N I G H T M A R E
燃えさかる紅蓮の炎。
既に四方八方、紅く包まれて逃げ道は封じられた。
自分を包む白装束は、自分の汗が張り付き、焼けるように熱くなっている。
この場を一歩でも動けば、すぐにでも燃え移ってしまいそぅだ。
右手で握りしめた太刀がどんどん温度を上げていく。
先ほど受けた矢傷はもう、痛まなかった。
感覚が一瞬ごとに麻痺していく。
外の歓声は既に途絶えていた。
「心置きなく御最期をーーーーーーーーーー!!!!!」
聞き慣れた少年の声。
その少年も、多分、この部屋のすぐ外で既に灰と化しているであろう。
残ったのは自分だけ。
本能がそれを察していた。
しかし・・・その裏切りに、悲しみがなかった。
ただ・・・・・・・・・・・・何かを感じて、胸が苦しかった。
そして・・・いつの間にか灯り取りの蝋燭で火を放っていた。
どっかりとその場に座り込み、太刀を捨てる。
そして懐刀を取り出した。
ぐいっと胸元を開く。
そして・・・・・・・・・・その瞬間・・・!
炎の扉が大きく開き、鎧甲を脱ぎ捨てた武者が飛び込んできた。
「御館様!!」
腹を貫く寸前に刀を持つ手を握りしめる。
「何者?!」
振り返るところに、見慣れた顔。
その目には涙さえ浮かべていた。
「・・・どうした?お前の望みは叶ったのであろう?何を泣く?」
自分から発せられる声に、何故か怒りを帯びてないことに不思議を感じていた。
目の前で自分の腕を握りしめる男の方が、怒りと悲しみに満ちていた。
「申し訳ございませぬ!御館様・・・私にはこうするしかなかったのです!」
頭を付けて涙の向こう側から発せられる言葉に、ただ・・・安らぎを感じるばかりだった。
「何も怒ってなどいない・・・ただ・・・それが命運だった事よ・・・。さぁ、わしの首を切れ。そしてこの炎の中で眠らせてくれ。頼む・・・。」
男は深く頷き、すらりと太刀を抜いた。
「・・・よく此処まで来てくれたな・・・礼を言うぞ。光秀・・・。」
静かに響く。
男・・・いや、光秀は心の叫びを振り上げた太刀に変え、渾身の力を込めて真下へ叩きつけた。
「信長様・・・!!」
意識が切り離される瞬間、うなじ辺りにかかる圧力と、火傷するほどに熱き血飛沫。
そして胸の痛みを支配していたのは・・・・・・・・・・。
耐え難い喪失感。
「・・・・・・・・・・・・おい・・・・起きろって・・。」
微かに聞こえる声。
心地よく揺れる身体。
「・・・起きろ!!デーモン!!!!」
突然の怒鳴り声に、ハッとした。
そこには炎もなく、ただ見渡す限り・・・自分の部屋。
「何をぼけっとしてるんだよ。早く支度しろよ。完璧に遅刻なんだから。」
呆れたようにこちらを覗き込むエースが、ベッドの脇でコーヒーを飲んでいる。
「あれ・・・?夢・・・?」
嫌なくらいに残る、熱い感触。
「夢・・・?じゃないだろう?!約束の15分前には必ず来ているはずのお前が30分すぎても来ない。管理人に鍵を貰って開けてみりゃぁ、ウンウン唸って寝てるし・・・。何の夢見てたんだ?悪魔が悪夢で唸されたなんて洒落になら・・・・・!」
突然、エースの言葉を遮ってデーモンが抱きついてきた。
「うわぁあああ!!どうした?!デーモン!!何か悪いもの食ったのか?!」
慌てふためくエースにお構いなしに、さらにきつく、両腕に力を込める。
「苦しい!!どうした?!何があったんだ?!おい!!俺にその気はないからな!!もちろんお前にもそんな気なんて無いだろう?!おい!!俺は女の方が好きなんだからなってば・・・おいって!!」
パニックで自分でも何を言ってるのか分からなくなってしまったエースを全く無視して、デーモンは呟いた。
「お前は・・・・・・・・吾輩を裏切ったりしないよな?」
初めて発されたデーモンの言葉らしい言葉に、エースも少し落ち着く。
「・・・どういうことだ?」
しかし、デーモン答えはない。
ただ、さらにきつくなる両腕が、自分の問いに答えるように強制していることに気付いた。
「・・・俺は・・・お前を裏切ったりしないよ。」
エースはただ、そう言って泣いているように震える肩を抱きしめていた。
『こうするしか・・・あなたを裏切ることでしか・・・私は・・・・・・・・・・・』
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Presented by 高倉 雅