顔はぱっと明るくなった。
「ようやく解った様だね。」
私はにやりと笑った。
「そう、犯人は違う方向に力を加える事でぼくに密室と錯覚させたんだ。」
 「密室の謎は解けたとしてパトリックって誰なの?」
「ああ、そいつは多分あいつら4人が殺したコーデリアの父親だよ。」
私は低く呟く様に言った。
「コーデリアさんの?」
信じられないと言った調子で言った。
「ああ、ジョセフは彼らが殺した人の名前をポケットに入れる事によって恐怖心を煽り立てたんだと思うよ。」
「恐怖心を?」
「そう・・・例えば・・・」
私はここまで来てはっと気付いた。浅香優太殺害事件を例に示すのはまずい。いくら人の心に無頓着な私でも(と自分でそう思う)、その位の分別はつく。
「例えば?」
「もしも、もしもだよ?」
と努めて私の親友でもあり彼女の「本当の」兄の話題を避けるようにした。
「もしも?」
「もしも・・・」
私は躊躇した。
「もしも?何?」
「もしも、もしも、お父さんお母さんが・・・」
私は慎重に言葉を選びながら言った。
「ふんふん。」
萌ちゃんはうなづきながら私の話を聞いている。
「殺されたら、萌ちゃんどんな復讐の仕方する?」
「初めからお兄ちゃんの事、言えばいいのに・・」
と彼女は悲しげな顔を見せてそう呟いた。
「それはそうなんだけど・・・。思い出させたくなかったんだ。あんな忌ま忌ましい事件。萌ちゃんの自殺未遂まで引き起こして・・・」
「何で!?だってジージョ謎を解く探偵じゃない!あの事件だけを特別視するのは変だよ!まず最初に発表するべき事件を後回しにして。」
私は何も言えずただ俯いていた。
「あっ、ごめん。こんなに怒っちゃって。」
彼女は手でごまかし笑いを一つすると涙を拭った。私は、
「はい、使いな。」
とハンカチを取り出して彼女に渡した。黙って受け取って涙をハンカチで拭った。
「でも、私平気だよ?もう、4年も前の事だし。」
「でもぼくは平気じゃない。」
私はそう呟いた。
「何で?いくつもの事件を冷静沈着に解決した人が言う言葉じゃないよ!」
「親友の死を痛むなって言う方が無理だろう。」
私は怒りを抑えて言った。でも、確かに彼女の言う通りかもしれない。と私は感じた。いつまでも昔の事件に引っ張られるのはよそう。
「ごめん、こんな話になって。」
私はそう言って謝った。
「で、パトリックの続き・・・・。そりゃあ、、お兄ちゃんを殺した犯人に復讐したい時には浅香優太って書いた紙をどっかポケットに忍ばせておく・・・とジージョはこう言う答えを期待してるんでしょうが、私解ったの。」
「何が?」
「自殺も復讐も下だらない事だっていう事が。復讐しても死んだ人は生き返る訳じゃなし、ましてや自殺なんて。その後の楽しい人生を棒に振る事になるしね。」
「自殺したければしればいい。でもね、自殺する人は最低の臆病物なんだ!」
私はあの頃、「妹」に言った台詞をもう一度繰り返した。
「私、気付いたんだ。」
「何に?」
「私の周りを見渡せばもう一人の「お兄ちゃん」がいるってね。」
「誰?」
「気付かない?」
彼女は含み笑いをして言った。
「うん。ぜんぜん。」
「もう・・・。ジージョよ。」
と多少面白くなさそうに言った。
「そして・・・・」
「そして?」
「私の・・・」
「萌ちゃんの?」
「やっぱり言わない。」
なんじゃそれ。まあいいか。
「さて、続き続き。」
と彼女は話をはぐらかす様に言った。
「パトリックの謎は解ったね。」
「妹」はこくりとうなづいた。
「でも、ここからはぼくの想像だけど、ジョセフは二人を呼んで銃を発砲。その後、自分もこめかみを撃って自殺・・・・・。」
「でも何で自殺なんて・・・」
「それは多分コーデリアのためさ。」
「コーデリアさんの?」
「ああ」
私はそう呟くと残りのコーヒーを全て飲み干した。

FILE16、遺書

 翌日、私の元にコン警部補から電話があった。私に日本語で当てた遺書があるので是非、取りに来てほしいと言うものだった。

  翔治様
 以前、君の両親に日本語を習った事がある。警察に見られるとコーデリアが傷付きそうなので日本語で書く事にする。
 俺が使ったトリックはもう気付いていると思う。俺は君と反対方向に引っ張った。
 俺がこの殺人をやらかした理由はコーデリアをあの忌ま忌ましい悪魔たちの手から救うためにやった。
 コーデリアの両親はあのサム・スペードに殺された。殺した理由は永遠に闇の中だが。で、可哀想な彼女は皮肉にもあのスペード家に引き取られた。しかし従兄弟で彼女に取っては実の兄同然、いやもしかするとそれ以上に慕っていた俺のすぐ近くだと言う事もあり俺はとりあえず安心した。なぜ俺が引き取らなかったのか疑問に思うかも知れない。俺には彼女を養うだけの金がなかった。食費、学費・・・などを計算したらものすごい額になった。俺には払えなかった。半年経ったある日の夜、俺はコーデリアが泣きそうな声で、
「止めて!」
と言うのを聞いた。俺は自分の部屋の窓からそっと隣の家を覗いた。俺は驚いた。今すぐにでもサムの頭に風穴を開けたいと思った。サムはコーデリアを強姦していた。彼女はたった8才だったんだぞ!信じられるか?でもそれが事実なんだ。やがて、サムは友人を連れてきた。そして彼らはコーデリアを輪姦した。そいつがトマスとウィリアムだったんだ。やがて、トマスとウィリアムはサムがいなくともコーデリアを強姦する様になった。
 そしてある日、あのアンネが現れたんだ!彼女はコーデリアの強姦している様をビデオに撮り裏社会で販売されたくなかったら、毎週80ドル払う様、要求してきた。数日後、サムはコーデリアを当時わずか10才の妊娠させてしまった。そしてアンネの要求はもう90ドル増えて、次第に無表情になって行った。と、同時に男の人となら例え俺とでも話すのを避けた。よくよく考えてみれば男と話すのを避けるようになったのは無理もない話だったのかもしれない。
 あっ、そうそう、棒の不自然な折れ曲がり方についてだが、スペード家に侵入する時に反対側を強引にやってる内に外れちまったんだ。
 これを警察に提出するかしないかは君が決めろ。
                           ジョセフ

 私は部屋に帰って読み終え寝ると細く長いため息を一つした。そして私は部屋の隅に置いてあったマッチ箱に手を延ばした。


 「ねぇ、ジージョ?」
「ん?」
私は「妹」の呼びかけに視線を向けた。
「もしも、私がコーデリアさんと同じような目にあったら、どうしてくれる?」
私は意地悪っぽい口調で
「大丈夫だって。萌ちゃんのパンチで一撃だよ。大概の男は。」
と言った。彼女は不服そうに、
「だから、もしもって言ってるでしょ?」
と言った。
「うーん。そうだなぁ、ぼくだったら、相手を殺す事より萌ちゃんを救う事に重きを置きたいな。」
 「ところでジージョ?」
「何?」 「傷付いた?今回の事件で。」
「ちょっとね。」
私は微笑して言った
「慰めてほしい?」
「ぼくはいいから、コーデリアを慰めてやってくれないか?」
「今の彼女に何を言ってもムダよ。」
「じゃあ。少し休ませてくんない?頭を使いすぎてオーバーヒートしちゃったみたい。一寝すれば直ると思うから。」
彼女はおかしそうにクスクスと笑った。
「解ったわ。お休み。」
「お休み。萌ちゃん。」
 そして私がまどろんでいると、ギーッと扉の開く音がした。
「萌ちゃん・・・」
私は唇を動かすと心配させまいと狸寝入りをして目をつむった。次の瞬間、何か柔らかいものが私の唇に触れた・・・・・。
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