9000ヒット記念小説 「誕生日プレゼント」 第一話「依頼」  神山京介は、いつものように大量に買いこんだハンバーガーをパクつきなが ら、すらりと伸びた足を机の上に乗せていた。椅子がギシギシと音を立てて、 必死で持たれかかる京介の体重に支えていた。  中山探偵事務所の電話板、これが京介の主な仕事である。電話がかかってき たらそれに応対し、依頼の電話だったら話をとりつけて、セールスだったら、 「いらん!」  と怒鳴りつけて電話を切る。いつもいつも、こればかり繰り返しているので ある。  この仕事を命じたのは谷口香で、探偵事務所の主、中山眞司の助手をしてい る。  以前香に身元調査を任されたのだが、調査をする本人に直接名前や出生地を 聞いてしまったため、 「もう二度とやらせてあげない!」  と言われてしまったのである。 「今日も仕事の電話はないのかな・・・」  ハンバーガーを七個(!)食べ終えて、残りは三個。 「ただいま」  事務所の曇りガラスが嵌め込まれたドアが開いて、眞司と香が姿をあらわし た。 「おかえり。どうだった?」 「ダメだったよ」  眞司は、応接セットのいささかクッションのおかしいソファに身を任せた。  殺人事件なんて殺伐とした話は、そうそうあるものではない。特に探偵事務 所に「依頼」として舞いこんでくるものは。大抵は家出人の調査や、結婚相手 の身元調査、時にはいなくなった猫を探して、だとかペットの捜索依頼。報酬 は散々なものだ。 「ダメだったって?」 「ああ。方々を歩き回ってようやくその猫らしいのを見つけたんだ。それで依頼 主に逢わせたら、<うちの猫ちゃんだわ!>なんて叫んで散々頬擦りした後、< うちの猫ちゃんじゃないわ>だと。依頼主の家に戻ったら、いなくなった猫がい やがったんだ! おかげで報酬なし」 「はい、お茶」 「ありがとう」 「京介はアイスコーヒーのほうがいい?」 「ありがと、香ちゃん」  京介が九個目のハンバーガーを口に運ぼうとしたとき、電話が鳴り出した。 「中山探偵事務所です」 「中山眞司さんはおられますか?」 「はい、おりますが」 「私、関根隆吉と言います。仕事の依頼なんですが」 「すぐに代わります」  京介は受話器を手で押さえて、 「仕事だぞ!」  と言った。お茶を飲んでいた眞司が立ち上がり、受話器を引っ手繰るように 奪うと、 「中山でございます」 「関根隆吉と申しますが、仕事を頼みたいんです」 「わかりました。どのような仕事ですか?」 「電話では・・・ちょっと」 「では、事務所のほうへいらしてください。場所を言いますから」  眞司は、事務所の場所を告げて電話を切った。