眞司は、椅子に座って、ぼんやりと考えていた。 「消えたプレゼントが関根殺害に使用されたとして、それをどうやって持ち去っ たか・・・」  関根の部屋があるのは、この屋敷の三階の中央部である。長い廊下には眞司が 持ち込んだ監視カメラが設置されていて、どのカメラからも死角がでないように 様々なところに取り付けてあるのだ。あの事件の後テープを確認したが、人影ら しいモノは全く映っていない。京介が誤射したスプレー弾の煙はそんなにひどい ものではなく、霧吹きをシュッとやった感じになっているのだ。だから催涙ガス が煙幕の役割を果たすわけもない。 「姿が見えないなんて、たちが悪いぜ」 「眞司」  ドアが開いて、ウナギの匂いが漂ってくる。 「京介か」 「ウナギ買ってきたけど」  眞司は椅子から立ち上がって、部屋から出ていった。ウナギなど食べている余 裕はない。  大谷は一応アリバイを調べてくれたが、自然死という見方を変えていないのだ 。だから捜査には非協力的で、あれから一度も連絡がないのである。眞司はなん だか虚しい気がして、自室に籠もった。  一方京介は、眞司のように悩むと言うことをあまりしない。だから眞司が沈んだ表情をしていても、 「眞司の分のウナギが食えるぞ」  と喜んでいたのである・・・ 「香、お前何か思いついたか?」  自室に戻った眞司は、ベッドにひっくり返っている香に言った。 「そうね・・・私考えたんだけど、仕掛けを使ったんじゃないかしら」 「仕掛け?」  眞司は窓際の椅子に腰掛けて、煙草に火をつけた。 「ほら、関根さんが言ってたじゃない。この屋敷は沢山の仕掛けがあるって」 「・・・そうか」 「抜け穴があるはずよ、どこかに」 「香、部屋の見取り図を」 「はい、社長」 「すぐに京介を呼べ」 「はい」 「なんだよ<はい>って、気持ち悪いなぁ」 「じゃぁ<愛しい旦那様>?」  眞司は赤くなって、窓の外に顔を向けた。  京介が部屋にやってくると、ウナギの匂いが充満し始めて、眞司は思わず顔を しかめた。 「食ってないで考えろ」 「食わないと考えられない」  眞司は京介を放っておくことにして、見取り図に目を落とした。 「被害者の部屋の隣、左の部屋が俺達の部屋。右が千恵美さんの部屋。千恵美さ んの部屋の隣が関根息子夫婦の部屋。三階はこれだけだ。二階には京介の部屋と 関根孫夫婦。被害者の執務室。一階は大広間と食堂」  眞司は、煙草を灰皿に押しつぶして椅子に深く腰掛けて腕を組んだ。 「入り口には誰もいないし、部屋の中には被害者が一人いただけだ。さて、どこに仕掛けがあるのやら・・・」 「この見取り図だと、それらしきものは見あたらないわね」 「直接部屋を見に行くか」 「ウナギは?」 「一人で食ってろ」  眞司と香は京介を残して、部屋を出ていった。京介はにやにやして割り箸を割 った。 「香、壁とか動くか?」 「ダメみたいね」 「本棚は?」 「本棚?」 「ほら、よく映画で本を動かすと隠し通路がでてきたり・・・」 「映画の見過ぎ・・・」  眞司は床に這い蹲って(はいつくばって)、チョロチョロと這いずり回った。そして、眞司は立ち上がると、香を見つめた。 「なによ、ギラついた目して。昼間から?」 「馬鹿、違う!」  真剣な眼差しを送ったのに、それを誤解されているようでは何とも情けない。  眞司は床に這い蹲ったとき風が流れてくるのに気づいたのである。  窓の外は夕闇が迫り、部屋の照明を落としたら真っ暗になってしまう。 「香、部屋を暗くしろ」  眞司に言われて部屋の照明を落とした香は、眞司がもう一度床に這い蹲るのを 見て、自分も同じ体制をとってみた。 「光が・・・」 「香、お前ここであの紙を拾ったよな?」  眞司は這い蹲ったまま言った。 「ええ。あの紅白の紙でしょ?」 「もう一枚、壁に挟まってる」  眞司は紙を引っ張り出そうとして指でつまもうとした。その時、カタンと音が して壁に嵌っていたパネルが外れたのである。 「眞司!」 「見つけたぞ・・・」  眞司が穴に頭を突っ込もうとした時、バンという短い破裂音が二回響いて、眞 司は驚いて後頭部を壁の隙間にぶつけた。 「イテテテ・・・」 「眞司、今のって・・・」  香が立ち上がろうとした時、また同じ破裂音が響いた。 「銃声?」 「行くぞ香!」  さっき頭をぶつけてよほど痛かったのか、眞司は目尻に涙を浮かべている。  眞司は特殊警棒を出して、大きくそれを振り下ろした。シャキンと音がして、 十五センチていどの鉄の棒が、一気に三十センチ近くの大きさになる。  香はポケットから催涙ガス銃を取り出した。果たして拳銃相手に戦えるのか疑 問だが、ないよりはましである。  関根の部屋を出た眞司と香は、姿勢を低くして銃声の下方向を見た。 「助けてくれ!」  健児の悲鳴が響いて、ドアの前に立っている黒ずくめで覆面をした男がまた拳 銃を発砲した。健児の悲鳴が途絶えて、男が駈けだした。 「止まれ!」  眞司は後を追った。香はすぐさま健児の部屋に飛び込んで、怪我の具合を確か めようとしたのだが・・・  目の前には弾が腕をかすめただけで、対して怪我をしていない健児が横たわっ ていた。ただ、ズボンの前を濡らして・・・ 「止まれ!」  さっきから何度同じことを言っているのだろうか。眞司は拳銃を持った男を追 いかけて広い屋敷を駆け回っていた。  すると、男の腕に握られた拳銃が眞司の方を向いたかと思うと、立て続けに五 発発射されたのである。眞司は壁にぶつかるように飛び退いて難を逃れた。それ から眞司は警棒を男の足に向かって投げつけたのである。  投げられた警棒は男のまたの下、七センチくらいのところに入った。男はそれ に足を引っかけて転んだのである。眞司が追いかけようとすると、拳銃を捨てて 男はまた逃げ出した。  そして、角を曲がったあたりで、男の姿が消えたのである。 「どこに隠れた!?」  見えるのは、壁にかけられた油絵と、天井からぶら下がっているシャンデリア だけ。眞司はゆっくりと歩いていった。  そして、いきなり後頭部を殴られたかと思うと、さっとカーテンを引いたよう に、視界が暗くなっていったのだった・・・