空 五 倍 子 色 の 様 に
絵美が、自分が映っている鏡にフレームインしている2人に向かって言った。
「ねえ。今日、ドキドキすると思わない?」
振り返って響は言った。
「どんな人達なんだろうね?」
既に準備が終わっている静香が言う。
「そんな事より、早くしないと遅れちゃうわよ!」
彼女達は、職場の更衣室を飛び出した。
先程までの地味な制服とは正反対の装い。
絵美は、眼鏡から、慣れないコンタクトにまで変えている。
化粧も、淡いピンクの口紅から、濃い色へ。
響は、まとめていた長い髪をおろし、ゆるやかなウェーブを丁寧にほどいた。
静香に至っては、服装が変わった所為か、口調まで変わっている。
彼女たちは、職場でも名物になる程の仲の良い3人組。
今日、これから合コンなのだ。
先日、たまたま入った喫茶店で、隣に座った男の子3人に声をかけられた。
その時、今日の約束をしたのだった。
普段はいたって普通の女の子達である。
ナンパされたことはもちろん、合コンなんてものも初めてだ。
今日までのこの数日間、彼女達は舞い上がり、何を着て行くか、何を話したら良いのか等々、この話題で持ちきりだった。
そして、当日である今日。
仕事を定時に終えると、更衣室にこもり、今に至るのである。
指定された場所は、一度も行ったことがない、しかし、雑誌等で話題のスポットとして紹介されていた、行ってみたいが行けなかった店。
3人は、約束の時間ピッタリにその店の扉を開けた。
店内は、アジアンテイストたっぷりの異空間。
キョロキョロと周りを見回していると、この前出会った男の子達の内、リーダー格であった和哉が近寄ってきた。
「やあ、待ってたよ。」
白い歯を見せて笑った彼。
”爽やか”を絵に描いたような男性であった。
「さあ、席に行こうか。他の奴等も来てるんだ。」
和哉の視線の先に、この前居た他の2人、文彦と真次が手を振っていた。
彼女達は、ちょっと恥ずかしそうに微笑むと、軽く会釈をする。
会話は、思った以上に弾み、笑いが絶えなかった。
料理も美味しく、酒も進んだ。
時間がたつにつれて、全員がこの後の事を考え始める。
このまま別れるのか、このメンバーで次へ行くのか、それとも・・・。
他人には知られないように、目利きが始まり、目が合うと、それとなく、目配せする。
しかし、必ずしもこちらが良いと思っていた人物が自分に気があるとが限らない。
仲が良かった彼女達の間に、ライバル心が目覚め始めた。
誰からともなく、3人は立ち上がった。
「すみません、ちょっと・・・。」
連れだって歩いている姿に、店に入るまでの連帯感はもはや感じられなかった。
化粧室へと入った彼女達は、競うように鏡の前に立つ。
彼の為に・・・、彼女よりも・・・。
「ねえ、和哉君って、私に気があるような感じしない?目が合うのよね。」
絵美は言った。
「えーっ。そうかなぁ?それより、文彦君の方が、あなたの方を見てる見たいよ?」
それに対して、響が答える。
「文彦君?好みじゃないのよねぇ。真次君の方がまだマシよぉ。」
当たり障りのない会話を進めながら、相手の出方を窺う。
その時、静香がブツブツと何かを言い始めた。
絵美と響は、彼女の方を見る。
「静香?どうしたの?」
静香は、不敵な笑みを浮かべて言った。
「何言ってるの?3人とも、私の方を見てたじゃない。」
鏡越しに、絵美と静香を見つめる。
静香の視線には、他の2人を見下した色が宿っていた。
その瞬間、3人の友情に亀裂が入った。
お互いへの不満が爆発する。
誰の何処が気に入らない。
自分の何処が勝っている・・・。
そこで、画像が消され、元の透明な水晶の輝きに戻る。
大きな溜息をついて、デーモンは椅子の背にもたれた。
「これだから人間ってのは、エゴの固まりだって言うのだ。結局は、自分だけが大切なのだからな。」
その言葉に、薄い笑みを浮かべて、エースは言った。
「それが人間さ。人間からエゴを取ったら何が残る?」
堪えきれない笑みが声となって漏れる。
「笑い事ではないぞ。こういう奴等が地球を・・・。」
「そう固く考えるな。」
エースの言葉が、デーモンを遮った。
「それはそれで、楽しいじゃないか。こういう奴等が居るからこそ、退屈しないんだぜ。」
「しかし・・・。」
デーモンは、やはり不満そうである。
エースにしては、珍しくにこやかに言った。
「だからこそ、地球へ行くことになったんだろう?折角なんだから、楽しもうぜ。」
空五倍子色とは、ヌルデ(白膠木)の枝に生ずる五倍子(ふし)で染めた色。五倍子はヌルデミミフシという虫が寄生してできるもの。
Fin
Presented by aoi
「あとがき」
ちょっと、趣向を変えてみました。
「どこが聖飢魔IIだ!!!」って思われた方、御免なさい。
最後の方に、ちょこっと、ご出演頂きました。
私的には、結構気に入っているんですけど・・・。
葵 拝