GOOD NIGHT MELODIES

 

ふと、目が覚めた。
自分でも気付かないくらい速やかに眠りの中に堕ちていったらしい。
仕事で立ち上げていたパソコンの中は覚えてるところから全く進んでいない。
ふぅ・・・と溜息をついた。
先程まで見ていた夢を思い出し、再び・・・深い溜息。
夢の中で。
みんなが笑っていた。
ずっと一緒にいた仲魔がみんな居た。
あの頃のように、みんなが軽口を言い合い、みんなが笑っていた。
そして目が覚めて今、ただ1人。
イヤになるくらい静かで少し怖かった。
この沈黙から逃げるために耳を塞ぐ。
もう戻らない、あの日。
今までは忙しさに紛れて全く気付かなかった。
いや、気付こうとしてなかったのかも知れない。
地球征服の布石を蒔き終わり、自分は地球(ここ)に残り、全てを見守ってゆく任を選択した。
そして後の者達は。
地獄へ還ることを選択した。
最初から分かってることだった。
初めから各々が決めていたことであり、それは納得した上でのことだった。
しかし。
実際にその事実をたった一人で受け止めるのは少し辛すぎた。
1人で居るのは寂しすぎる。
塞がれた耳から聞こえる鼓動の音が、更に孤独を増長させる。
耐えられなくなって顔の両サイドから手を離した。
と・・・。
何かが聞こえるコトに気付いた。
それはパソコンのスピーカーから聞こえる音楽。
唯一この空間を染めてゆく音は、聞き慣れすぎた楽器の調べ。
知り尽くしたクセのある小気味良いドラムに合わせて、滑るようなギターの音が骨太なサウンドを彩っている。
それを支えるベースの野太い響き。
そして、その全てを纏め、歌い上げる声は間違いなく自分の発するものだった。
全ての歴史の中に比べたら刹那の時間でしかないが、14年間かけて暖め、育んできた音楽が今、自分の目の前にある。
それは確かに存在していた。
何事も無かったかのように全ては過ぎてゆくが、自分達が存在した証がここにある。
動けなかった。
ただ茫然としていたい時間があった。
噛みしめるかのように、一粒一粒の音を刻み込んでゆく。
思わずひとしずくの感情が頬を伝い、流れ落ちた。
・・・と、遠くで目覚まし時計の鳴る音が聞こえてきた。
はっとして涙を拭い、パソコンの右隅にある時計を見た。
ちょうど朝の10時。
カーテンを閉めたままの部屋は時間相応の明るさではない。
座ったまま寝てしまったため、少し痺れの残る足にようやく力を入れ、立ち上がった。
薄いベージュ色したカーテンを開く。
光の洪水は、思いがけない涙に濡れた瞳には眩しすぎる。
手を翳し、少しの隙間から見えるのは、遠くても優しい思い出。
テーブルの上にあった銀色のアルミケースから煙草を一本取った。
火を付けて浅く吸い、細い紫煙を吐く。
開け放たれた窓からの風が吐きだした溜息を外界へ運んでいった。
胸の奥に沈みゆく煙が、寂しさに埋もれた自分を見つけだし、引き上げてくれるような気がする。
しばらくそうしていたかったが、時間は許してくれそうもなかった。
今日も片付けなければいけない仕事が山のようにある。
昨日も、今日も、そして明日からもずっと。
忙殺スケジュールがぎっしりと待ちかまえていた。
半分以上も残った煙草を名残惜しそうに揉み消し、灰皿に置く。
そのまま隣の部屋に着替えを求めて、煙草臭い部屋を後にした。
置いてけぼりにされたパソコンは、伸びの良いヴォーカルを最後に完全に息を潜めるように押し黙った。

―――GOOD NIGHT MELODIES――――

                                                                   F I N

                                                               Presented by 高倉 雅