誘拐された少女
FILE1、一通の電話
あのオフの忌まわしく、悲しい事件(ミステリー愛好家殺人事件)から一カ月経とうとしている。その間、西口警部からの連絡は2、3回あったが面白くなさそうなので依頼を断った。そして、あの萌ちゃんとの関係も気まずいままである。もう師走でめっきり寒くなったというのに。
そんなある日、いつものように私が江戸川乱歩の生み出した日本一の名探偵の明智小五郎のよう頭の痛くなるような数学の問題を解いていると、電話がかかってきた。(一つ断っておくが、私は小五郎のように趣味でやってるわけではない。常に頭をフル回転できるようにやっているのだ。かの世界一の名探偵ホームズが阿片をやっていたように。)
「あっ翔ちゃん、うちの萌がそっちにお邪魔してない?」
出てみると萌ちゃんのお母さんだった。
「いえ、来ていませんけど・・・・・。萌ちゃん、まだ家に帰ってきていないんですか?」
「そうなのよ。まぁ、あの娘の事だからどっかで道草食ってるんだとは思うけど。」
「そうですか・・・・・。解りました。見かけたら電話します。心当たりは全て電話したんですか?」
時計を見ると10時になっていた。
「ええ、電話したわ。」
「とにかく、見かけたら電話します。」
その後、私は彼女と2、3世間話をした後、電話を切った。
私はこの時、特別気にも止めなかった。なぜなら、萌ちゃんは、空手、サンボをやっていて、襲われてもすぐに得意の肘鉄と踵落としの連係技で対処できると思っていたからだ。(誤解を招くといけないので書いておくが浅香萌は決して筋肉質ではない。むしろやせている)とにかく、そんなわけでそして萌ちゃんが襲われるなんて信じられなかった。
電話の後、私は2、3時間、取引先のリストを作ったりと仕事をして床についた。(といっても私の場合はソファーだが。だから、私の場合は床につくよりも、“ソファーにつく”の方が正確かもしれない。)
翌朝、毎日のようにコンビニで朝食のおにぎりを買おうとして、着替えていると向い側の家がやけにパトカーの音などで騒がしい。西口警部もいたので事情を聞いてみると私は我が耳を疑った。浅香萌が誘拐されたのだ。
警部の話だと彼女の母親が昨夜10時頃になっても、娘が帰宅してこなかった。翌朝になっても帰ってこないので不審に思って警察に届けた。という具合らしい。
「で、身代金の要求は。」
と私が聞いた。
「これだ。これを読め。」
「何ですか?」
と言った。何だろう、何が書いてあるのだろう。と思いながら、警部から渡された封筒(封は切られていた)を開けると、身代金は要求せず私一人で栗川駅に来るように命じられていた。下がそれである。
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お宅の娘は預かった。
身代金は決して要求しない。
ただし、お宅の近所の有沢翔治という男を朝10時までに栗川駅までよこせ。少しでも遅れたら、殺す
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奇妙な脅迫状。それが私の第一印象だった。その手紙から推理しようとしている時(脅迫状からでも犯人像は解るので)、私の携帯が鳴った。萌ちゃんからだった。彼女は私に声を潜めてこう告げた。
「いい?ジージョ。私のケータイずっとONにしてるから・・・・・、何か手掛かりになる音が入るかもしれない。」
「どこに閉じ込められているか解らないの?」
と私が質問したら、残念そうに、
「うんん。私ずっと薬・・・・たぶんクロロホルム・・・・で眠らされていたから。」
「解った。待ってて。すぐに助けてあげるよ。」
「うん!」
と元気そうに言った。
それから、
「さてと。出発するか。」
と私は呟いた。出発しようとする私に警部は何か犯人からのメッセージが入るかもしれないからと携帯電話を渡してくれた。どうやら警部は自分の携帯の番号を犯人に教えたらしい。
FILE2、指示
電車に乗った私はずっとイヤホンで携帯を聞いていた。耳をそばだてて・・・。微かにキャーという声がする。遊園地のジェットコースターかお化け屋敷・・・・・。いや、お化け屋敷はない。なぜなら、室内で声が届かない。それに叫び声だけで場所を特定するのは難しい。偶然かもしれないし。
2、30分間乗った後、私は栗川駅に下りた。犯人との待ちあわせ場所に着くと一瞬ぎょっとした。また指示の貼紙が張ってあったのだ。
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名探偵、有沢翔治様へ。
下後津に午後1時半。
2番出口前だ。
kidnapers
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kidnapersか・・・・・・・。kidnapは誘拐するという動詞だ。それにerが付いたのだから、「誘拐する人」という訳し方が相応しいのだろうか?
ところで、今10時だから、あと3時間は祐にある。それまで監禁場所を考えるか。それとも昼食をどこかの喫茶店でとるか。私は昼食をとりながら監禁場所を考えることにした。また、下後津駅に着いたら新たな指示がある事を予想して。
私は喫茶店でサンドイッチを頼むとパン片手に推理をはじめた。もう一度、事件を最初から考えはじめた。萌ちゃんが誘拐されたのは昨夜・・・・・・、それに身代金を要求しなくって、まるで私を要求しているかのような奇妙な脅迫状。それに最も不可解なのは次々と場所の変わる待ち合わせ場所・・・・・。
「失礼ですがこの中に有沢翔治様というお客様はおられますか?」
と言うので私が申し出ると受話器を渡してくれた。
「はい。もしもし。」
と電話に出ると、犯人からの電話だった。
「次の指令を与える。いいか?複雑だからよく聞け。下後津から37分発の平針方面の地下鉄に乗れ」
私は辺りを見回した。が電話をかけてる客は誰もいない。
「ふふふ。探しても無駄さ。」
と黒いジャンバーと黒い長ズボンを履いて、サングラスをかけている不審人物がビルの屋上で携帯を使ってるのを発見した。割と長身、やせ気味だ。
「おや、気付きましたかな。名探偵さん。」
と皮肉っぽく言うと相手は電話を切ってしまった。
お金を払って急いで出てみたが、その男の姿はなかった。
「くそっ」
と私はぼやいた。とにかく今は犯人の指示に従うしかない。そう思い、私は携帯を持って出た。
「ジージョ。今、犯人出てったから外がちらっと見えたんだけどメールで送るね。でも、手と足縛られてるから見えないけど。」
「なんで口で言わないの?それに、そこにパソコンあるの?」
「犯人に聞こえたら、殺されちゃうかもしれないでしょ?パソコンはあるから。あっ、やばい。」
そこから、
「このガキ、なめたマネしやがって。」
という声が聞こえてきた。太い男の声。
「萌ちゃん、大丈夫!?」
犯人の男が殴る、蹴るなどの暴行を彼女に加えた(正確には音が聞こえたのだが)。彼女からはそれっきりしばらく応答がなかった。
私は、彼女に対して何もしてやれない悔しさで地面を叩き、泣きだしそうになった。それからまもなくして電話から犯人が挑発してきた。
「さぁ、ゲームの始まりだ。名探偵さんは夕方・・・そうだな・・・6時までに大事なこの娘の監禁場所を特定できて、来たら返してやる。もしも1秒でも遅れたらタイマーが作動して娘の体につけてある爆弾が爆発する仕組みになっている。
念の為、言っとくがサツに知らせたらその時点で無条件にバンッだからな。」
私は時計を見た。3時だ。あと3時間しかない!この手掛かりのない状況でどうやって見つけだせって言うんだ。唯一の手掛かりは、送られてきたメールだ。
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未知機ランチのら名みら虎名のら
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全くの意味不明である。とにかく、私はこの暗号について35分まで考えてみる事にした。
FILE3、37分発の地下鉄
やがて35分になり、私は犯人の指示通りに37分発の地下鉄に乗る事にした。結局、色々と考えを廻らせたが解らなかった。今も、私の頭にはあの犯人の声が焼き付いて離れないのが原因の一つだろう。ルパンが『続・813』で洞察力が半減したように。
そんな事をあれこれ考えているうちに、私はだんだんと不安になってきた。犯人が指定した地下鉄に乗ってこないのだ。おかしい。私は列車を間違えたのではないだろうか?とその時、私の前に一人の男が現れた。ビルの屋上で見たあいつである。私は異様な好奇心と恐怖に襲われ、しばらく喉が潰れたように声が出なかった。しばらくして男が口を開いた。
「サツに言ってないだろうな。」
「はい。」
私は短く、慎重に答えた。
「よしよし。」
「それより無事なんだろうな!?」
「心配するな。約束の6時が来るまでは、タイマーが作動しない仕組みになっている。もっとも、信用するかしないかはそちらの勝手だがな。」
更に言葉を続けて、
「さて、本題に移ろう。用件は金じゃない事は確かだ。お前のその頭脳が欲しい。我々はこれまでお前が3件の殺人事件を解決してきた事は知っている。つまり、迷宮無しの名探偵は逆に言えば迷宮入り事件の天才犯罪者を作りあげる事ができるわけだ。」
「ふざけるな!誰がお前みたいに汚いやつに手を貸すか!」
思わず、私らしくない言葉使いになってしまう。
「おっと言葉使いにはくれぐれも注意するこったな。俺はいつでも人質をあの世に送れるんだからよ。」
「くっ・・・・」
私は引き下がった。
「ところでお前を利用する方法はいくらでもあるぞ。例えば人質を盾にするだとか、コピーを作るだとかな。」
そう、今は人間のコピーができる時代なのだ。ヨーロッパで成功した子羊の『ドリー』がクローンの第一号である。
私もよくは知らないがクローンとはいわば、人工的に一卵性双生児つまり、人工的にまだ受精卵の段階で切り離す事でらしい。こうする事で同じDNAをもつ人間ができるということだ。だが、人間のクローンを作りだす事は法律で禁じられている。いったい、この黒い男たちはその事をどうするつもりなのだろう?もっとも卑劣極まりない、こいつらみたいなやつにとっては法律なんてどうでもいいと思っているのだろう。
私は正直言って、当初こんな大それた組織が関わっているとは夢にも思わなかった。そう。ホームズの『恐怖の谷』にでてくる殺人団のような組織が・・・・・・。しかし、現実に関わっているのだ。そして、その男が目の前に立っている・・・。
「あと2時間・・・・。それまでお前は人質を助けれるかな?」
とやつが冷たく言うのだった・・・・。やつは次の駅で降りた。
誰が天才犯罪者なんかになるか。しかし、萌ちゃんを6時までに救出しなければ・・・、救出しなければ・・・・。その為には暗号を解読しなければいけない。私は再度、暗号について考えてみる事にした。
私は知識と洞察力を総動員させて考えてみた。ポオの『黄金虫』やドイルの『踊る人形』、乱歩の『黒手紙』のような暗号か。いや、短すぎる。では、ルブランの『奇岩城』のような暗号か。いや、違う・・・・・・・・。というふうに今まで読んできた推理小説に出てきた暗号と照らし合わせてみたが、どれも違った。
待てよ?もしも、意図的ではなく偶然この暗号が打ち込まれたのだとしたら・・・・・・。私はまた考えた。
そしてしばらく考えて、数分後解った。自分でも何でこんな簡単な事に気付かなかったのだろうと、おかしいぐらいだ。
私はこう呟いた。
「萌ちゃん、解ったよ。今、助けに行ってあげるから。」
と。
そして私は救出に向かうため、電車を乗り換えた・・・・。
FILE4、暗号解読
そう、あれはハプニングで暗号になってしまったのだ。“未知機ランチのら名みら虎名のら”とは実に単純明快で“未”は“み”つまりキーボード上の“N”の位置になる。これを踏まえると、“みちきらんちのらなみらとらなのら”。これをキーボード上のアルファベットに置き換えると、“NAGOYAKOUNOSOUKO”つまり“名古屋港の倉庫”だ。
萌ちゃんはそこに監禁されている。警部に連絡する暇すらなかった。何せあと1時間・・・・。その一時間が倍以上に私は感じた。何度も何度も電車の中で時計を見た。
その時、我が耳を疑うようなアナウンスが入った。
「え~。事故によりこの車両は、1時間程停止させて頂きます。」
私は途方に暮れた。どうしよう・・・。どうしよう・・・。あの好きな萌ちゃんが・・・・・。萌ちゃんが・・・。時計を見た。4時5分。遂に1時間を切ってしまった・・・・。名古屋港まではあと2駅だというのに。このままでは5分オーバーで殺されてしまう。せめて彼女が死ぬ前に告白しておけばよかった。断られてもいいから。
いや、待て、まだ死んだと確定したわけではない。微かな望みをかけて。そう・・・。私が助けだせる確率は全くの0%ではないのだ。0.00000...1%位の確率は残っているはずだ。そうあって欲しい。いや、そうに違いない。
確かに数学的に考えると死ぬことは確実だ。でも上手に頭を働かせてこの危機を脱する事ができるはずだ。考えろ!考えるんだ。と私の携帯が鳴った。
「どうしましたかな。名探偵さん、ここでお手上げですかな。爆弾が仕掛けてあるとそこに電話したんだよ。さあ、どうする?車内は完全な密閉空間・・・・・。出られないよ。
俺はお前の悲痛な顔が見たくてねぇ。困ってる顔が目に浮かぶよ。クックック。早くしないと、この娘が天国に行っちゃうよ?それとも組織に入り、我々に手を貸すっていうんなら娘の命だけは考えてやるが?さあ、あと53分しかない。早く決断しないと可愛い片思いのこの娘が死んじゃうよ?
まあ、お前がこの娘に格好いい所を見せて気を引こうという手もありだがな。」
鳩のような忍び笑いを1つすると電話を切られてしまった。
くそっ。誰がお前らなんかに手を貸すか!しかし、この密閉空間からどうやって抜け出す?車掌に事情を説明し、出してもらうか?
「ジージョ、私は名古屋港の倉庫に閉じ込められているの。」
「解ってる。」
「なら、何で助けてくれないの!早く来てよ!」
私は彼女に今の状況を説明すると、
「そう・・・・。」
と言った彼女の声にはもはやあきらめの色が見えてきている。
「ぼく、もう、彼らに手を貸そうかと思っているんだ。その方法以外にもう、君を助ける方法はないから・・。」
「何で、そう私を救おうとするの?自分の信念を曲げてまで・・・・・。警部さんたちは、ジージョの会社は、そして死んだお兄ちゃんはどうなるの?それで私のお兄ちゃんが喜ぶと思ってるの?お兄ちゃんの霊が成仏できると思ってるの?私、ジージョが誘拐した人たち手を貸したら・・・・天国のお兄ちゃんに・・・・・合わせる顔・・・・ないよ・・。」
彼女の声には涙をかみ殺して言っているのがよく解った。
「だから・・・だから・・・私はどうなってもいい!でも、これだけは約束して。私が死んだら天国の・・・・お兄ちゃんに顔向けできる状態にして欲しいの・・・・。お兄ちゃんね・・・すごくジージョの事、ちょっと知識にばらつきがあるけど。凄いやつだって・・・・言ってたよ。ホームズとワトソンより名コンビだって・・・・・、そんなお兄ちゃんに・・・・・お兄ちゃんに・・・・。
私の代わりなんて・・・・いっぱいいるじゃない・・・・・・・。でも・・・・浅香優太の妹は私一人・・・・なのよ?だから・・・・・せめて・・・せめて・・・・。お兄ちゃんの妹して・・・・死なせて・・・ほしいの。」
私は何をやっているのだろう?早く彼女を救わなければ・・・・・。と思ったら、浅香優太の霊が目の前に現れたような気がした。そして彼はこう言った。
――何をやっているんだ?早く俺の妹を・・・萌を救い出せよ。俺あん時、お前にこう言ったよな?俺が死んだらお前が俺の代わりをしてくれって。約束守れよな?
――そんなこと言ったって・・・・・。
――何を弱気になっているんだ!弱気になってたら見つかる真実も見えなくなるぞ。それがお前の口癖だったじゃないか!お前の頭は飾り物か?違うだろ!?
俺を殺した犯人を暴いてくれたあの頭は、警察の手に負えないような難事件を解決したあの頭はどうした!お前のそのシャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロに肩を並べるような優秀な頭をフル活用するんだ!
そして、最後にもう一つ。萌を・・・妹を・・・よろしく頼むよ。お前、萌のことが・・・あっ、いや何でもない。この約束は何が何でも守れよ。俺にとって唯一無二で大金いくら詰まれても譲る気はない妹なんだからよ。ま、いつかはそうと言ってられない日がくるかもしれないけどよ。とりあえず、今のところは誰にも譲る気はないよ。
あっ、もう時間だ!帰らなきゃ。じゃーなー。
――帰るってどこに?おっおい、行くなよ!
死んだ親友との話は私を奮い立たせ、絶望の底からはい上がらせた。希望の光が見えたのだ・・・・。
FILE5、電話の向こう
私は賭けに出た。危険な賭けである。しかしこの方法以外に思いつかない。一か八か
であって、失敗したら浅香萌が確実に命を落としてしまう。これは慎重にやらなければいけない。そう、慎重に・・・。
「萌ちゃん、今そっちはどういう状況?」
彼女は「はっ?」と言わんばかりの様子だ。
「早く!時間がない!」
「えっと・・・。手に縄が巻かれていて、体に変な箱がついているよ。」
「えっ?じゃあ、今、どうやって喋ってるの?」
「引きちぎったのよ。」
私はこの時、
(はははっすげえ女)
と思った。それからこう聞いた。
「じゃあ、なんで逃げないの?」
「内側からはシャッターが開けられないの。」
私は次の質問に移った。
「ふーん。で、あと他には?」
「えっと・・・。箱にデジタルの数字がついていて、それにコードがついているよ。」
とその時、私の他方の携帯がなった。
「返答をお聞かせ願いましょうか?名探偵さん。」
「ああ。お前の仲間に入らず、しかも人質を助ける。」
相手はまるで馬鹿にした様子で、
「はっ、何を寝ぼけた事を。そんな方法があるならこっちが教えてもらいたいね。言っておくこの爆弾をぶっ壊させようとするんなら一気にバーン、だ」
「だから、指示を与えて、解体させるんじゃん。」
「設計図が無ければ解体できまい。」
「だから、爆弾の様子を聞いて設計図を書くの。」
「素人に何が解る。まぁ精々頑張るんですな。言っておくが切るコードを間違えると途端に爆発するからな。」
と言って電話を切ってしまった。
私は人質の少女に爆弾付タイマーの解体を命じようと、
「萌ちゃん、何か切る物ある?」
と尋ねたら、
「バッグ、どこかに置かれているみたいだけど・・・・、あっ、ポケットにソーイング用のハサミがあったよ。これでもいい?」
「オーケー、それ使おう。じゃ、タイマーの蓋を開けて。」
「取りはずしたわ。」
「中の様子は?」
「黄色・紫・緑・赤・青・むき出し・茶色・白・黒のコードがあるわ。」
私は彼女からもっと詳しく様子を聞いた。そして私は慎重に、
「緑切って。」
と指示を与えた
「切ったよ。」
爆発しない。セーフ。
「黄色切って」
「切ったよ。」
こんな具合に、次々とコードを切っていった。その間、緊張した空気が張りつめていた。
「紫。」
「切ったよ。黒と赤が残ってるけど・・・・・。」
正直、私には解らなかった。あと60秒しかない!
「早く。どっち切ればいいの?」
「待って。今考えてるから。」
あと48秒。
「あと30秒よ。早くして!」
「じゃあ、好きな方切って。」
「そんなんでいいの?」
「ああ、解らない。だから萌ちゃんに好きな方選んで切って。切らない方は切った方がいい・・・。たとえそれが1/2の確率でもね。」
私は生まれて初めて、神に祈りを捧げた。
「黒・・・・。にするね。」
「どっちでもいいよ!早くして。あと5秒、4、3・・・・」
パチンという音が聞こえた。爆発音は聞こえない。助かったのだ。ああ、神様。私は戦場から生きて帰ってきた兵士のような気持ちになった。ほっとしたどころではない。それの比ではないのだ。100倍、いや1000倍以上の・・・。私はへなへなとして地べたに思わず座ってしまったほどだ。
そして、また電車は走り出した。何事もなかったかのように・・・・・。
5分後、私は名古屋港の倉庫の近くにいた。もう、日はどっぷり暮れている。ここには20個の倉庫があり、私は一つ一つ丹念に叩き反応を調べた。手が非常に冷たい!そして何個か目の倉庫に差しかかかった時、シャッターを内側から誰かが微かに叩いているようだった。
もしやと思い走ってその倉庫の前に来てみると、やっぱり誰かが叩いている。小石を
そのシャッターに投げつけると、電話の向こうでコンッとぶつかる音がした。ここだ!ここに浅香萌は監禁されているのだ!しかしどうやって開ける?非力な私では到底開けられそうにない。かといって内側からだと開けられない仕組みになっている。どうする?考えろ。考えるんだ。時間はたっぷりある。港の従業員に助けてもらうか?それがいい。
私は港の人の助けを借りて開けてもらった。そして萌ちゃんを助けだす事に成功したのだ!彼女は震える唇で私にこう言った。
「ありがとう、ジージョ」
と。
FILE6、後日談
そして事件があってから数日経ったある日、私の会社に毎日のように萌ちゃんが遊びに来ていた。彼女にこう尋ねた。
「爆弾の時、なんで、黒を切ったの?」
と、すると彼女は、
「秘密」
と恥ずかしそうに答えた。だが、私はうすうす感じていた。何せ赤は彼女の死んだ兄で親友の浅香優太の好きな色なのだから・・・。そしてもう一つ・・・。運命の赤い糸なのだから。
それから数時間、私と彼女は話こんだ。そして急に思い出したように、
「そういえば、この前の推理勝負勝ったんでしょ?なら、賞品をあげなきゃね。あっ、言っとくけどこれは賞品なんだからね。勘違いしないでよ?
それに助けてくれたお礼もしたいしね。」
と言ったので、私が頬が赤くして、(なぜ頬を赤くしたかは前の事件参考)
「い、いいよ。あれは。ぼくと律希が勝手に約束したんだから。萌ちゃんには関係ないよ。それに、助けたのはぼくは、萌ちゃんがどうとかいう問題じゃなくて、いろんな事件を解いてきてもう人が死ぬのはもうたくさんなんだ・・・。実際にぼくは親友の優太を失ってるしね。
それに君が死ぬとぼくが天国に行った時、優太に合わす顔がなくなるしさ。遺言みたいな物なんだ『そんときゃ、よろしく萌を頼む』って。だから約束、守らなきゃあいつ怒るしよ。あいつは正義感とか、そういうもんに関しては人一倍強かったよ。それに好きな言葉がマーロウの『男はタフでなければいけない。そして優しくなければ生きていく資格がない』だったしさ。
萌ちゃんもそんな兄の妹なんだから・・・・。
それに・・・・・・ぼく・・・・・萌ちゃんの事が・・・・・」
「私がどうかしたの?」
最後の「好き」というたった2文字の言葉が喉で止まっている。結局私は、
「い、いや、何でもない。」
と言ってしまった。あともう一歩だったのに、、
「ふーん、とにかく約束は約束。はたさなくちゃね。さあこっちに顔を持ってきて。」
私は彼女の言うままにした。そして・・・・・。
この作品はいかがでしたか?
一言でも構いませんので、感想をお聞かせください。