「桂千恵美、高校卒業後に関根健児の兄と結婚。ハンティングが趣味みたいね。 猟銃免許を所有、と」  香が書類をテーブルの上に置くと、ティーカップを取り上げた。すっかり温く なった紅茶を啜りながら眞司の方へ目を向けると、腕組みをして何やら考え込ん でいる。 「プレゼントの話をしたら急に追い出された。高志君はゲームに夢中だし。だい たい千恵美さん、着替える必要もないのに、どうして着替えるなんて言い出した んだろう」 「眞司が汚したんじゃないのか?」 「京介!」 「冗談だよ冗談。それより腹減ったよ」 「さっき食ったばかりだろ」 「あんまり食べると太るわよ」 「俺は太らない体質なんだよ」 「あら羨ましい」 「なあ眞司、何でそんなに千恵美さんに絡むだよ」 「うん? 保険金の事さ。兄にはいくら掛けてあったんだ?」 「ええっと、二千五百万」 「兄が死んだのは?」 「二ヶ月後。検死解剖の結果おかしいところは何もないって」 「そうか」 「それがどうかしたのか?」 「気になってるんだ。現場に落ちてた紅白の紙切れ。それがあの隠し通路の間に も挟まってた。プレゼントの事を聞いた途端追い出された。そして過去を調べた ら保険金。しかもタイミングよく死んでる。香、もっと詳しい事は?」 「これ以上はわからなかった。もう少し調べてみる?」 「遠心分離器に掛けてでも洗い出せ」  窓の外は真っ暗闇。都会とは違って頭上には沢山の星が輝いている。眞司は椅 子から立ち上がってスコッチを軽く煽り、窓の外を眺めた。 「綺麗だな。都会じゃこんな星空は拝めない」 「星が綺麗でも旨い飯が食えるってもんじゃないぜ?」 「お前ラーメンとでも結婚しろよ」 「子供は餃子か?」 「バカやってないの」  その時、綺麗な星空に似合わない音が、闇を引き裂いた。パンという短い乾い た音。 「またあの野郎か!」  銃声を聞きつけて眞司は飛び出した。香、京介もあとに続く。階段を駆け下り 、玄関から外へでて、建物をぐるりと回って裏庭に出る。芝生の上に人が倒れて いた。美佐江だった。手に拳銃を握って、星空をじっと見つめている。こめかみ に穴が開き、弾は頭の中で止まっているようだった。  左手には遺書を握っている。自殺? なんで・・・ 「美佐江!」  声がした方を向くと、健児がたっていた。眞司は駆け寄る健児を受け止めて、 「だめです! 警察が来るまで動かさないで!」 「美佐江!」  完全に目が狂っている。 「香! 警部を呼べ!」  中世を再現した城に、パトカーは似つかわしくなかった。覆面パトカーが一台 静かに滑り込んでくる。 「眞司!」 「警部!」 「死んだのは?」 「香から聞かなかった?」 「いや、来てくれと言われただけだ」 「あいつ・・・」 「緊急だといわれたんだ」 「関根美佐江が自殺したんだ」 「おい・・・」 「でも自殺じゃないんだ!」 「どっちなんだよ、殺されたのか?」 「殺された。遺書もあるがね」  大谷は車を降りて、眞司のあとへついていく。美佐江が倒れている近くには地 面に座り込んで項垂れている健児と、それを気遣っている千恵美の姿があった。 京介と香は大谷と眞司をじっと見ている。 「どう見たって自殺じゃないか」 「そうかな?」  眞司は死体の頭を動かした。 「これでも?」  こめかみに銃口を押し当てれば、皮膚が焦げるはずである。火傷をした様な痕 も出来るのだ。それがない。つまりこめかみに押し当てて撃ったのではないのだ 。 「拳銃を撃った事のない奴が、こめかみに押し当てずにまともに撃てるかな?」 「無理だろうな・・・」 「遺書を開けちまってもいいかな?」 「いいだろうな」  遺書を開けると、眞司はにやついた。 「なんだ?」 「警部、これ見て。ワープロ打ちだ」 「署名がないな」 「署名がなければ遺書は無効。誰かが偽造した遺書だ」  眞司は立ち上がって、健児に歩み寄った。 「健児さん」 「なんだよ・・・・」 「あなた、ワープロをお持ちですか?」 「持ってない・・・」 「ほう・・・ あなたのお父様の書斎には?」 「あったと思う・・・」 「わかりました。お部屋へ戻ったらどうです?」 「そうするよ」  健児は頼りない足取りでふらふらと歩いていった・・・