蒲 公 英 色 の 時 間
『元気か?』
リハーサルを終え、疲れた身体を引きずって自宅であるマンションの扉を開ける。
この扉は、こんなにも重かっただろうか?
それ程、疲れていると言うことか。
しかし、その疲れは気持ちが良い。
ただ、最近、こんなに疲れることが無かったから、まだ身体が慣れていないだけ。
そうは言っても、靴を脱ぐのも億劫だった。
聖飢魔IIが解散して1年以上が過ぎ、新たな活動が軌道に乗ってきた。
そんな毎日のある日、帰るのを見計らっていたかのように、電話の呼び出し音が鳴った。
慌てて靴を脱ぐと、リビングの入り口にある受話器を取った。
「もしもし?篁です。」
疲労もある為、少々ぶっきらぼうな応対になる。
電話の向こうで、笑う気配がした。
別に笑い声が聞こえたわけではなく、そんな気がしただけ。
ちょっと、ムッとしてもう一度声を掛けた。
「も〜しも〜〜〜し?」
ちょっとの間の後聞こえた、懐かしい声。
「元気か?」
「エース!!!」
受話器を持つ態勢を整える。
「何で? どうして? 何処から?」
「ん? どうしてるかなって思って。今は自宅。」
相変わらずのマイペース。
元聖飢魔IIの構成員、全員がある意味マイペースではあるが、エースには独特の雰囲気があった。
そして自分は、そんなエースが案外気に入っていた事を思い出す。
「エースは? 元気? そっちは順調そうじゃん。」
「まあな。お前の方はどうなんだ?」
「うん。毎日ハードだけど、充実してる。」
「そうか。それなら良かった。」
お互いが別々の活動を始めた今、殆ど顔を合わせることはない。
そんな中での久々の声。
積もる話があるはずなのに、何から話して良いのか見当が付かなかった。
ただただ電話をくれた事が嬉しい。
「ホント、久しぶりだよね。電話くれて嬉しいよ。」
正直な気持ちを口にする。
「お前のことだから、張り切りすぎてクタクタになってるんじゃないかと思ってさ。」
「そんなことは無いよ。元気だよ。」
疲れた足を揉みほぐしながら言う。
「元気ではあるんだろうけどね。」
「けど?」
受話器を持つ手を変える。
「力、入りすぎてないか?」
「えっ?」
動きが停まった。
「どうして?」
そう問い返して時間が動き出す。
「俺が、そうだったから。」
意外な言葉。
「結構間が空いての活動再開は、気負いが・・・ね。リキみ過ぎてしまう。不安を隠すためにもがむしゃらになる。」
「エースも・・・?」
電話の向こうで、微笑む気配を感じる。
「お前らしく行けば大丈夫さ。」
それを言う為にわざわざ電話をくれたのだろうか。
エースの方も順調とはいえ、軌道に乗ったばかり。
これからという大事な時期なのに。
「エース・・・。」
「泣かなくても良いだろう?」
電話の奥の彼は、自分の一筋の涙を分かってくれる。
活動は別々になったけれど、独りになったわけでは無いのだと教えてくれる。
もう大丈夫。
知らず知らずに入っていた力が抜けていくのが分かった。
「ありがとう。」
「頑張れよ。」
そう言って切れた電話の受話器を抱きしめて、エースが言った言葉を思い出す。
『お前らしく・・・。』
fin
presented by aoi
あとがき
face to ace のDVDを見て書きたくなった話。
だけど主役はLUKEさんです。
face to ace もCANTAも、まだ生では見たことが無いんですよ。
なかなか縁が無い。
CANTAもDVD出ないかな・・・。