V I V A A M E R I C A (?)
何気なく・・・パソコンのキーボードを打つ手を休め、おもむろに目の前のテレビに目をやったその時だった。
「・・・。」
のんびりと時計に目をやる。
ああ、何か今日は映画でもやっていたんだな。
そう思い、もう一度テレビ画面を見た。
緊迫した口調、ご丁寧にもニュース速報が付いて臨場感を出している。
良くできた映画だな。
そう感じて、今日のニュースを確認しようと別のチャンネルに変えた。
すると・・・似たような映像がまた流れている。
同じく緊迫感たっぷりなニュース速報付きで。
この時初めて、彼はおかしいと思った。
この場合のおかしいとは、「笑う」目的ではなく、素朴に現実問題として何か信じられない出来事が起きたと直感できるモノだ。
「何だ?」
本格的にパソコンの前から離れ、珍しくテレビ画面ににじり寄った。
そして、その瞬間の映像がまた・・・放映された。
9月11日
地球での仮の住処には自分以外、誰もいないことを良いことに、転移したデーモンの行き先は仲魔達がまだ地球にいた頃に作った、次元の狭間に
ある大きな屋敷だった。
任務を終え、デーモン以外の者達が帰獄した今でも、別荘地としてこの場所は使われている。
何時どんな時間に行っても何故か誰か居るのが不思議だった。
今回もデーモンが扉を開けた瞬間、パチパチと暖炉の炎が燃え、その前でソーセージなどを串に刺し炙ってる姿のライデンと、それを嬉しそうに
見つめるゼノンがくつろぎきった姿が目に飛び込んできた。
「どうしたの?デーモン・・・そんな物騒な顔して。」
のんびりと尋ねてくるゼノンに、たった今まで緊張していた彼の感情はほんの少し落ち着いた。
「地球でパーティーが始まったらしい。その招待主を調べにちょっと・・・な。」
「パーティー?ああ・・・どうりで。」
別に驚いた素振りも見せずに相変わらずのんびり構えるゼノンに眉を顰める。
「何だ、知ってるのか?」
自分用の部屋から持ち出してきた軍服をライデンの横で着替えながらデーモンは尋ねた。
「いや・・・何が起こったのかは知らないけど・・・。君がここに来る数分前にルークもエースもやって来てね。・・・2名とも自分の部屋でゴソゴソ
やってるみたいだよ。見てきたら?」
言われるまでもなくデーモンはエースの部屋をノックした。
「・・・開いてるぞ。」
既に誰なのかが分かっていたのか、ぶっきらぼうなエースの声が返ってきた。
「久しぶりの再会を祝って酒でも飲みたい気分だがそんな余裕は互いに無さそうだな。エース、何か分かったか?」
右手を革手袋につっこみながら、デーモンは声をかけた。
壁一面全てをコンピュータと一体化させた部屋の中で、エースは既に着替え終え、ワインボトルを片手に画面を見ている。
グラスがないのが彼らしいと言えばらしい。
「何も・・・飛行機がタワーに向かって突っ込んだ。ぶつかった方もぶつかられた方も・・・直接関係しなかった奴までこれからどんどん死んでいく
だろう。ゾッドが大変だな。」
そう言ってボトルの口から溢れた液体を飲む。
収まりきらなかった一筋二筋を袖で簡単に拭い、初めてエースは振り向いた。
「で?見当付いてるんだろ?情報局長官。このパーティーの招待主は。」
腕を組み、先ほどから地球上でも繰り返されている映像を目にしながらデーモンは笑った。
巨大なキーボードのあるボタンを押して暫し待つ。
すると、画面には大きく1人の男の姿が映し出された。
「誰だこいつ?」
見たこともないその顔にデーモンは眉を顰めた。
「名前は忘れた。が、今回のことで命令を出したのはこいつだとされている。」
肌は浅黒く、真っ黒な髭が顔全体を覆い、表情の動きを隠してくれそうだった。
煤けた白のターバンを巻き、顔写真ともう一枚、全身像が映し出された。
他の連中より首一つ分大きなその男、どこかの聖人君子のようだった。
「飛行機で突っ込むなんてな・・・。」
呟いた瞬間、隣の部屋から勢い良く扉が開き、ルークが顔を出した。
「エース!!今見てた?!・・・あ、デーモンも来てたんだ。まただよ、またやりやがった。」
そう言って、画面の写真を消し、直ぐにリアルタイムな映像を取り出した。
「・・・なんだって?」
エースともあろう者が思わず声を出す。
今度は最大の軍事施設、森の中、まるでラジコン飛行機が墜落しているみたいに簡単で呆気なかった。
違うのは、人が死ぬことだけだ。
「なぁ・・・ルーク・・・。吾輩はここに来たのは魔界へお前とエースに会いに行こうと思ってたんだ。」
唐突に口を開いたデーモンを驚いたように見つめる2名。
「吾輩はな、このパーティーの主催者が誰なのかを聞きに行こうとしてたわけだ。が・・・お前達のその様子から見ると・・・魔界から出した者じゃない
らしいな。」
画面を食い入るように見つめたまま、デーモンは呆然とした声で続けた。
「吾輩がいない間に、魔界のやり方が変わったのかと思ってちょっと心配した。取り越し苦労で良かったよ。」
「少なくとも僕達はそんなことしないよ。」
不意に飛んできた言葉にその方向へ振り返った。
「関係ない奴等まで巻き込む戦法は魔界の美学に反する・・・そう言ってなかった?エース。」
開きっぱなしになってた扉に背を凭れて、何だか楽しそうにこちらを見ているゼノンと、隣にはライデンが腕を組んで同じくこちらを見ていた。
「確かに。俺達の美学に反する。無闇やたらと滅ぼしたって後に残るのはクズだけだ。必要なモノは残す。不必要なモノだけを切り捨てる。
それだけだ。」
言い切って、デーモンを見つめた。
その通り・・・だろう?と同意を得るような目つきで、全員が彼を見ている。
デーモンはゆっくりと笑って頷いた。
「我らが相手するのは神、天界だけだ。知的生物(できそこない)を捨てゴマ用に育てるなんて、そんな無駄で地道で残酷なことなどするものか。
が・・・今ここに奴等が存在している。それが事実である以上、吾輩はそれを利用する。ただし、犬死にさせる為ではない。共存というカタチ
で、地球を守る・・・果ては宇宙の意志を継ぐ・・・その為に。そう決めた。1999年(あのとき)に。」
再び画面を見やった。
まだ繰り返される。
爆音と悲鳴。
ゴミのようにビルから篩い落とされる多数の人間。
加害者も被害者も全て飲み込んでいく炎の乱舞。
連鎖的に破壊を繰り返すその勢いは止まることを知らなかった。
今まで生きていたその身体なんて、髪一筋も残らないだろう。
これから起こるであろうの出来事が目に見えるようだった。
怒り、悲しみ、戦い、報復、それに対するまた報復、警告・・・。
死ぬ。
事件の中心になるべき人は一切傷付かず、他人が大勢、1人の人間が流す血の代わりに、肉の代わりに、骨の代わりに。
死んでいくだろう。
「デーモン・・・?」
心配そうにライデンは声をかけた。
それにハッとして、自嘲混じりの微笑みを浮かべて、一つのボタンを押した。
画面には先ほどの大男が戻ってくる。
褐色の瞳は何故か邪気に満ちていなかった。
この行動から見ても彼は魔界からの使者ではないことはわかっている。
が、その瞳が・・・。
何の迷いも、苦悩もなく、純真な輝きを見せていた。
信じて疑うことを知らない、子供のような眼(まなこ)に思わずデーモンは尋ねずにはいられなかった。
「お前は・・・何者だ?」
2001・9・11 アメリカにて多数の死傷者を出した史上最悪の無差別同時多発テロ事件発生
黒幕とされる男は、かつてアメリカの為に戦い、アメリカの為に正義を貫いた。
見捨てられて、裏切られて、放り出された彼の国への復讐。
俗的な考えを使えば、誰が正義で誰が悪なのか?
実は、誰も分からない。
分からない中で、殺戮は続く。
無関係な人々を犠牲に・・・今日もまた・・・1人。
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