シンデレラ外伝
もうどうにでもなれと確かに思ったが。
そこまで諦めるには何だか悲しすぎた。
何故なら・・・。
今、自分が公衆に面前に晒してる格好があんまりと言えばあんまりだったから・・・。
それだけ彼は可愛かった。
「ルーク!!起きるんだ!!!」
デーモンの怒声が扉の奥から聞こえて、ルークは布団を頭から被りなおした。
取り敢えず無視する魂胆である。
んが。
「ぐげぇぇぇええええんっ!!!」
突然の強烈なボディーアタックに、ルークは思わず蛙が拉げたような声を出して両手足を痙攣させた。
「起きるんだ!!ルーク!!!」
声からして・・・。
デーモンだった。
ちゃんと鍵をかけておいたのに、瞬間移動で扉を越えたらしい。
野郎・・・また太りやがったな・・・などと決して口にしてはいけない言葉を考えながらのそのそと起きあがった。
「・・・はいはい。起きるよ。」
ふわわぁんと欠伸をして眼鏡をかけると、やっと広がった視界の奥には案の定、デーモンが映し出された。
「早く!!服を着ろ!!!」
そう言いながらデーモンは勝手にタンスの中身を物色し、適当なものを探しているらしかった。
「ところでどうした・・・・・ふぎゃん!!!!」
ぐんっと身体を伸ばし、ベッドからいざ立ち上がらん・・・とした瞬間!!
今度は服がルークの顔を直撃し、その勢いでそのままベッドに逆戻りしてしまう。
「何すんだよ!!!」
コレには少々頭に来たのか、ルークは頭に乗っかった靴下を取り去りながら思わず声を荒げる。
「すまない!!あとで十分な復讐は受けて立つから・・・とにかく今は急いでくれ。でないとお前が危険だ!!」
「危険?」
その言葉に少し冷静になって彼の表情をゆっくりと読んでみると。
どうやらデーモンは怒ってる訳では無さそうだ。
と、いうよりも・・・慌ててる。
いや、焦ってる・・・?
「分かった、とりあえず服を着るよ。」
ルークはすぐに立つと服を着始めた。
思いの外、ルークの着替えの遅さに苛立ったのか、デーモンが次から次に服を彼の身体に押しつけ、ボタン掛けまでやってくれる始末。
尋常じゃない・・・。
少なくとも明日の人間界での天気は残念ながら槍が降ることになろう。
「いいか?着替えがすんだら直ぐにこの館から出て行くんだぞ?」
「はい?」
ますます困惑気味のルークに、デーモンは慌てて言葉を換えた。
「違う違う!!とにかくお前はダミアン殿下に見つからないような場所に逃げるんだ!!絶対に1週間は見つからないように隠れておくんだぞ?!
いいな?!」
「ダミアン殿下???・・・っつ〜か、どうして俺が殿下から逃げなきゃいけないわけ?」
当然と言えば当然の疑問。
しかし。
「説明してやりたいのは山々なんだが・・・そんな暇がないんだ。ダミアン殿下は直ぐにこの館へ行くと仰って宮殿を出られたらしい。一刻も早く出て
行け!!」
・・・心配されて言われてるのか邪魔者扱いされてるのか・・・全然よく分からないまま。
ルークはコレが本当の身一つで屋敷の扉を追い出される羽目となる・・・筈だったのが・・・・。
その30分後。
明らかに無理のある無口な構成員4名と、何となく無口になっている1名。
そしていつもの様ににこにこと微笑んだままティーカップを優雅に摘んでいる1名が、同じ部屋のソファーに座ってる光景が出来上がっていたりする。
「殿下・・・・。珍しいですねぇ。」
何となく誰も喋らないので・・・。(誰も話題を振らないので。)
ルークが口を開いた。
「いや、別に。・・・ところで・・・お前はどうして出掛けようとしてたのかな?」
奇妙な微笑み。
ダミアンのソレは何処とな〜〜く怖かった。
が、何も訳が分かっていないルークにとってソレはどうでもいいことだった。
「え?デーモンが早く出て行けって言ったから・・・。ベッドから出てまだ30分ですよ?俺・・・。」
その答えにダミアンの視線が・・・ピキリと4名を睨み付ける。
(大)蛇に睨まれた(雨)蛙達。
「そう・・・私はルークには是非居て欲しいと言ったんだけど・・・おかしいねぇ・・・ねぇ?デーモン・・・・?!」
猫目色の瞳が金色に光り、デーモンを捉える。
びくりと肩を震わせて、視線を合わせないようにしているが・・・。
嘗て、前地獄副大魔王デーモンをこれ程までに小さくさせられる者が居たであろうか?
いや。いない。(反語)・・・やっぱりあったかもしれない。
「で・・・ルーク。私はお前に頼みがあって来たのだが?頼まれてくれるかい?」
優しげに目を細め、ダミアンはルークの隣ににじり寄る。
何となく自然とルークはダミアンを遠ざけようとして、にじり寄られた分だけ身体を引く。
「・・・え・・・?ななななな何でしょうか?」
「お前にしか出来ないことさ。やってくれるね?」
3D映画以上の迫力でダミアンの顔面がにゅっ・・・と突き出されてくる。
「ははははははははははははい!!や・・・やります・・・・。」
とにかく勢いに任せて引き受ける意志を示してしまったルーク。
その瞬間、多構成員達の表情が愕然となる。
頭を抱えて首を振る者。
天を仰ぐ者。
その他諸々。
どちらにしても・・・危うし!!!ルーク篁!!!
「じゃぁ決まりだね。直ぐにでも宮殿に来てもらいたい。サイズを合わせなければいけないからね。」
とにかく上機嫌になっているのはダミアンただ一名。
「は?サイズ合わせ??????」
眉間に皺を寄せる。
その様子に『何を言ってるんだか?』みたいな顔つきでダミアンが振り向いた。
「え?やはりここはキチンとしたモノを着ないとね・・・・。大丈夫、仕立て代はこちらで出すから。」
そう言いながらも急かすようにルークの腕を掴んで離さない皇太子殿下。
ここにきてやっと・・・ルークの中にもとてつもなく嫌な予感が渦巻き始めていた。
「何とな〜〜〜くイヤ〜〜〜な予感がしてきたんですけど・・・・。それは俺の気のせいですか?」
当たり障り無い発言を試みるルーク。
が、そんなことは全然聞いてないダミアン。
「さぞや綺麗だろうね〜〜・・・。ふわふわの金髪の美少女。きっと紋様に合わせたクールなブルーが似合うだろうね・・・。あ、勿論、ブルーダイヤ
モンドのティアラも忘れないようにしないと・・・。侍従達に発注させておこう。」
勝手に心の設計図を口にして胸躍るダミアンの様子を見て、彼は自分の嫌な予感が十中八九的中したことを察した。
「イヤです!!!絶対にイヤです!!!それに何の為にそんな格好しなけりゃいけないんですか?!ちゃんと説明して下さいってば!!!
殿下〜〜〜!!!ちょっとイヤン!!!(???)バカん!!!!(?????)離して〜〜〜〜ん!!!!(??????????)」
何しなきゃいけないのか何となく分かってしまった為か、何となくオカマ言葉で雄叫び(???)ながら、ルークはあっという間にダミアンに拉
致されていった。
残ったのは。
結局、この話に登場してからまだ一言も発してないに等しい他構成員達。
手も付けられてないカップの中のお茶を見つめてるだけ。
「・・・行っちゃったね。」
ぽつりと言い放つゼノンに無意識に頷いてみる。
「吾輩止めたのに・・・。」
「だから俺は早くルークに全部話して逃げてもらおうって言ったんだよ。」
緊張が解けたかのようにエースはソファーの背にどっかりと身体を預けて、尻ポケットから煙草を取り出した。
「ひっで〜ぞ!!!自分だけ逃げようと思って!!!」
ライデンが彼を指さし、地団駄を踏む。
「じゃぁお前が言えば良かっただろう?出来たのか?!」
むっとしながらエースは紫煙を吐いて睨む。
「まぁとにかく・・・ルークは行っちまったし・・・。しばらくは戻ってこないし・・・。我々が今からしなければいけない大切なことと言えば・・・。」
デーモンが身を乗り出して一瞬だけ沈黙した。
固唾を呑んでその後を待つ。
「昼飯を食おう。」
つまり、こういう事だった。
1週間後に宮殿で開かれる舞踏会。
紳士は淑女をエスコートし、いわゆる一対で出席するのがエチケットである。
思い思いの豪華な衣装に身を包み、踊り、会話をし一夜を楽しむ。
それは魔界を統べる大魔王一族とて一緒だった。
いつもならダミアンの相手は彼の侍女達に任せておいたのだが、それによって彼女達の熾烈な争いが繰り広げられたのである。
最初はただの小競り合いで終わっていたのが、いつの間にか派閥が誕生、派閥のリーダーみたいな者が遊説(?)して回り、清き一票を・・・なんて
具合にどこかの国と似たようなことが起きてきた訳で。
さすがのダミアンもコレには閉口し・・・仕方なく、身内(???)で固めようと今回の白羽の矢がルークってワケである。
んが。
当のダミアン自身、仕方なくってワケでも無さそうなのだが。
少なくともルークの身体をマネキンのごとく縛り付けてドレスを選んでいる姿はどう見ても・・・嬉しそうだった。
「さすが軍事局で鍛えているだけあるね。その辺の女よりも美しいぞ。」
「お褒めにあずかり・・・・嬉しく思います・・・。」
文句を言う気もすっかり失って、されるがままのルーク。
「身長の差は私が高い靴を履けばいいとして・・・。問題は。」
そう言って彼の前につかつかと歩み寄り、ぺろんとドレスの裾を捲った。
「殿下!!!」
淡いブルーのベールが何枚も重なったスカートの下に見えるのは・・・足。
当然ではあるのだが。
「問題はコレなんだよね。」
ペシペシと叩く部分は脛。
今度こそルークは血の気が引いていくのが分かった。
「イヤですよ・・・ちょっと・・・殿下・・・・・・・。」
しばし後ろを向いて何かをゴソゴソしてたかと思うとダミアンは振り返った。
左手には脱毛クリーム。
右手には安全カミソリ。
魔界の・・・しかもダミアンの完全なプライベートルームにそんなモノがあるのかは極めて疑問だったが。(それ以前に彼がどうしてドレスを持ってた
かも少々疑問だったのだが。それはともかく。)
生まれてこのかた、一度も触ろうと思ったことのない(自分にとって)大切な箇所。
いじられてなるものか!!!
「待ちなさい!!ルーク!!!」
ダミアンの制止を最後まで聞かないうちに、ルークはその姿のまま・・・いや、それはあまりにもだったので一瞬にしてドレスをかなぐり捨てて、
一目散に部屋を逃げ出した。
「待て!!!ルーク!!!」
後ろからはカミソリを構えたダミアンが追ってくる。
「っつ〜〜〜〜〜・・・・・・!!!!!!!」
止せば良いのに、振り返ってしまったもんだから、さぁ大変!
物凄い形相で安全カミソリと共に追っかけてくる彼を見て、言葉にならない悲鳴を発しながらパンツ一丁で逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて・・・。
捕まらない訳がなかった。
そんなこんなで一週間。
「さぁてどんなことになってるのやら・・・。」
これまた当然だが、一応魔界中央部の各部署の長らしきモノを務めるデーモン、エース、ゼノン、そして雷神帝の御子息、ライデンが舞踏会に
招待されていないわけなかった。
それぞれに正装し、ダミアンの待つ宮殿、大広間へと向かう。
ルークが拉致られてから今日まで。
一番の仲魔である彼らでさえもルークに会うことは禁じられていた。
とにかく分かってるのは、ルークが殿下のパートナーになり、それにふさわしい格好を(無理矢理)させられると言うことだけ。
はっきり言って想像すらつかなかった。
正装をした侍従達が彼らの姿を見付け、敬礼をし、すぐに扉を開けてくれる。
中では既に主賓達が大魔王陛下を前に挨拶が始まっていた。
「流石・・・トップ主催の舞踏会だな・・・。」
エースが慣れない正装に首を苦しそうに引き下げながら呟く。
「ま、そんなことはともかく・・・我らも挨拶に行こう。」
と、周りと見ると・・・。
約一名。
メンツが足りない。
「おや・・・?ライデンは?」
不思議そうにデーモンがきょろきょろとあたりを見るが・・・どこにもいない。
と、後ろから方をつつかれる。
「?」
「あそこだよ。鼻が良いというか何というか・・・。」
半ば呆れ気味にゼノンが指さす方を見やれば・・・既に大皿を手に、大食台の上の料理を嬉しそうに吟味している彼の姿があった。
「・・・何やってんだか・・・。」
他悪魔のフリを決め込んで。
3名は大魔王陛下の元へと歩き始めた。
道すがら、いろいろな者達からの挨拶や媚を聞き流しつつ、目的の方向へと急ぐ。
「おお!!よく来てくれたね。」
大魔王陛下はすぐに気が付き、3名を嬉しそうに手招いた。
「お久しぶりでございます、陛下。ご機嫌はいかがでしょうか?」
サッと片膝をつき、デーモンが言葉を並べるのを、同じような姿で他の2名が頭を下げる。
「今宵は無礼講だ。楽しんでいってくれ。」
「は・・・。」
・・・てなところで・・・。
陛下の隣を探すが、ルークはおろか、ダミアンの姿もない。
「あの・・・陛下・・・。つかぬ事をお聞きいたしますが・・・。」
ゼノンが口を開いた瞬間、奥の扉の方からざわめきが広がってくる。
「あ・・・。」
「あ・・・。」
「あ・・・。」
あまりのことに口が『あ』の発音姿勢のまま閉じてくれない。
銀と黒の礼服を身に纏い、細い鎖飾りをゆったりと巻き付けた姿のダミアンがまず見えた。
そして・・・。
その後に続くもののを目にした瞬間、大広間中の者が言葉を失った。
一歩、足を進めるごとにひらめく、幾重にもなったレース。
淡い蝋燭の光が、その爽やかなブルーをモザイク模様に輝かせて、それだけで極上の宝石だった。
華奢な体の線をそのままに、ぎりぎりの線まで切られた大胆なスリット。
言ったとおりのブルーダイヤモンドのテェアラがゴージャスな金色の巻き毛の上で極自然に存在する。
魔力で紋様を消してはいるが・・・。
紛れもなく、ルークだった。
魔界において実は一番冷血で、任務のためなら仲魔さえも無表情で・・・しかも笑って殺せるだろうと恐れられる、大魔王陛下より初めてサージェ
ントの位を頂いた軍事局参謀長、ルーク。
「あれ・・・ルークだよな・・・。」
一応確認してみたくなり、デーモンが目を見開いたまま呟く。
「まぁ・・・多分・・・。」
同じく目を開きっぱなしのエースが感情も素っ気もない声で返事する。
「とにかく・・・近付いてみる?」
まるで動物園のライオンの檻に入るかのように緊張した面もちで3名は彼らの前に行く為に足を動かし始めた。
「おや・・・久しぶりに会ったね。」
たかだか一週間会わないだけで何が久しぶりなのかよく分からないが、ダミアンはふんわりと笑みを漏らした。
「ああ・・・まぁ・・・とにかく・・・お久しぶりでございます・・・。殿下・・・・・・・・。」
「どうしたんだい?そんな象がライオンになった瞬間を目撃したような顔をして・・・。我らが姫に挨拶は?」
言われて・・・まじまじと隣でブスくれている彼・・・失礼、彼女を見る。
「あの〜〜〜〜その〜〜〜〜つまり〜〜〜〜・・・・・・・・・えっと〜〜〜〜〜〜〜〜・・・・。」
出すべき言葉を失って、3名・・・いや、あまりの事に食事を中断してやってきたライデンも含めて4名は絶句してしまった。
「・・・・・・・・・・・・デーモン・・・・。」
突然、誰にも聞こえないような声でルークが低く唸る。
「え?」
「・・・・・・・・・・・・覚えてろよ。」
紫水晶の瞳がブリザードを発するかのごとき勢いでデーモンを睨み付ける。
それによって金縛りが解けたのか、デーモンが眉を顰めてぼそりと言い放った。
「・・・吾輩の所為じゃないだろう?」
「じゃぁこれが誰の所為でもないなら俺はどうすれば良いんだよ!!!」
言うが早いか、スリットを掴み、ズルンと上に巻くし上げた。
「どわぁっ!!!!!!」
飽きるほど見慣れているルークのナマ足(笑)に、4名は手で目隠しをする。
「見ろ!!!どうしてくれるんだよ!!」
彼(彼女?)の怒声に恐る恐る目を開くと・・・。
「・・・・ぶふっ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!」
最初に勢いよく吹き出したのはもちろん(???)ライデン。
後は必死で笑いを堪えている。
言葉で形容しても良いならば・・・そう、それはまさしくツンツルテン。
ぴかぴか・・・つるつる・・・すってんてん・・・。
ルークの為のルークによるルークたらしめている・・・いわば彼のシンボル的モノが・・・ないぞ!!!
「な・・・何なんだ・・・・?」
どうにか質問できたエースにルークは柳眉をつり上げて答える。
「剃られたんだ!!!」
今にも噴火寸前の様子をダミアンは楽しそうに見つめている。
まるで舞踏会の余興を見てるかのように。
・・・実は・・・このようなことになることを期待してやったのか?!ヤツは!!!(爆)
「・・・御愁傷様・・・。」
かけてやれる言葉はそれしか見付からなかった。
これ以上ここにいては何やられるか分からないと察した4名は早々にその場から離れた・・・が。
忘れてはいまいか?
ルークがこんな格好をさせられる羽目になった最大の理由を。
そう・・・彼女達が大人しくしている訳はなかった・・・。
この数十分後、悲劇は起こるように設定されてあった。
・・・というよりも、やっぱりこの悲劇(喜劇???)さえも計算に入れていたならば・・・恐るべし、ダミアン。
きゅるるるる〜〜〜〜・・・・。
これはライデンの腹の虫ではない。
ダミアンの隣の席から聞こえてきたモノだった。
「・・・ルーク?」
コソリと耳打ちするが、多分殆ど聞こえてはいないだろう。
顔色は見る見るうちに紫色になってきた。
「どうした?ルーク・・・。」
「腹が・・・腹が・・・。」
それだけ聞いて、ここに来る前の様子とふと思い出す。
「・・・飲み過ぎだよ。あんなに馬鹿みたいに飲むから・・・。」
呆れたようにダミアンはため息を付いた。
「だって・・・緊張して・・・・・うっ・・・。」
両手の指で引き絞るかの様に腹を押さえる。
「も・・・も・・・漏る・・・・。」
紫色を通り越してその顔色はドドメ色。
今ここで膀胱チョップ〜〜〜!!!なんてやったら皇太子だろうと何だろうと関係なく脳天かち割られるであろう。
ものすご〜〜く高い確率で。
それは避けようと思った為、ダミアンは実に優しい提案をしてくれた。
「今は比較的参加者が落ち着いているみたいだから・・・。ほら・・・私達が出てきた扉があるだろう?そこから出て行きなさい。」
お礼もそこそこにルークはどうにかこうにか立ち上がり、大広間を後にすることに成功したが・・・。
誰も見てない訳がなかった。
「・・・今回はワタクシの番でしたのに・・・。許せませんわっ!!!」
銀色のドレスの裾を摘んで、ほんのちょっぴり吊り上がった瞳が明らかに怪しく光った。
「ダミアン様は・・・何処の馬の骨とも分からぬ、あんな下級のモノ(ニュアンス的にモノ扱い)をパートナーに選ばれるなんて・・・。・・・そうだわ!!!ダミアン様はあのモノに騙されているのよ!!!ウキ〜〜〜〜〜ッ!!!(猿ではない)そんな酷いことをするなんて・・・はっ!!!
ワタクシがあのモノの正体を暴いてダミアン様に言い付けてやるわっ!!そして・・・ダミアン様はワタクシのモノに・・・。」
今回ルークが居なければ自分の順番であった侍女・スピアである。
バカにでっかい柱の影から覗いていたのであるが・・・。
そう、今まさに!!
ルークが土色の顔で、既に女などスッパリ捨て去ってドレスの裾を捲り上げた格好で物凄い勢いの足音高らかに宮殿の廊下をひた走るのを目撃
してしまったのである!!!
チャ〜〜ンスっ!!!
スピアは柱の影に隠れながら、ルークの後をサササと追った。
毛足の長いカーペットが上手い具合に足音を掻き消してくれる。
「何処に行くのかしら?・・・・・・・?!あの方向は・・・ふふふ・・・。」
不敵な笑みを洩らしてスピアの懐から出現したのは・・・デジカメ(出歯ガメではない)。
「そうだわ・・・あのモノの一番恥ずかしい姿をコレに収めてダミアン様に渡すの。そしたらダミアン様も幻滅なさるに違いないわ!!さぁそうと決ま
れば・・・。」
この女・・・そんな姿をカメラに収める趣味があると誤解されるかも・・・なんていう危惧はなかったのか?
いや、思い込んだら何とやらでそんな考えは忘却の彼方に消え去ってたりして・・・。
まぁとにかく。
スピアは秘密の通路を通ってトイレの方へ先回りした。
そして・・・決定的瞬間を狙う為にトイレ前の柱(つくづく柱が好きな奴だ)に隠れる。
その時、ちょうどルークが顔面蒼白で走り込んできた。
「ふふふふふふ・・・ほほほほほほ・・・・・・・・・。」
笑いがこみ上げる。
コレでダミアン様はワタクシのモノ。一世一代の・・・チャ〜〜〜ンスっ!!!!
ルークが扉を大きく開けた!!!
しかも自体は緊急を要してたので、扉は開けっ放し!!!
瞬間的に男子用も女子用も見分けがつかない!!
その上、スピアは一途にルークだけを追っていた!!!
悲劇と喜劇は紙一重。
スピアがトイレに飛び込み、デジカメのシャッターを押し、そしてゆっくりとその『恥ずかしい姿』を拝んでやろうと視線を動かした時に最初に見えた
モノは・・・。
自分には無くて当たり前のモノであり、ルークが普通の格好をしてる時に見せられるのならばあって当然のブツ。
「ひゃああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」
悲鳴は宮殿の天井を跳ね返って、大広間の空気を引き裂いていった。
「・・・・ふぅ・・・♪・・・・・・・・・・・・はい?」
切羽詰まった状況を解放してほっと一息、ルークが横を見た時には・・・何となく見覚えありそうな女が白目向いて、泡吹いて、ぶっ倒れていた。
「どうした?!」
最初に駆けつけてきたのは流石、情報局長官エース。
「ルーク!!!お前襲ったのか?!」
「バカなこと言うな!!!誰がこんな格好して襲うかよ!!!勝手に入ってきて、勝手にぶっ倒れたんだ。」
「何だ?!」
ちょっと間を置いたあたりでデーモンをはじめとする他の衛兵達が集まってくる。
「何でだ?何が原因で・・・。」
そう言いながら、ほぼ同じ瞬間に同じ速度で同じ場所からつつい・・・とその場にいたルーク以外全員の視線が下から上に昇っていく。
「・・・おい・・・。ルーク・・・・・・・・・。」
バツ悪そうにエースから呟かれて・・・ふと下を見るルーク。
「あああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」
片付けても遅い。
勿論、その直後、大パニックと化したのは言うまでもない。
「いやぁ・・・楽しかったなぁ・・・。今宵の宴は・・・。」
衛兵隊長から、事の次第を全て聞き出して最初に洩らしたのは、この言葉と満面の笑みだった。
ダミアンはやっと椅子から腰を上げた。
そしてずっと演奏を続けていた楽団に、手でストップをかけて退出させる。
たった1名残った大広間は不気味なくらい静かである。
「さぁ、また明日から大変だぞ・・・。」
くすくすと笑いを止められずに、彼はルークが出て行った扉を開いた。
「・・・次は誰にしようかな?」
F I N
presented by 高倉 雅