眞司は、モニターの前にかじりついていた。モニターに映し出されているのは 関根の書斎。もう香は寝てしまっている。京介も自分の部屋で寝ているだろう。 眞司は煙草に火をつけて、煙を吸い込んだ。 「さて、どうなるかな」  煙草の煙を吐き出しながらそう呟いた。  遺書はワープロで書かれていた。紙は普通紙である。感熱紙であればインクリ ボンはいらないが、普通紙に印刷する時はインクリボンが必要なのである。ワー プロ打ちだとわざと声に出して言ったのは、健児と千恵美に聞かせるためである 。もしこの二人が犯人でないのであれば、これを回収するために部屋に現れるこ とはない。眞司は関根隆吉の部屋にカメラを設置するついでに、ワープロリボン を回収してきたのだ。  しばらくすると、ゴソゴソという音を高性能マイクが拾った。 「汚ねぇな」  暖炉から顔を出したのは、関根隆吉の孫、関根竜太だった。関根隆吉の部屋の 真下は関根竜太と秀美の部屋になっている。関根隆吉が言っていた仕掛けの一つ なのだろう。おそらく暖炉の後ろ側に通路が隠されているのではないだろうか。 はしごか何かが取り付けてあって、上に昇れるようになっているのかもしれない 。 「早く見つけて・・・」  一人でぶつぶつと呟く竜太の姿をモニターでじっと見つめていた眞司は立ち上 がると、部屋を出ていった。 「書斎のワープロって言ってたよな・・・」  竜太は隆吉の書斎に入り、目の前の大きな机の上におかれたワープロを見つけ た。そそくさと近づいて、プリンターの中からインクリボンを外す。インクリボ ンを握って、口元に笑みを浮かべると、竜太はそれをポケットにしまって書斎か ら出ようと踵を返した。 「なにやってるんだい?」  竜太の目の前に現れたのは眞司である。 「なんでもねぇよ」 「どうやら嘘をつくのが下手らしいね。何をポケットにしまったんだい?」  竜太はそう言われて慌ててポケットを手で押さえた。 「行動も素直だね。だけど君が探しているのは俺が持ってる」 「何?」 「インクリボンだろ。それは何も書かれていない、新品のインクリボンだ。引き 出しから拝借したよ」 「知らねぇ」 「知ってる」 「俺は何も盗ってねぇ!」 「じゃあそのポケットの中を見せてくれ」 「見せてどうするんだよ。見たって・・・・面白くないぞ」 「君の馬鹿さ加減ほど面白い事はない」 「うるせぇ!」 「うるさいのは君だよ」  さすがに言い過ぎたかなと眞司は思った。すると今度は竜太が力任せに殴りか かってきたのである。眞司はスッと身を引いて、竜太が突き出した右手をつかむ と思い切りねじり上げた。 「エイ!」  というかけ声とともに竜太は一回転。床に頭をぶつけてのびてしまったのであ る。 「インクリボンを持って帰ってきたら金くれるって言うから・・・」  眞司の部屋の中。椅子にちょこんと腰掛けているのは竜太である。眞司と香は 椅子に座り、京介が竜太の前に立っていた。 「誰がくれるって言ったんだよ、ん? 言えよ」  見た目柄が悪い京介が凄んでみせると、本当に怖いのである。 「知ってる事言わないと顎の骨へし折っちゃうぞ?」  の一言で竜太は震えだして、すっかり大人しくなってしまったのである。 「親父だよ」 「親父? 健児か?」 「うん・・・」  眞司はそれを聞いて立ち上がった。 「いくらくれるって言ったんだ?」  眞司はそう竜太に聞いて、煙草を勧めた。 「喫うか?」 「ありがと」  竜太は煙草を一本抜いてくわえた。眞司がライターを出して火をつけてやる。 「親父が百万円やるから、見つからないようにインクリボンを盗って来いって。 それで俺、金が欲しかったし・・・ これを上手くやったら、あとでたかれるだ ろ?」 「それで?」 「暖炉の中に取っ手がついてて、それを引っ張ると開くんだ。そこの中にはしご がついてて、上に上がれるようになってるんだ。俺はそこを昇って爺さんの部屋 に行った。そしたらこの人が出てきたんだ」 「ほう。もう一つ聞きたい事がある。関根健児を襲ったのは誰だ?」 「もう勘弁してくれよ!」  と竜太は今にも泣き出しそうな顔で言った。眞司は京介の肩を叩くと、 「京介、優しく聞いてやれ」 「ああ、任せろ」 「やめてくれよ!」 「なあ、竜ちゃんよ、お前鉄砲撃った事あるか?」 「・・・」 「あるのかないのかどっちだって聞いてるだろ! 言えよオイ!」 「・・・」 「言わないとケチョンケチョンにのしてスルメにしてやる!」 「わかったよ! 言うからやめてくれ!」 「じゃ、聞かせてもらおうか」 「親父に頼まれたんだよ。部屋を滅茶苦茶に撃てって。面白そうだからやってみ たんだよ。親父は隠れて悲鳴を上げちゃってさ。そしたら探偵さんが追っかけて きたから逃げたんだ。廊下の角を曲がって探偵さんをやり過ごして後ろから殴っ たんだよ。それも親父がやれって言ったんだ」 「本当だろうな? 嘘つくなよ」 「嘘じゃないよ!」 「京介、もういいぞ」 「うな重五人前約束だぞ」  京介は鼻歌を歌いながら椅子に腰を下ろして、香の用意した水を一口飲んだ。 選手交代、今度は眞司である。 「知ってる事はそれだけか? 自分の母親を殺したんじゃないだろうな?」 「あれは違うよ!」 「君、視力いくつだ?」 「0,1。コンタクトレンズを使ってる」 「それなら無理だろうな。まあいい、とにかく君のやった事は立派な犯罪だぞ。 銃刀法違反だ」 「それって、刑務所入るんだろ?」 「当たり前だ」 「嫌だよ! 俺、悪い事してないよ!」  眞司は竜太が子供のような事を言って喚き散らしているのが頭に来て、平手で 思い切りひっぱたいた。 「痛てぇな!」 「黙れ! お前何やったかわかってるのか? 人殺しの片棒担いだんだぞ!」 「知らない!」 「いい加減ガキみたいな事言うのやめたらどうなんだ! お前もう大人だろ!  いつまでも甘えてるんじゃない!」 「お前には関係ない!」 「てめぇ人の命をなんだと思ってる。お前の親父は人を殺した。自分の親父と自 分の妻を。それでへらへらしてられるような奴なんだぞ。恥ずかしくないのか!  お前これ以上ぐちょぐちょ言い訳ばかり言ってると、お前の頭かち割って脳み そ部屋中にまき散らすぞ!」  竜太に怒鳴り知らしている眞司の姿を見て、京介はそっと香に耳打ちした。 「眞司って、やっぱり怒ると怖いな」  香は頷いて、 「京介君も、怒らせないようにしなさいよ?」  と言った。そしてコップを持ち上げて水を飲み、ふうと息をついた。 「ああ、わかってるよ。脳みそまき散らしたくないからな」  そう言った京介の言葉は、妙に実感がこもっていたのである・・・・・・