僕の心霊体験

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1


「バカ!どうしてくれるのよ」
 と愛しい顔付きの二十才の女性、尾崎恵子が怒鳴り散らす。恵子は隣にいる恋人、加藤晋也のデート中、道を誤ってしまったのである。もう陽もどっぷり落ち、辺りの家々には電気が点き始めていた。
 隣の茶髪で、肉付きのいい男は宥めすかすように、
「落ち着けって」
「これが落ち着いてられる状況!?」
 と恵子が怒鳴り散らす。
「あんたのせいだからね。このバカ!」
「うるさいな! だから今、道路地図見てるんだろ」
「方向音痴が地図なんて見ても仕方ないじゃない。オランウータンに見せた方がちゃんと帰れるわよ」
 このままじゃいけない、と思って晋也は、
「あっ、灯りみたいだぞ。大通りかもしれない」
 と言って車を走らせる。それを見た恵子の顔がパッと明るくなった。晋也はそれを横目で見て、安堵の息を吐いたのだった。

「最低! 始めからそういうことが目的だったのね」
 そう思うのも無理はない。何せ晋也が灯りを頼りにやってきた先は、けばけばしいネオンが立ち並ぶラブホテル街だったのだから!
「ご、誤解だよ。恵子」
「誤解も六階もないわよ。この変態」
 と頬に平手打ちを食らわし、ドアを開ける。晋也は恵子の腕を掴んで、
「ま、待て」
「来ないでよ!」
 と振り解いて、走って行ってしまう。しばらく呆気に取られていたが、すぐに後を追った。
「話し合おう、な?」
「もうあんたみたいな男と同じ空気を吸うのも嫌だわ!」
 恵子は大通りに出てタクシーを拾おうとしたが、中々捕まらない。晋也はすぐに追いついて、肩を掴んだ。
「止めてよ!変態!」
 晋也が何か言おうとしたその時、トラックが猛烈な勢いで二人に近付いてきたのである!
「危ない!」
 晋也は叫んで、恵子を突き飛ばそうするが、間に合わなかった。二人は放物線を描いて、空中に投げ飛ばされたのである。

2

 奇妙なこともあるもんだわ!二年C組の扉を開けて、三つ編みにして背が低い折原舞は驚いた。
 独りでいつもホラー小説ばかり読んでいる、平沢純秋が七人の生徒に囲まれているのである。クラスの約五分の一が一人の生徒の周りに集まっているのは異例のことだろう。
 むろん彼にも友人がいるのだろうが、こんなにもクラスの人気者になるなんて、考えられないことなのである。まさか集団でカツアゲをしてるわけじゃあるまいし……。
「まったくこれじゃマンガも読めやしないじゃない」
 と舞は騒々しさに顔をしかめる。珍しいこともあるもんだ、と始めは気にしていなかったが、段々と気になり始めて、
「ねぇ、どうしたの?」
 と隣で、携帯をいじっている篠田由希に話しかけた。彼女はでっぷりと肥っているが顔立ちはいい。
「何の話?」
 由希は手を休めて、顔を上げる。
「平沢君よ。昨日までいるかいないか解らなかったのに……」
「あぁ、彼ね」
「うん、で、どうしたの?」
「金曜日、事故あったの知ってる?」
「あぁ、ニュースでやってたね。それと彼がどう結びつくの?」
「平沢君、その事故を見たらしくって」
 そういうことだったか、と舞は納得した。事故という日常では味わえない出来事に出くわすと、その話を聞きたがるものである。舞は、
「ふーん」
「何よ、興味なさそうね」
「だって事故なんて毎日、起きてるじゃない」
「そりゃそうだけど、今回の場合は……ねぇ」
「何よ」
 思わせ振りな態度に苛々して言う。
「多分、舞は信じないと思うけど……」
 と由希は一息吐いて、こう言った。
「彼、火の玉を見たのよ」

「火の玉ぁ?」
 舞は思わず叫んで、慌てて口を噤む。その声の大きさにクラスの視線が彼女に集中しているのに気付き、穴があったら入りたい気持ちになった。
「煙草か何かの火じゃないの?」
「違うぜ、舞」
 体格もよく、サッカー部のキャプテンをやっている小出紀敏は横から口を挟む。そして、平沢の方を向いて、
「なぁ」
「そうだよ」
 平沢は力んで、
「僕は本当に見たんだ」
「でも幽霊なんて……」
 と舞は言った。
「信じてないみたいね」
 不服そうに小柄で色白な女生徒、加藤エリが睨み付ける。実は舞とは犬猿の仲で、なにかと挑発的な態度を見せる。もっとも、舞はそんなことには全く気にしないで、ただの友達としてみているのだが……。
「当たり前でしょ」
 と舞は笑いながら言うのを見て、由希は囁く。
「ちょっと、舞」
「え……、何?」
 と舞はあっけらかんとして言う。むろん、彼女にしてみれば言いたいことを言ったのであるが、それがエリを不快にさせているなんて気付いちゃいないのだ。
 その様子を見て、小出は割って入る。
「まぁまぁ、舞も加藤も。とりあえず、舞に聞かせてやろうぜ」
 エリも渋々ながらも承知して、内心、意地悪く笑うと、
「あのね、折原さん。平沢君は……」
 と言い掛けるのを小出は手で遮る。舞に語るのを楽しみにしていた……いや、舞に恥を掻かせるのを楽しみにしていたエリは、不機嫌な声を出した。
「何よ」
「ここは平沢に語ってもらった方がいいんじゃないのか?」
「それもそうね」
 と呟いて、エリは近くの椅子に憮然として座る。小出は平沢の方に向き直り、
「話してくれるよな?」
 平沢は黙ってうなずくと、語り始めた……。

3

「この変態!触らないで!」
 という若い女性の叫び声が道路の向こうから聞こえ、僕と斉藤登志夫は足を止めた。彼は細身の体躯に眼鏡を掛けた、中学三年で塾が一緒なのだ。もう辺りも暗くなり、そこここの家から夕飯の匂いが漂っている。
 正面にはモーテル街のネオンがけばけばしく光っているのが見える。僕たちはマイケル・ジャクソンよろしく、そこで登志夫と一夜を過ごそうとしていた……わけではない。塾の帰りが遅くなったため、近道していたのである。
「何があったんだろ?」
 と声のしている方向をジッと見つめる。もちろん、暗がりで影だけがうごめいていて、表情までは解らない。しかしその影が怪物のように見え、ゾッとした。
 しばらくそうしていると、登志夫が僕の裾を引っ張り、
「ほっとけよ。どうせ痴話喧嘩だろ」
「うん……、そうだね」
 僕は何となく胸騒ぎがしたが、時間も遅いのでそのまま通りすぎた。最近発売されたゲームの話題をしながら、十分ほど行くと駅が見えてくる。いつもどおり、
「じゃあ、また来週」
 と手を振って別れようとすると、後ろからキキーッという甲高い音が聞こえた。ただごとじゃない!それからすぐにした鈍い音を聞いて、そう考えた。
 幸い、登志夫も同じ考えらしく、
「何だ?今の音」
「とにかく行ってみよう」
 僕はそう言うな否や、すぐさま走り出した。登志夫も後から着いてくる。
「さっきの所だ!」
 やっとの思いで辿り着いた僕たちは声も出なかった。そこには壁に公園のフェンスにめり込んだトラックの姿と、そこから十メーター近く飛ばされた若い男女の姿があった。
 僕が電柱に手をつき、ゲーゲーと吐いていると、登志夫は、
「おい、見ろよ」
「何だ?」
「あれ人魂じゃねぇか?」
「人魂!?」
 僕はこんな時にふざけている登志夫に憤りを感じ、
「そんなもんがあるわけないじゃん!ショックで脳ミソいかれっちまったのか?」
「だって、見えるんだよ」
 とムッとしたように言って、
「お前も見てみろ」
「そんなことあるわけが……」
 と登志夫が指し示す方向に目を向けて、思わず呆然と立ち尽くす。それを見て、得意げに、
「なっ?ほんとだろ」
「あ、あぁ……」
 確かにそこには青白い光が二つ浮かんでいたのである……。

「……ということで遅くなったんだよ」
 冷えきったご飯をパクつきながら、中年肥りした母の背中に向かって話しかけた。十二畳ほどのリビングは今、流行りのダイニングキッチンで、机と椅子が五個置かれている。またマッサージチェアの真正面に置かれたTVからはさっきの事故のニュースが流れていた。
 僕はニュースを何気なく見ながら、マカロニサラダに箸を付ける。
「ちょっと……TV見ながら、ご飯食べるの止めてよね」
 母の叱言を聞き流して、事故の現場に居合わせたという優越感に浸る。流石に人魂はもうどこかに行ってしまったようで、TVには映ってなかった。
 何を寝ぼけたこと言ってるの?そう笑われるのが目に見えているので母には、あの怪奇現象のことは言ってない。しかし、母の口から言いにくそうに、
「ねぇ……、蒼い火の玉、見えて……ないわよね?」
「えっ!?」
 僕は一瞬、脳天をハンマーで叩かれたかのような衝撃を受けた。
「その様子だと……見たのね」
「うん……、でも何で知ってるの?」
「やっぱり……」
「ねぇ、どういうことなの!?」
 僕は食い下がって、叫んだ。
「教えて!」
「焦らないの。実はね、お母さんも見えるのよ、人魂。始めて見たのは十六の時だったわ。ちょうど学校の帰りよ」
「まさか、友達が近くにいて、最初に見つけたのはその友達……?」
「ええ、お母さんの場合はね、自転車の事故だったけど。だからもしや、と思って訊いてみたけど……やっぱり」
 母は言い終わると、ぐったりとした顔付きになった。僕にこのことを伝えるのに気を遣ったのだろう。
「おやすみ」
 そう言い残し、自室に入る母の後ろ姿を呆然と眺めていた。
 徐々に正気を取り戻すと、
「これは一体どう言うことだろう」
 と呟いた。
「お母さんにも人魂が見えたなんて……」

 僕がリビングでお茶を飲んでいると、携帯が鳴り出した。こんな夜に誰からだろう、と思って出てみると、
「もしもし」
 と早口に言う登志夫の声が聞こえた。怖くて眠れないんだろう。
「もしもし、どうした?」
「人魂の話、した?」
「誰に?」
「母ちゃんとか」
「それがすごく変な話でさ」
 とさっき母としたやりとりをごく簡単に説明した。
「どういうことだ?」
 電話の向こうで眉を顰めている登志夫の姿がありありと目に浮かぶ。
「さあね」
「さあねって……、まるで他人事だな」
「だって、こんなにもありえないことが起こるなんて……・」
「お前の母ちゃんのことは百歩譲って偶然だとしても……俺たちが見た人魂はなんだったんだろうな」
「さぁ、二人で見てるってことは幻覚じゃないってことだよね」
「あぁ……、なぁ、お前が知ってる小説で似たようなこと起こってないか?」
「あるかもしれないけど……でも、それはお話の中での出来事だよ」
 と苦笑する。
「でもそれが起きた。そうだろ?」
「そりゃそうだけど……」
「お前も見ただろ?あれは煙草の火でもなけりゃ、車のライトでもない」
「うん、それは僕も思うけどさ」
「だったら幽霊しかいないじゃんか」
「うーん、でも幽霊なんて……」
「だったらあれは一体なんだって言うの?」
 と登志夫が泣きそうな声を出す。
「確かに俺も幽霊なんて信じたくないさ」
「だったら……」
「でも俺たちは幽霊を見てる。そうだろ?」
「あ、あぁ……」
 僕はホラーは好きだけど、幽霊を心から信じてるわけじゃない。そうだとしたら僕の目に見えたものは一体、何だったんだろう?そう思っていると、電話口の向こうから登志夫の母親が、
「登志夫!こんな夜更けに誰に電話してるの!?」
「やばっ、母ちゃんがお怒りだ。またな」
 そういうと唐突に電話を切ってしまった。
「うん、また来週」
 と言ったが、ツーツーという音を相手に喋っているようだった。なんとなく虚しい気持ちになってしまう。
「だったら幽霊しかいない、か……」
 そして机に携帯を置くと、こう呟いた。
「一体僕の見たのは何だったんだろう……」

 余り深く考えないことにしよう、と六畳間の自室の椅子に腰掛けて、僕は思った。二つの本棚があり、小説や漫画で埋め尽くされている。机の上には教科書や参考書が平積みにされている。またCDコンポからは軽快なポップ・ソングが流れていた。
 僕は登志夫に携帯でメールを送ろうとすると、突然部屋の灯りが消えた。
「おおかた、また部屋のブレーカーでも落ちたんだろう」
 と呟いて、母が元に戻すのを待つが、一向にその気配はない。母は寝てしまったことを思い出し、壁伝いに扉に辿り着く。その時、
「待って」
 と若い女性の声がして、振り向くと、愛くるしい顔だちの女性が立っていた。年は僕と同じか、少し上だろう。
「誰だ!?」
「灯り、勝手に消してごめんなさいね。私には眩しすぎたから」
「だからあんたは一体誰なんだよ」
 と言い掛け、重大なことに気付く。どこからも入ってはこれない、ということだ。玄関を開ける音や足音も聞こえなかったし、第一僕の部屋に入って来られれば気付かないはずがない。
 僕は絶句して、
「だ、第一どこから入ってきたんだ!?」
 と叫んで、携帯に目をやって、
「警察呼ぶぞ」
「窓から入ってきたの」
「窓だって?」
 と僕は叫んで、
「だってここは二階だよ」
「ええ、二階よ」
 とこともなげに言う、
「幽霊になるとね、どんな壁でも自由に通り抜けられるの」
「幽霊だって!?」
「ええ、幽霊よ。あなたが見た事故で死んだ、ね」
「そんなバカなことがあるわけない!」
 と叫んで、
「さぁ、出てけ。じゃないと本当に警察を……」
 携帯に手を伸ばそうとすると、不思議なことが起きた。携帯がふわふわと浮いて、天井にピタッと吸い寄せられてしまったのだ。
「どうなってるんだ!」
「言ったはずよ、私は幽霊だって」
「信じられない!」
「じゃあ、君が見たあの人魂は何なの?」
 と言ったが、その表情には悲しげだった。それを見て、僕はベッドの縁に腰を下ろして、憮然と、
「解ったよ、信じるよ」
 と渋々うなずいた。すると、女性は微笑んで、
「ありがとう」
「で、僕に何か用?」
 早く立ち去って欲しくて、本題に入る。
「それより、君、可愛いわねぇ。お姉さんと結婚しない?」
「……お経唱えますよ」
「や、やだ」
 女性は焦って、
「冗談よ」
「……で、何か用なんでしょう?」
「え、ええ、単なる恋人同士の痴話喧嘩だと思われるのが癪で事情を説明しに、ね」
「でもそれなら登志夫でも構わないじゃないですか」
「あの子は無理よ。だって、私の存在を否定してるんだから」
「僕も否定してますけど」
「でも彼よりは……ね」
「で、早く……」
「もうせっかちなんだから、純秋ちゃんは」
「……南無阿弥陀仏」
 と怒って、お経を唱えると、
「止めて!お願い!」
 と金切り声を上げる。まさかこんなに効果があるなんて思ってもみなくて、冗談半分で唱えた僕は驚いてしまう。
「それで早く……」
「そうね」
 お経が怖いのか、今度はすんなり僕に従った。彼女の話によると、恋人と迷った挙句、あの通りに出てしまったらしい。
「それで変態、とか言ってたんですね」
「聞こえてたの?」
 女性は恥かしさからか、顔を赤くした。
「ええ、それでトラックが衝突したってわけですね」
「そうなのよ」
 と声を荒らげる。
「ふらふらしてたから、お酒でも飲んでたんじゃないかしら」
「ニュースでもそう言ってましたよ」
「やっぱり」
 と叫んで、
「信じられない!憑き殺してやるわ」
「いや、もう死んだみたいですよ」
「そう、じゃあ用が済んだからこれでおいとまするわ」
 と消えようとすると、携帯がポトリと落ちた。ベッドの上に落としたのは、壊れない用にするための配慮だったんだろう。
「あ、あの……」
 と僕が言い掛けると、振り向いて、
「何よ、告白ならあなたが死んでからにしてちょうだい」
「いや……、僕はこの話をどうすればいいんでしょうか?」
「あなたの好きにして」
「は、はぁ」
「私は誰かに愚痴りたかっただけだから」
「いい迷惑だよ、全く」
 と呟くと、妙に優しい声で、
「え?こっちの世界で暮らしたい、と言った?」
「いえいえ!」
 僕は叫んだ。
「お姉さんは美人だなって……」
「あら、そう?ありがとう。じゃ元気でね」
 そう言って笑いながらスッと消えてしまう。それを見て僕は、
「幽霊って本当にいるんだ……」
 と呟いた。これで母が体験した奇妙な偶然の説明がつく……。自分の体験したことの怖さに改めて身震いした。

4

「……で、お母さんと何で同じ体験したか、解ったの?」
 と舞が訊くと、平沢は肩を竦めて呟くように、
「さぁ」
「でもこれで解ったでしょ?」
 とエリは冷ややかに言った。
「平沢君が幽霊を見てるってこと」
「そのことなんだけどね、本当に幽霊見てるのかなぁ」
 舞ののんびりとした物言いを訊いて、エリは立ち上がって、
「どう言う意味よ、彼が嘘を吐いてるとでも言いたいの?」
「そう!それよ!」
 と叫んだ。やっぱりエリはいい友達だわ、と舞は思った。いい言い回しが思い浮かばないところにピタッとくる言い回しを持ってくるんだもん。
 それを聞いたエリはしばらく呆気に取られていたが、
「冗談じゃない!」
「まぁまぁ」
 と小出が割って入る。舞は由希に小声で、
「小出君も大変ね……。それにしてもエリ、なんで怒ってるの?」
「あんたのせいなんだけど……」
「えっ!?」
 と舞に取っては、寝耳に水で驚いた。
「私、何か悪いこと言った?」
 と本気で首を傾げるのだった。由希が溜息を吐いて、説明しようとすると小出が、
「舞、舞」
 と呼びかけるのを聞いて、後回しにした。
「何?」
 エリを落ち着かせたらしく、仏頂面で椅子に座っている。それを見て、由希は一安心するとともに、また舞が何かやらかさないか気が気でなかった……。

「で、舞、平沢が嘘吐いてるかもしれないってどういうことだよ」
「うん、ほら私たちその場に居合わせなかったじゃない」
「当たり前じゃない」
 とエリは腕組みをして言う。
「だったら、平沢君の話だけを信用するほかないじゃない?」
「そうだよな」
「ちょっと待ってよ!」
 小出がうなずくと、エリが甲高い声を挙げた。
「登志夫って子はどうなるの?しかも、火の玉を見たのは彼なのよ、ねぇ」
 その鬼気迫る表情に圧倒されて、戸惑いながらも、
「う、うん」
「ほら見なさい!平沢君たちはやっぱり火の玉を見たのよ」
「本当にそうなのかなぁ?」
「どういう意味だ?平沢だけじゃなく、その子も幽霊を見てるんだぞ」
 と小出が口を挟む。
「ほら、その子の顔も知らないじゃない。つまりその子に会って確かめたくても確かめられないってわけよね?」
「そう言われれば……そうだよな。平沢の母さんのことだって、わざわざ訊きに行く奴なんていないだろうし」
 と小出も納得している。
「でも金曜日に事故があったのは事実だし、それに死んだ人の名前言い当てたじゃない」
「それくらい新聞を見れば、すぐに解るよ」
 ちょっと笑ったが、由希に小突かれる。何がいけないの?とでも言いたそうにきょとんとした表情を見て、由希は苦笑する。
「でも、どうしてやったの!?」
 とエリは顔を紅くして、叫んだ。
「理由がないじゃない!そんな嘘まで吐く理由が」
 舞は肩を竦めて、
「さぁ、私も思い付いたことをただ言ってるだけだもん」
「平沢君も何か言ってやってよ!」
「そうだぞ、お前が喋らなきゃ何も始まらないんだ」
 そう二人に言われて、平沢はいつもに増して暗い顔付きで
「ごめん……、クラスの注目を集めたくって……」
 と呟いた。それを聞いたエリは、
「はぁ?私たちを騙したってわけ?」
「ごめん……」
「まぁいいじゃないか。話としては面白かったんだからさ」
 と言ってエリを宥めるが、不貞腐れてクラスから出て行ってしまった。
「エリ!」
 と慌てて舞は追いかけようとするのを見て、由希は慌てて引き止めた。
「でもエリが……」
「ほっておきましょ。そのうち機嫌直るって」
「うん……ねぇ。エリ、何で怒っちゃったの?」
 舞が由希にきょとんとした顔付きで訊くのを見て、由希は椅子から転げ落ちそうになった。次の瞬間、小出、平沢、由希の三人が爆笑し始めた。
 舞だけはきょとんとして彼らを見つめている
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