S h a d o w

 

夢を見た。

 

朝靄の中で、私は目を覚ました。

付けっ放しのテレビ。

砂嵐が私に語りかけてくる。

目を覚ませ、目覚めよ、気付け、何をしている?!・・・と。

絡みつく黒い髪は私の頭部から雪崩れてくるもの。

振り払って、私は足を床に付いた。

薄いレースのカーテンの奥に光るのは太陽?

いや、それにしては暗すぎる。

気味が悪くなって私は厚いカーテンを閉めようとした。

すると、誰だろう?

私を呼ぶ声がはっきりと聞こえる。

カーテンを持った手を離し、私はガラス戸の鍵を開けた。

友達だ。

私の事をとても心配してくれる大切な友達。

「どうしたの?」

問いかけても彼女は何も言わない。

ただ・・・瞳を涙で濡らして、私を見つめている。

手招きをして、私を呼ぶ。

彼女の手は魔術師の手のようだった。

結論を出すまでも無く私はその手に引き摺られた。

何の問いかけも応じてくれない。

私はただ、彼女の魔術にかけられた憐れな羊のごとき足取りで彼女を追う。

時々振り向いて私の姿を確認してくる彼女はとても悲痛な表情だった。

心臓だけが一足毎に早くなるのだけが分かっている。

後は何も・・・分からない。

彼女は突然止まった。

気が付けば見たこともない場所。

ただ・・・車が駐車してある・・・多分・・・駐車場だろう・・・と言う事だけが認識できた。

ヒトがたくさん集まっている。

彼女はそれを指差した。

掻き分けて・・・・行けと言うのか?

私は彼女にもう一度問う。

彼女はなおも人ごみを指差す。その先は常に中心を示していた。

集まってたヒトは私に気がつくと蜘蛛の子を散らすように捌けて行った。

いつのまにか彼女の姿も無い。

私は仕方なく、中心に在ったものであろうモノに目を移した。

真っ赤な血の華。

咲き乱れる。

刳り貫かれた両の瞳。

開かない、もう二度と。

微かに動く唇が私を呼んでいた。

顔も、体も、全てが血に塗れている。だけれど、私には分かった・・・が、信じたくなかった。

コレガ・・・ワタシガ アイシテイル ヒト・・・?

痛みの為に、洩れるのは本当は悲鳴なのに。

ただ、私の名前を・・・。

倒れているあの人の隣りに座り込んだ。

辛そうで、悲しくて、遣る瀬無くて、こんな目にあわせた酷い奴を八つ裂きにしてやりたい・・・!!!!!!!

なのに・・・私の瞳は乾き切ってた。

それどころか、気が付いた私の唇は薄らと笑みを浮かべているではないか・・・・・。

鏡の代わりに近くにあった水たまりを覗き込む。

満足感・・・。

そうとしか見えない表情(モノ)・・・・・・。

誰が愛する人が傷つくのを見て喜ぶ?!

止めて止めて止めて止めて・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

私を止めて!!!

朽ち果て始めたあの人の体。

消えないで・・・消えたら・・・私は・・・・・・・・。

 

小さなクシャミが合図で私の現実の瞳が開いた。

私の隣りに・・・眠るあの人。

安らかに・・・そう、いつまでも。

ずっとその腕の中で眠っていた私が見たのは・・・ファントム(幻影)。

あなたの中で・・・クルリと背を向けた瞬間、大きな手が私の髪を遊び始めた。

もう一度振り向くとあの人が細い目で笑う。

「何か怖い夢でも見たのか?」

もう一つの手が瞳を拭う。

「いいえ・・・いや、忘れたちゃった。ごめんね。」

後戻りできなかった。

全て、立ち止まって、振り向くには少し遅すぎてしまった。

あの夢は・・・私のShadow。

満足しない今の私の存在意義に。

あの人を失いたくない為そして、永遠に私のものにする為に。

Shadowがあの人を殺した。仮想現実の世界で。

現実の私に歯止めを掛ける為に。

しかし、いつまでその歯止めが利くだろう?

どんなに頑張っても、私は・・・いつの日か必ず・・・。

あなたを殺してしまうでしょう。

「その時は・・・許してくれないよね?孝幸さん。」

                                                         to be continude・・・?

                                                       presented by  Miyabi Takakura