「畜生!」  眞司はベッドから起きあがって、後頭部に出来たこぶをさすった。 「眞司、大丈夫か?」  京介が頭を触ろうとして、眞司に叩かれている。  翌朝、眞司は自室のベッドの上で目を覚ました。昨晩拳銃を持った男を発見し た眞司は、その男を追っていて後ろから一撃を食らわされたのである。拳銃で撃 たれなかったのが幸いだ。眞司は、あの男が関根を殺した犯人ではないかと考え ていた。考えるだけなら誰にだって出来る。それを確信できる証拠がない。  関根健児を襲ったのは、関根健児に恨みを持っている人間であることも考えら れる。関根健児は金融業に手を出している。かなり手荒なことをやっているよう で、各方面から恨みを買っているのだ。関根健児に恨みを持って、殺そうとした というのが有力である。  もう一つの疑問が浮かび上がってきた。ドアから健児のいたところまで、あま り距離はない。ズブの素人でもあそこまで滅茶苦茶に狙いを外すことはないだろ う。男の放った弾丸は、壁や電気スタンド、花瓶など、全く関係ない方向へ弾丸 が飛んでいるのだ。健児に被弾したのは一発。それも、腕を少しかすめただけ。 絆創膏一枚程度だ。 「仕留めるなら一発で出来たはずだ・・・」 「そうよね・・・」 「眞司を?」  眞司が京介を睨んだので、京介は慌てて口を噤んだ。 「あんたねぇ、眞司が死んじゃったら、好きなもの食べられないわよ」 「そりゃ困る!」 「おい!」 「はいはい・・・」 「真面目に話聞けよ・・・ あの隠し通路。もしそれを使ったとしたら、姿を見 られることなく関根隆吉を殺害することは可能だ。だが、昨日現れた男が犯人だ ったとすると、話がおかしくなる」 「千恵美さんはずっと部屋にいたんでしょ? だったら見てるはずだもの」 「そうだ。千恵美さんは一人で、高志君の看病をしていたと言ってる」 「なぁ、眞司、その男に脅されてるんじゃないのか?」  と、京介が言った。 「脅された?」 「そう。そいつが隠し通路から出てきて、それを見た千恵美さんを脅した。 どうだ?」 「良いかもしれないわね」 「だろう? 俺小説家になろうかな」 「やめとけ。お前の汚い字で原稿書かれたら編集が泣くぞ」 「そんな言い方ないだろ!」 「京介君が言ったのも面白いけど、それだといつここへ侵入したことになるのか しら?」 「監視カメラの映像には危ない奴は映ってなかったし、人数もチェックして、記 帳もさせた。入る時と帰る時に名前を書いてもらってる。残っていた奴はいない よ」 「監視の目を逃れたって事は?」 「ないこともない。だけど不審な奴はいなかった」  眞司が言うなら正しいだろう。それが香と京介の答えだった。 「じゃぁ、この中にいるって訳か」 「そうなるわね。眞司、もう一度部屋を調べてみましょうよ」  関根の部屋の隠し通路を塞いでいるパネルを外して、千恵美の部屋に眞司は入 った。 「どうしたんですか?」  いきなり顔がつきだしてきて、千恵美は手に持っていた携帯電話を床に落とし た。 「失礼しました! あの、事件の捜査で・・・」 「隆吉さんのことですね?」 「ええ・・・ あの、入っていいですか?」 「もちろんですわ。どうぞ」  通路をくぐって部屋に入った眞司は、窓際の椅子に腰掛けて携帯ゲームに興じ ている高志の姿が目に入った。 「高志君、もう風邪はいいんですか?」 「ええ」  千恵美が紅茶を入れたカップを手にして言った。 「お飲みになります?」 「いえ、結構です。・・・高志君?」  名前を呼ばれた高志は、眞司に一瞥をくれ、またゲームに視線を戻した。 「すみません。・・・高志、ちゃんとご挨拶なさい」 「いえ、いいんですよ。高志君、そのゲーム面白い?」  高志は何も言わず頷いた。 「そうか。俺にも出来る?」  また、高志は頷いた。 「じゃぁ、今度やらせてよ」 「いいよ」  高志の声は、か細かった。喉から絞り出すような声である。 「高志君、お爺ちゃんの誕生日に、何かプレゼントをあげたのかな?」 「中山さん。あの、私着替えますから、出ていただけますか?」  突然、千恵美がそう言いだした。眞司を見つめる目は、有無を言わさないもの だった。 「ああ、すみません。お邪魔しました」  眞司はそう言って、また隠し通路を通って隣の部屋に出て、パネルをはめ込ん だ。 「どう?」 「桂千恵美の身元を洗うんだ」